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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003270
(43)【公開日】2023-01-11
(54)【発明の名称】標的分子の酸化還元方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/00 20060101AFI20221228BHJP
【FI】
C12Q1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021104344
(22)【出願日】2021-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】和山 文哉
(72)【発明者】
【氏名】初谷 紀幸
(72)【発明者】
【氏名】奥村 泰章
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QQ64
4B063QX04
(57)【要約】
【課題】反応系全体で標的分子を効率良く酸化又は還元できる標的分子の酸化還元方法を提供する。
【解決手段】標的分子の酸化還元方法は、標的分子を含む液体内に、外部電源に接続された電極を配置し、電極に電圧を印加して電極と標的分子との間で電子授受を行わせることにより、標的分子を酸化又は還元する第1工程(S3)と、電圧の印加を休止する第2工程(S4)と、を含み、第1工程と第2工程とを順次繰り返して実行する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的分子を含む液体内に、外部電源に接続された電極を配置し、前記電極に電圧を印加して前記電極と前記標的分子との間で電子授受を行わせることにより、前記標的分子を酸化又は還元する第1工程と、
前記電圧の印加を休止する第2工程と、を含み、
前記第1工程と前記第2工程とを順次繰り返して実行する、
標的分子の酸化還元方法。
【請求項2】
前記第1工程の実行時間は、前記第2工程の実行時間よりも長い、
請求項1に記載の標的分子の酸化還元方法。
【請求項3】
前記第1工程の実行時間と前記第2工程の実行時間との比は、3:1~2である、
請求項1又は2に記載の標的分子の酸化還元方法。
【請求項4】
前記第1工程の実行時間は30分であり、
前記第2工程の実行時間は20分である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の標的分子の酸化還元方法。
【請求項5】
前記標的分子は、NADPである、
請求項1~4のいずれか1項に記載の標的分子の酸化還元方法。
【請求項6】
前記電極は、金を含む基板を有する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の標的分子の酸化還元方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気化学的手法を用いた、標的分子の酸化還元方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子伝達物質の還元体である電子供与体は、電子受容体に電子を供与して還元することができる。しかし、電子供与体は一度電子受容体を還元すると自身が酸化体となるため、それ以上ターゲット分子を還元することができない。生体内反応においては、酸化された電子伝達物質を再度還元する機能が備わっているが、生体外での反応においては生体内のように物質同士で常に電子を供与できる反応システムはなく、電気化学測定装置などを用いて電子を供与する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
電気化学測定では、反応は電極近傍でのみ生じるため、電極から離れた位置にある標的物質を還元することが困難である。これを解決するために、物理的な攪拌を行うことにより反応系全体で均一に還元が進むように工夫されている。しかしながら、常に攪拌しているだけでは、電極から電子伝達体への電子輸送が十分に行われないため、結果的に反応系の中の標的物質が還元されない。さらに、物理的な撹拌を行いながら電流値を測定すると、攪拌による溶液の対流の影響により、電流値を正確に計測できない。したがって、電気化学測定時に電流値を安定させながら、反応系全体で均一に標的分子を還元が進むように撹拌する手法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示の一態様に係る標的分子の酸化還元方法は、標的分子を含む液体内に、外部電源に接続された電極を配置し、前記電極に電圧を印加して前記電極と前記標的分子との間で電子授受を行わせることにより、前記標的分子を酸化又は還元する第1工程と、前記電圧の印加を休止する第2工程と、を含み、前記第1工程と前記第2工程とを順次繰り返して実行する。
【発明の効果】
【0005】
本開示によれば、反応系全体で標的分子を効率良く酸化又は還元できる標的分子の酸化還元方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、実施の形態における電圧印加部の一例を示す斜視図である。
図2図2は、実施の形態に係る標的分子の酸化還元方法を実行する装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図3図3は、第1工程と第2工程とが順次繰り返される場合の電流値の計測例と、液体中の標的分子の動きの例を示す図である。
図4図4は、1ステップ当たりの電圧印加時間を30分とした際の、休止時間の違いによる標的分子の吸収スペクトルを示す図である。
図5図5は、1ステップ当たりの休止時間を電圧印加時間の2/3とした際の、標的分子の吸収スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(本開示の基礎となった知見)
従来技術においては、電気化学測定装置のカソード電極から、標的分子に電子を供与することにより標的分子を酸化又は還元する。標的分子がカソード電極から直接電子を受容することが難しい場合は、電子伝達体を反応系に添加して電圧を印加してもよいし、電子伝達体を電極に固定化して電圧を印加してもよい。電子伝達体は、カソード電極から受容した電子を標的分子に供与する。これにより、標的分子は、電極から間接的に電子を受容して酸化又は還元される。
【0008】
このようなカソード電極と標的分子との間の電子授受反応は、カソード電極の周りでしか起こらない非常に局所的な反応であり、反応系全体では、標的分子の多くが酸化又は還元されていない。したがって、反応系全体で均一に標的分子の酸化又は還元が進み、酸化還元効率の高い反応系を構築することが求められている。
【0009】
そこで、本開示は、反応系全体で標的分子を効率良く酸化又は還元できる標的分子の酸化還元方法を提供する。
【0010】
(本開示の一態様)
本開示の一態様は、以下の通りである。
【0011】
本開示の一態様に係る標的分子の酸化還元方法は、標的分子を含む液体内に、外部電源に接続された電極を配置し、前記電極に電圧を印加して前記電極と前記標的分子との間で電子授受を行わせることにより、前記標的分子を酸化又は還元する第1工程と、前記電圧の印加を休止する第2工程と、を含み、前記第1工程と前記第2工程とを順次繰り返して実行する。
【0012】
これにより、第1工程において、電極と標的分子との間で電子授受反応が行われる。そして、第2工程において、電圧印加を休止することにより、電極近傍に局在した標的分子が電極の近傍から拡散され、液体中の他の標的分子が電極の近傍に移動しやすくなる。これにより、液体中のより多くの標的分子が電極と電子授受反応を行うことができるようになるため、標的分子と電極との間の電子授受反応の効率が向上する。
【0013】
また、第1工程と第2工程とが順次繰り返して実行されるため、標的分子を連続して酸化又は還元することができる。したがって、標的分子の酸化還元方法によれば、反応系(つまり、溶液)全体で標的分子を効率良く酸化又は還元することができる。
【0014】
本開示の一態様に係る標的分子の酸化還元方法では、前記第1工程の実行時間は、前記第2工程の実行時間よりも長くてもよい。
【0015】
これにより、標的分子と電極との間の電子授受の時間を十分に取ることができるため、より多くの標的分子を酸化又は還元することができる。
【0016】
本開示の一態様に係る標的分子の酸化還元方法では、前記第1工程の実行時間と前記第2工程の実行時間との比は、3:1~2であってもよい。
【0017】
これにより、標的分子と電極との間の電子授受の時間を十分に取ることができるため、より多くの標的分子を酸化又は還元することができる。
【0018】
本開示の一態様に係る標的分子の酸化還元方法では、前記第1工程の実行時間は30分であり、前記第2工程の実行時間は20分であってもよい。
【0019】
これにより、標的分子と電極との間の電子授受の時間を十分に取ることができるため、より多くの標的分子を酸化又は還元することができる。
【0020】
本開示の一態様に係る標的分子の酸化還元方法では、前記標的分子は、NADP+であってもよい。
【0021】
これにより、標的分子が還元されるとNADPHが得られるため、様々なレドックス反応に関与する分子を活性化することができる。
【0022】
本開示の一態様に係る標的分子の酸化還元方法では、前記電極は、金を含む基板を有してもよい。
【0023】
これにより、金を含む電極は、還元領域での電位窓が広く、また、チオール化合物により表面化学修飾が容易であるため、利便性が高い。
【0024】
なお、これらの包括的又は具体的な態様は、システム、方法、装置、集積回路、コンピュータプログラム又はコンピュータ読み取り可能なCD-ROMなどの記録媒体で実現されてもよく、システム、方法、装置、集積回路、コンピュータプログラム及び記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【0025】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0026】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、請求の範囲を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、各図は、必ずしも厳密に図示したものではない。各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化される場合がある。
【0027】
また、各図において、それぞれ互いに直交するX軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向を適宜用いて説明する。特に、Z軸方向のプラス側を上側、マイナス側を下側として説明する場合がある。
【0028】
また、本開示において、平行及び垂直などの要素間の関係性を示す用語、及び、矩形などの要素の形状を示す用語、並びに、数値は、厳格な意味のみを表すのではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する。
【0029】
また、本開示の図面において、破線は、表面から見えないもの及び領域の境界を表す。
【0030】
(実施の形態)
以下、実施の形態について、図1から図5を参照しながら具体的に説明する。
【0031】
[標的分子酸化還元装置]
[1.構成]
まず、図1を参照しながら、実施の形態に係る標的分子の酸化還元方法を実行する装置(以下、標的分子酸化還元装置という)について説明する。図1は、実施の形態における電圧印加部10の構成の一例を示す図である。
【0032】
標的分子酸化還元装置は、例えば、図1に示される電圧印加部10を備える装置である。電圧印加部10は、電極(カソード電極1)と標的分子との間で電子授受が行われることにより、標的分子を酸化又は還元する。電圧印加部10は、例えば、カソード電極1(作用極ともいう)、参照極2、対極3、セル4、蓋部5、端子6a、6b、6c、及び、リード7a、7b、7cを備える三電極式セルである。なお、電圧印加部10は、例えば、作用極(カソード電極1)及び対極3を備える二電極式セルであってもよい。
【0033】
標的分子酸化還元装置は、例えば、電圧印加部10を備えるコンピュータ装置であってもよく、電圧印加部10の電源(不図示)と、制御部(不図示)とを備える。標的分子酸化還元装置は、標的分子を含む液体に外部電源に接続された電極を配置し、電極に電圧を印加して電極と標的分子との間で電子授受を行わせることにより、標的分子を酸化又は還元する。その後、標的分子酸化還元装置は、電圧の印加を休止することにより、電極近傍に局在した標的分子が電極近傍から拡散され、液体中の他の標的分子が電極の近傍に移動しやすくなる。このように、電圧印加のON/OFFを繰り返すことにより、液体9中の標的分子による電荷勾配で液体9の流動状態(ただし、目に見えるような流動ではない)が切り替えられ、液体全体で、標的分子を効率良く酸化又は還元することができる。例えば、電圧印加時間(図2の第1工程の実行時間)は、電圧印加休止時間(図2の第2工程の実行時間)よりも長くてもよい。例えば、第1工程の実行時間は30分であり、第2工程の実行時間は20分であってもよい。第1工程の実行時間と第2工程の実行時間との比は、3:1~2であってもよい。
【0034】
カソード電極1及び対極3は、導電性物質から構成される。導電性物質としては、例えば、炭素材料、導電性ポリマー材料、半導体、又は、金属などであってもよい。例えば、電極(ここでは、カソード電極1)は、金、グラッシーカーボン、又は、ITO(Indium Tin Oxide)等を含む基板を有してもよい。カソード電極1には、電子伝達体が固定されてもよい。電子伝達体は、例えば、電極と標的物質との間の電子授受を可能とする物質であれば特に限定されず、例えば、ビオローゲン、キノン、又は、インドフェノール等であってもよい。また、標的分子は、例えば、NADP、NAD、又は、フェレドキシンであってもよい。
【0035】
[2.動作]
続いて、図2及び図3を参照しながら、本実施の形態に係る標的物質の酸化還元方法を実行する装置の動作について説明する。図2は、実施の形態に係る標的分子の酸化還元方法を実行する装置の動作の一例を示すフローチャートである。図3は、第1工程と第2工程とが順次繰り返される場合の電流値の計測例と、液体中の標的分子の動きの例を示す図である。
【0036】
図示していないが、まず、標的分子活性化装置を動作させる前の準備工程について説明する。例えば、準備工程は、ユーザによって行われてもよい。準備工程では、まず、液体9を調製する。ユーザは、標的分子を含む液体9を電圧印加部10のセル4に導入する。
【0037】
次いで、ユーザは、電極を液体9に差し込み、セットする。電極は、カソード電極1、参照極2、及び、対極3である。カソード電極1は、蓋部5に配置された端子6aから伸びたリード7aに接続され、参照極2は、蓋部5に配置された端子6bから伸びたリード7bに接続され、対極3は、蓋部5に配置された端子6cから伸びたリード7cに接続されている。
【0038】
次いで、ユーザは、例えば、標的分子の種類、液体の量、処理の完了時間、完了時刻などの指示に関する情報を標的分子活性化装置に入力する。
【0039】
なお、上記の準備工程では、ユーザがセル4内に標的分子を含む液体9を導入する例を説明したが、これに限られない。例えば、標的分子酸化還元装置がセル4内に液体9を導入してもよい。
【0040】
続いて、標的分子活性化装置の動作について説明する。標的分子活性化装置の制御部は、ユーザにより指示情報が入力されると、電圧印加部10の各電極に電圧を印加する条件及び液体流動条件を設定する(ステップS1)。条件の設定では、制御部は、入力された指示情報に基づいて、電圧印加条件を導出し、電源の電圧印加を制御する制御信号を電源に出力する。
【0041】
次いで、電圧印加部10の電源は、制御部から出力された制御信号を取得すると、当該制御信号に従って、それぞれ、電極への電圧印加の制御を開始する(ステップS2)。電圧印加部10の電源は、電極に電圧を印加して、電極と標的分子との間で電子授受を行わせることにより、標的分子を酸化又は還元する(いわゆる、第1工程)(ステップS3)。続いて、電圧印加部10の電源は、電圧の印加を停止する(いわゆる、第2工程)(ステップS4)。 例えば、図3の(a)に示されるように、第1工程(ステップS3)の実行時間は、第2工程(ステップS4)の実行時間よりも長くてもよい。例えば、それらの比は、3:1~2であってもよい。より具体的には、第1工程(ステップS3)の実行時間は、30分であり、第2工程(ステップS4)の実行時間は10分以上20分以下である。このように、電圧印加と休止とが順次繰り返されることにより、例えば、図3の(c)に示されるように、カソード電極1に電圧が印加された場合に、液体9中の標的分子はカソード電極1(作用極)の近傍に寄って来て、カソード電極1と標的分子との間で電子授受が行われる。これにより、標的分子は酸化又は還元される。また、例えば、図3の(b)に示されるように、カソード電極1への電圧印加が休止された場合に、カソード電極1(作用極)の近傍に存在していた標的分子がカソード電極1の近傍から液体中に拡散する。これにより、液体9中の他の標的分子がカソード電極1の近傍から液体9中に拡散する。したがって、ステップS3では、より多くの標的分子がカソード電極1の近傍で酸化又は還元され、ステップS4では、カソード電極1の近傍に存在していた標的分子が液体9中に拡散して、新たな標的分子がカソード電極1の近傍に移動してくる。これらの処理を繰り返すことで、液体9全体で、標的分子の酸化還元効率が向上する。
【0042】
次いで、制御部は、設定された条件での処理が完了したか否かを判定する(ステップS5)。設定された条件は、例えば、電圧印加の期間(時間)、電圧印加(例えばパルス電圧)の回数、又は、電圧印加状態の切り替えの回数などである。制御部は、設定された条件の処理が完了していないと判定した場合(ステップS5でNo)、電源に電圧印加を継続させる(ステップS6)。そして、次の判定(ステップS5)が行われるまでの間、ステップS3及びステップS4が繰り返される。
【実施例0043】
以下に説明される実施例は一例であって、本開示は以下の実施例のみに限定されない。
【0044】
[実施例1]
(標的分子を含む液体の調製)
標的分子を含む液体(以下、標的分子溶液という)は、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)をpH7.4のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解して1.0ミリモル/リットルに調製した。
【0045】
(標的分子溶液への電圧の印加)
金電極を作用極、Pt電極を対極、Ag/AgCl電極を参照極とした三電極系でNADP溶液に電圧を印加した。反応効率を向上させるために電圧印加を行うステップ(いわゆる、第1工程)と電圧印加を休止するステップ(いわゆる、第2工程)の2つのステップを設けた。(電圧を印加するステップ(第1工程)を30分、電圧印加休止のステップ(第2工程)を20分に設定した。これらの2ステップを8回繰り返し行った。
【0046】
(標的分子の還元の確認)
標的分子の還元は、標的分子であるNADPが還元されて活性型であるNADPHが生成されたことを吸光度測定により確認した。具体的には、NADPH特有の吸収である340nmの吸光度を電圧印加前後で比較した。
【0047】
[比較例1]
実施例1で実施した電圧印加を行うステップ(第1工程)を行わず、電圧印加を休止するステップ(第2工程)を4時間行った後、実施例1と同様の方法で、標的分子の還元を確認した。
【0048】
[比較例2]
実施例1で実施した電圧印加の休止するステップ(第2工程)を行わず、電圧印加を行うステップ(第1工程)を4時間行った後、実施例1と同様の方法で、標的分子の還元を確認した。
【0049】
[比較例3]
実施例1で実施した電圧印加の休止するステップ(第2工程)を10分行った点以外は、実施例1と同様の方法で、標的分子の還元を確認した。
【0050】
[比較例4]
実施例1で実施した電圧印加の休止するステップ(第2工程)を30分行った点以外は、実施例1と同様の方法で、標的分子の還元を確認した。
【0051】
[比較例5]
実施例1で実施した電圧印加の休止するステップ(第2工程)を40分行った点以外は、実施例1と同様の方法で、標的分子の還元を確認した。
【0052】
[比較例6]
実施例1で実施した電圧印加を行うステップ(第1工程)を60分行い、電圧印加を休止するステップ(第2工程)を40分行った以外、実施例1と同様の方法で、標的分子の還元を確認した。
【0053】
[比較例7]
実施例1で実施した電圧印加を行うステップ(第1工程)を15分行い、電圧印加を休止するステップ(第2工程)を10分行った以外、実施例1と同様の方法で、標的分子の還元を確認した。
【0054】
(結果)
図4は、1ステップ当たりの電圧印加時間を30分とした際の、休止時間の違いによる標的分子の吸収スペクトルを示す図である。まず、比較例1及び比較例2の結果について説明する。比較例1は第1工程:第2工程=を4時間:0時間であり、比較例2は、第1工程:第2工程=0時間:4時間である。比較例1は、比較例2よりも吸光度が0.4低かった。つまり、電圧印加を長く行うと却って標的分子の還元効率が下がることが確認された。
【0055】
続いて、実施例1、比較例3、4及び5の結果について説明する。実施例1では、第1工程:第2工程=30分:20分であり、比較例3では、第1工程:第2工程=30分:10分であり、比較例4では、第1工程:第2工程=30分:30分であり、比較例5では、第1工程:第2工程=30分:40分であった。これらの結果を比較すると、実施例1と比較例3とは340nmにおける吸光度は殆ど変わらなかった。しかしながら、比較例4及び比較例5は、実施例1及び比較例3よりも吸光度が低かった。このことから、第1工程の実行時間よりも第2工程の実行時間が長いと、標的分子の還元効率が下がることが確認された。
【0056】
図5は、1ステップ当たりの休止時間を電圧印加時間の2/3とした際の、標的分子の吸収スペクトルを示す図である。図4に示される結果から、第1工程の実行時間:第2工程の実行時間=3:2が良好であると考えたため、これらの工程の実行時間の比率が3:2になるように実行時間を実施例1の2倍にしたとき(比較例6)と、実行時間を実施例1の1/2倍にしたとき(比較例7)とで、違いを検証した。
【0057】
図5に示されるように、実施例1の実行時間の2倍にした場合(比較例6)は、実施例1よりも吸光度が0.1下がっていたが、概ね良好な結果であった。また、実施例1の実行時間の1/2倍にした場合(比較例7)は、実施例1の吸光度とほぼ同等であった。
【0058】
以上の結果から、第1工程及び第2工程の実行時間が3:2である場合に、標的分子の還元効率が向上することが示唆された。また、第1工程及び第2工程の実行時間が3:1である場合も、同様に、標的分子の還元効率が向上することが示唆された。
【0059】
したがって、本開示の標的分子の酸化還元方法によれば、物理的な撹拌を行うことなく、電圧のON/OFFを所定のタイミングで行うことにより、電極と標的分子との間の電子授受が効率良く行われ、標的分子が効率良く酸化又は還元されることが確認できた。
【0060】
以上、本開示に係る酵素固定電極、酵素固定電極の製造方法、及び、標的分子の酸化還元方法について、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、これらの実施の形態に限定されるものではない。本開示の主旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を実施の形態に施したものや、実施の形態における一部の構成要素を組み合わせて構築される別の形態も、本開示の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本開示によれば、反応系全体で標的分子を効率良く酸化又は還元できる標的分子の酸化還元方法及び当該方法を実施する装置を提供できる。
【符号の説明】
【0062】
1 カソード電極
2 参照極
3 対極
4 セル
5 蓋部
6a 端子
6b 端子
6c 端子
7a リード
7b リード
7c リード
8 撹拌子
9 液体
10 電圧印加部
100 標的分子酸化還元装置
図1
図2
図3
図4
図5