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特開2023-173529液体噴射ヘッド及び液体噴射装置並びに圧電デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173529
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】液体噴射ヘッド及び液体噴射装置並びに圧電デバイス
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20231130BHJP
【FI】
B41J2/14 611
B41J2/14 305
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085846
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】山崎 泰志
(72)【発明者】
【氏名】森 政貴
(72)【発明者】
【氏名】平井 栄樹
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF67
2C057AG44
2C057AG91
2C057AG92
2C057AN01
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】配線間において十分な絶縁性が得られず、マイグレーション等に起因する圧電体層の破壊が発生する虞がある。
【解決手段】圧力室12に対向する能動領域A0には、振動板50と、第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80とが、圧力室基板10側からこの順で積層され、圧力室12の長手方向における能動領域A0よりも外側の領域は、圧電体層70と、第2電極80と、絶縁層150と、第1導電層94(91)と、が圧力室基板10側からこの順で積層された第1領域A1と、圧電体層70と、絶縁層150と、が圧力室基板10側からこの順で積層され、かつ、第2電極80と、第1導電層94(91)とが積層されていない第2領域A2と、を含む構成とする。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と圧電体層と第2電極とを含む圧電素子と、
前記第2電極と電気的に接続する第1導電層と、
絶縁材料で形成される絶縁層と、
前記圧電素子の駆動により振動する振動板と、
前記振動板の振動により液体に圧力を付与する圧力室を区画する圧力室基板と、
を有し、
前記圧力室に対向する能動領域には、前記振動板と、前記第1電極と、前記圧電体層と、前記第2電極とが、前記圧力室基板側からこの順で積層され、
前記圧力室の長手方向における前記能動領域よりも外側の領域は、
前記圧電体層と、前記第2電極と、前記絶縁層と、前記第1導電層と、が前記圧力室基板側からこの順で積層された第1領域と、
前記圧電体層と、前記絶縁層と、が前記圧力室基板側からこの順で積層され、かつ、前記第2電極と、前記第1導電層とが積層されていない第2領域と、を含む
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記第1導電層の厚さが、前記第2電極の厚さよりも厚い
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記第2領域における前記絶縁層の前記圧力室基板とは反対側の端面は、前記第1領域における前記絶縁層の前記圧力室基板とは反対側の端面よりも、前記圧力室基板側に位置する
ことを特徴とする請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記圧電体層の厚さは、前記第2領域において前記第1領域よりも薄い
ことを特徴とする請求項3に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記第2領域に隣接する領域は、
前記絶縁層と、前記第1電極に電気的に接続する第2導電層と、が積層された第3領域を含み、
前記圧力室の長手方向において、前記第2領域は、前記第1領域と、前記第3領域と、の間に位置する
ことを特徴とする請求項3または4に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記第2導電層の厚さは、前記第1電極の厚さよりも厚い
ことを特徴とする請求項5に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記第1領域に隣接する領域は、
前記圧電体層と、前記第2電極と、前記第1導電層と、がこの順で積層された第4領域を含み、
前記圧力室の長手方向において、前記第1領域は、前記第4領域と、前記第2領域と、の間に位置する
ことを特徴とする請求項5に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
前記圧力室の長手方向において、前記第1領域は前記第3領域よりも広い
ことを特徴とする請求項7に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項9】
前記圧力室の長手方向において、前記第4領域は前記第1領域よりも広い
ことを特徴とする請求項7に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項10】
前記圧電素子が収容される空間を区画する保護基板を有し、
前記保護基板は、前記第2領域において前記絶縁層と接着剤を介して接合される
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項11】
前記第1領域に隣接する領域は、
前記圧電体層と、前記第2電極と、前記第1導電層と、がこの順で積層された第4領域を含み、
前記圧力室の長手方向において、前記第1領域は、前記第4領域と前記第2領域との間に位置し、
前記第1導電層は、前記第1領域から前記第4領域にかけて段差を有し、
前記保護基板は、前記第1領域において前記第1導電層と接着剤を介して接合される
ことを特徴とする請求項10に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項12】
前記圧電素子が収容される空間を区画する保護基板を有し、
前記保護基板は、前記第2領域の前記圧力室とは反対側の領域において、前記圧電素子と、前記振動板と、前記圧力室基板と、を含む積層体に接着剤を介して接合される
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項13】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドを具備する
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項14】
凹部を有する基板と、
前記基板の一方面側に設けられる振動板と、
第1電極と圧電体層と第2電極とを含む圧電素子と、
前記第2電極と電気的に接続する第1導電層と、
絶縁材料で形成される絶縁層と、を有し、
前記凹部に対向する能動領域には、前記振動板と、前記第1電極と、前記圧電体層と、前記第2電極とが、前記基板側からこの順で積層され、
前記凹部の長手方向における前記能動領域よりも外側の領域は、
前記圧電体層と、前記第2電極と、前記絶縁層と、前記第1導電層と、が前記圧力室基板側からこの順で積層された第1領域と、
前記圧電体層と、前記絶縁層と、が前記基板側からこの順で積層され、かつ、前記第2電極と、前記第1導電層とが積層されていない第2領域と、を含む
ことを特徴とする圧電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1電極と圧電体層と第2電極とを含む圧電素子と、圧電素子の駆動により振動する振動板と、振動板の振動により液体に圧力を付与する圧力室を区画する圧力室基板と、を有する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置、並びに、圧電素子と、振動板と、を有する圧電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電デバイスの一つである液体噴射ヘッドの代表例としては、インク滴を噴射するインクジェット式記録ヘッドが挙げられる。インクジェット式記録ヘッドとしては、例えばノズルに連通する圧力室が形成された圧力室基板と、この圧力室基板の一方面側に振動板を介して設けられた圧電素子と、を具備し、圧電素子によって振動板を変位させ、圧力室内のインクに圧力変化を生じさせることで、ノズルからインク滴を噴射するものが知られている。
【0003】
また圧電素子としては、振動板上に形成された第1電極と、第1電極上に電気機械変換特性を有する圧電材料で形成された圧電体層と、圧電体層上に設けられた第2電極と、を具備するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1には、複数の圧電素子を備え、これら複数の圧電素子が一列に並設された構成が開示されている。各圧電素子は、圧電体層が個別電極である第1電極と、共通電極である第2電極とで挟まれる能動部(活性部ともいう)を具備し、圧電素子の並設方向とは直交する方向において、能動部の端部が第2電極の端部によって規定されている。
【0005】
このように圧電素子の能動部の端部が第2電極の端部で規定されている構成では、能動部の端部近傍において、マイグレーション等に起因して短絡による焼損等の破壊が生じる虞がある。また圧電体層が露出された部分に水分が侵入すると、加水分解により比較的短時間で圧電体層が破壊に至ってしまう虞がある。
【0006】
このような問題を解消するために、圧電素子の能動部の端部付近を接着剤からなる接着層によって保護するようにしたものがある。具体的には、圧電素子の個別電極に接続される配線である第1の配線層と、圧電素子の共通電極に接続される配線である第1の金属層との間で圧電体層が露出される露出部を有し、この露出部を接着剤からなる接着層によって覆うようにしたものがある(特許文献2参照)。
【0007】
このような構成とすることで、圧電体層が露出部を挟んで配置される配線間が接着層によって絶縁されるため、マイグレーション等に起因する圧電体層の破壊を抑制することはできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015-166160号公報
【特許文献2】特開2015-85668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載のように、露出部に対応する配線間の隙間に接着剤を充填するようにした構成では、配線間の隙間に接着剤が十分に充填されずに気泡などが残る場合がある。この場合、配線間において十分な絶縁性が得られず、マイグレーション等に起因する圧電体層の破壊を抑制できない虞がある。
【0010】
なお、このような問題は、インクを噴射するインクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドに限定されず、その他の圧電デバイスにおいても同様に存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明の一つの態様は、第1電極と圧電体層と第2電極とを含む圧電素子と、前記第2電極と電気的に接続する第1導電層と、絶縁材料で形成される絶縁層と、前記圧電素子の駆動により振動する振動板と、前記振動板の振動により液体に圧力を付与する圧力室を区画する圧力室基板と、を有し、前記圧力室に対向する能動領域には、前記振動板と、前記第1電極と、前記圧電体層と、前記第2電極とが、前記圧力室基板側からこの順で積層され、前記圧力室の長手方向における前記能動領域よりも外側の領域は、前記圧電体層と、前記第2電極と、前記絶縁層と、前記第1導電層と、が前記圧力室基板側からこの順で積層された第1領域と、前記圧電体層と、前記絶縁層と、が前記圧力室基板側からこの順で積層され、かつ、前記第2電極と、前記第1導電層とが積層されていない第2領域と、を含むことを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0012】
また本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
【0013】
また本発明の他の態様は、凹部を有する基板と、前記基板の一方面側に設けられる振動板と、第1電極と圧電体層と第2電極とを含む圧電素子と、前記第2電極と電気的に接続する第1導電層と、絶縁材料で形成される絶縁層と、を有し、前記凹部に対向する能動領域には、前記振動板と、前記第1電極と、前記圧電体層と、前記第2電極とが、前記基板側からこの順で積層され、前記凹部の長手方向における前記能動領域よりも外側の領域は、前記圧電体層と、前記第2電極と、前記絶縁層と、前記第1導電層と、が前記圧力室基板側からこの順で積層された第1領域と、前記圧電体層と、前記絶縁層と、が前記基板側からこの順で積層され、かつ、前記第2電極と、前記第1導電層とが積層されていない第2領域と、を含むことを特徴とする圧電デバイスにある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図である。
図3】実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
図4】実施形態1に係る圧電素子の全体構成を示す断面図である。
図5】実施形態1に係る圧電素子の要部を示す断面図である。
図6】実施形態1に係る圧電素子の要部を示す断面図である。
図7】実施形態2に係る圧電素子の要部を示す断面図である。
図8】実施形態3に係る圧電素子の要部を示す断面図である。
図9】他の実施形態に係る圧電素子の要部を示す断面図である。
図10】他の実施形態に係る圧電素子の要部を示す断面図である。
図11】一実施形態に係る記録装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本発明の一態様についての説明であり、本発明の構成は、発明の範囲内で任意に変更可能である。
【0016】
また、各図においてX、Y、Zは、互いに直交する3つの空間軸を表している。本明細書では、これらの軸に沿った方向をX方向、Y方向、及びZ方向とする。各図の矢印が向かう方向を正(+)方向、矢印の反対方向を負(-)方向として説明する。またZ方向は、鉛直方向を示し、+Z方向は鉛直下向き、-Z方向は鉛直上向きを示す。さらに、正方向及び負方向を限定しない3つのX、Y、Zの空間軸については、X軸、Y軸、Z軸として説明する。
【0017】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図である。図2は、記録ヘッドの平面図であり、図3は、記録ヘッドの概略構成を説明する図であり、図2のA-A線に対応する断面図である。また図4は、圧電素子の全体構成を説明する断面図である。図5は、各領域における積層構造を説明する図であり、X軸方向における圧電素子の端部付近を拡大した断面図である。また図6は、保護基板の接合状態を説明する図であり、X軸方向における圧電素子の端部付近を拡大した断面図である。
【0018】
図1図3に示すように、本実施形態の液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドとも言う)1は、第1方向であるZ軸方向、より具体的は+Z方向にインク滴を噴射するものである。
【0019】
インクジェット式記録ヘッド1は、基板の一例として圧力室基板10を具備する。圧力室基板10は、例えば、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板等からなる。
【0020】
圧力室基板10には、凹部としての圧力室12が、Z軸方向とは交差するX軸方向に2列に配置されている。すなわち圧力室基板10には、各列を構成する複数の圧力室12が、X軸方向とは交差するY軸方向に沿って設けられている。
【0021】
各列を構成する複数の圧力室12は、X軸方向の位置が同じ位置となるように、Y軸方向に沿った直線上に配置されている。Y軸方向で互いに隣り合う圧力室12は、隔壁によって区画されている。もちろん、圧力室12の配置は特に限定されるものではない。例えば、Y軸方向に並ぶ複数の圧力室12の配置は、各圧力室12を1つ置きにX軸方向にずれた位置とする、いわゆる千鳥配置となっていてもよい。
【0022】
また本実施形態の圧力室12は、+Z方向からの平面視においてX軸方向の長さがY軸方向の長さよりも長い、例えば、長方形に形成されている。もちろん、+Z方向からの平面視における圧力室12の形状は、特に限定されず、平行四辺形状、多角形状、円形状、オーバル形状等であってもよい。なお、ここでいうオーバル形状とは、長方形状を基本として長手方向の両端部を半円状とした形状をいい、角丸長方形状、楕円形状、卵形状などが含まれるものとする。
【0023】
圧力室基板10の+Z方向側には、連通板15とノズルプレート20及びコンプライアンス基板45とが順次積層されている。
【0024】
連通板15には、圧力室12とノズル21とを連通するノズル連通路16が設けられている。また連通板15には、複数の圧力室12が連通する共通液室となるマニホールド100の一部を構成する第1マニホールド部17及び第2マニホールド部18が設けられている。第1マニホールド部17は、連通板15をZ軸方向に貫通して設けられている。また、第2マニホールド部18は、連通板15をZ軸方向に貫通することなく、+Z方向側の面に開口して設けられている。
【0025】
さらに連通板15には、圧力室12のX軸方向の一方の端部に連通する供給連通路19が圧力室12の各々に独立して設けられている。供給連通路19は、第2マニホールド部18と各圧力室12とを連通して、マニホールド100内のインクを各圧力室12に供給する。
【0026】
連通板15としては、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板、金属基板等を用いることができる。金属基板としては、例えば、ステンレス基板等が挙げられる。なお連通板15は、熱膨張率が圧力室基板10と略同一の材料を用いることが好ましい。これにより、圧力室基板10及び連通板15の温度が変化した際、熱膨張率の違いに起因する圧力室基板10及び連通板15の反りを抑制することができる。
【0027】
ノズルプレート20は、連通板15の圧力室基板10とは反対側、すなわち、+Z方向側の面に設けられている。ノズルプレート20には、各圧力室12にノズル連通路16を介して連通するノズル21が形成されている。
【0028】
本実施形態では、複数のノズル21は、Y軸方向に沿って一列となるように並んで配置されている。そしてノズルプレート20には、これら複数のノズル21が列設されたノズル列がX軸方向に2列設けられている。すなわち、各列の複数のノズル21は、X軸方向の位置が同じ位置となるように配置されている。なおノズル21の配置は特に限定されるものではない。例えば、Y軸方向に並んで配置されるノズル21は、1つ置きにX軸方向にずれた位置に配置されていてもよい。
【0029】
ノズルプレート20の材料としては、特に限定されないが、例えば、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板、金属基板が用いられる。金属板としては、例えば、ステンレス基板等が挙げられる。さらにノズルプレート20の材料としては、ポリイミド樹脂のような有機物などを用いることもできる。ただし、ノズルプレート20は、連通板15の熱膨張率と略同一の材料を用いることが好ましい。これにより、ノズルプレート20及び連通板15の温度が変化した際、熱膨張率の違いに起因するノズルプレート20及び連通板15の反りを抑制することができる。
【0030】
コンプライアンス基板45は、ノズルプレート20と共に、連通板15の圧力室基板10とは反対側、すなわち、+Z方向側の面に設けられている。このコンプライアンス基板45は、ノズルプレート20の周囲に設けられ、連通板15に設けられた第1マニホールド部17及び第2マニホールド部18の開口を封止する。コンプライアンス基板45は、本実施形態では、可撓性を有する薄膜からなる封止膜46と、金属等の硬質の材料からなる固定基板47と、を具備する。固定基板47のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部48となっている。このため、マニホールド100の一方面は、可撓性を有する封止膜46のみで封止されたコンプライアンス部49となっている。
【0031】
一方、圧力室基板10のノズルプレート20等とは反対側、すなわち-Z方向側の面には、詳しくは後述するが、振動板50と、この振動板50を撓み変形させて圧力室12内のインクに圧力変化を生じさせる圧電素子300とが設けられている。なお図3は記録ヘッド1の全体構成を説明するための図であり、圧電素子300については簡略化して示している。
【0032】
圧力室基板10の-Z方向側の面には、さらに、圧力室基板10と略同じ大きさを有する保護基板30が接合されている。保護基板30は、圧電素子300を保護する空間である保持部31を有する。保持部31は、Y軸方向に並んで配置された圧電素子300の列毎に独立して設けられたものであり、X軸方向に2つ並んで形成されている。また、保護基板30には、X軸方向に並んで配置された2つの保持部31の間にZ軸方向に貫通する貫通孔32が設けられている。
【0033】
また、保護基板30上には、複数の圧力室12に連通するマニホールド100を圧力室基板10と共に画成するケース部材40が固定されている。ケース部材40は、Z軸方向にみた平面視において上述した連通板15と略同一形状を有し、保護基板30に接合されると共に、上述した連通板15にも接合されている。
【0034】
このようなケース部材40は、圧力室基板10及び保護基板30を収容可能な深さの空間である収容部41を保護基板30側に有する。この収容部41は、保護基板30の圧力室基板10に接合された面よりも広い開口面積を有する。そして、収容部41に圧力室基板10及び保護基板30が収容された状態で収容部41のノズルプレート20側の開口面が連通板15によって封止されている。
【0035】
またケース部材40には、X軸方向における収容部41の両外側に、第3マニホールド部42がそれぞれ画成されている。そして、連通板15に設けられた第1マニホールド部17及び第2マニホールド部18と、第3マニホールド部42と、によって本実施形態のマニホールド100が構成されている。マニホールド100は、Y軸方向に亘って連続して設けられており、各圧力室12とマニホールド100とを連通する供給連通路19は、Y軸方向に並んで配置されている。
【0036】
また、ケース部材40には、マニホールド100に連通して各マニホールド100にインクを供給するための導入口44が設けられている。さらにケース部材40には、保護基板30の貫通孔32に連通して配線基板120が挿通される接続口43が設けられている。
【0037】
このような本実施形態の記録ヘッド1では、図示しない外部インク供給手段と接続した導入口44からインクを取り込み、マニホールド100からノズル21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路121からの記録信号に従い、圧力室12に対応するそれぞれの圧電素子300に電圧を印加する。これにより圧電素子300と共に振動板50がたわみ変形して各圧力室12内の圧力が高まり、各ノズル21からインク滴が噴射される。
【0038】
以下、本実施形態に係る圧電素子300の構成について説明する。上述のように圧電素子300は、圧力室基板10のノズルプレート20とは反対側の面に振動板50を介して設けられている。すなわち記録ヘッド1は、圧力室基板10と、圧力室基板10の-Z方向側の面に設けられる振動板50と、圧電素子300とを備えている。
【0039】
図4及び図5に示すように、振動板50は、圧力室基板10側に設けられた酸化シリコンからなる弾性膜51と、弾性膜51上に設けられた酸化ジルコニウム膜からなる絶縁体膜52と、で構成されている。圧力室12等の液体流路は、圧力室基板10を+Z方向側の面から異方性エッチングすることにより形成されており、圧力室12等の液体流路の-Z方向側の面は、弾性膜51で塞がれている。
【0040】
なお、弾性膜51は、圧力室基板10と一体の基板として形成することもできる。より具体的には、例えば、圧力室基板10をシリコンによって形成し、その表面の熱酸化することで酸化シリコン層を生成し、当該酸化シリコン層を弾性膜51として利用すること等も可能である。
【0041】
また、振動板50の構成は特に限定されるものではない。振動板50は、例えば、弾性膜51と絶縁体膜52との何れか一方で構成されていてもよく、さらには、弾性膜51及び絶縁体膜52以外のその他の膜が含まれていてもよい。その他の膜の材料としては、例えば、シリコン、窒化ケイ素等が挙げられる。
【0042】
圧電素子300は、圧力室12内のインクに圧力変化を生じさせる圧力発生手段であり圧電アクチュエーターとも称される。この圧電素子300は、振動板50側である+Z方向側から-Z方向側に向かって順次積層された第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80とを含んで構成される。
【0043】
ここで、圧電素子300のうち、第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加した際に、圧電体層70に圧電歪みが生じる部分を活性部310と称する。これに対して、圧電体層70に圧電歪みが生じない部分を非活性部320と称する。すなわち、圧電素子300のうち、圧電体層70が第1電極60と第2電極80とで挟まれた部分が活性部310となり、圧電体層70が第1電極60と第2電極80とで挟まれていない部分が非活性部320となる。
【0044】
また圧電素子300を駆動させた際、実際にZ軸方向に変位する部分を可撓部と称し、Z軸方向に変位しない部分を非可撓部と称する。すなわち、圧電素子300の活性部310のうち、Z軸方向で圧力室12に対向する部分が可撓部となり、圧力室12の外側部分が非可撓部となる。
【0045】
一般的には、活性部310の何れか一方の電極を圧電素子300毎に独立する個別電極とし、他方の電極を複数の圧電素子300に共通する共通電極として構成する。本実施形態では、第1電極60が個別電極を構成し、第2電極80が共通電極を構成している。
【0046】
第1電極60は、圧力室12毎に切り分けられて活性部310毎に独立する個別電極を構成する。第1電極60は、Y軸方向において、圧力室12の幅よりも狭い幅で形成されている。すなわち、Y軸方向における第1電極60の両端部は、圧力室12に対向する領域の内側に位置している。
【0047】
また第1電極60は、X軸方向においては、圧力室12に対向する領域から圧力室12の外側まで延設されており、図4の断面図において、第1電極60の-X方向の端部60a及び+X方向の端部60bは、それぞれ圧力室12の外側に配置されている。すなわち、第1電極60の-X方向の端部60aは、圧力室12の-X方向の端部12aよりも-X方向となる位置に配置され、第1電極60の+X方向の端部60bは、圧力室12の+X方向の端部12bよりも+X方向側となる位置に配置されている。
【0048】
第1電極60の材料は、特に限定されないが、例えば、イリジウムや白金といった金属、ITOと略される酸化インジウムスズといった導電性金属酸化物等の導電材料が用いられる。
【0049】
圧電体層70は、X軸方向の長さを所定長さとして、Y軸方向に沿って連続して設けられている。すなわち圧電体層70は、所定の厚さで圧力室12の並設方向に沿って連続して設けられている。圧電体層70の厚さは特に限定されないが、1~4μm程度の厚さで形成される。なお、圧電体層70は、圧力室12の並設方向に沿って連続していなくてもよい。例えば、圧力室12の間のそれぞれにおいて、圧電体層70に切り欠きを設けるようにしてもよい。
【0050】
また圧電体層70のX軸方向の長さは、圧力室12の長手方向であるX軸方向の長さよりも長く、圧電体層70は、X軸方向において圧力室12の両外側まで延在している。また図4における圧電体層70の-X方向の端部70aは、第1電極60の-X方向の端部60aよりも外側に位置している。すなわち、第1電極60の端部60aは圧電体層70によって覆われている。一方、圧電体層70の+X方向の端部70bは、第1電極60の+X方向の端部60bよりも内側、つまり圧力室12側に位置しており、第1電極60の端部60bは圧電体層70では覆われていない。
【0051】
圧電体層70としては、第1電極60上に形成される電気機械変換作用を示す強誘電性セラミックス材料からなるペロブスカイト構造の結晶膜(ペロブスカイト型結晶)が挙げられる。圧電体層70の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電性圧電材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等を用いることができる。具体的には、チタン酸鉛(PbTiO)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O)等を用いることができる。本実施形態では、圧電体層70として、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いた。
【0052】
また、圧電体層70の材料としては、鉛を含む鉛系の圧電材料に限定されず、鉛を含まない非鉛系の圧電材料を用いることもできる。非鉛系の圧電材料としては、例えば、鉄酸ビスマス((BiFeO)、略「BFO」)、チタン酸バリウム((BaTiO)、略「BT」)、ニオブ酸カリウムナトリウム((K,Na)(NbO)、略「KNN」)、ニオブ酸カリウムナトリウムリチウム((K,Na,Li)(NbO))、ニオブ酸タンタル酸カリウムナトリウムリチウム((K,Na,Li)(Nb,Ta)O)、チタン酸ビスマスカリウム((Bi1/21/2)TiO、略「BKT」)、チタン酸ビスマスナトリウム((Bi1/2Na1/2)TiO、略「BNT」)、マンガン酸ビスマス(BiMnO、略「BM」)、ビスマス、カリウム、チタン及び鉄を含みペロブスカイト構造を有する複合酸化物(x[(Bi1-x)TiO]-(1-x)[BiFeO]、略「BKT-BF」)、ビスマス、鉄、バリウム及びチタンを含みペロブスカイト構造を有する複合酸化物((1-x)[BiFeO]-x[BaTiO]、略「BFO-BT」)や、これにマンガン、コバルト、クロムなどの金属を添加したもの((1-x)[Bi(Fe1-y)O]-x[BaTiO](Mは、Mn、CoまたはCr))等が挙げられる。
【0053】
第2電極80は、圧電体層70の第1電極60とは反対側である-Z方向側に設けられ、複数の圧電素子300に共通する共通電極を構成する。第2電極80は、X軸方向の長さを所定長さとして、Y軸方向に亘って連続して設けられている。
【0054】
また図4において、第2電極80の-X方向の端部80aは、圧電体層70で覆われた第1電極60の端部60aよりも外側となるように配置されている。すなわち第2電極80の端部80aは、圧力室12の-X方向の端部12aよりも外側で、第1電極60の端部60aよりも外側に位置している。このため、活性部310の-X方向の端部、すなわち活性部310と非活性部320との境界は、第1電極60の端部60aによって規定されている。
【0055】
一方、図4において、第2電極80の+X方向の端部80bは、圧力室12の+X方向の端部12bよりも外側に配置されているが、圧電体層70の+X方向の端部70bよりも内側に配置されている。上述のように圧電体層70の端部70bは、第1電極60の端部60bよりも内側に位置している。したがって第2電極80の端部80bは、第1電極60の端部60bよりも内側の圧電体層70上に位置している。
【0056】
このように第2電極80の端部80bは、圧電体層70及び第1電極60の+X方向の端部60b,70bよりも-X方向に配置されているため、活性部310の+X方向の端部、すなわち活性部310と非活性部320との境界は、第2電極80の端部80bによって規定される。また第2電極80の端部80bの外側には、圧電体層70の表面が露出された露出部71が存在する。
【0057】
第2電極80の材料は、特に限定されないが、第1電極60と同様に、例えば、イリジウムや白金といった金属、酸化インジウムスズといった導電性金属酸化物などの導電材料が好適に用いられる。
【0058】
また、第2電極80の端部80bの外側、すなわち第2電極80の端部80bのさらに+X方向には、第2電極80と同一の層からなるが第2電極80とは電気的に不連続となる配線層85が設けられている。
【0059】
この配線層85は、第2電極80の端部80bと接触しないように間隔を空けた状態で、圧電体層70上から圧電体層70よりも+X方向に延設された第1電極60上に亘って形成されている。また配線層85は、活性部310毎に独立して設けられている。すなわち配線層85は、Y軸方向において所定の間隔で複数配置されている。
【0060】
このように圧電素子300を構成する圧電体層70上には、X軸方向において、第2電極80と配線層85とが間隔を空けて設けられている。これら第2電極80と配線層85との隙間においては、圧電体層70の表面が露出されている。すなわち圧電素子300を構成する圧電体層70の第2電極80と配線層85との間の部分は、圧力室基板10とは反対側の表面が第2電極80と配線層85とから露出した露出部71となっている。
【0061】
ここで、露出部71における圧電体層70の厚さd1は、圧電体層70の他の部分の厚さd2よりも薄くなっている(図5参照)。すなわち圧電体層70の露出部71には、表層部分が薄く除去された凹部72が形成されている。
【0062】
そして、圧電体層70の露出部71は、絶縁材料で形成される絶縁層150によって覆われている。絶縁層150は、X軸方向において第2電極80上から配線層85上まで連続的に設けられる。つまり絶縁層150は、圧電体層70の露出部71と共に、図4に示す第2電極80の端部80b及び配線層85の-X方向の端部85aを覆って設けられる。言い換えれば、絶縁層150は、X軸方向において、第2電極80の端部80b及び配線層85の端部85aにオーバーラップするように形成される。
【0063】
なお絶縁層150は、Y軸方向においては複数の圧電素子300に対応する領域に亘って連続して設けられている。これにより水分のバリア性を高め易くなる。ただし、絶縁層150は、圧電体層70の露出部71のうち、少なくとも第2電極80と配線層85とによって挟まれた部分を覆って設けられていればよく、圧電素子300毎に独立して設けられていてもよい。
【0064】
絶縁層150の材料は、電気的絶縁性を有し、水分バリア性を有するものであれば、特に限定されないが、例えば、ポリイミドなどの感光性樹脂が用いられる。感光性樹脂を用いる場合、絶縁層150は、第2電極80の形成後の熱処理の後に、フォトリソグラフィー法により形成される。また絶縁層150の材料としては、例えば、酸化アルミニウム等の無機絶縁材料を用いてもよい。この場合、例えば、マスクを介してスパッタリング法により絶縁層150を全面に形成した後、リフトオフすることで所望の領域のみに絶縁層150を形成できる。
【0065】
また、圧電素子300を構成する第2電極80には、第1導電層である共通リード電極91が接続されている。また圧電素子300を構成する第1電極60には、第2導電層である個別リード電極92が接続されている。共通リード電極91及び個別リード電極92の圧電素子300に接続された端部とは反対側の端部には、可撓性を有する配線基板120が接続されている。
【0066】
本実施形態では、共通リード電極91及び個別リード電極92は、保護基板30に形成された貫通孔32内に露出するように延設され、この貫通孔32内で配線基板120と電気的に接続されている。配線基板120には、圧電素子300を駆動するためのスイッチング素子を有する駆動回路121が実装されている。
【0067】
共通リード電極91及び個別リード電極92の材料は、導電性を有する材料であれば特に限定されず、例えば、金(Au)、白金(Pt)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)等を用いることができる。本実施形態では、共通リード電極91及び個別リード電極92として金(Au)を用いた。また共通リード電極91及び個別リード電極92は、第1電極60及び第2電極80や振動板50との密着性を向上するためのニッケルクロム(NiCr)等からなる密着層を含む構成としてもよい。
【0068】
共通リード電極91の厚さd3は、特に限定されないが、本実施形態では、共通リード電極91が接続される第2電極80の厚さd4よりも厚い(図5参照)。同様に、個別リード電極92の厚さd5は、特に限定されないが、本実施形態では、個別リード電極92が接続される配線層85の厚さd6よりも厚い。
【0069】
共通リード電極91は、Y軸方向の両端部において、圧電体層70上の共通電極を構成する第2電極80上から振動板50上にまでX軸方向に引き出されている。また第1導電層である共通リード電極91は、図4における圧力室12の-X方向の端部12a付近に、Y軸方向に沿って延設される第1補助配線部93を有する。さらに共通リード電極91は、圧力室12の+X方向の端部12bに対応する領域にY軸方向に沿って延設される第2補助配線部94を具備する。これら第1補助配線部93及び第2補助配線部94は、複数の圧電素子300に対してY軸方向に沿って連続して設けられている。
【0070】
ここで、第2電極80は薄く形成されているため、電気抵抗が大きく、電荷の分布に偏りが生じやすい。そこで、第2電極80上に、比較的電気抵抗の小さい第1補助配線部93及び第2補助配線部94を設けることで、電荷の分布の偏りを抑制している。これにより、複数の圧電素子300の駆動する際の変位量のばらつきを抑えることができる。
【0071】
また共通リード電極91の第2補助配線部94は、X軸方向において、圧力室12の外側に設けられている。本実施形態では、圧電素子300の活性部310は、圧力室12のX軸方向の両端側のそれぞれにおいて圧力室12の外側まで延設されており、第2補助配線部94は、この活性部310上、つまり第2電極80上を絶縁層150まで延設されている。例えば、図4における第2補助配線部94の-X方向の端部94aは、圧力室12の端部12b付近に位置し、+X方向の端部94bは絶縁層150上に位置している。なお第2補助配線部94の端部94aは、圧力室12の内側に位置していてもよい。
【0072】
一方、個別リード電極92は、圧電素子300毎、すなわち、第1電極60毎に独立して設けられる。図4において、個別リード電極92は、圧電体層70の外側に延設された第1電極60の+X方向の端部60b付近に配線層85を介して接続され、その一端側は圧力室基板10上、実際には振動板50上までX軸方向に引き出されている。また個別リード電極92の他端側は、X軸方向において、絶縁層150まで延設されている。例えば、図4における個別リード電極92の-X方向の端部92aは、絶縁層150上に位置し、+X方向の端部92bは振動板50上に位置している。
【0073】
なお、共通リード電極91及び個別リード電極92は、絶縁層150上まで延設されているため、絶縁層150の材料として感光性樹脂が用いられている場合、例えば、無電解メッキによって形成することが好ましい。共通リード電極91及び個別リード電極92を電解メッキで形成すると、絶縁層150がダメージを受ける虞があるからである。
【0074】
以上のように、圧力室基板10の-Z方向側には、振動板50と、圧電素子300を構成する第1電極60、圧電体層70及び第2電極80と、第1導電層である共通リード電極91(第2補助配線部94)と、第2導電層である個別リード電極92と、絶縁層150と、が領域毎に所定の順序で積層されている。
【0075】
より詳しくは、図5に示すように、圧力室12に対向する能動領域A0では、振動板50と、第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80とが、圧力室基板10側からこの順で積層されている。また圧力室12の長手方向であるX軸方向における能動領域A0よりも外側の領域、例えば、能動領域A0よりも+X方向側の領域は、第1領域A1と、第2領域A2と、第3領域A3と、第4領域A4と、第5領域A5とを含んでいる。
【0076】
第1領域A1は、振動板50と、第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80と、絶縁層150と、第1導電層である第2補助配線部94(91)とが圧力室基板10側からこの順で積層される領域である。
【0077】
なお、本実施形態の第1領域A1は、振動板50と、第1電極60と、を含む領域であるが、これらを含むことは必須でない。第1領域A1には、振動板50と、第1電極60と、の少なくとも一方が含まれていなくてもよい。また、第1領域A1においては、絶縁層150が第2電極80よりも厚く、第2補助配線部94(91)が絶縁層150よりも厚いことが好ましい。
【0078】
第2領域A2は、振動板50と、第1電極60と、圧電体層70と、絶縁層150とが圧力室基板10側からこの順で積層され、かつ、第2電極80と第2補助配線部94(91)とが積層されていない領域である。本実施形態において第2領域A2とは、圧電体層70の露出部71に対応する領域であり、第1領域A1の圧力室12とは反対側に位置している。言い換えれば、第1領域A1は、第2領域A2の圧力室12側の領域であり、例えば、図5において第2領域A2の-X方向側に隣接する領域である。なお、本実施形態の第2領域A2は、振動板50と、第1電極60と、を含む領域であるが、これらを含むことは必須でない。第2領域A2には、振動板50と、第1電極60と、の少なくとも一方が含まれていなくてもよい。
【0079】
ここで、第2領域A2における絶縁層150の圧力室基板10とは反対側の端面150aは、第1領域A1における絶縁層150の圧力室基板10とは反対側の端面150bよりも、圧力室基板10側に位置している。例えば、共通リード電極91をパターニングする際にオーバーエッチングすることによって、絶縁層150の端面150aは、端面150bよりも圧力室基板10側に位置している。結果として、第2領域A2における絶縁層150の厚さは、第1領域A1における絶縁層150の厚さよりも薄くなっている。もちろん、各領域における絶縁層150の端面の位置は特に限定されず、絶縁層150の端面は全体に亘って平面となっていてもよい。
【0080】
第3領域A3は、第2領域A2に隣接する領域であり、振動板50と、第1電極60と、圧電体層70と、配線層85と、絶縁層150と、個別リード電極92と、が圧力室基板10側からこの順で積層された領域である。図5においては、第2領域A2の+X方向側に隣接する領域が第3領域A3となる。つまりX軸方向において、第2領域A2は、第1領域A1と、第3領域A3と、の間に位置する。なおX軸方向における第1領域A1の範囲は、特に限定されないが、第3領域A3の範囲よりも広くなっていることが好ましい。
【0081】
第4領域A4は、第1領域A1に隣接する領域であり、振動板50と、第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80と、第2補助配線部94(91)と、が圧力室基板10側からこの順で積層され、かつ、絶縁層150が積層されていない領域である。つまり第4領域A4では、第2電極80と第2補助配線部94(91)とが電気的に接続されている。
【0082】
本実施形態では、X軸方向において第1領域A1と能動領域A0との間の領域が第4領域A4となっている。すなわちX軸方向において、第1領域A1は、第4領域A4と第2領域A2との間に位置している。なおX軸方向における第4領域A4の範囲は、特に限定されないが、第1領域A1の範囲よりも広くなっていることが好ましい。
【0083】
また第5領域A5は、振動板50と、第1電極60と、個別リード電極92とが、圧力室基板10側からこの順で積層され、かつ、圧電体層70と、配線層85と、絶縁層150が積層されていない領域であり、第3領域A3よりも圧力室12とは反対側の領域に含まれる。
【0084】
また、上述したように記録ヘッド1は、圧電素子300が収容される空間である保持部31を区画する保護基板30を有し、接着剤によって圧力室基板10等と接合されている。本実施形態では、保護基板30は、図6に示すように、第2領域A2では絶縁層150と接着剤160を介して接合されている。
【0085】
なお、接合の際には、保護基板30がZ軸方向へ押圧される。このため、第1領域A1と第3領域A3とにおいては、保護基板30と共通リード電極91及び個別リード電極92との間から接着剤が押し出され、実際には、保護基板30が共通リード電極91及び個別リード電極92と実質的に接した状態となる場合がある。
【0086】
また保護基板30は、第1領域A1では第2補助配線部94(91)と接着剤160を介して接合されている。保護基板30が接合される第2補助配線部94(91)は、第1領域A1付近から第4領域A4にかけてZ軸方向の高さが異なる段差95を有する。保護基板30を接合する際、余分な接着剤160はこの段差95に貯留され、接着剤160の活性部310側への流れが抑制される。
【0087】
以上のように、振動板50と、第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80と、第2補助配線部94(91)と、個別リード電極92と、絶縁層150と、が各領域において所定の順序で積層されていることで、露出部71に対応する部分において、圧電体層70の破壊等を抑制することができる。
【0088】
詳しくは、第1領域A1において圧電体層70の露出部71が絶縁層150によって覆われていることで、圧電体層70への水分の侵入が抑えられる。また第2領域A2において共通リード電極91が絶縁層150上に位置し、第3領域A3において個別リード電極92の端部が絶縁層150上に位置するようにしたので、これら共通リード電極91と個別リード電極92との絶縁性を向上することができ、マイグレーションによる短絡も抑制することができる。
【0089】
特に、第2領域A2における絶縁層150の端面150aが、第1領域A1の端面150bよりも圧力室基板10側に位置していることで、共通リード電極91と個別リード電極92との間でのマイグレーションの経路が長くなるため、マイグレーションによる短絡が起き難くなる。また、製造過程において、共通リード電極91および個別リード電極92の残渣を第2領域A2から確実に取り除くことができるため、マイグレーションによる短絡が起き難くなる。
【0090】
また圧電素子300の活性部310と非活性部320との境界部分に相当する露出部71に絶縁層150が設けられていることで、当該境界部分における圧電体層70の機械的ダメージを抑制できる。結果として、圧電体層70の破壊を抑制することができる。また絶縁層150は、圧電素子300の活性部310の全体を覆うことなく部分的に設けられているため、圧電素子300の変位量の低下も抑制される。
【0091】
上述のように本実施形態に係る記録ヘッド1は、第1電極60と圧電体層70と第2電極80とを含む圧電素子300と、第2電極80と電気的に接続する第1導電層である共通リード電極91と、絶縁材料で形成される絶縁層150と、圧電素子300の駆動により振動する振動板50と、振動板50の振動により液体に圧力を付与する圧力室12を区画する圧力室基板10と、有する。
【0092】
そして、圧力室12に対向する能動領域A0においては、振動板50と、第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80とが、圧力室基板10側からこの順で積層されている。また圧力室12の長手方向であるX軸方向における能動領域A0よりも外側の領域は、圧電体層70と第2電極80と絶縁層150と第1導電層である第2補助配線部94(91)とが圧力室基板10側からこの順で積層された第1領域A1と、圧電体層70と絶縁層150とが圧力室基板10側からこの順で積層され、かつ、第2電極80(配線層85を含む)と第2補助配線部94とが積層されていない第2領域A2と、を含んでいる。
【0093】
このような構成とすることで、下記のような従来の構成に比べて、露出部71に対応する部分において、絶縁層150の密着性を高め、圧電体層70の破壊を抑制することができる。
【0094】
従来の構成には、第2領域A2に隣接する隣接領域(本願発明に係る第1領域A1に対応する領域)において、圧電体層70と第2電極80と第2補助配線部94(91)と絶縁層150とを圧力室基板10側からこの順で積層したものがある。言い換えれば、従来の構成には、上記隣接領域において、絶縁層150を第2補助配線部94(91)よりも-Z方向側に積層したものがある。
【0095】
この従来の構成では、圧電体層70の表面の露出部71と絶縁層150との密着性が低下することがある。こうした不具合は、第2補助配線部94(91)が形成されない第2領域A2と、第2補助配線部94(91)が形成される上記隣接領域と、の境界部分に形成される絶縁層150の段差により発生する。言い換えれば、こうした不具合は、第2領域A2と上記隣接領域とにおいて、絶縁層150のZ軸方向の高さが大きく異なることにより発生する。
【0096】
第2領域A2と上記隣接領域との境界部分における絶縁層150の段差が大きい場合、絶縁層150の形成過程において、例えば、スピンコートの塗布ムラや、レジストの付き回り不良などが生じやすく、一般的な手法では絶縁層150の形成が不安定になることがあるからである。
【0097】
以上のような観点から、圧電体層70と第2電極80と絶縁層150と第1導電層である第2補助配線部94(91)とが圧力室基板10側からこの順で積層された第1領域A1と、圧電体層70と絶縁層150とが圧力室基板10側からこの順で積層され、かつ、第2電極80(配線層85を含む)と第2補助配線部94とが積層されていない第2領域A2と、を含んだ本発明の構成とすることで、絶縁層150の密着性を高め、圧電体層70の破壊を抑制することができる。
【0098】
ここで、第1導電層である第2補助配線部94(91)の厚さは、第2電極80の厚さよりも厚くなっている。このように第1導電層を厚くすることで電気抵抗を低くし、第2電極80における電荷の分布が偏ることを抑制しつつも、第2電極80を比較的薄くして圧電素子300の可撓部における変位を効率化できる。また、本発明によれば、第1領域A1において、絶縁層150を第2補助配線部94(91)よりも+Z方向側に積層しているため、第2補助配線部94(91)が比較的厚く形成されている場合でも、露出部71に対応する部分において、絶縁層150の密着性を高め、圧電体層70の破壊を抑制することができる。
【0099】
また第2領域A2における絶縁層150の圧力室基板10とは反対側の端面150aは、第1領域A1における絶縁層150の圧力室基板10とは反対側の端面150bよりも、圧力室基板10側に位置している。これにより、例えば、第2領域A2における絶縁層150の圧力室基板10とは反対側の端面150aと、第1領域A1における絶縁層150の圧力室基板10とは反対側の端面150bと、がZ軸に沿う方向において同じ位置に設けられている場合と比較して、絶縁層150上に形成される共通リード電極91と、例えば、個別リード電極92との間でのマイグレーションの経路が長くなるため、マイグレーションによる共通リード電極91と個別リード電極92との短絡が起き難くなる。また、製造過程において、共通リード電極91および個別リード電極92の残渣を第2領域A2から確実に取り除くことができるため、マイグレーションによる短絡が起き難くなる。
【0100】
また圧電体層70の厚さは、第2領域A2において第1領域A1よりも薄くなっている。これにより、第2領域A2における絶縁層150の端面150aと、第1領域A1における絶縁層150の端面150bとの差がより大きくなるため、マイグレーションによる共通リード電極91と、例えば、個別リード電極92との短絡がさらに起き難くなる。また、製造過程において、圧電体層70と第2電極80の界面近傍に形成される絶縁性の低い圧電体層を確実に取り除くことができるため、短絡をより防ぎ易くなる。
【0101】
また第2領域A2に隣接する領域は、絶縁層150と、第1電極60に電気的に接続する第2導電層である個別リード電極92と、が積層された第3領域A3を含み、圧力室12の長手方向において、第2領域A2は、第1領域A1と、第3領域A3と、の間に位置している。このような構成においては、マイグレーションによる共通リード電極91と個別リード電極92との短絡が起き難くなる。
【0102】
また第2導電層である個別リード電極92の厚さは、第1電極60の厚さよりも厚くなっている。本発明によれば、このように個別リード電極92が比較的厚く形成されている場合でも、露出部71に対応する部分において、圧電体層70の破壊を抑制することができる。
【0103】
また第1領域A1に隣接する領域は、圧電体層70と、第2電極80と、第2補助配線部94と、がこの順で積層された第4領域A4を含み、圧力室12の長手方向であるX軸方向において、第1領域A1は、第4領域A4と、第2領域A2と、の間に位置している。このように第4領域A4を備える構成としても、露出部71に対応する部分において、圧電体層70の破壊を抑制することができる。
【0104】
また圧力室12の長手方向であるX軸方向において、第1領域A1は第3領域A3よりも広い。これにより信頼性を向上することができる。第4領域A4や第1領域A1は活性部310である。第4領域A4は、第2電極80上に第2補助配線部94が直接設けられ、第2電極80と第1電極60と電位差が比較的大きくなる部分である。第1領域A1は、第2電極80上に第2補助配線部94が直接設けられておらず、第2電極80と第1電極60との電位差は比較的小さくなる。一方、第3領域A3は、非活性部320である。
【0105】
つまり本実施形態の構成では、電極間の電位差が比較的大きい活性部310である第4領域A4と、非活性部320である第3領域A3との間に、電極間の電位差が比較的小さい活性部310である第1領域A1が存在している。
【0106】
したがって、第1領域A1は、第4領域A4と第3領域A3との間の緩衝領域として機能する。そして、このような緩衝領域として機能する第1領域A1の範囲が比較的広く確保されることで、圧電体層70のクラックをより確実に抑制することができる。
【0107】
また圧力室12の長手方向であるX軸方向において、第4領域A4は第1領域A1よりも広い。これにより、第2補助配線部94によって第2電極80の抵抗値を低下させつつ、記録ヘッド1の小型化を図ることができる。
【0108】
また圧電素子300が収容される空間を区画する保護基板30を有し、保護基板30は、第2領域A2において絶縁層150と接着剤160を介して接合されている。これにより、接着剤160によって圧電体層70の露出部71における絶縁性がより高められる。
【0109】
また第1領域A1に隣接する領域は、圧電体層70と、第2電極80と、第1導電層である第2補助配線部94(91)と、がこの順で積層された第4領域A4を含み、圧力室12の長手方向であるX軸方向において、第1領域A1は、第4領域A4と第2領域A2との間に位置し、第1導電層である第2補助配線部94(91)は、第1領域A1から第4領域A4にかけて段差95を有し、保護基板30は、第1領域A1において第1導電層である第2補助配線部94(91)と接着剤160を介して接合される。
【0110】
これにより、保護基板30を接合する際、余分な接着剤はこの段差95に貯留され、接着剤の活性部310側への流れが抑制される。したがって、例えば、活性部310に接着剤が付着し、振動板50の変動特性および記録ヘッド1の噴射特性に影響が及ぶことを抑制できる。
【0111】
(実施形態2)
図7は、実施形態2に係る記録ヘッドの要部を示す拡大断面図である。
本実施形態は、圧力室12の外側の領域における、振動板50、第1電極60、圧電体層70、第2電極80(配線層85を含む)、第1導電層である共通リード電極91の第2補助配線部94、第2導電層である個別リード電極92、及び、絶縁層150の積層構造の変形例であり、その他の構成は、実施形態1と同様である。なお実施形態1と同一部材には、同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0112】
具体的には、図7に示すように、本実施形態に係る絶縁層150は、X軸方向において、圧電体層70の露出部71の一部を覆って形成される。すなわち絶縁層150は、X軸方向において第2電極80上から露出部71の途中まで連続的に設けられる。つまり絶縁層150は、圧電体層70の露出部71の一部と共に、第2電極80の端部80bを覆って設けられる。なお配線層85の端部85aは、絶縁層150によって覆われていない。
【0113】
このため、X軸方向における能動領域A0よりも外側の領域は、第1領域A1と、第2領域A2と、第4領域A4と、第5領域A5と共に、第6領域A6を含んでおり、第3領域A3は含まれていない。
【0114】
第6領域A6は、第2領域A2の第1領域A1とは反対側で隣接する領域であり、振動板50と、第1電極60と、圧電体層70と、が圧力室基板10側からこの順で積層され、第2電極80と、絶縁層150と、配線層85とが積層されていない領域である。
【0115】
このような本実施形態の構成においても、上述の実施形態と同様に、露出部71に対応する部分において、圧電体層70の破壊を抑制することができる。また第3領域A3が設けられていないことで、記録ヘッド1のコンパクト化を図ることもできる。
【0116】
(実施形態3)
図8は、実施形態3に係る記録ヘッドの要部を示す拡大断面図である。
本実施形態は、保護基板30が接着層によって接合される位置を変更した例であり、その他の構成は、実施形態1と同様である。なお実施形態1と同一部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0117】
図8に示すように、本実施形態に係る保護基板30は、第5領域A5において、圧電素子300と、振動板50と、圧力室基板10とを含んだ積層体に接着剤160を介して接合されている。すなわち図8において、保護基板30は、第5領域A5で個別リード電極92上に接着剤160を介して接合されている。
【0118】
このように本実施形態に係る記録ヘッド1は、圧電素子300が収容される空間である保持部31を区画する保護基板30を有し、保護基板30は、第2領域A2の圧力室12とはX軸方向の反対側の領域である第5領域A5において、圧電素子300と、振動板50と、圧力室基板10と、を含む積層体に接着剤160を介して接合される。なお、接合の際には、保護基板30はZ軸方向へ押圧される。このため、第5領域A5においては、保護基板30と個別リード電極92との間から接着剤が押し出され、実際には、保護基板30が個別リード電極92と実質的に接した状態となる場合がある。
【0119】
そして、本実施形態の記録ヘッド1においても、上述の実施形態と同様に、露出部71に対応する部分において、圧電体層70の破壊を抑制することができる。
【0120】
また本実施形態の構成では、絶縁層150は、圧力室基板10と保護基板30との間には挟まれていない。このため、保護基板30を接合する際、絶縁層150が押圧されることがなく、保護基板30との間に残留応力が残らないため、絶縁層150の剥離が抑制される。さらに、保護基板30を接合する際、余分な接着剤160は、第2補助配線部94(91)と個別リード電極92との隙間、つまり露出部71に対応する部分に貯留され、接着剤160の活性部310側への流れが抑制される。
【0121】
したがって、例えば、活性部310に接着剤160が付着し、振動板50の変動特性および記録ヘッド1の噴射特性に影響が及ぶことを抑制できる。また第2補助配線部94(91)と個別リード電極92との隙間に貯留された接着剤160によって、圧電体層70の露出部71が覆われることで、絶縁性が高められるという効果もある。
【0122】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0123】
例えば、上述の実施形態では、第1領域A1と第2領域A2とが隣接している構成を例示したが、これら第1領域A1と第2領域A2とは、必ずしも隣接していなくてもよい。例えば、図9に示すように、第1領域A1と第2領域A2との間には、第7領域A7が設けられていてもよい。第7領域A7は、振動板50と、第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80と、絶縁層150とが圧力室基板10側からこの順で積層され、かつ、第2補助配線部94(91)が積層されていない領域である。
【0124】
また例えば、図10に示すように、第1領域A1と第2領域A2との間には、第8領域A8が設けられていてもよい。第8領域A8は、振動板50と、第1電極60と、圧電体層70と、絶縁層150と、共通リード電極91とが圧力室基板10側からこの順で積層され、かつ、第2電極80が積層されていない領域である。
【0125】
これら第7領域A7や第8領域A8を有する構成においても、上述の実施形態と同様に、露出部71に対応する部分において、圧電体層70の破壊を抑制することができる。
【0126】
また、これら各実施形態の記録ヘッド1は、液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置に搭載される。図11は、一実施形態に係る液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0127】
図11に示すインクジェット式記録装置Iにおいて、記録ヘッド1は、インク供給手段を構成するカートリッジ2が着脱可能に設けられ、キャリッジ3に搭載されている。この記録ヘッド1を搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5の軸方向に移動自在に設けられている。
【0128】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッド1を搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4には搬送手段としての搬送ローラー8が設けられており、紙等の記録媒体である記録シートSが搬送ローラー8により搬送されるようになっている。なお、記録シートSを搬送する搬送手段は、搬送ローラーに限られずベルトやドラム等であってもよい。
【0129】
このようなインクジェット式記録装置Iでは、記録ヘッド1に対して記録シートSを+X方向に搬送し、キャリッジ3を記録シートSに対してY方向に往復移動させながら、記録ヘッド1からインク滴を噴射させることで記録シートSの略全面に亘ってインク滴の着弾、いわゆる印刷が実行される。
【0130】
また、上述したインクジェット式記録装置Iでは、記録ヘッド1がキャリッジ3に搭載されて主走査方向であるY方向に往復移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例えば、記録ヘッド1が固定されて、紙等の記録シートSを副走査方向であるX方向に移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
【0131】
なお、上述の実施形態においては、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げ、また液体噴射装置の一例としてインクジェット式記録装置を挙げて本発明を説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド及び液体噴射装置全般を対象としたものである。本発明は、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドや液体噴射装置にも適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。また本発明は、かかる液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置にも適用できる。
【0132】
また、本発明は、インクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドに限定されず、超音波デバイス、モーター、圧力センサー、焦電素子、強誘電体素子などの圧電デバイスにも適用することができる。また本発明は、これらの圧電デバイスを利用した完成体、例えば、上記液体等噴射ヘッドを利用した液体等噴射装置の他、上記超音波デバイスを利用した超音波センサー、上記モーターを駆動源として利用したロボット、上記焦電素子を利用したIRセンサー、強誘電体素子を利用した強誘電体メモリー等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0133】
1…インクジェット式記録ヘッド(記録ヘッド)、2…カートリッジ、3…キャリッジ、4…装置本体、5…キャリッジ軸、6…駆動モーター、7…タイミングベルト、8…搬送ローラー、10…圧力室基板(基板)、12…圧力室(凹部)、15…連通板、16…ノズル連通路、17…第1マニホールド部、18…第2マニホールド部、19…供給連通路、20…ノズルプレート、21…ノズル、30…保護基板、31…保持部、32…貫通孔、40…ケース部材、41…収容部、42…第3マニホールド部、43…接続口、44…導入口、45…コンプライアンス基板、46…封止膜、47…固定基板、48…開口部、49…コンプライアンス部、50…振動板、51…弾性膜、52…絶縁体膜、60…第1電極、70…圧電体層、71…露出部、72…凹部、80…第2電極、85…配線層、91…共通リード電極、92…個別リード電極、93…第1補助配線部、94…第2補助配線部、95…段差、100…マニホールド、120…配線基板、121…駆動回路、150…絶縁層、160…接着剤、300…圧電素子、310…活性部、320…非活性部、I…インクジェット式記録装置(記録装置)、S…記録シート、A0…能動領域、A1…第1領域、A2…第2領域、A3…第3領域、A4…第4領域、A5…第5領域、A6…第6領域、A7…第7領域、A8…第8領域
図1
図2
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図4
図5
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図10
図11