(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023032631
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】抗SARS-CoV-2単ドメイン抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20230302BHJP
C07K 16/10 20060101ALI20230302BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230302BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230302BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230302BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230302BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20230302BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/10
A61P31/14
A61P11/00
A61K39/395 S
G01N33/53 D
C12P21/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021138882
(22)【出願日】2021-08-27
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】500546994
【氏名又は名称】株式会社プロテイン・エクスプレス
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 俊介
【テーマコード(参考)】
4B064
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA01
4C085AA14
4C085BB44
4C085CC23
4C085EE01
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG08
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA22
4H045EA29
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】 (修正有)
【課題】SARS-CoV-2に対する結合活性及び中和活性を有する単ドメイン抗体を提供する。
【解決手段】以下の(a)~(c)のポリペプチド群から選択されるポリペプチドを含む、単ドメイン抗体:
(a)特定のアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(b)前記ポリペプチドのアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するポリペプチド;
(c)前記(a)又は(b)のポリペプチドのアミノ酸配列を部分配列として含むポリペプチド。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)~(c)に記載のポリペプチド群から選択されるポリペプチドを含む、単ドメイン抗体:
(a)配列番号1~7のいずれかで示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(b)前記(a)に記載のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するポリペプチド;
(c)前記(a)又は(b)に記載のポリペプチドのアミノ酸配列を部分配列として含む、ポリペプチド。
【請求項2】
前記ポリペプチドが以下の3つの相補性決定基(CDR)を含む、請求項1に記載の単ドメイン抗体:
(d)配列番号8で示されるアミノ酸配列又は配列番号8で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR1;
(e)配列番号12で示されるアミノ酸配列又は配列番号12で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR2;及び
(f)配列番号16で示されるアミノ酸配列又は配列番号16で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR3。
【請求項3】
前記ポリペプチドが以下の3つのCDRを含む、請求項1に記載の単ドメイン抗体:
(g)配列番号9で示されるアミノ酸配列又は配列番号9で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR1;
(h)配列番号13で示されるアミノ酸配列又は配列番号13で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR2;及び
(i)配列番号17で示されるアミノ酸配列又は配列番号17で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR3。
【請求項4】
前記ポリペプチドが以下の3つのCDRを含む、請求項1に記載の単ドメイン抗体:
(j)配列番号8で示されるアミノ酸配列又は配列番号8で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR1;
(k)配列番号12で示されるアミノ酸配列又は配列番号12で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR2;及び
(l)配列番号18で示されるアミノ酸配列又は配列番号18で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR3。
【請求項5】
前記ポリペプチドが以下の3つのCDRを含む、請求項1に記載の単ドメイン抗体:
(m)配列番号8で示されるアミノ酸配列又は配列番号8で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR1;
(n)配列番号12で示されるアミノ酸配列又は配列番号12で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR2;及び
(o)配列番号19で示されるアミノ酸配列又は配列番号19で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR3。
【請求項6】
前記ポリペプチドが以下の3つのCDRを含む、請求項1に記載の単ドメイン抗体:
(p)配列番号8で示されるアミノ酸配列又は配列番号8で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR1;
(q)配列番号12で示されるアミノ酸配列又は配列番号12で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR2;及び
(r)配列番号20で示されるアミノ酸配列又は配列番号20で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR3。
【請求項7】
前記ポリペプチドが以下の3つのCDRを含む、請求項1に記載の単ドメイン抗体:
(s)配列番号10で示されるアミノ酸配列又は配列番号10で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR1;
(t)配列番号14で示されるアミノ酸配列又は配列番号14で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR2;及び
(u)配列番号21で示されるアミノ酸配列又は配列番号21で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR3。
【請求項8】
前記ポリペプチドが以下の3つのCDRを含む、請求項1に記載の単ドメイン抗体:
(v)配列番号11で示されるアミノ酸配列又は配列番号11で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR1;
(w)配列番号15で示されるアミノ酸配列又は配列番号15で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR2;及び
(x)配列番号16で示されるアミノ酸配列又は配列番号16で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR3。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の単ドメイン抗体を有効成分として含む、SARS-CoV-2感染症の治療又は予防のために使用される、医薬組成物。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の単ドメイン抗体を含む、SARS-CoV-2の検出試薬。
【請求項11】
試料と、請求項1~8のいずれか1項に記載の単ドメイン抗体とを接触させる工程を含む、試料中のSARS-CoV-2を検出する方法。
【請求項12】
前記試料が、対象から取り出した試料である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記対象がヒトである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~8のいずれか1項に記載の単ドメイン抗体を有効成分として含む、SARS-CoV-2感染症の予防のために使用される、衛生用品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SARS-CoV-2を中和するための単ドメイン抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
コロナウイルスは、ニドウイルス目コロナウイルス科オルソコロナウイルス亜科よりなるRNAウイルスの一群である。コロナウイルスは、ポジティブセンス一本鎖RNAゲノムと、らせん対称のヌクレオカプシドを持つエンベロープウイルスであり、カプシド表面からこん棒型の突起が突き出た特徴的な形状を有する。コロナウイルスは、RNAウイルスの中でも大型のウイルスであり、そのゲノムサイズは約26~32キロベースである。
【0003】
コロナウイルスは、哺乳類、鳥類等に感染性疾患を引き起こすRNAウイルスとして知られ、特に、軽度~重篤の気道感染症を引き起こすことが知られる。ヒトにおいては、コロナウイルスは、軽症の場合は一般的な風邪の原因ウイルス(風邪の原因ウイルスは、コロナウイルス以外にも多数知られる)となるが、SARS、MERS等の一部のコロナウイルスは、より致命的な症状を引き起こすことが知られる。特に、2019年に中国で発見された新型コロナウイルスであるSARS-CoV-2は、短期間に全世界に蔓延し、有効な治療薬が存在しなかったという背景もあり、多数の感染者及び死者を出すこととなった。現在も、その数は増え続けており、早急にSARS-CoV-2の治療薬の開発と普及が達成されることが望まれている。
【0004】
SARS-CoV-2には、そのウイルス表面に、宿主細胞の受容体に結合するスパイクタンパク質が存在する。このスパイクタンパク質は、三量体構造を有する糖タンパク質であり、各ポリペプチド鎖は、N末端ドメイン(NTD)、S1ドメイン及びS2ドメインから構成される。S1ドメイン上の受容体結合ドメイン(RBD)には、「ダウン型構造」と「アップ型構造」があり、アップ型構造のRBDが宿主細胞表面のアンジオテンシン変異酵素II(ACE2)受容体に結合することが明らかにされている(非特許文献1)。
【0005】
単ドメイン抗体は、重鎖のみで構成される抗体(免疫グロブリン)の可変領域からなる抗体であり、ラクダ科哺乳類でみられるVHH、サメ科でみられるVNARが知られる。単ドメイン抗体は、単鎖抗体、ナノボディ(登録商標)とも称される。単ドメイン抗体は、通常の抗体と同様の抗原結合性を有する一方で、耐酸性や耐熱性に優れ、一度変性しても再度生理的な条件下におくことでその抗原結合性が復活することで知られる。単ドメイン抗体の分子量は12~15kDa程度であり、大腸菌、酵母等の組換え微生物による生産が比較的容易である。これらの特徴から、抗体医薬としての利用が期待されており、既に、フォン・ヴィレブランド因子(vWF)を標的とする単ドメイン抗体を用いた後天性血栓性血小板減少性紫斑病(aTTP)治療薬が市販されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】D. Wrapp et al., Science, Vol. 367, pp. 1260-1263 (2020)
【非特許文献2】F. Peyvandi et al., Journal of Thrombosis and Haemostasis, Vol. 15, pp. 1448-1452 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
多くの機関でSARS-CoV-2感染症(Covid-19)治療薬の開発が進められており、抗体医薬の実用化もなされているが、現在のところ、単ドメイン抗体を主成分とするSARS-CoV-2感染症治療のための承認薬は存在しない。本発明は、SARS-CoV-2に対する結合活性及び中和活性を有する単ドメイン抗体を提供することを目的とする。また、本発明は、SARS-CoV-2感染症の治療及び/又は予防に有用な医薬組成物、SARS-CoV-2感染症の診断補助に有用な、試料中のSARS-CoV-2を検出する試薬及び方法、並びに、SARS-CoV-2感染症の予防に有効な衛生用品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書によれば、以下の発明が提供される。
(1)以下の(a)~(c)に記載のポリペプチド群から選択されるポリペプチドを含む、単ドメイン抗体:
(a)配列番号1~7のいずれかで示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(b)前記(a)に記載のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するポリペプチド;
(c)前記(a)又は(b)に記載のポリペプチドのアミノ酸配列を部分配列として含む、ポリペプチド。
(2)前記ポリペプチドが以下の3つの相補性決定基(CDR)を含む、(1)に記載の単ドメイン抗体:
(d)配列番号8で示されるアミノ酸配列又は配列番号8で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR1;
(e)配列番号12で示されるアミノ酸配列又は配列番号12で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR2;及び
(f)配列番号16で示されるアミノ酸配列又は配列番号16で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR3。
(3)前記ポリペプチドが以下の3つのCDRを含む、(1)に記載の単ドメイン抗体:
(g)配列番号9で示されるアミノ酸配列又は配列番号9で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR1;
(h)配列番号13で示されるアミノ酸配列又は配列番号13で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR2;及び
(i)配列番号17で示されるアミノ酸配列又は配列番号17で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR3。
(4)前記ポリペプチドが以下の3つのCDRを含む、(1)に記載の単ドメイン抗体:
(j)配列番号8で示されるアミノ酸配列又は配列番号8で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR1;
(k)配列番号12で示されるアミノ酸配列又は配列番号12で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR2;及び
(l)配列番号18で示されるアミノ酸配列又は配列番号18で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR3。
(5)前記ポリペプチドが以下の3つのCDRを含む、(1)に記載の単ドメイン抗体:
(m)配列番号8で示されるアミノ酸配列又は配列番号8で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR1;
(n)配列番号12で示されるアミノ酸配列又は配列番号12で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR2;及び
(o)配列番号19で示されるアミノ酸配列又は配列番号19で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR3。
(6)前記ポリペプチドが以下の3つのCDRを含む、(1)に記載の単ドメイン抗体:
(p)配列番号8で示されるアミノ酸配列又は配列番号8で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR1;
(q)配列番号12で示されるアミノ酸配列又は配列番号12で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR2;及び
(r)配列番号20で示されるアミノ酸配列又は配列番号20で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR3。
(7)前記ポリペプチドが以下の3つのCDRを含む、(1)に記載の単ドメイン抗体:
(s)配列番号10で示されるアミノ酸配列又は配列番号10で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR1;
(t)配列番号14で示されるアミノ酸配列又は配列番号14で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR2;及び
(u)配列番号21で示されるアミノ酸配列又は配列番号21で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR3。
(8)前記ポリペプチドが以下の3つのCDRを含む、(1)に記載の単ドメイン抗体:
(v)配列番号11で示されるアミノ酸配列又は配列番号11で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR1;
(w)配列番号15で示されるアミノ酸配列又は配列番号15で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR2;及び
(x)配列番号16で示されるアミノ酸配列又は配列番号16で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR3。
(9)(1)~(8)のいずれかに記載の単ドメイン抗体を有効成分として含む、SARS-CoV-2感染症の治療又は予防のために使用される、医薬組成物。
(10)(1)~(8)のいずれかに記載の単ドメイン抗体を含む、SARS-CoV-2の検出試薬。
(11)試料と、(1)~(8)のいずれかに記載の単ドメイン抗体とを接触させる工程を含む、試料中のSARS-CoV-2を検出する方法。
(12)前記試料が、対象から取り出した資料である、(11)に記載の方法。
(13)前記対象がヒトである、(12)に記載の方法。
(14)(1)~(8)のいずれかに記載の単ドメイン抗体を有効成分として含む、SARS-CoV-2感染症の予防のために使用される、衛生用品。
(15)(9)に記載の医薬組成物を対象に投与することを含む、SARS-CoV-2感染症を治療又は予防する方法。
(16)前記対象がヒトである、(15)に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、SARS-CoV-2に対する結合活性及び中和活性を有する単ドメイン抗体を提供することができる。また、本発明によれば、SARS-CoV-2感染症の治療及び/又は予防に有用な医薬組成物、SARS-CoV-2感染症の診断補助に有用な、試料中のSARS-CoV-2を検出する試薬及び方法、並びに、SARS-CoV-2感染症の予防に有効な衛生用品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】配列番号1~7で表されるアミノ酸配列を有するVHH抗体(A02、A03、A15、B02、B04、B13及びB16)のアラインメントを示す。
【
図2】各抗SARS-CoV-2 RBD VHH抗体のRBDへの結合活性評価の結果を示すグラフである。試験はn=4で実施した。使用した抗RBD VHH抗体のいずれもRBDに対する結合活性を有することが確認された。特に、A02、A03及びA15において高い結合活性が見られた。
【
図3】各SARS-CoV-2 RBD VHH抗体の中和活性評価の結果を示すグラフである。試験はn=4で実施した。陽性対照区の平均吸光度をACE2結合率100%として、各測定区の平均吸光度よりACE2結合率を算出した。実施例3で高いRBD結合活性を示したA02、A03及びA15で比較的高い中和活性が見られることが確認された。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[1]定義
本明細書において、「ポリペプチド」とは、複数のアミノ酸がペプチド結合することによって形成される分子をいう。構成するアミノ酸数が多いポリペプチド分子のみならず、アミノ酸数が少ない低分子量の分子(オリゴペプチド)も本発明のポリペプチドに包含される。
【0012】
本明細書において、「抗体」とは、特定の物質(抗原)に特異的に結合するタンパク質を指す。本発明においては、抗原はSARS-CoV-2のS1ドメイン上の受容体結合ドメイン(RBD)であり、抗体は、抗SARS-CoV-2 RBD抗体である。本発明の単ドメイン抗体は、対象の体内に存在するSARS-CoV-2のRBDへの結合活性を有することから、RBDの宿主細胞表面のアンジオテンシン変異酵素II(ACE2)受容体への結合を阻害することで、SARS-CoV-2の宿主への感染を抑制することが可能である。
【0013】
本明細書において、抗体の「結合活性」とは、抗体が特定タンパク質(抗原)に特異的に結合する活性を指す。本発明における「結合活性」は、具体的には、抗体が、SARS-CoV-2 RBDに結合する活性をいう。本明細書において、抗体の「中和活性」とは、抗体が特定タンパク質(抗原)の活性を中和する活性を指す。本発明における「中和活性」は、具体的には、抗体が、SARS-CoV-2 RBDの宿主細胞のACEII受容体への結合活性を中和する活性をいう。
【0014】
本明細書において、「単ドメイン抗体」とは、重鎖のみで構成される抗体の可変領域からなる抗体をいう。本発明の単ドメイン抗体としては、VHH抗体、VNAR抗体等の公知の単ドメイン抗体をいずれも使用可能である。特にVHH抗体を好適に使用できる。VHH抗体は、4つのフレーム領域(FR1~4)と3つの相補性決定領域(CDR1~3)を有し、FRとCDRが交互に連結された構造を有する。VHH単量体の分子量は、12~15kDa程度である。VHHは単量体で使用してもよいが、リンカー等を用いて複数のVHHをタンデムに連結して、二量体~四量体程度の大きさとして使用してもよい。
【0015】
本明細書において、「相補性決定領域(CDR)」とは、単ドメイン抗体において抗原と直接接する領域を指す。本発明の単ドメイン抗体には、CDR1~3の3つのCDRが存在する。本明細書において、CDR1及びCDR3の位置は、Kabatナンバリングを用いて決定された位置を指す(Kabat EA et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, NIH (1991))。また、CDR2の位置は、IGMTナンバリングを用いて決定された位置を指す(M.-P. Lefranc et al., Dev. Comp. Immunol. 27, 55-77 (2003))。本明細書において「フレーム領域(FR)」とは、単ドメイン抗体におけるCDR以外の部分を指す。
【0016】
本明細書において「対象」とは、哺乳類及び鳥類を指す。鳥類は、脊索動物門脊椎動物亜門鳥綱に属する動物を指し、例えば、ニワトリ、アヒル、ウズラ、ガチョウ、カモ、シチメンチョウ、セキセイインコ、オウム、オシドリ、ハクチョウ等が挙げられる。哺乳類は、ヒト及びヒト以外を包含する、脊索動物門脊椎動物亜門哺乳網に属する動物を指し、例えば、ヒト、チンパンジーを含む霊長類、イヌ、ネコなどのペット動物、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギなどの家畜動物、マウス、ラットなどの齧歯類、動物園で飼育される哺乳類動物などが含まれる。本明細書における対象は、好ましくは、ヒトである。
【0017】
本明細書において、アミノ酸配列の「配列同一性」は、BLAST(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)等のタンパク質検索システムを用いて、ギャップを導入して、又はギャップを導入しないで、決定することができる値をいう。また、本明細書において「数個」における「数」とは、2~10の整数、好ましくは2~6の整数、2~4の整数、2若しくは3の整数、又は2の整数を表す。
【0018】
本明細書において、「医薬組成物」とは、対象のSARS-CoV-2感染症を治療又は予防を目的として対象に投与するための組成物を指す。
【0019】
本明細書において、「検出試薬」とは、in vitroで試料中のSARS-CoV-2を検出するために使用する組成物等を指す。ここでいう試薬は、SARS-CoV-2の検出が可能であれば、その形態は時に限定されず、組成物等の単剤であってもよいが、例えば、マイクロウェルプレート、磁性ビーズ等の固相、洗浄液、検出用試薬等の複数の組成物、基材等を含むキットの形態も包含する。
【0020】
本明細書において、「衛生用品」とは、主に健康者であるヒトが、日常生活において、身体の清浄、室内の衛生維持、病気の予防等をすることにより、健康を保持するために使用する機械器具等でないものをいう。本明細書においては、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)上の「医薬部外品」も「衛生用品」に含まれるものとする。例えば、衛生用品には、ガーゼ、シート、マスク、綿棒等が含まれる。また、例えば、ヒトやペットの身体を清拭する清拭材や、室内の拭き掃除等に使用される清掃シート等が含まれる。
【0021】
[2]単ドメイン抗体
本発明の単ドメイン抗体は、以下の(a)~(c)に記載のポリペプチド群から選択されるポリペプチドを含む、ことを特徴とする単ドメイン抗体である。
(a)配列番号1~7のいずれかで示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(b)前記(a)に記載のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するポリペプチド;
(c)前記(a)又は(b)に記載のポリペプチドのアミノ酸配列を部分配列として含む、ポリペプチド。
本発明の単ドメイン抗体は、上記の特徴を有することで、SARS-CoV-2のRBDへの結合活性及びSARS-CoV-2 RBDの中和活性を有する。
【0022】
図1に配列番号1~7のアミノ酸配列のアラインメントを示す。
【0023】
本発明の単ドメイン抗体の第1の態様は、以下の3つの相補性決定基(CDR)を含む。
(d)配列番号8で示されるアミノ酸配列又は配列番号8で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR1;
(e)配列番号12で示されるアミノ酸配列又は配列番号12で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR2;及び
(f)配列番号16で示されるアミノ酸配列又は配列番号16で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR3。
【0024】
言い換えれば、本発明の単ドメイン抗体の第1の態様は、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有し、かつ、以下の3つのCDR:
CDR1:RNTMH (配列番号8);
CDR2:ISSRGDWT (配列番号12);及び
CDR3:YLWLLGGVY (配列番号16)
を含む抗体(以下「A02」と表記する)、配列番号1で示されるアミノ酸配列と80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の配列相同性を有するポリペプチドを含む抗体、及び/あるいは、CDR1~3のうち、1つ、2つ、又は3つが、それぞれ配列番号8で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号12で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR2、配列番号16で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR3に置換された抗体である。
【0025】
本発明の単ドメイン抗体の第2の態様は、以下の3つのCDRを含む。
(g)配列番号9で示されるアミノ酸配列又は配列番号9で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR1;
(h)配列番号13で示されるアミノ酸配列又は配列番号13で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR2;及び
(i)配列番号17で示されるアミノ酸配列又は配列番号17で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR3。
【0026】
言い換えれば、本発明の単ドメイン抗体の第2の態様は、配列番号2で示されるアミノ酸配列を有し、かつ、以下の3つのCDR:
CDR1:HNAMH (配列番号9);
CDR2:ISHVVYRT (配列番号13);及び
CDR3:VALTDLRLY (配列番号17)
を含む抗体(以下「A03」と表記する)、配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の配列相同性を有するポリペプチドを含む抗体、及び/あるいは、CDR1~3のうち、1つ、2つ、又は3つが、それぞれ配列番号9で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号13で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR2、配列番号17で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR3に置換された抗体である。
【0027】
本発明の単ドメイン抗体の第3の態様は、以下の3つのCDRを含む。
(j)配列番号8で示されるアミノ酸配列又は配列番号8で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR1;
(k)配列番号12で示されるアミノ酸配列又は配列番号12で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR2;及び
(l)配列番号18で示されるアミノ酸配列又は配列番号18で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR3。
【0028】
言い換えれば、本発明の単ドメイン抗体の第3の態様は、配列番号3で示されるアミノ酸配列を有し、かつ、以下の3つのCDR:
CDR1:RNTMH (配列番号8);
CDR2:ISSRGDWT (配列番号12);及び
CDR3:SVSAFGWLY (配列番号18)
を含む抗体(以下「A15」と表記する)、配列番号3で示されるアミノ酸配列と80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の配列相同性を有するポリペプチドを含む抗体、及び/あるいは、CDR1~3のうち、1つ、2つ、又は3つが、それぞれ配列番号8で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号12で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR2、配列番号18で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR3に置換された抗体である。
【0029】
本発明の単ドメイン抗体の第4の態様は、以下の3つのCDRを含む。
(m)配列番号8で示されるアミノ酸配列又は配列番号8で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR1;
(n)配列番号12で示されるアミノ酸配列又は配列番号12で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR2;及び
(o)配列番号19で示されるアミノ酸配列又は配列番号19で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR3。
【0030】
言い換えれば、本発明の単ドメイン抗体の第4の態様は、配列番号4で示されるアミノ酸配列を有し、かつ、以下の3つのCDR:
CDR1:RNTMH (配列番号8);
CDR2:ISSRGDWT (配列番号12);及び
CDR3:LLWNYGGVC (配列番号19)
を含む抗体(以下「B02」と表記する)、配列番号4で示されるアミノ酸配列と80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の配列相同性を有するポリペプチドを含む抗体、及び/あるいは、配列番号8で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号12で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR2、配列番号19で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR3に置換された抗体である。
【0031】
本発明の単ドメイン抗体の第5の態様は、以下の3つのCDRを含む。
(p)配列番号8で示されるアミノ酸配列又は配列番号8で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR1;
(q)配列番号12で示されるアミノ酸配列又は配列番号12で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR2;及び
(r)配列番号20で示されるアミノ酸配列又は配列番号20で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR3。
【0032】
言い換えれば、本発明の単ドメイン抗体の第5の態様は、配列番号5で示されるアミノ酸配列を有し、かつ、以下の3つのCDR:
CDR1:RNTMH (配列番号8);
CDR2:ISSRGDWT (配列番号12);及び
CDR3:LLWHYGGVY (配列番号20)
を含む抗体(以下「B04」と表記する)、配列番号5で示されるアミノ酸配列と80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の配列相同性を有するポリペプチドを含む抗体、及び/あるいは、配列番号8で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号12で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR2、配列番号20で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR3に置換された抗体である。
【0033】
本発明の単ドメイン抗体の第6の態様は、以下の3つのCDRを含む。
(s)配列番号10で示されるアミノ酸配列又は配列番号10で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR1;
(t)配列番号14で示されるアミノ酸配列又は配列番号14で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR2;及び
(u)配列番号21で示されるアミノ酸配列又は配列番号21で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR3。
【0034】
言い換えれば、本発明の単ドメイン抗体の第6の態様は、配列番号6で示されるアミノ酸配列を有し、かつ、以下の3つのCDR:
CDR1:HHTML (配列番号10);
CDR2:ISFRGNWT (配列番号14);及び
CDR3:HLWLLGGVY (配列番号21)
を含む抗体(以下「B13」と表記する)、配列番号6で示されるアミノ酸配列と80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の配列相同性を有するポリペプチドを含む抗体、及び/あるいは、配列番号10で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR2、配列番号21で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR3に置換された抗体である。
【0035】
本発明の単ドメイン抗体の第7の態様は、以下の3つのCDRを含む。
(v)配列番号11で示されるアミノ酸配列又は配列番号11で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR1;
(w)配列番号15で示されるアミノ酸配列又は配列番号15で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR2;及び
(x)配列番号16で示されるアミノ酸配列又は配列番号16で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR3。
【0036】
言い換えれば、本発明の単ドメイン抗体の第7の態様は、配列番号7で示されるアミノ酸配列を有し、かつ、以下の3つのCDR:
CDR1:HNAVH (配列番号11);
CDR2:ISHLVHRT (配列番号15);及び
CDR3:YLWLLGGVY (配列番号16)
を含む抗体(以下「B16」と表記する)、配列番号7で示されるアミノ酸配列と80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の配列相同性を有するポリペプチドを含む抗体、及び/あるいは、配列番号11で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号15で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR2、配列番号16で示されるアミノ酸配列のうち、1個若しくは2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるCDR3に置換された抗体である。
【0037】
本発明の抗体は、配列番号1~7のアミノ酸配列を有するポリペプチドをいずれも包含するが、これらに限定されず、配列番号1~7のアミノ酸配列と80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の配列相同性を有するポリペプチドも包含する。あるいは、配列番号1~7のアミノ酸配列を有するポリペプチド中の1個又は数個のアミノ酸が改変されたポリペプチドも包含する。一般に、あるポリペプチドの中の20%未満、特に15%未満又は10%未満のアミノ酸の改変、あるいは、1個、又は数個のアミノ酸の改変は、元のポリペプチドの機能に影響を及ぼさないと考えられ、場合によっては元のポリペプチドの所望の機能を強化することさえあると考えられている。実際、元のアミノ酸配列と比較して、1個、又は数個のアミノ酸残基が改変された(すなわち、置換、欠失、付加及び/又は挿入された)アミノ酸配列で構成される改変ポリペプチドは、元のポリペプチドの生物活性を保持することが知られている(Mark et al., 1984, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81, pp. 5662-5666, Zoller and Smith, 1982, Nucleic Acids Res. 10 pp. 6487-6500, Dalbadie-McFarland et al., 1982, Proc. Natl. Acad. Sci. USA.79, pp. 6409-6413)。
【0038】
また、本発明のポリペプチドは、配列番号1~7のアミノ酸配列を有するポリペプチド(上記改変ポリペプチドを包含する)のみでなく、これを一部分として含むポリペプチドも包含する。あるいは、上記のポリペプチドのうち、同種の2~4個のポリペプチド、あるいは2~4種のポリペプチドの組み合わせをタンデムに連結した構造を有するポリペプチドであってもよい。
【0039】
なお、天然のタンパク質を構成する20種類のアミノ酸は、低極性側鎖を有する中性アミノ酸(Gly、Ile、Val、Leu、Ala、Met、Pro)、親水性側鎖を有する中性アミノ酸(Asn、Gln、Thr、Ser、Tyr、Cys)、酸性アミノ酸(Asp、Glu)、塩基性アミノ酸(Arg、Lys、His)、芳香族アミノ酸(Phe、Tyr、Trp)のように類似の性質を有するものにグループ分けでき、これらの間での置換であればポリペプチドの性質が変化しないことが多いことが知られている。したがって、配列番号1~7のアミノ酸配列中のアミノ酸残基を置換する場合には、これらの各グループの間で置換することにより、結合活性及び中和活性を維持できる可能性が高くなる。
【0040】
本発明のポリペプチドの調製方法は、特に限定されず、本技術分野で使用される公知のポリペプチド調製のための手法、例えば、Fmoc固相合成法、Boc固相合成法等のペプチド固相合成法等の化学合成法、大腸菌、ブレビバチルス菌、酵母、麹菌、昆虫細胞、哺乳動物細胞等を宿主とした遺伝子組換え技術による生成いずれも使用することができる。
【0041】
[3]医薬組成物
本発明の医薬組成物は、「[2]単ドメイン抗体」の項に記載した本発明の単ドメイン抗体のうち、少なくとも1種類の単ドメイン抗体を含む、SARS-CoV-2感染症の治療又は予防のための医薬組成物である。本発明の医薬組成物は、本発明のポリペプチドを1種類のみ含んでいてもよく、また、複数種類含んでいてもよい。
【0042】
本発明の医薬組成物の投与経路は、特に限定されず、経口、経鼻、舌下、皮下、筋肉内等の公知のいずれの投与経路としてもよい。
【0043】
本発明の医薬組成物は、単ドメイン抗体に加えて、必要に応じて製薬上許容される担体を含有してもよい。ここでいう「製薬上許容可能な担体」とは、製剤技術分野において通常使用する添加剤をいう。例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤、流動添加調節剤、滑沢剤等が挙げられる。
【0044】
本発明の医薬組成物は、必要に応じてさらに製薬上許容可能な担体を含むことができる。「製薬上許容可能な担体」とは、製剤技術分野において通常使用する添加剤をいう。例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤、流動添加調節剤、滑沢剤等が挙げられる。
【0045】
賦形剤としては、単糖、二糖類、シクロデキストリン及び多糖類のような糖(より具体的には、限定はしないが、グルコース、スクロース、ラクトース、ラフィノース、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、デキストリン、マルトデキストリン、デンプン及びセルロースを含む)、金属塩(例えば、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム若しくはリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム)、クエン酸、酒石酸、グリシン、低、中、高分子量のポリエチレングリコール(PEG)、プルロニック、カオリン、ケイ酸、あるいはそれらの組み合わせが例として挙げられる。
【0046】
結合剤としては、トウモロコシ、コムギ、コメ、若しくはジャガイモのデンプンを用いたデンプン糊、単シロップ、グルコース液、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セラック及び/又はポリビニルピロリドン等が例として挙げられる。
【0047】
崩壊剤としては、前記デンプンや、乳糖、カルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、アガー、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、アルギン酸若しくはアルギン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド又はそれらの塩が例として挙げられる。
【0048】
充填剤としては、前記糖及び/又はリン酸カルシウム(例えば、リン酸三カルシウム、若しくはリン酸水素カルシウム)が例として挙げられる。
【0049】
乳化剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが例として挙げられる。
【0050】
流動添加調節剤及び滑沢剤としては、ケイ酸塩、タルク、ステアリン酸塩又はポリエチレングリコールが例として挙げられる。
【0051】
このような担体は、主として前記剤形形成を容易にし、また剤形及び薬理効果を維持するために用いられるものであり、必要に応じて適宜使用すればよい。上記の添加剤の他、必要であれば矯味矯臭剤、可溶化剤、懸濁剤、希釈剤、界面活性剤、安定剤、吸収促進剤、増量剤、付湿剤、保湿剤、吸着剤、崩壊抑制剤、コーティング剤、着色剤、保存剤、抗酸化剤、香料、風味剤、甘味剤、緩衝剤等を含むこともできる。
【0052】
本発明の医薬組成物は、単ドメイン抗体の効果を失わない範囲において、他の薬剤を含有することもできる。例えば、注射剤の場合であれば、他の抗生物質を所定量含有していても良い。
【0053】
本発明の医薬組成物の剤形は、有効成分である単ドメイン抗体、及び他の付加的な有効成分を不活化させない形態であれば特に限定しない。例えば、液体、固体又は半固体のいずれであってもよい。具体的な剤形としては、例えば、液剤、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、舌下剤、トローチ剤等の経口剤形、又は、注射剤、懸濁剤、乳剤、点眼剤、点鼻剤、クリーム剤、軟膏剤、硬膏剤、シップ剤及び座剤等の非経口剤形が挙げられる。
【0054】
本発明の医薬組成物は、含有される有効成分が失活しない、あらゆる適当な方法で投与することができる。例えば、経口又は非経口(例えば、注射、エアロゾル、塗布、点眼、点鼻)のいずれであってもよい。
【0055】
本発明の医薬組成物は、単ドメイン抗体を、SARS-CoV-2の治療又は予防に効果的で、かつ、重篤な副作用が発生する可能性が極めて低い量で含むことが好ましい。単ドメイン抗体の投与量は、SARS-CoV-2の治療又は予防に効果的で、かつ、重篤な副作用が発生する可能性が極めて低い量であれば特に限定されないが、例えば、合計で0.01~30mg/kg体重、特に0.02~6mg/kg体重となるように調整することができる。
【0056】
本発明の医薬組成物の投与回数は、SARS-CoV-2感染症の治療又は予防の効果が十分に得られ、かつ重篤な副作用が生じない限り、特に限定しないが、例えば、3日に1回~1日5回、特に1日1回~1日3回とすることが好ましい。本発明の医薬組成物の投与期間は特に限定されないが、例えば、3日間~1ヶ月、特に1週間~2週間とすることができる。
【0057】
本明細書はまた、本発明の医薬組成物を製造する方法を提供する。ここで開示される医薬組成物を製造する方法は、「[2]単ドメイン抗体」の項に記載した本発明の単ドメイン抗体のうち、少なくとも1種類の単ドメイン抗体を使用して、SARS-CoV-2感染症の治療又は予防のための医薬組成物を製造するための方法である。単ドメイン抗体の構造及び製造方法は、特に矛盾のない限り、「[2]単ドメイン抗体」の項に記載した通りである。また、製造される医薬組成物の原料、組成、性状等は、特に矛盾のない限り、「[3]医薬組成物」の項に記載した通りである。
【0058】
[4]SARS-CoV-2の検出試薬及び検出方法
本発明の検出試薬は、「[2]単ドメイン抗体」の項に記載した本発明の単ドメイン抗体のうち、少なくとも1種類の単ドメイン抗体を含む、ことを特徴とする。また、本発明の試料中のSARS-CoV-2を検出する方法(以下、「本発明の検出方法」とも称する)は、試料と、「[2]単ドメイン抗体」の項に記載した本発明の単ドメイン抗体のうち、少なくとも1種類の単ドメイン抗体とを接触させる工程を含む、ことを特徴とする。本発明の検出試薬及び検出方法は、本発明の単ドメイン抗体を使用して、試料中のSARS-CoV-2を特異的に当該抗体に結合させることで、精度よくSARS-CoV-2の検出を行うことが可能である。
【0059】
本発明の検出試薬及び検出方法は、特にSARS-CoV-2の感染が疑われる対象から取り出した試料について、in vitroでSARS-CoV-2を検出することによって、対象のSARS-CoV-2感染症の診断を補助するために使用される。本発明の検出試薬は、本発明の単ドメイン抗体が含まれ、かつ、試料中のSARS-CoV-2の検出が可能であれば、単独の組成物等の形態であってもよく、また、複数の組成物、基材等を含むキットの形態であってもよい。
【0060】
試料は、対象から取り出した試料、例えば、鼻腔ぬぐい液、咽頭ぬぐい液、鼻汁、唾液、喀痰、うがい液、血液(例、全血、血清、血漿)、尿、糞便、乳汁、組織又は細胞抽出液、あるいはこれらの混合物とすることができる。あるいは、SARS-CoV-2が含まれると推定される他の試料、例えば、下水、使用後の清掃シート等とすることができる。好ましくは、対象から取り出した試料であり、より好ましくは、鼻腔ぬぐい液又は唾液である。
【0061】
本発明の検出試薬は、具体的には、SARS-CoV-2 RBDに対する単ドメイン抗体を使用する免疫測定のための試薬である。また、本発明の検出方法は、具体的には、対象から取り出した試料をSARS-CoV-2 RBDに対する単ドメイン抗体と反応させる工程を有する、免疫測定のための方法である。このような免疫測定としては、例えば、直接競合法、間接競合法、及びサンドイッチ法が挙げられる。また、このような免疫測定としては、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)、化学発光イムノアッセイ(CLIA)、免疫比濁法(TIA)、酵素免疫測定法(EIA)(例、直接競合ELISA、間接競合ELISA、及びサンドイッチELISA)、放射イムノアッセイ(RIA)、ラテックス凝集反応法、蛍光イムノアッセイ(FIA)、及びイムノクロマトグラフィー法が挙げられる。上記の免疫測定の原理及び具体的な手法は、いずれも当業者にとって周知である。
【0062】
本発明の検出試薬及び検出方法におけるSARS-CoV-2の検出は、定性的であっても定量的であってもよい。定性的手法としては、例えば、試料から得られるシグナルを予め設定したカットオフと比較することで、試料中のSARS-CoV-2の存在の有無を判定する手法をとり得る。定量的手法としては、既知量の抗原ペプチド(ここではSARS-CoV-2 RBDに相当するペプチド)を含む標準液について、試料と同様に免疫測定を行い、試料と標準液より得られるシグナル強度を比較して試料中の抗原量を算出する手法をとり得る。この場合、本発明の検出試薬は、標準液を含んでいてもよい。また、本発明の検出方法は、標準液中の抗原を検出する工程、及び標準液の検出結果より試料中のSARS-CoV-2を算出する工程を含んでいてもよい。
【0063】
[5]衛生用品
本発明の衛生用品は、「[2]単ドメイン抗体」の項に記載した本発明の単ドメイン抗体のうち、少なくとも1種類の単ドメイン抗体を含む、SARS-CoV-2の予防のために使用される、ことを特徴とする。
【0064】
本発明の衛生用品は、例えば、紙、不織布、布、脱脂綿等に、有効成分として単ドメイン抗体を含む組成物を水溶液等の状態で含浸させた、湿潤物品(例えば、湿潤シート)とすることができる。また、紙、不織布、布、脱脂綿等に、単ドメイン抗体を含む組成物を水溶液等の状態で含浸させた後、乾燥させた物品(例えば、マスク、綿棒など)とすることができる。あるいは、本発明の衛生用品は、液状の組成物そのものであり(以下、「衛生組成物」と称する)、使用直前に、使用者が紙、不織布、布、脱脂綿等に当該組成物を噴霧するなどして含浸させてから使用してもよい。衛生用品に含浸させて使用する場合、衛生組成物における単ドメイン抗体の含有量は、ウイルス感染症予防効果が得られ、かつ、これを含侵させた衛生用品をヒトの皮膚等に接触させても発赤等の異常が生じにくい含有量とすることが好ましい。衛生組成物における単ドメイン抗体の含有量は、具体的な衛生用品の素材、形状、使用形態によって適宜調整できるが、例えば、0.01pg/mL~0.1mg/mL、特に1pg/mL~1ng/mLとすることができる。
【0065】
本発明の衛生用品には、単ドメイン抗体に加えて、エタノール、イソプロパノール、次亜塩素酸ナトリウム、塩化セチルピリジニウム(CPC)、ポピヨンヨード、乳化ナトリウム等の公知の抗菌剤、殺菌剤又は除菌剤が含まれていてもよい。
【0066】
[6]SARS-CoV-2感染症を治療又は予防する方法
本発明のSARS-CoV-2の感染を治療又は予防する方法(以下、単に「本発明の治療方法」とも称する)は、「[3]医薬組成物」の項に記載した、本発明の医薬組成物を対象に投与する工程を含むことを特徴とする。
【0067】
本発明の治療方法の対象、投与する医薬組成物の剤形、含有成分等の詳細な条件は、特に矛盾のない限り、「[3]医薬組成物」の項に記載の通りである。
【実施例0068】
以下、本発明をより詳細に説明するために実施例を示すが、本発明の範囲を実施例の範囲に限定することを意図するものではない。
【0069】
[参考例1]抗SARS-CoV-2 VHH抗体のスクリーニング
VHH抗体遺伝子ライブラリーは、特開2016-44126号公報等に記載の方法を参照としたDegeneration PCR法により作製した。ライブラリーの多様性は約1010である。SARS-CoV-2 RBDタンパク質(Recombinant SARS-CoV-2, S1 Subunit Protein (RBD)、RayBiotech Life, Inc.より入手)を磁気ビーズに固相化し、大腸菌無細胞翻訳系を用いたmRNAディスプレイ法により、RBDタンパク質に特異的に結合するVHH抗体遺伝子を上記ライブラリーより選抜した。取得した7つのVHH抗体遺伝子の塩基配列(配列番号22~28)を表1に示す。
【0070】
【0071】
[実施例1]抗SARS-CoV-2 VHH抗体発現ベクターの構築
表1に示す各遺伝子を鋳型として、下記プライマーA、プライマーBを用いてPCRを行った。
プライマーA:CCCATGGCTTTCGCTGCAGGATCCCAAGTACAACTGGTAGAATCC (配列番号30)
プライマーB:CCCCCGCATCCTGTTAAGCTTTTACTTATCGTCGTCGTCCTTATAG (配列番号31)
ブレバチルス菌用発現ベクターpROXb3(株式会社プロテイン・エクスプレス社製)を制限酵素BamHI及びHindIIIで切断して直鎖化し、上記の各PCR産物をギブソン・アセンブリ法により導入して、VHH抗体発現ベクターを構築した。その際、各VHH抗体遺伝子のC末端にHisタグ、FLAGタグを付加した。陰性対象として、緑色蛍光タンパク質(GFP)結合性のVHH抗体遺伝子(表1の配列番号29、M. H. Kubala et al., Protein Sci. 19(12), pp. 2389-2401 (2010)を参照)を人工合成して同様に発現ベクターを構築した。
【0072】
[実施例2]VHH抗体タンパク質の調製
実施例1で構築した各発現ベクターを用いて、エレクトロポレーション法によりブレビバチルス(Brevibacillus choshinensis)HPD31株の形質転換を行った(H. Takagi et al., Agric. Biol. Chem. 53(11) 3099-3100 (1989)を参照)。各形質転換体をTMN培地(1%ポリペプトン、0.5%肉エキス、0.2%酵母エキス、0.001%硫酸鉄(II)七水和物、0.001%硫酸マンガン(II)五水和物、0.0001%硫酸亜鉛七水和物、1%グルコース、50μg/mL ネオマイシン)にて30℃で66時間培養した。培養終了後、10,000g、10分間の遠心により培養上清を回収し、0.2μmのフィルターでろ過滅菌を行った。滅菌後の培養上清から、Ni Sepharose(Cytiva)を用いて、分泌生産されたVHH抗体タンパク質の精製を行い、PBSに溶媒置換したものをVHH抗体溶液とした。
【0073】
[実施例3]各VHH抗体のSARS-CoV-2 RBDへの結合活性評価
96ウェルマイクロウェルプレートに、炭酸バッファーに懸濁したSARS-CoV-2 RBDタンパク質を50ng/ウェルとなるように添加し、4℃で一晩静置した。タンパク質溶液を除去した後、3%ウシ血清アルブミン(BSA)/PBS溶液を加え、室温で2時間静置して、ウェルのブロッキングを行った。0.05% Tween20/PBS溶液にてウェルを3回洗浄した後に、3%BSA/PBS溶液で希釈した各VHH抗体を50ng/ウェルとなるように加え、室温で2時間反応させた。ブランク区には、3%BSA/PBS溶液のみを加えた。ウェルを0.05% Tween20/PBS溶液にて3回洗浄した後に、3%BSA/PBS溶液にて10000倍希釈した抗FLAG抗体(Monoclonal ANTI-FLAG M2 antibody produced in mouse、Merck KGaAより入手)を加え、室温で1時間反応させた。ウェルを3回洗浄した後に、3%BSA/PBS溶液にて5000倍希釈したHRP標識抗マウス抗体(ヤギ抗マウスIgG(H+L)-HRP 複合体、Bio-Rad Laboratories,Inc.より入手)を加え、室温で1時間反応させた。ウェルを0.05% Tween20/PBS溶液にて3回洗浄した後に、TMBパーオキシダーゼEIA複合体基質キット(Bio-Rad Laboratories,Inc.より入手)を用いて発色反応を行った。3%硫酸で反応を停止させた後に、450nmでの吸光度を測定することで、取得したVHH抗体のS1タンパク質(RBD)に対する結合活性を評価した。試験はn=4で行った。
【0074】
図2に、上記の各VHH抗体のRBDへの結合活性評価の結果を示す。使用した抗RBD VHH抗体のいずれもRBDに対する結合活性を有することが確認された。特に、A02、A03及びA15において高い結合活性が見られた。
【0075】
[実施例4]各VHH抗体のSARS-CoV-2 RBD中和活性評価
各VHH抗体の中和活性を、ACE2:SARS-CoV-2 Spike S1-Biotin Inhibitor Screening Assay Kit(BPS Bioscience Inc.より入手)を用いて実施した。キットの添付文書に従い、プレートにACE2タンパク質を固相化、ブロッキングを行った。その後、S1タンパク質-ビオチン複合体と共にVHH抗体(ウェル当たり4ng)を添加、室温で1時間反応させた。ウェルを洗浄後、ストレプトアビジン-HRPを添加、ELISAと同様にTMBパーオキシダーゼEIA複合体基質キットを用いた発色反応を行った。陽性対照区はVHH抗体非添加、ブランク区はS1タンパク質-ビオチン複合体非添加とした。試験はn=4で行った。
【0076】
図3に、各VHH抗体のSARS-CoV-2 RBDの中和活性評価の結果を示す。陽性対照区の平均吸光度をACE2結合率100%として、各測定区の平均吸光度よりACE結合率を算出した。実施例3で高いRBD結合活性を示したA02、A03及びA15で比較的高い中和活性が見られることが確認された。