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特開2023-26797アライナー評価方法およびアライナー評価装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026797
(43)【公開日】2023-03-01
(54)【発明の名称】アライナー評価方法およびアライナー評価装置
(51)【国際特許分類】
   A61C 7/08 20060101AFI20230221BHJP
   A61C 19/04 20060101ALI20230221BHJP
   G01L 1/24 20060101ALI20230221BHJP
   G01L 5/00 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
A61C7/08
A61C19/04
G01L1/24 Z
G01L5/00 101Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021132158
(22)【出願日】2021-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】519091188
【氏名又は名称】ストローマン・ジャパン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】518382658
【氏名又は名称】槇 宏太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】槇 宏太郎
【テーマコード(参考)】
2F051
4C052
【Fターム(参考)】
2F051AA17
2F051AB03
2F051BA07
4C052AA06
4C052AA20
4C052JJ10
4C052NN07
4C052NN15
(57)【要約】
【課題】治療計画に沿って製作された次のステップのアライナーが、患者の歯列に対して歯科医師の想定する圧力分布を与える適正なものであるかを評価するアライナー評価方法を提供する。
【解決手段】透明樹脂によって成形された歯列矯正のためのアライナーを評価するアライナー評価方法であって、光弾性を可視化する偏光イメージカメラによって患者の歯列に対応する歯型にアライナーを装着した状態を撮像した偏光画像を、アライナーの各部位に加わる圧力の大きさを表す圧力分布画像に変換して表示器に表示する表示工程を有するアライナー評価方法。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂によって成形された歯列矯正のためのアライナーを評価するアライナー評価方法であって、
光弾性を可視化する偏光イメージカメラによって患者の歯列に対応する歯型に前記アライナーを装着した状態を撮像した偏光画像を、前記アライナーの各部位に加わる圧力の大きさを表す圧力分布画像に変換して表示器に表示する表示工程を有するアライナー評価方法。
【請求項2】
前記表示工程は、RGBカメラによって前記歯型に前記アライナーを装着した状態を撮像したRGB画像に基づいて生成された輪郭画像を前記圧力分布画像に重畳する工程を含む請求項1に記載のアライナー評価方法。
【請求項3】
前記アライナーは、前記歯型に基づいて成形されたものである請求項1または2に記載のアライナー評価方法。
【請求項4】
前記表示工程は、前記透明樹脂の厚さおよび材質の少なくともいずれかに応じて前記圧力分布画像を調整する工程を含む請求項1から3のいずれか1項に記載のアライナー評価方法。
【請求項5】
光弾性を可視化する偏光イメージカメラによって患者の歯列に対応する歯型に、透明樹脂によって成形された歯列矯正のためのアライナーを装着した状態を撮像した偏光画像を取得する取得部と、
前記偏光画像を前記アライナーの各部位に加わる圧力の大きさを表す圧力分布画像に変換する変換部と、
変換された前記圧力分布画像を表示器に表示させる表示制御部と
を備えるアライナー評価装置。
【請求項6】
前記取得部は、RGBカメラによって前記歯型に前記アライナーを装着した状態を撮像したRGB画像を取得し、
前記変換部は、前記RGB画像を輪郭画像に変換し、
前記表示制御部は、前記輪郭画像を前記圧力分布画像に重畳して表示器に表示させる請求項5に記載のアライナー評価装置。
【請求項7】
前記変換部は、前記透明樹脂の厚さおよび材質の少なくともいずれかに応じて前記圧力分布画像を調整する請求項5または6に記載のアライナー評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯列の矯正治療に用いるアライナーが適正に製作されたかを評価するアライナー評価方法およびアライナー評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の歯列矯正治療においては、歯冠部に装着したブラケットに金属ワイヤーを取り付けて、その張力で歯を移動させる手法が用いられていた。最近では、このような手法に代えて、透明樹脂を用いたマウスピース状のアライナーを複数用いて、歯を矯正すべき方向へ段階的に移動させる手法が用いられるようになってきた(例えば、特許文献1参照)。アライナーを用いる手法は、審美性に優れ、違和感等も少ないことから、広く普及しつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-279022号公報
【特許文献2】特許第5777771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属ワイヤーを用いる手法は、金属ワイヤーを複数の歯に対して横断的に張架する構造から、矯正したい歯に加える圧力を管理することが難しかった。また、アライナーを用いる従来の手法は、製作したアライナーを患者が装着した場合に、矯正対象の歯に加わる圧力が適切であるか、また、矯正対象でない歯に予期せぬ圧力が加わっていないかを計測することが困難であった。例えば、歯列保護のマウスピースではあるが、特許文献2には、特定の歯に対応する凹部に圧力センサーを嵌め込んで圧力を計測する手法が紹介されている。しかし、圧力センサーをアライナーに嵌め込むことは、装着時に違和感を生じさせるばかりか、アライナーの特長である審美性を損なうことにも繋がる。また、矯正対象以外の歯に加わる圧力も計測しようとすると、すべての歯に対応させて圧力センサーを嵌め込まなければならず、アライナーの製作コストを増大させてしまう。特に、歯列矯正のために用いられるアライナーは、患者の現在の歯列に対応するものではなく、段階的に整える次のステップの歯列に対応するものである。したがって、患者に装着してもらって感想を尋ねる従来の評価手法では客観性が担保されず、製作されたアライナーが医師の想定する圧力分布を与える適正なものであるかを評価することが困難であった。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、治療計画に沿って製作された次のステップのアライナーが、患者の歯列に対して歯科医師の想定する圧力分布を与える適正なものであるかを評価するアライナー評価方法等を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様におけるアライナー評価方法は、透明樹脂によって成形された歯列矯正のためのアライナーを評価するアライナー評価方法であって、光弾性を可視化する偏光イメージカメラによって患者の歯列に対応する歯型にアライナーを装着した状態を撮像した偏光画像を、アライナーの各部位に加わる圧力の大きさを表す圧力分布画像に変換して表示器に表示する表示工程を有する。
【0007】
また、本発明の第2の態様におけるアライナー評価装置は、光弾性を可視化する偏光イメージカメラによって患者の歯列に対応する歯型に、透明樹脂によって成形された歯列矯正のためのアライナーを装着した状態を撮像した偏光画像を取得する取得部と、偏光画像をアライナーの各部位に加わる圧力の大きさを表す圧力分布画像に変換する変換部と、変換された圧力分布画像を表示器に表示させる表示制御部とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、治療計画に沿って製作された次のステップのアライナーが、患者の歯列に対して歯科医師の想定する圧力分布を与える適正なものであるかを評価するアライナー評価方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】歯型からアライナーを成形する手順を説明する図である。
図2】各目標段階のアライナーを成形する手順を説明する図である。
図3】アライナーを評価する概念を説明する図である。
図4】アライナー評価システムを用いてアライナーを評価する様子を示す図である。
図5】アライナー評価システムのシステム構成図である。
図6】アライナー評価システムの処理手順を説明する図である。
図7】圧力分布画像を表示モニターへ表示させる様子を示す図である。
図8】他のアライナーの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明するが、特許請求の範囲に係る発明を以下の実施形態に限定するものではない。また、実施形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0011】
図1は、歯型10からアライナー30を成形する手順を説明する図である。歯型10は、患者の現在の歯列からシリコン印象材等によって型取りされた歯列印象に石膏等を注入して製作された模型歯型に対し、矯正対象となる歯の位置を調整して製作した歯型である。このような歯型10に対し、加熱されて軟化した状態である熱可塑性の透明樹脂板20を押し付けて歯型10の形状を転写する。冷えて硬化したら歯型10から引き剥がし、歯列以外の耳部をカットしてアライナー30とする。
【0012】
透明樹脂板20は、熱可塑性および複屈折性を有する透明樹脂から生成された板材である。このような透明樹脂材としては、例えばポリエチレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、レジン系樹脂が採用される。透明樹脂板20の厚さは、矯正対象となる歯へ加える想定圧力の大きさ、歯列矯正に対する慣れや年齢といった患者の特性等に応じて適宜選択される。本実施形においては、およそ0.2mmから2.0mmの範囲で選択されることを想定する。
【0013】
図2は、各目標段階のアライナーを成形する手順を説明する図である。例えば、矯正対象となる歯を現在の位置から3mm移動させようとする場合に、1回あたりの移動量を0.2mmとすると、15回分の目標段階を設定することになる。同様に、1回あたりの移動量を0.3mmとすると、10回分の目標段階を設定することになる。図では、現在の歯列から最終目標とする歯列に到達するまでをn回(nは自然数)に分けて目標段階を設定している。
【0014】
歯型10(0)は、患者の現在の歯列に対する歯型であり、上述のように製作された模型歯型である。この歯型10(0)に対するアライナー30(0)は製作しない。歯型10(1)は、第1回目の目標に対する模型歯型である。歯型10(1)は、歯型10(0)を三次元スキャンした3Dデータから、矯正対象となる歯を移動させたい方向へ1回分の移動量(例えば0.2mm)だけ変位させた修正データを作成し、当該修正データを用いて3Dプリンター等によって製作した模型歯型である。アライナー30(1)は、第1回目の目標に対するアライナーであり、図1を用いて説明したように、歯型10(1)に透明樹脂板20を押し付けて製作する。患者は、アライナー30(1)を2週~3週間に亘って装着すると、矯正対象となる歯が矯正方向への圧力を継続的に受けて徐々に移動し、アライナー30(1)に合致する歯列を獲得する。すなわち、患者の歯列は、歯型10(1)の歯列と同等になる。
【0015】
歯型10(2)は、歯型10(0)を三次元スキャンした3Dデータから、矯正対象となる歯を移動させたい方向へ2回分の移動量(例えば0.4mm)だけ変位させた修正データを作成し、当該修正データを用いて3Dプリンターで製作した模型歯型である。アライナー30(2)は、第2回目の目標に対するアライナーであり、歯型10(2)に透明樹脂板20を押し付けて製作する。患者は、アライナー30(1)に合致する歯列を獲得した後にアライナー30(2)を2週~3週間に亘って装着すると、アライナー30(2)に合致する歯列を獲得する。
【0016】
歯型10(n)は、歯型10(0)を三次元スキャンした3Dデータから、矯正対象となる歯を移動させたい方向へn回分の移動量(例えばn×0.2mm)だけ変位させた修正データを作成し、当該修正データを用いて3Dプリンターで製作した模型歯型である。アライナー30(n)は、第n回目の目標、すなわち最終目標に対するアライナーであり、歯型10(n)に透明樹脂板20を押し付けて製作する。患者は、アライナー30(n-1)に合致する歯列を獲得した後にアライナー30(n)を2週~3週間に亘って装着すると、アライナー30(n)に合致する歯列、すなわち目標とする歯列を獲得する。
【0017】
本実施形においては、上述のように、現在の歯列に対する歯型10(0)から、各段階の歯型10(k)(kは1からnまでの自然数)とアライナー30(k)を製作するが、歯型10とアライナー30の製作手法はこれに限らない。例えば、歯型10(k)をそれぞれ別体として製作するのではなく、歯型10(0)を少なくとも矯正対象の歯について変位可能かつ変位した位置で固定できる構造の模型歯型として一つだけ製作してもよい。このように製作された歯型10(0)であれば、任意の歯型10(k)に調整することができるので、いずれのアライナー30(k)を製作することもできる。
【0018】
また、アライナー30(k)を歯型10(k)から製作する手法でなくてもよい。例えば、一旦現在の歯列に対応する歯型10(0)からアライナー30(0)を製作して、このアライナー30(0)を三次元スキャンした3Dデータを作成する。そして、この3Dデータから矯正対象となる歯を移動させたい方向へ変位させた修正データを作成し、当該修正データを用いて、3Dプリンター等によりアライナー30(k)を製作するようにしてもよい。なお、このとき用いられる素材は、複屈折性を有する透明樹脂であるが、熱可塑性は有してなくてよい。例えば、紫外線によって硬化させる種類の3Dプリンターを利用する場合には、紫外線硬化性の樹脂を用いる。
【0019】
また、上述の例では最終目標に対するアライナー30(n)まで纏めて製作する場合を説明したが、例えば、まず第1回目の目標に対するアライナー30(1)のみ、あるいは数回目の目標までに対応する数個のアライナーに限って製作するようにしてもよい。そして、製作したアライナーによる矯正が終了した段階で、その時点における患者の歯列に対する歯型10(0)を改めて製作する。この改めて製作した歯型10(0)に基づいて、その時点から目標とするアライナー30を製作する。これを矯正の途中段階で数回繰り返すことにより、必要とするアライナー30を複数回にわけて製作するようにしてもよい。このようにアライナー30を複数回にわけて製作すれば、途中段階で矯正対象となる歯の1回あたりの移動量や移動方向を調整することができる。
【0020】
さて、それぞれのアライナー30は、歯科医師が患者を診察して決定した、矯正対象となる歯の移動量や方向、透明樹脂板20の材質や厚さ等に基づいて製作されたものである。具体的には、歯科医師は、矯正対象となる歯の動きやすさ、許容されると考えられる加圧力、患者の歯列矯正に対する慣れなどを考慮して、患者に適したアライナーを処方する。そして、歯科技工士等である製作者は、歯科医師の処方に従って製作する。
【0021】
しかし、製作されたアライナー30は、上述のような工業的手法によって製作された生産品である以上、歯科医師が想定した通りに完成しているとは限らない。患者が製作されたアライナー30を装着した場合に、例えば、矯正対象となる歯に想定以上の圧力が加わったり、接触位置がずれているために加えられる圧力の方向が想定と異なったり、矯正対象でない歯に想定しない圧力が加わったりすることがある。これまでは、完成したアライナーを患者に装着してもらい、歯科医師がその様子を観察したり患者から感想を聞き取ったりしたりして、そのアライナーが適正なものであるかを判断していた。しかし、このような手法では客観性が担保できないために、判断を誤ることがあった。患者にとって適正なアライナーでなければ、目標とする歯列に到達できず、患者に苦痛を与える場合もある。
【0022】
そこで、本実施形態においては、製作されたアライナー30が、歯科医師の処方通りに完成しているか否かを、評価者が評価装置を用いて客観的に評価できるようにする。評価者は、アライナー30を処方した歯科医師であることが好ましいが、歯科医師等から訓練を受けた補助者であっても構わない。
【0023】
評価装置と、当該評価装置を用いたアライナー30の評価手法について順に説明する。図3は、アライナー30を評価する概念を説明する図である。特に、第1回目の目標に対するアライナー30(1)を評価する場合を示す図である。
【0024】
第1回目の目標に対するアライナー30(1)は、患者の現在の歯列に対して適正であるか否かが評価されればよい。そこで、アライナー30(1)を現在の歯列に対する歯型模型である歯型10(0)に被せることにより、患者がアライナー30(1)を装着した状況を疑似的に再現する。
【0025】
アライナー30(1)は、歯型10(0)に装着されることにより、接触箇所において歯型10(0)から圧力を受ける。アライナー30(1)は、上述のように、外力を受けて歪みが生じると複屈折を示す透明樹脂を素材としている。外力によって複屈折を示す現象は、光弾性と呼ばれる。外力を受けた状態の透明樹脂に円偏光子(偏光子と1/4波長板を組み合わせた光学素子)を通して円偏光にした検出光を照射し、円検光子(1/4波長板と検光子を組み合わせた光学素子)を介してその反射光を観察すると、光弾性による干渉縞を認識することができる。この干渉縞の出現状況から透明樹脂に加えられている圧力分布を知ることができる。すなわち、歯型10(0)に装着されたアライナー30(1)に検出光を照射し、その反射光を観察すると、アライナー30(1)が歯型10(0)から受ける圧力分布を知ることができる。
【0026】
同様に、第2回目の目標に対するアライナー30(2)は、1回目の目標に対する歯型10(1)に装着することによって評価できる。すなわち、第1回目の目標に対するアライナー30(1)が適正に製作されており、患者がそれを用いて第1回目の矯正を行ったとすると、その時点における患者の歯列は歯型10(1)の歯列に到達していることが想定される。したがって、第2回目の目標に対するアライナー30(2)が第2回目の矯正に対して適正に製作されているかは、第1回目の目標に対するアライナー30(1)が適正に製作されていることを前提として、歯型10(1)に装着することによって評価することができる。さらに言えば、第k回目の目標に対するアライナー30(k)が第k回目の矯正に対して適正に製作されているかは、第k-1回目の目標に対するアライナー30(k-1)が適正に製作されていることを前提として、歯型10(k-1)に装着することによって評価することができる。
【0027】
図4は、本実施形態に係るアライナー評価システムを用いてアライナー30を評価する様子を示す図である。ここでは、特にアライナー30(1)を歯型10(0)に装着して評価する場合を示している。
【0028】
アライナー評価システムは、主に、演算処理装置としての評価装置100と、RGB画像を出力するRGBカメラ150、偏光画像を出力する偏光イメージカメラ160、表示モニター130、入力デバイス140を備える。歯型10(0)に装着されたアライナー30(1)は、撮像台170に載置され、支柱180に支持されたRGBカメラ150と偏光イメージカメラ160は、撮像台170を俯瞰するように配置されている。
【0029】
評価装置100は、例えばPCである。RGBカメラ150および偏光イメージカメラ160は、有線ケーブルまたは無線通信により評価装置100と接続されている。RGBカメラ150は、評価装置100からの指示にしたがってアライナー30(1)の撮像処理を実行し、撮像したRGB画像をデジタルデータとして評価装置100へ送信する。具体的には、RGBカメラ150は、撮像台170に載置された歯型10(0)とアライナー30(1)のセットを、人による視認と同様のカラー画像として出力する。
【0030】
同様に、偏光イメージカメラ160は、評価装置100からの指示にしたがってアライナー30(1)の撮像処理を実行し、撮像した偏光画像をデジタルデータとして評価装置100へ送信する。具体的には、偏光イメージカメラ160は、歯型10(1)に装着されたアライナー30(1)に出現する光弾性による干渉縞を、人が視認できるように可視化された偏光画像として出力する。偏光イメージカメラ160としては、例えば、「フォトニック結晶偏光子を用いた偏光イメージングカメラの開発」(第32回光学シンポジウム、講演番号3、2007年7月5日)等に紹介されたものを採用し得る。他にも、撮像素子のフォトダイオード上に4方向の偏光子を形成したイメージセンサを組み込んだ偏光イメージカメラなども製品化されている。なお、通常の撮像素子を備えるカメラに照射光源と上述の円偏光子および円検光子の光学系を組み合わせて偏光イメージカメラ160としても構わない。
【0031】
評価装置100は、RGBカメラ150から送られてくるRGB画像、偏光イメージカメラ160から送られてくる偏光画像を取得して画像処理を施し、表示モニター130へ表示する。表示モニター130は、例えば液晶パネルを備えるモニターである。入力デバイス140は、評価者が評価装置100に与える指示や情報を入力するためのデバイスである。入力デバイス140は、例えばキーボードやマウスである。表示モニター130に重畳されたタッチパネルや音声指示デバイスなどを採用してもよい。
【0032】
図5は、アライナー評価システムのシステム構成図である。上述のように、評価装置100は、RGBカメラ150、偏光イメージカメラ160、表示モニター130、入力デバイス140と接続され、アライナー評価システムを構成する。評価装置100は、主に演算処理部110と記憶部120によって構成される。
【0033】
演算処理部110は、アライナー評価システムの制御とプログラムの実行処理を行うプロセッサ(CPU:Central Processing Unit)である。プロセッサは、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やGPU(Graphics Processing Unit)等の演算処理チップと連携する構成であってもよい。演算処理部110は、記憶部120に記憶されたアライナー評価プログラムを読み出して、アライナー評価に関する様々な処理を実行する。記憶部120は、不揮発性の記憶媒体であり、例えばHDD(Hard Disk Drive)によって構成されている。記憶部120は、アライナー評価システムの制御や処理を実行するプログラムの他にも、制御や演算に用いられる様々なパラメータ値、関数、表示要素データ、ルックアップテーブル等を記憶し得る。
【0034】
演算処理部110は、アライナー評価プログラムが指示する処理に応じて様々な演算を実行する機能演算部としての役割も担う。演算処理部110は、取得部111、変換部112、表示制御部113として機能し得る。取得部111は、主に、RGBカメラ150が撮像して出力したRGB画像と、偏光イメージカメラ160が撮像して出力した偏光画像を取得する。変換部112は、主に、取得部111が取得した偏光画像をアライナー30の各部位に加わる圧力の大きさを表す圧力分布画像に変換すると共に、同じく取得部111が取得したRGB画像を輪郭画像に変換する。表示制御部113は、主に、変換部112が変換した輪郭画像を、同じく変換部112が変換した圧力分布画像に重畳して表示モニター130に表示させる。
【0035】
図6は、アライナー評価システムの処理手順を説明する図である。具体的には、表示制御部113が表示モニター130に表示させる表示画面の例であり、評価者は、表示の指示に従って作業を行う。
【0036】
図6(A)は、表示制御部113がウィンドウタイトル201に「アライナーを歯型に被せて撮像台へ載置してください」と表示して、評価者に評価対象のアライナー30を撮像台170へ載置することを促す様子を示している。評価者は、例えば第1回目の目標に対するアライナー30(1)を評価する場合には、アライナー30(1)を現在の歯列に対する歯型10(0)に被せた状態にして撮像台170に載置する。載置したら、OKボタン202にカーソル203を合わせて押下する。
【0037】
図6(B)は、表示制御部113がウィンドウタイトル201に「RGB画像を撮像してください」と表示して、評価者にRGB画像の撮像指示を促す様子を示している。取得部111は、RGBカメラ150から逐次撮像によるライブ画像を取得し、表示制御部120は当該ライブ画像をRGB画像ウィンドウ204に表示させる。評価者は、歯型10(0)とアライナー30(1)のセットが撮像台170上で適切な位置および向きに載置されているかを確認し、撮像指示ボタン205にカーソル203を合わせて押下する。演算処理部110は、撮像指示ボタン205の押下を受けてRGBカメラ150に撮像実行の指示信号を送る。RGBカメラ150は、当該指示信号を受けて撮像処理を実行し、重畳に用いるRGB画像を演算処理部110へ送信する。取得部111は、当該RGB画像を取得し、変換部112へ引き渡す。
【0038】
図6(C)は、表示制御部113がウィンドウタイトル201に「偏光画像を撮像してください」と表示して、評価者に偏光画像の撮像指示を促す様子を示している。取得部111は、偏光イメージカメラ160から逐次撮像によるライブ画像を取得し、表示制御部120は当該ライブ画像を偏光画像ウィンドウ206に表示させる。評価者は、圧力分布が取得できていることを確認し、撮像指示ボタン205にカーソル203を合わせて押下する。演算処理部110は、撮像指示ボタン205の押下を受けて偏光イメージカメラ160に撮像実行の指示信号を送る。偏光イメージカメラ160は、当該指示信号を受けて撮像処理を実行し、評価表示用の偏光画像を演算処理部110へ送信する。取得部111は、当該偏光画像を取得し、変換部112へ引き渡す。
【0039】
なお、図6には示していないが、この他にもアライナー30の素材である透明樹脂の厚さや材質の情報を入力するように促す画面や、患者のID等を入力するように促す画面も表示モニター130に表示される。演算処理部110は、例えば、透明樹脂の厚さについては、キーボードから入力される数値を受け付けたり、材質情報については、提示された複数の材質から選択された一つを受け付けたりする。
【0040】
図7は、圧力分布画像210を表示モニターへ表示する様子を示す図である。圧力分布画像210は、例えば「解析画像」のウィンドウタイトル201と共に表示される。圧力分布画像210は、アライナー30の各部位に加わる圧力の大きさを表す図であり、圧力の大きさに応じて色分けされている。図7は紙面の都合上、網目模様の違いによりその大きさを表している。また、本実施形態においては、アライナー30のいずれの部位に圧力が加わっているのかを認識しやすいように、RGB画像から生成された輪郭画像211に圧力分布画像210を重畳している。
【0041】
取得部111が偏光イメージカメラ160から取得した偏光画像は、光弾性による干渉縞を捉えたものであり、それ自体が圧力の大きさを表しているのではない。透明樹脂の厚さおよび材質が異なれば、同じ圧力を受けた場合でも現れる干渉縞が異なる。そこで、本実施形態においては、透明樹脂の厚さおよび材質ごとに、出現した干渉縞を受けた圧力に変換する変換テーブルを記憶部120に用意しておく。変換部112は、入力された透明樹脂の厚さおよび材質から対応する変換テーブルを選択し、取得部111から引き渡された偏光画像を圧力分布画像210に変換する。
【0042】
このように変換された圧力分布画像は、アライナー30の各部位に加わる圧力の大きさを表す。例えば、小さい圧力ほど寒色系の色彩で表し、大きい圧力ほど暖色系の色彩で表せば、評価者は、いずれの箇所にどれ程の圧力が加わっているかを一見して理解することができる。特に、スケール212を圧力分布画像210の周辺に示して、それぞれの色がどれ程の圧力であるかを数値(N)と共に示せば、評価者は、アライナー30の各部位に加えられている圧力の大きさを、より客観的かつ正確に認識することができる。
【0043】
なお、透明樹脂の材質が特定のものに定められている場合には材質に応じた変換テーブルは不要であるし、唯一の厚さの透明樹脂が使われることが決められている場合には厚さに応じた変換テーブルは不要である。そのような場合には、採用が決まっている透明樹脂についての変換テーブルに限って用意されていればよい。
【0044】
取得部111がRGBカメラ150から取得したRGB画像は、一般的なカラー画像であるので、そのまま圧力分布画像210を重畳すると圧力分布の視認性が低下する場合がある。そこで、変換部112は、取得部111から引き渡されたRGB画像を輪郭画像211に変換する。また、偏光イメージカメラ160とRGBカメラ150の配置により偏光画像とRGB画像の間に視差が生じている場合には、変換部112は、圧力分布画像210と同じ視点からの画像となるように輪郭画像211を調整する。表示制御部113は、このように変換、調整された輪郭画像211に圧力分布画像210を重畳して表示モニター130に表示させる。このように輪郭画像211に圧力分布画像210を重畳して表示すれば、評価者は、アライナー30のいずれの部位に圧力が加わっているかをより客観的かつ正確に認識することができる。
【0045】
評価者は、圧力分布画像210上の一部をカーソル203でドラッグして範囲を指定することにより、当該範囲を拡大させることができる。具体的には、表示制御部113は、ドラッグされた拡大範囲に応じた拡大ウィンドウ220を開き、そこへ対応する圧力分布画像210と輪郭画像211を拡大して表示させる。このとき、色分け数を増やして圧力分布をより多段階に表すようにしてもよい。その場合は、色分けに応じたスケール222を拡大ウィンドウ220内に併せて表示するとよい。
【0046】
評価者は、表示された圧力分布画像210を保存したい場合には、保存指示ボタン215にカーソル203を合わせて押下する。演算処理部110は、保存指示ボタン215の押下を受けて圧力分布画像210を記憶部120へ記憶、保存する。評価者は、当該圧力分布画像210を再度確認したい場合には、記憶部120から読み出して表示モニター130へ表示させることができる。
【0047】
評価者は、このように表示された圧力分布画像210を視認することにより、治療計画に沿って製作された次のステップのアライナーが、患者の歯列に対して歯科医師の想定する圧力分布を与える適正なものであるかを評価することができる。特に、矯正対象の歯に加わる圧力が適切であるかに限らず、矯正対象でない歯に予期せぬ圧力が加わっていないかについても評価することができる。また、輪郭画像211を重ねて表示しているので、アライナーと歯型の接触箇所を確認することができる。すなわち、矯正対象の歯に加わる圧力の向きも確認することができる。したがって、接触箇所が想定位置からずれていることにより矯正対象の歯が予期せぬ方向へ矯正されてしまうことを事前に防ぐことができる。評価者は、このような個々の評価を通じて、アライナー30が適正に製作されたか否かを総合的に評価することができる。ひいては、製作したアライナー30を患者に適用してよいか廃棄すべきかを判断することができる。
【0048】
なお、本実施形態においては、アライナー30が適正に製作されたか否かを評価者が表示モニター130の表示を見て評価する手法について説明したが、評価の主体は評価者に限らない。例えば、許容範囲を事前に規定しておき、検出された圧力の大きさや向きが当該許容範囲を超えたか否かを演算処理部110が判断することにより、アライナー30が適正に製作されたものであるか否かを、表示モニター130へ表示するようにしてもよい。
【0049】
また、本実施形態においては、例えば第1回目の目標に対するアライナー30(1)を一つ製作し、そのアライナー30(1)を現在の歯列に対する歯型10(0)に被せて評価する手法について説明した。しかし、第1回目の目標に対して製作するアライナー30(1)は一つでなくてもよい。例えば、第1回目の目標に対する歯型10(1)を、矯正対象の歯の移動量や向きを少しずつ変化させて複数製作し、それぞれに対応するアライナー30(1)を製作する。そして、それぞれを現在の歯列に対する歯型10(0)に装着して撮像し、圧力分布画像210を表示させて一つずつ評価する。その評価結果のうち、最も良好なものを患者に適用するアライナー30(1)と決定することもできる。
【0050】
また、以上に説明した本実施形態においては、アライナー30は弓形状であったが、アライナーの形状はこれに限らない。図8は、他のアライナーの例を示す図である。図示するアライナー30’は、歯列を覆う歯列対向部30’aに加えて、口蓋に対向する口蓋対向部30’bを有する。口蓋対向部30’bを有することにより、アライナー30’は全体としてD字形状を成す。このような形状であれば、患者が装着したときに歯列対向部30’aの奥歯側が前歯側に対して開いたり狭まったりすることがなく、歯科医師の想定に則した歯列矯正を実現しやすい。このような形状のアライナー30’であっても、上述の手法に従って適正に製作されたか否かを評価することができる。
【0051】
また、本実施形態においては、評価装置100としてPCを想定したが、評価装置100のハードウェアとしてはPCに限るものではない。例えば、タブレット端末を評価装置100としてもよい。この場合は、表示モニター130等も評価装置100に一体化された構成となる。また、表示モニター130は、表示器の一例であり、表示器はプロジェクターやヘッドマウントディスプレイなどであっても構わない。
【符号の説明】
【0052】
10…歯型、20…透明樹脂板、30、30’…アライナー、30’a…歯列対向部、30’b…口蓋対向部、100…評価装置、110…演算処理部、111…取得部、112…変換部、113…表示制御部、120…記憶部、130…表示モニター、150…RGBカメラ、160…偏光イメージカメラ、170…撮像台、180…支柱、201…ウィンドウタイトル、202…OKボタン、203…カーソル、204…RGB画像ウィンドウ、205…撮像指示ボタン、206…偏光画像ウィンドウ、210…圧力分布画像、211…輪郭画像、212スケール、215…保存指示ボタン、220…拡大ウィンドウ、222…スケール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8