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特開2023-31793構造体強度補正値推定装置及び構造体強度補正値推定プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031793
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】構造体強度補正値推定装置及び構造体強度補正値推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/38 20060101AFI20230302BHJP
【FI】
G01N33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021137499
(22)【出願日】2021-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國岡 潤
(72)【発明者】
【氏名】小島 正朗
(72)【発明者】
【氏名】松下 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】西岡 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】下畠 啓志
(72)【発明者】
【氏名】小林 稔
(72)【発明者】
【氏名】藤田 隆仁
(57)【要約】
【課題】要求性能に対して過剰な調合設計になることを抑制し、かつ実験により発生する費用と期間を削減することができる構造体強度補正値推定装置及びプログラムを得る。
【解決手段】構造体強度補正値推定装置10は、構造体コンクリートの厚さが閾値以上である場合は簡易断熱養生供試体を適用し、厚さが閾値未満である場合は封緘養生供試体を適用して、供試体に対して行った強度試験により得られた圧縮強度を取得する取得部11Aと、取得部11Aにより取得された圧縮強度に対して、供試体の圧縮強度と、模擬部材供試体から採取されたコア供試体の圧縮強度との間の相関関係を用いて、構造体コンクリートの圧縮強度を推定する第1推定部11Bと、第1推定部11Bにより推定された圧縮強度と標準養生供試体の圧縮強度とを用いて、構造体コンクリートの構造体強度補正値を推定する第2推定部11Cと、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象とする構造体コンクリートの厚さが予め定められた閾値以上である場合は供試体として簡易断熱養生供試体を適用し、前記厚さが前記閾値未満である場合は供試体として封緘養生供試体を適用して、当該供試体に対して行った強度試験により得られた圧縮強度を取得する取得部と、
前記取得部によって取得された前記供試体の圧縮強度に対して、当該供試体の圧縮強度と、模擬部材供試体から採取されたコア供試体の圧縮強度と、の間における、予め得られた相関関係を用いて、前記構造体コンクリートの圧縮強度を推定する第1推定部と、
前記第1推定部によって推定された前記圧縮強度と標準養生供試体の圧縮強度とを用いて、前記構造体コンクリートの構造体強度補正値を推定する第2推定部と、
を備えた構造体強度補正値推定装置。
【請求項2】
前記強度試験は、予め定められた基準温度の環境において行われ、
前記第2推定部は、前記基準温度における構造体強度補正値と、対象とする環境温度における構造体強度補正値と、の間における、予め得られた相関関係を用いて、前記構造体強度補正値を推定する、
請求項1に記載の構造体強度補正値推定装置。
【請求項3】
前記強度試験は、予め定められた代表的な水セメント比において行われ、
前記第2推定部は、前記代表的な水セメント比における構造体強度補正値と、対象とする水セメント比における構造体強度補正値と、の間における、予め得られた相関関係を用いて、前記構造体強度補正値を推定する、
請求項1又は請求項2に記載の構造体強度補正値推定装置。
【請求項4】
前記強度試験は、予め定められた基準材齢において行われ、
前記第2推定部は、前記基準材齢における構造体強度補正値と、対象とする材齢における構造体強度補正値と、の間における、予め得られた相関関係を用いて、前記構造体強度補正値を推定する、
請求項1~請求項3の何れか1項に記載の構造体強度補正値推定装置。
【請求項5】
前記供試体は、前記構造体コンクリートに用いる生コンクリートを製造した工場により製造されたものであって、前記構造体コンクリートと同一の材料で製造されたものである、
請求項1~請求項4の何れか1項に記載の構造体強度補正値推定装置。
【請求項6】
対象とする構造体コンクリートの厚さが予め定められた閾値以上である場合は供試体として簡易断熱養生供試体を適用し、前記厚さが前記閾値未満である場合は供試体として封緘養生供試体を適用して、当該供試体に対して行った強度試験により得られた圧縮強度を取得し、
取得した前記供試体の圧縮強度に対して、当該供試体の圧縮強度と、模擬部材供試体から採取されたコア供試体の圧縮強度と、の間における、予め得られた相関関係を用いて、前記構造体コンクリートの圧縮強度を推定し、
推定した前記圧縮強度と標準養生供試体の圧縮強度とを用いて、前記構造体コンクリートの構造体強度補正値を推定する、
処理をコンピュータに実行させるための構造体強度補正値推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体強度補正値推定装置及び構造体強度補正値推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、主として高強度コンクリートを除いたコンクリートの調合管理強度を決定する際に用いる構造体強度補正値は、大きく次の2種類の方法で定められている。
【0003】
まず、第1の方法は、JASS(Japanese Architectural Standard Specification、日本建築学会:建築工事標準仕様書)5、又は国土交通省告示により示される標準値による方法である。
【0004】
即ち、「日本建築学会:建築工事標準仕様書・同解説 JASS5 鉄筋コンクリート工事 2018,p.17-18,2018.7」では、セメントの種類、及びコンクリートの打ち込みから材齢28日までの予想平均気温に応じて構造体強度補正値の標準値が定められている。また、「平成28年3月17日国土交通省告示第502号」では、セメントの種類及び養生期間中の平均気温に応じて構造体強度補正値の標準値が定められている。
【0005】
この標準値による方法は、後述する第2の方法と比べ、実験を行う手間、期間、費用を要しないため、最も一般的な方法として用いられている。一方、この方法では、使用材料、調合、部材形状、養生環境等のあらゆる条件における上限値を採用しているため、実際の構造体強度補正値に対して安全側の値となる。そのため、設計上必要な強度に対して富調合となり、乾燥収縮や温度応力によるひび割れの発生や施工性(ワーカビリティー)の低下といった問題が生じる場合がある。また、セメントの使用量の増加による環境負荷及び建設費用の増大といった問題点がある。
【0006】
これに対して、第2の方法は、実験により構造体強度補正値を求める方法である。
【0007】
即ち、JASS5では、「実験によって構造体強度補正値を定める場合には、実際にコンクリートを打ち込むときの外気温条件、部材寸法などを考慮した上で、標準養生した供試体の圧縮強度と、構造体コンクリート強度の差を求めるとよい」とされている。そして、構造体コンクリートの強度の推定方法として、「JASS5 T-605:コア供試体による構造体コンクリー卜強度の推定方法」、「JASS5 T-606:簡易断熱養生供試体による構造体コンクリー卜強度の推定方法」、「JASS5 T-607:温度履歴追随養生供試体による構造体コンクリート強度の推定方法」による方法が示されている。しかしながら、何れの方法も外気温条件、部材寸法等を考慮した上で、その都度実験を行う必要があり、莫大な費用と期間を要する、といった問題点がある。
【0008】
そこで、上記第2の方法の問題点を解決するために適用することのできる技術として、次の技術があった。
【0009】
即ち、特許文献1には、高温履歴を受ける構造体コンクリートの強度の推定方法が開示されている。この推定方法は、構造体コンクリートと同一種類のセメント又は結合材であって、かつ同一の水セメント比又は水結合材比を有する標準養生供試体、及び構造体コンクリートが初期材齢において熱履歴を受けると想定される温度で加熱養生された加熱養生供試体について、それぞれ複数の材齢における圧縮強度を求め、これによって得られた圧縮強度と材齢との関係から、標準養生供試体に対する構造体コンクリートの材齢経過に伴う圧縮強度の増進を推定することを特徴としている。
【0010】
この方法を用いることにより構造体強度補正値を推定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005-308561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に開示されている技術では、同一種類のセメント又は結合材であって、かつ同一の水セメント比又は水結合材比であれば、標準養生供試体及び構造体コンクリートは同じ強度特性と推定され、構造体強度補正値が同じとして扱われる。このため、特許文献1に開示されている技術では、必ずしも過剰な調合設計になることを抑制することができるとは言えない、という問題点があった。
【0013】
本開示は、以上の事情を鑑みて成されたものであり、要求性能に対して過剰な調合設計になることを抑制し、かつ実験により発生する費用と期間を削減することができる構造体強度補正値推定装置及び構造体強度補正値推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に記載の本発明に係る構造体強度補正値推定装置は、対象とする構造体コンクリートの厚さが予め定められた閾値以上である場合は供試体として簡易断熱養生供試体を適用し、前記厚さが前記閾値未満である場合は供試体として封緘養生供試体を適用して、当該供試体に対して行った強度試験により得られた圧縮強度を取得する取得部と、前記取得部によって取得された前記供試体の圧縮強度に対して、当該供試体の圧縮強度と、模擬部材供試体から採取されたコア供試体の圧縮強度と、の間における、予め得られた相関関係を用いて、前記構造体コンクリートの圧縮強度を推定する第1推定部と、前記第1推定部によって推定された前記圧縮強度と標準養生供試体の圧縮強度とを用いて、前記構造体コンクリートの構造体強度補正値を推定する第2推定部と、を備えている。
【0015】
請求項1に記載の本発明に係る構造体強度補正値推定装置によれば、構造体コンクリートの厚さが閾値以上である場合は簡易断熱養生供試体を適用し、厚さが閾値未満である場合は封緘養生供試体を適用して、供試体に対して行った強度試験により得られた圧縮強度を取得し、取得した圧縮強度に対して、供試体の圧縮強度と、模擬部材供試体から採取されたコア供試体の圧縮強度と、の間における相関関係を用いて、構造体コンクリートの圧縮強度を推定し、推定した圧縮強度と標準養生供試体の圧縮強度とを用いて、構造体コンクリートの構造体強度補正値を推定することで、要求性能に対して過剰な調合設計になることを抑制し、かつ実験により発生する費用と期間を削減することができる。
【0016】
請求項2に記載の本発明に係る構造体強度補正値推定装置は、請求項1に記載の構造体強度補正値推定装置であって、前記強度試験が、予め定められた基準温度の環境において行われ、前記第2推定部が、前記基準温度における構造体強度補正値と、対象とする環境温度における構造体強度補正値と、の間における、予め得られた相関関係を用いて、前記構造体強度補正値を推定するものである。
【0017】
請求項2に記載の本発明に係る構造体強度補正値推定装置によれば、強度試験を、予め定められた基準温度の環境において行い、当該基準温度における構造体強度補正値と、対象とする環境温度における構造体強度補正値と、の間における、予め得られた相関関係を用いて構造体強度補正値を推定することで、対象とする環境温度毎に強度試験を行う場合に比較して、強度試験により発生する費用及び期間を、より削減することができる。
【0018】
請求項3に記載の本発明に係る構造体強度補正値推定装置は、請求項1又は請求項2に記載の構造体強度補正値推定装置であって、前記強度試験が、予め定められた代表的な水セメント比において行われ、前記第2推定部が、前記代表的な水セメント比における構造体強度補正値と、対象とする水セメント比における構造体強度補正値と、の間における、予め得られた相関関係を用いて、前記構造体強度補正値を推定するものである。
【0019】
請求項3に記載の本発明に係る構造体強度補正値推定装置によれば、強度試験を、予め定められた代表的な水セメント比において行い、当該代表的な水セメント比における構造体強度補正値と、対象とする水セメント比における構造体強度補正値と、の間における、予め得られた相関関係を用いて構造体強度補正値を推定することで、対象とする水セメント比毎に強度試験を行う場合に比較して、強度試験により発生する費用及び期間を、より削減することができる。
【0020】
請求項4に記載の本発明に係る構造体強度補正値推定装置は、請求項1~請求項3の何れか1項に記載の構造体強度補正値推定装置であって、前記強度試験が、予め定められた基準材齢において行われ、前記第2推定部が、前記基準材齢における構造体強度補正値と、対象とする材齢における構造体強度補正値と、の間における、予め得られた相関関係を用いて、前記構造体強度補正値を推定するものである。
【0021】
請求項4に記載の本発明に係る構造体強度補正値推定装置によれば、強度試験を、予め定められた基準材齢において行い、当該基準材齢における構造体強度補正値と、対象とする材齢における構造体強度補正値と、の間における、予め得られた相関関係を用いて構造体強度補正値を推定することで、対象とする材齢毎に強度試験を行う場合に比較して、強度試験により発生する費用及び期間を、より削減することができる。
【0022】
請求項5に記載の本発明に係る構造体強度補正値推定装置は、請求項1~請求項4の何れか1項に記載の構造体強度補正値推定装置であって、前記供試体が、前記構造体コンクリートに用いる生コンクリートを製造した工場により製造されたものであって、前記構造体コンクリートと同一の材料で製造されたものとするものである。
【0023】
請求項5に記載の本発明に係る構造体強度補正値推定装置によれば、供試体を、構造体コンクリートに用いる生コンクリートを製造した工場により製造されたものであって、当該構造体コンクリートと同一の材料で製造されたものとすることで、供試体を構造体コンクリートに用いる生コンクリートを製造した工場ではない工場により製造されたものであって、当該構造体コンクリートと同一の材料で製造されたものとする場合に比較して、より的確に構造体強度補正値を推定することができる。
【0024】
なお、請求項1~請求項5の何れか1項に記載の構造体強度補正値推定装置は、前記厚さが前記閾値以上である構造体コンクリートが、マスコンクリート部材であるものとしてもよい。
【0025】
このように、厚さが閾値以上である構造体コンクリートを、マスコンクリート部材とすることで、より簡易に供試体を決定することができる。
【0026】
請求項6に記載の本発明に係る構造体強度補正値推定プログラムは、対象とする構造体コンクリートの厚さが予め定められた閾値以上である場合は供試体として簡易断熱養生供試体を適用し、前記厚さが前記閾値未満である場合は供試体として封緘養生供試体を適用して、当該供試体に対して行った強度試験により得られた圧縮強度を取得し、取得した前記供試体の圧縮強度に対して、当該供試体の圧縮強度と、模擬部材供試体から採取されたコア供試体の圧縮強度と、の間における、予め得られた相関関係を用いて、前記構造体コンクリートの圧縮強度を推定し、推定した前記圧縮強度と標準養生供試体の圧縮強度とを用いて、前記構造体コンクリートの構造体強度補正値を推定する、処理をコンピュータに実行させる。
【0027】
請求項6に記載の本発明に係る構造体強度補正値推定プログラムによれば、構造体コンクリートの厚さが閾値以上である場合は簡易断熱養生供試体を適用し、厚さが閾値未満である場合は封緘養生供試体を適用して、供試体に対して行った強度試験により得られた圧縮強度を取得し、取得した圧縮強度に対して、供試体の圧縮強度と、模擬部材供試体から採取されたコア供試体の圧縮強度と、の間における相関関係を用いて、構造体コンクリートの圧縮強度を推定し、推定した圧縮強度と標準養生供試体の圧縮強度とを用いて、構造体コンクリートの構造体強度補正値を推定することで、要求性能に対して過剰な調合設計になることを抑制し、かつ実験により発生する費用と期間を削減することができる。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように、本発明によれば、要求性能に対して過剰な調合設計になることを抑制し、かつ実験により発生する費用と期間を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施形態に係る構造体強度補正値推定装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図2】実施形態に係る構造体強度補正値推定装置の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
図3A】実施形態に係る構造体強度補正値の推定の原理の説明に供する図であり、生コンクリート製造工場毎の封緘養生供試体の材齢91日における水セメント比と構造体強度補正値との関係の一例を示すグラフである。
図3B】実施形態に係る構造体強度補正値の推定の原理の説明に供する図であり、生コンクリート製造工場毎の柱のコア供試体の材齢91日における水セメント比と構造体強度補正値との関係の一例を示すグラフである。
図3C】実施形態に係る構造体強度補正値の推定の原理の説明に供する図であり、生コンクリート製造工場毎の簡易断熱養生供試体の材齢91日における水セメント比と構造体強度補正値との関係の一例を示すグラフである。
図4A】実施形態に係る構造体強度補正値の推定の原理の説明に供する図であり、封緘養生供試体と薄部材のコア供試体との材齢91日における圧縮強度の関係の一例を示すグラフである。
図4B】実施形態に係る構造体強度補正値の推定の原理の説明に供する図であり、生コンクリート製造工場毎の簡易断熱養生供試体と厚部材(柱)のコア供試体との材齢91日における圧縮強度の関係の一例を示すグラフである。
図5A】実施形態に係る構造体強度補正値の推定の原理の説明に供する図であり、セメント種毎の各種養生供試体の環境温度と圧縮強度との関係の一例を示すグラフである。
図5B】実施形態に係る構造体強度補正値の推定の原理の説明に供する図であり、セメント種毎の各種養生供試体の環境温度と構造体強度補正値との関係の一例を示すグラフである。
図6A】実施形態に係る構造体強度補正値の推定の原理の説明に供する図であり、封緘養生供試体における環境温度が20度である場合と38度である場合との構造体強度補正値の関係の一例を示すグラフである。
図6B】実施形態に係る構造体強度補正値の推定の原理の説明に供する図であり、簡易断熱養生供試体における環境温度が20度である場合と38度である場合との構造体強度補正値の関係の一例を示すグラフである。
図7A】実施形態に係る構造体強度補正値の推定の原理の説明に供する図であり、生コンクリート製造工場毎の封緘養生供試体の材齢28日と材齢91日との構造体強度補正値の関係の一例を示すグラフである。
図7B】実施形態に係る構造体強度補正値の推定の原理の説明に供する図であり、生コンクリート製造工場毎の簡易断熱養生供試体の材齢28日と材齢91日との構造体強度補正値の関係の一例を示すグラフである。
図8】実施形態に係る構造体強度補正値推定処理の一例を示すフローチャートである。
図9】実施形態に係る初期情報入力画面の構成の一例を示す正面図である。
図10】実施形態に係る構造体強度補正値表示画面の構成の一例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態例を詳細に説明する。
【0031】
まず、図1図2を参照して、本実施形態に係る構造体強度補正値推定装置10の構成を説明する。図1は、本実施形態に係る構造体強度補正値推定装置10のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。また、図2は、本実施形態に係る構造体強度補正値推定装置10の機能的な構成の一例を示すブロック図である。なお、構造体強度補正値推定装置10の例としては、パーソナルコンピュータ及びサーバコンピュータ等の情報処理装置が挙げられる。
【0032】
図1に示すように、本実施形態に係る構造体強度補正値推定装置10は、CPU(Central Processing Unit)11、一時記憶領域としてのメモリ12、不揮発性の記憶部13、キーボードとマウス等の入力部14、液晶ディスプレイ等の表示部15、媒体読み書き装置(R/W)16及び通信インタフェース(I/F)部18を備えている。CPU11、メモリ12、記憶部13、入力部14、表示部15、媒体読み書き装置16及び通信I/F部18はバスBを介して互いに接続されている。媒体読み書き装置16は、記録媒体17に書き込まれている情報の読み出し及び記録媒体17への情報の書き込みを行う。
【0033】
記憶部13はHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等によって実現される。記憶媒体としての記憶部13には、構造体強度補正値推定プログラム13Aが記憶されている。構造体強度補正値推定プログラム13Aは、当該プログラム13Aが書き込まれた記録媒体17が媒体読み書き装置16にセットされ、媒体読み書き装置16が記録媒体17からの当該プログラム13Aの読み出しを行うことで、記憶部13へ記憶される。CPU11は、構造体強度補正値推定プログラム13Aを記憶部13から適宜読み出してメモリ12に展開し、当該プログラム13Aが有するプロセスを順次実行する。
【0034】
また、記憶部13には、供試体強度差相関情報データベース13B、水セメント比相関情報データベース13C、環境温度相関情報データベース13D、及び材齢相関情報データベース13Eが記憶される。供試体強度差相関情報データベース13B、水セメント比相関情報データベース13C、環境温度相関情報データベース13D、及び材齢相関情報データベース13Eについては、詳細を後述する。
【0035】
次に、図2を参照して、本実施形態に係る構造体強度補正値推定装置10の機能的な構成について説明する。
【0036】
図2に示すように、本実施形態に係る構造体強度補正値推定装置10は、取得部11A、第1推定部11B、及び第2推定部11Cを含む。構造体強度補正値推定装置10のCPU11が構造体強度補正値推定プログラム13Aを実行することで、取得部11A、第1推定部11B、及び第2推定部11Cとして機能する。
【0037】
本実施形態では、対象とする構造体コンクリート(以下、単に「構造体コンクリート」という。)の厚さが閾値TH以上である場合は供試体として簡易断熱養生供試体を適用し、当該厚さが閾値TH未満である場合は供試体として封緘養生供試体を適用して、当該供試体に対して強度試験が行われる。そして、本実施形態に係る取得部11Aは、この強度試験によって得られた圧縮強度を取得する。
【0038】
なお、本実施形態では、閾値THとして、構造体コンクリートの厚さが、この値以上であれば供試体として簡易断熱養生供試体が適していると見なすことのできる値として、過去の実験結果や、コンピュータ・シミュレーション等によって得られた値を適用している。但し、この形態に限るものではなく、ユーザに対して、構造体強度補正値推定装置10の用途や構造体強度補正値に要求される推定精度等に応じて入力部14等を介して閾値THを入力させる形態としてもよい。
【0039】
また、本実施形態に係る第1推定部11Bは、取得部11Aによって取得された供試体の圧縮強度を用いて、構造体コンクリートの圧縮強度を推定する。この際、第1推定部11Bは、取得された供試体の圧縮強度と、模擬部材供試体から採取されたコア供試体の圧縮強度と、の間における相関関係を用いる。
【0040】
そして、本実施形態に係る第2推定部11Cは、第1推定部11Bによって推定された圧縮強度と標準養生供試体の圧縮強度とを用いて、構造体コンクリートの構造体強度補正値を推定する。
【0041】
本実施形態では、上記強度試験が、予め定められた基準温度の環境において行われる。そして、本実施形態に係る第2推定部11Cは、基準温度における構造体強度補正値と、対象とする環境温度における構造体強度補正値と、の間における、予め得られた相関関係を用いて、構造体コンクリートの構造体強度補正値を推定する。
【0042】
また、本実施形態では、上記強度試験が、予め定められた代表的な水セメント比において行われる。そして、本実施形態に係る第2推定部11Cは、代表的な水セメント比における構造体強度補正値と、対象とする水セメント比における構造体強度補正値と、の間における、予め得られた相関関係を用いて、構造体コンクリートの構造体強度補正値を推定する。
【0043】
更に、本実施形態では、上記強度試験が、予め定められた基準材齢において行われる。そして、本実施形態に係る第2推定部11Cは、基準材齢における構造体強度補正値と、対象とする材齢における構造体強度補正値と、の間における、予め得られた相関関係を用いて、構造体コンクリートの構造体強度補正値を推定する。
【0044】
また、本実施形態に係る上記供試体は、構造体コンクリートに用いる生コンクリートを製造した工場により製造されたものであって、構造体コンクリートと同一の材料で製造されたものとされている。
【0045】
本実施形態では、上述した構造体コンクリートの厚さに応じた養生供試体を用いた強度試験を行うのに並行して、標準養生供試体を用いた強度試験も行い、本実施形態に係る取得部11Aは、当該強度試験によって得られた圧縮強度も取得する。そして、本実施形態に係る第2推定部11Cは、第1推定部11Bによって推定された構造体コンクリートの圧縮強度と、取得部11Aによって取得された標準養生供試体の圧縮強度とを用いて、構造体コンクリートの構造体強度補正値の推定値を導出する。
【0046】
次に、図3図7を参照して、本実施形態に係る構造体強度補正値の推定の原理について説明する。
【0047】
図3Aには、生コンクリート製造工場毎の封緘養生供試体の材齢91日における水セメント比と構造体強度補正値との関係の一例を示すグラフが示されている。また、図3Bには、生コンクリート製造工場毎の柱のコア供試体の材齢91日における水セメント比と構造体強度補正値との関係の一例を示すグラフが示されている。更に、図3Cには、生コンクリート製造工場毎の簡易断熱養生供試体の材齢91日における水セメント比と構造体強度補正値との関係の一例を示すグラフが示されている。
【0048】
本発明の発明者らの検討によれば、同一のセメント種であっても製造メーカが違えば構造体強度補正値は異なることが確認されている。また、セメント又は結合材以外の材料である骨材種や混和剤種によっても構造体強度補正値は異なることが確認されている。
【0049】
一般に、製造工場が異なれば、使用する材料は異なり、同一種類のセメント又は結合材であって、かつ同一の水セメント比又は水結合材比であっても、構造体強度補正値は、図3A図3Cに示すように、製造工場により異なる値となる。なお、図3A図3Cにおける「A工場(1)」と「A工場(2)」の違いは、同一工場における骨材の違いのデータである。
【0050】
そこで、本実施形態では、上述したように、構造体コンクリートの供試体を、構造体コンクリートに用いる生コンクリートを製造した工場により製造されたものであって、構造体コンクリートと同一の材料で製造されたものとしている。
【0051】
一方、図4Aには、封緘養生供試体と薄部材のコア供試体との材齢91日における圧縮強度の関係の一例を示すグラフが示されている。また、図4Bには、生コンクリート製造工場毎の簡易断熱養生供試体と厚部材(柱)のコア供試体との材齢91日における圧縮強度の関係の一例を示すグラフが示されている。なお、ここで適用したコア供試体による強度試験は、JASS5 T-605による方法であり、ここで適用した簡易断熱養生供試体及び封緘養生供試体による強度試験は、JASS5 T-606による方法である。
【0052】
図4A図4Bに示すように、本発明の発明者らの検討により、柱、梁、基礎等の相対的に厚さが厚いコンクリート部材は簡易断熱養生供試体による推定方法と相関があり、床、壁等の相対的に厚さが薄いコンクリート部材は封緘養生供試体による推定方法と相関があることが判明した。
【0053】
そこで、本実施形態に係る構造体強度補正値推定装置10では、上述したように、構造体コンクリートの厚さが閾値TH以上である場合は供試体として簡易断熱養生供試体を適用し、当該厚さが閾値TH未満である場合は供試体として封緘養生供試体を適用する。そして、この相関関係を示す情報が、供試体強度差相関情報データベース13Bに登録されている。
【0054】
一方、JASS5の5章の解説によれば、コンクリートの圧縮強度と水セメント比との関係には一定の関係がある。そして、使用材料が同一でスランプ及び空気量を同じとした場合、養生方法によらず、代表的な水セメント比の結果より任意の水セメント比の強度及び構造体強度補正値が推定可能である。
【0055】
そこで、本実施形態に係る構造体強度補正値推定装置10では、上述したように、強度試験を、予め定められた代表的な水セメント比において行い、代表的な水セメント比における構造体強度補正値と、対象とする水セメント比における構造体強度補正値と、の間における、予め得られた相関関係を用いて、構造体コンクリートの構造体強度補正値を推定する。そして、この相関関係を示す情報が、水セメント比相関情報データベース13Cに登録されている。
【0056】
一方、図5Aには、セメント種毎の各種養生供試体の環境温度と圧縮強度との関係の一例を示すグラフが示されている。また、図5Bには、セメント種毎の各種養生供試体の環境温度と構造体強度補正値との関係の一例を示すグラフが示されている。また、図6Aには、封緘養生供試体における環境温度が20度である場合と38度である場合との構造体強度補正値の関係の一例を示すグラフが示されている。また、図6Bには、簡易断熱養生供試体における環境温度が20度である場合と38度である場合との構造体強度補正値の関係の一例を示すグラフが示されている。なお、図5A及び図5Bにおける「C1」及び「C2」は対応するセメントの種類を表し、「S1」及び「S2」は対応するセメントに含まれる細骨材の種類を表し、「G1」及び「G2」は対応するセメントに含まれる粗骨材の種類を表す。
【0057】
図5A図5B図6A図6Bに示すように、本発明の発明者らの検討により、使用材料が同じで、スランプ及び空気量を同じとした場合、環境温度と各養生供試体の圧縮強度及び構造体強度補正値には一定の関係があり、代表的な温度環境下の構造体強度補正値を推定することで、任意の温度環境下の構造体強度補正値が推定可能であることが判明した。
【0058】
そこで、本実施形態に係る構造体強度補正値推定装置10では、上述したように、強度試験を、予め定められた基準温度の環境において行い、基準温度における構造体強度補正値と、対象とする環境温度における構造体強度補正値と、の間における、予め得られた相関関係を用いて、構造体コンクリートの構造体強度補正値を推定する。そして、この相関関係を示す情報が、環境温度相関情報データベース13Dに登録されている。
【0059】
更に、図7Aには、生コンクリート製造工場毎の封緘養生供試体の材齢28日と材齢91日との構造体強度補正値の関係の一例を示すグラフが示されている。また、図7Bには、生コンクリート製造工場毎の簡易断熱養生供試体の材齢28日と材齢91日との構造体強度補正値の関係の一例を示すグラフが示されている。
【0060】
図7A図7Bに示すように、本発明の発明者らの検討により、同一のコンクリートにおいて、材齢28日の構造体強度補正値2828と材齢91日の構造体強度補正値2891には、一定の関係があることが判明した。
【0061】
そこで、本実施形態に係る構造体強度補正値推定装置10では、上述したように、強度試験を、予め定められた基準材齢において行い、基準材齢における構造体強度補正値と、対象とする材齢における構造体強度補正値と、の間における、予め得られた相関関係を用いて、構造体コンクリートの構造体強度補正値を推定する。そして、この相関関係を示す情報が、材齢相関情報データベース13Eに登録されている。
【0062】
次に、図8図10を参照して、本実施形態に係る構造体強度補正値推定装置10の作用を説明する。ユーザによって構造体強度補正値推定処理の実行を開始する指示入力が入力部14を介して行われた場合に、構造体強度補正値推定装置10のCPU11が構造体強度補正値推定プログラム13Aを実行することにより、図8に示す構造体強度補正値推定処理が実行される。図8は、本実施形態に係る構造体強度補正値推定処理(以下、単に「推定処理」ともいう。)の一例を示すフローチャートである。なお、ここでは、錯綜を回避するために、供試体強度差相関情報データベース13B、水セメント比相関情報データベース13C、環境温度相関情報データベース13D、及び材齢相関情報データベース13Eが構築済みである場合について説明する。また、ここでは、構造体コンクリートの材齢91日における構造体強度補正値を推定する場合について説明する。
【0063】
推定処理の実行に先立ち、ユーザは、上述したように、構造体コンクリートの厚さが閾値TH以上である場合は供試体として簡易断熱養生供試体を適用し、当該厚さが閾値TH未満である場合は供試体として封緘養生供試体を適用して任意の材齢、例えば材齢28日の強度試験を行う。また、これと並行して、ユーザは、上述したように、標準養生供試体を用いた材齢28日の強度試験も行う。これらの強度試験により、簡易断熱養生供試体又は封緘養生供試体の圧縮強度CS1、及び標準養生供試体の圧縮強度CS2が得られる。これらの強度試験が終了した後、ユーザは、構造体強度補正値推定処理の実行を開始する指示入力を行う。
【0064】
図8のステップ100で、CPU11は、予め定められた構成とされた初期情報入力画面を表示するように表示部15を制御し、ステップ102で、CPU11は、所定情報が入力されるまで待機する。
【0065】
図9には、本実施形態に係る初期情報入力画面の一例が示されている。図9に示すように、本実施形態に係る初期情報入力画面では、構造体コンクリートに関する情報の入力を促すメッセージが表示される。また、本実施形態に係る初期情報入力画面では、対象とする構造体コンクリートの水セメント比、温度(平均温度)、及び厚さの各情報を入力するための入力領域15Aが表示される。また、本実施形態に係る初期情報入力画面では、強度試験によって得られた簡易断熱養生供試体又は封緘養生供試体の試験材齢及び圧縮強度CS1、及び標準養生供試体の圧縮強度CS2の各情報を入力するための入力領域15Aが表示される。また、本実施形態に係る初期情報入力画面では、構造体コンクリートの保証材齢を入力するための入力領域15Aが表示される。
【0066】
一例として図9に示す初期情報入力画面が表示部15に表示されると、ユーザは、入力部14を介して、対応する情報を、対応する入力領域15Aに入力した後に、終了ボタン15Bを指定する。これに応じて、ステップ102が肯定判定となって、ステップ104に移行する。
【0067】
ステップ104で、CPU11は、ユーザによる入力情報に対応する相関関係を示す情報を、供試体強度差相関情報データベース13B、水セメント比相関情報データベース13C、及び環境温度相関情報データベース13Dから読み出す。また、ステップ104で、CPU11は、材齢91日に対応する相関関係を示す情報を材齢相関情報データベース13Eから読み出す。なお、この際、CPU11は、ユーザによって入力された構造体コンクリートの厚さが閾値TH以上である場合は簡易断熱養生供試体に対応する情報を各データベース13A~13Eから読み出す。また、この際、CPU11は、上記厚さが閾値TH未満である場合は封緘養生供試体に対応する情報を各データベース13A~13Eから読み出す。
【0068】
ステップ106で、CPU11は、入力された簡易断熱養生供試体又は封緘養生供試体の圧縮強度CS1に対して、供試体強度差相関情報データベース13Bから読み出した相関関係を示す情報を反映させることで、構造体コンクリートの圧縮強度CSKを推定する。
【0069】
例えば、読み出した相関関係を示す情報が図4Aに示すものである場合、構造体コンクリートの圧縮強度は、封緘養生供試体の圧縮強度と、ほぼ等しい値となっている。このため、この場合は、入力された封緘養生供試体の圧縮強度CS1に対し、係数として1を乗じるようにする。また、例えば、読み出した相関関係を示す情報が図4Bに示すものである場合、構造体コンクリートの圧縮強度は、簡易断熱養生供試体の圧縮強度に、概ね5を加算した値となっている。このため、この場合は、入力された簡易断熱養生供試体の圧縮強度CS1に対し、係数として5を加算するようにする。
【0070】
ステップ108で、CPU11は、推定した構造体コンクリートの圧縮強度CSK、ユーザによって入力された標準養生供試体の圧縮強度CS2、及び読み出した相関関係を示す情報を用いて、構造体コンクリートの材齢91日の構造体強度補正値2891を推定する。
【0071】
本実施形態では、まず、任意の材齢、例えば材齢28日の構造体強度補正値2828を、次の式(1)に圧縮強度CS2及び圧縮強度CSKを代入することで導出する。
【0072】
2828=CS2-CSK (1)
【0073】
次いで、CPU11は、導出した材齢28日の構造体強度補正値2828に対して、読み出した材齢91日に対応する相関関係を示す情報を反映させることで、構造体コンクリートの材齢91日の構造体強度補正値2891を推定する。
【0074】
例えば、読み出した相関関係を示す情報が図7Aに示すものである場合、封緘養生供試体の構造体強度補正値2891は、封緘養生供試体の構造体強度補正値2828に対して、概ね4を減算した値となっている。このため、この場合は、導出した構造体強度補正値2828に対し、係数として4を減算するようにする。また、例えば、読み出した相関関係を示す情報が図7Bに示すものである場合、簡易断熱養生供試体の構造体強度補正値2891は、簡易断熱養生供試体の構造体強度補正値2828に、概ね3を減算した値となっている。このため、この場合は、導出した構造体強度補正値2828に対し、係数として3を減算するようにする。
【0075】
さらに、CPU11は、導出した材齢91日の構造体強度補正値2891に対して、読み出した水セメント比及び環境温度に対応する相関関係を示す情報を反映させることで、対象とする水セメント比及び環境温度に対応する構造体強度補正値2891を導出する。
【0076】
例えば、読み出した環境温度に関する相関関係を示す情報が図6Aに示すものである場合、対象とする環境温度の封緘養生供試体の構造体強度補正値2891は、基準温度の封緘養生供試体の構造体強度補正値2891に対して、概ね4を加算した値となっている。このため、この場合は、導出した構造体強度補正値2891に対し、係数として4を加算するようにする。また、例えば、読み出した環境温度に関する相関関係を示す情報が図6Bに示すものである場合、対象とする環境温度の簡易断熱養生供試体の構造体強度補正値2891は、基準温度の簡易断熱養生供試体の構造体強度補正値2891に対して、概ね8を加算した値となっている。このため、この場合は、導出した構造体強度補正値2891に対し、係数として8を加算するようにする。
【0077】
ステップ110で、CPU11は、以上の処理によって得られた値を用いて、予め定められた構成とされた構造体強度補正値表示画面を表示するように表示部15を制御し、ステップ112で、CPU11は、所定情報が入力されるまで待機する。
【0078】
図10には、本実施形態に係る構造体強度補正値表示画面の一例が示されている。図10に示すように、本実施形態に係る構造体強度補正値表示画面では、以上の処理によって得られた構造体コンクリートの構造体強度補正値2891と、当該構造体強度補正値2891を推定した際の条件を示す情報が表示される。
【0079】
一例として図10に示す構造体強度補正値表示画面が表示部15に表示されると、ユーザは、表示内容を確認した後、入力部14を介して終了ボタン15Bを指定する。これに応じて、ステップ112が肯定判定となって本構造体強度補正値推定処理が終了する。
【0080】
以上説明したように、本実施形態によれば、対象とする構造体コンクリートの厚さが予め定められた閾値以上である場合は供試体として簡易断熱養生供試体を適用し、上記厚さが上記閾値未満である場合は供試体として封緘養生供試体を適用して、当該供試体に対して行った強度試験により得られた圧縮強度を取得する取得部11Aと、取得部11Aによって取得された供試体の圧縮強度に対して、当該供試体の圧縮強度と、模擬部材供試体から採取されたコア供試体の圧縮強度と、の間における、予め得られた相関関係を用いて、構造体コンクリートの圧縮強度を推定する第1推定部11Bと、第1推定部11Bによって推定された圧縮強度と標準養生供試体の圧縮強度とを用いて、構造体コンクリートの構造体強度補正値を推定する第2推定部11Cと、を備えている。従って、従来に比較して、実験を簡略化することができる結果、要求性能に対して過剰な調合設計になることを抑制し、かつ実験により発生する費用と期間を削減することができる。
【0081】
また、本実施形態によれば、強度試験を、予め定められた基準温度の環境において行い、当該基準温度における構造体強度補正値と、対象とする環境温度における構造体強度補正値と、の間における、予め得られた相関関係を用いて構造体強度補正値を推定する。従って、対象とする環境温度毎に強度試験を行う場合に比較して、強度試験により発生する費用及び期間を、より削減することができる。
【0082】
また、本実施形態によれば、強度試験を、予め定められた代表的な水セメント比において行い、当該代表的な水セメント比における構造体強度補正値と、対象とする水セメント比における構造体強度補正値と、の間における、予め得られた相関関係を用いて構造体強度補正値を推定する。従って、対象とする水セメント比毎に強度試験を行う場合に比較して、強度試験により発生する費用及び期間を、より削減することができる。
【0083】
また、本実施形態によれば、強度試験を、予め定められた基準材齢において行い、当該基準材齢における構造体強度補正値と、対象とする材齢における構造体強度補正値と、の間における、予め得られた相関関係を用いて構造体強度補正値を推定する。従って、対象とする材齢毎に強度試験を行う場合に比較して、強度試験により発生する費用及び期間を、より削減することができる。
【0084】
更に、本実施形態によれば、供試体を、構造体コンクリートに用いる生コンクリートを製造した工場により製造されたものであって、構造体コンクリートと同一の材料で製造されたものとしている。従って、供試体を構造体コンクリートに用いる生コンクリートを製造した工場ではない工場により製造されたものであって、構造体コンクリートと同一の材料で製造されたものとする場合に比較して、より的確に構造体強度補正値を推定することができる。
【0085】
なお、上記実施形態では、簡易断熱養生供試体及び封緘養生供試体の何れを適用するかを、構造体コンクリートの厚さに応じて決定する場合について説明したが、これに限定されない。一般に、柱、梁、基礎等のマスコンクリート部材は、厚さが、床、壁等のマスコンクリート部材以外のコンクリート部材に比較して厚い。そこで、例えば、構造体コンクリートの厚さが閾値TH以上である構造体コンクリートを、所謂マスコンクリート部材に置き換えて適用する形態としてもよい。即ち、この形態は、マスコンクリート部材については簡易断熱養生供試体を適用し、マスコンクリート部材以外の部材については封緘養生供試体を適用する。この形態によれば、構造体コンクリートの厚さを判断する必要がなくなるため、より簡易に供試体を決定することができる。
【0086】
また、上記実施形態では、構造体コンクリートの厚さが閾値TH以上である場合に簡易断熱養生供試体を適用する場合について説明したが、これに限定されない。例えば、簡易断熱養生供試体に代えて温度履歴追随養生供試体を適用する形態としてもよい。また、上記実施形態で説明した水セメント比は、水結合材比と読み替えてもよい。
【0087】
また、上記実施形態では、構造体コンクリートの保証材齢を91日として構造体強度補正値2891を推定する場合について説明してきたが、これに限定されない。例えば、保証材齢56日とした場合の構造体強度補正値2856を推定する形態としてもよい。
【0088】
また、上記実施形態において、例えば、取得部11A、第1推定部11B、及び第2推定部11Cの各処理を実行する処理部(processing unit)のハードウェア的な構造としては、次に示す各種のプロセッサ(processor)を用いることができる。上記各種のプロセッサには、前述したように、ソフトウェア(プログラム)を実行して処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPUに加えて、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が含まれる。
【0089】
処理部は、これらの各種のプロセッサのうちの1つで構成されてもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGAの組み合わせや、CPUとFPGAとの組み合わせ)で構成されてもよい。また、処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。
【0090】
処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、クライアント及びサーバ等のコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)等に代表されるように、処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサの1つ以上を用いて構成される。
【0091】
更に、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造としては、より具体的には、半導体素子などの回路素子を組み合わせた電気回路(circuitry)を用いることができる。
【符号の説明】
【0092】
10 構造体強度補正値推定装置
11 CPU
11A 取得部
11B 第1推定部
11C 第2推定部
12 メモリ
13 記憶部
13A 構造体強度補正値推定プログラム
13B 供試体強度差相関情報データベース
13C 水セメント比相関情報データベース
13D 環境温度相関情報データベース
13E 材齢相関情報データベース
14 入力部
15 表示部
15A 入力領域
15B 終了ボタン
16 媒体読み書き装置
17 記録媒体
18 通信I/F部
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10