(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023034719
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】用紙
(51)【国際特許分類】
D21H 21/36 20060101AFI20230306BHJP
D21H 11/20 20060101ALI20230306BHJP
D21H 15/10 20060101ALI20230306BHJP
D06M 11/83 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
D21H21/36
D21H11/20
D21H15/10
D06M11/83
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141074
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100164161
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 彩
(72)【発明者】
【氏名】外岡 遼
(72)【発明者】
【氏名】三浦 克也
(72)【発明者】
【氏名】吉松 丈博
(72)【発明者】
【氏名】大石 正淳
【テーマコード(参考)】
4L031
4L055
【Fターム(参考)】
4L031AA02
4L031AB34
4L031BA04
4L031DA12
4L055AA02
4L055AA03
4L055AC06
4L055AF09
4L055AF10
4L055AF43
4L055AF44
4L055AF47
4L055AG03
4L055AG07
4L055AG16
4L055AG34
4L055AG35
4L055AG47
4L055AG96
4L055AH10
4L055EA03
4L055EA12
4L055EA29
4L055FA11
4L055FA20
4L055FA30
4L055GA15
4L055GA50
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、人から人に手渡されることを前提とした用紙、特に、優れた抗ウイルス活性を備えた、抗ウイルス性紙からなる名刺用紙を提供することである。
【解決手段】本発明によって、抗ウイルス性を有する用紙が提供され、特に名刺用紙に好適な用紙が提供される。本発明に係る用紙は、JIS P 8118に従って測定した紙厚が150μm以上、JIS L 1922:2016(繊維製品の抗ウイルス性試験方法)に基づいて測定したインフルエンザウイルスまたはネコカリシウイルスに対する抗ウイルス活性値(Mv)が2.0以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維および接着剤を含有する用紙であって、
JIS P 8118に従って測定した紙厚が150μm以上、
JIS L 1922:2016(繊維製品の抗ウイルス性試験方法)に従って測定したインフルエンザウイルスおよびネコカリシウイルスに対する抗ウイルス活性値(Mv)が2.0以上である用紙。
【請求項2】
前記セルロース繊維が、Ag、Au、Pt、Pd、Ni、Mn、Fe、Ti、Al、Zn及びCuの元素群から選ばれる1種以上の金属イオンおよび/または金属粒子を含有する請求項1記載の用紙。
【請求項3】
前記セルロース繊維が、アニオン基を有するセルロース繊維として、カルボキシル基またはカルボキシレート基を有する酸化セルロース繊維;および/または、カルボキシアルキル基を有するカルボキシアルキル化セルロース繊維;を含む、請求項1または2に記載の用紙。
【請求項4】
前記アニオン基を有するセルロース繊維中のアニオン基量が0.01~3.0mmol/gである、請求項3に記載の用紙。
【請求項5】
前記セルロース繊維が、Cuおよび/またはAgを金属イオンおよび/または金属粒子として含有し、用紙中の金属イオンおよび/または金属粒子の含有量が0.20mg以上6.3mg/g以下である、請求項1~4のいずれかに記載の用紙。
【請求項6】
前記セルロース繊維100重量%に対し、LBKPを60重量%以上含有する請求項1~5のいずれかに記載の用紙。
【請求項7】
JIS P 8155に従って測定した王研式平滑度が30秒以上である請求項1~6のいずれかに記載の用紙。
【請求項8】
前記用紙が名刺用紙である、請求項1~7のいずれかに記載の用紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人から人に手渡しで配布される用紙に関する。より具体的には、セルロース繊維を含有する抗ウイルス性紙からなる名刺用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
我々の日常生活の中で、配布物として一般的に紙が使用されており、例えば、駅前での広告の配布、初対面の人に会った際の名刺の配布などがあげられる。
一般的に、名刺は、いわゆる名刺サイズの名刺用紙に氏名、所属組織、役職、電話番号、FAX番号、メールアドレス等の必要事項を印刷したものが使用され、多くの場合、初対面のときに相手に手渡されている。しかしながら、最近では、名刺が企業の営業活動に必要不可欠なものとなり、相手である顧客に名刺の交付者を強く印象付けるため、名刺の上に、従来の文字だけでなく、本人の顔写真、社屋の写真、製品の写真等を、フルカラーで印刷したものがでてきている。さらには、家庭用のプリンタで個人的に意匠をこらした名刺を作成する人も多く、例えば特許文献1のように名刺用紙のパターン用紙等に関する検討が行われてきた。
【0003】
名刺の基材となる紙は、上記のように様々な方法で作成され、人から人へ手渡しでの配布、及び長期間の保管が想定されるため、各種印刷適正のほか、手肉感や力学特性として、こわさ等が求められる。
【0004】
一方で、近年の衛生観念の高まりの中で、名刺用紙は人から人へ手渡しで授受されることを前提としたものであるにもかかわらず、用紙の抗菌、抗ウイルス性に関する検討はされてこなかった。
【0005】
用紙の基材となる紙については、抗菌機能を付与するために、種々の技術が提案されている。例えば、特許文献2には、金属塩および還元剤を含むナノ粒子前駆体の水溶液を繊維の集合体に塗布することにより紙などに抗菌性を付与する方法が開示されている。また、特許文献3では、ゼオライトの構成成分であるケイ素化合物又はアルミニウム化合物のどちらか一方の水溶液を、セルロース繊維等の親水性高分子基材に含浸させ、塩基性物質と他方の水溶液を混合し、これを更に含浸させて、セルロース繊維の内部にゼオライトを担持させた無機多孔結晶-親水性高分子複合体が提案されており、さらに該ゼオライトに金属を担持することにより、抗菌効果や脱臭効果を付与することができることが開示されている。
【0006】
また、特許文献4では、基紙の表面に、アンモニアおよび/またはアンモニウム塩の水溶液と亜鉛の金属錯体を形成した、消臭性や抗菌性に優れた亜鉛化合物含有紙が開示されている。
【0007】
また、特許文献5では、酸化パルプを含有する紙基材であって、該酸化パルプのカルボキシル基の量が酸化パルプの絶乾重量に対して、1.0mmol/g~2.0mmol/gであることを特徴する、脱臭性等を有する機能性シート用の紙基材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004-122404号公報
【特許文献2】特表2019-504941号公報
【特許文献3】特開平10-120923号公報
【特許文献4】特開2021-042512号公報
【特許文献5】国際公開2014/097929号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2及び3に記載されているものは、セルロース繊維と金属成分を含む無機化合物の単なる混合体であり、セルロース繊維と金属成分を含む無機化合物とが化学的に強固に結合しているわけではない。すなわち、金属成分を含む無機化合物は繊維のように物理的、化学的なネットワークを形成しないため、これを用いて機能性用紙を製造した場合、引張強さや引裂強さなど、基材としての力学特性が低下するほか、金属成分を含む無機化合物が基材から脱落するなど、抗菌、抗ウイルス性を有する配布用紙、特に名刺として使用するには問題がある。
また、特許文献4は紙の表面を直接金属で処理して抗菌処理を施すものだった。さらに、特許文献2~4はいずれも抗菌性を有する紙の発明であり、抗ウイルス性に関するものではなかった。
このような状況に鑑み、本発明は、人から人に手渡されることを前提とした用紙、特に、優れた抗ウイルス活性を備えた、セルロース繊維を含有する抗ウイルス性紙からなる名刺用紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これに限定されるものではないが、本発明は、以下の態様を包含する。
[1] セルロース繊維および接着剤を含有する用紙であって、
JIS P 8118に従って測定した紙厚が150μm以上、
JIS L 1922:2016(繊維製品の抗ウイルス性試験方法)に従って測定したインフルエンザウイルスおよびネコカリシウイルスに対する抗ウイルス活性値(Mv)が2.0以上である用紙。
[2]前記セルロース繊維が、Ag、Au、Pt、Pd、Ni、Mn、Fe、Ti、Al、Zn及びCuの元素群から選ばれる1種以上の金属イオンおよび/または金属粒子を含有する[1]記載の用紙。
[3]前記セルロース繊維が、アニオン基を有するセルロース繊維として、カルボキシル基またはカルボキシレート基を有する酸化セルロース繊維;および/または、カルボキシアルキル基を有するカルボキシアルキル化セルロース繊維;を含む、[1]または[2]に記載の用紙。
[4]前記アニオン基を有するセルロース繊維中のアニオン基量が0.01~3.0mmol/gである、[3]記載の用紙。
[5]前記セルロース繊維が、Cuおよび/またはAgを金属イオンおよび/または金属粒子として含有し、用紙中の金属イオンおよび/または金属粒子の含有量が0.20mg以上6.3mg/g以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の用紙。
[6]前記セルロース繊維100重量%に対し、LBKPを60重量%以上含有する[1]~[5]のいずれかに記載の用紙。
[7]JIS P 8155に従って測定した王研式平滑度が30秒以上である[1]~[6]のいずれかに記載の用紙。
[8]前記用紙が名刺用紙である、[1]~[7]のいずれかに記載の用紙。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、セルロース繊維を含有し、人から人に手渡されることを前提とした用紙、特に優れた抗ウイルス性を有する抗ウイルス性紙からなる名刺用紙を提供することができる。本発明によれば、抗ウイルス活性などに寄与する機能性成分がしっかりと名刺用紙に残存するため、抗ウイルス活性などの機能が十分に発揮される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るセルロース繊維を含有する用紙は、抗ウイルス性を有する単層構造あるいは多層構造の用紙であり、名刺用途に好適である。具体的には、本発明に係る用紙は、JIS L 1922:2016(繊維製品の抗ウイルス性試験方法)に基づいて測定したインフルエンザウイルスまたはネコカリシウイルスに対する抗ウイルス活性値(Mv)が2.0以上であり、抗ウイルス活性値が2.5以上や3.0以上であることがより好ましい。
【0013】
本発明に係る抗ウイルス性紙は、抗ウイルス性及び名刺適正に加えて、他に1つ以上の機能を有していてもよい。本発明に係る抗ウイルス性用紙が有する機能の例としては、例えば、消臭、抗菌、耐熱、耐湿、耐候、耐溶剤、耐磨耗、電磁波遮断などを挙げることができるが、本発明の好ましい態様において、抗ウイルス性紙は、消臭および/または抗菌機能を有する。
【0014】
本発明に係る抗ウイルス性紙の用途は特に限定されないが、抗ウイルス機能と十分な紙厚が必要とされ、人から人に配布されたり、繰り返し使用される用途に好適に用いることができる。用途としては、例えば、名刺用紙、ポストカード、はがき、コースター、包装材料(紙器、段ボール、包装紙、菓子箱、紙袋等)等を挙げることができる。
【0015】
本発明に係る抗ウイルス性紙は単層構造であっても多層構造であってもよいが、多層構造である場合、少なくとも1層以上が後述する金属イオンおよび/または金属粒子を担持するセルロース繊維を含有する必要がある。また、金属イオンおよび/または金属粒子を担持するセルロース繊維は、いずれの層に含まれていても優れた抗ウイルス機能を示すが、ウイルスは一般的に用紙の最表層に付着するため、効率的に抗ウイルス機能を発現するという観点から、金属イオンおよび/または金属粒子を担持するセルロース繊維は用紙の最表層に含まれていることが好ましい。
【0016】
本発明に係る用紙は、セルロース繊維を含有するが、セルロース繊維が、表面にアニオン基を有し、Ag、Au、Pt、Pd、Ni、Mn、Fe、Ti、Al、Zn及びCuの元素群から選ばれる1種以上の金属イオンおよび/または金属粒子を含有することが好ましい。アニオン基はカルボキシル基あるいはカルボキシレート基であることが好ましく、金属イオンがイオン結合していることが好ましい。本発明においては、金属イオンおよび/または金属粒子を担持するセルロース繊維(以下、「金属含有セルロース繊維」ともいう。)を含んだ層を少なくとも1層有することが好ましい。金属イオンとしては活性の高さと安全性の観点からCuおよび/またはAgを含有することが好ましく、Cuを含有することがより好ましい。AgやCuは、Hgなどと比較して安全性が高く、直接手で触れることの多い紙の用途に好適に使用することができる。また、
CuはAgと比較して、ハロゲンや温度等からの影響を受けにくく、安定的に効果を発現することが知られており、本発明の金属特にCuイオン/またはCu粒子を担持したセルロース繊維を含有する本発明の用紙は、あらゆる環境や用途で使用することができる。
【0017】
金属含有セルロース繊維以外の原料は、特に限定されず、公知の原料を用いることができる。例としては、金属イオンあるいは金属粒子を担持しないセルロース繊維(以下、「一般セルロース繊維」ともいう。)、合成繊維や、樹脂、無機物等の他の材料を一種類以上含んでもよい。
本発明の用紙は填料を含んでいてよい。用紙中の填料の含有量は特に制限されないが、用紙重量の20重量%を超えない範囲であることが好ましく、10重量%以下や5重量%以下とすることもできる。填料としては、例えば、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、シリカ、ケイ藻土、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、軽石粉、軽石バルーン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ドロマイト、硫酸カルシウム、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、亜硫酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、アスベスト、ケイ酸カルシウム、モンモリロナイト、ペントナイト、グラファイト、アルミニウム粉、硫化モリブデンなどが挙げられる。
他の材料としては、特に限定されないが、例えば、嵩高剤、乾燥紙力向上剤、湿潤紙力向上剤、濾水性向上剤、歩留まり向上剤、染料、サイズ剤、硫酸バンド等を必要に応じて使用してもよい。填料以外の他の材料の含有量は合計で用紙重量の10重量%を超えないことが好ましい。
【0018】
また、用紙の製造方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、原料が分散された水を吐出し、圧力や熱により脱水する方法(いわゆる湿式)、原料を乾いた状態で吐出し、同様に圧力や熱によりシート化する方法(いわゆる乾式)のいずれの方法でもよい。セルロース繊維は親水性であるため、湿式により用紙を形成することが好ましい。
本発明では、通常の紙と同様にパルプスラリー(紙料)に上記金属含有セルロース繊維を混合し、当該試料を用いて抄紙することで用紙を製造することもできる。抄紙には長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、円網式抄紙機等の公知の抄紙機を用いることができ、その抄紙条件も限定されない。
また、本発明に係る用紙は、必要に応じてカレンダー処理等の公知の表面処理を行ってもよい。表面処理には公知の処理装置を用いることができ、その条件も限定されない。
【0019】
本発明に係る用紙は、必要に応じて顔料を含有しない塗工層(クリア塗工層)を用紙の表面に設けてもよい。本発明の用紙は、用紙の片面または両面にクリア塗工層を備えることが好ましく、さらに好ましくは少なくとも澱粉類を含有するクリア塗工層を有することが好ましい。クリア塗工層を有することで、平滑性や表面強度、印刷適正に優れた紙を得ることができる。また、理由は明らかではないが、本発明の用紙は、用紙表面がクリア塗工層で覆われていても優れた抗ウイルス活性および抗菌・消臭機能を有する。
【0020】
クリア塗工層の塗工量は、片面あたり固形分で0.01~3.0g/m2が好ましく、0.1~2.0g/m2がより好ましい。クリア塗工は、例えば、サイズプレス、ゲートロールコータ、プレメタリングサイズプレス、カーテンコータ、スプレーコータなどのコータ(塗工機)を使用して、塗布液を用紙上に塗布することで形成できる。クリア塗工液の固形分濃度は、ボイリングや塗工量調整の観点から、2~14重量%であることが好ましく、固形分濃度5重量%の時のB型粘度(30℃、60rpm)が5~450mPa・sであることが好ましく、10~300mPa・sであることがより好ましい。
【0021】
本発明において澱粉とは、アミロース、アミロペクチンからなる混合物のことをいい、一般に、その混合比は澱粉の原材料である植物によって異なる。本発明において澱粉類とは澱粉由来の高分子化合物も含む。当該高分子としては、澱粉を変性、修飾、加工などしたものが挙げられる。澱粉類としては、例えば生澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉、カチオン化澱粉、アセチル化したタピオカ澱粉を原料として製紙工場内で熱化学変性あるいは酵素変性によって生成される自家変性澱粉などの澱粉、アルデヒド化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉などの変性澱粉を含むことが好ましい。本発明のクリア塗工層は、例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、カルボキシル変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル化ポリビニルアルコールなどの変性アルコール、スチレン-ブタジエン系共重合体、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリル酸エステルなどを使用することも可能であり、2種または3種以上を併用してもよい。また、サイズ性を高める目的で、スチレン系サイズ剤、オレフィン系サイズ剤、アクリレート系サイズ剤、スチレン-アクリル系サイズ剤、カチオン性サイズ剤などの表面サイズ剤を併用することも可能である。また、本発明においては、必要に応じて分散剤、増粘剤、保水材、消泡剤、耐水化剤、着色剤、導電剤等、通常のクリア塗工に配合される各種助剤を適宜使用される。
【0022】
本発明に係る用紙の坪量は、カードや名刺として使用した際に十分な手肉感や高級感を付与することができるため、100~300g/m2の範囲であることが好ましく、130~250g/m2の範囲であることがより好ましい。坪量が300g/m2より大きいと、紙のしなやかさや断裁しやすさが劣り問題となる場合があり、100g/m2より小さいとカードや名刺として使用した際に剛度が不足して高級感に劣る印象をうけたり、長期間名刺入れやケースなどで保管した際に、名刺がよれてしまう恐れがある。用紙が多層構造である場合、最表層の原紙層が本発明の金属イオンおよび/または金属粒子を含有することが好ましい。また、各層の坪量が10g/m2以上であると、均一かつ製造時の取り扱いにおいて最低限の強度を持つ用紙を製造する点から好ましい。
【0023】
用紙の厚さは、名刺用途などに使用した際の手肉感の観点から、150~500μmの範囲であることが好ましく、下限は180μm以上がより好ましく、さらに好ましくは190μm以上である。上限としては250μm以下であることがより好ましい。150μmより薄いと剛度や手肉感、裏抜け、高級感等に劣る可能性があり、500μmより厚いと紙のしなやかさや断裁性、家庭用インクジェットプリンタで印刷した際の不具合が発生する可能性がある。用紙が多層構造である場合、各層の厚さが20μm以上であることが、均一な用紙を製造する点から好ましい。用紙の密度については特に限定されない。
【0024】
用紙は、インクジェット印刷時のフェザリングや裏抜けを防止するために、ある程度のサイズ性を有していることが好ましい。また、名刺には受領日などのメモ書きをすることがあるため、ペン書きサイズ適性も求められる。そのため、本発明の用紙は特に限定されないが、JIS P 8122に従って測定したステキヒトサイズ度が3秒以上でることが好ましく、JAPAN TAPPI No.12に従って測定したペン書きサイズが4以上であることが好ましい。
【0025】
本発明の用紙は、平滑性に優れるため、印刷時の着肉や触ったときの手触り感に優れる。そのため、特に限定されないが、JIS P 8155に準じて測定した王研式平滑度が30秒以上250秒以下が好ましく、より好ましくは45秒以上200秒以下である。
【0026】
本発明に係る用紙が多層構造を有する場合、各層を一層ずつ製造した後で、公知の方法によりそれらを積層してもよく、各層を順次積層しながら形成してもよい。また各層の原料を同時に吐出させながら一括で多層を形成する、いわゆる同時多層式に用紙を製造してもよい。各層を接着する方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、接着剤を使う方法、熱ロールの間を通したり、熱風をあてることにより層同士を融着させたりする方法等を挙げることができる。
本発明に係る用紙が多層構造である場合、最表層が一層以上ラミネート処理されていてもよく、またいわゆる粘着ラベル用紙のように、他の基材と接着するための接着層を最表層に有していてもよい。また、単層の用紙を単純に積層したものでもよく、段ボールのように、1つ以上の層が立体構造を有していてもよい。
【0027】
本発明に係る用紙は、必要に応じて最表層に印刷を行ってもよい。印刷方式としては、特に限定されないが、例えば、グラビア印刷機、オフセット印刷機、インクジェット印刷機、活版印刷機、フレキソ印刷機、熱転写印刷機またはトナー印刷機である。グラビア印刷機は、画像が彫り込まれたロール状の版胴を介してインクを被印刷体に転写する方式の印刷機など従来から使用されている印刷機で印刷することである。オフセット印刷機は、インクを一度ブランケットに移してから被印刷体に再び転移する間接印刷方式の印刷機である。活版印刷機は、凸版に付与されたインクを被印刷体に押しつけるように圧をかけて印刷する凸版印刷方式の印刷機である。フレキソ印刷機は、柔軟な弾性のある樹脂版を使用する凸版印刷方式の印刷機である。熱転写印刷機は、各色のインクリボンを使用する印刷機であって、熱によってインクリボンから色材を被印刷体に転写する方式の印刷機である。トナー印刷機は、帯電ドラムに付着したトナーを、静電気を利用して被印刷体にトナーを転写させる電子写真方式の印刷機である。本発明の用紙は、これらの印刷適性に優れるため、名刺用紙に好適である。
【0028】
本発明に係る用紙は、金属イオンおよび/または金属粒子を担持するセルロース繊維を含む場合、用紙1gあたり金属イオンおよび金属粒子を合計で0.20mg/g以上含有することが好ましく、0.25mg/g以上がより好ましく、0.30mg/g以上がさらに好ましく、0.60mg/g以上が最も好ましい。また、用紙1gあたり金属イオンおよび金属粒子を合計で6.3mg/g以下含有することが好ましく、5.0mg/g以下や4.0mg/g以下としてもよい。
用紙1gあたりの用紙中の金属イオンおよび/または金属粒子の含有量を合計で0.20mg/g以上6.3mg/g以下とすることで、抗ウイルス機能などに優れた用紙が容易に得られると共に、過剰な金属イオンおよび/または金属粒子による環境負荷の増大や用紙の着色等を抑制することができる。
【0029】
用紙中の金属イオンおよび金属粒子の含有量は、例えば、ICP発光分光分析(ICP-OES)によって測定(定量)することができる。
【0030】
また、金属含有セルロース繊維の含有量は、用紙に対し0.5重量%以上であることが好ましい。金属含有セルロース繊維の含有量が少なすぎると、十分な抗ウイルス機能を付与することができない場合がある。上記含有量の上限値は特に限定されず、求める抗ウイルス、消臭、抗菌機能等の程度に応じて適宜調整できるが、100重量%であってもよい。金属含有セルロース繊維の含有量は、例えば、1~80重量%、2~60重量%、3~40重量%などにしてもよい。
また、上述したように金属含有セルロース繊維の含有量が用紙に対し0.5重量%以上であることが好ましいことから、用紙中の一般セルロース繊維の含有量は99.5重量%以下であることが好ましい。一般セルロース繊維の含有量の下限値は特に限定されず、一般セルロース繊維を含まなくてもよい。
【0031】
本発明に係る用紙はセルロース繊維を含んでなる。本発明におけるセルロース繊維の種類には特に限定はなく、必要に応じて任意の種類のものを用いることができる。また、それらのうち2種類以上のセルロース繊維を任意の比率で混合して用いてもよい。セルロース繊維の由来は特に制限されず、例として、植物由来、動物由来、藻類由来、微生物由来等のセルロース繊維を挙げることができ、中でも植物由来または微生物由来のセルロース繊維が好ましく、植物由来のセルロース繊維が特に好ましい。
植物由来のセルロース繊維としては、例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙パルプ等)を挙げることができ、動物由来のセルロース繊維としては、例えばホヤ類由来のセルロース繊維、微生物由来のセルロース繊維としては、例えば酢酸菌(アセトバクター)由来のセルロース繊維を挙げることができる。
【0032】
本発明に用いられるセルロース原料の数平均繊維径および数平均繊維長は特に制限されるものではなく、必要に応じて任意の数平均繊維径および数平均繊維長のものを用いることができる。また数平均繊維径および数平均繊維長の異なる2種類以上のセルロース繊維を、任意の比率で混合して用いてもよい。例として、一般的なパルプの一つである針葉樹クラフトパルプ(NBKP)の場合は、数平均繊維径30~60μm程度、数平均繊維長3~5mm程度、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)の場合は、数平均繊維径10~30μm程度、数平均繊維長1~2mm程度である。
【0033】
また、本発明の用紙は、セルロース繊維としてLBKPおよび/または古紙パルプを含有することが好ましい。LBKPや古紙パルプは繊維長が比較的短く、これらのパルプを含むことで、平滑性に優れた紙を得ることができ、このように得られた紙は表面性や印刷適正(特に印刷面感)に優れる。特に白色度に優れるLBKPを60重量%以上含有することが好ましい。
【0034】
[セルロース繊維の変性]
セルロース繊維は、グルコース単位あたり3つのヒドロキシル基を有しており、各種の化学変性処理を行うことが可能である。本発明では、処理後にアニオン基を有する化学変性処理を行うことが好ましい。
アニオン基を導入したセルロース繊維としては、例えば、カルボキシル基またはカルボキシレート基を有する酸化セルロース繊維、リン酸基を有するリン酸エステル化セルロース繊維、亜リン酸基を有する亜リン酸エステル化セルロース繊維、硫酸基を有するスルホン化セルロース繊維などが挙げられる。本発明では、後述する工程においてセルロース繊維の少なくとも一部に金属イオンあるいは金属粒子を導入するために、セルロース繊維の少なくとも一部に対してカルボキシル基あるいはカルボキシレート基を導入する変性(酸化)を行うことが好ましい。なお、本明細書において、セルロース繊維に導入されたアニオン基を酸基ということもある。
【0035】
ここで、カルボキシル基とは-COOHで表される基をいい、カルボキシレート基とは-COO-で表される基をいう。カルボキシレート基のカウンターイオンは特に限定されない。後述するように金属粒子がカルボキシレート基とのイオン結合を介して形成する場合はこの金属イオンがカウンターとなる。
【0036】
アニオン基(酸基)を有するセルロース繊維のアニオン基量は、一例として以下の方法により測定することができる。
アニオン基(酸基)を有するセルロース繊維試料の0.5質量%スラリー(水分散液)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)を測定する。次いで、アニオン基(酸基)を有するセルロース繊維のアニオン基量〔mmol/g〕を、下式を用いて算出する。式中、xは、酸基の価数に相当する値であり、カルボキシル基、カルボキシレート基、亜リン酸基、スルホン酸基の場合は1、リン酸基の場合は2である。
a〔ml〕×0.05/アニオン基(酸基)を有するセルロース繊維の重量〔g〕/x
【0037】
また、カルボキシアルキル基を有するカルボキシアルキル化セルロース繊維においては、カルボキシアルキル化処理によるアニオン基の量を定量する場合、以下の手法を用いることができる。
(1) カルボキシメチル化セルロース(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。
(2) メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えて得られた硝酸メタノール溶液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(カルボキシメチル化セルロース)を水素型カルボキシメチル化セルロースにする。
(3) 水素型カルボキシメチル化セルロース(絶乾)を1.5~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。
(4) 80%メタノール15mLで水素型カルボキシメチル化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。
(5) 指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定する。
(6) カルボキシアルキル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’-(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(水素型アルボキシアルキル化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型カルボキシアルキル化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F':0.1NのNaOHのファクター
F:0.1NのH2SO4のファクター
【0038】
以下、セルロース繊維の表面におけるグルコース単位中にアニオン基を導入する方法について説明する。
【0039】
(1-1)酸化
本発明において、セルロース繊維にカルボキシル基あるいはカルボキシレート基を導入する変性(酸化)の方法は、変性後のセルロース繊維がカルボキシル基あるいはカルボキシレート基を含有していれば特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
一例としては、N-オキシル化合物、及び、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群より選択される物質の存在下で酸化剤を用いて水中でセルロース原料を酸化する方法が挙げられる。この方法によれば、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、アルデヒド基、カルボキシル基、及びカルボキシレート基からなる群より選ばれる基が生じる。反応時のセルロース原料の濃度は特に限定されないが、5重量%以下が好ましい。
【0040】
N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。ニトロキシルラジカルとしては例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(TEMPO)が挙げられる。N-オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。
【0041】
N-オキシル化合物の使用量は、セルロース繊維を酸化できる触媒量であれば特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.01mmol以上が好ましく、0.02mmol以上がより好ましい。上限は、10mmol以下が好ましく、1mmol以下がより好ましく、0.5mmol以下が更に好ましい。従って、N-オキシル化合物の使用量は絶乾1gのセルロースに対して、0.01~10mmolが好ましく、0.01~1mmolがより好ましく、0.02~0.5mmolがさらに好ましい。
【0042】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、例えば、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属、例えば臭化ナトリウム等が挙げられる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、例えば、ヨウ化アルカリ金属が挙げられる。臭化物又はヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択すればよい。臭化物及びヨウ化物の合計量は絶乾1gのセルロースに対して、0.1mmol以上が好ましく、0.5mmol以上がより好ましい。上限は、100mmol以下が好ましく、10mmol以下がより好ましく、5mmol以下が更に好ましい。従って、臭化物及びヨウ化物の合計量は絶乾1gのセルロースに対して、0.1~100mmolが好ましく、0.1~10mmolがより好ましく、0.5~5mmolがさらに好ましい。
【0043】
酸化剤は、特に限定されないが例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸、それらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などが挙げられる。中でも、安価で環境負荷が少ないことから、次亜ハロゲン酸又はその塩が好ましく、次亜塩素酸又はその塩がより好ましく、次亜塩素酸ナトリウムが更に好ましい。
【0044】
酸化剤の使用量は、絶乾1gのセルロースに対して、0.5mmol以上が好ましく、1mmol以上がより好ましく、3mmol以上が更に好ましい。上限は、500mmol以下が好ましく、50mmol以下がより好ましく、25mmol以下が更に好ましい。従って、酸化剤の使用量は絶乾1gのセルロースに対して、0.5~500mmolが好ましく、0.5~50mmolがより好ましく、1~25mmolがさらに好ましく、3~10mmolが最も好ましい。
【0045】
N-オキシル化合物を用いる場合、酸化剤の使用量はN-オキシル化合物1molに対して1mol以上が好ましい。上限は、40molが好ましい。従って、酸化剤の使用量はN-オキシル化合物1molに対して1~40molが好ましい。
【0046】
酸化反応時のpH、温度等の条件は特に限定されず、一般に、比較的温和な条件であっても酸化反応は効率よく進行する。反応温度は4℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましい。上限は40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。従って、温度は4~40℃が好ましく、15~30℃程度、すなわち室温であってもよい。
【0047】
反応液のpHは、8以上が好ましく、10以上がより好ましい。上限は、12以下が好ましく、11以下がより好ましい。従って、反応液のpHは、好ましくは8~12、より好ましくは10~11程度である。
通常、酸化反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHは低下する傾向にある。そのため、酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを上記の範囲に維持することが好ましい。酸化の際の反応媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等の理由から、水が好ましい。
【0048】
酸化における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5時間以上である。上限は通常は6時間以下、好ましくは4時間以下である。従って、酸化における反応時間は通常0.5~6時間、例えば0.5~4時間程度である。
【0049】
酸化は、2段階以上の反応に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一又は異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化させることができる。
【0050】
カルボキシル基あるいはカルボキシレート基を導入する変性(酸化)の方法の別の例として、オゾン処理により酸化する方法が挙げられる。この酸化反応により、セルロースを構成するグルコピラノース環の少なくとも2位及び6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。
【0051】
オゾン処理は通常、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより行われる。気体中のオゾン濃度は、50g/m3以上であることが好ましい。上限は、250g/m3以下であることが好ましく、220g/m3以下であることがより好ましい。従って、気体中のオゾン濃度は、50~250g/m3であることが好ましく、50~220g/m3であることがより好ましい。
【0052】
オゾン添加量は、セルロース原料の固形分100重量%に対し、0.1量部以上であることが好ましく、5重量%以上であることがより好ましい。上限は、通常30重量%以下である。従って、オゾン添加量は、セルロース原料の固形分100重量%に対し、0.1~30重量%であることが好ましく、5~30重量%であることがより好ましい。
【0053】
オゾン処理温度は、通常0℃以上であり、好ましくは20℃以上である。上限は通常50℃以下である。従って、オゾン処理温度は、0~50℃であることが好ましく、20~50℃であることがより好ましい。オゾン処理時間は、通常は1分以上であり、好ましくは30分以上である。上限は通常360分以下である。従って、オゾン処理時間は、通常は1~360分程度であり、30~360分程度が好ましい。オゾン処理の条件が上述の範囲内であると、セルロースが過度に酸化及び分解されることを防ぐことができ、酸化セルロースの収率が良好となる。
【0054】
オゾン処理後に得られる結果物に対しさらに、酸化剤を用いて追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが例えば、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物;酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸などが挙げられる。対酸化処理の方法としては例えば、これらの酸化剤を水又はアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を作成し、酸化剤溶液中にセルロース原料を浸漬させる方法が挙げられる。
【0055】
カルボキシル基またはカルボキシレート基を有する酸化セルロース繊維のアニオン基量は、0.01~3.0mmol/gが好ましく、0.20~2.2mmol/gがより好ましい。アニオン基が0.01mmol/g未満であると、後述するセルロース繊維へ金属イオンあるいは金属粒子を担持する工程において、セルロース繊維表面に存在する金属粒子の量が十分でなく、抗ウイルス、消臭、抗菌機能に劣る場合がある。一方、アニオン基が3.0mmol/gを超えると、金属粒子の凝集が起こり、抗ウイルス、消臭、抗菌機能に劣る場合があると共に、酸化反応時に副反応としてセルロースの切断が起こりやすくなり、収率が低下する場合がある。
酸化セルロース繊維中に含まれるアニオン基(カルボキシル基、カルボキシレート基)の量は、酸化剤の添加量、反応時間等の酸化条件をコントロールすることで調整することができる。
【0056】
(1-2)エーテル化
エーテル化としては、後工程においてセルロース繊維に金属イオンを導入する都合上、反応後の官能基にカルボキシル基あるいはカルボキシレート基を含有する方法であればいずれの方法でもよく、公知の方法を用いることができる。例としては、カルボキシメチル(エーテル)化、カルボキシエチル(エーテル)化、カルボキシプロピル(エーテル)化、カルボキシブチル(エーテル)化等のカルボキシアルキルエーテル化や、カルボキシフェニル(エーテル)化 を挙げることができる。この中から一例としてカルボキシメチル化の方法を以下に説明する。
【0057】
カルボキシメチル化の方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、発底原料としてのセルロース原料をマーセル化し、その後エーテル化する方法が挙げられる。カルボキシメチル化反応の際は通用溶媒を用いる。溶媒としては例えば、水、アルコール(例えば低級アルコール)及びこれらの混合溶媒が挙げられる。低級アルコールとしては例えば、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノールが挙げられる。
【0058】
混合溶媒における低級アルコールの混合割合は、通常は60重量%以上又は95重量%以下であり、60~95重量%であることが好ましい。溶媒の量は、セルロース原料に対し通常は3重量倍である。上限は特に限定されないが20重量倍である。従って、溶媒の量は3~20重量倍であることが好ましい。
【0059】
マーセル化は通常、発底原料とマーセル化剤を混合して行う。マーセル化剤としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属が挙げられる。マーセル化剤の使用量は、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5倍mol以上が好ましく、1.0倍mol以上がより好ましく、1.5倍mol以上であることがさらに好ましい。上限は、通常20倍mol以下であり、10倍mol以下が好ましく、5倍mol以下がより好ましい、従って、0.5~20倍molが好ましく、1.0~10倍molがより好ましく、1.5~5倍molがさらに好ましい。
【0060】
マーセル化の反応温度は、通常0℃以上であり、好ましくは10℃以上である。上限は通常70℃以下、好ましくは60℃以下である。従って、反応温度は、通常0~70℃、好ましくは10~60℃である。反応時間は、通常15分以上、好ましくは30分以上である。上限は、通常8時間以下、好ましくは7時間以下である。従って、通常は15分~8時間、好ましくは30分~7時間である。
【0061】
エーテル化反応は通常、カルボキシメチル化剤をマーセル化後に反応系に追加して行う。カルボキシメチル化剤としては例えば、モノクロロ酢酸ナトリウムが挙げられる。カルボキシメチル化剤の添加量は、セルロース原料のグルコース残基当たり通常は0.05倍mol以上が好ましく、0.5倍mol以上がより好ましく、0.8倍mol以上であることがさらに好ましい。上限は、通常10.0倍mol以下であり、5倍mol以下が好ましく、3倍mol以下がより好ましい、従って、好ましくは0.05~10.0倍molであり、より好ましくは0.5~5倍molであり、更に好ましくは0.8~3倍molである。
【0062】
反応温度は通常30℃以上、好ましくは40℃以上であり、上限は通常90℃以下、好ましくは80℃以下である。従って反応温度は通常30~90℃、好ましくは40~80℃である。反応時間は、通常30分以上であり、好ましくは1時間以上である。上限は、通常は10時間以下、好ましくは4時間以下である。従って反応時間は、通常は30分~10時間であり、好ましくは1時間~4時間である。カルボキシメチル化反応の間必要に応じて、反応液を撹拌してもよい。
【0063】
カルボキシメチル化によりセルロース原料を変性する場合、得られるカルボキシメチル化セルロース繊維中の無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.10以上であることがさらに好ましい。上限は、0.50以下が好ましく、0.40以下がより好ましく、0.35以下がさらに好ましい。従って、カルボキシメチル置換度は0.01~0.50が好ましく、0.05~0.40がより好ましく、0.10~0.30がさらに好ましい。
【0064】
(1-3)エステル化
本発明において、セルロース繊維にリン酸基、亜リン酸基を導入する変性(エステル化)の方法は、いずれの方法でもよく、公知の方法を用いることができる。
【0065】
リン酸基を有するリン酸エステル化セルロース繊維、亜リン酸基を有する亜リン酸エステル化セルロース繊維は、リン酸基、亜リン酸基を有する化合物でエステル化されたセルロース繊維である。リン酸基、亜リン酸基を有する化合物としては、例えば、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸、これらのエステルや塩が挙げられる。これらの化合物は、低コストであり、扱い易い。
【0066】
リン酸基、亜リン酸基を有する化合物の具体例としては、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム、亜リン酸、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸水素アンモニウム、亜リン酸水素カリウム、亜リン酸二水素ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸リチウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、ピロ亜リン酸等が挙げられる。
中でも、エステル化の効率が高く、かつ工業的に適用し易いという理由で、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩、亜リン酸、亜リン酸のナトリウム塩、亜リン酸のカリウム塩、亜リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸二水素ナトリウムがより好ましい。リン酸基、亜リン酸基を有する化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上の組み合わせて用いてもよい。
【0067】
エステル化反応は、例えば、セルロース原料に対し、リン酸基、亜リン酸基を有する化合物を反応させて行う。セルロース原料とリン酸基、亜リン酸基を有する化合物を反応させる方法としては、例えば、セルロース原料にリン酸基、亜リン酸基を有する化合物の粉末又は水溶液を混合する方法、セルロース原料のスラリーにリン酸基、亜リン酸基を有する化合物の水溶液を添加する方法が挙げられる。
これらの中でも、反応の均一性が高まり、かつエステル化効率が高くなるという理由で、セルロース原料又はそのスラリーにリン酸基、亜リン酸基を有する化合物の水溶液を混合する方法が好ましい。リン酸基、亜リン酸基を有する化合物の水溶液のpHは、リン酸基、亜リン酸基の導入の効率を高める観点から、7以下が好ましく、加水分解を抑える観点から、3~7がより好ましい。
【0068】
リン酸基、亜リン酸基を有する化合物の添加量の下限は、セルロース原料100重量部に対して、リン原子換算で、0.2重量部以上が好ましく、1重量部以上がより好ましい。この範囲であることにより、リン酸エステル化セルロース繊維、亜リン酸エステル化セルロース繊維の収率が向上しやすい。一方、その上限は、500重量部以下が好ましく、400重量部以下がより好ましい。この範囲であることにより、リン酸基、亜リン酸基を有する化合物の添加量に見合った収率で効率よく得ることができる。
【0069】
セルロース原料と、リン酸基、亜リン酸基を有する化合物を反応させる際、さらに塩基性化合物を反応系に加えてもよい。塩基性化合物を反応系に加える方法としては、例えば、セルロース原料のスラリーに添加する方法、リン酸基、亜リン酸基を有する化合物の水溶液に添加する方法、又はセルロース原料とリン酸基、亜リン酸基を有する化合物のスラリーに添加する方法が挙げられる。塩基性化合物は特に限定されないが、塩基性を示す窒素含有化合物が好ましい。なお、「塩基性を示す」とは、通常、フェノールフタレイン指示薬の存在下で塩基性化合物の水溶液が桃~赤色を呈すること、または塩基性化合物の水溶液のpHが7より大きいことを意味する。
【0070】
塩基性を示す窒素含有化合物は、本発明の効果を奏する限り特に限定されない。中でも、アミノ基を有する化合物が好ましい。例えば、尿素、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンが挙げられる。これらの中でも、低コストで扱いやすいという理由で、尿素が好ましい。
【0071】
塩基性化合物の添加量は、2~1000重量部が好ましく、100~700重量部がより好ましい。反応温度は、0~95℃が好ましく、30~90℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、通常、1~600分程度であり、30~480分が好ましい。反応条件がこれらのいずれかの範囲内であると、セルロースに過度にリン酸基、亜リン酸基が導入されて溶解し易くなることを防ぐことができ、リン酸エステル化セルロース繊維、亜リン酸エステル化セルロース繊維の収率が向上しやすい。
【0072】
セルロース原料にリン酸基、亜リン酸基を有する化合物を反応させた後、通常は懸濁液が得られる。懸濁液は必要に応じて脱水し、脱水後には加熱処理を行うことが好ましい。これにより、セルロース原料の加水分解を抑えることができる。加熱温度は、100~170℃が好ましく、加熱処理の際に水が含まれている間は130℃以下(更に好ましくは110℃以下)で加熱し、水を除いた後、100~170℃で加熱することがより好ましい。
【0073】
リン酸エステル化セルロース繊維、亜リン酸エステル化セルロース繊維は、煮沸後、冷水で洗浄する等の洗浄処理を施すことが好ましい。
【0074】
リン酸エステル化セルロース繊維、亜リン酸エステル化セルロース繊維において、リン酸エステル化セルロース繊維、亜リン酸エステル化セルロース繊維に含まれるアニオン基(リン酸基、亜リン酸基)は、0.1~3.5mmоl/gが好ましい。
【0075】
(1-4)スルホン化
スルホン化セルロース繊維は、硫酸基を有する化合物でスルホン化されたセルロース繊維である。硫酸酸基を有する化合物としては、例えば、硫酸、スルファミン酸、クロロスルホン酸、三酸化硫黄、これらのエステルや塩が挙げられる。これらの化合物は、低コストであり、扱い易い。
【0076】
本発明では、スルファミン酸が好ましく用いられる。スルファミン酸は、無水硫酸や硫酸水溶液等に比べてセルロースの溶解性が小さいだけでなく、酸性度が低いために重合度の保持が可能である。また、強酸性かつ高腐食性のある無水硫酸や硫酸水溶液に対して、取り扱いに制限がなく、大気汚染防止法の特定物質にも指定されていないため、環境に対する負荷が小さい。
【0077】
スルファミン酸の使用量は、セルロース繊維へのアニオン基(硫酸基)の導入量を考慮して適宜調整することができる。スルファミン酸は、例えば、セルロース分子中のグルコース単位1mol当たり、好ましくは0.01~50mol、より好ましくは0.1~30molで使用することができる。
【0078】
[セルロース繊維への金属イオンおよび/または金属粒子の担持]
本発明において、アニオン基、特にカルボキシル基又はカルボキシレート基を含有するセルロース繊維に対し、更にAg、Au、Pt、Pd、Ni、Mn、Fe、Ti、Al、Zn及びCuの群から選ばれる1種以上の金属元素の金属イオンおよび/または金属粒子を含有することにより、優れた抗ウイルス、消臭、抗菌機能が発現する。中でもAg及びCuの群から選ばれる1種以上のイオンを用いることにより、抗ウイルス、消臭、抗菌機能がさらに向上するため好まく、より好ましくはCuイオンおよび/または金属粒子である。
アニオン基を有するセルロース繊維は、金属イオンあるいは金属粒子とセルロース繊維が化学的に結合しているため、用紙に含有した際に、用紙から金属成分が脱離しにくく、また引張強さ等の力学特性も良好であり、性能、強度が低下しないという特徴を有する。
【0079】
上記セルロース繊維に対し上記金属イオンを担持する方法としては、特に限定されず、例えば、予め調製したセルロース繊維の分散液と金属化合物水溶液を混合してもよく、セルロース繊維を含む分散液を基材の上に塗布して膜とし、当該膜に金属化合物水溶液を滴下して含浸させてもよい。このとき、膜は基材上に固定されたままであってもよいし、基材から剥離された状態であってもよい。
詳細なメカニズムは不明であるが、これらの方法により、金属化合物に由来する金属イオンが、カルボキシレート基等のアニオン基と既にイオン結合していたナトリウムイオンと対イオン交換することでイオン結合を形成、あるいは配位することにより、セルロース繊維に対して金属イオンが付加されると推測される。この対イオン交換は、金属イオン同士のイオン化傾向の差によって起こると考えられる。
【0080】
ここで金属化合物水溶液とは、金属塩の水溶液である。金属塩の例には、錯体(錯イオン)、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、および酢酸塩が挙げられる。
【0081】
金属化合物水溶液の濃度は特に限定されないが、セルロース繊維1gに対して0.2~2.2mmolが好ましく、0.4~1.8mmolがより好ましい。金属化合物を接触させる時間は適宜調整してよい。
【0082】
金属化合物を接触させる際の温度は特に限定されないが、2~50℃の範囲であることが好ましい。また、接触させる際の液のpHは特に限定されないが、pHが低いと、カルボキシル基に金属イオンが結合しにくくなるため、7~13の範囲であることが好ましく、pH8~12の範囲であることが特に好ましい。
【0083】
本発明では、上記のようにセルロース繊維に金属イオンを導入することにより効果を発揮するが、金属イオンの一部が還元され金属粒子になっている場合がある。また、必要に応じ、得られた金属イオン含有セルロース繊維に結合した金属イオンの一部を還元剤などの添加により還元することによって、セルロース繊維の表面上に金属粒子を部分的に形成させることも可能である。ただし、特別な還元処理を行わず、金属化合物の全量を金属のイオンのまま用いることが、抗ウイルス、抗菌、消臭機能の点から好ましい。
【0084】
上記で得られた金属含有セルロース繊維中の金属化合物を還元することによって金属粒子をセルロース繊維中に生成させる機構は明らかでないが、以下のように推察される。還元反応により金属化合物含有セルロース繊維中の金属化合物または金属化合物由来のイオンは還元されて金属となる。このとき、生成した金属は、セルロース繊維の表面に担持される。同様に生成した近隣の金属同士は一体化するので、粒子が形成される。一方、セルロース繊維の近傍に存在するものの、セルロース繊維と結合せずに存在していた金属化合物等も還元されて金属を生成する。この金属は、速やかにセルロース繊維表面の金属と一体化して金属粒子を形成する。
【0085】
還元反応は、公知の方法で行ってよいが、金属化合物を還元しつつ、金属化合物とセルロース繊維との結合を開裂しないように行うことが好ましい。このような還元方法の例には、水素による気相還元法、および水素化ホウ素ナトリウム水溶液などの還元剤を用いた液相還元法が含まれる。
気相還元における時間、温度等の条件は適宜調整されるが、例えば50~60℃で1~3時間程度反応すればよい。気相還元反応は、酸化セルロース繊維が水や溶媒を含んでいない状態で行うことが好ましい。還元反応においては、膜は基材上に固定されたままであってもよいし、基材から剥離された状態であってもよい。液相還元の場合は、上記分散液から膜を得て、これを乾燥してあるいは乾燥しないまま還元反応に供することができる。また、分散液を乾燥することなく液相還元反応に供することもできる。液相還元における反応温度は4~40℃が好ましく、室温がより好ましい。
【0086】
金属粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡像またはX線回折から求められる。本発明においては、金属粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡像から求めた場合に1~50nmの範囲にあることが好ましい。具体的に透過型電子顕微鏡像から平均粒子径を求める方法としては、セルロース繊維の透過型電子顕微鏡像を準備し、その像から、複数の金属粒子の一次粒子の円相当径を求め、これらの値を平均して求める方法が挙げられる。
【0087】
セルロース繊維が金属イオンおよび/または金属粒子を含有していることは、走査型電子顕微鏡像、及び強酸による抽出液のICP発光分光分析で確認できる。つまり、金属イオンは走査型電子顕微鏡像では存在を確認できず、一方でICP発光分光分析では金属を含有していることを確認できる。これに対し、例えば上記金属がイオンから還元されて金属粒子として存在している場合は、走査型電子顕微鏡像で金属粒子を確認することができるので、金属イオンの有無を判定できる。また、走査型電子顕微鏡像と元素マッピングによっても金属イオンの有無を判定できる。つまり、走査型電子顕微鏡像では金属イオンを確認できないが、元素マッピングをすることで金属イオンが存在することを確認できる。
【0088】
前記金属イオンあるいは金属粒子を担持する工程において、セルロース繊維に対する前記金属イオンおよび/または金属粒子の含有量は、合計で10~100mg/gの範囲であることが好ましく、15~80mg/gの範囲であることがさらに好ましく、20~60mg/gの範囲であることが特に好ましい。合計で10mg/gより少ないと、抗ウイルス、消臭、抗菌機能が劣る場合がある。一方、合計で100mg/gを超えると、製造時に金属イオンが溶出し易くなり、排水処理の負荷が大きくなることがある。
【0089】
[叩解]
本発明におけるセルロース繊維は、前記変性処理を行う前から、前記金属担持処理を行った後の間に少なくとも1回以上叩解処理を行ってもよいが、金属担持処理の前に行うことで、繊維が凝集することなく、効率的にフィブリル化することができるため好ましい。ここで叩解処理とは、繊維に機械的剪断力を与える処理のことである。叩解処理により、セルロース繊維の一部がフィブリル化し、表面積が増大することにより、一般的には乾燥時における繊維間結合を強くすることができるほか、本発明においては、特に金属含有セルロース繊維では叩解処理を行うことにより、金属イオンおよび/または金属粒子を担持させた後の抗ウイルス、消臭、抗菌効果をさらに高めることができる。
一方、叩解処理を過剰に行い、セルロース繊維を過度に微細化しすぎると、パルプと配合して抄紙する際に歩留まりが低下したり、紙中に留まらず(残らず)、抗ウイルス、消臭、抗菌機能が低下したりするため好ましくない。叩解度合いの指標としては、カナダ標準ろ水度(CSF)を用いることができる。具体的には、ろ水度(CSF)が30ml未満であると、用紙への歩留まり減少により抗ウイルス、消臭、抗菌機能が低下し、ろ水度(CSF)が600mlを超えると、フィブリル化が不十分で抗ウイルス、消臭、抗菌機能が低下するおそれがある。このように、セルロース繊維のろ水度(CSF)を30~600mlとすることで、抗ウイルス、消臭、抗菌機能が向上する。
【0090】
叩解に用いる装置は特に限定されず、公知の装置を任意に用いることができる。叩解装置の例としては、リファイナーやビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザーなど回転軸を中心として金属または刃物とパルプ繊維を作用させるもの、パルプ繊維同士の摩擦によるもの、並びに高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ナノマイザー、各種ミル、石臼型磨砕機等の装置を挙げることができる。
【0091】
また、叩解、または必要に応じて叩解前に行う分散処理に先立って、必要に応じて予備処理を行ってもよい。予備処理としては、例えば、混合、撹拌、乳化、分散が挙げられ、公知の装置(例、高速せん断ミキサー)を用いて行えばよい。
【0092】
本発明では、セルロース繊維をナノファイバー化してもよい。ナノファイバー化した部位では表面積が増大し、抗ウイルス、消臭、抗菌機能を向上させることができる。一方、繊維を完全にナノファイバー化してしまうと、繊維が完全離解し、パルプと配合して製造する際に歩留まりが低下したり、紙中に留まらず(残らず)、セルロース繊維が有する効果が低下したりする。ここで、ナノファイバー化とは、セルロース繊維を繊維径100nm以下まで解繊した繊維にすることをいう。ナノファイバー化するためには、叩解に用いると同様の公知の装置を任意に用いることができる。
【実施例0093】
以下、具体例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の具体例に限定されるものではない。なお,本明細書において、特に記載しない限り、濃度などは重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0094】
1-1.Cuイオン担持酸化セルロース繊維の製造
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)275BDkg(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社製)1.07kg(絶乾1gのセルロースに対し0.25mmol)と臭化ナトリウム28.3kg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。
次いで、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を次亜塩素酸ナトリウムが5.2mmol/gになるように反応系に添加し、室温にて酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した(酸化反応に要した時間:約90分)。
反応後の混合物をスクリュープレスで脱水した後、十分な水の量による水洗、ろ過を2回繰り返すことにより、水を含浸させた酸化セルロース繊維を得た(固形分:10質量%、パルプ収率:90%、カルボキシル基量:1.68mmol/g)。
得られた酸化セルロース繊維に対し、水を加えて固形分濃度2%の分散液とし、pHを9.0に調整した。次いで、CuCl2(富士フイルム和光純薬)を加え、酸化セルロース繊維1gに対する濃度が1.0mmol/gになるよう撹拌しながら加え、さらに30分間撹拌することにより、酸化セルロース繊維にCuイオンを含有させた。
その後、十分な量の水による水洗、ろ過を2回繰り返すことにより、未反応の金属塩を除去し、水を含浸させたCuイオン担持酸化セルロース繊維を得た(固形分:30質量%)。得られたCuイオン担持酸化セルロース繊維における金属イオンの含有量は43.8mg/gであり、Cuイオン担持酸化セルロース繊維のカナダ標準ろ水度(CSF)は500mlであった。
1-2.用紙の製造
(1)実施例1
セルロース繊維としてLBKP(日本製紙、CSF:470ml)を使用し、これにCuイオン担持酸化セルロース繊維をセルロース繊維全体に対して3重量%となるように配合した(軽質炭酸カルシウム無配合)。セルロース繊維100重量%に対し、0.80重量%のカチオン化澱粉、0.1重量%のAKD系サイズ剤(星光PMC、AD1614)を添加し、パルプスラリーを調製した。得られたパルプスラリーから、抄紙機を用いて速度540m/minで抄造した。
次いで、酸化澱粉(日本コーンスターチ、SK20)を100重量部に対し、アニオン性サイズ剤(ハリマ化成)を5.6部、原塩を3.5重量部添加し、固形分濃度11質量%に調製した表面処理液を調製し、ゲートロールコーター(GRC)を用いて塗工した(両面塗布量:約1.6g/m2)。乾燥後、カレンダー処理をし、坪量約180g/m2の紙を得た。
(2)実施例2
坪量を約170g/m2とし、乾燥後のカレンダー線圧を高くして、紙厚を181μmとした以外は実施例1と同様に紙を得た。
(3)実施例3
セルロース繊維全体に対してNBKP(日本製紙、CSF:550ml)を5重量%、Cuイオン担持酸化セルロース繊維を4重量%となるように配合し、坪量を約190g/m2とした以外は実施例1と同様に紙を得た。
(3)比較例1
Cuイオン担持酸化セルロース繊維を配合しなかった以外は実施例1と同様に抄造した。
(4)比較例2
坪量を約80g/m2とした以外は実施例1と同様に紙を得た。
【0095】
2-1.用紙の性能評価
得られた用紙について、以下に示す方法により、抗ウイルス機能などを評価した。
【0096】
[銅の含有量]
シート1gあたりの金属イオンおよび金属粒子の含有量(mg/g)は、ICP発光分光分析(ICP-OES)により、下記の手順によって測定した。
(1) 測定の前に測定用試料を乾燥(50℃、1日)させておく
(2) 乾燥させた測定用試料0.1gを秤量し、50ml容のビーカーに入れる
(3) 濃硝酸をホールピペットで10ml取り、測定用試料の入ったビーカーに加えて測定サンプル液を作成する(10倍希釈)
(4) 30分間静置してから、シリンジフィルターに通して測定サンプル液から繊維分を除去(ろ過)する
(5) ろ過した測定サンプル液をマイクロピペットで1ml取り、蒸留水を49ml入れた試験管に加える(50倍希釈)
(6) 試験管の蓋をしっかり閉め、振って攪拌する
(7) ICP-OES(Agilent Technology社製、ICP-OES 5110)を使用して、金属イオンおよび金属粒子の含有量を測定(定量)する
(8) ICP-OESによる定量結果(ppb)から、シート1gあたりの金属イオンおよび金属粒子の含有量(mg/g)を下式に基づいて算出する。
(ICP-OESによる定量結果(ppb)×10×50)/(測定用試料の重量(g))×1000/1000000000
【0097】
[金属溶出量]
銅について、シート0.8gあたりの金属イオンおよび金属粒子の超純水100ml中への溶出量を、ICP発光分光分析(ICP-OES)により、下記の手順によって測定した。
(1) 測定の前に測定用試料を乾燥(50℃、1日)させておく
(2) 300ml容のカップに超純水を入れる(30℃、100ml)
(3) 乾燥させた測定用試料0.8gを(2)のカップに入れ蓋する
(4) 30分間、30℃で静置してから、シリンジフィルターに通して測定サンプル液から繊維分を除去(ろ過)する
(5) ろ過した測定サンプル液49mlを試験管に入れ、マイクロピペットで濃硝酸を1ml加える
(6) 試験管の蓋をしっかり閉め、振って攪拌する
(7) ICP-OES(Agilent Technology社製、ICP-OES 5110)を使用して、金属イオンおよび金属粒子の含有量を測定(定量)する
(8) ICP-OESによる定量結果から、シート0.8gあたりの金属イオンおよび金属粒子の超純水100ml中への溶出量を下式に基づいて算出する。
ICP-OESによる定量結果(ppb)×50/49
【0098】
[抗ウイルス機能]
抗ウイルス機能試験は、JIS L 1922:2016にて実施し、抗ウイルス活性値(Mv)を算出した。試験に供したシートの重量は0.4gであり、試験ウイルスとして、下記の2種を使用した。
・インフルエンザウイルス(H3N2、ATCC VR―1679)
・ネコカリシウイルス(Strain:F-9 ATCC VR-782)
【0099】
[消臭機能]
消臭機能試験は、SEKマーク繊維製品認証基準(JEC301、繊維評価技術協議会)の方法にて、アンモニアを対象として、試験試料サイズ100cm2で実施した。以下の基準で消臭機能を評価した。
◎(非常に良い): アンモニアの減少率が80%以上
○(良い) : アンモニアの減少率が70%以上80%未満
×(悪い) : アンモニアの減少率が70%未満
【0100】
[抗菌機能]
JIS L1902「繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果」に従い、ハロー法による定性試験を実施した。具体的には、大腸菌を含んだ寒天培地を作製し、その上に試験試料(5cm×5cm)を載せ、37℃で17時間培養後、試料の周りにできた試験菌の「生育阻止帯」の有無を確認した。以下の基準で抗菌機能を評価した。
○:生育阻止帯が認められ抗菌機能を有する。
×:生育阻止帯が認められず、抗菌機能を有さない。
【0101】
2-2.用紙の紙質評価
得られた用紙について、下記の通り紙質を評価した。
[坪量] JIS P8124に準じて測定した。
[紙厚] JIS P8118に準じて測定した。
[ISO白色度] JIS P8148に準じて、色差計(村上色彩、CMS-35SPX)を用いて測定した。
[ISO不透明度] JIS P8149に準じて測定した。
[色相] JIS P8150に準じて測定した。
[ステキヒトサイズ度] JIS P8122に準じて測定した。
[ペン書きサイズ度] JAPAN TAPPI NO.12 に準じて測定した。
[王研式平滑度] JIS P 8155に準じて測定した。
【0102】
2-3.名刺適性の評価
得られた用紙について、以下のように名刺に求められる品質を評価した。
【0103】
[手肉感]
名刺4号(55)mm×91mm)サイズのサンプル1枚の短辺の端部を指で保持し上下にゆっくり振ったときに、張りが不足してへたるものを「×」、張りがありへたらないものを「〇」として評価した。
[オフセット印刷適性]
ローランドオフセット枚葉印刷機で、インキとしてNEX NV-M藍、紅、黄、墨(東洋インキ(株)製)を用い、印刷速度8000枚/時間の条件で印刷テストチャートを紙の片面に印刷し、その際の印刷面感(インキ着肉、裏抜け)を目視で観察し、下記の基準で評価した。
〇:良好
△:やや良好
×:不良。
[インクジェット印刷適性]
インクジェットプリンタ(CANON社製、CX-G4400)を使用して印字した後、フェザリングの程度を目視で観察し、下記の基準で評価した。
〇:良好
△:やや良好
×:不良。
【0104】
【0105】
上記の結果から明らかなように、本発明によれば、優れた抗ウイルス機能、消臭機能、抗菌機能を有し、特に名刺用紙に好適な用紙を製造することができた。