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特開2023-27530エレベーターの制御装置及びエレベーターの制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023027530
(43)【公開日】2023-03-02
(54)【発明の名称】エレベーターの制御装置及びエレベーターの制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/00 20160101AFI20230222BHJP
   B66B 1/36 20060101ALI20230222BHJP
   B66B 1/30 20060101ALI20230222BHJP
【FI】
H02P29/00
B66B1/36 B
B66B1/30 D
B66B1/30 H
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021132681
(22)【出願日】2021-08-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】弁理士法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】林 裕
(72)【発明者】
【氏名】奥野 康司
(72)【発明者】
【氏名】山岡 俊平
【テーマコード(参考)】
3F502
5H501
【Fターム(参考)】
3F502HB04
3F502JB03
3F502JB14
3F502LA01
3F502LA02
3F502LA20
5H501AA07
5H501BB05
5H501DD06
5H501FF04
5H501FF07
5H501GG03
5H501GG10
5H501GG11
5H501HA10
5H501HB11
5H501HB20
5H501JJ24
5H501JJ25
5H501LL07
(57)【要約】
【課題】本発明は、乗り心地の低下を招くことなく、多段帰還制御によりエレベーターのクリープレス運転を実現する。
【解決手段】かごを昇降させる電動機3の駆動制御を行なうエレベーターの制御装置1に、電動機3の回転速度を指定する速度指令を回転速度の目標値と回転速度の検出値との差に応じて生成する第1ループと、電動機3のトルクを指定するトルク指令を目標値と検出値との差の積分値と検出値との差に応じて生成する第2ループと、第2ループにより生成されるトルク指令を当該トルク指令の積分値と検出値との差に応じて補正する第3ループと、を用いて電動機3の回転速度を制御する第1の制御と、第1ループ及び第3ループを用いて電動機3を制御する第2の制御と、第1ループ及び第2ループを用いて電動機3を制御する第3の制御と、を電動機3の回転速度の検出値に応じて切り換えて実行させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
かごを昇降させる電動機の駆動制御を行なうエレベーターの制御装置であって、
前記電動機の回転速度を指定する速度指令を前記電動機の回転速度の目標値と前記電動機の回転速度の検出値との差に応じて生成する第1ループと、
前記電動機のトルクを指定するトルク指令を前記目標値と前記検出値との差の積分値と前記検出値との差に応じて生成する第2ループと、
前記トルク指令を前記トルク指令の積分値と前記検出値との差に応じて補正する第3ループと、を有し、
前記第1ループ、前記第2ループ及び前記第3ループを用いて前記電動機を制御する第1の制御と、前記第1ループ及び前記第3ループを用いて前記電動機を制御する第2の制御と、前記第1ループ及び前記第2ループを用いて前記電動機を制御する第3の制御と、を前記電動機の回転速度の検出値に応じて切り換える、
エレベーターの制御装置。
【請求項2】
前記第3の制御では、前記第3ループを無効とする、
請求項1に記載のエレベーターの制御装置。
【請求項3】
前記第2の制御では、前記第2ループを無効とし、前記目標値と前記検出値との差に基づいて前記トルク指令を生成する、
請求項1又は請求項2に記載のエレベーターの制御装置。
【請求項4】
前記かごの走行速度が加速する加速区間、前記かごが等速で走行する等速区間、及び、前記かごの走行速度が減速する減速区間のうち前記かごの走行速度が予め定められた第1閾値まで減速する区間では、前記第2の制御を行なう、
請求項1乃至3のうちの何れか1項に記載のエレベーターの制御装置。
【請求項5】
前記かごの走行速度が前記第1閾値を下回ってから前記かごが着床するまで、前記第3の制御を行なう、
請求項4に記載のエレベーターの制御装置。
【請求項6】
前記第2ループに、
前記電動機の回転速度の目標値と前記電動機の回転速度の検出値との差を積分する第1積分器と、
前記第1積分器の出力と前記検出値との差を演算して出力する第1減算器と、
前記第1減算器の出力に第1のゲインを乗算して出力する第1乗算器と、
前記第1ループにより生成された速度指令に前記第1乗算器の出力を加算して出力する第1加算器と、
前記第1加算器の出力に基づいて比例演算を行なうことにより前記トルク指令を生成する第1比例演算器と、を有し、
前記第3ループに、
前記第2ループにより生成される前記トルク指令の積分値と前記検出値との差を演算して出力する第2減算器と、
前記第2減算器の出力に第2のゲインを乗算する第2乗算器と、
前記かごの走行速度が前記第1閾値よりも小さい第2閾値を下回ったことを契機として取り込んだ値をホールドし、前記かごが着床するまで、ホールドした値を出力する第1サンプルホールド回路と、
前記トルク指令に前記第1サンプルホールド回路の出力を加算して出力することにより前記トルク指令を補正する第2加算器と、を有し、
前記第2の制御では、前記第1のゲインをゼロとする、
請求項5に記載のエレベーターの制御装置。
【請求項7】
前記かごの走行速度が前記第1閾値を下回ったことを契機として、前記第1のゲインをゼロから予め定められた値まで徐々に増加させる、請求項6に記載のエレベーターの制御装置。
【請求項8】
かごを昇降させる電動機の駆動制御を行なうエレベーターの制御装置に、
前記電動機の回転速度を指定する速度指令を前記電動機の回転速度の目標値と前記電動機の回転速度の検出値との差に応じて生成する第1ループと、前記電動機のトルクを指定するトルク指令を前記目標値と前記検出値との差の積分値と前記検出値との差に応じて生成する第2ループと、前記トルク指令を前記トルク指令の積分値と前記検出値との差に応じて補正する第3ループと、を用いて前記電動機を制御する第1の制御と、
前記第1ループ及び前記第3ループを用いて前記電動機を制御する第2の制御と、
前記第1ループ及び前記第2ループを用いて前記電動機を制御する第3の制御と、
を前記電動機の回転速度の検出値に応じて切り換えて実行させる、
エレベーターの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターのかごを昇降させる電動機の駆動制御を行なうエレベーターの制御装置及びエレベーターの制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレベーターでは、かごの停止制御において、かごが着床位置に近づくと、目標とする着床位置の位置決め精度を良くするために、かごの昇降速度を微速のクリープ速度まで減速させ、その後、クリープ速度でかごを一定時間移動させるクリープ運転が行なわれる場合がある。クリープ運転を行なうと、かごが停止するまでの時間が長くなり、エレベーターの稼働効率が低下する。このため、クリープ運転を省略したクリープレス運転によるエレベーターの停止制御技術が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。また、位置制御ループと速度制御ループとを含む多段帰還制御によってクリープレス運転を実現することも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-191999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多段帰還制御によるクリープレス運転では、位置制御ループを有さない態様と比較してフィードバックゲインが大きくなり、帰還制御の安定性が低下する。帰還制御の安定性が低下すると、ロープ系共振に代表される各種共振ピークの影響やかごを昇降させる電動機の回転速度を検出する速度検出器の低速域における出力遅延の影響等によって、かご内に持続振動が発生し、エレベーターの乗り心地が低下する。
【0005】
本発明は、乗り心地の低下を招くことなく、多段帰還制御によるクリープレス運転を実現するエレベーターの制御装置及び制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のエレベーターの制御装置は、
かごを昇降させる電動機の駆動制御を行なうエレベーターの制御装置であって、
前記電動機の回転速度を指定する速度指令を前記電動機の回転速度の目標値と前記電動機の回転速度の検出値との差に応じて生成する第1ループと、
前記電動機のトルクを指定するトルク指令を前記目標値と前記検出値との差の積分値と前記検出値との差に応じて生成する第2ループと、
前記トルク指令を前記トルク指令の積分値と前記検出値との差に応じて補正する第3ループと、を有し、
前記第1ループ、前記第2ループ及び前記第3ループを用いて前記電動機を制御する第1の制御と、前記第1ループ及び前記第3ループを用いて前記電動機を制御する第2の制御と、前記第1ループ及び前記第2ループを用いて前記電動機を制御する第3の制御と、を前記電動機の回転速度の検出値に応じて切り換える。
【0007】
前記第3の制御では、前記第3ループは無効とされてもよい。
【0008】
前記第2の制御では、前記第2ループは無効とされ、前記目標値と前記検出値との差に基づいて前記トルク指令が生成されてもよい。
【0009】
前記かごの走行速度が加速する加速区間、前記かごが等速で走行する等速区間、及び、前記かごの走行速度が減速する減速区間のうち前記かごの走行速度が予め定められた第1閾値まで減速する区間では、前記第2の制御が行なわれてもよい。
【0010】
前記かごの走行速度が前記第1閾値を下回ってから前記かごが着床するまで、前記第3の制御が行なわれてもよい。
【0011】
前記第2ループに、
前記電動機の回転速度の目標値と前記電動機の回転速度の検出値との差を積分する第1積分器と、
前記第1積分器の出力と前記検出値との差を演算して出力する第1減算器と、
前記第1減算器の出力に第1のゲインを乗算して出力する第1乗算器と、
前記第1ループにより生成された速度指令に前記第1乗算器の出力を加算して出力する第1加算器と、
前記第1加算器の出力に基づいて比例演算を行なうことにより前記トルク指令を生成する第1比例演算器と、を有し、
前記第3ループに、
前記第2ループにより生成される前記トルク指令の積分値と前記検出値との差を演算して出力する第2減算器と、
前記第2減算器の出力に第2のゲインを乗算する第2乗算器と、
前記かごの走行速度が前記第1閾値よりも小さい第2閾値を下回ったことを契機として取り込んだ値をホールドし、前記かごが着床するまで、ホールドした値を出力する第1サンプルホールド回路と、
前記トルク指令に前記第1サンプルホールド回路の出力を加算して出力することにより前記トルク指令を補正する第2加算器と、を有し、
前記第2の制御では、前記第1のゲインはゼロとされてもよい。
【0012】
前記かごの走行速度が前記第1閾値を下回ったことを契機として、前記第1のゲインをゼロから予め定められた値まで徐々に増加させる制御が為されてもよい。
【0013】
本発明のエレベーターの制御方法は、
かごを昇降させる電動機の駆動制御を行なうエレベーターの制御装置に、
前記電動機の回転速度を指定する速度指令を前記電動機の回転速度の目標値と前記電動機の回転速度の検出値との差に応じて生成する第1ループと、前記電動機のトルクを指定するトルク指令を前記目標値と前記検出値との差の積分値と前記検出値との差に応じて生成する第2ループと、前記トルク指令を前記トルク指令の積分値と前記検出値との差に応じて補正する第3ループと、を用いて前記電動機を制御する第1の制御と、
前記第1ループ及び前記第3ループを用いて前記電動機を制御する第2の制御と、
前記第1ループ及び前記第2ループを用いて前記電動機を制御する第3の制御と、
を前記電動機の回転速度の検出値に応じて切り換えて実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る制御装置を含むエレベーターの制御システムの構成例を示す図である。
図2図2は、従来の多段帰還方式の制御装置を含むエレベーターの制御システムの構成例を示す図である。
図3図3は、本発明の制御装置による動作例を示す図である。
図4図4は、本発明の制御装置におけるゲインK1の時間変化の一例を示す図である。
図5図5は、本発明の制御装置によるエレベーターの昇降速度のグラフ曲線である。
図6図6は、従来の制御装置によるエレベーターの昇降速度のグラフ曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明のエレベーターの制御装置1及びその制御方法について説明を行なう。なお、実施形態中の数値等は例示であり、これらに限定するものではない。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係るエレベーターの制御装置1の構成例を示す図である。図1には、ハイライズエレベーターのかごを昇降させる電動機3、及び、制御装置1による制御の下で電動機3の駆動制御を行なう駆動装置2、及び、電動機3の回転速度を検出する速度検出器4が示されている。ハイライズエレベーターとは、昇降距離がたとえば300m以上の高層階用のエレベーターのことをいう。速度検出器は、パルスジェネレータ(Pulse Generator)であり、図1では、PGと表記されている。図1では、電動機3が昇降させるエレベーターのかご、かごに取り付けられたロープ、及び、ロープに取り付けられた錘の図示は省略されている。つまり、図1は、エレベーターのかごを昇降させる電動機3の駆動制御を行なう制御装置1を含む制御システムの全体の電気的な構成を図示するものである。
【0017】
電動機3は、駆動装置2から電力の供給を受け、当該電力に応じた回転速度で回転子を回転させる。本実施形態における電動機3は直流電動機であるが、電動機3は交流電動機であってもよい。駆動装置2は、図示省略する電源から供給される電力を制御装置1から与えられるトルク指令τ*に応じた電力に変換して電動機3に供給する。本実施形態における駆動装置2はサイリスタレオナード方式の電流変換器であるが、電動機3が交流電動機である場合、駆動装置2としてインバーターが用いられればよい。
【0018】
図1に示すように、制御装置1は、減算器10、70及び100と、加算器30及び50と、比例演算器20及び40と、積分器60及び90と、乗算器80及び110と、サンプルホールド回路120と、フィルター150とを有する。なお、図1では比例演算器はPと表記しており、積分器はIと表記している。比例演算器20及び積分器60は第1のPIコントローラを形成し、比例演算器40及び積分器90は第2のPIコントローラを形成する。フィルター150は、たとえばローパスフィルターであり、速度検出器4の出力信号から高周波ノイズを除去して出力する。
【0019】
減算器10、比例演算器20及びフィルター150は、第1ループを形成する。第1ループは、回転速度の目標値U*と回転速度の検出値Uとの差に応じて、電動機3の回転速度を指定する速度指令を生成する。減算器10は、目標値U*からフィルター150により高周波ノイズを除去済の検出値Uを減算し、減算結果を比例演算器20に出力する。比例演算器20は入力値に応じた比例演算を行ない、演算結果を速度指令として出力する。
【0020】
加算器30、比例演算器40、積分器60、減算器70、乗算器80及びフィルター150は、第2ループを形成する。第2ループは、減算器10の出力の積分値と検出値Uとの差及び比例演算器20の出力に応じて、かごの位置を制御するための電動機3のトルクを指定するトルク指令を生成する。積分器60は、減算器10の出力(すなわち、目標値U*とフィルター150により高周波ノイズを除去済の検出値Uとの差)を積分し、積分結果を減算器70に出力する。減算器70は、積分器60の出力からフィルター150により高周波ノイズを除去済の検出値Uを減算し、減算結果を乗算器80に出力する。乗算器80は、減算器70の出力にゲインK1を乗算し、乗算結果を加算器30に出力する。加算器30は、比例演算器20の出力に乗算器80の出力を加算し、加算結果を出力する。比例演算器40は、加算器30の出力に応じた比例演算を行ない、その演算結果をトルク指令として出力する。詳細については後述するが、本発明の制御装置1では、乗算器80のゲインをゼロにすることによって、位置制御系である第2ループを無効化することができる。積分器60は本発明における第1積分器の一例である。減算器70は本発明における第1減算器の一例である。乗算器80は、本発明における第1乗算器の一例である。乗算器80におけるゲインK1は本発明における第1のゲインの一例である。加算器30は本発明における第1加算器の一例である。比例演算器40は、本発明における第1比例演算器の一例である。
【0021】
加算器50、積分器90、減算器100、乗算器110、サンプルホールド回路120及びフィルター150は、第3ループを形成する。第3ループは、第2ループにより生成されるトルク指令の積分値と検出値Uとの差及び当該トルク指令に応じて、かごの位置を制御するための第2ループにより生成されるトルク指令を補正する。積分器90は、加算器30の出力(すなわち、第2ループにより生成されるトルク指令)を積分し、積分結果を減算器100に出力する。減算器100は、積分器90の出力からフィルター150により高周波ノイズを除去済の検出値Uを減算し、減算結果を乗算器110へ出力する。乗算器110は、減算器100の出力(すなわち、第2ループにより生成されるトルク指令の積分値とフィルター150により高周波ノイズを除去済の検出値Uとの差)に、ゲインK2を乗算し、乗算結果をサンプルホールド回路120に出力する。
【0022】
サンプルホールド回路120は、乗算器110の出力を取り込んで加算器50に出力する。サンプルホールド回路120は、制御装置1からの指示に応じて、取り込んだ値をホールドし、以降、ホールドした値を出力する。図2は、従来の多段帰還方式の制御装置1Aを含む制御システムの構成例を示す図である。図2では、図1におけるものと同じ構成要素には同じ符号が付されている。図2図1とを比較すれば明らかなように、本発明の制御装置1は、第3ループにサンプルホールド回路120を有する点が従来の制御装置1Aとは異なる。詳細については後述するが、サンプルホールド回路120を設けることによって、トルク指令τ*が突変することを回避しつつ、第3ループを無効化することができる。
【0023】
加算器50は、比例演算器40の出力にサンプルホールド回路120の出力を加算し、加算結果を補正済みのトルク指令τ*として駆動装置2へ出力する。減算器100は本発明における第2減算器の一例である。乗算器110は、本発明における第2乗算器の一例である。乗算器110におけるゲインK2は本発明における第2のゲインの一例である。サンプルホールド回路120は本発明における第1サンプルホールド回路の一例である。加算器50は、本発明における第2加算器の一例である。
【0024】
以上が本実施形態のエレベーターの制御装置1の構成である。
【0025】
本実施形態の制御装置1は、第1ループ、第2ループ及び第3ループを用いた第1の制御と、第1ループ及び第3ループを用いた第2の制御と、第1ループ及び第2ループを用いた第3の制御と、をエレベーターのかごの走行速度、換言すれば電動機3の回転速度に応じて切り換えて実行することができ、この点が従来の多段帰還方式の制御装置1Aと異なる。
【0026】
図3は、制御装置1の動作例を示す図である。制御装置1は、駆動装置2を制御することによって、図3の速度曲線VCに示すように、エレベーターのかごの加速運転、等速運転及び着床階において停止するように減速運転を行なう。なお、図3における等速区間におけるエレベーターの走行速度は300m/分である。以下では、加速運転が行なわれる時間区間は加速区間と称される。同様に、等速運転が行なわれる時間区間は等速区間と称され、減速運転が行なわれる時間区間は減速区間と称される。加速区間から等速区間を経てかごの走行速度が第1閾値V1(具体的には、60m/分)まで減速する区間は、第1制御区間T1と称される。また、かごの走行速度が第1閾値V1から第2閾値V2(具体的には、0.05m/分)まで減速する区間は第2制御区間T2と称される。そして、かごの走行速度が第2閾値V2からさらに減速してかごが停止するまでの区間は第3制御区間T3と称される。図3に示されるように、かごが走行を開始してから停止するまでの時間区間(すなわち、第1制御区間T1の始点から第3制御区間T3の終点までの時間区間)では第1制御区間T1が大半を占める。
【0027】
第1制御区間T1では、制御装置1は、ゲインK1をゼロとし、ゲインK2を必要最小値(たとえば0.5)に設定する。第1制御区間T1では、ゲインK1がゼロであるため、第2ループが無効となり、前述の第2の制御が実行される。この第2の制御では、回転速度の目標値U*と回転速度の検出値Uとの差に比例演算器20による比例演算を施して得られる値に基づいてトルク指令が生成される。第1制御区間T1では、ゲインK2が必要最小値に設定されているため、安定度の高い速度制御を行なうことができる。
【0028】
エレベーターのかごの減速開始後、かごの速度が第1閾値V1以下になると、制御装置1は、ゲインK1に正の値を設定することにより、第1制御区間T1から第2制御区間T2へ制御を移行させる。第2制御区間T2では、ゲインK1に正の値が設定されるため、第2ループが有効となる。つまり、第2制御区間T2では、第1ループ、第2ループ及び第3ループが有効となって、前述の第1の制御が実行される。ただし、第1制御区間T1から第2制御区間T2への移行の際に、積分器60に蓄積される情報が一度に印加されると乗り心地が悪化するおそれがある。このため、制御装置1は、図4に示されるように、時間の経過とともにゲインK1をゼロから最終設定値k1(たとえば0.75)まで徐々に増加させる。なお、ゲインK2と同様に、ゲインK1の最終設定値k1も外乱抑制性能から必要となる最小値に設定される。ゲインK1を図4に示すように徐々に増加させることで安定度向上を図ることができる。また、第1ループの他に第2ループ及び第3ループの双方を有効にする期間を減速途中から着床までのごく短い期間に限定する事で、持続振動の抑制を図ることができる。
【0029】
制御装置1は、エレベーターのかごの走行速度が第2閾値V2以下となったこと、即ちエレベーターのかごがほぼ停止状態となったことの検知を契機として、第2制御区間T2における制御から第3制御区間T3における制御へ制御を切り替える。第2制御区間T2における制御により、エレベーターのかごの走行距離は走行距離指令値とほぼ一致しており、エレベーターのかごは着床階の乗場位置でほぼ停止状態となっている。第3制御区間T3では、制御装置1は、第3制御区間T3の開始時点における乗算器110の出力をサンプルホールド回路120にホールドさせる制御を実行する。以降、サンプルホールド回路120は、乗算器110から出力される値とは無関係に、第3制御区間T3の開始時点においてホールドした値を加算器50へ出力する。これにより、第3ループが無効化される。つまり、第3制御区間T3では、前述の第3の制御が実行される。第3制御区間T3では、第3制御区間T3の開始時点において乗算器110から出力される値をサンプルホールド回路120にホールドさせ、以降、サンプルホールド回路120には当該値を出力させることにより、第2の制御から第3の制御への切り替え前後でトルク指令τ*に突変が発生することが回避され、乗り心地の悪化が防止される。
【0030】
図5は制御装置1により制御されるエレベーターの昇降速度のグラフ曲線であり、図6は制御装置1Aにより制御されるエレベーターの昇降速度のグラフ曲線である。図5及び図6において丸印で囲った部分は、速度検出器4の出力遅延に起因するかごの持続振動の振幅を表わしている。図5図6とを比較すれば明らかなように、本実施形態によれば、従来の多段帰還制御に比較して速度検出器4の出力遅延に起因するかごの持続振動の振幅を小さくすることができ、エレベーターの乗り心地を向上できていることがわかる。以上説明したように、減速区間の一部に限定して第1の制御を行なうのは、帰還制御の安定性の低下に起因する不具合の発生を回避するためである。
【0031】
上記のように、本実施形態によれば、エレベーターの乗り心地の低下を招くことなく、多段帰還制御によるクリープレス運転を実現することができる。特に、ハイライズエレベーターでは、低層階向けのローライズエレベーターに比較してロープ共振の影響が大きくなるため、本実施形態によればハイライズエレベーターの高速化及び乗り心地の改善を実現できる。また、本実施形態によれば、従来の制御装置1Aにサンプルホールド回路120を追加するといった簡素な構成で、エレベーターの乗り心地の低下を招くことなく、多段帰還制御によるクリープレス運転を実現することが可能になる。
【0032】
上記実施形態の説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮する様に解すべきではない。また、本発明の各部構成は上記実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【0033】
たとえば、上記実施形態では、ハイライズエレベーターのかごの昇降を行なう電動機の駆動制御への適用例を説明したが、低層階向けのローライズエレベーターのかごの昇降を行なう電動機の駆動制御にも本発明は適用可能である。ローライズエレベーターに本発明のエレベーターの制御装置及び制御方法を提供することで、高速化及び乗り心地の改善を期待できる。
【0034】
上記実施形態では、減速且つ60m/分~0.05m/分の速度区間において第1の制御が実行される。しかし、第2の制御から第1の制御へ切り変える第2制御区間T2の始点は60m/分に限定されるものではなく、たとえば減速の開始時点(エレベーターのかごの昇降加速度のピーク)から第1の制御を実行することもできる。また、同第2制御区間T2の終点も0.05m/分には限定されず、エレベーターの昇降速度が1m/分に達した時点で第3ループが無効化されてもよい。
【0035】
本発明は、エレベーターのかごを昇降させる電動機の駆動制御を行なう制御装置に、以下の第1の制御、第2の制御及び第3の制御を電動機の回転速度に応じて切り替えさせる制御方法として観念することもできる。第1の制御では、前記電動機の回転速度を指定する速度指令を前記電動機の回転速度の目標値と前記電動機の回転速度の検出値との差に応じて生成する第1ループと、前記電動機のトルクを指定するトルク指令を前記目標値と前記検出値との差の積分値と前記検出値との差に応じて生成する第2ループと、前記第2ループにより生成されるトルク指令を、前記トルク指令の積分値と前記検出値との差に応じて補正する第3ループと、を用いて前記電動機が制御される。第2の制御では、前記第1ループ及び前記第3ループを用いて前記電動機が制御される。第2の制御では、前記第1ループ及び前記第2ループを用いて前記電動機が制御される。
【0036】
なお、本発明は、CPU(Central Processing Unit)等の一般的なコンピューターに上記制御方法を実行させるプログラムとして規定することもできる。当該プログラムの具体的な提供態様としては、SDメモリーカード等のコンピューターで読み取り可能な記録媒体に書き込んで配布する態様、又はインターネット等の電気通信回線経由のダウンロードにより配布する態様を挙げることができる。
【符号の説明】
【0037】
1 制御装置
2 駆動装置
3 電動機
4 速度検出器
10,70,100 減算器
30,50 加算器
20,40 比例演算器
60,90 積分器
80,110 乗算器
120 サンプルホールド回路
150 フィルター
図1
図2
図3
図4
図5
図6