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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018402
(43)【公開日】2023-02-08
(54)【発明の名称】蒸発燃料処理装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 25/08 20060101AFI20230201BHJP
   F02M 35/10 20060101ALI20230201BHJP
   B62J 37/00 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
F02M25/08 L
F02M35/10 311Z
B62J37/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021122507
(22)【出願日】2021-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】福井 章仁
【テーマコード(参考)】
3G144
【Fターム(参考)】
3G144BA32
3G144BA40
3G144GA22
3G144GA23
3G144GA30
(57)【要約】
【課題】エンジン後方にキャニスタが配置された場合でも、車両が大型化することなく、スロットルボディ周辺の吸気系部品との隙間を十分に確保する。
【解決手段】蒸発燃料処理装置は、エンジン(30)の後方にエアクリーナが配置され、エアクリーナから吸気通路(89)を通じてエンジンに空気が導かれ、燃料タンクの蒸発燃料を吸気通路に導入する。蒸発燃料処理装置には、吸気通路が形成されたスロットルボディ(41)と、燃料タンクの蒸発燃料を回収するキャニスタ(51)と、が設けられている。スロットルボディの車幅方向の一方側に駆動モータ(44)が設けられている。キャニスタの車幅方向の他方側の端面には、サージホース(61)を介して燃料タンクに接続されるサージニップルと、パージホース(62)を介して吸気通路に接続されるパージニップルと、が設けられている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの後方にエアクリーナが配置され、前記エアクリーナから吸気通路を通じて前記エンジンに空気が導かれ、燃料タンクの蒸発燃料を前記吸気通路に導入する蒸発燃料処理装置であって、
前記吸気通路が形成されたスロットルボディと、
前記燃料タンクの蒸発燃料を回収するキャニスタと、を備え、
前記スロットルボディの車幅方向の一方側に駆動モータが設けられ、
前記キャニスタが前記吸気通路の下方で車幅方向に延びており、当該キャニスタの車幅方向の他方側の端面にはサージホースを介して前記燃料タンクに接続されるサージニップル及びパージホースを介して前記吸気通路に接続されるパージニップルが設けられていることを特徴とする蒸発燃料処理装置。
【請求項2】
前記駆動モータの下部が前記吸気通路の下方に位置しており、
側面視にて前記キャニスタの上端が前記駆動モータの下端よりも上方に位置し、前記キャニスタの前端が前記駆動モータの後端よりも前方に位置していることを特徴とする請求項1に記載の蒸発燃料処理装置。
【請求項3】
上面視にて前記キャニスタの車幅方向の一方側の端面は前記駆動モータよりも車幅方向内側に位置していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の蒸発燃料処理装置。
【請求項4】
前記キャニスタの車幅方向の一方側の端面には大気開放ニップルが設けられており、
後面視にて前記大気開放ニップルが前記駆動モータの下方に位置していることを特徴とする請求項3に記載の蒸発燃料処理装置。
【請求項5】
前記駆動モータは、駆動力を出力するモータ本体と、前記モータ本体の車幅方向の一方側に連なるギアケースと、を有し、
前記モータ本体は前記吸気通路の下方に位置し、前記ギアケースの下端は前記モータ本体よりも下方に位置しており、
後面視にて前記キャニスタの上部は前記モータ本体と重なり、前記大気開放ニップルが前記ギアケースよりも下方に位置していることを特徴とする請求項4に記載の蒸発燃料処理装置。
【請求項6】
前記キャニスタの上方で車幅方向の他方側にパージバルブが設けられており、
前記パージホースが前記パージニップルから前記パージバルブを介して前記吸気通路に接続され、
側面視にて前記パージホースが前記駆動モータに重なっていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の蒸発燃料処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸発燃料処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鞍乗型車両として、エンジン後方にエアクリーナとキャニスタが配置されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の鞍乗型車両ではエンジンの後面にスロットルボディ等を介してエアクリーナが接続されており、エアクリーナの前方でスロットルボディの下方に円筒状のキャニスタが配置されている。キャニスタの一端には、燃料タンクから延びるサージホースと、スロットルボディから延びるパージホースとが接続されている。燃料タンクからの蒸発燃料がキャニスタに吸着され、キャニスタからスロットルボディに蒸発燃料が再燃焼のために導入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-104837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで近年、スロットルボディには電子制御式のスロットルバルブが採用されることが多く、スロットルボディにはスロットルバルブを駆動させるための駆動モータが追加されている。このため、スロットルボディ周辺の吸気系部品が混み合って配置されており、キャニスタの配置スペースを確保することが難しい。キャニスタと吸気系部品の隙間が十分に確保できないと車両振動によって部品が衝突するおそれがあり、キャニスタと吸気系部品の隙間を無理に確保すると車両が大型化するという問題があった。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、エンジン後方にキャニスタが配置された場合でも、車両が大型化することなく、スロットルボディ周辺の吸気系部品との隙間を十分に確保することができる蒸発燃料処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の蒸発燃料処理装置は、エンジンの後方にエアクリーナが配置され、前記エアクリーナから吸気通路を通じて前記エンジンに空気が導かれ、燃料タンクの蒸発燃料を前記吸気通路に導入する蒸発燃料処理装置であって、前記吸気通路が形成されたスロットルボディと、前記燃料タンクの蒸発燃料を回収するキャニスタと、を備え、前記スロットルボディの車幅方向の一方側に駆動モータが設けられ、前記キャニスタが前記吸気通路の下方で車幅方向に延びており、当該キャニスタの車幅方向の他方側の端面にはサージホースを介して前記燃料タンクに接続されるサージニップル及びパージホースを介して前記吸気通路に接続されるパージニップルが設けられていることで上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様の蒸発燃料処理装置によれば、車幅方向の一方側に駆動モータが設けられ、車幅方向の他方側にキャニスタのサージニップル及びパージニップルが設けられている。車両振動によってサージホース及びパージホースが駆動モータに接触することがなく、エンジンの後方にスロットルボディとキャニスタをコンパクトに配置できる。サージホース及びパージホースが駆動モータから離れているため、車両を大型化することなく、キャニスタとスロットルボディ周辺の吸気系部品との隙間も確保し易い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施例の鞍乗型車両の左側面図である。
図2】本実施例のエンジン周辺を右側から見た斜視図である。
図3】本実施例のエンジン周辺を左側から見た斜視図である。
図4】本実施例のキャニスタを右側から見た斜視図である。
図5】本実施例のキャニスタを左側から見た斜視図である。
図6】本実施例のキャップ及びキャニスタの断面図である。
図7】本実施例のキャップの斜視図である。
図8】本実施例のエンジン周辺の右側面図である。
図9】本実施例のエンジン及びキャニスタの上面図である。
図10】本実施例のエンジン及びキャニスタの後面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一態様の蒸発燃料処理装置は、エンジンの後方にエアクリーナが配置されており、エアクリーナから吸気通路を通じてエンジンに空気が導かれ、燃料タンクの蒸発燃料をキャニスタが回収して吸気通路に導入する。スロットルボディに吸気通路が形成されており、スロットルボディの車幅方向の一方側に駆動モータが設けられている。吸気通路の下方でキャニスタが車幅方向に延びており、当該キャニスタの車幅方向の他方側の端面にはサージニップル及びパージニップルが形成されている。サージニップルにはサージホースを介して燃料タンクが接続され、パージニップルにはパージホースを介して吸気通路が接続されている。車幅方向の一方側に駆動モータが設けられ、車幅方向の他方側にキャニスタのサージニップル及びパージニップルが設けられている。車両振動によってサージホース及びパージホースが駆動モータに接触することがなく、エンジンの後方にスロットルボディとキャニスタをコンパクトに配置できる。サージホース及びパージホースが駆動モータから離れているため、車両を大型化することなく、キャニスタとスロットルボディ周辺の吸気系部品との隙間も確保し易い。
【実施例0010】
以下、添付図面を参照して、本実施例について詳細に説明する。図1は本実施例の鞍乗型車両の左側面図である。また、以下の図では、矢印FRは車両前方、矢印REは車両後方、矢印Lは車両左方、矢印Rは車両右方をそれぞれ示している。
【0011】
図1に示すように、鞍乗型車両1は、パイプ・板金によって形成されるダイヤモンド型の車体フレーム10に、エンジン30や電装系等の各種部品を搭載して構成されている。車体フレーム10はヘッドパイプ11から左右に分岐して後方に延びる一対のメインフレーム12と、ヘッドパイプ11から左右に分岐して下方に延びる一対のダウンフレーム13とを有している。一対のメインフレーム12によってエンジン30の後部が支持され、一対のダウンフレーム13によってエンジン30の前部が支持されている。エンジン30が車体フレーム10に支持されることで車両全体の剛性が向上されている。
【0012】
メインフレーム12の前側部分はエンジン30の上方に位置するタンクレール14になっており、タンクレール14によって燃料タンク21が下方から支持されている。メインフレーム12の後側部分はエンジン30の後方に位置するボディフレーム15になっており、ボディフレーム15の下半部にはスイングアーム22が揺動可能に支持されている。ボディフレーム15の上半部にはアッパーレール17及びロアレール18から成るシートレール16が取り付けられている。アッパーレール17の上部には、燃料タンク21の後方においてライダーシート23及びピリオンシート24が支持されている。
【0013】
ヘッドパイプ11には、ステアリングシャフト(不図示)を介して一対のフロントフォーク25が操舵可能に支持されており、フロントフォーク25の下部には前輪26が回転可能に支持されている。スイングアーム22はボディフレーム15から後方に向かって延びており、スイングアーム22の後端には後輪27が回転可能に支持されている。後輪27にはチェーンドライブ式の変速機構を介してエンジン30が連結されており、変速機構を介してエンジン30からの動力が後輪27に伝達されている。また、左側のボディフレーム15の下部には、車両を傾けて自立させるサイドスタンド28が設けられている。
【0014】
ところで、エンジン30の後方にエアクリーナ38が配置される機種では、エアクリーナ38はスロットルボディ41を介してエンジン30に接続されている。スロットルボディ41に電子制御式のスロットルバルブが用いられると、駆動モータの追加分だけスロットルボディ41の配置スペースを広く確保しなければならない。また、キャニスタ51を配置するためにはサージホース及びパージホースの配設ルートを確保する必要がある。そこで、本実施例では、車幅方向の一方側に駆動モータ44を配置し、車幅方向の他方側にキャニスタ51の各ホースの配設ルートを確保して、エンジン30の後方にキャニスタ51を配置している(図9参照)。
【0015】
図2及び図3を参照して、エンジンの周辺構成について説明する。図2は本実施例のエンジン周辺を右側から見た斜視図である。図3は本実施例のエンジン周辺を左側から見た斜視図である。
【0016】
図2及び図3に示すように、エンジン30は、2気筒エンジンであり、上下割構造のクランクケース31を有している。クランクケース31の上部にはシリンダ32、シリンダヘッド33、シリンダヘッドカバー34が取り付けられている。クランクケース31の左側面には、マグネト(不図示)を側方から覆うマグネトカバー35が取り付けられている。クランクケース31の右側面にはクラッチ(不図示)を側方から覆うクラッチカバー36が取り付けられている。シリンダヘッド33の後面には一対のインテークパイプ37を介してスロットルボディ41が接続されている。
【0017】
スロットルボディ41の上流(後側)には、エアクリーナ38(図1参照)が接続されている。エアクリーナ38は一対のシートレール16(図1参照)の間に配置され、後斜め下方に傾けられている。スロットルボディ41の内側には一対の吸気通路89の上流側が形成され、一対のインテークパイプ37の内側には一対の吸気通路89の下流側が形成されている。スロットルボディ41及び一対のインテークパイプ37によって一対の吸気通路89が形成されて、この一対の吸気通路89を通じてエアクリーナ38からシリンダヘッド33の一対の吸気ポートに空気が導入される。
【0018】
スロットルボディ41は、一対のインテークパイプ37及びエアクリーナ38の一対のアウトレットチューブ(不図示)を接続する一対の円筒部42を有している。一対の円筒部42の吸気通路89には、電子制御式の一対のスロットルバルブ43が配置されている。一対のスロットルバルブ43は一対の円筒部42を貫通するシャフト(不図示)に取り付けられており、このシャフトの右端側には駆動モータ44が連結されている。駆動モータ44によって一対のスロットルバルブ43が開閉駆動されて、エアクリーナ38からシリンダヘッド33に向かう吸入空気量が調整されている。
【0019】
駆動モータ44は、駆動力を出力するモータ本体45と、モータ本体45の出力をシャフトに伝える伝達ギアを収容したギアケース46と、を有している。モータ本体45は右側の円筒部42の下方に連なり、ギアケース46は右側の円筒部42及びモータ本体45の右側(車幅方向の一方側)に連なっている。モータ本体45は吸気通路89の下方に位置し、ギアケース46の下端はモータ本体45よりも下方に位置している。このように、スロットルボディ41の右側及びスロットルボディ41の下方スペースの右側は、ギアケース46及びモータ本体45の配置スペースになっている。
【0020】
一対の円筒部42の下面には後面視U字状のパージパイプ47が接続されている。パージパイプ47には、後述するキャニスタ51から延びるパージホース62が接続されている。一対の円筒部42の上面には一対のインジェクタ48が取り付けられており、一対のインジェクタ48にはデリバリパイプ49が接続されている。一対のインジェクタ48は円筒部42を貫通しており、前斜め下方を向くように一対のインジェクタ48が傾けられている。デリバリパイプ49から一対のインジェクタ48に燃料が供給されて、一対のインジェクタ48から一対のインテークパイプ37の下流の一対の吸気ポート(不図示)に向けて燃料が噴射される。
【0021】
スロットルボディ41の下方には、燃料タンク21(図1参照)の蒸発燃料を回収するキャニスタ51が配置されている。キャニスタ51の右端面(一方側の端面)を覆うようにキャップ81が装着されており、キャニスタ51の左端面(他方側の端面)にはサージホース61及びパージホース62が接続されている。サージホース61を介してキャニスタ51が燃料タンク21に接続され、パージホース62を介してキャニスタ51がパージパイプ47に接続されている。燃料タンク21の蒸発燃料がサージホース61を通じてキャニスタ51に回収され、パージホース62及びパージパイプ47を通じて吸気通路89に導入される。
【0022】
パージホース62は、第1のパージホース63及び第2のパージホース64を有している。第1のパージホース63はキャニスタ51とパージバルブ71を接続し、第2のパージホース64はパージバルブ71とパージパイプ47を接続している。パージバルブ71の開閉によってキャニスタ51からスロットルバルブ43の吸気通路89への蒸発燃料のパージ流量が調整される。また、キャニスタ51の外周面にはゴムバンド57が装着され、ゴムバンド57にはキャニスタブラケット65が挿し込まれている。キャニスタ51はキャニスタブラケット65を介してフレーム部材(不図示)に浮動状態で固定されている。
【0023】
図4から図7を参照して、キャニスタについて説明する。図4は本実施例のキャニスタを右側から見た斜視図である。図5は本実施例のキャニスタを左側から見た斜視図である。図6は本実施例のキャップ及びキャニスタの断面図である。図7は本実施例のキャップの斜視図である。なお、図4(A)はキャニスタにキャップが装着された状態、図4(B)はキャニスタからキャップが外された状態を示している。
【0024】
図4及び図5に示すように、キャニスタ51は、吸着室が形成された樹脂製のキャニスタケース52を有している。キャニスタケース52の吸着室には蒸発燃料を一時的に吸着可能な活性炭等が収容されている。キャニスタケース52の右端面(一方側の端面)には、大気に連なる大気開放ニップル53と吸着室内の水分や燃料を排出するドレンニップル54が形成されている。大気開放ニップル53が端面中央に位置し、ドレンニップル54が大気開放ニップル53の下方に位置している。キャニスタケース52には右端面を覆うようにゴム製のキャップ81が装着されている。
【0025】
キャニスタケース52の左端面(他方側の端面)には、サージホース61(図3参照)が接続されるサージニップル55とパージホース62(図3参照)が接続されるパージニップル56が形成されている。サージニップル55にはサージホース61を介して燃料タンク21(図1参照)が接続され、パージニップル56にはパージホース62(図3参照)を介して吸気通路89(図3参照)が接続されている。サージニップル55が端面中央に位置し、パージニップル56がサージニップル55の上方に位置している。このように、キャニスタケース52の左右両端には複数のニップルが形成されている。
【0026】
キャニスタケース52の外周面において長手方向の中央にゴムバンド57が装着されている。ゴムバンド57の上下部分はキャニスタブラケット65が取り付けられる取付部58になっており、取付部58には扁平穴が形成されている。上側の取付部58から右方に突き出した部分には凹部59が形成されており、この凹部59にキャップ81の凸部82が入り込んでゴムバンド57に対してキャップ81が周方向で位置決めされている。また、ゴムバンド57の圧着力によってゴムバンド57とキャニスタケース52が密着され、キャニスタケース52に対するゴムバンド57の周方向の位置ズレが防止されている。
【0027】
キャニスタブラケット65は、フレーム部材に固定される固定ブラケット66と、ゴムバンド57に取り付けられるC字ブラケット69とを有している。固定ブラケット66には下方に折り曲げられた右側の下片部67と、上方に折り曲げられた左側の上片部68とを有している。固定ブラケット66の下片部67にはC字ブラケット69の中間部分が接合されており、C字ブラケット69の両端がゴムバンド57の上下の取付部58の扁平穴に挿し込まれている。フレーム部材からキャニスタブラケット65にエンジン振動が伝わるが、ゴムバンド57でエンジン振動が吸収されてキャニスタ51に伝わり難くなっている。
【0028】
固定ブラケット66の上片部68にはパージバルブ71の駆動部72が固定されている。パージバルブ71はゴムバンド57よりも左側に位置付けられ、パージバルブ71とパージニップル56が近づけられている。駆動部72の左側面にはバルブケース73が設けられ、バルブケース73内にはバルブ(不図示)が収容されている。駆動部72はソレノイド又はモータ等によって構成されており、駆動部72によってバルブケース73内のバルブが駆動される。駆動部72の前面にはコネクタ74が設けられており、コネクタ74にはケーブル(不図示)を通じて制御ユニット(不図示)が接続されている。
【0029】
バルブケース73の先端側には導入ニップル75が形成され、バルブケース73の基端側には排出ニップル76が形成されている。導入ニップル75には第1のパージホース63を介してキャニスタ51のパージニップル56が接続され、排出ニップル76には第2のパージホース64を介してスロットルボディ41のパージパイプ47(図3参照)が接続されている。導入ニップル75及び排出ニップル76はバルブケース73から前方に向かって延びてパージニップル56及びパージパイプ47に近づけられている。これにより、第1、第2のパージホース63、64を短く形成することができる。
【0030】
図6及び図7に示すように、キャニスタケース52の右端面側にはドーム状のキャップ81が装着されており、キャップ81によって大気開放ニップル53及びドレンニップル54が覆われている。キャップ81の頂点部分が大気開放ニップル53に対向し、キャップ81の頂点部分よりも下方部分がドレンニップル54に対向している。キャップ81の外周部分には一対の切欠き83が形成され、一対の切欠き83によってキャップ81の外周部分が変形し易くなって、キャニスタケース52に対するキャップ81の装着性が向上されている。キャップ81の上側の外周部分には上記した位置決め用の凸部82が形成されている。
【0031】
キャップ81の内面には大気開放ニップル53の下方を除いて周囲を囲むU字壁(周壁)84が形成されている。U字壁84の下方にはドレンニップル54の出口を覆う挿込穴(封止部)85が形成されている。挿込穴85によってドレンニップル54が封止されることで、ドレンニップル54の出口から燃料が漏れ難くなって部品の汚染が防止される。一般的なキャニスタではキャニスタケースから漏れた燃料がドレンホースを通じて部品が汚染されない位置まで導かれるが、本実施例のキャニスタ51にはキャップ81が装着されているため、ドレンホースが不要になって部品点数が低減されている。
【0032】
挿込穴85の下方にはキャップ81の内側を大気に連通させる開口86が形成されている。開口86はキャップ81の外周部分に沿った円弧状に形成されている。U字壁84の下方の開放部分を通じて大気開放ニップル53の内部がキャップ81の内側に連通しているため、大気開放ニップル53の内部が開口86を通じて大気に連通している。外観性向上のために大気開放ニップル53及びドレンニップル54がキャップ81によって隠されていても、大気開放ニップル53の内部が開口86を通じて大気に連なることで、キャップ81によってキャニスタ51の性能が阻害されることがない。
【0033】
大気開放ニップル53が大気に連通しているため、水や埃等の異物が大気開放ニップル53の内部に入り込み難くなるようにキャップ81には様々な工夫が施されている。例えば、挿込穴85の挿込口87よりもキャニスタケース52の右端面に開口86が近づけられている(特に図6参照)。また、挿込穴85の上部には、開口86の長さよりも大きく、U字壁84の横幅よりも大きな突壁88が形成されている。開口86と大気開放ニップル53の間にドレンニップル54の基端部分及び突壁88が位置することで、開口86から大気開放ニップル53への異物の侵入が抑えられている。
【0034】
さらに、キャップ81の外周部分の一対の切欠き83はU字壁84の側方に形成されている。一対の切欠き83からキャップ81内に異物が入り込んでも、U字壁84は下方を除いて大気開放ニップル53の周囲を囲んでいるため、一対の切欠き83から大気開放ニップル53への異物の侵入が抑えられている。このとき、一対の切欠き83の下端よりもU字壁84の開放面(下面)が下方に位置することで、一対の切欠き83から大気開放ニップル53へのダイレクトな侵入が抑えられる。キャニスタ51にキャップ81が装着されることで、外観性や異物の入り込み易さによってキャニスタ51の配置場所が制限されない。
【0035】
図8から図10を参照して、キャニスタのレイアウトについて説明する。図8は本実施例のエンジン周辺の右側面図である。図9は本実施例のエンジン及びキャニスタの上面図である。図10は本実施例のエンジン及びキャニスタの後面図である。
【0036】
図8に示すように、エンジン30のシリンダ軸線が縦向きであり、エンジン30下部のクランクケース31が後方に広がっている。メインフレーム12のタンクレール14にシリンダヘッド33が支持され、メインフレーム12のボディフレーム15にクランクケース31が支持されている。側面視にてエンジン30とメインフレーム12に囲まれたシリンダ後方のスペースにスロットルボディ41とキャニスタ51が配置されている。シリンダ後方のスペースの上部前寄りにスロットルボディ41が配置され、このスペースの下部後寄りにキャニスタ51が配置されている。
【0037】
スロットルボディ41の駆動モータ44は後斜め下方に広がっており、キャニスタ51のキャップ81が駆動モータ44、メインフレーム12、クランクケース31に囲まれた空間に配置されている。このとき、側面視にてキャニスタ51の上端P1が駆動モータ44の下端P2よりも上方に位置し、キャニスタ51の前端P3が駆動モータ44の後端P4よりも前方に位置している。駆動モータ44に対して上下方向及び前後方向にキャニスタ51が近づけられて、スロットルボディ41とキャニスタ51がコンパクトに配置されることで車両の大型化が抑えられている。
【0038】
また、キャニスタ51の一部、すなわちキャップ81の一部がクランクケース31及びクラッチカバー36に重なっている。キャップ81とクランクケース31の隙間はエンジン振動で接触するほど詰められているが、キャップ81と駆動モータ44の隙間はエンジン振動でも接触しない程度に確保されている。エンジン振動でキャニスタ51がクランクケース31に接触しても、ゴム製のキャップ81によってキャニスタ51が衝撃から保護される。クランクケース31に対して上下方向にキャニスタ51が近づけられ、クランクケース31の上方にキャニスタ51がコンパクトに配置されて車両の大型化が抑えられている。
【0039】
図9に示すように、上面視にてキャニスタ51の右端面(一方側の端面)が駆動モータ44よりも車幅方向内側に位置しており、キャニスタ51の全長がスロットルボディ41の全長よりも短く形成されている。駆動モータ44に対して車幅方向にキャニスタ51が近づけられ、駆動モータ44とキャニスタ51がコンパクトに配置されることで車両の大型化が抑えられている。キャニスタ51の長手方向の中心位置Oがエンジン30の中心面Cよりも右寄りに偏倚して、キャニスタ51の左側にサージホース61及びパージホース62の配置スペースが確保されている。
【0040】
図9及び図10に示すように、サージホース61はキャニスタ51の左端面からスロットルボディ41の左側方を通って上方に延びた後に、燃料タンク21(図1参照)の排気口に向かって後方に延びている。第1のパージホース63はキャニスタ51の左端面からキャニスタ51上部のパージバルブ71に向かって延びている。このとき、上面視にて第1のパージホース63がキャニスタ51の前後幅Wに収められている。第2のパージホース64はパージバルブ71からスロットルボディ41のパージパイプ47に向かって前後に延びている。側面視にて第2のパージホース64は駆動モータ44に重なっている(図8参照)。
【0041】
このように、エンジン30の中心面Cよりも右側にスロットルボディ41の駆動モータ44が設けられ、エンジン30の中心面Cよりも左側にサージホース61及びパージホース62の配設ルートが確保されている。車両振動によってサージホース61及びパージホース62が駆動モータ44に接触することがないため、キャニスタ51を駆動モータ44に近づけて車両の大型化が抑えられている。サージホース61及びパージホース62の配設ルートが駆動モータ44に阻害されることがなく、キャニスタ51から延びるサージホース61及びパージホース62を短くできる。
【0042】
後面視にてキャニスタ51の右端面の大気開放ニップル53が駆動モータ44の下方に位置している。より詳細には、キャニスタ51の上部はモータ本体45と重なり、大気開放ニップル53がギアケース46よりも下方に位置している(特に図10参照)。大気開放ニップル53の先端はギアケース46の外端よりも車両内側に位置している。また、キャニスタ51の右端面にはドレンニップル54(図4(B)参照)も形成されている。大気開放ニップル53及びドレンニップル54にはホースが接続されないため、駆動モータ44とキャニスタ51が接触しない程度の隙間を空けて駆動モータ44にキャニスタ51が近づけられている。
【0043】
キャニスタ51のキャップ81が左側のサイドスタンド28(図1参照)とは逆側に位置している。サイドスタンド28によって車両が左側に傾いた姿勢で自立するため、キャニスタ51の左端面が下方に向けられてサージホース61及びサージホース61が目立ち難くなる。キャニスタ51の右端面が上方に向けられるが、キャニスタ51の右端面の大気開放ニップル53がキャップ81に覆われて、大気開放ニップル53の露出による外観性の低下が抑えられる。キャップ81の上方にメインフレーム12が位置しており、キャップ81自体もメインフレーム12に上方から覆われてキャップ81が目立たなくなって車両の外観性の低下が抑えられている。
【0044】
以上、本実施例によれば、車幅方向の右側に駆動モータ44が設けられ、車幅方向の左側にキャニスタ51のサージニップル55及びパージニップル56が設けられている。車両振動によってサージホース61及びパージホース62が駆動モータ44に接触することがなく、エンジン30の後方にスロットルボディ41とキャニスタ51をコンパクトに配置できる。サージホース61及びパージホース62が駆動モータ44から離れているため、車両を大型化することなく、キャニスタ51とスロットルボディ41周辺の吸気系部品との隙間も確保し易い。
【0045】
なお、本実施例では、エンジンとして2気筒エンジンを例示したが、エンジンの種類は特に限定されない。
【0046】
また、本実施例では、サージニップル及びパージニップルがキャニスタの左側に形成され、駆動モータがスロットルボディの右側に設けられたが、サージニップル及びパージニップルがキャニスタの右側に形成され、駆動モータがスロットルボディの左側に設けられてもよい。
【0047】
また、本実施例では、大気開放ニップル及びドレンニップルがキャニスタの右側に形成されたが、大気開放ニップル及びドレンニップルがキャニスタの左側に形成されてもよい。キャニスタにはドレンニップルが形成されていなくてもよい。
【0048】
また、本実施例では、キャニスタと駆動モータが接触しない程度に隙間が空けられていれば、キャニスタと駆動モータの位置関係は特に限定されない。
【0049】
また、本実施例では、パージホースがスロットルボディのパージパイプに接続されたが、パージホースが吸気通路に接続されていればよい。例えば、パージホースがスロットルボディの吸気通路にダイレクトに接続されてもよいし、パージホースがインテークパイプの吸気通路に接続されてもよい。
【0050】
また、蒸発燃料処理装置は、図示の鞍乗型車両に限らず、他のタイプの鞍乗型車両に採用されてもよい。鞍乗型車両とは、ライダーがシートに跨った姿勢で乗車する車両全般に限定されず、ライダーがシートに跨らずに乗車する小型のスクータタイプの車両も含んでいる。
【0051】
以上の通り、本実施例の蒸発燃料処理装置は、エンジン(30)の後方にエアクリーナ(38)が配置され、エアクリーナから吸気通路(89)を通じてエンジンに空気が導かれ、燃料タンク(21)の蒸発燃料を吸気通路に導入する蒸発燃料処理装置であって、吸気通路が形成されたスロットルボディ(41)と、燃料タンクの蒸発燃料を回収するキャニスタ(51)と、を備え、スロットルボディの車幅方向の一方側に駆動モータ(44)が設けられ、キャニスタが吸気通路の下方で車幅方向に延びており、当該キャニスタの車幅方向の他方側の端面にはサージホース(61)を介して燃料タンクに接続されるサージニップル(55)及びパージホース(62)を介して吸気通路に接続されるパージニップル(56)が設けられている。この構成によれば、車幅方向の一方側に駆動モータが設けられ、車幅方向の他方側にキャニスタのサージニップル及びパージニップルが設けられている。車両振動によってサージホース及びパージホースが駆動モータに接触することがなく、エンジンの後方にスロットルボディとキャニスタをコンパクトに配置できる。サージホース及びパージホースが駆動モータから離れているため、車両を大型化することなく、キャニスタとスロットルボディ周辺の吸気系部品との隙間も確保し易い。
【0052】
本実施例の蒸発燃料処理装置において、駆動モータの下部が吸気通路の下方に位置しており、側面視にてキャニスタの上端が駆動モータの下端よりも上方に位置し、キャニスタの前端が駆動モータの後端よりも前方に位置している。この構成によれば、上下方向及び前後方向でキャニスタを駆動モータに近づけて、車両の大型化を抑えることができる。
【0053】
本実施例の蒸発燃料処理装置において、上面視にてキャニスタの車幅方向の一方側の端面は駆動モータよりも車幅方向内側に位置している。この構成によれば、車幅方向でキャニスタを駆動モータに近づけて、車両の大型化を抑えることができる。
【0054】
本実施例の蒸発燃料処理装置において、キャニスタの車幅方向の一方側の端面には大気開放ニップル(53)が設けられており、後面視にて大気開放ニップルが駆動モータの下方に位置している。この構成によれば、ホースの接続が不要な大気開放ニップルを駆動モータ側に設けることで、キャニスタを駆動モータに近づけて車両の大型化を抑えることができる。
【0055】
本実施例の蒸発燃料処理装置において、駆動モータは、駆動力を出力するモータ本体(45)と、モータ本体の車幅方向の一方側に連なるギアケース(46)と、を有し、モータ本体は吸気通路の下方に位置し、ギアケースの下端はモータ本体よりも下方に位置しており、後面視にてキャニスタの上部はモータ本体と重なり、大気開放ニップルがギアケースよりも下方に位置している。この構成によれば、大気開放ニップルをギアケースの下方に位置付けることで、キャニスタを駆動モータに近づけて車両の大型化を抑えることができる。
【0056】
本実施例の蒸発燃料処理装置において、キャニスタの上方で車幅方向の他方側にパージバルブ(71)が設けられており、パージホースがパージニップルからパージバルブを介して吸気通路に接続され、側面視にてパージホースが駆動モータに重なっている。この構成によれば、車幅方向の他方側にパージホースの配設ルートが確保され、パージホースと駆動モータが接触することがない。よって、キャニスタを駆動モータに近づけて車両の大型化を抑えることができる。また、パージホースの配設ルートが駆動モータに阻害されることがなく、パージニップルと吸気通路を短いパージホースで接続することができる。
【0057】
なお、本実施例を説明したが、他の実施例として、上記実施例及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
【0058】
また、本発明の技術は上記の実施例に限定されるものではなく、技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
【符号の説明】
【0059】
21 :燃料タンク
30 :エンジン
38 :エアクリーナ
41 :スロットルボディ
44 :駆動モータ
45 :モータ本体
46 :ギアケース
51 :キャニスタ
53 :大気開放ニップル
54 :ドレンニップル
55 :サージニップル
56 :パージニップル
61 :サージホース
62 :パージホース
71 :パージバルブ
89 :吸気通路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10