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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177868
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】鞍乗り型車両
(51)【国際特許分類】
   B62J 35/00 20060101AFI20231207BHJP
   B62J 23/00 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
B62J35/00 F
B62J23/00 G
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090815
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津久井 浩明
(57)【要約】
【課題】シュラウド以外のカバーを大型化しなくても、エンジン周囲の外観性を良好にし、かつ、シュラウドの塗装部分等への熱影響を抑制し易くすること。
【解決手段】鞍乗り型車両10において、シュラウド32は、アウターシュラウド51と、アウターシュラウド51よりも車幅方向内側に配置されるインナーシュラウド61とを備え、インナーシュラウド61は、車体側面視で、アウターシュラウド51外に露出する外部露出部61Xを有し、外部露出部61Xは、車体側面視で、燃料タンク29よりも下方に位置し、エンジン(12)の上部の少なくとも一部と重なり、アウターシュラウド51とインナーシュラウド61とは異なる樹脂材料である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンク(29)と、前記燃料タンク(29)の下方に配置されるエンジン(12)と、前記燃料タンク(29)の少なくとも一部を覆うシュラウド(32)とを備える鞍乗り型車両において、
前記シュラウド(32)は、アウターシュラウド(51)と、前記アウターシュラウド(51)よりも車幅方向内側に配置されるインナーシュラウド(61)とを備え、
前記インナーシュラウド(61)は、車体側面視で、前記アウターシュラウド(51)外に露出する外部露出部(61X)を有し、前記外部露出部(61X)は、車体側面視で、前記燃料タンク(29)よりも下方に位置し、前記エンジン(12)の上部の少なくとも一部と重なり、
前記アウターシュラウド(51)と前記インナーシュラウド(61)とは異なる樹脂材料であることを特徴とする鞍乗り型車両。
【請求項2】
前記アウターシュラウド(51)は、前記燃料タンク(29)の側方に位置する上側シュラウド(52)と、前記上側シュラウド(52)の下側に位置する下側シュラウド(53)とを有し、
前記外部露出部(61X)は、前記下側シュラウド(53)の車体後方に露出することを特徴とする請求項1に記載の鞍乗り型車両。
【請求項3】
前記上側シュラウド(52)と前記下側シュラウド(53)とは一体であることを特徴とする請求項2に記載の鞍乗り型車両。
【請求項4】
前記上側シュラウド(52)と前記下側シュラウド(53)との境界は、車体側面視で、前記燃料タンク(29)の下縁(TL)に沿う位置、及び/又は、前記下縁(TL)の延長線に沿う位置にあることを特徴とする請求項2に記載の鞍乗り型車両。
【請求項5】
前記外部露出部(61X)の上縁(61U)は、車体側面視で前記燃料タンク(29)の下縁(TL)、及び/又は、前記下縁(TL)の延長線に沿って延出することを特徴とする請求項4に記載の鞍乗り型車両。
【請求項6】
前記上側シュラウド(52)は、前記下側シュラウド(53)よりも車幅方向外側に張り出すことを特徴とする請求項2に記載の鞍乗り型車両。
【請求項7】
前記外部露出部(61X)には、前記アウターシュラウド(51)の後端に沿ってルーバ(61R)が設けられることを特徴とする請求項1に記載の鞍乗り型車両。
【請求項8】
前記アウターシュラウド(51)はABS樹脂製であり、前記インナーシュラウド(61)はポリプロピレン製であることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の鞍乗り型車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗り型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
鞍乗り型車両には、燃料タンクと、燃料タンクの下方に配置されるエンジンと、燃料タンクの少なくとも一部を覆うシュラウドとを備えるものがある。この種のシュラウドには、アウターシュラウドと、インナーシュラウドとを備えるものがある(例えば特許文献1)。鞍乗り型車両には、燃料タンクを覆う樹脂カバーの下方に、燃料タンクの下方まで延びる大型のニーグリップカバーを備えるものもある(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5395444号公報
【特許文献2】特開2018-058467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特にエンジンが小型の鞍乗り型車両においては、燃料タンクとエンジンとの間に車体左右に連通する隙間(以下、疎空間と言う)が空くことがある。
この疎空間を覆うために、シート下方に位置する左右のサイドカバーを大型化し、又は、特許文献2に記載の大型のニーグリップカバーを設けることが考えられる。このようなカバーを設けることで、疎空間の外観露出が抑えられる。
しかし、サイドカバーの大型化や大型のニーグリップカバーの採用は、外観デザインの制約、空力性能への影響、及び部品コストの増大等を招く要因となる。また、サイドカバーやニーグリップカバーの塗装部分等にエンジンの排熱が影響し、塗装剥がれ等を招く要因となる。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、シュラウド以外のカバーを大型化しなくても、エンジン周囲の外観性を良好にし、かつ、シュラウドの塗装部分等への熱影響を抑制し易くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
燃料タンクと、前記燃料タンクの下方に配置されるエンジンと、前記燃料タンクの少なくとも一部を覆うシュラウドとを備える鞍乗り型車両において、前記シュラウドは、アウターシュラウドと、前記アウターシュラウドよりも車幅方向内側に配置されるインナーシュラウドとを備え、前記インナーシュラウドは、車体側面視で、前記アウターシュラウド外に露出する外部露出部を有し、前記外部露出部は、車体側面視で、前記燃料タンクよりも下方に位置し、前記エンジンの上部と重なり、前記アウターシュラウドと前記インナーシュラウドとは異なる樹脂材料であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
シュラウド以外のカバーを大型化しなくても、エンジン周囲の外観性を良好にし、かつ、シュラウドの塗装部分等への熱影響を抑制し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施の形態に係る鞍乗り型車両の側面図である。
図2】パワーユニットを周辺構成と共に側方から示した図である。
図3】シュラウドと燃料タンクとを分離させた状態の斜視図である。
図4】シュラウドと燃料タンクとを連結した状態の斜視図である。
図5】シュラウドを燃料タンクと共に車体側方から示した図である。
図6】シュラウドを燃料タンクと共に前方から示した図である。
図7】シュラウドを燃料タンクと共に後方から示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、説明中、前後左右および上下といった方向の記載は、特に記載がなければ車体に対する方向と同一とする。また、各図に示す符号FRは車体前方を示し、符号UPは車体上方を示し、符号LHは車体左方を示す。
【0009】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る鞍乗り型車両10の側面図である。
鞍乗り型車両10は、車体フレーム11と、車体フレーム11に支持されるパワーユニット12と、前輪13を操舵自在に支持するフロントフォーク14と、後輪15を支持するスイングアーム16と、乗員用のシート17とを備える車両である。
鞍乗り型車両10は、乗員がシート17に跨るようにして着座する車両である。シート17は、車体フレーム11の後部の上方に設けられる。
【0010】
車体フレーム11は、車体フレーム11の前端部に設けられるヘッドパイプ18と、ヘッドパイプ18の後方に位置するフロントフレーム19と、フロントフレーム19の後方に位置するリアフレーム20とを備える。フロントフレーム19の前端部は、ヘッドパイプ18に接続される。
シート17は、リアフレーム20に支持される。
【0011】
フロントフォーク14は、ヘッドパイプ18によって左右に操舵自在に支持される。前輪13は、フロントフォーク14の下端部に設けられる車軸13aに支持される。乗員が把持する操舵用のハンドル21は、フロントフォーク14の上端部に取り付けられる。
【0012】
スイングアーム16は、車体フレーム11に支持されるピボット軸22に支持される。ピボット軸22は、車幅方向に水平に延びる軸である。スイングアーム16の前端部には、ピボット軸22が挿通される。スイングアーム16は、ピボット軸22を中心に上下に揺動する。
後輪15は、スイングアーム16の後端部に設けられる車軸15aに支持される。
【0013】
パワーユニット12は、前輪13と後輪15との間に配置され、車体フレーム11に支持される。
パワーユニット12は、内燃機関である。パワーユニット12は、クランクケース23と、往復運動するピストンを収容するシリンダー部24とを備える。シリンダー部24の排気ポートには、排気装置25が接続される。
パワーユニット12の出力は、パワーユニット12と後輪15とを接続する駆動力伝達部材によって後輪15に伝達される。
【0014】
また、鞍乗り型車両10は、前輪13を上方から覆うフロントフェンダー26と、後輪15を上方から覆うリアフェンダー27と、乗員が足を載せるステップ28と、パワーユニット12が使用する燃料を蓄える燃料タンク29とを備える。
フロントフェンダー26は、フロントフォーク14に取り付けられる。リアフェンダー27及びステップ28は、シート17よりも下方に設けられる。燃料タンク29は、車体フレーム11に支持される。
【0015】
鞍乗り型車両10は、車体の各部を覆う車体カバー30を備える。車体カバー30は、車体前部を覆うフロントカウル31と、燃料タンク29の一部を左右外側から覆うシュラウド(タンクシュラウドと称される場合もある)32と、燃料タンク29の後下方かつシート17の下方を左右外側から覆う左右一対のサイドカバー33と、車体後部を左右から覆うリヤカウル34とを備える。車体カバー30を構成する各カバー31~34は、鞍乗り型車両10の幅中心を基準にして左右対称形状に形成されている。但し、各カバー31~34は左右対称形状に限定されず、適宜に変更してもよい。
【0016】
フロントカウル31には、前方を照射する灯火器等が設けられる。サイドカバー33は、パワーユニット12の後方かつシート17前部の下方に配置される車体構成部品(例えば吸気装置41)を左右外側から覆う。リヤカウル34には、ストップランプ等の灯火器などが取り付けられる。
【0017】
図2は、パワーユニット12を周辺構成と共に側方から示した図である。
パワーユニット12は、フロントフレーム19の前部上方に支持された燃料タンク29の下方、前輪13の後方、かつ、シート17よりも前方に位置する。
パワーユニット12は、クランクケース23と、クランクケース23の前部の上部から上方に延びるシリンダー部24とを備える。シリンダー部24は、下方から上方に向けて、シリンダーブロック24A、シリンダーヘッド24B及びシリンダーヘッドカバー24C(以下、ヘッドカバー24Cと表記する)を備えている。シリンダー部24のシリンダー軸線L1は、車体側面視で前上方に延びている。
【0018】
シリンダーヘッド24Bの背面には、パワーユニット12の吸気系を構成する吸気装置41が接続され、シリンダーヘッド24Bの前面には、排気装置25の一部を構成する排気管25Aが接続される。
図2には、燃料タンク29の下縁(シームラインとも称される)TL、及びパワーユニット12の上面PUをそれぞれ破線で示している。図2に示すように、パワーユニット12の上面PU(ヘッドカバー24Cの上面に相当)は、燃料タンク29の下縁TLよりも下方に位置する。
本実施形態では、パワーユニット12が比較的小排気量の小型エンジンであるので、燃料タンク29の下縁TLとパワーユニット12の上面PUとの間に比較的大きな隙間Sができる。この隙間Sは、車体左右に連通する空間(疎空間)を形成し易い。
【0019】
本構成では、左右のシュラウド32が隙間Sを左右外側から覆うので、隙間Sが外観視されない。本構成ではパワーユニット12が小型の単気筒エンジンである場合を例示しているが、いわゆる大排気量のエンジンでもよいし、並列型やV型の多気筒エンジンでもよい。
パワーユニット12が小型のエンジンで無い場合でも、燃料タンク29の下縁TLとパワーユニット12の上面PUとの間に、車体左右に連通するような隙間Sが空くことがある。その場合でも、本構成のシュラウド32を備えることによって隙間Sが外観視されないようにできる。
【0020】
図3は、シュラウド32と燃料タンク29とを分離させた状態の斜視図であり、図4は、シュラウド32と燃料タンク29とを連結した状態の斜視図である。
シュラウド32は、車幅方向外側に配置されるアウターシュラウド51と、アウターシュラウド51の車幅方向内側に配置されるインナーシュラウド61とを備えている。図3中のハッチングを付した部分がインナーシュラウド61である。
アウターシュラウド51とインナーシュラウド61とは、所定の結合方法を用いて結合されている。結合方法には公知の結合方法を広く適用でき、例えば、ボルト等の締結部材を用いた結合方法が採用される。
【0021】
図3に示すように、燃料タンク29の左右の側面には、シュラウド取付用の取付具29Kが取り付けられる。左右のシュラウド32は、これら取付具29Kを介して燃料タンク29に着脱自在に固定される。
図4に示すように、シュラウド32によって燃料タンク29の少なくとも一部が覆われる。シュラウド32に覆われる部分については、燃料タンク29を外観や空力性能を考慮した形状にする必要がないので、燃料タンク29のコスト低減に有利である。また、燃料タンク29を過度に大型化する必要もなく、燃料タンク29の形状自由度の向上にも有利である。
【0022】
図2に示すように、シュラウド32は、車体側面視で、ヘッドパイプ18後方、パワーユニット12上方、かつシート17前方に位置する。
シュラウド32は、車体前部の左右に設けられる樹脂製のカバーであり、本実施形態では左右のシュラウド32が車幅中心に対して左右対称形状である。
図3及び図4に示すように、アウターシュラウド51は、燃料タンク29の側方に重なる上側シュラウド52と、上側シュラウド52から下方に延出する下側シュラウド53とを備える。アウターシュラウド51は、車体側面視で、燃料タンク29の下縁TL(図2参照)、及び/又は、下縁TLの延長線を境にして、上側部分が上側シュラウド52に形成され、下側部分が下側シュラウド53に形成されている。
【0023】
つまり、上側シュラウド52と下側シュラウド53の境界が、燃料タンク29の下縁TL(図2参照)、及び/又は、下縁TLの延長線に一致している。上側シュラウド52と下側シュラウド53の境界は、下縁TL、及び/又は、下縁TLの延長線に一致する位置に限定されず、下縁TL、及び/又は、下縁TLの延長線に沿う位置であればよい。これにより、上側シュラウド52と燃料タンク29とを一体化させたデザインを実現し易くなり、例えば、上側シュラウド52が燃料タンク29の一部の様な外観を実現し易くなる。上側シュラウド52と下側シュラウド53の境界の一部だけが、燃料タンク29の下縁TL、及び/又は、下縁TLの延長線に沿う位置でもよい。
【0024】
上側シュラウド52と下側シュラウド53とは、鞍乗り型車両10の外観に影響するので、装飾(加飾)に適した樹脂材料で製作される。本実施形態では、シュラウド52,53がABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂からなる樹脂材料を用いて一体に製作されている。
上側シュラウド52と下側シュラウド53とがABS樹脂製であるので、塗装やメッキ、シール(ステッカー、ラベルを含む)の貼付等による装飾が容易であり、外観性向上に有利である。また、ABS樹脂は、耐熱性、機械的強度及び加工性に優れ、軽量である、といった長所もある。
【0025】
上側シュラウド52は、図2に示す車体側面視で、燃料タンク29よりも前方位置から燃料タンク29の前部側方を覆うように後方に延びる形状に形成され、車体側面視で、燃料タンク29側方の外観の一部を構成する外観構成部品として機能する。これにより、上側シュラウド52が燃料タンク29の一部の様な外観を実現したり、上側シュラウド52が燃料タンク29側方の大型カバーや保護カバーとなった外観を実現したりできる。
【0026】
上側シュラウド52の形状は特に限定されるものではないが、本構成の上側シュラウド52は、車体側面視で後方斜め上方に延出し、かつ、乗員の前方で車幅方向外側に張り出す形状に形成される。これにより、上側シュラウド52は、燃料タンク29周囲の外観を向上させる外観構成部材、車体前方からの走行風を斜め上方に向けて整流する空力部材、及び、乗員をガードするガード部材等として機能することができる。
【0027】
下側シュラウド53は、上側シュラウド52の前部から下方に延出する形状に形成され、図2に示す車体側面視で、燃料タンク29の前部下方の外観を構成する外観構成部品として機能する。
本構成の下側シュラウド53は、パワーユニット12の前方にて下方に延出することによって、シリンダー部24の前方を、クランクケース23近傍まで延出するカバー部材となる。このカバー部材によって、燃料タンク29の下方、かつ、シリンダー部24の前方にできる、車体左右に連通する隙間(疎空間)を車体左右から覆うことができ、外観デザインの向上に有利となる。
【0028】
下側シュラウド53の形状は特に限定されるものではないが、本構成の下側シュラウド53は、シリンダー部24の前方で左右に間隔を空けて配置され、かつ、車体前後方向に延びる板形状である。これにより、下側シュラウド53は、車体前方からシリンダー部24に向かう走行風を整流したり、乗員の左右の足に向かう走行風を調整したりする空力部材や、周囲の飛散物からパワーユニット12や乗員を保護する部材として機能することができる。
【0029】
インナーシュラウド61は、アウターシュラウド51とは異なる樹脂材料を用いて製作される。本実施形態のインナーシュラウド61は、ポリプロピレン(PP)樹脂からなる樹脂材料を用いて製作されている。インナーシュラウド61は、ポリプロピレン樹脂製であるので、耐熱性、機械的強度及び軽量性に優れ、ABS樹脂より低コストで調達できる、といった長所がある。なお、ポリプロピレン樹脂は、ABS樹脂と比べて柔軟性があり、ABS樹脂よりは塗装性や接着性に劣ることから、塗装仕上げではなく成形時の樹脂色で使用されることが一般的である。
【0030】
図3及び図4に示すように、インナーシュラウド61は、燃料タンク29とアウターシュラウド51の間に位置するので、車体側面視でアウターシュラウド51と重なる部分は車体側方から外観視されない。
図5は、シュラウド32を燃料タンク29と共に車体側方から示した図である。図5に示すように、インナーシュラウド61は、下側シュラウド53よりも後方に延出して車外に露出する外部露出部61Xを一体に備えている。図5には、外部露出部61Xの輪郭を太線で示している。
【0031】
図2及び図5に示すように、外部露出部61Xは、車体側面視で、燃料タンク29よりも下方に位置し、パワーユニット12からなるエンジンの上部と重なることで、エンジン上部周囲の隙間Sを外観視できないようにする。
より具体的には、外部露出部61Xの上縁61Uは、車体側面視で燃料タンク29の下縁TLに沿って延出することで、外部露出部61Xが燃料タンク29の下縁TLに連なって下方に延出する。また、外部露出部61Xの前端Fは、パワーユニット12の上部前面(ヘッドカバー24Cの前面)の位置PF(図2参照)よりも前方に位置し、外部露出部61Xの後端Rは、パワーユニット12の上部背面(ヘッドカバー24Cの背面)の位置PR(図2参照)よりも後方に位置する。外部露出部61Xの下縁61Lは、車体側面視で、パワーユニット12の上面PUよりも下方を前後に延出する。これらにより、外部露出部61Xは、燃料タンク29とパワーユニット12との間の隙間Sを前方から後方に渡って覆うと共に、隙間Sを上方から下方に渡って覆う。
【0032】
パワーユニット12からなるエンジンの上部側方を、ポリプロピレン樹脂製からなる外部露出部61Xで覆うので、エンジンからの熱がアウターシュラウド51に伝わる事態を外部露出部61Xによって抑制できる。これにより、アウターシュラウド51への熱影響を抑制でき、つまり、シュラウド32のうち、塗装、メッキ、及びシール等を施した塗装部分等への熱影響を抑制できる。
したがって、アウターシュラウド51に比較的耐熱性が低い材料を利用しても、アウターシュラウド51の熱変形や劣化を抑制できる。なお、本構成では外部露出部61Xに塗装等の装飾を施していないが、熱影響を回避可能であれば、ポリプロピレン樹脂に適した塗装等の装飾を施してもよい。
【0033】
図6は、シュラウド32を燃料タンク29と共に前方から示した図である。
図6に示すように、アウターシュラウド51とインナーシュラウド61の間には、車体前方に向けて開口する前方開口部71が形成される。
上側シュラウド52は、図6に示す車体前面視で、車幅方向外側に凸の湾曲断面に形成され、燃料タンク29の側方を前後方向に延出する。インナーシュラウド61は、上側シュラウド52との間に前方開口部71を空ける逃げ部61Nを有し、かつ、逃げ部61N内(前方開口部71内に相当)を車幅方向に延びる複数の横ルーバ(横羽根とも称される)61Fを一体に有する。これにより、インナーシュラウド61と上側シュラウド52との間に、ルーバ付きの前方開口部71を有する外観デザインが実現される。
【0034】
これら横ルーバ61Fは、後上方に延出する傾斜ルーバに形成され、前方開口部71の最奥部を外観視不能にする。また、前方開口部71を、外気を導入する外気導入口として機能させる場合に、横ルーバ61Fは外気導入口に導入される外気を整流する整流部材としても機能する。
また、上側シュラウド52は、下側シュラウド53よりも車幅方向外側に張り出す。これにより、燃料タンク29周囲を車幅方向外側に張り出した外観にでき、乗員の足回り(足又はその周囲)への風当たりを低減する効果を期待できる。
【0035】
インナーシュラウド61は、図6に示す車体前面視で、前方開口部71を除いて、上側シュラウド52と燃料タンク29との間を上下に渡って覆う。これにより、上側シュラウド52と燃料タンク29との間の隙間を車体前方から外観視不能にする。
上側シュラウド52と燃料タンク29との間のインナーシュラウド61の形状は特に限定されるものではないが、本構成のインナーシュラウド61は、上側シュラウド52と燃料タンク29との間で上下方向に連続するので、前方からの走行風を、燃料タンク29下方のパワーユニット12に案内したり、乗員側への走行風を適度に低減したりすることが可能である。
【0036】
図7は、シュラウド32を燃料タンク29と共に後方から示した図である。
図7に示すように、インナーシュラウド61の外部露出部61Xは、車体後方にいくほど車幅方向内側に傾斜している。このため、外部露出部61Xは、車体側方からだけでなく、車体斜め後方や、車体後方からも外観視される。
外部露出部61Xには、複数の縦ルーバ(縦羽根とも称される)61Rが前後に間隔を空けて一体に設けられる。これら縦ルーバ61Rは、アウターシュラウド51の後縁に沿った形状に形成されている(図5参照)。これらにより、外部露出部61Xの外観性が向上し、例えば、疾走感のある外観デザインを得ることができる。
【0037】
図7に示すように、インナーシュラウド61と下側シュラウド53との間には、車体後方に向けて開口する後方開口部72が形成される。後方開口部72は、車体前方からの外気を排出する外気排出口でもよいし、内部が閉塞された部分でもよい。後方開口部72を外気排出口とした場合、縦ルーバ61Rを、外気排出口から排出される外気を整流する整流部材として機能させることができる。
これら縦ルーバ61Rによって、後方開口部72内の部品を外観視し難くすることも可能である。このようにして、ルーバ付きの外気排出口を設けたり、その外気排出口を模した外観を実現でき、外観デザインが向上すると共に、パワーユニット12の熱をスムーズに車外に排熱したりし易くなる。
なお、後方開口部72を後方に開口しない構成にしてもよい。
【0038】
以上説明したように、本実施の形態では、シュラウド32は、アウターシュラウド51と、アウターシュラウド51よりも車幅方向内側に配置されるインナーシュラウド61とを備える。インナーシュラウド61は、車体側面視で、アウターシュラウド51外に露出する外部露出部61Xを有し、外部露出部61Xは、車体側面視で、燃料タンク29よりも下方に位置し、パワーユニット12からなるエンジンの上部の少なくとも一部と重なり、アウターシュラウド51とインナーシュラウド61とは異なる樹脂材料である。
本構成によれば、インナーシュラウド61の外部露出部61Xによって、燃料タンク29とエンジンの上部との間の隙間Sの少なくとも一部を覆うことができ、隙間Sを外観視し難くでき、隙間Sを外観視し難くするためにシュラウド32以外のカバーを大型化する必要がない。また、アウターシュラウド51とインナーシュラウド61とは異なる樹脂材料であるので、アウターシュラウド51に塗装等の装飾に適した材料を採用しながら、インナーシュラウド61に、アウターシュラウド51の塗装部分等へのエンジンの熱影響の抑制に有利で、かつ、塗装等の装飾に適さない材料を使用できる。
したがって、シュラウド32以外のカバーを大型化しなくても、エンジン周囲の外観性を良好にし、かつ、シュラウド32の塗装部分等への熱影響を抑制し易くなる。
【0039】
本構成では、アウターシュラウド51をABS樹脂製とし、インナーシュラウド61をポリプロピレン製としたので、アウターシュラウド51に塗装やメッキ等による装飾を施しやすく、インナーシュラウド61に、エンジン排熱に対する十分な耐熱性が得られ、さらに、各シュラウド51,61に望まれる他の特性(機械的強度や柔軟性等)も得られる。
【0040】
また、アウターシュラウド51は、燃料タンク29の側方に位置する上側シュラウド52と、上側シュラウド52の下側に位置する下側シュラウド53とを有し、外部露出部61Xは、下側シュラウド53の車体後方に露出する。この構成により、上側シュラウド52が燃料タンク29の一部の様な外観を実現したり、上側シュラウド52が燃料タンク29側方の大型カバーや保護カバーとなった外観を実現したりすることができる。これにより、燃料タンク29を複雑な形状にしなくても、意匠性を損なわない外観を実現したり、乗員の足回りの風当たりを低減したりすることが可能である。また、燃料タンク29を複雑な形状にしないことで、燃料タンク29の製造コストの低減を期待できる。
【0041】
また、上側シュラウド52と下側シュラウド53とは一体であるので、部品点数を削減でき、コスト低減を期待できる。
また、上側シュラウド52と下側シュラウド53との境界は、車体側面視で、燃料タンク29の下縁TLに沿う位置、及び/又は、下縁TLの延長線に沿う位置にある。この構成により、上側シュラウド52が、燃料タンク29の一部の様な外観をより実現し易くなり、燃料タンク29周囲の外観性や機能性向上に有利となる。
【0042】
また、外部露出部61Xの上縁61Uは、車体側面視で燃料タンク29の下縁TL、及び/又は、下縁TLの延長線に沿って延出する。この構成により、外部露出部61Xが燃料タンク29の外部露出を邪魔すること無くシュラウド32の塗装部分等への熱影響を抑制でき、外部露出部61Xの小型化にも有利である。
【0043】
また、上側シュラウド52は、下側シュラウド53よりも車幅方向外側に張り出すので、燃料タンク29周囲を車幅方向外側に張り出した外観にでき、乗員の足回りの風当たりを低減し、乗員の疲労低減効果を期待できる。
また、外部露出部61Xには、アウターシュラウド51の後端に沿って縦ルーバ61Rからなるルーバが設けられる。インナーシュラウド61に設けたルーバにより、例えば疾走感のある外観を実現できる。また、ルーバによってエンジン側の空気の排出を促す構成にすることで、エンジンからの排熱を図り易くなる。
【0044】
上述の実施形態は本発明の一態様を示すものであり、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、アウターシュラウド51をABS樹脂製とし、インナーシュラウド61をポリプロピレン製とする場合を例示したが、これらの樹脂材料に限定しなくてもよい。また、シュラウド32の各部の形状(外部露出部61Xの形状を含む)は適宜に変更してもよいし、上側シュラウド52と下側シュラウド53とを別体にしてもよい。
また、本発明を、図1等に示す自動二輪車に適用する場合を説明したが、これに限定されず、本発明を、他の自動二輪車、及び、三輪タイプや四輪タイプを含む鞍乗り型車両に広く適用可能である。
【0045】
[上記実施の形態によりサポートされる構成]
上記実施の形態は、以下の構成をサポートする。
【0046】
(構成1)燃料タンクと、前記燃料タンクの下方に配置されるエンジンと、前記燃料タンクの少なくとも一部を覆うシュラウドとを備える鞍乗り型車両において、前記シュラウドは、アウターシュラウドと、前記アウターシュラウドよりも車幅方向内側に配置されるインナーシュラウドとを備え、前記インナーシュラウドは、車体側面視で、前記アウターシュラウド外に露出する外部露出部を有し、前記外部露出部は、車体側面視で、前記燃料タンクよりも下方に位置し、前記エンジンの上部の少なくとも一部と重なり、前記アウターシュラウドと前記インナーシュラウドとは異なる樹脂材料であることを特徴とする鞍乗り型車両。
この構成によれば、アウターシュラウドに塗装等の装飾に適した樹脂材料を採用しながら、インナーシュラウドに、アウターシュラウドの塗装部分等へのエンジンの熱影響の抑制に有利で、かつ、塗装等の装飾に適さない樹脂材料を使用できる。したがって、シュラウド以外のカバーを大型化しなくても、エンジン周囲の外観性を良好にし、かつ、シュラウドの塗装部分等への熱影響を抑制し易くなる。
【0047】
(構成2)前記アウターシュラウドは、前記燃料タンクの側方に位置する上側シュラウドと、前記上側シュラウドの下側に位置する下側シュラウドとを有し、前記外部露出部は、前記下側シュラウドの車体後方に露出することを特徴とする構成1に記載の鞍乗り型車両。
この構成によれば、燃料タンクを複雑な形状にしなくても、意匠性を損なわない外観を実現したり、乗員の足回りの風当たりを低減可能な燃料タンク周りを実現でき、燃料タンクの製造コストの低減も期待できる。
【0048】
(構成3)前記上側シュラウドと前記下側シュラウドとは一体であることを特徴とする構成2に記載の鞍乗り型車両。
この構成によれば、部品点数を削減でき、コスト低減を期待できる。
【0049】
(構成4)前前記上側シュラウドと前記下側シュラウドとの境界は、車体側面視で、前記燃料タンクの下縁に沿う位置、及び/又は、前記下縁の延長線に沿う位置にあることを特徴とする構成2又は3に記載の鞍乗り型車両。
この構成によれば、上側シュラウドが、燃料タンクの一部の様な外観をより実現し易くなり、燃料タンク周囲の外観性や機能性向上に有利となる。
【0050】
(構成5)前記外部露出部の上縁は、車体側面視で前記燃料タンクの下縁、及び/又は、前記下縁の延長線に沿って延出することを特徴とする請求項4に記載の鞍乗り型車両。
この構成によれば、外部露出部が燃料タンクの外部露出を邪魔すること無くシュラウドの塗装部分等への熱影響を抑制でき、外部露出部の小型化にも有利である。
【0051】
(構成6)前記上側シュラウドは、前記下側シュラウドよりも車幅方向外側に張り出すことを特徴とする構成2から5のいずれか一項に記載の鞍乗り型車両。
この構成によれば、燃料タンク周囲を車幅方向外側に張り出した外観にでき、乗員の足回りの風当たりを低減し、乗員の疲労低減効果を期待できる。
【0052】
(構成7)前記外部露出部には、前記アウターシュラウドの後端に沿ってルーバが設けられることを特徴とする構成1から6のいずれか一項に記載の鞍乗り型車両。
この構成によれば、インナーシュラウドに設けたルーバにより、例えば疾走感のある外観を実現できると共に、ルーバによってエンジン側の空気の排出を促す構成にすることで、エンジンからの排熱を図り易くなる。
【0053】
(構成8)前記アウターシュラウドはABS樹脂製であり、前記インナーシュラウドはポリプロピレン製であることを特徴とする構成1から7のいずれか一項に記載の鞍乗り型車両。
この構成によれば、アウターシュラウドに塗装等の装飾を施しやすく、インナーシュラウドに、エンジン排熱に対する十分な耐熱性が得られ、さらに、各シュラウドに望まれる他の特性も得られる。これらにより、シュラウド以外のカバーを大型化しなくても、エンジン周囲の外観性を良好にし、かつ、シュラウドの塗装部分等への熱影響を抑制できる。
【符号の説明】
【0054】
10 鞍乗り型車両
12 パワーユニット(エンジン)
29 燃料タンク
32 シュラウド
51 アウターシュラウド
52 上側シュラウド
53 下側シュラウド
61 インナーシュラウド
61X 外部露出部
61U 外部露出部の上縁
61L 外部露出部の下縁
61F 横ルーバ
61R 縦ルーバ(ルーバ)
TL 燃料タンクの下縁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7