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特開2023-168513リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極材スラリー、リチウムイオン二次電池用負極、及びリチウムイオン二次電池
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  • 特開-リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極材スラリー、リチウムイオン二次電池用負極、及びリチウムイオン二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168513
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極材スラリー、リチウムイオン二次電池用負極、及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20231116BHJP
【FI】
H01M4/587
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023172233
(22)【出願日】2023-10-03
(62)【分割の表示】P 2020557405の分割
【原出願日】2018-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土屋 秀介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 力
(57)【要約】
【課題】非晶質炭素で被覆されていなくても電池特性を向上しうるリチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極材スラリー、リチウムイオン二次電池用負極、及びリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】酸素含有率が0.15質量%以下の炭素粒子を含む、リチウムイオン二次電池用負極材。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素含有率が0.15質量%以下の炭素粒子を含む、リチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項2】
前記炭素粒子のR値は0.45以下である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項3】
前記炭素粒子の菱面体晶量は0.20より大きい、請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項4】
前記炭素粒子は円形度が0.8より大きい、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項5】
前記炭素粒子は示差熱分析において500℃~650℃の範囲にDTA発熱ピークが検出されない、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項6】
前期炭素粒子の窒素ガス吸着法で測定される比表面積は、4.0m/g以上である請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材と、有機結着剤と、溶媒とを含むリチウムイオン二次電池用負極材スラリー。
【請求項8】
集電体と、前記集電体上に形成された請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材を含む負極材層と、を有するリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項9】
正極と、電解質と、請求項8に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、を有するリチウムイオン二次電池。
【請求項10】
炭素粒子の温度が400℃~1300℃になるように加熱する工程と、前記加熱後の炭素粒子の温度が400℃未満になるまで冷却する工程とを含み、前記加熱及び冷却をそれぞれ非酸化雰囲気中で行う、リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項11】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造のための、請求項10に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極材スラリー、リチウムイオン二次電池用負極、及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、ニッケル・カドミウム電池、ニッケル・水素電池、鉛蓄電池等の他の二次電池に比べてエネルギー密度が高いため、ノートパソコン、携帯電話等の携帯電化製品用の電源として広く用いられている。また、比較的小型の電化製品のみならず、電気自動車、蓄電用電源等へのリチウムイオン二次電池の利用の拡大が近年著しい。
【0003】
リチウムイオン二次電池の負極材としては、黒鉛の高容量という特性を活かしつつ、充放電速度の向上、電解液との副反応抑制等の特性を付与する目的で、黒鉛粒子の表面を非晶質炭素で被覆したものが知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-196609号公報
【特許文献2】特開平11-354122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
黒鉛粒子の表面を黒鉛よりも硬質な非晶質炭素で被覆した負極材は、電極作製時に高圧でプレスすると非晶質炭素の被覆に亀裂が生じ、これが電解液との反応を生じる原因となって電極の膨張を引き起こす場合がある。したがって、非晶質炭素の被覆によらずに電池特性を向上しうる負極材の開発が望まれている。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明の一態様は、非晶質炭素で被覆されていなくても電池特性を向上しうるリチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極材スラリー、リチウムイオン二次電池用負極、及びリチウムイオン二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための具体的手段には以下の実施態様が含まれる。
<1>酸素含有率が0.15質量%以下の炭素粒子を含む、リチウムイオン二次電池用負極材。
<2>前記炭素粒子のR値は0.45以下である、<1>に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<3>前記炭素粒子の菱面体晶量は0.20より大きい、<1>又は<2>に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<4>前記炭素粒子は円形度が0.8より大きい、<1>~<3>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<5>前記炭素粒子は示差熱分析において500℃~650℃の範囲にDTA発熱ピークが検出されない、<1>~<4>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<6>前期炭素粒子の窒素ガス吸着法で測定される比表面積は、4.0m/g以上である<1>~<5>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<7><1>~<6>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材と、有機結着剤と、溶媒とを含むリチウムイオン二次電池用負極材スラリー。
<8>集電体と、前記集電体上に形成された<1>~<6>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材を含む負極材層と、を有するリチウムイオン二次電池用負極。
<9>正極と、電解質と、<8>に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、を有するリチウムイオン二次電池。
<10>炭素粒子の温度が400℃~1300℃になるように加熱する工程と、前記加熱後の炭素粒子の温度が400℃未満になるまで冷却する工程とを含み、前記加熱及び冷却をそれぞれ非酸化雰囲気中で行う、リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
<11><1>~<6>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造のための、<10>に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、非晶質炭素で被覆されていなくても電池特性を向上しうるリチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極材スラリー、リチウムイオン二次電池用負極、及びリチウムイオン二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】プレス性の評価で使用した装置の構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合、原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において各成分に該当する粒子は複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本開示において「層」又は「膜」との語には、当該層又は膜が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
【0011】
<リチウムイオン二次電池用負極材>
本開示のリチウムイオン二次電池用負極材(以下、単に負極材とも称する)は、酸素含有率が0.15質量%以下の炭素粒子を含む。
上記構成を有する負極材は、炭素粒子が非晶質炭素で被覆されていなくても、これを負極材として用いたリチウムイオン二次電池の性能(特に、保存特性)が良好に維持される。その理由は必ずしも明らかではないが、下記のように推測される。
【0012】
炭素粒子が黒鉛粒子である場合、これを構成する黒鉛のエッジ部には、-OH(ヒドロキシ基)、>C=O(カルボニル基)、-COOH(カルボキシ基)等の酸素含有官能基が存在し、これらの酸素含有官能基が電解液と反応すると考えられる。そこで、黒鉛のエッジ部に存在する酸素含有官能基の量を一定範囲以下とすることで、電解液との反応が抑制され、ひいては電池の保存特性が良好に維持されると考えられる。
【0013】
さらに、酸素含有率が0.15質量%以下である炭素粒子を用いたリチウムイオン二次電池は、酸素含有率が0.15質量%を超える炭素粒子を用いた電池に比べ、充放電効率が向上する。これは、黒鉛のエッジ部に存在する酸素含有官能基がエッジ面からのリチウムイオンの挿入及び脱離の障壁として機能するところ、酸素含有官能基の量が低減することで、リチウムイオンの挿入及び脱離が容易になるためと考えられる。
【0014】
本開示において炭素粒子の酸素含有率は、赤外線吸収法により測定される値である。測定は、後述する実施例に記載した方法で行う。
炭素粒子の酸素含有率は、例えば、後述する負極材の製造方法に記載したように、酸素含有官能基が分解する温度で炭素粒子を加熱することで、0.15質量%以下にすることができる。炭素粒子の酸素含有率は、0.12質量%以下であることが好ましく、0.10質量%以下であることがより好ましく、0.07質量%以下であることがより好ましく、0.04質量%以下であることがさらに好ましい。
【0015】
炭素粒子の酸素含有率の下限値は特に制限されないが、高温保存特性と入出力特性を両立し易くする観点から、0.005質量%以上であることが好ましく、0.007質量%以上であることがより好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.015質量%以上であることがより好ましく、0.02質量%以上であることがさらに好ましい。
【0016】
炭素粒子としては、天然黒鉛粒子、人造黒鉛粒子等の黒鉛粒子が好ましい。黒鉛粒子の中でも、天然黒鉛の鱗片状粒子は結晶子が大きく高容量である観点でより好ましい。天然黒鉛は、鉱石からの生成及び加工の工程で酸素含有官能基を含有しやすい傾向にある。このため、天然黒鉛粒子の酸素含有率を0.15質量%以下とすることは、電解液との反応抑制及び充放電効率向上の観点から有利である。
【0017】
炭素粒子としては、鱗状、鱗片状、薄片状、塊状等の形状を有する炭素粒子、扁平な黒鉛粒子を球形化して得られる球状黒鉛等の球状粒子が挙げられ、球状粒子が好ましい。球状粒子は、扁平な炭素粒子に比べて電極を作製する際のプレスによって一方向に配向しにくく、電極の高密度化時の急速充放電に適している。一方で球状粒子は、扁平な炭素粒子を球状化する工程でエッジ面が新たに生成され、酸素含有官能基を含有しやすい傾向にある。このため、球状粒子の酸素含有率を0.15質量%以下とすることは、電解液との反応抑制及び充放電効率向上の観点から有利である。本開示では、円形度が0.8より大きい粒子を球状粒子とする。
【0018】
本開示において、炭素粒子の円形度は湿式フロー式粒子径・形状分析装置で測定する。測定器としては、FPIA-3000(マルバーン社)を用いることができる。本測定の前処理として、炭素粒子0.06gと、質量比0.2%の界面活性剤(商品名:リポノールT/15、ライオン株式会社)を含む精製水とを、試験管(12mm×120mm、株式会社マルエム)に入れ、試験管ミキサー(Pasolina NS-80、アズワン株会社)で20秒間撹拌した後、1分間超音波で撹拌してもよい。超音波洗浄機としては、株式会社エスエヌディのUS102(高周波出力100W、発振周波数38kHz)を用いることができる。
【0019】
炭素粒子の粒子径は、特に制限されない。例えば、体積平均粒子径が1μm~50μmであることが好ましく、2μm~45μmであることがより好ましく、3μm~35μmであることがより好ましく、5μm~25μmであることがより好ましく、7μm~20μmであることがさらに好ましい。
炭素粒子の体積平均粒子径は、レーザー回折粒度分布測定装置により測定することができ、体積基準の粒度分布において小径側からの積算が50%となるときの粒子径(D50)である。
【0020】
(R値)
炭素粒子は、R値が0.45以下であることが好ましい。R値は炭素粒子の表面の結晶性の度合いを示す指標であり、R値が小さいほど結晶性が高いことを意味する。また、球形化などの加工により炭素粒子表面にダメージを与えられるとR値が上昇する傾向にある。炭素粒子は、R値が0.42以下であることがより好ましく、0.40以下であることがより好ましく、0.32以下であることがより好ましく、0.30以下であることがさらに好ましい。
R値の下限値は特に制限されないが、電池特性のバランスの観点からは0.05以上であることが好ましく、0.10以上であることがより好ましく、0.15以上であることがより好ましく、0.20以上であることがより好ましく、0.22以上であることがさらに好ましい。高い充電性能を得たい場合には、R値は0.15以上であることが好ましい。
【0021】
本開示において炭素粒子のR値は、後述するラマン測定において得られたラマンスペクトルにおいて、1580cm-1付近の最大ピークの強度IAと、1360cm-1付近の最大ピークの強度IBの強度比(IB/IA)とする。
【0022】
ラマン測定は、ラマン分光器「レーザーラマン分光光度計(型番:NRS-1000、日本分光株式会社製」を用い、リチウムイオン二次電池用負極材又はリチウムイオン二次電池用負極材を集電体に塗布及び加圧して得た電極を平らになるようにセットした試料板にレーザー光を照射して測定を行う。測定条件は以下の通りである。
レーザー光の波長:532nm
波数分解能:2.56cm-1
測定範囲:1180cm-1~1730cm-1
ピークリサーチ:バックグラウンド除去
【0023】
(菱面体晶量)
炭素粒子が黒鉛質を含む場合には、菱面体晶量は、0.20より大きいことが好ましく、0.21以上であることがより好ましく、0.22以上であることがより好ましく、0.23以上であることがより好ましく、0.26以上であることがさらに好ましい。炭素粒子の菱面体晶量が前記範囲内である場合、急速充放電特性、高温保存特性等に優れる傾向にある。
一般的な黒鉛粒子は、菱面体晶量が大きくなる(例えば、0.33を超える)と球形化よりも粉砕が進行する傾向にあり、酸素含有量が急速に上昇すると共に高温保存特性などが急速に低下し始める。しかし、本発明者らの検討により、酸素含有率を0.15質量%以下とした炭素粒子は、高温保存特性の低下を抑制したまま入出力を向上することができることがわかった。
菱面体晶量の上限値は特に制限されないが、例えば、0.50未満であってもよく、0.45以下であってもよく、0.40以下であってもよく、0.35以下であってもよく、0.30以下であってもよい。
【0024】
炭素粒子の菱面体晶量は、X線回折法により測定される菱面体晶構造の(101)面のピーク強度(P1)と六方晶構造の(101)面のピーク強度(P2)とから下記式で算出することができる。
菱面体晶量 = P1/(P1+P2)
P1:菱面体晶構造の(101)面のピーク強度(回折角2θは43°付近)
P2:六方晶構造の(101)面のピーク強度(回折角2θは44°付近)
【0025】
前記各ピーク強度は次のように測定することができる。回折ピークの測定は、試料粉末を石英製の試料ホルダーの凹部分に充填して測定ステージにセットし、広角X線回折装置(株式会社リガク)を用いて以下の測定条件で行う。その後、Kα2ピーク除去及びバックグランド除去を行い、プロファイル形状関数(Pseudo-Voigt)にてピークを分離する。
線源:CuKα線(波長=0.15418nm)
発散スリットDS:1°
受光スリットRS:0.3mm
散乱スリットSS:1°
【0026】
炭素粒子は、非晶質炭素で被覆されていなくてもよい。上述したように、酸素含有率が0.15質量%以下の炭素粒子は、非晶質炭素で被覆されていなくても電解液との反応が抑制され、電池の保存特性が良好に維持される傾向にある。
炭素粒子が非晶質炭素で被覆されているか否か、又は被覆の程度は、例えば、示差熱分析(DTA)により判断することができる。炭素粒子が非晶質炭素で被覆されていると、500℃~650℃の範囲にDTA発熱ピークが現れる傾向にある。
炭素粒子が非晶質炭素で被覆されている場合、500℃~650℃の範囲にDTA発熱ピークを有さない程度に少ないことが好ましい。例えば、非晶質炭素の量は炭素粒子全体(コア粒子と非晶質炭素の合計)の1質量%未満であってもよい。
【0027】
本開示において、示差熱分析(DTA)は、示差熱熱重量同時測定装置(例えば、セイコーインスツル株式会社製、EXSTAR TG/DTA6200)を用いて行う。具体的には、α-アルミナをリファレンスとして、乾燥空気300mL/分の流通下、昇温速度2.5℃/分で測定を行い、400℃~1000℃でのDTA発熱ピークの有無を確認する。また、負極材が炭素粒子に加えて後述する導電助材を含む場合は、導電助材由来の発熱ピークも検出されるおそれがあるため、負極材について示差熱分析を行う前に遠心分離を行い沈降物のみを抽出してから測定することが好ましい。
【0028】
(吸油量)
炭素粒子の吸油量は、例えば、25mL/100g以上であることが好ましく、30mL/100g以上であることがより好ましく、35mL/100g以上であることがより好ましく、40mL/100g以上であることがより好ましく、45mL/100g以上であることがさらに好ましい。
炭素粒子の吸油量は、炭素粒子中及び炭素粒子間の空隙の割合を示す指標である。扁平状粒子は球形化する過程で炭素粒子が折り畳まれたり造粒したりして高密度な球状粒子となり、吸油量は減衰する傾向になる。前述した通り、電極をプレスする際の粒子配向の観点からは、球形化された(すなわち、吸油量が少ない)炭素粒子が好ましいと考えられる。一方、リチウムイオンが泳動する為に必要な電解液量を確保し、充放電特性の低下を抑制する観点からは、炭素粒子の吸油量は少なすぎないことが好ましい。例えば、炭素粒子の吸油量が25mL/100g以上であると、リチウムイオンが高速で移動する為に必要な電解液量が十分存在し、高電極密度(例えば、1.7g/cm以上)にする際でも、電池にした際に諸特性が良好に維持される傾向にある。高い容量を求めない場合又は入出力特性を重視する場合には、高電極密度にする必要がないので、これには制限されない。
【0029】
炭素粒子の吸油量は、例えば、100mL/100g以下であることがより好ましく、90mL/100g以下であることがより好ましく、80mL/100g以下であることがより好ましく、70mL/100g以下であることがより好ましく、60mL/100g以下であることがさらに好ましい。炭素粒子の吸油量が100mL/100g以下であると、目的のスラリー粘度に調整するために必要とする水の量を少なくでき、電極乾燥時のエネルギー消費を節約できる。
【0030】
本開示において、炭素粒子の吸油量は、JIS K6217-4:2008「ゴム用カーボンブラック‐基本特性‐第4部:オイル吸収量の求め方」に記載の試薬液体としてフタル酸ジブチル(DBP)ではなく、亜麻仁油(例えば、関東化学株式会社製)を使用することにより測定することができる。具体的には、対象粉末に定速度ビュレットで亜麻仁油を滴定し、粘度特性変化をトルク検出器から測定する。発生した最大トルクの70%のトルクに対応する、対象粉末の単位質量当りの亜麻仁油の添加量を、吸油量(ml/100g)とする。測定器としては、例えば、株式会社あさひ総研の吸収量測定装置を用いることができる。
【0031】
(タップ密度)
炭素粒子は、タップ密度が0.70g/cm以上であってもよく、0.75g/cm以上であってもよく、0.80g/cm以上であってもよく、0.85g/cm以上であってもよく、0.90g/cm以上であってもよい。炭素粒子のタップ密度が0.70g/cm以上であると、電極を板状に成形するために必要なバインダーが炭素粒子の表面により多く付着して集電体界面剥離等の不具合が生じにくい傾向にある。
炭素粒子は、タップ密度が1.30g/cm以下であってもよく、1.25g/cm以下であってもよく、1.20g/cm以下であってもよく、1.15g/cm以下であってもよく、1.10g/cm以下であってもよい。炭素粒子のタップ密度が1.30g/cm以下であると、炭素粒子間の空隙の量が増えてプレス時の柔軟性が高くなる傾向にある。
【0032】
本開示において炭素粒子のタップ密度は、充填密度測定装置(KRS-406、株式会社蔵持科学器械製作所製)を用い、メスシリンダー(高橋理科量器工業株式会社製、内径φ31mm)に炭素粒子を100mL入れ、メスシリンダーの底面が6cmとなる高さから、所定の回数(250回)メスシリンダーを繰返し落下させた後の密度とする。
【0033】
(比表面積)
炭素粒子の比表面積は、炭素粒子と電解液との界面の面積を示す指標である。比表面積の値が小さいほど、炭素粒子と電解液との界面の面積が大きくなりすぎず、電解液の分解反応の反応場の増加が抑制されてガス発生が抑制され、且つ、初回充放電効率が良好となる傾向にある。また、比表面積の値が大きいほど、単位面積あたりにかかる電流密度が急上昇しにくく、負荷が軽減されるため、充放電効率、充電受入性、急速充放電特性等が良好となる傾向にある。
本開示では、ガス発生の原因となる酸素含有率が0.15質量%以下であるために、比表面積を減らすことなくガスの発生量を抑制できる。
炭素粒子の比表面積は、特に制限されない。例えば、0.5m/g以上であることが好ましく、1.0m/g以上であることがより好ましく、2.0m/g以上であることがより好ましく、3.0m/g以上であることがより好ましく、4.0m/g以上であることがさらに好ましい。
また、炭素粒子の比表面積は、20.0m/g以下であることが好ましく、15.0m/g以下であることがより好ましく、12.0m/g以下であることがより好ましく、10.0m/g以下であることがより好ましく、8.0m/g以下であることがさらに好ましい。
【0034】
炭素粒子の比表面積の測定は、BET法(窒素ガス吸着法)で行うことができる。具体的には、炭素粒子を測定セルに充填し、真空脱気しながら200℃で120分以上加熱前処理を行って得た試料に、ガス吸着装置(ASAP2010、株式会社島津製作所製)を用いて窒素ガスを吸着させる。得られた試料について5点法でBET解析を行い、比表面積を算出する。
炭素粒子の比表面積は、例えば、平均粒子径を調整(平均粒子径を小さくすると比表面積が大きくなる傾向にあり、平均粒子径を大きくすると比表面積が小さくなる傾向にある)により、所望の範囲とすることができる。
【0035】
負極材は、酸素含有率が0.15質量%以下の炭素粒子として、形状、粒子径等が異なる複数種の炭素粒子を含んでもよい。
負極材は、酸素含有率が0.15質量%以下の炭素粒子以外の負極材を含んでもよい。例えば、Si、Sn、Ge、In等のリチウムイオンを吸蔵及び放出可能な元素を含む負極材を含んでもよい。
【0036】
負極材が、酸素含有率が0.15質量%以下の炭素粒子と、これ以外の負極材とを含む場合、負極材全体に占める酸素含有率が0.15質量%以下の炭素粒子の割合が50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
負極材が、酸素含有率が0.15質量%以下の炭素粒子と、これ以外の負極材とを含む場合、負極材全体の酸素含有率が0.15質量%以下であることが好ましい。
【0037】
<リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法>
本開示のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法は、炭素粒子の温度が400℃~1300℃になるように加熱する工程と、前記加熱後の炭素粒子の温度が400℃未満になるまで冷却する工程とを含み、前記加熱及び冷却をそれぞれ非酸化雰囲気中で行う。
【0038】
上記方法によれば、酸素含有率が0.15質量%以下の炭素粒子(負極材)を製造することができる。その理由は下記のとおりである。
【0039】
炭素粒子に含まれる酸素含有官能基は、400℃以上の温度で分解が開始し、600℃以上の温度でより多く分解し、750℃以上とすることで主な酸素含有官能基は分解する。一方、炭素粒子の温度が1300℃を超えると黒鉛の結晶が発達して炭素粒子の格子欠陥が減少し、菱面体晶量が減少し、入出力特性が低下するおそれがある。従って、炭素粒子の温度が400℃~1300℃になるように加熱することで、入出力特性を低下させずに酸素含有率が0.15質量%以下になるまで酸素含有官能基を低減又は消失させることができる。
【0040】
一方、炭素粒子は400℃以上の温度で酸化が進む傾向にある。従って、加熱後の炭素粒子の冷却を、温度が400℃未満になるまで非酸化雰囲気中で行うことで、加熱により酸素含有率が低下した炭素粒子が酸化して酸素含有率が再度上昇するのを抑えることができる。
【0041】
上記方法において、炭素粒子の温度が400℃~1300℃になるように加熱する時間は特に制限されない。例えば、炭素粒子の温度が上記範囲内で30分~2時間維持されるように行ってもよい。
【0042】
上記方法において、炭素粒子の冷却は炭素粒子の温度が200℃以下になるまで非酸化雰囲気中で行ってもよく、室温(25℃)以下になるまで非酸化雰囲気中で行ってもよい。
【0043】
上記方法で使用する非酸化雰囲気は特に制限されず、水素、ヘリウム、アルゴン、窒素等の還元雰囲気中、不活性雰囲気中、真空雰囲気中などであってよい。非酸化雰囲気は酸素を含有しないことが好ましいが、炭素粒子の酸化が進まない程度に酸素を含有していてもよい。例えば、酸素含有率が0.3体積%以下であってもよく、0.1体積%以下であることが好ましく、0.05体積%以下であることがより好ましい。処理温度が高いほど、酸素含有率は低いことが好ましい。
【0044】
炭素粒子の加熱及び冷却を行う方法は特に制限されず、電気炉等の一般的な装置を用いて行うことができる。
【0045】
上記方法で製造される炭素粒子の詳細及び好ましい態様は、上述した炭素粒子の詳細及び好ましい態様と同様である。
【0046】
<リチウムイオン二次電池用負極材スラリー>
本開示のリチウムイオン二次電池用負極材スラリー(以下、負極材スラリーとも称する)は、上述した負極材と、有機結着剤と、溶媒とを含む。
【0047】
有機結着剤に特に制限はない。例えば、スチレン-ブタジエンゴム、エチレン性不飽和カルボン酸エステル(メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等)を重合成分とする高分子化合物、エチレン性不飽和カルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等)を重合成分とする高分子化合物、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリエピクロロヒドリン、ポリホスファゼン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミドイミドなどの高分子化合物が挙げられる。本開示において(メタ)アクリレートは、メタアクリレートとアクリレートのいずれか又は両方を意味する。
【0048】
溶媒に特に制限はない。例えば、水、有機溶剤又はこれらの混合物が挙げられる。有機溶媒としては、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。
【0049】
負極材スラリーは、必要に応じて、粘度を調整するための増粘剤を含んでもよい。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸及びその塩、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン等が挙げられる。
【0050】
負極材スラリーは、必要に応じて、導電助剤を含んでいてもよい。導電助剤としては、カーボンブラック、グラファイト、グラフェン、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、導電性を示す窒化物等が挙げられる。
【0051】
負極材スラリーに含まれる負極材の割合は、特に制限されない。例えば、負極材スラリーの不揮発分(溶媒を除く成分)の90質量%~99質量%の範囲内であってもよい。
【0052】
<リチウムイオン二次電池用負極>
本開示のリチウムイオン二次電池用負極(以下、負極とも称する)は、集電体と、集電体上に形成された上述した負極材を含む負極材層と、を有する。
【0053】
集電体の材質及び形状は特に制限されない。例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属又は合金からなる帯状箔、帯状穴開け箔、帯状メッシュ等の材料を用いることができる。また、ポーラスメタル(発泡メタル)、カーボンペーパー等の多孔性材料も使用可能である。
【0054】
負極材を含む負極材層を集電体上に形成する方法は特に限定されない。例えば、上述した負極材スラリーを用いて、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法等の公知の方法により行うことができる。上記負極材層と集電体とを一体化する場合は、ロール、プレス、これらの組み合わせ等の公知の方法により行うことができる。
【0055】
負極材層を集電体上に形成して得られた負極は、熱処理を施してもよい。バインダー種により熱処理することにより負極材層に含まれる溶媒が除去され、バインダーの硬化による高強度化が進み、粒子間及び粒子と集電体間の密着性を向上できる。熱処理は、処理中の集電体の酸化を防ぐため、ヘリウム、アルゴン、窒素等の不活性雰囲気中又は真空雰囲気中で行ってもよい。
【0056】
負極の電極密度は、特に制限されない。負極の電極密度は、例えば、集電体上に負極材層を形成した状態で加圧処理することにより調整することができる。
負極の電極密度は、例えば、1.5g/cm~1.9g/cmであってもよく、1.6g/cm~1.8g/cmであってもよい。電極密度が高いほど体積容量が向上し、集電体への負極材層の密着性が向上する傾向にある。体積密度よりも電流密度を重視する用途(例えば、HEV用)の場合、前記電極密度は1.5g/cm以下であってもよい。
【0057】
<リチウムイオン二次電池>
本開示のリチウムイオン二次電池は、正極と、電解質と、上述した負極と、を有する。リチウムイオン二次電池は、必要に応じ、これら以外の部材を有していてもよい。リチウムイオン二次電池としては、例えば、少なくとも負極と正極とがセパレータを介して対向するように配置され、電解質を含む電解液が注入された構成とすることができる。
【0058】
正極は、負極と同様にして、集電体表面上に正極層を形成することで得ることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼等の金属又は合金からなる帯状箔、帯状穴開け箔、帯状メッシュ等の材料を用いることができる。
【0059】
正極層に用いる正極材料は、特に制限されない。例えば、リチウムイオンをドーピング又はインターカレーションすることが可能な金属化合物、金属酸化物、金属硫化物、及び導電性高分子材料が挙げられる。さらには、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMnO)、及びこれらの複酸化物(LiCoNiMn、x+y+z=1、0<x、0<y;LiNi2-xMn、0<x≦2)、リチウムマンガンスピネル(LiMn)、リチウムバナジウム化合物、V、V13、VO、MnO、TiO、MoV、TiS、V、VS、MoS、MoS、Cr、Cr、オリビン型LiMPO(M:Co、Ni、Mn、Fe)、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセン等の導電性ポリマー、多孔質炭素などを単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。中でも、ニッケル酸リチウム(LiNiO)及びその複酸化物(LiCoNiMn、x+y+z=1、0<x、0<y;LiNi2-xMn、0<x≦2)は、容量が高いために正極材料として好適である。さらなる高容量化の観点から、ニッケル・コバルト・アルミニウム(NCA)正極材料も好適に用いることができる。
【0060】
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微孔フィルム及びそれらの組み合わせが挙げられる。なお、リチウムイオン二次電池が正極と負極とが接触しない構造を有する場合は、セパレータを使用する必要はない。
【0061】
電解液としては、LiClO、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSOCF等のリチウム塩を、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、シクロペンタノン、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン、3-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、γ-ブチロラクトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、ブチルメチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ブチルエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、酢酸メチル、酢酸エチル等の単体又は2成分以上の混合物の非水系溶剤に溶解した、いわゆる有機電解液を使用することができる。なかでも、フルオロエチレンカーボネートを含有する電解液は、負極材の表面に安定なSEI(固体電解質界面)を形成する傾向があり、サイクル特性が著しく向上するために好適である。
【0062】
リチウムイオン二次電池の形態は特に限定されず、ペーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池、角型電池等が挙げられる。また、前記リチウムイオン二次電池用負極材は、リチウムイオン二次電池以外にもリチウムイオンを挿入脱離することを充放電機構とする、ハイブリッドキャパシタ等の電気化学装置全般に適用することが可能である。
【0063】
本開示のリチウムイオン二次電池は、保存特性(特に、高温保存特性)に優れている。このため、電気自動車、蓄電システム等の高温環境での使用が想定される用途に特に好適である。
【実施例0064】
以下、実施例に基づき上記実施形態をより具体的に説明するが、上記実施形態は下記の実施例に制限するものではない。
【0065】
(1)負極材の作製
下記に示す原料の炭素粒子を、表1に示す加熱温度(最高温度)まで加熱し、30分維持した後に室温(25℃)まで冷却して、実施例の負極材を作製した。加熱及び冷却は、電気炉を用いて、窒素雰囲気中(酸素含有率0.005~0.2体積%)で連続して実施した。
【0066】
炭素粒子1…体積平均粒子径9.9μm、円形度0.95の球状天然黒鉛
炭素粒子2…体積平均粒子径12.2μm、円形度0.92の球状天然黒鉛
炭素粒子3…体積平均粒子径15.8μm、円形度0.85の球状天然黒鉛
炭素粒子4…体積平均粒子径18.1μm、円形度0.88の球状天然黒鉛
炭素粒子5…体積平均粒子径21.6μm、円形度0.90の球状天然黒鉛
【0067】
比較例1~5の負極材としては、原料の炭素粒子をそのまま使用(熱処理なし)した。
比較例6の負極材としては、炭素粒子1を100質量部とコールタールピッチ(軟化点90℃、残炭率(炭化率)50%)6質量部を混合し、次いで窒素流通下、20℃/時間の昇温速度で1000℃まで昇温し、1000℃(焼成処理温度)にて1時間保持して得られる非晶質炭素(3質量%)で被覆された炭素粒子(炭素粒子6)を使用した。
【0068】
(比表面積、吸油量、タップ密度、体積平均粒子径、R値、菱面体晶量の測定)
各負極材について、上述した方法で比表面積、吸油量、タップ密度、体積平均粒子径(D50)R値及び菱面体晶量を測定した。結果を表1に示す。
【0069】
(DTA分析)
各負極材について上述した方法でDTA分析を行い、500℃~650℃の領域にピークを有するかを調べた。その結果、非晶質炭素で被覆された炭素粒子6(比較例6)は500℃~650℃の領域にピークが観察され、炭素粒子1~5を用いた実施例及び比較例は500℃~650℃の領域にピークが観察されなかった。
【0070】
(プレス性)
図1に示すような直径15mmの金型に負極材を3.0g充填し、オートグラフ(株式会社島津製作所製)を用いて定速10mm/minの速度で圧縮した。この圧縮の際に、負極材底面からプレス面までの距離を測定し、これに金型の底面積(1.767cm)を乗じて得られる負極材の体積から加圧中の密度を算出した。オートグラフのプレスハンマはロードセルを取り付けて、所定の密度1.7g/cmに達したときの加圧力(kN/cm)をプレス性とした。
【0071】
(酸素含有率の測定)
負極材の酸素含有率(質量%)を、赤外線吸収法により、下記に示す条件で測定した。測定装置としては、LECOジャパン合同会社の「TCH-600」を使用した。結果を表1に示す。
【0072】
-分析パラメータ-
・アウトガスサイクル 2回
・アナリシス・ディレイ 30秒
・アナリシス・ディレイ・コンパレータ 1.0%
・分析の種類 自動分析
【0073】
-炉パラメータ-
・炉制御モード パワー(W)
・パージ時間 15秒
・アウトガス時間 30秒
・アウトガス・クールタイム 5秒
・アウトガス低(開始)電力 5400W
・アウトガス高(終了)電力 5400W
・分析時低(開始)電力 5000W
・分析時(終了)電力 5000W
・分析昇温速度 0℃/秒
【0074】
-元素パラメータ-
・元素 酸素
・最短積分時間 55秒
・インテグレーション・ディレイ 10秒
・コンパレーターレベル 0.50%
【0075】
-その他-
・ルツボ 高温用黒鉛坩堝
・試料質量 約1.0g
【0076】
(2)電池特性及び極板特性の評価
負極材98質量部、スチレンブタジエンゴム(BM-400B、日本ゼオン株式会社製)1質量部、及びカルボキシメチルセルロース(CMC2200、株式会社ダイセル製)1質量部に、水を加えてスラリーを調製し、このスラリーを集電体(厚さ10μmの銅箔)に塗布して負極材層を形成し、110℃で1時間大気中で乾燥した。負極材層の形成は、スラリーの単位面積当りの塗布量が10.0mg/cmとなるように行った。次いで、ロールプレスにて塗布層(負極材層)が所定の電極密度(1.70g/cm)となる条件で一体化して、負極を作製した。
【0077】
上記で作製した負極、正極として金属リチウム、電解液として1.0M LiPFを含むエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート(3/7体積比)とビニレンカーボネート(0.5質量%)の混合液、セパレータとして厚さ25μmのポリエチレン製微孔膜、及びスペーサーとして厚さ230μmの銅板を用いて、評価用の2016型コインセルを作製した。この評価用セルを用いて、下記に示す電池特性及び極板特性(電極膨張率)を評価した。結果を表2に示す。
【0078】
(不可逆容量)
作製したリチウムイオン二次電池を、25℃に設定した恒温槽内に入れ、電流値0.1Cで電圧0V(V vs. Li/Li)まで定電流充電し、次いで電流値が0.02Cとなるまで0Vで定電圧充電を行った。このときの容量を初回充電容量とした。
次いで、30分間休止後、電流値0.1Cで電圧1.5V(V vs. Li/Li)まで定電流放電を行った。このときの容量を初回放電容量とした。
また、初回充電容量の値から初回放電容量の値を差し引いて不可逆容量を求め、初回充放電特性の指標とした。
なお、電流値の単位として用いた「C」とは、「電流値(A)/電池容量(Ah)」を意味する。
【0079】
(電極膨張率)
電極密度1.7g/cmの初回充電前の負極材層の厚みに対する満充電時の負極材層の厚みの割合を充電膨張率とし、放電後の負極材層の厚みの割合を放電膨張率とした。
【0080】
(初期効率)
初回効率は、最初に測定された初回充電容量の値に対する初回放電容量の値の割合とした。
【0081】
(放電負荷特性)
2サイクル目の電流値を0.2Cにて放電した放電容量に対する、3サイクル目を2.0Cにて放電した放電容量の割合(レート(2.0C/0.2C)を放電負荷特性の指標とした。その他の条件(充電電流値、カット電圧、休止時間等)は、初回充放電条件と同一とした。
【0082】
(保存後維持率)
初回効率を測定した後の評価用セルを、同じく25℃に設定した恒温槽内に入れ、電流値0.2Cで電圧0V(V vs. Li/Li)まで定電流充電し、次いで電流値が0.02Cとなるまで0Vで定電圧充電を行った。次いで、30分間休止後、電流値0.2Cで電圧1.5V(V vs. Li/Li)まで定電流放電を行った。このときの放電容量(25℃で2回目の放電容量)を測定した。
その後、電流値0.2Cで電圧0V(V vs. Li/Li)まで定電流充電し、次いで電流値が0.02Cとなるまで0Vで定電圧充電を行い、この状態の評価用セルを60℃に設定した恒温槽に入れ、5日間保存した。
その後、評価用セルを25℃に設定した恒温槽内に入れ、60分間放置し、電流値0.2Cで電圧1.5V(V vs. Li/Li)まで定電流放電を行った。このときの放電容量(60℃で5日間保存後、25℃で1回目の放電容量)を測定し、保存後維持率を次式から算出した。
【0083】
保存後維持率(%)=(60℃で5日間保存後、25℃で1回目の放電容量)/(25℃で2回目の放電容量)×100
【0084】
(保存後DCR(25℃))
評価用セルを25℃に設定した恒温槽内に入れ、充電:CC/CV 0.2C 0V 0.02C cut,放電:CC 0.2C 1.5V Cutの条件にて1サイクル充放電を行った。次いで、電流値0.2CでSOC 50%まで定電流充電を行った。
その後、評価用セルを25℃に設定した恒温槽内に入れ、1C、3C、5Cの条件にて定電流充電を各10秒間ずつ行い、各定電流の電圧降下(ΔV)を測定し、下式を用いて、直流抵抗(DCR)を測定し、25℃保存後のDCRとした。
【0085】
DCR[Ω]={(3C電圧降下ΔV-1C電圧降下ΔV)+(5C電圧降下ΔV-3C電圧降下ΔV)}/4
【0086】
(保存後DCR(-30℃))
評価用セルを25℃に設定した恒温槽内に入れ、充電:CC/CV 0.2C 0V 0.02C cut,放電:CC 0.2C 1.5V Cutの条件にて1サイクル充放電を行った。次いで、電流値0.2CでSOC 50%まで定電流充電を行った。
その後、評価用セルを-30℃に設定した恒温槽内に入れ、0.1C、0.3C、0.5Cの条件にて定電流充電を各10秒間ずつ行い、各定電流の電圧降下(ΔV)を測定し、下式を用いて、直流抵抗(DCR)を測定し、-30℃保存後のDCRとした。
【0087】
DCR[Ω]={(0.3C電圧降下ΔV-0.1C電圧降下ΔV)+(0.5C電圧降下ΔV-0.3C電圧降下ΔV)}/0.4
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
表2における「単位面積当たり不可逆容量」は、測定された不可逆容量を比表面積で除した値である。
【0091】
表1、2に示すように、非晶質炭素で被覆されていない実施例1~8、比較例1~5の負極材は、非晶質炭素で被覆された比較例6の負極材に比べて電極の膨張率が小さい。従って、非晶質炭素による被覆を行わないことで、電極の膨張率が抑制できると考えられる。
また、原料が同じ炭素粒子である実施例5で作製した負極材と比較例2で作製した負極材のプレス性を比較すると、実施例5のプレス性の方が低圧力でプレスされ膨張率も低減されたことが確認できる。電極膨張は、プレスにより蓄えられた歪みエネルギーが膨張としてエネルギー開放すること、接着強度不足で剥離すること、活物質表面等へのLi析出成長することを示唆していることから、電極膨張が抑制できる負極は充放電特性に優れる傾向にある。
【0092】
原料が同じ炭素粒子であり、酸素含有率が0.15質量%以下である実施例の負極材と、酸素含有率が0.15質量%を超える比較例の負極材(例えば、炭素粒子1を原料とする実施例1~4と比較例1)をそれぞれ比較すると、実施例の負極材の方が不可逆容量が小さい傾向にある。この結果から、炭素粒子の酸素含有率が0.15質量%以下であると、負極材の電解液との反応活性が低く抑えられると考えられる。
【0093】
原料が同じ炭素粒子である実施例の負極材と比較例の負極材をそれぞれ比較すると、実施例の負極材のほうが初期効率が高い傾向にある。この結果から、負極材の酸素含有率が0.15質量%であると、電池の充放電特性が向上すると考えられる。また、高温保存後のDCRにおいても、抵抗値は実施例の負極材の方が小さい傾向にある。この結果から、高温保存時の活性が高い状態に長期間置いても電解液の分解やSEI被膜の成長が抑制されることが分かる。
【0094】
原料が同じ炭素粒子である実施例の負極材と比較例の負極材をそれぞれ比較すると、実施例の負極材の方が高温保存後の維持率が高く、入出力特性とのバランスに優れる傾向にある。この結果から、炭素粒子の酸素含有率が0.15質量%以下であると、一般にトレードオフの関係にあるとされる電池の充放電性を維持しながら高温耐久性の両立が達成されると考えられる。
図1