(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160340
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】競走馬脳トレーニング方法
(51)【国際特許分類】
A01K 15/02 20060101AFI20231026BHJP
【FI】
A01K15/02
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070651
(22)【出願日】2022-04-22
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】322003097
【氏名又は名称】株式会社シスコ
(71)【出願人】
【識別番号】510191470
【氏名又は名称】株式会社Peace
(74)【代理人】
【識別番号】100120318
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 朋浩
(74)【代理人】
【識別番号】100117101
【弁理士】
【氏名又は名称】西木 信夫
(72)【発明者】
【氏名】呉 真由美
(57)【要約】
【課題】競走馬の脳を活性化してストレスを軽減し、競走馬の体調を良好に維持して身体能力を向上させることができる競走馬脳トレーニング方法を提供する。
【解決手段】競走馬脳トレーニング方法は、競走馬脳トレーニングシステム10を用いて行われる。競走馬脳トレーニングシステム10は、表示装置31及びモニタ32と、端末装置20と、ドローン40とを備える。ドローン40は、カメラ41を備える。カメラ41が撮影によって生成した映像データは、端末装置20に入力される。端末装置20は、当該映像データに基づいて疑似疾走映像データを生成する。また、端末装置20は、Webサーバ14から取得した文書データに基づいて記号移動映像データを生成する。疑似疾走映像データ及び記号移動映像データは、表示装置31に入力される。表示装置31は、疑似疾走映像及び記号移動映像を、厩舎に設置されたモニタ32に表示させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
記号が画面上を移動する記号移動映像を、厩舎に設置したモニタ或いはスクリーンに映して競走馬に視認させる第1工程と、疾走する競走馬の視点での疾走映像を模した疑似疾走映像を、厩舎に設置したモニタ或いはスクリーンに映して競走馬に視認させる第2工程との少なくともいずれかの工程を備えた競走馬脳トレーニング方法。
【請求項2】
上記第2工程を有する競走馬脳トレーニング方法であって、
カメラを有する飛行装置を低空飛行させて基本映像を撮影する工程と、
当該基本映像を所定の倍率で加速させて上記疑似疾走映像を生成する工程と、をさらに有する請求項1または2に記載の競走馬脳トレーニング方法。
【請求項3】
上記第1工程を有する競走馬脳トレーニング方法であって、
上記記号移動映像は、画面上に850個以上1000個以下の記号を有し、当該記号は、0.8秒以上1.7秒以下で当該画面の一方の端から他方の端まで移動する請求項1から3のいずれかに記載の競走馬脳トレーニング方法。
【請求項4】
画面上における上記記号の大きさは、1.0cm角以上2.0cm角以下である請求項4に記載の競走馬脳トレーニング方法。
【請求項5】
上記第1工程及び上記第2工程は、上記記号移動映像或いは上記疑似疾走映像とともにバックミュージックを出力する工程を含み、
上記バックミュージックは、30BPM以上40BPM未満、或いは40BPM以上240BPM以下である請求項1に記載の競走馬脳トレーニング方法。
【請求項6】
上記競走馬は、3歳から4歳の競走馬である請求項1に記載の競走馬脳トレーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、競走馬に脳トレーニングを行う競走馬脳トレーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脳を活性化させること(すなわち、脳の潤沢な血液の循環)により、記憶力、集中力が向上し、その結果、身体能力が向上すると共に認知症の予防にも資することが知られている。本願発明者は、このような脳トレーニングは、人間のみならず動物(特に競走馬)に対しても効果が得られるのではないかと考えた。
【0003】
従来、運動をしながら計算問題などの課題をモニタに表示し、この課題に回答させることによって脳の活性化を図る脳トレーニング方法及び装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この脳トレーニング方法は、課題に対して回答させることで脳の活性化を図るものであり、人に対して行うことを前提としている。したがって、文字や数字を解しない競走馬に対しては上記脳トレーニング方法を行うことはできない。
【0006】
本発明は、このような背景のもとになされたものであり、その目的は、競走馬の脳を活性化してストレスを軽減し、競走馬の体調を良好に維持して競走馬の身体能力を向上させることができる競走馬脳トレーニング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 本発明に係る競走馬脳トレーニング方法は、記号が画面上を移動する記号移動映像を、厩舎に設置したモニタ或いはスクリーンに映して競走馬に視認させる第1工程と、疾走する競走馬の視点での疾走映像を模した疑似疾走映像を、厩舎に設置したモニタ或いはスクリーンに映して競走馬に視認させる第2工程との少なくともいずれかの工程を備える。
【0008】
記号移動映像或いは疑似疾走映像を厩舎にいる競走馬に見せることにより、競走馬の脳を活性化させて競走馬をリラックスさせることができる。その結果、競走馬の体調を良好に保って競走馬の身体能力を向上させることができる。なお、記号は、文字や数字や図形などである。
【0009】
(2) 本発明に係る競走馬脳トレーニング方法は、上記第2工程を有しており、カメラを有する飛行装置を低空飛行させて基本映像を撮影する工程と、当該基本映像を所定の倍率で加速させて上記疑似疾走映像を生成する工程と、をさらに有していてもよい。
【0010】
基本映像を所定の倍率で加速させて疑似疾走映像を生成するから、飛行装置の飛行性能に拘らず疑似疾走映像を生成することができ、また、疑似疾走速度を容易に変更することができる。
【0011】
(3) 本発明に係る競走馬脳トレーニング方法は、上記第1工程を有しており、上記記号移動映像は、画面上に850個以上1000個以下の記号を有し、当該記号は、0.8秒以上1.7秒以下で当該画面の一方の端から他方の端まで移動してもよい。
【0012】
(4) 画面上における上記記号の大きさは、1.0cm角以上2.0cm角以下であってもよい。
【0013】
(5) 上記第1工程及び上記第2工程は、上記記号移動映像或いは上記疑似疾走映像とともにバックミュージックを出力する工程を含んでいてもよい。上記バックミュージックは、30BPM以上40BPM未満、或いは40BPM以上240BPM以下である。
【0014】
競走馬の安静時の脈拍と同等の30BPM以上であって、かつ40BPM未満のバックミュージックを出力することにより、競走馬の脳をより活性化させて競走馬をリラックスさせることができる。
【0015】
(6) 上記競走馬は、3歳から4歳の競走馬であってもよい。
【0016】
レースに出走する予定の競走馬に上記記号移動映像或いは上記疑似疾走映像を見せることにより、競走馬のレース成績を良くすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る競走馬脳トレーニング方法によれば、競走馬の脳を活性化してストレスを軽減することができ、その結果、競走馬の体調を良好に維持して競走馬の身体能力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、競走馬脳トレーニング方法を説明する概略説明図である。
【
図4】
図4は、実験結果を示す表及びグラフである。
【
図5】
図5は、実験結果を示す表及びグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明される実施形態は、本発明の一例にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で、本発明の実施形態を適宜変更できることは言うまでもない。
【0020】
図1は、競走馬脳トレーニング方法に用いられる競走馬脳トレーニングシステム10の構成図である。
【0021】
本実施形態では、
図1に示される競走馬脳トレーニングシステム10を用いた競走馬脳トレーニング方法が説明される。競走馬脳トレーニング方法は、生産地や放牧地からトレーニングセンタへの輸送前に生産地や放牧地において行われ、或いは、レース出走前におけるトレーニングセンタでの調教期間等において実施される。すなわち、競走馬脳トレーニング方法は、競走馬12がストレスを感じ易い状況下の期間中に主に行われる。但し、競走馬脳トレーニング方法は、他の期間に行われれてもよい。なお、
図1では、2頭の競走馬12のみが示されているが、競走馬12は、数頭から数十頭以上であってもよい。
【0022】
[競走馬脳トレーニングシステム10の構成]
【0023】
競走馬脳トレーニングシステム10は、端末装置20、表示装置31、複数のモニタ32、及びドローン40を備える。
【0024】
ドローン40は、飛行可能であり、かつカメラ41を搭載している。ドローン40は、飛行しながらカメラ41に撮影を実行させる。カメラ41が撮影によって生成したドローン映像データは、ドローン40が有する不図示のメモリに記憶され、或いは無線送信される。ドローン映像データは、USBメモリ(登録商標)などの可搬記憶媒体を用いて端末装置20に入力され、或いは移動体通信網やインターネット13やLANなどの通信ネットワークを通じて端末装置20に入力される。ドローン40は、特許請求の範囲に記載された「カメラを有する飛行装置」に相当する。
【0025】
端末装置20は、パーソナルコンピュータやタブレットなどである。
図1に示す例では、端末装置20はパーソナルコンピュータであり、ディスプレイ21及び入力装置22を接続されている。また、端末装置20は、有線或いは無線によってインターネット13と接続されており、インターネット13を通じてWebサーバ14と接続可能である。
【0026】
端末装置20では、上記ドローン映像データや、インターネット13を通じてWebサーバ14から取得した文書データを加工して、疑似疾走映像を示す疑似疾走映像データや記号移動映像を示す記号移動映像データが生成される。端末装置20で生成された疑似疾走映像データや記号移動映像データは、上記可搬記憶媒体や上記通信ネットワークを通じて表示装置31に入力される。
【0027】
表示装置31は、モニタ32に映像データを入力してモニタ32に記号移動映像や疑似疾走映像を表示させる装置である。表示装置31は、例えばパーソナルコンピュータである。表示装置31は、インターネット13に有線或いは無線で接続されていてもよいし、インターネット13に接続されていなくてもよい。なお、モニタ32に代えてスクリーンが用いられてもよい。その場合、表示装置31は、映写装置や、映写装置及びパーソナルコンピュータなどである。また、表示装置31及びモニタ32は、タブレットであってもよい。
【0028】
モニタ32は、放牧地やトレーニングセンタに建てられた厩舎に設置される。モニタ32は、競走馬12の頭数に応じた個数で設置される。例えば、1頭の競走馬12に対して1台のモニタ32が設置され、或いは数頭の競走馬12に対して1台のモニタ32が設置される。なお、モニタ32は、厩舎ではなく、競走馬が通る場所や一時的に滞在する場所など、他の場所に設置されてもよい。或いはモニタ32は、厩舎や当該他の場所の両方に設置されていてもよい。
【0029】
モニタ32のサイズは、概ね30インチから60インチである。モニタ32は、カラー映像を表示するものであってもよいし、モノクロ映像を表示するものであってもよい。ただし、モニタ32は、カラー映像を表示するものであることが好ましい。
【0030】
不図示のスピーカがモニタ32に付設されている。すなわち、モニタ32は、映像とともに音声も出力可能である。
【0031】
[競走馬脳トレーニング方法]
【0032】
以下では、ドローン40を用いた疑似疾走映像の生成、Webサーバ14から取得した文書データを用いた記号移動映像データの生成、及び競走馬脳トレーニングシステム10を用いた競走馬脳トレーニング方法について説明がされる。
【0033】
競走馬脳トレーニング方法の担当者、或いは当該担当者から指示を受けた者(以下、「担当者等」と記載)は、放牧地などにおいてドローン40を飛行させ、ドローン40にドローン映像データを生成させる。ドローン40の飛行高度は、概ね競走馬12の頭の高さ位置である。具体的には、ドローン40の飛行高度は、概ね1mから3mとされる。ドローン40の飛行速度は、ドローン40の飛行性能(最高速度)に基づく。例えば、最高速度が30km/時であるドローン40を用い、20km/時から30km/時の速度でドローン40を飛行させて撮影を行う。すなわち、ドローン40は、自己の飛行性能の範囲内で低空飛行しながら撮影を行う。
【0034】
ドローン40が生成したドローン映像データは、上記可搬記憶媒体や上記通信ネットワークを通じて端末装置20に入力される。
【0035】
担当者等は、入力装置22を用いて端末装置20に指示を入力し、ドローン映像データに基づいて疑似疾走映像データを生成する。具体的には、ドローン40の飛行速度基づいて倍速率を決定し、決定した倍速率でドローン映像データを倍速して疑似疾走映像データを生成する。例えば、ドローン40の飛行速度に倍速率を乗じた速度が競走馬12の疾走時の速度或いは当該疾走時の速度より僅かに速くなるように倍速率が決定される。具体的には、ドローン40の飛行速度が25km/時である場合、倍速率は、2倍から3倍程度に決定される。すなわち、疑似的なドローン40の飛行速度(疑似疾走速度)は、概ね50km/時から75km/時とされる。なお、2歳から3歳の競走馬12の調教時の疾走速度は、概ね50km/時である。
【0036】
図2は、疑似疾走映像を一次停止させた場合の静止画像を示す。
図2が示すように、疑似疾走映像は、競走馬12が放牧地を疾走する場合の競走馬12が見る景色を模した映像となる。
【0037】
担当者等により、バックミュージックデータが疑似疾走映像データに加えられる。バックミュージックデータは、疑似疾走映像とともに出力される音声(バックミュージック)を示す音声データである。バックミュージックは、競走馬12が疾走する際の疾走音を模した音声である。バックミュージックのリズムの速さは、概ね30BPM(Beat Per Minute)から240BPMである。
【0038】
端末装置20で生成され、かつバックミュージックデータを加えられた疑似疾走映像データは、上記可搬記憶媒体や上記通信ネットワークを通じて表示装置31に入力される。具体的には、表示装置31がインターネット13に接続されていない場合、担当者等は、端末装置20で生成した疑似疾走映像データを可搬記憶媒体に記憶させ、当該可搬記憶媒体を表示装置31に接続する。表示装置31がインターネット13に接続されている場合、担当者等は、端末装置20で生成した疑似疾走映像データをWebサーバ15にアップロードする。担当者等は、表示装置20を操作してWebサーバ15にアクセスし、Webサーバ15から疑似疾走映像データをダウンロードする。Webサーバ15は、競走馬脳トレーニング方法を実行する者が運用(レンタル含む)するサーバである。
【0039】
次に、記号移動映像データについて説明がされる。
図3は、記号移動映像データが示す記号移動映像を一時停止させた場合の静止画像を示す。記号移動映像は、複数の記号が画面上において縦及び横に並ぶ映像である。記号は、文字や図形などを含む。文字は、日本語の他、英語やギリシャ文字など、他国の文字も含む。図形は、▲や%などである。
【0040】
モニタ32の画面上における記号の大きさは、概ね1cm角から5cm角とされる。例えば、モニタ32のサイズを31インチとし、記号のサイズは1.5cm角とされる。
【0041】
モニタ32の画面に表示される記号の個数(以下、「記号数」と記載)は、概ね850個から1000個とされる。
【0042】
記号移動映像において、画面に表示された複数の記号は、一定向きへ一定の移動速度で移動する。一定向きは、例えば画面において右から左、或いは左から右、或いは上から下、或いは下から上へ向かう向きである。後述の実施例では、一定向きは、画面の右から左へ向かう向きである。
【0043】
移動速度は、例えば画面の右端に出現した記号が画面の左端まで移動するのに要する時間として規定される。移動速度は、概ね0.8秒から1.7秒である。
【0044】
担当者等は、入力装置22を操作してWebサーバ14にアクセスし、複数の文書データをWebサーバ14からダウンロードする。文書データの種類は特に限定されないが、著作権等の他人の権利が及ばない種類の文章の文書データが選択される。担当者等は、ダウンロードした複数の文書データを結合させて記号移動映像データを生成する。或いは、担当者等は、複数の当該文書データを結合させたものに、入力装置22を用いて適当な記号を加えて、記号移動映像データを生成する。そして、担当者等は、記号移動映像データにおける記号の移動速度を指定して、記号移動映像データを生成する。記号移動映像データの作成は、例えば既存のアプリケーションプログラムを用いて行われる。
【0045】
担当者等により、バックミュージックデータが記号移動映像データに加えられる。バックミュージックデータは、上記疑似疾走映像データに加えられるバックミュージックデータと同一のものが使用される。ただし、記号移動映像データに加えられるバックミュージックデータと、疑似疾走映像データに加えられるバックミュージックデータとは、相違していてもよい。
【0046】
端末装置20で生成され、かつバックミュージックデータを加えられた記号移動映像データは、上記可搬記憶媒体や上記通信ネットワークを通じて表示装置31に入力される。具体的には、表示装置31がインターネット13に接続されていない場合、担当者等は、端末装置20で生成した記号移動映像データを可搬記憶媒体に記憶させ、当該可搬記憶媒体を表示装置31に接続する。表示装置31がインターネット13に接続されている場合、担当者等は、端末装置20で生成した記号移動映像データをWebサーバ15にアップロードする。担当者等は、表示装置20を操作して当該Webサーバ15にアクセスし、Webサーバ15から記号移動映像データをダウンロードする。なお、記号移動映像データ及び疑似疾走映像データがまとめて表示装置31に入力されてもよい。
【0047】
担当者等は、表示装置31を操作し、疑似疾走映像データが示す疑似疾走映像及び記号移動映像データが示す記号移動映像をモニタ32に表示させる。担当者等による表示装置31の操作は、表示装置31がインターネット13と接続されている場合、端末装置20を通じて遠隔で行われてもよいし、厩舎11で働く者に指示して行われてもよい。
【0048】
担当者等によって操作された表示装置31は、例えば疑似疾走映像と記号移動映像とを交互にモニタ32に表示させる。例えば、1時間ごとや6時間ごとや12時間ごとや1日ごとや3日ごとや1週間ごとの所定の間隔で疑似疾走映像と記号移動映像とが交互にモニタ32に表示される。或いは、疑似疾走映像と記号移動映像とは、モニタ32にランダムに表示されてもよい。担当者等が記号移動映像をモニタ32に表示させて競走馬12に視聴させる工程は、特許請求の範囲に記載された「第1工程」に相当する。担当者等が疑似疾走映像をモニタ32に表示させて競走馬12に視聴させる工程は、特許請求の範囲に記載された「第2工程」に相当する。
【0049】
厩舎11が放牧地に設置されている場合、競走馬12は、疑似疾走映像及び記号移動映像を見てリラックスし、輸送車に乗せられて放牧地からトレーニングセンタまで輸送される。定量的なデータは得ていないが、疑似疾走映像及び記号移動映像を一定期間だけ見せた競走馬12では、疑似疾走映像及び記号移動映像を見せていない競走馬12に比べ、輸送前の馬体重と輸送後の馬体重との差である減少量が低減した。すなわち、本実施形態の競走馬脳トレーニング方法によって、競走馬12がリラックスした状態で輸送され、食欲不振等が改善されて健康な状態を維持したままで輸送されたことが確認された。
【0050】
厩舎11がトレーニングセンタに設置されている場合、競走馬12は、疑似疾走映像及び記号移動映像を見てリラックスし、リラックスした状態で調教を受ける。リラックスした状態で調教を行うことにより、疲労の回復や食欲不振等の体調不良の抑制を行うことができ、その結果、競走馬12の身体能力をより向上させることができる。また、調教後も疑似疾走映像及び記号移動映像を競走馬12に見せることにより、競走馬12を常にリラックスさせた状態で維持することができる。
【0051】
[実施例]
【0052】
以下では、競走馬脳トレーニング方法を競走馬12に対して実施した実験の結果が説明される。
【0053】
競走馬12は、2歳になると生産地から輸送されて、トレーニングセンタに設置された各厩舎にそれぞれ配属される。厩舎において、競走馬12に対して調教が行われる。競走馬12は、調教結果などに応じて2歳から3歳で初出走を迎える。実験では、初出走前の調教中の競走馬12(いわゆる新馬)に対して競走馬脳トレーニング方法を実施した。すなわち、実験は、成長過程にある2歳から3歳の競走馬12に対して実施された。
【0054】
競走馬脳トレーニング方法は、特定の厩舎に配属された概ね全ての競走馬に対して実施され、競走馬脳トレーニング方法を行っていない他の厩舎の競走馬と対比がされた。以下では、競走馬脳トレーニング方法が行わわれた上記特定の厩舎が「A厩舎」とされ、競走馬脳トレーニング方法が行われていない他の厩舎が「B厩舎」として説明がされる。なお、「B厩舎」は、4つの厩舎からなる。
【0055】
競走馬12の調教について以下簡単に説明がされる。調教は、競走馬12に坂路を走らせることによって行われる。そして、3ハロン(約603m)のタイム(以下、「調教タイム」と記載)が計測される。調教は、競走馬12の疲労度が一定の範囲内となるように行われる。疲労度は、乳酸値によって推定される。具体的には、調教師は、競走馬12の様子を見ながら、競走馬12が疲れ過ぎない様にして調教を行う。その結果、調教後に計測した乳酸値は概ね14から19の範囲内となる。疲労度が一定の範囲内となるように調教が行われ、調教タイムが徐々に短縮される。すなわち、競走馬は、同程度の疲労でより速く走ることができるようになる。例えば、調教開始時において48秒台であった調教タイムが、調教を行った結果46秒台になる。
【0056】
図4は、A厩舎に属する複数の競走馬12の2018年度及び2019年度についての平均の調教タイム(以下、「平均調教タイム」と記載)及び平均の乳酸値(以下、「平均乳酸値」と記載)の月ごとの推移を示す。2018年度は、競走馬脳トレーニング方法を行わなかった年度であり、2019年度は、競走馬脳トレーニング方法を行った年度である。
【0057】
また、
図4には、A厩舎とは別のB厩舎に属する複数の競走馬12の2018年度及び2019年度についての平均調教タイム及び平均乳酸値も示されている。B厩舎の競走馬12に対しては、2018年度及び2019年度のいずれの年度においも競走馬脳トレーニング方法は行われていない。
【0058】
なお、平均調教タイムとは、1頭の競走馬12における調教タイムの平均値を、A厩舎(或いはB厩舎)に属する全ての競走馬12について合計し、合計値を頭数で除した値である。すなわち、平均調教タイムは、A厩舎(或いはB厩舎)に属する全ての競走馬12についての調教タイムの平均値である。同様に、平均乳酸値は、A厩舎(或いはB厩舎)に属する全ての競走馬12についての乳酸値の平均値である。
【0059】
競走馬脳トレーニング方法は、上記疑似疾走映像及び上記記号移動映像をランダムに各競走馬12にそれぞれ視聴させることによって行った。
【0060】
競走馬脳トレーニング方法は、調教の開始とともに実施された。調教開始月及び競走馬脳トレーニング方法の開始月は2019年の12月である。競走馬脳トレーニング方法は、約6月間(半年間)行われた。すなわち、競走馬脳トレーニング方法は、2019年の12月から2020年の5月まで実施された。
【0061】
図4における2018年度のA厩舎及びB厩舎の競走馬12の平均調教タイムは概ね同じである。すなわち、競走馬脳トレーニング方法を行わなかった場合、厩舎間における平均調教タイムの差は概ねないことが
図4に示されている。一方、2019年度では、競走馬脳トレーニング方法を行ったA厩舎の平均調教タイムは、競走馬脳トレーニング方法を行わなかったB厩舎の平均調教タイムよりも概ね短いことが
図4に示されている。すなわち、競走馬脳トレーニング方法を行ったA厩舎と、競走馬脳トレーニング方法を行わなかったB厩舎とで差が生じたことが
図4に示されている。
【0062】
図5は、A厩舎について、競走馬脳トレーニング方法を行っていない2018年度と、競走馬脳トレーニング方法を行った2019年度との平均調教タイム及び平均乳酸値の推移を示す。
図5が示すように、競走馬脳トレーニング方法を行った2019年度の平均調教タイムは、競走馬脳トレーニング方法を行っていない2018年度の平均調教タイムよりも、いずれの月においても短くなっていることが示されている。
【0063】
図4及び
図5が示すように、競走馬脳トレーニング方法を競走馬12に対して行った場合、競走馬脳トレーニング方法を行っていない他の厩舎の競走馬12や、競走馬脳トレーニング方法を行っていない他の年度の競走馬12よりも、平均調教タイムが短縮されることが確認された。
【0064】
また、A厩舎に属する複数の厩務員からの聞き取りにより、これまでの競走馬(2018年以前に調教が行われた競走馬)に比べ、競走馬脳トレーニング方法を実施した競走馬12の状態が良いことが確認された。競走馬12の状態は、食欲不振等による馬体重の減少や、いわゆる入れ込み等によって判断された。
【0065】
また、A厩舎に属する競走馬の状態が、これまでの競走馬(2018年以前に調教が行われた競走馬)や、他の厩舎(B厩舎)に属する競走馬の状態よりも良いことが確認された。この場合、「競走馬の状態」の判断は、A厩舎に属する競走馬12及び他の厩舎(B厩舎)に属する競走馬12の調教を行う調教師によるものである。
【0066】
[実施形態の作用効果]
【0067】
本実施形態では、記号移動映像及び疑似疾走映像をA厩舎にいる競走馬12に見せることにより、競走馬12の脳を活性化させて競走馬12をリラックスさせることができた。その結果、競走馬12の体調を良好に保って競走馬12の身体能力を向上させることができた。
【0068】
また、ドローン40が撮影したドローン映像を所定の倍率で加速させて疑似疾走映像を生成するから、ドローン40の飛行性能に拘らず疑似疾走映像を生成することができる。また、疑似疾走速度を容易に変更することができる
【0069】
また、競走馬12の安静時の脈拍と同等の30BPM以上であって、かつ40BPM未満のバックミュージックを出力することにより、競走馬12の脳をより活性化させて競走馬12をリラックスさせてることができる。
【0070】
また、レースに出走する3歳から4歳の競走馬12に上記記号移動映像或いは上記疑似疾走映像を見せることにより、競走馬12をリラックスさせてレース成績を良くすることができる。
【0071】
[変形例]
【0072】
実施例では疑似疾走映像及び記号移動映像を競走馬12に視聴させたが、疑似疾走映像或いは記号移動映像のいずれか一方の映像を競走馬12に視聴させて競走馬脳トレーニング方法が行われてもよい。
【0073】
実施例では、2歳から3歳の競走馬12に対して競走馬脳トレーニング方法を実施したが、競走馬脳トレーニング方法は、4歳以上の競走馬12に対して実施されてもよい。
【0074】
実施形態では、ドローン40が撮影したドローン映像に基づいて疑似疾走映像データを生成する例が説明された。もっとも、疑似疾走映像データは、疾走する競走馬12にカメラを設置して撮影することによって生成されてもよい。
【0075】
実施例では、リズムが付けられた疑似疾走映像及び記号移動映像を競走馬12に視聴させたが、リズムがつけられていない疑似疾走映像及び記号移動映像を競走馬12に視聴させて競走馬脳トレーニング方法が行われてもよい。
【0076】
記号移動映像における記号の移動速度は、徐々に速くされてもよい。例えば、競走馬脳トレーニング方法を開始した最初の1月間は、当該移動速度を1.7秒とし、次の1月間は1.5秒や1.3秒として徐々に移動速度を速くし、最後の1月間は移動速度を0.8秒まで速くしてもよい。記号移動映像における記号の移動速度を徐々に速くすることにより、競走馬12の脳をより活性化することができる。
【符号の説明】
【0077】
10・・・競走馬脳トレーニングシステム
11・・・厩舎
12・・・競走馬
13・・・インターネット
14、15・・・Webサーバ
20・・・端末装置
31・・・表示装置
32・・・モニタ
40・・・ドローン
41・・・カメラ
【手続補正書】
【提出日】2023-04-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
記号が画面上を移動する記号移動映像を、厩舎に設置したモニタ或いはスクリーンに映して競走馬に視認させる第1工程と、疾走する競走馬の視点での疾走映像を模した疑似疾走映像を、厩舎に設置したモニタ或いはスクリーンに映して競走馬に視認させる第2工程との少なくともいずれかの工程を備えた競走馬脳トレーニング方法。
【請求項2】
上記第2工程を有する競走馬脳トレーニング方法であって、
カメラを有する飛行装置を低空飛行させて基本映像を撮影する工程と、
当該基本映像を所定の倍率で加速させて上記疑似疾走映像を生成する工程と、をさらに有する請求項1に記載の競走馬脳トレーニング方法。
【請求項3】
上記第1工程を有する競走馬脳トレーニング方法であって、
上記記号移動映像は、画面上に850個以上1000個以下の記号を有し、当該記号は、0.8秒以上1.7秒以下で当該画面の一方の端から他方の端まで移動する請求項1または2に記載の競走馬脳トレーニング方法。
【請求項4】
画面上における上記記号の大きさは、1.0cm角以上2.0cm角以下である請求項3に記載の競走馬脳トレーニング方法。
【請求項5】
上記第1工程及び上記第2工程は、上記記号移動映像或いは上記疑似疾走映像とともにバックミュージックを出力する工程を含み、
上記バックミュージックは、30BPM以上40BPM未満、或いは40BPM以上240BPM以下である請求項1に記載の競走馬脳トレーニング方法。
【請求項6】
上記競走馬は、3歳から4歳の競走馬である請求項1に記載の競走馬脳トレーニング方法。