(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023025356
(43)【公開日】2023-02-22
(54)【発明の名称】スピーカーの位相反転機構振動板
(51)【国際特許分類】
H04R 1/28 20060101AFI20230215BHJP
【FI】
H04R1/28 310E
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021130520
(22)【出願日】2021-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】395007635
【氏名又は名称】上條 雄二
(72)【発明者】
【氏名】上條雄二
【テーマコード(参考)】
5D018
【Fターム(参考)】
5D018AD02
5D018AD06
(57)【要約】
【課題】一般的な位相反転型スピーカーは、音波の遅延に基づく反転のため、原音を損なう要因となる。
位相反転原理を、タイムラグが生じにくい振動板の機構動作で求め、大型化でも保持安定性が確保でき、低音再生効率向上および音質向上を求める。
【解決手段】本発明に至る前の、上下支持の湾曲受動面に対し、ウエーブ状にすることで、中間スイング支持7を設けられ、湾曲長を半減でき、中間分岐の放射面4により、振動板機構の軽量化と分割振動低減、および伝播速度と保持性の向上、また、スピーカー2背後と振動板機構の間隔を狭くレイアウトでき、空間による伝播遅れを縮め、位相反転の同時性の向上によって、大型スピーカーシステムにも対応しやすい。
機構の縦波伝播によって、スピーカー背後の音響出力が、定在波を生成するより先を越して、放射面から出力することで、吸音対策の音質へのデメリットを回避できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下支持部5,6および中間スイング支持部7によって、形成保持するウエーブ状の受動面3の中間から、前方に重なって分岐する放射面4と接続面4aの境となるスイング支持部8を設けたスピーカーの位相反転機構振動板。
【請求項2】
下方の受動面3bに重なる放射面4に開口部4cを有する接続面4aの領域を設け、受動面3bの有効動作を確保した請求項1記載のスピーカーの位相反転機構振動板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,位相反転型スピーカーの位相反転原理が、振動板機構による低音再生効率向上、および高音質化を図った位相反転方式に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な位相反転型スピーカーは,スピーカー後方の音を、キャビネットに設けた音の出口から放射することにおいて,遅延する音響動作における反共振の制御によって、低音増強を図る。
低音増強効果の反面、遅延する音響動作が複雑に音質向上を阻む要因となる。
【0003】
遅延やタイムラグを最小限に抑えることにおいて、本発明者の機構動作による位相反転用振動板(特許文献1,特許文献2参照)により、スピーカー前方の音と同時性および同位相性を求める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-029881 号公報
【特許文献2】特許願2020-184027
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明に至る前の、ウエーブ状の振動板(特許文献1)、そしてウエーブ状の振動板を折り返す形態(特許文献2)によって,キャビネット上下サイズ以上の振動板長が設定可能となり、キャビネットサイズアップを図ることなく音質向上を求めた。
【0006】
本発明では,振動板長を増すことによる強度低下や分割振動などを低減し、スピーカーシステム大型化でも、動作保持安定性の確保によって,更に音質向上を期待する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ウエーブ状を折り返す振動板(特許文献2)によるスピーカー背後を囲う受動面は、上下支持による1つの湾曲状に対し、本発明では,ウエーブ状の振動板(特許文献1)を受動面とすることで、中間のスイング支持によって凹凸の湾曲に分けられ、湾曲長が半減でき、分割振動低減や軽量化および保持性などが向上できる。
【0008】
振動反転を求める放射面は、中間の支持部から下方へ分岐して、受動面の前方に間隙をもって重なり、分岐部から接続面とする領域端に、2個目のスイング支持部で仕切る。
その接続面には、重なって閉ざされる間隙への、通気口ならびに補強リブを形成することにより、放射面および受動面としての動作を確保する。
【0009】
このようにウエーブ状の中間から、分岐する湾曲が一方の湾曲に重なるレイアウトによる振動板機構によって、スピーカー背後の空間を狭めて支持し易く、空間伝播でのタイムラグを抑えやすい。
【発明の効果】
【0010】
中間支持部を設けるウエーブ状の受動面と放射面を分岐する二重構造によって、保持強化および軽量化でき、歪み振動が抑えやすい。
また、スピーカー背後空間を狭く設定しやすく、スピーカー背後から受動面までの空間伝播のタイムラグを抑えやすい。
【0011】
スピーカー背後の音響出力が、放射面から出力される経路は、振動板機構の伝播と、そのままの空気振動の伝播でも通過されるが、順番として、気体を粗密波(縦波)伝播する音より、固体である振動板の断面線方向に、支持間で伸縮する粗密波伝播が数倍速く作用することが見込まれる。
そのため、キャビネット内の反射波や定在波が生成される速度より速く、放射面に縦波応力の作用としての振動出力が先行する。
【0012】
狭いキャビネット内の吸音材料の副作用は大きいため、音量損失や微妙な音色が失われ安いが、吸音材料による対策を省くことが可能となり,高感度に再現されやすい低音放射効率アップが図れる。
【0013】
このように、振動板機構による位相反転のタイムラグを改善できることによって、大口径のフルレンジスピーカーシステムとしても高音質化が促進できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】実施例での音圧周波数特性およびインピーダンス特性
【発明を実施するための形態】
【0015】
位相反転振動板機構は、上下対称もしくは左右対称レイアウトなど可能であるが、一般的キャビネットスタイルでの、実施形態とする
図1において、受動面3と放射面4の湾曲は円360°の1/8~1/9程度および面積比を3:1としても低音放射効果が可能となる。
【0016】
振動板3,4およびスイング支持部7,8の材料として、クラフト紙または再生紙でも可能であり、紙の流れ目を、接合間方向にすることで不要な分割振動が生じにくい。
【0017】
口径10cmまたは30cmスピーカーシステムにおける1つの湾曲長に対する紙厚は、150mm:0.35mmまたは400mm:0.7mmでも不要な共振に及ぶことがなく、
図2に示すようなスムーズなインピーダンス特性が可能となる。
放射面4は、負荷が増すため、接続面4aも含めた長さに対する紙厚とするのが好ましい。
【0018】
キャビネット側面との振動板間隙13は、多湿期による材料の膨張でも接触しない値として0.25mm(支持後サンドペーパーt0.25mmによる研磨でも修正可能)で正常な保持が可能である。
【0019】
振動板の軽量化における分割振動によるインピーダンス特性の乱れを十分低減する手段として、本発明者による分割振動損失ヒレ10(特開2014-039147 号公報)を縦に数通り貼り付ける。
材料は、紙テープ等およびそれより丈夫な材料も併用し、スムーズなインピーダンス特性を満たす。
【0020】
下受動面3bおよび放射面4の動作確保のための接続面4aの開口部4cは、台形状に3方の切れ込みを入れ、縦に曲げることによって補強リブ4bを形成することで、補強材追加を回避できる。
【0021】
キャビネットへの設定において、振動板3,4およびスイング支持部7,8の幅をキャビネット内寸-0.5mm弱とし、また接合分を延長してカットし、接合用両面テープおよび制振ヒレ10も含め、振動板ユニットとした状態において、キャビネットへの取り付けジグとするサイド間隙相当の紙および支持位置ガイドを紙テープ等で仮止めし、正確な接合支持が容易である。
【0022】
上下支持部5,6およびスイング支持部7,8に丈夫な補強鋼材9を用いて振動伝播の乱れを抑える。
補強鋼材9にはビス留めの穴加工を施し、接着後ビス止めの手順となる。
【0023】
特に上下固定支持部5,6は、振動板の湾曲変化の振幅が縦波変換される起点となり、接合の直線状がたわむことは、縦波伝播の波面もたわむことになり、湾曲面のたわみにくい方向にストレスが生じ、歪みを伴う分割振動の要因となるため,縦波の進行波面が直線を保つ様に、支持部の強度アップが有効となる。
【実施例0024】
口径30cmフルレンジスピーカーシステムでの良好な音質を得るための、位相反転振動板機構の実施例を
図1に基づいて説明する。
受動面3:接続面4a:放射面4の縦寸法を750mm:134mm:250mmとし、幅395.5mm、紙厚0.65mm、グレー再生紙を用いた。
湾曲の半径線の交点角度は45°に設定した。
【0025】
スピーカー2背後に、上受動面3aを近づけるため、ウエーブ状の中間支持部7の所で角度調整して対応した。
【0026】
スイング支持部7,8の材料はクラフト紙t0.35mm、スイング半径20mm、張りしろ分を延長し、両面テープで接合支持した。
【0027】
図2におけるスピーカー前方の音圧周波数特性aにおいて、100Hz~300Hzの谷最低部は、振動板素材の軽量化でも改善できるが、谷最低部の一部を高める対策として、反射板20を設ける。
そこに共振孔21の大きさ、および通気抵抗を有する繊維材料の調整によって、共振峰を生成することで谷の改善が図れる。
【0028】
放射面4の音圧周波数特性bは、大口径フルレンジスピーカーとしての分割振動に関わる、中音の谷を過ぎた300Hz~10kHzに向かって、不要な共振等による著しいピークがなく、概ね一定の下降特性が得られる。