IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ニッタン株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-消火システム 図1
  • 特開-消火システム 図2
  • 特開-消火システム 図3
  • 特開-消火システム 図4
  • 特開-消火システム 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176229
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】消火システム
(51)【国際特許分類】
   A62C 37/00 20060101AFI20231206BHJP
   G08B 17/00 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
A62C37/00
G08B17/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088398
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000111074
【氏名又は名称】ニッタン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】小林 耕起
(72)【発明者】
【氏名】秋山 信幸
(72)【発明者】
【氏名】山納 正人
【テーマコード(参考)】
2E189
5G405
【Fターム(参考)】
2E189GA01
2E189KA04
5G405AA10
5G405AD06
5G405CA25
5G405CA29
5G405CA60
(57)【要約】
【課題】消火区域内の人の有無を精度よく自動判断して事故の発生を回避しつつ消火ガスの放出を実行できる消火システムを提供する。
【解決手段】消火剤放出装置と、消火剤の放出動作を開始させる起動装置と、人検知手段と、集音手段と、起動装置へ開始信号を送信する制御装置と、を備える消火システムにおいて、制御装置は、集音手段が集音した音を処理して少なくとも当該音が人の声か否かを判定する機能を有する音声認識手段と、消火区域において火災発生と判断してからの経過時間を計時する計時手段と、火災発生の判断時から開始信号の送信開始までの放出開始時間を設定する放出開始時間設定手段と、経過時間が放出開始時間に達した判断すると開始信号の送信を決定する放出決定手段とを有し、放出開始時間設定手段は人検知手段が人を検知かつ/または音声認識手段が人の声であると判定すると放出開始時間を既定の長さより長い時間に変更するようにした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
消火区域に設置され消火剤の放出を行う消火剤放出装置と、
消火剤の放出動作の開始を指示する開始信号を受けて前記消火剤放出装置を作動させて消火剤の放出動作を開始させる起動装置と、
前記消火区域に設置され人の存在を検知する人検知手段と、
前記消火区域に設置され当該消火区域内の音を集音する集音手段と、
所定の条件の成立に基づいて前記起動装置へ前記開始信号を送信する制御装置と、
を備える消火システムであって、
前記制御装置は、
前記集音手段が集音した音を処理して少なくとも当該音が人の声か否かを判定する機能を有する音声認識手段と、
前記消火区域において火災発生と判断してからの経過時間を計時する計時手段と、
前記火災発生の判断時から前記開始信号の送信開始までの放出開始時間を設定する放出開始時間設定手段と、
前記経過時間が前記放出開始時間に達した判断すると前記開始信号の送信を決定する放出決定手段と
を有し、
前記放出開始時間設定手段は、前記人検知手段が人を検知かつ/または前記音声認識手段が前記音は人の声であると判定すると前記放出開始時間を既定の長さより長い時間に変更する
ことを特徴とした消火システム。
【請求項2】
前記消火システムは、前記消火区域に設置された音声出力手段をさらに備え、
前記音声出力手段および前記集音手段は、前記人検知手段の近傍にそれぞれ設置されており、
前記制御装置は、火災発生と判断しかつ前記人検知手段が人の存在を検知すると、当該人を検知した人検知手段の近傍に設置されている掲示物の内容に関連した発声を要請する案内音声を当該音声出力手段から出力させ、
前記放出開始時間設定手段は、前記集音手段が集音した音を前記音声認識手段が処理した結果が前記掲示物の内容に相当している場合に、前記放出開始時間を、当該集音手段から前記消火区域の出口までの距離に比例した長さの時間に変更する
ことを特徴とした請求項1に記載の消火システム。
【請求項3】
前記消火システムは、前記消火区域に設置された音声出力手段をさらに備え、
前記音声出力手段および前記集音手段は、前記人検知手段の近傍にそれぞれ設置されており、
前記制御装置は、火災発生と判断したにもかかわらず前記人検知手段が人の存在を検知しない場合には、特定の言葉の発声を要請する案内音声を前記音声出力手段から出力させ、
前記放出開始時間設定手段は、前記集音手段が集音した音を前記音声認識手段が処理した結果が前記特定の言葉に相当している場合に、前記放出開始時間を、当該集音手段から前記消火区域の出口までの距離に比例した長さの時間に変更する
ことを特徴とした請求項1に記載の消火システム。
【請求項4】
前記制御装置は、一定時間にわたり前記集音手段が集音した音が前記特定の言葉を表した人の声であると前記音声認識手段が認識しない場合に、
所定動作を要請する案内音声を前記音声出力手段から出力させ、
前記放出開始時間設定手段は、前記音を前記音声認識手段が処理した結果が前記所定動作から生じる所作音である場合に、前記放出開始時間を、当該音を集音した集音手段から前記消火区域の出口までの距離に比例した長さの時間に変更する
ことを特徴とした請求項3に記載の消火システム。
【請求項5】
前記放出決定手段は、前記経過時間が前記放出開始時間に達したときに、前記人検知手段が前記消火区域内に人の存在を検知していない場合には、前記開始信号の送信を決定することを特徴とした請求項2~4のいずれかに記載の消火システム。
【請求項6】
前記人検知手段から出力され人の存在検知に関わる信号、前記集音手段から出力された前記消火区域内の音に関わる信号、前記音声出力手段から出力する音声案内に関わる信号を伝送する信号線群と、
火災の発生の検知信号を伝送する信号線と、は互いに離間して敷設されていることを特徴とした請求項5に記載の消火システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消火剤(消火ガスを含む)を用いた消火システムに関し、消火区域内に人が居る状態で消火剤が放出される事故が発生するのを防止するために利用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
機械式駐車場など、閉鎖された空間(防護区画)において発生した火災を、窒素や二酸化炭素のような不燃性ガス(以下、消火ガス)の一斉放出により消火するシステムが普及している。消火ガスには、配管の工事性や放出時間を考慮して、窒素ガスやハロンガスなどが用いられているが、一部に二酸化炭素ガスを用いた消火システムもある。
従来、消火ガスを用いた消火システムにおいては、人為的な判断ミスの他、防護区画(消火区域)内にて作業員が点検作業中に、火災検知信号を伝送する信号線を誤って切断することで意図しない信号が起動装置(制御装置)へ送信され、火災の発生と判断されてしまった結果、消火ガスが放出されるという事故の発生が報告されている。
【0003】
上記のような事故の発生を防止する観点から、消火ガスを放出するガス系消火設備において、火災感知器からの検知信号つまり火災発生信号と、人を検知する人体センサー(人感センサー)から出力される防護区画が無人であることを示す信号とのAND条件(論理積)により、消火設備を起動させるようにした発明が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-255117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている技術によれば、火災発生の信号を起動装置が受けても、人感センサーの出力が有人であることを示していればAND条件が成立しないため、消火ガスの放出を防ぐことができる。しかし、人感センサーは検知範囲がある程度限られるため、物陰も含めて検知可能範囲外に人がいる場合には判断を誤り、消火ガスが放出されてしまう可能性を否定できないという課題がある。
【0006】
本発明は上記のような課題に着目してなされたもので、その目的とするところは、消火剤を用いた消火システムにおいて、消火区域内の人の有無を精度よく自動判断して、事故の発生を回避して安全に消火剤の放出を実行できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、
消火区域に設置され消火剤の放出を行う消火剤放出装置と、
消火剤の放出動作の開始を指示する開始信号を受けて前記消火剤放出装置を作動させて消火剤の放出動作を開始させる起動装置と、
前記消火区域に設置され人の存在を検知する人検知手段と、
前記消火区域に設置され当該消火区域内の音を集音する集音手段と、
所定の条件の成立に基づいて前記起動装置へ前記開始信号を送信する制御装置と、
を備える消火システムにおいて、
前記制御装置は、
前記集音手段が集音した音を処理して少なくとも当該音が人の声か否かを判定する機能を有する音声認識手段と、
前記消火区域において火災発生と判断してからの経過時間を計時する計時手段と、
前記火災発生の判断時から前記開始信号の送信開始までの放出開始時間を設定する放出開始時間設定手段と、
前記経過時間が前記放出開始時間に達した判断すると前記開始信号の送信を決定する放出決定手段と
を有し、
前記放出開始時間設定手段は、前記人検知手段が人を検知かつ/または前記音声認識手段が前記音は人の声であると判定すると前記放出開始時間を規定の長さより長い時間に変更するように構成したものである。
【0008】
上記のような構成を有する消火システムによれば、人検知手段が消火区域内の人の存在を検知した場合や集音手段が集音した音が人の声であると音声認識手段が判定した場合に、放出開始時間を既定の長さより長い時間に変更するため、火災発生と判断した際に消火剤の放出開始を遅らせることができ、それによって消火区域内に居る人が退出する時間を確保し、事故の発生を回避して安全に消火剤の放出を開始することができる。
【0009】
ここで、望ましくは、前記消火システムは、前記消火区域に設置された音声出力手段をさらに備え、
前記音声出力手段および前記集音手段は、前記人検知手段の近傍にそれぞれ設置されており、
前記制御装置は、火災発生と判断しかつ前記人検知手段が人の存在を検知すると、当該人を検知した人検知手段の近傍に設置されている掲示物の内容に関連した発声を要請する案内音声を当該音声出力手段から出力させ、
前記放出開始時間設定手段は、前記集音手段が集音した音を前記音声認識手段が処理した結果が前記掲示物の内容に相当している場合に、前記放出開始時間を、当該集音手段から前記消火区域の出口までの距離に比例した長さの時間に変更するように構成する。
【0010】
あるいは、前記消火システムは、前記消火区域に設置された音声出力手段をさらに備え、
前記音声出力手段および前記集音手段は、前記人検知手段の近傍にそれぞれ設置されており、
前記制御装置は、火災発生と判断したにもかかわらず前記人検知手段が人の存在を検知しない場合には、特定の言葉の発声を要請する案内音声を前記音声出力手段から出力させ、
前記放出開始時間設定手段は、前記集音手段が集音した音を前記音声認識手段が処理した結果が前記特定の言葉に相当している場合に、前記放出開始時間を、当該集音手段から前記消火区域の出口までの距離に比例した長さの時間に変更するように構成する。
【0011】
上記のような構成によれば、人検知手段が消火区域内の人の存在を検知した場合に、音声出力手段が出力した案内音声で要請した内容の音声が集音されると、放出開始時間を既定の長さより長い時間に変更するため、火災発生と判断した際に消火剤の放出開始を遅らせることができる。しかも、放出開始時間を、当該集音手段から前記消火区域の出口までの距離に比例した長さの時間に変更するため、火災発生時に消火区域内の出入り口から遠い場所に人が居たとしても退出する時間を確保し、事故の発生を回避して安全に消火剤の放出を開始することができる。
【0012】
さらに、望ましくは、前記制御装置は、一定時間にわたり前記集音手段が集音した音が前記特定の言葉を表した人の声であると前記音声認識手段が認識しない場合に、
所定動作を要請する案内音声を前記音声出力手段から出力させ、
前記放出開始時間設定手段は、前記音を前記音声認識手段が処理した結果が前記所定動作から生じる所作音である場合に、前記放出開始時間を、当該音を集音した集音手段から前記消火区域の出口までの距離に比例した長さの時間に変更するように構成する。
【0013】
上記のような構成によれば、人検知手段が消火区域内の人の存在を検知した場合に、音声出力手段が出力した案内音声で要請した動作に伴って発生する所作音が集音されると、放出開始時間を既定の長さより長い時間に変更するため、火災発生と判断した際に消火剤の放出開始を遅らせることができる。しかも、放出開始時間を、当該集音手段から前記消火区域の出口までの距離に比例した長さの時間に変更するため、火災発生時に消火区域内の出入り口から遠い場所に人が居たとしても退出する時間を確保し、安全に消火剤の放出を開始することができる。
【0014】
また、望ましくは、前記放出決定手段は、前記経過時間が前記放出開始時間に達したときに、前記人検知手段が前記消火区域内に人の存在を検知していない場合には、前記開始信号の送信を決定するようにする。
かかる構成によれば、火災発生と判断した際に消火区域内に人が存在しないあるいは居なくなったと判定すると、速やかに消火剤を放出させて消火を実行することができる。
【0015】
さらに、望ましくは、前記人検知手段から出力され人の存在検知に関わる信号、前記集音手段から出力された前記消火区域内の音に関わる信号、前記音声出力手段から出力する音声案内に関わる信号を伝送する信号線群と、火災の発生の検知信号を伝送する信号線とは互いに離間して敷設されているようにする。
かかる構成によれば、人検知手段からの信号や集音手段からの信号、音声案内に関わる信号を伝送する信号線群と、火災の発生の検知信号を伝送する信号線とが同時に切断された状態が発生する可能性が低くなり、システムの信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る消火システムによれば、消火区域内の人の有無を精度よく自動判断し、事故の発生を回避して安全に消火剤の放出を実行することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る消火システムの一実施形態を示す概略構成図である。
図2】実施形態の消火システムの詳細を示すブロック図である。
図3】実施形態の消火システムにおける消火区域内の状況の代表的な例を示す説明図である。
図4】実施形態の消火システムにおける消火起動処理の手順を示すフローチャートである。
図5図4の消火起動処理の変形例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る消火システムの一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態の消火システムの概略構成を示す。図1に示すように、本実施形態の消火システムは、閉鎖された空間を有する機械式駐車場などの消火区域(防護区画)PA内部の所定箇所に配設された火災感知器11、消火区域内部の各箇所に配設された消火ガスの噴射ノズル12、同じく消火区域内部の各箇所に配設された人感センサー等を内蔵した機器セット13、消火ガスが充填されたガスボンベ14、噴射ノズル12とガスボンベ14とを接続するガス配管15を備えている。
【0019】
また、本実施形態の消火システムは、火災感知器11や機器セット13内の人感センサーからの信号に基づいて火災発生の有無、消火ガス放出の要否の判断を行う制御装置16、該制御装置16が消火ガス放出要と判断した場合にガスボンベ14の接続口またはガス配管15の始端部にある弁を開放して噴射ノズル12より消火ガスを放出させる起動装置17、火災感知器11および機器セット13と制御装置16とを接続する信号線18A,18B、消火区域の出入り口の近傍に設けられた放出表示灯19を備えている。
さらに、上記消火システムとは別に、消火区域内部の所定箇所に配設された火災感知器21と、信号線22を介して火災感知器21からの検知信号を受信して火災の発生の判断を行う火災受信機23とを備えた火災報知システムが設けられており、火災受信機23と上記消火システムの制御装置16とは信号線24を介して通信可能に接続されている。
【0020】
上記機器セット13は、図2に示すように、人感センサー31の他、スピーカー32およびマイクロホン(以下、マイクと記す)33を内蔵している。人感センサー31は、赤外線や超音波、マイクロ波などを用いて人体を感知する機能を備えたデバイスであり、任意の既存の人感センサーを使用することができる。
火災感知器11と制御装置16とを接続する信号線18Aと、機器セット13と制御装置16とを接続する信号線18Bとは、一定以上の距離をおいて離間した状態で敷設されている。これにより、信号線18Aと18Bとが同時に切断された状態が発生する可能性が低くなり、システムの信頼性が高くなる。
【0021】
制御装置16は、例えばCPU(Central Processing Unit)、CPUが実行するプログラムを格納した不揮発性メモリ、作業用のRAM(Random Access Memory)などからなる汎用のデータ処理装置により構成することができる。
なお、本実施形態においては、制御装置16により統括制御される消火システムと火災受信機23により統括制御される火災報知システムとが別個に構成されているが、例えば火災受信機23が制御装置16の機能も備えることで、火災報知機能と消火機能を有する一体のシステムとして構成することも可能である。その場合、消火区域内に配設されたすべての火災感知器(11,21)は火災受信機23に接続される。
【0022】
また、制御装置16は、起動装置17を作動させて消火ガスの放出を開始もしくは実行したことを、火災受信機23または関係者が保有する携帯端末へ無線で知らせる機能を備えるように構成しても良い。
さらに、本実施形態においては、制御装置16が火災感知器11からの信号に基づいて火災発生と判断していない場合であっても、火災受信機23が消火区域内の火災感知器21からの信号に基づいて火災発生と判断して制御装置16へ情報もしくは指令を送信してきた場合には、起動装置17を作動させて消火ガスを放出させるようにしても良い。逆に、火災感知器21が火災を検知していなくても火災感知器11が火災を検知した場合には、制御装置16から火災受信機23へ火災検知情報および消火ガスの放出の情報を送信するようにしても良い。
【0023】
図2には、上記制御装置16の具体的な構成例が示されている。
制御装置16は、信号線18Aを介して感知器11より送られている信号や信号線18Bを介して機器セット13内の人感センサー31およびマイク33からの信号を受信する信号送受信部61と、演算処理部62、記憶部63、火災受信機23等の外部装置との間の通信を行う通信部64、起動装置17や放出表示灯19に対する信号を出力する出力部65を備えており、記憶部63には、基本となるガス放出開始時間の情報(既定時間)、放出開始を遅らせる増加時間に関する情報、スピーカー32より出力する複数のメッセージ(音声案内情報)などが記憶されている。
【0024】
演算処理部62は、信号送受信部61が信号線18Bを介して受信したマイク33からの信号をA/D変換し音声認識処理を行なって音声内容を判断する音声認識手段62A、感知器11からの信号に基づいて火災発生の判断および消火ガスの放出の決定を行うガス放出決定手段62B、時刻を計時する計時手段(タイマ)62C、音声認識手段62Aの認識結果に基づいて放出開始時間を設定する放出開始時間設定手段62D、メッセージ選択手段62E、その他の手段を備えており、これらの手段は、演算処理部62を構成するCPU(マイクロプロセッサ)とCPUが実行するプログラムとによって実現される。記憶部63は、半導体メモリあるいはハードデイスクなどの記憶装置により構成される。演算処理部62は、複数の素子からなる電子回路として構成することも可能である。
【0025】
次に、図3を用いて、上記構成の消火システムにおいて、制御装置16が起動装置17を作動させて消火ガスの放出を開始させる判断を行う際の基本的な考え方について説明する。なお、図3においては、図面の右側に消火区域の出入り口があるものとする。
本実施形態においては、制御装置16が火災感知器11からの信号に基づいて火災発生と判断した場合に、直ちに消火ガスの放出を開始させるのではなく、先ず人感センサー31からの信号とマイク33からの音声信号に基づく音声認識の結果とを組み合わせて消火区域内に人がいるか否かを判定する。そして、人感センサー31からの信号と音声認識の結果のどちらかが人の存在を示している場合には、消火ガスの噴射(放出)を遅らせるようにしている。
【0026】
ここで、火災感知器11からの信号に基づいて制御装置16が行う火災発生の判断には、実際に火災が発生している場合のみではなく、信号線18Aの切断により火災が発生したと判断されるのに等しい信号が制御装置や受信機に入力された場合も含まれる。また、火災を感知して装置が起動してから消火剤(消火ガス)の放出まで最低20秒とすることが法令で定められており、上限はないので、消火ガスの放出を遅らせることは、法令遵守の観点および人命優先の観点からも問題はない。
【0027】
さらに、現在の音声認識技術においては、特定の個人が発した音声や特定の用語を認識する技術は確立されているものの、一般の物音と不特定多数の人が発する任意の言葉とを峻別することは難しい。そこで、本実施形態の消火システムにおいては、機器セット13に内蔵されているスピーカー32を利用して、火災発生時に所定の言葉(フレーズ)を発するように音声出力を行い、それに応じて消火区域内にいる人が発した言葉をマイク33で集音して音声認識処理を行い、認識処理結果に基づいて判断を行うようにしている。これにより、消火区域内に人がいるか否か精度よく判断することができる。
【0028】
ところで、人感センサー31からの信号に基づく判断は、例えば人が物陰に居るような場合のように、100%正確に判断できるものではない。また、音声認識も前述したように確実性は低い。そこで、人感センサーと音声認識に主従関係を設け、先ず人感センサーに基づく判断を行い、判断結果があいまいな場合には、音声認識結果を加味して最終的な判断を行うようにしても良い。
【0029】
具体的には、図3に示すように、人感センサー31もしくはスピーカー32の近傍に番号札34を掲示しておき、火災感知器11からの信号に基づいて火災発生と判断した場合に、番号札34に書かれた番号(数字)を読み上げるように要請するメッセージを、人を感知した人感センサー31の近傍にあるスピーカー32からアナウンスする。そして、このアナウンスに応じて人が発した言葉をマイク33で集音して音声認識処理を行い、認識処理結果に基づいて音声内容を判断する。
この際、読み上げられるべき言葉(数字)が特定されているので、ランダムな言葉を集音して判断する場合に比べて、音声認識処理結果の信頼度が高くなる。これにより、人感センサーに基づく判断結果があいまいな場合にも、消火区域内に人がいるか否か精度よく判断することができる。その結果、物陰で作業をして居て火災の発生に気づかない作業者が逃げ遅れるのを防止することができる。
【0030】
さらに、消火区域内に人がいると判断して消火ガスの放出開始までの時間を遅らせる際に、人の音声を集音したマイクの位置と出口までの距離に応じて遅らせる時間を変えるようにしても良い。
これにより、図3のレイアウトの場合、例えば1番の番号札の近傍のマイクの集音結果に基づいて放出開始までの時間を遅らせた後、3番の番号札の近傍にたどり着くまでに想定以上に時間がかかったとしても、3番の番号札の近傍のマイクから出口までの距離に応じて遅延時間を再設定することで、消火区域からの退出を消火剤の放出開始に間に合わせ、事故の発生を防止することができる。
従って、消火設備の点検作業中における誤操作等に起因する消火ガスの誤放出による事故対策に有効である。また、実際に火災が発生した時の逃げ遅れ防止にも有効である。なお、何回か放出を遅らせた時間が経過しても、消火区域内に人が存在していると判断した場合、基本的には、消火ガスの放出を中止する。
【0031】
また、消火ガスの放出開始までの時間を遅らせる際には、例えば「火災が発生しています。消火ガスを放出します。あと〇分以内に非常出口から退去してください」といった内容のアナウンスを行う。
さらに、故障や電池切れ等により人感センサー31が反応していない場合も考えられ、そのような場合には失報でないことを確認したい。そこで、消火区域内に配設されているすべてのスピーカーから、特定のフレーズ(例えば「待ってください」等)を大声で発するよう要請するアナウンスを行うようにしても良い。また、このようなアナウンスは、前述の消火ガスの放出開始時間を知らせるアナウンスとは時間的な重なりがないようにして実行する。
【0032】
次に、本実施形態の消火システムにおける制御装置16による消火起動処理の具体的な手順の一例を、図4のフローチャートを用いて説明する。なお、このフローチャートに従った消火起動処理は、制御装置16の電源が投入されることにより開始される。
制御装置16は、図4の消火起動処理を開始すると、先ず火災感知器11からの検知信号や火災受信機23からの情報信号をチェックして、対象の消火区域内で火災が発生しているか否か判断する(ステップS1)。そして、火災が発生している(Yes)と判断するステップS2へ進み、タイマ62Cによる計時を開始するとともに、放出開始時間を既定値に設定する。
【0033】
その後、制御装置16は、スピーカー32による音声案内処理(ステップS11,S12)と、人の有無を確認した上で消火ガスの放出を開始させる安全確認放出処理(ステップS21~S31)を、並行して実行する。なお、図4のフローチャートの左側の音声案内処理(S11,S12)は、タイマ割込み等によりシステムがリセットもしくは停止ボタンが操作されるまで、所定の周期で絶え間なく繰り返し実行する。一方、図4のフローチャートの右側の安全確認放出処理(S21~S31)は、ステップS2で起動したタイマ62Cが放出開始時間の計時を終了するまで、処理の目的を達成するのに有意な時間間隔(例えば放出開始時間の半分の時間)で繰り返し実行する。
【0034】
左側の音声案内処理においては、先ずステップS11で、「火事です。火事です。消火剤を放出します。危険ですから避難してください。」といった法令で定められた所定内容のアナウンスを1回行う。続いて、安全確認放出処理の中で設定がなされる可能性がある要請のための音声案内(1回)を実行する時間を確保する(ステップS12)。
なお、ステップS12で確保した時間に音声案内が実行される際に、ステップS11で行なったアナウンスに続けて開始されることで、内容を聴き取りにくくなるのを回避するため、ステップS11のアナウンスとステップS12のアナウンスとの間に、数秒程度のインターバルを設けるのが望ましい。
【0035】
一方、安全確認放出処理においては、先ずステップS21で、人感センサー31からの信号を読み込んで、反応の有無すなわち消火区域内に人が居るか否かを判断する。そして、人が居る(Yes)と判断すると、ステップS22へ進み、例えば「近くの天井にある番号札の番号を読み上げてください」というような発声を要請する内容の音声案内を行う。
次に、ステップS23へ進んで、マイク33からの信号を所定時間読み込んで音声認識処理を行い、要請内容と一致した音声が得られたか否か判断する(ステップS24)。ここで、一致した音声が得られなかったもしくは音声による応答がなかった(No)と判断した場合は、ステップS25へ進んで、ステップS2で設定した放出開始時間を所定時間だけ増加(延長)する。ステップS23で、音声による応答がないと判断しても、人感センサー31からの信号に基づいて消火区域内に人が居ると判断しており、事故の発生を回避する必要があるためである。
【0036】
その後、ステップS30へ移行して、ステップS2で計時を開始したタイマの計時時間が、設定された放出開始時間よりも長くなったか否か判定する。そして、タイマの計時時間が、設定された放出開始時間よりも長くなった(Yes)と判定したときは、ステップS31へ進んで、起動装置17へ信号を送って消火ガスの放出を開始させ、処理を終了する(符号B)。一方、ステップS30で、タイマの計時時間が、設定された放出開始時間に達していない(No)と判定したときは、処理を中断し所定時間後に再度ステップS21から処理を開始する。
上記のような処理を繰り返し実行することで、音声で確認が取れなくても人感センサー31が人を検知した場合には、放出開始時間を延長することができ、消火区域内にいる人が消火ガス放出開始前に退出する時間を確保することができる。
【0037】
また、上記ステップS24で、一致した音声が得られた(Yes)と判断した場合は、ステップS29へ移行して、音声を拾ったマイクまたは反応のあった人感センサーが設置されている位置から出口までの距離に応じた所定の放出開始時間に変更してステップS21へ戻る(符号A)。
一方、ステップS21で、人感センサー31からの信号に基づいて人がいない(No)と判断すると、ステップS26へ進み、例えば「所定のフレーズ(「待ってください」など)を発声してください」というような発声を要請する内容の音声案内を行う。
【0038】
続いて、ステップS27へ進んで、マイク33からの信号を所定時間読み込んで音声認識処理を行い、要請内容と一致した音声が得られたか否か判断する(ステップS28)。ここで、一致した音声が得られた(Yes)と判断した場合は、ステップS29へ移行して、音声を拾ったマイクまたは反応のあった人感センサーが設置されている位置から出口までの距離に応じた所定の放出開始時間に変更してステップS21へ戻る。
【0039】
また、ステップS28で、一致した音声が得られなかったもしくは音声による応答がなかった(No)と判断した場合は、ステップS30へ移行して、ステップS2で計時を開始したタイマの計時時間が、設定された放出開始時間よりも長くなったか否か判定する。そして、タイマの計時時間が、設定された放出開始時間よりも長くなった(Yes)と判定したときは、ステップS31へ進んで、起動装置17へ信号を送って消火ガスの放出を開始させ、処理を終了する。
【0040】
上記のような処理を実行することで、人感センサー31が人を検知し音声で確認が取れた場合には、人が居ると予想される場所から出口までの距離に応じて放出開始時間を延長することができる。
なお、図4のフローチャートでは、ステップS24またはステップS28で、一致した音声が得られた(Yes)と判断した場合に、ステップS29へ移行して、音声を拾ったマイクまたは反応のあった人感センサーが設置されている位置から出口までの距離に応じた所定の放出開始時間に変更しているが、図5に示すように、ステップS29を省略して消火ガスの放出を開始せずにそのまま処理を終了する(符号B)ようにしても良い。
【0041】
(変形例)
次に、上記実施形態の消火システムの変形例について説明する。
上記実施形態においては、マイク33により集音した内容を音声認識処理で認識しているが、消火区域内の音響条件によっては、マイク33による集音精度が下がることも考えられる。そこで、一定時間音声認識に成功しなかった場合には、音声認識処理から音響認識処理に切り替えるとともに、アナウンスで何らかの所作音を発生する動作(例えば拍手)を行うよう要請して、マイク33により集音した音が要請した所作音であると認識できたら、人がいると判断して消火ガスの噴出を遅らせるようにしても良い。
【0042】
また、火災感知器11が故障あるいは電池切れを起こしていたり、人感センサー31からの信号を伝える信号線18Aが断線していたり短絡したりすることで、正常な信号が制御装置16に伝達されないため、適切な判断が行えないこともある。
そこで、感知器に故障検出機能を設けたり、制御装置16に信号線18Aの断断や短絡の検出機能を設けたりしても良い。そして、断線や短絡の検出機能を導入して信号線18Aの断線が検出された場合には、「設備の不具合が発生したので、中にいる人は至急退避してください」のようなアナウンスを行うようにする。一方、短絡が検出された場合は、人感センサー31を使わない従来通りの消火設備として動作するモードへ移行する。そして、設備の不具合を理由に退避を促すアナウンスを行うようにすることもできる。
【0043】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態のものに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記実施形態では、消火区域に配設する機器セット13に、人感センサー31とスピーカー32とマイク33を設けるようにしているが、音声もしくは音響の認識性能の高いマイクやソフトウェアを備えている場合等においては、スピーカー32を省略して、人感センサー31とマイク33のみを設けるように構成してもよい。
また、上記実施形態では、監視対象エリアに人感センサー31を設置して人体の検知信号を制御装置16へ送信するようにしたシステムを示したが、人感センサーの代わりにビデオカメラを設置して撮像した画像を制御装置16へ送信して、画像処理によって人の有無を判断するように構成しても良い。
【0044】
さらに、上述した実施形態では、火災の発生を火災感知器の出力に基づいて判断するようにしているが、これに限定されず、例えば火の手や煙の存在を目視確認した人(システムや建物の管理者、あるいは偶然居合わせた第三者など)が受信機や発信機を操作して、火災の発生を制御装置16に知らせることができるように構成してよい。
また、火災発生後、無人であることが確実に判明している場合には、適宜手動で消火ガスの放出を開始させることができるようにする機能を設けてもよい。さらには、システム(制御装置16)は無人であると判断していても、人がいることが何らかの手段で判明している場合には手動による操作入力で消火ガスを噴射しないようにする機能を設けてもよい
【符号の説明】
【0045】
11 火災感知器
12 ガス噴射ノズル(消火剤放出装置)
13 機器セット
14 ガスボンベ(消火剤放出装置)
15 ガス配管
16 制御装置
17 起動装置
18 信号線
19 放出表示灯
21 火災感知器
22 信号線
23 火災受信機
24 信号線
31 人感センサー(人検知手段)
32 スピーカー(音声出力手段)
33 マイク(集音手段)
34 番号札(掲示物)
図1
図2
図3
図4
図5