(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023033984
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】車両側部構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/02 20060101AFI20230306BHJP
B60J 5/06 20060101ALI20230306BHJP
B60J 5/00 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
B62D25/02 A
B60J5/06 A
B60J5/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021140004
(22)【出願日】2021-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】大井 貴典
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203BB55
3D203BB57
3D203DA35
(57)【要約】
【課題】スライドドアにおける異物の挟み込みを効果的に抑制する。
【解決手段】車両側部構造において、スライドドア2は前後方向の一方側へスライドすることで乗降口1aを全閉し、前後方向の他方側へスライドすることで乗降口1aを開放し且つ車体側部1の外側面1d1に対向する。スライドドア2の前記他方側の端部は乗降口1aの周縁5のうちの前記他方側の縁部である対象縁部51を覆うフランジ部21を構成する。対象縁部51は、フランジ部21のフランジ内側面21aにおける少なくとも先端側の部分と対向する対向面512と、対向面512と外側面1d1との間を接続する接続面513と、を有する。対象縁部51は、フランジ部21と接続面513との間の車両前後方向の距離である第1距離αがフランジ部21と対向面512との間の車幅方向の距離である第2距離βよりも大きく設定されている、隙間拡大部51Aを有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗降口が形成された車体側部と、
車両前後方向の一方側へスライドすることで前記乗降口を全閉する閉位置に位置し、車両前後方向の他方側へスライドすることで前記乗降口を開放し且つ前記車体側部の前記乗降口よりも前記他方側の外側面に対向する開位置に位置する、スライドドアと、
前記車体側部に延在し前記スライドドアを前記閉位置と前記開位置との間でスライド可能に支持する少なくとも一つのレールと、
を含み、
前記少なくとも一つのレールは、前記スライドドアが前記他方側の前記開位置から前記一方側にスライドしつつ車幅方向内側に移動するように、前記車体側部における前記乗降口の周縁において傾斜して延びる傾斜レール部を有する対象レールを含み、
前記スライドドアの前記他方側の端部は、前記閉位置において、前記周縁のうちの前記他方側の縁部である対象縁部の少なくとも一部を車幅方向外側から覆うフランジ部を構成しており、
前記閉位置にある前記フランジ部と前記対象縁部との間に隙間が設けられている、車両側部構造であって、
前記対象縁部は、前記閉位置にある前記フランジ部の車幅方向内側のフランジ内側面における少なくとも先端側の部分と対向する対向面と、該対向面と前記外側面との間を接続する接続面と、を有しており、
前記対象縁部は、前記閉位置にある前記フランジ部と前記接続面との間の車両前後方向の距離である第1距離が前記閉位置にある前記フランジ部と前記対向面との間の車幅方向の距離である第2距離よりも大きい所定値に設定されている、隙間拡大部を有することを特徴とする、車両側部構造。
【請求項2】
前記接続面は、前記一方側から前記他方側に向かうほど前記閉位置にある前記フランジ部の先端から離れる傾斜面として形成されているとともに、前記傾斜レール部と同一の傾斜方向に又は前記傾斜レール部よりも車幅方向に緩やかな傾斜方向に延びている、請求項1に記載の車両側部構造。
【請求項3】
前記対象縁部は、前記対向面における前記一方側の部分に、車幅方向外側に突出する突出部を有する、請求項1又は2に記載の車両側部構造。
【請求項4】
前記対象縁部における前記突出部よりも前記乗降口側の部分に、当該対象縁部と前記スライドドアとの間を密閉するウェザーストリップが設けられている、請求項3に記載の車両側部構造。
【請求項5】
前記フランジ部は、前記閉位置において前記接続面に対向する先端を有するフランジ先端部と、該フランジ先端部から連続して前記一方側に延び且つ前記フランジ先端部の前記対向面側の面よりも車幅方向内側に位置する拡幅部を有するフランジ基端部と、を有しており、
前記突出部の先端は、車幅方向について前記閉位置にある前記フランジ基端部の前記拡幅部に対応する領域であり、且つ、車両前後方向について前記閉位置にある前記フランジ先端部に対応する領域である所定領域内に位置している、請求項3又は4に記載の車両側部構造。
【請求項6】
前記拡幅部の前記対向面側の面は、前記フランジ先端部に向かうほど車幅方向について前記対向面から離れるように傾斜しており、
前記突出部の少なくとも一部は、前記閉位置にある前記フランジ基端部に対応する車両前後方向についての領域内に位置している、請求項5に記載の車両側部構造。
【請求項7】
前記スライドドアのドア外側面には、ドアハンドルが設けられており、
前記隙間拡大部は、前記対象縁部における前記ドアハンドルに対応する車両上下方向についての領域と重なる領域に設けられている、請求項1~6のいずれか一つに記載の車両側部構造。
【請求項8】
前記対象縁部は、前記隙間拡大部の車両上下方向の両側に、前記第1距離が前記隙間拡大部における前記所定値よりも小さい値に設定された隙間縮小部を有する、請求項1~7のいずれか一つに記載の車両側部構造。
【請求項9】
前記対象縁部は、上側の前記隙間縮小部と前記隙間拡大部とを接続する上側中間部と、下側の前記隙間縮小部と前記隙間拡大部とを接続する下側中間部と、を有しており、
前記対象縁部と前記外側面との境界である角部のうちの前記上側中間部に対応する部分と、前記角部のうちの前記下側中間部に対応する部分は、車幅方向から視た平面視で前記乗降口側に向かうにしたがって互いに離れるように広がっている、請求項8に記載の車両側部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体側部の乗降口を開閉可能なスライド式のサイドドア(以下、「スライドドア」という)を含む車両側部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、スライドドアは、車体側部に延在するレールに沿ってスライドすることにより車体側部の乗降口を開閉する。このようなスライドドアを含む車両側部構造の一例として、特許文献1に開示された自動車の側部構造が知られている。この特許文献1の側部構造では、スライドドアは、車両前後方向の前方へスライドすることで乗降口を全閉する閉位置に位置し、車両前後方向の後方へスライドすることで乗降口を開放し且つ車体側部における乗降口よりも後方の外側面に対向する閉位置に位置するようになっている。このようなスライドドアでは、一般に、閉位置から後方にスライドする際に、車体側部における乗降口の周縁のうちの後側縁部との衝突を回避する軌跡を通ってスライドする必要がある。そのため、レールは、一般に、スライドドアが閉位置から後方にスライドしつつ車幅方向外側に退避するように、車体側部における乗降口の周縁に沿って傾斜して延びる傾斜レール部を有している。
【0003】
そして、レールの傾斜レール部は、一般に、スライドドアを滑らかに移動させるために緩やかな傾斜で設けられているため、傾斜レール部の車両前後方向の寸法が比較的に大きくなる傾向にある。このため、スライドドアが閉位置にあるとき、車幅方向から視た平面視において、乗降口の周縁のうちの後側縁部やレールの傾斜レール部を含む部分が外部に露出しやすく、スライドドアと車体側部との境目(見切り)が目立ち易くなる。これに対して、特許文献1に開示された側部構造等の従来の車両側部構造では、スライドドアの後端部に上下方向に延びるフランジ部が設けられており、このフランジ部によって、閉位置において、乗降口の周縁のうちの後側縁部やレールの傾斜レール部を含む部分の大半を車幅方向外側から覆っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の車両側部構造では、スライドドアがレールの傾斜レール部に沿って前方にスライドしつつ車幅方向内側へスライドする際に、スライドドアのフランジ部と乗降口の周縁のうちの後側縁部との間に、異物が挟まるおそれがある。
【0006】
詳しくは、従来の車両側部構造では、スライドドアがレールの傾斜レール部に沿って閉位置に向かってスライドしている際に、フランジ部の車幅方向内側のフランジ内側面と車体側部の外側面との間の距離(隙間)が徐々に狭まる。この距離は、フランジ部の先端が開位置側から車両前後方向について乗降口の周縁の後側縁部と車体側部の外側面との間の境界である角部に対応する位置に到達するまで減少し続け、この角部に対応する位置で最小になり易い。その後、スライドドアは、引き続き傾斜レール部に沿って閉位置に向かってスライドし、閉位置では、フランジ部と乗降口の周縁の後側縁部との間に隙間が設けられている。このようなスライドドアでは、フランジ内側面と車体側部の外側面との間の距離(隙間)の減少過程において、フランジ部の近傍に異物が存在する場合があり得る。この場合に、スライドドアが車両前後方向について前述の角部を超えて閉位置に向かってさらにスライドすることにより、異物が乗降口の周縁の後側縁部側に引き込まれてフランジ部と後側縁部との間の隙間に挟み込まれるおそれがある。なお、多くの車両では、スライドドアが車両前後方向の前方へスライドすることで乗降口を全閉するようになっている。しかし、スライドドアが車両前後方向の後方へスライドすることで乗降口を全閉するようになっている車両もあり、このような車両においても、異物の挟み込みについての同様の課題がある。
【0007】
そこで、本発明は、スライドドアのフランジ部と乗降口の周縁のうちのフランジ部に覆われる対象縁部との間における異物の挟み込みを効果的に抑制することができる車両側部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明の一態様によると、乗降口が形成された車体側部とスライドドアと少なくとも一つのレールとを含む車両側部構造が提供される。前記スライドドアは、車両前後方向の一方側へスライドすることで前記乗降口を全閉する閉位置に位置し、車両前後方向の他方側へスライドすることで前記乗降口を開放し且つ前記車体側部の前記乗降口よりも前記他方側の外側面に対向する開位置に位置する。前記少なくとも一つのレールは、前記車体側部に延在し前記スライドドアを前記閉位置と前記開位置との間でスライド可能に支持する。そして、前記少なくとも一つのレールは、前記スライドドアが前記他方側の前記開位置から前記一方側にスライドしつつ車幅方向内側に移動するように、前記車体側部における前記乗降口の周縁において傾斜して延びる傾斜レール部を有する対象レールを含む。前記スライドドアの前記他方側の端部は、前記閉位置において、前記周縁のうちの前記他方側の縁部である対象縁部の少なくとも一部を車幅方向外側から覆うフランジ部を構成しており、前記閉位置にある前記フランジ部と前記対象縁部との間に隙間が設けられている。前記対象縁部は、前記閉位置にある前記フランジ部の車幅方向内側のフランジ内側面における少なくとも先端側の部分と対向する対向面と、該対向面と前記外側面との間を接続する接続面と、を有している。そして、前記対象縁部は、前記閉位置にある前記フランジ部と前記接続面との間の車両前後方向の距離である第1距離が前記閉位置にある前記フランジ部と前記対向面との間の車幅方向の距離である第2距離よりも大きい所定値に設定されている、隙間拡大部を有している。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様による前記車両側部構造では、前記対象縁部は、前記閉位置にある前記フランジ部と前記接続面との間の車両前後方向の距離である前記第1距離が前記閉位置にある前記フランジ部と前記対向面との間の車幅方向の距離である前記第2距離よりも大きい所定値に設定されている、隙間拡大部を有している。これにより、例えば、前記第1距離が前記第2距離以下である場合と比較すると、前記フランジ内側面と前記外側面との間の距離が最小になり易い位置(換言すると、前記フランジ部の先端が車両前後方向について前記対象縁部と前記車体側部の前記外側面との境界である角部に対応する位置に到達する、角部到達位置)を、前記開位置側にずらすことができる。その結果、異物を挟み込む起点になり得る前記角部到達位置における前記フランジ内側面と前記外側面との間の距離が、前記第1距離が前記第2距離以下である場合よりも大きくなる。したがって、本発明の一態様による前記車両側部構造では、前記第1距離が前記第2距離以下である場合と比較すると、前記スライドドアの前記フランジ部と前記対象縁部との間における異物の挟み込みを効果的に抑制することができる。
【0010】
このようにして、本発明は、スライドドアのフランジ部と乗降口の周縁のうちのフランジ部に覆われる対象縁部との間における異物の挟み込みを効果的に抑制することができる車両側部構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両側部構造が適用された車両の側面図である。
【
図2】前記車両側部構造における乗降口を説明するための側面図である。
【
図3】
図2に示すA-A線における部分断面図である。
【
図4】比較例の車両側部構造における
図3に対応する部分の部分断面図である。
【
図5】前記車両側部構造の変形例を説明するための部分断面図である。
【
図6】前記車両側部構造の隙間拡大部の範囲の変形例を説明するための図である。
【
図7】前記隙間拡大部の範囲の別の変形例を説明するための図である。
【
図8】前記隙間拡大部の範囲のさらに別の変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る車両側部構造が適用された車両100の側面図であり、
図2は車両側部構造の乗降口1aを説明するための側面図である。なお、図において、矢印Fr方向は車両前後方向で車両前方を示し、矢印O方向は車両幅方向(車幅方向)で車両外方を示し、矢印U方向は車両上下方向で車両上方を示している。以下の説明における「前」及び「後」は車両前後方向における前及び後に対応し、「上」及び「下」は車両上下方向における上及び下に対応している。
【0013】
[車両側部構造の概要]
図1及び
図2に示すように、車両100は、乗降口1aが形成された車体側部1と、車体側部1に設けられるスライド開閉式のサイドドアであるスライドドア2と、スライドドア2のスライド用の少なくとも一つ(ここでは、複数)のレール(3,4)と、を備えている。なお、
図2では、スライドドア2は車体側部1から取り外されている。本実施形態では、車両100は、複数のレール(3,4)として、センターレール3と下レール4とを有している。
【0014】
車体側部1は、車両100の車体のうちの車幅方向外側の部分である。
図1及び
図2では、車室内の乗員が車両前後方向の前方に向かって視たときの車体の右側部が車体側部1として示されている。乗降口1aは後部席にアクセスするために車体側部1に形成された開口であり、車体側部1には、この後部席用の乗降口1a以外に運転席用の乗降口1bも形成されている。そして、車体側部1には、後部席用の乗降口1aと運転席用の乗降口1bを仕切るように上下方向に延在するセンターピラー1cが形成されている。また、車体側部1における後部席用の乗降口1aよりも車両前後方向の後方には、車体側部1の一部としてクォーターパネル1dが設けられている。
【0015】
車体側部1の後部席用の乗降口1aはスライドドア2によって開閉される。車体側部1における後部席用の乗降口1aを形成する周縁5は、
図2に示すように車幅方向外側から視た平面視では幅を有した環状に視認される形態で形成され、乗降口1aの周囲を取り囲んでいる。また、車両100は、運転席用の乗降口1bを開閉するためのヒンジ開閉式のサイドドアであるフロントサイドドア6も備えている。フロントサイドドア6は自身の前端部がヒンジ(図示省略)を介して車体側部1に連結されており、フロントサイドドア6はヒンジを支点として車幅方向に回動することにより乗降口1bを開閉する。
【0016】
スライドドア2は、前述したように、車体側部1の後部席用の乗降口1aを開閉するためのスライド開閉式のサイドドアである。つまり、スライドドア2は、車体側部1に形成された二つの乗降口1a,1bのうちのリア側の乗降口1aを開閉するためのサイドドアであり、本実施形態に係る車両側部構造は主に車両100の車体側部1におけるリア側(後部席用)の乗降口1a及びスライドドア2を含む部分の構造に適用されている。なお、特に限定されるものではないが、本実施形態では、スライドドア2は手動で開閉される手動開閉式のドアであるものとする。ただし、スライドドア2は手動開閉式に限らず自動で開閉される自動開閉式のドアであってもよい。
【0017】
スライドドア2は、車両前後方向の一方側へスライドすることで乗降口1aを全閉する閉位置(
図1及び後述する
図3に実線で示す位置を参照)に位置し、車両前後方向の他方側へスライドすることで乗降口1aを開放し且つ車体側部1の乗降口1aよりも他方側の外側面1d1に対向する開位置に位置するように構成されている。
【0018】
本実施形態では、スライドドア2のドア閉方向である車両前後方向の「一方側」は車両前後方向の前方側であり、スライドドア2のドア開方向である車両前後方向の「他方側」は車両前後方向の後方側である。つまり、スライドドア2は、車両前後方向の前方へスライドすることで閉位置に位置し、車両前後方向の後方へスライドすることで開位置に位置する。具体的には、閉位置では、スライドドア2の車幅方向外側のドア外側面2aと、車体側部1における乗降口1aよりも後方(他方側)に位置するクォーターパネル1dの外側面1d1と、センターピラー1cの車幅方向外側のピラー外側面1c1は互いに車幅方向について出入りなく揃っており、これらの面(2a,1d1,1c1)は車両100の側部の意匠面の一部を構成している。開位置では、スライドドア2の大半の部分は乗降口1aの後方のクォーターパネル1dの外側面1d1に対向している。
【0019】
スライドドア2の車両前後方向の後方側の端部(つまり、後端部)が、閉位置において、乗降口1aの周縁5のうちの車両前後方向の後方側の縁部(つまり、後側縁部)である対象縁部51の少なくとも一部を車幅方向外側から覆うフランジ部21を構成している。そして、車両100では、閉位置にあるスライドドア2のフランジ部21と乗降口1aの周縁5のうちの対象縁部51との間に隙間が設けられている。そして、スライドドア2のドア外側面2aには、ドアハンドル2bが設けられている。具体的には、スライドドア2は閉位置にあるときに、スライドドア2に設けられたドアラッチ(図示省略)に車体側部1に設けられたストライカ(図示省略)が係合することによって、ドア閉状態が維持される。そして、ドアハンドル2bが操作されると、ドア閉状態が解除されるようになっている。
【0020】
フランジ部21は、スライドドア2の大半の部分を構成するドア本体部22の後端から後方に突出しており、ドア本体部22の車幅方向についての厚み(幅)よりも薄い厚み(薄肉)で形成されている。このドア本体部22は、車幅方向に所定幅を有している。また、車体側部1の対象縁部51は車幅方向内側に退避するように形成されており、これにより、対象縁部51の大半の部分が閉位置にあるスライドドア2の車幅方向内側の内側面よりも車幅方向内側に位置するようになっている。そして、対象縁部51における乗降口1a側の端部はスライドドア2のドア本体部22の車幅方向について最も内側の面より車幅方向内側に位置している。なお、スライドドア2及び対象縁部51についてのさらに詳しい構造については後に詳述する。
【0021】
センターレール3及び下レール4は、それぞれ、車体側部1に延在しており、スライドドア2を閉位置と開位置との間でスライド可能に支持するレールである。そして、本実施形態では、少なくとも一つのレール(センターレール3、下レール4)は、スライドドア2が車両前後方向の後方側(前記他方側)の開位置から車両前後方向の前方側(前記一方側)にスライドしつつ車幅方向内側に移動するように、車体側部1における乗降口1aの周縁5において傾斜して延びる傾斜レール部31を有する対象レール3Aを含んでおり、ここでは、対象レール3Aはセンターレール3である。換言すると、傾斜レール部31は、スライドドア2が閉位置から車両前後方向の後方側にスライドしつつ車幅方向外側に退避するように、車体側部1における乗降口1aの周縁5において傾斜して延びている。傾斜レール部31の始端は、センターレール3におけるドア閉方向の端(本実施形態では、前端)を構成している。
【0022】
図3は、
図2に示すA-A線における部分断面図である。ただし、
図3では、図の簡略化のためセンターレール3の外形が二点鎖線で示されている。具体的には、センターレール3は、
図1~
図3に示すように、車体側部1における車両上下方向の中間位置において、車体側部1における乗降口1aよりも車両前後方向の後方の外側面1d1(つまり、クォーターパネル1dの外側面1d1)から乗降口1aの周縁5のうちの車両前後方向の後方側の対象縁部51に亘って延在しており、対象縁部51側の部分(つまり、閉方向側の端部)が車幅方向内側に偏向している。より具体的には、センターレール3は、車体側部1のクォーターパネル1dの外側面1d1において車幅方向内側に凹み且つ車両前後方向に延在する凹部内を車両前後方向に直線的に延びた後、対象縁部51に対応する部分において車両前後方向の前方に向かうにしたがって車幅方向内側に向かうように湾曲しており、この湾曲した湾曲レール部32に連続して延びるように、傾斜レール部31が延在している。換言すると、本実施形態では、センターレール3は、
図1及び
図2に示すように、車体側部1におけるリヤドアガラスとリヤホイールハウスとの間の中間位置に配置されている。これにより、車体側部1の外側面1d1がセンターレール3を境に上下に区画され、その結果、車体側部1の面振動を効率的に抑制することができる。なお、センターレール3は、車体側部1における所望の高さ位置に配置できる。
【0023】
下レール4は、乗降口1aの周縁5のうちの車両上下方向の下縁部52に延在しており、周縁5のうちの前縁部53側の部分(つまり、閉方向側の端部)が車幅方向内側に偏向している。より具体的には、下レール4は、下縁部52の車両前後方向に直線的に延びた後、前縁部53側の部分において車両前後方向の前方に向かうにしたがって車幅方向内側に向かうように湾曲した湾曲レール部41を有している。
【0024】
車両100は、スライドドア2のドア本体部22とセンターレール3とを連結する第1連結ユニット7と、ドア本体部22と下レール4とを連結する第2連結ユニット8とを有している。
図2では、各連結ユニット(7,8)はスライドドア2と一緒に取り外されている。各連結ユニット(7,8)は例えば同様の構造を有している。
図3を参照して第1連結ユニット7について主に説明すると、第1連結ユニット7は、ドア本体部22の内側面に取り付けられたアーム71と、センターレール3に係合し且つセンターレール3に沿って転動(摺動)可能なローラ72と、ローラ72の軸部72aを車両上下方向に延びる揺動軸73aを支点として揺動可能にアーム71の先端に連結する揺動部73と、を有している。
【0025】
[車両側部構造の詳細]
車両100において、車体側部1における乗降口1aの周縁5の対象縁部51(ここでは、後側縁部)は、センターレール3の傾斜レール部31が延在する傾斜したレール用傾斜面511を有する内側縁部51aと、内側縁部51aよりも車体側部1の外側面1d1側の外側縁部51bとに区分される。そして、スライドドア2は、前述したように、フランジ部21と、ドア本体部22とを有している。
【0026】
対象縁部51の内側縁部51aは、対象縁部51における乗降口1aを実質的に形成する部分であり、内側縁部51aの前端は乗降口1aの開口輪郭の一部を形成する。レール用傾斜面511は、車両前後方向の前方から後方に向かうにしたがってスライドドア2のドア外側面2aに近づくように傾斜している。
【0027】
対象縁部51の外側縁部51bは、閉位置にあるフランジ部21の車幅方向内側のフランジ内側面21aにおける少なくとも先端側の部分と対向する対向面512と、対向面512と車体側部1の外側面1d1との間を接続する接続面513と、を有している。
【0028】
具体的には、対向面512は、車両前後方向及び車両上下方向に延びており、フランジ部21のフランジ内側面21aにおける後述するフランジ先端部211と平行になっている。対向面512のうちの車両前後方向の前方側の部分がフランジ部21(フランジ先端部211)のフランジ内側面21aの一部と対向している。そして、対向面512は、車体側部1(クォーターパネル1d)の外側面1d1に対して車幅方向内側に所定の深さβ’分だけ退避した位置に位置している。換言すると、対向面512は、閉位置にあるスライドドア2のドア外側面2aに対して車幅方向内側に所定距離(=所定の深さβ’)分だけ退避した位置に位置している。
【0029】
接続面513は、対向面512の車両前後方向の後端と、車体側部1の乗降口1aよりも車両前後方向の後方側の外側面1d1の車両前後方向の前端との間を接続している。この接続面513と外側面1d1とが交わる部分が、対象縁部51と外側面1d1との境界である角部Cを構成している。この角部Cは、車幅方向から視た平面視で、対象縁部51が存在する車両上下方向の範囲全体に亘って延在する線として視認され得る(
図1及び
図2参照)。
【0030】
本実施形態では、スライドドア2のフランジ部21は、閉位置において対象縁部51(外側縁部51b)の接続面513に対向する先端を有するフランジ先端部211と、フランジ先端部211から連続して車両前後方向の前方側(ドア本体部22側)に延び且つフランジ先端部211の対向面512側の面(フランジ内側面21a)よりも車幅方向内側に位置する拡幅部212aを有するフランジ基端部212と、を有している。フランジ先端部211は、車幅方向について所定の先端部厚みを有しており、フランジ基端部212よりも薄肉に形成されている。そして、フランジ基端部212は、フランジ先端部211よりも車両前後方向の後方で且つ閉位置において対象縁部51の内側縁部51aに対応する車両前後方向の領域に位置している。フランジ基端部212は、拡幅部212aの車幅方向についての拡幅部厚みの分だけフランジ先端部211より肉厚に形成されている。
【0031】
スライドドア2のドア本体部22はフランジ部21と連続して形成されている。そして、ドア本体部22は、フランジ部21と接続する接続部分221を有している。この接続部分221の車幅方向内側の面である接続部内側面221aは、フランジ部21側に向うにしたがって車幅方向外側に傾斜しており、これにより、接続部分221の厚み(幅)がフランジ部21側に向かうにしたがって小さくなるようになっている。この接続部内側面221aは、閉位置において、対象縁部51の内側縁部51aのレール用傾斜面511と離隔して対向しており、レール用傾斜面511と同程度に傾斜している。
【0032】
本実施形態では、対象縁部51の接続面513は、車両前後方向について前方側から後方側(前記一方側から前記他方側)に向かうほど閉位置にあるフランジ部21(フランジ先端部211)の先端から離れる傾斜面として形成されている。そして、本実施形態では、接続面513は、対象レール3Aとしてのセンターレール3の傾斜レール部31と同一の傾斜方向に延びている。換言すると、接続面513は、センターレール3におけるドア閉方向の端(ここでは、車両前後方向の前端)を含む所定長のレール始端側部分の傾斜方向(傾斜度合)に合わせた方向に延びている。具体的には、接続面513は、傾斜レール部31に沿って移動するスライドドア2のフランジ部21の先端内側角の移動軌跡Mにおける閉位置の始点f1と始点f1から少なくとも車幅方向について所定の深さβ’分だけ外側に離れた所定点f2とを結ぶ仮想線と、対向面512とのなす傾斜角度と同一の傾斜角度(傾斜度合)で傾斜している。また、ここでは、移動軌跡Mは、所定点f2が車両前後方向について対向面512と接続面513との接続点X(
図3参照)よりも車両前方側(前記一方側)に位置するように、設定されている。
【0033】
本実施形態では、対象縁部51は、対向面512における車両前後方向の前方側(前記一方側)の部分に、車幅方向外側に突出する突出部514を有している。突出部514は、例えば、山形断面を有している。
【0034】
本実施形態では、突出部514の先端は、車幅方向について閉位置にあるフランジ基端部212の拡幅部212aに対応する領域であり、且つ、車両前後方向について閉位置にあるフランジ先端部211に対応する領域である所定領域R内に位置している(
図3に示す破線で示した参照)。つまり、突出部514は、フランジ部21における車幅方向に拡幅部212aの分だけ凹んだ領域内に位置している。換言すると、スライドドア2が閉位置にあるときに、突出部514の先端(先端面)は、車幅方向については、拡幅部212aにおけるフランジ内側面21aよりも車幅方向外側でありフランジ先端部211におけるフランジ内側面21aよりも車幅方向内側に位置しており、且つ、車両前後方向については、フランジ先端部211におけるフランジ内側面21aに車幅方向で対面する位置に位置している。
【0035】
以上のように構成された車両100において、車体側部1における対象縁部51は、閉位置にあるフランジ部21と接続面513との間の車両前後方向の距離である第1距離αが閉位置にあるフランジ部21と対向面512との間の車幅方向の距離である第2距離βよりも大きい所定値に設定されている、隙間拡大部51Aを有している。つまり、スライドドア2が閉位置にあるときに、隙間拡大部51Aでは、第1距離αは第2距離βよりも大きい所定値(寸法)に設定されており、第2距離βは第1距離αについての前記所定値よりも小さい所定値(寸法)に設定されている(α>β)。
【0036】
特に限定されるものではないが、隙間拡大部51Aにおける第1距離α(前記所定値)は、例えば、2cm以下の所定の寸法に設定される。また、所定の深さβ’は、第1距離αより小さく且つ第2距離βより大きく設定されている(α>β’>β)。そして、本実施形態では、対向面512の車両前後方向についての長さである対向面長さα1は接続面513の車両前後方向についての長さである接続面長さα2よりも大きく設定されており(α1>α2)、対向面長さα1に接続面長さα2を加えて得た値は、第1距離αより大きく設定されている(α1+α2>α)。なお、α1+α2>αという条件を満たしていれば、α1>α2という条件に限らず、対向面長さα1は接続面長さα2以下でもよい。傾斜した接続面長さα2が長いほど、車両100の走行時に対象縁部51周辺において乱流が発生し難くなり、空気抵抗に起因した走行抵抗が低減される。
【0037】
本実施形態では、スライドドア2のドア外側面2aには、前述したようにドアハンドル2bが設けられている(
図1参照)。ドアハンドル2bは、スライドドア2における車両上下方向の中間部分であり且つスライドドア2における車両前後方向の前端側の部分に設けられている。そして、対象縁部51の隙間拡大部51Aは、ドアハンドル2bとの関係では、対象縁部51におけるドアハンドル2bに対応する車両上下方向についての領域と重なる領域に設けられている。また、対象縁部51における隙間拡大部51Aの車両上下方向についての範囲は、例えば、ドアハンドル2bの車両上下方向についての範囲よりも広く設定されている。
【0038】
本実施形態では、対象縁部51は、隙間拡大部51Aの車両上下方向の両側に、第1距離αが隙間拡大部51Aにおける前記所定値より小さい値に設定された隙間縮小部51Bを有している(
図1及び
図2参照)。つまり、対象縁部51は、第1距離αが比較的に狭く設定された上側の隙間縮小部51Bと、第1距離αが比較的に広く設定された隙間拡大部51Aと、第1距離αが比較的に狭く設定された下側の隙間縮小部51Bとを有している。したがって、車幅方向の外側から視た平面視では、隙間拡大部51Aでは、スライドドア2と車体側部1(クォーターパネル1d)との境目(見切り)が隙間縮小部51Bと比べると目立ち、隙間縮小部51Bでは、スライドドア2と車体側部1との境目が隙間拡大部51Aと比べると目立っていない(
図1参照)。具体的には、隙間縮小部51Bにおける第2距離βは隙間拡大部51Aと同寸法に設定され、隙間縮小部51Bにおける第1距離αは隙間拡大部51Aにおける第1距離α(前記所定値)より小さく且つ第2距離βより小さい値に設定されている。
【0039】
本実施形態では、対象縁部51は、上側の隙間縮小部51Bと隙間拡大部51Aとを接続する上側中間部51Cと、下側の隙間縮小部51Bと隙間拡大部51Aとを接続する下側中間部51Dと、を有している。そして、対象縁部51と外側面1d1との境界である角部Cのうちの上側中間部51Cに対応する部分と、角部Cのうちの下側中間部51Dに対応する部分は、車幅方向から視た平面視で乗降口1a側に向かうにしたがって互いに離れるように広がっている(
図1及び
図2参照)。
【0040】
次に、本実施形態に係る車両100に適用した車両側部構造の作用について主に
図3及び
図4を参照して説明する。
図4は、比較例に係る車両100’における
図3に対応する部分の部分断面図である。なお、この比較例に係る車両100’の車両側部構造における対象縁部51は、本実施形態の車両100(車両側部構造)における隙間拡大部51Aに相当する部分を有していない。比較例に係る車両100’(車両側部構造)の対象縁部51では、(1)第1距離αが第2距離β以下の所定値に設定されており、(2)接続面513が傾斜しておらず湾曲しており、(3)突出部514を有しておらず、これら((1)~(3))以外の構造については本実施形態の車両100(車両側部構造)と同じである。
【0041】
まず、
図4に示す比較例に係る車両100’(車両側部構造)において、スライドドア2がセンターレール3の傾斜レール部31に沿って閉位置に向かってスライドしている際に(換言すると、閉位置の手前近傍で閉位置に向かって移動している際に)、フランジ部21のフランジ内側面21aと車体側部1の外側面1d1との間の距離(隙間)dが徐々に狭まる。この距離dは、フランジ部21の先端が開位置側から車両前後方向について角部Cに対応する位置に到達するまで減少し続け、この角部Cに対応する位置(車両前後方向でフランジ内側面21aと角部Cが重なる位置)で最小になっている。その後、スライドドア2は、引き続き傾斜レール部31に沿って閉位置に向かってスライドし、閉位置では、フランジ部21と対象縁部51との間に隙間が設けられている。このとき、フランジ内側面21aは、角部Cに対してフランジ先端部21aの厚み分(β’-β)だけ車幅方向内側に位置することになる。このようなスライドドア2では、
図4に示すような、フランジ内側面21aと外側面1d1との間の距離dの減少過程において、フランジ部21の近傍に異物が存在するおそれがある。この場合に、その後、スライドドア2が車両前後方向について角部Cを超えて閉位置に向かってさらにスライドすることにより、異物が乗降口1aの周縁5の対象縁部51側に引き込まれてフランジ部21と対象縁部51との間の隙間に挟み込まれるおそれがある。
【0042】
これに対し、本実施形態に係る車両100(車両側部構造)では、対象縁部51は、フランジ部21と接続面513との間の車両前後方向の距離である第1距離αがフランジ部21と対向面512との間の車幅方向の距離である第2距離βよりも大きい所定値に設定されている、隙間拡大部51Aを有している。これにより、例えば、第1距離αが第2距離β以下である
図4に示す比較例の場合と比較すると、
図3に示すように、フランジ内側面21aと車体側部1の外側面1d1との間の距離が最小になり易い位置(換言すると、フランジ部21の先端が車両前後方向について角部Cに到達する、角部到達位置)を、開位置側にずらすことができる。その結果、異物を挟み込む起点になり得る角部到達位置におけるフランジ内側面21aと車体側部1の外側面1d1との間の距離dが、第1距離αが第2距離β以下である場合(
図4に示す比較例の場合)よりも大きくなる。したがって、本実施形態に係る車両100(車両側部構造)では、第1距離αが第2距離β以下である場合と比較すると、スライドドア2のフランジ部21と対象縁部51との間における異物の挟み込みを効果的に抑制することができる。
【0043】
このようにして、本実施形態に係る車両100によれば、スライドドア2のフランジ部21と乗降口1aの周縁5のうちのフランジ部21に覆われる対象縁部51との間における異物の挟み込みを効果的に抑制することができる、車両側部構造を提供することができる。
【0044】
本実施形態では、接続面513は、前方側から後方側(前記一方側から前記他方側)に向かうほど閉位置にあるフランジ部21の先端から離れる傾斜面として形成されているとともに、傾斜レール部31と同一の傾斜方向に延びている。これにより、例えば、閉位置にあるスライドドア2が傾斜レール部31に沿って開方向に移動する際に、フランジ部21の先端と対象縁部51の接続面513との間の距離が狭まらないため、閉位置から開方向への移動の際においても、フランジ部21と対象縁部51との間の異物の挟み込みが効果的に抑制される。具体的には、接続面513は、少なくとも、フランジ部21の先端内側角の移動軌跡Mのうちの始点f1と始点f1から車幅方向について所定の深さβ’分だけ外側に離れた所定点f2との間の移動の際(区間)において、これらの点(f1及びf2)を結ぶ仮想線と、対向面512とのなす傾斜角度と同一の傾斜角度で傾斜させるとよい。なお、接続面513は、傾斜レール部31と同一の傾斜方向に限らず、
図3に点線で示したように、傾斜レール部31よりも車幅方向に緩やかな傾斜方向に延びていてもよい。これにより、例えば、閉位置から開方向への移動の際に、フランジ部21の先端と接続面513との間の距離が徐々に広くなるため、閉位置から開方向への移動の際の異物の挟み込みがより効果的に抑制される。また、閉位置の手前近傍における閉方向への移動の観点では、
図3に点線で示したように接続面513を傾斜レール部31よりも緩やかに傾斜させることによって、例えば、接続面513を傾斜レール部31と同一の傾斜方向に傾斜させた場合と比較すると、角部到達位置を開位置側にずらすことができるため、閉方向への移動の際の異物の挟み込みがより効果的に抑制される。
【0045】
本実施形態では、移動軌跡Mは、所定点f2が車両前後方向について対向面512と接続面513との接続点X(
図3参照)よりも車両前方側(前記一方側)に位置するように、設定されている。これにより、所定点f2の位置におけるフランジ部21と接続面513との間の最小距離(詳しくは、
図3では所定点f2と角部Cとの間の距離、つまり、所定点f2と角部Cとを直線的に結んだ線の長さ)が大きくなり、異物の挟み込みがさらに効果的に抑制される。
【0046】
ここで、本実施形態に係る車両100(車両側部構造)では、隙間拡大部51Aによって、フランジ部21と対象縁部51との間における異物の挟み込みの抑制を効果的に図ることができるが、隙間拡大部51Aを設けたことによって、異物や雨水等が隙間拡大部51Aを通じて侵入する可能性が隙間拡大部51Aを有さない
図4に示す比較例の構造の場合よりも高くなり得る。
【0047】
上記異物や雨水等の侵入に対して、本実施形態では、対象縁部51は、対向面512における前方側(前記一方側)の部分に、車幅方向外側に突出する突出部514を有している。これにより、突出部514は、対向面512よりも奥側(乗降口1a)に位置することになり、異物に対する障壁として機能する。その結果、スライドドア2を開位置から閉位置に移動させる際における、対向面512とフランジ部21との間の隙間(空間)への異物の侵入が突出部514によって効果的に抑制される。また、雨水や泥水等の水が、隙間拡大部51Aにおいてフランジ部21の先端と対象縁部51の接続面513との間の比較的に広い隙間(第1距離αの隙間)から侵入したとしても、この隙間に侵入した雨水等のうちの大半が突出部514に衝突し、突出部514よりも乗降口1a側への雨水等の侵入が効果的に抑制される。
【0048】
また、突出部514の外側面(つまり、突出方向の先端面)は、フランジ部21(フランジ先端部211)の先端よりも車両前後方向について、ドア本体部22側に位置している。これにより、突出部514の外側面とフランジ部21との間への異物の挟み込みが抑制される。
【0049】
本実施形態では、突出部514の先端は、車幅方向について閉位置にあるフランジ基端部212の拡幅部212aに対応する領域であり、且つ、車両前後方向について閉位置にあるフランジ先端部211に対応する領域である所定領域R内に位置している。これにより、仮に雨水等がフランジ先端部211と突出部514との間の隙間から侵入したとしても、侵入した雨水等の流れ方向の先に拡幅部212aが存在しているため、この拡幅部212aに雨水等が当たることにより、雨水等の乗降口1a側へのそれ以上の侵入が効果的に抑制される。
【0050】
ここで、例えば、車外においてスライドドア2の後端部よりも後方に立っている乗員が本実施形態のような手動開閉式のスライドドア2を手動で閉めようとする場合がある。この場合に、乗員が、開位置にあるスライドドア2の後端部におけるドアハンドル2bに対応する車両上下方向についての部分を前方に向かって押すことで、スライドドア2を閉方向に手動でスライドさせるおそれがある。つまり、ドアハンドル2bはセンターレール3の位置及びスライドドア2の重心等を考慮してスライドドア2をスライドさせ易い高さに設けられることが多いため、スライドドア2の後端部におけるドアハンドル2bに対応する車両上下方向についての部分は、スライドドア2の手動閉操作の際に外力を受ける頻度の高い位置になり易い。したがって、スライドドア2の後端部(つまり、スライドドア2における対象縁部51側の端部)のうちのドアハンドル2bに対応する車両上下方向についての部分は、異物が挟まる可能性が他の領域よりも高い領域である。
【0051】
これに対し、本実施形態では、対象縁部51の隙間拡大部51Aは、対象縁部51におけるドアハンドル2bに対応する車両上下方向についての領域と重なる領域に設けられている。これにより、スライドドア2と車体側部1との境目(見切り)が目立って、美観が低下する傾向にある範囲(隙間拡大部51A)が、手動の外力が作用され易い領域と重なる領域に狭められる。その結果、対象縁部51のうちの車両上下方向の全域に亘って隙間拡大部51Aを設ける場合と比較すると、異物の挟み込みをその可能性の高い部分において効果的に抑制しつつ美観の低下を抑制することができる。
【0052】
詳しくは、本実施形態では、
図1及び
図2に示すように、対象縁部51は、隙間拡大部51Aの車両上下方向の両側に、第1距離αが隙間拡大部51Aにおける前記所定値より小さい値(具体的には第2距離βより小さい値)に設定された隙間縮小部51Bを有している。これにより、異物が挟まり易い領域のみに隙間拡大部51Aが設けられ、それ以外の領域に隙間縮小部51Bが設けられることになり、美観の低下を抑制することができる。
【0053】
また、本実施形態では、対象縁部51と外側面1d1との境界である角部Cのうちの上側中間部51Cに対応する部分と、角部Cのうちの下側中間部51Dに対応する部分は、車幅方向から視た平面視で乗降口1a側に向かうにしたがって互いに離れるように広がっている。これにより、上側の隙間縮小部51Bと隙間拡大部51Aとのつなぎ目部分(つまり、上側中間部51C)と、下側の隙間縮小部51Bと隙間拡大部51Aとのつなぎ目部分(つまり、下側中間部51D)とのそれぞれにおいて、第1距離αが急激に狭まることなく隙間縮小部51Bに向かうにしたがって徐々に減少するようになる。その結果、前記つなぎ目部分においても、異物の挟み込みが効果的に抑制される。
【0054】
[その他の変形例]
次に、本実施形態に係る車両100に適用された車両側部構造の変形例について、
図5~
図8等を参照して説明する。
【0055】
図5に示すように、車両100において、対象縁部51とスライドドア2との間を密閉するウェザーストリップ515は、対象縁部51における突出部514よりも乗降口1a側の部分に設けられる。これにより、ウェザーストリップ515への雨水等の接触が突出部514によって効果的に抑制され、ウェザーストリップ515の雨水等の接触による劣化が抑制される。また、雨水等の侵入経路におけるウェザーストリップ515側の部分の隙間が突出部514によって車幅方向に効果的に絞られるため、ウェザーストリップ515側への雨水等の侵入がより効果的に抑制される。
【0056】
また、
図5に示すように、拡幅部212aの対向面512側の面は、フランジ先端部211に向かうほど車幅方向について対向面512から離れるように傾斜していてもよい。この場合、
図5に示すように、突出部514の少なくとも一部は、閉位置にあるフランジ基端部212に対応する車両前後方向についての領域内に位置している。これにより、仮に雨水等がフランジ先端部211と突出部514との間の隙間から侵入したとしても、侵入した雨水等が拡幅部212aにさらに当たり易くなり、ウェザーストリップ515側への雨水等の侵入がより効果的に抑制される。
【0057】
また、
図6~
図8に示すように、隙間拡大部51Aは、対象縁部51におけるドアハンドル2bに対応する車両上下方向についての領域とずれた領域に設けられてもよい。具体的には、隙間拡大部51Aは、
図6及び
図7に示すようにドアハンドル2bよりも上方の領域に設けられてもよいし、
図8に示すようにドアハンドル2bよりも下方の領域に設けられてもよい。また、これらの場合に、隙間縮小部51Bが、
図6に示すように隙間拡大部51Aの車両上下方向の両側に設けられてもよいし、
図7及び
図8に示すように隙間拡大部51Aの車両上下方向の片側にのみ設けられてもよい。
【0058】
また、接続面513は、センターレール3の傾斜レール部31を基準とした傾斜方向及び傾斜度合で延びているものとしたが、これに限らない。例えば、下レール4の湾曲レール部41の先に傾斜レール部を設け、この下レール4の前記傾斜レール部を基準とした傾斜方向及び傾斜度合で延びていてもよい。この場合、対象レール3Aは、下レール4になる。また、図示を省略するが、接続面513は、傾斜面として形成されていなくてもよく、例えば、閉位置のフランジ先端部211側に凸となるように又は閉位置のフランジ先端部211とは逆側に凹むように、断面視で弧状に湾曲した湾曲面として形成されてもよい。また、接続面513の対向面512側の端部は、フランジ先端部211とは逆側に凹むように又はフランジ先端部211側に凸となるように、断面視で弧状に湾曲してもよい。また、フランジ先端部211におけるフランジ内側面21aは、フランジ基端部212側に向かうほど車幅方向外側に位置するように傾斜していてもよい。
【0059】
また、スライドドア2は手動開閉式に限らず自動開閉式でもよい。この場合であっても、例えば、自動開閉用の駆動機構の故障時等においてスライドドア2を閉める際に、スライドドア2の後端部に手動による外力が作用し、異物の挟み込みの可能性が高まる場合がある。したがって、自動開閉式のスライドドア2の場合であっても、本実施形態に係る車両側部構造は好適である。
【0060】
また、車両側部構造は、車両100の右側の側部構造として適用されたが、車両100の左側の側部構造として適用されてもよい。この場合、上述した構造と車幅方向について左右に逆向きの構造が適用される。
【0061】
また、スライドドア2は車両前後方向の前方へスライドすることで閉位置に位置するサイドドアであるものとしたが、これに限らず、車両前後方向の後方へスライドすることで閉位置に位置するサイドドアでもよい。この場合、スライドドア2のドア閉方向である車両前後方向の「一方側」は車両前後方向の後方側であり、スライドドア2のドア開方向である車両前後方向の「他方側」は車両前後方向の前方側である。そして、スライドドア2のフランジ部21はスライドドア2の前端部に形成され、対象縁部51は車体側部1における乗降口1aの周縁5のうちの前方側の縁部(前側縁部)である。このような、開閉形態のスライドドア2を有する車両100としては、例えば、車体側部1の面積が比較的に大きな車両が想定される。このような車両100において、本実施形態に係る上述した車両側部構造を適用してもよい。この場合、上述した構造と車両前後方向について前後に逆向きの構造が適用され、これにより、スライドドア2の前端部のフランジ部21と乗降口1aの周縁5のうちの前側縁部である対象縁部51との間への異物の挟み込みが効果的に抑制される。
【0062】
以上、本発明の実施形態及びその変形例について説明したが、本発明は上述の実施形態及び変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて更なる変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0063】
1…車体側部、1a…乗降口、1d1…外側面、2…スライドドア、2a…ドア外側面、
2b…ドアハンドル、21…フランジ部、21a…フランジ内側面、211…フランジ先端部、212…フランジ基端部、212a…拡幅部、3,4…複数のレール、3…センターレール、3A…対象レール、31…傾斜レール部、4…下レール、5…周縁、51…対象縁部、51A…隙間拡大部、51B…隙間縮小部、51C…上側中間部、51D…下側中間部、512…対向面、513…接続面、514…突出部、515…ウェザーストリップ、C…角部、R…所定領域、α…第1距離、β…第2距離