(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175984
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】ひび割れ補修材組成物、およびひび割れ補修工法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20231205BHJP
【FI】
E04G23/02 B
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023175719
(22)【出願日】2023-10-11
(62)【分割の表示】P 2019119618の分割
【原出願日】2019-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】591037960
【氏名又は名称】シーカ・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166637
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 圭
(72)【発明者】
【氏名】重永 真志
(72)【発明者】
【氏名】鴨志田 峻輔
(72)【発明者】
【氏名】西川 勉
(57)【要約】 (修正有)
【課題】金属補強材入りの構造物の耐久性を高めることができるひび割れ補修材組成物、およびひび割れ補修工法を提供する。
【解決手段】金属補強材入り構造物のひび割れを補修する補修方法であって、前記補修方法は、エポキシ系樹脂と、防錆剤とを含有し、調製時の粘度が互いに異なる第1及び第2のひび割れ補修材組成物を用意するステップと、前記構造物のひび割れに該構造物の表面から奥に向かって、前記第1のひび割れ補修材組成物31を注入し、その後で、前記第2のひび割れ補修材組成物を注入するステップと、を備え、前記第1のひび割れ補修材組成物は、前記第2のひび割れ補修材組成物よりも低い粘度を有し、前記第1のひび割れ補修材組成物における前記防錆剤の含有率は、前記第2のひび割れ補修材組成物における前記防錆剤の含有率より高い、補修方法。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属補強材入り構造物のひび割れを補修する補修方法であって、前記補修方法は、
エポキシ系樹脂と、防錆剤とを含有し、調製時の粘度が互いに異なる第1及び第2のひび割れ補修材組成物を用意するステップと、
前記構造物のひび割れに該構造物の表面から奥に向かって、前記第1のひび割れ補修材組成物を注入し、その後で、前記第2のひび割れ補修材組成物を注入するステップと、を備え、
前記第1のひび割れ補修材組成物は、前記第2のひび割れ補修材組成物よりも低い粘度を有し、
前記第1のひび割れ補修材組成物における前記防錆剤の含有率は、前記第2のひび割れ補修材組成物における前記防錆剤の含有率より高い、補修方法。
【請求項2】
請求項1に記載の補修方法により補修済み構造体を製造する、補修済み構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ひび割れ補修材組成物、およびひび割れ補修工法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、コンクリート構造物などでは、環境温度の変化などによるコンクリート躯体の膨張・収縮に起因して、コンクリート躯体にひび割れ(亀裂)が発生することがある。
ひび割れの補修工法としては、ひび割れに、エポキシ系、セメント系等の補修材を注入する方法がある(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、金属補強材入りの構造物、例えば鉄筋コンクリート構造物の場合、前記補修材では、構造物の耐久性を高めるのが難しいことがあった。
【0005】
本発明の一態様は、金属補強材入りの構造物の耐久性を高めることができるひび割れ補修材組成物、およびひび割れ補修工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、エポキシ系樹脂と、防錆剤とを含有するひび割れ補修材組成物を提供する。
【0007】
前記防錆剤は、鉱油、ソルビタン脂肪酸エステル、および石油スルホネートを含むことが好ましい。
【0008】
本発明の他の態様は、エポキシ系樹脂と、防錆剤とを含有するひび割れ補修材を、金属補強材入り構造物のひび割れに注入する、ひび割れ補修工法を提供する。
【0009】
前記ひび割れ補修工法では、調製時の粘度が互いに異なる複数の前記ひび割れ補修材を用意し、前記複数のひび割れ補修材のうち第1のひび割れ補修材を前記ひび割れに注入し、次いで、前記複数のひび割れ補修材のうち第1のひび割れ補修材より前記粘度が高い第2のひび割れ補修材を前記ひび割れに注入する方法を採用してもよい。
【0010】
前記第1のひび割れ補修材における前記防錆剤の配合量は、前記第2のひび割れ補修材における前記防錆剤の配合量より多いことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、金属補強材入りの構造物の耐久性を高めることができるひび割れ補修材組成物、およびひび割れ補修工法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態のひび割れ補修工法を適用可能な金属補強材入り構造物の例を示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態による補修工法を説明する斜視図である。
【
図3】前図に続く補修工法を説明する斜視図である。
【
図4】前図に続く補修工法を説明する斜視図である。
【
図5】前図に続く補修工法を説明する斜視図である。
【
図6】前図に続く補修工法を説明する斜視図である。
【
図7】第1実施形態による補修工法を説明する断面図である。
【
図8】前図に続く補修工法を説明する断面図である。
【
図9】前図に続く補修工法を説明する断面図である。
【
図10】前図に続く補修工法を説明する断面図である。
【
図11】第2実施形態による補修工法を説明する斜視図である。
【
図12】前図に続く補修工法を説明する斜視図である。
【
図13】前図に続く補修工法を説明する斜視図である。
【
図14】前図に続く補修工法を説明する斜視図である。
【
図15】前図に続く補修工法を説明する斜視図である。
【
図16】前図に続く補修工法を説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して実施形態によるひび割れ補修材組成物、およびひび割れ補修工法について詳細に説明する。
【0014】
[金属補強材入り構造物]
図1は、実施形態のひび割れ補修工法を適用可能な金属補強材入り構造物の例を示す斜視図である。
図1に示す鉄筋コンクリート構造物10は、鉄筋コンクリート造(RC)の構造物であり、金属補強材入り構造物の具体例である。鉄筋コンクリート構造物10は、基台11の上に立設された壁部である。鉄筋コンクリート構造物10は、内部鉄筋12と、コンクリート躯体13とを備える。内部鉄筋12は、コンクリート躯体13の内部に埋設されている。内部鉄筋12は、鉄筋コンクリート構造物10の高さ方向に延びる縦鉄筋14と、縦鉄筋14に直交する方向に延びる横鉄筋15とを備える。内部鉄筋12は金属補強材の例である。
【0015】
鉄筋コンクリート構造物10のコンクリート躯体13には、ひび割れ20(亀裂)が形成されている。ひび割れ20は、鉄筋コンクリート構造物10の第1主面10aから鉄筋コンクリート構造物10の内部に向けて形成されている。ひび割れ20は、例えば、環境温度の変化、コンクリート躯体13の含水量の変化などによりコンクリート躯体13が膨
張・収縮することより生じる。例えば、ひび割れ20は、コンクリート躯体13の膨張・収縮により生じた引張応力によってコンクリート躯体13が分断されることで形成される。ひび割れ20は、コンクリート躯体13に形成された欠損、欠陥を含む。ひび割れ20は、例えば、内部鉄筋12に達している。
【0016】
[ひび割れ補修材組成物]
実施形態のひび割れ補修材組成物は、エポキシ系樹脂と、防錆剤とを含有する。
エポキシ系樹脂は、2液型であってもよいし、1液型であってもよい。2液型のエポキシ系樹脂は、主剤と硬化剤とが配合される。主剤は、例えば、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンの重合により生成される。主剤は1分子中に2個以上のエポキシ基を有する。主剤は、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂と、n-ブチル-2,3-エポキシプロピルエーテルと、反応性希釈剤とを含む。反応性希釈剤は、エポキシ系樹脂の調製時の粘度(主剤と硬化剤を混合した直後の粘度)より粘度が低い。主剤は、シリカを配合してもよい。
【0017】
硬化剤としては、例えば、アミン化合物、有機酸、酸無水物等が挙げられる。アミン化合物としては、テトラエチレンペンタミン、ジエチレントリアミン、変性脂肪族ポリアミン、脂肪族ポリアミン、メタキシリレンジアミン、ポリアミドアミンなどが挙げられる。これらのアミン化合物は、単独で使用してもよいし、2以上を併用してもよい。
【0018】
硬化剤は、フェノール類を配合してもよい。フェノール類としては、例えば、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、フェノール、クレゾールなどがある。これらのフェノール類は、単独で使用してもよいし、2以上を併用してもよい。
【0019】
防錆剤としては、鉱油、エステル類、石油スルホネート、カルボン酸類、窒素化合物、リン酸塩、チオリン酸塩などを挙げることができる。
鉱油としては、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油などが挙げられる。エステル類としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ペンタエリルスリトールモノオリエートなどが挙げられる。ソルビタン脂肪酸エステルとしては、ソルビタンモノイソステアレート,ソルビタンモノオレートなどが挙げられる。石油スルホネートとしては、石油スルホン酸カルシウム、石油スルホン酸ナトリウム、石油スルホン酸バリウムなどが挙げられる。カルボン酸類としては、脂肪族カルボン酸アルカリ金属塩、アルケニルコハク酸アルカリ金属塩、芳香族カルボン酸アルカリ金属塩などが挙げられる。窒素化合物としては、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライトなどが挙げられる。
【0020】
錆は、例えば、金属表面の電気的および化学的作用による酸化反応等により生じる。防錆剤は、例えば、次に示す作用により錆の発生を抑えると推測できる。防錆剤は、対象となる金属(例えば、内部鉄筋12)の表面に吸着し、水、酸素の吸着を抑えるとともに、当該金属をイオン化しにくくする。そのため、防錆剤は、当該金属(例えば、内部鉄筋12)における反応性を低くし、錆の発生を抑制することができる。
【0021】
防錆剤は、少なくとも、鉱油と、ソルビタン脂肪酸エステルと、石油スルホネートとを含むことが好ましい。これにより、鉄筋コンクリート構造物における防錆効果を高めることができる。
エポキシ系樹脂に対する防錆剤の配合量は、例えば、エポキシ系樹脂100質量部に対して0.5~10質量部(好ましくは0.5~5質量部)とすることができる。
防錆剤は、予め硬化剤に配合しておくことが好ましい。これにより、施工現場におけるひび割れ補修材の調製の作業が容易となる。
【0022】
[ひび割れ補修工法](第1実施形態)
図2~
図6は、第1実施形態によるひび割れ補修工法(以下、単に補修工法ということがある)を説明する斜視図である。
図7~
図10は、第1実施形態による補修工法を説明する断面図である。以下、
図2~
図10を参照して、実施形態のひび割れ補修工法を説明する。
【0023】
(清掃工程)
図2に示すように、鉄筋コンクリート構造物10の表面(第1主面10a)のうち、ひび割れ20を含む帯状領域(ひび割れ20に沿う帯状領域)を清掃し、異物などを除去する。
【0024】
(封止工程)
図3に示すように、前記帯状領域に、ひび割れ20に沿って仮止めシール材21を塗布する。仮止めシール材21が塗布された領域ではひび割れ20が覆われることにより、ひび割れ20の開口が塞がれる。前記帯状領域の一部である注入箇所22には、
図3および
図7に示すように、仮止めシール材21は塗布されない。注入箇所22では、後述の工程でひび割れ補修材がひび割れ20に注入される。注入箇所22は1箇所であってもよいし、複数箇所であってもよい。複数の注入箇所22は、ひび割れ20に沿う方向に間隔をおいて確保される。
【0025】
図4および
図8に示すように、注入箇所22に、ひび割れ補修材を注入するための注入器具23を取り付ける。注入器具23は、取付座25と注入管路26とを備える。取付座25は、円板状に形成されている。注入管路26は、取付座25の一方の面から、取付座25と垂直な方向に延出する。注入管路26および取付座25は、ひび割れ補修材が流れる内部流路を有する。注入器具23の取付座25は、仮止めシール材21によって第1主面10aに接着される。
図5および
図6に示すように、注入管路26には、分岐管路27を介して圧力タンク28が取り付けられる。
【0026】
(注入工程)
前述のひび割れ補修材組成物を用意する。2液型のエポキシ系樹脂を用いる場合には、ひび割れ20への注入の直前に主剤と硬化剤とを混合してひび割れ補修材組成物を得る。主剤と硬化剤とを混合することによりエポキシ系樹脂が生成する。ひび割れ補修材組成物には、防錆剤が配合される。硬化剤に防錆剤が予め配合されている場合には、主剤と硬化剤とを混合することにより、エポキシ系樹脂と防錆剤とを含有するひび割れ補修材組成物が得られる。
【0027】
図5に示すように、ひび割れ補修材組成物をひび割れ補修材31として注入ポンプ30の貯留部30aに充填する。注入ポンプ30によって、ひび割れ補修材31を、注入器具23を通してひび割れ20に注入する。
図9に示すように、ひび割れ補修材31は、注入器具23の内部流路を通ってひび割れ20に進入する。ひび割れ補修材31は、ひび割れ20の全体に行き渡り、一部は内部鉄筋12に達する。ひび割れ補修材31の一部は、内部鉄筋12の表面を覆う。ひび割れ補修材31に含まれる防錆剤は内部鉄筋12に作用する。
図5に示すように、仮止めシール材21は、ひび割れ補修材31がひび割れ20から溢れ出るのを抑制する。
【0028】
図6に示すように、注入器具23を通してひび割れ補修材31をひび割れ20に注入した後、注入管路26の先端を閉止する。ひび割れ補修材31の注入時に、ひび割れ補修材31の一部は圧力タンク28に流入する。これにより、圧力タンク28の内圧が上昇する
ため、圧力タンク28内のひび割れ補修材31は、注入管路26の閉止後も、安定した流量で注入管路26を通してひび割れ20に注入される。所定時間、放置することによって、ひび割れ20内のひび割れ補修材31は硬化する。
図10に示すように、ひび割れ補修材31が硬化した後、仮止めシール材21および注入器具23を撤去する。
【0029】
前記ひび割れ補修材組成物は、防錆剤を含有するため、ひび割れ20内において防錆剤を内部鉄筋12に作用させることができる。そのため、内部鉄筋12における錆の発生を抑制することができる。よって、鉄筋コンクリート構造物10の耐久性を高めることができる。
【0030】
前記ひび割れ補修工法は、防錆剤を含有するひび割れ補修材組成物を用いるため、ひび割れ20内において防錆剤を内部鉄筋12に作用させることができる。そのため、内部鉄筋12における錆の発生を抑制することができる。よって、鉄筋コンクリート構造物10の耐久性を高めることができる。
【0031】
[ひび割れ補修工法](第2実施形態)
次に、第2実施形態のひび割れ補修工法について説明する。第2実施形態のひび割れ補修工法では、調製時の粘度(主剤と硬化剤を混合した直後の粘度)が互いに異なる複数のひび割れ補修材を使用する。例えば、調製時の粘度が異なる3つのひび割れ補修材(第1~第3のひび割れ補修材)を使用することができる。第2のひび割れ補修材は、第1のひび割れ補修材に比べて前記粘度が高い。第3のひび割れ補修材は、第2のひび割れ補修材に比べて前記粘度が高い。
【0032】
ひび割れ補修材は、主剤における反応性希釈剤の配合量を調整することにより前記粘度を調整することができる。例えば、反応性希釈剤の配合量を多くすれば、ひび割れ補修材の粘度を低くできる。反応性希釈剤の配合量を少なくすれば、ひび割れ補修材の粘度を高くできる。第2のひび割れ補修材は、主剤における反応性希釈剤の配合量が第1のひび割れ補修材に比べて少ないことが好ましい。第3のひび割れ補修材は、主剤における反応性希釈剤の配合量が第2のひび割れ補修材に比べて少ないことが好ましい。
【0033】
第1のひび割れ補修材の調製時の粘度は、例えば、100~500mPa・s(23℃)としてよい。第2のひび割れ補修材の調製時の粘度は、例えば、440~840mPa・s(23℃)としてよい。第3のひび割れ補修材の調製時の粘度は、例えば、5000~15000mPa・s(23℃)としてよい。
【0034】
第2のひび割れ補修材の硬化剤は、アミン化合物がテトラエチレンペンタミンを含んでいてもよい。第2のひび割れ補修材の硬化剤は、フェノール類として2,4-ジ-tert-ブチルフェノールを用いてもよい。
【0035】
第1のひび割れ補修材は、第2のひび割れ補修材に比べて防錆剤の配合量(または含有率)が多いことが好ましい。第2のひび割れ補修材は、第3のひび割れ補修材に比べて防錆剤の配合量(または含有率)が多くてもよい。例えば、第1のひび割れ補修材における防錆剤の配合量C1と、第2のひび割れ補修材における防錆剤の配合量C2と、第3のひび割れ補修材における防錆剤の配合量C3とは、「C1>C2>C3」を満たしてよい。
【0036】
図11~
図15は、第2実施形態による補修工法を説明する斜視図である。
【0037】
(清掃工程)
図11に示すように、鉄筋コンクリート構造物10の表面(第1主面10a)のうち、
ひび割れ20を含む帯状領域を清掃する。
【0038】
(封止工程)
図12に示すように、ひび割れ20を含む帯状領域に、注入箇所22を残して、ひび割れ20に沿って仮止めシール材21を塗布する。
図13に示すように、注入箇所22に、ひび割れ補修材を注入するための注入器具23を取り付ける。
【0039】
(第1注入工程)
主剤と硬化剤とを混合して第1のひび割れ補修材131を得る。
図14に示すように、注入ポンプ30によって、第1のひび割れ補修材131をひび割れ20に注入する。第1のひび割れ補修材131は低粘度であるため、ひび割れ20の全体に行き渡りやすい。
【0040】
(第2注入工程)
主剤と硬化剤とを混合して第2のひび割れ補修材132を得る。
図15に示すように、注入ポンプ30によって、第2のひび割れ補修材132をひび割れ20に注入する。第2のひび割れ補修材132は、第1のひび割れ補修材131に比べて高粘度であるため、第1注入工程においてひび割れ20に未充填の空間が残った場合でも、この空間を埋めることができる。
【0041】
(第3注入工程)
主剤と硬化剤とを混合して第3のひび割れ補修材133を得る。
図16に示すように、注入ポンプ30によって、第3のひび割れ補修材133をひび割れ20に注入する。第3のひび割れ補修材133は、第2のひび割れ補修材132に比べて高粘度であるため、第2注入工程においてひび割れ20に未充填の空間が残った場合でも、この空間を埋めることができる。
【0042】
ひび割れ補修材131~133が硬化した後、仮止めシール材21および注入器具23を撤去する。
【0043】
前記ひび割れ補修工法は、第1のひび割れ補修材131をひび割れ20に注入し、次いで、第1のひび割れ補修材131よりも高粘度の第2のひび割れ補修材132をひび割れ20に注入し、次いで、第2のひび割れ補修材132よりも高粘度の第3のひび割れ補修材133をひび割れ20に注入する。
【0044】
第1注入工程では、第1のひび割れ補修材131は低粘度であるため、ひび割れ20の狭い箇所にも浸透し、ひび割れ20の全体に行き渡る。第1のひび割れ補修材131は、内部鉄筋12の表面に広範囲に広がる。第1のひび割れ補修材131は防錆剤の含有量が多いため、内部鉄筋12における防錆効果を高めることができる。よって、鉄筋コンクリート構造物10の耐久性を高めることができる。
【0045】
第2注入工程では、高粘度の第2のひび割れ補修材132を使用するため、第1注入工程においてひび割れ20に未充填の空間が残った場合でも、この空間を埋めることができる。第3注入工程では、高粘度の第3のひび割れ補修材133を使用するため、第2注入工程においてひび割れ20に未充填の空間が残った場合でも、この空間を埋めることができる。第2注入工程および第3注入工程によれば、ひび割れ20の間隔が大きい場合でも、ひび割れ20の全体にひび割れ補修材131~133を充填できる。よって、ひび割れ20の補修箇所の耐久性を高めることができる。
【0046】
前記ひび割れ補修工法では、ひび割れをひび割れ補修材で隙間なく埋めることができるため、内部鉄筋に錆が生じた場合でも、錆を含む水がひび割れ外に漏出するのを抑制できる。よって、錆により鉄筋コンクリート構造物の表面が汚れるのを回避できる。
【0047】
以上、本発明の実施形態によるひび割れ補修材組成物およびひび割れ補修工法について説明したが、本発明は上記実施形態に制限されることなく、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。
ひび割れ補修工法の対象となる金属補強材入り構造物は、鉄筋コンクリート造(RC)の構造物に限らず、鉄筋鉄骨コンクリート造(SRC)の構造物であってもよい。この場合、鉄筋および鉄骨は金属補強材の具体例である。金属補強材が埋設される躯体は、コンクリート製に限らず、合成樹脂製、セラミック製などであってもよい。金属補強材を構成する金属は特に限定されず、鉄、銅、それらの合金などがあるが、通常は鉄またはその合金である。
【0048】
第2実施形態のひび割れ補修工法では、3種類のひび割れ補修材を用いたが、ひび割れ補修材の数は2でもよいし、4以上の任意の数でもよい。
ひび割れ補修材の数が2である場合には、第1のひび割れ補修材をひび割れに注入し、次いで、第1のひび割れ補修材より粘度が高い第2のひび割れ補修材をひび割れに注入する。
ひび割れ補修材の数が4である場合には、第1のひび割れ補修材をひび割れに注入し、次いで、第1のひび割れ補修材より粘度が高い第2のひび割れ補修材をひび割れに注入する。次いで、第2のひび割れ補修材より粘度が高い第3のひび割れ補修材をひび割れに注入する。次いで、第3のひび割れ補修材より粘度が高い第4のひび割れ補修材をひび割れに注入する。
【符号の説明】
【0049】
10…鉄筋コンクリート構造物(金属補強材入り構造物)、20…ひび割れ、31…ひび割れ補修材、131…第1のひび割れ補修材、132…第2のひび割れ補修材、133…第3のひび割れ補修材。