IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社カネカの特許一覧

特開2023-31097ハードコート組成物、ならびにハードコートフィルムおよびその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031097
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】ハードコート組成物、ならびにハードコートフィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 299/00 20060101AFI20230301BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20230301BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230301BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
C08F299/00
B05D5/00 B
B05D7/24 302Y
B32B27/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021136591
(22)【出願日】2021-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】高麗 寛人
(72)【発明者】
【氏名】田口 祐介
(72)【発明者】
【氏名】石黒 文康
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J127
【Fターム(参考)】
4D075AE03
4D075BB42Z
4D075CA02
4D075CA03
4D075DA04
4D075DB36
4D075DB43
4D075DB48
4D075DB53
4D075DC21
4D075DC24
4D075EB42
4F100AH05A
4F100AK01B
4F100AK49B
4F100AK52A
4F100AK52C
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100CC00A
4F100EH46A
4F100EH46C
4F100EJ52A
4F100EJ52C
4F100EJ54A
4F100EJ54C
4F100EJ55A
4F100GB41
4F100JK12A
4F100JK17
4F100JN01B
4J127AA03
4J127BC151
4J127BC152
4J127BD212
4J127BD301
4J127BE591
4J127BF172
4J127BF711
4J127BF751
4J127BG072
4J127BG082
4J127BG381
4J127EA13
4J127FA08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高い表面硬度、耐屈曲性を有する、優れた硬化物を形成できるハードコート組成物を提供すること。
【解決手段】脂環式エポキシ基を含むシラン化合物と(メタ)アクリロイル基を含むシラン化合物とを含むシラン化合物の縮合物であるシルセスキオキサン化合物と、二重結合を有するフッ素化合物を含有するハードコート組成物であり、シルセスキオキサン化合物の重量平均分子量が500~20000であり、シルセスキオキサン化合物がT3構造とT2構造を含み、T3構造とT2構造の含有量の比T3/T2が5未満である、ハードコート組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるシラン化合物と一般式(2)で表されるシラン化合物とを含むシラン化合物の縮合物であるシルセスキオキサン化合物と、
二重結合を有するフッ素化合物を含有するハードコート組成物であり、
【化1】
【化2】
シルセスキオキサン化合物の重量平均分子量が500~20000であり、
シルセスキオキサン化合物が一般式(3)で表されるT3構造と、一般式(4)で表されるT2構造を含み、
【化3】
【化4】
T3構造とT2構造の含有量の比T3/T2が5未満である、
ハードコート組成物。
(一般式(1)において、Xは脂環式エポキシ基を含む1価の有機基であり、
一般式(2)において、Yは(メタ)アクリロイル基を含む1価の有機基であり、
一般式(1)および一般式(2)において、Rは水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、Rは水素原子、または炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~25のアリール基および炭素数7~12のアラルキル基からなる群から選択される1価の有機基であり、xは2または3であり、
一般式(3)および一般式(4)において、Qは任意の1価の有機基であり、
一般式(4)において、Zは水素原子、または炭素数1~10のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~25のアリール基および炭素数7~12のアラルキル基からなる群から選択される1価の有機基である。)
【請求項2】
透明樹脂基材の少なくとも一方の面上に、請求項1に記載のハードコート組成物を含む硬化物からなる第1ハードコート層を備える、ハードコートフィルム。
【請求項3】
前記第1ハードコート層の厚みが、0.5~100μmである、請求項2に記載のハードコートフィルム。
【請求項4】
前記透明樹脂基材と前記第1ハードコート層の間に、第2ハードコート層をさらに有し、
前記第2のハードコート層は、一般式(1)で表されるシラン化合物を含むシラン化合物の縮合物であるシルセスキオキサン化合物を含有するハードコート組成物の硬化物であり、シルセスキオキサン化合物の重量平均分子量が500~20000であり、シルセスキオキサン化合物が一般式(3)で表されるT3構造と、一般式(4)で表されるT2構造を含み、T3構造とT2構造の含有量の比T3/T2が5未満であり、
第1のハードコート層の厚みが0.5~100μmであり、第2のハードコート層の厚みが、0.5~100μmであることを特徴とする請求項2に記載のハードコートフィルム。
【化5】
【化6】
【化7】
【請求項5】
上記透明樹脂基材が、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、環状ポリオレフィン、アクリル樹脂、およびセルロース系樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂材料を含む、請求項2~4に記載のハードコートフィルム。
【請求項6】
透明樹脂基材上に、請求項1に記載のハードコート組成物を塗布し、活性エネルギー線を照射して、前記ハードコート組成物を硬化する、ハードコートフィルムの製造方法。
【請求項7】
透明樹脂基材上に、一般式(1)で表されるシラン化合物を含むシラン化合物の縮合物、光カチオン重合開始剤、および、中性塩を1ppm~10000ppm含有する組成物を塗布し、活性エネルギー線を照射して、前記ハードコート組成物を硬化し、
そのハードコートフィルム上に、請求項1に記載のハードコート組成物を塗布し、活性エネルギー線を照射して、前記ハードコート組成物を硬化する、ハードコートフィルムの製造方法。(一般式(1)において、Xは脂環式エポキシ基を含む1価の有機基であり、Rは水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、Rは水素原子、または炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~25のアリール基および炭素数7~12のアラルキル基からなる群から選択される1価の有機基であり、xは2または3である。)
【化8】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂環式エポキシ基と(メタ)アクリロイル基を有するシルセスキオキサン化合物、二重結合を有するフッ素化合物、ならびに該シルセスキオキサン化合物とフッ素化合物を含むハードコート組成物に関する。また、本発明は、上記シルセスキオキサン化合物とフッ素化合物を含むハードコート組成物より形成されたハードコート層(第1ハードコート層)を有するハードコートフィルムおよびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォルダブル/フレキシブルディスプレイ向けカバーウィンドウ材料においては、ガラスに代わり、折り曲げ可能なプラスチックフィルムからなる新たな材料の開発が必要である。このようなカバーウィンドウ材料には、屈曲耐久性や透明性、表面硬度や耐擦傷性、耐衝撃性などの機械特性が求められるが、汎用のプラスチックフィルムでは、特に表面硬度や耐擦傷性を得ることは困難であるため、表面にハードコート層を設けることが必要である。
【0003】
このようなハードコートフィルムにおけるハードコート層を形成する材料としては、特許文献1にはUV硬化性アクリルモノマーが開示されており、また、特許文献2にはポリオルガノシルセスキオキサン樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-279840号公報
【特許文献2】特開2019-143161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、UV硬化性アクリルモノマーを用いたハードコートフィルムは、未だ十分な表面硬度を有しているとは言えず、表面硬度を向上させるために多官能としたり、ハードコート層を厚膜とすると、UV硬化時の材料の硬化収縮が大きくなり、クラックが発生しやすいという問題がある。また、特許文献2に開示されたポリオルガノシルセスキオキサン樹脂を用いたハードコートフィルムは、カバーウィンドウ等に使用するには表面硬度と可撓性を十分に両立しているとは言えない。
【0006】
したがって、本発明の目的は、高い表面硬度、耐屈曲性を有する、優れた硬化物を形成できるハードコート組成物を提供することである。また、該ハードコート組成物からなる硬化物が、透明樹脂基材の少なくとも一方の面上に形成された、高い表面硬度、耐屈曲性を有するハードコートフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、下記構成により、上記課題を克服するに至った。すなわち、本件発明は、以下の構成をなす。
【0008】
[1].一般式(1)で表されるシラン化合物と一般式(2)で表されるシラン化合物とを含むシラン化合物の縮合物であるシルセスキオキサン化合物と、
二重結合を有するフッ素化合物を含有するハードコート組成物であり、
【化1】
【化2】
シルセスキオキサン化合物の重量平均分子量が500~20000であり、
シルセスキオキサン化合物が一般式(3)で表されるT3構造と、一般式(4)で表されるT2構造を含み、
【化3】
【化4】
T3構造とT2構造の含有量の比T3/T2が5未満である、
ハードコート組成物。
(一般式(1)において、Xは脂環式エポキシ基を含む1価の有機基であり、
一般式(2)において、Yは(メタ)アクリロイル基を含む1価の有機基であり、
一般式(1)および一般式(2)において、Rは水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、Rは水素原子、または炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~25のアリール基および炭素数7~12のアラルキル基からなる群から選択される1価の有機基であり、xは2または3であり、
一般式(3)および一般式(4)において、Qは任意の1価の有機基であり、
一般式(4)において、Zは水素原子、または炭素数1~10のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~25のアリール基および炭素数7~12のアラルキル基からなる群から選択される1価の有機基である。)
【0009】
[2].透明樹脂基材の少なくとも一方の面上に、[1]に記載のハードコート組成物を含む硬化物からなる第1ハードコート層を備える、ハードコートフィルム。
【0010】
[3].前記第1ハードコート層の厚みが、0.5~100μmである、[2]に記載のハードコートフィルム。
【0011】
[4].前記透明樹脂基材と前記第1ハードコート層の間に、第2ハードコート層をさらに有し、
前記第2のハードコート層は、一般式(1)で表されるシラン化合物を含むシラン化合物の縮合物であるシルセスキオキサン化合物を含有するハードコート組成物の硬化物であり、シルセスキオキサン化合物の重量平均分子量が500~20000であり、シルセスキオキサン化合物が一般式(3)で表されるT3構造と、一般式(4)で表されるT2構造を含み、T3構造とT2構造の含有量の比T3/T2が5未満であり、
第1のハードコート層の厚みが0.5~100μmであり、第2のハードコート層の厚みが、0.5~100μmであることを特徴とする[2]に記載のハードコートフィルム。
【化5】

【化6】
【化7】
【0012】
[5].上記透明樹脂基材が、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、環状ポリオレフィン、アクリル樹脂、およびセルロース系樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂材料を含む、[2]~[4]に記載のハードコートフィルム。
【0013】
[6].透明樹脂基材上に、[1]に記載のハードコート組成物を塗布し、活性エネルギー線を照射して、前記ハードコート組成物を硬化する、ハードコートフィルムの製造方法。
【0014】
[7].透明樹脂基材上に、一般式(1)で表されるシラン化合物を含むシラン化合物の縮合物、光カチオン重合開始剤、および、中性塩を1ppm~10000ppm含有する組成物を塗布し、活性エネルギー線を照射して、前記ハードコート組成物を硬化し、
そのハードコートフィルム上に、[1]に記載のハードコート組成物を塗布し、活性エネルギー線を照射して、前記ハードコート組成物を硬化する、ハードコートフィルムの製造方法。(一般式(1)において、Xは脂環式エポキシ基を含む1価の有機基であり、Rは水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、Rは水素原子、または炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~25のアリール基および炭素数7~12のアラルキル基からなる群から選択される1価の有機基であり、xは2または3である。)
【化8】
【発明の効果】
【0015】
本件発明により、高い耐擦傷性と耐屈曲性を有する優れた硬化物を形成できるハードコート組成物を提供することができる。またその硬化物を、樹脂基材の少なくとも一方の面上に形成すれば、高い耐擦傷性と耐屈曲性を有するハードコートフィルムとすることもできる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
なお、本明細書において、一般式(1)で表されるシラン化合物と一般式(2)で表されるシラン化合物とを含むシラン化合物の縮合物や一般式(1)で表されるシラン化合物を含むシラン化合物の縮合物をシルセスキオキサン化合物とも表記する。また、(メタ)アクリロイル基と表記した場合、アクリロイル基とメタアクリロイル基の両方を包含する意味で用いる。
【0017】
[シルセスキオキサン化合物]
下記一般式(1)で表されるシラン化合物(シラン化合物(1)とも表す)と一般式(2)で表されるシラン化合物(シラン化合物(2)とも表す)とを含むシラン化合物の縮合物であり、
シルセスキオキサン化合物の重量平均分子量が500~20000であり、
シルセスキオキサン化合物が一般式(3)で表されるT3構造と、一般式(4)で表されるT2構造を含み、
T3構造とT2構造の含有量の比T3/T2が5未満である、
るシルセスキオキサン化合物。
(一般式(1)において、Xは脂環式エポキシ基を含む1価の有機基であり、
一般式(2)において、Yは(メタ)アクリロイル基を含む1価の有機基であり、
一般式(1)および一般式(2)において、Rは水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、Rは水素原子、または炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~25のアリール基および炭素数7~12のアラルキル基からなる群から選択される1価の有機基であり、xは2または3であり、
一般式(3)および一般式(4)において、Qは任意の1価の有機基であり、
一般式(4)において、Zは水素原子、または炭素数1~10のアルキル基を有するアルコキシ基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~25のアリール基および炭素数7~12のアラルキル基からなる群から選択される1価の有機基である。)
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【0018】
一般式(1)中、Xは脂環式エポキシ基を含む1価の有機基を表す。脂環式エポキシ基を含む1価の有機基とは例えば、脂環式エポキシ基や、脂環式エポキシ基を置換基として有するアルキル基や、脂環式エポキシ基を置換基として有するエチレングリコール基などが挙げられる。耐熱性や耐屈曲性の観点から、脂環式エポキシ基を置換基として有するアルキル基が好ましい。このような脂環式エポキシ基を置換基として有するアルキル基の具体例としては例えば、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル基、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピル基、4-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ブチル基、5-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ペンチル基、6-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ヘキシル基、7-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ヘプチル基、8-(3,4-エポキシシクロヘキシル)オクチル基、9-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ノニル基、10-(3,4-エポキシシクロヘキシル)デシル基、11-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ウンデシル基、12-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ドデシル基、13-(3,4-エポキシシクロヘキシル)トリデシル基、14-(3,4-エポキシシクロヘキシル)テトラデシル基、15-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ペンタデシル基、16-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ヘキサデシル基、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)イソプロピル基、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)イソブチル基、6-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルヘキシル基等が挙げられる。
【0019】
一般式(2)中、Yは(メタ)アクリロイル基を含む1価の有機基を表す。(メタ)アクリロイル基を含む1価の有機基とは例えば置換若しくは非置換の(メタ)アクリロイル基置換アルキル基、(メタ)アクリロイル基置換アルケニル基、(メタ)アクリロイル基置換アリール基等が挙げられる。貯蔵安定性がよく、活性エネルギー線照射時の硬化速度が速く、さらに得られた塗膜のクラック発生が抑制できる観点から、(メタ)アクリロイル基置換アルキル基が好ましい。
このような(メタ)アクリロイル基置換アルキル基の具体例としては例えば、1-(メタ)アクリロイルオキシメチル基、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル基、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル基、4-(メタ)アクリロイルオキシブチル基、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル基、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル基、等が挙げられる。
【0020】
一般式(1)及び一般式(2)中、Rは水素原子または炭素数1~10のアルキル基を示す。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、イソプロピル基、イソブチル基、シクロヘキシル基、エチルヘキシル基等が挙げられる。加水分解性シリル基を有するシラン化合物を加水分解および縮合させやすいという観点から、Rのアルキル基はメチル基、エチル基またはプロピル基が好ましく、最も好ましくはメチル基である。
【0021】
一般式(1)及び一般式(2)中、Rは水素原子または炭素数1~16のアルキル基、炭素数6~25のアリール基および炭素数7~12のアラルキル基から選択される1価の炭化水素基を示す。このような炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、シクロヘキシル基、エチルヘキシル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0022】
一般式(1)及び一般式(2)中のxは、1~3の整数であり、ハードコートに要求される諸物性に応じて適宜選択される。
【0023】
シラン化合物(1)の具体例としては、例えば、(3,4-エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルジメトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)ジメチルメトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)トリエトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルジエトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)ジメチルエトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、{(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル}メチルジメトキシシラン、{(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル}ジメチルメトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルトリエトキシシラン、{(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル}メチルジエトキシシラン、{(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル}ジメチルエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、{2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル}メチルジメトキシシラン、{2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル}ジメチルメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、{2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル}メチルジエトキシシラン、{2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル}ジメチルエトキシシラン、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、{3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピル}メチルジメトキシシラン、{3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピル}ジメチルメトキシシラン、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピルトリエトキシシラン、{3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピル}メチルジエトキシシラン、{3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピル}ジメチルエトキシシラン、4-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ブチルトリメトキシシラン、{4-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ブチル}メチルジメトキシシラン、{4-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ブチル}ジメチルメトキシシラン、4-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ブチルトリエトキシシラン、{4-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ブチル}メチルジエトキシシラン、{4-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ブチル}ジメチルエトキシシラン、5-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ペンチルトリメトキシシラン、{5-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ペンチル}メチルジメトキシシラン、{5-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ペンチル}ジメチルメトキシシラン、5-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ペンチルトリエトキシシラン、{5-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ペンチル}メチルジエトキシシラン、{5-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ペンチル}ジメチルエトキシシラン、6-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ヘキシルトリメトキシシラン、{6-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ヘキシル}メチルジメトキシシラン、{6-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ヘキシル}ジメチルメトキシシラン、6-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ヘキシルトリエトキシシラン、{6-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ヘキシル}メチルジエトキシシラン、{6-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ヘキシル}ジメチルエトキシシラン、8-(3,4-エポキシシクロヘキシル)オクチルトリメトキシシラン、{8-(3,4-エポキシシクロヘキシル)オクチル}メチルジメトキシシラン、{8-(3,4-エポキシシクロヘキシル)オクチル}ジメチルメトキシシラン、8-(3,4-エポキシシクロヘキシル)オクチルトリエトキシシラン、{8-(3,4-エポキシシクロヘキシル)オクチル}メチルジエトキシシラン、{8-(3,4-エポキシシクロヘキシル)オクチル}ジメチルエトキシシラン、10-(3,4-エポキシシクロヘキシル)デシルトリメトキシシラン、{10-(3,4-エポキシシクロヘキシル)デシル}メチルジメトキシシラン、{10-(3,4-エポキシシクロヘキシル)デシル}ジメチルメトキシシラン、10-(3,4-エポキシシクロヘキシル)デシルトリエトキシシラン、{10-(3,4-エポキシシクロヘキシル)デシル}メチルジエトキシシラン、{10-(3,4-エポキシシクロヘキシル)デシル}ジメチルエトキシシラン、12-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ドデシルトリメトキシシラン、{12-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ドデシル}メチルジメトキシシラン、{12-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ドデシル}ジメチルメトキシシラン、12-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ドデシルトリエトキシシラン、{12-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ドデシル}メチルジエトキシシラン、{12-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ドデシル}ジメチルエトキシシラン、14-(3,4-エポキシシクロヘキシル)テトラデシルトリメトキシシラン、{14-(3,4-エポキシシクロヘキシル)テトラデシル}メチルジメトキシシラン、{14-(3,4-エポキシシクロヘキシル)テトラデシル}ジメチルメトキシシラン、14-(3,4-エポキシシクロヘキシル)テトラデシルトリエトキシシラン、{14-(3,4-エポキシシクロヘキシル)テトラデシル}メチルジエトキシシラン、{14-(3,4-エポキシシクロヘキシル)テトラデシル}ジメチルエトキシシラン、16-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ヘキサデシルトリメトキシシラン、{16-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ヘキサデシル}メチルジメトキシシラン、{16-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ヘキサデシル}ジメチルメトキシシラン、16-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ヘキサデシルトリエトキシシラン、{16-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ヘキサデシル}メチルジエトキシシラン、{16-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ヘキサデシル}ジメチルエトキシシラン、等の脂環式エポキシ基含有シランが挙げられる。
【0024】
シラン化合物(2)の具体例としては、例えば、1-(メタ)アクリロイルオキシメチルトリメトキシシラン、{1-(メタ)アクリロイルオキシメチル}メチルジメトキシシラン、1-(メタ)アクリロイルオキシメチルトリエトキシシラン、{1-(メタ)アクリロイルオキシメチル}メチルジエトキシシラン、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、{2-(メタ)アクリロイルオキシエチル}メチルジメトキシシラン、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエトキシシラン、{2-(メタ)アクリロイルオキシエチル}メチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、{3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル}メチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、{3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル}メチルジエトキシシラン、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメトキシシラン、{4-(メタ)アクリロイルオキシブチル}メチルジメトキシシラン、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリエトキシシラン、{4-(メタ)アクリロイルオキシブチル}メチルジエトキシシラン、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメトキシシラン、{6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル}メチルジメトキシシラン、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリエトキシシラン、{6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル}メチルジエトキシシラン、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、{8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル}メチルジメトキシシラン、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルトリエトキシシラン、{8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル}メチルジエトキシシラン、等が挙げられる。
【0025】
一般式(3)及び一般式(4)中、Qは式(1)中のXまたは式(2)中のYと同じである。
【0026】
一般式(4)中、Zはヒドロキシル基または炭素数1~10のアルキル基を有するアルコキシ基を示す。このようなアルキル基を有するアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基等が挙げられる。
【0027】
本発明のシルセスキオキサン化合物中のSi原子の総数に対する前記一般式(1)で表される構造の比率は、硬化物の硬度を高める観点から0.05以上であるのが好ましく、0.1以上であるのがより好ましい。シルセスキオキサン化合物中のSi原子の総数に対する前記一般式(1)で表される構造の比率は、硬化物の外曲げの耐屈曲性を高める観点から、0.95以下であるのが好ましく、0.9以下であるのがより好ましく、0.8以下であるのがさらに好ましく、0.75以下であるのが特に好ましい。
【0028】
本発明のシルセスキオキサン化合物中のSi原子の総数に対する前記一般式(2)で表される構造の比率は、硬化物の屈曲性を高める観点から0.05以上であるのが好ましく、0.1以上であるのがより好ましく、0.2以上であるのがさらに好ましく、0.25以上であるのが特に好ましい。シルセスキオキサン化合物中のSi原子の総数に対する前記一般式(2)で表される構造の比率は、硬化物のカールを小さくする観点から、0.95より小さいのが好ましく、0.90以下であるのがより好ましい。
【0029】
シラン化合物の縮合によりシルセスキオキサン化合物を得る場合、上記のシラン化合物(1)およびシラン化合物(2)に加えて、他のシラン化合物を用いてもよい。他のシラン化合物(すなわち、脂環式エポキシ基および(メタ)アクリロイル基を含まないシラン化合物、以下「シラン化合物(5)」と記載する場合がある)は、下記の一般式(5)で表される。
【化13】
【0030】
耐屈曲性や耐擦傷性の観点から、本発明のシルセスキオキサン化合物中のSi原子の総数に対する一般式(5)で表されるシラン化合物の割合は、0.5以下であるのが好ましく、0.4以下であるのがより好ましく、0.3以下であるのがさらに好ましく、0であってもよい。
【0031】
一般式(5)において、R、Rおよびxは、一般式(1)および一般式(2)と同様である。Wは、脂環式エポキシ基および(メタ)アクリロイル基を含まない1価の有機基である。Wは、置換もしくは無置換の二重結合を含有する基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基を含有する基、置換もしくは無置換の芳香環を含有する基、置換もしくは無置換のアルキル基、グリシジル基を有する基、オキセタニル基を有する基、または水素原子である。
【0032】
置換もしくは無置換の二重結合を含有する基としては、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基等が挙げられる。置換もしくは無置換のシクロアルキル基を含有する基としては、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロブチルメチル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、シクロブチルエチル基、シクロペンチルエチル基、シクロヘキシルエチル基等が挙げられる。置換もしくは無置換の芳香環を含有する基としては、フェニル基、4-メチルフェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。置換もしくは無置換のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、シクロヘキシル基、エチルヘキシル基等が挙げられる。グリシジル基を有する基としては、グリシジルオキシメチル基、2-グリシジルオキシエチル基、3-グリシジルオキシプロピル基、4-グリシジルオキシブチル基、5-グリシジルオキシペンチル基、6-グリシジルオキシヘキシル基、7-グリシジルオキシヘプチル基、8-グリシジルオキシオクチル基、9-グリシジルオキシノニル基、10-グリシジルオキシデシル基、11-グリシジルオキシウンデシル基、12-グリシジルオキシドデシル基、14-グリシジルオキシテトラデシル基、16-グリシジルオキシヘキサデシル基等が挙げられる。オキセタニル基を有する基としては、オキセタニルメチル基、3-メチル-3-オキセタニルメトキシメチル基、3-エチル-3-オキセタニルメトキシメチル基等が挙げられる。
【0033】
本発明のシルセスキオキサン化合物の重量平均分子量は、硬化物の硬度を高める観点から500以上が好ましい。また、シロキサン化合物の揮発を抑制する観点からも、シロキサン化合物の重量平均分子量は500以上であることが好ましい。一方、分子量が過度に大きいと、他の組成物との相溶性の低下等に起因して白濁が生じる場合がある。そのため、シロキサン化合物の重量平均分子量は20000以下が好ましい。
【0034】
なお、本発明のシルセスキオキサン化合物の重量平均分子量は、反応に用いる水の量、触媒の種類および量を適切に選択することにより、制御することができる。例えば、最初に仕込む水の量を増やすことにより、重量平均分子量を高くすることができる。
【0035】
一般式(1)及び一般式(2)で表されるシラン化合物に含まれる、SiO3/2(一般式(1)及び(2)においてx=3に相当)、SiO2/2(一般式(1)及び(2)においてx=2に相当)、SiO1/2構造(一般式(1)及び(2)においてx=1に相当)をそれぞれ、T構造、D構造、M構造とした時に、[T構造]+[D構造]+[M構造]に対する[T構造]の比率は、0.2以上1.0以下が好ましく、0.4以上1.0以下がより好ましく、0.6以上1.0以下が更に好ましい。[T構造]の比率が0.2より小さい場合、十分な鉛筆硬度が得られない恐れがある。
架橋点密度を高めて、硬化物の硬度を向上させるとの観点から、一般式(1)及び一般式(2)で表されるシラン化合物の加水分解および縮合により得られるシルセスキオキサン化合物におけるエポキシ構造の残存率は、高い方が好ましい。
【0036】
本発明のシルセスキオキサン化合物は、一般式(1)及び一般式(2)で表されるシラン化合物の加水分解および縮合反応により形成され、一般式(3)または一般式(4)で表される構成単位を含む。式(3)で表される構成単位(一般式(1)及び(2)中、x=3であるT単位構造を有するシラン化合物の有する3つのアルコキシシランが、全て縮合反応しSi-O-Si構造を取っている構造。以下[T3体]と記載)と、式(4)で表される構成単位(一般式(1)及び(2)中、x=3であるT単位構造を有するシラン化合物の有する3つのアルコキシシランの内、2つが縮合反応しSi-O-Si構造を取っている構造。以下[T2体]と記載)の割合[T3体]/[T2体]は、0.8以上5未満であることが好ましく、1以上4未満であることがより好ましく、1.5以上3未満であることがさらに好ましい。T3体とT2体の割合[T3体]/[T2体]を5未満とすることにより、本発明のシルセスキオキサン化合物の硬化物からなるハードコート層を有するハードコートフィルムは、優れた耐屈曲性を示す。縮合物中のT3体の含有量が多くなり、[T3体]/[T2体]が5以上となると、得られる縮合物は緻密な構造をとり、柔軟性が低下するため、ハードコートフィルムとしたときの耐屈曲性が低下する。
【0037】
本発明のシルセスキオキサン化合物におけるT3体およびT2体の含有量や割合は、例えば、29Si-NMR測定により算出することができる。29Si-NMR測定において、T3体におけるケイ素原子の化学シフトと、T2体におけるケイ素原子の化学シフトは異なり、スペクトルの異なる位置にシグナルを示すため、それぞれのシグナルの積分値を算出することにより、上記割合[T3体]/[T2体]を求めることができる。
【0038】
なお、本発明のシルセスキオキサン化合物におけるT3体とT2体の割合[T3体]/[T2体]は、反応に用いる水の量、触媒の種類および量を適切に選択することにより、制御することができる。例えば、最初に仕込む触媒の量を増やすことにより、上記割合[T3体]/[T2体]を大きくすることができる。
【0039】
加水分解および縮合反応に必要な水の量は、ケイ素原子に直接結合したOR基(一般式(1)及び一般式(2)中のOR基)1当量に対して0.3~10当量が好ましく、0.5~5当量がより好ましく、1~3当量がさらに好ましい。水の量が0.3当量未満ではOR基の加水分解が十分に進行せず、ハードコートフィルムの表面硬度を低下さることがある。10当量を超えると、加水分解および縮合反応の反応速度が大きすぎて高分子量の縮合物が生成し、硬化膜の物性や透明性を低下させることがある。
【0040】
上記エポキシ構造の残存率、すなわち、原料であるシラン化合物(1)が有するエポキシ構造のモル数に対する、縮合により得られるシルセスキオキサン化合物におけるエポキシ構造のモル数の割合は、20%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましい。ここで、エポキシ構造の残存率は、H-NMR測定によって算出することができる。
【0041】
本発明においては、加水分解および縮合反応は、中性塩触媒の存在下で実施する。加水分解および縮合反応を中性塩触媒の存在下で実施することにより、加水分解および縮合反応の前後および貯蔵中に、エポキシ基を失活させることなく、シルセスキオキサン化合物を得ることができる。
【0042】
また、中性塩触媒自身が製造容器や保管容器を侵すことがないため、製造・保管設備の材質に制約を受けることなく使用することができる。これは、一般に、酸触媒や塩基触媒では、触媒自身が、種々の物質と求電子的・求核的に反応することや、反応溶液中の水素イオン濃度または水酸化物イオン濃度を変化させることにより、それらのイオンが反応に寄与するのに対し、中性塩では、上記のような反応活性が極端に低いことに起因する。
【0043】
また、加水分解および縮合反応において酸触媒や塩基触媒を用いる場合には、上記理由により、酸・塩基の除去工程や中和工程を経る必要がある。これらの工程は煩雑であったり、収率を低下させたりするため、好ましくない。これらの問題に対しても、中性塩触媒を用いることは、これらの工程を必要としないため好ましい。
【0044】
本発明で用いられる中性塩とは、強酸と強塩基からなる正塩のことであり、カチオンとして第一族元素イオンおよび第二族元素イオンからなる群より選ばれるいずれかと、アニオンとして塩化物イオン、臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群より選ばれるいずれかとの組合せからなる塩のことである。
【0045】
本発明における中性塩の具体例としては、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ベリリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化ベリリウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ベリリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム等が挙げられる。
【0046】
本発明においては、中性塩の使用量が多いほど、シラン化合物の加水分解および縮合反応は促進されるが、縮合物の透明性や精製工程などを考慮した際には、添加量は少ないほど良い。
【0047】
本発明における中性塩の使用量は、シラン化合物の加水分解性シリル基1モルに対して、0.000001モル以上0.1モル以下が好ましく、0.000005モル以上0.01モル以下が特に好ましい。シルセスキオキサン化合中に残存する中性塩の量は、1ppm~10000ppmであることが好ましく、50ppm~5000ppmがより好ましく、100ppm~1000ppmであることがさらに好ましい。
【0048】
本発明のシルセスキオキサン化合物の製造においては、製造上の安全性を考慮し、希釈溶剤、加水分解により発生するアルコール等を還流しながら製造を行うことが好ましい。
【0049】
本発明のシルセスキオキサン化合物の製造において、用いられる希釈溶剤や反応温度、反応時間は適宜選択でき、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルとメタノールを溶剤に用いて、80℃で6時間加熱撹拌することで目的物を得ることができる。
【0050】
[二重結合を有するフッ素化合物]
本発明のハードコート組成物は、二重結合を有するフッ素化合物を含む。二重結合を有するフッ素化合物を含むことで、硬化性組成物の表面張力を低下させたり、表面平滑性を向上させたり、滑り性を向上させたり、防指紋性を向上させたり、耐擦傷性を向上させたりすることができる。レベリング剤は、エポキシ基と反応性を有する基及びまたは加水分解縮合性基を有することが好ましい。エポキシ基と反応性を有する基及びまたは加水分解縮合性基を有することで、より耐擦傷性に優れたハードコート層を得ることができる。
【0051】
上記の二重結合を有するフッ素化合物は、二重結合を有していれば、モノマー、オリゴマー、ポリマーいずれでもよい。二重結合を有するフッ素化合物は、ハードコート層中でシルセスキオキサン化合物が有する(メタ)アクリロイル基と光ラジカル重合により化学結合を形成し、繰り返し摩擦されても表面から脱離することなく残存するため、耐擦傷性を良好に保持することができる。
好ましい二重結合を有する官能基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基、シンナモイル基が挙げられるが、その中でもラジカル重合性基が好ましく、中でもアクリロイル基、メタクリロイル基が特に好ましい。
【0052】
二重結合を有するフッ素化合物は、添加量の内の30%以上がハードコート層表面100nmに偏析していることが好ましく、50%以上がハードコート層表面100nmに偏析していることがより好ましく、80%以上がハードコート層表面100nmに偏析していることが更に好ましい。二重結合を有するフッ素化合物は、フッ素原子を含まない化合物とのポリマーであってもオリゴマーであってもよいが、ハードコート層表面への偏析のしやすさや、シルセスキオキサン化合物が有する(メタ)アクリロイル基との反応による化学結合形成のしやすさの観点から、モノマー、オリゴマーであることが好ましい。二重結合を有するフッ素化合物がハードコート層表面に偏析し、シルセスキオキサン化合物が有する(メタ)アクリロイル基と化学結合を形成することで、優れた耐擦傷性効果が得られる。
【0053】
上記二重結合を有するフッ素化合物は、下記一般式(6)で表されるフッ素系化合物であることが好ましい。(式中、Rは(パー)フルオロアルキル基又は(パー)フルオロポリエーテル基、Rは単結合又は連結基、Rは重合性不飽和基を表す。nは1~3の整数を表す。mは1~3の整数を表す。)
【化14】
【0054】
一般式(6)において、Rは二重結合基を表す。二重結合基は、紫外線や電子線などの活性エネルギー線を照射することによりラジカル重合反応を起こしうる不飽和結合を有する基(すなわち、ラジカル重合性基)であることが好ましく、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニル基、アリル基などが挙げられ、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、及びこれらの基における任意の水素原子がフッ素原子に置換された基が好ましい。
【0055】
一般式(6)において、Rは(パー)フルオロアルキル基又は(パー)フルオロポリエーテル基を表す。ここで、(パー)フルオロアルキル基は、フルオロアルキル基及びパーフルオロアルキル基のうち少なくとも1種を表し、(パー)フルオロポリエーテル基は、フルオロポリエーテル基及びパーフルオロポリエーテル基のうち少なくとも1種を表す。耐擦傷性の観点では、R中のフッ素含有率は高いほうが好ましい。
【0056】
(パー)フルオロアルキル基は、炭素数1~20の基が好ましく、より好ましくは炭素数1~10の基である。(パー)フルオロアルキル基は、直鎖構造(例えば-CFCF、-CH(CFH、-CH(CFCF、-CHCH(CFH)であっても、分岐構造(例えば-CH(CF、-CHCF(CF、-CH(CH)CFCF、-CH(CH)(CFCFH)であっても、脂環式構造(好ましくは5員環又は6員環で、例えばパーフルオロシクロへキシル基及びパーフルオロシクロペンチル基並びにこれらの基で置換されたアルキル基)であってもよい。
【0057】
(パー)フルオロポリエーテル基は、(パー)フルオロアルキル基がエーテル結合を有している場合を指し、1価でも2価以上の基であってもよい。フルオロポリエーテル基としては、例えば-CHOCHCFCF、-CHCHOCHH、-CHCHOCHCH17、-CHCHOCFCFOCFCFH、フッ素原子を4個以上有する炭素数4~20のフルオロシクロアルキル基等が挙げられる。また、パーフルオロポリエーテル基としては、例えば、-(CFO)-(CFCFO)-、-[CF(CF)CFO]―[CF(CF)]-、-(CFCFCFO)-、-(CFCFO)-などが挙げられる。上記h及びkはそれぞれ独立に0~20の整数を表す。ただしh+kは1以上の整数である。h及びkの総計は1~83が好ましく、1~43がより好ましく、5~23がさらに好ましい。上記二重結合を有するフッ素化合物は、耐擦傷性に優れるという観点から-(CFO)-(CFCFO)-で表されるパーフルオロポリエーテル基を有することが特に好ましい。
【0058】
本発明においては、二重結合を有するフッ素化合物は、パーフルオロポリエーテル基を有し、かつ二重結合基を一分子中に複数有することが好ましい。
【0059】
一般式(6)において、Rは連結基を表す。Rとしては、例えばアルキレン基、アリーレン基及びヘテロアルキレン基、並びにこれらの基が組み合わさった連結基が挙げられる。これらの連結基は、更に、オキシ基、カルボニル基、カルボニルオキシ基、カルボニルイミノ基及びスルホンアミド基等、並びにこれらの基が組み合わさった官能基を有してもよい。Rとして、好ましくは、エチレン基、より好ましくは、カルボニルイミノ基と結合したエチレン基である。
【0060】
二重結合を有するフッ素化合物のフッ素原子含有量には特に制限は無いが、20質量%以上が好ましく、30~70質量%がより好ましく、40~70質量%がさらに好ましい。
【0061】
好ましい二重結合を有するフッ素化合物の例としては、ダイキン化学工業(株)製のR-2020、M-2020、R-3833、M-3833及びオプツールDAC(以上商品名)、DIC社製のメガファックF-171、F-172、F-179A、RS-78、RS-90、ディフェンサMCF-300及びMCF-323(以上商品名)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0062】
耐擦傷性の観点から、一般式(6)において、nとmの積(n×m)は2以上が好ましく、4以上がより好ましい。
【0063】
(二重結合を有するフッ素化合物の分子量)
重合性不飽和基を有する二重結合を有するフッ素化合物の重量平均分子量(Mw)は、分子排斥クロマトグラフィー、例えばゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定できる。本発明で用いられる二重結合を有するフッ素化合物のMwは400以上50000未満が好ましく、400以上30000未満がより好ましく、400以上25000未満が更に好ましい。
【0064】
(二重結合を有するフッ素化合物の添加量)
二重結合を有するフッ素化合物の添加量は、シルセスキオキサン化合物100重量部に対して、0.1~10質量%が好ましく、0.3~8質量%がより好ましく、0.5~5質量%が特に好ましい。
【0065】
[ハードコート組成物]
本発明のハードコート組成物は、一般式(1)で表されるシラン化合物と一般式(2)で表されるシラン化合物とを含むシラン化合物の縮合物であるシルセスキオキサン化合物と、二重結合を有するフッ素化合物を含有するハードコート組成物である。本発明のハードコート組成物は、さらに、光カチオン重合開始剤や光ラジカル重合開始剤、表面調整剤、表面改質剤等のその他の成分を含んでいてもよい。
機械強度に優れるハードコート硬化膜を形成する観点から、ハードコート組成物中の上記シルセスキオキサン化合物の含有量は、固形分の合計100重量部に対して40重量部以上が好ましく、50重量部以上がより好ましく、60重量部以上がさらに好ましい。
【0066】
[カチオン重合開始剤]
ハードコート組成物は、硬化触媒として、熱カチオン重合開始剤または光カチオン重合開始剤を含むことが好ましい。熱カチオン重合開始剤は、加熱により酸を発生する化合物(熱酸発生剤)であり、光カチオン重合開始剤は、活性エネルギー線の照射により酸を発生する化合物(光酸発生剤)である。熱及び光酸発生剤から生成した酸により、上記のシルセスキオキサン化合物が含有するエポキシ基の開環反応および重合反応が進行し、分子間架橋が形成されハードコート材料が硬化する。
【0067】
光カチオン重合開始剤としては、六フッ化アンチモン、四フッ化ホウ素、六フッ化リン、フルオロアルキルフッ化リン、フルオロアルキルフッ化ガリウム等のアニオン(強酸)と、スルホニウム、アンモニウム、ホスホニウム、ヨードニウム、セレニウム等のカチオンを組み合わせたオニウム塩類;鉄-アレン錯体類;シラノール-金属キレート錯体類;ジスルホン類、ジスルホニルジアゾメタン類、ジスルホニルメタン類、スルホニルベンゾイルメタン類、イミドスルホネート類、ベンゾインスルホネート類等のスルホン酸誘導体;有機ハロゲン化合物類等が挙げられる。
【0068】
上記の光カチオン重合開始剤の中で、カチオンとしては、エポキシ基を有するシルセスキオキサン化合物を含有するハードコート組成物における安定性が高いことから、芳香族スルホニウムまたは芳香族ヨードニウムが好ましい。上記の光カチオン重合開始剤の中で、アニオンとしては、酸強度が強いために、表面硬度や樹脂基材との密着性に優れるハードコートが得られやすいことから、フルオロアンチモネート系アニオン、フルオロボレート系アニオン、フルオロフォスフェート系アニオン、フルオロガリウム系アニオン等が好ましい。
【0069】
中でも、環境負荷が低く、環境や人体への安全性が高いカウンターアニオンとして、フルオロフォスフェート系アニオンやフルオロボレート系アニオンやフルオロガリウム系アニオン等がより好ましい。
【0070】
上記の様な光カチオン重合開始剤の具体例として、サンアプロ社製のCPI-100P、CPI-101A、CPI-200K、CPI-210S、CPI-310B、CPI-310FG、CPI-410S、IK-1、IK-1FGや、富士フィルム和光純薬社製のWPI-113、WPI-116、WPI-170、WPI-124や、荒川化学社製のブルーシルPI2074、シリコリースUVCATA243等が挙げられるが、当該メーカーの製品に限定されるものではない。
【0071】
ハードコート組成物中の光カチオン重合開始剤の含有量は、上記のシルセスキオキサン化合物100重量部に対して、0.05~10重量部が好ましく、0.1~5重量部がより好ましく、0.2~2重量部がさらに好ましい。
【0072】
<光ラジカル重合開始剤>
ハードコート組成物は、硬化触媒として、光ラジカル重合開始剤を含むことが好ましい。光ラジカル重合開始剤は、活性エネルギー線の照射によりラジカル種を発生する化合物である。光ラジカル重合開始剤から生成したラジカル種により、上記のシルセスキオキサン化合物が有する(メタ)アクリロイル基と上記の二重結合を有するフッ素化合物の反応が進行し、二重結合を有するフッ素化合物がハードコート表面に固定される。
【0073】
光ラジカル開始剤としては、活性エネルギー線を照射することにより活性種としてラジカルを発生することができるものであればよく、公知の光ラジカル開始剤を特に制限されることなく用いてよい。具体例としては、例えば、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-2-モルホリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノンオリゴマー、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン等のアセトフェノン類;1-[4-(フェニルチオ)-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]、1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]、1-(O-アセチルオキシム)等のオキシムエステル類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン類;ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルサルファイド、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、4-ベンゾイル-N,N-ジメチル-N-[2-(1-オキソ-2-プロぺニルオキシ)エチル]ベンゼンメタナニウムブロミド、(4-ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリド等のベンゾフェノン類;2-イソプロピルチオキサントン、4-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジエチルジオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、1-クロロ-4-プロポキシチオキサントン、2-(3-ジメチルアミノ-2-ヒドロキシ)-3,4-ジメチル-9H-チオキサントン-9-オンメソクロリド等のチオキサントン類;2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド類等が挙げられる。
【0074】
ハードコート組成物中の光ラジカル重合開始剤の含有量は、上記のシルセスキオキサン化合物100重量部に対して、0.05~10重量部が好ましく、0.1~5重量部がより好ましく、0.2~3重量部がさらに好ましい。
【0075】
<反応性添加剤>
ハードコート組成物は、さらに、反応性添加剤として、上記のシルセスキオキサン化合物以外のカチオン重合性化合物、または、ラジカル重合性化合物を含んでいてもよい。光カチオン重合の反応性添加剤としては、エポキシ基、ビニルエーテル基、オキセタン基、アルコキシシリル基等のカチオン重合性官能基を有する化合物が用いられる。中でも、シルセスキオキサン化合物のエポキシ基との反応性が高いことから、反応性添加剤としてはエポキシ基を有するものが好ましい。また、光ラジカル重合の反応性添加剤としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基、シンナモイル基等のラジカル重合性官能基を有する化合物が用いられる。中でも、シルセスキオキサン化合物の(メタ)アクリロイル基との反応性が高いことから、反応性添加剤としては(メタ)アクリロイル基を有するものが好ましい。
【0076】
グリシジル基を有する反応性添加剤としては例えば、2,2-ビス[4-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]プロパン、2,2-ビス[3,5-ジメチル-4-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]プロパン等のビスフェノールA型エポキシ化合物を水素化した化合物(水素化ビスフェノールA型エポキシ化合物);ビス[o,o-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン、ビス[o,p-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン、ビス[p,p-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン、ビス[3,5-ジメチル-4-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン等のビスフェノールF型エポキシ化合物を水素化した化合物(水素化ビスフェノールF型エポキシ化合物);水素化ビフェノール型エポキシ化合物;水素化フェノールノボラック型エポキシ化合物;水素化クレゾールノボラック型エポキシ化合物;ビスフェノールAの水素化クレゾールノボラック型エポキシ化合物;水素化ナフタレン型エポキシ化合物;トリスフェノールメタンから得られるエポキシ化合物の水素化エポキシ化合物;下記芳香族エポキシ化合物の水素化エポキシ化合物等が挙げられる。
【0077】
芳香族エポキシ系の反応性添加剤としては例えば、ビスフェノール類[例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール等]と、エピハロヒドリンとの縮合反応により得られるエピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;これらのエピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を上記ビスフェノール類とさらに付加反応させることにより得られる高分子量エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フェノール類[例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等]とアルデヒド[例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等]とを縮合反応させて得られる多価アルコール類を、さらにエピハロヒドリンと縮合反応させることにより得られるノボラック・アルキルタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フルオレン環の9位に2つのフェノール骨格が結合し、かつこれらフェノール骨格のヒドロキシ基から水素原子を除いた酸素原子に、それぞれ、直接又はアルキレンオキシ基を介してグリシジル基が結合しているエポキシ化合物等が挙げられる。
【0078】
脂肪族エポキシ系の反応性添加剤としては例えば、デナコールEX―121、デナコールEX―171、デナコールEX―192、デナコールEX―211、デナコールEX―212、デナコールEX―313、デナコールEX―314、デナコールEX―321、デナコールEX―411、デナコールEX―421、デナコールEX―512、デナコールEX―521、デナコールEX―611、デナコールEX―612、デナコールEX―614、デナコールEX―622、デナコールEX―810、デナコールEX―811、デナコールEX―850、デナコールEX―851、デナコールEX―821、デナコールEX―830、デナコールEX―832、デナコールEX―841、デナコールEX―861、デナコールEX―911、デナコールEX―941、デナコールEX―920、デナコールEX―931(ナガセケムテックス社製);エポライトM―1230、エポライト40E、エポライト100E、エポライト200E、エポライト400E、エポライト70P、エポライト200P、エポライト400P、エポライト1500NP、エポライト1600、エポライト80MF、エポライト100MF(共栄社化学社製)、アデカグリシロールED―503、アデカグリシロールED―503G、アデカグリシロールED―506、アデカグリシロールED―523T(ADEKA社製)、官能基としてエポキシ基のみを有するアクリルゴムとして、テイサンレジンSG―P3、テイサンレジンSG―80H、テイサンレジンSG―28GL(ナガセケムテックス製、エポキシ基含有アクリルゴム)等が挙げられる。
【0079】
脂環式エポキシ系の反応性添加剤としては例えば、3,4,3',4'-ジエポキシビシクロヘキサン、2,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロパン、1,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)エタン、2,3-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)オキシラン、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル製「セロキサイド2021P」)、ε-カプロラクトン変性3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル製「セロキサイド2081」)、ε-カプロラクトン二量体変性3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル製セロキサイド2083、またはJIANGSU TETRA NEW MATERIAL TECHNOLOGY製「TTA2083」)、ダイセル製セロキサイド2085、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート(JIANGSU TETRA NEW MATERIAL TECHNOLOGY製「TTA26」)、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物[例えば、商品名「EHPE3150」((株)ダイセル製)等]、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルアクリレート、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルメタクリレート、エポキシ変性鎖状シロキサン化合物(信越化学製「X-40-2669」)、およびエポキシ変性環状シロキサン化合物(信越化学製「KR-470」)等が挙げられる。
【0080】
(メタ)アクリロイル基を有する反応性添加剤としては例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、1-アダマンチル(メタ)アクリレート、2-アダマンチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシオリゴエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシオリゴエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート、2-シアノエチル(メタ)アクリレート、2-イソシアノエチル(メタ)アクリレート等の単官能(メタ)アクリレート類;1,4-(ビス(メタ)アクリロイルオキシ)ブタン、1,6-(ビス(メタ)アクリロイルオキシ)ヘキサン、1,10-(ビス(メタ)アクリロイルオキシ)デカン、グリセロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリレート、1-(アクリロイルオキシ)-3-(メタクリロイルオキシ)-2-プロパノール、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート等の2官能(メタ)アクリレート類が挙げられる。
【0081】
ハードコート組成物中の上記カチオン重合性またはラジカル重合性を有する反応性添加剤の含有量は、上記のシルセスキオキサン化合物100重量部に対して、50重量部以下が好ましく、30重量部以下がより好ましく、10重量部以下がさらに好ましく、0でもよい。50重量部を超えて添加すると、ハードコート層の架橋密度が低下し、表面硬度や耐擦傷性が低下するため好ましくない。
【0082】
<光増感剤>
本発明のハードコート組成物において、光重合開始剤の感光性を向上させる目的で、光増感剤を使用してもよい。光増感剤としては、使用する光重合開始剤では吸収できない波長域の光を吸収することで光重合開始剤の感光性を向上させるタイプと、光重合開始剤と吸収する波長域に大きな差異はないものの光重合開始剤の感光性を向上させるタイプのいずれを用いても良い。使用する光重合開始剤では吸収できない波長域の光を吸収するタイプを用いる場合には、光重合開始剤の吸収波長域とは異なる波長域に強い吸収を持つものが好ましい。
【0083】
光増感剤としては、特に限定されないが、例えば、アントラセン誘導体、ベンゾフェノン誘導体、チオキサントン誘導体、アントラキノン誘導体、ベンゾイル誘導体、ナフタレン誘導体等が挙げられる。具体的には、アントラセン、2-エチル-9,10-ジメトキシアントラセン、9,10-ジメチルアントラセン、9,10-ジブトキシアントラセン、9,10-ジプロポキシアントラセン、9,10-ジエトキシアントラセン、1,4-ジメトキシアントラセン、9-メチルアントラセン、2-エチルアントラセン、2-tert-ブチルアントラセン、2,6-ジ-tert-ブチルアントラセン、9,10-ジフェニル-2,6-ジ-tert-ブチルアントラセン、9,10-ビス(イソプロポキシカルボニルメトキシ)アントラセン、9,10-ジオクタノイロキシアントラセン、1,4-ジエトキシナフタレン、1,4-ジメトキシナフタレン、1,4-ジプロポキシナフタレン、1,4-ジブトキシナフタレン、ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルスルフィド、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、チオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、アンスラキノン、2-メチルアンスラキノン、2-エチルアンスラキノン、3-アセチルクマリン、3-アセチル-7-ジエチルアミノクマリン、3-ベンゾイルクマリン、3-ベンゾイル-7-ジエチルアミノクマリン、3-ベンゾイル-7-メトキシクマリン、3,3’-カルボニルビスクマリン、3,3’-カルボニルビス(7-メトキシクマリン)、3,3’-カルボニルビス(5,7-ジメトキシクマリン)等が挙げられる。
【0084】
本発明のハードコート組成物における光増感剤の含有量は、上記の光重合開始剤100重量部に対して500重量部以下が好ましく、100重量部以下がより好ましく、50重量部以下がさらに好ましい。
【0085】
<粒子>
本発明のハードコート組成物は、膜特性(表面硬度や耐屈曲性)の調整や、硬化収縮の抑制等を目的として粒子を含んでいてもよい。粒子としては、有機粒子、無機粒子、有機無機複合粒子等を適宜選択して用いればよい。有機粒子の材料としては、ポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル、架橋ポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル、架橋スチレン、ナイロン、シリコーン、架橋シリコーン、架橋ウレタン、架橋ブタジエン等が挙げられる。無機粒子の材料としては、シリカ、チタニア、アルミナ、酸化スズ、ジルコニア、酸化亜鉛、酸化アンチモン等の金属酸化物;窒化珪素、窒化ホウ素等の金属窒素化物、炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウム等の金属塩等が挙げられる。有機無機複合フィラーとしては、有機粒子の表面に無機物層を形成したものや、無機粒子の表面に有機物層または有機微粒子を形成したものが挙げられる。
【0086】
粒子の形状としては、球状、粉状、繊維状、針状、鱗片状等が挙げられる。球状粒子は異方性がなく応力が偏在し難いことから、歪みの発生が抑えられ、硬化収縮等に起因するフィルムの反りの抑制に寄与し得る。
【0087】
粒子の平均粒子径は、例えば5nm~10μm程度である。ハードコート層の透明性を高める観点から、平均粒子径は1000nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましく、300nm以下がさらに好ましく、100nm以下が特に好ましい。粒子径は、レーザー回折/散乱式の粒子径分布測定装置により測定でき、体積基準のメジアン径を平均粒子径とする。
【0088】
ハードコート組成物は、表面修飾された粒子を含んでいてもよい。粒子が表面修飾されることにより、シロキサン化合物中での粒子の分散性が向上する傾向がある。また、粒子表面がエポキシ基または(メタ)アクリロイル基と反応可能な重合性官能基により修飾されている場合は、粒子表面の官能基と本発明のシルセスキオキサン化合物のエポキシ基または(メタ)アクリロイル基とが反応して化学架橋が形成されるため、膜強度や耐屈曲性の向上が期待できる。
【0089】
エポキシ基と反応可能な重合性官能基としては、ビニル基、(メタ)アクリル基、水酸基、フェノール性水酸基、カルボキシ基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基、オキセタン基等が挙げられる。中でも、エポキシ基が好ましい。特に、光カチオン重合によるハードコート組成物の硬化の際に、粒子とシロキサン化合物との間に化学架橋を形成できることから、エポキシ基で表面修飾された粒子が好ましい。
【0090】
(メタ)アクリロイル基と反応可能な重合性官能基としては、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基等が挙げられる。中でも、光ラジカル重合によるハードコート組成物の硬化の際に、粒子とシロキサン化合物との間に化学架橋を形成できることから、(メタ)アクリロイル基で表面修飾された粒子が好ましい。
【0091】
表面に反応性官能基を有する粒子としては、例えば、表面修飾された無機粒子や、コアシェルポリマー粒子が挙げられる。これらの粒子は単独で使用してもよいし、両方を含んでいてもよい。
【0092】
<溶媒>
本発明のハードコート組成物は、溶媒を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。溶媒を含む場合には、樹脂基材を溶解させないものが好ましい。溶媒の含有量としては、本発明のシルセスキオキサン化合物100重量部に対して500重量部以下が好ましく、300重量部以下がより好ましく、100重量部以下がさらに好ましい。
【0093】
<添加剤>
本発明のハードコート組成物は、無機顔料や有機顔料、表面調整剤、表面改質剤、可塑剤、分散剤、湿潤剤、増粘剤、消泡剤等の添加剤を含んでいてもよい。また、ハードコート組成物は、上記のシルセスキオキサン化合物以外の熱可塑性または熱硬化性の樹脂材料を含んでいてもよい。
【0094】
<ハードコートフィルム:第1のハードコート層>
透明樹脂基材上にハードコート組成物を塗布し、必要に応じて溶媒を乾燥除去した後、活性エネルギー線を照射してハードコート組成物を硬化することにより、透明樹脂基材上に第1のハードコート層が形成されたハードコートフィルムが得られる。第1のハードコート層は、透明樹脂基材の一方の面のみに形成してもよく、透明樹脂基材の両方の面に形成してもよい。
【0095】
ハードコート層を塗布する前に、樹脂基材の表面に、コロナ処理やプラズマ処理等の表面処理を行ってもよい。コロナ処理やプラズマ処理を行うことで、樹脂基材とハードコート層の密着性が向上し、耐屈曲性が向上する効果が得られる。また、樹脂基材の表面に易接着層(プライマー層)等を設けてもよい。なお、本発明のハードコート組成物の硬化により形成されるハードコート層は、樹脂基材に対する高い密着性を示すため、易接着層等を設けなくてもよい。すなわち、本発明のハードコートフィルムは、樹脂基材とハードコート層とが接していてもよい。
【0096】
ハードコート組成物に活性エネルギー線を照射することにより、もしくは加熱することにより、光カチオン重合開始剤から酸が生成し、シルセスキオキサン化合物のエポキシ基が開環およびカチオン重合することにより、硬化が進行する。ハードコート組成物が反応性添加剤を含んでいる場合は、シロキサン化合物同士の重合反応に加えて、シロキサン化合物のエポキシ基と反応性添加剤との重合反応も生じる。また、ハードコート組成物が表面に反応性官能基を有する粒子を含有する場合は、粒子表面の官能基とシロキサン化合物のエポキシ基が反応して化学架橋が形成される。
【0097】
光硬化の際に照射する活性エネルギー線としては、可視光線、紫外線、赤外線、X線、α線、β線、γ線、電子線等が挙げられる。硬化反応速度が高くエネルギー効率に優れることから、活性エネルギー線としては、紫外線が好ましい。活性エネルギー線の積算照射量は、例えば50~10000mJ/cm程度であり、光カチオン重合開始剤の種類および配合量、ハードコート層の厚み等に応じて設定すればよい。硬化温度は特に限定されないが、通常150℃以下である。
【0098】
ハードコート組成物の硬化においては、光硬化反応を促進し、膜強度の高いハードコートフィルムを得る観点から、硬化雰囲気は酸素を含まない窒素雰囲気下で行ってもよい。光ラジカル重合反応における硬化雰囲気の酸素濃度は1000ppm以下が好ましく、500ppm以下がより好ましく、100ppm以下がさらに好ましい。
【0099】
ハードコート層の厚みは、0.5μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、3μm以上がさらに好ましく、5μm以上が特に好ましく、10μm以上、20μm以上または30μm以上であってもよい。ハードコート層の厚みが大きいほど、表面硬度が高くなる傾向がある。一方、透明性や耐屈曲性の観点から、ハードコート層の厚みは、100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、70μm以下であってもよい。
【0100】
<透明樹脂基材(透明フィルム)>
透明樹脂基材は、ハードコート層形成の土台となるフィルム基材である。透明樹脂基材の全光線透過率は80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。透明樹脂基材のヘイズは、2%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。
【0101】
透明樹脂基材の厚みは特に限定されず、例えば、1~1000μmであり、5~500μmが好ましく、10~200μmがより好ましく、15~150μmがさらに好ましい。
【0102】
透明樹脂基材を構成する樹脂材料は、透明樹脂であれば特に限定されない。透明樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、透明ポリイミド、環状ポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂等が挙げられる。
【0103】
中でも、機械強度が高いことから、PET等のポリエステル、および透明ポリイミドが好ましい。ハードコートフィルムがディスプレイのカバーウィンドウに用いられる場合、フィルム基材には、優れた耐熱性および機械強度が要求されることから、透明樹脂基材の樹脂材料として、透明ポリイミドが特に好ましい。一般的な全芳香族ポリイミドは黄色または褐色に着色しているのに対して、脂環式構造の導入、屈曲構造の導入、フッ素置換基の導入等により、可視光透過率が高い透明ポリイミドが得られる。
【0104】
透明樹脂基材は、単層でもよく、多層の構成でもよい。例えば、透明樹脂基材は、複数のフィルムが貼り合わせられた積層体でもよく、フィルム基材のハードコート層形成面および/またはハードコート層非形成面に、易接着層、帯電防止層、反射防止層等の機能層が設けられたものであってもよい。また、透明樹脂基材は、一方の主面に、上記のシルセスキオキサン化合物以外の材料により形成されたハードコート層を備えていてもよい。
【0105】
上記樹脂基材の厚みは特に限定されず、例えば、1~1000μmの範囲から適宜選択することができ、好ましくは5~500μm、より好ましくは、10~200μm、さらに好ましくは15~150μmである。
【0106】
<第2のハードコート層>
前述のハードコート層(第1のハードコート層)と透明樹脂基材との間に、更に別のハードコート層(第2のハードコート層)を設けることができる。第2のハードコート層を設けることで、ハードコートフィルムの反りを小さくすることができる。
【0107】
第2のハードコート層は、一般式(1)で表されるシラン化合物を含むシラン化合物の縮合物であるシルセスキオキサン化合物を含有するハードコート組成物の硬化物である。
【0108】
シラン化合物の縮合により上記シルセスキオキサン化合物を得る場合、上記のシラン化合物(1)に加えて、他のシラン化合物を用いてもよい。他のシラン化合物は、下記の一般式(5)で表される。
【化15】
【0109】
上記シルセスキオキサン化合物の重量平均分子量は、硬化物の硬度を高める観点や、シルセスキオキサン化合物の揮発を抑制する観点から、500以上であることが好ましい。一方、分子量が過度に大きいと、他の組成物との相溶性の低下等に起因して白濁が生じる場合がある。そのため、シルセスキオキサン化合物の重量平均分子量は20000以下が好ましい。
【0110】
第2のハードコート層に含まれる一般式(1)で表されるシラン化合物の割合は、第1のハードコート層に含まれる一般式(1)で表されるシラン化合物の割合よりも大きいことが好ましい。一般式(1)で表されるシラン化合物は硬化する際に膨張するため、含まれる割合が大きいと、硬化した際のハードコートフィルムの反りを抑制することができる。
第2のハードコート層に含まれるシルセスキオキサン化合物中のSi原子の総数に対する一般式(1)で表されるシラン化合物の割合は、反りを抑制する観点から0.5以上であることが好ましく、0.6以上であることがより好ましく、0.8以上であることがさらに好ましく、1であってもよい。
【0111】
上記シルセスキオキサン化合物は、一般式(1)で表されるシラン化合物の加水分解および縮合反応により形成され、一般式(3)または一般式(4)で表される構成単位を含む。式(3)で表される構成単位(一般式(1)及び(2)中、x=3であるT単位構造を有するシラン化合物の有する3つのアルコキシシランが、全て縮合反応しSi-O-Si構造を取っている構造。以下[T3体]と記載)と、式(4)で表される構成単位(一般式(1)及び(2)中、x=3であるT単位構造を有するシラン化合物の有する3つのアルコキシシランの内、2つが縮合反応しSi-O-Si構造を取っている構造。以下[T2体]と記載)の割合[T3体]/[T2体]は、0.8以上5未満であることが好ましく、1以上4未満であることがより好ましく、1.5以上3未満であることがさらに好ましい。T3体とT2体の割合[T3体]/[T2体]を5未満とすることにより、本発明のシルセスキオキサン化合物の硬化物からなるハードコート層を有するハードコートフィルムは、優れた耐屈曲性を示す。縮合物中のT3体の含有量が多くなり、[T3体]/[T2体]が5以上となると、得られる縮合物は緻密な構造をとり、柔軟性が低下するため、ハードコートフィルムとしたときの耐屈曲性が低下する。
【0112】
シルセスキオキサン化合物の加水分解および縮合反応は、中性塩触媒の存在下で実施する。加水分解および縮合反応を中性塩触媒の存在下で実施することにより、加水分解および縮合反応の前後および貯蔵中に、エポキシ基を失活させることなく、シルセスキオキサン化合物を得ることができる。中性塩の使用量は、シラン化合物の加水分解性シリル基1モルに対して、0.000001モル以上0.1モル以下が好ましく、0.000005モル以上0.01モル以下が特に好ましい。シルセスキオキサン化合中に残存する中性塩の量は、1ppm~10000ppmであることが好ましく、50ppm~5000ppmがより好ましく、100ppm~1000ppmであることがさらに好ましい。
【0113】
[カチオン重合開始剤]
上記ハードコート組成物は、硬化触媒として、熱カチオン重合開始剤または光カチオン重合開始剤を含むことが好ましい。熱カチオン重合開始剤は、加熱により酸を発生する化合物(熱酸発生剤)であり、光カチオン重合開始剤は、活性エネルギー線の照射により酸を発生する化合物(光酸発生剤)である。熱及び光酸発生剤から生成した酸により、上記のシルセスキオキサン化合物が含有するエポキシ基の開環反応および重合反応が進行し、分子間架橋が形成されハードコート材料が硬化する。
【0114】
<第2のハードコート層と第1のハードコート層とを有するハードコートフィルム>
透明樹脂基材上に、一般式(1)で表されるシラン化合物を含むシラン化合物の縮合物であるシルセスキオキサン化合物を含有するハードコート組成物を塗布し、必要に応じて溶媒を乾燥除去した後、活性エネルギー線を照射してハードコート組成物を硬化したのちに、一般式(1)で表されるシラン化合物と一般式(2)で表されるシラン化合物とを含むシラン化合物の縮合物であるシルセスキオキサン化合物と二重結合を有するフッ素化合物を含有するハードコート組成物を含有するハードコート組成物を塗布し、必要に応じて溶媒を乾燥除去した後、活性エネルギー線を照射してハードコート組成物を硬化することにより、第2のハードコート層と第1のハードコート層とを有するハードコートフィルムが得られる。
【0115】
第2のハードコート層を塗布する前に、樹脂基材の表面にコロナ処理やプラズマ処理等の表面処理を行ってもよい。また、第1のハードコート層を塗布する前に、第2のハードコート層の表面にコロナ処理やプラズマ処理等の表面処理を行ってもよい。コロナ処理やプラズマ処理を行うことで、樹脂基材とハードコート層またはハードコート層同士の密着性が向上し、耐屈曲性が向上する効果が得られる。
【0116】
ハードコート組成物に活性エネルギー線を照射することにより、もしくは加熱することにより、カチオン重合開始剤から酸が生成し、シルセスキオキサン化合物のエポキシ基が開環およびカチオン重合することにより、硬化が進行する。ハードコート組成物が反応性添加剤を含んでいる場合は、シロキサン化合物同士の重合反応に加えて、シロキサン化合物のエポキシ基と反応性添加剤との重合反応も生じる。また、ハードコート組成物が表面に反応性官能基を有する粒子を含有する場合は、粒子表面の官能基とシロキサン化合物のエポキシ基が反応して化学架橋が形成される。
【0117】
光硬化の際に照射する活性エネルギー線としては、可視光線、紫外線、赤外線、X線、α線、β線、γ線、電子線等が挙げられる。硬化反応速度が高くエネルギー効率に優れることから、活性エネルギー線としては、紫外線が好ましい。活性エネルギー線の積算照射量は、例えば50~10000mJ/cm程度であり、光カチオン重合開始剤の種類および配合量、ハードコート層の厚み等に応じて設定すればよい。硬化温度は特に限定されないが、通常150℃以下である。
【0118】
第2のハードコート層の膜厚は、第1のハードコート層と同様に、0.5μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、3μm以上がさらに好ましく、5μm以上が特に好ましく、10μm以上、20μm以上または30μm以上であってもよい。ハードコート層の厚みが大きいほど、表面硬度が高くなる傾向がある。一方、透明性や耐屈曲性の観点から、ハードコート層の厚みは、100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、70μm以下であってもよい。
【0119】
本発明のハードコートフィルムの総厚みは、1~1000μmの範囲から適宜選択することができ、好ましくは10~500μmであり、より好ましくは15~300μmであり、さらに好ましくは20~250μmである。
【0120】
本発明のハードコートフィルムにおける、ハードコート層の厚みと樹脂基材の厚みとの比率(ハードコート層厚み/樹脂基材厚み)は特に限定されず、例えば、1/100~10/1の間から適宜選択すればよい。
【0121】
[ハードコートフィルムの特性]
本発明のハードコート組成物の硬化により形成されるハードコート層は、樹脂基材との密着性に優れる。また、ハードコート組成物は、シルセスキオキサン化合物がエポキシ基の開環および重合反応により架橋されたポリマーマトリクスを有するため、ガラスに匹敵する表面硬度を実現し得る。本発明のハードコートフィルムの本発明のハードコート層形成面の鉛筆硬度はHB以上が好ましく、H以上がより好ましく、2H以上がさらに好ましく、3H以上が特に好ましい。
【0122】
本発明のハードコートフィルムは、上記のように高い表面硬度を有し、かつ耐屈曲性にも優れる。本発明のハードコートフィルムは、本発明のハードコート層形成面を外側にしてハードコート層厚みが10μmにおいて円筒マンドレル試験を行った際に、クラックが生じるマンドレル直径が、8mm以下であることが好ましく、6mm以下であることがより好ましく、4mm以下であることがさらに好ましい。
【0123】
本発明のハードコートフィルムは、水接触角が100度以上であることが好ましく、105度以上であることがより好ましく、110度以上であることがさらに好ましい。また、スチールウール試験や消しゴム試験などの耐擦り傷性試験を行った後も、水接触角が80度以上を保つことが好ましく、90度以上を保つことがより好ましく、100度以上を保つことがさらに好ましい。
【0124】
本発明のハードコートフィルムの全光線透過率は80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、88%以上がさらに好ましい。また、本発明のハードコートフィルムのヘイズは1.5%以下が好ましく、0.9%以下がより好ましく、0.7%以下がさらに好ましく、0.5%以下が特に好ましい。また、本発明のハードコートフィルムのYIは5以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下が特に好ましい
【0125】
前述のように、硬化の際に、光カチオン重合開始剤(光酸発生剤)から酸が生成して光硬化が進行する。そのため、硬化後のハードコート層には、光カチオン重合開始剤のカウンターアニオンが残存している。ハードコート層は、前述の光カチオン重合開始剤のカウンターアニオンとして、フルオロフォスフェート系アニオン、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート系アニオン、フルオロガリウム系アニオン、またはそれらの塩を含んでいてもよい。
本発明のハードコート組成物が粒子を含む場合、光硬化後のハードコート層にも粒子が含まれる。ハードコート組成物が、エポキシ基と反応可能な重合性官能基を有する粒子を含む場合、光硬化後のハードコート層は、シルセスキオキサン化合物と粒子との間に化学架橋が形成されていることが好ましい。
【0126】
[ハードコートフィルムの応用]
ハードコートフィルムは、ハードコート層上、または樹脂基材のハードコート層非形成面には、各種の機能層を設けてもよい。機能層としては、反射防止層、防眩層、帯電防止層、透明電極等が挙げられる。また、ハードコートフィルムには、透明粘着剤層が付設されてもよい。
【0127】
本発明のハードコートフィルムは、透明性が高く、機械強度に優れるため、画像表示パネルの表面に設けられるカバーウインドウや、ディスプレイ用透明基板、タッチパネル用透明基板、太陽電池用基板等に好適に用いることができる。本発明のハードコートフィルムは、透明性および機械強度に加えて、耐屈曲性および耐屈曲性にも優れることから、特に、曲面ディスプレイやフレキシブルディスプレイ等のカバーウインドウや基板フィルムとして好適に使用できる。
【実施例0128】
以下、実施例および比較例に基づき、本発明についてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、以下の合成例にて得られる縮合物の評価方法は、次の通りである。
【0129】
<重量平均分子量Mwの測定>
重量平均分子量は、GPCにより測定した。東ソー社製GPC装置HLC-8220GPC(カラム:TSKgel GMHXL×2本、TSKgel G3000HXL,TSKgel G2000HXL)を用い、溶媒としてTHFを用い、ポリスチレン換算で算出した。
【0130】
<T2体に対するT3体の割合[T3体]/[T2体]の算出>
アジレント社製600MHz-NMRを用いて、29Si-NMR測定を実施することにより、T3体とT2体の含有量およびその割合[T3体]/[T2体]をそれぞれ算出した。
【0131】
<エポキシ基およびアクリロイル基の残存率評価>
ブルカー社製400MHz-NMRを用いて、重アセトンを溶媒としてH-NMR測定を実施することにより、反応後に得られた縮合物のエポキシ基およびアクリロイル基の残存量を算出した。
【0132】
[シルセスキオキサン化合物の合成]
(合成例1)
温度計、撹拌装置、還流冷却管を取り付けた反応容器に、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM-303)(44.4g;180mmol)、3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(東京化成工業社製、A1597)(14.1g;60mmol)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(14.7g)およびメタノール(5.15g)を順に仕込み、均一に撹拌した。この混合液に、水(8.65g;480mmol)に溶解した塩化マグネシウム(34.3mg;0.36mmol)溶液をゆっくりと滴下し、均一になるまで撹拌した。その後、80℃に昇温し、撹拌しながら6時間重縮合反応を行った。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて減圧脱揮および濃縮を行い、縮合物中のメタノールおよび水を除去して、シルセスキオキサン化合物1を得た。
得られたシルセスキオキサン化合物を分析したところ、重量平均分子量Mwは3200、H-NMR測定により算出されるメトキシ基の残存率は4.9%、エポキシ基の残存率は95%以上、アクリロイル基の残存率は99%以上、29Si-NMR測定により算出される[T3体]/[T2体]は2.1であった。また、上記仕込み重量に基づいて算出した塩化マグネシウム(中性塩触媒)の含有量は807ppmであった。
【0133】
(合成例2)
温度計、撹拌装置、還流冷却管を取り付けた反応容器に、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM-303)(18.5g;75mmol)、3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(東京化成工業社製、A1597)(17.6g;75mmol)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(9.19g)およびメタノール(3.22g)を順に仕込み、均一に撹拌した。この混合液に、水(5.41g;300mmol)に溶解した塩化マグネシウム(21.4mg;0.225mmol)溶液をゆっくりと滴下し、均一になるまで撹拌した。その後、80℃に昇温し、撹拌しながら6時間重縮合反応を行った。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて減圧脱揮および濃縮を行い、縮合物中のメタノールおよび水を除去して、シルセスキオキサン化合物2を得た。
得られたシルセスキオキサン化合物を分析したところ、重量平均分子量Mwは3100、H-NMR測定により算出されるメトキシ基の残存率は4.2%、エポキシ基の残存率は95%以上、アクリロイル基の残存率は99%以上、29Si-NMR測定により算出される[T3体]/[T2体]は2.1であった。また、上記仕込み重量に基づいて算出した塩化マグネシウム(中性塩触媒)の含有量は819ppmであった。
【0134】
(合成例3)
温度計、撹拌装置、還流冷却管を取り付けた反応容器に、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM-303)(9.24g;37.5mmol)、3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(東京化成工業社製、A1597)(26.4g;112.5mmol)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(9.19g)およびメタノール(3.22g)を順に仕込み、均一に撹拌した。この混合液に、水(5.41g;300mmol)に溶解した塩化マグネシウム(21.4mg;0.225mmol)溶液をゆっくりと滴下し、均一になるまで撹拌した。その後、80℃に昇温し、撹拌しながら6時間重縮合反応を行った。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて減圧脱揮および濃縮を行い、縮合物中のメタノールおよび水を除去して、シルセスキオキサン化合物3を得た。
得られたシルセスキオキサン化合物を分析したところ、重量平均分子量Mwは3000、H-NMR測定により算出されるメトキシ基の残存率は3.8%、エポキシ基の残存率は95%以上、アクリロイル基の残存率は99%以上、29Si-NMR測定により算出される[T3体]/[T2体]は2.1であった。また、上記仕込み重量に基づいて算出した塩化マグネシウム(中性塩触媒)の含有量は835ppmであった。
【0135】
(合成例4)
温度計、撹拌装置、還流冷却管を取り付けた反応容器に、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM-303)(1.97g;8mmol)、3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(東京化成工業社製、A1597)(16.87g;72mmol)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(4.90g)およびメタノール(1.72g)を順に仕込み、均一に撹拌した。この混合液に、水(2.88g;160mmol)に溶解した塩化マグネシウム(11.4mg;0.12mmol)溶液をゆっくりと滴下し、均一になるまで撹拌した。その後、80℃に昇温し、撹拌しながら6時間重縮合反応を行った。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて減圧脱揮および濃縮を行い、縮合物中のメタノールおよび水を除去して、シルセスキオキサン化合物4を得た。
得られたシルセスキオキサン化合物を分析したところ、重量平均分子量Mwは3000、H-NMR測定により算出されるメトキシ基の残存率は3.6%、エポキシ基の残存率は95%以上、アクリロイル基の残存率は99%以上、29Si-NMR測定により算出される[T3体]/[T2体]は2.1であった。また、上記仕込み重量に基づいて算出した塩化マグネシウム(中性塩触媒)の含有量は843ppmであった。
【0136】
(合成例5)
温度計、撹拌装置、還流冷却管を取り付けた反応容器に、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(信越化学工業製「KBM-303」)(61.6g;250mmol)、および1-メトキシ-2-プロパノール(PGME)(15.3g)を仕込み、均一に撹拌した。この混合液に、水(9.0g;499mmol)に溶解した塩化マグネシウム(35.7mg;0.375mmol)溶液を、5分かけて滴下し、均一になるまで撹拌した。その後、80℃に昇温し、撹拌しながら6時間重縮合反応を行った。反応終了後、ロータリーエバポレーターにより溶媒および水を留去して、シルセスキオキサン化合物4を得た。
得られたシルセスキオキサン化合物を分析したところ、重量平均分子量Mwは3300、H-NMR測定により算出されるメトキシ基の残存率は4.6%、エポキシ基の残存率は95%以上、29Si-NMR測定により算出される[T3体]/[T2体]は2.3であった。また、上記仕込み重量に基づいて算出した塩化マグネシウム(中性塩触媒)の含有量は800ppmであった。
【0137】
(合成例6)
温度計、撹拌装置、還流冷却管を取り付けた反応容器に、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM-303)(44.4g;180mmol)、3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(東京化成工業社製、A1597)(14.1g;60mmol)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(14.7g)およびメタノール(5.15g)を順に仕込み、均一に撹拌した。この混合液に、水(8.65g;480mmol)に溶解した炭酸カリウム(49.8mg;0.36mmol)溶液をゆっくりと滴下し、均一になるまで撹拌した。その後、80℃に昇温し、撹拌しながら6時間重縮合反応を行った。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて減圧脱揮および濃縮を行い、縮合物中のメタノールおよび水を除去して、シルセスキオキサン化合物6を得た。
【0138】
ハードコート組成物の調製方法及びハードコートフィルムの作製方法については、以下の通りである。
【0139】
[ハードコート組成物の調製及びハードコートフィルムの作製]
(実施例1:ハードコートフィルム1の作製)
合成例1にて得られたシルセスキオキサン化合物1をプロピレングリコールモノメチルエーテルで50%に希釈した。シルセスキオキサン化合物100重量部に対して、光カチオン重合開始剤(サンアプロ社製:CPI-101A)のプロピレンカーボネート50%溶液を固形分にして2重量部配合し、光ラジカル重合開始剤(富士フイルム和光純薬社製:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(Irgacure184))を固形分にして1重量部配合し、二重結合を有するフッ素化合物(DIC社製:RS-90)を固形分にして0.5重量部配合して、ハードコート組成物1を得た。
【0140】
厚さ50μmの透明ポリイミド基材の主面1に、コロナスキャナーを用いて放電出力が600W・min/m2となるようにコロナ処理を行った。ハードコート組成物1を乾燥膜厚が15μmとなるようにバーコーターを用いて塗布し、120℃で10分間加熱した。その後、室温、窒素雰囲気下、高圧水銀ランプを用いて、波長365nmの積算光量が600mJ/cmとなるように紫外線を照射することで、ハードコート組成物を硬化させて、ハードコートフィルム1を得た。
【0141】
(実施例2~4、比較例1~2:ハードコートフィルム2~6の作製)
合成例2~6にて得られたシルセスキオキサン化合物2~6を使用し、配合量と厚みを表1に記載したように変更する以外は実施例1と同様にして、ハードコートフィルム2~6を得た。
【0142】
(実施例5:ハードコートフィルム7の作製)
合成例1にて得られたシルセスキオキサン化合物1をプロピレングリコールモノメチルエーテルで50%に希釈した。シルセスキオキサン化合物100重量部に対して、光カチオン重合開始剤(サンアプロ社製:CPI-101A)のプロピレンカーボネート50%溶液を固形分にして2重量部配合し、光ラジカル重合開始剤(富士フイルム和光純薬社製:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(Irgacure184))を固形分にして1重量部配合し、二重結合を有するフッ素化合物(DIC社製:RS-90)を固形分にして0.5重量部配合して、ハードコート組成物1を得た。
次に、合成例5にて得られたシルセスキオキサン化合物5をプロピレングリコールモノメチルエーテルで50%に希釈した。シルセスキオキサン化合物100重量部に対して、光カチオン重合開始剤(サンアプロ社製:CPI-101A)のプロピレンカーボネート50%溶液を固形分にして0.5重量部配合し、レベリング剤(ビックケミー社製:BYK-300)を固形分にして0.25重量部配合して、ハードコート組成物7を得た。
【0143】
厚さ50μmの透明ポリイミド基材の主面1に、コロナスキャナーを用いて放電出力が600W・min/mとなるようにコロナ処理を行った。ハードコート組成物7を乾燥膜厚が20μmとなるようにバーコーターを用いて塗布し、120℃で10分間加熱した。その後、高圧水銀ランプを用いて、波長365nmの積算光量が600mJ/cmとなるように紫外線を照射した。
硬化させたハードコート層表面を、コロナスキャナーを用いて放電出力が600W・min/mとなるようにコロナ処理した後、ハードコート層上に、ハードコート組成物1を乾燥膜厚が15μmとなるようにバーコーターを用いて塗布し、120℃で10分間加熱した。その後、室温、窒素雰囲気下、高圧水銀ランプを用いて、波長365nmの積算光量が600mJ/cmとなるように紫外線を照射することで、ハードコート組成物を硬化させて、ハードコートフィルム7を得た。
【0144】
(実施例6~8:ハードコートフィルム8~10の作製)
ハードコート組成物1の代わりに、合成例2~4にて得られたシルセスキオキサン化合物2~4を使用したハードコート組成物2~4を使用し、配合量と厚みを表2に記載したように変更する以外は実施例5と同様にして、ハードコートフィルム8~10を得た。
【0145】
実施例および比較例で得られたハードコートフィルムに対する物性評価は、以下の通りである。また、各実施例、各比較例の評価結果を表1および2に示す。
【0146】
<耐屈曲性(円筒マドレル(直径))>
JIS K5600-5-1:1999に従い、樹脂基材上に形成されたハードコート層を外側として、タイプ1の試験機を用いて円筒型マンドレル試験を行った。マンドレル試験の結果は、ハードコート層の厚みに大きく依存するため、ハードコート層厚みが近しいもの同士で比較することが好ましい。ハードコート層の厚みが同じであれば、マンドレルの径が小さいほど、耐屈曲性に優れることを示す。また、マンドレル径が同じであれば、ハードコート層の厚みが厚いほど、耐屈曲性に優れることを示す。
【0147】
<表面硬度(鉛筆硬度)>
JIS K5600-5-4:1999に従い、750gの荷重にてハードコート層形成面の鉛筆硬度を測定し、表面硬度の評価を行った。
【0148】
<(初期)接触角>
樹脂基材上に形成されたハードコート層を上面として、液滴として水を用いる液滴法により、接触角測定を行った。
【0149】
<耐擦傷性>
新東科学社製往復摩耗試験機TYPE30を用いて、ハードコートフィルムの表面の摩擦試験を以下の条件で行い、耐擦傷性を評価した。
摩擦子:日本スチールウール社製スチールウール #0000番手
摩擦子接触面積:Φ2.5cm、円形
摩擦距離(片道):5cm
摩擦速度:10cm/s(1往復/s)
荷重:500g
所定の往復回数摩擦試験後のハードコートフィルムの表面を目視で観察し、傷が発生した摩擦回数を計測し、以下のように評価した。
〇:1500回摩擦しても傷付かない
×:1500回摩擦するまでに傷付く
【0150】
<スチールウール試験後接触角>
スチールウール試験後に、前記接触角を測定することで、スチールウール試験後接触角を測定した。スチールウール試験前後の接触角変化が小さいほど、ハードコートの耐擦傷性が高く、防汚性に優れる。
【0151】
<スチールウール試験後に溶剤払拭後接触角>
スチールウール試験後に、試験部分を、アセトンを含ませたクリーニングクロス(東レ社製;トレシーPW)でこすった後、水接触角を測定することで、スチールウール試験後に溶剤払拭後接触角を測定した。溶剤払拭前後の接触角変化が小さいほど、ハードコートの耐擦傷性が高く、防汚性に優れる。
【0152】
<全光線透過率およびヘイズ>
スガ試験機製ヘイズメーターHZ-V3を用いて、JIS K7361-1:1999およびJIS K7136:2000に記載の方法により測定した。なお、測定にはD65光源を用い、全光線透過率は、ハードコートフィルムへの平行入射光束に対する全透過光束(平行光線成分および拡散光線成分)の割合として算出した。
【0153】
<スチールウール試験後全光線透過率およびヘイズ>
スチールウール試験後に、前述の方法で全光線透過率およびヘイズを測定した。また、スチールウール試験前後のヘイズの変化も計算した。スチールウール試験前後でのヘイズの変化が小さいほど、ハードコートの耐擦傷性が高く、防汚性に優れる。

【表1】
【表2】
【0154】
表1に記載の実施例1~4は、高い表面硬度と、ハードコートを外曲げに曲げたときの耐屈曲性を両立しており、耐擦傷性も良好な値を示した。
【0155】
脂環式エポキシ基を有するシラン化合物のみを含む比較例1と、シラン化合物の縮合触媒に炭酸カリウムを使用した比較例2は、いずれもハードコートを外曲げに曲げたときの耐屈曲性が劣っていた。
【0156】
表2に記載の実施例5~8は、いずれも高い表面硬度と、耐擦傷性を両立していた。