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特開2023-20451工作機械の熱変形推定方法及びこれを用いた熱変形補正方法
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  • 特開-工作機械の熱変形推定方法及びこれを用いた熱変形補正方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020451
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】工作機械の熱変形推定方法及びこれを用いた熱変形補正方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 15/18 20060101AFI20230202BHJP
   G05B 19/404 20060101ALI20230202BHJP
   B23Q 17/00 20060101ALI20230202BHJP
   B23Q 17/22 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
B23Q15/18
G05B19/404 K
B23Q17/00 A
B23Q17/22 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021125825
(22)【出願日】2021-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】591014835
【氏名又は名称】高松機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092727
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 忠昭
(74)【代理人】
【識別番号】100146891
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 ひろ美
(72)【発明者】
【氏名】立矢 宏
(72)【発明者】
【氏名】石野 嘉章
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直彦
【テーマコード(参考)】
3C001
3C029
3C269
【Fターム(参考)】
3C001KA05
3C001KB01
3C001TA02
3C001TB02
3C029AA00
3C029EE02
3C269AB02
3C269BB03
3C269CC01
3C269MN07
3C269MN26
3C269MN27
3C269MN28
(57)【要約】      (修正有)
【課題】工作機械の多数箇所の温度変化を考慮するとともに、加工条件が変わっても適用することができる工作機械の熱変形推定方法を提供すること。
【解決手段】実験計画法を用いて被加工物に対する試験条件を設定する試験条件設定ステップS1と、実切削試験(模擬切削試験)を実施した際の主軸刃物間距離と複数箇所の温度変化とを測定する主軸刃物間距離及び温度測定ステップS2と、複数箇所の測定温度の変化傾向をグループ化する変化傾向グループ化ステップS3と、測定箇所を絞り込む測定箇所絞込みステップS4と、熱変形推定式を設定する推定式設定ステップS5と、熱変形推定式の各項に対応する測定温度変化量を代入して実験定数を決定する実験定数決定ステップS6と、温度傾向グループの組合せを変えて実験定数決定ステップを複数回繰り返す実験定数決定繰返しステップS7と、を含む工作機械の熱変形推定方法。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
実験計画法を用いて工作機械の実際の加工を考慮した被加工物に対する試験条件を設定する試験条件設定ステップと、前記被加工物に前記試験条件に基づく模擬切削試験及び/又は実切削試験を実施した際の主軸刃物間距離と前記工作機械の複数箇所の温度変化とを測定する主軸刃物間距離及び温度測定ステップと、前記複数箇所の測定温度の変化傾向から同様の傾向を示す箇所をグループ化する変化傾向グループ化ステップと、グループ化した複数の温度傾向グループから複数の温度傾向グループを選択するとともに、選択した各温度傾向グループから一つ又は二つの測定箇所を絞り込む測定箇所絞込みステップと、絞り込んだ測定箇所の数に対応する項数の熱変形推定式を設定する推定式設定ステップと、前記熱変形推定式における各項に対応する測定温度の変化量を代入し、前記被加工物の加工径変化量の実測値との残差二乗和が最小となるように実験定数を決定する実験定数決定ステップと、前記測定箇所絞込みステップにおける前記温度傾向グループの組合せ及び/又は絞り込む測定箇所の組合せを変えて前記推定式設定ステップ及び前記実験定数決定ステップを複数回繰り返す実験定数決定繰返しステップと、前記実験定数決定繰り返しステップの後に、前記熱変形推定式に適した最適な測定箇所の組合せと、最適実験定数を決定する最適実験定数決定ステップと、前記熱変形推定式、最適な測定箇所の組合せ及び前記最適実験定数を用いて前記被加工物の熱変形量を推定する熱変形量推定ステップと、を含むことを特徴とする工作機械の熱変形推定方法。
【請求項2】
前記実験定数決定繰返しステップにおいては、前記測定箇所絞込みステップにおける前記温度傾向グループの組合せ、絞り込む測定箇所の組合せ及び/又は前記熱変形推定式の式形を変えて前記推定式設定ステップ及び前記実験定数決定ステップを複数回繰り返し、前記最適実験定数決定ステップにおいては、工作機械に適した最適熱変形推定式並びにこれに適した最適な測定箇所の組合せ及び前記最適実験定数を決定することを特徴とする請求項1に記載の熱変形推定方法。
【請求項3】
前記実験定数決定繰返しステップにおいては、3、4又は5項数以上からなる3つ以上の熱変形推定式のうち少なくとも任意の2つの熱変形推定式を設定し、少なくとも2つの熱変形推定式を用いて前記温度傾向グループの組合せ及び/又は前記絞り込む測定箇所の組合せを変えて前記推定式設定ステップ及び前記実験定数決定ステップを繰り返すことを特徴とする請求項2に記載の工作機械の熱変形推定方法。
【請求項4】
前記変化傾向グループ化ステップにおいては、基準側の温度変化量に対し、その最大温度変化量で除して前記基準側の温度変化量を無次元化し、そして、比較対象の温度変化に対して係数を掛け、この係数積算の温度変化と無次元化した温度変化との残差二乗和を算出して類似度を演算し、前記類似度に基づいて前記温度変化傾向のグループ化をすることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の工作機械の熱変形推定方法。
【請求項5】
前記主軸刃物間距離及び温度測定ステップにおいては、模擬切削試験を実施した際の前記主軸刃物間距離及び前記工作機械の前記複数箇所の温度変化を測定し、前記推定式設定ステップにおいては、絞り込んだ前記測定箇所の数に対応する項数の基本熱変形推定式に各項に対応する校正係数を掛けた熱変形推定式を設定し、前記実験定数決定ステップにおいては、前記基本熱変形推定式における各項に対応する測定温度を代入し、前記被加工物の加工径変化量の実測値との残差二乗和が最小となるように実験定数を決定し、前記実験定数決定繰返しステップにおいては、前記測定箇所絞込みステップにおける前記温度傾向グループの組合せ及び/又は絞り込む測定箇所の組合せを変えて前記推定式設定ステップ及び前記実験定数決定ステップを複数回繰り返して行い、前記最適実験定数決定ステップにおいては、前記基本熱変形推定式に適した最適な測定箇所の組合せ及び最適実験定数を決定し、更に決定した最適な測定箇所の組合せ及び前記最適実験定数を用いた前記基本熱変形推定式により演算した推定熱変形量と実切削試験の主軸刃物間距離の実熱変形量に基づいて前記基本熱変形推定式の各項に対応する前記校正係数を決定することを特徴とする請求項1に記載の工作機械の熱変形推定方法。
【請求項6】
工作機械はNC旋盤であり、前記実験計画法はオールペア法であり、前記試験条件設定ステップにおいて設定される前記試験条件は、前記被加工物の直径、前記被加工物の加工長さ、前記被加工物の加工回数、加工環境温度の変動、切削油の使用の有無を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の工作機械の熱変形推定方法。
【請求項7】
実験計画法を用いて工作機械の実際の加工を考慮した被加工物に対する試験条件を設定する試験条件設定ステップと、前記被加工物に前記試験条件に基づく模擬切削試験及び/又は実切削試験を実施した際の主軸刃物間距離と前記工作機械の複数箇所の温度変化とを測定する主軸刃物間距離及び温度測定ステップと、前記複数箇所の測定温度の変化傾向から同様の傾向を示す箇所をグループ化する変化傾向グループ化ステップと、グループ化した複数の温度傾向グループから複数の温度傾向グループを選択するとともに、選択した各温度傾向グループから一つ又は二つの測定箇所を絞り込む測定箇所絞込みステップと、絞り込んだ測定箇所の数に対応する項数の熱変形推定式を設定する推定式設定ステップと、前記熱変形推定式における各項に対応する測定温度の変化量を代入し、前記被加工物の加工径変化量の実測値との残差二乗和が最小となるように実験定数を決定する実験定数決定ステップと、前記測定箇所絞込みステップにおける前記温度傾向グループの組合せ及び/又は絞り込む測定箇所の組合せを変えて前記推定式設定ステップ及び前記実験定数決定ステップを複数回繰り返す実験定数決定繰返しステップと、前記実験定数決定繰り返しステップの後に、前記熱変形推定式に適した最適な測定箇所の組合せと最適実験定数を決定する最適実験定数決定ステップと、前記熱変形推定式、最適な測定箇所の組合せ及び前記最適実験定数を用いて前記被加工物の熱変形量を推定する熱変形量推定ステップと、一つ前の加工工程の前記被加工物の熱変形量と今回の加工工程の前記被加工物の熱変形量との熱変形量差を演算する変形量差演算ステップと、前記変形量差演算ステップにて演算された前記熱変形量差を補正する熱変形補正ステップと、を含むことを特徴とする工作機械の熱変形補正方法。




















【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工中の熱によって発生する被加工物の熱変形量を推定する工作機械の熱変形推定方法及びこの熱変形推定方法を用いて推定した熱変形量に基づいて補正を行う熱変形補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加工中の熱によって発生する被加工物の熱変形量を推定する方法として、主軸に関連して第1温度センサを設け、加工工具と一体的に移動する移動部材を移動させるボールねじ機構に関連して第2温度センサを設け、また周囲の温度を検知するための第3温度センサを設け、第1~第3温度センサの検知温度を用いて被加工物の熱変形量を推定する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この熱変形推定方法では、主軸部の熱変形量(H1)については、主軸部熱変形補正式を用いて演算され、この主軸部熱変形量(H1)は、工作機械のベッドの熱変形量(C1)と主軸の軸受手段の熱変形量(C2)の和(H1=C1+C2)として表される。
【0004】
ベッドの熱変形量(C1について)は、第1温度センサの初期温度(T0)、周囲温度(T1)、及び第1温度センサの温度変化量(ΔTs)を用いて、次式(1)、
C1=[a1+(a2×T0)+(a3×T1)]×ΔTs ・・・(1)
a1,a2,a3:係数
で表される。また、主軸の軸受手段の熱変形量(C2)については、主軸の回転速度(N)、第1温度センサの初期温度(T0)、周囲温度(T1)、収束するまでの経過時間(t)を用いて、次式(2)、
C2=N×[b1+(b2×T0)+(b3×T1)]×
{1-exp[(ln0.1)×t/30)]} ・・・(2)
b1,b2,b3:係数
で表される。
【0005】
また、移動部材の熱変形量(H2)については、移動部材熱変形補正式を用いて演算され、この熱変形量(H2)については、第2温度センサの温度変化(ΔTb)を用いて、次式(3)、
H2=Σpi×ΔTb ・・・(3)
pi:係数
で表される。
【0006】
被加工物の熱変形量(HA)は、主軸部の熱変形量(H1)と移動部材の熱変形量(H2)との合成変形量(HA=H1+H2)となり、この合成変形量(HA)でもって補正することによって、加工中に発生する熱による影響を抑えて高精度の加工を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4450722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の上述した方法では、工作機械の主軸部の熱変形、即ち第1温度センサの温度変化と移動部材(加工工具が取り付けられる)の熱変形、即ち第2温度センサの温度変化を考慮したものであるが、実際には、工作機械の機種によって温度変化を測定すべき箇所は異なることが予測される。依って、工作機械によって測定すべき箇所の温度変化を考慮した熱変形量の推定方法の実現が望まれている。
【0009】
また、被加工物を加工する際の加工条件には種々の条件、例えば被加工物の直径、被加工物の軸方向の加工長さ、被加工物の加工回転数、加工環境温度の変動、切削油の使用の有無、被加工物の材質などがあり、これら種々の加工条件が変わっても適用できる熱変形量の推定方法の実現が望まれている。
【0010】
本発明の目的は、それぞれの工作機械において熱変形を推定するに適した少数の温度変化測定箇所を考慮するとともに、少数の実験から広い加工条件に適用することができる工作機械の熱変形推定方法を提供することである。
【0011】
また、本発明の他の目的は、この熱変形推定方法を用いて推定した熱変形量に基づいて補正する工作機械の熱変形補正方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の工作機械の熱変形推定方法は、実験計画法を用いて工作機械の実際の加工を考慮した被加工物に対する試験条件を設定する試験条件設定ステップと、前記被加工物に前記試験条件に基づく模擬切削試験及び/又は実切削試験を実施した際の主軸刃物間距離と前記工作機械の複数箇所の温度変化とを測定する主軸刃物間距離及び温度測定ステップと、前記複数箇所の測定温度の変化傾向から同様の傾向を示す箇所をグループ化する変化傾向グループ化ステップと、グループ化した複数の温度傾向グループから複数の温度傾向グループを選択するとともに、選択した各温度傾向グループから一つ又は二つの測定箇所を絞り込む測定箇所絞込みステップと、絞り込んだ測定箇所の数に対応する項数の熱変形推定式を設定する推定式設定ステップと、前記熱変形推定式における各項に対応する測定温度の変化量を代入し、前記被加工物の加工径変化量の実測値との残差二乗和が最小となるように実験定数を決定する実験定数決定ステップと、前記測定箇所絞込みステップにおける前記温度傾向グループの組合せ及び/又は絞り込む測定箇所の組合せを変えて前記推定式設定ステップ及び前記実験定数決定ステップを複数回繰り返す実験定数決定繰返しステップと、前記実験定数決定繰り返しステップの後に、前記熱変形推定式に適した最適な測定箇所の組合せと、最適実験定数を決定する最適実験定数決定ステップと、前記熱変形推定式、最適な測定箇所の組合せ及び前記最適実験定数を用いて前記被加工物の熱変形量を推定する熱変形量推定ステップと、を含むことを特徴とする。
【0013】
このような工作機械の熱変形推定方法では、実験定数決定繰返しステップにおいて、測定箇所絞込みステップにおける温度傾向グループの組合せ、絞り込む測定箇所の組合せ及び/又は熱変形推定式の式形を変えて推定式設定ステップ及び実験定数決定ステップを複数回繰り返し、最適実験定数決定ステップにおいて、工作機械に適した最適熱変形推定式並びにこれに適した最適な測定箇所の組合せ及び最適実験定数を決定するようにするのが好ましく、このようにすることによって、工作機械に適した最適熱変形推定式並びにこの最適熱変形推定式における最適な測定箇所の組合せ及び最適実験定数を決定することができ、これにより、工作機械の熱変形量を正確に推定することができる。
【0014】
また、実験定数決定繰返しステップにおいては、3、4又は5項数以上からなる3つ以上の熱変形推定式のうち少なくとも任意の2つの熱変形推定式を設定し、少なくとも2つの熱変形推定式を用いて温度傾向グループの組合せ及び/又は絞り込む測定箇所の組合せを変えて推定式設定ステップ及び実験定数決定ステップを繰り返すことにより、熱変形推定式として3、4又は5項数以上からなる適した項数の一次式で表すことができ、比較的簡易化した熱変形推定式として提供することができる。
【0015】
また、このような工作機械の熱変形推定方法においては、変化傾向グループ化ステップにおいては、基準側の温度変化量に対し、その最大温度変化量で除して基準側の温度変化量を無次元化し、そして、比較対象の温度変化に対して係数を掛け、この係数積算の温度変化と無次元化した温度変化との残差二乗和を算出して類似度を演算し、類似度に基づいて温度変化傾向のグループ化をするのが好ましく、このように類似度に基づいてグループ化することにより、温度の変化が同じように又は類似して変動する箇所を多数含めるように絞り込むのを避けることができる。
【0016】
また、このような工作機械の熱変形推定方法では、主軸刃物間距離及び温度測定ステップにおいては、模擬切削試験を実施した際の主軸刃物間距離及び工作機械の複数箇所の温度変化を測定し、この場合においては、推定式設定ステップにおいて、絞り込んだ測定箇所の数に対応する項数の基本熱変形推定式に各項に対応する校正係数を掛けた熱変形推定式を設定し、実験定数決定ステップにおいては、基本熱変形推定式における各項に対応する測定温度を代入して実験定数を決定し、実験定数決定繰返しステップにおいては、温度傾向グループの組合せ及び又は絞り込む測定箇所の組合せを変えて推定式設定ステップ及び実験定数決定ステップを複数回繰り返して基本熱変形推定式に適した最適実験定数を決定し、更に決定した最適実験定数を用いた基本熱変形推定式により演算した推定熱変形量と実切削試験の主軸刃物間距離の実熱変形量に基づいて基本熱変形推定式の各項に対応する校正係数を決定するのが好ましく、このように構成することによって、模擬切削試験の利用を多くしながらも熱変形量を正確に推定することができる。
【0017】
また、この工作機械の熱変形推定方法では、実験計画法としてオールペア法を用い、試験条件設定ステップにおいて設定される試験条件として、被加工物の直径、被加工物の加工長さ、被加工物の加工回数、加工環境温度の変動、切削油の使用の有無を含めることによって、各因子の水準数に制限されずに、一般的な加工条件を考慮した汎用的な熱変形推定式を提供することができる。
【0018】
更に、本発明の工作機械の熱変形補正方法は、実験計画法を用いて工作機械の実際の加工を考慮した被加工物に対する試験条件を設定する試験条件設定ステップと、前記被加工物に前記試験条件に基づく模擬切削試験及び/又は実切削試験を実施した際の主軸刃物間距離と前記工作機械の複数箇所の温度変化とを測定する主軸刃物間距離及び温度測定ステップと、前記複数箇所の測定温度の変化傾向から同様の傾向を示す箇所をグループ化する変化傾向グループ化ステップと、グループ化した複数の温度傾向グループから複数の温度傾向グループを選択するとともに、選択した各温度傾向グループから一つ又は二つの測定箇所を絞り込む測定箇所絞込みステップと、絞り込んだ測定箇所の数に対応する項数の熱変形推定式を設定する推定式設定ステップと、前記熱変形推定式における各項に対応する測定温度の変化量を代入し、前記被加工物の加工径変化量の実測値との残差二乗和が最小となるように実験定数を決定する実験定数決定ステップと、前記測定箇所絞込みステップにおける前記温度傾向グループの組合せ及び/又は絞り込む測定箇所の組合せを変えて前記推定式設定ステップ及び前記実験定数決定ステップを複数回繰り返す実験定数決定繰返しステップと、前記実験定数決定繰り返しステップの後に、前記熱変形推定式に適した最適な測定箇所の組合せと、最適実験定数を決定する最適実験定数決定ステップと、前記熱変形推定式、最適な測定箇所の組合せ及び前記最適実験定数を用いて前記被加工物の熱変形量を推定する熱変形量推定ステップと、一つ前の加工工程の前記被加工物の熱変形量と今回の加工工程の前記被加工物の熱変形量との熱変形量差を演算する変形量差演算ステップと、前記変形量差演算ステップにて演算された前記熱変形量差を補正する熱変形補正ステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の工作機械の熱変形推定方法によれば、実験計画法を用いて工作機械の実際の加工を考慮した被加工物に対する試験条件を設定し(試験条件設定ステップ)、試験条件に基づく模擬切削試験及び/又は実切削試験を実施した際の主軸刃物間距離と工作機械の複数箇所の温度変化とを測定する(主軸刃物間距離及び温度測定ステップ)ので、設定した試験条件における主軸刃物間距離と複数箇所の温度変化に関するデータを取得することができる。そして、測定温度の変化傾向から同様の傾向を示す箇所をグループ化し(変化傾向グループ化ステップ)、これら温度傾向グループから複数の温度傾向グループを選択するとともに、選択した各温度傾向グループから一つ又は二つの測定箇所を絞り込む(測定箇所絞込みステップ)ので、温度傾向の異なる複数箇所を絞り込んで異なる箇所の温度変化を考慮した熱変形量を推定することができる。また、絞り込んだ測定箇所の数に対応する項数の熱変形推定式を設定し(推定式設定ステップ)、この熱変形推定式における各項に対応する測定温度の変化量を代入して実験定数を決定し(実験定数決定ステップ)、温度傾向グループの組合せ及び/又は絞り込む測定箇所の組合せを変えて推定式設定ステップ及び実験定数決定ステップを複数回繰り返し(実験定数決定繰返しステップ)、この実験定数決定繰り返しステップの後に、熱変形推定式に適した最適な測定箇所の組合せと最適実験定数を決定し(最適実験定数決定ステップ)、この熱変形推定式、最適な測定箇所の組合せ及び最適実験定数を用いて被加工物の熱変形量を推定する(熱変形量推定ステップ)ので、被加工物の熱変形量を工作機械の異なる適切な少数の箇所の温度変化を考慮して推定することができ、比較的簡単な式を利用して精度良く熱変形量を正確に推定することができる。
【0020】
また、本発明の工作機械の熱変形補正方法によれば、上述した熱変形推定方法により被加工物の熱変形量を推定し、推定したこの熱変形量を用い、一つ前の加工工程の被加工物の熱変形量と今回の加工工程の被加工物の熱変形量との差を演算し(変形量差演算ステップ)、この変形量差でもって補正する(熱変形補正ステップ)ので、比較的簡単に熱変形補正して被加工物を高精度に加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に従う熱変形推定方法(熱変形補正方法)を適用するNC旋盤の一例を模式的に示す正面側からの斜視図。
図2図1のNC旋盤を模式的に示す背面側からの斜視図。
図3図1のNC旋盤に適用された熱変形推定方法を実行する流れを示す図。
図4図3の熱変形推定方法の試験条件設定ステップにおける試験条件を説明するための説明図。
図5】温度変化傾向をグループ化するときに用いる類似度を説明するための図であって、図5(a)は、時間と温度変化との関係を示す図、図5(b)は、類似度の算出を説明するための図。
図6】熱変形推定式をNC旋盤に適用して加工するときの流れを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明に従う熱変形推定方法及びこれを用いた熱変形補正方法の一実施形態を工作機械の一例としてのNC旋盤に適用して説明する。まず、図1及び図2を参照して、熱変形推定方法(熱変形補正方法)を適用する工作機械の一例としてのNC旋盤について概説する。
【0023】
図1及び図2において、図示のNC旋盤は、工場の床面などに設置される旋盤本体2を具備している。この旋盤本体2はベッド3を備え、このベッド3の左部に主軸部4が設けられ、その右部にタレット装置6が取り付けられている。主軸部4には主軸7が回転自在に支持され、この主軸7の後端部に駆動プーリ8が取り付けられ、主軸用駆動モータ10の出力部と駆動プーリ8とが駆動ベルト(図示せず)を介して駆動連結されている。主軸7にはチャック手段12が装着され、このチャック手段12に加工すべき被加工物(図示せず)が着脱自在に取り付けられる。このように構成されているので、主軸用駆動モータ10が作動すると、駆動ベルト及び駆動プーリ8を介して主軸7が所定方向に回動され、この主軸7の回動によってチャック手段12(これに装着された被加工物)が一体的に回動される。
【0024】
このNC旋盤では、旋盤本体2に移動部材14が支持され、この移動部材14に支持テーブル16が支持され、この支持テーブル16にタレット装置6が取り付けられている。この実施形態では、移動部材14は、旋盤本体2の横方向、即ち主軸7の軸方向(Z軸方向)に延びる第1支持機構18を介して旋盤本体2に移動自在に支持され、第1支持機構18を介してZ軸方向に往復移動される。また、支持テーブル16は、旋盤本体2の前後方向(X軸方向)に延びる第2支持機構20を介して移動部材14に移動自在に支持され、この第2支持機構20を介してX軸方向に往復移動される。尚、第1支持機構18は、移動部材を移動させるための第1駆動モータ22を含み、また第2支持機構20は、支持テーブル16を移動させるための第2駆動モータ24を含んでいる。
【0025】
タレット装置6は、タレット本体26を備え、このタレット本体26にタレット軸(図示せず)が回転自在に支持され、このタレット軸にタレット28が取り付けられている。タレット本体26にはタレット用駆動モータ25が取り付けられ、このタレット用駆動モータ25がタレット軸に駆動連結されている。このように構成されているので、このタレット用駆動モータ25が所定方向(又は所定方向と反対方向)に回動すると、タレット軸を介してタレット28が所定方向(又は所定方向と反対方向)に回動される。このタレット28には、周方向に間隔をおいて複数の工具取付部30が設けられ、これら工具取付部30に被加工物を加工するための加工工具(図示せず)が取り付けられる。
【0026】
このNC旋盤においては、被加工物を加工するときには、例えば、主軸7及びチャック手段12(これに取り付けられた被加工物)が、主軸用駆動モータ10によって所定方向に回動される。また、支持テーブル16が、第2駆動モータ24によってX軸方向(即ち、被加工物の中心に近接する方向)に移動され、この移動によって加工の際の切込み量が設定される。更に、移動部材14が、第1駆動モータ22によってZ軸方向(即ち、被加工物の軸方向)に移動され、この移動によって被加工物の軸方向の加工長さが設定される。主軸用駆動モータ10並びに第1及び第2駆動モータ22,24をこのように作動させ、タレット装置6に取り付けられた加工工具(図示せず)をチャック手段12に保持された被加工物(図示せず)に作用させることによって、被加工物に対する加工が行われる。
【0027】
このようなNC旋盤においては、被加工物に対する切削加工などを行うと、主軸用駆動モータ10、第1及び第2駆動モータ22,24から生じる熱、主軸7の回転により生じる熱、第1及び第2支持機構18,20にて発生する熱などによってNC旋盤の温度が上昇し、この温度変動によって被加工物に熱変形が生じ、このことに起因して、被加工物に対する加工精度が低下するようになる。そこで、この実施形態のNC旋盤では、次の熱変形推定方法を用いて熱変形量を推定し、この推定した熱変形量を用いて熱変形補正方法により熱変形補正するように構成されている。
【0028】
次に、このNC旋盤に適用される熱変形推定方法について説明する。この実施形態では、熱変形推定方法は、図3に示す各種ステップS1~S7を含み、これらステップS1~S7が図3に示すフローに沿って実行される。
【0029】
この熱変形推定方法では、まず、試験条件設定ステップS1が行われる。この実施形態では、直交表、オールペア法(All Pair法)などを用いた実験計画法による試験条件の立案が行われる。実験計画法を適用する試験条件の因子(Factor)及び水準(Level)は、例えば表1に示す通りに組み合わされる。
【0030】
【表1】
図4を参照して、表1における加工径(D)(mm)は、被加工物の加工終了時の加工径であり、加工長さ(L)(mm)は、主軸の軸方向の加工範囲であり、加工回数(N)は、1サイクル中の荒加工の回数である。また、周囲温度(T)における「温度上昇」とは、試験開始前までは20℃に、試験開始後から3時間までは25℃に、それ以降は30℃に保って加工を行うことであり、「温度一定」とは、常時20℃保って加工を行うことであり、また「温度低下」とは試験開始前までは30℃に、試験開始から3時間までは25℃に、それ以降は20℃に保って加工を行うことである。この試験条件における加工径(D)、加工長さ(L)、加工回数(N)及び周囲温度(T)については、NC旋盤の機種などにより、適宜の値に設定することができる。
【0031】
尚、加工回数は、荒加工の回数であり、この荒加工の後に1回の仕上げ加工を行い、この仕上げ加工の後に加工工具Kの先端と被加工物Pの外周面との間の主軸刃物間距離Cを計測するようになる。
【0032】
そして、表1の因子(Factor)及び水準(Level)を表2に示すようにL9直交表に適用し、例えば表2に示す通りの試験条件を決定する。試験時間(試験番号L1~L9の試験の時間)は、一般的な試験時間を想定して例えば6~10時間程度(例えば、8時間)と設定し、この試験期間中に保守作業などによる加工停止を設けるようにしてもよく、例えば、試験開始後1時間で10分間程度、試験開始後3時間で60分間程度、試験開始後5時間で20分間程度設けるようにしてもよい。
【0033】
【表2】
このようして実験計画法を用いて試験条件を設定すると、次に、主軸刃物間距離及び温度測定ステップS2が実行される。NC旋盤の複数箇所(この実施形態では、22箇所であって、第1~第22箇所Ch1~Ch22)に対応して温度変化を測定するために第1~第22温度検知センサSE1~SE22が取り付けられる。第1~第22温度検知センサSE1~SE22としては、例えば、一般的に使用されているT型熱電対を用いることができ、このT型熱電対によって、NC旋盤の複数の第1~第22箇所Ch1~Ch22の温度状態を検知する。
【0034】
例えば、NC旋盤の第1~第22箇所Ch1~Ch22に、対応する第1~第22温度検知センサSE1~SE22が配設され、例えば第1~第22箇所Ch1~Ch22(第1~第22温度検知センサSE1~SE22が配設される箇所)とNC旋盤の部位との関係は、表3に示す通りである。これらの第1~第22箇所Ch1~Ch22のうち図示できるものの一部については、図1及び図2に示す。尚、この温度を計測する箇所については適宜設定することができ、第1~第22箇所Ch1~Ch22の一部を変更したり、これら箇所の一部を省略したりするができ、或いは第1~第22箇所Ch1~Ch22に更に別の箇所を追加したりすることができる。
【0035】
【表3】
この実施形態においては、NC旋盤は簡易的な空調室に設置して試験を行い、表3におけるCh18(環境温度)とは、この簡易的な空調室の温度であり、またCh19(空調室外気)とは、この簡易的な空調室の外側の温度である。
【0036】
この主軸刃物間距離及び温度測定ステップS2においては、表2の試験番号の試験を行い、各被加工物に対する試験加工の1サイクルが終了した時点における第1~第22箇所Ch1~Ch22の温度を計測するとともに、試験加工した主軸刃物間距離Cを計測し、これら計測温度及び主軸刃物間距離Cをコンピュータの記憶装置(図示せず)などに記憶する。
【0037】
この主軸刃物間距離及び温度計測ステップS2における試験は、被加工物Pを実際に切削加工する実切削試験を行うようにしてもよく、或いはこの実切削試験と、被加工物Pを加工するのと同様に切削工具を移動させる模擬切削試験(被加工物を実際に切削加工しない試験)とを組み合わせた実切削及び模擬切削試験を行うようにしてもよい。この場合、例えば、模擬切削試験においては、被加工物としてダミー加工物を用い、また切削工具を実切削試験と同様に移動させて模擬試験を行う。また、実切削試験においては、切削液を用いる場合と切削液を用いない場合とを組み合わせて実切削試験を行い、このように切削液の有無を組み合わせることにより、切削液を使用した切削加工及び切削液を使用しない加工を含む切削加工における熱変形量を推定することができる。
【0038】
尚、実切削試験及び模擬切削試験においては、切削工具Kは、例えば、図4における原点OからX軸方向に移動させ、その後Z軸方向に移動させ、実切削試験においては被加工物Pに切削工具Kを作用させて実切削を行い、模擬切削試験においてはダミー加工物(図示せず)に切削工具Kを作用させることなく移動させて模擬切削を行い、実切削試験及び模擬切削試験の1サイクルが終了した後に原点に復帰させ、かく復帰させた状態において第1~第22箇所Ch1~Ch22の温度を第1~第22温度検知センサSE1~SE22により検知するとともに、主軸刃物間距離(C)(図4参照)を計測する。
【0039】
このようにしてNC旋盤の第1~第22箇所Ch1~Ch22の温度変化(即ち、第1~第22温度検知センサSE1~SE22の検知温度の変化)について、その温度変化傾向をグループ化し(変化傾向グループ化ステップS3)、グループ化した複数のグループから測定箇所の絞込みを行う(測定箇所絞込みステップS4)。
【0040】
変化傾向グループ化ステップS3においては、類似度というパラメータを定義し、このパラメータを用いて類似度の値が小さいほど温度変化傾向が類似しているとしてグループ化する。この類似度を算出する際には、ある試験条件(この実施形態では、表2の試験番号の試験)において、比較する温度測定箇所を二つ選出し、この実施形態では、第1~第22箇所Ch1~Ch22のうち任意の二つを選定し、選出した二つの測定箇所の一方を基準対象とし、残りの他方を比較対象として類似度を算出する。
【0041】
図5を参照してこの類似度について説明すると、例えば、図5(a)に示すように、基準対象の測定箇所A(例えば、第1箇所Ch1とする)の温度が、実線ΔT1で示すように変化し、比較対象の測定箇所B(例えば、第2箇所Ch2とする)の温度が破線ΔT2で示すように変化するとする。
【0042】
この類似度を算出するには、まず、図5(b)に示すように、基準対象の測定箇所A(第1箇所Ch1)についての温度変化量(ΔT1)をその最大温度変化量(ΔTmax)で除して、測定箇所A(基準箇所)の温度変化量を無次元化する。
【0043】
次いで、比較対象の測定箇所B(第2箇所Ch2)の温度変化に対して係数α(℃-1)を掛け、この値と上述の無次元化した測定箇所Aの温度変化との残差二乗和を算出する。そして、対象とするすべての試験(この実施形態では、表2の試験番号のすべての試験)についてのこの残差二乗和の和を、測定箇所A(第1箇所Ch1)と測定箇所B(第2箇所Ch2)の類似度として定義して類似度を算出する。尚、上記係数αは、類似度が最小となるように決定される値である。
【0044】
この類似度について、すべての測定箇所、即ち第1~第22箇所Ch1~Ch22の組合せに対して行った結果を表4に一覧として示す。
【0045】
【表4】
このような定義の類似度は、比較に用いた二つの測定箇所(基準対象の測定箇所と比較対象の測定箇所)の温度変化量の残差二乗和の和であるために、この類似度が小さいほど、その二箇所の測定箇所の温度変化傾向の相関が高くなり、このようにしてすべての測定箇所について類似化傾向を判断する。
【0046】
温度変化傾向をグループ化するに際し、同一温度測定箇所を除く二つの測定箇所の間の類似度を、その値の低い順に順次抽出し、重複する組合せを除いてグループ分けをする。このグループ分けについてしきい値を設定し、このしきい値に基づいてグループ化を行う。尚、このしきい値については、適宜の値を設定することができる。
【0047】
上述したようにして類似度に基づいて第1~第22箇所Ch1~Ch22における温度変化傾向をグループ化すると、例えば表5に示すようになり、この実施形態では第1~第9グループ(G1~G9)に分類される。
【0048】
【表5】
そして、この温度変化傾向のグループ、この実施形態では第1~第9グループG1~G9から測定箇所の絞り込みが行われる(測定箇所絞込みステップS4)。この絞込みにおいては、設定する熱変形推定式の項数に対応する数の測定箇所を選択し、例えば、4項の熱変形推定式を設定するときには4箇所の測定箇所を選択し、例えば3項(又は5項)の熱変形式を設定するときには3箇所(又は5箇所)の測定箇所を選択するようになる。
【0049】
この絞込みにおいては、一つのグループから一つ又は二つの測定箇所を絞り込むようになり、一つのグループから三つ以上の測定箇所を絞り込んだときには、選択した特定グループの温度変化を重視したものとなり、NC旋盤全体の温度変化を考慮したものとならず望ましくない。また、この絞込みにおいては、最も多く(この場合、10個)の測定箇所を含む第2グループG2を含めるのが望ましく、この第2グループG2を含めることによりNC旋盤の代表的な測定箇所の温度変化を考慮したものとなり、被加工物Pの熱変形量をより正確に推定することが可能となる。
【0050】
上述したことを考慮して、この実施形態においては、最も多く(この場合、10個)の測定箇所を含む第2グループG2と、第2番目に多く(この場合、5個)の測定箇所を含む第3グループG3と、残りの7つのグループ(測定箇所を一つ含むグループ)のうちから例えば第5及び第7グループG5,G7を選択する。尚、残りの7つのグループについては、NC旋盤に関連する温度を測定した測定箇所(即ち、第19測定箇所Ch19を除く他の測定箇所)を含むグループのうちから任意の二つのグループを選択するようにしてもよく、例えば第5及び第7グループG5,G7に代えて、第4及び第6グループG4,G6を選択するようにしてもよい。
【0051】
そして、選択したグループ(第2グループG2、第3グループG3、第5グループG5及び第7グループG7)から測定箇所を一つ絞り込む。この実施形態では、第2グループG2については、10個の測定箇所のうちから例えば第6測定箇所Ch6を絞り込み、第3グループG3については、5個の測定箇所のうちから例えば第12測定箇所Ch12を絞り込み、また第5グループ5Gについては、第8測定箇所Ch8を絞り込み、第7グループG7については、第14測定箇所Ch14を絞り込み、このようにして測定箇所の組合せを選定する。
【0052】
第2グループG2においては、同一又は類似の温度変化傾向を示す10個の測定箇所が含まれているので、第6測定箇所Ch6に代えて、残りの9個の測定箇所から任意の一つ、例えば第2測定箇所Ch2、第22測定箇所Ch22、第5測定箇所Ch5、第11測定箇所Ch11、第18測定箇所Ch18、第20測定箇所Ch20、第21測定箇所Ch21、第9測定箇所Ch9及び第15測定箇所Ch15のいずれかを絞り込んで測定箇所の組合せを選定するようにしてもよい。
【0053】
また、第3グループG3についても、第2グループG2と同様に、第12測定箇所Ch12に代えて、例えば第3測定箇所Ch3、第7測定箇所Ch7、第13測定箇所Ch13及び第16測定箇所Ch16のうちからいずれかを絞り込んで測定箇所の組合せを選定するようにしてもよい。
【0054】
このようにして4箇所の測定箇所の絞り込みを行うと、次に、旋盤本体2(ベッド3)の熱変形によって発生する被加工物Pの熱変形量ΔD(即ち、加工径変化量)を求める熱変形推定式を設定する(推定式設定ステップS5)。この実施形態では、4つの測定箇所に絞り込んだので、この測定箇所の個数に対応する項数の熱変形推定式、即ち4項の熱変形推定式を設定するようになる。この場合、旋盤本体2(ベッド3)の熱変形によって発生する被加工物Pの加工径変化量の予測量ΔD1は、次式(1)、
ΔD1=a1×ΔT1+a2×ΔT2+a3×ΔT3+a4×ΔT4 ・・・(1)
で表すことができる。この式(1)において、ai(i=1~4)は実験定数であり、ΔTi(i=1~4)は各測定箇所における温度変化量である。
【0055】
尚、例えば3つの測定箇所に絞り込んだときには、この熱変形推定式(即ち、旋盤本体2の熱変形によって発生する被加工物Pの加工径変化量の予測量ΔD2)は、次式(2)、
ΔD2=a1×ΔT1+a2×ΔT2+a3×ΔT3 ・・・(2)
で表わすことができる。
【0056】
次に、上記式(1)に測定温度(具体的には、測定温度変化量)を代入し、被加工物Pの加工径変化量の実測値と上記(1)式を用いた被加工物Pの加工径変化予測量ΔD1との残差二乗和が最小となるように実験定数a1~a4を決定する(実験定数決定ステップS6)。この実施形態においては、温度変化量ΔT1については、例えば第2グループG2の第6測定箇所Ch6の温度変化量を代入し、温度変化量ΔT2については、例えば第3グループG3の第12測定箇所Ch12の温度変化量を代入し、温度変化量ΔT3については、例えば第5グループG5の第8測定箇所Ch8の温度変化量を代入し、また温度変化量ΔT4については、例えば第7グループG7の第14測定箇所Ch14の温度変化量を代入する。この残差二乗和の演算については、例えば、簡単な数値解法で計算することができる。
【0057】
そして、この計算結果を用いて熱変形推定式の実験定数a1~a4を決定する(実験定数決定ステップS7)。このようにして決定した実験定数は、例えば表6に示す通りとなる。
【0058】
【表6】
この表6に示す実験定数a1~a4を用いることにより、上記式(1)は、次の式(3)、
ΔD1=5.37×ΔT1+0.50×ΔT2-4.83×ΔT3+
0.26×ΔT4 ・・・(3)
と表すことができ、このようにして上述したNC旋盤を用いたときの旋盤本体2(ベッド3)の熱変形による被加工物Pの加工径変化予測量ΔD1(ΔD3)を演算する熱変形推定式を決定することができる。
【0059】
より最適な実験定数を決定するために、測定箇所絞込みステップS4における温度傾向グループの組合せ及び/又は絞り込む測定箇所の組合せを変えて推定式設定ステップS5及び実験定数決定ステップS6を複数回(例えば、10~30回程度)繰り返すようにする(実験定数決定繰返しステップS7)。第2回目においては、例えば第2グループG2については、例えば第2測定箇所Ch2を絞り込み、例えば第3グループG3については、例えば第7測定箇所Ch7を絞り込み、また例えば第4グループG4については、第4測定箇所Ch4を絞り込み、例えば第6グループG6については、第10測定箇所Ch10を絞り込み、このようにして測定箇所の組合せを変える(測定箇所絞込みステップS4)。このようにして第2回目の4箇所の測定箇所の絞り込みを行うと、次に、旋盤本体2(ベッド3)の熱変形によって発生する被加工物Pの熱変形量ΔD(即ち、加工径変化量)を求める(推定式設定ステップS5)。この場合においても、旋盤本体2(ベッド3)の熱変形によって発生する被加工物Pの加工径変化量の予測量ΔD1は、次式(1)、
ΔD1=a1×ΔT1+a2×ΔT2+a3×ΔT3+a4×ΔT4 ・・・(1)
で表すことができ、この式(1)に測定温度(具体的には、測定温度変化量)を代入し、被加工物Pの加工径変化量の実測値と上記(1)式を用いた被加工物Pの加工径変化予測量ΔD1との残差二乗和が最小となるように実験定数a1~a4を決定する。この第2回目の場合、温度変化量ΔT1については、例えば第2グループG2の第2測定箇所Ch2の温度変化量を代入し、温度変化量ΔT2については、例えば第3グループG3の第7測定箇所Ch7の温度変化量を代入し、温度変化量ΔT3については、例えば第4グループG4の第4測定箇所Ch4の温度変化量を代入し、また温度変化量ΔT4については、例えば第6グループG6の第10測定箇所Ch10の温度変化量を代入する。この残差二乗和の演算についても、上述したと同様に、簡単な数値解法を用いて計算することができる。そして、この計算結果を用いて第2回目の実験定数a1~a4を決定する(実験定数決定ステップS6)。
【0060】
このようにして測定箇所絞込みステップS4における温度傾向グループの組合せ及び/又は絞り込む測定箇所の組合せを変えて推定式設定ステップS5及び実験定数決定ステップS6を複数回繰り返して実験定数決定繰返しステップS7を行う。尚、この実験定数決定繰返しステップS7における繰返しは適宜の数にすることができ、温度傾向グループの組合せ及び絞り込む測定箇所の組合せの全てについて行うようにしてもよい。
【0061】
その後、熱変形推定式に適した最適な測定箇所の組合せと最適実験定数を決定する最適実験定数決定ステップS8が行われる。この最適実験定数の決定については、複数の組合せによりそれぞれ決定した実験定数を代入した熱変形推定式を用いて被加工物Pの熱変形量ΔD(即ち、加工径変化量)を演算し、これら演算した熱変形推定式のうち実際の加工による被加工物の熱変形量に最も近い熱変形推定式が決まり、この熱変形推定式における実験定数が最適実験定数となる。
【0062】
このようにして最適実験定数が決まると、最適な測定箇所も決まり、これにより、この最適実験定数を適用した熱変形推定式も決定し、この熱変形推定式、最適な測定箇所の組合せ及び最適実験定数を用いて被加工物Pの熱変形量を正確に推定することが可能となる(熱変形量推定ステップS9)。この熱変形推定式(3)を用いる場合、上述した第1~第22測定箇所Ch1~Ch22に第1~第22温度検知センサSE1~SE22を設ける必要はなく、この熱変形推定式(3)を決定する際に絞り込んだ測定箇所に温度検知センサを設けるようにすればよい。
【0063】
例えば、最適実験定数として決定した熱変形推定式において採用した温度変動の測定箇所が、例えば第6測定箇所Ch6、第12測定箇所Ch12、第8測定箇所Ch8及び第14測定箇所Ch14である場合、第6測定箇所Ch6に対応して第6温度検知センサSE6、第12測定箇所Ch12に対応して第12温度検知センサSE12、第8測定箇所Ch8に対応して第8温度検知センサSE8、また第14測定箇所Ch14に対応して第14温度検知センサSE14を設けるようにすればよく、この熱変形推定式(3)を決定した後は、比較的簡単な構成でもって、被加工物Pの加工径変化予測量を正確に演算することができる。
【0064】
このようにして得られた熱変形推定式(3)は、被加工物Pの熱変形補正に適用することができ、例えばNC旋盤に実際に適用して加工する場合、例えば、図6に示す流れに沿って次のようにして行うことができる。まず、被加工物に対する所定の加工(例えば、切削加工)の1サイクルを行う(加工ステップS11)。
【0065】
この加工サイクルが終了すると、4つの測定箇所(この場合、例えば、第6測定箇所Ch6、第12測定箇所Ch12、第8測定箇所Ch8及び第14測定箇所Ch14)についての温度を温度検知センサ(この場合、第6温度検知センサSE6、第12温度検知センサSE12、第8温度検知センサSE8及び第14温度検知センサSE14)により計測する(温度測定ステップS12)。
【0066】
次いで、4つの測定箇所についての計測温度を用いて被加工物の熱変形予測量を演算する(予測量演算ステップS13)。熱変形推定式(3)を用いるに際し、4つの測定箇所の温度変化量(ΔT1~ΔT4)を算出し、この温度変化量(ΔT1~ΔT4)を上記熱変形式(3)に代入して演算し、このようにして今回の加工サイクルにおける熱変形予測量を演算する。今回の熱変形予測量(熱変形推定量)については、次の加工サイクルにて用いるので、記憶装置などに登録する。
【0067】
その後、一つ前の加工サイクルにおける熱変形予測量と今回の加工サイクルにおける熱変形予測量との予測量差を演算し(予測量差演算ステップS14)、この予測量差が、次ぎの加工サイクルに反映されるように熱変形補正するようになる(熱変形補正ステップS15)。即ち、この予測量差が被加工物を加工するための加工条件に加えられ、このようにして熱変形補正が行われる。そして、次の加工サイクルにおいては、熱変形補正した加工条件でもって加工サイクルが遂行され、このようにして熱変形補正を繰り返し行いながら被加工物に対する加工(切削加工)が行われ、このように加工することにより、熱変形を少なく抑えた高精度な加工が可能となる。
【0068】
上述した実施形態では、被加工物の加工の1サイクル毎に熱変形補正を行う実施例について説明したが、このような熱変形補正は被加工物の複数サイクル(例えば、適宜のサイクル数、例えば3サイクル)毎に行うようにしてもよい。
【0069】
上述したようにして決定した熱変形推定式が、例えばNC旋盤に実際に適用可能であるかを実証したところ、表7及び表8に示す通りの結果が得られた。
【0070】
【表7】
【0071】
【表8】
表7は、切削油を使用しない場合における結果を示し、表8は、切削油を使用した場合における結果を示し、切削油を使用した場合及び使用しない場合の双方において、上記熱変形推定式を用いることにより熱補正の効果が得られることが確認できた。
【0072】
以上、本発明に従う工作機械の熱変形推定方法及び熱変形補正方法の一実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形乃至修正が可能である。
【0073】
例えば、上述した実施形態では、実験定数決定繰返しステップS7において、温度傾向グループの組合せ及び/又は絞り込む測定箇所の組合せを変えて熱変形推定式の最適な測定箇所の組合せ及び最適実験定数を決定しているが、このような構成に代えて、この実験定数決定繰返しステップS7において、温度傾向グループの組合せ、測定箇所の組合せ及び/又は熱変形推定式の式形を変えて工作機械に適した最適熱変形推定式及びこれに適した最適な測定箇所の組合せ及び最適実験定数を決定するようにしてもよく、このようにしたときには、被加工物の熱変形量(加工径変化量)をより高精度に推定することができる。
【0074】
この場合、実験定数決定繰返しステップにおいて、3、4又は5項数以上からなる3つ以上の熱変形推定式のうち少なくとも任意の2つの熱変形推定式を設定し、少なくとも2つの熱変形推定式を用いて温度傾向グループの組合せ及び/又は絞り込む測定箇所の組合せを変えて推定式設定ステップ及び実験定数決定ステップを繰り返し行って最適な項数の熱変形推定式、最適な測定箇所の組合せ及び最適実験定数を決定するのが好ましい。
【0075】
また、例えば、上述した実施形態では、熱変形推定方法における主軸刃物間距離及び温度測定ステップにおいては、実切削試験の単独で、又は実切削試験と模擬切削試験との組合せでもって主軸刃物間距離と測定箇所の温度変化の測定と行うことを説明したが、このような構成に限定されず、模擬切削試験の単独でもって行うようにすることもできる。この場合、主軸刃物間距離についてはダミー加工物を用いて測定するようになる。
【符号の説明】
【0076】
2 旋盤本体
3 ベッド
4 主軸部
6 タレット装置
7 主軸
14 移動部材
16 支持テーブル
18 第1支持機構
20 第2支持機構
26 タレット本体
Ch1~Ch22 測定箇所
K 加工工具
P 被加工物
SE1~SE22 温度検知センサ









図1
図2
図3
図4
図5
図6