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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167240
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】試験構造体及び測定装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20231116BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
H01M10/48 Z
H01M10/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078271
(22)【出願日】2022-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 広規
(72)【発明者】
【氏名】野崎 洋
(72)【発明者】
【氏名】小澤 忠夫
(72)【発明者】
【氏名】水野 諭
(72)【発明者】
【氏名】後藤 智
(72)【発明者】
【氏名】片山 直貴
【テーマコード(参考)】
5H028
5H030
【Fターム(参考)】
5H028AA10
5H028BB11
5H028BB17
5H028EE01
5H028HH05
5H030AA06
5H030AS18
5H030FF31
5H030FF51
(57)【要約】
【課題】蓄電デバイスの加熱試験をより確実に実行することができる新規な試験構造体及び測定装置を提供する。
【解決手段】試験構造体は、蓄電デバイスの加熱試験を行うものであって、蓄電デバイスの複数の面に接触し蓄電デバイスを加熱する加熱ブロックと、所定面側から加熱ブロックの少なくとも一部を押圧して蓄電デバイスを支持する支持部とを有する加熱部と、蓄電デバイスを支持した加熱部を内部空間に密閉状態で収容し耐圧構造を有する収容部と、収容部に配設され内部空間を密閉状態に保持して内部空間と外部との間で電気的なやりとりを行う耐圧端子と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイスの加熱試験を行う試験構造体であって、
前記蓄電デバイスの複数の面に接触し該蓄電デバイスを加熱する加熱ブロックと、所定面側から前記加熱ブロックの少なくとも一部を押圧して前記蓄電デバイスを支持する支持部とを有する加熱部と、
前記蓄電デバイスを支持した前記加熱部を内部空間に密閉状態で収容し耐圧構造を有する収容部と、
前記収容部に配設され前記内部空間を密閉状態に保持して該内部空間と外部との間で電気的なやりとりを行う耐圧端子と、
を備えた試験構造体。
【請求項2】
前記蓄電デバイスは、側面と該側面より広い面積の測定面とを有し、
前記加熱ブロックは、前記側面が入るガイドと前記測定面側に接触する係止爪とが形成されており、1つの前記側面に接触しスライド可能な加熱部材を有し、
前記支持部は、前記ガイドと、前記係止爪と、前記加熱部材を蓄電デバイス側へ押圧する位置決め部と、により構成されている、請求項1に記載の試験構造体。
【請求項3】
前記蓄電デバイスは、側面と該側面より広い面積の測定面とを有し、
前記加熱部は、前記側面側から前記蓄電デバイスを支持し、前記蓄電デバイスの測定面側には構造物が配設されない、請求項1又は2に記載の試験構造体。
【請求項4】
前記収容部には、前記蓄電デバイスの測定面を外部から観察可能な観察窓が形成されている、請求項1又は2に記載の試験構造体。
【請求項5】
前記耐圧端子には、前記加熱部への加熱用電力線、温度センサ及び前記蓄電デバイスの端子のうち1以上が電気的に接続されている、請求項1又は2に記載の試験構造体。
【請求項6】
前記収容部には、排気口が形成されており、該排気口には、排気ラインと、該排気ラインに接続された排気弁と、前記排気ラインに配設されたフィルタと、前記収容部の内圧を測定する圧力計と、を有する、請求項1又は2に記載の試験構造体。
【請求項7】
蓄電デバイスの加熱試験を行う測定装置であって、
請求項1に記載の試験構造体と、
前記試験構造体を収容空間に密閉状態で収容し耐圧構造を有する収容構造体と、
を備えた測定装置。
【請求項8】
請求項7に記載の測定装置であって、
前記蓄電デバイスは、側面と該側面より広い面積の測定面とを有し、
前記試験構造体の前記収容部には、前記蓄電デバイスの測定面を外部から観察可能な観察窓が形成されており、
前記収容構造体は、前記試験構造体の耐圧端子に接続され前記収容空間を密閉状態に保持して外部との間で電気的なやりとりを行う密閉端子を備え、
前記収容構造体の収容空間には、前記蓄電デバイスの測定面を撮像する撮像部と、前記測定面を照明する照明部と、が配設されている、測定装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の測定装置であって、
前記試験構造体の収容部と前記収容構造体は、中性子線が照射される部位が少なくともアルミニウム製であり、中性子イメージングに用いられる、測定装置。
【請求項10】
前記試験構造体の前記収容部は、壁厚が10mm以上のアルミニウム製であり、
前記試験構造体は、前記収容空間において前記中性子の検出部に近い背面に固定される、請求項9に記載の測定装置。
【請求項11】
前記収容構造体は、通気口が形成されており、該通気口には、通気ラインと、該通気ラインに接続された通気弁と、前記収容空間の圧力を計測する圧力計と、を有する、請求項9に記載の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、試験構造体及び測定装置を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、電池の評価を行う測定装置としては、例えば、Arガスを満たした釘刺し用容器内でLiイオン電池の釘刺し試験を行ない、この釘刺し試験中にLiイオン電池から発生したガスが釘刺し用容器内に蓄積されるとともに、釘刺し用容器から配管を通ってバッファタンクにも移動されるように構成されているものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この測定装置では、安全性評価試験を行なうために高耐圧かつ高容積な試験容器が不要でありながら、試験時に蓄電デバイスから発生したガスの全量を捕獲し、成分分析が可能であるとしている。また、測定装置としては、試験対象である電池を収納する試験槽と、試験槽内に設けてあり、電池に対して所定の試験を行うための試験部と、試験槽の内壁面に設けてあり、試験部で行う所定の試験により電池から発生する未燃焼ガスを複数の空間に分けて取り込むことが可能な構造を有する圧力緩和部材とを備えるものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。この測定装置では、安価で、試験槽内又は容器内の圧力上昇による破損を防止することができるとしている。また、測定装置としては、蓄電デバイスの安全性試験を行なうための耐圧性を有するブースと、蓄電デバイスから発生する排ガスを処理しうる排ガス処理部と、上記排ガスをこのブースからこの排ガス処理部にその処理能力に応じて送出する排ガス送出部とを備えるものが提案されている(例えば、特許文献3参照)。この測定装置では、密閉性が高く、内圧が上昇しても破損するおそれがなく、正確な熱分析を行うことができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-3513号公報
【特許文献2】特開2011-60525号公報
【特許文献3】国際公開2006/088021号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1~3の測定装置では、耐圧性を確保し、安全性を有するものとしているが、まだ十分でなく、更に蓄電デバイスの加熱試験をより確実に実行することが求められていた。また、このような測定装置において、コンパクト化を図ることも求められていた。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、コンパクト化を図ると共に、蓄電デバイスの加熱試験をより確実に実行することができる、新規な試験構造体及び測定装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、試験対象としての蓄電デバイスの側面側から加熱する構造を採用すると、コンパクト化を図ると共に、蓄電デバイスの加熱試験をより確実に実行することができることを見いだし、本明細書で開示する発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本明細書で開示する試験構造体は、
蓄電デバイスの加熱試験を行う試験構造体であって、
前記蓄電デバイスの複数の面に接触し該蓄電デバイスを加熱する加熱ブロックと、所定面側から前記加熱ブロックの少なくとも一部を押圧して前記蓄電デバイスを支持する支持部とを有する加熱部と、
前記蓄電デバイスを支持した前記加熱部を内部空間に密閉状態で収容し耐圧構造を有する収容部と、
前記収容部に配設され前記内部空間を密閉状態に保持して該内部空間と外部との間で電気的なやりとりを行う耐圧端子と、
を備えたものである。
【0008】
この試験構造体では、加熱ブロックによって蓄電デバイスの複数の面に接触して加熱するため、蓄電デバイスを均一に加熱することができる。また、加熱ブロックを用いて蓄電デバイスを加熱するため、オーブンやヒートガンを利用して加熱するものに比してよりコンパクト化することができる。このため、この試験構造体では、例えば、蓄電デバイスの加熱試験をポータブルで実現することができる。更に、加熱ブロックを蓄電デバイスに押し付けているため、加熱により蓄電デバイスが変形してもこれをしっかりと支持することができる。したがって、この試験構造体では、蓄電デバイスの加熱試験をより確実に実行することができる。
【0009】
本開示の測定装置は、蓄電デバイスの加熱試験を行う測定装置であって、上述した試験構造体と、前記試験構造体を収容空間に密閉状態で収容し耐圧構造を有する収容構造体と、を備えたものである。この測定装置では、2重の耐圧密閉構造にすることによって、より安全に加熱試験を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】測定システム10の構成の概略の一例を示す説明図。
図2】測定対象である蓄電デバイス34の一例を示す説明図。
図3】測定装置11の構成の概略の一例を示す説明図。
図4】試験構造体40の構成の概略の一例を示す説明図。
図5】加熱部41の構成の概略の一例を示す説明図。
図6】測定装置11へ中性子ビーム60を照射する概念図。
図7】測定システム10の外観写真。
図8】収容構造体20の内部写真。
図9】試験構造体40の外観写真。
図10】試験構造体40及び加熱部41の写真。
図11】加熱試験時の温度変化の測定結果。
図12】蓄電デバイスの熱暴走時の観察写真。
図13】加熱試験時の試験構造体の内圧変化の測定結果。
図14】中性子イメージングによる露光時間10秒と1秒での透過像。
図15】中性子イメージングによる透過率の位置依存性の測定結果。
図16】中性子イメージングによる初期電池の透過像。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。図1は、本開示の一例である測定システム10の構成の概略の一例を示す説明図である。図2は、測定対象である蓄電デバイス34の一例を示す説明図である。図3は、測定装置11の構成の概略の一例を示す説明図であり、図3Aが内部を開放した斜視図、図3Bが右側面図、図3Cが左側面図である。図4は、試験構造体40の構成の概略の一例を示す説明図であり、図4Aが正面の斜視図、図4Bが左側面図、図4Cが右側面図、図4Dが背面図である。図5は、加熱部41の構成の概略の一例を示す説明図であり、図5Aが正面図、図5Bが平面図、図5Cが左側面図、図5Dが右側面図である。図6は、測定装置11へ中性子ビーム60を照射する概念図であり、図6Aが測定装置11の斜視図、図6Bが測定装置11の内部を示す斜視図である。なお、本実施形態において、左右方向、前後方向及び上下方向は、蓄電デバイス34に中性子ビーム60を照射する測定面36を便宜的に正面として、図1、3~6に示した通りとする。
【0012】
図1に示すように、測定システム10は、測定対象である蓄電デバイス34の加熱試験及び中性子イメージングを測定可能に構成されている。この測定システム10は、例えば、図1に示すように、測定装置11、温度制御盤12、データロガー13、情報処理装置14、中性子照射部18及び中性子検出部19を備えている。温度制御盤12は、蓄電デバイス34を加熱する加熱部41の温度を制御する装置である。温度制御盤12は、加熱部41に配設した温度センサ32からの信号に基づいて、ヒータ31への出力電圧を制御する。データロガー13は、測定装置11で測定された温度や圧力などの情報を入力して記憶する装置である。データロガー13は、入力された信号に基づく情報を情報処理装置14へ出力する。情報処理装置14は、各装置構成の制御を司るコンピュータであり、制御部15と、記憶部16と、通信部17とを備える。制御部15は、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、測定システム10の全体を制御する。記憶部16は、HDDやフラッシュメモリなどの大容量の記憶媒体であり、実行プログラムや測定データ、撮像画像などを記憶する。通信部17は、外部機器と通信する際に用いられるインターフェイスである。測定システム10の各装置は、通信部17を介して情報処理装置14と情報をやりとりする。中性子照射部18及び中性子検出部19は、中性子ビーム60を照射可能な施設に配設されている。中性子照射部18は、中性子検出部19へ向けて中性子ビーム60を照射する。中性子検出部19は、中性子照射部18から照射され、蓄電デバイス34を透過した中性子ビーム60を検出する。中性子線は、HやLiなどの軽元素に感度が高く、中性子イメージングによれは、蓄電デバイス34内の元素分布や濃度変化などを可視化することができる。但し、中性子が照射された試料は汚染されるため、容器内で密封することを要する。
【0013】
測定対象である蓄電デバイス34は、放電可能なものであればよく、充放電可能な蓄電デバイスであるものとしてもよい。蓄電デバイス34は、例えば、正極と、負極と、正極及び負極の間に介在しイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたものとしてもよい。この蓄電デバイス34は、例えば、電気二重層キャパシタやハイブリッドキャパシタ、疑似電気二重層キャパシタ、アルカリ二次電池、アルカリイオン二次電池などとしてもよい。キャリアとしてのアルカリとしては、例えば、Li、Na及びKなどが挙げられ、このうちLiが好ましい。正極は、キャリアのイオンを吸蔵放出する正極活物質を含むものとしてもよいし、キャリアのイオンを吸着脱離する正極活物質を含むものとしてもよい。正極活物質は、例えば、遷移金属複合酸化物や遷移金属リン酸化合物、活性炭や黒鉛を含む炭素材料などのうち1以上としてもよい。遷移金属としては、例えば、Fe、Ni、Co、Mn、Cuなどのうち1以上が挙げられる。正極活物質は、例えば、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn24などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMnc2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物などを用いることができる。なお、「基本組成式」とは、他の元素を含んでもよい趣旨である。負極は、キャリアのイオンを吸蔵放出する負極活物質を含むものとしてもよいし、キャリアのイオンを吸着脱離する負極活物質を含むものとしてもよい。負極活物質は、例えば、活性炭や黒鉛を含む炭素材料や、Tiなどを含む遷移金属複合酸化物、キャリアイオンの金属などのうち1以上としてもよい。炭素材料としては、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。遷移金属複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。イオン伝導媒体は、キャリアイオン(カチオン及びアニオン)を伝導するものであり、支持塩を溶解した非水系電解液、水溶液系電解液、ゲル電解液及び固体電解質などのうち1以上としてもよい。支持塩としては、例えば、LiPF6やLiBF4などのリチウム塩が挙がられる。電解液の溶媒は、例えば、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート類等が挙げられる。この蓄電デバイス34は、正極と負極との間にセパレータを配置してもよい。
【0014】
この蓄電デバイス34の形状は特に限定されず、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。蓄電デバイス34は、図2に示すように、集電体61に正極合材層62を形成した正極シート63と、集電体64の表面に負極合材層65を形成した負極シート66と、正極シート63と負極シート66との間に設けられたセパレータ67と、正極シート63と負極シート66との間を満たすイオン伝導媒体68とを備えたものとしてもよい。蓄電デバイス34は、側面35と側面35より広い面積を有する測定面36とを有する角形の構造を有するものとしてもよい。ここでは、測定対象として、角形形状のリチウムイオン二次電池とする蓄電デバイス34を主として説明する。
【0015】
次に、測定装置11について説明する。測定装置11は、図1に示すように、収容構造体20と、試験構造体40とを備えている。収容構造体20は、試験構造体20を収容空間21に密閉状態で収容し耐圧構造を有する外箱である。この収容構造体20は、試験構造体40の内部から物質が漏れる場合を想定した安全容器であり、例えば、中性子ビーム60を照射しない場合は、この収容構造体20を省略してもよい。収容構造体20は、中性子線が照射される部位が少なくともアルミニウム製であり、中性子イメージングに用いられる。アルミニウムは、中性子線の透過が良好であるが機械的強度が低いことから、収容構造体20では、外壁が10mm以上の厚さのアルミニウムで形成されている。この収容構造体20は、図3に示すように、本体部20aと、通気口22と、通気ライン23と、通気弁24と、圧力計25と、密閉端子26と、撮像部27と、照明部28と、密閉扉29とを備える。
【0016】
本体部20aは、厚さ10mm以上の壁部を有する箱体である。本体部20aの一面は、開口部であり、密閉扉29によって閉塞される。本体部20aの開口縁には、Oリングが配設されており、密閉を確保可能になっている。この収容構造体20には、収容空間21と外部とを連通する通気口22が形成されている。通気口22には、通気ライン23と、通気ライン23に接続された通気弁24とを有する、収容構造体20には、収容空間21の圧力を計測する圧力計25も配設されている。通気弁24は、加熱試験中などに閉鎖され、加熱試験後などに内圧を低減するために開放される弁である。収容構造体20では、通気ライン23及び通気弁24を用いることによって、必要に応じて、収容空間21を、減圧状態、真空状態及び不活性雰囲気への置換状態などを実現することができる。
【0017】
密閉端子26は、試験構造体20の耐圧端子56に電気的に接続され、収容空間21を密閉状態に保持して外部との間で電気的なやりとりを行うハーメチックシールコネクタである。密閉端子26には、ヒータ31への電力線30(後述図10参照)や、温度センサ32からの配線、電極端子37からの配線などが接続される。撮像部27は、収容空間21に配設され、蓄電デバイス34の測定面36を撮像するカメラである。撮像部27は、静止画及び動画を撮像可能であり、撮像した画像を密閉端子26を介してデータロガー13へ出力する。照明部28は、収容空間21に配設され、試験構造体40の観察窓50へ光を照射し、測定面36を照明するライトである。この照明部28は、LEDライトとしてもよい。密閉扉29は、本体部20aの開口部を閉塞する板状の部材であり、ボルトにより密閉状態で開口部に固定される。
【0018】
試験構造体40は、その内部空間49に蓄電デバイス34を収容して加熱試験を行う箱体であり、測定装置11においては、内箱として構成されている。試験構造体40は、収容構造体20の収容空間21において、中性子検出部19に近い背面に固定される。この試験構造体40は、蓄電デバイス34が収容空間21の背面壁の5mm~10mmの距離に固定される。この試験構造体40は、図4に示すように、加熱部41と、収容部48と、耐圧端子56とを備える。
【0019】
加熱部41は、取り外し可能に収容部48の内部空間49に装着される部材であり、測定対象である蓄電デバイス34を固定する部材である。加熱部41は、図5に示すように、蓄電デバイス34を側面35側から支持し、測定面36側には構造物が配設されない構造を有する。加熱部41は、加熱部材46を含む加熱ブロック42と、蓄電デバイス34を支持する支持部43と、加熱ブロック42を支持する板状体である基部59と、を有する。加熱ブロック42は、蓄電デバイス34の複数の面に接触し、蓄電デバイス34を加熱する部材である。この加熱ブロック42は、蓄電デバイス34の左面に接触する加熱部材46と、右面に接触する加熱部材46と、下面に接触する加熱部材46とを含んで構成されている。加熱部材46には、棒状のヒータ31が挿入される挿入孔と、熱電対などの温度センサ32が挿入される挿入孔とが形成されている。
【0020】
加熱ブロック42は、蓄電デバイス34の側面35が入るガイド44と測定面36側の端部に接触する係止爪45とが形成されている。ガイド44は、蓄電デバイス34の端部が挿入される溝として加熱ブロック42に形成されている。係止爪45は、蓄電デバイス34の4つ角に引っかかる突起部である。ガイド44や係止爪45は、蓄電デバイス34の変形に対応するため、蓄電デバイス34の外形に対してクリアランスを大きく有する状態で加熱ブロック42に形成されている。支持部43は、蓄電デバイス34の所定面側から加熱ブロック42の少なくとも一部を押圧して蓄電デバイス34を支持するものである。この支持部43は、ガイド44と、係止爪45と、加熱部材46を蓄電デバイス34側へ押圧する位置決め部47と、により構成されている。
【0021】
加熱ブロック42は、1つの側面35に接触する加熱部材46(図5Aでは右側)が付勢方向(左右方向)に沿ってスライド可能に構成されており、この加熱部材46には、位置決め部47の端部が接触している。位置決め部47は、加熱部材46を蓄電デバイス34側に付勢するスプリングプランジャとして構成されている。位置決め部47は、加熱部41が収容部48の内部に固定されたときに、その外部側の端部が収容部48の壁部に当接する。位置決め部47は、短縮された状態で、一端が壁部に当接し、他端が加熱部材46に当接し、加熱部材46を常に付勢方向へ付勢する。
【0022】
収容部48は、蓄電デバイス34を支持した加熱部41を内部空間49に密閉状態で収容し耐圧構造を有する容器である。収容部48は、中性子線が照射される部位が少なくともアルミニウム製であり、中性子イメージングに用いられる。収容部48は、その全体がアルミニウムによって形成されている厚さ10mm以上の壁部を有する箱体である。収容部48は、図4に示すように、その一面が開口部であり、蓋部材57によって閉塞される。収容部48の開口縁には、Oリングが配設されており、密閉を確保可能になっている。
蓋部材57は、収容部48の開口部を閉塞する板状の部材であり、ボルトにより密閉状態でこの開口部に固定される。収容部48の正面には、内部空間49に配置された蓄電デバイス34の測定面36を外部から観察可能な観察窓50が設けられている。観察窓50は、例えば、石英ガラスにより形成された耐圧性の窓である。
【0023】
この試験構造体40には、内部空間49と外部とを連通する排気口51が形成されている。排気口51は、中性子ビーム60が照射される正面とは異なる側面に形成されている。排気口51には、排気ライン52と、排気ライン52に接続された排気弁53と、排気ライン52に配設されたフィルタ54と、収容部48の内圧を測定する圧力計55と、を有する。排気ライン52は、一端が排気口51に接続され、他端が排気弁53に接続された耐圧性及び耐腐食性を有する配管である。排気弁53は、加熱試験中などに閉鎖され、加熱試験後などに内圧を低減するために開放される弁である。フィルタ54は、加熱試験後に外部へ排出される物質を除去するものであり、排気ライン52において排気口51と排気弁53との間に配設されている。試験構造体40では、2種のフィルタ54が排気ライン52に接続されている。圧力計55は、排気ライン52に配設され、その圧力を計測する装置である。試験構造体40には、針により圧力表示するものと、デジタル式のものとの2種が配設されている。デジタル式の圧力計55は、測定した圧力をデータロガー13へ出力する。試験構造体40では、排気ライン52及び排気弁53を用いることによって、必要に応じて、内部空間49を、減圧状態、真空状態及び不活性雰囲気への置換状態などを実現することができる。
【0024】
耐圧端子56は、内部空間49を密閉状態に保持して外部との間で電気的なやりとりを行うハーメチックシールコネクタである。耐圧端子56には、ヒータ31への電力線30(後述図10参照)や、温度センサ32からの配線、電極端子37からの配線などが電気的に接続される。この耐圧端子56を介して内部空間49で測定した信号が外部へ出力される。
【0025】
この試験構造体40は、収容部48の上部や蓋部材57の前面に取っ手58が配設されており、持ち運び可能に構成されている。試験構造体40は、中性子イメージングなどを行わないものとすれば、加熱試験を単独で実行可能な構造を有する。試験構造体40は、加熱部41がコンパクトな構造であるため、持ち運んで加熱試験を行うことができる。
【0026】
次に、測定システム10の動作、特に蓄電デバイス34の加熱試験及び中性子イメージングを測定する動作について説明する。まず、試験者は、蓄電デバイス34の残容量SOCを所望の値に調整したのち、加熱部41へ装着させる。次に、耐圧端子56にヒータ31や温度センサ32、電極端子37を接続させたのち、ヒータ31や温度センサ32を加熱部材46の挿入孔へ挿入する。次に、試験者は、この加熱部41を試験構造体40の内部空間49に入れ、位置決め部47を壁部に当接させながら、背面側に固定し、蓋部材57を固定して収容部48を密閉する。この試験構造体40を収容構造体20の収容空間21へ入れ、収容空間21の背面側に固定する。続いて、試験者は、耐圧端子56と密閉端子26とを配線で接続させると共に、撮像部27及び照明部28の配線を密閉端子26へ接続させる。そして、密閉扉29を固定して本体部20aを密閉する。測定装置11の準備が完了すると、試験者は、温度制御盤12を操作し、加熱試験を実行する。このとき、温度センサ32や圧力計55の出力値や撮像部27による撮像画像をデータロガー13により記憶する。
【0027】
以上詳述した測定装置11の試験構造体40では、加熱ブロック42が蓄電デバイス34の複数の側面35に接触して加熱するため、蓄電デバイス34をより均一に加熱することができる。また、加熱ブロック42を用いて蓄電デバイス34を加熱するため、オーブンやヒートガンを利用して加熱するものに比してよりコンパクト化することができる。このため、この試験構造体40では、例えば、蓄電デバイス34の加熱試験をポータブルで実現することができる。更に、加熱ブロック42を蓄電デバイス34に押し付けているため、加熱により蓄電デバイス34が変形してもこれをしっかりと支持することができる。したがって、この試験構造体40では、蓄電デバイス34の加熱試験をより確実に実行することができる。
【0028】
また、蓄電デバイス34は、側面35と側面35より広い面積の測定面36とを有し、加熱ブロック42は、側面35が入るガイド44と測定面36側に接触する係止爪45とが形成されており、1つの側面35に接触しスライド可能な加熱部材46を有し、支持部43は、ガイド44と、係止爪45と、加熱部材46を蓄電デバイス34側へ押圧する位置決め部47と、により構成されている。この試験構造体40では、スライド可能な加熱部材46を位置決め部47によって付勢して蓄電デバイス34を押さえ、ガイド44と係止爪45によって蓄電デバイス34の落下をより抑制することができる。また、この加熱部41では、蓄電デバイス34の加熱試験をより確実に実行することができる。更に、加熱部41は、側面35側から蓄電デバイス34を支持し、蓄電デバイス34の測定面36側には構造物が配設されない構造を有するため、蓄電デバイス34の測定面36の観察を行いやすい。更にまた、収容部48には、蓄電デバイス34の測定面36を外部から観察可能な観察窓50が形成されているため、観察窓50から測定面36の観察を行うことができる。そして、耐圧端子56には、加熱部41への電力線30、温度センサ32及び蓄電デバイス34の電極端子37のうち1以上が電気的に接続されているため、加熱部41への電力供給、温度センサ32による温度検出、蓄電デバイス34の電圧電流などの測定などを実行することができる。そしてまた、収容部48には、排気口51が形成されており、排気口51には、排気ライン52と、排気ライン52に接続された排気弁53と、排気ライン52に配設されたフィルタ54と、収容部48の内圧を測定する圧力計55と、を有する。この試験構造体40では、加熱試験後の内圧を安全に低減することができる。
【0029】
また、測定装置11は、試験構造体40と、試験構造体40を収容空間21に密閉状態で収容し耐圧構造を有する収容構造体20と、を備える。この測定装置11では、2重の耐圧密閉構造にすることによって、より安全に加熱試験を実行することができる。更にまた、測定装置11において、収容構造体20は、試験構造体40の耐圧端子56に接続され収容空間21を密閉状態に保持して外部との間で電気的なやりとりを行う密閉端子26を備え、収容構造体20の収容空間21には、蓄電デバイス34の測定面36を撮像する撮像部27と、測定面36を照明する照明部28と、が配設されている。この測定装置11では、蓄電デバイス34の測定面36をより安全に観察することができる。また、密閉端子26を用いて、密閉状態を保ちつつ、内部へ電力を供給し、あるいは内部の情報を外部へ出力することができる。そして、測定装置11は、試験構造体40の収容部48と収容構造体20は、中性子線が照射される部位が少なくともアルミニウム製であり、中性子イメージングに用いられるものである。この測定装置11では、2重の耐圧密閉構造を用いて、より安全に中性子イメージングによって、蓄電デバイス34の状態を検出することができる。そしてまた、試験構造体40の収容部48は、壁厚が10mm以上のアルミニウム製であり、試験構造体40は、収容空間21において中性子検出部19に近い背面に固定される。この測定装置11では、中性子の透過性の高いアルミニウムを用い、耐圧性を確保しつつ、中性子検出部19と蓄電デバイス34とがより近傍にあるため、中性子イメージングの検出精度をより高めることができる。そして更に、収容構造体20は、通気口22が形成されており、通気口22には、通気ライン23と、通気ライン23に接続された通気弁24と、収容空間21の圧力を計測する圧力計25とを有する。この測定装置11では、より安全に収容空間21の内圧を低減することができる。
【0030】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0031】
例えば、上述した実施形態では、測定システム10は、温度制御盤12、データロガー13、情報処理装置14などを備えるものとしたが、これらの1以上を省略してもよい。また、測定装置11は、中性子イメージングを測定するものとしたが、これを省略してもよい。このとき、中性子照射部18や中性子検出部19を省略することができ、収容構造体20の使用を省略してもよい。また、試験構造体40では、排気口51や排気ライン52などの構成を省略してもよいし、収容構造体20では、通気口22や通気ライン23などの構成を省略してもよい。試験構造体40のみで蓄電デバイス34の加熱試験を実行することができる。なお、中性子イメージングを実行しない場合は、加熱部41の固定位置は、試験構造体40の背面側に限られないし、試験構造体40の固定位置も収容構造体20の背面側に限られないし、アルミニウムではなくステンレス鋼などで形成してもよい。
【0032】
上述した実施形態では、蓄電デバイス34は、角形の外形を有するものとしたが、特にこれに限定されず、円柱状であってもよいし、ボタン型であってもよい。
【0033】
本開示は、以下の[1]~[11]のいずれかに示すものとしてもよい。
[1] 蓄電デバイスの加熱試験を行う試験構造体であって、
前記蓄電デバイスの複数の面に接触し該蓄電デバイスを加熱する加熱ブロックと、所定面側から前記加熱ブロックの少なくとも一部を押圧して前記蓄電デバイスを支持する支持部とを有する加熱部と、
前記蓄電デバイスを支持した前記加熱部を内部空間に密閉状態で収容し耐圧構造を有する収容部と、
前記収容部に配設され前記内部空間を密閉状態に保持して該内部空間と外部との間で電気的なやりとりを行う耐圧端子と、
を備えた試験構造体。
[2] 前記蓄電デバイスは、側面と該側面より広い面積の測定面とを有し、
前記加熱ブロックは、前記側面が入るガイドと前記測定面側に接触する係止爪とが形成されており、1つの前記側面に接触しスライド可能な加熱部材を有し、
前記支持部は、前記ガイドと、前記係止爪と、前記加熱部材を蓄電デバイス側へ押圧する位置決め部と、により構成されている、[1]に記載の試験構造体。
[3] 前記蓄電デバイスは、側面と該側面より広い面積の測定面とを有し、
前記加熱部は、前記側面側から前記蓄電デバイスを支持し、前記蓄電デバイスの測定面側には構造物が配設されない、[1]又は[2]に記載の試験構造体。
[4] 前記収容部には、前記蓄電デバイスの測定面を外部から観察可能な観察窓が形成されている、[1]~[3]のいずれか1つに記載の試験構造体。
[5] 前記耐圧端子には、前記加熱部への加熱用電力線、温度センサ及び前記蓄電デバイスの端子のうち1以上が電気的に接続されている、[1]~[4]のいずれか1つに記載の試験構造体。
[6] 前記収容部には、排気口が形成されており、該排気口には、排気ラインと、該排気ラインに接続された排気弁と、前記排気ラインに配設されたフィルタと、前記収容部の内圧を測定する圧力計と、を有する、[1]~[5]のいずれか1つに記載の試験構造体。
[7] 蓄電デバイスの加熱試験を行う測定装置であって、
[1]~[6]のいずれか1つに記載の試験構造体と、
前記試験構造体を収容空間に密閉状態で収容し耐圧構造を有する収容構造体と、
を備えた測定装置。
[8] [7]に記載の測定装置であって、
前記蓄電デバイスは、側面と該側面より広い面積の測定面とを有し、
前記試験構造体の前記収容部には、前記蓄電デバイスの測定面を外部から観察可能な観察窓が形成されており、
前記収容構造体は、前記試験構造体の耐圧端子に接続され前記収容空間を密閉状態に保持して外部との間で電気的なやりとりを行う密閉端子を備え、
前記収容構造体の収容空間には、前記蓄電デバイスの測定面を撮像する撮像部と、前記測定面を照明する照明部と、が配設されている、測定装置。
[9] [7]又は[8]に記載の測定装置であって、
前記試験構造体の収容部と前記収容構造体は、中性子線が照射される部位が少なくともアルミニウム製であり、中性子イメージングに用いられる、測定装置。
[10] 前記試験構造体の前記収容部は、壁厚が10mm以上のアルミニウム製であり、
前記試験構造体は、前記収容空間において前記中性子の検出部に近い背面に固定される、[7]~[9]のいずれか1つに記載の測定装置。
[11] 前記収容構造体は、通気口が形成されており、該通気口には、通気ラインと、該通気ラインに接続された通気弁と、前記収容空間の圧力を計測する圧力計と、を有する、[7]~[10]のいずれか1つに記載の測定装置。
【実施例0034】
以下には、測定システム10を具体的に作製し、測定結果を検証した例を実施例として説明する。
【0035】
[測定装置]
実施例では、図1~6で説明した構造を有する測定システム10を作製した。図7は、測定システム10の外観写真である。図8は、収容構造体20の内部写真である。図9は、試験構造体40の外観写真であり、図9Aが正面写真、図9Bが左側面写真、図9Cが右側面写真、図9Dが背面写真である。図10は、試験構造体40及び加熱部41の写真であり、図10Aが加熱部41の設置前の写真であり、図10Bが加熱部41の設置後の写真である。測定システム10は、上述した実施形態の測定装置11、温度制御盤12、データロガー13、情報処理装置14、中性子照射部18及び中性子検出部19により構成されている。
【0036】
[電池加熱試験実験]
(1)測定対象の準備
測定対象として、デジカメ用角型電池(Panasonic社製、35mm×35mm×6mm)を準備した。この電池は、リチウムイオン二次電池であり、正極にNCM系活物質を含む正極合材層とAl集電体とを有し、負極に黒鉛系活物質を含む負極合材層とCu集電体とを有する。この電池を0.1CでCCCV充電し、残容量SOC100%(4.2V)に調整した。このデジカメ電池は、電池表面のシールを剥離し、上下部のプラスティック、外部回路を除去し電池缶を露出させたものとした。正負極の端子にはニッケルリボンを抵抗溶接し、電圧端子とした。
【0037】
(2)電池設置
上記電池を加熱部のSUS製の加熱ブロックの間に上部から差し入れ、側面のスプリングプランジャ(位置決め部)をネジ入れして、加熱ブロックで押さえた。電池の電圧端子と内箱(試験構造体)の電圧端子を接続し、接続部をテープで絶縁した。加熱ブロックにヒータと熱電対(温度センサ)を差し込み、電池底部に電池温度測定用の熱電対(温度センサ)を差し込んだ。
【0038】
(3)試験構造体の準備
試験構造体の箱内に加熱部を設置し、背面側の壁面に接触するところで固定した。また、電池の測定面に温度センサとしての熱電対を配設し、電池温度を計測可能とした。配線の取り回しを確認し、中性子ビームが通るライン上に配線が無いようにテープ等で固定した。蓋部材を開口部に配置し、ボルトで締め付けた。また、試験構造体の排気口に接続された排気弁のコックを閉め、内部空間を密閉した。
【0039】
(4)外箱(収容構造体)の準備
試験構造体は、収容構造体の中性子ビームが通る下流側の壁面に一番近づけた状態で固定した。収容構造体の配線を試験構造体のコネクタに接続し、試験構造体のデジタル内圧計に配線を接続した。照明部であるLEDライトを点け、情報処理装置でカメラ映像を確認し、ピント及び画角を調整した。密閉扉を閉め、ボルトで締め付け、収容構造体の通気口に接続された通気弁のコックをすべて閉じ収容空間を密閉した。
【0040】
(5)加熱
加熱部のヒータに電力を供給し、温度制御盤による制御により、昇温速度5℃/分で測定対象の電池を加熱し、熱暴走するまで昇温した。撮像部としてのデジタルカメラにより観察窓からの画像を撮像し、熱電対により加熱ブロック及び電池表面の温度を検出した。
【0041】
(実験結果)
ヒータが差し込まれた加熱ブロックの加熱部材にそれぞれ熱電対が差し込まれており、この電池周りの3本の熱電対に追加して、電池缶の真ん中に熱電対を追加して電池温度を測定した。図11は、加熱試験時の温度変化の測定結果である。図11には、上記4本の熱電対の温度の変化を示した。図11に示すように、1530秒のところで電池缶の安全弁が開き、電解液が放出された。また2200秒のところで電池が熱暴走し、電池温度が大きく上昇した。電池缶の中心部に設置した熱電対は熱暴走によって瞬間的に1000℃近傍まで上昇し、その後降温した。このような挙動は、別途検討した、通常のオーブン加熱による一定昇温加熱試験と同じ挙動であった。図12は、蓄電デバイスの熱暴走時の観察写真である。熱暴走の瞬間を鮮明に映像でとらえることができた。
【0042】
表1には、熱暴走直前の各温度をまとめて示した。一方で、別途行った、通常のオーブン加熱試験で同じ電池を同じ条件(4.2V、一定昇温加熱試験5℃/分)で試験したときの熱暴走時のオーブン温度及び電池温度を表2にまとめた。このときのオーブン温度は、表2に示すように、212.0℃及び217.3℃に対して、今回の加熱試験チャンバでのヒータ温度は206.2℃、同じくヒータ温度を測定している過昇温防止用温度も212.5℃と、ほぼオーブン加熱試験のオーブン温度と同じであった。同様に、電池缶底温度も、表1に示すように、196.5℃と、通常加熱試験の電池温度196.0℃、198.8℃と、良い一致が得られた。一方、電池側面からの加熱であるため、電池缶中央温度は、電池缶底温度に対して60℃低い結果であった。ヒータに近い部分で熱暴走が発生し、電池全体に広がると考えられた。通常のオーブン試験では、オーブンの中に電池を入れて試験を行うため、電池全面が加熱され、比較的均一に熱が伝わる。一方、本開示の測定装置では、電池の側面と底面からの加熱であるため、通常の均一な加熱方法と同等の結果が得られるかが、重要な確認すべき性能であったが、図11、12に示す通り、オーブン加熱試験の結果を再現できたため、今回採用した加熱部による加熱方法でも均一な加熱を実現できており、問題ないと結論した。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
図13は、加熱試験時の試験構造体の内圧変化の測定結果である。なお、センサの仕様により、大気圧(1気圧)が0kPaとなっている。熱暴走直前まで内箱内部の温度上昇に伴い、ゆっくりと内圧が上昇し、熱暴走時に一気に内圧上昇し、160kPa(約2.6気圧)にまで到達し、すぐに圧力が50kPa(1.5気圧)程度まで低下して、その後ゆっくりと内圧が低下し続けた。事前に測定した熱暴走時の発生ガス量と温度による内圧上昇、試験構造体の内容積から推定される内箱の内圧は、120kPa前後であると予測されていたが、熱暴走時には予想を上回る160kPaにまで到達した。これは、熱暴走によってガスが発生するとともに内箱内部が瞬間的に温度上昇するためであると推察された。その後、熱暴走が終了すると温度は急激に低下した。特に内箱の空間全体の温度は、図11に示す電池温度よりも急速に降温すると考えられるので、その温度変化を反映した内圧変化になっているものと推察された。また、熱暴走後に緩やかに圧力が低下し続ける点も、内箱の温度が低下し続けるためであると推察された。試験時間の関係で十分に温度が低下するまで測定できなかったが、熱暴走後内圧が一定にはなっておらず、結論として内箱の耐圧は問題なく、ガスや粉末の漏れはないと判断した。なお、その後、温度が十分に低下するまで測定し、密閉が保たれていることを確認した。
【0046】
[中性子イメージング測定]
上述した測定装置の加熱部に固定した電池の中性子イメージング測定を行った。測定対象としての電池は、上記角形電池を用い、放電状態に調整した。中性子イメージングは、J-PARCのBL22(RADEN)において実施した。計測系として、50μm,6LiFZnSシンチレータ及びCMOSカメラを用いた。信号強度を増幅するため、光イメージングインテンシファイア(光II)を用いた。
【0047】
(測定結果)
図14は、中性子イメージングによる露光時間10秒と1秒での透過像である。露光時間10秒では像のコントラストはほぼ一様だったが、露光時間1秒では計数不足によると考えられるムラが見られた。図14中に示した線分の領域の透過率を図15に示した。図15は、中性子イメージングによる透過率の位置依存性の測定結果である。参照試料の60秒露光と比較すると、10秒露光のSNはほとんど悪化しなかった。一方、1秒露光ではSNが悪化した。この結果から10秒以上の露光で撮像可能であることが分かった。
【0048】
図16は、中性子イメージングによる初期電池の透過像である。図16には、透過率で色分けした透過像を示した。得られた画像では、気泡の存在と思われる高透過率部分が観測された。また、電池の下方に電解液の存在が確認された。以上から、加熱部に電池を固体した試験構造体およびそれを内包する収容構造体を備えた本開示の測定装置では、加熱試験装置内においても、十分な透過率、ノイズレベル、分解能で中性子イメージング測定が可能であることが確認された。したがって、この測定システムを用いれば、加熱試験中のLiの分布やその変化などを可視化しつつ、熱暴走に関する知見を得ることができることがわかった。
【0049】
中性子イメージング測定では中性子照射による放射化が起こるため、中性子を浴びた粒子などが系外に飛散しない構造である必要がある。本開示の測定装置は、耐圧密閉構造の内箱である試験構造体を有するため、熱暴走により生じた、例えば中性子を浴びて放射化しているヒュームや粉末が内箱外に漏れることを防止することができる。また、万が一漏れたとしても外箱である収容構造体の2重構造によって、これらの物質が系外に漏れることが防止される。また、排気口にフィルタを有するため、測定対象の熱暴走によって上昇した内圧を内部の物質を漏らすことなくリークすることができる。試験構造体は、耐圧構造であり、熱暴走の衝撃や温度によって密閉が損なわれることが防止される。内箱は石英ガラス製の窓を有しているため、外部から熱暴走の様を映像でモニターすることができる。中性子はアルミニウムを透過することから、中性子線が通るライン上には電池以外の装置構造がアルミニウムで形成されているため、耐圧構造でありながら十分な中性子イメージングの分解能を実現することができる。測定対象の電池は、加熱ブロックによって電池缶の側面の3面から加圧しながら加熱することにより、均一な加熱を実現することができる。また、測定面には構造物がないため、中性子イメージングの邪魔にもならない。例えば、一般的なヒートガンによる加熱では、加熱空気の当たり方によって、加熱が不均一になるうえ、加熱空気が電池以外にも広く影響を及ぼし、正確な計測が難しい。一方、本開示の加熱部では、加熱ブロックを電池に押し付けているため、加熱により電池缶が変形しても電池をしっかりと固定できる。電池缶は試験構造体の背面から5mm以内の場所に固定されており、高い解像度を実現することができる。また、この試験構造体は、中性子イメージングを行わずに収容構造体なしで、単独で加熱試験を実行することができる。試験構造体は、加熱部が簡素であり、コンパクト化を図ることができるため、持ち運び可能であり、様々な場所で加熱試験を行うことができる。
【0050】
なお、本明細書で開示する試験構造体及び測定装置は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本明細書で開示した測定装置は、電池の評価技術分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0052】
10 測定システム、11 測定装置、12 温度制御盤、13 データロガー、14 情報処理装置、15 制御部、16 記憶部、17 通信部、18 中性子照射部、19 中性子検出部、20 収容構造体、20a 本体部、21 収容空間、22 通気口、23 通気ライン、24 通気弁、25 圧力計、26 密閉端子、27 撮像部、28 照明部、29 密閉扉、30 電力線、31 ヒータ、32 温度センサ、34 蓄電デバイス、35 側面、36 測定面、37 電極端子、40 試験構造体、41 加熱部、42 加熱ブロック、43 支持部、44 ガイド、45 係止爪、46 加熱部材、47 位置決め部、48 収容部、49 内部空間、50 観察窓、51 排気口、52 排気ライン、53 排気弁、54 フィルタ、55 圧力計、56 耐圧端子、57 蓋部材、58 取っ手、59 基部、60 中性子ビーム、61 集電体、62 正極合材層、63 正極シート、64 集電体、65 負極合材層、66 負極シート、67 セパレータ、68 イオン伝導媒体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16