(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023002029
(43)【公開日】2023-01-10
(54)【発明の名称】風力発電装置の余寿命診断方法および余寿命診断装置
(51)【国際特許分類】
F03D 17/00 20160101AFI20221227BHJP
F03D 1/06 20060101ALI20221227BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20221227BHJP
G01N 17/00 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
F03D17/00
F03D1/06 Z
G01M99/00 A
G01N17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021103015
(22)【出願日】2021-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】苗村 伸夫
【テーマコード(参考)】
2G024
2G050
3H178
【Fターム(参考)】
2G024AD34
2G024BA12
2G050AA01
2G050BA03
2G050BA05
2G050BA06
2G050BA12
2G050EB01
2G050EB02
3H178AA03
3H178AA40
3H178AA43
3H178BB57
3H178BB65
3H178BB73
3H178CC02
3H178DD12Z
3H178DD54X
3H178EE02
(57)【要約】
【課題】風力発電事業者であれば容易に入手可能な情報のみを用いて、風力発電装置の力学的特性を考慮した余寿命評価ができる風力発電装置の余寿命診断方法を提供する。
【解決手段】風力発電装置1の余寿命診断方法は、疲労モデル作成部21は、風力発電装置1の疲労特性(例えば、風力発電装置に作用する疲労等価荷重)をモデル化し、設計疲労演算部22は、疲労特性と設計風況とから設計疲労を計算し、実疲労演算部23は、疲労特性と風力発電装置の建設地における実風況とから実疲労を計算し、余寿命評価部24は、設計疲労と実疲労を用いて余寿命を計算する。例えば、容易に入手可能な情報から風力発電装置に作用する疲労等価荷重をモデル化し、得られた疲労等価荷重と設計風況・実風況での風速頻度分布および乱流強度から、設計風況・実風況での疲労蓄積を定量化・比較することで、高精度に余寿命を診断する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
余寿命診断装置を用いた風力発電装置の余寿命診断方法であって、
前記余寿命診断装置は、疲労モデル作成部、設計疲労演算部、実疲労演算部および余寿命評価部を有し、
前記疲労モデル作成部は、風力発電装置の疲労特性をモデル化し、
前記設計疲労演算部は、前記疲労特性と設計風況とから設計疲労を計算し、
前記実疲労演算部は、前記疲労特性と風力発電装置の建設地における実風況とから実疲労を計算し、
前記余寿命評価部は、前記設計疲労と前記実疲労を用いて余寿命を計算する
ことを特徴とする風力発電装置の余寿命診断方法。
【請求項2】
請求項1に記載の風力発電装置の余寿命診断方法において、
前記設計疲労演算部に用いられる前記設計風況が、年平均風速と乱流クラスによって定義される
ことを特徴とする風力発電装置の余寿命診断方法。
【請求項3】
請求項2に記載の風力発電装置の余寿命診断方法において、
前記実疲労演算部に用いられる前記実風況が、前記風力発電装置で計測された風速および乱流強度である
ことを特徴とする風力発電装置の余寿命診断方法。
【請求項4】
請求項1に記載の風力発電装置の余寿命診断方法において、
前記余寿命評価部は、前記実疲労を前記設計疲労で除した疲労損傷度を用いて、前記余寿命を計算する
ことを特徴とする風力発電装置の余寿命診断方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の風力発電装置の余寿命診断方法において、
前記疲労モデル作成部は、前記風力発電装置の構成要素の疲労等価荷重を計算する
ことを特徴とする風力発電装置の余寿命診断方法。
【請求項6】
請求項5に記載の風力発電装置の余寿命診断方法において、
前記疲労モデル作成部は、前記風力発電装置のブレードの疲労等価荷重を計算する
ことを特徴とする風力発電装置の余寿命診断方法。
【請求項7】
請求項6に記載の風力発電装置の余寿命診断方法において、
前記疲労モデル作成部は、前記風力発電装置で計測された風速と回転数を使用して前記ブレードの前記疲労等価荷重を計算する
ことを特徴とする風力発電装置の余寿命診断方法。
【請求項8】
請求項7に記載の風力発電装置の余寿命診断方法において、
前記疲労モデル作成部は、前記風力発電装置のロータ直径、ブレード質量、ブレード重心からロータ面内方向の前記ブレードの前記疲労等価荷重を計算する
ことを特徴とする風力発電装置の余寿命診断方法。
【請求項9】
請求項7に記載の風力発電装置の余寿命診断方法において、
前記疲労モデル作成部は、前記風力発電装置のブレード形状およびねじり角の理論式からロータ面外方向の前記ブレードの前記疲労等価荷重を計算する
ことを特徴とする風力発電装置の余寿命診断方法。
【請求項10】
請求項9に記載の風力発電装置の余寿命診断方法において、
前記疲労モデル作成部で用いる前記ねじり角の理論式において、前記風力発電装置で計測された風速と回転数の関係から算出した最適周速比を用いる
ことを特徴とする風力発電装置の余寿命診断方法。
【請求項11】
請求項9に記載の風力発電装置の余寿命診断方法において、
前記疲労モデル作成部で用いる前記ブレード形状には、前記ブレードの写真を用いる
ことを特徴とする風力発電装置の余寿命診断方法。
【請求項12】
請求項1に記載の風力発電装置の余寿命診断方法において、
前記疲労モデル作成部は、ブレードの形状および風力発電装置の運転条件を推定し、数値シミュレーションを用いて、ブレードに作用する回転面内方向および面外方向の疲労等価荷重を計算する
ことを特徴とする風力発電装置の余寿命診断方法。
【請求項13】
風力発電装置の疲労特性をモデル化する疲労モデル作成部と、
前記疲労特性と設計風況とから設計疲労を計算する設計疲労演算部と、
前記疲労特性と風力発電装置の建設地における実風況とから実疲労を計算する実疲労演算部と、
前記設計疲労と前記実疲労を用いて余寿命を計算する余寿命評価部とを備える
ことを特徴とする風力発電装置の余寿命診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力発電装置の余寿命診断方法および余寿命診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能エネルギー活用への関心の高まりから、風力発電装置の世界的な市場拡大が予測されている。メガワット級の風力発電装置としては、ブレードを回転するハブに放射状に取りつけたロータと、主軸を介してロータを支持するナセルと、ナセルを下部からヨー回転を許して支持するタワーを備えているものが頻繁に用いられる。
【0003】
風力発電装置では、時々刻々と変化する風をエネルギー源として発電を行う。したがって、実際に風力発電装置に流入する風の風速や乱れが設計条件よりも弱い場合、風力発電装置に蓄積する疲労に余裕が生じ、設計寿命よりも長期間にわたって運転可能となることが多い。このような寿命の延長は頻繁に行われつつあるが、寿命延長の際には対象の風力発電装置が今後何年間、運転可能であるかを正確に見積もる必要がある。
【0004】
風力発電装置の寿命推定する方法として、特許文献1では風力発電装置のごく一部にひずみセンサを取り付け、風力発電装置の設計情報を用いることで、未計測位置での疲労損傷度および余寿命を推定する方法が提案されている。
【0005】
特許文献2では、風速の平均値と標準偏差の積である変動動圧を用いて、診断対象の風力発電装置での変動動圧の発生頻度分布と、設計条件での変動動圧の発生頻度分布とから疲労の蓄積度合いを定量化する方法が提案されている。また、変動動圧にロータのスラスト係数やブレードのモーメント係数を乗じることで、力学的特性を考慮する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-217133号公報
【特許文献2】特開2016-188612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、商用風力発電装置では取り付けられることの少ないひずみセンサが必要であり、風力発電装置メーカでない限り必要な設計情報を入手することは困難である。
【0008】
一方、特許文献2に記載の方法は、容易に適用可能ではあるものの、考慮可能な風力発電装置の力学的特性はスラスト係数やモーメント係数に限定される。したがって、風速や乱流強度に応じて力学的特性が大きく変化し、疲労の蓄積度合いに影響を与える場合には、高精度な寿命推定が困難になる可能性がある。
【0009】
本発明はこのような状況を鑑みて成されたものであり、風力発電事業者であれば容易に入手可能な情報のみを用いて、風力発電装置の力学的特性を考慮した余寿命評価ができる風力発電装置の余寿命診断方法および余寿命診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明の風力発電装置の余寿命診断方法は、余寿命診断装置を用いた風力発電装置の余寿命診断方法であって、前記余寿命診断装置は、疲労モデル作成部、設計疲労演算部、実疲労演算部および余寿命評価部を有し、前記疲労モデル作成部は、風力発電装置の疲労特性(例えば、風力発電装置に作用する疲労等価荷重)をモデル化し、前記設計疲労演算部は、前記疲労特性と設計風況とから設計疲労を計算し、前記実疲労演算部は、前記疲労特性と風力発電装置の建設地における実風況とから実疲労を計算し、前記余寿命評価部は、前記設計疲労と前記実疲労を用いて余寿命を計算することを特徴とする。本発明のその他の態様については、後記する実施形態において説明する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、風力発電事業者であれば容易に入手可能な情報のみを用いて、風力発電装置の力学的特性を考慮した余寿命評価ができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係る風力発電装置の全体概略構成図である。
【
図2】本実施形態に係る余寿命診断装置の構成を示す図である。
【
図3】ブレードの面内方向および面外方向を説明するための図である。
【
図4】ブレードの面内方向の疲労等価荷重の計算方法を説明するための図である。
【
図5】ブレードの密度分布モードの例を説明するための図である。
【
図6】ブレードの曲げモーメント分布を説明するための図である。
【
図7】ブレードの面内方向の疲労等価荷重を説明するための図である。
【
図8】ブレードの面外方向の疲労等価荷重の計算方法を説明するための図である。
【
図9】最適周速比の求め方を説明するための図である。
【
図10】回転数及びピッチ角特性について説明するための図である。
【
図11】乱流強度によるブレードの面外方向の疲労等価荷重の変化を説明するための図である。
【
図12】設計風況及び実風況での風速頻度分布を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る風力発電装置1の全体概略構成図である。
図1に示すように、風力発電装置1は、風を受けて回転するブレード2、ブレード2を支持するハブ3、ナセル4、及びナセル4を回動可能に支持するタワー5を備える。ナセル4内に、ハブ3に接続されハブ3と共に回転する主軸6、主軸6に接続され回転速度を増速する増速機7、及び増速機7により増速された回転速度で回転子を回転させて発電運転する発電機8を備えている。ブレード2の回転エネルギーを発電機8に伝達する部位は、動力伝達部と称され、本実施形態では、主軸6及び増速機7が動力伝達部に含まれる。そして、増速機7及び発電機8は、メインフレーム9上に保持されている。また、ブレード2及びハブ3によりロータ10が構成される。
【0014】
タワー5内の底部(下部)に、電力の周波数を変換する電力変換器11、電流の開閉を行うスイッチング用の開閉器及び変圧器(図示せず)、及び制御装置12などが配されている。制御装置12として、例えば、制御盤又はSCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)が用いられる。
【0015】
なお、
図1に示す風力発電装置1は、3枚のブレード2とハブ3にてロータ10を構成する例を示すが、これに限られず、ロータ10はハブ3と少なくとも1枚のブレード2にて構成してもよい。
【0016】
図2は、本実施形態に係る余寿命診断装置20の構成を示す図である。
図2は、
図1で示した風力発電装置1のブレード2に対する余寿命診断装置20の構成を示す。余寿命診断装置20は、処理部、外部記憶部、入力部、表示部、通信部などを含んで構成され、処理部には、疲労モデル作成部21、設計疲労演算部22、実疲労演算部23、余寿命評価部24を備える。表示部は、ディスプレイなどであり、余寿命診断装置20による処理の実行状況や実行結果などを表示する。入力部は、キーボードやマウスなどのコンピュータに指示を入力するための装置であり、プログラム起動などの指示を入力する。処理部は、中央演算処理装置(CPU)であり、メモリに格納される各種プログラムを実行する。通信部は、LANなどを介して、他の装置と各種データやコマンドを交換する。外部記憶部は、余寿命診断装置20が処理を実行するための各種データを保存する。メモリは、余寿命診断装置20が処理を実行する各種プログラムおよび一時的なデータを保持する。
【0017】
(疲労モデル作成部21)
疲労モデル作成部21では、風力発電装置のカタログやモニタリング装置、施工図面や公知の理論式などを用いて、ブレード2の形状および風力発電装置1の運転条件を推定し、数値シミュレーションを用いて、ブレード2に作用する回転面内方向および面外方向の疲労等価荷重を計算する。
【0018】
図3は、ブレード2の面内方向および面外方向を説明するための図である。
図3に回転面内と、面外方向の定義を図示する。符号100は、ナセル4を後方から見た後方図であり、この後方
図100ではブレード2の回転方向(破線参照)を面内方向とする。一方、符号110は、ナセル4を横方向から見た横方向図であり、この横方向
図110ではブレード2の前後方向(破線参照)を面外方向とする。
【0019】
図2に戻り、疲労モデル作成部21内での処理は、診断対象ごとに異なり、実施形態ではブレード2の面内方向及び面外方向の荷重を対象とするが、この一方でもよく、診断対象はブレード2以外の風力発電装置1の構成要素でもよい。ブレード以外の構成要素としては、例えば、タワー5、主軸6、増速機7、発電機8、メインフレーム9などを診断対象にできる。
【0020】
図4は、ブレードの面内方向の疲労等価荷重の計算方法を説明するための図である。
図4に、面内方向の疲労等価荷重をモデル化するための一つの方法を示す。まず、典型的なブレードの密度分布モード401とロータ半径402から、以下の(式1)で表される密度分布推定式403を構築する。
【0021】
【0022】
ここで、rnはブレードの根元を0、先端を1とした無次元長さ、m(rn)はブレードの長手方向の単位長さ当たり密度分布、Φ(rn)は密度分布モード401、Rはロータ半径402またはブレード長さ、A、Bは未知の補正係数である。
【0023】
発明者らの鋭意検討の結果、種々のブレードの密度分布m(rn)をロータ半径402(R)の1.3乗で除した値は、おおよそ同様の分布Φ(rn)を持つことが明らかになった。したがって、このΦ(rn)とRから密度分布を逆算することができる。ただし、Φ(rn)をそのまま用いると、ブレード質量404やブレード重心405が実物と異なる場合があるため、補正係数A,Bを用いて、ブレード質量404とブレード重心405を実物と一致させる。
【0024】
なお、(式1)ではロータ半径402(R)の1.3乗を用いているが、必ずしも1.3乗である必要はない。過去には1.5乗がよいとする文献があり、今後のブレードの軽量化に伴って、1.3乗よりも小さな値が妥当となることもあり得る。Φ(rn)は一般に公開されているブレードの密度分布をRの1.3乗で除すことで容易に入手できる。
【0025】
図5は、ブレードの密度分布モードの例を説明するための図である。
図5において、横軸はブレードの根元を0、先端を1とした無次元長さであり、縦軸は密度分布モードである。
図5の上側にブレード2の形状を示す。ブレード2の密度分布(ブレードの密度分布モード)は、例えば
図5に示すような密度分布となる。
【0026】
式1の補正係数A,Bは、ブレード質量404(M)とブレード重心405(CG)に関する下記の連立方程式406を解くことで決定される。
【0027】
【0028】
【0029】
ここで、rはブレードの根元からの距離、R
Bはロータ半径Rからハブ半径を引いたブレード長さである。(式2)、(式3)は、未知の変数である補正係数A,Bを含むため、これらを連立して解くことで補正係数A,Bの値が一意に定まり、得られた補正係数A,Bを式1に代入すると、
図4に戻り、ブレード密度407が推定できる。ブレード密度407が分かれば、ブレード曲げモーメント分布408が計算できる。
【0030】
図6は、ブレード2の曲げモーメント分布を説明するための図である。
図6において、横軸はブレードの根元を0、先端を1とした無次元長さであり、縦軸は曲げモーメント分布である。
図6の上側に、ブレード2の形状を示す。
図6に示すようなブレード2が水平方向になった際の自重によるブレード曲げモーメント分布408(
図4参照)を計算でき、これを面内方向のブレード疲労等価荷重411(
図4参照)を計算するための加重振幅として使用できる。
【0031】
なお、面内方向では、ブレードが真横になった際の自重によるブレード曲げモーメントが、ブレードに作用するモーメントの最大振幅に対応するため、この自重によるモーメントのみを考慮すれば、疲労等価荷重を高精度に推定できる。
【0032】
一方、
図4に戻り、面内方向のブレード疲労等価荷重411の計算には、風力発電装置の運転風速ごとのロータ回転数(回転数特性410)が必要である。これは、SCADAデータに含まれる風速と回転数の情報409から最小二乗法などを用いて推定できる。
【0033】
このようにして得たブレード曲げモーメント分布408と回転数特性410から、ブレードの任意の長さ方向位置における任意の風速での面内方向のブレード疲労等価荷重411を計算できる。
【0034】
図7は、ブレードの面内方向の疲労等価荷重を説明するための図である。横軸は平均風速であり、縦軸は面内方向の疲労等価荷重である。例えば、
図7に示すようなブレード根元での面内方向のブレード疲労等価荷重411(
図4参照)を計算する場合、ブレード曲げモーメント分布408(
図4参照)から根元での値を選択し、ブレード材料のSN曲線の傾きでべき乗して、回転数特性410(
図4参照)から得られる回転数を乗じると、疲労等価荷重が得られる。
【0035】
ただし、
図4に戻り、得られる面内方向のブレード疲労等価荷重411はブレードの自重によるものであり、ブレードの振動などの影響は考慮されないため、必要に応じて補正係数を導入してもよい。あるいは、振動を考慮できるように、後述の面外方向の疲労等価荷重を計算する際に使用するブレード形状と、密度分布、回転数特性、回転数特性と同様の方法で取得できるピッチ角特性を用いて数値シミュレーションによって、面内方向のブレード疲労等価荷重411を計算してもよい。
【0036】
図8は、ブレード2の面外方向の疲労等価荷重の計算方法を説明するための図である。
図8に面外方向の疲労等価荷重をモデル化するための一つの方法を示す。まず、ブレード形状801を写真や図面などから取得し、既知のブレード長さや根元の直径などを基準として翼弦長分布802を得る。写真を用いる場合、例えば、風力発電装置1が停止しており、ブレード2が風による力を受けないフェザーとなった状態で、ブレード2が真下を向いているときに
図1のようにナセル4の真横の方向から、ブレード2を撮影すると、妥当な形状を取得できる。
【0037】
図9は、最適周速比の求め方を説明するための図である。横軸は平均風速、縦軸はロータ回転数を示す。SCADA409のデータに含まれる風速と回転数から、
図9に示すようなロータ回転数が風速に対して変化する範囲での勾配を最小二乗法などで計算し、ロータ半径で除すことで、周速比803(TSR:Tip Speed Ratio)を得る。周速比803が分かると、例えば発電量を最大化する場合のブレード2のねじり角分布804を、以下の理論式によって求めることができる。
【0038】
【0039】
ここで、θ(r)はねじり角、α(r)は風速と回転速度からなる合成速度ベクトルと翼弦長方向とのなす角度である迎え角を示す。迎え角はブレード2の断面を構成する翼型によって異なるが、風力発電装置1では、翼型の最大揚抗比での迎え角が用いられることが多く、例えば、ブレード2の翼弦長が最大となる位置よりも内側では8度、外側では4度といった値を用いるとよい。
【0040】
(式4)はねじり各分布を与える一例であり、近年では発電量の最大化ではなく、発電コストの最小化などでブレード2が設計されることもあることから、別の式を用いてもよい。
【0041】
最後に、面内方向の疲労等価荷重でも述べたように、SCADA805のデータに含まれる風速と回転数およびピッチ角の情報から最小二乗法による線形回帰や移動平均などを用いて、回転数・ピッチ角特性806を推定する。
【0042】
図10は、回転数及びピッチ角特性について説明するための図である。
図10について、符号200の図は、横軸を風速、縦軸をロータ回転数としたときの回転数特性
図200である。一方、符号210の図は、横軸を風速、縦軸をピッチ角としたときのピッチ角特性
図210である。
図10に示すような回転数・ピッチ角特性806を、
図10の回転数特性
図200やピッチ角特性
図210から推定することができる。
【0043】
これらの情報を用いると、翼素運動量理論や数値流体力学を用いたシミュレーションによって、ブレード2に作用する流体力を計算し、面外方向のブレード疲労等価荷重807を算出することができる。
【0044】
図11は、乱流強度によるブレード2の面外方向の疲労等価荷重の変化を説明するための図である。横軸は平均風速であり、縦軸は面外方向の疲労等価荷重である。面外方向の疲労等価荷重は、乱流強度によって大きく変化するため、シミュレーションは種々の乱流強度に対して行い、
図11に示すように乱流強度ごとの疲労等価荷重を算出することが望ましい。
【0045】
ブレード密度分布407(
図4参照)が推定できていれば、流体力の計算に加えて、空力弾性計算が適用でき、ブレード2の振動の影響を面内及び面外の疲労等価荷重に反映できる。あるいは、簡素な方法で面外方向のブレード疲労等価荷重807(
図8参照)を計算することもできる。例えば、翼素運動量理論を用いてブレード2がナセル4の直上および直下に位置する際の流体力を計算し、曲げモーメント分布を求めて、直上および直下の際の曲げモーメントの差分として計算される荷重振幅を、ブレード材料のSN曲線の傾きでべき乗して、回転数を乗じると、面外方向のブレード疲労等価荷重807(
図8参照)が得られる。
【0046】
(設計疲労演算部22)
以上のようにして、疲労モデル作成部21で得られた疲労等価荷重と、設計風況を用いて、設計疲労演算部22では、設計風況における疲労蓄積を計算する。設計風況は風力発電装置の型式認証などで定められており、一般的には年平均風速と乱流クラスで定義される。
【0047】
図12は、設計風況及び実風況での風速頻度分布を説明するための図である。横軸は平均風速、縦軸は風速頻度分布である。
図12は、風速頻度分布の一例を示すもので、実風風況を用いるのがよいが、その測定データも毎年同じになるとは限らない。そこで、設計疲労演算部22では、設計風況における疲労蓄積を計算する。他方、後述する実疲労演算部23では、風力発電装置1の建設地における実風況での疲労蓄積を計算する。
【0048】
まず、疲労等価荷重に乱流強度の影響が考慮されていない場合には、乱流クラスを用いて、疲労等価荷重を補正する。具体的には、上述の疲労等価荷重の計算方法で、面内方向の計算の際に数値シミュレーションを用いなかった場合や、面外方向の計算で簡素な方法を用いた場合、補正を施してもよい。ただし、面内方向については乱流の影響は小さいため、無視してもよい。補正の方法としては、例えば、乱流クラスを定義するパラメータを用いることが考えられる。乱流クラスは、以下の(式5)のIで定義される。
【0049】
【0050】
ここで、Uは風速、TIは乱流強度の90%タイル値である。補正では、設計風況として指定されているIの値を用いて、疲労等価荷重にIの関数として定義される補正値を乗じたりすればよい。例えば、乱流強度の大小に応じて、Iの値が0.16、0.14、0.12の場合に対して、
図11のような補正後の疲労等価荷重を計算する。このようにして得た補正後の疲労等価荷重と
図12に示すような年平均風速で定まるレイリー分布の風速頻度分布を用いて、下記の(式6)で定義されるD
factorによって設計疲労を定量化する。
【0051】
【0052】
ここで、Uin、Uoutは風力発電装置1が発電を行う最小風速と最大風速を表すカットイン、カットアウト風速、φ(U)は風速の発生頻度、DEL′(U)は補正後の疲労等価荷重、mはブレード材料のSN曲線の傾きである。設計疲労の計算では、φ(U)に設計風況の年平均風速で定義されるレイリー分布に従う風速頻度分布を用いるとよい。このとき、φ(U)の積分値が風力発電装置1の設計寿命となるように、φ(U)を定めておく。
【0053】
(実疲労演算部23)
実疲労演算部23では、(式6)を用いて、風力発電装置1の建設地における実風況でのD
factorを実疲労として計算する。まず、設計疲労演算部22と同様に、必要に応じて疲労等価荷重に補正を施す。このとき、補正に用いる乱流クラスのパラメータIは、実風況を表すSCADAデータの風速、乱流強度を用いて、各風速での乱流強度の90%タイル値を計算し、得られた曲線に(式5)が最接近するように最小二乗法などを用いて決定する。次に、SCADAデータから
図12に示すような実風況での風速頻度分布φ(U)を求め、式6を用いて実風況での疲労蓄積を表すD
factorを計算する。
【0054】
(余寿命評価部24)
最後に、余寿命評価部24では、設計疲労演算部22および実疲労演算部23で計算された、設計風況でのDfactor(Dd)と実風況でのDfactor(Dr)から、余寿命を計算する。診断対象である風力発電装置1のこれまでの運転期間をT0、Drの計算時に使用した風速頻度分布の基となるSCADAデータの取得期間をT1とすると、風力発電装置1のブレード2の余寿命Lは下記の(式7)で計算できる。
【0055】
L=T1/(Dr/Dd)-T0 ・・・(式7)
【0056】
また、風力発電装置1のブレード2の現時点での疲労損傷度Dは、
D=(Dr×T0)/(Dd×T1)・・・(式8)
となる。T0=T1のときは、DrとDdの比Dr/Ddが疲労損傷度となる。なお、面外方向、面内方向の両方の疲労等価荷重を計算している場合には、(式6)のDfactorや(式7)のLを両方に対して計算し、面外方向と面内方向に対して計算したLのうち、小さい方をブレード2の余寿命と考えればよい。同様に、疲労等価荷重をブレード2以外の構成要素を含む複数の構成要素に対しても計算した場合には、各々に対して計算したLの最小値を風力発電装置1の余寿命と考えてもよい。
【0057】
本実施形態の風力発電装置1の余寿命診断方法は、余寿命診断装置20を用いた風力発電装置の余寿命診断方法であって、余寿命診断装置20は、疲労モデル作成部21、設計疲労演算部22、実疲労演算部23および余寿命評価部24を有し、疲労モデル作成部21は、風力発電装置1の疲労特性(例えば、風力発電装置に作用する疲労等価荷重)をモデル化し、設計疲労演算部22は、疲労特性と設計風況とから設計疲労を計算し、実疲労演算部23は、疲労特性と風力発電装置の建設地における実風況とから実疲労を計算し、余寿命評価部24は、設計疲労と実疲労を用いて余寿命を計算することが特徴である。例えば、容易に入手可能な情報から風力発電装置に作用する疲労等価荷重をモデル化し、得られた疲労等価荷重と設計風況・実風況での風速頻度分布および乱流強度から、設計風況・実風況での疲労蓄積を定量化・比較することで、高精度に余寿命を診断することができる。
【0058】
以上の構成を有する風力発電装置1の余寿命診断装置20を用いることで、実施形態によれば、容易に入手可能な情報からブレードの余寿命を診断することができる。この実施形態では、風速と乱流強度に伴って大きく変化するブレードの力学的特性を考慮して疲労等価荷重を計算し、疲労等価荷重と風速及び乱流強度の発生頻度を用いて疲労蓄積を評価することで、高精度な余寿命診断が可能となる。一方、前述の特許文献2の方法では、風速の平均値と標準偏差の積である変動動圧に、平均風速での力学的特性を表すスラスト係数またはモーメント係数を乗じて疲労蓄積を計算するため、乱流に相当する風速の標準偏差の範囲で変動するスラスト係数やモーメント係数の変化を考慮できない可能性がある。
【符号の説明】
【0059】
1 風力発電装置
2 ブレード
3 ハブ
4 ナセル
5 タワー
6 主軸
7 増速機
8 発電機
9 メインフレーム
10 ロータ
11 電力変換器
12 制御装置
20 余寿命診断装置
21 疲労モデル作成部
22 設計疲労演算部
23 実疲労演算部
24 余寿命評価部
401 密度分布モード
402 ロータ半径
403 密度分布推定式
404 ブレード質量
405 ブレード重心
406 質量・重心の連立方程式
407 ブレード密度分布
408 ブレード曲げモーメント分布
409 SCADA(風速、回転数)
410 回転数特性
411 面内方向のブレード疲労等価荷重
801 ブレード形状
802 翼弦長分布
803 周速比
804 ねじり角分布
805 SCADA(風速、ピッチ角)
806 回転数・ピッチ角特性
807 面外方向のブレード疲労等価荷重