(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022728
(43)【公開日】2023-02-15
(54)【発明の名称】貼付方法、及び貼付装置
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20230208BHJP
B29C 65/06 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
B23K20/12 360
B23K20/12 364
B29C65/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021127753
(22)【出願日】2021-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100096080
【弁理士】
【氏名又は名称】井内 龍二
(74)【代理人】
【識別番号】100194098
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 一
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 潤
(72)【発明者】
【氏名】和田 浩光
(72)【発明者】
【氏名】熱田 直行
(72)【発明者】
【氏名】安井 利明
(72)【発明者】
【氏名】大竹 弘晃
【テーマコード(参考)】
4E167
4F211
【Fターム(参考)】
4E167AA02
4E167AA06
4E167AA27
4E167AA29
4E167BG25
4E167DA10
4E167DA11
4F211AA11
4F211AA29
4F211AA32
4F211AA34
4F211AD03
4F211AD24
4F211AG03
4F211TA01
4F211TA13
4F211TC03
4F211TN20
4F211TQ05
(57)【要約】
【課題】摩擦熱を利用して基材と複数の強化繊維を包含する樹脂部材とを接合した場合の接合品質を向上させることができる貼付方法を提供すること。
【解決手段】基材1と樹脂部材2とを重ね合わせ、摩擦熱を利用して基材1へ樹脂部材2を貼り付ける貼付方法であって、樹脂部材2が、複数の強化繊維2aを包含したものであり、摩擦熱を基材1に付与する位置を所定方向(矢印Aの方向)に移動させながら貼付を実施する貼付工程を含み、樹脂部材2の、摩擦熱により少なくとも軟化される領域において、複数の強化繊維2aの長手方向のうち多数を占める方向(矢印Bの方向)が前記所定方向と交差する向きとなるように樹脂部材2の配置向きを規定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と樹脂部材とを重ね合わせ、摩擦熱を利用して前記基材へ前記樹脂部材を貼り付ける貼付方法であって、
前記樹脂部材が、複数の強化繊維を包含したものであり、
前記摩擦熱を前記基材に付与する位置を所定方向に移動させながら貼付を実施する貼付工程を含み、
前記樹脂部材の、前記摩擦熱により少なくとも軟化される領域において、複数の前記強化繊維の長手方向のうち多数を占める方向が前記所定方向と交差する向きとなるように前記樹脂部材の配置向きを規定することを特徴とする貼付方法。
【請求項2】
前記所定方向と交差する向きを、前記所定方向と略直交する向きとすることを特徴とする請求項1記載の貼付方法。
【請求項3】
前記樹脂部材として、複数の前記強化繊維の長手方向が同一方向であるものを用いることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の貼付方法。
【請求項4】
前記樹脂部材として、当該樹脂部材の、前記摩擦熱により少なくとも軟化される領域において、複数の前記強化繊維の長手方向が略同一方向であるものを用いることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の貼付方法。
【請求項5】
前記樹脂部材として、当該樹脂部材の、前記摩擦熱により少なくとも軟化される領域における複数の前記強化繊維の長さが前記軟化される領域の幅より長いものを用いることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の貼付方法。
【請求項6】
前記基材として、前記樹脂部材と対向する面における、前記摩擦熱により前記樹脂部材が少なくとも軟化する部分と接する領域に、微細な凹凸が形成されているものを用いることを特徴とする請求項1~5のいずれかの項に記載の貼付方法。
【請求項7】
前記基材として、前記樹脂部材と対向する面における、前記摩擦熱により前記樹脂部材が少なくとも軟化する部分と接する領域に、活性化処理が施されているものを用いることを特徴とする請求項1~5のいずれかの項に記載の貼付方法。
【請求項8】
基材と樹脂部材とを重ね合わせ、摩擦熱を利用して前記基材へ前記樹脂部材を貼り付ける貼付装置であって、
前記基材に接触させた状態で回転させることにより前記基材へ前記摩擦熱を付与するツール部と、
前記基材及び前記樹脂部材に対し、前記ツール部を所定方向に相対移動させるツール移動部とを備え、
前記樹脂部材が、複数の強化繊維を包含したものであり、
前記樹脂部材の、前記摩擦熱により少なくとも軟化される領域において、複数の前記強化繊維の長手方向のうち多数を占める方向が前記所定方向と交差する向きになるように、前記樹脂部材が配置されて、前記ツール部が前記相対移動するように構成されていることを特徴とする貼付装置。
【請求項9】
前記所定方向と交差する向きが、前記所定方向と略直交する向きであることを特徴とする請求項8記載の貼付装置。
【請求項10】
前記樹脂部材として、複数の前記強化繊維の長手方向が同一方向であるものが配置される構成となっていることを特徴とする請求項7又は請求項8記載の貼付装置。
【請求項11】
前記ツール部が、前記基材と接する面の当該ツール部の回転軸と交わる部分に凸部を備えていることを特徴とする請求項8~10のいずれかの項に記載の貼付装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は貼付方法、及び貼付装置に関し、より詳細には、基材と樹脂部材とを重ね合わせ、摩擦熱を利用して前記基材へ前記樹脂部材を貼り付ける貼付方法、及び貼付装置に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦熱を利用して異種材料を接合する技術の一つとして、摩擦攪拌接合(Friction Stir Welding:FSW)が知られている。
摩擦攪拌接合法とは、例えば、異種金属板を突き合わせて、直径10~20mm程度の棒状のツールを高速回転させながら先端面を押し当てるとともに、前記ツールの先端面に突起状に設けられたプローブをその突合せ部に挿入し、発生する摩擦熱により前記突合せ部を加熱して、異種金属を軟化(溶融)させ、塑性流動を発生させて異種金属を攪拌し、再結晶化させて接合する方法である。この摩擦攪拌接合法は、突き合わせた異種材料の接合の他、重ね合わせた異種材料の接合にも適用される。
【0003】
このような摩擦熱を利用して異種材料を接合する技術は、金属部材と樹脂部材との接合にも応用されており、例えば、下記の特許文献1には、熱圧式接合方法による金属部材と樹脂部材との接合方法であって、樹脂部材として、金属部材との接合表面における表層部の充填材含有率Csが内層部の充填材含有率Ciよりも小さい樹脂部材を用いる方法が開示されている。
【0004】
また、下記の特許文献2には、熱圧式接合方法による金属部材と樹脂部材との接合方法であって、樹脂部材として、少なくとも金属部材との接合部に強化繊維として連続繊維を含有する樹脂部材を用いる方法が開示されている。
[発明が解決しようとする課題]
【0005】
上記した特許文献1、2に記載の熱圧式接合方法によれば、金属部材と樹脂部材とを十分な強度で接合できるとしている。
しかしながら、本発明者らは、樹脂部材として一方向性の強化繊維を包含している部材を用い、また、前記樹脂部材の上に重ね合わせる基材として金属部材を用いて、前記ツールを用いた摩擦攪拌接合により前記金属部材へ前記樹脂部材を貼り付ける実験を行った結果、前記ツールが通過した直下の領域とその外周部とでは、前記金属部材と前記樹脂部材との接合品質にばらつきが生じるという事実を確認した。
【0006】
より詳細には、前記ツールの相対移動方向と、前記金属部材に重ね合わせた前記樹脂部材に包含されている前記一方向性の強化繊維の向きとが平行(同じ向き)である場合に、前記ツールが通過した直下の接合面において、前記樹脂部材に含まれる樹脂成分が顕著に減少してしまっており、その結果、樹脂部材と金属部材との接合強度が低下してしまうという課題が生じていることを確認した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-189176号公報
【特許文献2】特開2016-068474号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段及びその効果】
【0008】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであって、摩擦熱を利用して基材と複数の強化繊維を包含している樹脂部材とを接合した場合の接合品質を向上させることができる貼付方法及び貼付装置を提供することを目的としている。
【0009】
本発明者らは、基材と重ね合わせた樹脂部材に包含されている複数の強化繊維の長手方向の向きと、接合時におけるツールの相対移動方向との関係に着目し、前記強化繊維の長手方向の向きと、前記ツールの相対移動方向とを所定の関係に規定することにより、接合品質を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
上記目的を達成するために本発明に係る貼付方法(1)は、基材と樹脂部材とを重ね合わせ、摩擦熱を利用して前記基材へ前記樹脂部材を貼り付ける貼付方法であって、
前記樹脂部材が、複数の強化繊維を包含したものであり、
前記摩擦熱を前記基材に付与する位置を所定方向に移動させながら貼付を実施する貼付工程を含み、
前記樹脂部材の、前記摩擦熱により少なくとも軟化される領域において、複数の前記強化繊維の長手方向のうち多数を占める方向が前記所定方向と交差する向きとなるように前記樹脂部材の配置向きを規定することを特徴としている。
【0010】
上記貼付方法(1)によれば、前記樹脂部材の、前記摩擦熱により少なくとも軟化される領域において、複数の前記強化繊維の長手方向のうち多数を占める方向が前記所定方向と交差する向きとなるように前記樹脂部材の配置向きを規定している。
したがって、前記貼付工程において、前記基材から前記樹脂部材に伝達された摩擦熱が、複数の前記強化繊維の長手方向のうち多数を占める方向、すなわち、前記所定方向と交差する向きに伝わりやすくなる。
そのため、前記摩擦熱を前記基材に付与する位置を所定方向に移動する場合に、前記摩擦熱が前記基材に付与される位置の直下における前記樹脂部材への過剰な入熱を防止できる。これにより、前記摩擦熱が前記基材に付与される位置の直下における前記樹脂部材中の樹脂成分が溶融して流出するような現象を防止でき、前記樹脂部材中の前記強化繊維と前記樹脂成分との分離が生じないように前記摩擦熱を付与することができる。
その結果、前記摩擦熱が前記基材に付与される位置の直下における前記樹脂部材と前記基材との接合強度を高めることができ、接合品質を向上させることができる。
【0011】
また本発明に係る貼付方法(2)は、上記貼付方法(1)において、前記所定方向と交差する向きを、前記所定方向と略直交する向きとすることを特徴としている。
【0012】
上記貼付方法(2)によれば、前記所定方向と交差する向きを、前記所定方向と略直交する向きとするので、前記貼付工程において、前記基材から前記樹脂部材に伝達された摩擦熱が、複数の前記強化繊維の長手方向のうち多数を占める方向、すなわち、前記所定方向と略直交する向きに伝わりやすくなる。
そのため、前記摩擦熱を前記基材に付与する位置を前記所定方向に移動する場合に、前記摩擦熱が前記基材に付与される位置の直下における前記樹脂部材への過剰な入熱をより効果的に防止できる。これにより、前記摩擦熱が前記基材に付与される位置の直下における前記樹脂部材中の樹脂成分が溶融して流出するような現象を防止する効果を高めることができ、前記樹脂部材中の前記強化繊維と前記樹脂成分との分離が生じないように前記摩擦熱を付与することができる。
その結果、前記摩擦熱が前記基材に付与される位置の直下における前記樹脂部材と前記基材との接合強度をより確実に高めることができ、接合品質を一層向上させることができる。
【0013】
また本発明に係る貼付方法(3)は、上記貼付方法(1)又は(2)において、前記樹脂部材として、複数の前記強化繊維の長手方向が同一方向であるものを用いることを特徴としている。
【0014】
上記貼付方法(3)によれば、前記樹脂部材として、複数の前記強化繊維の長手方向が同一方向であるもの、例えば、一方向性であるものを用いるので、前記樹脂部材に伝達された前記摩擦熱が前記所定方向と交差する向き、又は略直交する向きに、より伝わりやすくなり、上記貼付方法(1)、(2)による効果がさらに得られやすくなる。
【0015】
また本発明に係る貼付方法(4)は、上記貼付方法(1)又は(2)において、前記樹脂部材として、当該樹脂部材の、前記摩擦熱により少なくとも軟化される領域において、複数の前記強化繊維の長手方向が略同一方向であるものを用いることを特徴としている。
【0016】
上記貼付方法(4)によれば、前記樹脂部材として、当該樹脂部材の、前記摩擦熱により少なくとも軟化される領域において、複数の前記強化繊維の長手方向が略同一方向であるものを用いるので、前記樹脂部材に伝達された前記摩擦熱が前記所定方向と交差する向き、又は略直交する向きに、より伝わりやすくなり、上記貼付方法(1)、(2)による効果がさらに得られやすくなる。
【0017】
また本発明に係る貼付方法(5)は、上記貼付方法(1)又は(2)において、前記樹脂部材として、当該樹脂部材の、前記摩擦熱により少なくとも軟化される領域における複数の前記強化繊維の長さが前記軟化される領域の幅より長いものを用いることを特徴としている。
【0018】
上記貼付方法(5)によれば、前記樹脂部材として、当該樹脂部材の、前記摩擦熱により少なくとも軟化される領域における複数の前記強化繊維の長さが前記軟化される領域の幅より長いものを用いるので、前記樹脂部材に伝達された前記摩擦熱が前記所定方向と交差する向き、又は略直交する向きに、より伝わりやすくなり、上記貼付方法(1)、(2)による効果がさらに得られやすくなる。
【0019】
また本発明に係る貼付方法(6)は、上記貼付方法(1)~(5)のいずれかにおいて、前記基材として、前記樹脂部材と対向する面における、前記摩擦熱により前記樹脂部材が少なくとも軟化する部分と接する領域に、微細な凹凸が形成されているものを用いることを特徴としている。
【0020】
上記貼付方法(6)によれば、前記基材として、前記微細な凹凸が形成されているものを用いるので、前記微細な凹凸に、前記樹脂部材中の樹脂成分を複数の前記強化繊維とともに侵入させて固化することが可能となり、前記基材と前記樹脂部材との接合界面での機械的締結力、所謂、アンカー効果を高めることができ、接合強度を一層高めることができる。前記微細な凹凸には、例えば、レーザ照射加工により形成された複数の微細な溝などが含まれる。
【0021】
また本発明に係る貼付方法(7)は、上記貼付方法(1)~(5)のいずれかにおいて、前記基材として、前記樹脂部材と対向する面における、前記摩擦熱により前記樹脂部材が少なくとも軟化する部分と接する領域に、活性化処理が施されているものを用いることを特徴としている。
【0022】
上記貼付方法(7)によれば、前記基材として、前記活性化処理が施されているものを用いるので、前記基材と前記樹脂部材との接合界面での化学的締結力を高めることができ、接合強度を一層高めることができる。
前記活性化処理には、例えば、前記基材表面へヒドロキシル基(C-OH)、カルボキシル基(O=C-OH)、またはアミド基(CONH)などの極性官能基を付与する処理、前記基材表面へシランカップリング処理を施す処理、酸化被膜を形成する処理などが含まれる。
【0023】
また本発明に係る貼付装置(1)は、基材と樹脂部材とを重ね合わせ、摩擦熱を利用して前記基材へ前記樹脂部材を貼り付ける貼付装置であって、
前記基材に接触させた状態で回転させることにより前記基材へ前記摩擦熱を付与するツール部と、
前記基材及び前記樹脂部材に対し、前記ツール部を所定方向に相対移動させるツール移動部とを備え、
前記樹脂部材が、複数の強化繊維を包含したものであり、
前記樹脂部材の、前記摩擦熱により少なくとも軟化される領域において、複数の前記強化繊維の長手方向のうち多数を占める方向が前記所定方向と交差する向きになるように、前記樹脂部材が配置されて、前記ツール部が前記相対移動するように構成されていることを特徴としている。
【0024】
上記貼付装置(1)によれば、前記樹脂部材の、前記摩擦熱により少なくとも軟化される領域において、複数の前記強化繊維の長手方向のうち多数を占める方向が前記所定方向と交差する向きになるように、前記樹脂部材が配置されて、前記ツール部が前記相対移動するように構成されている。
したがって、前記基材から前記樹脂部材に伝達された前記摩擦熱が、複数の前記強化繊維の長手方向のうち多数を占める方向、すなわち、前記所定方向と交差する向きに伝わりやすくなる。
そのため、前記ツール部を前記所定方向に相対移動させる場合に、前記摩擦熱が付与される前記ツール部の直下における前記樹脂部材への過剰な入熱を防止できる。これにより、前記摩擦熱が付与される前記ツール部の直下における前記樹脂部材中の樹脂成分が溶融して流出するような現象を防止でき、前記樹脂部材中の前記強化繊維と前記樹脂成分との分離が生じないように前記摩擦熱を付与することができる。
その結果、前記摩擦熱が付与される前記ツール部の直下における前記樹脂部材と前記基材との接合強度を高めることができ、接合品質を向上させることができる。
【0025】
また本発明に係る貼付装置(2)は、上記貼付装置(1)において、
前記所定方向と交差する向きが、前記所定方向と略直交する向きであることを特徴としている。
【0026】
上記貼付装置(2)によれば、前記所定方向と交差する向きが、前記所定方向と略直交する向きであるので、前記基材から前記樹脂部材に伝達された摩擦熱が、複数の前記強化繊維の長手方向のうち多数を占める方向、すなわち、前記所定方向と略直交する向きに伝わりやすくなる。
そのため、前記ツール部を前記所定方向に相対移動させる場合に、前記摩擦熱が付与される前記ツール部の直下における前記樹脂部材への過剰な入熱をより効果的に防止できる。これにより、前記摩擦熱が付与される前記ツール部の直下における前記樹脂部材中の樹脂成分が溶融して流出するような現象を防止する効果を高めることができ、前記樹脂部材中の前記強化繊維と前記樹脂成分との分離が生じないように前記摩擦熱を適切に付与することができる。
その結果、前記摩擦熱が付与される前記ツール部の直下における前記樹脂部材と前記基材との接合強度をより確実に高めることができ、接合品質を一層向上させることができる。
【0027】
また本発明に係る貼付装置(3)は、上記貼付装置(1)又は(2)において、
前記樹脂部材として、複数の前記強化繊維の長手方向が同一方向であるものが配置される構成となっていることを特徴としている。
【0028】
上記貼付装置(3)によれば、前記樹脂部材として、複数の前記強化繊維の長手方向が同一方向であるもの、例えば、一方向性であるものが配置される構成となっているので、前記樹脂部材に伝達された前記摩擦熱が前記所定方向と交差する向き、又は略直交する向きに、より伝わりやすくなり、上記貼付装置(1)、(2)による効果がさらに得られやすくなる。
【0029】
また、本発明に係る貼付装置(4)は、上記貼付装置(1)~(3)のいずれかにおいて、前記ツール部が、前記基材と接する面の当該ツール部の回転軸と交わる部分に凸部を備えていることを特徴としている。
【0030】
上記貼付装置(4)によれば、前記ツール部が、前記基材と接する面の当該ツール部の回転軸と交わる部分に凸部を備えているので、前記凸部を前記基材に挿入することにより前記基材の軟化及び塑性流動を促進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の実施の形態に係る貼付装置の一例を模式的に示す要部構成図である。
【
図2】実施の形態に係る貼付方法の一例を説明するための図であり、摩擦熱を利用して基材へ樹脂部材を貼り付けている途中の状態を示す斜視図である。
【
図3】実施例で用いた基材及び樹脂部材の配置形態と、ツールの移動方向及び通過領域とを模式的に示す平面図である。
【
図4】
図3におけるIV-IV線断面観察画像の一部であり、実施例に係る貼付方法で基材へ樹脂部材を貼り付けた後の接合部分(ツールのプローブが通過した領域)の断面観察画像である。
【
図5】実施例に係る貼付方法で基材へ樹脂部材が貼り付けられたものを樹脂部材側から見た観察画像である。
【
図6】実施例に係る貼付方法で基材へ樹脂部材を貼り付けた後に、該樹脂部材を剥がした後の基材側接合面の観察画像である。
【
図7】比較例で用いた基材及び樹脂部材の配置形態と、ツールの移動方向及び通過領域とを模式的に示す平面図である。
【
図8】
図7におけるVIII-VIII線断面観察画像の一部であり、比較例に係る貼付方法で基材へ樹脂部材を貼り付けた後の接合部分の断面観察画像であり、(a)はプローブの通過領域、(b)はショルダの通過領域の断面観察画像である。
【
図9】比較例に係る貼付方法で基材へ樹脂部材を貼り付けた後に、該樹脂部材を剥がした後の基材側接合面の観察画像である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係る貼付方法、及び貼付装置の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0033】
図1は、実施の形態に係る貼付方法に好適な貼付装置の一例を模式的に示す要部構成図である。
貼付装置10は、基材1と樹脂部材2とを重ね合わせ、摩擦熱を利用して基材1へ樹脂部材2を貼り付ける装置であり、摩擦攪拌接合を行うことができる機構を備えている。
【0034】
貼付装置10は、装置の基部となるベッド11と、ベッド11の上面に、前後水平方向(Y軸方向)の移動機構(以下、Y軸移動機構という)12を介して取り付けられたテーブル13とを備え、テーブル13の上に、複数の強化繊維2aを包含している樹脂部材2が配置され、樹脂部材2の上に基材1が重ね合わせた状態で配設されるようになっている。また、貼付装置10には、テーブル13上に配設された基材1及び樹脂部材2を位置決め固定するための固定治具14が装備されている。
【0035】
また、貼付装置10は、ベッド11に垂直に立設されたコラム15と、コラム15の上部に、左右水平方向(X軸方向)の移動機構(以下、X軸移動機構ともいう)16を介して取り付けられたサドル17と、サドル17に、垂直方向(Z軸方向)の移動機構(以下、Z軸移動機構という)18を介して取り付けられた貼付ユニット20とを備えている。
貼付装置10は、X軸移動機構16、Y軸移動機構12、Z軸移動機構18、及び貼付ユニット20の動作を制御する制御部30を備えている。
【0036】
貼付ユニット20は、基材1に接触させるツール21と、ツール21を装着するチャック部22と、チャック部22に装着されたツール21を所定の回転方向に高速回転させるための回転用モータ23とを含んで構成されている。この貼付ユニット20が、基材1に接触させた状態で回転させることにより基材1へ摩擦熱を付与するツール部の一例である。
【0037】
ツール21は、略円柱形状をしたショルダ21aと、ショルダ21aの先端面に突出して設けられたプローブ21bとを備えている。プローブ21bはショルダ21aに対して同軸に設けられ、プローブ21bの外径はショルダ21aの外径より小さくなっている。ショルダ21aの外径、及び先端面の形状、プローブ21bの外径、形状、及び突出長は、貼付対象である基材1及び樹脂部材2の形状、厚さ、材質等に応じて適宜設定され得る。なお、プローブ21bの突出長は基材1の厚さよりも短くなるように設計されている。また、ツール21の構成材料としては、基材1及び樹脂部材2よりも硬度が高く、且つ、耐熱性及び耐摩耗性に優れた工具鋼などの材料が採用され得る。
【0038】
サドル17が取り付けられるX軸移動機構16は、例えば、X軸方向のリニアガイドとボールねじとサーボモータとを含む直動機構で構成されている。このX軸移動機構16、サドル17を含む構成が、基材1及び樹脂部材2に対し貼付ユニット20(ツール部)を所定方向(この場合、X軸方向)に相対移動させるツール移動部の一例である。
【0039】
貼付ユニット20が取り付けられるZ軸移動機構18は、例えば、Z軸方向のリニアガイドとボールねじとサーボモータとを含む直動機構で構成されている。このZ軸移動機構18を含む構成により、基材1及び樹脂部材2に対し貼付ユニット20のツール21を押し付けて、所定の荷重を付与したり、基材1及び樹脂部材2から貼付ユニット20のツール21を退避させたりすることが可能となっている。
【0040】
テーブル13が取り付けられるY軸移動機構12は、例えば、Y軸方向のリニアガイドとボールねじとサーボモータとを含む直動機構で構成されている。このY軸移動機構12を含む構成により、テーブル13に配設された基材1及び樹脂部材2をY軸方向に移動させて、基材1及び樹脂部材2に対し貼付ユニット20のツール21を押し付ける位置を調整することが可能となっている。
【0041】
基材1と樹脂部材2との組み合わせ例には、鋼板、アルミニウムなどの各種金属部材と、複数の強化繊維2aを包含した繊維強化樹脂との組み合わせの他、高い耐熱性を有する各種エンジニアリングプラスチックと、複数の強化繊維2aを包含した繊維強化樹脂との組み合わせなどが含まれる。
【0042】
また、樹脂部材2に包含されている強化繊維2aには、例えば、炭素繊維の他、ガラス繊維、アラミド繊維、ダイニーマ繊維、ザイロン繊維、ボロン繊維などが適用され得る。
樹脂部材2には、長手方向が同一方向である複数の強化繊維2aを包含したもの、例えば、単方向(UD)テープ、単方向テープの積層体などが好適に適用され得る。
さらに、樹脂部材2には、ツール21の通過領域を含む、摩擦熱により少なくとも軟化される領域において、複数の強化繊維2aの長手方向が略同一方向であるものを用いることが好ましい。また、樹脂部材2には、ツール21の通過領域を含む、摩擦熱により少なくとも軟化される領域における複数の強化繊維2aの長さが、前記軟化される領域の幅より長いものを用いることが好ましい。
なお、樹脂部材2は、長手方向が同一方向である複数の第1の強化繊維とともに、これら第1の強化繊維とは長手方向が異なる複数の第2の強化繊維が、第1の強化繊維よりも少ない割合で包含されたものでもよい。
【0043】
また、樹脂部材2に複数の強化繊維2aとともに含有される樹脂成分としては、例えば、ナイロン6(ポリアミド6=PA6)、ポリプロピレン(PP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)などが適用され得るが、これらに限定されるものではなく、その他の熱可塑性樹脂が適用されてもよい。
【0044】
また、樹脂部材2と重ね合わせて配置される基材1には、樹脂部材2と対向する面(この場合、底面)に微細な凹凸が形成されている部材を用いることが好ましい。前記微細な凹凸が形成される領域は、摩擦熱により樹脂部材2が少なくとも軟化する部分と接する領域であればよい。前記微細な凹凸は、例えば、レーザ照射加工により形成された複数の微細な溝で構成してもよいし、他の加工方法により形成された複数の微細な溝などでもよい。
【0045】
また、樹脂部材2と重ね合わせて配置される基材1には、樹脂部材2と対向する面に活性化処理が施されている部材を用いてもよい。前記活性化処理が施される領域は、摩擦熱により樹脂部材2が少なくとも軟化する部分と接する領域であればよい。前記活性化処理には、例えば、基材1の表面へヒドロキシル基(C-OH)、カルボキシル基(O=C-OH)、またはアミド基(CONH)などの極性官能基を付与する処理、基材1の表面へシランカップリング処理を施す処理、又は酸化被膜を形成する処理などが適用可能である。
【0046】
実施の形態に係る貼付装置10は、基材1と重ね合わせて配置される樹脂部材2に含まれている複数の強化繊維2aの長手方向の向き(
図2に示す矢印Bの方向)と、接合時におけるツール21の相対移動方向(
図2に示す矢印Aの方向)との関係に特徴を持たせた構成となっている。
【0047】
すなわち、貼付装置10では、ツール21を用いた摩擦攪拌接合によって、樹脂部材2の、摩擦熱により少なくとも軟化される領域において、樹脂部材2に包含されている複数の強化繊維2aの長手方向のうち多数を占める方向(
図2に示す矢印Bの方向)が、貼付ユニット20のツール21の相対移動方向(
図2に示す矢印Aの方向)と交差する向き(この場合、略直交する向き)になるように、樹脂部材2が基材1の下に配置されて、貼付ユニット20のツール21が基材1及び樹脂部材2に対してX軸方向に相対移動するように構成されている。
【0048】
上記実施の形態に係る貼付装置10によれば、貼付ユニット20のツール21を基材1に押し付けて接触させた状態で高速回転させつつ、貼付ユニット20をX軸移動機構16により所定の方向(この場合、X軸方向=
図2に示す矢印Aの方向)に所定速度で移動させることができる。
【0049】
そして、ツール21の相対移動方向と、樹脂部材2に含まれる複数の強化繊維2aのうち多数を占める方向とを交差させることにより、基材1へ摩擦熱を付与しつつ、樹脂部材2への過剰な入熱が防止される。これにより、ツール21直下の領域の樹脂部材2から軟化した樹脂成分の流出が防止され、複数の強化繊維2aと軟化した樹脂成分とが分離せずに基材1に略均一に密着した状態で接合される。その結果、基材1へ樹脂部材2を貼り付けたときの接合強度が高められて、接合品質を向上させることが可能となっている。
【0050】
なお、樹脂部材2に含まれる複数の強化繊維2aのうち多数を占める方向は、ツール21の相対移動方向と交差する向きであれば特に限定されないが、本実施の形態のように、ツール21の相対移動方向(この場合、X軸方向=
図2に示す矢印Aの方向)と略直交する向き(この場合、Y軸方向=
図2に示す矢印Bの方向)であることが好ましい。
【0051】
また、実施の形態に係る貼付装置10では、コラム15と、X軸移動機構16を介して取り付けられたサドル17と、サドル17に設けられたZ軸移動機構18とを備えた装置、例えば、立て形マシニングセンタを用いてツール移動部が構成されている。
別の実施の形態に係る貼付装置では、前記ツール移動部として多関節型の産業用ロボットを適用し、該産業用ロボットのアームの先端部に、貼付ユニット20が装備された構成としてもよい。
係る貼付装置によれば、前記産業用ロボットの前記アームを3次元で移動させることにより基材1及び樹脂部材2に対するツール21の位置及び押し姿勢などを調整することが可能であり、貼付装置10と同様の作用効果を実現することが可能である。
【0052】
また、上記実施の形態に係る貼付装置10では、基材1と接する面のショルダ21aの回転軸と交わる部分に凸状のプローブ21b部を備えたツール21を用いていたが、別の実施の形態に係る貼付装置では、プローブ21bを備えていないツールを用いて、所謂、摩擦重ね接合(Friction Lap Joining: FLJ)を行うことができる機構を備えた装置として構成することもできる。
【0053】
図2は、実施の形態に係る貼付装置を用いて行う貼付方法の一例を説明するための図であり、摩擦熱を利用して基材1へ樹脂部材2を貼り付けている途中の状態を示す斜視図である。
【0054】
実施の形態に係る貼付方法は、貼付ユニット20のツール21の回転及び荷重付与動作により摩擦熱を基材1に付与する位置を所定方向、この場合、矢印Aで示す方向(=X軸方向)に移動させながら、基材1へ樹脂部材2を貼付する貼付工程を含んでいる。
そして、ツール21の通過領域1aを含む、樹脂部材2の、摩擦熱により少なくとも軟化される領域において、複数の強化繊維2aの長手方向のうち多数を占める方向、この場合、矢印Bで示す方向(=Y軸方向)が前記所定方向(矢印Aで示す方向)と略直交する向きとなるように樹脂部材2の配置向きを規定している。
【0055】
図2に示した好ましい例では、樹脂部材2に含まれる複数の強化繊維2aの長手方向のうち多数を占める方向(矢印Bの方向)がY軸方向となるように、換言すれば、ツール21の相対移動方向(矢印Aの方向)であるX軸方向と略直交するように、樹脂部材2の配置向きを規定している。
【0056】
なお、
図2に示すように、ツール21の回転方向Rと接合方向を示す相対移動方向(矢印Aの方向)とが一致する側を前進側(Advancing side:AS)、反対を向いている側を後退側(Retreating side:RS)という。
【0057】
基材1には、一例としてアルミニウム合金が使用されている。また、基材1の樹脂部材2との接合面のうち、摩擦熱により少なくとも軟化する部分と接触する領域には、レーザ照射加工による微細な凹凸溝を形成する加工を施すことが好ましい。
樹脂部材2には、複数の強化繊維2aとして一方向性の複数の炭素繊維を含む、単方向(UD)テープが一例として使用されている。
図2に示す配置例では、ツール21の相対移動方向(矢印Aの方向)であるX軸方向と略直交する向き(矢印Bの方向)に、樹脂部材2として複数のUDテープが並列に配置されている。なお、
図2では、隣り合うUDテープ間に隙間が設けられているが、該隙間を設けずにUDテープを配置してもよく、また、隣り合うUDテープの一部を重ねた状態で配置してもよい。
【0058】
上記実施の形態に係る貼付方法によれば、ツール21を用いた摩擦攪拌接合によって、樹脂部材2の、摩擦熱により少なくとも軟化される領域において、複数の強化繊維2aの長手方向のうち多数を占める方向(矢印Bの方向)が、ツール21の相対移動方向(矢印Aの方向)と略直交する向きに樹脂部材2の配置向き(換言すれば、複数の強化繊維2aの向き)を規定している。
【0059】
したがって、前記貼付工程において、基材1から樹脂部材2に伝達された摩擦熱が、複数の強化繊維2aの長手方向のうち多数を占める方向(矢印Bの方向)に伝わりやすくなる一方、ツール21の相対移動方向(矢印Aの方向)には伝わりにくくなる。
【0060】
そのため、摩擦熱を基材1に付与する位置を所定方向(矢印Aの方向)に移動する場合に、摩擦熱が基材1に付与される位置の直下における樹脂部材2への過剰な入熱が防止される。これにより、樹脂部材2中の樹脂成分が過度に溶融されて、前記樹脂成分が強化繊維2aの長手方向に沿って流出する現象も防止される。すなわち、ツール21直下の領域においても樹脂部材2中の強化繊維2aと前記樹脂成分との分離が生じないように前記摩擦熱を付与することができる。
その結果、前記摩擦熱が基材1に付与される位置の直下における樹脂部材2と基材1との密着性が高められ、接合強度を高めることができ、接合品質を向上させることが可能となる。
【実施例0061】
以下、実施例、及び比較例について説明する。まず、実施例、及び比較例で使用した貼付装置、接合条件、基材、樹脂部材、及びその評価方法について説明する。
(1)貼付装置10には、貼付ユニット20を装着したマシニングセンタを使用した。貼付ユニット20に装着されるツール21には、ショルダ直径φ=20mm、プローブ直径5mm、プローブ突出し量2mmの工具鋼製のものを用いた。
(2)接合条件は、ツール回転数2500rpm又は3000rpm、ツール送り速度500mm/min、ショルダ押し込み量0.15mmに設定した。
【0062】
(3)基材1には、6000系のアルミニウム合金であるA6063の平板状部材(130mm×70mm×厚さ3mm)を使用した。
また、少なくともツール21が通過する部分の接合面には、突起状の微細構造を加工した。突起状の微細構造の加工はレーザ加工機を用いて行った。前記加工にはパルスファイバーレーザを使用し、出力50W、パルス周波数80000Hz、X軸方向照射回数10回、Y軸方向照射回数5回の計15回照射する加工条件で加工した。加工部分には、突起高さ約240μm、突起幅約160μmの格子目状の微細溝が形成された。
【0063】
(4)樹脂部材2には、単方向(UD)テープを使用した。UDテープに含まれる複数の強化繊維2aは、一方向に引き揃えられた複数の炭素繊維であり、その含有率は体積比で50%である。炭素繊維の直径は約7μmである。UDテープの樹脂成分は、ナイロン6(PA6)であり、その含有率は体積比で50%である。UDテープのテープ厚は0.3mm、テープ幅は50mmである。
【0064】
(5)基材1としてA6063板を上板、樹脂部材2としてUDテープを下板とし、基材1側から高速回転するツール21を押し込み、摩擦攪拌接合による重ね線接合を行った。
接合状態の評価は、接合部分の断面観察、基材側接合面の外観観察、及びJIS K 6850(接合面に平行な引張せん断荷重により測定する方法)に準じた引張せん断試験による強度測定により行った。なお、引張せん断試験では、UDテープの炭素繊維の長手方向と同一方向に引張軸を取った。また、引張せん断試験では、試験片の横幅を25mmに調整した。
【0065】
実施例と比較例とでは、ツール21の相対移動方向と、樹脂部材2(UDテープ)に含まれる一方向性の強化繊維2a(炭素繊維)の向きとの関係が相違しており、それ以外は同様の条件で接合および評価を行った。
【0066】
[実施例]
図3は、実施例で用いた基材1及び樹脂部材2の配置形態と、ツール21の移動方向(矢印Aの方向)及び通過領域1aとを模式的に示す平面図である。
実施例では、
図3に示したように、樹脂部材2であるUDテープに含まれる一方向性の強化繊維2a(炭素繊維)の長手方向の向き(矢印Bの方向)が、ツール21の相対移動方向(矢印Aの方向)に対して略直交する向きに、樹脂部材2を配置し、その上に基材1を重ね合わせた状態で接合を行った。なお、斜線で示した領域1cは、格子目状の微細溝(凹凸溝1b)の加工領域を示している。
【0067】
図4は、
図3におけるIV-IV線断面観察画像の一部であり、実施例に係る貼付方法で基材1へ樹脂部材2を貼り付けた後の接合部分(ツール21のプローブ21bが通過した領域)の断面観察画像である。
【0068】
図4に示す断面観察画像によれば、ツール21の通過後においても基材1の接合面に形成された凹凸溝1bが保持されている。また、これら凹凸溝1b内には、樹脂部材2を構成する樹脂成分と複数の強化繊維2aとが分離することなく、一体化した状態で入り込んでいる。換言すれば、摩擦熱により溶融した樹脂成分が複数の強化繊維2a(炭素繊維)を伴って、これら凹凸溝1b内に侵入し、基材1と樹脂部材2との密着性が高められた状態となっている。
【0069】
また、基材1として、樹脂部材2と対向する面における、摩擦熱により樹脂部材2が少なくとも軟化する部分と接する領域1cに、微細な凹凸溝1bが形成されているものを用いている。そのため、微細な凹凸溝1bに、樹脂部材2の樹脂成分を複数の強化繊維2aとともに侵入させて固化することが可能となり、基材1と樹脂部材2との接合界面での機械的締結力、所謂、アンカー効果を高めることができ、接合強度がより高められた状態となっている。
【0070】
実施例において、引張せん断試験で得られた最大荷重と接合面積を用いて、引張強度を計算した結果、3.17MPaであった。
【0071】
図5は、実施例に係る貼付方法で基材1へ樹脂部材2が貼り付けられたものを樹脂部材2側から見た観察画像である。白抜き破線で囲った領域2bが、ツール21のショルダ21aが通過した領域を示し、白抜き1点鎖線で囲った領域2cが、ツール21のプローブ21bが通過した領域を示している。
プローブ21bが通過した領域2cでは、高速回転するプローブ21bの軌跡に沿って、一方向性の強化繊維2aの向きに一定の変形が観察された。
【0072】
図6は、実施例に係る貼付方法で基材1へ樹脂部材2を貼り付けた後に、樹脂部材2を剥がした後の基材側接合面の観察画像である。
白抜き実線で囲った領域が、レーザ加工により微細な凹凸溝1bが格子状に形成された領域1cと、ツール21のショルダ21aが通過した領域1aとを示している。白抜き1点鎖線で囲った領域1dが、ツール21のプローブ21bが通過した領域を示している。
基材1側のショルダ21aが通過した領域1a、プローブ21bが通過した領域1dともに、全体的に淡い黒色を呈している。このことは、接合時に基材1の微細な凹凸溝1b内に樹脂部材2の樹脂成分が入り込んだ状態となっており、樹脂部材2の剥離後も凹凸溝1b内に樹脂成分が残っている状態を示している。すなわち、樹脂部材2の樹脂成分が凹凸溝1b内に入り込んで、基材1との接合に寄与していることが確認できた。
【0073】
また白抜き破線で示す曲線1eは、基材1の接合面に形成された凹凸溝1bの変形を分かり易く示すための線である。ツール21の回転、荷重、及び摩擦熱により、特に前進側(AS)において凹凸溝1bのパターンにひずみが生じているが、断面観察の結果、凹凸溝の形状は保持されている。
【0074】
実施例によれば、基材1の凹凸溝1b内に侵入した樹脂成分と複数の強化繊維2aとが基材1との接合に寄与し、高い密着性とアンカー効果により接合強度が高められて、接合品質を向上できることが確認できた。
【0075】
[比較例]
図7は、比較例で用いた基材1及び樹脂部材2Aの配置形態と、ツール21の移動方向(矢印Aの方向)及び通過領域1aとを模式的に示す概略図である。
比較例では、
図7に示したように、樹脂部材2AであるUDテープに含まれる一方向性の強化繊維2a(炭素繊維)の長手方向の向き(矢印Bの方向)が、ツール21の相対移動方向(矢印Aの方向)に対して平行となる向き(同じ向き)に、樹脂部材2Aを配置し、その上に基材1を重ね合わせた状態で接合を行った。なお、斜線で示した領域1cは、格子目状の微細溝(凹凸溝1b)の加工領域を示している。
【0076】
図8は、
図7におけるVIII-VIII線断面観察画像の一部であり、比較例に係る貼付方法で基材1へ樹脂部材2Aを貼り付けた後の断面観察画像であり、(a)はプローブ21bの通過領域、(b)はショルダ21aの通過領域の断面観察画像である。
【0077】
図8(a)はツール21のプローブ21b直下の断面観察画像である。
基材1の接合面に形成された凹凸溝1bが、ツール21による荷重と過剰な摩擦熱とにより大きく変形している。また、樹脂部材2Aの強化繊維2aと樹脂成分とが分離して、溶融した樹脂成分が外部に流出し、凹凸溝1bには、強化繊維2aが入り込んでいるものの、樹脂成分が殆ど入り込んでおらず、樹脂部材2Aの樹脂成分が基材1との接合に寄与していない状態となっている。
【0078】
図8(b)は、ツール21のショルダ21a直下の断面観察画像である。
基材1の接合面に形成された凹凸溝1bが、ツール21による荷重と過剰な摩擦熱により少し変形している。また、樹脂部材2Aの強化繊維2aと樹脂成分とが分離して、溶融した樹脂成分が外部に流出し、凹凸溝1bには、強化繊維2aが入り込んでいるものの、樹脂成分が殆ど入り込んでおらず、樹脂部材2Aの樹脂成分が基材1との接合に寄与していない状態となっている。
【0079】
図9は、比較例に係る貼付方法で基材1へ樹脂部材2Aを貼り付けた後に、樹脂部材2Aを剥がした後の基材側接合面の観察画像である。
ツール21の相対移動方向(矢印Aの向き)、樹脂部材2Aの強化繊維2aの長手方向に向き(矢印Bの向き)は、ともにX軸方向である。
白抜き太実線で囲った領域1fが、ツール21のショルダ21aが通過した領域を示している。また、白抜きの実線で示す曲線1eは、基材1の接合面に格子状に形成された凹凸溝1bの変形を分かり易く示すための線である。
【0080】
ショルダ21aが通過した領域1fにおいて、黒色の濃淡が大きくばらついており、特に前進側(AS)において、濃い黒色を呈している部分が多く観察された。この濃い黒色を呈している部分は、接合時に基材1の凹凸溝1b内に樹脂成分が殆ど入り込まずに流出し、剥離後の凹凸溝1b内に強化繊維2a(炭素繊維)のみが残っている状態を示している。すなわち、摩擦熱により溶融した樹脂成分が、ツール21の荷重及び移動により強化繊維2aの方向に沿って流出し、残った強化繊維2a(炭素繊維)のみが、基材1の凹凸溝1b内に入り込んだ状態となっており、接合に寄与していないことが確認できた。
【0081】
比較例において、引張せん断試験で得られた最大荷重と接合面積を用いて、引張強度を計算した結果、2.02MPaであり、実施例での引張強度より明らかに低い値となった。
【0082】
上記した実施例では、比較例の約1.5倍の引張強度が得られ、基材1に貼り付ける樹脂部材2に包含されている複数の強化繊維2aの長手方向の向きを、ツール21の相対移動方向に対して略直交する向きにすることで、基材1と樹脂部材2との接合強度が高められることが確認できた。
【0083】
本発明は、以上の実施の形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
本発明は、異種材料を用いたマルチマテリアル化による構造体の軽量化を図る接合技術の分野等において広く適用可能であり、係る分野に本発明を適用することにより、例えば、自動車、航空機などに用いられる構造体や部品など、特に強度を担保しつつ軽量化が要求される構造体や部品等の製造に広く利用することが可能となる。