(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023028599
(43)【公開日】2023-03-03
(54)【発明の名称】眼科装置及びシート部材
(51)【国際特許分類】
A61B 3/00 20060101AFI20230224BHJP
【FI】
A61B3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021134405
(22)【出願日】2021-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敏直
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 将大
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316FC01
(57)【要約】
【課題】眼科装置の筐体内部にゴミ等が侵入するのを適切に防止することを可能とする。
【解決手段】眼科装置は、被検眼の眼特性を取得するための光学部材を有する光学系と、光学系を収容する筐体26と、を備える。筐体26は、ビス穴26aと、このビス穴26aを被覆するように筐体26の内部側の一面(内側面26c)に配置されたシート部材28と、を有する。シート部材28は、平面視が円形であり、ビス穴26aに、ビス27を挿通したときの伸び率が、当該シート部材28の限界伸び率未満である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼の眼特性を取得するための光学部材を有する光学系と、
前記光学系を収容する筐体と、を備え、
前記筐体は、ビス穴と、前記ビス穴を被覆するように前記筐体の内部側の一面に配置されたシート部材と、を有する
ことを特徴とする眼科装置。
【請求項2】
前記シート部材は、前記ビス穴に、ビスを挿通したときの伸び率が、当該シート部材の限界伸び率未満である
請求項1に記載の眼科装置。
【請求項3】
前記シート部材は、平面視が円形又は楕円形である
請求項1又は2に記載の眼科装置。
【請求項4】
被検眼の眼特性を取得するための光学部材を有する光学系と、前記光学系を収容する筐体と、を備えた眼科装置に用いられるシート部材であって、
前記シート部材は、シート本体と、前記シート部材の一面に設けられた接着部と、を有し、
前記眼科装置の前記筐体に設けられたビス穴を被覆するように、前記筐体の内部側の一面に配置され、
前記ビス穴に、ビスを挿通したときの前記シート部材の伸び率が、当該シート部材の限界伸び率以下である
ことを特徴とするシート部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼科装置、及び眼科装置に用いるシート部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
筐体内部の光学部材がゴミ等で汚れて光学性能が低下するのを防止するため、筐体に扉付きの掃除窓を設け、この掃除窓を介して筐体内部を掃除可能な眼科装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この特許文献1の眼科装置では、扉の開閉によって、却って掃除窓から埃等が筐体内部に侵入するおそれがある。
【0003】
ところで、眼科装置はクリーンルームで組み立てられることで、製造時に筐体内部にゴミ等の侵入を防ぐことができるが、ビス穴にビスを螺着することで、金属どうしが擦れあって金属屑(切子)が発生し、筐体内部に落下してしまうことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、上記問題に着目してなされたもので、眼科装置の筐体内部にゴミ等が侵入するのを適切に防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示の眼科装置は、被検眼の眼特性を取得するための光学部材を有する光学系と、前記光学系を収容する筐体と、を備え、前記筐体は、ビス穴と、前記ビス穴を被覆するように前記筐体の内部側の一面に配置されたシート部材と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
このように構成されることで、眼科装置の筐体内部にゴミ等が侵入するのを適切に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係る眼科装置の全体構成を示す斜視図である。
【
図2】筐体のビス穴と、ビス穴に螺着されるビスと、ビス穴に配置される第1実施形態のシート部材との位置関係を示す斜視図である。
【
図3】(a)は筐体の内側面にシート部材を張り付けて、ビス穴を被覆した状態を示す断面図であり、(b)はビス穴にビスを螺着してシート部材が伸びた状態を示す断面図である。
【
図4】(a)は第1実施形態のシート部材の断面図であり、(b)は変形例のシート部材の断面図である。
【
図5】(a)は第2実施形態の眼科装置の筐体のビス穴と、ビス穴に螺着されるビスと、ビス穴に配置される第2実施形態のシート部材との位置関係を示す斜視図であり、(b)は第2実施形態のシート部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の眼科装置及びシート部材を実施するための形態を、図面に基づいて説明する。
【0010】
(第1実施形態)
以下、本開示の第1実施形態に係る眼科装置1及びこの眼科装置1に用いられるシート部材28の構成を、
図1~
図4に基づいて説明する。
【0011】
第1実施形態の眼科装置1は、被検者が左右の両眼を開放した状態で、両眼同時に眼特性を測定可能な両眼開放タイプの眼科装置である。なお、実施例1の眼科装置1では、片眼を遮蔽したり、固視標を消灯したりすることで、片眼ずつ眼特性を測定することも可能となっている。すなわち、本開示の眼科装置は、両眼開放タイプに限定されるものではなく、眼特性を片眼ずつ測定する眼科装置にも適用することができる。
【0012】
第1実施形態の眼科装置1は、
図1に示すように、支持基台10と、測定ユニット20と、操作コントローラ30(操作部)と、を備えている。なお、本明細書を通じて
図1に記すようにX軸、Y軸及びZ軸を取り、検眼中の被検者から見て、左右方向をX方向とし、上下方向(鉛直方向)をY方向とし、X方向及びY方向と直交する方向(測定ユニット20の奥行き方向)をZ方向とする。
【0013】
支持基台10は、床面から起立した支柱11と、支柱11によって支持された検眼用テーブル12と、を有している。検眼用テーブル12は、操作コントローラ30等の検眼に用いる装置や用具を置いたり、被検者の姿勢を支えたりするための台である。検眼用テーブル12は、Y方向の位置(高さ位置)を調節可能に支柱11に支持されていてもよい。
【0014】
測定ユニット20は、アーム21と、測定ヘッド22と、額当部23と、測定側制御部24と、を有している。アーム21は、一端が支柱11の先端部に支持され、他端がZ方向に沿って支柱11から手前側(被検者側)へと延び、先端部に測定ヘッド22が取り付けられている。これにより、測定ヘッド22は、検眼用テーブル12の上方でアーム21を介して支柱11に吊下げられる。また、アーム21は、支柱11に対してY方向に移動可能である。なお、アーム21は、支柱11に対してX方向やZ方向にも移動可能にされていてもよい。
【0015】
測定ヘッド22は、駆動部22aと、駆動部22aの下側に設けられた左右一対の右測定部22R及び左測定部22Lと、を有し、被検眼の眼特性を測定する。右測定部22R及び左測定部22Lは、被検者の左右の被検眼に個別に対応すべく対を為している。ここで、右測定部22Rには、被検者の右側の被検眼の眼特性を測定する右測定光学系(光学系)25Rが内蔵されている。左測定部22Lは、被検者の左側の被検眼の眼特性を測定する左測定光学系(光学系)25Lが内蔵されている。測定ヘッド22による測定結果は、測定側制御部24に入力される。
【0016】
駆動部22aは、右測定部22R及び左測定部22Lを、それぞれ個別に水平(X方向)移動駆動、鉛直(Y方向)移動駆動、X方向回旋駆動、Y方向回旋駆動する機構である。
【0017】
右測定光学系25R及び左測定光学系25Lは、レンズ、ミラー、視標等の複数の光学部材を有して構成される。右測定光学系25R及び左測定光学系25Lは、被検眼の前眼部を観察する観察系や、被検眼に固視標を提示する固視標投影系、被検眼の眼底に測定光を照射し且つ被検眼の眼底によって反射された測定光の反射光を受光する他覚式測定系、被検眼に自覚式の視標を提示する自覚式測定系等を有している。
【0018】
ここで、他覚式測定系では、反射光の受光結果に基づいて被検眼の眼特性を他覚的に測定することに加え、被検眼の画像を取得するための撮影を行う。つまり、他覚式測定系は、他覚屈折測定(レフ測定)、角膜形状測定(ケラト測定)、眼圧測定、眼底撮影、光コヒーレンストモグラフィ(Optical Coherence Tomography、以下「OCT」という。)を用いた断層像撮影(OCT撮影)、OCTを用いた計測等を行う。なお、他覚測定は、他覚測定時だけでなく、自覚測定中も実行される。
【0019】
また、自覚式測定系では、提示した視標に対する被検者の応答に基づいて、被検眼の眼特性を自覚的に測定する。つまり、自覚式測定系は、遠用検査、近用検査、コントラスト検査、グレア検査等の自覚屈折測定や、視野検査等を行う。
【0020】
額当部23は、右測定部22R及び左測定部22Lの間に配置され、測定ユニット20に設けられている。額当部23は、眼特性の測定中に被検者の顔の一部(額)を接触させることで被検者の顔を支持する。すなわち、検眼用テーブル12に正対する被検者は、額当部23に自身の額を押し当て、顔の向きや位置が動かないように安定させる。
【0021】
測定側制御部24は、検眼用テーブル12の下方に設けられた情報処理装置であり、操作コントローラ30から送信された制御信号に基づいて、測定ユニット20の各部を統括的に制御する。また、この測定側制御部24は、測定ヘッド22で測定した被検眼の眼特性の測定結果を操作コントローラ30に送信する。測定側制御部24は、測定ヘッド22による測定結果等を、記憶部24aに記憶する。ここで、「測定結果」には、他覚測定又は自覚測定の測定種類と、他覚測定値(球面度数、円柱度数、円柱軸)と、自覚測定時の提示視標の種類と、自覚測定時の測定条件(球面度数、円柱度数、円柱軸)とを含んでいる。測定側制御部24は、操作コントローラ30からの制御信号に基づいて、記憶部24aに記憶された測定結果を読み出し、操作コントローラ30に送信する。
【0022】
操作コントローラ30は、検者による操作を受け付け、測定ユニット20の測定側制御部24に対して制御信号を出力する情報処理装置である。この操作コントローラ30は、例えばタブレット端末やスマートフォン等であり、測定ユニット20から分離し、検者によって携帯可能になっている。なお、操作コントローラ30は、ノート型パーソナルコンピュータやデスクトップ型パーソナルコンピュータ等であってもよいし、眼科装置1専用のコントローラであってもよい。操作コントローラ30は、無線通信やネットワーク通信を介して測定側制御部24と情報をやりとりする。すなわち、操作コントローラ30は、測定側制御部24を介して測定ユニット20と通信可能である。
【0023】
操作コントローラ30は、表示部31と、操作側制御部32と、を備えている。表示部31は、操作コントローラ30の表面に設けられたタッチパネルディスプレイからなる。表示部31は、画像等が表示される表示面31aと、この表示面31a上に重畳して配置されたタッチパネル式の複数の入力ボタン(操作部)31bと、を備えている。操作側制御部32は、操作コントローラ30に内蔵されたマイクロコンピュータからなる。操作側制御部32は、測定側制御部24から送信された測定結果や検知結果に基づいて表示面31aに画像を表示し、入力ボタン31bに対する操作に応じた制御信号を測定側制御部24に出力する。
【0024】
操作コントローラ30において、検者が所定の入力ボタン31bをタップすると、操作側制御部32から所定の制御信号が測定側制御部24に送信される。測定側制御部24は、受信した制御信号に基づいて測定ユニット20を制御することで、任意の他覚測定や自覚測定等のよる眼特性の測定や、アライメント、被検者の支持状態の検知等が実行される。また、測定ヘッド22によって眼特性の測定が実行されたら、測定側制御部24は、測定結果を操作コントローラ30の操作側制御部32に送信する。操作側制御部32は、受信した測定結果に基づいて、所定の画面を表示面31aに表示させる。
【0025】
駆動部22a、右測定部22R及び左測定部22L等を含む測定ユニット20は、樹脂製のカバー部材22bで被覆されている。右測定部22R及び左測定部22Lは、右測定光学系25R及び左測定光学系25Lを各々内蔵している。右測定光学系25R及び左測定光学系25Lは、各々金属製等の左右の筐体26R,26L(以下、左右の区別を付けずに、単に「筐体26」という。)によって被覆されている。
図2に示すように、筐体26には複数のビス穴(メネジ)26aが設けられ、このビス穴26aに、筐体26の外側の一面(外側面26b)から、金属製のビス(オネジ)27を螺着することで筐体26の各パーツを連結し、駆動部22a、右測定光学系25R、左測定光学系25L等を収容した測定ヘッド22を組み立てる。この測定ヘッド22を、支柱11に取り付けて、眼科装置1を作製する。
【0026】
ところで、眼科装置1は、クリーンルーム等で組み立てられることで、カバー部材22b内部や筐体26内部への埃やゴミ等の侵入を防いでいる。これにより、眼科装置1内部へのゴミ等の侵入を抑制し、特に筐体26(筐体26R,26L)内部の右測定光学系25R、左測定光学系25Lの光学部材にゴミ等が付着して、眼特性の測定精度に影響するのを抑制している。
【0027】
しかしながら、筐体26のビス穴26aにビス27を螺着する際に、金属どうしが擦れて金属屑(切子)が発生し、この金属屑が筐体26内部に落下してしまうことがある。この金属屑が、右測定光学系25R、左測定光学系25Lの光学部材に付着すると、眼特性の測定精度に影響することがある。
【0028】
このような不具合を解消するため、第1実施形態の眼科装置1は、
図3(a)に示すように、筐体26の内部側の一面(内側面26c)に、シート部材28を貼り付けて、ビス穴26aを被覆している。なお、第1実施形態では、バーリング加工により筐体26にビス穴26aを開口することで、内側に突出するバーリング部26dを設けている。このバーリグ部26d内部がビス穴26aとなっている。シート部材28は、バーリング部26dごとビス穴26aを被覆している。
【0029】
このようにシート部材28を配置することで、ビス穴26aに螺着されたビス27の先端が筐体26内部に飛び出て、シート部材28を押圧しても、
図3(b)に示すように、シート部材28が内部方向へ伸びることで、破断や穿孔が生じることがない。この結果、ビス27を螺着した場合でも、シート部材28がビス穴26aを適切にシールして、ビス穴26aからの金属屑の筐体26内部への侵入を防ぐことができる。
【0030】
第1実施形態のシート部材28は、平面視が円形であるが、これに限定されず、平面視が楕円形であってもよいし、平面視が三角形、四角形、その他の多角形(より好ましくは正多角形)等の任意の形状であってもよい。なお、シート部材28は、平面視が円形とすることで、ビス27からの押圧力を均一に分散して、破断や剥離を適切に防止することができる。
【0031】
また、シート部材28を配置するビス穴26aが、右測定光学系25R及び左測定部22Lを被覆する筐体26のビス穴26aに限定されず、駆動部22aや測定側制御部24を被覆する筐体等のビス穴にもシート部材28を配置することで、眼科装置1の内部へのゴミや金属屑等の侵入を適切に防止することができる。
【0032】
このシート部材28は、
図4(a)に示すように、シート本体28aと、このシート本体28aの一面に設けられた接着部28bと、を有している。シート部材28は、所定の伸び率を有している。この伸び率は、実質的には、シート本体28aの伸び率を示す。即ち、ここでは接着部28bがシート部材28の伸び率に影響しないものとしている。「伸び率を有する」とは、物体を引張ったときに、物体が伸びる性質を有することをいう。
【0033】
シート本体28aは、PET(ポリエチレンテレフタレート)やポリウレタン等の伸縮性のある樹脂フィルムが単独で用いられるか、又は複数種の樹脂フィルムが積層されて形成されている。このシート本体28aは、例えば、JIS K7311に準拠する方法で測定される限界伸び率が、370%以上のものが好ましく、400%以上のものがより好ましいが、これらの数値に限定されない。「限界伸び率」は、物体を引張ったときに、物体が破断せずに耐えられる最大の伸び率(%)をいう。
【0034】
しかしながら、シート本体28aの限界伸び率は、上記値に限定されない。後述するように、筐体26の内側面26cから飛び出したビス27の先端で、シート本体28aが押圧されて伸びたときの当該シート本体28aの伸び率よりも、シート本体28a自体の限界伸び率が大きければよい。言い換えれば、筐体26の内側面26cからのビス27の飛び出し量に対して、シート本体28aが破断等することなく適切に伸びるように、シート本体28aの大きさや伸び率を決定し、この伸び率よりも限界伸び率が大きい材料をシート本体28aとして用いて、シート本体28aを作製することが望ましい。
【0035】
なお、シート部材28をビス穴26aに貼り付けたときに、貼り付け位置がずれて、ビス穴26aの中心とシート部材28の中心とに誤差を生じることがある。この誤差を考慮して、ビス穴26aの中心とシート部材28の中心とが、多少(例えば、1.5mm)ずれた場合でも、ビス27の飛び出しにより想定されるシート部材28の伸び率と、限界伸び率の関係が、安全率3以上となるように、伸び率とシート部材28(シート本体28a)の大きさ(円形の場合は、直径)を決定する。以上のようなシート部材28では、ビス27の飛び出しによる破断が適切に抑制され、ビス穴26aのシール性に優れ、優れた防塵効果を持続できる。
【0036】
接着部28bは、シート本体28aを、筐体26の内側面26cに接着固定するためのものである。第1実施形態では、接着部28bは、両面テープで形成している。即ち、接着部28bは、
図4(a)に示すように、シート本体28a側から順に、第1接着層28b1、基材28b2、第2接着層28b3、剥離紙28b4から構成される。第1接着層28b1は、シート本体28aに接着される。基材28b2は、第1接着層28b1及び第2接着層28b3を保持するための部材である。第2接着層28b3は、筐体26に接着される。剥離紙28b4は、第2接着層28b3を保護するための部材である。この剥離紙28b4を剥離して、第2接着層28b3を、ビス穴26aを被覆するように筐体26に貼り付けることで、シート部材28を筐体26に配置できる。
【0037】
なお、接着部28bが両面テープで形成されるものに限定されない。変形例として、シート本体28aの一面に、接着剤やホットメルトを塗布して接着部28bを形成してもよい。即ち、
図4(b)に示すように、変形例のシート部材28Aは、シート本体28aと、シート本体28a側から順に、第1接着層28b1と、剥離紙28b4からなる接着部28bから構成される。
【0038】
また、接着部28bは、ビス27の飛び出しによってシート部材28が伸びたときに、シート部材28が筐体26の内側面26cから剥がれないような剥離強度(剥離接着強さ)を有する。より詳細には、接着部28bは、シート部材28(シート本体28a)がビス27によって伸ばされているときのモジュラスに対して、安全率が3以上となる剥離強度を有する両面テープ、接着剤等を選んで形成することが望ましい。ここで、「剥離強度」とは、両面テープ等の接着材料が有するスペックであり、例えば、JIS Z0237に準拠して測定される値である。「モジュラス」は、引張られたときにもとの形に戻ろうとする力(シート本体28aのスペック)である。
【0039】
以下、第1実施形態のシート部材28の伸び率(ビス穴26aに螺着されたビス27の飛び出しにより、シート部材28が伸びたときの伸び率)の算出手順、及び算出された伸び率と限界伸び率との関係を、シート部材28の作用効果とともに説明する。
【0040】
まず、シート部材28を筐体26の内側面26cに貼り付けると、内側に高さhで突出するバーリング部26dによって、シート部材28の一部は内側面26cに接着されず、シート部材28の外周縁近傍の領域(以下、「接着領域A」という。)が環状に内側面26cに接着され、シート部材28の中心近傍の領域(以下、「接着領域B」という。)がバーリング部26dの天面に接着される。これにより、ビス穴26aがシート部材28によって内側からシールされる。
【0041】
そして、眼科装置1の組み立ての際に、ビス穴26aにビス27を螺着すると、このビス27の飛び出しによって
図3(b)に示すように、シート部材28が内側へ伸びる。このとき、接着領域Aは、内側面26cに固定されて殆ど伸びることがない。一方、接着領域Bは、ビス27の先端に接触した部分(ビス穴26aに対向する領域)がビス27に固定されて殆ど伸びない。このため、接着領域Aと接着領域Bのビス27の先端に接触する部分との間の領域(以下、「伸長領域C」という。)が主に伸びる。
【0042】
ここで、
図3(b)に示すように、シート部材28の伸長領域Cが伸びる前の当該伸長領域Cの径方向の基準長さL
0は、下記式(1)で算出される。下記式(1)中、D
0はシート部材28の直径(外径)であり、aは筐体26の内側面26cへ貼り付けられた外周縁近傍の接着領域Aの径方向の貼り付け幅であり、d
0はビス27の呼び径(外径)である。
【0043】
【0044】
また、
図3(b)に示すように、シート部材28の伸長領域Cが伸びたときの当該伸長領域Cの径方向の長さL
1は、下記式(2)により算出できる。この式(2)中、L
0は式(1)で算出された伸びる前の伸長領域Cの径方向の基準長さであり、Hはシート部材28の貼り付け面(
図3(b)の例では、筐体26の内側面26c)からのビス27の飛び出し量(高さ)である。
【0045】
【0046】
したがって、伸長領域Cの伸び率、すなわち、シート部材28の伸び率T(%)は、下記式(3)により算出される。下記式(3)中、L0は伸びる前の伸長領域Cの径方向の基準長さであり、L1は伸びたときの伸長領域Cの径方向の長さである。
【0047】
【0048】
以上より、この伸び率Tが、シート部材28(シート本体28a)の限界伸び率未満であれば(伸び率T<限界伸び率)、ビス27の飛び出しによって、破断や穿孔を生じることがなく、シート部材28が円滑に伸びてビス穴26aのシール状態を維持する。したがって、ビス穴26aからの金属屑の侵入を適切に防ぐことができる。
【0049】
以上説明したように、第1実施形態によれば、筐体26内部にゴミや金属屑等が侵入するのを適切に防止することができ、防塵効果に優れるシート部材28及びシート部材28を配置した眼科装置1を提供することができる。
【0050】
また、本実施形態の眼科装置1は、組み立てのときに、シート部材28によってゴミや埃は勿論、ビス27の螺着による金属屑の筐体26内部への侵入を適切に防げることから、従来のように、筐体に掃除のための掃除窓を設ける必要がない。また、掃除の手間も省くことができる。さらに、例えば、ビス27が外れたとしても、シート部材28のシール作用により、ビス穴26aからの筐体26内部へのゴミ等の侵入を防ぐことができる。さらに、ビス27を締め直した場合でも、シート部材28が、金属屑の筐体26内部への侵入を適切に防ぐものとなる。
【0051】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態に係る眼科装置1及びシート部材28Bについて、
図5を参照して説明する。第2実施形態に係る眼科装置1は、筐体26に接着するシート部材28に代えて、
図5(a)、
図5(b)に示すシート部材28Bを用いたこと以外は、
図1等に示す第1実施形態と同様の基本構成を備えているため、詳細な説明は省略する。以下では、シート部材28Bについて主に説明する。
【0052】
第2実施形態のシート部材28Aは、
図5(a)に示すように、円形のシート本体28aと、鍔状(ドーナツ状)の接着部28bとから構成される。シート本体28aは、第1実施形態のシート本体28aと同様のものを用いることができる。
【0053】
第2実施形態の接着部28bは、形状が鍔状(ドーナツ状)であること以外は、第1実施形態と同様に、両面テープや、接着剤等により形成することができる。より詳細には、
図5(b)に示すように、接着部28bは、シート本体28a側から順に、第1接着層28b1、基材28b2、第2接着層28b3、剥離紙28b4から構成される。また、接着部28bは、
図4(b)に示す変形例のように、第1接着層28b1と、剥離紙28b4から構成されるものでもよい。
【0054】
第2実施形態によっても、眼科装置1の筐体26にシート部材28を配置することで、第1実施形態と同様に、ゴミや埃の侵入は勿論、ビス27の螺着による金属屑の筐体26内部への侵入を適切に防止することができる。さらに、第2実施形態では、鍔状(ドーナツ状)の接着部28bとすることで、シート部材28の外周縁近傍の領域(接着領域A)のみが内側面26cに固定されるため、ビス穴26aの突出量が小さい場合でも、伸長領域Cが内側面26cに接着するのを抑制し、伸長領域Cがより円滑に伸びることができ、破断や穿孔の発生を適切に抑制できるとともに、接着部28bの材料が少なくて済み、シート部材28の製造コストを削減できる。
【実施例0055】
第1実施形態と同様の構成で、下記に示す材料及び寸法等で、実施例1のシート部材28を作製し、その伸び率を算出した。なお、実施例1のシート部材28は一例であり、シート部材28が、実施例1の構造に限定されない。
【0056】
実施例1のシート部材28のシート本体28aとして、大倉工業株式会社製のシルクロン(登録商標、型番:SNY97-CLB 40μm)を使用した。この実施例1のシート本体28aは、無黄変ウレタン(ポリウレタン)フィルムを、2枚のPETフィルムで挟んだ構成である。シート本体28aは、厚みが40μmであり、JIS K7311に準拠する方法で測定される限界伸び率が395%(20℃時)である。
【0057】
実施例1のシート部材28の接着部28bとして、デクセリアルズ株式会社製の両面テープ(型番:T4412WP)を使用した。この実施例1の接着部28bは、基材28b2がPETであり、第1、第2接着層28b1,28b3の主成分はアクリル樹脂である。第1接着層28b1から第2接着層28b3までの厚みは約55μmであり、剥離紙28b4の厚みは約75μmである。
【0058】
また、
図3(a)又は
図3(b)に示すシート部材28の直径D
0は10mmであり、接着領域Aの幅aは1.0mmである。ビス27の呼び径d
0は3.0mmであり、ビス穴26aの高さhは、1.0mmであり、ビス27の筐体26の内側面26cからの飛び出し量は、2.0mm以下(つまり、最大2.0mm)である。
【0059】
以上の数値を、上記式(1)~(3)に当てはめると、以下のようになる。
L0=(10.0-2×1.0)/2-3.0/2=2.5
L1=√(2.52+2.02)=3.2
∴伸び率T=(3.2-2.5)/2.5×100=28%(<395%)
【0060】
ここで、シート部材28の貼り付け位置がずれて、ビス穴26aの中心とシート部材28の中心とに1.5mmの誤差を生じた場合の伸び率を算出すると、以下のようになる。
L0=2.5-1.5=1.0
L1=√(1.02+2.02)≒2.24
∴伸び率T=(2.24-1.0)/1.0×100=124%(<395%)
【0061】
以上より、ビス穴26aの中心とシート部材28の中心とが一致している場合でも、1.5mm程度誤差を生じている場合でも、シート部材28の伸び率が、限界伸び率未満となる。このことから、実施例1のシート部材28は、ビス27の飛び出しによって破断や穿孔が生じるのを抑制して、高い防塵効果を得ることができ、筐体26内部へのゴミや埃、金属屑の優れた侵入防止効果が得られることが示された。
【0062】
以上、本開示の眼科装置1を実施形態、変形例及び実施例に基づいて説明してきたが、具体的な構成については、これらに限定されるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0063】
上記各実施形態、変形例及び実施例では、眼科装置1は、光学系として、被検眼の前眼部を観察する観察系、被検眼に固視標を提示する固視標投影系、被検眼の眼底に測定光を照射し且つ被検眼の眼底によって反射された測定光の反射光を受光する他覚式測定系、被検眼に自覚式の視標を提示する自覚式測定系等を有する左右2つの測定光学系(右測定光学系25R及び左測定光学系25L)を有している。しかし、本開示の眼科装置が、この構成に限定されず、光学系が他覚式測定系及び自覚式測定系の何れか1つのみを有する構成としてもよい。また、眼科装置が、提示する視標を切り替えつつ視力検査を行う視力検査装置、矯正用レンズを切り換えて配置させて被検眼の適切な矯正屈折力を取得するフォロプタ、屈折力を測定するレフラクトメータや波面センサ、眼底の画像を撮影する眼底カメラ、網膜の断層画像を撮影する断層撮影装置(OCT)、角膜内皮画像を撮影するスペキュラマイクロスコープ、角膜形状を測定するケラトメータ、眼圧を測定するトノメータ等であってもよい。また、これらの眼科装置が複数組み合わさった眼科装置であってもよい。これらの眼科装置の筐体が、ビス穴と、ビス穴を被覆するように筐体の内部側の一面に配置されたシート部材を有する構成とすることで、筐体内部にゴミや組み立ての際のビスの金属屑等が侵入するのを適切に防止することができる。
【0064】
また、上記各実施形態、変形例及び実施例の眼科装置1は、光学系として右測定光学系25R及び左測定光学系25Lを有しているが、この構成に限定されず、光学系を1つ有し、眼特性を片眼ずつ測定するものであってもよい。また、筐体26及び/又はビス27が金属製に限定されず、硬質樹脂製等であってもよい。この場合でも、ビス穴26aにシート部材28を配置することで、ビス穴26aにビス27を螺着したときの金属どうし、金属と樹脂、又は樹脂どうしの擦れによる金属屑や樹脂屑等の筐体26内部への侵入を適切に防ぐことができる。
【0065】
また、シート部材28は、バーリング部26dの天面に貼り付けられてもよいし、バーリング部26dの天面及び外周面(天面、外周面も筐体26の内部側の一面に含まれる。)に貼り付けられてもよく、必ずしもバーリング部26d全体を覆う必要はない。また、筐体26にバーリング部26dが設けられていなくてもよく、ビス穴26aが、筐体26の壁面に単に開けられたビス穴等であってもよい。また、筐体26内部に、ビス27が螺合するナットやワッシャーが配置され、シート部材28はナットやワッシャーごとビス穴26aを被覆するものでもよい。また、筐体26にビス27の逃げ穴を形成し、この逃げ穴を含むビス穴26aを被覆するように、シート部材28を貼り付ける構成でもよい。