(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018789
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】患者衣
(51)【国際特許分類】
A41D 13/12 20060101AFI20230202BHJP
【FI】
A41D13/12 145
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021123059
(22)【出願日】2021-07-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】519438648
【氏名又は名称】株式会社ケアウィル
(74)【代理人】
【識別番号】100121430
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋田 義之
(72)【発明者】
【氏名】笈沼 清紀
【テーマコード(参考)】
3B011
【Fターム(参考)】
3B011AA01
3B011AA09
3B011AB08
3B011AC17
3B011AC21
3B011AC22
(57)【要約】
【課題】着用が容易で快適な着用感が得られるとともに障害がある腕を目立たたないように保持できる患者衣を提供する。
【解決手段】患者衣10は、前身頃を構成する前側部12と、後身頃を構成する後側部14と、着用者の前腕を保持するための腕保持部16と、を含み、腕保持部16は、後側部14の内側に固定された第1ベース部18及び第2ベース部20と、第1ベース部18及び第2ベース部20に着脱自在に取付けられて前腕を吊り下げて支持可能である第1ストラップ22及び第2ストラップ24と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前身頃を構成する前側部と、
後身頃を構成する後側部と、
着用者の前腕を保持するための腕保持部と、を含み、
前記腕保持部は、
前記後側部の内側に固定されたベース部と、
前記ベース部に着脱自在に取付けられて前腕を吊り下げて支持可能であるストラップと、を備える患者衣。
【請求項2】
請求項1において、
前記ベース部は帯状であり左右の一方側の肩部から他方側の下方に斜めに延在して前記後側部の内側に縫い付けられた患者衣。
【請求項3】
請求項2において、
前記ベース部として、左側の肩部から右側の下方に斜めに延在する第1ベース部と、右側の肩部から左側の下方に斜めに延在する第2ベース部と、を備え、これら第1ベース部と第2ベース部は相互に交差して前記後側部の内側に縫い付けられた患者衣。
【請求項4】
請求項2または3において、
前記ストラップは、面ファスナーにより前記ベース部と着脱自在であり、前記ベース部は上側の端部及び下側の端部を除いて前記後側部の内側に縫い付けられており、前記上側の端部及び前記下側の端部における着用者に対向する側と反対側の面に面ファスナー要素が設置された患者衣。
【請求項5】
請求項4において、
前記ストラップは、面ファスナーの帯状のループ面部と、前記ループ面部の端部に設置された面ファスナーのフック面部と、で構成された患者衣。
【請求項6】
請求項2~5のいずれかにおいて、
前記後側部の上部は着用者の肩部の上部を覆うように前側まで延在して前記前側部の上部と縫い合わされており、前記ベース部は前記後側部の上部と前記前側部の上部の境界まで前記後側部の内側に縫い付けられており、前記ベース部の上側の端部は前記境界よりも前側まで延在している患者衣。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかにおいて、
前記ストラップとして、前腕の肘側部及び手首部の一方を吊り下げて支持するための第1ストラップと、前記肘側部及び手首部の他方を吊り下げて支持するための第2ストラップと、を備える患者衣。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肩や肘等に障害がある患者のための患者衣に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、肩や肘等に障害がある患者の腕を保持するために三角巾が広く用いられている。また、帯材の両端に腕掛止輪を備え一方の腕掛止輪で前腕の手首部を掛止し他方の腕掛止輪で前腕の肘側部を掛止し、首に掛けて着用される腕固定用吊りバンドが知られている(特許文献1参照)。また、ベルト部材の一端に手首支持部を備え、他端に肘支持部を備え一方の肩に掛けて着用される腕吊り具が知られている(特許文献2参照)。また、両肩から前側の下方に延在するオス側の2本の面テープが前身頃に縫い付けられ、更にその下にメス側の面テープの一端が縫い付けられた衣服が知られている(特許文献3参照)。メス側の面テープを上方のオス側の面テープに係着することで前腕を吊り下げて支持するようになっている。なお、両側の袖にもメス側の面テープが縫い付けられており、袖のメス側の面テープをオス側の面テープに係着することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-113944号公報
【特許文献2】特開2003-010219号公報
【特許文献3】登録実用新案第3140238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、三角巾は、障害、傷病、介護度の度合により装着の際に他者による介助が必要となる場合がある。また、三角巾は血流の悪化や神経の緊張をもたらし肩回りの冷えなどを引き起こすことがある。また、三角巾で腕を吊ると腕の重量が首に作用するため首筋を痛めやすい。特に、腕の重量は首の後側の中心よりも、吊られる腕と反対側に偏った位置に作用しやすく、この位置の首筋を痛めやすい。また、三角巾の上から衣服を着用する場合、前身頃のボタン等を留めることができないことがある。このため、冷気が衣服の内側に入り身体が冷えてしまうことがある。さらに、三角巾は肘の高さと手首の高さを個別に調整することが困難である。また、三角巾や上記の腕固定用吊りバンド、腕吊り具、衣服はいずれも腕に障害があることが目立ちやすい。患者は、腕に障害があることが目立たないようにしたい場合がある。また、患者は、障害がある腕が露出しないようにしたい場合がある。また、従来の腕吊り具の中には構成が左右非対称で左腕用と右腕用を個別に用意しなければならないものがある。本発明は以上の問題点に鑑みてなされたものであって、着用が容易で快適な着用感が得られるとともに障害がある腕を目立たたないように保持できる患者衣を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前身頃を構成する前側部と、後身頃を構成する後側部と、着用者の前腕を保持するための腕保持部と、を含み、腕保持部は、後側部の内側に固定されたベース部と、ベース部に着脱自在に取付けられて前腕を吊り下げて支持可能であるストラップと、を備える患者衣により上記課題を解決したものである。
【0006】
この患者衣は、腕保持部のベース部が後側部の内側に固定されており、これに取付けられるストラップも患者衣の内側に収容されるので、ストラップやこれに保持される腕が目立ちにくい。また、ストラップに支持される腕が患者衣の内側に収容されるので肩などを保温できる。また、ストラップには腕の荷重が作用するが、ベース部が着用者の背中側において後側部の内側に固定されているので着用者の背中側にも荷重が分散され着用感の向上に寄与する。また、ベース部にストラップを予め装着した状態で患者衣を羽織ることにより一人で、かつ、片手でストラップを着用できる。また、患者衣を羽織ることで腕保持部のベース部が着用者の背中側の所定の位置に配置される。したがって、着用が容易である。さらに、ストラップがベース部から取外された状態で着用すれば一般的な衣類に近い着用感が得られる。また、一般的な衣類のように洗濯することも可能である。また、ベース部へのストラップの装着形態を選択することにより、左腕を吊り下げて支持することも右腕を吊り下げて支持することも可能である。
【0007】
ベース部は帯状であり左右の一方側の肩部から他方側の下方に斜めに延在して後側部の内側に縫い付けられているとよい。帯状のベース部が肩部から斜め下方に延在するように後側部の内側に縫い付けられることにより着用者の背中側に好適に荷重が分散され着用感がさらに向上する。
【0008】
ベース部として、左側の肩部から右側の下方に斜めに延在する第1ベース部と、右側の肩部から左側の下方に斜めに延在する第2ベース部と、を備え、これら第1ベース部と第2ベース部は相互に交差して後側部の内側に縫い付けられているとよい。左右対称の2つのベース部を備えることにより、左側の腕と右側の腕を同様の態様で吊り下げて支持することができる。
【0009】
ストラップは、面ファスナーによりベース部と着脱自在であり、ベース部は上側の端部及び下側の端部を除いて後側部の内側に縫い付けられており、上側の端部及び下側の端部における着用者に対向する側と反対側の面に面ファスナー要素が設置されているとよい。面ファスナーであればストラップを片手で容易にベース部に係着させたりベース部から取外すことができる。また、ベース部の端部における着用者に対向する側と反対側の面に面ファスナー要素が設置されていれば、面ファスナー要素にストラップが係着されていない状態でも面ファスナー要素は摩耗や埃等の付着から保護される。したがって、面ファスナー要素の寿命の向上に寄与する。
【0010】
ストラップは、帯状の面ファスナーのループ面部と、ループ面部の端部に設置された面ファスナーのフック面部と、で構成されているとよい。例えば、第1ストラップの一端をベース部の上端に係着し肩部から胸部の前側の下方に延在させ、前腕の下から上に折り返して端部のフック面部を第1ストラップのループ面部に係着することにより前腕の肘側部及び手首部の一方を簡単に支持できる。また、第2ストラップをベース部の下端に係着し脇腹の側面を介して胸部の前側において斜め上方に延在させ端部のフック面部を第1ストラップに係着することにより肘側部及び手首部の他方も容易に支持できる。また、フック面部の係着位置を調節することで前腕を吊り下げる高さや姿勢を容易に調節することができる。
【0011】
後側部の上部は着用者の肩部の上部を覆うように前側まで延在して前側部の上部と縫い合わされており、ベース部は後側部の上部と前側部の上部の境界まで後側部の内側に縫い付けられており、ベース部の上側の端部は境界よりも前側まで延在しているとよい。このように後側部の上部が着用者の肩部の上部を覆うように前側まで延在し、さらに後側部の上部と前側部の上部の境界よりも前側までベース部の上側の端部が延在していればベース部の上側の端部とストラップとの着脱が容易である。
【0012】
ストラップとして、前腕の肘側部及び手首部の一方を吊り下げて支持するための第1ストラップと、肘側部及び手首部の他方を吊り下げて支持するための第2ストラップと、を備えるとよい。2つのストラップを備えることで様々な態様で前腕の肘側部及び手首部を吊り下げて支持することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、着用が容易で快適な着用感が得られるとともに障害がある腕を目立たたないように保持できる患者衣を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図8】同患者衣のストラップの使用態様の他の例を示す斜視図
【
図9】同患者衣のストラップの使用態様の他の例を示す斜視図
【
図10】同患者衣のストラップの使用態様の他の例を示す斜視図
【
図11】本発明の第2実施形態の患者衣の構成を示す斜視図
【
図12】本発明の第3実施形態の患者衣の構成を示す斜視図
【
図13】本発明の第4実施形態の患者衣の構成を示す斜視図
【
図14】同患者衣のストラップの使用態様の他の例を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1~6に示されるように、本発明の第1実施形態の患者衣10はフレンチスリーブのシャツのような外観形状で前中心が開閉する衣服である。患者衣10は、前身頃を構成する前側部12と、後身頃を構成する後側部14と、着用者の前腕を保持するための腕保持部16と、を含み、腕保持部16は、後側部14の内側に固定された第1ベース部18及び第2ベース部20と、第1ベース部18及び第2ベース部20に着脱自在に取付けられて前腕を吊り下げて支持可能である第1ストラップ22及び第2ストラップ24と、を備える。第1ベース部18は左側の肩部から右側の下方に斜めに延在している。第2ベース部20は右側の肩部から左側の下方に斜めに延在している。これら第1ベース部18と第2ベース部20は相互に交差して後側部14の内側に縫い付けられている。第1ストラップ22は、前腕の肘側部及び手首部の一方を吊り下げて支持するためのものである。第2ストラップ24は、肘側部及び手首部の他方を吊り下げて支持するためのものである。例えば、
図7に示されるように第1ストラップ22は、第2ベース部20(または第1ベース部18)の上側の端部に着脱自在に取付けられて着用者の前側において肩部から下方に延在し前腕の肘側部を吊り下げて支持可能である。第2ストラップ24は、第2ベース部20(または第1ベース部18)の下側の端部に着脱自在に取付けられるとともに着用者の前側において斜め上方に延在し第1ストラップ22にも着脱自在に取付けられて手首部を吊り下げて支持可能である。
【0016】
第1ストラップ22及び第2ストラップ24は、面ファスナーにより第1ベース部18及び第2ベース部20と着脱自在である。より詳細には、第1ストラップ22は、帯状の面ファスナーのループ面部22Aと、ループ面部22Aの端部に設置された面ファスナーのフック面部22Bとで構成されている。第2ストラップ24も、帯状の面ファスナーのループ面部24Aと、ループ面部24Aの端部に設置された面ファスナーのフック面部24Bとで構成されている。第1ストラップ22と第2ストラップ24は同じ構成である。第1ストラップ22及び第2ストラップ24のそれぞれの一方の端部には、フック面部22B、24Bが両面に設置されている。また、第1ストラップ22及び第2ストラップ24のそれぞれの他方の端部には、フック面部22B、24Bが片面だけに設置されている。第1ストラップ22及び第2ストラップ24は伸縮性を有していることが好ましい。ループ面部22A及び24Aを構成する生地の材質は例えば、ポリエステル及び/またはナイロンとポリウレタンの混合素材等である。第1ストラップ22及び第2ストラップ24の具体的な素材としては例えば株式会社クラレ製、マジックテープ(登録商標)、マジロック(登録商標)縫製用等を用いることができる。なお、第1ストラップ22及び第2ストラップ24の周縁部はパイピング処理しておくとよい。パイピング素材は例えばポリエステルとポリウレタンの混合素材のスムース生地等である。
【0017】
第1ベース部18と第2ベース部20は上側の端部及び下側の端部を除いて後側部14の内側に縫い付けられており、上側の端部及び下側の端部における着用者に対向する側と反対側の面に面ファスナー要素18A、20Aが設置されている。面ファスナー要素18A、20Aは、面ファスナーのループ面部である。なお、第1ベース部18と第2ベース部20の色は例えば黒、面ファスナー要素18A、20Aを縫い付ける糸の色は例えば白であり、上側の端部及び下側の端部における着用者に対向する側から白いステッチを視認することができる。これにより面ファスナー要素18A、20Aの位置を確認しやすくなっている。第1ベース部18と第2ベース部20は同じ構成である。第1ベース部18と第2ベース部20の上側の端部には面ファスナー要素18A、20Aが1つだけ設置されている。一方、第1ベース部18と第2ベース部20の下側の端部にはそれぞれ面ファスナー要素18A、20Aが長手方向に沿って2つ並んで設置されている。第1ベース部18及び第2ベース部20は伸縮性を有するとともにパッドのような風合いを有していることが好ましい。第1ベース部18及び第2ベース部20を構成する生地の材質は例えば、ポリエステルとポリウレタンの混合素材のダンボールニット等である。面ファスナー要素18A、20Aの具体的な素材としては上記の第1ストラップ22及び第2ストラップ24と同様に株式会社クラレ製、マジックテープ(登録商標)、マジロック(登録商標)縫製用のループ面部等を用いることができる。
【0018】
前側部12は、前中心が面ファスナーのループ面部26A及びフック面部26Bにより開閉するようになっている。ループ面部26Aは、前側部12における前中心の右側の内側に設置されている。一方、フック面部26Bは、前側部12における前中心の左側の外側に設置されている。また、前側部12におけるフック面部26Aよりもさらに左側の内側にはフック面部26Aよりも上下方向に長いループ面部30が設置されている。また、患者衣10の内側にはポケット32が備えられている。前側部12と後側部14は左右の側端部で部分的に縫い合わされており、縫い合わされていない部分が上部のアームホール、ポケット32の開口、及び下部のスリットを構成している。なお、スリットは側端部の下端まで続いている。ポケット32は袋状であり開口部分だけが前側部12及び後側部14に縫い合わされている。後側部14の上部は着用者の肩部の上部を覆うように前側まで延在して前側部12の上部と縫い合わされ上端よりも前側に縫い合わせ部の境界線が表れている。第1ベース部18及び第2ベース部20は後側部14の上部と前側部12の上部の境界まで後側部14の内側に縫い付けられており、第1ベース部18及び第2ベース部20の上側の端部は境界よりも前側まで延在している。また、前側部12と後側部14の首回り部には衿部34が縫い付けられている。前側部12、後側部14及び衿部34を構成する生地の材質は例えば、綿、ポリエステル、ポリウレタン、あるいはこれらの混合素材等である。前側部12、後側部14及び衿部34の具体的な素材としては例えば瀧定名古屋株式会社製、Balgman(登録商標)、Puカバーリングストレッチツイル等を用いることができる。
【0019】
次に、患者衣10の着用態様について説明する。着用者はまず第1ベース部18または第2ベース部20に第1ストラップ22及び第2ストラップ24を係着する。
図7は、右腕を保持する場合の例を示す。この場合、第2ベース部20に第1ストラップ22及び第2ストラップ24を係着する。より詳細には、第2ベース部20の上側の端部の面ファスナー要素20Aに第1ストラップ22のフック面部22Bを係着する。また、第2ベース部20の下側の端部の面ファスナー要素20Aに第2ストラップ24のフック面部24Bを係着する。第2ベース部20の上側の端部及び下側の端部における着用者に対向する側から白いステッチを視認することにより面ファスナー要素20Aの位置を容易に確認することができる。この際、第1ストラップ22及び第2ストラップ24におけるフック面部22B、24Bが片面だけに設置されている側の端部を第2ベース部20に係着する。また、第2ベース部20の下側の端部において並んで設置された2つの面ファスナー要素20Aのうちの一方を着用者の体格等に応じて適宜選択して第2ストラップ24を係着する。また、第2ストラップ24におけるフック面部24Bが両面に設置されている側の端部を、前側部12の前中心の左側の内側に設置されたループ面部30に係着する。
【0020】
次に、着用者は患者衣10を羽織る。この際、右腕はアームホールに通さず、左腕のみをアームホールに通す。そして第2ベース部20の上側の端部に係着された第1ストラップ22を胸部の前で肩部から下方に延在させ、その前側に右腕の前腕の肘側部を配置する。さらに左手で第1ストラップ22を肘側部の下側から上方に折り返し、第1ストラップ22の端部のフック面部22Bを第1ストラップ22のループ面部22Aに係着する。次に、前側部12の前中心の左側の内側に設置されたループ面部30に係着された第2ストラップ24の端部を左手で掴み右腕の前腕の手首の下側から右側の斜め上方に折り返し、第2ストラップ24の端部のフック面部24Bを第1ストラップ22のループ面部22Aに係着する。これにより右腕の保持が完了する。そして左手で前側部12の前中心のフック面部26A及びループ面部26Bを係着させて前側部12の前中心を閉める。これにより患者衣10の着用が完了する。なお、左腕を保持する場合は、以上の作業と左右勝手違いの作業を行えばよい。
【0021】
次に、患者衣10の機能について説明する。腕保持部16の第1ベース部18及び第2ベース部20が後側部14の内側に固定されており、これらに取付けられる第1ストラップ22及び第2ストラップ24も患者衣10の内側に収容されるので、第1ストラップ22、第2ストラップ24やこれに保持される腕が目立ちにくい。さらに前側部12の前中心のフック面部26A及びループ面部26Bを係着させて前側部12の前中心を閉めれば第1ストラップ22、第2ストラップ24やこれに保持される腕を露出させずに着用できる。また、第1ストラップ22及び第2ストラップ24には腕の荷重が作用するが、第1ベース部18及び第2ベース部20が着用者の背中側において後側部14の内側に固定されているので着用者の背中側にも荷重が分散され着用感の向上に寄与する。特に、第1ベース部18及び第2ベース部20は肩部から斜め下方に延在するように後側部14の内側に固定されているので着用者の背中側に好適に荷重が分散され着用感がさらに向上する。三角巾を着用した場合に生じるような首筋の痛みが防止または抑制される。また、着用者の胸部の前側においても、第2ストラップ24が斜め上方に延在して第1ストラップ22に係着されるので前腕をバランスよく吊り下げて支持することができる。
【0022】
また、第1ベース部18または第2ベース部20に第1ストラップ22及び第2ストラップ24を予め装着した状態で患者衣10を羽織ることにより一人で、かつ、片手で第1ストラップ22及び第2ストラップ24を着用できる。さらに、患者衣10を羽織ることで第1ベース部18及び第2ベース部20が着用者の背中側の所定の位置に配置される。また、片手で前側部12の前中心のフック面部26A及びループ面部26Bを係着させて前側部12の前中心を閉めることができる。したがって、着用が容易である。また、第2ストラップ24の一方の端部は背中側の第2ベース部20の下側の端部に係着されるが、他方の端部は予め前側部12の前中心の左側のループ面部30に係着しておくので、この他方の端部を背中側から前側に引き出す必要がなく、この点でも着用が容易である。また、第1ストラップ22及び第2ストラップ24に支持される腕は患者衣10の内側に収容されるので肩などを保温できる。さらに、前側部12の前中心のフック面部26A及びループ面部26Bを係着させて前側部12の前中心を閉めることにより、防寒、防風の効果が得られる。また、第1ストラップ22及び第2ストラップ24が第1ベース部18及び第2ベース部20から取り外された状態で着用すれば一般的な衣類に近い着用感が得られる。また、一般的な衣類のように洗濯することも可能である。また、2つのベース部(第1ベース部18及び第2ベース部20)を備えているので、左側の腕と右側の腕を同様の態様で吊り下げて支持することができる。さらに、第1ストラップ22及び第2ストラップ24は第1ベース部18にも第2ベース部20にも着脱自在であり(左腕を保持する場合にも右腕を保持する場合にも)兼用できるのでコスト低減に寄与する。また、第1ストラップ22及び第2ストラップ24は第1ベース部18及び第2ベース部20と面ファスナーにより着脱自在であるので、第1ストラップ22及び第2ストラップ24を片手(障害がない方の手)で容易に第1ベース部18、第2ベース部20に係着させることができる。また、第1ストラップ22及び第2ストラップ24を片手で容易に第1ベース部18、第2ベース部20から取外すこともできる。また、第1ストラップ22及び第2ストラップ24は、帯状の面ファスナーのループ面部22A、24Aと、ループ面部22A、24Aの端部に設置されたフック面部22B、24Bと、で構成されているので、第1ストラップ22を下から上に折り返し端部のフック面部22Bをループ面部22Aに係着することにより前腕の肘側部を簡単に支持できる。また、前腕の手首部を支持する第2ストラップ24を第1ストラップ22に係着することも容易である。また、フック面部22B、24Bを係着する位置を調節することで前腕を吊り下げる高さや姿勢を容易に調節することができる。例えば、肘の高さと手首の高さを個別に調整することができる。また、第2ベース部20の下側の端部において並んで設置された2つの面ファスナー要素20Aのうちの一方(あるいは、第1ベース部18の下側の端部において並んで設置された2つの面ファスナー要素18Aのうちの一方)を適宜選択することで前腕を吊り下げる高さや姿勢を調節することもできる。また、第1ベース部18、第2ベース部20の端部における着用者に対向する側と反対側の面に面ファスナー要素18A、20Aが設置されているので、面ファスナー要素18A、20Aに第1ストラップ22、第2ストラップ24が係着されていない状態でも面ファスナー要素18A、20Aは摩耗や埃等の付着から保護される。したがって、面ファスナー要素18A、20Aの寿命の向上に寄与する。また、後側部14の上部が着用者の肩部の上部を覆うように前側まで延在し、さらに後側部14の上部と前側部12の上部の境界よりも前側まで第1ベース部18、第2ベース部20の上側の端部が延在しているので第1ベース部18、第2ベース部20の上側の端部と第1ストラップ22との着脱が容易である。
【0023】
次に、
図8に示される、第1ストラップ22及び第2ストラップ24の使用態様の他の例について説明する。
図7に示される例では、第1ストラップ22が右腕の前腕の肘側部を支持し、第2ストラップ24が手首部を支持する。一方、
図8に示される例では、第1ストラップ22が左腕の前腕の手首部を支持し、第2ストラップ24が肘側部を支持する。なお、右腕を保持する場合は、第1ベース部18に第1ストラップ22及び第2ストラップ24を係着すればよい。
【0024】
次に、
図9に示される、第1ストラップ22及び第2ストラップ24の使用態様の他の例について説明する。
図7に示される例では、第2ストラップ24は第2ベース部20の下側の端部に係着されるとともに着用者の前側において斜め上方に延在して第1ストラップ22にも係着されて右腕の前腕の手首部を支持する。一方、
図9に示される例では、第2ストラップ24は着用者の前側において右腕の前腕の手首部の下側から上方に折り返され端部のフック面部24Bが第2ストラップ24のループ面部24Aに係着されて右腕の前腕の手首部を支持する。なお、この使用態様で左腕を保持する場合は、第1ベース部18に第1ストラップ22及び第2ストラップ24を係着すればよい。
【0025】
次に、
図10に示される、第1ストラップ22及び第2ストラップ24の使用態様の他の例について説明する。
図7に示される例では、第2ストラップ24は第2ベース部20の下側の端部に係着されるとともに着用者の前側において斜め上方に延在して第1ストラップ22にも係着されて右腕の前腕の手首部を支持する。一方、
図10に示される例では、第2ストラップ24は第1ベース部18の上側の端部に係着されて着用者の前側において肩部から下方に延在し右腕の前腕の手首部を吊り下げて支持する。より詳細には、第2ストラップ24は第1ストラップ22と同様に手首部の下側から上方に折り返されて、端部のフック面部24Bが第2ストラップ24のループ面部24Aに係着される。なお、
図10では右腕を保持する例が示されているが同じ第1ストラップ22及び第2ストラップ24の使用態様で左腕を保持することも可能である。
【0026】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図11に示されるように、第2実施形態の患者衣50は第1実施形態に対し第1ベース部18及び第2ベース部20の下側の端部が省略(短縮)された構成の第1ベース部52及び第2ベース部54を備えている。第1ベース部52及び第2ベース部54はV字形状をなして後側部14の内側に縫い付けられている。そして
図10に示される例と同様に、第2ストラップ24は第1ベース部52の上側の端部に係着されて着用者の前側において肩部から下方に延在し右腕の前腕の手首部を吊り下げて支持する。他の構成は第1実施形態と同じであるので同じ構成については
図1~7、及び10と同一符号を付することとして説明を省略する。
【0027】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
図12に示されるように、第3実施形態の患者衣60は第2実施形態に対し第1ベース部52及び第2ベース部54の下側の端部がさらに短縮された構成の第1ベース部62及び第2ベース部64を備えている。第1ベース部62及び第2ベース部64は下端が離間している。他の構成は第1及び第2実施形態と同じであるので同じ構成については
図1~7、及び10~11と同一符号を付することとして説明を省略する。
【0028】
次に、本発明の第4実施形態について説明する。
図13に示されるように、第4実施形態は第1実施形態に対し2つのベース部(第1ベース部18、第2ベース部20)のうちの1つを省略したものである。具体的には、第4実施形態の患者衣70は第2ベース部20のみを備え第1ベース部18を備えていない。他の構成は第1実施形態と同じであるので同じ構成については
図1~7と同一符号を付することとして説明を省略する。第4実施形態の患者衣70も、第1実施形態の患者衣10と同様に右腕を保持することができる。また、
図14に示されるように左腕を保持することも可能である。また、第1ベース部18のみを備え第2ベース部20を備えていない構成の患者衣として、
図13及び14と左右勝手違いの第1ストラップ22及び第2ストラップ24の使用態様で左腕または右腕を保持するようにしてもよい。
【0029】
なお、第1~第4実施形態において、第1ベース部18、52、62、第2ベース部20、54、64は帯状で左右の一方側の肩部から他方側の下方に斜めに延在しているが、ベース部は背中側において他の方向に延在していてもよい。例えば、第3実施形態の第1ベース部62及び第2ベース部64に代えて、帯状で背中側において上下方向に平行に延在する2つのベース部を備えていてもよい。また、帯状で背中側において左右方向に延在し両端部に面ファスナー要素を備える構成の1つのベース部を備えていてもよい。また、ベース部の形状は帯状以外の形状でもよい。例えば、第1実施形態の第1ベース部18及び第2ベース部20に代えて、正方形または帯よりも幅が広い長方形で4つの角部に面ファスナー要素が設置された構成のベース部を備えていてもよい。また、第1実施形態の第1ベース部18及び第2ベース部20に代えて、逆三角形で3つの角部に面ファスナー要素が設置された構成のベース部を備えていてもよい。また、第2実施形態の第1ベース部52及び第2ベース部54に代えて、正方形、長方形または逆三角形で上側の2つの角部に面ファスナー要素が設置された構成のベース部を備えていてもよい。
【0030】
また、第1~第4実施形態において、第1ストラップ22と第2ストラップ24は、面ファスナーにより第1ベース部18、52、62、第2ベース部20、54、64と着脱自在であるが、ストラップは例えば点ファスナー等の他の手段でベース部と着脱自在であってもよい。また、第1~第4実施形態において、第1ストラップ22と第2ストラップ24が備えられているが、ストラップが1つだけ備えられていて、前腕の肘側部または手首部の一方だけを吊り下げて支持するようにしてもよい。
【0031】
また、上記第1~第4実施形態において、患者衣10、50、60、70の前中心は面ファスナーのループ面部26A及びフック面部26Bにより開閉するようになっているが、線ファスナー、点ファスナー、ボタン等により前中心が開閉するようになっていてもよい。また、上記第1~第4実施形態において、患者衣10、50、60、70はポケット32を備えているが、ポケットを備えていない構成としてもよい。また、上記第1~第4実施形態において、患者衣10、50、60、70の側端部の下端にはスリットが形成されているが、スリットが形成されていない構成としてもよい。また、上記第1~第4実施形態において、患者衣10、50、60、70はフレンチスリーブのような外観形状であるが、袖が前側部及び後側部に縫い付けられた構成としてもよい。また、ノースリーブのような外観形状であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、肩や肘等に障害がある患者のための患者衣に利用できる。
【符号の説明】
【0033】
10、50、60、70 患者衣
12 前側部
14 後側部
16 腕保持部
18、52、62 第1ベース部
18A、20A 面ファスナー要素
20、54、64 第2ベース部
22 第1ストラップ
22A、24A、26A、30 ループ面部
22B、24B、26B フック面部
24 第2ストラップ
32 ポケット
34 衿部
【手続補正書】
【提出日】2022-07-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前身頃を構成する前側部と、
後身頃を構成する後側部と、
着用者の前腕を保持するための腕保持部と、を含み、
前記腕保持部は、
前記後側部の内側に固定されたベース部と、
前記ベース部に着脱自在に取付けられて前腕を吊り下げて支持可能であるストラップと、を備え、
前記ベース部は帯状であり左右の一方側の肩部から他方側の下方に斜めに延在して前記後側部の内側に縫い付けられ、
前記ベース部として、左側の肩部から右側の下方に斜めに延在する第1ベース部と、右側の肩部から左側の下方に斜めに延在する第2ベース部と、を備え、これら第1ベース部と第2ベース部は相互に交差して前記後側部の内側に縫い付けられた患者衣。
【請求項2】
前身頃を構成する前側部と、
後身頃を構成する後側部と、
着用者の前腕を保持するための腕保持部と、を含み、
前記腕保持部は、
前記後側部の内側に固定されたベース部と、
前記ベース部に着脱自在に取付けられて前腕を吊り下げて支持可能であるストラップと、を備え、
前記ベース部は帯状であり左右の一方側の肩部から他方側の下方に斜めに延在して前記後側部の内側に縫い付けられ、
前記ストラップは、面ファスナーにより前記ベース部と着脱自在であり、前記ベース部は上側の端部及び下側の端部を除いて前記後側部の内側に縫い付けられており、前記上側の端部及び前記下側の端部における着用者に対向する側と反対側の面に面ファスナー要素が設置された患者衣。
【請求項3】
請求項2において、
前記ストラップは、面ファスナーの帯状のループ面部と、前記ループ面部の端部に設置された面ファスナーのフック面部と、で構成された患者衣。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかにおいて、
前記後側部の上部は着用者の肩部の上部を覆うように前側まで延在して前記前側部の上部と縫い合わされており、前記ベース部は前記後側部の上部と前記前側部の上部の境界まで前記後側部の内側に縫い付けられており、前記ベース部の上側の端部は前記境界よりも前側まで延在している患者衣。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかにおいて、
前記ストラップとして、前腕の肘側部及び手首部の一方を吊り下げて支持するための第1ストラップと、前記肘側部及び手首部の他方を吊り下げて支持するための第2ストラップと、を備える患者衣。