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特開2023-168084接着剤セット、並びに接着体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168084
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】接着剤セット、並びに接着体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 4/02 20060101AFI20231116BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20231116BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20231116BHJP
   C09J 7/30 20180101ALI20231116BHJP
【FI】
C09J4/02
C09J11/04
C09J11/06
C09J7/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079726
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】川守 崇司
(72)【発明者】
【氏名】松永 昌大
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4J004AA10
4J004AA17
4J004AA18
4J004AB04
4J004BA02
4J004EA05
4J004FA08
4J040DF032
4J040FA081
4J040FA102
4J040FA131
4J040HA096
4J040HA306
4J040HB22
4J040HD07
4J040HD39
4J040JA13
4J040JB02
4J040KA11
4J040KA42
4J040MA10
4J040NA17
4J040NA19
(57)【要約】
【課題】硬化時間を充分に短縮することができる接着剤組成物を調製することが可能な接着剤セットを提供すること。
【解決手段】接着剤セットが開示される。当該接着剤セットは、脱錯化剤を含有する主剤と、有機ボラン錯体、及び、複素環を有する(メタ)アクリルアミドを含有する開始剤と備える。主剤及び開始剤の少なくとも一方は、ラジカル重合性基を有する化合物をさらに含有する。主剤及び開始剤の少なくとも一方は、ハロゲン化金属塩及びチオカルボニルチオ構造を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含有する。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱錯化剤を含有する主剤と、
有機ボラン錯体、及び、複素環を有する(メタ)アクリルアミドを含有する開始剤と、
を備え、
前記主剤及び前記開始剤の少なくとも一方が、ラジカル重合性基を有する化合物をさらに含有し、
前記主剤及び前記開始剤の少なくとも一方が、ハロゲン化金属塩及びチオカルボニルチオ構造を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含有する、
接着剤セット。
【請求項2】
前記複素環を有する(メタ)アクリルアミドが、下記式(1)で表される化合物である、
請求項1に記載の接着剤セット。
【化1】

[式(1)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。
及びRは、それぞれ独立にアルキレン基を表す。]
【請求項3】
前記主剤が、ラジカル重合性基を有する化合物をさらに含有する、
請求項1又は2に記載の接着剤セット。
【請求項4】
第1の被着体と、
第2の被着体と、
前記第1の被着体及び前記第2の被着体を互いに接着する接着剤層と、
を備え、
前記接着剤層が、請求項1又は2に記載の接着剤セットにおける前記主剤及び前記開始剤を含む接着剤組成物の硬化物を含有する、
接着体。
【請求項5】
請求項4に記載の接着体の製造方法であって、
前記主剤及び前記開始剤を含む接着剤組成物を介して、前記第1の被着体と前記第2の被着体とを貼り合わせる工程を備える、
接着体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、接着剤セット、並びに接着体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン、ポリプロピレン等のプラスチック同士の接着剤として、有機ボラン錯体を含有する接着剤組成物が開示されている(例えば、特許文献1)。有機ボラン錯体は、脱錯化剤と混合することによって脱錯化して有機ボランを与える。有機ボランは、酸素と反応することによってラジカルを発生する開始剤として作用する。ここで発生するボリン酸ラジカルは、ラジカル重合性基を有する化合物の連鎖移動又は停止反応を抑制しながら表面グラフト化を含む成長反応を持続する原子移動ラジカル重合(ATRP)のドーマント種として作用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2005-514489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、接着剤組成物においては、プロセス適合性(取り扱い性)の観点から、充分な接着強度が得られるまでの時間(硬化時間)が短いことが求められている。しかしながら、従来の有機ボラン錯体を含有する接着剤組成物においては、硬化時間が極めて長く、未だ改善の余地がある。
【0005】
そこで、本開示は、硬化時間を充分に短縮することができる接着剤組成物を調製することが可能な接着剤セットを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の発明者らが上記課題を解決すべく検討したところ、複素環を有する(メタ)アクリルアミドを用いることによって、接着剤組成物の硬化時間を充分に短縮することができることを見出し、本開示の発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本開示は、以下の[1]及び[2]の接着剤セット、以下の[3]の接着体、並びに以下の[5]の接着体の製造方法を提供する。
[1]脱錯化剤を含有する主剤と、有機ボラン錯体、及び、複素環を有する(メタ)アクリルアミドを含有する開始剤とを備え、前記主剤及び前記開始剤の少なくとも一方が、ラジカル重合性基を有する化合物をさらに含有し、前記主剤及び前記開始剤の少なくとも一方が、ハロゲン化金属塩及びチオカルボニルチオ構造を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含有する、接着剤セット。
[2]前記複素環を有する(メタ)アクリルアミドが、下記式(1)で表される化合物である、[1]に記載の接着剤セット。
【化1】

[式(1)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。
及びRは、それぞれ独立にアルキレン基を表す。]
[3]前記主剤が、ラジカル重合性基を有する化合物をさらに含有する、[1]又は[2]に記載の接着剤セット。
[4]第1の被着体と、第2の被着体と、前記第1の被着体及び前記第2の被着体を互いに接着する接着剤層と、を備え、前記接着剤層が、[1]~[3]のいずれかに記載の接着剤セットにおける前記主剤及び前記開始剤を含む接着剤組成物の硬化物を含有する、接着体。
[5][4]に記載の接着体の製造方法であって、前記主剤及び前記開始剤を含む接着剤組成物を介して、前記第1の被着体と前記第2の被着体とを貼り合わせる工程を備える、接着体の製造方法。
【0008】
上記の接着剤セットによれば、硬化時間を充分に短縮することができる接着剤組成物を調製することが可能となる。このような効果が発現する理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは、例えば、有機ボラン錯体の有機ボランのp軌道と複素環を有する(メタ)アクリルアミドとの間に適度な相互作用が働くとともに、ハロゲン化金属塩の金属が複素環を有する(メタ)アクリルアミドと錯形成を起こして安定化し、ラジカル重合性基を有する化合物の成長反応の持続性が向上するためと推察している。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、硬化時間を充分に短縮することができる接着剤組成物を調製することが可能な接着剤セットが提供される。また、本開示によれば、このような接着剤セットを用いた接着体及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例1-1及び比較例1-1~1-3の硬化時間に対するせん断強度の変化を示すグラフである。
図2図2は、実施例2-1及び比較例2-1~2-3の硬化時間に対するせん断強度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について説明する。ただし、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本開示における数値及びその範囲についても同様であり、本開示を制限するものではない。本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0013】
本明細書において、(メタ)アクリルアミドは、アクリルアミド又はそれに対応するメタクリルアミドを意味する。(メタ)アクリレートは、アクリレート又はそれに対応するメタクリレートを意味する。(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリル共重合体等の他の類似表現についても同様である。また、以下で例示する材料は、特に断らない限り、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0014】
[接着剤セット]
一実施形態の接着剤セットは、脱錯化剤を含有する主剤と、有機ボラン錯体、及び、複素環を有する(メタ)アクリルアミドを含有する開始剤とを備える。本実施形態の接着剤セットは、主剤及び開始剤を混合することによって、主剤及び開始剤を含む接着剤組成物を得ることができる。
【0015】
主剤は、脱錯化剤を含有する。開始剤は、有機ボラン錯体、及び、複素環を有する(メタ)アクリルアミドを含有する。主剤及び開始剤の少なくとも一方は、ラジカル重合性基を有する化合物をさらに含有する。主剤及び開始剤の少なくとも一方は、ハロゲン化金属塩及びチオカルボニルチオ構造を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含有する。主剤及び開始剤の少なくとも一方は、フィラー、可塑剤等のいずれかをさらに含有していてもよい。以下、各成分について説明する。
【0016】
(有機ボラン錯体)
開始剤は、有機ボラン錯体を含有する。有機ボラン錯体とは、有機ボランにルイス塩基を配位させて錯体化した、有機ボラン-ルイス塩基錯体を意味する。有機ボラン-ルイス塩基錯体は、後述の脱錯化剤と反応して、有機ボランを与える化合物である。有機ボランは、酸素存在下でラジカル開裂を生じ、ボリン酸ラジカル等が発生することから、リビングラジカル重合の開始剤として作用し得る。有機ボランは、例えば、アルキルボラン(BR、R:アルキル基)であってよい。ルイス塩基は、例えば、アミンであってよい。アミンは、例えば、複数のアミノ基を有する化合物、又は、アミンを構成するアミノ基と、当該アミノ基の窒素原子以外に、ホウ素に配位可能な原子(例えば、酸素原子等)を含む基(例えば、アルコキシ基等)とを少なくとも有する化合物であってよい。これらの化合物は、有機ボランに対して多座型配位子として作用することから、多座型アミンということができる。
【0017】
有機ボラン錯体は、アルキルボラン-アミン錯体であってよく、アルキルボラン-多座型アミン錯体であってもよい。有機ボラン錯体としては、例えば、トリエチルボラン-1,3-ジアミノプロパン錯体、トリエチルボラン-ジエチレントリアミン錯体、トリ-n-ブチルボラン-3-メトキシ-1-プロピルアミン錯体、トリ-n-ブチルボラン-1,3-ジアミノプロパン錯体、トリイソブチルボラン-1,3-ジアミノプロパン錯体、トリエチルボラン-1,6-ジアミノヘキサン錯体、トリイソブチルボラン-1,3-ジアミノプロパン錯体、トリイソブチルボラン-1,6-ジアミノヘキサン錯体が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、有機ボラン錯体は、トリエチルボラン-1,3-ジアミノプロパン錯体又はトリ-n-ブチルボラン-3-メトキシ-1-プロピルアミン錯体であってよい。有機ボラン錯体は、市販品を用いても合成品を用いてもよい。
【0018】
有機ボラン錯体の含有量は、接着強度発現の観点から、開始剤の全量を基準として、0.1質量%以上、1質量%以上、3質量%以上、又は5質量%以上であってよい。有機ボラン錯体の含有量は、保存安定性の観点から、開始剤の全量を基準として、30質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、又は10質量%以下であってよい。
【0019】
有機ボラン錯体の含有量は、接着強度発現の観点から、主剤及び開始剤の合計量を基準として、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上、又は0.2質量%以上であってよい。有機ボラン錯体の含有量は、接着剤層の靭性の観点から、主剤及び開始剤の合計量を基準として、10質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、又は1質量%以下であってよい。
【0020】
有機ボラン錯体の含有量は、接着強度発現の観点から、ラジカル重合性基を有する化合物の全量を基準として、0.01モル%以上、0.05モル%以上、0.1モル%以上、又は0.5モル%以上であってよい。有機ボラン錯体の含有量は、接着剤層の靭性の観点から、ラジカル重合性基を有する化合物の全量を基準として、10モル%以下、5モル%以下、2モル%以下、又は1モル%以下であってよい。
【0021】
(複素環を有する(メタ)アクリルアミド)
開始剤は、複素環を有する(メタ)アクリルアミドを含有する。複素環を有する(メタ)アクリルアミドは、有機ボラン錯体の安定化に作用し得るとともに、接着剤セットの安定化に寄与し得る安定化剤であり得る。
【0022】
複素環を有する(メタ)アクリルアミドは、複素環を有するのであれば特に制限されないが、窒素原子を含む複素環を有する(メタ)アクリルアミドであってよく、複素環中の当該窒素原子が(メタ)アクリルアミドの窒素原子である(メタ)アクリルアミドであってもよい。複素環を有する(メタ)アクリルアミドは、複素環を有するアクリルアミドであってよい。
【0023】
複素環を有する(メタ)アクリルアミドの複素環は、四員環以上又は五員環以上であってよく、八員環以下又は七員環以下であってよい。複素環を有する(メタ)アクリルアミドの複素環は、例えば、六員環であってもよい。
【0024】
複素環を有する(メタ)アクリルアミドは、例えば、下記式(1)で表される化合物であってよい。
【0025】
【化2】
【0026】
は、水素原子又はメチル基を表す。Rは、水素原子であってよい。
【0027】
及びRは、それぞれ独立にアルキレン基を表す。アルキレン基の炭素原子数は、1~20、1~10、1~6、又は1~3であってよい。アルキレン基は、直鎖アルキレン基又は分岐アルキレン基のいずれであってもよい。直鎖アルキレン基の炭素原子数は、通常、1~20であり、1~10、1~6、又は1~3であってよい。分岐アルキレン基の炭素原子数は、通常、3~20であり、3~10又は3~6であってよい。
【0028】
直鎖アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピルレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等が挙げられる。分岐アルキレン基としては、イソプロピレン基、イソブチレン基、ジメチルプロピレン基等が挙げられる。これらの中でも、アルキレン基とは、エチレン基であってよい。
【0029】
アルキレン基の水素原子の一部は、置換基によって置換されていてもよい。本明細書において、置換基とは、有機化学の分野で一般的に取り得る基を意味する。置換基の具体例としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、アミノ基等が挙げられる。
【0030】
窒素原子を含む複素環は、例えば、モルホリン環であってよい。すなわち、複素環を有する(メタ)アクリルアミドは、4-(メタ)アクリロイルモルホリンであってよく、4-アクリロイルモルホリン(ACMO)であってもよい。
【0031】
なお、複素環を有する(メタ)アクリルアミドは、ラジカル重合性基を有することから、後述のラジカル重合性基を有する化合物((メタ)アクリルアミド誘導体)としても作用し得る。
【0032】
複素環を有する(メタ)アクリルアミド(安定化剤)の含有量は、接着剤組成物の硬化時間の短縮の観点から、開始剤の全量を基準として、0.1質量%以上、1質量%以上、3質量%以上、又は5質量%以上であってよい。複素環を有する(メタ)アクリルアミドの含有量は、開始剤の全量を基準として、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、又は15質量%以下であってよい。
【0033】
複素環を有する(メタ)アクリルアミド(安定化剤)の含有量は、接着剤組成物の硬化時間の短縮の観点から、主剤及び開始剤の合計量を基準として、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上、又は0.5質量%以上であってよい。複素環を有する(メタ)アクリルアミドの含有量は、接着剤層の靭性の観点から、主剤及び開始剤の合計量を基準として、10質量%以下、7質量%以下、5質量%以下、又は3質量%以下であってよい。
【0034】
複素環を有する(メタ)アクリルアミド(安定化剤)の含有量は、接着剤組成物の硬化時間の短縮の観点から、ラジカル重合性基を有する化合物の全量を基準として、0.01モル%以上、0.05モル%以上、0.1モル%以上、又は0.5モル%以上であってよい。複素環を有する(メタ)アクリルアミドの含有量は、接着剤層の靭性の観点から、ラジカル重合性基を有する化合物の全量を基準として、10モル%以下、7モル%以下、5モル%以下、又は3モル%以下であってよい。
【0035】
(脱錯化剤)
主剤は、脱錯化剤を含有する。脱錯化剤とは、有機ボラン錯体(有機ボラン-ルイス塩基錯体)中のルイス塩基を解離させて有機ボランを発生させることができる化合物である。そのため、開始剤に含有される有機ボラン錯体と主剤に含有される脱錯化剤とを混合して反応させることによって、リビングラジカル重合の開始剤となり得る有機ボランを発生させることができる。
【0036】
脱錯化剤としては、例えば、酸、酸無水物、アルデヒド、β-ケトン化合物等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。酸としては、例えば、SnCl、TiCl等のルイス酸、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸等のブレンステッド酸などが挙げられる。酸無水物としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸等が挙げられる。アルデヒドとしては、例えば、ベンズアルデヒド、o-、m-、及びp-ニトロベンズアルデヒド等が挙げられる。β-ケトン化合物としては、例えば、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸t-ブチル、アセト酢酸2-メタクリロイルオキシエチル等が挙げられる。これらの中でも、脱錯化剤は、有機ボラン錯体との脱錯化の反応性及び開始剤の保存安定性の観点から、酸無水物であってよく、脱錯化剤の配合質量抑制の観点から、無水コハク酸又は無水マレイン酸であってもよく、無水マレイン酸であってもよい。
【0037】
脱錯化剤の含有量は、接着剤組成物の硬化時間の短縮の観点から、主剤の全量を基準として、0.01質量%以上、0.1質量%以上、0.2質量%以上、又は0.3質量%以上であってよい。脱錯化剤の含有量は、接着剤組成物を被着体に塗布してから貼り合せるまでの作業時間の確保の観点から、主剤の全量を基準として、10質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、又は1質量%以下であってよい。
【0038】
脱錯化剤の含有量は、接着剤組成物の硬化時間の短縮の観点から、主剤及び開始剤の合計量を基準として、0.01質量%以上、0.1質量%以上、0.2質量%以上、又は0.3質量%以上であってよい。脱錯化剤の含有量は、接着剤組成物を被着体に塗布してから貼り合せるまでの作業時間の確保の観点から、主剤及び開始剤の合計量を基準として、10質量%以下、7質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、又は1質量%以下であってよい。
【0039】
有機ボラン錯体に対する脱錯化剤のモル量比(脱錯化剤のモル量/有機ボラン錯体のモル量)は、例えば、0.3以上、0.5以上、0.8以上、又は1以上であってよい。当該モル量比が1以上であると、より充分な接着強度が得られる傾向にある。有機ボラン錯体に対する脱錯化剤のモル量比(脱錯化剤のモル量/有機ボラン錯体のモル量)は、例えば、50以下、30以下、10以下、7以下、5以下、又は3以下であってよい。当該モル量比が小さくなるほど、接着剤組成物を被着体に塗布してから貼り合せるまでの作業時間をより充分に確保できる傾向にある。
【0040】
(ラジカル重合性基を有する化合物)
主剤及び開始剤の少なくとも一方は、ラジカル重合性基を有する化合物をさらに含有する。ラジカル重合性基を有する化合物は、ラジカルによって反応する重合性基を有する化合物である。ラジカル重合性基としては、例えば、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基、スチリル基、アルケニル基、アルケニレン基、マレイミド基等が挙げられる。
【0041】
ラジカル重合性基を有する化合物は、例えば、(メタ)アクリロイル基を有する化合物を含んでいてもよい。(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、例えば、(メタ)アクリロイル基を1つ有する単官能(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する多官能(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド誘導体等が挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリロイル基を有する化合物は、(メタ)アクリロイル基を1つ有する単官能(メタ)アクリレートであってよい。
【0042】
単官能(メタ)アクリレートとしては、(メタ)アクリル酸;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート(n-ラウリル(メタ)アクリレート)、イソミリスチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリルアクリレート等のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート;3-ブテニル(メタ)アクリレート等のアルケニル基を有するアルケニル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の芳香族基を有する(メタ)アクリレート;メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシオクタエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシノナエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシヘプタプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の脂環式基を有する(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリレート;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基を有する(メタ)アクリレート;2-(2-メタクリロイルオキシエチルオキシ)エチルイソシアネート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート等のイソシアネート基を有する(メタ)アクリレート;テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ヘキサエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクタプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクタプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;シロキサン骨格を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノール(メタ)アクリレート、エトキシ化2-メチル-1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート等の脂肪族(メタ)アクリレート;エトキシ化ビスフェノールA型ジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ビスフェノールA型ジ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化ビスフェノールA型ジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールF型ジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ビスフェノールF型ジ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化ビスフェノールF型ジ(メタ)アクリレート、エトキシ化フルオレン型ジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化フルオレン型ジ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化フルオレン型ジ(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート;ビスフェノール型エポキシ(メタ)アクリレート、フェノールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート、クレゾールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート等の芳香族エポキシ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
(メタ)アクリルアミド誘導体としては、例えば、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、4-(メタ)アクリロイルモルホリン等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
ラジカル重合性基を有する化合物は、例えば、(メタ)アクリロイル基を有する化合物に加えて、これらと共重合可能な共重合化合物を含んでいてもよい。共重合化合物としては、例えば、スチレン、4-メチルスチレン、ビニルピリジン、ビニルピロリドン、酢酸ビニル、シクロヘキシルマレイミド、フェニルマレイミド等の(メタ)アクリロイル基以外のラジカル重合性基を有する化合物などが挙げられる。
【0046】
ラジカル重合性基を有する化合物は、主剤及び開始剤の少なくとも一方に含有されていればよく、例えば、主剤が、ラジカル重合性基を有する化合物を含有していてもよい。
【0047】
ラジカル重合性基を有する化合物の含有量は、接着剤層の靭性向上及び接着強度の向上の観点から、主剤及び開始剤の合計量を基準として、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、又は65質量%以上であってよい。ラジカル重合性基を有する化合物の含有量は、塗布した接着剤組成物のダレ抑制及び接着剤層の靭性低下の抑制の観点から、主剤及び開始剤の合計量を基準として、99質量%以下、98質量%以下、95質量%以下、90質量%以下、85質量%以下、又は80質量%以下であってよい。
【0048】
(重合制御剤)
主剤及び開始剤の少なくとも一方は、重合制御剤としての、ハロゲン化金属塩及びチオカルボニルチオ構造を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含有する。
【0049】
ハロゲン化金属塩としては、例えば、臭化銅(II)、塩化銅(II)、臭化鉄(III)、臭化バナジウム(III)、臭化クロム(III)、臭化ルテニウム(III)、臭化銅(I)、臭化鉄(II)、臭化マンガン(II)、臭化コバルト(II)、臭化ニッケル(II)、臭化パラジウム(II)等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ハロゲン化金属塩は、例えば、臭化銅(II)であってよい。
【0050】
チオカルボニルチオ構造を有する化合物は、チオカルボニルチオ構造を有しているのであれば特に制限なく用いることでき、例えば、RAFT重合(Reversible Addition/Fragmentation Chain Transfer)の分野で使用される連鎖移動剤(RAFT剤)を好適に用いることができる。
【0051】
重合制御剤は、主剤及び開始剤の少なくとも一方に含有されていればよく、例えば、主剤が、重合制御剤を含有していてもよい。
【0052】
重合制御剤の含有量は、接着剤組成物を被着体に塗布してから貼り合せるまでの作業時間の確保及び接着強度の向上の観点から、主剤及び開始剤の合計量を基準として、0.01質量%以上、0.02質量%以上、0.03質量%以上、又は0.05質量%以上であってよい。重合制御剤の含有量は、主剤の保存安定性の観点から、主剤及び開始剤の合計量を基準として、5質量%以下、3質量%以下、1質量%以下、0.5質量%以下、又は0.1質量%以下であってよい。
【0053】
重合制御剤の含有量は、接着剤組成物を被着体に塗布してから貼り合せるまでの作業時間の確保及び接着強度の向上の観点から、ラジカル重合性基を有する化合物の全量を基準として、0.01モル%以上、0.03モル%以上、0.05モル%以上、又は0.08モル%以上であってよい。重合制御剤の含有量は、主剤の保存安定性の観点から、ラジカル重合性基を有する化合物の全量を基準として、5モル%以下、3モル%以下、1モル%以下、0.7モル%以下、0.5モル%以下、又は0.2モル%以下であってよい。
【0054】
(フィラー)
フィラーは、例えば、無機フィラー又は有機フィラーのいずれかであってよい。無機フィラーとしては、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、ベントナイト、マイカ、セリサイト、ガラスフレーク、ガラス繊維、黒鉛、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、硫酸バリウム、ホウ酸亜鉛、ウォラストナイト、ゾノトライト、ウィスカー等の無機微粒子などが挙げられる。フィラーとして無機フィラーを用いる場合、無機フィラーは、シリカフィラーを含んでいてもよい。
【0055】
有機フィラーとしては、例えば、シリコーン、アクリルシリコーン、アクリルゴム、MBS(メタクリレート・ブタジエン・スチレン)、ポリアミド、ポリイミド等の有機微粒子などが挙げられる。これらのフィラー(微粒子)は、均一な構造を有していてもよく、コアシェル型構造を有していてもよい。フィラーとして有機フィラーを用いる場合、有機フィラーは、アクリル系コアシェル粒子を含んでいてもよい。
【0056】
有機フィラーは、当該有機フィラー中に酸化防止剤を含む場合がある。有機フィラー中の酸化防止剤の含有量は、例えば、15000質量ppm以下、10000質量ppm以下、5000質量ppm以下、又は3000質量ppm以下であってよい。
【0057】
フィラーは、主剤及び開始剤の少なくとも一方に含有されていればよい。例えば、主剤は、有機フィラーを含むフィラーを含有していてもよく、アクリル系コアシェル粒子を含むフィラーを含有していてもよい。また、例えば、開始剤は、無機フィラーを含むフィラーを含有していてもよく、シリカフィラーを含むフィラーを含有していてもよい。
【0058】
フィラーの含有量は、主剤及び開始剤の合計量を基準として、1質量%以上、3質量%以上、又は5質量%以上であってよく、40質量%以下、30質量%以下、又は30質量%以下であってよい。
【0059】
(可塑剤)
可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル系化合物、アルキルスルホン酸エステル系化合物、アジピン酸エステル系化合物等が挙げられる。
【0060】
可塑剤は、主剤及び開始剤の少なくとも一方に含有されていてもよい。
【0061】
可塑剤の含有量は、主剤及び開始剤の合計量を基準として、0.1質量%以上、0.3質量%以上、又は1.0質量%以上であってよく、30質量%以下、20質量%以下、又は10質量%以下であってよい。
【0062】
主剤及び開始剤の少なくとも一方は、上記の成分に加えて、架橋剤、紫外線吸収剤、脱水剤、顔料、染料、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、接着性付与剤、分散剤、溶剤等をさらに含有していてもよい。
【0063】
本実施形態の接着剤セットは、主剤と開始剤とを混合することによって、接着剤組成物を調製することができる。主剤と開始剤とを混合するときの温度は、例えば、10~35℃であってよい。接着剤セットの可使時間は、例えば、0.1~10分間であってよい。
【0064】
主剤と開始剤とを混合する場合、開始剤における有機ボラン錯体に対する主剤における脱錯化剤のモル量比(脱錯化剤のモル量/有機ボラン錯体のモル量)が、0.3以上、0.5以上、0.8以上、又は1以上となるように、あるいは50以下、30以下、10以下、7以下、5以下、又は3以下となるように混合することが好ましい。
【0065】
主剤と開始剤とを混合する場合、開始剤に対する主剤の質量比(主剤の質量/開始剤の質量)が、例えば、1以上、3以上、又は5以上となるように、あるいは200以下、100以下、又は50以下となるように混合することが好ましい。
【0066】
主剤と開始剤とを混合する方法は、両者が混合されるのであれば特に制限されない。主剤と開始剤とを混合する方法としては、例えば、手動で混合する方法、通常のコーキングガン等を用いて手塗りによって混合する方法、原料の送液用に定量性のあるポンプ(例えば、ギヤポンプ、プランジャーポンプ等)と絞り弁とを併用し、機械式回転ミキサー、スタティックミキサー等を用いて混合する方法が挙げられる。また、主剤と開始剤とを別々に配置し、それぞれからノズル等へ送液し、ノズル等の内部で両者が混合され、ノズル先端から吐出される機構を有する、ディスペンサー、ハンドガン等を用いることで、両者の混合と後述する接着剤組成物の塗布とを連続して実施してもよい。
【0067】
調製された接着剤組成物は、所定の箇所に塗布することによって接着剤層を形成することができる。形成された接着剤層は、徐々にラジカル重合性基を有する化合物が高分子量化して硬化することから、基材同士を接着する接着剤層として作用する。所定の箇所に塗布する方法は、ディスペンサー等を用いる方法等の従来公知の方法を適用することができる。
【0068】
接着剤組成物を硬化させる条件は、例えば、硬化温度10~35℃で、硬化時間24~96時間であってよい。
【0069】
[接着体及びその製造方法]
一実施形態の接着体は、第1の被着体と、第2の被着体と、第1の被着体及び第2の被着体を互いに接着する接着剤層とを備える。接着剤層は、上記の接着剤セットにおける主剤及び開始剤を含む接着剤組成物の硬化物を含有する。
【0070】
第1の被着体及び第2の被着体としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレンコポリマー(ABS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)、ポリ(メタクリル酸メチル(PMMA)、ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリウレタン(PUR)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリエチレン(PE)、エチレン/プロピレンコポリマー(EPM)、エチレン/プロピレン/ジエンポリマー(EPDM)等のプラスチック基板、アルミニウム、鋼、銅、ステンレス等の金属基板などが挙げられる。
【0071】
接着体としては、例えば、プラスチック積層基板、金属積層基板、電子部品、半導体部品、ディスプレイ部品等が挙げられる。
【0072】
一実施形態の接着体の製造方法は、主剤及び開始剤を含む接着剤組成物を介して、第1の被着体と第2の被着体とを貼り合わせる工程を備える。接着剤セットにおける主剤と開始剤とを混合するときの温度、接着剤組成物を硬化させる条件等は、上記と同様であってよい。
【実施例0073】
以下、本開示について、実施例を挙げてより具体的に説明する。ただし、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。
【0074】
<実施例1-1、2-1及び比較例1-1~1-3、2-1~2-3>
[接着剤セットの作製]
(原料の準備)
・有機ボラン錯体
TEB-DAP:トリエチルボラン-1,3-ジアミノプロパン錯体(分子量:172.1、キシダ化学株式会社)
・安定化剤
ACMO:4-アクリロイルモルホリン(分子量:141.2、KJケミカルズ株式会社)
DMAPAA:N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミド(分子量:156.2、富士フイルム和光純薬株式会社)
Ace-MO:4-アセチルモルホリン(分子量:129.2、東京化成工業株式会社)
Bu-MO:4-イソブチルモルホリン(分子量:143.2、東京化成工業株式会社)
・脱錯化剤
無水マレイン酸(分子量:98.1、富士フイルム和光純薬株式会社)
無水コハク酸(分子量:100.1、富士フイルム和光純薬株式会社)
・ラジカル重合性基を有する化合物(重合性化合物)
FA-513AS:ジシクロペンタニルアクリレート(分子量:206.3、昭和電工マテリアルズ株式会社)
FA-310A:フェノキシエチルアクリレート(分子量:192.2、昭和電工マテリアルズ株式会社)
DMAA:N,N-ジメチルアクリルアミド(分子量:99.1、富士フイルム和光純薬株式会社)
・重合制御剤
臭化銅(II)(分子量:223.4、富士フイルム和光純薬株式会社)
・フィラー
RY200S:フュームドシリカ(シリコーンオイルで表面処理された疎水性フュームドシリカ、日本アエロジル株式会社)
M210:アクリル系コアシェル粒子(株式会社カネカ、酸化防止剤未検出)
・可塑剤
PN-5090:アジピン酸ポリエステル(株式会社ADEKA)
【0075】
(主剤の調製)
表1及び表2に示す種類及び割合(単位:質量部)で、脱錯化剤、ラジカル重合性基を有する化合物、重合制御剤、及びフィラーを、ポリ瓶に秤取し、自公転ミキサー(株式会社シンキー、あわとり錬太郎)を用いて、2000回転/分の条件で15分間混合し、さらに2000回転/分条件で5分間脱泡し、実施例1-1、2-1及び比較例1-1~1-3、2-1~2-3の主剤を調製した。なお、実施例1-1及び比較例1-1~1-3の主剤は同一であり、実施例2-1及び比較例2-1~2-3の主剤は同一である。
【0076】
(開始剤の調製)
表1及び表2に示す種類及び割合(単位:質量部)で、有機ボラン錯体、安定化剤、可塑剤、及びフィラーを、ポリ瓶に秤取し、自公転ミキサー(株式会社シンキー、あわとり錬太郎)を用いて、2000回転/分条件で15分間混合し、さらに2000回転/分の条件で5分間脱泡し、実施例1-1、2-1及び比較例1-1~1-3、2-1~2-3の開始剤を調製した。
【0077】
[接着強度の測定]
ポリプロピレン基板(大きさ:100mm×25mm、厚さ:2mm)を2枚準備した。一方のポリプロピレン基板上に、接着剤組成物の塗布領域が、厚さ0.5mm、ポリプロピレン基板の長手方向に対して12.5mm、ポリプロピレン基板の短手方向に対して25mmとなるように、厚さ0.5mmのスペーサーを配置した。各主剤及び各開始剤を手動ディスペンサーに充填することによって主剤及び開始剤を混合した。手動ディスペンサーを用いて、スペーサーを配置したポリプロピレン基板の接着剤塗布領域に塗布し、もう一方のポリプロピレン基板を貼り合わせて積層体を得た。積層体は複数作製した。得られた積層体を25℃で放置し、所定の時間経過ごとにせん断強度を測定し、硬化時間に対するせん断強度の変化を求めた。せん断試験は、室温(25℃)で、オートグラフ(株式会社島津製作所製、型番:AGS X Plus、ロードセル:50kN)を用い、チャック間距離100mm、引張り速度5mm/分の条件で測定した。破断したときの強度を測定し、測定値と接着面積とからせん断接着強度(MPa)を算出した。結果を図1及び図2に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
図1は、実施例1-1及び比較例1-1~1-3の硬化時間に対するせん断強度の変化を示すグラフである。図2は、実施例2-1及び比較例2-1~2-3の硬化時間に対するせん断強度の変化を示すグラフである。図1及び図2に示すとおり、複素環を有する(メタ)アクリルアミドを含有する実施例の接着剤組成物は、このような化合物を含有しない比較例の接着剤組成物に比べて、硬化時間が短くなっていた。これらの結果から、本開示の接着剤セットが、硬化時間を充分に短縮することができる接着剤組成物を調製することが可能であることが確認された。
図1
図2