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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172351
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】ロックタイプ双方向クラッチ
(51)【国際特許分類】
   F16D 41/08 20060101AFI20231129BHJP
   F16D 41/10 20060101ALI20231129BHJP
   F16D 43/26 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
F16D41/08 A
F16D41/10
F16D43/26 A
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084079
(22)【出願日】2022-05-23
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】株式会社オリジン
(74)【代理人】
【識別番号】100102417
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100194629
【弁理士】
【氏名又は名称】小嶋 俊之
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】飯山 俊男
(57)【要約】
【課題】ローラの噛み込みを利用した形式で生じた種々の問題を解決することのできる新規のロックタイプ双方向クラッチを提供すること。
【解決手段】ハウジング4の内側に固定歯車18を形成すると共に、ハウジング4の内側に固定歯車18及び入力歯車6と噛み合う第一の遊星歯車42a、この遊星歯車を回転可能に軸支する第一のキャリア44a、入力歯車6及び出力歯車8と噛み合う第二の遊星歯車42b、この遊星歯車を回転可能に軸支する第二のキャリア44bを配置する。そして、第一のキャリア44a及び第二のキャリア44bを周方向に隙間を備えつつ共通の回転軸の周りを一体回転可能に係合せしめる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転不能のハウジングと、共通の回転軸の周りを回転可能な入力歯車及び出力歯車とを備え、前記入力歯車からの正・逆方向の回転は前記出力歯車に伝達するとともに、前記出力歯車からの前記入力歯車への回転の伝達は、前記出力歯車を回転不能にさせて遮断するロックタイプ双方向クラッチであって、
前記ハウジングの内側には前記共通の回転軸と同一の中心軸を有する固定歯車が形成されると共に、前記ハウジングの内側には、前記固定歯車及び前記入力歯車と噛み合う第一の遊星歯車、前記第一の遊星歯車を回転可能に軸支する第一のキャリア、前記入力歯車及び前記出力歯車と噛み合う第二の遊星歯車、前記第二の遊星歯車を回転可能に軸支する第二のキャリアが配置され、
前記第一のキャリア及び前記第二のキャリアは周方向に隙間を備えつつ前記共通の回転軸の周りを一体回転可能に係合せしめられている、ロックタイプ双方向クラッチ。
【請求項2】
前記第一のキャリア及び前記第二のキャリアは中間キャリアを介して係合せしめられている、請求項1に記載のロックタイプ双方向クラッチ。
【請求項3】
前記入力歯車が内歯歯車、前記出力歯車及び前記固定歯車が太陽歯車である、請求項1に記載のロックタイプ双方向クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力軸と出力軸との間の動力伝達状態を変更するクラッチ装置、特に、入力軸(駆動側)からの正・逆回転の動力を伝達するとともに、出力軸(従動側)からの動力伝達は、出力軸を回転不能として遮断するロックタイプ双方向クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
モーターなどの駆動源から作業機器等を駆動する動力伝達系、例えば、モーターにより物品を上下に移送する昇降装置では、物品が所定の位置となったとき、モーターを停止すると物品が自動的にその位置を保持するような作動が求められる場合がある。そのため、入力軸及び出力軸を備えたロックタイプの双方向クラッチを用いて、入力軸を正・逆回転可能なモーターに連結するとともに、出力軸の回転により物品を昇降させる装置が知られている。この装置の双方向クラッチでは、モーターにより入力軸を正・逆回転したときは、出力軸が連動して正・逆回転し物品を昇降させる一方、出力軸を正・逆回転しようとすると、出力軸がロックされた状態となって物品の落下を防止する。
【0003】
ロックタイプの双方向クラッチを利用する昇降装置の概要と、双方向クラッチの構造の一例とを図9図10により説明する。図9は、ベルト及びプーリによって物品を上下する昇降装置と、その駆動装置に備えられる双方向クラッチのA-A断面構造を表すものであり、図10(a)は、出力軸が入力軸と連動して物品を昇降する状態のA-A断面を、(b)は、出力軸がロックされて物品の落下を阻止する状態のA-A断面を示す。
図9の昇降装置は、上下に配置したプーリP1、P2の間にベルトBを掛け渡し、ベルトBに移送する物品Wを固着した装置であって、上方のプーリP1には、これを回転駆動する正・逆回転可能なモーターMが、双方向クラッチDCを介して連結されている。双方向クラッチDCは、モーターMに連なる入力軸IS、プーリP1に連なる出力軸OS及び固定のハウジングHGを有している。
【0004】
A-A断面図に示されるように、双方向クラッチDCのハウジングHG内では、入力軸ISが複数の扇形部に分割され、扇形部の内側に出力軸OSが嵌め込まれる。出力軸OSには、入力軸ISの隣接する扇形部の間に入り込む突起部が設けてあり、この突起部の先端に形成したV字状凹所とハウジングHGとの間には、ローラRが介在されている。
【0005】
図10(a)に示すように、モーターMにより入力軸ISが回転するときは、入力軸ISの扇形部の側面と出力軸OSの突起部の側面とが当接し、出力軸OSは、入力軸ISに押される形で同一方向に同一速度で回転する。入力軸ISが逆方向に回転するときも同様であって、図9の昇降装置において、モーターMを正・逆回転すると、ベルトBに固着した物品Wを上昇又は下降させることができる。
これに対し、出力軸OSが回転したときは、図10(b)に示されるように、ローラRがV字状凹所の斜面に押し上げられて外方に移動し、ハウジングHGと出力軸OSの突起部との間に挟み込まれる。これにより、出力軸OSがロックされてその位置で停止し、入力軸ISに回転が伝達されることはない。つまり、図9の昇降装置では、モーターMによる駆動を停止しても、物品Wが自重により落下するのを自動的に阻止することができる。このようなロックタイプの双方向クラッチは、本出願人の創案に係る特許第4850653号公報に開示されている。
【0006】
ロックタイプの双方向クラッチは、例えば、複写機のフィニッシャーにおいて、用紙を載せた用紙テーブルを移送する昇降装置、あるいは、建築物の窓のブラインドを昇降する昇降装置に適用することができる。そして、これを利用すると簡易な装置による自動的な動力伝達の制御が可能となって、例えば、電磁クラッチにより制御する場合のような、電力等の使用が不必要となるとともに、出力軸側から不測の逆入力があった場合に、駆動源のモーターを保護することも可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4850653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のとおり、図9のロックタイプ双方向クラッチは、コンパクトであって確実に動力伝達を制御可能な機械部品であるけれども、用途によっては未だ改良すべき余地が残されている。本発明は、双方向クラッチの以下に述べるような課題を解決するものである。
【0009】
図9の構造の双方向クラッチを同図に示されている昇降装置に適用した場合、モーターMを正転させて物品Wを上昇するときは問題ないが、モーターMを逆転させ物品Wを下降するときに、物品Wの重力に起因して出力軸OSの速度が細かな変動を繰り返し、振動や異音を生じることがある。これは、次の理由による。即ち、物品Wを下降させるためモーターMを逆回転させた場合に、物品Wに作用する重力により、出力軸OSが入力軸ISよりも速く回転(オーバーラン)することがあり、オーバーランが起こると、図10(b)の状態となってローラRとハウジングHGとが噛み合い、出力軸OSがロックする。このロック状態は、入力軸ISの回転でローラRが押されたときに解除されるが、噛み込みと解除の繰り返しは、出力軸OSの速度に細かな変動を与えることとなる。なお、ロック状態の解除には、ローラに働く摩擦力に打ち勝つトルク(モーメント)を付与する必要があるが、この点は、停止状態にある物品Wを上昇させるときも同じであって、モーターMには、物品Wを上昇させる負荷トルクに加えて噛み込み解除のためのトルクも要求される。
【0010】
さらに、図9のロックタイプの双方向クラッチでは、出力軸OSの回転数は常に入力軸ISの回転数と等しいとともに、出力軸OSの回転方向も入力軸ISの回転方向と等しい。図9の双方向クラッチ自体では、回転方向や回転速度を変更する変速作動が不可能であり、そのため、入出力軸間でトルクを増減することもできず、出力軸OSに作用する負荷トルクが大きいときは、それに見合うトルクを発生する大型のモーターを駆動源として用意する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題に鑑み、本発明は、噛み込み用ローラを用いることなく、複列の歯車機構を用いてロックタイプ双方向クラッチを構成し、作動に伴う異音等の発生を防止するとともに、出力軸を停止させるときはロック状態を確実に保持するようにしたものである。すなわち、本発明によれば、回転不能のハウジングと、共通の回転軸の周りを回転可能な入力歯車及び出力歯車とを備え、前記入力歯車からの正・逆方向の回転は前記出力歯車に伝達するとともに、前記出力歯車からの前記入力歯車への回転の伝達は、前記出力歯車を回転不能にさせて遮断するロックタイプ双方向クラッチであって、
前記ハウジングの内側には前記共通の回転軸と同一の中心軸を有する固定歯車が形成されると共に、前記ハウジングの内側には、前記固定歯車及び前記入力歯車と噛み合う第一の遊星歯車、前記第一の遊星歯車を回転可能に軸支する第一のキャリア、前記入力歯車及び前記出力歯車と噛み合う第二の遊星歯車、前記第二の遊星歯車を回転可能に軸支する第二のキャリアが配置され、
前記第一のキャリア及び前記第二のキャリアは周方向に隙間を備えつつ前記共通の回転軸の周りを一体回転可能に係合せしめられている、ロックタイプ双方向クラッチが提供される。
【0012】
好ましくは、前記第一のキャリア及び前記第二のキャリアは中間キャリアを介して係合せしめられている。前記入力歯車が内歯歯車、前記出力歯車及び前記固定歯車が太陽歯車であるのがよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のロックタイプ双方向クラッチは軸方向に直列に配置された2つの遊星歯車機構により構成される。入力歯車が回転すると、これと噛み合う第一の遊星歯車は固定歯車の存在に起因して入力歯車の回転方向と同一方向に自転及び公転する。そして、第一の遊星歯車を回転可能に軸支する第一のキャリア及びこれと周方向に係合して一体回転する第二のキャリアも入力歯車の回転方向と同一方向に回転する。これにより、出力歯車は、入力歯車の回転と第二のキャリアの回転との差動によって回転する。一方、出力歯車が回転すると、入力歯車は第二の遊星歯車との噛み合いによって出力歯車の回転方向とは反対方向に回転しようとする。そして、入力歯車と噛み合う第一の遊星歯車も固定歯車の存在に起因して出力歯車の回転方向とは反対方向に自転しながら公転しようとする。而してこれは第一のキャリアと第二のキャリアとの間に回転ガタが存在しない場合である。本発明のロックタイプ双方向クラッチにあっては、第一のキャリア及び第二のキャリアは周方向に隙間を備えつつ一体回転可能に係合せしめられている、つまり第一のキャリア及び第二のキャリアは周方向に所謂回転ガタを有して組み合わされていることに起因して、第一のキャリアと第二のキャリアとが一体回転するまでは、入力歯車は第二の遊星歯車及び第二のキャリアと共に出力歯車と一体的に回転しようとする。入力歯車が出力歯車と一体的に回転しようとする間は、第一の遊星歯車も出力歯車の回転方向と同一方向に自転及び公転しようとする。このことから、第二のキャリア44bと第一のキャリア44aとが一体回転を開始する際には、(1)第一の遊星歯車の自転及び公転方向は固定歯車の存在によって入力歯車の回転方向と同一方向に制限されていること、及び(2)入力歯車が回転しようとする方向は瞬間的に反転せしめられるため第一の遊星歯車には慣性力が作用すること、に起因して、第一の遊星歯車にはこれを時計方向に公転させようとする力と反時計方向に公転させようとする力とが瞬間的に同時に作用する。かかる作用によって、第一の遊星歯車が入力歯車と固定歯車との間で僅かに拗れ、出力歯車はロックされる。
【0014】
従って、本発明のロックタイプ双方向クラッチは、ローラの噛み込みではなく軸方向に直列に配置された2つの遊星歯車機構を利用することから、図9の双方向クラッチとは異なり、ローラの噛み込みと解除の繰り返しに起因する出力軸の速度変動の発生がないとともに、ローラの噛み込みの解除のために余分なトルクを付与する必要も生じない。さらにまた、入力軸と出力軸とは歯車機構により接続されていることから、入力軸と出力軸との間で回転方向や回転速度を適宜変更することか可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のロックタイプ双方向クラッチの第1実施形態の全体構成を示す図。
図2図1に示すロックタイプ双方向クラッチを構成するハウジング及び入出力関係の部品の組み合わせを示す図。
図3図1に示すロックタイプ双方向クラッチを構成する部品のうち、図2に示す部品以外の部品の組み合わせを示す図。
図4図1に示すロックタイプ双方向クラッチにおいて、入力歯車を回転させた状態の図。
図5図4に示す状態のE部及びF部の部分拡大図。
図6図1に示すロックタイプ双方向クラッチにおいて、第一のキャリア及び第二のキャリアが係合した状態で出力歯車を回転させた状態の図。
図7図1に示すロックタイプ双方向クラッチにおいて、第一のキャリア及び第二のキャリアが係合していない状態で出力歯車を回転させた状態の図。
図8】本発明のロックタイプ双方向クラッチの第2実施形態の全体構成を示す図。
図9】従来のロックタイプ双方向クラッチの一例を示す図である。
図10図9に示すロックタイプ双方向クラッチの作動を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に従って構成されたロックタイプ双方向クラッチの好適実施形態を示す添付図面を参照して、更に詳細に説明する。なお、以下の説明における「軸方向片側」及び「軸方向他側」とは、特に指定しない限り、図1の上段中央に示す縦断面図を基準として、「軸方向片側」は同図において右側を、「軸方向他側」は同図において左側のことを言う。
【0017】
図1を参照して説明すると、全体を番号2で示すロックタイプ双方向クラッチは、回転不能のハウジング4と、ハウジング4の内側で共通の回転軸oの周りを回転可能な入力歯車6及び出力歯車8とを備えている。容易に理解できるように、図1等の断面図では、ハウジング4にハッチングを付していない。
【0018】
図1及び図2を参照して説明すると、ハウジング4は略正方形の端板10と、端板10の周縁から軸方向片側に延びる角筒状の外周壁12とを備えたカップ状であり、軸方向片側端は開放されている。端板10の中央には軸方向に貫通する円形の軸穴14が形成されている。端板10には更に、外周壁12の内側において軸穴14の外周縁を囲繞して軸方向片側に突出する突出筒16が形成されている。突出筒16の突出端つまり軸方向片側端は、軸方向において外周壁12の軸方向片側端よりも軸方向他側に位置する。突出筒16の基端部の外周面には固定歯車18が形成されている。従って固定歯車18は外歯歯車(太陽歯車)であって、その中心軸は共通の回転軸oと同一である。固定歯車18の軸方向他側面は端板10の軸方向片側面に接続されている。突出筒16の基端部を除く部分は円筒形状であって、その軸方向片側端部には、内径が増大せしめられた円形の支持凹部20が形成されている。外周壁12の内周面の断面形状は円形である。軸方向に見た外周壁12の角部には夫々、軸方向に延びるボルト穴22が形成されている。
【0019】
上記ハウジング4の開放された軸方向片側端は端板10と同一形状のシールド板24によって閉鎖される。容易に理解できるように、図1等の断面図では、シールド板24にもハッチングを付していない。シールド板24の中央には軸方向に貫通する比較的大径の円形の軸穴26が、角部には軸方向に貫通する比較的小径の円形の馬鹿穴28が夫々形成されている。馬鹿穴28に図示しないボルトを挿通してこれをハウジング4のボルト穴22に締結させることで、シールド板24はハウジング4に固定される。
【0020】
入力歯車6は内歯歯車であって、断面円形の外周面がハウジング4の外周壁12の内周面と対向するようにして、ハウジング4の内側に配置されている。入力歯車6の軸方向片側は円形の端板30によって閉鎖されており、端板30はシールド板24と対向している。これにより、入力歯車6はハウジング4の端板10及びシールド板24によって軸方向両側への移動が制限される。端板30の中央には軸方向に貫通する円形の支持穴32が形成されている。端板30の軸方向片側面には、支持穴32の外周縁を囲繞して軸方向に延びる中空の入力軸部34が形成されている。入力軸部34はシールド板24の軸穴26を通過してシールド板24の外側まで延出している。入力軸部34の外周面の断面形状は円形であって、入力軸部34はシールド板24によって回転可能に軸支されている。入力軸部34の軸方向片側端は開放されており、内周面の断面形状は円形の直径方向両側が直線状に切り欠かれた形状である。入力軸部34の内側に図示しないモーターの如き駆動源から延びるシャフトが挿通されることで、入力歯車6は駆動源に連結されてこれによって駆動回転可能となる。
【0021】
出力歯車8は外歯歯車(太陽歯車)である。出力歯車8の軸方向片側面には軸方向に突出する円柱形状の支持突起36が形成されている。支持突起36は入力歯車6の軸方向片側を閉鎖する端板30に形成された支持穴32に挿通せしめられ、これにより、入力歯車6と出力歯車8との回転ぶれが抑制される。出力歯車8の軸方向他側面には軸方向に延びる中実の出力軸部38が形成されている。出力軸部38はハウジング4の突出筒16の内側及び軸穴14を通過してハウジング4の外部まで延出している。出力軸部38の外周面の断面形状は、軸方向他側端部を除いて円形であって、出力軸部38はハウジング4によって回転可能に軸支されている。出力軸部38の軸方向他側端部の外周面の断面形状は、円形の直径方向両側が直線状に切り欠かれた形状である。出力軸部38の軸方向他側端部が図示しない従動部材に挿通されることで、出力歯車8は従動部材に連結される。出力軸部38の軸方向片側端部には外径が出力歯車8の外径よりも増大せしめられた支持円板40が形成されており、支持円板40はハウジング4の支持凹部20に回転可能な状態で嵌め合わされる。支持円板40の軸方向他側面が支持凹部20内にて突出筒16の軸方向片側面と、出力歯車8の軸方向片側面が入力歯車6の軸方向片側を閉鎖する端板30の軸方向他側面と夫々対向することで、出力歯車8の軸方向への移動は制限される。
【0022】
図1と共に図3を参照して説明すると、ハウジング4の内側には更に、固定歯車18及び入力歯車6と噛み合う第一の遊星歯車42a、第一の遊星歯車42aを回転可能に軸支する第一のキャリア44a、入力歯車6及び出力歯車8と噛み合う第二の遊星歯車42b、第二の遊星歯車42bを回転可能に軸支する第二のキャリア44bが配置されている。図示の実施形態においては、第一の遊星歯車42aは周方向に等角度間隔をおいて6つ配置されており、6つの第一の遊星歯車42aは単一の(即ち共通の)第一のキャリア44aによって軸支されている。一方、第二の遊星歯車42bは周方向に等角度間隔をおいて3つ配置されており、3つの第二の遊星歯車42bは単一の(即ち共通の)第二のキャリア44bによって軸支されている。
【0023】
第一のキャリア44a及び第二のキャリア44bは夫々、軸方向に対して垂直に配置される円板形状のベースプレート46a及び46bを備えている。ベースプレート46a及び46bの中央には軸方向に貫通する円形の穴48a及び48bが形成されている。ベースプレート46a及び46bの軸方向の片側面の外周縁部には軸方向に突出して第一の遊星歯車42a及び第二の遊星歯車42bを夫々軸支するキャリア軸50a及び50bが、他側面の中央部には所要形状の接続凹部52a及び52bが形成されている(ここでいう軸方向の「片側面」及び「他側面」は、図1の中央縦断面図を基準とした軸方向の「片側」及び「他側」ではなく、単にベースプレート46a及び46bを夫々軸方向に見たときに表裏の関係にある2つの面のことをいう)。第一のキャリア44a及び第二のキャリア44bは、ベースプレート46a及び46bを背中合わせにして組み合わされ、第一のキャリア44aが軸方向他側に、第二のキャリア44bが軸方向片側に夫々配置される。従って、キャリア軸50aはベースプレート46aから軸方向他側に、キャリア軸50bはベースプレート46bから軸方向片側に夫々突出し、接続凹部52a及び52bは軸方向に相互に隣接する。
【0024】
ここで、第一のキャリア44a及び第二のキャリア44bは周方向に隙間gを備えつつ共通の回転軸oの周りを一体回転可能に係合せしめられる。図示の実施形態においては、第一のキャリア44a及び第二のキャリア44bは中間キャリア54を介して係合せしめられる。容易に理解できるように、図1等の断面図では、中間キャリア54に薄墨を付す。中間キャリア54は、第一のキャリア44aのベースプレート46aに形成された接続凹部52aの形状及び第二のキャリア44bのベースプレート46bに形成された接続凹部52bの形状と対応する形状の平板であって、接続凹部52a及び52bに共通して嵌め合わされる。図示の実施形態においては、接続凹部52aと接続凹部52bの形状は同一であって、夫々円形の中央部56a及び56bと中央部56a及び56bの外周面に付設された円弧形状の耳部58a及び58bとを有している。耳部58a及び58bは周方向に等角度間隔をおいて3つずつ形成されており、周方向に隣接する2つの耳部の間には夫々、円弧形状の係合部59a及び59bが存在する。従って、中間キャリア54も円形の中央部60と中央部の外周面に付設された耳部62とを有している。図1のC-C断面図及びD-D断面図に示すとおり、中間キャリア54の中央部60が接続凹部52a及び52bの中央部56a及び56bに、中間キャリア54の耳部62が接続凹部52a及び52bの耳部58a及び58bに夫々嵌め合わされることから、中間キャリア54の耳部62は第一のキャリア44a及び第二のキャリア44bに設けられた係合部59a及び59bと周方向に隣接して位置して周方向に係合可能となる。このことから、中間キャリア54の耳部62を、以下では被係合部62と称することもある。中間キャリア54の円形中央部60には同心上に軸方向に貫通する円形の穴64が形成されており、中間キャリア54は第一のキャリア44a及び第二のキャリア44bと共に、図1の上段中央縦断面図に示されるとおり、夫々の穴48a及び48b並びに64にハウジング4の突出筒16の円筒形状部分(固定歯車18が形成されていない部分)が嵌め合わされて、共通の回転軸oの周りを一体回転可能となる。ここで、図5も併せて参照して説明すると(なお、図5は後述するとおり入力軸部34が回転している状態であり、図1に示す状態とは、中間キャリア54に対する第一のキャリア44a及び第二のキャリア44bの姿勢が異なる)、中間キャリア54全体の外径は接続凹部52a及び52b全体の内径と略同一であるものの、中間キャリア54の耳部(被係合部)62の周方向長さは接続凹部52a及び52bの耳部58a及び58bの周方向長さに比べて短い。このことから、図示の実施形態においては、係合部59aと被係合部62との間、及び被係合部62と係合部59bとの間には夫々g/2ずつの周方向隙間が存在する。つまり、第一のキャリア44aと第二のキャリア44bとの間には、中間キャリア54を介して、隙間gの周方向ガタ(g/2+g/2)が存在し、第一のキャリア44a及び第二のキャリア44bは周方向に隙間gを備えつつ共通の回転軸oの周りを一体回転可能である。上記隙間gは1度程度であるのが良い。
【0025】
本発明では、第一のキャリア44a及び第二のキャリア44bが周方向に隙間を備えつつ共通の回転軸oの周りを一体回転可能であればよく、従って、中間キャリア54を省略すると共に、接続凹部52a及び52bのいずれか一方を凸部に変更して、上記隙間を備えるようにすることもできる。
【0026】
続いて、図4乃至図7を参照して、ロックタイプ双方向クラッチ2の作動について説明する。図示の実施形態においては、入力歯車6の歯数は72、出力歯車8の歯数は18、固定歯車18の歯数は48、第一の遊星歯車42aの歯数は12、第二の遊星歯車42bの歯数は27に設定されており、一般的な遊星歯車機構には、以下の関係式が存在する。
【数1】
但し、
:太陽歯車の歯数、Z:遊星歯車の歯数、Z:リング歯車の歯数
ω:太陽歯車の回転数、ω:遊星歯車の回転数、ω:リング歯車の回転数
ω:キャリアの回転数
【0027】
図4において各矢印で示すとおり、入力軸部34が、駆動源のモーターにより回転軸oの周りを時計方向(上段中央の縦断面図において軸方向の右方から見て)に回転したときは、B-B断面図に示すとおり、入力軸部34と一体の入力歯車6が時計方向に回転すると共に、入力歯車6と噛み合う第一の遊星歯車42aも固定歯車18の存在に起因して時計方向に自転しながら公転する。かような第一の遊星歯車42aの公転により、これを回転可能に軸支する第一のキャリア44aも時計方向に回転し、第一のキャリア44aの係合部59aが中間キャリア54の被係合部62と当接してこれを時計方向に押す。第一の遊星歯車42aが更に公転すると、第一のキャリア44aと共に中間キャリア54が一体となって時計方向に回転し、中間キャリア54の被係合部62が第二のキャリア44bの係合部59bと当接してこれを時計方向に押す。以後は第一のキャリア44aと中間キャリア54と第二のキャリア44bとは一体となって回転する。図4及び図5は、第一のキャリア44aと中間キャリア54と第二のキャリア44bとが一体となって回転しているときの状態を示している。かかる状態にあっては、図5(a)及び図5(b)に示されているとおり、第一のキャリア44aの係合部59aと中間キャリア54の被係合部62との間、及び中間キャリア54の被係合部62と第二のキャリア44bの係合部59bとの間には夫々周方向にg/2ずつの隙間が存在する。入力歯車6及び第二のキャリア44bが共に時計方向に回転することから、出力歯車8は、A-A断面図に示すとおり、入力歯車6の回転と第二のキャリア44bの回転との差動によって回転する。上記式によれば、図示の実施形態においては、出力歯車8は反時計方向に入力歯車6と等速で回転する。入力軸部34が回転軸oの周りを反時計方向に回転する場合も同様で、この場合には、出力歯車8は時計方向に入力歯車6と等速で回転する。
【0028】
次に、入力歯車6の回転が停止し、図4に示す状態から出力軸部38が回転軸oの周りに時計方向に回転しようとする場合について、図6及び図7を参照して説明する(上記時計方向とは、図6及び図7の上段中央の縦断面図において軸方向の右方から見たときのことをいう)。図6には、第一のキャリア44a及び第二のキャリア44bが上述した周方向の隙間を備えることなく共通の回転軸oの周りを一体回転可能に係合せしめられている(つまり第一のキャリア44a及び第二のキャリア44bは常時一体である)と仮定して、出力軸部38が上記のとおりに回転しようとする場合が示されている。この場合には、図6において各矢印で示すとおり、出力軸部38と一体の出力歯車8は時計方向に、第二の遊星歯車42bは第二のキャリア44b上でキャリア軸50bの周りを反時計方向に、入力歯車6は反時計方向に夫々回転する。そして、入力歯車6と噛み合う第一の遊星歯車42aも固定歯車18の存在に起因して反時計方向に自転しながら公転する。つまり、この場合には、出力歯車8はロックせず回転する。
【0029】
而して、本発明のロックタイプ双方向クラッチでは、第一の遊星歯車42aを回転可能に軸支する第一のキャリア44a及び第二の遊星歯車42bを回転可能に軸支する第二のキャリア44bは周方向に隙間gを備えつつ共通の回転軸oの周りを一体回転可能に係合せしめられている、つまり第一のキャリア44a及び第二のキャリア44bは周方向に回転ガタを有して組み合わされている。本実施形態においては、第一のキャリア44a及び第二のキャリア44bは中間キャリア54を介して係合せしめられていることから、図5に示すとおり、第二のキャリア44bが回転する時計方向に見ると、同図(a)に示すとおり第二のキャリア44bの係合部59bと中間キャリア54の被係合部62との間にはg/2の隙間が存在すると共に、同図(b)に示すとおり中間キャリア54の被係合部62と第一のキャリア44aの係合部59aとの間にもg/2の隙間が存在する。そのため、第二のキャリア44bが時計方向にg/2の隙間分回転することで係合部59bが被係合部62に当接して第二のキャリア44bは中間キャリア54と一体回転し、第二のキャリア44bが更にg/2の隙間分回転することで被係合部62が係合部59aに当接して第二のキャリア44bは中間キャリア54と共に第一のキャリア44aとも一体回転することとなる。つまり、第二のキャリア44bが第一のキャリア44aと一体回転するまでには隙間gの分だけ遅れを生じる。かかる遅れに起因して、出力歯車8が時計方向に回転すると(後述するとおり、実際には出力歯車8はロックして回転しない)、第一のキャリア44a及び第二のキャリア44bが一体回転するまでは、図7において各矢印で示すとおり、第二の遊星歯車42bは第二のキャリア44b上でキャリア軸50bの周りを自転することなく第二のキャリア44b及び入力歯車6と共に出力歯車8と同一の回転方向つまり時計方向に公転する。これにより、入力歯車6と噛み合う第一の遊星歯車42aは固定歯車18の存在に起因して時計方向に自転しながら公転する。
【0030】
ここで、第二のキャリア44bと第一のキャリア44aとが一体回転を開始する際には、(1)第一遊星歯車42aの自転及び公転方向は固定歯車18の存在によって入力歯車6の回転方向と同一方向に制限されていること、及び(2)図7の上段左図と図6の上段左図とを比較参照することによって理解されるとおり、入力歯車6の回転方向は瞬間的に反転せしめられるため第一の遊星歯車42aには慣性力が作用すること、に起因して、第一の遊星歯車42aにはこれを時計方向に公転させようとする力と反時計方向に公転させようとする力とが瞬間的に同時に作用する。かかる作用によって、第一の遊星歯車42aが入力歯車6と固定歯車18との間で僅かに拗れ、出力歯車8はロックされる。
【0031】
入力歯車6の回転が停止し、図4に示す状態から出力軸部38が回転軸oの周りに時計方向に回転しようとする場合に出力歯車8がロックされることについて、上述したとおりに説明したが、出力歯車8がロックされるのは上記場合に限定されず、出力歯車8が任意の状態から回転しようとする場合であっても、出力歯車8はロックされる。これは、本発明のロックタイプ双方向クラッチにあっては、歯車機構を複数組み合わせて構成されており、各歯車の噛み合いにはバックラッシが存在するためである。つまり、仮に入力歯車6が回転して係合部59a及び59bと被係合部62とが当接していても、入力歯車6の回転が停止すれば上記バックラッシによって各歯車は押し戻され、係合部59a及び59bと被係合部62とは離隔せしめられる。そうすれば、出力歯車8が回転しようとする際には必ず第一のキャリア44aと第二のキャリア44bとの間には回転ガタを生じることとなるためである。
【0032】
従って、本発明のロックタイプ双方向クラッチは、ローラの噛み込みではなく軸方向に直列に配置された2つの遊星歯車機構を利用することから、図9の双方向クラッチとは異なり、ローラの噛み込みと解除の繰り返しに起因する出力軸の速度変動の発生がないとともに、ローラの噛み込みの解除のために余分なトルクを付与する必要も生じない。さらにまた、入力軸と出力軸とは歯車機構により接続されていることから、入力軸と出力軸との間で回転方向や回転速度を適宜変更することか可能となる。
【0033】
以上、本発明に従って構成されたロックタイプ双方向クラッチについて添付した図面を参照して詳述したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲内において適宜の修正や変更が可能である。例えば、図示の実施形態においては、入力歯車6が内歯歯車、出力歯車8及び固定歯車18が外歯歯車(太陽歯車)であったが、図8に示す本発明の第二の実施形態のように、入力歯車6´を外歯歯車(太陽歯車)、出力歯車8´及び固定歯車18´を内歯歯車とすることもできる。また、各歯車の歯数を適宜変更することで任意の変速比を設定することもできる。
【符号の説明】
【0034】
2:ロックタイプ双方向クラッチ
4:ハウジング
6:入力歯車
8:出力歯車
18:固定歯車
42a:第一の遊星歯車
42b:第二の遊星歯車
44a:第一のキャリア
44b:第二のキャリア
54:中間キャリア
g:隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10