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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033084
(43)【公開日】2023-03-09
(54)【発明の名称】抗ウイルス性積層体及び二次成形品
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20230302BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230302BHJP
   C08K 3/015 20180101ALI20230302BHJP
【FI】
B32B27/18 F
C08L101/00
C08K3/015
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051019
(22)【出願日】2022-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2021139218
(32)【優先日】2021-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】出呂町 清花
(72)【発明者】
【氏名】小齊 拓人
(72)【発明者】
【氏名】笹山 道章
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AC10B
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK03B
4F100AK12B
4F100AK15A
4F100AK15B
4F100AK25B
4F100AK41B
4F100AK74B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100CA12B
4F100CA18B
4F100EJ39
4F100JA05B
4F100JB16A
4F100JC00B
4F100YY00B
4J002AA011
4J002BB001
4J002BB031
4J002BB121
4J002BC031
4J002BC051
4J002BC061
4J002BC071
4J002BD041
4J002BD131
4J002BD151
4J002BF031
4J002BG061
4J002BN151
4J002BN161
4J002CD001
4J002CF061
4J002CG001
4J002CH091
4J002CK021
4J002EV256
4J002FB266
4J002FB296
4J002FD186
4J002FD316
4J002GK00
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】意匠性に優れる抗ウイルス性積層体を提供する。
【解決手段】本発明に係る抗ウイルス性積層体は、基材と、前記基材の第1の表面側に配置された抗ウイルス層とを備え、前記抗ウイルス層が、有機粒子に界面活性剤が担持された抗ウイルス剤と、樹脂部とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の第1の表面側に配置された抗ウイルス層とを備え、
前記抗ウイルス層が、有機粒子に界面活性剤が担持された抗ウイルス剤と、樹脂部とを含む、抗ウイルス性積層体。
【請求項2】
前記抗ウイルス層100重量%中、前記抗ウイルス剤の含有量が、15重量%以上50重量%以下である、請求項1に記載の抗ウイルス性積層体。
【請求項3】
前記界面活性剤が、スルホン酸系界面活性剤である、請求項1又は2に記載の抗ウイルス性積層体。
【請求項4】
前記抗ウイルス層の可視光線透過率が、70%以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗ウイルス性積層体。
【請求項5】
前記基材が、熱可塑性樹脂を含み、
前記樹脂部に含まれる樹脂が、熱可塑性樹脂である、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗ウイルス性積層体。
【請求項6】
前記樹脂部に含まれる樹脂が、オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、エステル系樹脂、ABS樹脂、又はこれらの樹脂それぞれの共重合体樹脂である、請求項1~5のいずれか1項に記載の抗ウイルス性積層体。
【請求項7】
A:前記樹脂部に含まれる樹脂のガラス転移温度が0℃未満であり、前記樹脂部に含まれる樹脂と前記界面活性剤の疎水部とのHSP間の距離が、5.5(MPa)0.5以下であるか、又は、
B:前記樹脂部に含まれる樹脂のガラス転移温度が0℃を超え、前記樹脂部に含まれる樹脂と前記界面活性剤の疎水部とのHSP間の距離が、5.5(MPa)0.5以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の抗ウイルス性積層体。
【請求項8】
前記樹脂部に含まれる樹脂のガラス転移温度が0℃未満であり、
前記樹脂部に含まれる樹脂と前記界面活性剤の疎水部とのHSP間の距離が、5.5(MPa)0.5以下である、請求項7に記載の抗ウイルス性積層体。
【請求項9】
前記樹脂部に含まれる樹脂のガラス転移温度が0℃を超え、
前記樹脂部に含まれる樹脂と前記界面活性剤の疎水部とのHSP間の距離が、5.5(MPa)0.5以上である、請求項7に記載の抗ウイルス性積層体。
【請求項10】
前記抗ウイルス層の平均厚みが、2μm以上30μm以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載の抗ウイルス性積層体。
【請求項11】
前記抗ウイルス層とウイルス液とを10分間接触させたときに、ISO21702に準拠して求められる抗ウイルス活性値が、2.0以上である、請求項1~10のいずれか1項に記載の抗ウイルス性積層体。
【請求項12】
前記抗ウイルス層とウイルス液とを24時間接触させたときに、ISO21702に準拠して求められる抗ウイルス活性値が、2.0以上である、請求項1~11のいずれか1項に記載の抗ウイルス性積層体。
【請求項13】
シート状である、請求項1~12のいずれか1項に記載の抗ウイルス性積層体。
【請求項14】
延伸加工して用いられる、請求項1~13のいずれか1項に記載の抗ウイルス性積層体。
【請求項15】
延伸加工して用いられ、
前記抗ウイルス層の平均厚みが、10μm以上30μm以下である、請求項1~14のいずれか1項に記載の抗ウイルス性積層体。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載の抗ウイルス性積層体が延伸加工された、二次成形品。
【請求項17】
前記抗ウイルス性積層体が6倍以下の成形倍率で延伸加工された、請求項16に記載の二次成形品。
【請求項18】
前記抗ウイルス層に由来する層とウイルス液とを10分間接触させたときに、ISO21702に準拠して求められる抗ウイルス活性値が、2.0以上である、請求項16又は17に記載の二次成形品。
【請求項19】
前記抗ウイルス層に由来する層とウイルス液とを24時間接触させたときに、ISO21702に準拠して求められる抗ウイルス活性値が、2.0以上である、請求項16~18のいずれか1項に記載の二次成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材と抗ウイルス剤を含む抗ウイルス層とを備える抗ウイルス性積層体に関する。また、本発明は、上記抗ウイルス性積層体を用いた二次成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、重症呼吸器感染症(SARS)ウイルス、鳥インフルエンザウイルス、口蹄疫ウイルス、新型インフルエンザウイルス及び新型コロナウイルス等のウイルスを起因とする感染症が社会問題となっている。
【0003】
そのため、不特定多数の人が触れる部材又は触れる可能性のある部材に対して、抗ウイルス加工を施す技術の開発が進められている。
【0004】
抗ウイルス剤の一例として、下記の特許文献1には、無機充填剤100重量部に対してスルホン酸系界面活性剤3~100重量部が担持された抗ウイルス剤が開示されている。この抗ウイルス剤は、合成樹脂と混合されて用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-218516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
抗ウイルス剤と樹脂とを含む抗ウイルス層の材料を、対象部材の表面に配置した後、該材料を硬化させることにより、上記対象部材の表面に抗ウイルス層を形成させることができる。このとき、抗ウイルス層の形成前後で外観に変化がないことが最も好ましい。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のような無機粒子を含む従来の抗ウイルス剤では、抗ウイルス剤が材料中にて良好に分散しにくいため、得られる抗ウイルス層中において抗ウイルス剤の分布に大きな偏りが生じたり、抗ウイルス層の厚みに大きなムラが生じたりする。そのため、抗ウイルス層の形成前後で外観に変化が生じやすく、意匠性が低下しやすい。
【0008】
本発明の目的は、意匠性に優れる抗ウイルス性積層体を提供することである。また、本発明は、上記抗ウイルス性積層体を用いた二次成形品を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の広い局面によれば、基材と、前記基材の第1の表面側に配置された抗ウイルス層とを備え、前記抗ウイルス層が、有機粒子に界面活性剤が担持された抗ウイルス剤と、樹脂部とを含む、抗ウイルス性積層体が提供される。
【0010】
本発明に係る抗ウイルス性積層体のある特定の局面では、前記抗ウイルス層100重量%中、前記抗ウイルス剤の含有量が、15重量%以上50重量%以下である。
【0011】
本発明に係る抗ウイルス性積層体のある特定の局面では、前記界面活性剤が、スルホン酸系界面活性剤である。
【0012】
本発明に係る抗ウイルス性積層体のある特定の局面では、前記抗ウイルス層の可視光線透過率が、70%以上である。
【0013】
本発明に係る抗ウイルス性積層体のある特定の局面では、前記基材が、熱可塑性樹脂を含み、前記樹脂部に含まれる樹脂が、熱可塑性樹脂である。
【0014】
本発明に係る抗ウイルス性積層体のある特定の局面では、前記樹脂部に含まれる樹脂が、オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、エステル系樹脂、ABS樹脂、又はこれらの樹脂それぞれの共重合体樹脂である。
【0015】
本発明に係る抗ウイルス性積層体のある特定の局面では、A:前記樹脂部に含まれる樹脂のガラス転移温度が0℃未満であり、前記樹脂部に含まれる樹脂と前記界面活性剤の疎水部とのHSP間の距離が、5.5(MPa)0.5以下であるか、又は、B:前記樹脂部に含まれる樹脂のガラス転移温度が0℃を超え、前記樹脂部に含まれる樹脂と前記界面活性剤の疎水部とのHSP間の距離が、5.5(MPa)0.5以上である。
【0016】
本発明に係る抗ウイルス性積層体のある特定の局面では、前記樹脂部に含まれる樹脂のガラス転移温度が0℃未満であり、前記樹脂部に含まれる樹脂と前記界面活性剤の疎水部とのHSP間の距離が、5.5(MPa)0.5以下である。
【0017】
本発明に係る抗ウイルス性積層体のある特定の局面では、前記樹脂部に含まれる樹脂のガラス転移温度が0℃を超え、前記樹脂部に含まれる樹脂と前記界面活性剤の疎水部とのHSP間の距離が、5.5(MPa)0.5以上である。
【0018】
本発明に係る抗ウイルス性積層体のある特定の局面では、前記抗ウイルス層の平均厚みが、2μm以上30μm以下である。
【0019】
本発明に係る抗ウイルス性積層体のある特定の局面では、前記抗ウイルス層とウイルス液とを10分間接触させたときに、ISO21702に準拠して求められる抗ウイルス活性値が、2.0以上である。
【0020】
本発明に係る抗ウイルス性積層体のある特定の局面では、前記抗ウイルス層とウイルス液とを24時間接触させたときに、ISO21702に準拠して求められる抗ウイルス活性値が、2.0以上である。
【0021】
本発明に係る抗ウイルス性積層体のある特定の局面では、前記抗ウイルス性積層体は、シート状である。
【0022】
本発明に係る抗ウイルス性積層体のある特定の局面では、前記抗ウイルス性積層体は、延伸加工して用いられる。
【0023】
本発明に係る抗ウイルス性積層体のある特定の局面では、前記抗ウイルス性積層体は、延伸加工して用いられ、前記抗ウイルス層の平均厚みが、10μm以上30μm以下である。
【0024】
本発明の広い局面によれば、上述した抗ウイルス性積層体が延伸加工された、二次成形品が提供される。
【0025】
本発明に係る二次成形品のある特定の局面では、前記抗ウイルス性積層体が6倍以下の成形倍率で延伸加工されている。
【0026】
本発明に係る二次成形品のある特定の局面では、前記抗ウイルス層に由来する層とウイルス液とを10分間接触させたときに、ISO21702に準拠して求められる抗ウイルス活性値が、2.0以上である。
【0027】
本発明に係る二次成形品のある特定の局面では、前記抗ウイルス層に由来する層とウイルス液とを24時間接触させたときに、ISO21702に準拠して求められる抗ウイルス活性値が、2.0以上である。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る抗ウイルス性積層体は、基材と、上記基材の第1の表面側に配置された抗ウイルス層とを備え、上記抗ウイルス層が、有機粒子に界面活性剤が担持された抗ウイルス剤と、樹脂部とを含む。本発明に係る抗ウイルス性積層体は、上記の構成を備えるので、意匠性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る抗ウイルス性積層体を模式的に示す断面図である。
図2図2は、抗ウイルス剤Xの露出している部分の高さを説明するための図である。
図3図3は、実施例における抗ウイルス性積層体の製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0031】
[抗ウイルス性積層体]
本発明に係る抗ウイルス性積層体(以下、「積層体」と略記することがある)は、基材と、上記基材の第1の表面側に配置された抗ウイルス層とを備える。
【0032】
本発明に係る積層体では、上記抗ウイルス層が、有機粒子に界面活性剤が担持された抗ウイルス剤(以下、「抗ウイルス剤X」と記載することがある)と、樹脂部とを含む。したがって、上記抗ウイルス層は、抗ウイルス剤Xと、樹脂部とを含む。
【0033】
本発明に係る積層体は、上記の構成を備えるので、意匠性に優れる。
【0034】
なお、本明細書において、「意匠性に優れる」とは、抗ウイルス層が配置されていない場合に視認される外観と、抗ウイルス層が配置された場合に視認される外観とが、全く変化していないか、又はほとんど変化していないことをいう。
【0035】
したがって、上記積層体では、例えば、上記基材の表面が色調又は模様等を有する場合に、上記基材が有する色調又は模様等を抗ウイルス層側から良好に視認することができる。
【0036】
さらに、上記積層体では、上記の構成が備えられているので、抗ウイルス作用の即効性及び持続性を高めることができる。
【0037】
また、抗ウイルス性を有する部材は、水又はエタノールにより、その表面を拭くなどの定期的な清掃が行われることが一般的である。しかしながら、従来の抗ウイルス性を有する部材では、清掃時に、抗ウイルス剤が剥落したり、エタノールよって抗ウイルス剤が溶出又は失活したりして、抗ウイルス性が持続しないことがある。これに対して、本発明に係る積層体では、上記樹脂部によって、積層体の耐水性及びエタノール耐性を高めることができるので、抗ウイルス性の持続性にも優れる。
【0038】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明する。
【0039】
図1は、本発明の一実施形態に係る抗ウイルス性積層体を模式的に示す断面図である。
【0040】
図1に示す抗ウイルス性積層体10は、抗ウイルス性能を有する。積層体10は、基材1と、抗ウイルス層2とを備える。抗ウイルス層2は、基材1の第1の表面1a側に配置されている。抗ウイルス層2は、基材1の第1の表面1a上に配置されており、積層されている。
【0041】
抗ウイルス層2は、透明な樹脂部21(層本体)と、抗ウイルス剤22とを含む。抗ウイルス層2は、樹脂と、複数個の抗ウイルス剤22とを含む。抗ウイルス層2は、積層体10の表面層である。抗ウイルス層2は、積層体10の一方の表面層である。
【0042】
抗ウイルス剤22は、有機粒子に界面活性剤が担持された抗ウイルス剤である。抗ウイルス剤22は、上述した抗ウイルス剤Xである。
【0043】
積層体10において、抗ウイルス剤22は、透明な樹脂部21の基材1側とは反対の表面21aから露出している部分を有する。抗ウイルス剤22は、透明な樹脂部21の表面21aから露出している部分を有する抗ウイルス剤22Aと、透明な樹脂部21の表面21aから露出している部分を有さない抗ウイルス剤22Bとを含む。
【0044】
抗ウイルス作用の即効性をより一層高める観点から、上記積層体では、上記抗ウイルス層が上記積層体の表面層であることが好ましい。
【0045】
上記積層体において、上記抗ウイルス剤Xは、樹脂部の表面から露出している部分を有する抗ウイルス剤と、樹脂部の表面から露出している部分を有さない抗ウイルス剤とを含むことが好ましい。
【0046】
なお、本明細書において、樹脂部の表面から露出している部分を有する抗ウイルス剤Xを「抗ウイルス剤X」と呼び、樹脂部の表面から露出している部分を有さない抗ウイルス剤Xを「抗ウイルス剤X」と呼ぶことがある。
【0047】
上記抗ウイルス剤Xは、上記樹脂部の上記基材側とは反対の表面から露出している部分を有することが好ましい。上記抗ウイルス剤Xは、上記樹脂部の上記基材側とは反対の表面から露出している部分を有する抗ウイルス剤Xを含むことが好ましい。この場合には、抗ウイルス作用の即効性をより一層高めることができる。
【0048】
上記抗ウイルス剤Xの平均粒子径は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは1μm以上、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。上記抗ウイルス剤Xの平均粒子径が上記下限以上及び上記上限以下であると、抗ウイルス剤Xの分散性に優れた抗ウイルス層を良好に得ることができ、その結果、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。
【0049】
上記抗ウイルス剤Xの平均粒子径は、上記抗ウイルス剤Xの全体での平均粒子径である。したがって、例えば、上記積層体が上記抗ウイルス剤Xと上記抗ウイルス剤Xとを含む場合には、上記抗ウイルス剤Xの平均粒子径は、上記抗ウイルス剤Xと上記抗ウイルス剤Xとを含む抗ウイルス剤の全体での平均粒子径である。上記抗ウイルス剤Xの平均粒子径は、数平均粒子径であることが好ましい。上記抗ウイルス剤Xの平均粒子径は、例えば、抗ウイルス剤Xをスクワラン等の溶媒に分散させて、レーザー回折式粒度分布測定を行うことにより求められる。
【0050】
上記抗ウイルス剤Xの露出している部分の平均高さは、上記抗ウイルス剤Xが上記樹脂部の上記基材側とは反対の表面から露出している部分の平均高さである。上記抗ウイルス剤Xの露出している部分の高さは、図2に示すように、樹脂部21の基材1側とは反対の表面21aから抗ウイルス剤22Aの先端までの距離hである。上記抗ウイルス剤Xの露出している部分の平均高さは、上記抗ウイルス剤Xの露出している部分の高さ(距離h)の平均である。なお、上記抗ウイルス剤Xの露出している部分の平均高さを求める際に、樹脂部の表面から露出している部分を有さない上記抗ウイルス剤Xは測定対象に含まれない。
【0051】
上記抗ウイルス剤Xの露出している部分の平均高さは、レーザー顕微鏡を用いて、露出している部分を有する任意の抗ウイルス剤X20個について、各抗ウイルス剤Xの露出している部分の高さを求め、それらを平均することにより求めることができる。
【0052】
上記抗ウイルス剤Xの露出している部分の平均高さの、上記抗ウイルス剤Xの平均粒子径に対する比(抗ウイルス剤Xの露出している部分の平均高さ/抗ウイルス剤Xの平均粒子径)は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上であり、好ましくは0.6以下、より好ましくは0.4以下である。上記比(抗ウイルス剤Xの露出している部分の平均高さ/抗ウイルス剤Xの平均粒子径)が上記下限以上であると、抗ウイルス作用の即効性をより一層高めることができる。上記比(抗ウイルス剤Xの露出している部分の平均高さ/抗ウイルス剤Xの平均粒子径)が上記上限以下であると、積層体の表面から抗ウイルス剤を剥落しにくくすることができる。
【0053】
以下、上記基材及び上記抗ウイルス層の詳細を更に説明する。
【0054】
(基材)
上記基材の素材は、特に限定されない。上記基材の素材としては、樹脂、金属及びガラス等が挙げられる。上記基材は、樹脂基材であってもよく、金属基材であってもよく、ガラス基材であってもよい。上記基材は、表面に色調又は模様を有していてもよい。上記基材は、着色基材であってもよく、透明基材であってもよい。
【0055】
上記基材は、樹脂を含むことが好ましい。上記基材は、樹脂基材であることが好ましい。
【0056】
上記基材に含まれる上記樹脂は、特に限定されない。上記基材に含まれる上記樹脂は、熱可塑性樹脂であってもよく、熱硬化性樹脂の硬化物であってもよい。上記基材に含まれる上記樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0057】
上記基材に含まれる上記樹脂としては、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル・スチレン(AS)樹脂、メチルメタクリレート・スチレン(MS)樹脂、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン(MBS)樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、熱可塑性オレフィン(TPO)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリフッ化ビニル(PVF)樹脂、及びシリコーン樹脂等が挙げられる。
【0058】
積層体を延伸加工して二次成形品を良好に得る観点からは、上記基材は、熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、上記基材に含まれる上記樹脂は、熱可塑性樹脂であることが好ましい。ただし、積層体を延伸加工して用いる場合でも、上記基材に含まれる上記樹脂として、熱硬化性樹脂の硬化物を用いることもできる。
【0059】
上記基材が上記樹脂基材である場合に、上記基材100重量%中、上記樹脂の含有量は、好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上である。上記基材100重量%中、上記樹脂の含有量は100重量%であってもよく、100重量%以下であってもよく、100重量%未満であってもよく、99重量%未満であってもよい。
【0060】
上記基材に含まれる上記樹脂が上記熱可塑性樹脂である場合に、上記基材100重量%中、上記熱可塑性樹脂の含有量は、好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上である。上記基材100重量%中、上記熱可塑性樹脂の含有量は100重量%であってもよく、100重量%以下であってもよく、100重量%未満であってもよく、99重量%未満であってもよい。
【0061】
上記基材は、シート状であってもよく、シート状以外の形状であってもよい。
【0062】
シート状である上記基材の厚み(基材シートの厚み)は、1mm以上であってもよく、3mm以上であってもよく、15mm以下であってもよく、10mm以下であってもよい。
【0063】
上記基材は、例えば、着色剤、増粘剤、充填剤、抗菌剤、難燃剤、防黴剤、紫外線吸収剤、及び粘着付与剤等の他の成分を含んでいてもよい。上記他の成分は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0064】
(抗ウイルス層)
上記抗ウイルス層は、抗ウイルス剤Xと樹脂部とを含む。上記抗ウイルス層は、抗ウイルス剤Xと透明な樹脂部とを含むことが好ましい。
【0065】
上記抗ウイルス層の可視光線透過率は、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より一層好ましくは80%以上、更に好ましくは85%以上、更により一層好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上である。上記抗ウイルス層の可視光線透過率が上記下限以上であると、上記抗ウイルス層の透明性をより一層高めることができ、従って、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。上記抗ウイルス層の可視光線透過率は、100%以下であってもよく、100%未満であってもよく、90%以下であってもよく、80%以下であってもよく、75%以下であってもよい。
【0066】
上記抗ウイルス層の可視光線透過率は、380nm~780nmの波長範囲における透過率を5nmの波長間隔で測定した場合に得られる測定値の平均値である。上記抗ウイルス層の可視光線透過率は、例えば分光光度計(例えば日本電飾工業社製「分光ヘーズメーター SH7000」)を用いて測定することができる。
【0067】
上記抗ウイルス層の平均厚みは、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは10μm以上であり、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。上記抗ウイルス層の平均厚みが上記下限以上であると、積層体の表面から抗ウイルス剤をより一層剥落しにくくすることができる。上記抗ウイルス層の平均厚みが上記上限以下であると、上記抗ウイルス層の透明性を高めることができ、従って、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。
【0068】
上記抗ウイルス層の平均厚みは、分光干渉膜厚計により測定したり、抗ウイルス層の断面を走査電子顕微鏡(SEM)により観察して測定したりすることができる。
【0069】
<抗ウイルス剤X>
上記抗ウイルス層は、上記抗ウイルス剤X(有機粒子に界面活性剤が担持された抗ウイルス剤)を含む。上記抗ウイルス剤Xは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0070】
上記有機粒子の材料としては、樹脂等が挙げられる。上記有機粒子は、樹脂粒子であることが好ましい。
【0071】
上記有機粒子(樹脂粒子)に含まれる上記樹脂は、熱可塑性樹脂であってもよく、熱硬化性樹脂の硬化物であってもよい。
【0072】
上記有機粒子に含まれる上記樹脂としては、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル・スチレン(AS)樹脂、メチルメタクリレート・スチレン(MS)樹脂、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン(MBS)樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、熱可塑性オレフィン(TPO)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリフッ化ビニル(PVF)樹脂、及びシリコーン樹脂等が挙げられる。
【0073】
上記界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤及びカチオン系界面活性剤等が挙げられる。上記界面活性剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0074】
抗ウイルス作用の即効性を高める観点からは、上記界面活性剤は、スルホン酸系界面活性剤であることが好ましい。
【0075】
上記スルホン酸系界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸系化合物、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸系化合物、アルキルナフタレンスルホン酸系化合物、アルキル硫酸エステル系化合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル系化合物、及びナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物系化合物等が挙げられる。上記スルホン酸系界面活性剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0076】
抗ウイルス作用の即効性をより一層高める観点からは、上記スルホン酸系界面活性剤は、アルキルベンゼンスルホン酸系化合物、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸系化合物、又はアルキルナフタレンスルホン酸系化合物であることが好ましい。
【0077】
上記抗ウイルス剤Xにおいて、上記有機粒子100重量部に対する上記界面活性剤の含有量(上記有機粒子100重量部に対する担持された上記界面活性剤の量)は、好ましくは20重量部以上、より好ましくは30重量部以上、好ましくは50重量部以下、より好ましくは40重量部以下である。上記界面活性剤の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、抗ウイルス作用の即効性をより一層高めることができる。
【0078】
上記抗ウイルス層100重量%中、上記抗ウイルス剤Xの含有量は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上、更に好ましくは20重量%以上、特に好ましくは30重量%以上であり、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下である。上記抗ウイルス剤Xの含有量が上記下限以上であると、抗ウイルス作用の即効性をより一層高めることができる。上記抗ウイルス剤Xの含有量が上記上限以下であると、抗ウイルス剤Xの分散性に優れた抗ウイルス層を良好に得ることができ、その結果、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。
【0079】
上記抗ウイルス層中の上記樹脂部100重量部に対して、上記抗ウイルス層中の上記抗ウイルス剤Xの含有量は、好ましくは15重量部以上、より好ましくは25重量部以上であり、好ましくは100重量部以下、より好ましくは65重量部以下である。上記抗ウイルス剤Xの含有量が上記下限以上であると、抗ウイルス作用の即効性をより一層高めることができる。上記抗ウイルス剤Xの含有量が上記上限以下であると、抗ウイルス剤Xの分散性に優れた抗ウイルス層を良好に得ることができ、その結果、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。
【0080】
<樹脂部>
上記樹脂部は、樹脂を含む。上記樹脂部は、透明な樹脂部であることが好ましい。
【0081】
上記樹脂部に含まれる上記樹脂は、熱可塑性樹脂であってもよく、熱硬化性樹脂の硬化物であってもよく、光硬化性樹脂の硬化物であってもよい。
【0082】
上記樹脂部に含まれる上記樹脂としては、オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、及びエステル系樹脂等が挙げられる。より具体的には、上記樹脂部に含まれる上記樹脂としては、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合(EVA)樹脂、スチレン・ブタジエン・コポリマー(SBC)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル・スチレン(AS)樹脂、メチルメタクリレート・スチレン(MS)樹脂、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン(MBS)樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、熱可塑性オレフィン(TPO)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリフッ化ビニル(PVF)樹脂、及びシリコーン樹脂等が挙げられる。上記樹脂部に含まれる上記樹脂は、上述した樹脂それぞれの共重合体樹脂であってもよい。
【0083】
なお、上記基材に含まれる上記樹脂と、上記樹脂部に含まれる上記樹脂とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0084】
積層体を延伸加工して二次成形品を良好に得る観点からは、上記樹脂部は、熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、上記樹脂部に含まれる上記樹脂は、熱可塑性樹脂であることが好ましい。ただし、積層体を延伸加工して用いる場合でも、上記樹脂部に含まれる上記樹脂として、熱硬化性樹脂の硬化物を用いることもできる。
【0085】
抗ウイルス層の透明性をより一層高める観点からは、上記樹脂部に含まれる上記樹脂は、オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、エステル系樹脂、ABS樹脂、又はこれらの樹脂それぞれの共重合体樹脂であることが好ましく、MS樹脂であることがより好ましい。耐水性及びエタノール耐性をより一層高める観点からは、上記樹脂部に含まれる上記樹脂は、PVC樹脂、スチレン・ブタジエン・コポリマー(SBC)樹脂、又はEVA樹脂であることが好ましい。
【0086】
上記樹脂部に含まれる樹脂のガラス転移温度は、0℃未満であってもよく、0℃であってもよく、0℃を超えていてもよい。
【0087】
上記樹脂部に含まれる樹脂のガラス転移温度が0℃未満である場合に、該ガラス転移温度は、-50℃以上であってもよい。
【0088】
上記樹脂部に含まれる樹脂のガラス転移温度が0℃を超える場合に、該ガラス転移温度は、150℃以下であってもよい。
【0089】
上記樹脂部に含まれる樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量計(例えば、日立ハイテクサイエンス社製「DSC7020」)により測定される。
【0090】
上記抗ウイルス性積層体は、A:上記樹脂部に含まれる樹脂のガラス転移温度が0℃未満であり、上記樹脂部に含まれる樹脂と上記界面活性剤の疎水部とのHSP間の距離が、5.5(MPa)0.5以下であるか、又は、B:上記樹脂部に含まれる樹脂のガラス転移温度が0℃を超え、上記樹脂部に含まれる樹脂と上記界面活性剤の疎水部とのHSP間の距離が、5.5(MPa)0.5以上であることが好ましい。すなわち、上記抗ウイルス性積層体は、上記のAの構成又は上記のBの構成を満足することが好ましい。言い換えると、上記抗ウイルス性積層体は、上記樹脂部に含まれる樹脂のガラス転移温度が0℃未満である場合に、上記樹脂部に含まれる樹脂と上記界面活性剤の疎水部とのHSP間の距離が、5.5(MPa)0.5以下であり、かつ上記樹脂部に含まれる樹脂のガラス転移温度が0℃を超える場合に、上記樹脂部に含まれる樹脂と上記界面活性剤の疎水部とのHSP間の距離が、5.5(MPa)0.5以上であることが好ましい。上記抗ウイルス性積層体が、上記のAの構成又は上記のBの構成を満足すると、エタノール耐性をより一層高めることができるので、清掃等により積層体の表面が拭かれた場合でも、抗ウイルス性能が低下しにくい。
【0091】
上記したように、上記樹脂部に含まれる樹脂のガラス転移温度が0℃未満である場合に、上記樹脂部に含まれる樹脂と上記界面活性剤の疎水部(抗ウイルス剤Xにおける界面活性剤の疎水部)とのHSP間の距離は、好ましくは5.5(MPa)0.5以下である。この場合には、エタノール耐性をより一層高めることができるので、清掃等により積層体の表面が拭かれた場合でも、抗ウイルス性能が低下しにくい。なお、上記樹脂部に含まれる樹脂のガラス転移温度が0℃未満である場合に、上記樹脂部に含まれる樹脂と上記界面活性剤の疎水部(抗ウイルス剤Xにおける界面活性剤の疎水部)とのHSP間の距離は0(MPa)0.5であってもよく、0(MPa)0.5以上であってもよい。
【0092】
上記したように、上記樹脂部に含まれる樹脂のガラス転移温度が0℃を超える場合に、上記樹脂部に含まれる樹脂と上記界面活性剤の疎水部(抗ウイルス剤Xにおける界面活性剤の疎水部)とのHSP間の距離は、好ましくは5.5(MPa)0.5以上である。この場合には、エタノール耐性をより一層高めることができるので、清掃等により積層体の表面が拭かれた場合でも、抗ウイルス性能が低下しにくい。なお、上記樹脂部に含まれる樹脂のガラス転移温度が0℃を超える場合に、上記樹脂部に含まれる樹脂と上記界面活性剤の疎水部(抗ウイルス剤Xにおける界面活性剤の疎水部)とのHSP間の距離は5.5(MPa)0.5以下であってもよい。
【0093】
ハンセン溶解度パラメータ(Hansen solubility parameters(HSP))は、相溶性の代用指標として、溶媒-溶質間の相溶性の指標として一般に用いられる。上記HSP間の距離は、上記HSPから算出され、溶解性の使用として一般に用いられる。本発明において、上記HSP間の距離は、上記樹脂部に含まれる樹脂のハンセン溶解度パラメータ(HSP)と、上記界面活性剤の疎水部のハンセン溶解度パラメータ(HSP)とのHSP空間上での距離である。
【0094】
本発明者らは、上記抗ウイルス層中の上記樹脂と上記界面活性剤との相溶性の観点から、上記HSP間の距離に着目した。
【0095】
一般にSP値(δ)として知られるヒルデブランド(Hildebrand)の溶解度パラメータが、溶媒-溶質間に作用する力は分子間力のみであると仮定されたパラメータであるのに対し、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、溶解性が分散項δD、極性項δP、及び水素結合項δHの3次元空間に表されたパラメータである。分散項δDは分散力による効果を示し、極性項δPは双極子間力による効果を示し、水素結合項δHは水素結合力による効果を示す。
【0096】
ヒルデブランドSP値(δ)とハンセン溶解度パラメータ(HSP)とには、下記式(I)の関係があり、SP値は、HSPの(δD、δP、δH)を3成分とするベクトルの長さ(totHSP)に相当する。
【0097】
δ=(TotHSP)=δD+δP+δH ・・・(I)
【0098】
したがって、HSPは、ヒルデブランドSP値の情報を完全に包含し、かつベクトルの向きを含めて溶解性を評価することができる点で、ヒルデブランドSP値よりも優れた方法であるといえる。
【0099】
なお、ハンセン溶解度パラメータの定義と計算については、Charles M.Hansen著、Hansen Solubility Parameters:A Users Handbook(CRCプレス、2007年)に記載されている。
【0100】
また、コンピュータソフトウエア Hansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP)を用いることにより、簡便にHSPを推算することができる。
【0101】
一般に、特定の物質(溶質)のHSPは、上記物質のサンプルを、HSPが確定している数多くの異なる溶媒に溶解させて溶解度を測る試験を行うことによって決定され得る。具体的には、上記溶解度試験に用いた溶媒のうち、上記物質を溶解した溶媒の3次元上の全ての点を球の内側に内包し、溶解しない溶媒の点は球の外側になるような球(溶解度球)を探し出し、その球の中心座標(δD、δP、δH)を上記物質のHSPとする。
【0102】
ここで、例えば、上記物質のHSPの測定に用いられなかったある別の溶媒のHSPが(δD、δP、δH)であった場合、その座標で示される点が上記物質の溶解度球の内側に内包される場合には、上記物質はその溶媒に溶解すると考えられる。一方、その座標点が上記物質の溶解度球の外側にある場合には、上記物質はその溶媒に溶解しないと考えられる。
【0103】
本発明では、一般溶媒に不溶とされる炭素材料も対象物質としているが、この場合には、その溶解度では無く、炭素材料の分散度(dispersion)と、凝集、沈降程度を尺度としてHSPが算出される。例えば、次の技術論文が参考とされる。C.M.Hansen,A.L.Smith,Using Hansen solubility parameters to correlate solubility of C60 fullerene in organic solvents and in polymers,Carbon,42,pp1591-1597,(2004)。
【0104】
HSP空間上での特定の2分子(溶媒と溶質)のHSP間の距離は、下記式(II)で定義される。上記HSP間の距離は、2分子が相溶するか否かの溶解指標となる。
【0105】
Ra={4×(δD1-δD2)+(δP1-δP2)+(δH1-δH2)0.5・・・(II)
【0106】
上記式(II)中、δD1及びδD2は、ハンセン溶解度パラメータにおける特定の2分子の分散項を表し、δP1及びδP2は、ハンセン溶解度パラメータにおける特定の2分子の極性項を表し、δH1及びδH2は、ハンセン溶解度パラメータにおける特定の2分子の水素結合項を表す。δD1、δD2、δP1、δP2、δH1、及びδH2の単位は、いずれも(MPa)0.5である。
【0107】
上記抗ウイルス層100重量%中、上記抗ウイルス剤Xと上記樹脂部との合計含有量は、好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上、更に好ましくは99重量%以上、最も好ましくは100重量%である。ただし、上記合計含有量は、100重量%以下であってもよく、100重量%未満であってもよい。
【0108】
<他の成分>
上記抗ウイルス層は、樹脂及び抗ウイルス剤Xの双方とは異なる他の成分を含んでいてもよい。上記抗ウイルス層は、例えば、抗ウイルス剤X以外の抗ウイルス剤、増粘剤、充填剤、抗菌剤、難燃剤、防黴剤、紫外線吸収剤、及び粘着付与剤等の他の成分を含んでいてもよい。上記他の成分は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0109】
(抗ウイルス性積層体の他の詳細)
上記積層体において、上記抗ウイルス層とウイルス液とを10分間接触させたときに、ISO21702に準拠して求められる抗ウイルス活性値は、好ましくは2.0以上である。この場合には、抗ウイルス作用の即効性をより一層高めることができる。
【0110】
上記積層体において、上記抗ウイルス層とウイルス液とを24時間接触させたときに、ISO21702に準拠して求められる抗ウイルス活性値は、好ましくは2.0以上である。この場合には、抗ウイルス作用をより一層高めることができる。
【0111】
上記抗ウイルス活性値を測定するための上記ウイルス液としては、例えば、インフルエンザウイルス液を用いることができる。上記抗ウイルス活性値は、以下のようにして、求めることができる。
【0112】
抗ウイルス層のサイズが縦50mm及び横50mmとなるように、上記積層体を切削して、評価用サンプルを得る。得られた評価用サンプルの抗ウイルス層と、ウイルス液(例えば、インフルエンザウイルス液)とを37℃で10分間又は24時間接触させる。次いで、ウイルス液を回収し、ISO21702に準拠して、プラーク法にて抗ウイルス活性値を求める。なお、上記抗ウイルス活性値は、2個以上の評価用サンプルを用いて算出された抗ウイルス活性値の平均値であることが好ましい。
【0113】
上記積層体では、上記基材と上記抗ウイルス層とが、直接積層されていてもよく、直接積層されていなくてもよい。上記積層体は、上記基材と上記抗ウイルス層との間に、他の層を備えていてもよい。
【0114】
上記他の層としては、接着層等が挙げられる。上記接着層の材料としては、接着剤等が挙げられる。
【0115】
上記接着層の厚みは、好ましくは1nm以上であり、好ましくは10nm以下である。
【0116】
上記接着層を形成する方法は、特に限定されない。上記接着層を形成する方法は、スパッタリングにより形成する方法等が挙げられる。
【0117】
上記積層体の形状は特に限定されない。上記積層体は、シート状であってもよく、棒状であってもよく、管状であってもよい。上記積層体は、シート状であることが好ましく、抗ウイルス性積層シートであることが好ましい。
【0118】
シート状である上記積層体の平均厚みは、好ましくは1mm以上、より好ましくは3mm以上、好ましくは15mm以下、より好ましくは10mm以下である。
【0119】
シート状である上記積層体の平均厚みは、マイクロメーターを用いて測定することができる。
【0120】
上記積層体は、延伸加工せずに用いられてもよく、延伸加工して用いられてもよい。上記積層体は、該積層体を対象部材の表面上に配置して用いられてもよい。上記積層体は、該積層体を延伸加工し、延伸加工した積層体を、対象部材の表面上に配置して用いられてもよい。
【0121】
上記積層体が延伸加工して用いられる場合に、上記抗ウイルス層の平均厚み(延伸加工前)は、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。上記抗ウイルス層の平均厚みが上記下限以上及び上記上限以下であると、延伸加工時に抗ウイルス層が破損することを効果的に抑えることができる。
【0122】
上記基材は、延伸可能であることが好ましい。上記基材は、3倍以上に延伸可能であることが好ましく、5倍以上に延伸可能であることがより好ましい。上記基材は、上記の倍率まで延伸しても破断しないことが好ましい。延伸可能な倍率(成形倍率)が上記下限以上であると、延伸加工時の基材の破損を効果的に抑えることができ、また、二次成形品の汎用性を高めることができる。上記基材は、8倍以下に延伸可能であってもよい。上記抗ウイルス層は、延伸可能であることが好ましい。上記坑ウイルス層は、上記基材の延伸に伴って延伸可能であることが好ましい。
【0123】
上記積層体は、延伸可能であることが好ましい。上記積層体は、3倍以上に延伸可能であることが好ましく、5倍以上に延伸可能であることがより好ましい。上記積層体は、上記の倍率まで延伸しても破断しないことが好ましい。延伸可能な倍率(成形倍率)が上記下限以上であると、延伸加工時の積層体の破損を効果的に抑えることができ、また、二次成形品の汎用性を高めることができる。上記積層体は、8倍以下に延伸可能であってもよい。
【0124】
上記積層体の製造方法は、特に限定されない。
【0125】
上記積層体は、例えば、上記基材の第1の表面上に、抗ウイルス層の材料を配置した後、抗ウイルス層の材料を乾燥させて抗ウイルス層を形成させることにより製造することができる。
【0126】
また、上記積層体は、例えば、上記基材の第1の表面上に、抗ウイルス剤を含まない樹脂部の材料を配置した後、抗ウイルス剤Xを含む液を、樹脂部の材料の表面に噴霧することにより製造することができる。
【0127】
上記基材の第1の表面上への上記材料の配置方法としては、塗布、物理蒸着、化学蒸着、スパッタリング、スプレー、塗工、プラズマコーティング、浸漬コーティング及びラミネーティング等が挙げられる。
【0128】
また、上記積層体は、例えば、抗ウイルス層を作製した後、作製した抗ウイルス層を上記基材の第1の表面上に配置して製造することもできる。
【0129】
また、上記積層体では、上記抗ウイルス層が、上記基材の第1の表面側とは反対の第2の表面側にも配置されていてもよい。
【0130】
[二次成形品]
上記積層体に対して、曲げ成形、プレス成形、真空成形、圧空成形、ブロー成形、及び型押し成形等を行うことにより、二次成形品を作製することができる。
【0131】
上記二次成形品は、上記積層体の曲げ成形品であってもよく、プレス成形品であってもよく、真空成形品であってもよく、圧空成形品であってもよく、ブロー成形品であってもよく、型押し成形品であってもよい。
【0132】
上記二次成形品は、上記積層体が延伸加工された二次成形品であることが好ましい。
【0133】
上記二次成形品は、上記積層体が、2倍以上の成形倍率で延伸加工された二次成形品であることが好ましく、3倍以上の成形倍率で延伸加工された二次成形品であることがより好ましく、6倍以下の成形倍率で延伸加工された二次成形品であることが好ましく、5倍以下の成形倍率で延伸加工された二次成形品であることがより好ましい。したがって、上記積層体は、2倍以上の成形倍率で延伸加工されて用いられることが好ましく、3倍以上の成形倍率で延伸加工されて用いられることがより好ましく、6倍以下の成形倍率で延伸加工されて用いられることが好ましく、5倍以下の成形倍率で延伸加工されて用いられることがより好ましい。上記成形倍率が上記下限以上及び上記上限以下であると、延伸加工時の抗ウイルス層の破損を効果的に抑えることができ、また、二次成形品の汎用性を高めることができる。
【0134】
なお、上記積層体の上記成形倍率とは、延伸後の積層体の表面の面積の、延伸前の積層体の表面の面積に対する比(延伸後の積層体の表面の面積/延伸前の積層体の表面の面積)を意味する。例えば、5倍の成形倍率とは、延伸前の積層体の表面における1cmの面積を有する正方形の領域が、延伸後に5cmの面積を有する領域に変化することを意味する。なお、上記基材の上記成形倍率は、上記積層体の上記成形倍率の説明における「積層体」を「基材」に読み替えた内容を意味する。
【0135】
上記二次成形品において、上記抗ウイルス層に由来する層とウイルス液とを10分間接触させたときに、ISO21702に準拠して求められる抗ウイルス活性値は、好ましくは2.0以上である。この場合には、抗ウイルス作用の即効性をより一層高めることができる。
【0136】
上記二次成形品において、上記抗ウイルス層に由来する層とウイルス液とを24時間接触させたときに、ISO21702に準拠して求められる抗ウイルス活性値は、好ましくは2.0以上である。この場合には、抗ウイルス作用をより一層高めることができる。
【0137】
なお、上記二次成形品における上記抗ウイルス活性値は、上述した積層体における上記抗ウイルス活性値の測定方法と同様にして求めることができる。
【0138】
[抗ウイルス性部材]
抗ウイルス性部材は、抗ウイルス性部材本体と、上述した二次成形品とを備える。上記抗ウイルス性部材では、抗ウイルス性部材本体側に、上記二次成形品の基材に由来する層が配置されていることが好ましい。上記抗ウイルス性部材では、該抗ウイルス性部材の表面層が、上記抗ウイルス層に由来する層であることが好ましい。
【0139】
上記抗ウイルス性部材は例えば以下のようにして製造することができる。まず、積層体を加熱して軟化させる。次いで、軟化させた積層体を抗ウイルス性部材本体の型に合わせて真空吸引して変形させて、抗ウイルス性部材本体の表面に二次成形品を配置する。
【0140】
上記積層体及び上記二次成形品は、例えば、鉄道車両、航空機、船舶及び自動車等の輸送機の内外装材、トイレ及び食品調理エリア;建物の内外装材、トイレ及び食品調理エリア;駅構内の券売機;商業施設の情報端末;病院の医療機器等に好適に用いられる。
【0141】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0142】
以下の材料を用意した。
【0143】
(基材)
PVC:樹脂基材(ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂基材、タキロンシーアイ社製「タキフレックスEVC8600」)
【0144】
(抗ウイルス層の材料)
MS:メチルメタクリレート・スチレン樹脂(Denka社製「TX-100S」、ガラス転移温度:104℃)
PVC:ポリ塩化ビニル樹脂(徳山積水工業社製「TS-640M」、ガラス転移温度:81℃)
SBC:スチレン・ブタジエン・コポリマー樹脂(特殊スチレン系樹脂、Denka社製「クリアレン220M」、ガラス転移温度:-47℃)
EVA-1:エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(三井・ダウ ポリケミカル社製「EVAFLEX45LX」、ガラス転移温度:-28℃)
EVA-2:エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(三井・ダウ ポリケミカル社製「EVAFLEX421」、ガラス転移温度:-23℃)
EVA-3:エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(三井・ダウ ポリケミカル社製「LEVAPREN800」、ガラス転移温度:2℃)
PMMA:ポリメチルメタクリレート樹脂(三菱ケミカル社製「アクリペットVH」、ガラス転移温度:114℃)
抗ウイルス剤X(有機粒子(ポリスチレン樹脂粒子)にスルホン酸系界面活性剤が担持された抗ウイルス剤、平均粒子径5.0μm)
ケトン系溶媒(4-メチル-2-ペンタノン、富士フィルム和光純薬社製)
【0145】
(その他)
無機粒子(タルク、IMI FABI社製「ULTRA 5C」)
【0146】
(実施例1)
抗ウイルス層の材料の作製:
ケトン系溶媒にMS樹脂を溶解させて、樹脂含有溶液を得た。次いで、得られた樹脂含有溶液に抗ウイルス剤Xを添加し、撹拌して抗ウイルス層の材料を得た。なお、各成分の含有量は、得られる抗ウイルス層において、表1に示す含有量となる量とした。
【0147】
抗ウイルス性積層体の作製:
図3に示すように、得られた抗ウイルス層の材料2Xを、基材1の第1の表面1aに垂らした。バーコーターBの両端を強く基材1の第1の表面1aに押し当てながら、バーコーターBを動かした(図3の矢印方向)。このようにして、抗ウイルス層の材料2Xを、基材1の第1の表面1a上に塗工した。
【0148】
次いで、抗ウイルス層の材料が塗工された基材を、40℃及び5分間の条件でオーブンにて加熱して、抗ウイルス層の材料を乾燥させた。このようにして、基材の表面上に、抗ウイルス層を備える抗ウイルス性積層体(抗ウイルス性積層シート)を得た。
【0149】
(実施例2~14)
抗ウイルス層の組成及び平均厚みを下記の表1~4に記載のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、抗ウイルス性積層体を得た。
【0150】
なお、実施例2,4,7では、真空成形機を用いて、得られた積層体を5倍の成形倍率で延伸加工して、二次成形品を作製した。なお、5倍の成形倍率であることは、延伸前の積層体に1cm幅の格子状の線を引き、1cmの面積を有するマスが、延伸後に5cmの面積になったことにより確認した。
【0151】
(比較例1)
抗ウイルス剤Xの代わりに、無機粒子(タルク)を表4に示す量で用いたこと以外は、実施例1と同様にして、積層体を得た。
【0152】
(評価)
(1)抗ウイルス層の平均厚み
上記抗ウイルス層の平均厚みを、SEMによる断面観察により測定した。
【0153】
(2)粒子の沈降
得られた抗ウイルス層の材料25mLを50mLビーカーに収容し、マグネットスターラーを用いて撹拌することにより、粒子(抗ウイルス剤X又は無機粒子)を、材料中に均一に分散させた。撹拌後、粒子の沈降の有無を目視にて確認した。
【0154】
[粒子の沈降の判定基準]
〇:撹拌停止から30分間以上粒子が沈降しない
△:撹拌停止から10分間以上30分間未満で粒子が沈降する
×:撹拌停止から10分間未満で粒子が沈降する
【0155】
(3)意匠性
得られた積層体を抗ウイルス層側から目視にて観察し、意匠性を下記の基準で判定した。抗ウイルス層中における抗ウイルス剤の分布に大きな偏りが生じたり、抗ウイルス層の厚みにむらが生じたりする場合には、抗ウイルス層側から観察したときの積層体に色むらが生じ、意匠性が低下する。一方で、抗ウイルス層中において抗ウイルス剤が良好に分散し、かつ抗ウイルス層の厚みが略均一である場合には、抗ウイルス層側から観察したときの積層体に色むらが生じにくく、意匠性を高めることができる。
【0156】
[意匠性の判定基準]
○:色むらが生じておらず、樹脂基材をかなり良好に視認することができる
△:色むらがわずかに生じているが、樹脂基材を良好に視認することができる
×:色むらの程度が大きく、抗ウイルス層において透明性が高い領域と低い領域とがはっきりと存在する
【0157】
(4)抗ウイルス活性値
(4-1)ウイルス液の調製
10cmDishに培養したMDCK細胞に対して、インフルエンザウイルスを接種し、37℃で1時間培養した。培養後、未感作ウイルスを含む培養上清を除去した。上清を除去した10cmDishに新たにDMEM培地を加え、37℃で4日間培養した。培養後、培養上清を採取し、800rpmで5分間遠心分離した。遠心分離後の上清をウイルス液とした。
【0158】
(4-2)積層体の抗ウイルス活性値の測定
得られた積層体を、抗ウイルス層のサイズが縦50mm及び横50mmとなるように、切削して、評価用サンプルを得た。得られた評価用サンプルをシャーレ内に配置し、評価用サンプルの抗ウイルス層側の表面に、滅菌水で10倍希釈したウイルス液を0.4ml滴下して、カバーフィルムを被せ、シャーレに蓋をし、37℃で10分間静置した。次いで、洗い出し液10mlを添加し、評価用サンプルからウイルス液を回収した。回収したウイルス液を細胞維持培地で10倍段階希釈した。希釈したウイルス液を、6wellプレートに培養したMDCK細胞に接種し、ISO21702に準拠して、プラーク数を数え、抗ウイルス活性値を求めた。試験は2枚の評価用サンプルについて行い、抗ウイルス活性値の平均値を算出した。
【0159】
(4-3)二次成形品の抗ウイルス活性値の測定
積層体の代わりに、二次成形品を用いたこと以外は、「(4-2)積層体の抗ウイルス活性値の測定」と同様にして、抗ウイルス活性値を測定した。
【0160】
抗ウイルス活性値を下記の基準で判定した。
【0161】
[抗ウイルス活性値の判定基準]
○:抗ウイルス活性値が2.0以上
△:抗ウイルス活性値が1.0以上2.0未満
×:抗ウイルス活性値が1.0未満
【0162】
(5)耐水性(純水への浸漬後の積層体の抗ウイルス活性値)
(5-1)純水中への浸漬
得られた積層体を、縦5cm×横5cmに切り出して、試験サンプルとした。試験サンプルをシャーレ内に配置し、純水50mLを加えて密閉し、室温で18時間浸漬した(SIAA規格の耐水性試験の区分1に準拠)。浸漬後、試験サンプルを回収し、表面及び裏面の付着水をファイバークロスで拭き取った。
【0163】
(5-2)浸漬後の試験サンプルの抗ウイルス活性値の測定
積層体の代わりに、浸漬後の試験サンプルを用いたこと以外は、「(4-2)積層体の抗ウイルス活性値の測定」と同様にして、抗ウイルス活性値を測定した。
【0164】
[耐水性の判定基準]
○:抗ウイルス活性値が2.0以上
△:抗ウイルス活性値が1.0以上2.0未満
×:抗ウイルス活性値が1.0未満
【0165】
(6)エタノール耐性(エタノールによる拭き取り後の積層体の抗ウイルス活性値)
(6-1)エタノールによる拭き取り
得られた積層体を、縦5cm×横5cmに切り出して、試験サンプルとした。試験サンプルの抗ウイルス層側の表面を、70重量%エタノール水を含ませたファイバークロスを用いて1.5kPaの圧力で3650回拭き取った。なお、3回拭くごとにファイバークロスは交換した。
【0166】
(6-2)エタノールによる拭き取り後の試験サンプルの抗ウイルス活性値の測定
積層体の代わりに、エタノールによる拭き取り後の試験サンプルを用いたこと以外は、「(4-2)積層体の抗ウイルス活性値の測定」と同様にして、抗ウイルス活性値を測定した。なお、本評価は、過酷な試験であるため、判定基準は以下とした。
【0167】
[エタノール耐性の判定基準]
○:抗ウイルス活性値が2.0以上
△1:抗ウイルス活性値が1.0以上2.0未満
△2:抗ウイルス活性値が0.3以上1.0未満
×:抗ウイルス活性値が0.3未満
【0168】
積層体の構成及び結果を下記の表1~4に示す。
【0169】
【表1】
【0170】
【表2】
【0171】
【表3】
【0172】
【表4】
【符号の説明】
【0173】
1…基材
1a…第1の表面
2…抗ウイルス層
10…抗ウイルス性積層体
21…透明な樹脂部
21a…表面
22…抗ウイルス剤
22A…透明な樹脂部の表面から露出している部分を有する抗ウイルス剤
22B…透明な樹脂部の表面から露出している部分を有さない抗ウイルス剤
図1
図2
図3