IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スズキ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-船舶推進機の排気装置 図1
  • 特開-船舶推進機の排気装置 図2
  • 特開-船舶推進機の排気装置 図3
  • 特開-船舶推進機の排気装置 図4
  • 特開-船舶推進機の排気装置 図5
  • 特開-船舶推進機の排気装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033880
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】船舶推進機の排気装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/28 20060101AFI20230306BHJP
【FI】
F01N3/28 301V
F01N3/28 311T
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021139810
(22)【出願日】2021-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 潤
【テーマコード(参考)】
3G091
【Fターム(参考)】
3G091AA04
3G091AA17
3G091AA28
3G091AB01
3G091BA09
3G091BA39
3G091GA06
3G091GB01X
3G091GB05W
3G091GB06W
3G091GB07W
3G091HA25
3G091HB01
(57)【要約】
【課題】メタル触媒を排気通路内に保持するに当たり、保持の安定性を向上させる。
【解決手段】船外機の排気装置は、エンジンからの排気ガスを流通させる排気通路32と、排気通路32内に設けられて、排気ガスを浄化する触媒装置51とを備えている。排気通路32は、エキゾーストマニホールド33と、エキゾーストマニホールド33の流出管部36に接続されたコレクタ37とを備えている。触媒装置51は、メタル触媒52、外殻部53およびブラケット54を備えている。ブラケット54は、径方向外向きに突出する鍔状に形成された突出部56を有している。触媒装置51は、流出管部36とコレクタ37との間に突出部56が狭持されることにより排気通路32に保持されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶推進機のエンジンから排気ガスを排出する排気装置であって、
前記排気ガスを流通させる排気通路と、
前記排気通路内に設けられて、前記排気ガスを浄化する触媒装置とを備え、
前記排気通路は、
第1の排気管と、
前記第1の排気管の流出側に接続された第2の排気管とを備え、
前記触媒装置は、
金属製の触媒担体を有するメタル触媒と、
筒状に形成され、内部に前記メタル触媒が収容された外殻部と、
前記外殻部に設けられ、前記外殻部の外周面よりも径方向外向きに突出する鍔状に形成され、前記触媒装置を前記排気通路に保持するための保持部とを備え、
前記触媒装置は、前記第1の排気管の流出側端部と前記第2の排気管の流入側端部との間に前記保持部が狭持されることにより前記排気通路に保持されていることを特徴とする排気装置。
【請求項2】
前記第1の排気管と前記保持部との間には、前記第1の排気管と前記保持部とを互いに絶縁する第1の絶縁部材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の排気装置。
【請求項3】
前記第2の排気管と前記保持部との間には、前記第2の排気管と前記保持部とを互いに絶縁する第2の絶縁部材が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の排気装置。
【請求項4】
前記保持部は、
筒部と、
前記筒部の軸方向一端側部分から径方向外向きに突出する突出部とを有し、
前記筒部の軸方向他端側部分は前記外殻部内に前記外殻部の流入側から挿入されて前記外殻部に接合されおり、前記筒部の軸方向他端側部分の内周面は前記外殻部の流入側部分の内周面よりも前記外殻部の軸心に接近していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の排気装置。
【請求項5】
前記保持部は、前記外殻部の軸方向一側端部が径方向外向きに突出するように曲がることにより形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の排気装置。
【請求項6】
前記触媒装置は前記第2の排気管内に配置され、
前記外殻部と前記第2の排気管との間には断熱材が設けられ、
前記第2の排気管の軸方向一側部分には、前記第2の排気管の軸方向一側から前記第2の排気管内に前記触媒装置および前記断熱材を挿入するために、前記第2の排気管の軸方向他側から軸方向一側に向かう方向に漸次拡径する拡径部が形成されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の排気装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は船舶推進機の排気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン(内燃機関)を動力源とする船舶推進機の排気通路内には、エンジンの排気ガスを浄化する触媒装置が設けられている。触媒装置は、エンジンの排気ガス中に含まれる有害成分を低減させる触媒を備えている。触媒は、白金、パラジウム等の貴金属をハニカム形の担体に担持させることによって形成されている。
【0003】
船舶推進機に設けられる触媒装置として、金属製の担体を備えたメタル触媒、またはセラミックス製の担体を備えたセラミックス触媒が採用されることが多い。メタル触媒は、セラミックス触媒と比較して、高価であるが、耐衝撃性が高い。
【0004】
下記の特許文献1には、メタル触媒を採用した船外機の排気装置が記載されている。特許文献1に記載の排気装置は、同文献の図1ないし図3に示されているように、排気ガスを集合させる排気マニホールド(35A)を備えている。排気マニホールド(35A)は、エンジン(5)の各排気ポートの出口(36)に接続されている。また、排気マニホールド(35A)の一部を構成する第二排気通路(40A)内には、メタルハニカムを担体に用いた触媒(42)が設けられている。触媒(42)は、その周囲にマット状の断熱材(45)を巻いた状態で第二排気通路(40A)内に圧入されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-169707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、エンジンの作動中、排気通路内に設けられた触媒にはエンジンの振動が加わる。また、船舶が航行中に波を乗り越えて着水する際や、船舶が滑走中に小刻みなジャンプを繰り返す際などには、船舶と水面との衝突による衝撃が触媒に加わる。このような振動や衝撃によって触媒が排気通路内において位置ずれしたり、脱落したりすることのないように、触媒を排気通路内に安定した状態で保持する必要がある。
【0007】
この点、上記特許文献1に記載の排気装置において、メタル触媒は、その周囲に断熱材を巻いた状態で第二排気通路内に圧入されることによって、第二排気通路内に保持されている。
【0008】
断熱材を巻いたメタル触媒を排気通路内に圧入した場合と、断熱材を巻いたセラミックス触媒を排気通路内に圧入した場合とを比較すると、断熱材と接触しているメタル触媒の摩擦係数は、断熱材と接触しているセラミックス触媒の摩擦係数よりも小さいため、断熱材を巻いたメタル触媒を排気通路内に圧入した場合の方が、断熱材を巻いたセラミックス触媒を排気通路内に圧入した場合よりも、触媒を排気通路内に保持する保持力が小さくなる傾向がある。したがって、上記特許文献1に記載の排気装置のように、メタル触媒を第二排気通路内に圧入することによって保持するのみでは、上記振動や衝撃に対抗し得る保持力を確保することが難しく、上記振動や衝撃によって触媒の位置ずれまたは脱落が生じるおそれがある。
【0009】
また、船舶推進機の製造当初においては、メタル触媒を排気通路内に圧入して保持する方法によって、上記振動や衝撃に対抗し得る保持力を確保することができたとしても、メタル触媒に巻かれた断熱材等の経年劣化により、上記振動や衝撃に対抗し得る保持力を長期間維持することができないおそれがある。
【0010】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、メタル触媒を排気通路内に保持するに当たり、保持の安定性を向上させることができる船舶推進機の排気装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、船舶推進機のエンジンから排気ガスを排出する排気装置であって、前記排気ガスを流通させる排気通路と、前記排気通路内に設けられて、前記排気ガスを浄化する触媒装置とを備え、前記排気通路は、第1の排気管と、前記第1の排気管の流出側に接続された第2の排気管とを備え、前記触媒装置は、金属製の触媒担体を有するメタル触媒と、筒状に形成され、内部に前記メタル触媒が収容された外殻部と、前記外殻部に設けられ、前記外殻部の外周面よりも径方向外向きに突出する鍔状に形成され、前記触媒装置を前記排気通路に保持するための保持部とを備え、前記触媒装置は、前記第1の排気管の流出側端部と前記第2の排気管の流入側端部との間に前記保持部が狭持されることにより前記排気通路に保持されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、メタル触媒を排気通路内に保持するに当たり、保持の安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例の排気装置を含む船外機を示す説明図である。
図2】エンジンホルダ、および本発明の実施例の排気装置が設けられたエンジンを示す斜視図である。
図3】一部を除去して内部を露出させた本発明の実施例の排気装置を示す断面図である。
図4図3中の排気装置において、エキゾーストマニホールドの流出管部の下端部、コレクタの上端部、および触媒装置を示す断面図である。
図5図4中の排気装置が有する触媒装置において、ブラケットの突出部が流出管部の下端部とコレクタの上端部との間に狭持されている部分を示す断面図である。
図6】本発明の実施例における触媒装置の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態の排気装置は、船舶推進機のエンジンから排気ガスを排出する排気装置であって、排気ガスを流通させる排気通路と、排気ガスを浄化する触媒装置とを備えている。
【0015】
当該排気装置において、排気通路は、第1の排気管と、第1の排気管の流出側に接続された第2の排気管とを備えている。
【0016】
また、当該排気装置において、触媒装置は排気通路内に設けられている。また、触媒装置は、金属製の触媒担体を有するメタル触媒と、筒状に形成され、内部にメタル触媒が収容された外殻部と、触媒装置を排気通路に保持するための保持部とを備えている。
【0017】
保持部は、外殻部に設けられ(例えば接合され、または一体形成され)、外殻部の外周面よりも径方向外向きに突出する鍔状に形成されている。また、触媒装置は、第1の排気管の流出側端部と第2の排気管の流入側端部との間に保持部が狭持されることにより排気通路に保持されている。
【0018】
本実施形態の排気装置においては、第1の排気管の流出側端部と第2の排気管の流入側端部との間に保持部が狭持されることによって触媒装置が排気通路に保持されているので、触媒装置をその周囲に断熱材を巻いた状態で排気通路内に圧入することのみによって排気通路に保持する場合と比較して、触媒装置を排気通路に保持する保持力を高めることができ、触媒装置を排気通路に保持する保持の安定性を向上させることができる。
【実施例0019】
以下、本発明の排気装置の実施例について説明する。なお、実施例の説明において、上(Ud)、下(Dd)、前(Fd)、後(Bd)、左(Ld)、右(Rd)の方向を述べるときには、各図中の右下に描いた矢印に従う。
【0020】
(船外機)
図1は、本発明の実施例の排気装置を含む船外機1を示している。船外機1は、船舶の推進力を生成する装置であり、船舶推進機の一形態である。船外機1は、図1に示すように、船舶81の船尾に設けられたトランサム82に取り付けられる。
【0021】
船外機1の上部には、エンジンホルダ10、および船外機1の動力源としてのエンジン21が設けられている。エンジン21はエンジンホルダ10上に搭載されている。また、エンジンホルダ10およびエンジン21の下部はボトムカウリング2により覆われ、エンジン21の上部はトップカウリング3により覆われている。また、ボトムカウリング2の下方に設けられたアッパケーシング4内には、エンジン21の動力をプロペラシャフト8に伝達するドライブシャフト5が設けられている。また、アッパケーシング4の下方に設けられたロワーケーシング6内には、ドライブシャフト5の回転をプロペラシャフト8に伝達するギア機構7、およびプロペラ9の回転軸であるプロペラシャフト8が設けられている。また、プロペラシャフト8の後端部にはプロペラ9が取り付けられている。
【0022】
(エンジン)
図2は、エンジンホルダ10、および本発明の実施例の排気装置31が設けられたエンジン21を示している。エンジン21はガソリンを燃料とする4サイクルエンジンである。図2に示すように、エンジン21において、その前部にはクランクケース22が設けられ、クランクケース22の後方には例えば4つのシリンダ23が設けられている。4つのシリンダ23はそれぞれ前後方向に伸長し、上下方向に並んでいる。また、これらシリンダ23の後方にはシリンダヘッド24が設けられている。図1に模式的に示すように、クランクケース22内には、上下方向に伸長したクランクシャフト25が設けられている。また、各シリンダ23内にはピストン26が設けられ、各ピストン26はコネクティングロッド27を介してクランクシャフト25に接続されている。また、クランクシャフト25はドライブシャフト5に接続されている。
【0023】
また、図示を省略しているが、シリンダヘッド24内には、空気とガソリンとの混合気をシリンダ23内に送り込む吸気ポート、シリンダ23内の燃焼ガスを排気ガスとしてシリンダ23外へ排出する排気ポート、吸気ポートを開閉する吸気バルブ、排気ポートを開閉する排気バルブ、および混合気に点火する点火プラグ等がシリンダ23毎に設けられている。さらに、シリンダヘッド24内には、各吸気バルブおよび各排気バルブの開閉を制御する動弁機構が設けられている。
【0024】
(排気装置)
図3は排気装置31を示している。図3では、排気装置31の左部を除去して排気装置31の内部を露出させている。排気装置31は、エンジン21から排気ガスを排出する装置であり、図3に示すように、排気ガスを流通させる排気通路32と、排気ガスを浄化する触媒装置51とを備えている。本実施例における排気装置31は、エンジン21の左側に配置されている。また、図3中の矢印Aは、排気ガスが流れる方向を示している。
【0025】
(排気通路)
排気通路32は、第1の排気管としてのエキゾーストマニホールド33と、第2の排気管としてのコレクタ37とを備えている。エキゾーストマニホールド33およびコレクタ37はいずれもアルミニウム合金により形成されている。また、エキゾーストマニホールド33およびコレクタ37はいずれも二重筒構造を有している。
【0026】
エキゾーストマニホールド33は、4つ(シリンダの数と同数)の流入管部34と、合流部35と、単一の流出管部36とを備えている。各流入管部34は、エキゾーストマニホールド33において、排気ガスを流入させる流入側に形成されている。流出管部36は、エキゾーストマニホールド33において、排気ガスを流出させる流出側に形成されている。合流部35は、エキゾーストマニホールド33において、4つの流入管部34と流出管部36との間に形成されている。
【0027】
4つの流入管部34は上下方向に並んでおり、これら流入管部34の流入口は4つの排気ポートの流出口にそれぞれ接続されている。また、これら流入管部34の流出側は合流部35にそれぞれ連通している。
【0028】
流出管部36は、図3に示すように、円筒状に形成され、合流部35における上側の前部から、前方に伸長した後、下方に緩やかに湾曲し、その後、下方に伸長している。また、流出管部36の流出口は下向きに開口している。
【0029】
コレクタ37はエキゾーストマニホールド33の流出側に接続されている。具体的には、コレクタ37の流入口は流出管部36の流出口に接続され、これにより、流出管部36内とコレクタ37内とは互いに連通している。また、コレクタ37の上端面は流出管部36の下端面と対向している(図4参照)。また、コレクタ37は、円筒状に形成され、上下方向に直線状に伸長している。
【0030】
コレクタ37の流出口は、エンジンホルダ10に形成された排気導出孔11の流入口に接続されている。また、図示を省略しているが、排気導出孔11の流出側は、船外機1に設けられた排出通路に接続されている。排出通路は、船外機1のアッパケーシング4およびロワーケーシング6の内部を上下方向に伸長しており、排出通路の下端はプロペラシャフト8の近傍に達している。また、プロペラ9には、排気通路を介して運ばれた排気ガスを水中に放出させる放出通路が設けられている。
【0031】
(触媒装置)
図4は、図3中のエキゾーストマニホールド33の流出管部36の下端部、コレクタ37の上端部、および触媒装置51を拡大して示している。図4に示すように、触媒装置51は、排気通路32内、具体的には、コレクタ37内に設けられている。触媒装置51は、メタル触媒52、メタル触媒52が収容された外殻部53、および触媒装置51を排気通路32に保持するための保持部としてのブラケット54を備えている。
【0032】
メタル触媒52は、エンジン21の排気ガス中に含まれる有害成分を低減させる機能を有している。メタル触媒52は、例えばステンレス鋼等の鉄鋼によりハニカム状に形成された触媒担体に、白金、パラジウム等の貴金属を担持させることにより形成されている。また、メタル触媒52は円柱状の外形を有している。
【0033】
外殻部53は、例えばステンレス鋼等の鉄鋼により円筒状に形成されている。外殻部53の内径は、外殻部53の内周面と外殻部53内に収容されたメタル触媒52の外周面との間に隙間が形成されることのないように、メタル触媒52の外径と略等しい値に設定されている。また、外殻部53の外径は、メタル触媒52を収容した外殻部53をコレクタ37内に収容することができるように、コレクタ37の内径よりも小さい値に設定されている。また、外殻部53の長さは、メタル触媒52の長さよりも長く、かつコレクタ37の長さよりも短い。また、メタル触媒52は、外殻部53内において、外殻部53の若干下寄りの位置に配置されており、外殻部53の上端側部分には、メタル触媒52が存在していない空き領域Eが形成されている。
【0034】
ブラケット54は、外殻部53と同じ材料により形成されている。ブラケット54は筒部55および突出部56を有している。
【0035】
筒部55は円筒状に形成されている。また、筒部55の外径は外殻部53の内径と略等しい値に設定されている。厳密には、筒部55の外径は、筒部55の下端側部分(軸方向他端側部分)が外殻部53内に入るように、外殻部53の内径よりも僅かに小さい値に設定されている。
【0036】
突出部56は、筒部55の上端側部分(軸方向一端側部分)から径方向外向きに突出している。また、突出部56は、外殻部53の外周面よりも径方向外向きに突出している。また、突出部56は、筒部55の全周に亘って鍔状またはフランジ状に形成されている。また、図4に示すように、突出部56の外径D1は、コレクタ37の上端部37Aの内径D2よりも大きく、かつ流出管部36の下端部36Aの内径D3よりも大きい。
【0037】
ブラケット54は外殻部53の上端側部分(流入端側部分)に接合されている。具体的には、筒部55の下端側部分が、外殻部53の上方(流入側)から外殻部53の上部(流入側部分)内に挿入され、筒部55の下端側部分と外殻部53の上端側部分とが溶接されている。筒部55は、その下端側部分の外周面が外殻部53の内周面に接触した状態で、外殻部53に上端側部分に溶接されている。また、筒部55の下端側部分の内周面は、外殻部53の上側部分の内周面よりも外殻部53の軸心Cに接近している。なお、図4中の57は、筒部55と外殻部53とを接合している溶接部分である。
【0038】
このような構成を有する触媒装置51は、断熱材58を介してコレクタ37内に挿入されている。すなわち、外殻部53の下側部分(流出側部分)の外周面とコレクタ37の内周面との間には断熱材58が設けられている。断熱材58は、例えば酸化アルミニウム繊維(アルミナファイバ)等の無機繊維を主たる材料とし、マット状に形成されている。
【0039】
排気装置31の製造時またはメンテナンス時において、触媒装置51は、外殻部53に断熱材58を巻いた後、コレクタ37の上方(軸方向一側)からコレクタ37内に圧入される。このような触媒装置51の圧入作業を容易にするために、コレクタ37の上側部分(軸方向一側部分)には、コレクタ37の下側(軸方向他側)から上側(軸方向一側)に向かう方向に漸次拡径する拡径部38が形成されている。
【0040】
触媒装置51は、外殻部53に断熱材58を巻いた状態でコレクタ37内に圧入することによってコレクタ37に保持されているが、これに加え、触媒装置51は、ブラケット54の突出部56がエキゾーストマニホールド33の流出管部36の下端部36A(流出側端部)とコレクタ37の上端部37A(流入側端部)との間に狭持されることによってコレクタ37に保持されている。
【0041】
図5は、図4中の触媒装置51おいて、ブラケット54の突出部56が流出管部36の下端部36Aとコレクタ37の上端部37Aとの間に狭持されている部分を拡大して示している。図5に示すように、コレクタ37の上端面には、その全周に亘って、その内周側部分が外周側部分よりも低くなるように段部39が形成されている。ブラケット54の突出部56は、流出管部36の下端面と、コレクタ37の上端面の内周側の低くなっている部分との間に狭持されている。
【0042】
また、流出管部36の下端面とブラケット54の突出部56の上面との間には、絶縁材料により環状の薄板状に形成されたアッパジョイントシート61が設けられている。アッパジョイントシート61は、互いに異種の金属により形成された流出管部36とブラケット54との間を絶縁し、流出管部36またはブラケット54(主にアルミニウム合金製の流出管部36)の電蝕を防止する機能を有している。なお、アッパジョイントシート61は第1の絶縁部材の具体例である。
【0043】
また、ブラケット54の突出部56の下面と、コレクタ37の上端面の内周側の低くなっている部分との間には、絶縁材料により環状の薄板状に形成されたロワージョイントシート62が設けられている。ロワージョイントシート62は、互いに異種の金属により形成されたブラケット54とコレクタ37との間を絶縁し、ブラケット54またはコレクタ37(主にアルミニウム合金製のコレクタ37)の電蝕を防止する機能を有している。アッパジョイントシート61およびロワージョイントシート62として、例えば紙ガスケットを用いることができる。なお、ロワージョイントシート62は第2の絶縁部材の具体例である。
【0044】
また、図5に示すように、アッパジョイントシート61の内周側部分は流出管部36の下端面とブラケット54の突出部56の上面との間に介在しているが、アッパジョイントシート61の外周側部分は、流出管部36の下端面の外周側部分と、コレクタ37の上端面の外周側部分との間に介在している。
【0045】
排気装置31において、エンジン21の各排気ポートから流出した排気ガスは、エキゾーストマニホールド33の各流入管部34に流入した後、合流部35で合流し、合流部35から流出管部36に流入する。流出管部36に流入した排気ガスは、流出管部36を流通してコレクタ37に流入する。コレクタ37に流入した排気ガスは、触媒装置51のメタル触媒52の内部を流通する。メタル触媒52を流通することにより有害成分が低減された排気ガスは、コレクタ37から排気導出孔11および排出通路を順次流通し、プロペラ9に設けられた放出通路から水中に放出される。
【0046】
以上説明した通り、本発明の実施例の排気装置31において、メタル触媒52が収容された外殻部53には、突出部56を有するブラケット54が設けられ、触媒装置51は、ブラケット54の突出部56がエキゾーストマニホールド33の流出管部36の下端部36Aとコレクタ37の上端部37Aとの間に狭持されることによってコレクタ37に保持されている。この構成により、触媒装置51が外殻部53の外周側に断熱材58を巻いた状態でコレクタ37内に圧入されることのみによって保持されている場合と比較して、触媒装置51をコレクタ37に保持する保持力を高めることができる。したがって、触媒装置51をコレクタ37に保持する保持の安定性を向上させることができ、触媒装置51のコレクタ37に対する位置ずれ、および触媒装置51のコレクタ37からの脱落を抑制することができる。具体的には、エンジン21の振動によって触媒装置51が上下方向に位置ずれすることを抑制することができ、また、船舶81が航行時に水面と衝突したときに生じる衝撃によって触媒装置51がコレクタ37内から下方に脱落することを抑制することができ、また、断熱材58の経年劣化によって触媒装置51が上下方向に位置ずれすることを抑制することができる。
【0047】
また、本実施例の排気装置31において、エキゾーストマニホールド33の流出管部36の下端面と、ブラケット54の突出部56の上面との間には、流出管部36とブラケット54とを互いに絶縁するアッパジョイントシート61が設けられている。この構成により、流出管部36またはブラケット54の電蝕を防止することができる。したがって、流出管部36またはブラケット54の電蝕によって、流出管部36とコレクタ37との間において触媒装置51を保持する保持力が低下することを防止することができる。
【0048】
また、本実施例の排気装置31において、ブラケット54の突出部56の下面と、コレクタ37の上端面との間には、ブラケット54とコレクタ37とを互いに絶縁するロワージョイントシート62が設けられている。この構成により、ブラケット54またはコレクタ37の電蝕を防止することができる。したがって、ブラケット54またはコレクタ37の電蝕によって、流出管部36とコレクタ37との間において触媒装置51を保持する保持力が低下することを防止することができる。
【0049】
また、本実施例における触媒装置51において、ブラケット54の筒部55の下端側部分は、外殻部53の上方から外殻部53内に挿入され、外殻部53に接合されている。これにより、筒部55は、筒部55の下端側部分の外周面が外殻部53の内周面に接触するように配置されており、筒部55の下端側部分の内周面は、外殻部53の上側部分の内周面よりも外殻部53の軸心Cに接近している。この構成によれば、筒部55と外殻部53との間に、外部から進入した海水や凝縮水が溜まることを防止することができ、筒部55または外殻部53の錆を抑制することができる。仮に、ブラケット54の筒部55の内径を外殻部53の外径よりも僅かに大きくし、ブラケット54の筒部55の下端側部分の内部に外殻部53の上端側部分を挿入して両者を接合することとした場合には、筒部55内に位置する外殻部53の上端面に海水や凝縮水が溜まり易くなる。その結果、筒部55または外殻部53が錆び易くなる。本実施例における触媒装置51によれば、筒部55と外殻部53との間に、海水や凝縮水が溜まり易い箇所が形成されることがないので、海水や凝縮水が溜まることによって筒部55または外殻部53が錆びることを抑制することができる。
【0050】
また、本実施例の排気装置31において、コレクタ37の上側部分には、コレクタ37の下側部分から上側部分に向かう方向に漸次拡径する拡径部38が形成されている。この構成により、コレクタ37の上方からコレクタ37内に、外殻部53に断熱材58が巻かれた触媒装置51を容易に挿入することができ、触媒装置51のコレクタ37内への組付性を向上させることができる。具体的には、触媒装置51をコレクタ37内に挿入するための治具等を不要にすることができ、触媒装置51をコレクタ37内に手で簡単に挿入することができる。したがって、排気装置31の製造またはメンテナンスの作業負担を軽減することができる。
【0051】
なお、上記実施例では、触媒装置51において、突出部56を有するブラケット54を外殻部53に接合する場合を例にあげたが、本発明はこれに限らない。ブラケット54の突出部56と同等の機能を有する保持部74を、図6に示すように、外殻部73と一体化させてもよい。すなわち、図6に示す触媒装置71において、保持部74は、外殻部73の上側端部(軸方向一側端部)が径方向外向きに突出するように曲がることにより形成されている。エキゾーストマニホールド33の流出管部36の下端部36Aとコレクタ37の上端部37Aとの間に保持部74を狭持させることによって、触媒装置71をコレクタ37に保持することができる。保持部74と一体化した外殻部73は、例えば絞り加工等により形成することができる。
【0052】
また、上記実施例では、エキゾーストマニホールド33とコレクタ37との間に、触媒装置51におけるブラケット54の突出部56を狭持させる場合を例にあげたが、本発明はこれに限らない。エキゾーストマニホールドと、排気装置の排気通路を構成するコレクタ以外の排気管との間に突出部56を狭持させてもよいし、コレクタと、排気装置の排気通路を構成するエキゾーストマニホールド以外の排気管との間に突出部56を狭持させてもよいし、排気装置の排気通路を構成するエキゾーストマニホールドまたはコレクタではない2つの排気管の間に突出部56を狭持させてもよい。また、排気装置の排気通路を構成する排気管と、排気管に準ずる部品との間に突出部56を狭持させてもよい。
【0053】
また、上記実施例では、触媒装置51をコレクタ37内に配置する場合を例にあげたが、本発明はこれに限らない。例えば、触媒装置51においてメタル触媒52以外の部分を上記実施例とは上下逆さにして、触媒装置51をエキゾーストマニホールド33の流出管部36内に配置してもよい。
【0054】
また、エキゾーストマニホールド33と触媒装置51のブラケット54とがそれぞれ互いに同種の金属により形成され、互いに接触しても電蝕が生じず、または生じ難い場合であって、排気通路32から排気ガス漏れの可能性がない場合には、アッパジョイントシート61を設けなくてもよい。同様に、触媒装置51のブラケット54とコレクタ37とがそれぞれ互いに同種の金属により形成され、互いに接触しても電蝕が生じず、または生じ難い場合には、ロワージョイントシート62を設けなくてもよい。ただし、エキゾーストマニホールド33とコレクタ37とがそれぞれ互いに異種の金属により形成されている場合に、エキゾーストマニホールド33の流出管部36とコレクタ37との間に、絶縁材料により形成されたシートを設ける。
【0055】
また、エキゾーストマニホールド33の材料、コレクタ37の材料、並びに触媒装置51の外殻部53およびブラケット54の材料は、上記実施例におけるものに限定されない。
【0056】
また、上記実施例の排気装置31はエンジン21の左側に配置されているが、本発明の排気装置をエンジンの右側等、エンジンの他の箇所に配置してもよい。また、エンジンにおけるシリンダの数は限定されない。また、本発明は、船外機の排気装置に限らず、船内外機または船内機等の他の種類の船舶推進機の排気装置にも適用することができる。
【0057】
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う排気装置もまた本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0058】
1 船外機(船舶推進機)
21 エンジン
31 排気装置
32 排気通路
33 エキゾーストマニホールド(第1の排気管)
37 コレクタ(第2の排気管)
38 拡径部
51、71 触媒装置
52 メタル触媒
53、73 外殻部
54 ブラケット(保持部)
55 筒部
56 突出部
58 断熱材
61 アッパジョイントシート(第1の絶縁部材)
62 ロワージョイントシート(第2の絶縁部材)
74 保持部
81 船舶
図1
図2
図3
図4
図5
図6