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特開2023-19804衝突回避支援制御を行う制御装置、衝突回避の支援の方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019804
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】衝突回避支援制御を行う制御装置、衝突回避の支援の方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/09 20120101AFI20230202BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
B60W30/09
G08G1/16 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021124787
(22)【出願日】2021-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 みなみ
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 太良
【テーマコード(参考)】
3D241
5H181
【Fターム(参考)】
3D241BA33
3D241BC01
3D241BC02
3D241CC01
3D241CC08
3D241CC17
3D241CD12
3D241CE02
3D241CE03
3D241CE04
3D241CE05
3D241DB02Z
3D241DB05Z
3D241DB12Z
3D241DB32Z
3D241DC01Z
3D241DC33Z
3D241DC37Z
5H181AA01
5H181AA05
5H181AA21
5H181BB04
5H181CC03
5H181CC04
5H181CC12
5H181CC14
5H181FF04
5H181FF05
5H181LL04
5H181LL09
(57)【要約】
【課題】車両と物体との衝突回避を支援する衝突回避支援制御を行う制御装置であって、物体の移動速度が予測される速度よりも大きくあるいは小さく、衝突回避の支援を要しない場合に、衝突回避支援制御が作動することを抑制することが可能な制御装置を提案する。
【解決手段】この制御装置は、以下の処理を実行する。車両の前方に特定の領域を示す支援判定領域を設定する領域設定処理。支援判定領域内の物体に対して、物体の位置に応じて定まる判定値を与えて積算する積算処理。積算処理により算出された積算値が所定の閾値を超える場合に、物体に対する衝突回避支援制御を行う処理。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転環境を示す運転環境情報に基づいて、前記車両と物体との衝突回避を支援する衝突回避支援制御を行う制御装置であって、
前記車両の前方に特定の領域を示す支援判定領域を設定する領域設定処理と、
前記支援判定領域内に位置する前記物体に対して、前記物体の位置に応じて定まる判定値を与えて積算する積算処理と、
前記積算処理により算出された前記物体に対する積算値が所定の閾値を超える場合に、前記物体に対する前記衝突回避支援制御を行う処理と、
を実行することを特徴とする制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御装置であって、
前記領域設定処理において、
前記車両の進行方向と垂直な方向の前記物体の速度の想定値である想定横速度を複数設定する処理と、
設定した前記想定横速度それぞれに対して、前記物体が所定値以下の衝突余裕時間を持って前記車両の通過領域に位置することとなる注意領域を設定する処理と、
を実行し、
前記支援判定領域は、
それぞれの前記注意領域の合併の領域であり、
前記積算処理において、
前記判定値は、それぞれの前記注意領域の境界線で区切られる領域毎に定められる値である
ことを特徴とする制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の制御装置であって、
前記物体の種別の情報を取得し、
前記領域設定処理において、
前記物体の前記種別に基づいて前記想定横速度を設定する
ことを特徴とする制御装置。
【請求項4】
車両と物体との衝突回避の支援の方法であって、
前記車両の前方に特定の領域を示す支援判定領域を設定する領域設定処理と、
前記支援判定領域内に位置する前記物体に対して、前記物体の位置に応じて定まる判定値を与えて積算する積算処理と、
前記積算処理おいて算出された前記物体に対する積算値が所定の閾値を超える場合に、前記物体に対する衝突回避の支援を行う処理と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、
前記領域設定処理は、
前記車両の進行方向と垂直な方向の前記物体の速度の想定値である想定横速度を複数設定する処理と、
設定した前記想定横速度それぞれに対して、前記物体が所定値以下の衝突余裕時間を持って前記車両の通過領域に位置することとなる注意領域を設定する処理と、
を含み、
前記支援判定領域は、
それぞれの前記注意領域の合併の領域であり、
前記判定値は、
それぞれの前記注意領域の境界線で区切られる領域毎に定められる値である
ことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、
前記領域設定処理において、
前記物体の種別に基づいて前記想定横速度を設定する
ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両と物体との衝突回避を支援する衝突回避支援制御を行う車両の制御装置、及び衝突回避の支援の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、物体が車道又は歩道のどこに位置しているのかを考慮して、車両と物体との衝突回避を支援する走行支援装置が開示されている。
【0003】
この走行支援装置は、車両の周囲に設定する領域内に、物体が所定時間以内で進入すると予測される場合に、支援を開始する。またこの走行支援装置は、物体が第1車道領域(自車両が走行する車線上の領域)、第2車道領域(第1車道領域以外の車線上の領域)、歩道領域のいずれの領域に位置しているのかを判定する。そして、物体が第1車道領域にある場合は、第2車両同領域にある場合よりも支援を開始しやすくなるように構成されている。また物体が第2車道領域にある場合は、歩道領域にある場合よりも支援を開始しやすくなるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-012360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
物体がある領域内に所定時間以内で進入するか否かを予測するためには、物体の移動速度を予測し与える必要がある。この場合の物体の移動速度は、センサによる測定値から予測する、制御装置にあらかじめ設定する(例えば、物体が歩行者の場合に、標準的な歩行速度である5kphとする。)等により与えられる。
【0006】
しかしながら、物体は個々の状態や環境により移動速度が異なり、物体の移動速度を正確に予測し与えることは困難である。
【0007】
このため、物体がある範囲内に進入することを条件として衝突回避を支援する制御(衝突回避支援制御)を実行すると、衝突回避の支援を要しない場合に衝突回避支援制御を実行してしまう虞がある。延いては、車両の乗客乗員に煩わしさを与えてしまう。
【0008】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたもので、衝突回避支援制御の不要作動を抑制することが可能な車両の制御装置、及び衝突回避の支援の方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様に係る制御装置は、車両の運転環境を示す運転環境情報に基づいて、車両と物体との衝突回避を支援する衝突回避支援制御を行う。この制御装置は、車両の前方に特定の領域を示す支援判定領域を設定する領域設定処理と、支援判定領域内に位置する物体に対して、物体の位置に応じて定まる判定値を与えて積算する積算処理と、積算処理により算出された積算値が所定の閾値を超える場合に、物体に対する衝突回避支援制御を行う処理と、を実行する。
【0010】
この制御装置は、領域設定処理において、車両の進行方向と垂直な方向の物体の速度の想定値である想定横速度を複数設定する処理と、設定した想定横速度それぞれに対して、物体が所定値以下の衝突余裕時間を持って車両の通過領域に位置することとなる注意領域を設定する処理と、を実行しても良い。このとき、支援判定領域は、それぞれの注意領域の合併で与えられる。また積算処理において、判定値は、それぞれの注意領域の境界線で区切られる領域毎に定められる値である。
【0011】
さらにこの制御装置は、領域設定処理において、物体の種別に基づいて想定横速度を設定しても良い。
【0012】
本開示の一態様に係る方法は、車両と物体との衝突回避の支援の方法であって、車両の前方に特定の領域を示す支援判定領域を設定する領域設定処理と、支援判定領域内に位置する物体に対して、物体の位置に応じて定まる判定値を与えて積算する積算処理と、積算処理において算出された物体に対する積算値が所定の閾値を超える場合に、物体に対する衝突回避の支援を行う処理と、を含む。
【0013】
この方法において、領域設定処理は、車両の進行方向と垂直な方向の物体の速度の想定値である想定横速度を複数設定する処理と、設定した想定横速度それぞれに対して、物体が所定値以下の衝突余裕時間を持って車両の通過領域に位置することとなる注意領域を設定する処理と、を含んでいても良い。このとき、支援判定領域は、それぞれの注意領域の合併で与えられる。また積算処理において、判定値は、それぞれの注意領域の境界線で区切られる領域毎に定められる値である。
【発明の効果】
【0014】
本開示に係る制御装置、及び方法によれば、支援判定領域内に位置する物体を衝突回避の支援の対象として、物体の位置に応じて判定値を与えて積算し、積算値が所定の閾値を超える場合にその物体に対する衝突回避の支援が行われる。これにより、物体の移動速度が予測される速度よりも大きくあるいは小さく、衝突回避の支援を要しない場合に、衝突回避支援制御が作動することを抑制することができる。延いては、車両1の乗客乗員の煩わしさを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】衝突回避支援制御について説明するための概念図である。
図2】衝突回避の対象とする物体の縦速度及び横速度に基づいて設定する注意領域の例を示す概念図である。
図3】衝突回避の対象とする物体の縦速度及び横速度に応じて変化する注意領域について説明するための概念図である。
図4】注意領域を設定する際に与える物体の速度と実際の物体の速度との差異に伴う衝突回避支援制御の不要作動について説明するための概念図である。
図5】本実施の形態に係る制御装置が設定する支援判定領域の例を示す概念図である。
図6】本実施の形態に係る制御装置を備える車両の車両システムの構成を示すブロック図である。
図7】衝突回避支援制御プログラムに従ってプロセッサが実行する処理を示すフローチャートである。
図8図7のフローチャートに示す領域設定処理において、設定する支援判定領域の例を示す概念図である。
図9図7のフローチャートに示す物体の位置判定について説明するための概念図である。
図10図7のフローチャートに示す積算処理において、支援判定領域内の物体の位置に応じて与える判定値の例を示す概念図である。
図11】本実施の形態に係る制御装置の効果を説明するための概念図である。
図12図11で示す移動経路それぞれにおける積算値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、以下に示す実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲などの数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数が特定される場合を除いて、その言及した数に、この発明が限定されるものではない。また、以下に示す実施の形態において説明する構造などは、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この発明に必ずしも必須のものではない。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0017】
1.概要
本実施の形態に係る制御装置は、車両と物体との衝突回避を支援する衝突回避支援制御を行う。衝突回避の対象となる物体は、歩行者、自転車、駐車車両、障害物等が例示される。本実施の形態に係る制御装置は、典型的には、車両に搭載されるECU(Electronic Control Unit)である。ただし、制御装置は、車両の外部の装置であって、遠隔で車両の制御を行っても良い。また本実施の形態に係る制御装置が搭載される車両の形態は特に限定されない。
【0018】
図1は、衝突回避支援制御について説明するための概念図である。図1は、車両1が車道を走行しており、車道上の静止物体STを対象として衝突回避支援制御を行う場合を示している。衝突回避支援制御は、車両1に搭載される制御装置100により行われる。
【0019】
衝突回避支援制御は、車両1の現在の走行状態(速度、進行方向等)が維持されると、物体との衝突回避が容易ではなくなると制御装置100が判断する場合に行われる。衝突回避支援制御は、典型的には、車両1の制動、又は操舵を制御することで、衝突回避の支援を行う。図1の(a)は、制動制御による衝突回避の支援を行う場合を示しており、図1の(b)は、操舵制御による衝突回避の支援を行う場合を示している。
【0020】
図1の(a)に示すように、制動制御により車両1が減速することで、余裕をもって衝突回避を行うことができるようになる。また図1の(b)に示すように、操舵制御により車両1の操舵を行うことによっても、衝突回避を容易にすることができる。
【0021】
衝突回避支援制御を行うか否かの判断においては、従来、物体との衝突余裕時間(TTC;Time To Collision)が用いられている。TTCは、車両1の進行方向における車両1と物体の現在の相対速度(以下、単に「相対速度」とも称する。)が維持された場合に車両1と物体とが衝突するまでの時間を示すものである。よって、TTCが所定値以下となる場合に、衝突回避が容易ではなくなると判断することができる。
【0022】
また、衝突回避支援制御を行うか否かの判断においては、車両1の進行方向と垂直な方向(以下、「垂直方向」とも称する。)の物体の位置(以下、「横位置」とも称する。)及び速度(以下、「横速度」とも称する。)についても考慮すべきである。これは、物体の横位置及び横速度によっては、所定値以下のTTCを持って車両1の通過領域に物体が位置することがなく、衝突回避の支援を要しない場合が考えられるからである。例えば、物体の横位置が車両1から十分離れており、かつ進行方向に移動あるいは車両1から離れる方向に移動している場合や、物体の横速度が十分大きくTTCが所定値以下となることなく車両1の通過領域を外れる場合等である。
【0023】
このため、従来、物体の進行方向の速度(以下、「縦速度」とも称する。)及び横速度に基づいて、車両1の前方に特定の領域を示す注意領域を設定し、物体がこの注意領域に位置していることを条件として、衝突回避支援制御を行うことが考えられている。
【0024】
図2は、物体CTの縦速度及び横速度に基づいて設定する注意領域の例を示す概念図である。図2は、車両1が速度Vで走行しており、物体CTに対する衝突回避支援制御を行うか否かの判断をする場合を示している。ここで、物体CTは車両1から見て左側に位置しており、車両1に近づく方向に縦速度TVd、車両1からみて右側の方向に横速度TVpで移動している。
【0025】
図2において、TTC≦t1、及びTTC≦t2で示す距離はそれぞれ、相対速度V-TVdで時間t1、及びt2の間に進む距離である。また、注意領域の境界線である第1境界線及び第2境界線の傾きの大きさは、互いに同一あり、相対速度V-TVdと、物体CTの横速度TVpとの比(車両1から見て物体CTが近づく方向)で表される。
【0026】
つまり、図2に示す注意領域は、TTCが所定値t2以下となる領域であって、かつ物体CTが所定値t1以下のTTCを持って車両1の通過領域に位置することとなる領域である。図2に示す注意領域は、相対速度V-TVd及び横速度TVpを与えることにより設定することができる。
【0027】
なお、物体CTが車両1から見て右側に位置している場合についても、同様に注意領域を設定することができる。このとき、注意領域は、図2に示す注意領域と対称的に車両1から見て右側に傾いた形状となる。また、このような注意領域は、物体CTが車両1から離れる方向に移動する場合には設定されない。例えば、物体CTが車両1から見て左側に位置しており、かつ車両1から見て左側の垂直方向に移動している場合や、物体CTが車両1から見て右側に位置しており、かつ車両1から見て右側の垂直方向に移動している場合である。
【0028】
その他、車道領域外の物体CTに対して衝突回避支援制御が作動することを抑制するために、注意領域を車道領域に制限することが考えられている。この場合、物体CTが車道領域に位置しているか否かを判定する。さらに、物体CTが車道領域を横断しようとしているか否かを判定する場合もある。
【0029】
このような注意領域は、対象とする物体CTの速度に応じて変化することとなる。図3は、物体CTの速度に応じて変化する注意領域を説明するための概念図である。図3は、図2と同様の場合を示しており、(a)、(b)、(c)、(d)は、それぞれ物体CTの縦速度及び横速度が異なる場合を示している。ここで図3の(a)に示す注意領域は、図2に示す注意領域と同等である。
【0030】
図3の(b)は、物体CTが車両1に近づく方向に縦速度TVd、車両1から見て右側の方向に横速度TVp2で移動している。ここで、横速度TVp2の大きさは、図3の(a)で示される物体CTの横速度TVpよりも大きくなっている。従って注意領域は、図3の(a)と比べて、車両1から見て左側により大きく傾いた形状となる。
【0031】
図3の(c)は、物体CTが車両1から遠ざかる方向に縦速度TVd、車両1から見て右側の方向に横速度TVpで移動している。図3の(a)と比べて、相対速度V-TVdが小さくなるため、注意領域は、進行方向に短くなった形状となる。
【0032】
図3の(d)は、物体CTが車両1に近づく方向に縦速度TVdで移動しており、横速度を有していない場合を示している。このとき、注意領域は、通過領域の一部の長方形型の領域となる。
【0033】
ここで、注意領域を設定する際に与える物体CTの横速度TVpの大きさは、センサの検出値から予測して与える場合と、物体CTの種別に応じてあらかじめ与える場合と、がある。物体CTの種別に応じてあらかじめ与える場合は、物体CTが歩行者であると検出するとき、例えば、物体CTの横速度TVpの大きさを一般的な歩行速度である5kphで与える。
【0034】
しかしながら、物体CTの速度は、個々の状態や環境により異なり、注意領域の設定の際に一定期間の速度を正確に予測し与えることは困難である。予測する物体CTの速度と実際の物体CTの速度に差異があると、衝突回避支援制御の不要作動を引き起こす虞がある。
【0035】
図4は、予測する物体CTの速度と実際の物体CTの速度の差異に伴う衝突回避支援制御の不要作動について説明するための概念図である。図4において、物体CTは注意領域に位置しており、所定値t1以下のTTCを持って車両1の通過領域に位置することが予測される(経路1)。しかし、予測する物体CTの速度よりも、実際の物体CTの横速度が小さい場合(経路2)や、横速度が大きい場合(経路3)等、実際には、物体CTが所定値t1以下のTTCを持って車両1の通過領域に位置しない場合がある。このような場合、物体CTに対する衝突回避の支援は要しない。
【0036】
そこで、本実施の形態に係る制御装置100は、車両1の前方に特定の領域を示す支援判定領域を設定し、物体CTの支援判定領域内の位置に応じて定まる判定値を制御周期毎に積算する。そして、積算値が所定の閾値を超える場合に、衝突回避支援制御を行う。ここで、支援判定領域は、物体CTの横速度の想定値(以下、「想定横速度」とも称する。)を複数設定し、設定した想定横速度それぞれに対して設定する注意領域の合併である。
【0037】
図5は、本実施の形態に係る制御装置100において、設定する支援判定領域の例を示す概念図である。図5では、物体CTの想定横速度として、3kph、5kph、8kphの3つを設定している。支援判定領域(太線で囲む領域)は、設定した想定横速度それぞれに対して設定する注意領域の合併となっている。また、境界線で区切られる領域毎に、判定値が与えられる。図5においては、物体CTに対して、判定値0.2が与えられることとなる。本実施の形態に係る制御装置100は、このように与える判定値を制御周期毎に積算し、所定の閾値を超える(例えば、1を超える)場合に衝突回避支援制御を行う。
【0038】
このように衝突回避支援制御を行うか否かの判断をすることにより、注意領域に物体CTが位置することを条件としてすぐに衝突回避支援制御が行われることがなく、衝突回避支援制御の不要作動を抑制することができる。延いては車両1の乗客乗員の煩わしさを低減することができる。
【0039】
2.構成
図6は、本実施の形態に係る制御装置100を備える車両1の車両システム10の構成を示すブロック図である。車両システム10は、制御装置100と、センサ系200と、通信装置210と、アクチュエータ系300と、を含んでいる。制御装置100は、センサ系200、通信装置210、及びアクチュエータ系300と電気的に又は無線で接続しており、互いに情報を伝達することができるように構成されている。
【0040】
センサ系200は、車両1の運転環境を示す情報(運転環境情報)を検出し出力するセンサの系である。センサ系200は、走行状態検出センサ201と、周囲環境検出センサ202と、を含んでいる。
【0041】
走行状態検出センサ201は、車両1の走行状態(車速、加速度、ヨーレート等)を検出し出力する。走行状態検出センサ201は、例えば、車輪速センサ、Gセンサ、ジャイロセンサ等である。
【0042】
周囲環境検出センサ202は、車両周囲の環境(車線、障害物、先行車等)の情報を検出する。周囲環境検出センサ202は、例えば、ミリ波レーダー、カメラ、LiDAR(Light Detection And Ranging)等である。
【0043】
なお、センサ系200は、その他の運転環境情報を検出するセンサを含んでいても良い。
【0044】
通信装置210は、車両外部の装置と通信を行うことで種々の情報(通信情報)の送受信を行う。通信装置210は、例えば、車車間通信や路車間通信を行うための装置、GPS(Global Positioning System)機能を提供する装置、通信ネットワークに接続しネットワーク上に構成するサーバーと通信情報の送受信を行う装置等である。通信装置210を介して制御装置100が取得する通信情報は、例えば、地図情報、道路交通情報等である。通信装置210に係る通信はどのような形態によって行われても良い。例えば、電波の送受信により行われても良いし、ネットワークを介した情報の送受信であっても良い。
【0045】
制御装置100は、取得する情報に基づいて、車両1の制御に係る種々の処理を実行し、制御信号を生成する。そして、後述するアクチュエータ系300に対して制御信号を出力する。制御装置100は、典型的には、車両に搭載されるECUである。ただし、制御装置100は、車両1の外部の装置であっても良い。この場合、制御装置100は、車両1との通信を介して、情報の取得、及びアクチュエータ系300に対する制御信号の出力を行う。
【0046】
制御装置100は、メモリ110と、プロセッサ120と、を備えている。メモリ110は、データを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)と、プロセッサで実行可能なプログラムやプログラムに係る種々のデータを記憶するROM(Read Only Memory)と、を含んでいる。制御装置100が取得する情報は、メモリ110に記憶される。プロセッサ120は、メモリ110からプログラムを読み出し、メモリ110から読み出す種々のデータに基づいて、プログラムに従う処理を実行する。
【0047】
メモリ110が記憶するプログラムには、少なくとも衝突回避支援制御に係るプログラム(衝突回避支援制御プログラム111)が含まれる。プロセッサ120が、衝突回避支援制御プログラム111に従う処理を実行することにより、車両1の衝突回避支援制御に係る制御信号が生成される。衝突回避支援制御プログラム111に従ってプロセッサ120が実行する処理の詳細については後述する。
【0048】
なお、制御装置100がその他の車両1の制御に係る処理を実行する場合において、それぞれの処理は、1つのプログラムの部分として与えられていても良いし、それぞれの処理が別個のプログラムにより与えられ、別個のプロセッサにより実行されていても良い。あるいは、それぞれの処理が、別個のECUにより実行されていても良い。この場合、制御装置100は、複数のECUにより構成される。このとき、それぞれのECUは、処理の実行に際して必要な情報を取得することができる程度に、互いに情報を伝達することができるように構成されている。
【0049】
アクチュエータ系300は、制御装置100から与えられる制御信号に従って動作するアクチュエータの系である。アクチュエータ系300に含まれるアクチュエータは、例えば、エンジン(内燃機関、電気モータ、又はそれらのハイブリット等)を駆動するアクチュエータ、車両1に備えるブレーキ機構を駆動するアクチュエータ、車両1のステアリング機構を駆動するアクチュエータ等である。アクチュエータ系300に含まれる種々のアクチュエータが制御信号に従って動作することにより、車両1の種々の制御が実現される。
【0050】
3.処理
以下、衝突回避支援制御プログラム111に従ってプロセッサ120が実行する処理について説明する。図7は、衝突回避支援制御プログラム111に従ってプロセッサ120が実行する処理を示すフローチャートである。図7に示す処理は、周囲環境検出センサ202が車両1の前方に衝突回避の対象となり得る物体CT(歩行者、自転車、停止車両、障害物等)を検知し、物体CTの検出情報を制御装置100が取得した場合に開始する。
【0051】
ステップS100において、プロセッサ120は、取得する情報に基づいて、物体CTに係る情報を算出する。算出する物体CTに係る情報には、少なくとも、車両1と物体CTの相対速度及びTTC、物体CTの横位置、及び物体CTの種別が含まれる。
【0052】
車両1と物体CTの相対速度及びTTCは、例えば、車両1の速度、車両1と物体CTとの距離、及び物体CTの縦速度、から算出することができる。物体CTの横位置は、例えば、車両1と物体CTとの距離から算出することができる。物体CTの種別は、典型的には、周囲環境検出センサ202が検出する情報に含まれる。車両1と物体CTの相対速度及びTTC、及び物体CTの横位置が、周囲環境検出センサ202が検出する情報に含まれていても良い。
【0053】
ステップS100の後、処理はステップS110に進む。
【0054】
ステップS110(領域設定処理)において、プロセッサ120は、車両1の前方に特定の領域を示す支援判定領域を設定する。支援判定領域の設定は、次のように行われる。
【0055】
まず、物体CTの種別に基づいて、想定横速度を複数設定する。例えば、ステップS100において、物体CTの種別が歩行者であるとした場合、1kph、3kph、5kph、8kph、10kphの5つの想定横速度を設定する。物体CTの種別が自転車であるとした場合、10kph、12kph、15kph、18kph、20kphの5つの想定横速度を設定する。このように物体CTの種別に応じて設定する想定横速度は、衝突回避支援制御プログラム111にあらかじめ与えられる値、あるいは検出した現在の物体CTの横速度から所定のアルゴリズムにより定まる値である。これらの値又はアルゴリズムは、本実施の形態に係る車両システム10を備える車両1の車両適合等を行うことにより、実験的に最適に与えられる。以下、物体CTの種別が歩行者であり、1kph、3kph、5kph、8kph、10kphの5つの想定横速度が設定されたとする。
【0056】
次に、設定した想定横速度それぞれに対して、ステップS100において算出した相対速度に基づいて注意領域を設定し、設定したそれぞれの注意領域の合併を支援判定領域とする。ここで設定するそれぞれの注意領域は、図2において説明した内容と同等である。この場合に、注意領域の第1境界線及び第2境界線の傾きの大きさが、設定した想定横速度それぞれにおいて異なることとなる。また、所定値t1及びt2は、衝突回避支援制御プログラム111にあらかじめ与えられる値であり、実験的に最適に与えられる。TTCは、ステップS100において算出した値に基づく。
【0057】
図8に、ステップS110において設定する支援判定領域の例を示す。図8において、想定横速度1kphに対して設定する注意領域の第1境界線、及び想定横速度10kphに対して設定する注意領域の第2境界線は省略している。図8に示すように、支援判定領域(太線で囲む領域)は、設定した想定横速度である1kph、3kph、5kph、8kph、10kphの注意領域の合併となる。
【0058】
再度図7を参照する。ステップS110の後、処理はステップS120に進む。
【0059】
ステップS120において、プロセッサ120は、物体CTが、支援判定領域との関係において、どの位置であるかを判定する。物体CTの位置の判定は、ステップS100において算出したTTC及び横位置に基づいて行う。図9は、物体CTの位置の判定を説明するための概念図である。図9の縦軸は、TTCの値と対応した進行方向の位置を示している。図9の横軸は、横位置を示している。
【0060】
物体CTは、TTCがs(t1≦s≦t2)、横位置がxであるとする。このとき、図9に示すように、物体CTの位置が判定される。ただし、物体CTの位置の判定は、その他の値に基づいても良い。例えば、周囲環境検出センサ202が検出する車両1と物体CTとの距離に基づいて判定しても良い。
【0061】
再度図7を参照する。ステップS120の後、処理はステップS130に進む。
【0062】
ステップS130において、プロセッサ120は、物体CTが衝突回避の対象となるか否かを判定する。ここで、支援判定領域内に物体CTが位置している場合に、物体CTが衝突回避の対象となると判定する。支援判定領域内に物体CTが位置している場合(ステップS130;Yes)、処理はステップS140に進む。支援判定領域内に物体CTが位置していない場合(ステップS130;No)、処理を終了する。
【0063】
なお、物体CTが衝突回避の対象とならずに処理が終了した場合であっても、制御装置100が周囲環境検出センサ202から同一の物体CTに係る検出情報を取得した場合は、同一の物体CTについて再度図7に示す処理が開始されることとなる。
【0064】
ステップS140(積算処理)において、プロセッサ120は、衝突回避の対象となる物体CTに対して、その位置に応じて定まる判定値を与えて積算し、積算値を算出する。積算値は、対象とする物体CTに対する処理が終了するまでの間記憶される。図10に、物体CTの位置に応じて与える判定値の例を示す。図10に示すように、判定値は、設定した注意領域それぞれの境界線で区切られる領域毎に定められている。ここで、“リセット”は積算値を0とすることを示している。
【0065】
図10では、比較として3つの物体CT1、CT2、及びCT3を示している。物体CT1は判定値0.4の領域に位置しており、物体CT1に対する積算値には判定値0.4が積算される。物体CT2は判定値0の領域に位置しており、物体CT2に対する積算値は変化しない。物体CT3は判定値リセットの領域に位置しており、物体CT3に対する積算値は0となる。
【0066】
再度図7を参照する。ステップS140の後、処理はステップS150に進む。
【0067】
ステップS150において、プロセッサ120は、ステップS140において算出した積算値が所定の閾値k以上となるか否かを判定する。閾値kは、衝突回避支援制御プログラム111にあらかじめ与えられる値であり、実験的に最適に与えられる。積算値が閾値k以上となる場合(ステップS150;Yes)、処理はステップS160に進む。積算値が閾値kより小さい場合(ステップS150;No)、ステップS100に戻り処理を繰り返す。
【0068】
ステップS160において、プロセッサ120は、衝突回避支援制御を行う。衝突回避支援制御の対象とする物体は、積算値が閾値k以上と判定された物体CTである。なお、衝突回避支援制御の方法は特に限定されない。車両1の制動制御であっても良いし、車両1の操舵制御であっても良い。あるいは、運転環境情報に基づいて、制動制御及び操舵制御を組み合わせて車両1の制御が行われても良い。
【0069】
ステップS160の後、処理を終了する。
【0070】
4.効果
以上説明したように、本実施の形態に係る制御装置100によれば、車両1の前方に特定の領域を示す支援判定領域を設定し、物体CTの支援判定領域内の位置に応じて定まる判定値を制御周期毎に積算する。そして、積算値が所定の閾値k以上となる場合に、衝突回避支援制御を行う。これにより、衝突回避支援制御の不要作動を抑制することができる。
【0071】
図11及び図12は、本実施の形態に係る制御装置100の効果を説明するための概念図及びグラフである。図11において示す支援判定領域及び判定値は、図8及び図10に示すものと同等である。つまり、物体CTの種別は歩行者であり、想定横速度として、1kph、3kph、5kph、8kph、10kphの5つが設定されているとする。図11には、物体CTの移動経路として、経路1、経路2、経路3の3つが示されている。それぞれの移動経路上には、t=0の位置を始点(物体CTを検知した位置)として、制御装置100の制御周期毎の物体CTの位置が示されている。図12は、図11と対応しており、それぞれの移動経路における積算値を示している。ここで、制御装置100の制御周期をdtとしている。また、閾値kの値を1としている。
【0072】
経路1は、物体CTの横速度が一般的な歩行速度5kphである場合の例を示している。この場合、図12に示すように、時間3dtにおいて積算値が閾値k以上となり衝突回避支援制御が行われる。
【0073】
経路2は、物体CTの横速度が小さく、TTCが所定値以下で車両1の通過領域に位置することが無い場合の例を示している。この場合、図12に示すように、積算値が閾値k以上となることはなく、衝突回避支援制御は行われない。
【0074】
経路3は、物体CTの横速度が大きく、車両1の通過領域を素早く通り抜ける場合の例を示している。この場合、図12に示すように、積算値が閾値k以上となることなく、衝突回避支援制御は行われない。また、図12に示す例では、時間2dtにおいて物体CTは支援判定領域の外に位置しており、物体CTは衝突回避の対象外となる。
【0075】
このように、物体CTの速度が予測される速度に対して大きくあるいは小さく衝突回避の支援を要しない場合に、衝突回避支援制御が作動することを抑制することができる。延いては、車両1の乗客乗員の煩わしさを低減することができる。
【0076】
また、所定値t1及びt2、判定値、閾値k等を適切に定めることにより、車道領域外の物体CTに対して衝突回避支援制御が作動することを抑制することができるため、衝突回避支援制御を車道領域に制限しなくても良い。延いては、物体CTに係る誤認識(車道領域に位置しているか否かの判定、車道領域を横断しようとしているか否かの判定等)による衝突回避支援制御の不要作動を抑制することができる。
【符号の説明】
【0077】
1 車両
CT 物体
10 車両システム
100 制御装置
110 メモリ
111 衝突回避支援制御プログラム
120 プロセッサ
200 センサ系
201 走行状態検出センサ
202 周囲環境検出センサ
210 通信装置
300 アクチュエータ系
図1
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