(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003123
(43)【公開日】2023-01-11
(54)【発明の名称】高調波抑制制御回路
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20221228BHJP
H02M 3/155 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
H02M7/48 Y
H02M3/155 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021104103
(22)【出願日】2021-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河村 達司
(72)【発明者】
【氏名】宮谷 和樹
【テーマコード(参考)】
5H730
5H770
【Fターム(参考)】
5H730AS04
5H730AS13
5H730BB14
5H730BB57
5H730CC02
5H730EE57
5H730EE59
5H730FD01
5H730FD41
5H730FG05
5H770AA05
5H770AA09
5H770BA01
5H770CA01
5H770CA02
5H770EA03
5H770GA02
5H770HA02W
5H770HA03W
5H770KA01Z
5H770KA03Z
(57)【要約】
【課題】5次高調波の抑制と電源力率改善を安価な回路とシンプルな制御で実現することのできる高調波抑制制御回路を提供する。
【解決手段】三相電源15からの電源をモータ70を駆動するインバータ17に送る昇圧チョッパー回路10と、インバータ17に対して昇圧チョッパー回路10から送られる電源に高調波成分を抑制するための補正を行う制御回路20と、を備え、制御回路20は、少なくとも三相電源からの電源波形を反転処理するデューティー補正演算部30と、少なくとも三相電源からの電圧を電流値に基づいてデューティー比を規制する電圧・電流演算部40と、デューティー補正演算部30から送られる電源および電圧・電流演算部40から送られる電源に基づいて演算して所定の補正値をインバータ17に送るデューティー演算部50と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相電源からの電源をモータを駆動するインバータに送る昇圧チョッパー回路と、
前記インバータに対して前記昇圧チョッパー回路から送られる電源に高調波成分を抑制するための補正を行う制御回路と、を備え、
前記制御回路は、
少なくとも前記三相電源からの電源波形を反転処理するデューティー補正演算部と、
少なくとも前記三相電源からの電圧を電流値に基づいてデューティー比を規制する電圧・電流演算部と、
前記デューティー補正演算部から送られる電源および前記電圧・電流演算部から送られる電源に基づいて演算して所定の補正値を前記インバータに送るデューティー演算部と、を備えていることを特徴とする高調波抑制制御回路。
【請求項2】
前記昇圧チョッパー回路は、前記三相電源から三相電源を入力して、前記制御回路からの補正値で補正されることで、電流波形が電圧波形に応じた略台形状の波形に形成されるとともに、電圧波形の最大位置および最小位置に対応する部分にわずかな突起が形成された波形に成型されることを特徴とする請求項1に記載の高調波抑制制御回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高調波抑制制御回路に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、三相交流電源の整流後、DC電圧をスイッチングさせて電流波形を矩形波状に近づけることで高調波を抑制する技術を開示している。また、1つの系統電源に同回路を複数設けることで、複数台のモータを駆動させる技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、5次高調波の抑制と電源力率改善を安価な回路とシンプルな制御で実現することのできる高調波抑制制御回路を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本開示の高調波抑制制御回路は、三相電源からの電源をモータを駆動するインバータに送る昇圧チョッパー回路と、前記インバータに対して前記昇圧チョッパー回路から送られる電源に高調波成分を抑制するための補正を行う制御回路と、を備え、前記制御回路は、少なくとも前記三相電源からの電源波形を反転処理するデューティー補正演算部と、少なくとも前記三相電源からの電圧を電流値に基づいてデューティー比を規制する電圧・電流演算部と、前記デューティー補正演算部から送られる電源および前記電圧・電流演算部から送られる電源に基づいて演算して所定の補正値を前記インバータに送るデューティー演算部と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、5次高調波を抑制するとともに、力率を改善することができる。そのため、次高調波を抑制することができることで、高調波の流出電流の上限値に至るまで設置できる圧縮機の台数を増やすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施の形態1の高調波抑制制御回路を示す概略構成図
【
図2】実施の形態1のデューティー補正演算部の構成を示す概略構成図
【
図3】デューティー補正演算部の変形例を示す概略構成図
【
図4】実施の形態1の電圧・電流演算部の構成を示す概略構成図
【
図5】実施の形態1のデューティー演算部の構成を示す概略構成図
【
図6】
図6(a)は、三相交流電圧波形を示すグラフ、
図6(b)は反転処理後の波形を示すグラフ、
図6(c)は、デューティー補正演算部から出力される波形を示すグラフ
【
図7】実施の形態1の制御回路からの出力される電圧・電流波形を示すグラフ
【
図8】
図8(a)は実施の形態1によるモータを駆動した場合の高調波を測定した場合の実験結果を示すグラフ、
図8(b)は、実施の形態1の制御を行わない場合の実験結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0008】
(本開示の基礎となった知見等)
発明者らが本開示に想到するに至った当時、三相交流電源の整流後、DC電圧をスイッチングさせて電流波形を矩形波状に近づけることで高調波を抑制する技術があった。
【0009】
しかしながら、三相交流機器において、電源高調波の中でも影響度の大きい5次高調波を抑制するため電流波形を矩形波状に近づけても、高次高調波に対して5次高調波成分が大きくなってしまう。
また、電流波形を矩形波状に近づけるだけでは電圧波形との乖離が大きいため、力率改善を含めた柔軟性のある制御を実現することができない。さらに、大電力容量機器においては各部品コストが割高となり、一般電気機器での活用は困難であるという課題を発明者らは発見し、その課題を解決するために、本開示の主題を構成するに至った。
本開示は、5次高調波の抑制と電源力率改善を安価な回路とシンプルな制御で実現することのできる高調波抑制制御回路を提供する。
【0010】
以下、図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が必要以上に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0011】
(実施の形態1)
[1-1.構成]
図1は、実施の形態1の高調波抑制制御回路を示す概略構成図である。
図1に示すように、高調波抑制制御回路1は、昇圧チョッパー回路10と、制御回路20とを備えている。
昇圧チョッパー回路10は、コイル11と、スイッチング回路12と、平滑コンデンサ回路13とを備えている。三相電源15からの三相交流電圧は、三相ブリッジ回路16を介して平滑化されてDC電圧としてコイル11に送られ、スイッチング回路12、平滑コンデンサ回路13を介してインバータ17に送られる。
制御回路20は、デューティー補正演算部30と、電圧・電流演算部40と、デューティー演算部50と、インバータ制御部60とを備えている。
【0012】
図2は、デューティー補正演算部30の構成を示す概略構成図である。
図2に示すように、デューティー補正演算部30は、反転処理部31と、正規化処理部32と、ローパスフィルタ33と、オフセット処理部34と、ディレイ処理部35とを備えている。
反転処理部31は、三相ブリッジ回路21を通り整流され電圧センサ22を通過した後のDC電圧を反転処理する。
正規化処理部32は、反転処理部31により反転処理されたDC電圧を所定のレンジ範囲に収まるように正規化する。
【0013】
ローパスフィルタ33は、フィルタ係数演算部36によるフィルタ係数に基づいて、正規化されたDC電圧波形の頂点部分を丸くなるように補正し、無駄な高調波成分を除去する。
オフセット処理部34は、オフセット演算部37によりオフセット量に基づいて、電流に応じてゲインを調整する。
ディレイ処理部35は、ディレイ演算部38のディレイ量に応じて、ソフトウェアの演算速度に応じた遅延調整を行う。
このようにDC電圧を処理した後、デューティー演算部50に送られる。
【0014】
なお、フィルタ係数演算部36のフィルタ係数、オフセット演算部37のオフセット量、ディレイ演算部38のディレイ量は、あらかじめデータテーブルなどに記憶されている。
【0015】
この場合に、
図3示すように、電流センサ23により電流値に応じて、フィルタ係数演算部36のフィルタ係数、オフセット演算部37のオフセット量、ディレイ演算部38のディレイ量を逐次演算して求めるようにしてもよい。
【0016】
図4は、電圧・電流演算部40の構成を示す概略構成図である。
図4に示すように、電圧・電流演算部40は、電圧センサ22から送られるDC電圧をフィルタリングするローパスフィルタ41と、エラーアンプ42と、リミッター43と、を備えている。
電圧・電流演算部40は、電流センサ23から送られるDC電流をフィルタリングするローパスフィルタ44と、電流値に基づいてリミッター値を演算するリミッター演算部45とを備えている。
【0017】
DC電圧は、ローパスフィルタ41、エラーアンプ42に送られ、基準電圧46に基づいてエラーアンプ42でフィルタリングされる。そして、リミッター43により、リミッター演算部45から送られるリミッター値に基づいて、昇圧後のデューティー比に制限を加えた後、デューティー演算部50に送られる。
【0018】
図5は、デューティー演算部50の構成を示す概略構成図である。
図5に示すように、デューティー演算部50は、乗算機51と、リミッター52と、PWM生成部53と、を備えている。
デューティー演算部50においては、デューティー補正演算部30から送られるDC電圧と、電圧・電流演算部40から送られるDC電圧とを、乗算機51により演算し、最大デューティー閾値54に基づいてリミッター52により、最大デューティー比に補正した後、PWM生成部53を介してインバータ制御部60に送られる。
【0019】
[1-2.作用]
次に、実施の形態1の作用について説明する。
本実施の形態において、三相電源15からの三相交流電圧は、三相ブリッジ回路16を介して平滑化されてDC電圧としてコイル11に送られ、スイッチング回路12、平滑コンデンサ回路13を介してインバータ17に送られる。
図6(a)は、三相交流電圧波形を示している。
一方、三相電源からの三相交流電圧は、電圧センサ22を介してデューティー補正演算部30に送られる。
【0020】
デューティー補正演算部30において、三相ブリッジ回路21から送られるDC電圧は、反転処理部31により整流されたDC電圧を反転処理され(
図6(b)参照)、正規化処理部32により、所定のレンジ範囲に収まるように正規化される。
【0021】
その後、DC電圧は、ローパスフィルタ33により、フィル係数演算部によるフィルタ係数に基づいて、正規化されたDC電圧波形の頂点部分を丸くなるように補正され、無駄な高調波成分が除去される。
そして、DC電圧は、オフセット処理部34により、オフセット演算部37によるオフセット量に基づいて、電流に応じてゲインが調整された後、ディレイ処理部35により、ディレイ演算部38のディレイ量に応じて、ソフトウェアの演算速度に応じた遅延調整が行われ、デューティー演算部50に送られる。
このようにDC電圧を処理することで、
図6(c)に示す電圧波形を得ることができる。
【0022】
電圧・電流演算部40において、電圧センサ22から送られるDC電圧は、ローパスフィルタ41により、基準電圧46に基づいてエラーアンプ42でフィルタリングされ、リミッター演算部45から送られるリミッター値に基づくリミッター43により、昇圧後のデューティー比に制限を加えた後、デューティー演算部50に送られる。
【0023】
デューティ演算部において、デューティー補正演算部30から送られるDC電圧と、電圧・電流演算部40から送られるDC電圧とを、乗算機51により演算し、最大デューティー閾値54に基づいて、リミッター52により最大デューティー比に補正した後、PWM生成部53を介してインバータ制御部60に送られる。
【0024】
これにより、
図7に示すような電圧波形となる。また、電流波形は、略台形状の波形に成型され、三相電圧の最大位置および最小位置に対応する部分にわずかな突起が形成された波形に成型されることになる。
このように成型された波形により、インバータ制御部60からインバータ17を制御して、モータ70が駆動される。
【0025】
図8は、実施の形態1による電圧波形によりモータ70を駆動した場合の高調波を測定した場合の実験結果を示すグラフである。
図8(a)は実施の形態1による実験結果であり、
図8(b)は、実施の形態1の制御を行わない場合の実験結果を示している。
図8(b)に示すように、実施の形態1の制御を行わない場合において、高調波成分の内、特に、5次高調波の値が極めて多くなっている。
これに対して、
図8(a)に示すように、実施の形態1の場合は、5次高調波が約半分程度に抑制されていることがわかる。
【0026】
契約電力1kW当たりの高調波流出電流の上限値は、あらかじめ決められており、それを超えて運転することはできない。
そのため、本実施の形態のように5次高調波を抑制することができると、高調波の流出電流の上限値に至るまで設置できるモータ70の台数を増やすことが可能となる。
例えば、モータ70の駆動により圧縮機を駆動して空調を行う空調機器において、圧縮機が設置される室外機の台数を増やすことが可能となる。
【0027】
[1-3.効果]
以上説明したように、本実施の形態においては、三相電源15からの電源をモータ70を駆動するインバータ17に送る昇圧チョッパー回路10と、インバータ17に対して昇圧チョッパー回路10から送られる電源に高調波成分を抑制するための補正を行う制御回路20と、を備え、制御回路20は、少なくとも三相電源15からの電源波形を反転処理するデューティー補正演算部30と、少なくとも三相電源15からの電圧を電流値に基づいてデューティー比を規制する電圧・電流演算部40と、デューティー補正演算部30から送られる電源および電圧・電流演算部40から送られる電源に基づいて演算して所定の補正値をインバータ17に送るデューティー演算部50と、を備えている。
【0028】
これにより、5次高調波を抑制するとともに、力率を改善することができる。そのため、次高調波を抑制することができることで、高調波の流出電流の上限値に至るまで設置できる圧縮機の台数を増やすことが可能となる。
【0029】
また、本実施の形態においては、昇圧チョッパー回路10は、三相電源15から三相電源15を入力して、制御回路20からの補正値で補正されることで、電流波形が電圧波形に応じた略台形状の波形に形成されるとともに、電圧波形の最大位置および最小位置に対応する部分にわずかな突起が形成された波形に成型される。
これにより、電流波形を突起が形成されるような波形に成型することで、5次高調波を大幅に削減することが可能となる。
【0030】
なお、本出願において開示する技術の例示として、実施の形態1を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上のように、本発明に係る高調波抑制制御回路は、高調波特に5次高調波を大幅に抑制することができる高調波抑制制御回路として好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 高調波抑制制御回路
10 昇圧チョッパー回路
11 コイル
12 スイッチング回路
13 平滑コンデンサ回路
15 三相電源
16 三相ブリッジ回路
17 インバータ
20 制御回路
21 三相ブリッジ回路
22 電圧センサ
23 電流センサ
30 デューティー補正演算部
31 反転処理部
32 正規化処理部
33 ローパスフィルタ
34 オフセット処理部
35 ディレイ処理部
36 フィルタ係数演算部
37 オフセット演算部
38 ディレイ演算部
40 電圧・電流演算部
41 ローパスフィルタ
42 エラーアンプ
43,52 リミッター
44 ローパスフィルタ
45 リミッター演算部
46 基準電圧
50 デューティー演算部
51 乗算機
53 PWM生成部
60 インバータ制御部
70 モータ