(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166500
(43)【公開日】2023-11-21
(54)【発明の名称】組織からの目的の領域の隔離および発現分析のための方法、組成物、およびデバイス
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20231114BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20231114BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20231114BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALN20231114BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20231114BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALN20231114BHJP
【FI】
G01N1/28 X ZNA
G01N1/28 J
G01N33/48 M
C12M1/00 A
C12Q1/6869 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6844 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023142905
(22)【出願日】2023-09-04
(62)【分割の表示】P 2020568954の分割
【原出願日】2019-03-04
(31)【優先権主張番号】62/637,998
(32)【優先日】2018-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/691,559
(32)【優先日】2018-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】520335369
【氏名又は名称】クァンタムサイト, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ジョン バトラー
(72)【発明者】
【氏名】ビダン チョウドリー
(57)【要約】
【課題】平らな組織切片中の少なくとも1つの目的の領域から細胞構成要素を単離する方法が、本明細書で提供される。
【解決手段】上記方法は、インサイチュであり、組織から領域を規定するために固定化したヌクレオチドアレイの下準備を要しない。上記方法は、組織切片上に疎水性マスクをインサイチュで準備して、目的の領域を隔離し、続いて、表面張力アレイを必要に応じて使用して、上記疎水性マスクによって境界線を描いた特定の目的の領域に、抽出および/または分析試薬を添加および/または除去することを包含し得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2018年3月2日出願の米国仮出願第62/637,998号、発明の名称「METHODS, COMPOSITIONS, AND DEVICES FOR ISOLATION AND EXPRESSION ANALYSIS OF REGIONS OF INTEREST FROM A TISSUE SECTION」および2018年6月28日出願の米国仮出願第62/691,559号、発明の名称「METHODS, COMPOSITIONS, AND DEVICES FOR ISOLATION AND EXPRESSION ANALYSIS OF REGIONS OF INTEREST FROM A TISSUE SECTION」(これらの全体は、本明細書に参考として援用される)に基づく優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
組織サンプルからの遺伝子およびタンパク質発現の従来の臨床分析は、核酸およびタンパク質を切片(例えば、組織の生検物)から抽出することを要する。選択機構が存在しないので、これらの切片に基づく分析は、組織内の種々の細胞タイプ(例えば、上皮、結合組織、および免疫)の発現プロフィールおよびDNA/RNA配列データの複合を表す。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
発明の要旨
いくつかの局面では、本開示は、配列決定または分析のために、固体基材上の平らな組織切片で少なくとも1つの目的の領域から生体分子を単離する方法であって、前記方法は、(a)固体基材上の前記平らな組織切片に、規定された目的の領域からポリマーで境界線を描いて、非物理的流体バリアを形成する工程であって、ここで前記目的の領域は、直径1mmより小さい工程;および(b)前記少なくとも1つの規定された目的の領域内の細胞をインサイチュで選択的に破壊する工程、を包含する方法を提供する。いくつかの局面では、本開示は、配列決定または分析のために、固体基材上の平らな組織切片で少なくとも1つの目的の領域から生体分子を単離する方法であって、前記方法は、前記平らな組織切片に、前記固体基材上の平らな組織切片中の前記少なくとも1つの目的の領域の境界線を描く化学的マスクを付与する工程、を包含し、ここで前記化学的マスクは、前記少なくとも1つの目的の領域内の細胞の選択的破壊に適したバリアを形成し、前記化学的マスクは、物理的流体境界ではない、方法を提供する。いくつかの局面では、本開示は、配列決定または分析のために、固体基材上の平らな組織切片で少なくとも1つの目的の領域から生体分子を単離する方法であって、前記方法は、前記固体基材上の平らな組織切片中の前記目的の領域内の細胞の破壊に適した溶媒を分与して、遊離した細胞構成要素を含む液滴を形成する工程、を包含し、ここで前記液滴は、前記目的の領域の外側の組織から、物理的バリアなしに流体連通から隔離される、方法を提供する。いくつかの局面では、本開示は、組織切片中の複数の目的の領域から生体分子を単離および検出する方法であって、前記方法は、疎水性マスクを組織切片に付与し、前記平らな組織切片中の少なくとも1000個の目的の領域が、物理的バリアなしに互いとの流体連通から隔離される工程、および前記少なくとも1000個の目的の領域内の細胞からインサイチュで遊離した複数のタンパク質または核酸を検出し、前記タンパク質または核酸の空間位置情報が保持される工程、を包含する方法を提供する。いくつかの実施形態では、前記方法は、直径約100ミクロンより小さいかまたは直径約100ミクロンに等しい目的の領域を隔離し得る。いくつかの実施形態では、前記組織切片は、FFPE組織切片である。いくつかの実施形態では、前記方法は、前記細胞からインサイチュで遊離した複数のタンパク質または核酸を検出する工程を包含し、前記検出する工程は、前記細胞からインサイチュで遊離した前記核酸を配列決定することを包含する。いくつかの実施形態では、前記配列決定することは、前記インサイチュで遊離した核酸を、前記目的の領域の位置を識別するバーコードでタグ化することを包含する。いくつかの実施形態では、前記バーコードは、表面に連結されない。いくつかの実施形態では、前記タグ化することは、インサイチュで遊離したRNAをタグ化することを包含し、(a)特有の核酸配列を含むオリゴヌクレオチドを、前記少なくとも1000個の目的の領域に付与すること;および(b)第1鎖および第2鎖cDNA合成を、前記少なくとも1000個の目的の領域に対して行い、前記目的の領域は、互いから隔離されること、を包含する。本方法のいくつかの実施形態では、前記目的の領域から合成したcDNA分子間で前記特有の核酸配列の相互汚染が低減される。いくつかの実施形態では、前記第1鎖cDNA合成は、インサイチュで行われる。いくつかの実施形態では、前記第1鎖および第2鎖cDNA合成は、インサイチュで行われる。いくつかの実施形態では、前記細胞からインサイチュで遊離した核酸を配列決定することは、mRNAおよびゲノムDNAの両方を配列決定することを包含する。いくつかの実施形態では、前記細胞からインサイチュで遊離した核酸を配列決定することは、mRNAを配列決定することを包含する。いくつかの実施形態では、前記mRNAを配列決定することは、前記mRNAから生成したcDNAに対して行われる前増幅ステップを包含する。いくつかの実施形態では、前記前増幅ステップは、LM-PCR、ランダムヘキサマープライマーでのPCR、ポリA特異的プライマーでのPCR、またはこれらの任意の組み合わせである。いくつかの実施形態では、前記細胞からインサイチュで遊離した核酸を配列決定することは、ゲノムDNAを配列決定することを包含する。いくつかの実施形態では、前記ゲノムDNAを配列決定することは、前記ゲノムDNAに対して行われる全ゲノム増幅(WGA)ステップを包含する。いくつかの実施形態では、前記WGA工程は、変性オリゴヌクレオチドプライム(DOP)PCR、マルチ置換増幅(MDA)、マルチアニーリングおよびループ形成ベースの増幅サイクル(MALBAC)、PicoPlex、自己縮重プライマーでの等温増幅、またはこれらの組み合わせである。
【0004】
いくつかの局面では、本開示は、組織切片であって、前記切片に、物理的バリアなしに互いとの流体連通から隔離される、少なくとも1000個の水性液滴を含む、組織切片を提供する。いくつかの実施形態では、前記組織切片は、前記1000個の水性液滴を、互いとの流体連通から隔離する疎水性マスクを含む。いくつかの実施形態では、前記少なくとも1000個の水性液滴は、少なくとも1000個の特有のオリゴヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、前記疎水性マスクは、少なくともシアノアクリレートポリマーの層を含む。いくつかの実施形態では、前記疎水性マスクは、少なくとも非シリル化フルオロアルキル層を含む。いくつかの実施形態では、前記非シリル化フルオロアルキル層は、フルオロアクリレートまたは非シリル化ペルフルオロアルカン化合物を含む。いくつかの実施形態では、前記組織切片は、少なくともペルフルオロアルキルシラン層を含む。いくつかの実施形態では、前記ペルフルオロアルキルシラン層は、ペルフルオロアルキルトリクロロシランまたはペルフルオロアルキルトリス(ジメチルアミノ)シランを含む。いくつかの実施形態では、前記ペルフルオロアルキルトリクロロシランは、FOTS(トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリクロロシラン)である。いくつかの実施形態では、前記ペルフルオロアルキルトリス(ジメチルアミノ)シランは、PF10TAS(ペルフルオロデシルトリス(ジメチルアミノ)シラン)である。いくつかの実施
形態では、前記オリゴヌクレオチドは、表面に連結されない。
【0005】
いくつかの局面では、本開示は、固体基材上の平らな組織切片中の少なくとも1つの目的の領域から細胞構成要素を単離する方法であって、前記方法は、(a)前記平らな組織切片に、前記固体基材上の平らな組織切片中の前記少なくとも1つの目的の領域の境界線を描く化学的マスクを付与する工程;および(b)1種またはこれより多くの抽出薬剤を含む溶液を、前記目的の領域上に分与し、それによって、前記少なくとも1つの目的の領域内で境界線を描かれた細胞を選択的に溶解することによって、前記少なくとも1つの目的の領域内の細胞構成要素を溶解する工程、を包含する方法を提供する。いくつかの実施形態では、前記溶液を前記目的の領域上に分与する工程は、(a)前記1種またはこれより多くの抽出薬剤を含む溶液を、第2の固体基材の表面上に位置づけられた少なくとも1つの薬剤移動アレイ要素を含む薬剤移動デバイスに分与すること;(b)前記第2の固体基材の表面上に位置づけられた前記少なくとも1つの薬剤移動アレイ要素を、前記平らな組織切片に接触させ、前記少なくとも1つの薬剤移動アレイ要素は、前記平らな組織切片中の前記少なくとも1つの目的の領域に空間的に対応することであって、ここで前記接触させることは、前記1種またはこれより多くの抽出薬剤を含む溶液を、前記平らな組織切片中の前記少なくとも1つの目的の領域に移動させることを可能にし、それによって、前記少なくとも1つの目的の領域中の細胞構成要素を、前記1種またはこれより多くの抽出薬剤を含む溶液中で溶解させること、を包含する。いくつかの実施形態では、前記方法は、少なくとも1つの溶解させた細胞構成要素を、前記固体基材上の平らな組織切片中の前記少なくとも1つの目的の領域から単離する工程、をさらに包含する。いくつかの実施形態では、前記方法は、前記少なくとも1つの目的の領域から溶解させた前記細胞構成要素の中で核酸を配列決定する工程、をさらに包含する。いくつかの実施形態では、前記方法は、前記少なくとも1つの目的の領域から溶解させた前記細胞構成要素の中でタンパク質に対してタンデム質量分析を行う工程、をさらに包含する。いくつかの実施形態では、前記(b)における溶液は、可溶性タグをさらに含み、ここで前記可溶性タグは、前記少なくとも1つの目的の領域に対応する。いくつかの実施形態では、前記可溶性タグは、オリゴヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、前記オリゴヌクレオチドは、前記目的の領域に対応するサンプルインデックス配列、および必要に応じて、特有の分子識別子配列を含む。いくつかの実施形態では、前記オリゴヌクレオチドは、前記目的の領域に対応する電荷タグを含む。いくつかの実施形態では、前記オリゴヌクレオチドは2本鎖である。いくつかの実施形態では、前記オリゴヌクレオチドは、ビーズに結合体化される。いくつかの実施形態では、前記可溶性タグは、タンデム質量タグである。いくつかの実施形態では、前記1種またはこれより多くの抽出薬剤は、1種またはこれより多くの界面活性剤、プロテアーゼ、張度調節剤、カオトロープ、ヌクレアーゼ、緩衝液、プロテアーゼインヒビター、ホスファターゼインヒビター、またはヌクレアーゼインヒビターを含む。いくつかの実施形態では、前記化学的マスクは、接触角60~155度を有する。いくつかの実施形態では、前記化学的マスクは、フルオロアルカンまたはフルオロアクリルポリマーを含む疎水性マスク溶液を介して付与される。いくつかの実施形態では、前記化学的マスク溶液は、アクリレートまたはシアノアクリレートを含む溶液を介して付与される。いくつかの実施形態では、前記化学的マスク溶液は、溶媒をさらに含む。いくつかの実施形態では、前記溶媒は、ピロピレングリコール誘導体、フルオロカーボン、またはアルコールである。いくつかの実施形態では、前記溶媒は、ペルフルオロオクタン、ペルフルオロ-2-メチルペンタン、ペルフルオロ-1,3-ジメチルシクロヘキサン、ペルフルオロデカリン、または1,3-ジフルオロプロパンである。いくつかの実施形態では、前記少なくとも1つの目的の領域は、円形であり、前記目的の領域の直径は、1mmもしくはこれ未満、500ミクロンもしくはこれ未満、250ミクロンもしくはこれ未満、125ミクロンもしくはこれ未満、100ミクロンもしくはこれ未満、80ミクロンもしくはこれ未満、50ミクロンもしくはこれ未満、25ミクロンもしくはこれ未満、または15ミクロンもしくはこれ未満である。いくつかの実施形態では、前記少なくとも1つの目的の領域は、面積約7.8×105平方ミクロン未満である。いくつかの実施形態では、前記第2の固体基材の表面に位置づけられた前記少なくとも1つの薬剤移動アレイ要素は、疎水性領域によって境界線が描かれた少なくとも1つの親水性領域を含む。いくつかの実施形態では、前記第2の固体基材の表面に位置づけられた前記少なくとも1つの薬剤移動アレイ要素は、10,000ピコリットルもしくはこれ未満、1,000ピコリットルもしくはこれ未満、500ピコリットルもしくはこれ未満、250ピコリットルもしくはこれ未満、100ピコリットルもしくはこれ未満、50ピコリットルもしくはこれ未満、10ピコリットルもしくはこれ未満、または2ピコリットルもしくはこれ未満の溶液体積を送達し得る。いくつかの実施形態では、前記少なくとも1つの親水性領域の境界線を描く前記疎水性領域は、接触角60~155度を有する。いくつかの実施形態では、前記方法は、前記平らな組織切片中の1個より多くの目的の領域から細胞構成要素を溶解させることを包含する。いくつかの実施形態では、前記方法は、前記平らな組織切片中の少なくとも10個、少なくとも100個、少なくとも1000個、または少なくとも10,000個の目的の領域からの細胞構成要素を溶解させることを包含する。いくつかの実施形態では、前記平らな組織切片中の少なくとも1つの目的の領域の境界線を描く前記疎水性マスクは、グリッドパターンを含む。いくつかの実施形態では、前記平らな組織切片中の少なくとも1つの目的の領域の境界線を描く前記疎水性マスクは、楕円を含む。いくつかの実施形態では、前記固体基材上の平らな組織切片中の少なくとも1つの目的の領域の境界線を描く前記疎水性マスクは、圧電式インクジェット送達デバイスを使用して前記平らな組織切片に付与される。いくつかの実施形態では、前記平らな組織切片は、約2~約50μm厚である。いくつかの実施形態では、前記平らな組織切片は、約1~約15μm厚である。いくつかの実施形態では、前記平らな組織切片は、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織切片である。前記平らな組織切片は、固定されていない組織切片である。
【0006】
いくつかの局面では、本開示は、第1の固体支持体上の平らな組織切片中の少なくとも1つの目的の領域から細胞構成要素を単離するためのシステムであって、前記システムは、(a)前記疎水性マスクで境界線が描かれる少なくとも1つの目的の領域を含む第1の固体支持体上の平らな組織切片;(b)前記平らな組織切片中の少なくとも1つの目的の領域と整列させるために、前記固体基材の表面に位置づけられた少なくとも1つの薬剤移動アレイ要素を含む第2の固体支持体であって、前記少なくとも1つの薬剤移動アレイ要素は、1種またはこれより多くの抽出薬剤を含む溶液を含む、第2の固体支持体;ならびに(c)前記少なくとも1つの薬剤移動アレイ要素を含む前記固体支持体に連結され、前記固体支持体を移し得、前記固体基材の表面に位置づけられた前記少なくとも1つの薬剤移動アレイ要素が、疎水性マスクで境界線を描かれた平らな組織切片中の前記少なくとも1つの目的の領域と接触し得る電動式ステージ、を含むシステムを提供する。いくつかの局面では、前記システムは、(i)前記電動式ステージの位置を制御するように構成され、前記第2の固体基材上の表面に位置づけられた前記少なくとも1つの薬剤移動アレイ要素は、前記組織切片中の少なくとも1つの目的の領域と接触するコンピューターシステム、をさらに含む。いくつかの実施形態では、前記疎水性マスク溶液は、(i)疎水性マスク溶液を前記固体支持体上の組織切片に送達し得る圧電式インクジェット送達デバイス、および(ii)前記圧電式インクジェット送達デバイスを制御して、前記疎水性マスク溶液で前記平らな組織切片中の少なくとも1つの目的の領域の境界線を描いて、疎水性マスクを生成するように構成されたコンピューターシステムによって付与される。いくつかの実施形態では、前記第2の固体基材の表面に位置づけられた前記少なくとも1つの薬剤移動アレイ要素は、疎水性領域によって境界線が描かれる少なくとも1つの親水性領域を含む。いくつかの実施形態では、前記疎水性マスク溶液は、C7F15CH2OCOC(CH3)=CH2、FC-722、PerFluoroCoat、またはFluoroPelのうちの少なくとも1つを含む。いくつかの実施形態では、前記疎水性マスク溶液は、アクリレートまたはシアノアクリレートのうちの少なくとも一方を含む。いくつかの実施形態では、前記第2の固体基材の表面に位置づけられた前記少なくとも1つの薬剤移動アレイ要素は、10,000ピコリットルもしくはこれ未満、1,000ピコリットルもしくはこれ未満、500ピコリットルもしくはこれ未満、250ピコリットルもしくはこれ未満、100ピコリットルもしくはこれ未満、50ピコリットルもしくはこれ未満、10ピコリットルもしくはこれ未満、または2ピコリットルもしくはこれ未満の溶液体積を送達し得る。いくつかの実施形態では、前記少なくとも1つの親水性領域の境界線を描く疎水性領域の接触角は、60~155度である。いくつかの実施形態では、疎水性マスク溶液付与のための前記システムは、前記平らな組織切片への付与後に前記疎水性マスク溶液を重合し得るUV光源を含む。いくつかの実施形態では、疎水性マスク溶液付与のための前記システムは、ペルフルオロアルキルトリクロロシランまたはペルフルオロアルキルシランの化学蒸着のための装置を含む。
【0007】
いくつかの局面では、本開示は、平らな組織切片中の少なくとも1つの目的の領域から細胞構成要素を単離するためのキットであって、前記キットは、本明細書に記載される方法、システムまたは組織切片のいずれかの実施形態の局面のいずれか1つに記載の要素のうちのいずれかを含む、キットを提供する。
【0008】
いくつかの局面では、本開示は、組織切片であって、最も下から最も上へと、前記組織切片に接して少なくとも1つのシアノアクリレート層、続いて、少なくとも1つのペルフルオロアルキルシラン層を含む、組織切片を提供する。いくつかの局面では、前記ペルフルオロアルキルシラン層は、ペルフルオロアルキルトリクロロシランまたはペルフルオロアルキルトリス(ジメチルアミノ)シランを含む。いくつかの実施形態では、前記ペルフルオロアルキルトリクロロシランは、FOTSである。いくつかの実施形態では、前記組織切片は、前記少なくとも1つのシアノアクリレート層の下に少なくとも1つの非シリル化フルオロアルキル層を含む。いくつかの実施形態では、前記非シリル化フルオロアルキル層は、フルオロアクリレートまたは非シリル化ペルフルオロアルカン化合物を含む。いくつかの実施形態では、前記ペルフルオロアルキルトリクロロシランは、FOTS((トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリクロロシラン)である。いくつかの実施形態では、前記組織切片は、前記シアノアクリレート層を有する領域によって境界線が描かれる前記シアノアクリレート層を欠く少なくとも1つの領域を含む。いくつかの実施形態では、前記領域は、実質的に楕円形、多角形、または自由形態である。いくつかの実施形態では、前記組織切片への界面活性剤の水性溶液の付与は、前記領域内の細胞を溶解させ得る。いくつかの実施形態では、前記領域は、約1mm未満のサイズである。いくつかの実施形態では、前記領域は、約100ミクロン未満のサイズである。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
配列決定または分析のために、固体基材上の平らな組織切片で少なくとも1つの目的の領域から生体分子を単離する方法であって、前記方法は、
(a)固体基材上の前記平らな組織切片に、規定された目的の領域からポリマーで境界線を描いて、非物理的流体バリアを形成する工程であって、ここで前記目的の領域は、直径1mmより小さい工程;および
(b)前記少なくとも1つの規定された目的の領域内の細胞をインサイチュで選択的に破壊する工程、
を包含する方法。
(項目2)
配列決定または分析のために、固体基材上の平らな組織切片で少なくとも1つの目的の領域から生体分子を単離する方法であって、前記方法は、
前記平らな組織切片に、前記固体基材上の平らな組織切片中の前記少なくとも1つの目的の領域の境界線を描く化学的マスクを付与する工程、
を包含し、ここで前記化学的マスクは、前記少なくとも1つの目的の領域内の細胞の選択的破壊に適したバリアを形成し、前記化学的マスクは、物理的流体境界ではない、方法。
(項目3)
配列決定または分析のために、固体基材上の平らな組織切片で少なくとも1つの目的の領域から生体分子を単離する方法であって、前記方法は、
前記固体基材上の平らな組織切片中の前記目的の領域内の細胞の破壊に適した溶媒を分与して、遊離した細胞構成要素を含む液滴を形成する工程、
を包含し、ここで前記液滴は、前記目的の領域の外側の組織から、物理的バリアなしに流体連通から隔離される、方法。
(項目4)
組織切片中の複数の目的の領域から生体分子を単離および検出する方法であって、前記方法は、
疎水性マスクを組織切片に付与し、前記平らな組織切片中の少なくとも1000個の目的の領域が、物理的バリアなしに互いとの流体連通から隔離される工程、および
前記少なくとも1000個の目的の領域内の細胞からインサイチュで遊離した複数のタンパク質または核酸を検出し、前記タンパク質または核酸の空間位置情報が保持される工程、
を包含する方法。
(項目5)
前記方法は、直径約100ミクロンより小さいかまたは直径約100ミクロンに等しい目的の領域を隔離し得る、項目1~4のいずれか1項に記載の方法。
(項目6)
前記組織切片は、FFPE組織切片である、項目1~5のいずれか1項に記載の方法。
(項目7)
前記目的の領域内の細胞からインサイチュで遊離した複数のタンパク質または核酸を検出する工程を包含し、ここで前記検出する工程は、前記細胞からインサイチュで遊離した前記核酸を配列決定することを包含する、項目1~6のいずれか1項に記載の方法。
(項目8)
前記配列決定することは、前記インサイチュで遊離した核酸を、前記目的の領域の位置を識別するバーコードでタグ化することを包含する、項目6に記載の方法。
(項目9)
前記バーコードは、表面に連結されない、項目8に記載の方法。
(項目10)
前記タグ化することは、インサイチュで遊離したRNAをタグ化することを包含し、
(a)特有の核酸配列を含むオリゴヌクレオチドを、前記少なくとも1000個の目的の領域に付与すること;および
(b)第1鎖および第2鎖cDNA合成を、前記少なくとも1000個の目的の領域に対して行い、前記目的の領域は、互いから隔離されること、
を包含する、項目8に記載の方法。
(項目11)
前記目的の領域から合成したcDNA分子間で前記特有の核酸配列の相互汚染が低減される、項目10に記載の方法。
(項目12)
前記第1鎖cDNA合成は、インサイチュで行われる、項目10に記載の方法。
(項目13)
前記第1鎖および第2鎖cDNA合成は、インサイチュで行われる、項目10に記載の方法。
(項目14)
前記細胞からインサイチュで遊離した核酸を配列決定することは、mRNAおよびゲノムDNAの両方を配列決定することを包含する、項目6に記載の方法。
(項目15)
前記細胞からインサイチュで遊離した核酸を配列決定することは、mRNAを配列決定することを包含する、項目14に記載の方法。
(項目16)
前記mRNAを配列決定することは、前記mRNAから生成したcDNAに対して行われる前増幅ステップを包含する、項目15に記載の方法。
(項目17)
前記前増幅ステップは、LM-PCR、ランダムヘキサマープライマーでのPCR、ポリA特異的プライマーでのPCR、またはこれらの任意の組み合わせである、項目16に記載の方法。
(項目18)
前記細胞からインサイチュで遊離した核酸を配列決定することは、ゲノムDNAを配列決定することを包含する、項目14に記載の方法。
(項目19)
前記ゲノムDNAを配列決定することは、前記ゲノムDNAに対して行われる全ゲノム増幅(WGA)ステップを包含する、項目18に記載の方法。
(項目20)
前記WGA工程は、変性オリゴヌクレオチドプライム(DOP)PCR、マルチ置換増幅(MDA)、マルチアニーリングおよびループ形成ベースの増幅サイクル(MALBAC)、PicoPlex、自己縮重プライマーでの等温増幅、またはこれらの組み合わせである、項目19に記載の方法。
(項目21)
組織切片であって、前記切片に、物理的バリアなしに互いとの流体連通から隔離される、少なくとも1000個の水性液滴を含む、組織切片。
(項目22)
前記1000個の水性液滴を、互いとの流体連通から隔離する疎水性マスクを含む、項目21に記載の組織切片。
(項目23)
前記少なくとも1000個の水性液滴は、少なくとも1000個の特有のオリゴヌクレオチドを含む、項目21または22に記載の組織切片。
(項目24)
前記疎水性マスクは、少なくともシアノアクリレートポリマーの層を含む、項目21~23のいずれか1項に記載の組織切片。
(項目25)
前記疎水性マスクは、少なくとも非シリル化フルオロアルキル層を含む、項目21~24のいずれか1項に記載の組織切片。
(項目26)
前記非シリル化フルオロアルキル層は、フルオロアクリレートまたは非シリル化ペルフルオロアルカン化合物を含む、項目24に記載の組織切片。
(項目27)
少なくともペルフルオロアルキルシラン層を含む、項目21~26のいずれか1項に記載の組織切片。
(項目28)
前記ペルフルオロアルキルシラン層は、ペルフルオロアルキルトリクロロシランまたはペルフルオロアルキルトリス(ジメチルアミノ)シランを含む、項目27に記載の組織切片。
(項目29)
前記オリゴヌクレオチドは、表面に連結されない、項目23~28のいずれか1項に記載の組織切片。
(項目30)
固体基材上の平らな組織切片中の少なくとも1つの目的の領域から細胞構成要素を単離する方法であって、前記方法は、
(a)前記平らな組織切片に、前記固体基材上の平らな組織切片中の前記少なくとも1つの目的の領域の境界線を描く化学的マスクを付与する工程;
(b)1種またはこれより多くの抽出薬剤を含む溶液を、前記目的の領域上に分与し、それによって、前記少なくとも1つの目的の領域内で境界線を描かれた細胞を選択的に溶解することによって、前記少なくとも1つの目的の領域内の細胞構成要素を溶解する工程、
を包含する方法。
(項目31)
前記溶液を前記目的の領域上に分与する工程は、
(a)前記1種またはこれより多くの抽出薬剤を含む溶液を、第2の固体基材の表面上に位置づけられた少なくとも1つの薬剤移動アレイ要素を含む薬剤移動デバイスに分与すること;
(b)前記第2の固体基材の表面上に位置づけられた前記少なくとも1つの薬剤移動アレイ要素を、前記平らな組織切片に接触させ、前記少なくとも1つの薬剤移動アレイ要素は、前記平らな組織切片中の前記少なくとも1つの目的の領域に空間的に対応することであって、ここで前記接触させることは、前記1種またはこれより多くの抽出薬剤を含む溶液を、前記平らな組織切片中の前記少なくとも1つの目的の領域に移動させることを可能にし、それによって、前記少なくとも1つの目的の領域中の細胞構成要素を、前記1種またはこれより多くの抽出薬剤を含む溶液中で溶解させること、
を包含する、項目30に記載の方法。
(項目32)
少なくとも1つの溶解させた細胞構成要素を、前記固体基材上の平らな組織切片中の前記少なくとも1つの目的の領域から単離する工程、
をさらに包含する、項目30に記載の方法。
(項目33)
前記少なくとも1つの目的の領域から溶解させた前記細胞構成要素の中で核酸を配列決定する工程、
をさらに包含する、項目30~32のいずれか1項に記載の方法。
(項目34)
前記少なくとも1つの目的の領域から溶解させた前記細胞構成要素の中でタンパク質に対してタンデム質量分析を行う工程、
をさらに包含する、項目30~33のいずれか1項に記載の方法。
(項目35)
前記(b)における溶液は、可溶性タグをさらに含み、ここで前記可溶性タグは、前記少なくとも1つの目的の領域に対応する、項目30~34のいずれか1項に記載の方法。
(項目36)
前記可溶性タグは、オリゴヌクレオチドである、項目35に記載の方法。
(項目37)
前記オリゴヌクレオチドは、前記目的の領域に対応するサンプルインデックス配列、および必要に応じて、特有の分子識別子配列を含む、項目36に記載の方法。
(項目38)
前記オリゴヌクレオチドは、前記目的の領域に対応する電荷タグを含む、項目36に記載の方法。
(項目39)
前記オリゴヌクレオチドは2本鎖である、項目36または37に記載の方法。
(項目40)
前記オリゴヌクレオチドは、ビーズに結合体化される、項目36~38のいずれか1項に記載の方法。
(項目41)
前記可溶性タグは、タンデム質量タグである、項目35に記載の方法。
(項目42)
前記1種またはこれより多くの抽出薬剤は、1種またはこれより多くの界面活性剤、プロテアーゼ、張度調節剤、カオトロープ、ヌクレアーゼ、緩衝液、プロテアーゼインヒビター、ホスファターゼインヒビター、またはヌクレアーゼインヒビターを含む、項目30~41のいずれか1項に記載の方法。
(項目43)
前記化学的マスクは、接触角60~155度を有する、項目30~42のいずれか1項に記載の方法。
(項目44)
前記化学的マスクは、フルオロポリマーまたはフルオロアクリルポリマーを含む疎水性マスク溶液を介して付与される、項目30~43のいずれか1項に記載の方法。
(項目45)
前記化学的マスク溶液は、アクリレートまたはシアノアクリレートを含む溶液を介して付与される、項目44に記載の方法。
(項目46)
前記化学的マスク溶液は、溶媒をさらに含む、項目45に記載の方法。
(項目47)
前記溶媒は、ピロピレングリコール誘導体、フルオロカーボン、またはアルコールである、項目46に記載の方法。
(項目48)
前記溶媒は、ペルフルオロオクタン、ペルフルオロ-2-メチルペンタン、ペルフルオロ-1,3-ジメチルシクロヘキサン、ペルフルオロデカリン、または1,3-ジフルオロプロパンである、項目46に記載の方法。
(項目49)
前記少なくとも1つの目的の領域は、円形であり、前記目的の領域の直径は、1mmもしくはこれ未満、500ミクロンもしくはこれ未満、250ミクロンもしくはこれ未満、125ミクロンもしくはこれ未満、100ミクロンもしくはこれ未満、80ミクロンもしくはこれ未満、50ミクロンもしくはこれ未満、25ミクロンもしくはこれ未満、または15ミクロンもしくはこれ未満である、項目30~48のいずれか1項に記載の方法。
(項目50)
前記少なくとも1つの目的の領域は、面積約7.8×105平方ミクロン未満である、項目30~44のいずれか1項に記載の方法。
(項目51)
前記第2の固体基材の表面に位置づけられた前記少なくとも1つの薬剤移動アレイ要素は、疎水性領域によって境界線が描かれた少なくとも1つの親水性領域を含む、項目31~50のいずれか1項に記載の方法。
(項目52)
前記第2の固体基材の表面に位置づけられた前記少なくとも1つの薬剤移動アレイ要素は、10,000ピコリットルもしくはこれ未満、1,000ピコリットルもしくはこれ未満、500ピコリットルもしくはこれ未満、250ピコリットルもしくはこれ未満、100ピコリットルもしくはこれ未満、50ピコリットルもしくはこれ未満、10ピコリットルもしくはこれ未満、または2ピコリットルもしくはこれ未満の溶液体積を送達し得る、項目51に記載の方法。
(項目53)
前記少なくとも1つの親水性領域の境界線を描く前記疎水性領域は、接触角60~155度を有する、項目51に記載の方法。
(項目54)
前記平らな組織切片中の1個より多くの目的の領域から細胞構成要素を溶解させることを包含する、項目30~53のいずれか1項に記載の方法。
(項目55)
前記平らな組織切片中の少なくとも10個、少なくとも100個、少なくとも1000個、または少なくとも10,000個の目的の領域からの細胞構成要素を溶解させることを包含する、項目30~53のいずれか1項に記載の方法。
(項目56)
前記平らな組織切片中の少なくとも1つの目的の領域の境界線を描く前記疎水性マスクは、グリッドパターンを含む、項目30~55のいずれか1項に記載の方法。
(項目57)
前記平らな組織切片中の少なくとも1つの目的の領域の境界線を描く前記疎水性マスクは、円形を含む、項目30~55のいずれか1項に記載の方法。
(項目58)
前記固体基材上の平らな組織切片中の少なくとも1つの目的の領域の境界線を描く前記疎水性マスクは、圧電式インクジェット送達デバイスを使用して前記平らな組織切片に付与される、項目30~57のいずれか1項に記載の方法。
(項目59)
前記平らな組織切片は、約2~約50μm厚である、項目30~58のいずれか1項に記載の方法。
(項目60)
前記平らな組織切片は、約1~約15μm厚である、項目30~58のいずれか1項に記載の方法。
(項目61)
前記平らな組織切片は、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織切片である、項目30~58のいずれか1項に記載の方法。
(項目62)
前記平らな組織切片は、固定されていない組織切片である、項目30~58のいずれか1項に記載の方法。
(項目63)
第1の固体支持体上の平らな組織切片中の少なくとも1つの目的の領域から細胞構成要素を単離するためのシステムであって、前記システムは、
(a)前記疎水性マスクで境界線が描かれる少なくとも1つの目的の領域を含む第1の固体支持体上の平らな組織切片;
(b)前記平らな組織切片中の少なくとも1つの目的の領域と整列させるために、前記固体基材の表面に位置づけられた少なくとも1つの薬剤移動アレイ要素を含む第2の固体支持体であって、前記少なくとも1つの薬剤移動アレイ要素は、1種またはこれより多くの抽出薬剤を含む溶液を含む、第2の固体支持体;ならびに
(c)前記少なくとも1つの薬剤移動アレイ要素を含む前記固体支持体に連結され、前記固体支持体を移し得、前記固体基材の表面に位置づけられた前記少なくとも1つの薬剤移動アレイ要素が、疎水性マスクで境界線を描かれた平らな組織切片中の前記少なくとも1つの目的の領域と接触し得る電動式ステージ、
を含むシステム。
(項目64)
(i)前記電動式ステージの位置を制御するように構成され、前記第2の固体基材上の表面に位置づけられた前記少なくとも1つの薬剤移動アレイ要素は、前記組織切片中の少なくとも1つの目的の領域と接触するコンピューターシステム、
をさらに含む、項目63に記載のシステム。
(項目65)
前記疎水性マスク溶液は、
(i)疎水性マスク溶液を前記固体支持体上の組織切片に送達し得る圧電式インクジェット送達デバイス、および
(ii)前記圧電式インクジェット送達デバイスを制御して、前記疎水性マスク溶液で前記平らな組織切片中の少なくとも1つの目的の領域の境界線を描いて、疎水性マスクを生成するように構成されたコンピューターシステムによって付与される、項目63または64に記載のシステム。
(項目66)
前記第2の固体基材の表面に位置づけられた前記少なくとも1つの薬剤移動アレイ要素は、疎水性領域によって境界線が描かれる少なくとも1つの親水性領域を含む、項目63~65に記載のシステム。
(項目67)
前記疎水性マスク溶液は、C7F15CH2OCOC(CH3)=CH2、FC-722、PerFluoroCoat、またはFluoroPelのうちの少なくとも1つを含む、項目58~66のいずれか1項に記載のシステム。
(項目68)
前記疎水性マスク溶液は、アクリレートまたはシアノアクリレートのうちの少なくとも一方を含む、項目58~67のいずれか1項に記載のシステム。
(項目69)
前記第2の固体基材の表面に位置づけられた前記少なくとも1つの薬剤移動アレイ要素は、10,000ピコリットルもしくはこれ未満、1,000ピコリットルもしくはこれ未満、500ピコリットルもしくはこれ未満、250ピコリットルもしくはこれ未満、100ピコリットルもしくはこれ未満、50ピコリットルもしくはこれ未満、10ピコリットルもしくはこれ未満、または2ピコリットルもしくはこれ未満の溶液体積を送達し得る、項目58~68のいずれか1項に記載のシステム。
(項目70)
前記少なくとも1つの親水性領域の境界線を描く疎水性領域の接触角は、60~155度である、項目58~68のいずれか1項に記載のシステム。
(項目71)
疎水性マスク溶液付与のための前記システムは、前記平らな組織切片への付与後に前記疎水性マスク溶液を重合し得るUV光源を含む、項目65~70のいずれか1項に記載のシステム。
(項目72)
疎水性マスク溶液付与のための前記システムは、ペルフルオロアルキルシランの化学蒸着のための装置を含む、項目65~71のいずれか1項に記載のシステム。
(項目73)
平らな組織切片中の少なくとも1つの目的の領域から細胞構成要素を単離するためのキットであって、前記キットは、項目63~72のいずれか1項に記載の要素のうちのいずれかを含む、キット。
(項目74)
組織切片であって、最も下から最も上へと、前記組織切片に接して少なくとも1つのシアノアクリレート層、続いて、少なくとも1つのペルフルオロアルキルシラン層を含む、組織切片。
(項目75)
前記少なくとも1つのシアノアクリレート層の下に少なくとも1つの非シリル化フルオロアルキル層を含む、項目74に記載の組織切片。
(項目76)
前記非シリル化フルオロアルキル層は、フルオロアクリレートまたは非シリル化ペルフルオロアルカン化合物を含む、項目75に記載の組織切片。
(項目77)
前記ペルフルオロアルキルシラン層は、ペルフルオロアルキルトリクロロシランまたはペルフルオロアルキルトリス(ジメチルアミノ)シランを含む、項目74~76のいずれか1項に記載の組織切片。
(項目78)
前記シアノアクリレート層を有する領域によって境界線が描かれる前記シアノアクリレート層を欠く少なくとも1つの領域を含む、項目74~77のいずれか1項に記載の組織切片。
(項目79)
前記領域は、実質的に楕円形、多角形、または自由形態である、項目78に記載の組織切片。
(項目80)
前記組織切片への界面活性剤の水性溶液の付与は、前記領域内の細胞を溶解させ得る、項目78~79のいずれか1項に記載の組織切片。
(項目81)
前記領域は、約1mm未満のサイズである、項目78~80のいずれか1項に記載の組織切片。
(項目82)
前記領域は、約100ミクロン未満のサイズである、項目81に記載の組織切片。
(項目83)
前記組織切片は、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織切片である、項目74~82のいずれか1項に記載の組織切片。
(項目84)
前記組織切片は、脱パラフィン化FFPE組織切片である、項目83に記載の組織切片。
【0009】
援用の表示
本明細書で言及される全ての刊行物、特許、および特許出願は、各個々の刊行物、特許、または特許出願が、具体的にかつ個々に参考として援用されていることが示されるものと同程度まで、参考として援用される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明の新規な特徴は、添付の請求項において詳細に記載される。本発明の特徴および利点のよりよい理解は、本発明の原理が利用される例示的実施形態を示す以下の詳細な説明および添付の図面への言及によって得られる。
【0011】
【
図1】
図1、(上)は、いかなるさらなる処理もない(左)、および本明細書で記載されるとおりの疎水性マスク形成あり(右)のFFPE肝細胞癌切片のヘマトキシリン/エオシン染色の写真を示す;および(下)は、染色したミクロトーム肝臓切片(左)および疎水性マスクパターン化ミクロトーム肝臓切片(パターン化後に染色)(右)を示す。
【0012】
【
図2A】
図2A、2B、2C、2D、2E、および2Fは、本明細書で記載される疎水性マスク形成技術の適用によって、FFPEヒト肝臓ミクロトーム切片から単離された種々のサイズ(約25ミクロン、約100ミクロン、約250ミクロン、約500ミクロン、および1mm直径)および形状(矩形または円形)の目的の領域を示す明視野顕微鏡画像(2A、2B、2C、および2Dは、10×倍率、2Eは、4×倍率である)を示す。
【
図2B】
図2A、2B、2C、2D、2E、および2Fは、本明細書で記載される疎水性マスク形成技術の適用によって、FFPEヒト肝臓ミクロトーム切片から単離された種々のサイズ(約25ミクロン、約100ミクロン、約250ミクロン、約500ミクロン、および1mm直径)および形状(矩形または円形)の目的の領域を示す明視野顕微鏡画像(2A、2B、2C、および2Dは、10×倍率、2Eは、4×倍率である)を示す。
【
図2C】
図2A、2B、2C、2D、2E、および2Fは、本明細書で記載される疎水性マスク形成技術の適用によって、FFPEヒト肝臓ミクロトーム切片から単離された種々のサイズ(約25ミクロン、約100ミクロン、約250ミクロン、約500ミクロン、および1mm直径)および形状(矩形または円形)の目的の領域を示す明視野顕微鏡画像(2A、2B、2C、および2Dは、10×倍率、2Eは、4×倍率である)を示す。
【
図2D】
図2A、2B、2C、2D、2E、および2Fは、本明細書で記載される疎水性マスク形成技術の適用によって、FFPEヒト肝臓ミクロトーム切片から単離された種々のサイズ(約25ミクロン、約100ミクロン、約250ミクロン、約500ミクロン、および1mm直径)および形状(矩形または円形)の目的の領域を示す明視野顕微鏡画像(2A、2B、2C、および2Dは、10×倍率、2Eは、4×倍率である)を示す。
【
図2E】
図2A、2B、2C、2D、2E、および2Fは、本明細書で記載される疎水性マスク形成技術の適用によって、FFPEヒト肝臓ミクロトーム切片から単離された種々のサイズ(約25ミクロン、約100ミクロン、約250ミクロン、約500ミクロン、および1mm直径)および形状(矩形または円形)の目的の領域を示す明視野顕微鏡画像(2A、2B、2C、および2Dは、10×倍率、2Eは、4×倍率である)を示す。
【
図2F】
図2A、2B、2C、2D、2E、および2Fは、本明細書で記載される疎水性マスク形成技術の適用によって、FFPEヒト肝臓ミクロトーム切片から単離された種々のサイズ(約25ミクロン、約100ミクロン、約250ミクロン、約500ミクロン、および1mm直径)および形状(矩形または円形)の目的の領域を示す明視野顕微鏡画像(2A、2B、2C、および2Dは、10×倍率、2Eは、4×倍率である)を示す。
【0013】
【
図3】
図3は、薬剤移動アレイデバイス(B)が、表面張力接触(C)によって組織切片(A)上の目的の領域に溶液を移すために使用され得る方法の模式図を示す。
【0014】
【
図4】
図4は、疎水性マスク形成プロセスが、マイクロ流体力学またはレーザーのような特別な装置なしに、組織切片からの目的の領域の隔離およびタグ化を可能にする方法を示す模式図を示す。
【0015】
【
図5】
図5は、疎水性マスク形成プロセスが、組織切片中の注文の目的の領域の輪郭を描くことを可能にする方法を示す例証を示す。
【0016】
【
図6】
図6は、顕微鏡分析および空間認識タグ化(spatially aware tagging)との組み合わせにおいて本開示の疎水性マスク形成プロセスの適用方法が、遺伝子発現および/または配列データと、組織切片中の特定の細胞タイプとの関連付けを可能にし得る方法を例証する例示的仮説データを示す。
【0017】
【
図7】
図7は、がん組織領域および正常組織領域を含むFFPE乳がん組織切片(Biomax, huCAT299)の2つの染色したzスライスを示す。左は、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色した切片を示す;右は、がんマーカーHER2に関して免疫組織化学(IHC)を使用して染色した同じ腫瘍サンプルの別のスライスを示す。
【0018】
【
図8】
図8は、
図7に全て示される同じFFPE乳がんサンプルの種々の連続切片に付与される本明細書で記載される化学的マスク形成プロセスを示す。左の画像は、同じ画像に全て付与される種々のマスク形成パターンを示す一方で、右の画像は、化学的マスクの付与後の切片を示し、選択された組織の領域を示す。
【0019】
【
図9】
図9は、
図8に示され、実施例8に記載されるように抽出されたサンプルに対して行われたqPCR分析の結果を示す。
【0020】
【
図10A】
図10Aおよび10Bは、実施例5に記載される疎水性マスク形成プロセスを図示するフロー図を示す。
【
図10B】
図10Aおよび10Bは、実施例5に記載される疎水性マスク形成プロセスを図示するフロー図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明の詳細な説明
組織内の希なおよび/または多様な細胞タイプの検出に基づく臨床分析は、困難である。例えば、前がん組織は、小さな割合の異常細胞のみを含み得、その周りの正常細胞がシグナルの希釈を引き起こし、がんの早期ステージ検出を妨害していることもある。後期ステージ腫瘍は、対照的に、異常細胞の高い集団を有し得るが、化学療法ストラテジーに異なって応答する異なる遺伝子型を有する多様性の大きな細胞を含み得る。これらの場合に、形態的に異常な細胞を選択的に単離し、分析する能力は、改善された診断および疾患病態生理の理解の恩恵である。
【0022】
しかし、組織サンプル内の選択された細胞の小さな集団の単離および分析の既存の方法は、面倒で、高価であり、かつ組織の真にハイスループットの多重分析(例えば、多量の手動操作および高価な機器類を要するレーザーキャプチャーマイクロダイセクション)に適していない。
【0023】
よって、組織サンプル内の領域の多重単離および分析のための簡単で、安価なハイスループット方法の必要性がある。
【0024】
定義
【0025】
用語「組織(tissue)」とは、細胞の集合体、および必要に応じて、細胞内物質(例えば、ECM)に言及する。代表的には、組織中の細胞は、自由に浮遊しているのではなく、多細胞構造を形成するために互いに付着している。組織タイプとしては、筋、神経、表皮および結合組織が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書で記載されるとおりの組織は、種々の生物に由来し得、それら生物としては、齧歯類、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、有蹄類、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ、ネコ、イヌ、霊長類(すなわち、ヒトまたは非ヒト霊長類)のような哺乳動物;Arabidopsis thaliana、トウモロコシ、ソルガム、オーツ麦、コムギ、イネ、キャノーラ、またはダイズのような植物;Chlamydomonas reinhardtiiのような藻類;Caenorhabditis elegansのような線形動物;Drosophila melanogaster、蚊、ミバエ、ミツバチまたはクモのような昆虫;ゼブラフィッシュのような魚類;爬虫類;またはカエルもしくはXenopus laevisのような両生類が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
用語「接触角(contact angle)」とは、固体表面に載っている液滴の形状に言及する。空気中の固体平面に液体が存在すると仮定すると、用語「接触角」は、その液体の接線とその液体、固体平面および空気の接触点でのその固体平面の接線との間の角度を示す。
【0027】
用語「疎水性(hydrophobic)」とは、水に濡れにくい表面またはコーティングに言及する。表面は、少なくとも60°の後退水接触角を示す場合に疎水性、少なくとも110°の接触角を示す場合に非常に疎水性、そして少なくとも120°の後退水接触角を示す場合に極めて疎水性と考えられる。
【0028】
用語「超疎水性(superhydrophobic)」とは、水に極めて濡れにくい表面またはコーティングに言及する。超疎水性表面またはコーティングは、通常は140°を超える、およびしばしば150°を超える接触角を有する。
【0029】
用語「親水性(hydrophilic)」とは、水性流体によって濡れ得る表面に言及するために使用される。表面は、流体が、不連続の液滴を形成することとは対照的に、上記表面にわたって自発的に拡がる傾向がある場合に、流体によって濡らされることをいう(親水性)。表面は、約50度未満の接触角を示す場合に、親水性と考えられる。
【0030】
「インクジェット送達(inkjet delivery)」とは、二次元および三次元構造への液体の1~100ピコリットル(pl)の液滴の処理を可能にする非接触アプローチである。このアプローチは、インクを形成するために、液体に目的の物質を溶解または分散させることを要する。インクジェット送達のために使用される最も普及した方法は、ドロップオンデマンド(DOD)型の方法であり、ここでドロップは、マイクロメートルスケールのノズルから射出され、(a)沸点より高い温度へと液体を加熱して(サーマルDOD)、上記ノズルからの液滴の放出を刺激する蒸気泡を生成すること、または(b)材料の振動および上記ノズルからの液滴の放出をもたらす、圧電変換器への電圧の印加(圧電式DOD)のいずれかによって作られる。
【0031】
概観
【0032】
固体基材上の平らな組織切片中の少なくとも1つの目的の領域から細胞構成要素を単離する方法が、本明細書で提供される。上記方法は、インサイチュであり、組織から領域を規定するために固定化したヌクレオチドアレイの下準備(pre-preparation)を要しない。むしろ、上記方法は、組織切片上に疎水性マスクをインサイチュで準備して、目的の領域を隔離し、続いて、表面張力アレイを必要に応じて使用して、上記疎水性マスクによって境界線を描いた特定の目的の領域に、抽出および/または分析試薬を添加および/または除去することを包含する。表面張力アレイの使用は、例えば、上記疎水性マスクによって隔離された多数の領域が存在する(例えば、10を超える、100を超える、1000を超える)場合に、特に有用である。いくつかの実施形態において、上記方法は、(a)平らな組織切片に疎水性マスクを付与して、固体基材上の平らな組織切片中の少なくとも1つの目的の領域の境界線を描く工程;(b)1種またはこれより多くの抽出薬剤を含む溶液を、第2の固体基材の表面上に位置づけられた少なくとも1つの薬剤移動アレイ要素を含む薬剤移動デバイスに分与する工程;および(c)上記第2の固体基材の表面に位置づけられた少なくとも1つの薬剤移動アレイ要素を上記平らな組織切片に接触させ、その結果、上記少なくとも1つの薬剤移動アレイ要素は、上記平らな組織切片中の少なくとも1つの目的の領域に空間的に対応する工程を包含する。いくつかの実施形態において、上記接触させる工程は、上記1種またはこれより多くの抽出薬剤を含む溶液が、上記平らな組織切片中の少なくとも1つの目的の領域に移され、それによって、上記少なくとも1つの目的の領域中の細胞構成要素を、上記1種またはこれより多くの抽出薬剤を含む溶液中に溶解させることを可能にする。
【0033】
上記1種またはこれより多くの抽出薬剤を含む溶液は、核酸またはタンパク質を標識するために適した1種またはこれより多くのタグまたは標識を含み得る。このようなタグま
たは標識は、バーコードまたは空間的にアドレス指定可能な他のものを含み得、その結果、抽出される核酸またはタンパク質から得られる核酸配列決定データまたは質量分析データは、その後、上記核酸またはタンパク質が単離され得る目的の領域と関連付けられ得る。よって、本明細書中の方法はまた、組織切片から核酸またはタンパク質を空間的にタグ化するためのスキームを提供する。
【0034】
組織切片
【0035】
上記方法において利用される組織切片は、免疫組織化学の準備のために一般に使用される任意の標準的方法によって調製され得、固定されていても、固定されていなくても、いずれでもよい(例えば、新鮮に切除されたてもよいし、凍結のような非固定組織調製法によって調製されてもよい)。細胞または組織の固定は、架橋剤(例えば、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドなど)の使用を要し得る。
【0036】
固定した組織はさらに、パラフィン・ワックス中またはヒドロゲル(例えば、ポリアクリルアミド支持マトリクス)に包埋され得る。組織調製の普及している方法は、FFPE(ホルマリン固定パラフィン包埋)であり、これは、組織片をホルマリン溶液中で固定し、上記組織を徐々に高くなる濃度のアルコール中で脱水し、上記組織をキシレンできれいにし、組織にワックスを浸潤させ(代表的には、パラフィン、種々の異なる融解点を伴って得られ得る20~40の間の炭素鎖長を有する直鎖またはn-アルカンの混合物)、次いで、上記組織をワックスブロックの中に包埋することを要する。次いで、FFPE組織は、ミクロトームを使用して、組織切片へと調製され得る。
【0037】
いくつかの実施形態において、FFPEによって調製される組織切片の厚みは、約1ミクロン~約50ミクロンである。いくつかの実施形態において、FFPEによって調製される組織切片の厚みは、少なくとも約1ミクロンである。いくつかの実施形態において、FFPEによって調製される組織切片の厚みは、最大で約50ミクロンである。いくつかの実施形態において、FFPEによって調製される組織切片の厚みは、約1ミクロン~約3ミクロン、約1ミクロン~約5ミクロン、約1ミクロン~約10ミクロン、約1ミクロン~約15ミクロン、約1ミクロン~約20ミクロン、約1ミクロン~約30ミクロン、約1ミクロン~約40ミクロン、約1ミクロン~約50ミクロン、約3ミクロン~約5ミクロン、約3ミクロン~約10ミクロン、約3ミクロン~約15ミクロン、約3ミクロン~約20ミクロン、約3ミクロン~約30ミクロン、約3ミクロン~約40ミクロン、約3ミクロン~約50ミクロン、約5ミクロン~約10ミクロン、約5ミクロン~約15ミクロン、約5ミクロン~約20ミクロン、約5ミクロン~約30ミクロン、約5ミクロン~約40ミクロン、約5ミクロン~約50ミクロン、約10ミクロン~約15ミクロン、約10ミクロン~約20ミクロン、約10ミクロン~約30ミクロン、約10ミクロン~約40ミクロン、約10ミクロン~約50ミクロン、約15ミクロン~約20ミクロン、約15ミクロン~約30ミクロン、約15ミクロン~約40ミクロン、約15ミクロン~約50ミクロン、約20ミクロン~約30ミクロン、約20ミクロン~約40ミクロン、約20ミクロン~約50ミクロン、約30ミクロン~約40ミクロン、約30ミクロン~約50ミクロン、または約40ミクロン~約50ミクロンである。いくつかの実施形態において、FFPEによって調製される組織切片の厚みは、約1ミクロン、約3ミクロン、約5ミクロン、約10ミクロン、約15ミクロン、約20ミクロン、約30ミクロン、約40ミクロン、または約50ミクロンである。
【0038】
包埋した組織切片は、さらなる処理(例えば、疎水性化学物質での処理および本明細書でさらに記載されるサンプル抽出技術)の前に脱パラフィン化され得る。脱パラフィン化は、例えば、キシレンバス中での上記切片のインキュベーション、続いて、キシレン/エタノールバス中でのインキュベーション、続いて、徐々に低くなるエタノール濃度(100%から50%へ)のバス中でのインキュベーション、続いて、乾燥もしくは水中でのすすぎによって行われ得る。
【0039】
いくつかの実施形態において、固定されていないまたは固定した組織は、凍結切片化によって切片へと調製され得る。固定されていない組織に関しては、組織は、先ず凍結組織マトリクス(例えば、OCTまたはCryomatrix)の中に浸漬され、液体窒素と接触した状態にあるイソペンタンおよび/または2-メチルブタンバスの中で凍結され。クライオスタットで切片化される。固定した組織に関しては、組織は、組織マトリクス中で包埋/凍結する前に、スクロース中で低温保護され得、これは、徐々に高くなる濃度のスクロースバス(30%まで)の中でのインキュベーションを含む。次いで、上記低温保護され、固定した組織は、凍結組織マトリクス(例えば、OCTまたはCryomatrix)中に浸漬され得、a)液体窒素と接触した状態にあるイソペンタンバス、またはb)代替のよりゆっくりとした凍結法(例えば、粉末化ドライアイスまたはドライアイス・メタノール/エタノールスラリー)において凍結され得る。次いで、低温保護され、凍結され、固定した組織は、クライオスタットで切片化され得る。
【0040】
いくつかの実施形態において、凍結切片化によって調製される組織切片の厚みは、約5ミクロン~約50ミクロンであり得る。いくつかの実施形態において、凍結切片化によって調製される組織切片の厚みは、少なくとも約5ミクロンであり得る。いくつかの実施形態において、凍結切片化によって調製される組織切片の厚みは、最大で約50ミクロンであり得る。いくつかの実施形態において、凍結切片化によって調製される組織切片の厚みは、約5ミクロン~約7ミクロン、約5ミクロン~約9ミクロン、約5ミクロン~約11ミクロン、約5ミクロン~約13ミクロン、約5ミクロン~約15ミクロン、約5ミクロン~約20ミクロン、約5ミクロン~約30ミクロン、約5ミクロン~約40ミクロン、約5ミクロン~約50ミクロン、約7ミクロン~約9ミクロン、約7ミクロン~約11ミクロン、約7ミクロン~約13ミクロン、約7ミクロン~約15ミクロン、約7ミクロン~約20ミクロン、約7ミクロン~約30ミクロン、約7ミクロン~約40ミクロン、約7ミクロン~約50ミクロン、約9ミクロン~約11ミクロン、約9ミクロン~約13ミクロン、約9ミクロン~約15ミクロン、約9ミクロン~約20ミクロン、約9ミクロン~約30ミクロン、約9ミクロン~約40ミクロン、約9ミクロン~約50ミクロン、約11ミクロン~約13ミクロン、約11ミクロン~約15ミクロン、約11ミクロン~約20ミクロン、約11ミクロン~約30ミクロン、約11ミクロン~約40ミクロン、約11ミクロン~約50ミクロン、約13ミクロン~約15ミクロン、約13ミクロン~約20ミクロン、約13ミクロン~約30ミクロン、約13ミクロン~約40ミクロン、約13ミクロン~約50ミクロン、約15ミクロン~約20ミクロン、約15ミクロン~約30ミクロン、約15ミクロン~約40ミクロン、約15ミクロン~約50ミクロン、約20ミクロン~約30ミクロン、約20ミクロン~約40ミクロン、約20ミクロン~約50ミクロン、約30ミクロン~約40ミクロン、約30ミクロン~約50ミクロン、または約40ミクロン~約50ミクロンであり得る。いくつかの実施形態において、凍結切片化によって調製される組織切片の厚みは、約5ミクロン、約7ミクロン、約9ミクロン、約11ミクロン、約13ミクロン、約15ミクロン、約20ミクロン、約30ミクロン、約40ミクロン、または約50ミクロンであり得る。
【0041】
化学的マスク
【0042】
A. 組成/付与
【0043】
いくつかの実施形態において、本明細書に関する方法は、組織切片(例えば、新鮮な凍結された、固定され凍結された、および/または脱パラフィン化されたFFPE組織切片)中の目的の領域の周りを囲いかつ隔離するために、化学的マスクの堆積を含む。上記化学的マスクは、周りの領域の構成要素による汚染なしに、目的の領域から細胞構成要素の選択的水性抽出/再水和を可能にする(なぜならば、上記目的の領域以外のサンプルの領域は、細胞を破壊/抽出/再水和するために必要な溶液をはじくからである)。よって、上記化学的マスク溶液は、疎水性である(例えば、少なくとも60度の後退水接触角を有する)。
【0044】
いくつかの実施形態において、上記化学的マスクの接触角は、約60度~約150度であり得る。いくつかの実施形態において、上記化学的マスクの接触角は、少なくとも約60度であり得る。いくつかの実施形態において、上記化学的マスクの接触角は、最大で約150度であり得る。いくつかの実施形態において、上記化学的マスクの接触角は、約60度~約100度、約60度~約110度、約60度~約140度、約60度~約150度、約100度~約110度、約100度~約140度、約100度~約150度、約110度~約140度、約110度~約150度、または約140度~約150度であり得る。いくつかの実施形態において、上記化学的マスクの接触角は、約60度、約100度、約110度、約140度、または約150度であり得る。
【0045】
少なくとも60度の表面後退水接触角を生成するために使用され得、従って、本明細書で記載されるように化学的マスクを生成することにおける使用に適切であり得る広く種々の表面コーティングポリマーおよびコポリマーが記載されている。
【0046】
このような薬剤の重要なクラスは、フルオロカーボン、特に、少なくとも1つの末端トリフルオロメチル基を含むフッ化カーボンモノマーである。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの末端トリフルオロメチル基を含む上記フッ化カーボンモノマーは、約3~約20個の炭素原子を含む。いくつかの実施形態において、このようなフルオロカーボンは、実質的に非分枝状のフルオロアルキルまたはペルフルオロアルキルのエチレン不飽和モノマーである。いくつかの実施形態において、上記エチレン不飽和モノマーは、アクリレート(例えば、メタクリレート)である。いくつかの実施形態において、上記エチレン不飽和モノマーは、シアノアクリレートである。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの末端トリフルオロメチル基を含むフッ化カーボンモノマーは、フッ化もしくは過フッ化されたアクリレート、シリコーン、エポキシ、ウレタン、またはオキシム、またはこれらの任意の組み合わせである。このような薬剤としては、フルオロアクリレート(またはその溶液)またはペルフルオロアルキルシランが挙げられる。フルオロアクリレートまたはその溶液としては、上記フルオロアルキルメタクリレートモノマーC7F15CH2OCOC(CH3)=CH2、FC-722(3Mから入手可能)、PerFluoroCoat(Cytonix)、およびFluoroPel(Cytonix, FluoroPel 800および800M製品が挙げられるが、これらに限定されない)が挙げられるが、これらに限定されない。上記溶液は、希釈なしで(full strength)で使用され得るが、低濃度のコーティングポリマーまたはフルオロアルカンを形成するために、溶媒(例えば、フルオロ溶媒(fluorosolvent)、アルコール、エタノール)で希釈されてもよい。本発明のコーティングを作製するために使用されるポリマー溶液は、好ましくは、約0.01重量%~約50重量%のコーティングポリマー含有量を有する。ペルフルオロアルキルシランは、ペルフルオロアルキルトリクロロシランおよびペルフルオロトリス(ジメチルアミノ)シラン(例えば、PF10TAS)を含む。ペルフルオロアルキルトリクロロシランは、種々の長さおよび異性体のペルフルオロ化アルキル基(例えば、ペルフルオロメチル、ペルフルオロエチル、ペルフルオロプロピル、ペルフルオロブチル、ペルフルオロ-tertブチル、ペルフルオロペンチル、ペルフルオロヘキシル、ペルフルオロオクチル、ペルフルオロノニル、ペルフルオロデシルのようなC
1-C
20ペルフルオロアルキル基)に結合されたトリクロロシリル基を含む有機分子である。ペルフルオロアルキルトリクロロシランの例としては、FOTS(トリクロロ(1H,1H,2H,2H-ペルフルオロオクチル)シラン)、
【化1】
が挙げられるが、これらに限定されない。ペルフルオロトリス(ジメチルアミノ)シランは、種々の長さおよび異性体の過フッ化アルキル基(例えば、ペルフルオロメチル、ペルフルオロエチル、ペルフルオロプロピル、ペルフルオロブチル、ペルフルオロ-tertブチル、ペルフルオロペンチル、ペルフルオロヘキシル、ペルフルオロオクチル、ペルフルオロノニル、ペルフルオロデシルのようなC
1-C
20ペルフルオロアルキル)に結合されたトリス(ジメチルアミノ)シリル基を含む有機分子である。ペルフルオロアルキルシラン、ペルフルオロトリス(ジメチルアミノ)シランまたはペルフルオロアルキルトリクロロシランは、直接的に(例えば、浸漬、スプレー)または間接的に(例えば、化学蒸着、CVD)付与され得る。
【0047】
いくつかの実施形態において、上記フルオロカーボンは、上記マスクを生成するために、ポリマーとして直接的に(排除されることが望まれる領域に選択的に、または組織領域全体に非特異的に、のいずれかで)、組織切片に付与される(例えば、フルオロアクリレートのようなフッ化カーボンモノマーは、光開始剤とともに組織切片に付加される)。いくつかの実施形態において、上記フルオロカーボンは、上記組織切片に、非フッ化アクリレートまたはシアノアクリレートを上記光開始剤とともに、上記組織切片に例えば、インクジェット印刷によって最初に付与した後に、付与される。いくつかの実施形態において、1種より多くのフルオロカーボンは、コポリマーとして上記組織切片に付与される(例えば、フルオロアクリレート(fluoroacryate)のようなフルオロカーボンを上記組織切片に最初に付与し、続いて、非フッ化アクリレートまたはシアノアクリレートを、それに対して光開始剤とともに付与し、続いて、それに対してその同じフルオロカーボンまたはペルフルオロアルキルシランのような異なるフルオロカーボンを付与する)。
【0048】
いくつかの実施形態において、上記フルオロカーボンは、ポリマーとして、上記マスクを生成するために、上記組織切片の頂上に疎水性物質の層に付与される(シアノアクリレートのような疎水性ポリマーを上記組織切片に、例えば、スプレーまたは浸漬によって、例えば、最初の付与後に)。いくつかの実施形態において、上記フルオロカーボンは、疎水性物質の層に、上記疎水性物質の層と同じまたは異なるパターンで付与され、その結果、上記フルオロカーボンおよび疎水性物質は、それらが満たすコポリマーマスクを形成する。
【0049】
いくつかの実施形態において、疎水性物質の層は、ポリマーとして、上記化学的マスクに(例えば、ポリマーまたはコポリマーとしの上記マスク物質を、上記組織切片に最初に付与した後に)付与される。いくつかの実施形態において、上記疎水性物質は、フルオロカーボンである。いくつかの実施形態において、上記疎水性物質は、ペルフルオロアルキルトリクロロシランまたはペルフルオロアルキルトリス(ジメチルアミノ)シラン(トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリクロロシランのようなペルフルオロアルキルシランを含む。いくつかの実施形態において、上記疎水性物質は、フルオロカーボンを含む。いくつかの実施形態において、上記疎水性物質は、トリクロロ(1H,1H,2H,2H-ペルフルオロオクチル)シランのようなペルフルオロアルキルトリクロロシランを含む。いくつかの実施形態において、上記疎水性物質は、PF10TASのようなペルフルオロアルキルトリス(ジメチルアミノ)シランを含む。
【0050】
化学的マスクを生成するために付与され得る薬剤の他のクラスとしては、光触媒ありまたはなしで光硬化性である(UVで硬化し得る)、アクリレートおよびシアノアクリレートが挙げられる。
【0051】
上記化学的マスクを含むモノマーは、種々のアプローチ(標準的な溶媒(例えば、エタノールのようなアルコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、またはペルフルオロオクタン、ペルフルオロ-2-メチルペンタン、ペルフルオロ-1,3-ジメチルシクロヘキサン、ペルフルオロデカリン、1,3-ジフルオロプロパンなどのような室温より高い沸点を有する適切なフルオロカーボン)中で懸濁したモノマーを使用するインクジェット印刷(例えば、DODまたは圧電式インクジェット印刷法)が挙げられるが、これらに限定されない)によって、上記組織切片に付与され得る。
【0052】
上記化学的マスクは、1またはこれより多くのモノマーまたはポリマー層を含み得る。上記1またはこれより多くのモノマーまたはポリマー層は、その同じまたは異なるモノマーまたはポリマーを含み得る。上記1またはこれより多くのモノマーまたはポリマー層は、コポリマーを形成し得る。上記1またはこれより多くのモノマーまたはポリマー層は、1層、2層、3層、4層、5層、6層、7層、8層、9層、もしくは10層のポリマー層であり得るか、またはこれより多い。いくつかの実施形態において、上記化学的マスクは、シアノアクリレートの層、続いて、ペルフルオロアルキルシラン(例えば、ペルフルオロアルキルトリクロロシランまたはペルフルオロアルキルトリス(ジメチルアミノ)シラン)の層を含む。いくつかの実施形態において、上記化学的マスクは、シアノアクリレート、続いて、ペルフルオロアルキルシラン(例えば、ペルフルオロアルキルトリクロロシランまたはペルフルオロアルキルトリス(ジメチルアミノ)シラン)の多数の層を含む。いくつかの実施形態において、上記化学的マスクは、フルオロアクリレートまたは非シリル化フルオロアルカンの層、続いて、シアノアクリレートの層、続いて、ペルフルオロアルキルシラン(例えば、ペルフルオロアルキルトリクロロシランまたはペルフルオロアルキルトリス(ジメチルアミノ)シラン)の層を含む。いくつかの実施形態において、上記化学的マスクは、フルオロアクリレートまたは非シリル化フルオロアルカン、続いて、シアノアクリレート、続いて、ペルフルオロアルキルシラン(例えば、ペルフルオロアルキルトリクロロシラまたはor ペルフルオロアルキルトリス(ジメチルアミノ)シラン)の多数の層を含む。
【0053】
B.境界線を描いた目的の領域のフォーマット(形状、サイズ、数、分離、アレイ、予め選択されたROI、以前の画像との関連付け)
【0054】
上記化学的マスクは、その後の単離のために、組織切片上に、ある範囲の形状およびサイズであり得る、少なくとも1つの目的の領域の境界線を描くために使用され得る。上記目的の領域は、種々の形状、例えば、矩形、円形、卵形、三角形、台形、五角形、六角形、またはn角形であり得る。上記目的の領域は、約176平方ミクロン~約780,000平方ミクロンであり得る。上記目的の領域は、少なくとも約176平方ミクロンであり得る。上記目的の領域は、最大で約780,000平方ミクロンであり得る。上記目的の領域は、約176平方ミクロン~約12,000平方ミクロン、約176平方ミクロン~約49,000平方ミクロン、約176平方ミクロン~約190,000平方ミクロン、約176平方ミクロン~約780,000平方ミクロン、約12,000平方ミクロン~約49,000平方ミクロン、約12,000平方ミクロン~約190,000平方ミクロン、約12,000平方ミクロン~約780,000平方ミクロン、約49,000平方ミクロン~約190,000平方ミクロン、約49,000平方ミクロン~約780,000平方ミクロン、または約190,000平方ミクロン~約780,000平方ミクロンであり得る。上記目的の領域は、約176平方ミクロン、約12,000平方ミクロン、約49,000平方ミクロン、約190,000平方ミクロン、または約780,000平方ミクロンであり得る。上記目的の領域は、約490平方ミクロン~約780,000平方ミクロンであり得る。上記目的の領域は、少なくとも約490平方ミクロンであり得る。上記目的の領域は、最大で約780,000平方ミクロンであり得る。上記目的の領域は、約490平方ミクロン~約12,000平方ミクロン、約490平方ミクロン~約49,000平方ミクロン、約490平方ミクロン~約190,000平方ミクロン、約490平方ミクロン~約780,000平方ミクロン、約12,000平方ミクロン~約49,000平方ミクロン、約12,000平方ミクロン~約190,000平方ミクロン、約12,000平方ミクロン~約780,000平方ミクロン、約49,000平方ミクロン~約190,000平方ミクロン、約49,000平方ミクロン~約780,000平方ミクロン、または約190,000平方ミクロン~約780,000平方ミクロンであり得る。上記目的の領域は、約490平方ミクロン、約12,000平方ミクロン、約49,000平方ミクロン、約190,000平方ミクロン、または約780,000平方ミクロンであり得る。
【0055】
円形の目的の領域は、直径約15ミクロン~直径約10,000平方ミクロンであり得る。円形の目的の領域は、直径少なくとも約15ミクロンであり得る。円形の目的の領域は、直径少なくとも約25ミクロンであり得る。円形の目的の領域は、最大で直径約1,000ミクロンであり得る。円形の目的の領域は、直径約15ミクロン~直径約50ミクロン、直径約15ミクロン~直径約125ミクロン、直径約15ミクロン~直径約250ミクロン、直径約15ミクロン~直径約500ミクロン、直径約15ミクロン~直径約750ミクロン、直径約15平方ミクロン~直径約1,000ミクロン、直径約15ミクロン~直径約125ミクロン、直径約50ミクロン~直径約250ミクロン、直径約50ミクロン~直径約500ミクロン、直径約50ミクロン~直径約750ミクロン、直径約50ミクロン~直径約1,000ミクロン、直径約125ミクロン~直径約250ミクロン、直径約125ミクロン~直径約500ミクロン、直径約125ミクロン~直径約750ミクロン、直径約125ミクロン~直径約1,000ミクロン、直径約250ミクロン~直径約500ミクロン、直径約250ミクロン~直径約750ミクロン、直径約250ミクロン~直径約1,000ミクロン、直径約500ミクロン~直径約750ミクロン、直径約500ミクロン~直径約10,000ミクロン、または直径約750ミクロン~直径約1,000ミクロンであり得る。円形の目的の領域は、直径約15ミクロン、直径約25ミクロン、直径約50ミクロン、直径約125ミクロン、直径約250ミクロン、直径約500ミクロン、直径約750ミクロン、直径約1,000ミクロン、直径約2,000ミクロン、直径約3,000ミクロン、直径約4,000ミクロン、直径約5,000ミクロン、直径約6,000ミクロン、直径約7,000ミクロン、直径約8,000ミクロン、直径約9,000ミクロン、または直径約10,000ミクロンであり得る。円形の目的の領域は、直径約15ミクロン未満もしくはこれに等しい、直径約25ミクロン未満もしくはこれに等しい、約50ミクロン未満もしくはこれに等しい、直径約125ミクロン未満もしくはこれに等しい、直径約250ミクロン未満もしくはこれに等しい、直径約500ミクロン未満もしくはこれに等しい、直径約750ミクロン未満もしくはこれに等しい、直径約1,000ミクロン未満もしくはこれに等しい、直径約2,000ミクロン未満もしくはこれに等しい、直径約3,000ミクロン未満もしくはこれに等しい、直径約4,000ミクロン未満もしくはこれに等しい、直径約5,000ミクロン未満もしくはこれに等しい、直径約6,000ミクロン未満もしくはこれに等しい、直径約7,000ミクロン未満もしくはこれに等しい、直径約8,000ミクロン未満もしくはこれに等しい、または直径約9,000ミクロン未満もしくはこれに等しい、または直径約10,000ミクロン未満もしくはこれに等しい、可能性がある。
【0056】
いくつかの実施形態において、1種より多くの目的の領域は、上記目的の領域がグリッドを形成するように、組織サンプルにおいて境界線が描かれる。いくつかの実施形態において、上記グリッドは、約10個の目的の領域~約10,000個の目的の領域を含む。いくつかの実施形態において、上記グリッドは、少なくとも約10個の目的の領域を含む。いくつかの実施形態において、上記グリッドは、最大で約10,000個の目的の領域を含む。いくつかの実施形態において、上記グリッドは、約10個の目的の領域~約100個の目的の領域、約10個の目的の領域~約1,000個の目的の領域、約10個の目的の領域~約10,000個の目的の領域、約100個の目的の領域~約1,000個の目的の領域、約100個の目的の領域~約10,000個の目的の領域、または約1,000個の目的の領域~約10,000個の目的の領域を含む。いくつかの実施形態において、上記グリッドは、約10個の目的の領域、約100個の目的の領域、約1,000個の目的の領域、または約10,000個の目的の領域を含む。
【0057】
いくつかの実施形態において、上記目的の領域のサイズ、形状、および/またはパターンは、ユーザー定義され得る。このようなユーザー定義のパターンは、適切な可視化技術(例えば、ヘマトキシリン/エオシン染色、免疫蛍光、免疫組織化学)によって組織ブロックにおける高い方の垂直位置または低い方の垂直位置から対応する組織切片を最初に染色/画像化し、コンピューターシステムにおいて上記組織画像上に上記目的の領域を規定し、インクジェット印刷およびコンピューターシステムのガイダンスを使用して、所望のパターンを新鮮な処理されていない対応する組織切片に移すことによって達成され得る。
【0058】
抽出
【0059】
A.溶液
【0060】
上記化学的マスクの付与を介して、組織切片上で1またはこれより多くの目的の領域を規定した後に、抽出溶液を、1またはこれより多くの目的の領域に移して、核酸および/またはタンパク質を上記目的の領域から単離し得る。抽出溶液は、1またはこれより多くのイオン性または非イオン性の界面活性剤(例えば、β-オクチルグルコシド、Triton-X-100、SDS、Tween-20、CHAPS)、プロテアーゼ(例えば、プロテイナーゼ-K、トリプシン、キモトリプシン、Lys-C、Asp-N、コラゲナーゼ)、張度調節剤(例えば、デキストロース、グリセロール、マンニトール、塩化カリウム、塩化ナトリウム)、カオトロープ(例えば、尿素、チオ尿素、グアニジウム塩酸塩)、ヌクレアーゼ(DNAse、RNAse)、緩衝液(例えば、Tris、Trizma、MOPS、リン酸ナトリウム、炭酸水素塩、ビシン、CAPS、CAPSO、トリシン、HEPES、MOPSO)、プロテアーゼインヒビター(例えば、AEBSF・HCl、アプロチニン(Aprotenin)、ベスタチン、E-64d、ロイペプチン、ペプスタチン、EDTA、PMSF)、ホスファターゼインヒビター(例えば、フッ化ナトリウム、オルトバナジン酸ナトリウム、β-グリセロホスフェート(beta-Glycerophosphase)、オルトリン酸ナトリウム)、またはヌクレアーゼインヒビター(例えば、EDTA、EGTA、DEPC、RNaisin)を含み得る。凍結され、固定されていない組織切片の場合には、培養した哺乳動物細胞からの核酸またはタンパク質の単離のための標準的組成物が、使用され得る(例えば、緩衝液、塩、および界面活性剤を含む溶液)。FFPE組織切片からタンパク質またはDNAを検索するために、例示的なプロトコールが、例えば、Pikor et al. J Vis Exp. 2011; (49): 2763またはPaulo et al. JOP. 2013
Jul; 14(4): 405-414において見出され得る。
【0061】
i.可溶性タグ
いくつかの実施形態において、上記抽出溶液は、目的の領域に空間的に対応する可溶性タグをさらに含み得、その結果、下流の多重配列決定または質量分析データが、上記目的の領域に割り当てられ得る。
【0062】
上記目的の領域に由来する核酸(例えば、mRNA、cDNA、ゲノムDNA)の多重配列決定(例えば、NGSシーケンシング)に関して、適切な可溶性タグは、合成オリゴヌクレオチドを含む。このようなオリゴヌクレオチドは、位置配列(例えば、上記目的の領域に対応する非ランダム配列)および必要に応じて、下流の配列決定において各個々の逆転写されたcDNA分子の計数を可能にする特有の分子識別子(UMI)を含む。上記UMI配列は、ランダム配列生成を使用して生成され得る。上記UMI配列は、バーコード配列が上記組織サンプルからの核酸、例えば、RNAの捕捉に干渉せず、困難なしに互いから識別可能であることを確実にするために、全ての共通する参照種のゲノムに、予め設定したTm間隔、GC含有量および他のバーコード配列までの規定された距離差でマッピングすることによって、ストリンジェントなフィルタリングに続き得る。上記合成オリゴヌクレオチドは、単に5’末端もしくは3’末端標識、または逆転写されたcDNAの5’末端および3’末端標識の両方のタグ化のために、位置配列および/またはUMI配列を含み得る。
【0063】
このような合成オリゴヌクレオチドを使用して各目的の領域から単離された核酸(例えば、RNA)のタグ化は、種々の方法によって達成され得る。いくつかの実施形態において、上記位置配列/UMI配列を含む合成オリゴヌクレオチドは、2本鎖(必要に応じてヘアピンもしくはY字型、および/または必要に応じて、例えば、Wei et al.
Genetics. 2016 Jan; 202(1): 37-44にあるように、3’末端Tオーバーハングを含む)であり、Aテール形成、続いて、ライゲーションによってオリゴdTユニバーサルプライマーを使用して、第1回の逆転写酵素合成から生成されるcDNAのいずれかの末端に結合される。いくつかの実施形態において、上記合成オリゴヌクレオチドは、1本鎖であり、さらに、オリゴdT配列を含み、その結果、上記位置配列/UMI配列は、cDNAへの第1回の逆転写の間に組み込まれる。他の例示的なプリンター設計およびcDNAライブラリータグ化のプロトコールは、例えば、Hashimshony et al. Genome Biology (2016) 17:77, Hashimony et al. Cell Rep. 2012 Sep 27;2(3):666-73、およびHead et al. Biotechniques. 2014; 56(2): 61-passimにおいて見出され得る。
【0064】
上記1またはこれより多くの目的の領域に由来するタンパク質の多重質量分析(例えば、LC-MS/MS)に関し、適切な可溶性タグ配列としては、Thermo Scientificから入手可能なタンデム質量タグ(例えば、Duplex TMT、Simplex TMT、10plex TMT、11plex TMT)およびWO2016196994A1に記載されるものが挙げられる。これらは、多数の別個のサンプルに端を発するトリプシンペプチドが、MS/MSスペクトルで容易に識別されることを可能にする、分子量にわずかな差異がある上記目的の領域からのタンパク質から生成されるトリプシンペプチド(tryptic peptides)への結合体化に適したアミン反応性タグである(TMT構築および検出のさらなる詳細については、WO2016196994A1およびZhang et al. Methods Mol Biol. 2017; 1550:185-198を参照のこと)。
【0065】
B. 薬剤移動デバイス
【0066】
いくつかの実施形態において、抽出溶液または他の構成要素を、マスク形成した組織切片上の上記目的の領域へまたはその領域から移すことは、1またはこれより多くの薬剤移動デバイスの使用を要する。上記薬剤移動デバイスは、上記マスク形成した組織切片上の上記目的の領域に空間的に対応する複数の親水性領域を含むアレイ(薬剤移動アレイ要素)を含む。上記疎水性に面した親水性領域は、「表面張力アレイ(surface tension array)」を表し、ここで上記親水性領域に添加される水性溶液は、その面している疎水性領域によって含まれ、上記薬剤移動アレイ要素の最大の溶液容積が、上記親水性領域の面積/直径(上記特徴に添加され得る溶液の「幅(width)」を制御する)ならびに上記親水性領域と上記疎水性領域との接触角の間の差異(上記特徴に添加され得る溶液の「高さ(height)」を制御する)を改変することによって制御され得る。
図3は、抽出溶液(黒色)を充填した薬剤移動アレイBが、Bの液体ドームを上記組織切片上に接触させ、表面張力が組織切片上に液体メニスカスを描くことを可能にする(C)ことによって、スライドA上の目的の領域に溶液を移すために使用され得る方法を示す。
【0067】
このような薬剤移動デバイスは、種々の基剤上に種々の異なる疎水性/親水性化学物質を使用して生成され得る。1つの便利なプロセスは、親水性化合物でのガラスの誘導体化、続いて、フルオロカーボンを使用するコーティングとともにポジ型フォトレジストでの親水性特徴の保護を含む。一実施形態において、親水性薬剤移動アレイ特徴を含むアレイは、定量的に清浄なガラススライドを単官能性(シラン化のための1つの結合部位)有機シラン(例えば、3-アミノプロピルジメチルエトキシシラン(APDMS)を誘導体化し、続いて、薬剤移動アレイ要素/親水性領域をポジ型フォトレジストで保護し、ペルフルオロアルキルトリクロロシラン(例えば、(トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリクロロシラン)または別の適切な耐摩耗コーティング(例えば、ジメチルジクロロシランDDMS、ペルフルオロデシルトリス(ジメチルアミノ)シランPF10TAS、ペルフルオロデカン酸PFDA。または種々の長さおよび異性体のペルフルオロアルキル鎖での改変体)で処理することによって生成される;例えば、Ashurst et al. IEEE Transactions on Device and Materials Relatability. 3(4):173-178 (2003))を参照のこと。親水性および疎水性領域を有するガラススライドの誘導体化のさらなる化学的詳細は、例えば、Butler et al. J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 8887-8894およびUS20150268233 A1に見出され得る。
【0068】
上記薬剤移動デバイス上の親水性領域/薬剤移動アレイ要素の寸法は、上記組織サンプル上でマスク形成された上記目的の領域の寸法に対応する。上記薬剤移動アレイ要素は、種々の形状、例えば、矩形、円形、卵形、三角形、台形、五角形、六角形、またはn角形であり得る。上記薬剤移動アレイ要素は、約490平方ミクロン~約780,000平方ミクロンであり得る。上記薬剤移動アレイ要素は、少なくとも約490平方ミクロンであり得る。上記薬剤移動アレイ要素は、最大で約780,000平方ミクロンであり得る。上記薬剤移動アレイ要素は、約490平方ミクロン~約12,000平方ミクロン、約490平方ミクロン~約49,000平方ミクロン、約490平方ミクロン~約190,000平方ミクロン、約490平方ミクロン~約780,000平方ミクロン、約12,000平方ミクロン~約49,000平方ミクロン、約12,000平方ミクロン~約190,000平方ミクロン、約12,000平方ミクロン~約780,000平方ミクロン、約49,000平方ミクロン~約190,000平方ミクロン、約49,000平方ミクロン~約780,000平方ミクロン、または約190,000平方ミクロン~約780,000平方ミクロンであり得る。上記薬剤移動アレイ要素は、約490平方ミクロン、約12,000平方ミクロン、約49,000平方ミクロン、約190,000平方ミクロン、または約780,000平方ミクロンであり得る。円形の薬剤移動アレイ要素は、直径約25平方ミクロン~直径約1,000平方ミクロンであり得る。円形の薬剤移動アレイ要素は、直径少なくとも約25平方ミクロンであり得る。円形の薬剤移動アレイ要素は、最大で直径約1,000平方ミクロンであり得る。円形の薬剤移動アレイ要素は、直径約25平方ミクロン~直径約50平方ミクロン、直径約25平方ミクロン~直径約125平方ミクロン、直径約25平方ミクロン~直径約250平方ミクロン、直径約25平方ミクロン~直径約500平方ミクロン、直径約25平方ミクロン~直径約750平方ミクロン、直径約25平方ミクロン~直径約1,000平方ミクロン、直径約50平方ミクロン~直径約125平方ミクロン、直径約50平方ミクロン~直径約250平方ミクロン、直径約50平方ミクロン~直径約500平方ミクロン、直径約50平方ミクロン~直径約750平方ミクロン、直径約50平方ミクロン~直径約1,000平方ミクロン、直径約125平方ミクロン~直径約250平方ミクロン、直径約125平方ミクロン~直径約500平方ミクロン、直径約125平方ミクロン~直径約750平方ミクロン、直径約125平方ミクロン~直径約1,000平方ミクロン、直径約250平方ミクロン~直径約500平方ミクロン、直径約250平方ミクロン~直径約750平方ミクロン、直径約250平方ミクロン~直径約1,000平方ミクロン、直径約500平方ミクロン~直径約750平方ミクロン、直径約500平方ミクロン~直径約1,000平方ミクロン、または直径約750平方ミクロン~直径約1,000平方ミクロンであり得る。円形の薬剤移動アレイ要素は、直径約25平方ミクロン、直径約50平方ミクロン、直径約125平方ミクロン、直径約250平方ミクロン、直径約500平方ミクロン、直径約750平方ミクロン、または直径約1,000平方ミクロンであり得る。
【0069】
いくつかの実施形態において、1種より多くの薬剤移動アレイ要素は、薬剤移動デバイス上に印刷され、その結果、上記薬剤移動アレイ要素はグリッドを形成する。いくつかの実施形態において、上記グリッドは、約10個の薬剤移動アレイ要素~約10,000個の薬剤移動アレイ要素を含む。いくつかの実施形態において、上記グリッドは、少なくとも約10個の薬剤移動アレイ要素を含む。いくつかの実施形態において、上記グリッドは、最大で約10,000個の薬剤移動アレイ要素を含む。いくつかの実施形態において、上記グリッドは、約10個の薬剤移動アレイ要素~約100個の薬剤移動アレイ要素、約10個の薬剤移動アレイ要素~約1,000個の薬剤移動アレイ要素、約10個の薬剤移動アレイ要素~約10,000個の薬剤移動アレイ要素、約100個の薬剤移動アレイ要素~約1,000個の薬剤移動アレイ要素、約100個の薬剤移動アレイ要素~約10,000個の薬剤移動アレイ要素、または約1,000個の薬剤移動アレイ要素~約10,000個の薬剤移動アレイ要素を含む/いくつかの実施形態において、上記グリッドは、約10個の薬剤移動アレイ要素、約100個の薬剤移動アレイ要素、約1,000個の薬剤移動アレイ要素、または約10,000個の薬剤移動アレイ要素を含む。
【0070】
上記薬剤移動アレイ要素は、広い範囲の容積を収容するように設計され得る。いくつかの実施形態において、上記薬剤移動アレイ要素の最大容積は、約2ピコリットル~約10,000ピコリットルである。いくつかの実施形態において、上記薬剤移動アレイ要素の最大容積は、少なくとも約2ピコリットルである。いくつかの実施形態において、上記薬剤移動アレイ要素の最大容積は、最大で約10,000ピコリットルである。いくつかの実施形態において、上記薬剤移動アレイ要素の最大容積は、約2ピコリットル~約10ピコリットル、約2ピコリットル~約50ピコリットル、約2ピコリットル~約100ピコリットル、約2ピコリットル~約250ピコリットル、約2ピコリットル~約500ピコリットル、約2ピコリットル~約1,000ピコリットル、約2ピコリットル~約10,000ピコリットル、約10ピコリットル~約50ピコリットル、約10ピコリットル~約100ピコリットル、約10ピコリットル~約250ピコリットル、約10ピコリットル~約500ピコリットル、約10ピコリットル~約1,000ピコリットル、約10ピコリットル~約10,000ピコリットル、約50ピコリットル~約100ピコリットル、約50ピコリットル~約250ピコリットル、約50ピコリットル~約500ピコリットル、約50ピコリットル~約1,000ピコリットル、約50ピコリットル~約10,000ピコリットル、約100ピコリットル~約250ピコリットル、約100ピコリットル~約500ピコリットル、約100ピコリットル~約1,000ピコリットル、約100ピコリットル~約10,000ピコリットル、約250ピコリットル~約500ピコリットル、約250ピコリットル~約1,000ピコリットル、約250ピコリットル~約10,000ピコリットル、約500ピコリットル~約1,000ピコリットル、約500ピコリットル~約10,000ピコリットル、または約1,000ピコリットル~約10,000ピコリットルである。いくつかの実施形態において、上記薬剤移動アレイ要素の最大容積は、約2ピコリットル、約10ピコリットル、約50ピコリットル、約100ピコリットル、約250ピコリットル、約500ピコリットル、約1,000ピコリットル、または約10,000ピコリットルである。
【0071】
C.検出技術
【0072】
次いで、上記少なくとも1つの目的の領域から抽出された生体分子は、上記目的の領域内の細胞の生体分子発現プロフィール、または上記目的の領域内の細胞のゲノムDNA組成(例えば、がん性細胞を含む組織サンプルの場合、上記組織切片内の細胞のゲノムDNAは、変異、欠失、および/または転座に起因して不均質であり得る)を分析するために検出され得る。従って、本明細書に含まれる方法、デバイス、および組成物は、上記目的の領域内の細胞の遺伝的特徴およびエピジェネティック特徴の両方を分析するために使用され得る。
【0073】
いくつかの方法では、上記少なくとも1つの目的の領域内の生体分子(例えば、mRNA、または逆転写によってmRNAから得られるcDNA、またはゲノムDNA)の発現レベルは、配列決定によって決定され得る。配列決定法としては、以下が挙げられ得る:次世代シーケンシング、ハイスループットシーケンシング、ピロシーケンシング、古典的なサンガー配列決定法、ライゲーションごとのシーケンシング(sequencing-by-ligation)、合成ごとのシーケンシング(sequencing by synthesis)、ハイブリダイゼーションごとのシーケンシング(sequencing-by-hybridization)、RNA-Seq(Illumina)、デジタルPCR、デジタル遺伝子発現(Helicos)、次世代シーケンシング、合成ごとの単一分子シーケンシング(single molecule sequencing by synthesis)(SMSS)(Helicos)、Ion Torrent Sequencing Machine(Life Technologies/Thermo-Fisher)、大規模並列シーケンシング(massively-parallel sequencing)、クローン性単一分子アレイ(clonal single molecule Array)(Solexa)、ショットガンシーケンシング、マキサム-ギルバートシーケンシング、およびプライマーウォーキング。
【0074】
いくつかの方法では、上記少なくとも1つの目的の領域内の生体分子(例えば、mRNA、または逆転写によってmRNAから得られるcDNA)の発現レベルは、定量的PCR(qPCR)またはTaqmanとしても公知の、いわゆる「リアルタイム増幅(real time amplification)」法によって決定される(例えば、米国特許第5,210,015号(Gelfand)、同第5,538,848号(Livak, et al.,)および同第5,863,736号(Haaland)、ならびにHeid, C.A., et al., Genome Research, 6:986-994 (1996); Gibson, U.E.M, et al., Genome Research 6:995-1001 (1996); Holland, P. M., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:7276-7280, (1991);およびLivak, K.J., et al., PCR Methods and Applications 357-362 (1995)を参照のこと)。増幅生成物の形成をモニターするこの方法の基本は、二重標識蛍光性オリゴヌクレオチドプローブを使用してPCR生成物蓄積を連続的に測定することである。このようなアッセイにおいて使用されるプローブは、代表的には、2種の異なる蛍光色素で標識された短い(約20~25塩基)ポリヌクレオチドである。上記プローブの5’末端は、代表的には、レポーター色素に結合され、3’末端は、クエンチング色素に結合される。上記プローブは、標的mRNAまたはこれに由来する核酸上の部位と少なくとも実質的な配列相補性を有するように設計される。その遺伝子座の隣接領域に結合する上流および下流のPCRプライマーはまた、反応混合物に添加される。上記プローブが無傷である場合、その2種の発蛍光団の間のエネルギー転移が起こり、上記クエンチャーは、上記レポーターからの発光をクエンチする。PCRの伸長相の間に、上記プローブは、核酸ポリメラーゼ、例えば、Taqポリメラーゼの5’ヌクレアーゼ活性によって切断され、それによって、ポリヌクレオチド-クエンチャーからレポーターを放出し、適切な検出器によって測定され得るレポーター発光強度の増大を生じる。次いで、その記録された値は、連続ベースに対して正規化したレポーター発光強度における増大を計算するために使用され得、最終的に、増幅されているmRNAの量を定量し得る。
【0075】
いくつかの実施形態において、qPCRまたはTaqman検出に関しては、RT-PCRステップは、細胞RNAからcDNAを生成するために最初に行われる。RT-PCRによるこのような増幅は、包括的(例えば部分的に/完全に縮重のオリゴヌクレオチドプライマーでの増幅)または標的化(例えば、後のステップで分析されることになる特異的遺伝子に対して指向されるオリゴヌクレオチドプライマーでの増幅)のいずれかであり得る。
【0076】
いくつかの実施形態において、qPCRまたはTaqmanは、単離された細胞mRNAに対して行われる逆転写酵素反応の直後に使用される;この多様性は、qPCRの間の個々のmRNAのレベルを定量するように働く。
【0077】
qPCRまたはTaqmanに関して、特定の遺伝子のレベルは、同じサンプルから同じ検出方法論を使用して測定される1またはこれより多くの内部コントロール遺伝子と比較して表され得る。内部コントロール遺伝子としては、いわゆる「ハウスキーピング(housekeeping)」遺伝子(例えば、ACTB、B2M、UBC、GAPDおよびHPRT1)が挙げられ得る。
【0078】
いくつかの実施形態において、qPCRもしくはTaqman検出またはRNA配列決定に関して、「前増幅(pre-amplification)」工程は、細胞RNAから転写されたcDNAに対して最初に行われる。これは、検出されることになるRNA/cDNAの天然のレベルが非常に低い条件においてシグナルを増大するように働く。前増幅に適切な方法としては、LM-PCR、ランダムオリゴヌクレオチドプライマーでのPCR(例えば、ランダムヘキサマーPCR)、ポリA特異的プライマーでのPCR、およびこれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。上記前増幅は、包括的であり得るかまたは上記の逆転写反応と同じ方法で標的化され得るかのいずれかである。
【0079】
mRNAレベルはまた、プローブへのハイブリダイゼーションによる増幅なしで、例えば、分枝状核酸プローブ(例えば、PanomicsのQuantiGene(登録商標) Reagent System)を使用して測定され得る。
【0080】
代わりにまたはさらに、上記少なくとも1つの目的の領域からの遺伝子の発現レベルは、タンパク質レベルで決定され得、これは、上記で考察される遺伝子によってコードされるタンパク質のレベルが測定されることを意味する。いくつかの方法およびデバイスは、例えば、米国特許第6,143,576号;同第6,113,855号;同第6,019,944号;同第5,985,579号;同第5,947,124号;同第5,939,272号;同第5,922,615号;同第5,885,527号;同第5,851,776号;同第5,824,799号;同第5,679,526号;同第5,525,524号;および同第5,480,792号に記載されるイムノアッセイを含め、タンパク質のレベルを決定するために周知である。これらのアッセイとしては、目的のタンパク質分析物の存在または量に関するシグナルを生成するために、種々のサンドイッチ、競合、または非競合的アッセイフォーマットを含む。任意の適切なイムノアッセイが利用され得る(例えば、ラテラルフロー、酵素結合イムノアッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、競合的結合アッセイなど)。抗体アレイに関する多くのフォーマットが記載され、抗体の使用を提唱されてきた。このようなアレイは、代表的には、検出されることが意図される異なるタンパク質に対して特異性を有する異なる抗体を含む。例えば、通常は、少なくとも100種の異なる抗体は、100種の異なるタンパク質標的を検出するために使用され、各抗体は、1つの標的に対して特異的である。特定のタンパク質標的に対して特異性を有する他のリガンドがまた、使用され得る(例えば、WO/2008/048970で開示される合成抗体)。所望の結合特異性を有する他の化合物は、ペプチドまたは低分子のランダムライブラリーから選択され得る。米国特許第5,922,615号は、アレイにおいて多数の標的抗原を検出するために、膜上に固定化した抗体の多数の別個のゾーンを利用するデバイスを記載する。米国特許第5,458,852号、同第6,019,944号、同第6,143,576号。マイクロタイタープレートまたは自動化は、多数の異なるタンパク質の検出を容易にするために使用され得る。タンパク質レベルはまた、質量分析(例えば、タンデムLC/MS/MS)によって決定され得る。いくつかの実施形態において、目的の領域から単離されたゲノムDNAが分析される(例えば、上述の配列決定技術のうちのいずれかによって、またはqPCRによって)。このような分析は、遺伝子中または遺伝子の周りのヌクレオチド配列におけるバリエーション、SNPs、挿入、欠失、および/またはコピー数バリエーションの存在が挙げられるが、これらに限定されないゲノムバリエーションを検出するように働き得る。この実施形態のいくつかのバリエーションにおいて、単離されたDNAは、全ゲノム増幅(WGA)技術によって最初に増幅して、制限されたサンプルからDNA配列を決定する能力が改善される。
【0081】
いくつかの実施形態において、WGA技術は、縮重オリゴヌクレオチドプライム(degenerate-oligonucleotide-primed)(DOP)PCRとして公知の2段階技術である。第1段階において、DOP-PCRは、a)3’末端にランダムな6ヌクレオチド配列、およびb)PCR増幅に最適なTmを有する固定したアダプター配列(必要に応じて、サンプルインデックスおよび/または特有の分子識別子を含むバーコードを含む)を含むプライマーを使用する;ランダムプライマーは、低いアニーリング温度でサンプルへとハイブリダイズし、続いて、高温でポリメラーゼを使用して鎖伸長される。第2の段階において、上記第1段階のプライマーの5’固定化アダプター配列(および必要に応じて、それらの5’末端にサンプルインデックスおよび/または特有の分子識別子を含むバーコードを含む)に相補的な3’末端を含むプライマーは、上記第1段階より高温でのPCRアニーリングを使用して、上記第1段階からの生成物を増幅するために使用される。
【0082】
いくつかの実施形態において、上記WGA技術は、マルチ置換増幅(MDA)として公知の1段階の等温性の技法である。MDAは、DOP-PCRの第1段階に類似のプライマー、例えば、a)それらの3’末端にランダムな6ヌクレオチド配列、およびb)固定されたアダプター配列(必要に応じて、サンプルインデックスおよび/または特有の分子識別子をふくむバーコードを含む)を含むプライマーを使用し得る。しかし、従来のPCR DNAポリメラーゼ、例えば、Taqの代わりに、MDAは、鎖置換ポリメラーゼ、例えば、φ29 DNAポリメラーゼを使用する。上記単離されたDNAは、上記プライマーおよびφ29 DNAポリメラーゼを使用して、等温条件下でのサイクリングなしで増幅される。
【0083】
いくつかの実施形態において、上記WGA技術は、マルチアニーリングおよびループ形成ベースの増幅サイクル(MALBAC)として公知の準線形増幅技術である。第1段階において、MALBACは、5’末端に共通する27ヌクレオチド配列(例えば、GTG AGT GAT GGT TGA GGT AGT GTG GAG)を、および3’末端に8ランダムヌクレオチドを有する特別に設計されたプライマーを使用する;セミアンプリコンは、低温(例えば、15~20℃)での第1のアニーリング、続いて、より高温(例えば、70~75℃)での鎖置換ポリメラーゼ(例えば、Bst DNAポリメラーゼ)を使用する伸長によってこれらのプライマーを使用して生成される。上記テンプレートからプライマーを融解した後(例えば、95℃またはこれより高い)、低温(例えば、15~20℃)、高温(例えば、70~75℃)、変性温度(例えば、95℃またはこれより高い)およびヘアピン形成(例えば、58℃)の反復サイクル(例えば、10+サイクル)は、セミアンプリコンを全アンプリコンへとさらに増幅するために使用される。全アンプリコンは、同一の5’ 27ヌクレオチド配列(例えば、GTG AGT GAT GGT TGA GGT AGT GTG GAG)を含むことから、それらが一旦作成されれば、上記ヘアピン形成工程は、それらを増幅の後のサイクルにさらに関与させることから除去する。このことは、元のDNAからのコピーのコピーのコピーが作製されないことから、より線形の増幅を確実にし得る。
【0084】
いくつかの実施形態において、WGA技術は、Pico-Plex
TM(Takara Bio)の派生である、および/または米国特許第8,206,913号に記載される。これらの技術および派生は、全ゲノムの完全ランダムプライマー増幅と関連する問題のうちのいくつか(例えば、ある特定の領域の提示不足)を補正しようと試みる。いくつかの実施形態において、自己不活性(例えば、非自己プライミング)縮重プライマーは、等温増幅工程または約15~20℃での最初のアニーリング工程、続いて、約75℃での伸長工程(例えば、中温性DNAポリメラーゼでの)であり得る、この方法の第1の工程において使用される。いくつかの実施形態において、これらのプライマーは、a)5’固定された領域、b)3’可変領域を含み、プライマーが交差ハイブリダイズも自己ハイブリダイズもしないように設計される。いくつかの実施形態において、上記可変領域は、部分的に縮重した配列(例えば、全てY、R、K、またはMであり得る10nt長(ここでY=ランダムCまたはT;R=ランダムAまたはG;M=ランダムAまたはC;K=ランダムGまたはT))および完全に縮重した配列(例えば、2nt長、Ns、ランダムA/C/T/G)をさらに含む。いくつかの実施形態において、上記自己不活性縮重プライマーの定常領域および可変領域は、アデニンおよびグアニン;アデニンおよびシトシン;グアニンおよびチミジンからなる群より選択される非相補的ヌクレオチドの2タイプのみから本質的になる。いくつかの実施形態において、等温増幅工程において使用される上記自己不活性縮重プライマーは、以下の表1中の配列番号1~8のうちのいずれかに従う。
【表1】
いくつかの実施形態において、熱安定性DNAポリメラーゼでのさらなる増幅ステップは、上記で増幅されたDNAに対して行われる。上記さらなる増幅ステップは、等温増幅ステップにおいて使用されるプライマーに由来する直ぐ5’側の固定された領域からなるプライマーを使用して行われ得る。いくつかの実施形態において、これらのプライマーは、表1中の配列番号8~12のうちのいずれかである。上記さらなる増幅ステップは、熱安定性DNAポリメラーゼを使用する通常のPCRサイクリングの>10サイクル(例えば、変性、アニーリング、伸長)を含み得る。いくつかの実施形態において、サイクリング条件は、上記のMALBACの方法に類似のヘアピンDNAの形成を促進するために、上記伸長ステップの後にさらなる低温ステップを組み込む。
【実施例0085】
実施例1A. - 組織切片に対する疎水性マスクの付与のためのプロトコール
コンピューター支援インクジェットシステムは、複数の規則的に間隔が空けられたコーティングされていない領域が作られるように、組織サンプルにコーティングのグリッドパターンを付与するために使用される。上記コーティングは、アルコールまたはケトン溶媒+光開始剤中で、本明細書で記載されるように、フルオロアルキルアクリレートモノマーと混合された非フッ化アクリレートまたはシアノアクリレートを含む。次いで、上記切片をUV光に短時間曝露して、上記コーティングを硬化させる。
【0086】
実施例1B. - 組織切片に対する疎水性マスクの付与のための代替のプロトコール
コンピューター支援インクジェットシステムは、複数の規則的に間隔が空けられたコーティングされていない領域が作られるように、組織サンプルに第1のコーティングのグリッドパターンを付与するために使用される。上記第1のコーティングは、非フッ化アクリレートまたはシアノアクリレート+光開始剤を含む。上記第1のコーティングを、UV光に短時間曝露して、硬化させる。次に、同様にコンピューター支援インクジェットシステムを使用して、本明細書で記載されるとおりのフルオロアルキルアクリレートモノマー+光開始剤を含む第2のコーティングを、上記第1のコーティングを覆って添加する。次いで、上記第2のコーティングを、UV光への短時間の曝露によって硬化させる。
【0087】
実施例2. - 疎水性化学物質を使用する、組織サンプル中の目的の領域の隔離
FFPE肝細胞癌組織切片を、脱パラフィン化ありまたはなし、およびフルオロアルキルアクリレートモノマーを使用する目的の領域の疎水性マスク形成ありまたはなしのヘマトキシリン/エオシン染色に供した。得られたスライドの写真を、
図1に示す。FFPE組織切片の脱パラフィン化、続いて、実施例1の疎水性化学物質での処理は、マスク形成した目的の領域の効果的な水性隔離を引き起こし、ヘマトキシリン/エオシンでの染色を防止した。
【0088】
実施例3.- FFPEマウス肝臓切片中の種々のサイズの領域の隔離
【0089】
FFPEマウス肝臓切片を脱パラフィン化し、マスク形成して、種々のサイズ(直径が100ミクロン、250ミクロン、500ミクロン、1000ミクロン)および形状(矩形および円形)の領域を隔離し、ヘマトキシリン/エオシンで染色して、上記目的の領域の親水性の接近しやすさ(および周りの疎水性マスクの接近しにくさ)、ならびに上記マスクのインクジェット付与の精度/正確さを示した。
図2Aは、直径約160ミクロンまたは約550ミクロンの領域が、上記化学的マスクのインクジェット印刷を使用して明らかに規定され得ることを示す。
図2Bは、直径約300または約1000ミクロンの領域が、上記化学的マスクのインクジェット印刷を使用して明らかに規定され得ることを示す。
図2Cは、円形および多角形両方の形状が、切片から隔離され得ることを示す。
図2Eは、直径2mmの領域が、切片上で明らかに規定され得ることを示す。
図2Dは、種々の直径(100mm、250mm、500mm、1mm)および形状(矩形および円形)の領域が、1個の組織切片上で明らかに規定されたグリッドで印刷され得ることを示す。
【0090】
実施例4. - 疎水性マスク形成は、マスク形成した領域からの核酸の抽出を遮断する
【0091】
FFPE組織切片を、実施例1Aまたは実施例1Bの方法に従ってマスク形成して、種々のサイズを有する目的の領域を生成した。
【0092】
55~60℃のオーブン中で1時間焼成し、キシレン中に3分間、2回浸漬し、100% エタノール中に3分間、2回浸漬することによって、スライドを脱パラフィン化した。スライドを、必要に応じて、最大1ヶ月間、エタノール中で貯蔵した。
【0093】
さらなる分析のために、スライドを風乾して、エタノールを除去し、上記組織を溶解した。接着性チャンバーを、上記組織領域の境界線を描くスライドに付着させ、600マイクロリットルのプロテイナーゼK含有Qiagen組織溶解緩衝液ATLを添加し、上記チャンバーを接着フィルムでシールし、スライドを、56℃のヒートブロック上で1時間インキュベートした。液体(約450マイクロリットル)を、微量遠心チューブ中のスライドチャンバーから集め、次いで、上記微量遠心チューブを、90℃で1時間加熱した。次いで、上記微量遠心チューブを遠心分離して、不溶性物質をペレット化し、上清を新たなチューブへと取り出し、45マイクロリットルのRNAse A(100mg/ml)で処理し、続いて、室温で2分間インキュベートした。等容積のQiagen 緩衝液AL(約500マイクロリットル)を上記上清に添加し、上記サンプルをボルテックスすることによって混合した。ボルテックス後、等量の100% エタノール(約500マイクロリットル)を上記上清に添加し、溶液全体をQiagen min-eluteカラムに移した。上記カラムを、製造業者の説明書に従って、緩衝液AW1およびAW2を使用して洗浄し、核酸を、Qiagen緩衝液ATE中で溶離した。次いで、各サンプルに由来する核酸を、Qubit分光光度計で定量した。目的の領域のサイズと抽出されたDNAとの間の関係性を、表2に示す。DNA収量 対 コーティングされていない表面積に関するデータは、DNA収量が覆われている面積に比例することを示し、これは、DNAが、疎水性コーティングによって覆われている組織切片の領域から抽出されないことを示唆する。
【表2】
【0094】
実施例5. - 最適化された疎水性コーティング手順:
【0095】
A)小さな特徴(<1mm直径)のための手順
【0096】
組織サンプルがFFPEサンプルである場合、上記組織サンプルを最初に、標準的手順(例えば、およそ60度のオーブン中で1時間焼成、続いて、キシレン中で3分間、キシレン中で3分間、100% EtOH中で3分間、100% EtOH中で3分間のインキュベーション、および5分間風乾)によって脱パラフィン化に供する。上記組織表面を、フルオロアクリレートを含むアルコール溶液中に、ミクロンサイズのフルオロ粒状物(fluoroparticulate)とともにスプレーまたは浸漬することによって、最初の疎水性コーティングでコーティングする;例としては、Fluoro-pel 800または800Mが挙げられるが、これらに限定されない。次いで、上記スライドを風乾する(この最初の処理は、以下のシアノアクリレート印刷工程によって小さな特徴の規定を改善する)。
【0097】
光開始剤を含むシアノアクリレートの溶液を、上記組織サンプルにインクジェット印刷して、排除することが望ましい領域または望ましい特徴を分離する領域を覆ってマスクを形成した。印刷の間に、上記シアノアクリレートを、堆積後に、最小限の秒数にわたるUV光(例えば、395nm@約400mJ/cm2)への曝露を介して、留め置く(pin)。次いで、上記スライドを印刷装置から取り出し、直ぐに、長時間のUV硬化(例えば、約400mJ/cm2での395nm、約5分間)に供する。
【0098】
UV硬化の後、スライド全体を、ペルフルオロアルキルトリクロロシラン(例えば、FOTS、トリクロロ(1H,1H,2H,2H-ペルフルオロオクチル)シラン))の真空支援気相蒸着に供する。この技術の付与は、25ミクロン程度の小さな直径で、FFPEヒト肝臓組織切片上での円形の目的の領域の生成を可能にした。
【0099】
B)大きな特徴(およそ約1mmまたはこれより大きい)のための手順
【0100】
組織サンプルがFFPEサンプルである場合、上記組織サンプルを最初に、標準的手順(例えば、およそ60度のオーブン中で1時間焼成、続いて、キシレン中で3分間、キシレン中で3分間、100% EtOH中で3分間、100% EtOH中で3分間のインキュベーション、および5分間風乾)によって脱パラフィン化に供する。より大きな特徴は、最初のフルオロアルキルコーティングの先に進み得る。光開始剤を含むシアノアクリレートの溶液を、排除することが望ましい領域または望ましい特徴を分離する領域において、上記組織サンプルにインクジェット印刷する。印刷する間に、上記シアノアクリレートを、沈着後に、最小限の秒数にわたるUV光(例えば、395nm@約400mJ/cm2)への曝露を介して留め置く。次いで、上記スライドを印刷装置から取り出し、直ぐに、長時間のUV硬化(例えば、約400mJ/cm2での395nm、約5分間)に供する。
【0101】
UV硬化の後、スライド全体を、ペルフルオロアルキルシラン(例えば、トリクロロ(1H,1H,2H,2H-ペルフルオロオクチル)シラン)の真空支援気相蒸着に供する。
【0102】
実施例6. - 疎水的に分離した領域の溶解および単離
【0103】
表面張力アレイを、US20150268233 A1またはButler et al. J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 8887-8894にあるように、親水性特徴が上記組織サンプルに付与されたマスクの排除されない領域に対応する状態で調製する。この派生手順は、定量的に清浄なガラススライドを単官能性(シラン化のための1個の結合部位)有機シラン(例えば、3-アミノプロピルジメチルエトキシシラン(APDMS))でコーティングし、続いて、上記排除されない領域/親水性領域をポジ型フォトレジストで保護し、ペルフルオロアルキルシラン(例えば、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリクロロシランのような耐摩耗コーティングで処理することを含む。
【0104】
界面活性剤を含む適切な溶解緩衝液を、表面張力アレイの親水性特徴に付与する。上記溶解緩衝液を有する親水性領域を含む表面張力アレイを、実施例1A、1B、または5にあるように調製した組織サンプルと接触させる。その接触は、適切な期間にわたって、細胞溶解を可能にするために与えられる。上記表面張力アレイ(これは、ここで溶解した細胞構成要素を含む溶解緩衝液を含む)は、上記組織切片との接触から取り出され、上記表面張力アレイ上の個々のスポットは、所望の特性(例えば、タンパク質または核酸の存在量、配列、または両方)のために問い合わせされる。
【0105】
実施例7. - コーティングされた表面での接触角測定
【0106】
FFPE組織切片またはガラススライドを、実施例5Bに示されるコーティング手順の異なる段階に供し、FOTS((トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリクロロシラン)での種々の長さの気相コーティングに供した。接触角測定を、Telescope-Goniometer(例えば、Bracco and Holst. Surface Science Techniques. 2013. ISBN 978-3-642-34243-1. pp.3-34を参照のこと)による直接測定を使用して行った。そのデータは、上記組織切片の一番上にシアノアクリレートを添加すると、FOTSによるコーティングが増強され、その2つの組み合わせが、その合わせたFOTS/シアノアクリレート組織表面の接触角を非常に疎水性(110より大きい接触角)範囲へと増大させることを示す。
【表3】
【0107】
実施例8. - 疎水性マスク形成したFFPE組織切片から単離されたRNAのqPCR
【0108】
同じFFPE乳がん組織サンプル(Biomax, huCAT299)からの種々の連続切片を、実施例5の最適化したコーティング手順に供して、非がん性組織、移行組織(例えば、ある程度非がん性かつある程度がん性の組織)、およびがん性の組織を含む種々の異なる目的の領域を選択した(
図7および8を参照のこと。ここで
図8の左側は、種々の組織層/切片に付与された異なるマスクパターンを示し、右側は、マスク形成後に隔離された種々の組織目的の領域を示す)。コーティング後に、上記目的の領域を、界面活性剤含有溶解緩衝液+プロテイナーゼKを上記スライドに付与することによって溶解した(溶解緩衝液は、コントロールとしてのコーティングされた領域にも付与した)。全RNAを、上記溶解緩衝液を、上記領域に直接配置し、56℃において1時間インキュベートすることによって、
図8に示されるサンプルから抽出した。全RNAを、NucleoSpin totalRNA FFPE XSキット(Takara Bio)を使用して製造業者のプロトコールに従って精製し、上記サンプルからのRNA量を、Qubit蛍光アッセイによって定量した。qPCRアッセイのパネルを、上記サンプルから抽出されたRNAに対して行って、乳がんにおいて富化されていることが公知の遺伝子を検出した(上記組織から個々の公知の腫瘍で富化される遺伝子のqPCR Ct値を示す
図9を参照のこと)。その分析は、腫瘍サンプルにおいて、予測されるように、qPCRによって検出される遺伝子のレベルが、健康な組織よりがん性の組織に特徴的であったことを示し、これは、上記マスクが、選択的溶解のための組織領域を隔離するために有効であること、および上記疎水性コーティング手順が、規定された目的の領域から遊離した核酸の下流の増幅に干渉しないことを示す。
【0109】
上記のマスク形成手順によって隔離されたRNAサンプルを、同じサンプルに対して行った従来の手動の空間的隔離技術(
図9パネルBにおいて「チューブ」と表記)とも比較した。qPCR Ct計数を、ハウスキーピング遺伝子GAPDHに対して計算し、そのデータをグラフ化した(
図9)。両方の方法を介する遺伝子の発現レベルは、高度に相関することが見出され、これは、上記疎水性マスク形成手順が、上記手動の隔離ワークフローに等しいことを示す。
【0110】
さらに、例示的なマスク形成した組織領域に関して、マスク形成したまたはマスクされていない領域に付与される溶解緩衝液によって遊離した核酸の量を比較した(
図9パネルC)。その分析は、劇的に少ない核酸が、覆われた領域から単離されたことを示す。これは、上記疎水性マスクが、上記手順において溶解から望ましくない組織を排除するために有効であることを示す。
【0111】
さらに、乳がんにおいて選択的に発現される遺伝子を検出するように設計された一連の177のqPCRアッセイを、上記マスク形成した腫瘍サンプルから単離したRNAに対して行った。177の特有の発現されたqPCR生成物を、上記マスク形成手順によってがん性サンプルから遊離したRNA内で検出した。これは、発現されたゲノムの広い部分が、上記マスク形成手順によって隔離したがん性細胞から単離されたことを示す。
【0112】
本発明の好ましい実施形態が本明細書で示されかつ記載されてきたが、このような実施形態が例示によって提供されるに過ぎないことは、当業者に明らかである。多くのバリエーション、変更、および置換は、いまや、本発明から逸脱することなく当業者に想起される。本明細書で記載される本発明の実施形態に対する種々の選択肢が本発明を実施するにあたって使用され得ることは、理解されるべきである。以下の請求項は、本発明の範囲を規定し、これら請求項およびそれらの均等物の範囲内の方法および構造は、それによって網羅されることが意図される。