(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023025753
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】運搬車両制御装置、運搬車両及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20230216BHJP
【FI】
B60L15/20 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021131067
(22)【出願日】2021-08-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 厚文
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 敏昌
(72)【発明者】
【氏名】大石 潔
(72)【発明者】
【氏名】横倉 勇希
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA17
5H125AB05
5H125BA01
5H125CA01
5H125CA15
5H125DD16
5H125EE07
5H125EE08
5H125EE53
(57)【要約】
【課題】車輪の摩擦力を用いて駆動される車両において、車輪に発生するトルクを好適に制御する。
【解決手段】運搬車両制御装置は、駆動輪と、前記駆動輪を回転駆動させるモータとを含んで構成される2慣性共振系のうち、前記モータの回転量を示す情報を含む回転位置情報を取得する回転位置情報取得部と、前記回転位置情報に基づき、共振の影響によるトルクを算出する状態量オブザーバと、所定期間における前記駆動輪のすべり速度の変化量を取得するすべり速度情報取得部と、算出された前記共振の影響によるトルクと、取得された所定期間における前記すべり速度の変化量とに基づいて、前記駆動輪のすべりを抑制するための加速度であるすべり加速度指令値を算出するすべり加速度指令生成部と、算出された前記すべり加速度指令値に基づいて前記モータにモータトルク指令値を出力するトルク指令生成部とを備える。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪と、前記駆動輪を回転駆動させるモータとを含んで構成される2慣性共振系のうち、前記モータの回転量を示す情報を含む回転位置情報を取得する回転位置情報取得部と、
前記回転位置情報に基づき、共振の影響によるトルクを算出する状態量オブザーバと、
所定期間における前記駆動輪のすべり速度の変化量を取得するすべり速度情報取得部と、
算出された前記共振の影響によるトルクと、取得された所定期間における前記すべり速度の変化量とに基づいて、前記駆動輪のすべりを抑制するための加速度であるすべり加速度指令値を算出するすべり加速度指令生成部と、
算出された前記すべり加速度指令値に基づいて前記モータに与えるトルクの指令値であるモータトルク指令値を算出するトルク指令生成部と、
前記モータに、生成された前記モータトルク指令値を出力するトルク指令値出力部と
を備える運搬車両制御装置。
【請求項2】
前記状態量オブザーバにより算出された前記共振の影響によるトルクに基づき、すべり加速度調整値を算出するすべり加速度調整部を更に備え、
前記すべり加速度指令生成部は、算出された前記すべり加速度調整値に基づいて、前記すべり加速度指令値を算出する
請求項1に記載の運搬車両制御装置。
【請求項3】
前記状態量オブザーバにより算出された前記共振の影響によるトルクと、前記回転位置情報に基づく前記モータの回転速度と、前記すべり加速度指令値に基づき、前記モータに流れる電流の電流指令値を算出するねじれトルク制御部を更に備え、
前記トルク指令生成部は、算出された前記電流指令値に基づいて前記モータトルク指令値を算出する
請求項1又は請求項2に記載の運搬車両制御装置。
【請求項4】
前記状態量オブザーバは、前記回転位置情報に基づき、前記駆動輪の各速度を推定した値である角速度推定値を更に算出し、
前記状態量オブザーバにより算出された前記角速度推定値と、前記すべり加速度指令生成部により算出された前記すべり加速度指令値とに基づき、ねじれトルク指令値を算出するすべり加速度制御部を更に備え、
前記ねじれトルク制御部は、前記ねじれトルク指令値に基づいて前記電流指令値を算出する
請求項3に記載の運搬車両制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の運搬車両制御装置と、
前記運搬車両制御装置により制御される前記モータと、
前記モータにより回転駆動される前記駆動輪と
を備える運搬車両。
【請求項6】
コンピュータに、
駆動輪と、前記駆動輪を回転駆動させるモータとを含んで構成される2慣性共振系のうち、前記モータの回転量を示す情報を含む回転位置情報を取得する回転位置情報取得ステップと、
前記回転位置情報に基づき、共振の影響によるトルクを算出する状態量オブザーバ実行ステップと、
所定期間における前記駆動輪のすべり速度の変化量を取得するすべり加速度取得ステップと、
算出された前記共振の影響によるトルクと、取得された所定期間における前記すべり速度の変化量とに基づいて、前記駆動輪のすべりを抑制するための加速度であるすべり加速度指令値を算出するすべり加速度指令生成ステップと、
算出された前記すべり加速度指令値に基づいて前記モータに与えるトルクの指令値であるモータトルク指令値を算出するトルク指令生成ステップと、
前記モータに、生成された前記モータトルク指令値を出力するトルク指令値出力ステップと
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運搬車両制御装置、運搬車両及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車輪を回転駆動させることにより地面との間に発生する摩擦力を用いて駆動される車両において、車輪が空転したと判断した際に、車輪に発生するトルクを制御することにより車輪の空転を抑止する技術があった(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来技術によれば、車輪の周速度と車体速度との差であるすべり速度を微分して得られるすべり加速度がゼロになるような安定化トルクを車輪に発生させることにより制御する。
しかしながら、このような技術は、モータと車輪との間の駆動系がリジットに結合されることを前提としたものである。運搬車両のようなモータと車輪との関係が二慣性共振系で表現されるような駆動系においては、共振によるトルクが無視できないといった課題があった。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、車輪の摩擦力を用いて駆動される車両において、車輪に発生するトルクを好適に制御することが可能な運搬車両制御装置、運搬車両及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る運搬車両制御装置は、駆動輪と、前記駆動輪を回転駆動させるモータとを含んで構成される2慣性共振系のうち、前記モータの回転量を示す情報を含む回転位置情報を取得する回転位置情報取得部と、前記回転位置情報に基づき、共振の影響によるトルクを算出する状態量オブザーバと、所定期間における前記駆動輪のすべり速度の変化量を取得するすべり速度情報取得部と、算出された前記共振の影響によるトルクと、取得された所定期間における前記すべり速度の変化量とに基づいて、前記駆動輪のすべりを抑制するための加速度であるすべり加速度指令値を算出するすべり加速度指令生成部と、算出された前記すべり加速度指令値に基づいて前記モータに与えるトルクの指令値であるモータトルク指令値を算出するトルク指令生成部と、前記モータに、生成された前記モータトルク指令値を出力するトルク指令値出力部とを備える。
【0007】
また、本発明の一態様に係る運搬車両制御装置は、前記状態量オブザーバにより算出された前記共振の影響によるトルクに基づき、すべり加速度調整値を算出するすべり加速度調整部を更に備え、前記すべり加速度指令生成部は、算出された前記すべり加速度調整値に基づいて、前記すべり加速度指令値を算出する。
【0008】
また、本発明の一態様に係る運搬車両制御装置は、前記状態量オブザーバにより算出された前記共振の影響によるトルクと、前記回転位置情報に基づく前記モータの回転速度と、前記すべり加速度指令値に基づき、前記モータに流れる電流の電流指令値を算出するねじれトルク制御部を更に備え、前記トルク指令生成部は、算出された前記電流指令値に基づいて前記モータトルク指令値を算出する。
【0009】
また、本発明の一態様に係る運搬車両制御装置は、前記状態量オブザーバは、前記回転位置情報に基づき、前記駆動輪の各速度を推定した値である角速度推定値を更に算出し、前記状態量オブザーバにより算出された前記角速度推定値と、前記すべり加速度指令生成部により算出された前記すべり加速度指令値とに基づき、ねじれトルク指令値を算出するすべり加速度制御部を更に備え、前記ねじれトルク制御部は、前記ねじれトルク指令値に基づいて前記電流指令値を算出する。
【0010】
また、本発明の一態様に係る運搬車両は、上述した運搬車両制御装置と、前記運搬車両制御装置により制御される前記モータと、前記モータにより回転駆動される前記駆動輪とを備える。
【0011】
また、本発明の一態様に係るプログラムは、コンピュータに、駆動輪と、前記駆動輪を回転駆動させるモータとを含んで構成される2慣性共振系のうち、前記モータの回転量を示す情報を含む回転位置情報を取得する回転位置情報取得ステップと、前記回転位置情報に基づき、共振の影響によるトルクを算出する状態量オブザーバ実行ステップと、所定期間における前記駆動輪のすべり速度の変化量を取得するすべり加速度取得ステップと、算出された前記共振の影響によるトルクと、取得された所定期間における前記すべり速度の変化量とに基づいて、前記駆動輪のすべりを抑制するための加速度であるすべり加速度指令値を算出するすべり加速度指令生成ステップと、算出された前記すべり加速度指令値に基づいて前記モータにモータトルク指令値を出力するトルク指令生成ステップとを実行させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、車輪の摩擦力を用いて駆動される車両において、車輪に発生するトルクを好適に制御することが可能な運搬車両制御装置、運搬車両及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係る運搬車両の一例についての外観を模式的に説明するための斜視図である。
【
図2】実施形態に係る運搬車両の機能構成の一例について説明する機能構成図である。
【
図3】実施形態に係る二慣性共振系の概念図である。
【
図4】実施形態に係る運搬車両の動力伝達手段の一例について説明するための図である。
【
図5】実施形態に係る運搬車両制御装置の一連の動作を説明するためのフローチャートである。
【
図6】実施形態に係るすべり速度と接線力トルクの特性図の一例である。
【
図7】実施形態に係るすべり速度と接線力トルクの特性図の線形化の一例について説明するための図である。
【
図8】実施形態に係る運搬車両制御装置の機能を説明するためのブロック線図である。
【
図9】実施形態に係る運搬車両制御装置のシミュレーションに用いたパラメータを説明するための図である。
【
図10】実施形態に係る運搬車両制御装置のシミュレーションに用いたすべり速度-接線力係数特性図である。
【
図11】実施形態に係る制御を用いた場合における軸電流、モータ側速度、ねじれトルクについてのシミュレーション結果を示す図である。
【
図12】実施形態に係る制御を用いた場合におけるすべり判別信号についてのシミュレーション結果を示す図である。
【
図13】実施形態に係る制御を用いた場合におけるすべり速度、動輪速度、走行速度、接線力についてのシミュレーション結果を示す図である。
【
図14】実施形態に係る制御を用いた場合におけるすべり加速度指令値、すべり速度についてのシミュレーション結果を示す図である。
【
図15】実施形態に係る制御を用いない場合における軸電流、モータ側速度、ねじれトルクについてのシミュレーション結果を示す図である。
【
図16】実施形態に係る制御を用いない場合におけるすべり判別信号についてのシミュレーション結果を示す図である。
【
図17】実施形態に係る制御を用いない場合におけるすべり速度、動輪速度、走行速度、接線力についてのシミュレーション結果を示す図である。
【
図18】従来技術に係るアンチスリップ制御について説明するためのブロック線図である。
【
図19】従来技術に係るアンチスリップ制御について説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[従来技術]
まず、
図18及び
図19を参照しながら従来技術に係るアンチスリップ制御の概要と、従来技術による問題点について説明する。従来技術に係るアンチスリップ制御とは、例えば電車の駆動制御等に用いられる技術である。
【0015】
図18は、従来技術に係るアンチスリップ制御について説明するためのブロック線図である。同図を参照しながら、アンチスリップ制御装置9の機能について説明する。
アンチスリップ制御装置9は、制御系90と、駆動系91とを備える。制御系90は、速度検出器92と、外乱オブザーバ93と、トルク引下げ量決定器94と、すべり加速度指令生成器95と、走行加速度推定器96と、すべり加速度制御器97と、トルク指令生成器98とを備える。
【0016】
駆動系91は、車輪を回転駆動させるモータと、モータの回転軸に備えられたプーリーと、プーリーと車輪とを接続するギヤと、ギヤに接続された車輪等を備える、駆動系91は制御系90により制御される。駆動系91は、具体的には制御系90により出力されたトルク指令値τM
refにより駆動される。駆動系91は、モータの回転数を検知する不図示のロータリーエンコーダを備え、モータの出力軸の角度位置θMを表すデータを制御系90に出力する。
【0017】
速度検出器92は、ロータリーエンコーダから角度位置θMを表すデータを周期的に受信する。速度検出器92は、受信した角度位置θMに基づき、時間あたりの角度位置θMの変化率を求めることにより回転速度(モータ側軸の角速度)ωMを算出する。速度検出器92は、算出した回転速度ωMを外乱オブザーバ93及び走行加速度推定器96に出力する。
走行加速度推定器96は、取得した回転速度ωMからモータの回転速度すなわち走行速度vLを推定する。
【0018】
外乱オブザーバ93は、取得した回転速度ωMと、後述する電流指令値iq
refとに基づいて、接線力トルクτTを算出する。外乱オブザーバ93は、算出した接線力トルクτTをトルク引下げ量決定器94及び加算器975に出力する。
トルク引下げ量決定器94は、接線力トルクτTを取得する。トルク引下げ量決定器94は、取得した接線力トルクτTに基づいて、トルクの引き下げ量である引き下げトルクτTSを算出する。
【0019】
すべり加速度指令生成器95は、所定期間Δtにおけるすべり速度の変化量ΔvS、すなわちすべり加速度を取得する。すべり加速度指令生成器95は、取得したすべり加速度と、算出された引き下げトルクτTSに基づいて、加速度指令値v’S
refを算出する。
すべり加速度制御器97は、算出された加速度指令値v’S
refと、推定された走行速度vLに基づいて、モータの駆動トルクτM
refを算出する。
トルク指令生成器98は、算出されたモータの駆動トルクτM
refを駆動系91に出力する。
【0020】
図19は、従来技術に係るアンチスリップ制御について説明するためのフローチャートである。同図を参照しながら、アンチスリップ制御装置9の動作について説明する。
(ステップS91)アンチスリップ制御装置9は、モータの回転速度が動輪加速度の閾値を超えるか否かを判定する。アンチスリップ制御装置9は、モータの回転速度が動輪加速度を超えた場合、処理をステップS92に進める。
(ステップS92)アンチスリップ制御装置9は、車輪がすべったと判定し、処理をステップS93に進める。
(ステップS93)アンチスリップ制御装置9は、すべりを抑制する滑り加速度指令をフィードフォワード的に決定する。
(ステップS94)アンチスリップ制御装置9は、決定したすべり加速度指令に基づき、引き下げるトルク量を決定する。アンチスリップ制御装置9は、決定した引き下げるトルク量に基づいて、モータの回転速度を制御する。
【0021】
アンチスリップ制御装置9によれば、車輪の滑りを検出し、フィードフォワードにより滑りを抑制することはできた。アンチスリップ制御装置9の制御対象となるシステムは、モータのプーリーと、車輪とがリジットに接続された電車等の駆動系に限定される。モータのプーリーや車輪等の質量が大きい物体が、細いシャフトやベルト等の弾性を有する部材により接続されるような二慣性共振系の場合、従来技術によるアンチスリップ制御装置9では、共振による影響を考慮することができない。
本実施形態では、二慣性共振系の場合であっても、共振による影響を抑制し、好適に制御可能な制御方法を提供することを目的とする。
【0022】
[実施形態]
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下において説明する実施形態は一例に過ぎず、本発明が適用される実施形態は、以下の実施形態に限定されない。
なお、使用可能文字の関係上、以下に示す数式においてハット記号が付されているもの(英文字記号又はギリシャ文字で表された変数)については、本明細書の文章において、「(英文字記号又はギリシャ文字)^(ハット)」と記載する場合がある。
また、図面上では、一次微分を符号の上にドットを付けて示すが、明細書中では「゜」を付して示す場合がある。また、ダッシュ(′)は調整値を示す。
【0023】
[運搬車両]
図1は、実施形態に係る運搬車両の一例についての外観を模式的に説明するための斜視図である。同図を参照しながら、実施形態に係る運搬車両1について説明する。
運搬車両1は、作業者が押す又は引くことにより搬送される。運搬車両1は、モータによりパワーアシストがされる少なくとも1つの車輪又はタイヤを備え(以下、駆動輪と記載する。)、駆動輪と地面との摩擦力を用いて駆動される。地面とは、平面、斜面等の地形を問わず、海底、湖底等の水底を含む。特に地面とは、水田や、作物栽培地、草地、放牧地等の農地等であって、泥状に泥濘んだ地面を含む。
【0024】
運搬車両1は、具体的には手押し式の運搬台車(手押し車。いわゆる、ネコ又は猫車。)であってもよい。運搬車両1は、農地や工事現場等の現場において、農作物や資材を運ぶのに利用される。運搬車両1は、少なくとも1輪の駆動輪を有していればよく、2輪、3輪又は4輪以上の駆動輪を有していてもよい。
また、運搬車両1は、具体的には作業者により牽引されるリヤカー等の2輪車であってもよい。
【0025】
運搬車両1は、少なくとも1つの駆動輪32と、荷台21と、ハンドル22と、制御ボックス23とを備える。作業者は荷台21に農作物や資材等の荷物を積載し、積載された荷物を運搬する。運搬車両1は、作業者によりハンドル22を掴んで押されることにより、主たる動力を得る。
【0026】
駆動輪32は、作業者によりハンドル22を掴んで押され、地面と駆動輪32の表面との間に摩擦が生じることにより回転する。また、駆動輪32は、運搬車両制御装置10により駆動(すなわち、パワーアシスト)される。
制御ボックス23は、運搬車両制御装置10を収納する。運搬車両制御装置10は、不図示のモータを駆動することにより、駆動輪32を制御する。具体的には、運搬車両制御装置10は、パワーアシストのための制御を行う。
【0027】
図2は、実施形態に係る運搬車両の機能構成の一例について説明する機能構成図である。同図を参照しながら、実施形態に係る運搬車両1の機能構成の一例について説明する。運搬車両1は、運搬車両制御装置10と、モータ31と、駆動輪32とを機能構成として備える。以下の説明において、運搬車両制御装置10を制御系12と、モータ31及び駆動輪32とを駆動系13とも記載する。駆動系13は、その他ギヤやベルト等の動力伝達手段を含んでいてもよい。
【0028】
運搬車両制御装置10は、モータ31からモータ情報IMを取得し、駆動輪32から駆動輪情報IWを取得する。運搬車両制御装置10は、取得したモータ情報IM及び駆動輪情報IWに基づき、制御情報ICを生成し、制御情報ICをモータ31に出力することによりモータ31を制御する。
モータ31は、運搬車両制御装置10から制御情報ICを取得し、駆動輪32を回転駆動する。モータ31は、ギヤ等の不図示の動力伝達手段により、動力を駆動輪32に伝達する。伝達する動力についての情報を駆動情報IDとも記載する。モータ31とは、例えばサーボモータ等であってもよい。
駆動輪32は、モータ31により駆動される。駆動輪32は、例えばラバータイヤ等であってもよい。
【0029】
[二慣性共振系]
ここで、モータ31と、駆動輪32とは、それぞれ質量を有し、モータ31により発生した動力は、ギヤ、ベルト、シャフト、ベルト等の動力伝達手段により駆動輪32に伝えられる。例えば動力伝達手段に細いシャフトや弾性を有するベルトが含まれる場合、駆動系13は、二慣性共振系で表現される。以下、
図3及び
図4を参照しながら駆動系13が二慣性共振系で表現される場合の一例について説明する。
【0030】
図3は、実施形態に係る二慣性共振系の概念図である。同図を参照しながら二慣性共振系において生じる物理的な力について説明する。
モータ31側において、モータ側の慣性モーメントを慣性モーメントJ
M[kgm
2]、モータ側の粘性摩擦を粘性摩擦D
M[N
S/m]、ばね定数をばね定数K
S[N/m]、モータの回転速度を回転速度ω
M[rad/s]、モータの駆動トルクを駆動トルクτ
M[Nm]と記載する。また、共振の影響によるトルクをトルクτ
S[Nm]、ギヤ比をギヤ比R
gと記載する。
【0031】
また、駆動輪32側において、駆動輪側の慣性モーメントを慣性モーメントJL[kgm2]、駆動輪側の粘性摩擦を粘性摩擦DL[NS/m]、駆動輪の回転速度を回転速度ωL[rad/s]、駆動輪側の駆動トルクを駆動トルクτM[Nm]と記載する。接線力トルクを接線力トルクτt[Nm]と、接線力を接線力Ft[N]と。運搬車両1の走行速度を走行速度vL[m/s]、駆動輪の回転速度を動輪回転速度vd[m/s]、重力加速度をg[m/s2]、作業者が運搬車両1を押す力をFhuman[N]と、駆動輪の軸が負担する車体重量を車体重量M1[kg]、駆動輪の軸上の重量を軸上重量W1[N]、走行抵抗を走行抵抗Fd[N]、接線力係数を接線力係数μ(vs)と記載する。
【0032】
また、一般にモータ31単体では高トルクを出力することが困難であるため、モータ31と駆動輪32との間に減速機を取り付けることにより、回転速度を落とすことに代えて高トルク出力を得ることが行われる。このとき、取り付けられた減速機により、モータ31と駆動輪32との間に共振が生じる場合がある。そのため、共振による軸ねじれトルクを制御することを要する。
【0033】
図4は、実施形態に係る運搬車両の動力伝達手段の一例について説明するための図である。同図を参照しながら運搬車両1の動力伝達手段の一例について説明する。
プーリー34は、モータ31から動力を受け取り、ラバータイヤ35に動力を伝える。ラバータイヤ35は、駆動輪32の一例である。プーリー34とラバータイヤ35は、ベルト36により接続される。ベルト36は弾性を有するため、モータ31により発生した動力を伝達するのに遅延が生じる。すなわち、プーリー34とラバータイヤ35とは、二慣性系により表される。
本実施形態においては、運搬車両制御装置10を有することにより、同図に示すような一部に弾性を有する動力伝達手段を有する運搬車両1においても、駆動輪32に発生するトルクを好適に制御する。
【0034】
[運搬車両制御装置の一連の動作]
図5は、実施形態に係る運搬車両制御装置の一連の動作を説明するためのフローチャートである。同図を参照しながら運搬車両制御装置10の一連の動作について説明する。
(ステップS110)運搬車両制御装置10は、駆動輪32の動輪回転速度v
dを取得し、動輪回転速度v
dと予め設定された閾値とを比較する。運搬車両制御装置10は、動輪回転速度v
dが予め設定された閾値を超えた場合、処理をステップS120に進める。
(ステップS120)運搬車両制御装置10は、駆動輪32が空転を開始した、すなわち、「すべった」と判定する。
【0035】
(ステップS130)運搬車両制御装置10は、後述する振動抑制制御を行い、フィードバック量の最大値を保つ。
(ステップS140)運搬車両制御装置10は、フィードバック量の最大値を優先した上で、滑りを抑制できる「すべり加速度指令値」を算出する。
(ステップS150)運搬車両制御装置10は、「すべり加速度指令値」のトルクが十分であるか否かを判定する。運搬車両制御装置10は、トルクが十分でない場合(すなわち、ステップS150;NO)、処理をステップS160に進める。また、運搬車両制御装置10は、トルクが十分である場合(すなわち、ステップS150;YES)、処理をステップS170に進める。
(ステップS160)運搬車両制御装置10は、すべり加速度調整値で「すべり加速度指令値」を修正する。
(ステップS170)運搬車両制御装置10は、決定した「すべり加速度指令値」に基づき、引き下げるトルク量を決定する。
【0036】
[加速度指令値の算出]
次に、
図6及び
図7を参照しながら、加速度指令値の算出について説明する。
図6は、実施形態に係るすべり速度v
Sと接線力トルクτ
tの特性図の一例である。同図には、横軸をすべり速度v
S、縦軸を接線力トルクτ
tとして、すべり速度v
Sと接線力トルクτ
tとの関係を示す。
【0037】
図6において、傾きが正の領域は、すべり速度v
Sの増加に伴って接線力トルクτ
tが増加する領域であり、粘着領域(Adhesion Area)と呼ばれる。一方、傾きが負の領域は、すべり速度v
Sの増加に伴って接線力トルクτ
tが減少する領域であり、空転領域(Slip Area)と呼ばれる。
【0038】
空転領域での動作を防ぎ、高い接線力利用率を達成するためには、トルクを引き下げて粘着領域での動作に戻す必要がある。トルクを引き下げて粘着領域での動作に戻すには、例えば、モータ31に与える電流の量を小さくすることにより行われる。トルクを引き下げることにより、符号W11で示されたすべり速度vSと接線力トルクτtの特性は、符号W12で示す特性のように引き下げられる。
【0039】
図7は、実施形態に係るすべり速度と接線力トルクの特性図の線形化の一例について説明するための図である。同図を参照しながら、すべり速度v
Sと接線力トルクτ
tの特性図の線形化の一例について説明する。
図7(A)は、線形化前のすべり速度v
Sと接線力トルクτ
tの特性図を示し、
図7(B)は、線形化後のすべり速度v
Sと接線力トルクτ
tの特性図を示す。
【0040】
図7(A)に示すよう、すべり速度v
Sと接線力トルクτ
tの特性は非線形であり具体的に値、係数を定義することは容易でない。そのため、
図7(B)のような線形近似を行う。線形近似をした場合、空転領域の特性は下の式(1)として表現される。
【0041】
【0042】
ここで接線力トルクτtSは空転時の傾きであり、この値は路面の状況(例えば、乾いたアスファルト、濡れたアスファルト、泥等)によって変化するものと考えられる。濡れたアスファルトの路面における最大接線力トルクは、乾いたアスファルトの路面における最大接線力トルクよりも小さくなると考えられる。
接線力トルクτtSを求めるには、接線力トルクτtを微分すればよい。
【0043】
上の式(1)と動輪モデルの運動方程式より、下の式(2)を導くことができる。
【0044】
【0045】
上の式(2)において、走行抵抗は急峻に変化せず、車両加速度はほぼ一定値をとるとして、走行速度vLが、実値と一致した場合、下の式(3)のようにまとめることができる。
【0046】
【0047】
以上より、すべり速度vSの初期値であるすべり速度vS0を用いて、下の式(4)を得ることができる。
【0048】
【0049】
また、サンプルごとに考えれば、一定時間Δtのすべり速度vSの変化量ΔvSによりすべり加速度vSが与えられるため、すべり加速度指令値v゜S
refは、下の式(5)のように表現される。
【0050】
【0051】
上の式(5)により表現されるすべり加速度指令値v゜S
refにより、特性の傾きとねじれトルクを引下げることができる。本実施形態において、運搬車両制御装置10は、上述した加速度指令値の算出に加え、更に状態フィードバック、共振周波数に起因する振動抑制制御を行う。
【0052】
ここで、従来技術による制御と、本実施形態に係る運搬車両1用のアンチスリップ制御では、優先する対象が異なる。従来技術による制御では、車体を加速させるトルクを与え、空転を検知した場合に引き下げトルクに切り替える。そのため、従来技術によれば、「車体加速トルク」および「引き下げトルク」が優先される。
一方、本実施形態に係る運搬車両1用のアンチスリップ制御では、共振周波数に起因する振動・成分を抑制するトルク量が、空転領域および粘着領域両方にて優先される。
【0053】
本実施形態によれば、トルクを引き下げる際に共振周波数に起因する振動・成分を抑制するトルク量が優先されるため、粘着領域に引戻すための引き下げトルクが必要になる場合がある。その場合、すべり加速度の傾きを調節する必要がある。したがって、上述した式(5)に対し、すべり加速度調整値v゜’Sを加算した値を、すべり加速度指令値v゜S
refとする。すべり加速度の傾きを調節した場合のすべり加速度指令値v゜S
refは、下の式(6)で示される。
【0054】
【0055】
[振動抑制制御]
次に、
図8を参照しながら、振動抑制制御について説明する。
図8は、実施形態に係る運搬車両制御装置の機能を説明するためのブロック線図である。同図を参照しながら振動抑制制御について説明する。
制御系12は、機能構成として、回転位置情報取得部111と、速度検出器112と、状態量オブザーバ113と、すべり加速度調整器(すべり加速度調整部)114と、トルク引下げ量決定器115と、すべり速度情報取得部116と、すべり加速度指令生成器(すべり加速度指令生成部)117と、走行加速度推定器118と、すべり加速度制御器(すべり加速度制御部)119と、ねじれトルク制御器(ねじれトルク制御部)120と、トルク指令生成器(トルク指令生成部)121と、トルク指令値出力部122を備える。
【0056】
回転位置情報取得部111は、モータ31から回転位置情報を取得する。回転位置情報とは、駆動輪32と、駆動輪を回転駆動させるモータ31とを含んで構成される2慣性共振系のうち、モータ31の回転量を示す情報(例えば、モータ側軸の角変位θM)を含む。回転位置情報とは、例えばモータ31に備えられた不図示のロータリーエンコーダの出力値であってもよいし、レゾルバの出力値であってもよい。
【0057】
速度検出器112は、回転位置情報取得部111から回転位置情報を所定の周期で取得する。速度検出器112は、取得した回転位置情報に基づき、回転速度ωMを算出する。速度検出器112は、例えばモータ側軸の角変位θMを表すデータをアナログ信号として取得し、取得したアナログ信号を微分器等を用いて微分することによって、回転速度ωMを算出するようにしてもよい。
【0058】
状態量オブザーバ113は、回転位置情報取得部111により取得された回転位置情報に基づき、共振の影響によるトルクτS^(ハット)と、負荷側軸の角速度推定値ωL^(ハット)を算出する。状態量オブザーバ113は、具体的には、速度検出器112から回転速度ωMを取得し、取得した回転速度ωMに基づいて共振の影響によるトルクτS^(ハット)を算出する。負荷側軸の角速度推定値ωL^(ハット)とは、すなわち駆動輪32の各速度を推定した値である。
【0059】
すべり加速度調整器114は、状態量オブザーバ113により算出された接線力トルク推定値τt^(ハット)と、共振の影響によるトルクτS^(ハット)とに基づき、すべり加速度調整値v゜’Sを算出する。
【0060】
トルク引下げ量決定器115は、接線力トルク推定値τt^(ハット)と、共振の影響によるトルクτS^(ハット)に基づき、トルク引き下げ量τtsを算出する。ここで、トルク引き下げ量τtsを引き下げトルクτS’とも記載する。引き下げトルクτS’は、下の式(7)により表される。
【0061】
【0062】
すべり速度情報取得部116は、所定のサンプリング時間Δtにおけるすべり速度差分値ΔvSを取得する。すべり速度差分値ΔvSとは、すなわち駆動輪32のすべり速度vSの所定期間における変化量である。
【0063】
すべり加速度指令生成器117は、すべり加速度調整器114により算出されたすべり加速度調整値v゜’Sと、すべり速度情報取得部116により取得された速度vSのサンプリング時間Δtにおける変化量であるすべり速度差分値ΔvSとに基づいて、駆動輪32のすべりを抑制するための加速度であるすべり加速度指令値v゜S
refを算出する。
ここで、すべり加速度調整値v゜’Sは、状態量オブザーバ113により算出された共振の影響によるトルクτS^(ハット)に基づいて算出される。換言すれば、すべり加速度指令生成器117は、状態量オブザーバ113により算出された共振の影響によるトルクτS^(ハット)に基づいてすべり加速度指令値v゜S
refを算出する。
【0064】
走行加速度推定器118は、状態量オブザーバ113により算出された負荷側軸の角速度推定値ωL^(ハット)と、予め記憶された駆動輪32の直径等情報とに基づいて、電動運搬車の走行方向速度推定値vL^(ハット)を算出する。
【0065】
すべり加速度制御器119は、すべり加速度指令生成器117により算出されたすべり加速度指令値v゜S
refと、走行加速度推定器118により算出されたvL^(ハット)とに基づいて、ねじれトルク指令値τS
refを算出する。
【0066】
ここで、引き下げトルクτS’は、すべり加速度が負になる領域にならなければならないため、下の式(8)を満足する必要がある。
【0067】
【0068】
上の式(8)を満足するすべり加速度v’Sを設定することができれば、下の式(9)に示すように、すべり加速度指令値v゜S
refを用いてねじれトルク指令値τS
refを設定することができる。
【0069】
【0070】
ねじれトルク制御器120は、速度検出器112により回転位置情報に基づき算出された回転速度ωMと、状態量オブザーバ113により算出された共振の影響によるトルクτS^(ハット)と、すべり加速度制御器119により算出されたねじれトルク指令値τS
refとに基づいて、トルク電流指令値Iq
refを算出する。トルク電流指令値Iq
refとは、すなわち、モータ31に流れる電流の電流指令値である。
【0071】
トルク指令生成器121は、ねじれトルク制御器120により算出されたトルク電流指令値Iq
refに基づいて、モータ31に与えるトルクの指令値であるモータ側トルク指令値τM
refを算出する。トルク電流指令値Iq
refは、すべり加速度指令値v゜S
refに基づく値である。すなわち、トルク指令生成器121は、算出されたすべり加速度指令値v゜S
refに基づいてモータ31にモータトルク指令値を生成する。
トルク指令値出力部122は、モータ31に、生成されたモータ側トルク指令値τM
refを出力する。
【0072】
[シミュレーション]
次に、
図9から
図17を参照しながら、本実施形態に係る運搬車両制御装置10のシミュレーション結果について説明する。
図9は、実施形態に係る運搬車両制御装置のシミュレーションに用いたパラメータを説明するための図である。本シミュレーションは、作業者が運搬車両1を押す力F
humanを、10[N]のステップ信号として行った。
また、シミュレーション時間刻みT
Ssimを1.0×10
-6[S]、シミュレーション離散時間刻みT
Sを1.0×10
-4[S]、シミュレーションスリップ計算刻みΔT
S[S]を1.0×10
-3、特性の傾きτ
lsを-2.2×10
-2、すべり速度差Δvsを1,0×10
-2[rad/S]としてシミュレーションを行った。
【0073】
まず、
図10から
図14を参照しながら、本実施形態に係るアンチスリップ制御を用いた場合におけるシミュレーション結果の一例について説明する。
図10は、実施形態に係る運搬車両制御装置のシミュレーションに用いたすべり速度-接線力係数特性図である。同図を参照しながら、すべり速度-接線力係数特性図について説明する。同図は、すべり速度v
Sを横軸に接線力係数を縦軸に示す。
図10(B)は、
図10(A)のうち、すべり速度v
Sが-5[rad/s]から5[rad/s]の範囲を拡大した図である。
図10(B)から、すべり速度v
Sが0.6[rad/s]を超えた時点において最大の接線力係数μが得られることがわかる。したがって、すべり速度v
Sが0.6[rad/s]を超えた動作領域では「すべった」と判断される。換言すれば、動輪加速度の閾値は0.6である。
【0074】
図11は、実施形態に係る制御を用いた場合における軸電流、モータ側速度、ねじれトルクについてのシミュレーション結果を示す図である。
図11(A)はモータ31の軸電流の値、
図11(B)はモータ側の速度、
図13(C)はねじれトルクについて、横軸を時間[S(秒)]とした場合の時間変化をそれぞれ示す。
0.65[S(秒)]付近までは、すべりが発生していない。当該期間においては、バックドライブ動作(0指令ねじれトルク制御)が行われる。
0.65[S]以降は、すべりを検知したため、本実施形態に係るアンチスリップ制御が行われる。アンチスリップ制御が行われた結果、すべりを検知した時点においてトルクが引き下げられていることが分かる。また、トルクの引き下げ後、再度トルクが引き上げられていることが分かる。
【0075】
図12は、実施形態に係る制御を用いた場合におけるすべり判別信号についてのシミュレーション結果を示す図である。
図12(A)及び
図12(C)は、時間ごとのすべり判別信号の変化を示す。
図12(C)は、時間ごとの駆動輪回転速度v
dの変化を示す。
駆動輪32は、0.65[S]においてすべりが発生していることが分かる。アンチスリップ制御が行われた結果、
図11(C)に示したトルクと連動して駆動輪回転速度v
dが変化していることが分かる。
【0076】
図13は、実施形態に係る制御を用いた場合におけるすべり速度、動輪速度、走行速度、接線力についてのシミュレーション結果を示す図である。
図13(A)はすべり速度v
S、
図13(B)は駆動輪32の速度v
d、
図13(C)は運搬車両1の走行速度v
L、
図13(D)は接線力F
tの時間変化をそれぞれ示す。
すべり速度v
Sは、0.2[S]から徐々に加速し始め、すべりが発生した0.65[S]以降も一旦は減速するものの、再度加速を始める。また、駆動輪32の速度v
dについても、すべりが発生した0.65[S]以降も一旦は減速するものの、再度加速を始める。また、運搬車両1の走行速度v
Lは、徐々に加速をしていき、アンチスリップ制御が行われた結果、すべりが発生した0.65[S]以降も加速が続く。また、接線力F
tについても、アンチスリップ制御が行われた結果、すべりが発生した0.65[S]以降も減少することがない。
【0077】
図14は、実施形態に係る制御を用いた場合におけるすべり加速度指令値、すべり速度についてのシミュレーション結果を示す図である。
図14(A)は、すべり加速度指令生成器117により生成されるすべり加速度指令値v゜
S
ref、
図14(B)は、すべり速度v
Sの時間変化をそれぞれ示す。
図14(C)は、
図14(B)のうち、0.68[S]から0.73[S]の範囲を拡大した図である。
すべり加速度指令値v゜
S
refは、一連の動作を通して略一定であることが分かる。すべり速度v
Sは、すべりが発生した後、一旦は減速するものの、再度加速を始める。
【0078】
次に、
図15から
図17を参照しながら、本実施形態に係るアンチスリップ制御を用いない場合におけるシミュレーション結果の一例について説明する。
図15は、実施形態に係る制御を用いない場合における軸電流、モータ側速度、ねじれトルクについてのシミュレーション結果を示す図である。
図15(A)はモータ31の軸電流の値、
図15(B)はモータ側の速度、
図15(C)はねじれトルクについて、横軸を時間[S]とした場合の時間変化をそれぞれ示す。
【0079】
ここで、
図15に示す一例と
図11に示す一例とを比較すると、モータ31の軸電流の値は、アンチスリップ制御を用いない場合において、ほとんど流れない。また、モータ側の速度についても、ほとんど回転していない。また、ねじれトルクについても発生していない。
【0080】
図16は、実施形態に係る制御を用いない場合におけるすべり判別信号についてのシミュレーション結果を示す図である。
図16(A)及び
図16(C)は、時間ごとのすべり判別信号の変化を示す。
図16(C)は、時間ごとの駆動輪回転速度v
dの変化を示す。
ここで、
図15に示す一例と
図11に示す一例とを比較すると、すべりが発生する0.65[S]までの変化は同様である。しかしながら、すべりが発生した0.65[S]以降の変化が異なる。
また、駆動輪回転速度v
dは、ほとんど回転していないことが分かる。
【0081】
図17は、実施形態に係る制御を用いない場合におけるすべり速度、動輪速度、走行速度、接線力についてのシミュレーション結果を示す図である。
図17(A)はすべり速度v
S、
図17(B)は駆動輪32の速度v
d、
図17(C)は運搬車両1の走行速度v
L、
図17(D)は接線力F
tの時間変化をそれぞれ示す。
すべり速度v
Sは、0.2[S]から徐々に加速し始め、徐々に加速していく。また、駆動輪32の速度v
dについては、ほとんど変化がない。運搬車両1の走行速度v
Lは、徐々に加速をしていく。また、接線力F
tについては、0.2[S]から徐々に上昇し始め、一定の力が加えられる。
【0082】
[実施形態のまとめ]
以上説明した実施形態によれば、運搬車両制御装置10は、回転位置情報取得部111を備えることによりモータ31の回転量を示す情報を含む回転位置情報を取得し、状態量オブザーバ113を備えることにより共振の影響によるトルクτSを算出し、すべり速度情報取得部116を備えることにより所定期間における駆動輪32のすべり速度vSの変化量ΔvSを取得し、すべり加速度指令生成器117を備えることにより共振の影響によるトルクτSと、すべり速度の変化量ΔvSとに基づいて、駆動輪32のすべりを抑制するための加速度であるすべり加速度指令値v゜S
refを算出し、トルク指令生成器121を備えることによりモータ31にモータトルク指令値τM
refを出力する。
【0083】
また、本実施形態によれば、モータが発生しているトルクとモータの回転速度の変化から走行速度を推定し、これによって空転を検知し、モータが発生するトルクを調整する。したがって、本実施形態によれば、走行速度を推定することによって路面と車輪との空転を検出し、パワーアシスト量を自動的に制御するため、舗装道路以外のような空転しやすい路面においても空転を発生させることがない。したがって、本実施形態によれば、熟練した操作者以外でも手動運搬車両が運転可能となる。
【0084】
また、本実施形態によれば、運搬車両制御装置10は、すべり加速度調整器114を備えることにより、状態量オブザーバ113により算出された共振の影響によるトルクτSに基づき、すべり加速度調整値v゜’Sを算出し、すべり加速度指令生成器117は、すべり加速度調整値v゜’Sに基づいてすべり加速度指令値v゜S
refを算出する。
したがって、本実施形態によれば、駆動輪32に発生するトルクを好適に制御することができる。
【0085】
なお、上述した実施形態における運搬車両1が備える各部の機能全体あるいはその一部は、これらの機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現しても良い。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0086】
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶部のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでも良い。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【0087】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0088】
1…運搬車両、10…運搬車両制御装置、12…制御系、13…駆動系、21…荷台、22…ハンドル、23…制御ボックス、31…モータ、32…駆動輪、33…シャフト、34…プーリー、35…ラバータイヤ、36…ベルト、111…回転位置情報取得部、112…速度検出器、113…状態量オブザーバ、114…すべり加速度調整器、115…トルク引下げ量決定器、116…すべり速度情報取得部、117…すべり加速度指令生成器、118…走行加速度推定器、119…すべり加速度制御器、120…ねじれトルク制御器、121…トルク指令生成器、9…アンチスリップ制御装置、90…制御系、91…駆動系、92…速度検出器、93…外乱オブザーバ、94…トルク引下げ量決定器、95…すべり加速度指令生成器、96…走行加速度推定器、97…すべり加速度制御器、98…トルク指令生成器