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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179883
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】接合方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20231213BHJP
【FI】
H01L21/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092780
(22)【出願日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000108753
【氏名又は名称】タツモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五十川 良則
(57)【要約】
【課題】レーザ光を用いた接合技術において、当該レーザ光の効率的な使用を可能にする。
【解決手段】接合方法は、積層工程と、接合処理工程と、を備える。積層工程では、第1接合対象及び第2接合対象を、それらの接合面の間に吸熱層及び接合材料層が挟まれた状態となるように重ねる。接合処理工程では、吸熱層にレーザ光を照射し、それによって吸熱層がレーザ光から吸収した熱を利用して接合材料層を加熱することにより、第1接合対象及び第2接合対象を接合材料層によって接合する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1接合対象及び第2接合対象を、それらの接合面の間に吸熱層及び接合材料層が挟まれた状態となるように重ねる積層工程と、
前記吸熱層にレーザ光を照射し、それによって前記吸熱層が前記レーザ光から吸収した熱を利用して前記接合材料層を加熱することにより、前記第1接合対象及び前記第2接合対象を前記接合材料層によって接合する接合処理工程と、
を備える、接合方法。
【請求項2】
前記吸熱層は、チタン(Ti)及びクロム(Cr)並びにそれらの酸化物のうちの少なくとも何れか一種を主成分として含んだ層である、請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
前記積層工程の前に前記吸熱層の表面粗さを大きくする表面処理工程
を更に備える、請求項1又は2に記載の接合方法。
【請求項4】
第1接合対象及び第2接合対象を、それらの接合面の間に、チタン(Ti)及びクロム(Cr)並びにそれらの酸化物のうちの少なくとも何れか一種を主成分として含んだ接合材料層が挟まれた状態、となるように重ねる積層工程と、
前記接合材料層にレーザ光を照射し、それによって当該接合材料層を加熱することにより、前記第1接合対象及び前記第2接合対象を前記接合材料層によって接合する接合処理工程と、
を備える、接合方法。
【請求項5】
第1接合対象及び第2接合対象には、それらの接合面のうちの少なくとも何れか一方に熱拡散防止層が形成されている、請求項1、2、及び4の何れかに記載の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を用いた接合技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス(MEMSなど)の製造技術の1つとして、2種類の金属の共晶反応を利用して2枚のウェハを接合する技術が存在する。この技術では、共晶反応を生じる2種類の金属のうちの一方の金属を主成分として含む金属層と、もう一方の金属を主成分として含む金属層とが、2枚のウェハの接合面にそれぞれ形成される。また、共晶反応を生じる2種類の金属の組合せとして、例えば、アルミニウム(Al)とゲルマニウム(Ge)の組合せなどが用いられる。そして、それらの金属層の接触箇所にて共晶反応を生じさせることにより、2枚のウェハが接合される。
【0003】
このような接合技術は、例えば、センサ(ジャイロセンサ、バイオセンサなど)や導波路などをデバイス内に封止するために用いられる。一方、上記のような共晶反応を生じさせるためには、2つの金属層の接触箇所を、共晶反応が生じる温度まで加熱することが必要である。そして従来は、それを実現するために、2枚のウェハを挟圧することで2つの金属層を接触させた状態で、封止するセンサなどと共に当該2枚のウェハ全体を加熱していた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-220141号公報
【特許文献2】中国実用新案第210223961号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した従来の接合技術では、封止するセンサまでもが加熱されてしまうため、当該センサが熱で破損するおそれがあった。このため、デバイス内に封止できるセンサは、高い耐熱性を持ったものに制限されていた。また、接合箇所の昇温(共晶反応が生じる温度までの昇温)には長い時間が必要であり、更に、接合後においては、ウェハの熱ストレスを徐々に緩和させる必要があるため、降温にも長い時間が必要であった。このため、1回の接合処理に要する時間が長くなるという問題があった。
【0006】
その他の問題として、上述した2種類の金属が線膨張係数の値が異なったものであった場合、2つの金属層の接合箇所には、昇温時(加熱時)や降温時(冷却時)に歪みが生じるおそれがあった。このため、上述した従来の接合技術では、そのような歪みの発生を抑制するべく、2種類の金属を選定する際には、線膨張係数の値が近いのものを選定する必要があり、選定の自由度が著しく制限されていた。
【0007】
そこで、近年、レーザ光を用いて、2つの金属層の接触箇所をターゲットにした局所的な加熱を行う技術が提案されている(特許文献2参照)。具体的には、レーザ光に対する透過性を持った石英板と別の部材(チャックなど)とで2枚のウェハを挟圧し、その状態で2つの金属層の接触箇所に石英板を介してレーザ光を照射する。
【0008】
このようなレーザ光を用いた接合技術によれば、2つの金属層の接触箇所が局所的に加熱されるため、センサへの熱影響が低減され、その結果として、耐熱性の低いセンサをデバイス内に封止することが可能になる。また、2つの金属層の接合箇所をレーザ光で集中的に加熱できるため、当該接合箇所の温度を、共晶反応が生じる温度まで速く上昇させることができ、その結果として、接合処理に要する時間を短縮することが可能になる。
【0009】
更に、上述した2種類の金属が線膨張係数の値が異なったものであって、昇温時(加熱時)や降温時(冷却時)に歪みが生じたとしても、その歪みは、レーザ光が照射される局所的な部分でしか生じないため、著しく小さなものになり、その結果として、2つの金属層の接合箇所への歪みの影響は著しく小さなものになる。このため、2種類の金属を選定する際には、線膨張係数の値が異なるものを選定することが可能になり、選定の自由度が増すことになる。
【0010】
その一方で、共晶反応を生じる金属には、光の反射率や透過率が比較的高く、それが故にレーザ光を効率良く吸収することが難しいものが多い。そのような金属の中でも、ゲルマニウム(Ge)は、比較的レーザ光を吸収しやすいが、それでも、反射率が約35%、透過率が約30%であり、照射されたレーザ光の35%程度しか吸収することができない。このため、レーザ光を用いて共晶反応を発生させる技術には、ターゲットになる金属層を効率良く加熱することが難しいという問題や、反射又は透過したレーザ光がセンサなどに悪影響を及ぼし得るという問題があった。
【0011】
そこで本発明の目的は、レーザ光を用いた接合技術において、当該レーザ光の効率的な使用を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る第1の接合方法は、積層工程と、接合処理工程と、を備える。積層工程では、第1接合対象及び第2接合対象を、それらの接合面の間に吸熱層及び接合材料層が挟まれた状態となるように重ねる。接合処理工程では、吸熱層にレーザ光を照射し、それによって吸熱層がレーザ光から吸収した熱を利用して接合材料層を加熱することにより、第1接合対象及び第2接合対象を接合材料層によって接合する。
【0013】
上記第1の接合方法によれば、接合材料層がレーザ光を吸収しにくい材料を主成分として含んでいる場合であって、それが故に接合材料層へのレーザ光の照射では当該接合材料層を効率良く加熱することが難しい場合であっても、吸熱層にレーザ光を照射することにより、その吸熱層にレーザ光を効率良く吸収させ、それによって当該吸熱層を介して間接的に接合材料層を加熱することが可能になる。
【0014】
本発明に係る第2の接合方法は、レーザ光を用いて第1接合対象と第2接合対象とを接合する方法であって、接合材料層形成工程と、積層工程と、接合処理工程と、を備える。接合材料層形成工程では、第1接合対象の接合面及び第2接合対象の接合面の少なくとも何れか一方に沿って、チタン(Ti)及びクロム(Cr)並びにそれらの酸化物のうちの少なくとも何れか一種を主成分として含んだ接合材料層を形成する。積層工程では、第1接合対象及び第2接合対象を、それらの接合面の間に接合材料層が挟まれた状態となるように重ねる。接合処理工程では、接合材料層にレーザ光を照射し、それによって当該接合材料層を加熱することにより、第1接合対象及び第2接合対象を接合材料層によって接合する。
【0015】
上記第2の接合方法によれば、接合材料層にレーザ光を照射することにより、その接合材料層にレーザ光を効率良く吸収させ、それによって2つの接合対象の接合面どうしを接合することが可能になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、レーザ光を用いた接合技術において、当該レーザ光の効率的な使用が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る接合方法に使用可能な接合装置の一例を示した概念図である。
図2】第1実施形態での接合対象を例示した概念図である。
図3】金属層のパターン形状の一例を示した(A)断面図及び(B)平面図である。
図4】第1実施形態に係る接合方法を示したフローチャートである。
図5】第2実施形態での接合対象を例示した概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[1]接合装置
図1は、本発明に係る接合方法に使用可能な接合装置を示した概念図である。図1に示されるように、接合装置は、2つの接合対象101及び102を接合する装置であり、チャンバ機構1と、加圧機構2と、レーザ光源3と、制御部4と、を備える。以下、各部の構成について具体的に説明する。
【0019】
<チャンバ機構1>
チャンバ機構1は、第1チャンバ構成部11と、第2チャンバ構成部12と、駆動部13と、排気部14と、を有する。
【0020】
第1チャンバ構成部11及び第2チャンバ構成部12は、接合処理を行うための密閉空間(以下、「チャンバ10」と称す)を構成する部分であり、鉛直方向において相対的に近接離間することでチャンバ10の形成と開放とを選択的に実現できるように構成されている。より具体的には、以下のとおりである。
【0021】
第1チャンバ構成部11は、第1円筒部111と、当該第1円筒部111の内側に隙間なく支持されたステージ112と、で構成されている。そして、第1円筒部111は、その中心軸方向を鉛直方向に一致させた状態で配置されており、ステージ112は、第1円筒部111によって水平に支持されている。ここで、ステージ112は、レーザ光に対する透過性を持ったステージであり、例えば石英で形成されたものである。また、ステージ112には、2つの接合対象101及び102が、それらの接合面101a及び102aを互いに対向させた状態で載置される。尚、図1の例では、接合対象101及び102が、接合対象101を上にしてステージ112に載置された場合が示されている。
【0022】
第2チャンバ構成部12は、第1円筒部111の上方にて当該第1円筒部111と同軸に配された第2円筒部121と、当該第2円筒部121の上端を塞ぐ天板122と、で構成されている。そして、第1円筒部111の上端と第2円筒部121の下端とが隙間なく接触することで、ステージ112と天板122との間にチャンバ10が形成される。
【0023】
駆動部13は、第1チャンバ構成部11及び第2チャンバ構成部12の少なくとも何れか一方を鉛直方向において移動させることにより、それらの構成部を相対的に近接離間させる部分である。
【0024】
排気部14は、チャンバ10(具体的には、チャンバ10のうちの、後述するダイアフラム21とステージ112との間の空間)内が真空状態となるまで当該チャンバ10の内圧を低下させる部分である。排気部14には、例えば真空ポンプなどの気圧調整装置が用いられる。尚、チャンバ機構1は、チャンバ10内に処理用のガス(アルゴン(Ar)ガスなど)を供給するガス供給部を更に含んでいてもよい。
【0025】
<加圧機構2>
加圧機構2は、接合対象101及び102に対してステージ112と反対側から圧力を加える機構である。本実施形態では、加圧機構2は、ダイアフラム21と、当該ダイアフラム21を動作させる駆動部22と、で構成されており、2つの接合対象101及び102のうちのステージ112とは反対側に位置する接合対象101の背面101bに圧力を加える。より具体的には、以下のとおりである。
【0026】
ダイアフラム21は、チャンバ10が形成されたときに接合対象101の背面101bに接触することが可能となるように、第2円筒部121の内側に隙間なく支持されている。
【0027】
駆動部22は、伝達媒体221を用いてダイアフラム21に圧力を伝えることにより、当該ダイアフラム21を動作させる。より具体的には、伝達媒体221は、第2チャンバ構成部12内においてダイアフラム21と天板122との間に充たされており、駆動部22は、伝達媒体221に加える圧力を変化させることで、当該伝達媒体221を介してダイアフラム21を動作させる。ここで、伝達媒体221は、液体であってもよいし、気体であってもよい。
【0028】
<レーザ光源3>
レーザ光源3は、レーザ光を発する部分であり、レーザ光に対する透過性を持ったステージ112の下方に配されている。また、レーザ光源3は、ステージ112上の接合対象101及び102へ向けて当該ステージ112を介してレーザ光を照射しつつ、後述する金属層201などの介在層のパターン形状に沿ってレーザ光を水平面内で走査することが可能である。更に、レーザ光源3は、接合対象101と接合対象102との接合箇所にレーザ光の焦点を合わせることができる。
【0029】
<制御部4>
制御部4は、CPU(Central Processing Unit)やマイクロコンピュータなどの処理装置で構成されており、接合装置が備える様々な動作部(チャンバ機構1、加圧機構2、レーザ光源3など)を制御する。具体的には、以下のとおりである。
【0030】
接合処理の実行時において、制御部4は、2つの接合対象101及び102がステージ112に載置された状態で、第1チャンバ構成部11及び第2チャンバ構成部12を近接させて合体させることでチャンバ10を形成する。そして、制御部4は、排気部14を制御することにより、チャンバ10(具体的には、チャンバ10のうちの、ダイアフラム21とステージ112との間の空間)内が真空状態となるまで当該チャンバ10の内圧を低下させる。また、制御部4は、必要に応じて、チャンバ10内に処理用のガス(アルゴン(Ar)ガスなど)を供給する。
【0031】
その後、制御部4は、加圧機構2を制御することにより、接合対象101の背面101bにダイアフラム21で圧力を加える。
【0032】
ここで、ダイアフラム21は、接合対象101の背面101bに圧力をかけたときに、当該背面101bの形状に応じて柔軟に変化できるため、接合対象101の背面101bに密着して均一な圧力をかけることができ、その圧力で接合対象101を変形(弾性変形を含む)させることができる。また、ダイアフラム21は、接合対象101の変形に伴う当該接合対象101の背面101bの形状変化に追従することで、その背面101bに均一な圧力をかけ続けることができる。従って、ダイアフラム21によって接合対象101の背面101bに均一な圧力をかけることにより、その圧力が比較的小さくても、2つの接合対象101及び102の間に介在層(金属層201など)が隙間なく挟まった状態となるように接合対象101を変形させつつ、その状態を維持することができる。また、このように接合に必要な圧力が小さくなることで、それに応じてステージ112に必要な強度(接合時の加圧に耐え得る強度)も小さくなり、その結果として、ステージ112の厚さを比較的小さくすることが可能になる。
【0033】
加圧機構2による接合対象101の背面101bへの加圧の後、制御部4は、その状態を維持しつつ、レーザ光源3を制御することにより、接合対象101と接合対象102との接合箇所にステージ112を介してレーザ光を照射する。また、制御部4は、介在層(金属層201など)のパターン形状に沿ってレーザ光を水平面内で走査する。これにより、接合対象101及び102の全域において、2つの接合対象101及び102の接合面101a及び102aどうしが接合される。
【0034】
尚、上述した接合装置において、ダイアフラム21は、接合対象101の背面101bを吸着する吸着面を持ったもの(即ち、接合対象101をチャックする機能を持ったもの)であってもよい。また、接合装置は、ダイアフラム21に保持(吸着)された接合対象101と、ステージ112上に載置された接合対象102との位置関係を調整するアライメント機構を更に備えていてもよい。一例として、アライメント機構は、第1チャンバ構成部11及び第2チャンバ構成部12の少なくとも何れか一方の位置を水平面内で調整することにより、ダイアフラム21に保持(吸着)された接合対象101と、ステージ112上に載置された接合対象102との位置関係を調整することができる。
【0035】
上述した接合装置において、加圧機構2は、ダイアフラム21で構成されたものに限らず、接合対象101の背面101bへの加圧が可能な別の機構に適宜変更されてもよい。またステージ112と加圧機構2(ダイアフラム21)との位置関係は、上下が逆の位置関係に適宜変更されてもよく、それに伴って他の部分(レーザ光源3など)の位置も適宜変更されてもよい。
【0036】
上述した接合装置においては、ステージ112に接合対象102が載置されたとき、当該接合対象102はステージ112の載置面(接合対象102が載置される面)に面接触することになる。そして、接合対象102が、ステージ112を構成する材料と屈折率が異なった材料を主成分としたものである場合(一例として、ステージ112が石英板であり、接合対象102がシリコン(Si)ウェハであった場合)、ステージ112と接合対象102との界面においてレーザ光が反射されやすくなる。そこで、そのようなレーザ光の反射を防止するべく、ステージ112の載置面に反射防止膜が形成されてもよい。
【0037】
同様に、ステージ112の背面(載置面とは反対側の面であって、チャンバ10外の空気と触れる面)においても、ステージ112と空気との間の屈折率の違いによりレーザ光が反射される。そこで、そのようなレーザ光の反射を防止するべく、ステージ112の背面に反射防止膜が形成されてもよい。
【0038】
[2]接合対象及び接合方法
[2-1]第1実施形態
[2-1-1]接合対象
図2は、上述した接合装置で接合することが可能な2つの接合対象101及び102の一例を示した概念図である。接合対象101及び102は、例えば半導体ウェハやガラス板であり、それらの接合面101a及び102aには、吸熱層200と、当該接合面101a及び102aどうしを接合するための金属層201及び202(接合材料層)とが以下のように形成される。
【0039】
接合対象101の接合面101aには、それに沿って吸熱層200が形成され(吸熱層形成工程)、更に当該吸熱層200の表面には、それに沿って金属層201が形成される(接合材料層形成工程)。また、接合対象102の接合面102aには、それに沿って金属層202が形成される(接合材料層形成工程)。尚、特許請求の範囲に記載の「第1接合対象」及び「第2接合対象」との関係では、接合対象101が「第1接合対象」に相当し、接合対象102が「第2接合対象」に相当する。
【0040】
ここで、金属層201は、共晶反応を生じる2種類の金属のうちの一方の金属を主成分として含んだ接合材料層であり、金属層202は、もう一方の金属を主成分として含んだ接合材料層である。2種類の金属の組合せとして、例えば、アルミニウム(Al)とゲルマニウム(Ge)の組合せ、銅(Cu)とスズ(Sn)の組合せ、銀(Ag)とスズ(Sn)の組合せ、インジウム(In)とスズ(Sn)の組合せなどが挙げられる。
【0041】
その一方で、共晶反応を生じる上記の金属には、レーザ光を効率良く吸収することが難しいものが多い。例えばアルミニウム(Al)、銀(Ag)、金(Au)などの金属は、反射率が高いが故に、レーザ光を効率良く吸収することが難しい。また、ゲルマニウム(Ge)は、光の一部が透過する金属(透過率が約30%)であるため、金属層201及び202の何れか一方でゲルマニウム(Ge)を主成分として用いた場合において、その金属層を、光の波長と同じオーダーの厚みを持つものにした場合には、当該金属層内にて光の干渉現象が発生し、それによってレーザ光の吸収が阻害されてしまう。このため、金属層の厚さのばらつき(例えば、±10%程度の膜厚変動)が、当該金属層におけるレーザ光の吸収効率のばらつきを生じ、延いては接合状態のばらつきを生じることになる。このような理由で、レーザ光を用いて共晶反応を発生させる技術には、ターゲットになる金属層201及び202を効率良く加熱することが難しいという問題や、反射又は透過したレーザ光がセンサ103などに悪影響を及ぼし得るという問題があった。
【0042】
そこで本実施形態では、レーザ光の効率的な使用を可能にするべく、上述した吸熱層200が形成される。具体的には、吸熱層200は、金属層201及び202を構成する金属よりもレーザ光を吸収しやすい材料を主成分として含んだ層である。より具体的には、吸熱層200は、チタン(Ti)及びクロム(Cr)並びにそれらの酸化物のうちの少なくとも何れか一種を主成分として含んだ層である。ここで、チタン(Ti)やクロム(Cr)は、ゲルマニウム(Ge)と比べると、反射率は高いものの、上述した干渉現象の発生原因となる光の透過が殆どない材料であり、照射されたレーザ光の40%程度を熱として安定的に吸収することができる。尚、吸熱層200を構成する材料には、チタン(Ti)、クロム(Cr)、それらの酸化物に限らず、金属層201及び202を構成する金属よりもレーザ光を吸収しやすい様々な材料を適宜用いることができる。そのような材料として、例えば、樹脂にカーボン等の吸熱材を分散させたものなどを挙げることができる。
【0043】
このような吸熱層200によれば、金属層201及び202がレーザ光を吸収しにくい金属を主成分として含んでいる場合であって、それが故に金属層201及び202へのレーザ光の照射では当該金属層201及び202を効率良く加熱することが難しい場合であっても、吸熱層200にレーザ光を照射することにより、その吸熱層200にレーザ光を効率良く吸収させ、それによって当該吸熱層200を介して間接的に金属層201及び202を加熱することが可能になる。
【0044】
尚、特に限定されるものではないが、上述した各種層は、接合面101a及び102aへの各種材料の真空成膜(スパッタ、蒸着を含む)や塗布によって形成される。
【0045】
図2には、模式的に、接合面101aの全域に金属層201が形成され、接合面102aの全域に金属層202が形成された場合が示されているが、実際の半導体デバイス(MEMSなど)の製造プロセスでは、金属層201及び202は、デバイスの形状や用途などに応じて様々な形状にパターニングされる。このとき、吸熱層200も、金属層201と同じ形状にパターニングされてもよい。図3(A)及び(B)は、金属層201及び202のパターン形状の一例を示した断面図及び平面図である。尚、図3(B)は、金属層201及び202のうちの金属層202のみを平面視した図である。この例では、金属層201及び202は、各センサ103をデバイス内に封止することが可能となるように、各センサ103を包囲する四角形の枠状に形成されている。また、吸熱層200も、金属層201と同じ形状で形成されている。尚、金属層201及び金属層202のパターン形状は、四角形の枠状に限らず、デバイスの形状や用途などに応じて適宜変更できる。
【0046】
[2-1-2]接合方法
次に、レーザ光を用いて上記の接合対象101及び102(図2参照)を接合する接合方法について説明する。図4は、第1実施形態に係る接合方法を示したフローチャートである。本実施形態の接合方法には、上述した接合装置を用いて実行される積層工程及び接合処理工程が含まれている。以下、積層工程及び接合処理工程について具体的に説明する。尚、本実施形態の接合方法には、上述した吸熱層200を形成する吸熱層形成工程と、上述した金属層201及び202を形成する金属層形成工程、の少なくとも何れか一方が更に含まれていてもよい。
【0047】
積層工程では、接合対象101及び102を、それらの接合面101a及び102aの間に吸熱層200、金属層201、及び金属層202が挟まれた状態となるように重ねる。具体的には、そのような状態となるように、接合対象101及び102を接合装置のステージ112に載置する(図1参照)。
【0048】
接合処理工程では、吸熱層200にレーザ光を照射し、それによって吸熱層200がレーザ光から吸収した熱を利用して金属層201及び202を加熱する。そして、そのような加熱によって生じた2種類の金属の共晶反応を利用して金属層201及び202を結合させることにより、2つの接合対象101及び102の接合面101a及び102aどうしを接合する。
【0049】
具体的には、接合装置の制御部4が、2つの接合対象101及び102がステージ112に載置された状態で、第1チャンバ構成部11及び第2チャンバ構成部12を近接させて合体させることでチャンバ10を形成する。そして、制御部4は、排気部14を制御することにより、チャンバ10内が真空状態となるまで当該チャンバ10の内圧を低下させる。その後、制御部4は、加圧機構2を制御することにより、接合対象101の背面101bにダイアフラム21で圧力を加える。そして、制御部4は、圧力を加えた状態を維持しつつ、レーザ光源3を制御することにより、吸熱層200にステージ112を介してレーザ光を照射する。また、制御部4は、介在層(金属層201など)のパターン形状に沿ってレーザ光を水平面内で走査することにより、接合対象101及び102の全域において、吸熱層200を介して金属層201及び202を加熱する。そして、それによって生じた共晶反応を利用して金属層201及び202を結合させることにより、2つの接合対象101及び102の接合面101a及び102aどうしを接合する。
【0050】
このような接合方法によれば、上述したように吸熱層200にレーザ光を効率良く吸収させ、それによって当該吸熱層200を介して間接的に金属層201及び202を加熱することが可能になるため、レーザ光を効率良く用いた接合が実現される。
【0051】
[2-1-3]変形例
<第1変形例>
上述した接合方法は、共晶反応を利用した接合(共晶接合)に限らず、反射率の高い材料や光透過率の高い材料を用いた接合、はんだ接合、溶接接合など、少なくとも1つの接合材料層によって2つの接合対象101及び102を接合する場合にも、吸熱層200を利用して当該接合材料層を加熱することができるため、有効である。この場合、接合材料層形成工程では、吸熱層200の表面及び接合対象102の接合面102aの少なくとも何れか一方に沿って接合材料層を形成することができる。
【0052】
<第2変形例>
上述した接合方法において、吸熱層200の吸熱効率を更に高めたい場合には、積層工程の前に、吸熱層200の表面に、化学処理やブラスト処理など、表面粗さを大きくするための処理を施してもよい(表面処理工程)。
【0053】
<第3変形例>
上述した接合方法において、接合対象101及び102の少なくとも何れか一方が、熱伝導率が高い材料を主成分として含んだものである場合には、吸熱層200によるレーザ光の吸収によって生じた熱が接合対象へ拡散してしまい、金属層201及び202に対する効率的な加熱が妨げられるおそれがある。
【0054】
そこで、そのような熱拡散を防止するべく、接合対象101及び102のうちの、熱伝導率が高い材料を主成分として含んだ接合対象については、その接合面に熱拡散防止層を形成してもよい(防止層形成工程)。この場合、吸熱層形成工程や金属層形成工程では、熱拡散防止層の表面に吸熱層200や金属層202などが形成されることになる。
【0055】
<第4変形例>
上述した接合方法は、金属層201及び202の接触箇所の全てをレーザ光で接合する本接合に限らず、金属層201及び202の接触箇所のうちの数箇所だけをレーザ光で接合する仮接合に用いられてもよい。ここで、仮接合は、アライメント機構(不図示)で調整された接合対象101及び102の位置関係を、搬送時に生じる振動などで崩れることがないように維持するために施される接合処理である。
【0056】
また、上述した接合方法には、接合対象101及び102を挟圧しつつ、それらの接合箇所にレーザ光を照射することが可能な接合装置であれば、図1に例示した接合装置に限らず、別の接合装置が用いられてもよい。
【0057】
[2-2]第2実施形態
[2-2-1]接合対象
図5は、上述した接合装置で接合することが可能な2つの接合対象101及び102の他の例を示した概念図である。接合対象101及び102は、例えば半導体ウェハやガラス板であり、それらの接合面101a及び102aの何れか一方に沿って接合材料層203が形成される(接合材料形成工程)。ここで、接合材料層203は、チタン(Ti)及びクロム(Cr)並びにそれらの酸化物のうちの少なくとも何れか一種を主成分として含んだ層である。尚、特許請求の範囲に記載の「第1接合対象」及び「第2接合対象」との関係では、接合対象101が「第1接合対象」に相当し、接合対象102が「第2接合対象」に相当すると把握してもよいし、逆に、接合対象102が「第1接合対象」に相当し、接合対象101が「第2接合対象」に相当すると把握してもよい。また、接合材料層203は、接合面101a及び102aの両方に形成されてもよい。
【0058】
チタン(Ti)やクロム(Cr)並びにそれらの酸化物は、第1実施形態で説明したように、レーザ光を吸収しやすい金属である。そして、本発明者は、そのような特性を持ったチタン(Ti)やクロム(Cr)或いはそれらの酸化物を用いて接合材料層203を形成することにより、第1実施形態のように共晶反応で結合する金属層201及び202がなくても、接合材料層203だけで、2つの接合対象101及び102の接合面101a及び102aどうしを接合できることを見出した。
【0059】
従って、上記の接合材料層203によれば、当該接合材料層203にレーザ光を照射することにより、その接合材料層203にレーザ光を効率良く吸収させ、それによって2つの接合対象101及び102の接合面101a及び102aどうしを接合することが可能になる。
【0060】
[2-2-2]接合方法
次に、レーザ光を用いて上記の接合対象101及び102(図5参照)を接合する接合方法について説明する。本実施形態の接合方法には、図4に示されたフローチャートと同様、上述した接合装置を用いて実行される積層工程及び接合処理工程が含まれている。以下、積層工程及び接合処理工程について具体的に説明する。尚、本実施形態の接合方法には、上述した接合材料層203を形成する接合材料層形成工程が更に含まれていてもよい。
【0061】
積層工程では、接合対象101及び102を、それらの接合面101a及び102aの間に接合材料層203が挟まれた状態となるように重ねる。具体的には、そのような状態となるように、接合対象101及び102を接合装置のステージ112に載置する(図1参照)。
【0062】
接合処理工程では、接合材料層203にレーザ光を照射し、それによって接合材料層203にレーザ光を吸収させて当該接合材料層203を加熱する。そして、そのような接合材料層203の加熱により、2つの接合対象101及び102の接合面101a及び102aどうしを接合する。
【0063】
具体的には、接合装置の制御部4が、2つの接合対象101及び102がステージ112に載置された状態で、第1チャンバ構成部11及び第2チャンバ構成部12を近接させて合体させることでチャンバ10を形成する。そして、制御部4は、排気部14を制御することにより、チャンバ10内が真空状態となるまで当該チャンバ10の内圧を低下させる。その後、制御部4は、加圧機構2を制御することにより、接合対象101の背面101bにダイアフラム21で圧力を加える。そして、制御部4は、圧力を加えた状態を維持しつつ、レーザ光源3を制御することにより、接合材料層203にステージ112を介してレーザ光を照射する。また、制御部4は、接合材料層203のパターン形状に沿ってレーザ光を水平面内で走査することにより、接合対象101及び102の全域において、接合材料層203を加熱する。そして、当該接合材料層203の加熱により、2つの接合対象101及び102の接合面101a及び102aどうしを接合する。
【0064】
このような接合方法によれば、上述したように接合材料層203にレーザ光を効率良く吸収させ、それによって2つの接合対象101及び102を接合することが可能になるため、レーザ光を効率良く用いた接合が実現される。
【0065】
[2-2-3]変形例
<第5変形例>
上述した接合技術においても、第1実施形態と同様、接合対象への熱拡散を防止するべく、当該接合対象の接合面に熱拡散防止層を形成してもよい(防止層形成工程)。
【0066】
<第6変形例>
上述した接合技術は、第1実施形態と同様、本接合に限らず、仮接合に用いられてもよい。また、上述した接合方法には、接合対象101及び102を挟圧しつつ、それらの接合箇所にレーザ光を照射することが可能な接合装置であれば、図1に例示した接合装置に限らず、別の接合装置が用いられてもよい。
【0067】
上述の実施形態や変形例の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態や変形例ではなく、特許請求の範囲によって示される。更に、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0068】
また、上述の実施形態や変形例からは、発明の対象として、上述した接合方法に限らず、その接合方法を構成する工程の一部(例えば、積層工程や接合処理工程など)や、当該接合方法に使用される接合装置などが抽出されてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1 チャンバ機構
2 加圧機構
3 レーザ光源
4 制御部
10 チャンバ
11 第1チャンバ構成部
12 第2チャンバ構成部
13 駆動部
14 排気部
21 ダイアフラム
22 駆動部
101、102 接合対象
101a、102a 接合面
101b 背面
103 センサ
111 第1円筒部
112 ステージ
121 第2円筒部
122 天板
200 吸熱層
201、202 金属層(接合材料層)
203 接合材料層
221 伝達媒体
図1
図2
図3
図4
図5