(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020546
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】ポリ塩化ビニル系共重合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 8/00 20060101AFI20230202BHJP
C08F 14/06 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
C08F8/00
C08F14/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021125960
(22)【出願日】2021-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】松尾 和紘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 紀之
(72)【発明者】
【氏名】田中 克幸
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AC03P
4J100AG04Q
4J100BA12H
4J100BA13H
4J100BA16H
4J100CA31
4J100DA39
4J100DA62
4J100HA61
4J100HB04
4J100HB25
4J100HB28
4J100HE12
4J100HE22
4J100JA01
4J100JA03
4J100JA07
(57)【要約】
【課題】溶解性に優れるポリ塩化ビニル系共重合体の新規な製造方法、および、溶解性に優れる新規なポリ塩化ビニル系共重合体、を提供する。
【解決手段】酸素存在下にて、塩素原子含有物質とポリ塩化ビニル系共重合体とを含む組成物に紫外線を照射する極性基導入工程を含む、極性基が導入されたポリ塩化ビニル系共重合体の製造方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素存在下にて、塩素原子含有物質とポリ塩化ビニル系共重合体とを含む組成物に紫外線を照射する極性基導入工程を含む、極性基が導入されたポリ塩化ビニル系共重合体の製造方法。
【請求項2】
前記塩素原子含有物質は、亜塩素酸塩または塩素ガスである、請求項1に記載のポリ塩化ビニル系共重合体の製造方法。
【請求項3】
前記極性基は、カルボニル基である、請求項1または2に記載のポリ塩化ビニル系共重合体の製造方法。
【請求項4】
前記ポリ塩化ビニル系共重合体は、当該ポリ塩化ビニル系共重合体における全構成単位を100重量%としたとき、塩化ビニル単量体に由来する構成単位50~98重量%、脂肪酸ビニル系単量体に由来する構成単位2~50重量%およびその他の単量体に由来する構成単位0~25重量%からなることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリ塩化ビニル系共重合体の製造方法。
【請求項5】
主鎖の末端に極性基が導入された、ポリ塩化ビニル系共重合体。
【請求項6】
前記極性基は、カルボニル基である、請求項5に記載のポリ塩化ビニル系共重合体。
【請求項7】
前記ポリ塩化ビニル系共重合体は、当該ポリ塩化ビニル系共重合体における極性基以外の構成単位の合計量を100重量%としたとき、塩化ビニル単量体に由来する構成単位50~98重量%、脂肪酸ビニル系単量体に由来する構成単位2~50重量%およびその他の単量体に由来する構成単位0~25重量%からなることを特徴とする、請求項5または6に記載のポリ塩化ビニル系共重合体。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか1項に記載のポリ塩化ビニル系共重合体を含む、樹脂組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の樹脂組成物からなる、成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビニル系共重合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、様々な樹脂が様々な用途に用いられており、これらの樹脂の特性を用途に適したものに改変しようとする試みがなされている。例えば、特許文献1には、オレフィン重合体粒子を変性してなる材料改質用変性粒子の製造方法が開示されている。
【0003】
また、ポリ塩化ビニル系樹脂も、有用な樹脂として知られている。特に、ポリ塩化ビニル系樹脂の一種である、ポリ塩化ビニル系共重合体は、原料である単量体に由来する構成単位の種類および/または量に依存して、様々な特性を発現することができ、当該特性に応じて様々な用途に利用されている。特許文献2は、ポリ塩化ビニル系共重合体の製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-218490号公報
【特許文献2】特開2007-308526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に開示されるような従来のポリ塩化ビニル系共重合体は、溶媒に対する溶解性の点からは、十分なものでなく、さらなる改善の余地があった。
【0006】
本発明の一実施形態は、前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、溶解性に優れる新規なポリ塩化ビニル系共重合体の製造方法、および、溶解性に優れる新規なポリ塩化ビニル系共重合体、を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態は、以下の構成を含む:
〔1〕酸素存在下にて、塩素原子含有物質とポリ塩化ビニル系共重合体とを含む組成物に紫外線を照射する極性基導入工程を含む、極性基が導入されたポリ塩化ビニル系共重合体の製造方法。
【0008】
〔2〕前記塩素原子含有物質は、亜塩素酸塩または塩素ガスである、〔1〕に記載のポリ塩化ビニル系共重合体の製造方法。
【0009】
〔3〕前記極性基は、カルボニル基である、〔1〕または〔2〕に記載のポリ塩化ビニル系共重合体の製造方法。
【0010】
〔4〕前記ポリ塩化ビニル系共重合体は、当該ポリ塩化ビニル系共重合体における全構成単位を100重量%としたとき、塩化ビニル単量体に由来する構成単位50~98重量%、脂肪酸ビニル系単量体に由来する構成単位2~50重量%およびその他の単量体に由来する構成単位0~25重量%からなることを特徴とする、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載のポリ塩化ビニル系共重合体の製造方法。
【0011】
〔5〕主鎖の末端に極性基が導入された、ポリ塩化ビニル系共重合体。
【0012】
〔6〕前記極性基は、カルボニル基である、〔5〕に記載のポリ塩化ビニル系共重合体。
【0013】
〔7〕前記ポリ塩化ビニル系共重合体は、当該ポリ塩化ビニル系共重合体における全構成単位を100重量%としたとき、塩化ビニル単量体に由来する構成単位50~98重量%、脂肪酸ビニル系単量体に由来する構成単位2~50重量%およびその他の単量体に由来する構成単位0~25重量%からなることを特徴とする、〔5〕または〔6〕に記載のポリ塩化ビニル系共重合体。
【0014】
〔8〕〔5〕~〔7〕のいずれか1つに記載のポリ塩化ビニル系共重合体を含む、樹脂組成物。
【0015】
〔9〕〔8〕に記載の樹脂組成物からなる、成形体。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一実施形態によれば、溶解性に優れるポリ塩化ビニル系共重合体の新規な製造方法、および、溶解性に優れる新規なポリ塩化ビニル系共重合体、を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせて得られる実施形態または実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0018】
<1.本発明の一実施形態に係る技術的思想>
一般的に、溶媒に対する重合体の溶解性は、重合体中の極性基の量に依存する。重合体中の極性基の量が多いほど、溶媒に対する溶解性が上昇する。特許文献2には、アセチル基を有するポリ塩化ビニル系共重合体が開示されているが、当該ポリ塩化ビニル系共重合体であっても、溶媒に対する溶解性の点からは、十分なものでなく、さらなる改善の余地があった。具体的に、特許文献2では、塩化ビニル単量体と酢酸ビニル単量体とを共重合することにより、アセチル基を有するポリ塩化ビニル系共重合体を得ている。しかしながら、2種以上の単量体の共重合では、重合制御が難しく、所望の溶解性を有するポリ塩化ビニル系共重合体を得ることが困難であった。そのため、本発明者らは、溶解性に優れるポリ塩化ビニル系共重合体を簡便に得るための新規な方法、換言すればポリ塩化ビニル系共重合体に極性基を簡便に導入するための方法を開発すべく、鋭意検討を行った。その結果、本発明者らは、以下の知見を独自に見出し、本発明を完成させるに至った:酸素存在下にて、塩素原子含有物質とポリ塩化ビニル系共重合体とを含む組成物に紫外線を照射することにより、ポリ塩化ビニル系共重合体に極性基を簡便に導入することができること、換言すれば溶解性に優れるポリ塩化ビニル系共重合体を簡便に得ることができること。
【0019】
<2.主鎖の末端に極性基が導入されたポリ塩化ビニル系共重合体>
以下、本発明の一実施形態に係るポリ塩化ビニル系共重合体について、詳細に説明する。
【0020】
本発明の一態様に係るポリ塩化ビニル系共重合体は、主鎖の末端に極性基(例えば、塩素以外の極性基)が導入されている。本明細書中、主鎖の末端に極性基が導入されたポリ塩化ビニル系共重合体(すなわち本発明の一態様に係るポリ塩化ビニル系共重合体)を「変性ポリ塩化ビニル系共重合体」とも称する。また、本明細書において、「主鎖の末端に極性基が導入されていないポリ塩化ビニル系共重合体」または「主鎖の末端に極性基が導入される前のポリ塩化ビニル系共重合体」を、「未変性ポリ塩化ビニル系共重合体」とも称する。
【0021】
変性ポリ塩化ビニル系共重合体は、主鎖の末端に極性基が導入されていることにより、未変性ポリ塩化ビニル系共重合体では溶け難い溶媒への溶解性に優れるという利点を有する。なお、共重合体の溶媒への溶解量が多いほど、当該共重合体は溶媒への溶解性に優れるといえる。すなわち、変性ポリ塩化ビニル系共重合体は、未変性ポリ塩化ビニル系共重合体よりも溶媒への溶解性に優れることから、溶媒選択性が高いという利点を有する。
【0022】
本発明の一実施形態に係る極性基は、カルボニル基であることが好ましい。カルボニル基を含む官能基または結合としては、アルデヒド基、ケトン基、カルボキシ基、エステル結合、アミド結合、ハロゲン化アシル基、酸無水物に由来する官能基が示される。本発明の一実施形態に係る極性基としては、カルボニル基のうち、アルデヒド基、ケトン基、またはカルボキシ基であることが好ましく、カルボキシ基であることがより好ましい。当該構成によれば、変性ポリ塩化ビニル系共重合体が得られるという利点を有する。溶媒への溶解性により優れる。
【0023】
変性ポリ塩化ビニル系共重合体は、極性基以外の構成単位として、塩化ビニルに由来する構成単位と、塩化ビニルと共重合可能な他の単量体に由来する構成単位とを含む。換言すれば、変性ポリ塩化ビニル系共重合体には、塩化ビニルに由来する構成単位のみから構成される塩化ビニル単独重合体(ポリ塩化ビニル樹脂)に極性基が導入されてなる重合体は包含されない。
【0024】
変性ポリ塩化ビニル系共重合体中における塩化ビニルに由来する構成単位の量は、変性ポリ塩化ビニル系共重合体における極性基以外の構成単位の合計量100重量%に対して、50~98重量%が好ましく、50~97重量%がより好ましく、50~96重量%がさらに好ましく、50~95重量%が特に好ましい。当該構成によると、得られる変性塩化ビニル系共重合体をインク、塗料等に使用する場合に、塗膜強度および重合安定性が優れるという利点を有する。
【0025】
塩化ビニルと共重合可能な他の単量体としては、特に限定されないが、例えば、αオレフィン類、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、アクリレート類、メタクリレート類、N-置換マレイミド類、塩化アリル、塩化ビニリデン、アリルグリシジルエーテルおよびアクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0026】
αオレフィン類としては、例えば、エチレンおよびプロピレンなどが挙げられる。ビニルエステル類としては、例えば、酢酸ビニルなどが挙げられる。ビニルエーテル類としては、例えば、セチルビニルエーテルなどが挙げられる。アクリレートおよびメタクリレートとしては、例えば、2-エチルへキシルアクリレートおよびブチルメタクリレートなどが挙げられる。N-置換マレイミド類としては、例えば、フエニルマレイミドおよびシクロへキシルマレイミドなどが挙げられる。
【0027】
塩化ビニルと共重合可能な他の単量体の中でも、溶媒への溶解性に優れる変性ポリ塩化ビニル系共重合体が得られることから、脂肪酸ビニル系単量体が好ましい。脂肪酸ビニル系単量体としては、特に限定されないが、例えば酢酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル等が好ましい。塩化ビニル単量体との共重合性および得られる変性塩化ビニル系共重合体の有機溶剤溶解性を考慮すると、酢酸ビニルが特に望ましい。
【0028】
変性ポリ塩化ビニル系共重合体における脂肪酸ビニル系単量体に由来する構成単位の量は、変性ポリ塩化ビニル系共重合体における極性基以外の構成単位の合計量100重量%に対して、2~50重量%が好ましく、3~50重量%以上がより好ましく、4~50重量%以上がさらに好ましく、5~50重量%以上が特に好ましい。当該構成によると、得られる変性ポリ塩化ビニル系共重合体をインク、塗料等に使用する場合に、塗膜強度および重合安定性が優れるという利点を有する。
【0029】
変性ポリ塩化ビニル系共重合体は、塩化ビニルおよび脂肪酸ビニル系単量体以外の単量体(以下、単量体Aとする。)に由来する構成単位を含んでいてもよい。金属に対する接着性に優れる変性ポリ塩化ビニル系共重合体が得られることから、単量体Aとしては、ヒドロキシ基またはカルボキシ基を有する単量体が好ましい。ヒドロキシ基を有する単量体としては、ヒドロキシアルキルアクリレートが好ましく、カルボキシ基を有する単量体としては、特に限定されないが、アクリル酸、メタクリル酸等が好ましい。
【0030】
変性ポリ塩化ビニル系共重合体におけるヒドロキシ基を有する単量体に由来する構成単位の量は、変性ポリ塩化ビニル系共重合体における極性基以外の構成単位の合計量100重量%に対して、1~25重量%が好ましく、2~23重量%がより好ましく、3~22重量%がさらに好ましく、4~20重量%が特に好ましい。当該構成によると、得られる変性塩化ビニル系共重合体をインク、塗料等に使用する場合に、塗膜強度および重合安定性が優れるという利点を有する。
【0031】
変性ポリ塩化ビニル系共重合体におけるカルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位の量は、変性ポリ塩化ビニル系共重合体における極性基以外の構成単位の合計量100重量%に対して、0.1~25重量%が好ましく、0.2~23重量%がより好ましく、0.3~22重量%がさらに好ましく、0.5~20重量%が特に好ましい。当該構成によると、得られる変性塩化ビニル系共重合体をインク、塗料等に使用する場合に、塗膜強度および重合安定性が優れるという利点を有する。
【0032】
本発明の一実施形態において、変性ポリ塩化ビニル系共重合体は、溶媒への溶解性に優れる変性ポリ塩化ビニル系共重合体が得られることから、塩化ビニルに由来する構成単位と、脂肪酸ビニル系単量体に由来する構成単位とを含むことが好ましい。また、本発明の一実施形態において、変性ポリ塩化ビニル系共重合体は、溶媒への溶解性に優れる変性ポリ塩化ビニル系共重合体が得られることから、塩化ビニルに由来する構成単位と、脂肪酸ビニル系単量体に由来する構成単位と、塩化ビニルおよび脂肪酸ビニル系単量体以外の単量体(単量体A)に由来する構成単位と、を含むことが好ましい。
【0033】
例えば、本発明の好ましい一態様において、変性ポリ塩化ビニル系共重合体は、当該変性ポリ塩化ビニル系共重合体における極性基以外の構成単位の合計量を100重量%としたとき、(i)塩化ビニル単量体に由来する構成単位50~98重量%、脂肪酸ビニル系単量体に由来する構成単位2~50重量%および塩化ビニルおよび脂肪酸ビニル系単量体以外の単量体(単量体A)に由来する構成単位0~25重量%からなることが好ましく、(ii)塩化ビニル単量体に由来する構成単位50~97重量%、脂肪酸ビニル系単量体に由来する構成単位3~50重量%および単量体Aに由来する構成単位0~23重量%からなることがより好ましく、(iii)塩化ビニル単量体に由来する構成単位50~96重量%、脂肪酸ビニル系単量体に由来する構成単位4~50重量%および単量体Aに由来する構成単位0~22重量%からなることがさらに好ましく、(iv)塩化ビニル単量体に由来する構成単位50~95重量%、脂肪酸ビニル系単量体に由来する構成単位5~50重量%および単量体Aに由来する構成単位0~20重量%からなることが特に好ましい。当該構成によれば、溶媒への溶解性に優れる変性ポリ塩化ビニル系共重合体が得られるという利点を有する。なお、「単量体Aに由来する構成単位0~25重量%からなる」とは、単量体Aに由来する構成単位が任意成分であることを意図しており、変性ポリ塩化ビニル系共重合体が単量体Aに由来する構成単位を含まなくてもよく、単量体Aに由来する構成単位を0重量%より多く25重量%以下含んでもよいことを意図する。
【0034】
本発明のより好ましい一態様において、変性ポリ塩化ビニル系共重合体は、塩化ビニル単量体に由来する構成単位および酢酸ビニルに由来する構成単位を含み、塩化ビニルおよび脂肪酸ビニル系単量体以外の単量体(単量体A)に由来する構成単位を含まないことが好ましい。例えば、変性ポリ塩化ビニル系共重合体は、当該変性ポリ塩化ビニル系共重合体における極性基以外の構成単位の合計量を100重量%としたとき、(i)塩化ビニル単量体に由来する構成単位50~98重量%および酢酸ビニルに由来する構成単位2~50重量%からなることが好ましく、(ii)塩化ビニル単量体に由来する構成単位50~97重量%および酢酸ビニルに由来する構成単位3~50重量%からなることがより好ましく、(iii)塩化ビニル単量体に由来する構成単位50~96重量%および酢酸ビニルに由来する構成単位4~50重量%からなることがさらに好ましく、(iv)塩化ビニル単量体に由来する構成単位50~95重量%および酢酸ビニルに由来する構成単位5~50重量%からなることが特に好ましい。当該構成によれば、溶媒への溶解性に優れる変性ポリ塩化ビニル系共重合体が得られるという利点を有する。
【0035】
本発明のより好ましい一態様において、変性ポリ塩化ビニル系共重合体は、塩化ビニル単量体に由来する構成単位、酢酸ビニルに由来する構成単位およびヒドロキシアルキルアクリレートに由来する構成単位を含むことが好ましい。例えば、変性ポリ塩化ビニル系共重合体は、当該変性ポリ塩化ビニル系共重合体における極性基以外の構成単位の合計量を100重量%としたとき、(i)塩化ビニル単量体に由来する構成単位50~97重量%、酢酸ビニルに由来する構成単位2~49重量%およびヒドロキシアルキルアクリレートに由来する構成単位1~25重量%からなることが好ましく、(ii)塩化ビニル単量体に由来する構成単位50~96重量%、酢酸ビニルに由来する構成単位2~48重量%およびヒドロキシアルキルアクリレートに由来する構成単位2~23重量%からなることがより好ましく、(iii)塩化ビニル単量体に由来する構成単位50~95重量%、酢酸ビニルに由来する構成単位2~47重量%およびヒドロキシアルキルアクリレートに由来する構成単位3~22重量%からなることがさらに好ましく、(iv)塩化ビニル単量体に由来する構成単位50~94重量%、酢酸ビニルに由来する構成単位2~46重量%およびヒドロキシアルキルアクリレートに由来する構成単位4~20重量%からなることが特に好ましい。当該構成によれば、溶媒への溶解性に優れる変性ポリ塩化ビニル系共重合体が得られるという利点を有する。
【0036】
本発明のより好ましい一態様において、変性ポリ塩化ビニル系共重合体は、塩化ビニル単量体に由来する構成単位、酢酸ビニルに由来する構成単位およびカルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位を含むことが好ましい。例えば、変性ポリ塩化ビニル系共重合体は、当該変性ポリ塩化ビニル系共重合体における極性基以外の構成単位の合計量を100重量%としたとき、(i)塩化ビニル単量体に由来する構成単位50~97重量%、酢酸ビニルに由来する構成単位2.9~49.9重量%およびカルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位0.1~25重量%からなることが好ましく、(ii)塩化ビニル単量体に由来する構成単位50~97重量%、酢酸ビニルに由来する構成単位2.8~49.8重量%およびカルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位0.2~23重量%からなることがより好ましく、(iii)塩化ビニル単量体に由来する構成単位50~97重量%、酢酸ビニルに由来する構成単位2.7~49.7重量%およびカルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位0.3~22重量%からなることがさらに好ましく、(iv)塩化ビニル単量体に由来する構成単位50~97重量%、酢酸ビニルに由来する構成単位2.5~49.5重量%およびカルボキシ基を有する単量体に由来する構成単位0.5~20重量%からなることが特に好ましい。当該構成によれば、溶媒への溶解性に優れる変性ポリ塩化ビニル系共重合体が得られるという利点を有する。
【0037】
変性ポリ塩化ビニル系共重合体は、下記(a)および(b)を含む樹脂であり、かつ当該樹脂の少なくとも何れか一方の末端に隣接して、極性基を有する樹脂である:(a)塩化ビニル単位(-CH2-CHCl-);
(b)塩化ビニル以外の単量体単位(脂肪酸ビニル系単量体に由来する構成単位、および単量体Aに由来する構成単位等)。
【0038】
上述したように、変性ポリ塩化ビニル系共重合体は、主鎖の末端に極性基が導入されていることにより、未変性ポリ塩化ビニル系共重合体よりも溶媒への溶解性に優れ、その結果、溶媒選択性が高いという利点を有する。そのため、変性ポリ塩化ビニル系共重合体は、塗料、インクおよび接着剤などに好適に利用することができる。
【0039】
変性ポリ塩化ビニル系共重合体は、溶媒に溶解させて各種用途に使用できる。当該溶媒としては、特に限定されず、例えば、酢酸エチル、DMSO、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランおよびシクロヘキサノン、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、イソプロピルアルコールなどが挙げられる。
【0040】
<3.極性基が導入されたポリ塩化ビニル系共重合体の製造方法>
本発明の一態様に係るポリ塩化ビニル系共重合体の製造方法は、極性基が導入されたポリ塩化ビニル系共重合体の製造方法であって、極性基導入工程を含む。より具体的に、本発明の一態様に係るポリ塩化ビニル系共重合体の製造方法は、主鎖の末端に極性基が導入されたポリ塩化ビニル系共重合体の製造方法であって、極性基導入工程を含む。本発明の一態様に係るポリ塩化ビニル系共重合体の製造方法は、極性基導入工程の後、水洗工程、脱水工程および乾燥工程をさらに含んでいてもよい。
【0041】
〔極性基導入工程〕
極性基導入工程では、酸素存在下にて、塩素原子含有物質とポリ塩化ビニル系共重合体とを含む組成物に紫外線を照射する。これにより、溶媒への溶解性に優れる(換言すれば、溶解性が高い)変性ポリ塩化ビニル系共重合体を簡便に得ることができる。
【0042】
極性基導入工程は、原料供給工程と、紫外線照射工程とを含み得る。
【0043】
[原料供給工程]
原料供給工程では、反応器に、塩素原子含有物質およびポリ塩化ビニル系共重合体、ならびに、必要に応じて溶媒および反応促進剤を供給して、組成物を得る。
【0044】
(組成物)
塩素原子含有物質は、塩素原子を含み、紫外線を照射したときに塩素原子ラジカルを発生する物質であればよく、無機化合物であってもよく、塩素ガスであってもよい。無機化合物としては、例えば、亜塩素酸ナトリウムおよび亜塩素酸マグネシウムなどの亜塩素酸塩が挙げられる。紫外線照射により、塩素原子ラジカルを容易に発生させることができることから、塩素原子含有物質は、亜塩素酸塩または塩素ガスであることが好ましい。
【0045】
組成物における塩素原子含有物質の含有量は、ポリ塩化ビニル系共重合体100重量部に対して、2.4重量部以上500重量部以下であることが好ましく、2.4重量部以上300重量部以下であることがより好ましく、2.4重量部以上200重量部以下であることがさらに好ましい。当該構成によれば、より好適にポリ塩化ビニル系共重合体に極性基を導入することができる。
【0046】
組成物に含まれるポリ塩化ビニル系共重合体は、未変性ポリ塩化ビニル系共重合体であり得る。未変性ポリ塩化ビニル系共重合体に関する説明は、主鎖の末端に極性基が導入されていない点以外は、上述した変性ポリ塩化ビニル系共重合体の説明を適宜援用できる。組成物は、(i)未変性ポリ塩化ビニル系共重合体のみを含んでいてもよく、(ii)変性ポリ塩化ビニル系共重合体のみを含んでいてもよく、(iii)未変性ポリ塩化ビニル系共重合体と変性ポリ塩化ビニル系共重合体との両方を含んでいてもよい。組成物が変性ポリ塩化ビニル系共重合体を含む場合、極性基導入工程により、変性ポリ塩化ビニル系共重合体にさらに極性基を導入することができる。
【0047】
組成物に含まれるポリ塩化ビニル系共重合体(未変性ポリ塩化ビニル系共重合体および/または変性ポリ塩化ビニル系共重合体)の見かけ密度は、限定されない。組成物に含まれるポリ塩化ビニル系共重合体の見かけ密度は、0.30g/mL以上0.74g/mL以下であることが好ましく、0.40g/mL以上0.74g/mL以下であることがより好ましく、0.45g/mL以上0.74g/mL以下であることがさらに好ましい。当該構成によれば、得られる変性ポリ塩化ビニル系共重合体は溶媒への溶解性により優れるという利点を有する。なお、見かけ密度は、JIS K7365に準拠して測定した値である。
【0048】
組成物に含まれるポリ塩化ビニル系共重合体の形態は、限定されず、粒子状のものであってもよい。この場合、組成物に含まれるポリ塩化ビニル系共重合体の平均粒径は、限定されないが、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましく、250μm以下であることがさらに好ましい。ポリ塩化ビニル系共重合体の平均粒径の下限値は、限定されず、例えば、1μm、10μm、50μm、または、100μmであり得る。当該構成によれば、得られる変性ポリ塩化ビニル系共重合体は溶媒への溶解性により優れるという利点を有する。なお、平均粒径は、JIS K0069に準拠して粒子径分布を測定し、積算分布%が50%に達した時点の粒子径を意味する値である。
【0049】
組成物に含まれるポリ塩化ビニル系共重合体は、当該ポリ塩化ビニル系共重合体における全構成単位を100重量%としたとき、(i)塩化ビニル単量体に由来する構成単位50~98重量%、脂肪酸ビニル系単量体に由来する構成単位2~50重量%および塩化ビニルおよび脂肪酸ビニル系単量体以外の単量体(単量体A)に由来する構成単位0~25重量%からなることが好ましく、(ii)塩化ビニル単量体に由来する構成単位50~97重量%、脂肪酸ビニル系単量体に由来する構成単位3~50重量%および単量体Aに由来する構成単位0~23重量%からなることがより好ましく、(iii)塩化ビニル単量体に由来する構成単位50~96重量%、脂肪酸ビニル系単量体に由来する構成単位4~50重量%および単量体Aに由来する構成単位0~22重量%からなることがさらに好ましく、(iv)塩化ビニル単量体に由来する構成単位50~95重量%、脂肪酸ビニル系単量体に由来する構成単位5~50重量%および単量体Aに由来する構成単位0~20重量%からなることが特に好ましい。当該構成によれば、さらに好適にポリ塩化ビニル系共重合体に極性基を導入することができる。本明細書において、「塩化ビニルおよび脂肪酸ビニル系単量体以外の単量体」を「その他の単量体」と称する場合もある。
【0050】
溶媒としては、例えば、水性溶媒、および、水に不溶な有機溶媒を水に加えたものなどが挙げられる。
【0051】
水性溶媒としては、水に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコールなどの水と混合し得る有機溶媒を水に加えて得られる混合溶媒であってもよい。
【0052】
水としては、水道水、工業用水、蒸留水、イオン交換水、純水および超純水等が挙げられる。
【0053】
水に不溶の有機溶媒としては、クロロホルム、ハロゲン化炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、芳香族炭化水素類、および、エーテル類などが挙げられる。ハロゲン化炭化水素類としては、例えば、四塩化炭素などが挙げられる。ハロゲン化炭化水素類としては、例えば、ベンゼンおよびトルエンなどが挙げられる。芳香族炭化水素類としては、例えば、ベンゼンおよびトルエンなどが挙げられる。エーテル類としては、例えば、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトンなどが挙げられる。
【0054】
溶媒としては、廃液処理が簡便になることから水を使用することが好ましく、反応性の観点から純水または超純水を使用することが特に好ましい。
【0055】
反応促進剤としては、例えば、塩酸、硫酸およびアミン塩酸塩などが挙げられる。組成物に反応促進剤が含まれることにより、塩素原子含有物質とポリ塩化ビニル系共重合体との反応を促進することができる。組成物における反応促進剤の量は、特に限定されないが、例えばポリ塩化ビニル系共重合体100重量部に対して、0.4重量部以上15重量部以下であることが好ましく、0.4重量部以上13重量部以下であることがより好ましい。
【0056】
[紫外線照射工程]
紫外線照射工程では、酸素存在下にて、組成物に紫外線を照射する。これにより、ポリ塩化ビニル系共重合体の主鎖(例えば、主鎖の末端)に極性基を導入することができる。すなわち、紫外線照射工程を実施することにより、変性ポリ塩化ビニル系共重合体を得ることができる。
【0057】
反応機構については、以下のように進行するものと考えられるが、本発明は以下の推測になんら限定されない。
1.酸素存在下にて、組成物に紫外線を照射すると、組成物に含まれる塩素原子含有物質が塩素原子ラジカルを発生する。
2.ポリ塩化ビニル系共重合体の主鎖の一部の水素原子を塩素原子ラジカルが引き抜く。
3.ポリ塩化ビニル系共重合体に生じたラジカルと酸素とが反応してC-O結合などが生成され、主鎖(例えば、主鎖の末端)に極性基が導入されたポリ塩化ビニル系共重合体が得られる。
【0058】
組成物に含まれる塩素原子含有物質が紫外線を照射すると酸素を生成する物質(例えば、亜塩素酸ナトリウム)である場合、必ずしも組成物に紫外線を照射する雰囲気中に人為的に酸素を導入する必要はない。これは、塩素原子含有物質(例えば、亜塩素酸ナトリウム)に紫外線を照射すると、酸素が生成することから、人為的に酸素を導入せずとも、組成物に紫外線を照射する雰囲気中に酸素が存在することとなるためである。それ故、組成物に含まれる塩素原子含有物質が紫外線を照射すると酸素を生成する物質である場合、酸素を含まない雰囲気下(例えば、窒素雰囲気下)で組成物に紫外線を照射させてもよい。
【0059】
一方、組成物に含まれる塩素原子含有物質が紫外線を照射しても酸素を生成しない物質である場合、組成物に紫外線を照射する雰囲気中に人為的に酸素を導入する必要がある。すなわち、「酸素存在下」とは、組成物に紫外線を照射する雰囲気中に酸素が存在していることを意図する。
【0060】
紫外線を照射する方法は特に限定されないが、例えば、LED(light emitting diode:発光ダイオード)などの光源を用いて、塩素が供給されたスラリーに紫外線を照射する方法が挙げられる。
【0061】
なお、照射する紫外線のピーク波長は、特に限定されないが、例えば、280nm以上420nm以下であることが好ましい。当該構成によれば、好適にポリ塩化ビニル系共重合体に極性基を導入することができる。
【0062】
照射する紫外線の電力は、特に限定されないが、例えば、1W以上50W以下であることが好ましい。当該構成によれば、好適にポリ塩化ビニル系共重合体に極性基を導入することができる。
【0063】
紫外線照射工程では、組成物を撹拌しながら、組成物に紫外線を照射することが好ましい。組成物を撹拌することにより、塩素原子含有物質およびポリ塩化ビニル系共重合体を溶媒に好適に分散させることができる。そのため、組成物を撹拌しながら紫外線を照射することにより、ポリ塩化ビニル系共重合体に対して比較的均一に極性基を導入することができる。
【0064】
組成物の撹拌速度は、特に限定されないが、例えば、攪拌子(φ6mm×30mm)とマグネチックスターラー(東京理化器械株式会社製RCN-7)を用い、300mLナスフラスコに対して、組成物を178g加えた際の目盛りが5以上10以下であることが好ましく、6以上10以下であることがより好ましい。当該構成によれば、好適に塩素原子含有物質およびポリ塩化ビニル系共重合体を溶媒に分散させることができる。その結果、より好適にポリ塩化ビニル系共重合体に極性基を導入することができる。
【0065】
組成物に紫外線を照射する時間としては、特に限定されないが、例えば、0.1時間以上が好ましく、0.3時間以上であることがより好ましく、0.5時間以上であることがさらに好ましい。当該構成によれば、好適にポリ塩化ビニル系共重合体に極性基を導入することができる。なお、組成物に紫外線を照射している間、ポリ塩化ビニル系共重合体に対して極性基が導入される反応が進行する。そのため、組成物に紫外線を照射する時間を反応時間と称する場合もある。
【0066】
紫外線照射工程における組成物の温度としては、特に限定されないが、例えば、15℃以上85℃以下であることが好ましく、15℃以上60℃以下であることがより好ましい。
【0067】
〔水洗工程〕
水洗工程では、生成した変性ポリ塩化ビニル系共重合体を水洗し、残存する塩素原子含有物質および反応促進剤を除去する。水洗工程で使用する水に、還元剤を添加してもよい。還元剤を含む水溶液で変性ポリ塩化ビニル系共重合体を洗浄することにより、未反応の塩素原子含有物質および塩素原子含有物質が酸または紫外線により分解されて生じた分解物を失活させる事ができる。なお、用いる還元剤は、特に限定されないが、例えば、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムおよび硫酸ヒドロキシルアミンなどを用いることができる。
【0068】
組成物における還元剤の量は、特に限定されないが、塩素原子含有物質の物質量(モル)に対して、0.5当量以上3当量以下となるように加えるのが望ましい。還元剤の量が、塩素原子含有物質の物質量に対して、0.5当量以上3当量以下となるように加えることで未反応の塩素原子含有物質およびその分解物を十分に失活できる。また、還元剤を添加する際は水溶液の形で加える方が望ましい。水溶液中の還元剤の濃度は、特に限定されず、例えば、1重量%以上10重量%以下が望ましい。紫外線照射工程にて得られた組成物中に直接還元剤の粉末を加えた場合、粉末が凝集する事により反応しにくくなって失活までの時間が長くなる、または還元反応が激しく進み、突沸した反応液が噴出する恐れがある。そのため、還元剤を水溶液で添加する事により、未反応の塩素原子含有物質および前記分解物を速やか且つ安全に失活させることが可能となる。
【0069】
〔脱水工程〕
脱水工程では、水洗工程後の組成物を脱水する。例えば、吸引ろ過により、水洗工程後の組成物を、変性ポリ塩化ビニル系共重合体と、ろ液とに分けて、脱水した変性ポリ塩化ビニル系共重合体を得る。
【0070】
原料供給工程および紫外線照射工程、ならびに、必要に応じて水洗工程および脱水工程までの一連の操作を繰り返し行ってもいい。一連の操作を繰り返し行うことにより、得られる変性ポリ塩化ビニル系共重合体の量を高めることができる。また、一連の操作を繰り返し行うことにより、変性ポリ塩化ビニル系共重合体の溶媒への溶解性をより高めることができる。繰り返し回数としては、例えば、2回以上10回以下であることが好ましく、2回以上8回以下であることがより好ましく、2回以上5回以下であることがさらに好ましい。なお、紫外線照射工程における紫外線照射時間が十分量である場合、原料供給工程および紫外線照射工程、ならびに、必要に応じて水洗工程および脱水工程までの一連の操作を1回のみ行えばよい。
【0071】
〔乾燥工程〕
乾燥工程では、水洗工程の後、反応器から変性ポリ塩化ビニル系共重合体を取り出し、乾燥させる。
【0072】
乾燥温度としては、例えば、40℃以上100℃以下であることが好ましく、40℃以上80℃以下であることがより好ましく、40℃以上60℃以下であることがさらに好ましい。
【0073】
乾燥時間としては、例えば、1時間以上16時間以下であることが好ましく、1時間以上10時間以下であることがより好ましく、1時間以上3時間以下であることがさらに好ましい。
【0074】
<4.樹脂組成物>
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、<2.主鎖の末端に極性基が導入されたポリ塩化ビニル系共重合体>の項に記載の本発明の一実施形態に係る変性ポリ塩化ビニル系共重合体、または<3.極性基が導入されたポリ塩化ビニル系共重合体の製造方法>の項に記載の本発明の一実施形態に係る変性ポリ塩化ビニル共重合体の製造方法で得られる変性ポリ塩化ビニル系共重合体、を含むことが好ましい。樹脂組成物は、変性ポリ塩化ビニル系共重合体以外に、後述する添加剤などの他の成分をさらに含んでいてもよい。樹脂組成物の製造方法としては、変性ポリ塩化ビニル系共重合体と他の成分とを混合する工程を含む方法が好適に挙げられる。
【0075】
[添加剤]
添加剤は、変性ポリ塩化ビニル系共重合体に対して添加されるものである。添加剤としては、例えば、滑剤、熱安定剤および衝撃吸収剤などが挙げられる。本発明の一態様に係る樹脂組成物は、添加剤として、滑剤、熱安定剤および衝撃吸収剤などからなる群から選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0076】
(滑剤)
滑剤は、変性ポリ塩化ビニル系共重合体を含む樹脂組成物の加工性を向上させるためのものである。変性ポリ塩化ビニル系共重合体に滑剤を添加することによって、変性ポリ塩化ビニル系共重合体を含む樹脂組成物を、好適に押出加工または射出成型することができる。
【0077】
滑剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンおよび高分子量パラフィンワックスなどが挙げられ、ポリエチレンワックスが好ましい。樹脂組成物が、滑剤としてポリエチレンワックスを含むことにより、樹脂組成物の加工性をより向上させることができる。
【0078】
樹脂組成物における滑剤の含有量は、変性ポリ塩化ビニル系共重合体100重量部に対して、5重量部以下、4重量部以下、3重量部以下であってもよい。樹脂組成物が滑剤を含有することにより、加工性に優れる樹脂組成物が得られる。
【0079】
(熱安定剤)
熱安定剤は、変性ポリ塩化ビニル系共重合体を含む樹脂組成物の熱安定性を向上させるためのものである。変性ポリ塩化ビニル系共重合体に熱安定剤を添加することによって、樹脂組成物中の変性ポリ塩化ビニル系共重合体が加工中に焼けて、生産性が低下するのを防止することができる。
【0080】
熱安定剤としては、特に限定されないが、例えば、Sn系安定剤、Ba-Zn系安定剤、Ca-Zn系安定剤、Pb系安定剤、Mg-Al系安定剤およびハイドロタルサイト系安定剤などが挙げられ、メチル錫メルカプトなどのSn系安定剤が好ましい。樹脂組成物が、熱安定剤としてSn系安定剤を含むことにより、樹脂組成物の熱安定性をより向上させることができる。
【0081】
樹脂組成物における熱安定剤の含有量は、変性ポリ塩化ビニル系共重合体100重量部に対して、7重量部以下、6重量部以下、5重量部以下、4重量部以下、または、3重量部以下であってもよい。樹脂組成物が熱安定剤を含有することにより、熱安定性に優れる樹脂組成物が得られる。
【0082】
(衝撃吸収剤)
衝撃吸収剤は、変性ポリ塩化ビニル系共重合体を含む樹脂組成物の物性を向上させるためのものである。変性ポリ塩化ビニル系共重合体に衝撃吸収剤を添加することによって、変性ポリ塩化ビニル系共重合体を含む樹脂組成物の引張強度および耐衝撃性などの物性を向上させることができる。
【0083】
衝撃吸収剤としては、特に限定されないが、例えば、アクリルゴム系衝撃吸収剤、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン系重合体(MBS)、グラフト重合体および塩素化ポリエチレン(CPE)などが挙げられる。グラフト重合体としては、例えば、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系重合体(ABS)、ブタジエンまたはスチレン-ブタジエンゴムにメチルメタクリレート-スチレン-アクリロニトリルをグラフト重合させたグラフト重合体(MABS)などが挙げられる。衝撃吸収剤としては、アクリルゴム系衝撃吸収剤、MBSおよびCPEが好ましい。樹脂組成物が、衝撃吸収剤として、アクリルゴム系衝撃吸収剤、MBSおよびCPEからなる群から選択される少なくとも1つを含むことにより、樹脂組成物の物性をより向上させることができる。
【0084】
樹脂組成物における衝撃吸収剤の含有量は、変性ポリ塩化ビニル系共重合体100重量部に対して、8重量部以下、7重量以下、6重量部以下であってもよい。樹脂組成物が衝撃吸収剤を含有することにより、物性に優れる樹脂組成物が得られる。
【0085】
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、塗料、インクまたは接着剤として好適に利用される。本発明の一実施形態に係る樹脂組成物の被着体への塗付方法としては特に限定されないが、例えば、コテ、レーキ、刷毛、ローラー、エアースプレー、エアレススプレーなどを用いて樹脂組成物を被着体へ均一に塗布する方法が挙げられる。
【0086】
<5.成形体>
本発明の一態様に係る成形体は、<4.樹脂組成物>の項に記載の本発明の一実施形態に係る樹脂組成物からなることが好ましい。本発明の一態様に係る成形体は、<4.樹脂組成物>の項に記載の本発明の一実施形態に係る樹脂組成物を成形してなることが好ましい、ともいえる。成形体の製造方法(樹脂組成物の成形方法)としては、樹脂組成物を成形する工程を含むことが好ましい。成形する工程の具体的な態様としては特に限定されず、従来公知の成形方法を適宜採用できる。
【0087】
本発明の一態様に係る樹脂組成物が塗料またはインクである場合、本発明の一態様に係る成形体は、塗膜またはインク層ともいえる。本発明の一態様に係る樹脂組成物が接着剤である場合、本発明の一態様に係る成形体は、接着層ともいえる。
【実施例0088】
以下、実施例により本発明の一実施形態を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0089】
実施例および比較例で使用したポリ塩化ビニル系共重合体、塩素含有物質および溶媒等、並びに、器具および装置は以下のとおりである。
【0090】
<ポリ塩化ビニル系共重合体>
・PVC(1):下記製造例1により製造したポリ塩化ビニル系共重合体
・PVC(2):カネビニール(登録商標)T5HX(株式会社カネカ製)
・PVC(3):カネビニール(登録商標)T5DA(株式会社カネカ製)
<塩素含有物質>
・亜塩素酸ナトリウム(ナカライテスク株式会社製)
<溶媒>
・水(純水)
・ブチセルアセテート(エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、KHネオケム株式会社製)
・酢酸エチル(ナカライテスク株式会社製)
・イソプロピルアルコール(富士フイルム和光純薬株式会社製)
<反応促進剤>
・35重量%塩酸(株式会社カネカ製)
<還元剤>
・無水亜硫酸ナトリウム(日産化学株式会社製)
<器具および装置>
・500MHz NMR測定装置(Bruker社製「AVANCE III HD500型」)
・マグネチックスターラー(東京理化器械株式会社製「RCN-7」)
・No.2定性ろ紙(アドバンテック東洋株式会社製)
・B型粘度計(東京計器株式会社製、形式:BM)
・ヘーズメーター(日本電色工業株式会社製「NDH-300A」)。
【0091】
(製造例1)PVC(1)の合成
重合器としては、攪拌翼および外部ジャケットを備えた内容積1500リットルのステンレス製重合器を使用した。重合器に、水を130重量部(全単量体の合計100重量部に対して、以下同じ)、けん化度80%の部分けん化ポリ酢酸ビニルを0.07重量部、並びに油溶性開始剤として脂肪族系ジアシルパーオキサイドを0.06重量部およびジベンゾイルパーオキサイドを0.07重量部投入した後、重合器を密閉した。続いて、重合器内の気体を真空ポンプで脱気した後、重合器内の原料の攪拌を開始した。次いで、重合器内に、酢酸ビニル単量体19部を仕込んだ。その後、重合器の外部ジャケットを利用して重合器内の温度を74℃まで昇温した。重合器内の温度を74℃で一定に保ちつつ、塩化ビニル単量体81重量部を重合器内に仕込みながら重合を行った。重合器内の温度が74℃に到達してから330分後に未反応塩化ビニル単量体を回収し、PVC(1)を得た。
【0092】
得られたPVC(1)は、K値が48.4であり、見かけ密度が0.71g/mLであり、平均粒径が189μmであり、PVC(1)100重量%中、酢酸ビニル単量体に由来する構成単位を18重量%含有していた。ここで、K値はJIS K7367-2に準拠して求め、見かけ密度はJIS K7365に準拠して求め、平均粒径はJIS K0069に準拠して求めた。酢酸ビニル単量体に由来する構成単位の含有量の測定方法は、下記に示す。
【0093】
<ポリ塩化ビニル系共重合体中における酢酸ビニルの含有割合の算出>
製造例1で得られたPVC(1)100mgをテトラヒドロフラン-d80.75mLに溶解させ、試料を得た。その後、当該試料を用いて、NMR(nuclear magnetic resonance)測定装置を用いて1H-NMR測定を行った。得られたスペクトルに関して、ケミカルシフト4.5ppm付近に示される塩化ビニルユニットのメチン基の積分値を100とし、ケミカルシフト5.4ppm付近に示される酢酸ビニルのメチン基の積分値を読み取った。当該酢酸ビニルのメチン基の積分値Aを以下の式に代入し、PVC(1)100重量%中に含まれる酢酸ビニルの量(重量%)を算出した。
酢酸ビニルの量(重量%)=(A×86)/(100×62.5+A×86)×100
A:酢酸ビニルのメチン基の積分値
なお、塩化ビニルユニットの分子量が62.5であり、酢酸ビニルユニットの分子量が86である。
【0094】
<変性ポリ塩化ビニル系共重合体中におけるカルボキシ基の含有割合の算出>
以下の実施例および比較例では、ポリ塩化ビニル系共重合体に対して、極性基として、カルボニル基を含むカルボキシ基を導入した。変性ポリ塩化ビニル系共重合体中の、カルボキシ基の含有割合を1H-NMR測定により算出した。具体的には、1H-NMR測定により得られたスペクトルに関して、塩化ビニルユニットのメチン基由来のピークの積分値を100としたとき、カルボキシ基由来のピークの積分値を算出した。得られた結果に基づき、ポリ塩化ビニル系共重合体に極性基(カルボキシ基)が導入されたか否か、およびポリ塩化ビニル系共重合体に対する極性基(カルボキシ基)の導入効率を評価した。
【0095】
変性ポリ塩化ビニル系共重合体中におけるカルボキシ基の含有割合の算出のための1H-NMR測定は、下記の条件で行った。
樹脂濃度:12.9重量%
重溶媒:テトラヒドロフラン-d8(関東化学株式会社製)
温度:25.2℃
積算回数:64
基準:テトラヒドロフラン(THF)のC2位およびC5位を示すピークを3.62ppmとした。
【0096】
<主鎖の末端に極性基が導入されたポリ塩化ビニル系共重合体(変性ポリ塩化ビニル系共重合体)の製造>
(実施例1)
(極性基導入工程)
攪拌子(φ6mm×30mm)を入れた300mLナスフラスコ(反応器)に、空気雰囲気下、純水150g、PVC(1)25g、35(重量/重量%)の塩酸0.4gおよび亜塩素酸ナトリウム2.4gを23℃の環境下で添加し、組成物を調製した(原料供給工程)。
【0097】
次に、当該300mLナスフラスコ内の気体(空気)の不活性ガスによる置換は行わず、空気雰囲気下において、当該300mLナスフラスコにセプタムを用いて栓をした。その後、当該ナスフラスコ内の組成物を、マグネチックスターラーの目盛りを6半とした条件下にて、撹拌しながら、LEDを用いて紫外線(ピーク波長365nm、6W)を当該組成物に照射した(紫外線照射工程)。紫外線照射時間(反応時間)は0.5時間であった。
【0098】
(水洗工程)
紫外線の照射終了後(反応終了後)、ナスフラスコ内の組成物(反応液)を1Lビーカーに移した後、無水亜硫酸ナトリウム11gを純水200mLに溶解させて作製した水溶液を当該ビーカーに加えた。次いで、室温(23℃)で、マグネチックスターラーの目盛りを6半とした条件下にて、ビーカー内の組成物を20分間撹拌した。その後、当該組成物をNo.2定性ろ紙を用いて吸引ろ過し、脱水変性PVC(1)と、ろ液とに分けた。
【0099】
(脱水工程)
得られた脱水変性PVC(1)を55℃で2時間乾燥させ、変性PVC(1)-1を得た。変性PVC(1)-1中におけるカルボキシ基の含有割合を算出するため、変性PVC(1)-1に対して上述した1H-NMR測定を行ったところ、11.4ppm付近にカルボキシ基由来のピークが認められた。塩化ビニルユニットのメチン基由来のピークの積分値を100としたとき、カルボキシ基由来のピークの積分値は0.02であった。すなわち、得られた変性PVC(1)-1は、主鎖の末端に極性基としてカルボキシ基が導入された、ポリ塩化ビニル系樹脂であった。
【0100】
(実施例2)
得られる変性ポリ塩化ビニル系共重合体の変性量(極性基の導入量)を上げるべく、紫外線照射時間(反応時間)を1.7時間に延長した以外は、実施例1と同じ方法で、変性PVC(1)-2を得た。変性PVC(1)-2中におけるカルボキシ基の含有割合を算出するため、変性PVC(1)-2に対して上述した1H-NMR測定を行ったところ、11.4ppm付近にカルボン酸を示すピークが認められた。塩化ビニルユニットのメチン基由来のピークの積分値を100とした際、カルボキシ基由来のピークの積分値は0.03であった。
【0101】
(実施例3)
得られる変性ポリ塩化ビニル系共重合体の変性量を上げるべく、塩酸の使用量を0.8gに、かつ亜塩素酸ナトリウムの使用量を7.2gに増量し、さらに紫外線照射時間(反応時間)を6.5時間に延長した以外は、実施例1と同じ方法で、変性PVC(1)-3を得た。変性PVC(1)-3中におけるカルボキシ基の含有割合を算出するため、変性PVC(1)-3に対して上述した1H-NMR測定を行ったところ、11.4ppm付近にカルボン酸を示すピークが認められた。塩化ビニルユニットのメチン基由来のピークの積分値を100とした際、カルボキシ基由来のピークの積分値は0.42であった。
【0102】
(実施例4)
得られる変性ポリ塩化ビニル系共重合体の変性量を上げるべく、亜塩素酸ナトリウムの使用量を19.2gに増量し、かつ紫外線照射時間(反応時間)を16時間に延長した以外は、実施例1と同じ方法で、変性PVC(1)-4を得た。変性PVC(1)-4中におけるカルボキシ基の含有割合を算出するため、変性PVC(1)-4に対して上述した1H-NMR測定を行ったところ、11.4ppm付近にカルボン酸を示すピークが認められた。塩化ビニルユニットのメチン基由来のピークの積分値を100とした際、カルボキシ基由来のピークの積分値は0.89であった。
【0103】
(比較例1)
PVC(1)に対して一切の処理を行わない試験例を、比較例1とした。すなわち比較例1の樹脂はPVC(1)そのものである。なお、比較例1における反応時間は、便宜上0hとした。PVC(1)中におけるカルボキシ基の含有割合を算出するため、PVC(1)に対して上述した1H-NMR測定を行ったところ、11.4ppm付近にカルボン酸を示すピークが認められなかった。すなわち、塩化ビニルユニットのメチン基由来のピークの積分値を100とした際、カルボキシ基由来のピークの積分値は0であった。
【0104】
(実施例5)
(実施例1)において、使用したポリ塩化ビニル系共重合体をPVC(1)からPVC(2)に変更した以外は、実施例1と同じ方法で、変性PVC(2)-1を得た。変性PVC(2)-1中におけるカルボキシ基の含有割合を算出するため、変性PVC(2)-1に対して上述した1H-NMR測定を行ったところ、11.4ppm付近にカルボン酸を示すピークが認められた。塩化ビニルユニットのメチン基由来のピークの積分値を100とした際、カルボキシ基由来のピークの積分値は0.02であった。
【0105】
(実施例6)
得られる変性ポリ塩化ビニル系共重合体の変性量を上げるべく、紫外線照射時間(反応時間)を1.0時間に延長した以外は、実施例5と同じ方法で、変性PVC(2)-2を得た。変性PVC(2)-2中におけるカルボキシ基の含有割合を算出するため、変性PVC(2)-2に対して上述した1H-NMR測定を行ったところ、11.4ppm付近にカルボン酸を示すピークが認められた。塩化ビニルユニットのメチン基由来のピークの積分値を100とした際、カルボキシ基由来のピークの積分値は0.03であった。
【0106】
(実施例7)
得られる変性ポリ塩化ビニル系共重合体の変性量を上げるべく、塩酸の使用量を0.8gに、かつ亜塩素酸ナトリウムの使用量を4.8gに増量し、さらに紫外線照射時間(反応時間)を3.7時間に延長した以外は、実施例5と同じ方法で、変性PVC(2)-3を得た。変性PVC(2)-3中におけるカルボキシ基の含有割合を算出するため、変性PVC(2)-3に対して上述した1H-NMR測定を行ったところ、11.4ppm付近にカルボン酸を示すピークが認められた。塩化ビニルユニットのメチン基由来のピークの積分値を100とした際、カルボキシ基由来のピークの積分値は0.44であった。
【0107】
(実施例8)
得られる変性ポリ塩化ビニル系共重合体の変性量を上げるべく、亜塩素酸ナトリウムの使用量を9.6gに増量し、さらに紫外線照射時間(反応時間)を8.0時間に延長した以外は、実施例5と同じ方法で、変性PVC(2)-4を得た。変性PVC(2)-4中におけるカルボキシ基の含有割合を算出するため、変性PVC(2)-4に対して上述した1H-NMR測定を行ったところ、11.4ppm付近にカルボン酸を示すピークが認められた。塩化ビニルユニットのメチン基由来のピークの積分値を100とした際、カルボキシ基由来のピークの積分値は0.55であった。
【0108】
(比較例2)
PVC(2)に対して一切の処理を行わない試験例を、比較例2とした。すなわち比較例2の樹脂はPVC(2)そのものである。なお、比較例2における反応時間は、便宜上0hとした。PVC(2)中におけるカルボキシ基の含有割合を算出するため、PVC(2)に対して上述した1H-NMR測定を行ったところ、11.4ppm付近にカルボン酸を示すピークが認められなかった。すなわち、塩化ビニルユニットのメチン基由来のピークの積分値を100とした際、カルボキシ基由来のピークの積分値は0であった。
【0109】
(実施例9)
(実施例1)において、使用したポリ塩化ビニル系共重合体をPVC(1)からPVC(3)に変更した以外は、実施例1と同じ方法で、変性PVC(3)-1を得た。変性PVC(3)-1中におけるカルボキシ基の含有割合を算出するため、変性PVC(3)-1に対して上述した1H-NMR測定を行ったところ、11.4ppm付近にカルボン酸を示すピークが認められた。塩化ビニルユニットのメチン基由来のピークの積分値を100とした際、カルボキシ基由来のピークの積分値は0.49であった。
【0110】
(実施例10)
得られる変性ポリ塩化ビニル系共重合体の変性量を上げるべく、紫外線照射時間(反応時間)を1.7時間に延長した以外は、実施例9と同じ方法で、変性PVC(3)-2を得た。変性PVC(3)-2中におけるカルボキシ基の含有割合を算出するため、変性PVC(3)-2に対して上述した1H-NMR測定を行ったところ、11.4ppm付近にカルボン酸を示すピークが認められた。塩化ビニルユニットのメチン基由来のピークの積分値を100とした際、カルボキシ基由来のピークの積分値は0.53であった。
【0111】
(実施例11)
得られる変性ポリ塩化ビニル系共重合体の変性量を上げるべく、紫外線照射時間(反応時間)を2.4時間に延長した以外は、実施例9と同じ方法で、変性PVC(3)-3を得た。変性PVC(3)-3中におけるカルボキシ基の含有割合を算出するため、変性PVC(3)-3に対して上述した1H-NMR測定を行ったところ、11.4ppm付近にカルボン酸を示すピークが認められた。塩化ビニルユニットのメチン基由来のピークの積分値を100とした際、カルボキシ基由来のピークの積分値は0.58であった。
【0112】
(比較例3)
PVC(3)に対して一切の処理を行わない試験例を、比較例3とした。すなわち比較例3の樹脂はPVC(3)そのものである。なお、比較例3における反応時間は、便宜上0hとした。PVC(3)中におけるカルボキシ基の含有割合を算出するため、PVC(3)に対して上述した1H-NMR測定を行ったところ、11.4ppm付近にカルボン酸を示すピークが認められた。塩化ビニルユニットのメチン基由来のピークの積分値を100とした際、カルボキシ基由来のピークの積分値は0.48であった。
【0113】
<ブチセルアセテートに対する溶解性の評価(樹脂組成物の製造)>
室温にて、容積140mLの容器に、(i)ブチセルアセテート48g、並びに(ii)変性PVC(1)-1、2、3、4(実施例1~4)およびPVC(1)(比較例1)のいずれか1つを12g加えた。その後、当該容器を50℃に加温した状態で、直径36mmのエッジドタービン翼を用いて、容器中の混合物を1200rpmで30分間攪拌することによって、樹脂組成物を得た。その後、当該容器を24℃まで放冷し、容器中の樹脂組成物の粘度を、B型粘度計を用いて測定することにより、各変性ポリ塩化ビニル系共重合体のブチセルアセテートに対する溶解性を評価した。結果を表1に示す。
【0114】
【0115】
表1から、実施例1~4(変性PVC(1)-1、2、3、4)は、比較例1(PVC(1))に比べて粘度が低いことがわかる。特に、変性PVC(1)-1、2、3、4の順に、すなわち極性基導入工程における紫外線照射時間が長くなるほど、変性ポリ塩化ビニル系共重合体中のカルボン酸量が増加し、かつ粘度が低くなることがわかる。これらの結果から、極性基導入工程によりポリ塩化ビニル系共重合体に導入された極性基(カルボキシ基)の量に応じて、ブチセルアセテートに対する変性ポリ塩化ビニル系共重合体の溶解性が向上したことが認められた。
【0116】
<酢酸エチル―イソプロピルアルコール混合溶媒に対する溶解性の評価(樹脂組成物の製造)>
酢酸エチルおよびイソプロピルアルコールから成る混合溶媒を調製した。具体的に、酢酸エチルの重量:イソプロピルアルコールの重量が8:2である混合溶媒(8:2)、および酢酸エチルの重量:イソプロピルアルコールの重量が7:3である混合溶媒(7:3)を調製した。室温にて、容積140mLの容器に、(i)混合溶媒(8:2)または混合溶媒(7:3)のいずれかを36g、並びに(ii)変性PVC(2)-1、2、3、4(実施例5~8)およびPVC(2)(比較例2)のいずれか1つを9g加えた。その後、当該容器を50℃に加温した状態で、直径36mmのエッジドタービン翼を用いて、容器中の混合物を1200rpmで20分間攪拌することによって、樹脂組成物を得た。その後、当該容器を24℃まで放冷し、容器中の樹脂組成物の粘度およびヘーズ値を、それぞれ、B型粘度計およびヘーズメーターを用いて測定することにより、各変性ポリ塩化ビニル系共重合体のイソプロピルアルコールに対する溶解性を評価した。また、混合溶媒(7:3)を用いて得られた混合物の粘度から、混合溶媒(8:2)を用いて得られた混合物の粘度を引き、得られた値をΔとした。また、混合溶媒(7:3)を用いて得られた混合物のヘーズ値から、混合溶媒(8:2)を用いて得られた混合物のヘーズ値を引き、得られた値をΔとした。これらの結果を表2に示す。
【0117】
【0118】
表2から、実施例5~8(変性PVC(2)-1、2、3、4)は、比較例2(PVC(2))に比べて、粘度差Δおよびヘーズ値Δがいずれも小さいことがわかる。特に、変性PVC(2)-1、2、3、4の順に、すなわち極性基導入工程における紫外線照射時間が長くなるほど、変性ポリ塩化ビニル系共重合体中のカルボン酸量が増加し、かつ粘度差Δおよびヘーズ値Δが小さくなることがわかる。これらの結果から、極性基導入工程によりポリ塩化ビニル系共重合体に導入された極性基(カルボキシ基)の量に応じて、イソプロピルアルコールに対する変性ポリ塩化ビニル系共重合体の溶解性が向上したことが認められた。
【0119】
<酢酸エチルに対する溶解性の評価(樹脂組成物の製造)>
室温にて、容積140mLの容器に、酢酸エチル48gを入れた。次いで、直径36mmのエッジドタービン翼を用いて容器中の酢酸エチルを600rpmで攪拌しながら、変性PVC(3)-1、2、3(実施例9~11)およびPVC(3)のいずれか1つを12g、容器に供給した。その後、室温にて、容器中の混合物を1500rpmで10分間攪拌拌することによって、樹脂組成物を得た。その後、当該容器を24℃まで放冷し、容器中の樹脂組成物の粘度を、B型粘度計を用いて測定することにより、各変性ポリ塩化ビニル系共重合体の酢酸エチルに対する溶解性を評価した。結果を表3に示す。
【0120】
【0121】
表3から、実施例9~11(変性PVC(3)-1、2、3)は、比較例3(PVC(3))に比べて粘度が低いことがわかる。特に、変性PVC(3)-1、2、3の順に、すなわち極性基導入工程における紫外線照射時間が長くなるほど、変性ポリ塩化ビニル系共重合体中のカルボン酸量が増加し、かつ粘度が低くなることがわかる。これらの結果から、極性基導入工程によりポリ塩化ビニル系共重合体に導入された極性基(カルボキシ基)の量に応じて、酢酸エチルに対する変性ポリ塩化ビニル系共重合体の溶解性が向上したことが認められた。下したことから、酢酸エチルへの溶解性が向上したと認められた。
本発明の一実施形態は、溶解性に優れるポリ塩化ビニル系共重合体の新規な製造方法、および、溶解性に優れる新規なポリ塩化ビニル系共重合体、を提供することができる。そのため、本発明の一実施形態は、塗料、インクおよび接着剤などに好適に利用することができる。