(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022726
(43)【公開日】2023-02-15
(54)【発明の名称】車両用サイドドア構造
(51)【国際特許分類】
B60J 5/04 20060101AFI20230208BHJP
【FI】
B60J5/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021127751
(22)【出願日】2021-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正義
(57)【要約】
【課題】ドアビーム用のブラケットとインナパネルとの固定箇所の応力を低減する。
【解決手段】車両用サイドドア構造を有するサイドドア100は、インナパネル2及びアウタパネル3を有するドア本体1と、インナパネル2にブラケット11を介して固定されるドアビーム10と、を含む。インナパネル2、アウタパネル3と連結する周縁部21と、周縁部21の内側で車幅方向内側に臨む環状面部22と、環状面部22と周縁部21とを接続する領域のうちの車両後方で且つ車両下方の部分において車幅方向内側に臨むとともに環状面部22よりも車幅方向外側に位置する平面部23aと、平面部23aと環状面部22とを接続する縦壁部23bと、を有する。環状面部22にウェザストリップが当接し、平面部23aにブラケット11が固定され、インナパネル2は縦壁部23bから分岐して平面部23aに沿って延びているビード(B1~B4、E)を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナパネル及び該インナパネルの車幅方向外側に配置されたアウタパネルを有するドア本体と、該ドア本体内にて車両前後方向に延在し前記インナパネルにブラケットを介して固定される後端部を有するドアビームと、を含み、
前記ドア本体の前部がヒンジを介して車体に連結され、
前記インナパネルは、前記アウタパネルと連結する周縁部と、該周縁部の内側で車幅方向内側に臨む環状面部と、該環状面部と前記周縁部とを接続する領域のうちの車両後方で且つ車両下方の部分において車幅方向内側に臨むとともに前記環状面部よりも車幅方向外側に位置する平面部と、該平面部と前記環状面部とを接続する縦壁部と、を有し、
前記環状面部にウェザストリップが当接し、前記平面部に前記ブラケットが固定されている、車両用サイドドア構造であって、
前記インナパネルは、前記縦壁部から分岐して前記平面部に沿って延びている少なくとも一本のビードを有することを特徴とする、車両用サイドドア構造。
【請求項2】
前記インナパネルは、前記平面部における前記ドア本体の後方下角部近傍の部分に位置し且つ衝撃緩和部材が取り付けられる取付部を有しており、
前記少なくとも一本のビードは、前記ブラケットよりも下方に位置し且つ前記縦壁部から前記取付部まで延在する第1ビードを含む、請求項1に記載の車両サイドドア構造。
【請求項3】
前記少なくとも一本のビードは、前記平面部における前記ブラケットが取り付けられる領域を通過する第2ビードを含む、請求項1又は2に記載の車両サイドドア構造。
【請求項4】
前記インナパネルは、前記平面部における前記ドア本体の後方下角部近傍の部分に位置し且つ衝撃緩和部材が取り付けられる取付部を有しており、
前記少なくとも一本のビードは、前記ブラケットよりも下方に位置し且つ前記縦壁部から前記取付部まで延在する第1ビードと、前記平面部における前記ブラケットが取り付けられる領域を通過する第2ビードと、前記第1ビードと前記第2ビードとの間に位置する第3ビードとを含む、請求項1に記載の車両サイドドア構造。
【請求項5】
前記少なくとも一本のビードは、車幅方向から視た平面視で前記平面部において前記周縁部に沿って延びており、前記縦壁部における前記ブラケットより上方の上側部分に接続する一端部と前記縦壁部における前記周縁部の下縁部近傍の下側部分に接続する他端部を有する、周縁ビードを含む、請求項1~4のいずれか一つに記載の車両サイドドア構造。
【請求項6】
前記少なくとも一本のビードの前記縦壁部に対する接続部分は、曲線状に形成されている、請求項1~5のいずれか一つに記載の車両サイドドア構造。
【請求項7】
前記環状面部のうちの前記平面部に対応する部分は、車両後方に向かうほど前記インナパネルの前記周縁部の下縁部分から遠ざかるように傾斜している、請求項1~6のいずれか一つに記載の車両用サイドドア構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インナパネルとアウタパネルとを有するヒンジ開閉式のドア本体とドア本体内において車両前後方向に延在したドアビームとを含む車両用サイドドア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ヒンジ開閉式の車両用サイドドアにおいて、ヒンジはドア本体の前部に取り付けられ、ドアビームの後端部はインナパネルの車幅方向外側面にブラケットを介して固定されており、このブラケットはインナパネルにスポット溶接により接合されている。そのため、サイドドアの開閉時に、ブラケットとインナパネルとのスポット溶接箇所に応力が発生し得る。つまり、ドアビームは慣性を有しているため、ドアビームの後端部はサイドドアを閉めた際に車室内側に移動しようとする。これに対し、インナパネルの後部には、ウェザストリップや衝撃緩和部材から車室外へ移動させる反力が作用し、ドアビームの後端部とインナパネルの後部の結合点であるブラケットのスポット溶接箇所に応力が発生し得るため、この応力を低減するための応力低減構造が提案されている。
【0003】
応力低減構造を有する車両用サイドドア構造の一例として、特許文献1に記載された車両側部構造が知られている。この特許文献1に記載された構造は、衝撃緩和部材をスポット溶接箇所の近傍に配置させることでスポット溶接箇所での応力の発生の低減を図るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般に、インナパネルは、アウタパネルと連結する周縁部と、この周縁部の内側で車幅方向内側に臨み且つウェザストリップが当接する環状面部とを有している。そして、環状面部と周縁部との間の領域のうちの車両後方で且つ車両下方の部分である平面部に、ドアビーム固定用のブラケットが接合され、この平面部は環状面部よりも車幅方向外側に位置しており、環状面部と平面部との間の段差は縦壁部によって接続されている。つまり、ウェザストリップ用の環状面部に剛性を持たせるために、環状面部が平面部よりも車室内側(車幅方向内側)に突出したビードの凸部の上面部により構成されている。このため、サイドドアを閉めた際に、縦壁部と平面部とが交わる角部(つまり、ウェザストリップ用のビードの谷筋のライン)に、応力が集中し得る。その結果、この角部における応力集中に起因する変形などによって、副次的にドアビーム固定用のブラケットのスポット溶接箇所に応力が発生し得ることになり、その工夫が求められ得る。
【0006】
そこで、本発明は、ドアビームの後端部をインナパネルに固定するブラケットとインナパネルとの固定箇所に発生し得る応力を効果的に低減することができる車両用サイドドア構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明の一態様によると、車両用サイドドア構造が提供される。この車両用サイドドア構造は、インナパネル及び該インナパネルの車幅方向外側に配置されたアウタパネルを有するドア本体と、該ドア本体内にて車両前後方向に延在し前記インナパネルにブラケットを介して固定される後端部を有するドアビームと、を含む。この車両用サイドドア構造において、前記ドア本体の前部がヒンジを介して車体に連結され、前記インナパネルは、前記アウタパネルと連結する周縁部と、該周縁部の内側で車幅方向内側に臨む環状面部と、該環状面部と前記周縁部とを接続する領域のうちの車両後方で且つ車両下方の部分において車幅方向内側に臨むとともに前記環状面部よりも車幅方向外側に位置する平面部と、該平面部と前記環状面部とを接続する縦壁部と、を有し、前記環状面部にウェザストリップが当接し、前記平面部に前記ブラケットが固定されている。そして、この車両用サイドドア構造において、前記インナパネルは前記縦壁部から分岐して前記平面部に沿って延びている少なくとも一本のビードを有している。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様による前記車両用サイドドア構造では、前記インナパネルが前記縦壁部から分岐して前記平面部に沿って延びている少なくとも一本のビードを有している。これにより、サイドドアを閉めた際に応力が集中し得る前記縦壁部と前記平面部とが交わる角部(つまり、ウェザストリップ用のビードの谷筋のラインとなる部分)の範囲が減少するとともに、前記角部(谷筋のライン)に発生した応力が前記少なくとも一本のビードを通じてインナパネルの周縁部側に分散される。さらに、前記少なくとも一本のビードによって前記ブラケットが固定される前記平面部全体の剛性(面剛性)が向上するとともに前記縦壁部から前記平面部に亘る高剛性の立体的な構造が構築され、応力が比較的に均一に分散されて前記角部における応力の集中が抑制されるようになる。これらにより、前記角部における応力集中に起因して副次的にブラケットの固定箇所に発生し得る応力が効果的に低減することになる。
【0009】
このようにして、本発明は、ドアビームの後端部をインナパネルに固定するブラケットとインナパネルとの固定箇所に発生し得る応力を効果的に低減することができる車両用サイドドア構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両用サイドドア構造が適用されたサイドドアを車幅方向内側から視た平面図である。
【
図2】前記サイドドアのインナパネルとアウタパネルとの連結構造を説明するための概念図である。
【
図6】
図4に示すC-C線に沿って切断されたカットモデルの部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用サイドドア構造が適用されたサイドドア100を車幅方向内側から視た平面図である。なお、図において、矢印Fr方向は車両前後方向で車両前方を示し、矢印O方向は車両幅方向(車幅方向)で車両外方を示し、矢印U方向は車両上下方向で車両上方を示している。以下の説明における「前」及び「後」は車両前後方向における前及び後に対応し、「上」及び「下」は車両上下方向における上及び下に対応している。
【0012】
[サイドドアの概要]
図1に示すように、サイドドア100は、ドア本体1と、ドアビーム10と、を含み、車体側部に開口されたドア開口の一部を開閉するヒンジ開閉式のドアである。本実施形態では、サイドドア100は、フロントサイドドアであるものとする。以下では、車室内の乗員が車両前後方向の前方に向かって視たときの右側のフロントサイドドアに、サイドドア100が適用された場合について説明する。
【0013】
ドア本体1は、インナパネル2と、インナパネル2の車幅方向外側に配置されたアウタパネル3と、を有している。各パネル(2,3)は、薄い金属製鋼板にプレス成型等を施すことにより形成される。ドア本体1は、自身の前部がヒンジ1aを介して車体(図示省略)に連結されており、サイドドア100はヒンジ1aを支点として車幅方向に回動(開閉)自在に車体に連結されている。
【0014】
ドア本体1(換言すると、インナパネル2及びアウタパネル3)は、車幅方向から視た平面視で、概ね矩形状の外形を有しており、上半分側の領域の中央部にスライドガラス用の窓孔1bが開口されている。また、車幅方向で視た平面視で、ドア本体1の後方の上下の各角部(後方下角部C1、後方上角部C2)はいずれも概ね直角の角として形成され、前方下角部C3はR形状に丸められている。なお、図示を省略したが、ドア本体1の車幅方向内側(つまり、インナパネル2)には、樹脂製のトリムが装着される。
【0015】
インナパネル2は、ドア本体1における車幅方向内側のパネルを構成する部材であり、アウタパネル3の周縁部31と連結する周縁部21を有している。
図1では、主に、インナパネル2の車幅方向内側面2aが視認される。なお、インナパネル2の詳しい構造については後に詳述する。
【0016】
アウタパネル3は、インナパネル2の車幅方向外側面2bに相対し、サイドドア100の車幅方向の最外壁を構成する部材である。アウタパネル3は、インナパネル2の周縁部21と連結する前述した周縁部31を有している。
【0017】
図2は、ドア本体1におけるインナパネル2とアウタパネル3との連結構造を説明するための概念図である。ドア本体1は、インナパネル2の周縁部21とアウタパネル3の周縁部31とが互いに連結されることにより構成されている。具体的には、アウタパネル3の周縁部31は全周に亘って車幅方向内側に折り返されたU字部(つまり、ヘミング加工が施された部分)を構成している。そして、インナパネル2の周縁部21がアウタパネル3の周縁部31(前記U字部)により覆われた状態で、周縁部21と周縁部31がスポット溶接等により互いに接合されている。つまり、アウタパネル3は、その外縁にヘミング加工が施されてインナパネル2と一体化されており、インナパネル2と協働して閉断面構造を構成している。なお、
図1では、インナパネル2の周縁部21はアウタパネル3の周縁部31内に位置して隠れている。
【0018】
図1に戻って、ドアビーム10は、ドア本体1内にて車両前後方向に延在している。ドアビーム10は、側面衝突時においてサイドドア100の変形を抑制するための直線的に延びた部材であり、例えば、筒状に形成されている。ドアビーム10は、ドア本体1内の下側の領域において車両前後方向の概ね全体に亘って延在している。ドアビーム10の後端部10aはインナパネル2の車幅方向外側面2bにブラケット11を介して固定され、ドアビーム10の前端部10bは例えばインナパネル2の車幅方向外側面2bに別のブラケット12を介して固定される。インナパネル2には複数の孔2cが開口されており、
図1では、前側のブラケット12が孔2cを通じて視認されるが、後側のブラケット11はインナパネル2の裏側に隠れている。
【0019】
[インナパネルの概要]
以下では、インナパネル2の構造について、
図1~
図6を参照して説明する。
図3はサイドドア100の部分斜視図であり、
図4は
図1に示すA部の拡大図であり、
図5は
図4に示すB-B線に沿った断面図であり、
図6は
図4に示すC-C線に沿って切断されたカットモデルの部分斜視図である。
【0020】
図1に示すように、インナパネル2は、前述した周縁部21と、周縁部21の内側の環状面部22と、環状面部22と周縁部21との間を接続する接続部23と、を有する。
【0021】
インナパネル2は、上記要素(21,22,23)に加えて、窓縁部24と、インナパネル2における窓縁部24より下方の大半の領域を占める主要部25とを有し、これら(21,22,23,24,25)が一体に形成されている。
【0022】
周縁部21は、車幅方向から視たインナパネル2の最外縁から内側に適宜の幅を有してパネル周方向の全周に亘る部分であり、前述したように、アウタパネル3の周縁部31と連結している。
【0023】
環状面部22は、周縁部21の内側で車幅方向内側に臨む部分であり、環状に延びている。換言すると、環状の環状面部22は、周縁部21の内側で、車両前後方向及び車両上下方向に延びて車幅方向内側に臨んでいる。また、窓縁部24及び主要部25は環状面部22の内側に位置している。環状面部22は、車幅方向内側(車室内側)に面した平坦な環状面を有している。この環状面は、インナパネル2の車幅方向内側面2aの一部を構成している。そして、環状面部22(前記環状面)に弾性を有した環状のウェザストリップ26(シール部材)が車幅方向内側から当接している(
図5参照)。なお、
図1、
図3、
図4及び
図6では、ウェザストリップ26は図示省略されている。
【0024】
つまり、環状面部22は、ウェザストリップ26が接触する接触面を形成する部分である。環状面部22は、車幅方向から視た平面視で、その大半の部分が周縁部21の内側近傍で周縁部21に沿うように延びている。但し、
図1、
図3及び
図4に示すように、環状面部22のうちのドア本体1の後方下角部C1の内側の部分は、車体側部の構造等の規制を受けて、周縁部21(後方下角部C1)から車両前方で且つ車両上方に大きく退避する(離れる)ように延びている。主要部25の後方下角部C1側の部分も同様である。
【0025】
接続部23は、環状面部22と周縁部21との間を接続する部分である。接続部23は、環状面部22と周縁部21とを接続する領域のうちの車幅方向から視た平面視において車両後方で且つ車両下方の部分である平面部23aと、当該平面部23aと環状面部22とを接続する縦壁部23bを有している(
図3~
図6参照)。なお、車幅方向から視た平面視において、接続部23のうちの平面部23a以外の部分は、平面部23aに連続して上方に延び、後方上角部C2の近傍及び前方下角部C3の近傍を経由して再び平面部23aに接続するように延びている。
【0026】
平面部23aは、環状面部22と周縁部21とを接続する領域のうちの車両後方で且つ車両下方の部分において車幅方向内側に臨むとともに環状面部22よりも車幅方向外側に位置している。つまり、平面部23aは、車幅方向から視た平面視で、環状面部22のうちの後方下角部C1から車両前方で且つ車両上方に退避した部分(以下では、退避部分22aと言う)とこの退避部分22aに隣接する周縁部21との間の部分である。平面部23aは、車両前後方向及び車両上下方向に延びて車幅方向内側に臨んでいる。平面部23aは、車幅方向外側(アウタパネル3側)に面する外面と車幅方向内側(車室側)に面する内面とを有する。平面部23aの外面はインナパネル2の車幅方向外側面2bの一部を構成し、平面部23aの内面はインナパネル2の車幅方向内側面2aの一部を構成している。そして、平面部23aの外面(2b)に後側のブラケット11が固定されている。
【0027】
具体的には、ブラケット11は、スポット溶接により平面部23aの外面に接合されている。ブラケット11は、例えば、ドアビーム10の断面形状に合わせて湾曲した湾曲部と、この湾曲部の両端からそれぞれ張り出したフランジ部とを有している。ドアビーム10の後端部10aがブラケット11の前記湾曲部と平面部23aとの間に挟み込まれた状態で、前記フランジ部が平面部23aの外面に接合されることにより、ドアビーム10の後端部10aがインナパネル2に接合(固定)されている。
図1、
図3及び
図4には、ブラケット11とインナパネル2とのスポット溶接箇所が、点線丸印で模式的に示されている。
【0028】
縦壁部23bは、環状面部22のうちの退避部分22aと平面部23aとの間の段差部分を接続するものであり、退避部分22aの後縁と平面部23aの前縁とを接続している。つまり、ウェザストリップ26用の環状面部22に剛性を持たせるために、環状面部22の退避部分22aが平面部23aよりも車幅方向内側(車室側)に突出したビードの凸部の上面部により構成されている。したがって、ウェザストリップ26用のビードの縦壁(側壁)が縦壁部23bにより構成されている。
【0029】
窓縁部24は、窓孔1bの開口縁を構成し且つ車幅方向で視た平面視で環状面部22の内側に位置する部分である。
【0030】
主要部25は、窓縁部24より下方で窓縁部24と連続し且つ環状面部22の内側に位置する部分である。主要部25は、全体として車幅方向内側に向かって大きく膨らむように形成されている。主要部25は、インナパネル2の車幅方向外側面2bに向かって視た場合、全体として車幅方向内側に凹んだ形状に形成され、アウタパネル3と協働してドアビーム10等の各種の部材や機器を収容する収容室を構成している。
【0031】
[インナパネルの詳細構造]
インナパネル2は、上述した各要素(21,22,23,24,25)に加えて、以下の要素(構造)を有している。
【0032】
インナパネル2は、縦壁部23bから分岐して平面部23aに沿って延びている少なくとも一本のビード(B1~B4、E)を有している。
【0033】
少なくとも一本のビード(B1~B4、E)は、ここでは、第1ビードB1と、第2ビードB2と、第3ビードB3と、第4ビードB4と、周縁ビードEと、を含む。各ビード(B1~B4、E)は、車幅方向内側(車室内)に向かって突出した断面形状を有して直線的に延びている。具体的には、各ビード(B1~B4、E)は、平面部23aの内面(車幅方向内側面2a)側では平面部23aの他の部分よりも車室内側に突出しており、平面部23aの外面(車幅方向外側面2b)側では平面部23aの他の部分よりも車室内側に凹んでいる。また、各ビード(B1~B4、E)は、例えば、車室内側に突出した概ね台形断面(山形)を有し、台形頂部の平坦部と、ビード幅方向両側の側壁部とからなる。なお、各ビード(B1~B4、E)の位置等については、後に詳述する。
【0034】
ここで、本実施形態では、
図4に示すように、環状面部22のうちの平面部23a(換言すると、縦壁部23b)に対応する部分(つまり、退避部分22a)は、車両後方に向かうほどインナパネル2の周縁部21の下縁部から遠ざかるように傾斜している。
【0035】
具体的には、環状面部22の退避部分22aは、例えば、湾曲部22a1と直線部22a2とからなる。湾曲部22a1は退避部分22aにおける概ね下半分側の部分を構成し、直線部22a2は概ね上半分側の部分を構成している。湾曲部22a1は、概ね後方下角部C1に向かって突出するように滑らかに湾曲している。湾曲部22a1の一端は環状面部22のうちの周縁部21の下縁部に沿って延びた部分の後端に接続し、湾曲部22a1の他端は直線部22a2の下端に接続している。直線部22a2は車両後方に向かうほど周縁部21の下縁部から遠ざかるように直線的に延びている。縦壁部23bにおける湾曲部22a1に対応する部分は湾曲部22a1と同様に湾曲し、縦壁部23bにおける直線部22a2に対応する部分は直線部22a2と同様に直線的に延びている。
【0036】
本実施形態では、インナパネル2は、平面部23aにおけるドア本体1の後方下角部C1近傍の部分に位置し且つ衝撃緩和部材27が取り付けられる取付部28を有している。衝撃緩和部材27は、サイドドア100を閉めた際に生じるヒンジ1aを支点としたサイドドア100の慣性エネルギーを車体側へ効率的に伝達するための部品の一つである。衝撃緩和部材27は、例えば、クッションゴムなどの弾性を有した円柱状の部材からなる。衝撃緩和部材27は、取付部28に取り付けられた状態で平面部23aよりも車幅方向内側(車室内)側に突出しており、ドア閉の際に車体に接触して衝撃を緩和する。
【0037】
次に、各ビード(B1~B4、E)の位置等について説明する。
【0038】
まず、周縁ビードEは、車幅方向から視た平面視で、平面部23aにおいて周縁部21に沿って延びており、縦壁部23bにおけるブラケット11より上方の上側部分23b1に接続する一端部と縦壁部23bにおける周縁部21の下縁部近傍の下側部分23b2に接続する他端部を有している。衝撃緩和部材27用の取付部28は、周縁ビードE上に位置しており、周縁ビードEと一体に形成されている。具体的には、周縁ビードEは、前記一端部を含む車両上下方向に延びる部分と前記他端部を含む車両前後方向に延びる部分とからなり、これらの部分と縦壁部23bとにより閉構造が構成され、この閉構造の内側に他のビード(B1~B4)が設けられている。
【0039】
周縁ビードEにおける車両前後方向に延びる部分の下側の側壁部E1は、車両下方に向かうほどアウタパネル3に近づくように傾斜するとともに、その下端が周縁部21に接続している。そして、下側の側壁部E1には、複数の水抜き用の孔E11が車両前後方向に間隔をあけて開口されている。
【0040】
第1ビードB1は、ブラケット11よりも下方に位置し且つ縦壁部23bから取付部28まで延在している。具体的には、第1ビードB1は縦壁部23b(図では、湾曲部22a1と直線部22a2との境界近辺に対応する部分)から周縁ビードEにおける後方下角部C1近傍の取付部28まで直線的に延びている。
【0041】
第2ビードB2は、車幅方向から視た平面視で、平面部23aにおけるブラケット11が取り付けられる領域を通過している。具体的には、第2ビードB2は第1ビードB1より上方に位置し縦壁部23b(図では、直線部22a2に対応する部分)からブラケット11の領域を通過して周縁ビードEにおける車両上下方向に延びる部分まで直線的に延びている。
【0042】
第3ビードB3は、第1ビードB1と第2ビードB2との間に位置している。具体的には、第3ビードB3は第1ビードB1の上方で且つ第2ビードB2の下方に位置し縦壁部23b(図では、直線部22a2に対応する部分)から周縁ビードEにおける車両上下方向に延びる部分まで直線的に延びている。
【0043】
第4ビードB4は、第1ビードB1よりも下方に位置し縦壁部23b(図では、湾曲部22a1に対応する部分)から周縁ビードEにおける車両前後方向に延びる部分まで直線的に延びている。
【0044】
周縁ビードEを除く各ビード(B1~B4)のビード幅方向の中心を通るビード中心線Xは、縦壁部23bと平面部23aが交わる角部(つまり、ウェザストリップ26用のビードの谷筋ラインV)に対して車幅方向で視た平面視で概ね垂直に接続している。ビード中心線Xと谷筋ラインVとのなす交差角度は90度であること、つまり、谷筋ラインVの法線の方向にビード中心線Xが延びていることが理想的である。但し、ビード中心線Xは谷筋ラインVの法線方向に対し多少(例えば±20度程度)傾いた方向に延びてもよい。
【0045】
本実施形態では、各ビード(B1~B4、E)は縦壁部23bの谷筋ラインV側の部分から分岐している。つまり、平面部23aの内面(車室内側の面)におけるビード以外の部分を基準とした各ビード(B1~B4、E)のビード高さh1は平面部23aの内面におけるビード以外の部分を基準とした環状面部22の退避部分22aのビード高さh2(ウェザストリップ26用のビードの高さ)よりも低く設定されている(
図6参照)。これにより、ウェザストリップ26用のビードの凸部の上面部である環状面部22の退避部分22aの剛性を高剛性に維持することができる。
【0046】
本実施形態では、各ビード(B1~B4、E)の縦壁部23bに対する接続部分は、曲線状(R形状)に形成されている。具体的には、各ビード(B1~B4、E)の前記側壁部(周縁ビードEについては平面部23a側の側壁部)における縦壁部23bとの接続部分が曲線状に滑らかに形成され、各ビード(B1~B4、E)の前記平坦部における縦壁部23bとの接続部分も曲線状に滑らかに形成されている。特に限定されるものではないが、各ビード(B1~B4、E)の前記側壁部における縦壁部23bとの接続部分は半径10mm以上であるとよい。また、各ビード(B1~B4)は縦壁部23bにおいて概ね等間隔のピッチで分岐している。
【0047】
次に、本実施形態に係る車両用サイドドア構造の作用について説明する。上述したような車両用サイドドア構造が適用されたサイドドア100では、インナパネル2が縦壁部23bから分岐して平面部23aに沿って延びている少なくとも一本のビード(B1~B4、E)を有している。これにより、サイドドア100を閉めた際に応力が集中し得る縦壁部23bと平面部23aとが交わる角部(ウェザストリップ26用のビードの谷筋ラインVとなる部分)の範囲が減少するとともに、角部(谷筋ラインV)に発生した応力が少なくとも一本のビード(B1~B4、E)を通じてインナパネル2の周縁部21側に分散される。さらに、少なくとも一本のビード(B1~B4、E)によって後側のブラケット11が固定される平面部23a全体の剛性(面剛性)が向上するとともに縦壁部23bから平面部23aに亘る高剛性の立体的な構造が構築され、応力が比較的に均一に分散されて角部(谷筋ラインV)における応力の集中が抑制されるようになる。これらにより、角部(谷筋ライン)における応力集中に起因して副次的にブラケット11の固定箇所(スポット溶接箇所)に発生し得る応力が効果的に低減することになる。
【0048】
なお、平面部23aに各ビード(B1~B4、E)が形成されている本実施形態に係るサイドドア100と、平面部23aに各ビード(B1~B4、E)が形成されていないサイドドア(以下では、比較例に係るサイドドアと言う)について、それぞれ、ドア開閉を繰り返す耐久試験を実施した。その結果、本実施形態に係るサイドドア100では、ブラケット11とインナパネル2とのスポット溶接箇所の塑性歪が比較例に係るサイドドアに比べて概ね60%低減した。
【0049】
このようにして、本実施形態に係るサイドドア100によれば、ドアビーム10の後端部10aをインナパネル2に固定するブラケット11とインナパネル2との固定箇所に発生し得る応力を効果的に低減することができる車両用サイドドア構造を提供することができる。
【0050】
また、このサイドドア100は、ドア開閉が繰り返されても、亀裂や剥離がブラケット11のスポット溶接箇所に生じることを回避可能な耐久性を有している。したがって、側面衝突時において、ブラケット11がインナパネル2から破断し難いため、ポール等の衝突の際の衝撃エネルギーをドアビーム10の曲げ変形により確実に吸収することができ、このサイドドア100はポール衝突に効果的な構造を有している。また、一般的に、車体のデザイン構成が決定すると、他の部品と異なり、ドアビーム10はその位置を移動することが困難である場合が多い。しかし、サイドドア100では、ブラケット11の固定箇所の応力低減を図るための構造において、ドアビーム10自体の位置(レイアウト)を変更する必要がないため、車体のデザイン構成に影響を与えることはない。また、平面部23aの形状変更(ビード(B1~B4、E)の配置)だけで、応力発生を低減させる構造であり、新たな部品を追加する必要がなく、低コストで応力発生を低減させることができる。また、ブラケット11のスポット溶接箇所が狙いの位置から多少ずれたとしても、耐久試験の結果、スポット溶接箇所における塑性歪に略変化はなく、生産時の寸法誤差により影響を受けることなく、効果的にスポット溶接箇所の応力低減を図ることができる。さらに、部品の位置関係についての制約が従来よりも少ないため、レイアウト等についての自由度が向上する。
【0051】
本実施形態では、谷筋ラインVの概ね法線の方向にビード中心線Xが延びている。つまり、各ビード(B1~B4)のビード中心線Xが谷筋ラインVと垂直に交わっており、各ビード(B1~B4)が縦壁部23bから縦壁部23bに対して垂直な方向に分岐している。ここで、一般的に、ドア閉の際に、インナパネル2の後方下角部C1の近傍に位置する谷筋ラインVに応力が集中し、平面部23aには、谷筋ラインVを折れ点として折れ曲がる力が作用し得る。これに対し、本実施形態では、各ビード(B1~B4)が縦壁部23bに対して垂直な方向に分岐しているため、効果的に平面部23aの剛性(面剛性)が向上することになり、谷筋ラインVを折れ点とした曲げ力に対して効果的に抗することができる。
【0052】
本実施形態では、少なくとも一本のビード(B1~B4、E)は、ブラケット11よりも下方に位置し且つ縦壁部23bから取付部28まで延在している第1ビードB1を含む。ここで、ドア閉の際に、谷筋ラインVのうちの衝撃緩和部材27に近い箇所は、応力がより集中し易い領域である。これに対し、縦壁部23bのうちの衝撃緩和部材27に近い箇所から衝撃緩和部材27用の取付部28まで第1ビードB1を設けることにより、ドア閉の際に耐え得る高強度の面剛性を確保すると共に、谷筋ラインVのうちの衝撃緩和部材27に近い箇所で発生し易い応力を、第1ビードB1を通じて効果的に分散させることができる。
【0053】
本実施形態では、少なくとも一本のビード(B1~B4、E)は、平面部23aにおけるブラケット11が取り付けられる領域を通過している第2ビードB2を含む。これにより、谷筋ラインVのうちのブラケット11に近い箇所の応力集中を低減するとともに、平面部23aにおけるブラケット11が取り付けられる領域の剛性を向上させることができる。その結果、ブラケット11の固定箇所(スポット溶接箇所)の応力をより効果的に低減させることができる。
【0054】
本実施形態では、少なくとも一本のビード(B1~B4、E)は、第1ビードB1と第2ビードB2との間に位置している第3ビードB3を含む。ここで、サイドドア100の車両前後方向の寸法が比較的に長い場合、谷筋ラインV1(平面部23a、退避部分22a)の車両前後方向の全長も比較的に長くなるため、ドア閉の際の慣性力が増加するとともに、第1ビードB1と第2ビードB2との間の距離も長くなる。その結果、サイドドア100への入力は慣性力の増加に応じて増加するため、谷筋ラインVのうちの第1ビードB1と第2ビードB2との間の部分に発生する応力も高くなる。これに対し、第1ビードB1と第2ビードB2との間に第3ビードB3を設けることにより、効果的に応力の低減及び分散を図ることができ、ドアのサイズアップにも効果的な構造を提供することができる。また、本実施形態のように、第3ビードB3の下方に第4ビードB4を設けるとより効果的である。
【0055】
本実施形態では、少なくとも一本のビード(B1~B4、E)は、車幅方向から視た平面視で、平面部23aにおいて周縁部21に沿って延びており、縦壁部23bにおけるブラケット11より上方の上側部分23b1に接続する一端部と縦壁部23bにおける周縁部21の下縁部近傍の下側部分23b2に接続する他端部を有している、周縁ビードEを含む。つまり、谷筋ラインVが周縁ビードEによって囲まれている。これにより、平面部23aの面剛性がさらに向上する。さらに、周縁ビードEと縦壁部23bとにより閉構造が構成され、平面部23aの周縁部21側の部分が閉じられる。その結果、第2ビードB2と第3ビードB3の間や、第3ビードB3と第1ビードB1の間や、第1ビードB1と第4ビードの間のそれぞれにおいて、ビードと平行に延びる仮想の節を起点とした曲げモード(振動モード)が発生することを効果的に抑制することができる。そして、サイドドア100は、平面部23aにおいて、曲げの起点(折れ点)を効果的に低減させ全方向の荷重に対して強い面剛性を備えることにより、ドア閉の際に、平面部23aにおいて車幅方向に生じ得る振動の減衰時間が短くなり、ドアを閉めた際の収まりが良くなる。
【0056】
また、周縁ビードEの下側の側壁部E1はドア本体1の下縁近傍に位置しており、水抜き用の孔E11が高強度のビードの一部である側壁部E1に設けられている。これにより、平面部23aの面剛性を高強度に維持しつつ水抜き用の孔E11を設けることができるとともに、ドア本体1内を通って流れ得る水滴をスムーズに車外へ排出することができる。具体的には、
図2に点線矢印で示すように、側壁部E1は、アウタパネル3の車幅方向内側面3aに沿って生じ得る水の流水経路の延長線上に位置しており、この位置で水を受け止めるように傾斜しており、その結果、水滴をスムーズに車外へ排出することができる。
【0057】
本実施形態では、各ビード(B1~B4、E)の縦壁部23bに対する接続部分は曲線状(R形状)に形成されている。これにより、鋭角な箇所が生じることを回避し、応力集中の発生を回避できる。また、インナパネル2のプレス成型時におけるしわの発生が効果的に低減される。
【0058】
なお、少なくとも1本のビード(B1~B4、E)は、例えば、第1ビードB1、第2ビードB2、第3ビードB3、周縁ビードEのうちの少なくとも一つを含んでいればよい。また、第4ビードB4は設けなくともよい。
【0059】
本実施形態では、サイドドア100は、右側のフロントサイドドアに適用されたが、左側のフロントサイドドアに適用されてもよい。この場合、上述した構造と車幅方向について左右に逆向きの構造が適用される。また、サイドドア100の構造はリアサイドドアの構造に適用されてもよい。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて更なる変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0061】
1…ドア本体、1a…ヒンジ、2…インナパネル、21…周縁部、22…環状面部、23a…平面部、23b…縦壁部、23b1…上側部分、23b2…下側部分、26…ウェザストリップ、27…衝撃緩和部材、28…取付部、3…アウタパネル、10…ドアビーム、11…ブラケット、100…サイドドア、B1…第1ビード(少なくとも1本のビード)、B2…第2ビード(少なくとも1本のビード)、B3…第3ビード(少なくとも1本のビード)、B4…第4ビード(少なくとも1本のビード)、E…周縁ビード(少なくとも1本のビード)、C1…後方下角部