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特開2023-20736特定受容体結合性ペプチドアプタマー及びそのペプチドアプタマーの作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020736
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】特定受容体結合性ペプチドアプタマー及びそのペプチドアプタマーの作製方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/06 20060101AFI20230202BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
C07K7/06 ZNA
C07K7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021126268
(22)【出願日】2021-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】516255448
【氏名又は名称】株式会社Epsilon Molecular Engineering
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野口 太朗
(72)【発明者】
【氏名】中尾 香菜子
(72)【発明者】
【氏名】熊地 重文
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA17
4H045BA30
4H045BA57
4H045EA20
4H045EA60
4H045FA10
(57)【要約】
【課題】 シンプルな作業で産生及び精製が可能、かつ、抗体と同等の抗原結合性を有するアプタマーを提供すること、フレキシブルなリンカーによって結合された上記2つのアプタマーで構成される結合分子を提供すること、及び複数の抗原と結合することができる分子を設計する際に使用することができ、それらの結合活性を一定の精度で予測することができる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 CD90/Thy-1又はCD271/NGFRに結合するペプチドアプタマーを提供する。また、上述したペプチドアプタマーから選択される複数のペプチドアプタマーと、前記複数のペプチドアプタマー同士を連結するリンカーとを備える結合分子を提供する。さらに、上記結合分子の結合活性を予測する方法を提供する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表の配列番号1~12からなる群から選ばれるいずれかの配列を有するペプチドアプタマー。
【請求項2】
前記ペプチドアプタマーは、CD90/Thy-1又はCD271/NGFRに結合することを特徴とする、請求項1に記載のペプチドアプタマー。
【請求項3】
前記ペプチドアプタマーは、環状又は直鎖であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のペプチドアプタマー。
【請求項4】
前記ペプチドアプタマーは、前記配列番号1~12で表されるいずれかのアミノ酸配列を有するペプチドに含まれる複数のシステイン間で形成される分子内架橋、又は上記ペプチドのC末端とN末端とを架橋剤で架橋した分子内架橋を有する環状ペプチドであることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載のペプチドアプタマー。
【請求項5】
前記架橋剤は、ビス(ビニルスルフォン)メタン、ビニルスルフォン又はα,α-ジブロモ-o-キシレンであることを特徴とする、請求項4に記載のペプチドアプタマー。
【請求項6】
前記ペプチドアプタマーは、抗体代替分子であることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載のペプチドアプタマー。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のペプチドアプタマーから選択される複数のペプチドアプタマーと、前記複数のペプチドアプタマー同士を連結するリンカーとを備える、結合分子。
【請求項8】
前記複数のペプチドアプタマーは、(a)配列表の配列番号1~6及び27からなる群から選ばれる第1ペプチド及び第2ペプチドの組み合わせであるか、又は(b)配列表の配列番号7~11からなる群から選ばれる第3ペプチドと配列番号10~13からなる群から選ばれる第4ペプチドとの組み合わせであることを特徴とする、請求項7に記載の結合分子。
【請求項9】
前記リンカーは、PEG2、PEG4、PEG6、PEG8、PEG12、及びPEG24からなる群から選ばれるいずれかであることを特徴とする、請求項7又は8に記載の結合分子。
【請求項10】
前記複数のペプチドアプタマーは、少なくとも一方が標識されている、ことを特徴とする請求項7~9のいずれかに記載の結合分子。
【請求項11】
異なる標的分子を認識するペプチドアプタマーを設計し、前記ペプチドアプタマーのアミノ酸組成及びアミノ酸配列の長さを選択する工程と;
前記ペプチドアプタマーを連結するリンカーユニットの長さを選択する工程と;
前記タンパク質ユニットと前記リンカーユニットとの組み合わせに基づいて、前記リンカーユニットで連結された連結ペプチドと標的タンパク質との結合活性を、予測する工程と;を備える、
結合分子の結合活性の予測方法。
【請求項12】
前記ペプチドアプタマーは、環状又は直鎖状ペプチドであることを特徴とする、請求項11に記載の結合分子の結合活性の予測方法。
【請求項13】
前記ペプチドアプタマーは、異なるアミノ酸配列を有するペプチドであるか、又は同一のアミノ酸配列を有するが異なる標的分子を認識するペプチドであることを特徴とする、請求項11又は12に記載の結合分子の結合活性の予測方法。
【請求項14】
前記リンカーユニットは、2~24の鎖長のポリエチレングリコールを含むリンカーで構成されることを特徴とする、請求項11~13のいずれかに記載の結合分子の結合活性の予測方法。
【請求項15】
前記2~24の鎖長のポリエチレングリコールは、PEG2、PEG4、PEG6、PEG8、PEG12、及びPEG24からなる群から選ばれるいずれかのものであることを特徴とする、請求項14に記載の結合分子の結合活性の予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定受容体結合性ペプチドアプタマー及びそのペプチドアプタマーの作製方法に関する。より詳細には、CD90/THY-1、CD271/NGFR結合性のモノマーペプチドアプタマー、及びCD90/THY-1、CD271/NGFR結合性の各ペプチドアプタマーがリンカーを介してホモバイバレントもしくはヘテロバイバレントとして形成する二価ペプチドアプタマー、並びにそれらペプチドアプタマーの作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は、抗原に結合する分子の代表例である。抗体は、生体防御機構としての免疫機構のうち、液性免疫が発動したときに産生される。すなわち、一般的には、抗原が生体内に侵入すると、抗原提示細胞に提示された抗原の一部によってB細胞が幼若化し、この幼若化B細胞から上記抗原に対する抗体が産生される。この機構を応用して、ハイブリドーマ細胞等を作製しこれを培養すると、モノクローナル抗体が生産される。そのため、こうした抗原に対する特異性を有する抗体は、医薬品や再生医療などの分野において、利用が進んでいる。
【0003】
ヒトの細胞には、種々の受容体(以下、「抗原マーカー」ということがある。)が発現していることが知られている。こうした受容体のうち、例えば、CD90/THY-1(以下、「CD90」ということがある)及び、CD271/NGFR(以下、「CD271」ということがある)に対して結合活性を有する抗体を用いた細胞ソーティングにより、骨髄や末梢血などに含まれる細胞の中から、高い分化能と細胞増殖活性とを有するヒト間葉系幹細胞を取得する方法が知られている(非特許文献1参照、以下、「従来技術1」という。)。
【0004】
抗体以外の抗原結合性分子として知られるペプチドは、ホルモンなどの内因性物質として標的分子に作用し生体内応答を担うことから、医薬品として、また、再生医療等の分野における治療手段の一つとして用いられている。また、こうしたペプチドは、抗体と同様に標的分子へ結合するという性質を有するが、抗体よりもはるかに分子量が小さいため、人為的な操作を行って、標的分子との結合性を保ちつつ、その性質を変化させることができる。例えば、内因性の神経伝達物質であるタキキニンペプチドのアミノ酸を、構造活性相関の結果に基づいて置換することによって、標的分子の選択性を向上させた受容体が得られることが報告されている(非特許文献2参照、以下、「従来技術2」という)。
【0005】
こうした公知のペプチドの人為的な改変ではなく、ランダム配列のみを含むランダムペプチドライブラリを用いてスクリーニングを行い、所望の抗原に対して結合活性を示すペプチドを取得するという技術が知られている(非特許文献3参照。)。
【0006】
また、同一抗原の異なるエピトープを認識するアプタマーを含む分子(以下、「パラトピック分子」ということがある。)を用いた創薬アプローチ(以下、「パラトピック創薬」ということがある)が知られている。上記パラトピック分子は、単一のアプタマーでは達成できない結合親和性や選択性の向上を示すことを記載して、複数のアプタマーとそれらを相互に連結するリンカーとで構成されている。一方で、複数のアプタマーを使用する場合には、予め、それらのエピトープを同定することが前提となる。
一方で、事前にエピトープを同定せず、上記パラトピック分子の構成要素となる複数の結合分子(以下、「構成分子」ということがある)を、リンカーの長さを変えて複数種類組合せて作製する手法も報告されている(非特許文献4参照、以下、「従来技術3」という。)
【0007】
また、ペプチドの標的抗原への特異性又は結合活性を高めるアプローチとして、架橋剤等を用いて分子構造を環状化するか、もしくは二環式構造を形成させるという技術が知られている(非特許文献5及び特許文献1、以下、「従来技術4、5」のようにいう。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO/2019/162682
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Stem Cell Reports. (2013) 1, 152.
【非特許文献2】Bioorg Med Chem. (2013) 21, pp2413.
【非特許文献3】Proc Natl Acad Sci U S A. (2012) 109, pp11121.
【非特許文献4】Elife. (2020) 9, e52716.
【非特許文献5】J Am Chem Soc. (2012) 134, 103.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、特異的な標的抗原に対して結合活性を示すという点で、抗体は非常に有用である。前述の通り、こうした標的抗原に対する抗体の取得は、上記ハイブリドーマを用いて行われる。こうしたハイブリドーマは、一般的には、不活化したセンダイウイルス等による細胞融合で調製され、所定の条件下で培養される。上記のような工程で産生される抗体を生物製剤(医薬品)もしくは再生医療等の細胞分離に用いるための試薬とするためには、産生工程中で生じる不純物を除くために精製工程が不可欠である。
【0011】
こうした不純物としては、培養中に上記ハイブリドーマが産生する種々の酵素等の他、抗体がハイブリドーマから分泌されない場合には、細胞を破砕するため、細胞膜等の他、エクソソーム中の酵素等が挙げられる。精製の条件によっては、精製中にエクソソームから分泌されたカテプシンその他の酵素によって抗体が分解されることもある。また、精製条件を厳密に制御しないと、抗体同士が凝集し、失活するといった現象も起こる。
【0012】
さらに、動物細胞又はヒト細胞を用いて産生される抗体製剤においては、ガイドライン「ヒト又は動物細胞株を用いて製造されるバイオテクノロジー応用医薬品のウイルス安全性評価」に従い、細胞株に存在する内在性ウイルス試験及び外来性ウイルス試験等によるウイルスクリアランスの工程評価等が必要となる。
【0013】
一方、ペプチドは、抗体と同様に上記標的抗原に対して結合するという性質に加え、分子量が小さいことから、化学合成による生産が可能である。このことは、培養細胞を用いる抗体の産生と異なって、培養物中に含まれる夾雑物の影響を考える必要がないということを意味する。そのため、抗体に代わる分子(以下、「抗体代替分子」ということがある。)として、ペプチドを製剤として使用することについての社会的な要請がある。
【0014】
従来技術1は、抗原マーカーCD90、CD271に対する抗体を使用して、末梢血中等から間葉系幹細胞を簡便に得ることができるという点では優れた発明である。しかし、医薬品として使用するための品質管理という点については全く考慮されていない。すなわち、従来技術5では、抗体代替分子として機能し得るペプチドアプタマーについては、報告されていない。
【0015】
従来技術2は、構造活性相関の結果に基づいてペプチド内のアミノ酸を任意に置換することによって、標的分子の選択性を向上させた受容体が得られるという点では優れた発明である。しかし、構造活性相関の結果を得るためには、任意の位置にあるアミノ酸を置換したペプチドを数多く作製する必要があり、効率的ではないという問題がある。
【0016】
一方で、パラトピックアプローチにおいては、異なるエピトープを認識する分子(以下、「結合分子」ということがある。)同士の連結にリンカーが必要となる。具体的には、パラトピック分子の創出にあたっては、上記結合分子が認識するエピトープを予め共結晶構造解析やNMR等により明らかにし、その上で各エピトープ間の距離から算出されるリンカー長を予測し、決定するプロセスが必要である。
しかし、共結晶構造解析で解析ができるような共結晶が得られるとは限らないため、エピトープ間の距離を求めることが難しいという問題がある。
【0017】
従来技術3は、事前にエピトープを同定することなく、上記リンカー長の異なる類組合を作製できるという点では優れた発明である。しかし、構成分子の数と検討するリンカー長の組合せの数とに比例して、候補が累積的に増加することから、膨大な数の候補の中から最適な構成分子の組合せと、リンカー長とを決定するには長時間を要し、作業効率及びコスト面で問題がある。
【0018】
従来技術4及び5は、架橋剤等を用いて分子構造を環状化するか(単環式構造の形成)、又は二環式構造を形成させて、所望のペプチドの標的抗原への特異性又は結合活性を高めるという点では優れた発明である。しかし、従来技術3と同様に、最適な環の大きさとリンカーとの組み合わせを、膨大な数の候補の中から選択することは、作業効率及びコスト面で問題がある。
【0019】
このため、細胞を使用しない、バイオフリーな環境下で合成及び精製することができ、抗体と同等の抗原結合性を有するペプチドアプタマー、例えば、CD90、CD271その他の再生医療への応用が見込まれる抗原に対して結合活性を有するアプタマーに対する強い社会的要請があった。
また、パラトピック創薬において使用できる改善された結合特性を有する結合分子、すなわち、制限の少ない反応条件下で、フレキシブルなリンカーによって結合された上記2つのアプタマーで構成される結合分子と、その簡便な作製方法とに対する強い社会的要請があった。とりわけ、パラトピックペプチドアプタマーとして使用できる、上記結合分子についての強い社会的要請もあった。
さらに、パラトピックペプチドアプタマーの分子設計をする際に使用でき、その構成要素となるペプチドアプタマーの中から最適な組合せとリンカーの長さを一定の精度で予測することができる方法に対する強い社会的要請があった。
【課題を解決するための手段】
【0020】
以上のような状況の下で、本発明の発明者等は鋭意研究を進め、本発明を完成したものである。すなわち、本発明は、シンプルな作業で産生及び精製が可能、かつ、抗体と同等の抗原結合性を有するアプタマーを提供することを目的とする。また、制限の少ない反応条件下で、フレキシブルなリンカーによって結合された上記2つのアプタマーで構成される結合分子を提供することを目的とする。また、前述の2つのアプタマーから構成されるパラトピック分子を設計する際に使用でき、その創出にあたって重要となるアプタマー同士の組合せとそれらを連結するリンカー長の最適な長さを一定の精度で予測することができる方法を提供することを目的とする。
【0021】
本発明の一の態様は、配列表の配列番号1~12からなる群から選ばれるいずれかの配列を有する特定受容体結合性のペプチドアプタマーである。上記ペプチドアプタマーは、CD90/Thy-1又はCD271/NGFRに結合するペプチドアプタマーであることを特徴とする。また、前記ペプチドアプタマーは、環状又は直鎖であることを特徴とする。
【0022】
前記ペプチドアプタマーは、前記配列番号1~12で表されるいずれかのアミノ酸配列を有するペプチドに含まれる複数のシステイン間で形成される分子内架橋、又は上記ペプチドのC末端とN末端とを架橋剤で架橋した分子内架橋を有する環状ペプチドであることを特徴とする。ここで、前記架橋剤は、ビス(ビニルスルフォン)メタン、ビニルスルフォン又はα,α’-ジブロモ-o-キシレンであることを特徴とする。また、前記ペプチドアプタマーは、抗体代替分子であることを特徴とする。
【0023】
本発明の別の態様は、上述したペプチドアプタマーから選択される複数のペプチドアプタマーと、前記複数のペプチドアプタマー同士を連結するリンカーとを備える、結合分子である。ここで、前記複数のペプチドアプタマーは、(a)配列表の配列番号1~6及び27からなる群から選ばれる第1ペプチド及び第2ペプチドの組み合わせであるか、又は(b)配列表の配列番号7~11からなる群から選ばれる第3ペプチドと配列番号10~13からなる群から選ばれる第4ペプチドとの組み合わせであることを特徴とする。
【0024】
また、前記リンカーは、PEG2、PEG4、PEG6、PEG8、PEG12、及びPEG24からなる群から選ばれるいずれかであることを特徴とする。また、前記複数のペプチドアプタマーは、少なくとも一方が標識されている、ことを特徴とする。
【0025】
本発明のさらに別の態様は、異なる標的分子を認識するペプチドアプタマーを設計し、前記ペプチドアプタマーのアミノ酸組成及びアミノ酸配列の長さを選択する工程と;前記ペプチドアプタマーを連結するリンカーユニットの長さを選択する工程と;前記タンパク質ユニットと前記リンカーユニットとの組み合わせに基づいて、前記リンカーユニットで連結された連結ペプチドと標的タンパク質との結合活性を、予測する工程と;を備える、連結分子の組合せと最適リンカー長の予測方法である。
【0026】
ここで、前記ペプチドアプタマーは、環状又は直鎖状ペプチドであることを特徴とする。また、前記ペプチドアプタマーは、異なるアミノ酸配列を有するペプチドであるか、又は同一のアミノ酸配列を有するが異なる標的分子を認識するペプチドであることを特徴とする。
【0027】
また、前記リンカーユニットは、2~24の鎖長のポリエチレングリコールを含むリンカーセ構成されることを特徴とする。前記2~24の鎖長のポリエチレングリコールは、PEG2、PEG4、PEG6、PEG8、PEG12、及びPEG24からなる群から選ばれるいずれかのものであることを特徴とする。前記ペプチドと前記リンカーとは、前記リンカーの末端に配置された、マレイミド又はN-ヒドロキシスクシンイミドで連結されていることを特徴とする。
【0028】
上述した結合分子は、前記リンカーの鎖長に反比例する前記標的タンパク質に対する結合活性を有することを特徴とする。また、前記結合活性は、31.8nM~500nMであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、CD90/Thy-1又はCD271/NGFRに結合するペプチドアプタマーを提供することができる。また、本発明によれば、上記ペプチドアプタマーから選択される複数のペプチドアプタマーと、前記複数のペプチドアプタマーを連結するリンカーとを備える、結合分子を提供することができる。本発明によれば、上記結合分子の結合活性を予測する方法を、さらに提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、二価ペプチド組合せ技術の概要を示す図である。図1(A)は二価ペプチドの合成スキームを示す図である。図中、ユニットA及びユニットBは、直鎖状又は環状のいずれであってもよいため、実線でつないでいない。図1(B)は、ユニットBをCD271-HLV、ユニットAをCD271-VPT、CD271-TQP又はCD271-KYGとしたときのリンカー長を変化させた結果を示すグラフである。
図2図2は、biolayer interferometry(以下、「BLI」と略すことがある。)を用いて分子間相互作したときのCD90に対する結果を示すセンサグラムである。図2(A)はCD90-HMPを、図2(B)はCD90-GYIを、図2(C)はCD90-PVAを、そして図2(D)はCD90-FTDをそれぞれ使用したときの相互作用を示す。
【0031】
図3図3は、BLIを用いて分子間相互作したときのCD271に対する結果を示すセンサグラムである。図中、CD271-HLVはジスルフィド結合を介して環状化したペプチドを示す。
図4図4は、ELISAによる吸光度測定(A280)の結果を示す。図4(A)は、CD90に対する結果を、また、図4(B)は、CD271に対する結果をそれぞれ示す。また、図4(A)中、「bis」と表示されているペプチドは、ビス(ビニルスルフォニル)メタンによる環状化したペプチドを示し、それ以外はジスルフィド結合を介して環状化したペプチドを示す。
【0032】
図5図5は、カルボキシフルオレセイン(以下、「FAM」と略すことがある。)で蛍光標識したペプチドを用いたときのJurkatβΔ cellsとの反応を、フローサイトメトリー(以下、「FCM」と略すことがある。)で分析した結果を示す図である。図5(A)はCD90-ASFを、図5(B)はCD90-HMPを、図5(C)はCD90-GYIを、また、図5(D)はCD90-FTDとの反応をそれぞれ示す。図5(E)のNC-Hisは、FAM-GGGSHHHHHH(配列番号28)を表す。
【0033】
図6図6は、FAM標識ペプチドを用いたときのSW480 cellsをFCMで分析した結果を示す図である。図6(A)はCD271-HLVを、図6(B)はCD271-TQPを、図6(C)はCD271-QREを、また、図6(D)はCD271-VPTとの反応をそれぞれ示す。
図7図7は、FAM標識ペプチド(CD271-HLV)を用いたときのTHP-1 cellsとの反応をFCMで分析した結果を示す図である。
【0034】
図8図8は、本発明の結合分子の各ユニットの組み合わせを概念的に示す図である。図8(A)は二価ペプチドの合成スキームを示す図であり、図8(B)は、ユニットA、ユニットB、及びリンカー長の組み合わせを示す概念図である。
図9図9は、CD90抗原に対するダイマーペプチドの結合が、リンカー長およびペプチドの組合せよってどのように変化するかをELISA(吸光度=A280)で評価した結果を示す図である。
【0035】
図10図10は、CD90の抗原濃度を4点で測定した際のCD90-ASF×CD90-ASFのリンカー長を変化させた際のセンサーグラムを示す図である。
図11図11は、CD271抗原に対するダイマーペプチドの結合が、リンカー長およびペプチドの組合せよってどのように変化するかをELISA(吸光度=A280)で評価した結果を示す図である。
図12図12は、CD271の抗原濃度を4点で測定した際のCD271-HLV×CD271-KYGのリンカー長を変化させた際のセンサーグラムを示す図である。
【0036】
図13図13は、抗CD90抗体、又はCD90結合候補であるダイマーペプチドを用いた際のFCMによる評価の結果を示す図である(その1)。
図14図14は、抗CD90抗体、又はCD90結合候補であるダイマーペプチドを用いた際のFCMによる評価の結果を示す図である(その2)。
図15図15は、抗CD271抗体又はCD271結合候補ペプチドであるダイマーペプチドを用いた際のFCMによる評価の結果を示す図である(その1)。
図16図16は、抗CD271抗体又はCD271結合候補ペプチドであるダイマーペプチドを用いた際のFCMによる評価の結果を示す図である(その2)。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明について、図面を参照しつつ、さらに詳細に説明する。
(1)ペプチドアプタマー
本発明は、(a1)配列番号1~12からなる群から選ばれるいずれかのアミノ酸配列を有するペプチドアプタマーであり、(a2)CD90/Thy-1又は(a2)CD271/NGFRに結合する。ここで、アプタマーとは、標的物質に特異的に結合する能力を持った合成ペプチドをいう。
本発明では、ハイブリドーマを使用する抗体の製造とは異なって、化学合成によって製造できるペプチドアプタマーを使用することが、以下の理由から好ましい。細胞を使用しないことから、ハイブリドーマの作製に必要とされるウイルスを考慮する必要がなく、また、精製においても細胞を破砕する必要がないことから、生物に由来する夾雑物を含まないためである。
【0038】
また、それによって、骨髄や末梢血に含まれる細胞から、フローサイトメトリーによって超高純度ヒト間葉系幹細胞(以下、「REC細胞」という。)を選択する際の選択的マーカーとして使用することができるためである。ここで、REC細胞とは、通常の接着法で得た間葉系幹細胞とは異なり、目的とするペプチド以外のペプチドを提示した細胞以外の細胞(以下、「夾雑細胞」という。)を含まない細胞をいい、長期間の培養による増殖が可能である。
【0039】
上記アプタマーは、従来の抗体にはない、以下のような幾つかの利点がある。すなわち、従来の抗体には保有させることができなかった高親和性と特異性とを保有させることができ、試験管内にて化学的に短時間で合成することができる。また、細胞培養による製造でないことから上記のように夾雑物の影響を最小化でき、作用機序が単純であり、さらに免疫原性もほとんどない。一方で、上記アプタマーは、抗原となる分子を認識することができることから、抗体代替分子としても機能し得ることが期待でき、生物工学的応用、薬剤への応用等も検討できる。
こうした利点を有するペプチドアプタマーを得る方法としては、in vitro selection法等が知られている。In vitro selectionにより得られたアミノ酸配列を化学合成により調製し、標的抗原への結合解析を行うことで、本発明の特異的な結合活性を有するペプチドアプタマーを取得できる。
【0040】
(2)結合分子
本発明の結合分子は、複数のペプチドユニットと上記複数のペプチドユニットを連結するリンカーユニットとで構成されている。上記複数のペプチドユニットは、後述する配列配列番号1~12の中から以下のように選択された組み合わせを有するものとすることが、単一のアプタマーの場合よりも、標的分子である1つの抗原への結合活性、選択性その他の活性(以下、単に「結合活性等」ということがある。)を向上させることができることから好ましい。
また、リンカーユニットを構成するリンカーの長さを可変とし、上記ペプチドユニットを構成するアプタマーに最適な長さを選択することができるものとすることが好ましい。上記結合活性等を向上させるための検討をおこなうことができるからである。上記ペプチドユニット及びリンカーユニットについては、後述する。
【0041】
(3)上記ペプチドアプタマーを二価ペプチドとするペプチドアプタマー組合せ技術
本発明で使用する上記ペプチドアプタマー組み合わせ技術(以下、単に「手法」ということがある。)の概要を、2つのペプチドユニットA及びBを用いる場合を例として図1(A)に示す。
本手法では、図1(A)に示すように、ビオチンで標識した上記ユニットAに、リンカーユニット及び上記ユニットBを順次連結させるというフローを採用することが、所望の長さのリンカーを備える結合分子を効率よく製造できるために好ましい。ここで、上記ユニットAは、そのC末端部位にリジン残基をグリシン-リジン-グリシンの順番で予め付加し、また、上記ユニットBでは、そのN末端部位に2つのグリシン残基を介してシステインを予め付加するように設計することが好ましい。
【0042】
これにより、マレイミド基(以下、「Mal」と略すことがある。)及びN-ヒドロキシスクシンイミド基(以下、「NHS」と略すことがある。)を有するリンカーを用いた際に、前述のフローに従って上記ユニットAのC末に付加したリジンと、上記リンカーのNHS基とが共有結合するという反応が選択的に進行し、続いて上記ユニットBのN末に付加したシステインとリンカーのMal基とが共有結合するという反応が選択的に進行することを可能とするため、上記のアミノ酸残基をC末端又はN末端に付加することが好ましい。
【0043】
その結果、上記ユニットAに含まれるペプチドとユニットBに含まれるペプチドとを部位特異的に連結させたダイマーペプチドを取得することが可能となり、加えて、前述のリンカーとして、長さが異なるリンカーを用いることにより、前述のダイマーペプチドにおける各ペプチド間の距離に多様性を持たせることができるからである。
【0044】
また、予め上記ユニットAのペプチドをビオチン標識しておくことが好ましい。精製工程なしにBLI、ELISA等の結合評価系に供することが可能となるためである。精製工程があるとかなりの量のペプチドがない限り、上記の評価系に供する精製ペプチドを得ることができない。これに対し、本発明の方法は、精製工程を要しないため、少量のダイマーペプチドを得ることができれば、得られたダイマーペプチドの結合活性を評価することができるという利点を有する。
【0045】
その結果、区画で仕切られた容器、例えば、96ウェルプレート等を用いて、図8に示すような組合せで前述の連結を順次行い活性評価までを連続的に実施することにより、上記ダイマーペプチドを構成する各ペプチドの組合せ、及びそのリンカー長の最適な長さの組み合わせを一挙に検討してスクリーニングすることができ、その結果を結合活性という指標によって、一括して評価できるためである。
【0046】
なお、前述のMalとNHSとを有するリンカーは、市販品として購入可能であり、例えば、PEG鎖長の異なる、PEG2、PEG4、PEG6、PEG8、PEG12及びPEG24等を購入して使用することが、コストの面から好ましい。より具体的には、BroadPharm社製のPEG2(Mal-amido-PEG2-NHS, BP-22156)、PEG4(Mal-amido-PEG4-NHS, BP-22157)、PEG6(Mal-amido-PEG6-NHS, BP-22158)、PEG8(Mal-amido-PEG8-NHS, BP-22159)、PEG12(Mal-amido-PEG12-NHS, BP-22217)、PEG24(Mal-amido-PEG24-NHS, BP-22218)等を挙げることができる。
【0047】
また本発明では、前記ダイマーペプチドは、ユニットAとユニットBという、同一抗原に対して結合する2つのペプチドユニットで構成されていることが、抗体代替分子として機能する結合特性等を示すことから好ましい。すなわち、こうしたユニットを含む結合分子は、ホモバイバレント又はヘテロバイバレントとしての分子構造を有するため、同一抗原に高い結合親和性と選択性とをもって結合し得るため、前述の骨髄又は末梢血等に含まれる細胞中から、所望のREC細胞を好適に選別することができる。
【0048】
上記ユニットAは、目的とする複数の標的のうちの1つを認識するものであり、上記ユニットBは、上記ユニットAと同じ標的を認識するものであることが、同一抗原に対するホモバイバレント又はヘテロバレントのダイマーペプチドを一挙に構築し、当該標的抗原を含む細胞に結合することができることから好ましい。
上記「標的」は、例えば、表面抗原の一部、各種受容体その他の細胞の膜表面に存在している種々の膜結合タンパクを挙げることができる。これらの中でも、例えば、CD90/Thy-1もしくはCD271/NGFRに結合するペプチドであることが好ましい。上記REC細胞を上記骨髄等由来の細胞から効率よく選択することができるからである。
【0049】
上記いずれのユニットを構成するペプチドも、その抗原への結合活性を有するアミノ酸領域のN末端及びC末端にシステインを有し、前述のアミノ酸領域は8~20個のアミノ酸で構成されているものであることが、化学合成による製造の容易さの理由から好ましい。10~15個のアミノ酸で構成されているものであることがさらに好ましく、こうしたペプチドとしては、例えば、下記表1に示すものを挙げることができる。
【0050】
【表1】

【0051】
また、前記ユニットを構成するペプチドは、そのN末端及びC末端にあるシステインによって架橋されていてもよく、化学架橋剤で架橋されていてもよい(図1(A)参照)。こうした架橋剤としては、例えば、ビスマレイミド系、ジビニルスルフォン系、キシレン系等の化合物を挙げることができる。具体的には、ビス(ビニルスルフォニル)メタン(TCI, B2550)、ジビニルスルフォン(TCI, D0959)、α,α’-ジブロモ-o-キシレン(TCI, D0214)等を挙げることができ、これらを使用することが、安定な環状構造を維持し、また環状構造に伴うペプチドアプタマーとしての結合活性を維持できるために好ましい。
【0052】
(2)cDNAディスプレイ法によるユニットA又はユニットB用ペプチドの取得
上記ペプチドは、下記のcDNAディスプレイ法によって取得することができる。
(2-1)ランダム環状ペプチドをコードしたDNAライブラリの作製
ランダム環状ペプチドをコードしたDNAライブラリは、例えば、プロモーター、エンハンサー、翻訳開始に関与する配列、ランダム領域、精製用タグ、リンカーハイブリダイゼーション領域等を含むものとすることができ、具体的には、T7プロモーター、オメガ(Ω)エンハンサー、コザック配列、ランダム領域、Hisタグ、およびYタグ等を含むものを挙げることができる。
【0053】
前記ランダム領域は、8~13アミノ酸残基をコードしたDNAで構成されており、その両端にはシステイン残基を1つずつ有していることが好ましい。酸化によるS-S架橋により、環状化できるからである。前記アミノ酸配列は、例えば、常法によって合成されたオリゴDNAを用いて、オーバーラップPCRを行うことで作製することが好ましい。それらのアミノ酸組成を、システインを除いた19種類のアミノ酸が等量で出現するように設計できるからである。
【0054】
(2-2)cDNAディスプレイ用リンカーの調製
cDNAディスプレイ法では、例えば、主鎖と側鎖とを有するリンカーを使用することが、所望のペプチドのcDNA、対応するmRNA及び環状ペプチドを1つのセットとして取得できることから好ましい。具体的には、このリンカーの主鎖は、5’末端に固相結合部位としてのBioTEGを含み、その近傍に固相からの切断部位としてのリボG(以下、「rG」と略すことがある。)又はイノシン(以下、「I」と略すことがある。)を含み、mRNA連結部位としてのシアノビニルカルバゾールを備えていることが好ましい。上記主鎖の配列の一例を、下記配列番号6に示す。以下、この主鎖を「ビオチンフラグメント」ということがある。
【0055】
なお、下記の配列中、5’末端から3番目のNはグアノシンを、また、24番目のNはAmino C6-dTをそれぞれ示す。Kは3-シアノビニルカルバゾール(以下、「cnvK」ということがある。)を表す。以下、下記配列番号21で表される主鎖を有するリンカーを、本明細書中では、「cnvK rG Linker」という。
【0056】
5’-AANAATTTCCAKGCCGCCCCCCGNCCT -3’ (配列番号21)
【0057】
また、側鎖は、その遊離末端にペプチド結合部位(上記側鎖配列中の「P」)としてピューロマイシン又はその類縁体を含むことから、「ピューロマイシンセグメント」ということがある。上記側鎖は、5’(5S)TCTFZZCCPの配列を有していることが、後述するcDNAディスプレイ分子の形成効率の面から好ましい。また、「(5S)」は5’Thiol C6を、「F」は蛍光基であるFITC-dTを、そして「Z」は Spacer 18をそれぞれ表す。上記の主鎖及び側鎖の化学合成は、常法に従って行ってもよく、また、つくばオリゴサービス(株)その他の企業に製造を委託してもよい。
【0058】
所定の溶液中で上記ビオチンフラグメントとEMCS((株)同仁化学研究所製)をインキュベートして結合させ、上記ビオチンフラグメント-EMCS結合体をエタノール沈殿させる。このエタノール沈殿には、例えば、Quick-Precip Plus Solution (Edge BioSystems社製)等を使用してもよい。
次にピューロマイシン-セグメントをリン酸水素二ナトリウムバッファーに溶解し、シェーカーを用いて撹拌し、次いで還元処理を行うことにより、上記還元ピューロマイシン-セグメント含有溶液を得ることができる。
【0059】
例えば、上記還元ピューロマイシン-セグメント含有溶液を、上記のEMCS修飾済みビオチンフラグメント(エタノール沈殿物)と混合し、所望の温度で所望の時間、例えば、約2~6℃で一晩放置して結合させ、cnvK rG リンカーを形成させる。続いて、上記リンカーの分子内架橋の形成を防ぐために還元処理鵜を行う。例えば、ジチオスレイトール(以下、「DTT」と略すことがある。)を終濃度25~75 mMとなるように上記反応液に加え、室温で20~40分間撹拌して還元処理を行ってもよい。
その後、上記フラグメントの結合体を、上記と同様にエタノール沈殿物として得ることができる。得られたエタノール沈殿物を、精製するために、所望の溶液に溶解することが好ましい。例えば、約50~約150μLのヌクレアーゼフリー水(ナカライテスク(株)製)等に溶解させて溶解産物としてもよい。
【0060】
上記溶解産物を、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(以下、「PAGE」と略すことがある。)に供して分離し、cnvK rG Linkerを含むバンドを切り出し、切り出したゲルを破砕して、cnvK rGリンカーを抽出する。次いで、上記の抽出液を遠心チューブフィルターに移し遠心してゲルを分離し、その後エタノール沈殿を行ってcnvK rGリンカーを得ることができる。こうしたチューブフィルターとしては、Costar(登録商標) Spin-X(登録商標)(孔径0.22μmセルロースアセテート(Corning社製))等を挙げることができる。
【0061】
2.cDNAディスプレイ分子の作製
一次ライブラリ作成用のcDNAディスプレイ分子は、下記表3に示すような組成のバッファーを用いて、以下のように調製することができる。
(1)転写
上記1.(2)で作製したcDNAディスプレイ分子合成用DNAを転写し、得られた転写産物(mRNA)精製し、定量する。ここでは、例えば、2x結合バッファー、結合(セレクション)バッファー、Hisタグ結合/洗浄バッファー、Hisタグ溶出バッファー(イミダゾール濃度が200~300mMである点を除き、Hisタグ結合/洗浄バッファーと同じである。)、セレクションバッファー等を使用することができる。
【0062】
上記の転写は、例えば、T7 RiboMAX Express Large Scale RNA Production System(Promega社製)を使用し、添付のプロトコルに従って行うことができる。cDNAディスプレイ法では、目的分子以外の含有量が、ラウンドが進むにつれて減少するため、新たなラウンドに入るときに使用するDNAの量をより少量にすることができる。例えば、第1ラウンドで約5~7μg、第2ラウンド以降は約0.05~約2μgとすることができる。各ラウンド中で得られた転写産物は精製後に定量するが、例えば、RNaClean XP(Beckman Coulter社製)等を使用し、それら添付されたプロトコル従って精製し、その後、NanoPad DS-11FX(DeNovix)等を用いて精製した転写産物の濃度を定量するようにしてもよい。
【0063】
(2)ライゲーション
次いで、上記で精製したmRNAを上記cnvK rGリンカーとバッファー中にて等量で混合し、アニールさせた後に光架橋を形成させ、連結してmRNA-リンカーを得ることができる。mRNAの3’末端側をcnvK rGリンカーにハイブリダイズさせる手順としては、例えば、それぞれ等量の上記精製mRNA及びcnvK rGリンカーを、トリスバッファーに加えて、約88~92℃で0.5~1.5分間インキュベートし、次いで、約0.05~0.15℃/秒の速度で65~75℃まで降温させ、65~75℃で0.5~1.5分間インキュベートする。引き続き、上記同様の速度で約20~約30℃まで降温させた後に、降温速度を1.5~2.5℃/秒の速度に上げて、約5~15℃まで降温させることができる。引き続き、これらを光架橋するために、例えば、Handheld UV Lamp (6W, UVGL-56, 254/365 nm、100V (Analytik jena US, An Endress + Hauser Company))を使用して、350~370nmのUVを2~8分間照射するようにしてもよい。
【0064】
(3)mRNAディスプレイ分子の調製
次に、所望のスケールの無細胞翻訳を用いて、以下の手順でmRNAディスプレイ分子を調製する。例えば、約3~約8 pmolの上記mRNA-リンカーを、25~100μLスケールの無細胞翻訳系(Rabbit reticulocyte Lysate (ヌクレアーゼ処理済)、Promega社製)に加え、約25~約35℃で15~45分間インキュベートし、ここに、所望の濃度で塩を加える。こうした塩としては、例えば、終濃度で50~100 mMのMgCl2、及び終濃度で800~1,000 mM のKClを挙げることができる。次いで、この混合物(塩を加えた上記細胞翻訳系)を約36~約38℃にて0.5~1.5時間インキュベートし、上記mRNAに対応するペプチドを上記リンカーのペプチド結合部位に提示させることができる。次いで、リンカー中のmRNAに結合しているリボソームを除去するために、EDTA等のキレーターを、終濃度で50~100 mMとなるように加えて、2~6℃にて1~10分間インキュベートし、固相化したmRNAディスプレイ分子をこの混合物中で形成させることができる。mRNA分子の固相化については、後述する方法で行うことができる。
【0065】
(4)cDNAディスプレイ分子の調製
上記の固相化したmRNAディスプレイ分子を用いて、以下のようにしてcDNAディスプレイ分子を形成させる。上記mRNAディスプレイ分子が結合した固相をチューブに取ってバッファーで洗浄し、その後、上記mRNA分子に提示されているペプチドを逆転写し、mRNA/cDNA-ペプチド連結体(以下、「cDNAディスプレイ分子」という。)を固相上で調製する。このcDNAディスプレイ分子は、酵素切断部位を切断する酵素によって、固相から切り離すことができる。
【0066】
こうした固相としては、例えば、プロテインローバインディングチューブに、Dynabeads Myone Streptavidin C1(ThermoFischer Scientific社製、以下、単に「Dynabeads」ということがある。)を使用することができる。このDynabeadsをチューブに取って、ここに適量の結合バッファーを加えて洗浄し、その後、上記mRNAディスプレイ分子を加える。このチューブを約20~約30℃にて15~45分間撹拌して固相化し、上記同様に結合バッファーで洗浄する。その後、逆転写のために、逆転写用反応液(1~3μLの25mM dNTP Mix 及び0.5~2μLのGeneAce Reverse Transcriptase (100~300U/μL) (いずれもNIPPON GENE社製))をここに加え、約40~45℃にて15~45分間インキュベートして反応を行い、cDNAディスプレイ分子を得ることができる。この後、上記cDNAディスプレイ分子を固相から溶出させるために、適量の結合バッファーで上記cDNAディスプレイ分子を洗浄し、その後、Hisタグ結合/洗浄バッファー及びRNase T1を加えて撹拌しつつインキュベートする。
【0067】
(5)一次ライブラリの調製
cDNA ライブラリを作製するために、固相に上記cDNA分子を結合させて所望のバッファーで洗浄し、その後固相から洗浄したcDNAディスプレイ分子を溶出させることによって、一次ライブラリを得ることができる。例えば、エッペンドルフチューブに、His Mag Sepharose Ni Beads (GE Health Care社製造)を入れ、このビーズを上記(4)と同様にバッファーで洗浄し、その後、上記(4)と同様にしてバッファーを用いて洗浄して精製する。その後、上記のようにcDNAディスプレイ分子を溶出させるために、約25~35μLのHisタグ溶出バッファーをこのチューブに加えて撹拌する。以上の操作によって、一次ライブラリとして、cDNAライブラリを得ることができる。
このcDNAライブラリを構成するcDNAの中から、スクリーニングによって標的タンパクに結合するペプチドを選択し、それらを用いて、後述する手法によってダイマーペプチド(アプタマー)を調製することができる。
【0068】
(2)二価ペプチド組合せ技術によるダイマーペプチドのスクリーニングの実施
(2-1)二価ペプチド(ダイマーペプチド)組合せ技術によるダイマーペプチドの調製
図8に示すようにユニットAとユニットBとを複数種類、例えば、ユニットAとして2~4種類のペプチドを、また、ユニットBとして3~5種類のペプチドをそれぞれ選択し、上述した市販のリンカーをリンカーユニットとして組み合わせた結合分子を作成し、これらの結合活性を評価することができる。
【0069】
上記ユニットA及びB、並びにリンカーユニットの連結反応は、以下のように行うことができる。まず、1当量のユニットA溶液(5~15 mMの上記ペプチドを含むジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と略すことがある)溶液)を調製し、1.5当量のリンカーユニット溶液(45~65 mMのリンカーを含むDMF溶液)及び2当量のN-メチルモルホリン溶液(50~150 mMのDMF溶液)と混合し、所望の時間、例えば、20~60時間反応させることが好ましい。その後、引き続いて、この反応溶液に、ユニットB溶液(5~15 mMの上記ペプチドを含むDMF溶液)を加え、再度、所望の時間、例えば、18~30時間反応させることが好ましい。以上の反応によって、所望のダイマーペプチドを得ることができるからである。
【0070】
得られたペプチドの結合活性は、biolayer interferometry(BLI)又はELISA等を用いて、評価することができる。こうした評価を行うために、得られた上記ダイマーペプチドのN末端側に、標識を結合させることが好ましい。こうした標識としては、例えば、ビオチン及びその類縁体等を挙げることができる。こうした標識は、上記のようにして得られたダイマーペプチドのN末端に、グリシン又はセリンで構成された3~9残基程度の末端リンカーを介して付加することが、ペプチドがストレプトアビジンの表面に十分露出されることから好ましい。上記末端リンカーは、Fmoc固相ペプチド合成法等の周知の方法によって付加することができ、これによって直鎖保護ペプチドを得ることができる。
【0071】
次いで、例えば、TFA cocktail(TFA/H2O/TIS/EDT=94:2.5:1.0:2.5)等を用いて上記直鎖保護ペプチドの切出し及び側鎖保護基の脱保護反応を、所望の時間、例えば、1~3時間行い、冷ジエチルエーテル等を用いて脱保護された直鎖ペプチドを沈殿させることにより、粗精製された直鎖ペプチド(以下、「直鎖粗ペプチド」ということがある。)を得ることができる。
【0072】
上記直鎖粗ペプチドのN末端及びC末端に存在するシステイン間でジスルフィド架橋を形成させるか、又はアルキル化剤等の化学架橋剤を用いて、上記N末端及びC末端の間で化学架橋を形成させて環化させることが、その後の上記ユニットの結合活性を強化させる上で好ましい。例えば、5~15%のDMSO及び30~50%のアセトニトリルを含むトリス緩衝液(pH 6.5~7.5)を用いて酸化させると、ジスルフィド架橋を形成させることができる。また、ビス(ビニルスルフォン)メタン、ジビニルスルフォン、α,α’-ジブロモ-o-キシレン等を使用して化学架橋を形成させてもよい。
【0073】
以上のようにして得られた、化学合成ペプチドは、BLI、ELISA、及びフローサイトメトリー(以下、「FCM」と略すことがある。)等に供して、標的ペプチドとの結合活性を評価することができる。
【実施例0074】
以下に実施例を用いて、本願発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0075】
(実施例1)CD90及びCD271結合性モノマーペプチドの取得
(1)CD90、CD271結合性モノマーペプチドのセレクション
cDNAディスプレイ法を用いて、以下の手順により、CD90及びCD271結合性モノマーペプチドをセレクションした。
【0076】
CD90(Sino biological社製, 16897-H08H)及びCD271 (Sino Biological, 13184-H08H)に対して、20等量のビオチン化試薬(EZ-Link(商標)Sulfo-NHS-LC-Biotin, No-Weigh(商標) Format; Thermo Fisher社製, A39257)を加え、25℃で30分間反応させた。その後、脱塩カラム(Zeba(商標)Spin Desalting Columns; Thermo Fisher社製, 89877)で未反応のビオチン化試薬を除去し、ビオチン化CD90及びビオチン化CD271をそれぞれ得た。
【0077】
その後、上記のように作製したビオチン化ペプチドそれぞれの10 pmol分を10μLのストレプトアビジンビーズ(SAビーズ:Dynabeads Myone C1; Thermo Fisher社製, 65001)に加えて30分間結合させ、PBS-T(Tween(登録商標)20含有リン酸緩衝生理食塩水、以下、「PBS-T」ということがある。)で3回洗浄し、CD90固相化ビーズ及びCD271固相化ビーズをそれぞれ作製した。
【0078】
(2)cDNAディスプレイ法によるDNAライブラリの作製
(2-1)3種類のDNAライブラリの調製
Trimer Mix 19により合成したランダム領域を含む3種類のランダムオリゴDNA(配列番号20~22)に対して特異的プライマー(配列番号23及び24)を用いて、アニーリング温度62℃、伸長反応20秒の条件でオーバーラップPCRを行い、それぞれを別々に増幅させてランダムオリゴDNAを得た。その後、これらのランダムオリゴDNAに、T7プロモーター及びオメガ(Ω)エンハンサーをそれぞれ付加するために、伸長反応用オリゴDNAプライマー(配列番号25)を用いて、アニーリング温度60℃、伸長反応20秒の条件で、DNAポリメラーゼによる伸長反応を行い、反応液を得た。得られた反応溶液をPAGEで精製し、3種類のDNAライブラリとした。
【0079】
【表2】

【0080】
上記(2-1)より得られた3種類のDNAライブラリを、T7 RiboMAX(商標) Express Large Scale RNA (Promega, P1320)を用いて、キットの説明書に沿ってin vitro転写し、Agencourt RNAClean XP(Beckman, A63987)で精製して、このDNAライブラリに含まれるDNAのmRNAを作製した。
【0081】
(2-2)mRNA-cDNAディスプレイ法用リンカー複合体の形成とセレクション
(2-2-1)mRNA-cDNAディスプレイ法用リンカー複合体の形成
ここで使用するcDNAディスプレイ法用リンカーは、つくばオリゴサービスに合成を委託した。上記3種のmRNAと上記cDNAディスプレイ法用リンカーとを1:1で別々に混合し、95℃で2分、その後70℃に降温して1分、次いで、0.1℃/secで4℃まで降温させてアニーリングし、365 nmのUVを5分間照射して、上記リンカー中に含まれる3-シアノビニルカルバゾールでmRNAを連結させ、mRNA-リンカー結合体を得た。
【0082】
上記のようにして得られたmRNA-リンカー結合体を1:1:1で混合し、混合物を9 pmol分用いて、cDNA display合成装置(プレシジョン・システム・サイエンス社製)により、cDNAディスプレイを合成し、ペプチドライブラリを得た。この装置で使用するプログラムについては、出願人が作製した。ここで得られたペプチドライブラリは、各cDNA分子中に含まれるシステイン間で架橋を形成するためにTCEP(Thermo Fisher Scientific)を用いて室温で5分間撹拌して還元し、その後BMOE(Thermo Fisher Scientific)で架橋されるプログラムを用いた。
【0083】
以上のように作製したそれぞれのcDNAディスプレイを、プロテインローバインディングチューブ内において、0.1% BSAを含むPBS-Tで100μLにメスアップし、その後、10μLのストレプトアビジンビーズ(SAビーズ)を加えて、4℃にて60分間転倒混和した。引き続き、このチューブ内に含まれる上澄みを取り、新たなプロテインローバインディングチューブに入れ、ここにCD90固相化ビーズ及びCD271固相化ビーズをそれぞれ加えて、4℃にて60分間転倒混和して反応させた。PBS-Tを加えて上記ビーズを4回洗浄し、その後、各ペプチドに対するセレクションを行った。
【0084】
(2-2-2)セレクション
CD90に対するセレクションでは、1μMのCD90を含むPBS-T存在下で、反応時間を5分、30分、又は5時間として競合溶出を行い、各反応時間終了後に、容器中の上記競合溶出液を別個に回収した。CD271に対するセレクションでは、1μMのCD271存在下で、反応時間を5分、又は30分として競合溶出を行い、上記反応時間の終了後に、容器中の上記競合溶出液を別個に回収し、最後に10 mM NaOHを用いて、それぞれ溶出させ、それぞれの競合溶出液と合わせた。
【0085】
以上のようにして得られた各溶出液をPCRに供して(PCR条件:アニーリング温度65℃、伸長反応20秒)、上記溶液中に含まれるDNAを増幅させ、その後、次世代シーケンサー(以下、「NGS」と略すことがある。)を用いてNGS解析を行った。いずれのペプチドの解析を行う場合でも、陰性対照としては、SAビーズのみを用いて上記溶出液(試料)と同様の処理を行った溶液を使用して、Negative Controlのデータを取得した。
上記のNGS解析で得られたデータ(以下、「NGSデータ」ということがある。)を上記のNegative Controlのデータと比較し、それぞれのターゲットが固定化されている場合の上位配列、かつ、Negative Controlのデータでは出現率が低い配列をクローン配列としてセレクションした。
【0086】
(3)セレクションされたクローン配列に基づくペプチドの化学合成
上記実施例1で得られたクローン配列に基づいて、Fmoc固相ペプチド合成により、化学合成ペプチドを調製した。
(3-1)ビオチン標識ペプチドの合成
クローン配列に基づく直鎖保護ペプチドを、一般的なFmoc固相ペプチド合成によりペプチド自動合成機Prelude X(Gyros Protein Technologies)を用いて合成した。縮合条件は、Fmoc-AA-OH (5当量, Gyros Protein Technologies), HCTU (5当量, 渡辺化学工業, A00067), NMM (10当量, 富士フィルム和光純薬(株), 136-06876), 20分間のダブルカップリングとした。固相樹脂として、Rink Amide樹脂(Sigma-Aldrich, 727768)を用い、ペプチド鎖C末端はGlyを付加したうえでアミド構造として合成した。なお、本明細書中、上記「当量」は、「等量」と同義である。
【0087】
なお、BLI又はELISAを用いて、得られたペプチドを評価するために、セレクションされたクローン配列(N末端及びC末端の両方にシステインを有する任意の数のアミノ酸で構成された配列)のN末端側に、グリシンまたはセリンからなる5~7残基の末端リンカーを同様のFmoc固相ペプチド合成法により付加し、続いてこの末端にビオチンを、ビオチン(5当量、TCI, B0463)、HCTU(5当量)、NMM(10当量)、2時間~3時間の条件で反応させ、ペプチド鎖のN末端へビオチンを付加した。
【0088】
次いで、TFA cocktail(TFA/H2O/TIS/EDT=94:2.5:1.0:2.5)を用いて、上記直鎖保護ペプチドの切出しと側鎖保護基の脱保護反応とを2時間行い、冷ジエチルエーテル(富士フィルム和光純薬(株), 055-01155)を用いて脱保護直鎖ペプチドを沈殿させ、直鎖粗ペプチドを得た。
【0089】
上記N末端ビオチン標識直鎖ペプチドは、10% DMSO及び40% アセトニトリルを含有するトリス緩衝液(pH 7.0)を用いた酸化によるジスルフィド架橋の形成、又は下記表2にA~Cとして示した各種化学架橋剤(アルキル化剤)をペプチドに対して1.2等量反応させることによる化学架橋形成で環化した。
使用したペプチドとそれらの環状部分の配列、形成させた架橋、標識基、及び後述する結合が認められた評価系との対応づけを下記表2にまとめて示す。
【0090】
【表3】

【0091】
上記表2中、架橋剤Aはbis(vinylsulfone)methane(TCI, B2550)を、架橋剤Bはdivinylsulfone(TCI, D0959)を、また、架橋剤Cはα,α’-dibromo-o-xylene(TCI, D0214)をそれぞれ表す。また、SSは、ジスルフィド架橋を表す。上記の各ペプチドは、架橋なしと記載されているものを除いて、環状部分の配列中、各ペプチドの両末端に位置するシステイン(C)間で架橋させた。
【0092】
(3-2)カルボキシフルオレセイン(FAM)標識ペプチドの合成
まず、クローン配列に基づく直鎖保護ペプチドは、(3-1)と同様の方法によって、ペプチド鎖C末端にGlyを付加した上でアミド構造として合成した。なお、FCMを用いて得られたペプチドを評価するために、上記セレクションされたクローン配列のN末端側に、グリシンまたはセリンからなる5~7残基の末端リンカーを、上記と同様にFmoc固相ペプチド合成法により付加した。
【0093】
引き続き、この末端リンカーを付加したクローン配列を含む溶液中に、3等量のFAM(Cayman Chemical, 19581)、3等量の1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt、東京化成工業(株)製(以下、「TCI)と略すことがある。H0468)、及び3等量のN, N’-Diisopropylcarbodiimide(DIC、TCI, D0254)を加えて2時間~3時間反応させ、FAMのペプチド鎖N末端への付加を行い、直鎖保護ペプチドを得た。なお、上記保護ペプチドの側鎖は、上述したように保護基で保護されている。
【0094】
次いで、TFA cocktail(TFA/H2O/TIS/EDT=94:2.5:1.0:2.5)を用いて、上記直鎖保護ペプチドの切出しと側鎖保護基の脱保護反応とを2時間行い、冷ジエチルエーテル(富士フィルム和光純薬(株)、055-01155)を加えて脱保護したペプチドを沈殿させ、脱保護したN末端FAM標識直鎖粗ペプチドを得た。
【0095】
上記のようにして得られたN末端FAM標識直鎖ペプチドを、10%DMSO及び40%アセトニトリル含有トリス緩衝液(pH 7.0)中に加え、酸化によってジスルフィド架橋を形成させて環化した。また、上記表1中にA~Cとして示した各種アルキル化剤を、各ペプチドに対して1.2等量でそれぞれ反応させ、化学架橋を形成させて環化した。以上のようにして得られた環化ペプチドを逆相HPLCに供して、以下の条件で精製を行い、化学合成ペプチドを得た。
【0096】
カラム:Inertsil ODS-3 (10×250 mm) カラム(GLサイエンス(株))
温度:40℃
溶離液:0.1% TFA含有水-アセトニトリル混液(アセトニトリル含有量を20分間で10%から50%に増加させるグラジエント)
HPLC機器:Agilent 1260 infinity II(アジレント・テクノロジー(株))
流速:4mL/分
【0097】
(4)化学合成ペプチドの結合評価
上記(3)で合成し、上記化学合成ペプチド(ビオチン標識CD90(以下、集合的に「ビオチン化CD90候補ペプチド」ということがある。)及びビオチン標識CD271(以下、集合的に「ビオチン化CD271候補ペプチド」ということがある。))を用いて、BLI、ELISA、及びFCMによる結合評価解析を以下のように行った。
【0098】
(4-1)ビオチン標識ペプチドのBLIによる結合評価
BLIによる結合評価は、Octet RED 384システム(FORTEBIO社製)を用いて、以下の通りに行った。上記ビオチン化CD90候補ペプチドを、それぞれ100 nMになるようにPBS-Tで希釈して希釈液を調製した。続いて、これらの希釈液にストレプトアビジンセンサーチップ(Biosensor / Streptavidin (SA) Tray; FORTEBIO社製, 18-5019)を浸し、各候補ペプチドを固相化した。
【0099】
上記のように上記の各候補ペプチドを固相化したチップを用いて、PBS-T中でCD90の濃度を200 nMから2倍希釈で5点濃度(200 nM, 100 nM, 50 nM, 25 nM, 12.5 nM)で調製し、測定を行った。リファレンスを30秒、結合を240秒、解離を240秒として解析を行い、0 nMのデータ、及びストレプトアビジンセンサーチップの測定結果からダブルリファレンスをとった。図2に、ペプチドをリガンド側、CD90をアナライト側(200 nM, 100 nM, 50 nM,及び25 nM)として測定したときのCD90に対する、BLIによる分子間相互作用測定センサグラムパターンの結果を示す。
【0100】
ビオチン化CD271候補ペプチドを、100 nMになるようにPBS-Tで希釈し、上記と同様にストレプトアビジンセンサーチップ上に固相化した。CD271-MYH及びCD271-GILを固定化したチップを用いて、PBS-T中でCD271の濃度を5,000 nMで測定を行った。リファレンスを30秒、結合を120秒、解離を120秒として解析を行った。
【0101】
また、CD271-HLVを固定したチップでは、CD271の濃度を1,000 nM又は500 nMとして測定を行った。リファレンスを30秒、結合を120秒、解離を120秒として解析を行った。図3に、ペプチドをリガンド側、CD271をアナライト側として同様に測定したときのCD271に対する、BLIによる分子間相互作用測定センサグラムパターンの結果を示す。
【0102】
図2に示す通り、CD90に関しては、CD90-HMP、CD90-GYI、CD90-PVA及びCD90-FTDではアナライト濃度依存的な結合レスポンスが認められた。これに対し、図3に示すように、CD271に関しては、CD271-HLV、CD271-MYH及びCD271-GILでアナライト濃度依存的な結合レスポンスが認められた。
【0103】
(4-2)ビオチン標識ペプチドのELISAによる結合評価
ELISAによる結合評価は、以下のように行った。96ウェルプレート(Nunc-Immuno Module plate, C8, Thermo, 445101)に、CD90又はCD271を最終濃度2μg/mLになるようにPBS(-)でそれぞれ希釈し、各ウェルに100μLずつ添加し、4℃で一晩静置して固相化した。その後、0.05% Tween-20含有PBS(PBS-T)を各ウェルに300μLずつ加えて除去するという洗浄操作を数回行った。次いで、3% BSAを含むPBS溶液を各ウェルに300μLずつ添加し、室温で1時間ブロッキングを行った。
【0104】
上記と同様にPBS-T溶液で数回洗浄操作を行い、2μMになるよう1% BSAを含むPBS溶液で希釈した上記ペプチド溶液を添加し、振盪しながら室温で1時間反応させた。PBS-T溶液で数回洗浄操作を行った後、1% BSAを含むPBS溶液で0.04μg/mLになるよう希釈したストレプトアビジン-HRP(Calbiochem, OR03L)を各ウェルに100μLずつ添加した。次いで、遮光条件にて振盪しながら室温で1時間反応させた。
【0105】
PBS-T溶液で数回ウェル内を洗浄した後に、OPD detection reagent mix (0.015% H2O2を含む0.1 M NaH2PO4 溶液、OPD tablet (富士フィルム和光純薬(株)、155-02161))を各ウェルに100μLずつ添加し、5~10分間、室温で遮光条件にて反応させた。その後、1 M硫酸で反応を停止させ、490 nm (ref: 630 nm)の吸光度をプレートリーダー(Infinite M PLEX, TECAN)にて測定した。結果を図4に示す。
【0106】
図4(A)は、CD90に対する結果を示す。図中、CD90-ASF及びCD90-AQGは、ジスルフィド架橋が分子内で形成された環状ペプチドであり、CD90-ASF-bis及びCD90-AQG-bisは、bis(vinylsulfone)methaneを用いて分子内で化学架橋させた環状ペプチドである。クローンA及びクローンBは、ネガティブコントールとしてのペプチドを示す。また、図4(B)は、CD271に対する結果を示す。図4(B)では、全てジスルフィド架橋が分子内で形成された環状ペプチドを使用した。
【0107】
図4に示す通り、CD90に対しては、クローンA、B(ネガティブコントロールとして用いたCD90に結合活性を有さないペプチド)と比較して、CD90-ASF及びCD90-AQGがより高い吸光度を示した。またbis(vinylsulfone)methaneで架橋した環状ペプチドでも同程度の吸光度が維持された。CD271に対しては、CD271-QRE, CD271-VPT及びCD271-TQPで、BLIで結合が認められているCD271-HLV、CD271-MYH及びCD271-GILよりも高い吸光度を示した。
【0108】
(4-3)FAM標識ペプチドのFCMによる結合評価
CD90陽性細胞としてJurkatβΔ細胞を、また、CD271陽性細胞としてSW480細胞をそれぞれ用いて、以下のように合成した蛍光標識ペプチドと反応させ、以下の手法により評価した。
まず、培養した上記の細胞を回収し、その後、1% BSA含有2 mM EDTA/PBS溶液を用いて、洗浄操作を数回行った。次いで、抗CD90_FITC抗体(BD Pharmingen, 555595)又は抗CD271_FITC抗体(Miltenyi Biotec, 130-113-420)を、1% BSA含有2 mM EDTA/PBS溶液で希釈し、抗体希釈液とした。これらの抗体希釈液又は5μMの標識ペプチド溶液を、96ウェルプレートの各ウェルに100μLずつ加え、氷上で1時間反応させた。その後、1% BSA含有2 mM EDTA/PBS溶液で、各サンプルを数回洗浄し、Cell Sorter(SONY, SH800)を用いて結合評価を行った。対照として、NC-His(配列番号28:FAM-GGGSHHHHHH)を使用した。
【0109】
CD90陽性細胞を用いた結果を図5に示す。図5に示すように、4種類のペプチド(CD90-ASF、CD90-HMP、CD90-GYI及びCD90-FTD)は、JurkatβΔ細胞に対し、ピークシフトを示した(図5(A)~(D))。また、そのピークシフトはコントロールとして用いたF-NC-His(図5(E))と比較して、顕著であった。
【0110】
CD271陽性細胞を用いた結果を図6に示す。図6に示すように、4種類のペプチド(CD271-HLV、CD271-TQP、CD271-QRE、及びCD271-VPT)のいずれにおいても、SW480細胞に対して、ピークシフトが認められた(図6(A)~(D))。図7に示すように、CD271の発現が認められないTHP-1細胞を用いると、評価に用いたCD271候補ペプチド(CD271-HLV)による結合は認められなかった。
【0111】
(実施例2)CD90及びCD271結合性ダイマーペプチドの取得
上記実施例1において、複数種類の結合候補ペプチドを取得した。抗体代替ペプチドの調製に向けて、さらに結合活性を向上させるか、又は標的タンパク質に対する選択性の向上を検討するために、ダイマーペプチドの作製を検討した。
【0112】
ダイマーペプチドの作製にあたっては、ペプチドの結合部位とペプチド間を連結するリンカー長との関連が重要になると想定された。このため、主に上記実施例1で取得した候補ペプチドを使用して、二価ペプチド組合せ技術により、様々な二価ペプチドの組合せとリンカー長からなるダイマーペプチド群とを調製した。続いて、BLIとELISAによる結合評価を実施し、候補となるダイマーペプチドを選出した。
【0113】
(1)2つの異なるペプチドを含むダイマーペプチドの調製
上記環状ペプチド(ユニットA)にリンカーユニットと別の環状ペプチド(ユニットB)を順次連結させて、ダイマーペプチドを作製した(図8(A)参照)。ユニットAのペプチドのC末端部位には、グリシンーリジンーグリシンの配列になるよう予め付加し、さらにユニットBのペプチドのN末端部位にグリシン二残基を介してシステインを予め付加するよう設計した。
【0114】
これにより、MalとNHSとを有するリンカーを用いると、上記ユニットAのC末端に付加したリジンとリンカーのNHS基とが選択的に共有結合し、続いてユニットBのN末端に付加したシステインとリンカーのMal基とが選択的に共有結合した。この反応によって、ユニットA及びB中のペプチドを部位特異的に連結させた結合分子(ダイマーペプチド)を取得した。また、前述のリンカーとして、長さが異なるリンカーを用いて、前述のダイマーペプチド中の各ユニット間の距離に多様性を持たせるようにした。
【0115】
なお、前述リンカーとして、下記の市販品をBroadPharm社より購入して使用した。
リンカーPEG2:Mal-amido-PEG2-NHS(BP-22156)
リンカーPEG4:Mal-amido-PEG4-NHS(BP-22157)
リンカーPEG6:Mal-amido-PEG6-NHS(BP-22158)
リンカーPEG8:Mal-amido-PEG8-NHS(BP-22159)
リンカーPEG12:Mal-amido-PEG12-NHS(BP-22217)
リンカーPEG24:Mal-amido-PEG24-NHS(BP-22218)
【0116】
また、予めユニットAのペプチドをビオチン標識しておき、精製工程なしにBLIやELISAなどの結合評価系に用いることをできるように設計した。これにより、精製する場合に必要となるような大量のペプチドを用意する必要がなくなり、得られたダイマーペプチドの結合活性評価を行うことが可能となる。そのため、96ウェルプレートを用いて、図8(B)に示すような組合せで前述の連結を順次行い、ダイマーペプチドを構成する各ペプチドの組合せとそのリンカー長の最適な長さのスクリーニングを、結合活性という指標によって、一挙に評価した。
【0117】
(2)二価ペプチド組合せ技術による結合分子(ダイマーペプチド)のスクリーニング
(2-1)二価ペプチド組合せ技術によるダイマーペプチドの調製
図8に示すように、二価ペプチド組合せ技術によるダイマーペプチドの調製を行った。上記ユニットAとして、CD90を標的抗原とする場合は、CD90に結合する3種類のペプチドを使用し、上記ユニットBとして、CD90に結合する4種類のペプチドを使用した。CD271を標的抗原とする場合は、上記ユニットAとして、CD271に結合する3種類のペプチドを使用し、上記ユニットBとして、CD271に結合する3種類のペプチドを使用した。また、いずれの標的抗原の場合にも、上記リンカーユニットとして、市販のPEG2、PEG4、PEG6、PEG8、PEG12及びPEG24を使用した。
【0118】
各ユニットと、リンカーとの組み合わせを下記表3に示す。なお、直鎖構造で結合が認められたCD90-GYIとCD90-PVAとは、ペプチド中のCysを、Alaに置換したものを調製し、これらを用いて検討を行った(以下、それぞれ、CD90-GYI-AA又はCD90-PVA-AAと略す)。
【0119】
【表4】

【0120】
上記ユニットA、上記リンカーユニット、及び上記ユニットBの連結は、以下のように行った。まず、1当量の上記ユニットA(10 mMのペプチドを含むDMF溶液)、1.5当量の上記リンカーユニット(50 mMのリンカーを含むDMF溶液)、及び2当量のN-メチルモルホリン(100 mMのDMF溶液)を混合し、24~48時間反応させた。引き続き、その反応溶液中に、2当量の上記ユニットB(10 mMのペプチドを含むDMF溶液)を加え、再度、24時間反応させた。
【0121】
上記表3に示すユニットAとユニットBとの組み合わせにより、CD90の場合は72種類、CD271の場合は54種類のビオチン化結合分子(ダイマーペプチド)群を調製した。なお、調製したダイマーペプチド濃度は、理論値0.167mMになるよう調製した。
【0122】
(2-2)BLI、ELISAによる結合評価と候補分子(ダイマーペプチド)の選出
上記(2-1)で化学合成した上記ビオチン化結合分子(以下、「CD90候補分子」、「CD271候補分子」ということがある。)をPBS-Tで5,000倍に希釈した溶液を調製し、ストレプトアビジンセンサーチップをここに浸してこのチップ上にこれらの候補分子を固相化した。
【0123】
上記CD90候補分子を固定したチップを用いて、500 nMのCD90を含むPBS-T溶液を調製し、500 nMで一点測定を行った。リファレンスを30秒、結合を120秒、解離を120秒として解析を行い、レスポンスの確認をとった。その後、レスポンスが見られたペプチドについては、500 nMから2倍希釈で4段階の希釈液を調製し、これら4点で測定を行った(図10)。リファレンスを30秒、結合を600秒、解離を600秒として解析を行った。実施例1と同様にして、0 nMのときのデータ、及びストレプトアビジンセンサーチップの測定結果からダブルリファレンスをとり、付属の解析ソフトを用いてヘテロリガンドでフィッティングした。
【0124】
次に、上記CD271候補分子を固定したチップを用いて、1,000 nM のCD271を含むPBS-T溶液中で1000 nMでの一点測定を行った。リファレンスを30秒、結合を120秒、解離を120秒として解析を行い、レスポンスの確認をとった。その後、レスポンスが見られたペプチドについては1,000 nMから2倍希釈で5段階の希釈液を調製し、これらの5点で測定を行った(図12)。リファレンスを30秒、結合を180秒、解離を180秒として解析を行った。上記と同様にしてダブルリファレンスをとり、付属の解析ソフトを用いて、ヘテロリガンドでフィッティングした。
【0125】
ELISAでは、すべての候補分子(ダイマーペプチド)を100倍希釈して反応させた。その結果を図9図11に示す。図9に示すように、CD90抗原については、ユニットAとユニットBとの組み合わせ(以下、「ユニットA」x「ユニットB」と記載する。)が、CD90-ASF×CD90-HMP、CD90-ASF×CD90-ASFのときに、ELISAで強い結合が認められた。さらに、図10に示すように、CD90-ASF×CD90-ASFの場合、BLIを用いた場合でも同様の結果が示された。CD271抗原に関しては、図11及び図12に示す通り、CD271-HLV×CD271-KYGでのペプチドの組合せのときに、リンカー長に依存した結合の増強がELISA及びBLIの双方で認められた。
【0126】
また、図11図12に示す通り、リンカー長については、リンカー長が短い程結、レスポンスが増強することを示唆するデータが得られた。このことは、上記ユニットAと上記ユニットBとの距離が近いほど、レスポンスが高いことを示す。
以上の結果より、本発明のダイマーペプチドの組合せ技術によって、得られたバイパラトピックペプチド(二価ペプチド)におけるユニットA及びユニットBとして使用する各ペプチドの組合せと、これらを連結するリンカーユニットで使用するリンカーとして最適なリンカー長を決定できることが示された。また、ここで増強されたレスポンスを示したダイマーペプチドを、FCM測定用に選別した。
【0127】
(3)ビオチン標識ペプチドを用いたFCMによる評価
(3-1)ビオチン標識ペプチドの作製
上記実施例2(2)で選別された候補分子(ダイマーペプチド)の結合活性をFCMで評価するために、それらを精製し、精製物を調製した。
【0128】
実施例1と同様に、Rink Amide樹脂を用いたFmoc固相ペプチド合成により、各モノマーペプチドを調製した。その後、上記モノマーペプチドをユニットA又はユニットBとして使用し、実施例2(2)と同様にして上記リンカーと連結させ、ビオチン標識ダイマーペプチドを得た。
得られたビオチン標識ダイマーペプチドを、以下の条件で逆相HPLCにより精製して、FCMの検討に必要なビオチン標識精製ダイマーペプチドを得た。上記精製ビオチン標識ダイマーペプチドの配列を表4に示す。
【0129】
カラム:COSMOSIL Protein-R (4.6×250 mm) カラム(Nacalai Tesque社)
温度:40℃
溶離液:0.1% TFA含有の水-アセトニトリル(アセトニトリル含有量を40分間で20%から60%まで増加させる)
HPLC機器:Agilent 1260 infinity II(アジレント・テクノロジー(株))
流速:1mL/分
【0130】
【表5】

【0131】
CD90抗原に対しては、上記(2-2)のスクリーニング結果から選別されたヘテロダイマーの組合せと、ホモダイマーの組合せからなるダイマーペプチドとを、それぞれ1種類ずつ精製物として得た。CD271抗原に対しては、上記のスクリーニング結果から得られたヘテロダイマーの組合せ(CD271-HLV×CD271-KYG)に加えて、CD271-HLV同士のホモダイマーも精製物として得た。
【0132】
(3-2)FCMによる評価
凍結乾燥したコントロール細胞Veri-Cells_PBMC (BioLegend)を用いて、上述したビオチン化ダイマーペプチドのFCMによる結合評価を行った。再融解したVeri-Cellsを1% BSA含有2 mM EDTA/PBS溶液を用いて洗浄した。上記のように調製したダイマーペプチドを1%BSA含有2 mM EDTA/PBS溶液で希釈し、これらをチューブ中で混合して氷上で1時間反応させた。その後、再び洗浄操作を行い、1%BSA含有2 mM EDTA/PBS溶液で希釈したAlexa647標識ストレプトアビジン(Jackson, ImmunoResearch, 016-600-084, 以下、「SA-Alexa647」ということがある。)溶液をこのチューブに添加し、氷上で1時間反応させた。その後、1% BSA含有2 mM EDTA/PBS溶液で、各サンプルを数回洗浄し、Cell Sorter(SONY, SH800)を用いて結合評価を行った。その結果を図13~16に示す。
【0133】
図15及び図16に、CD271抗体とCD271結合性候補分子(ダイマーペプチド)とを用いた検討を行った結果を示す。FITC標識した抗CD271抗体を用いて、CD271の発現を評価した。その結果、FITC標識抗体との結合に伴う蛍光強度の変化が集団A及び集団Cの双方において認められた。これによって、Veri-Cells_PBMCにおけるCD271の発現を確認した。
【0134】
引き続き、上記二価ペプチドを用いて結合性を評価したところ、抗CD271抗体と同様に、集団Aと集団Cとにおけるピークシフトが認められ、CD271の発現が確認された。なお、上記ペプチドの非存在下ではピークシフトは認められなかった。このため、SA-Alexa647による非特異的な影響は、ほとんどないものと考えられた。
【0135】
次に、CD90抗体とCD90結合性候補分子(ダイマーペプチド)を用いた検討を行った。結果を図13及び図14に示す。FITC標識抗CD90抗体を用いて評価したところ、標識抗体との結合に伴うピークシフトが認められ、CD90の発現を確認した。そのため、CD90抗原の検討を行う場合にも、Veri-Cells_PBMCを用いることとし、CD271抗体とCD271結合性候補ダイマーペプチドとを使用した場合と同様の操作を行った。
その結果、CD90に対する候補二価ペプチドを用いた検討においても、抗CD90抗体と同様に、集団Aと集団Cにおけるピークシフトが認められ、CD90の発現が確認された。
以上より、本発明の結合性分子(ダイマーペプチド)は、標的分子と結合することが確認され、これらは抗体と代替可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明は、医薬、診断薬、再生医療の分野で有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0137】
配列番号1:CD90-ASFのアミノ酸配列
配列番号2:CD90-AQGのアミノ酸配列
配列番号3:CD90-HMPのアミノ酸配列
配列番号4:CD90-GYIのアミノ酸配列
配列番号5:CD90-PVAのアミノ酸配列
配列番号6:CD90-FTDのアミノ酸配列
配列番号7:CD271-HLVのアミノ酸配列
配列番号8:CD271-MYHのアミノ酸配列
配列番号9:CD271-GILのアミノ酸配列
配列番号10:CD271-TQPのアミノ酸配列
配列番号11:CD271-QREのアミノ酸配列
配列番号12:CD271-VPTのアミノ酸配列
配列番号13:CD271-KYGのアミノ酸配列
配列番号14:S又はLヒンジ用フォワードプライマーのヌクレオチド配列
配列番号15:S又はLヒンジ用リバース1プライマーのヌクレオチド配列
配列番号16:S又はLヒンジ用リバース2プライマーのヌクレオチド配列
配列番号17:オーバーラップPCR用フォワードプライマー1のヌクレオチド配列
配列番号18:オーバーラップPCR用リバースプライマー1のヌクレオチド配列
配列番号19:cnvK rG Linkerの主鎖のヌクレオチド配列
配列番号20:ランダムオリゴプライマーのヌクレオチド配列
配列番号21:ランダムオリゴプライマーのヌクレオチド配列
配列番号22:ランダムオリゴプライマーのヌクレオチド配列
配列番号23:オーバーラップPCR用フォワードプライマー2のヌクレオチド配列
配列番号24:オーバーラップPCR用リバースプライマー2のヌクレオチド配列
配列番号25:ランダムオリゴプライマー伸長反応用オリゴDNA用プライマー
配列番号26:B-CD90-GYI-AAのアミノ酸配列
配列番号27:NC-Hisのアミノ酸配列
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
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