(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035118
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】体液サンプリング容器
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/04 20060101AFI20230306BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20230306BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
C12Q1/04
C12M1/00 A
C12N1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141740
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】599035627
【氏名又は名称】学校法人加計学園
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】磯部 直樹
(72)【発明者】
【氏名】久枝 啓一
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029BB02
4B029CC01
4B029DF10
4B029GA02
4B029GB10
4B063QA01
4B063QA18
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4B063QX01
4B065AA01X
4B065AC20
4B065BB05
4B065BB08
4B065BB12
4B065BB13
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】被験体から採取した白血球含有体液中の細菌の種類を同定するために当該体液をサンプリングしても、当該体液中の細菌が死滅せずに、その種類を同定するのに十分数の細菌を培養できる体液サンプリング容器を提供する。
【解決手段】本発明の体液サンプリング容器は、被験体から採取した白血球含有体液に含まれる細菌の種類を同定するために、該体液をサンプリングするための容器であって、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体から採取した白血球含有体液に含まれる細菌の種類を同定するために、該体液をサンプリングするための容器であって、
殺菌性を有さない白血球機能阻害剤を含むことを特徴とする体液サンプリング容器。
【請求項2】
前記体液サンプリング容器は前記容器内に濾紙を含み、
前記濾紙は前記殺菌性を有さない白血球機能阻害剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の体液サンプリング容器。
【請求項3】
前記殺菌性を有さない白血球機能阻害剤は、コルヒチン又はEDTA(エチレンジアミン四酢酸)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の体液サンプリング容器。
【請求項4】
前記コルヒチンの含有量は、白血球含有体液の容量を基準として、0.1μg/mL~1μg/mLであることを特徴とする請求項3に記載の体液サンプリング容器。
【請求項5】
前記EDTAの含有量は、白血球含有体液の容量を基準として、0.2mg/mL~5mg/mLであることを特徴とする請求項3に記載の体液サンプリング容器。
【請求項6】
前記白血球含有体液は、唾液、乳、髄液、痰、及び尿からなる群から選択されることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の体液サンプリング容器。
【請求項7】
前記被験体は、ヒト、ウシ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ、及びニワトリからなる群から選択されることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の体液サンプリング容器。
【請求項8】
前記被験体はウシであり、前記白血球含有体液は、乳房炎を患ったウシから採取した牛乳であることを特徴とする請求項7に記載の体液サンプリング容器。
【請求項9】
前記被験体はヤギであり、前記白血球含有体液は、乳房炎を患ったヤギから採取した乳であることを特徴とする請求項7に記載の体液サンプリング容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体液をサンプリングするための容器に関し、特に被験体から採取した白血球含有体液をサンプリングするための容器に関する。
【背景技術】
【0002】
我々の生活において、牛乳若しくはヤギの乳、又はそれらを加工したバター、ヨーグルト、チーズなどの乳製品は日々欠かさず摂取するものであり、酪農業の発展は現在においても重要視されている。
【0003】
一方、酪農業は経済的負担が大きいことも知られている。例えば、ウシが細菌に感染して牛乳を出荷できない場合、あるいは感染症の悪化によりウシが死んでしまった場合における酪農家の経済的負担は大きく、酪農の経営が立ち行かなくなることもある。そのため、ウシやヤギなどの細菌感染に対する適切な処置は、酪農家にとって避けては通れない問題となっている。
【0004】
感染症としては、例えば乳房炎が知られている。乳房炎とは、細菌などの病原微生物がウシやヤギなどの乳房内に侵入し、細菌が増殖することによって起こる感染症の1つである。乳房炎を患ったウシから搾られた牛乳は低品質であることが多いため、市場に出荷することができず、収益を上げることが難しくなる。また、乳房炎は一度治ったとしても再発してしまうことがあり、その都度適切に処置する必要がある。そのため、乳房炎は酪農家を悩ませる大きな問題として知られている。
【0005】
乳房炎を患ったウシの処置方法として、例えば、牛乳に含まれている細菌を培養して細菌の種類を同定し、その種類に応じた抗菌作用を有する薬剤をウシに投与する方法が通常行われている。しかし、単に牛乳をサンプリング容器に採取した後に牛乳中の細菌を培養する従来の方法では細菌を同定できないことがあり、細菌の種類が分からないままに薬剤を投与するケースもあった。ゆえに、処置を行っているにもかかわらずウシの症状が改善せず、むしろ細菌に対して薬剤耐性をつけてしまうおそれもあった。このような事情に鑑みて、牛乳又はヤギの乳に含まれている細菌の種類をより確実に同定する方法の開発が強く望まれており、鋭意研究されている。
【0006】
例えば、非特許文献1では、潜在性乳房炎のウシから採取した牛乳の保存の際における生存可能な病原菌数の変化、並びに保存中の生存可能な細菌の減少比率と体細胞数の関連性、及び保存中の生存可能な細菌の減少比率と、抗菌ペプチドの値、ラクトフェリンの値、及びラクトペルオキシダーゼの値との関連性が開示されている。非特許文献1では、牛乳中の病原菌の生菌数は、採取後に室温で保存している間に減少することが示唆されており、この減少作用は牛乳中に存在する白血球又は抗菌成分に起因するものであると推察されている。
【0007】
また、非特許文献2では、潜在性乳房炎のウシから採取した牛乳の保存の際における生存可能な病原菌数を減少させる要因についての更なる調査が開示されている。非特許文献2では、体細胞数の多い牛乳に含まれるほとんどの病原菌は、牛乳に含まれる細胞成分(白血球を含む)と抗菌成分の両方によって、15~25℃での保存中に減少することが示唆されており、とりわけ細胞成分が細菌数を大きく減少させたことが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Hisaeda K, Koshiishi T, Watanabe M,Miyake H, Yoshimura Y, Isobe N (2016) Change in viable bacterial count during preservation of milk derived from dairy cows with subclinical mastitis and its relationship with antimicrobial components in milk. The Journal of Veterinary Medical Science 78(8):1245-1250.
【非特許文献2】Koshiishi T, Watanabe M, Miyake H, Hisaeda K, Isobe N (2017) Cellular and soluble components decrease the viable pathogen counts in milk from dairy cows with subclinical mastitis. The Journal of Veterinary Medical Science 79(8):1389-1393.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
細菌に感染したウシなどに対して適切な治療を施すため、細菌の種類をより確実に同定することが酪農業の観点から強く望まれている。
【0010】
一方、非特許文献1、2に開示されているように、牛乳に含まれる白血球の抗菌作用により、牛乳に含まれる細菌数は時間経過に伴って減少することが知られている。そのため、単に牛乳をサンプリング容器に採取した後に牛乳中の細菌を培養したとしても、牛乳の採取直後から培養開始までの間で細菌が死滅しており、細菌を培養することができず、細菌の種類を同定できない問題があった。
【0011】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、被験体から採取した白血球含有体液中の細菌の種類を同定するために当該体液をサンプリングしても、当該体液中の細菌が死滅せずに、その種類を同定するのに十分数の細菌を培養できる体液サンプリング容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究の結果、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤を、被験体から採取した白血球含有体液に加えることにより、白血球と細菌が共存していても細菌が死滅せず、白血球含有体液に含まれる細菌を、その種類を同定するのに十分数培養できることを見出して本発明を完成した。
【0013】
具体的に、本発明に係る体液サンプリング容器は、被験体から採取した白血球含有体液に含まれる細菌の種類を同定するために、該体液をサンプリングするための容器であって、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る体液サンプリング容器によると、細菌に感染した被験体から白血球含有体液を当該容器に採取及び保存しても、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤を含むため、容器内において細菌が死滅せず、その種類を同定するのに十分数の細菌を培養することができる。すなわち、この体液サンプリング容器は、従来のサンプリング容器にて白血球含有体液中の細菌を培養したときと比較して、白血球の抗菌作用を抑制することができ、白血球機能阻害剤自体が細菌を死滅させるおそれもないため、白血球含有体液に含まれる細菌をより確実に培養でき、細菌の種類の同定をより確実に行うことができる。このため、同定した細菌の種類を考慮したうえで、被験体に対して適切な治療を施すことができる。また、あらかじめ、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤を含む容器とすることで持ち運びが簡単となり、被験体から採取した白血球含有体液を即座に保存することができる。
【0015】
本発明に係る体液サンプリング容器において、前記体液サンプリング容器は前記容器内に濾紙を含み、前記濾紙は前記殺菌性を有さない白血球機能阻害剤を含むものとすることができる。
【0016】
本発明に係る体液サンプリング容器によると、被験体から白血球含有体液を当該容器に採取した後において、当該容器内で濾紙の存在を視認できる場合に殺菌性を有さない白血球機能阻害剤が容器外に飛散していないと判断することができる。これにより、被験体から白血球含有体液を直接且つ勢いよく当該容器に採取した場合においても、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤が容器外に飛散しているか否かを該体液採取後の段階において的確に判断することができる。そのため、濾紙を使用しない態様の体液サンプリング容器と比較して、白血球含有体液に含まれる細菌をより確実に培養でき、細菌の種類の同定をより確実に行うことができる。また、この体液サンプリング容器は、白血球含有体液が色を有する場合においても、上記判断を的確に行うことができる。
【0017】
本発明に係る体液サンプリング容器において、前記殺菌性を有さない白血球機能阻害剤は、コルヒチン又はEDTA(エチレンジアミン四酢酸)とすることができる。
【0018】
この場合、前記コルヒチンの含有量は、白血球含有体液の容量を基準として、0.1μg/mL~1μg/mLとすることができ、前記EDTAの含有量は、白血球含有体液の容量を基準として、0.2mg/mL~5mg/mLとすることができる。
【0019】
本発明に係る体液サンプリング容器において、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤としてコルヒチン又はEDTA(エチレンジアミン四酢酸)を使用することで、白血球の抗菌作用を抑制することができ、これらの薬剤自体が細菌を死滅させるおそれもないため、細菌をその種類の同定のために十分数培養可能な体液サンプリング容器とすることができる。
【0020】
本発明に係る体液サンプリング容器において、前記白血球含有体液は、唾液、乳、髄液、痰、及び尿からなる群から選択できる。
【0021】
本発明に係る体液サンプリング容器において、前記被験体は、ヒト、ウシ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ、及びニワトリからなる群から選択できる。
【0022】
本発明に係る体液サンプリング容器において、前記被験体はウシであり、前記白血球含有体液は、乳房炎を患ったウシから採取した牛乳であることを特徴とする。
【0023】
本発明に係る体液サンプリング容器によると、乳房炎を患ったウシから採取した牛乳を採取及び保存しても、容器内において細菌が死滅せず、その種類を同定するのに十分数の細菌を培養することができるため、牛乳に含まれる細菌の種類を同定することができる。これにより、乳房炎の原因となった細菌を同定でき、ウシに対して適切な治療を施すことができる。
【0024】
本発明に係る体液サンプリング容器において、前記被験体はヤギであり、前記白血球含有体液は、乳房炎を患ったヤギから採取した乳であることを特徴とする。
【0025】
本発明に係る体液サンプリング容器によると、乳房炎を患ったヤギから採取した乳を採取及び保存しても、容器内において細菌が死滅せず、その種類を同定するのに十分数の細菌を培養することができるため、ヤギの乳に含まれる細菌の種類を同定することができる。これにより、乳房炎の原因となった細菌を同定でき、ヤギに対して適切な治療を施すことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る体液サンプリング容器によると、被験体から採取した白血球含有体液に含まれる細菌の種類を同定するのに十分数培養することができる。具体的に、この体液サンプリング容器によると、従来のサンプリング容器にて白血球含有体液中の細菌を培養したときと比較して、白血球の抗菌作用を抑制することができ、白血球機能阻害剤自体が細菌を死滅させるおそれもないため、白血球含有体液に含まれる細菌をその種類を同定するのに十分数培養でき、細菌の種類の同定をより確実に行うことができる。このため、同定した細菌の種類を考慮したうえで、被験体に対して適切な治療を施すことができる。また、あらかじめ、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤を含む容器とすることで持ち運びが簡単となり、被験体から採取した白血球含有体液を即座に保存することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本実施形態に係る体液サンプリング容器の正面図である。
【
図2】本実施形態に係る濾紙を備える体液サンプリング容器の正面図である。
【
図3】本実施形態に係る濾紙を備える体液サンプリング容器の使用の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用方法或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0029】
本実施形態に係る体液サンプリング容器(1、10)について、以下説明する。
【0030】
本発明の一実施形態は、被験体から採取した白血球含有体液(5)に含まれる細菌の種類を同定するために、該体液をサンプリングするための容器(2)であって、該容器が殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)を含む、体液サンプリング容器(1、10)である。
【0031】
図1に示すように、本実施形態に係る体液サンプリング容器(1)は、例えば、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)を内部にコーティングした容器(2)とすることができる。
【0032】
本実施形態において、容器(2)は、例えばガラス試験管若しくはバイアル瓶などのガラス容器又はポリスチレンチューブ若しくはポリプロピレンチューブなどの樹脂容器などを用いることができる。本実施形態において、図示しないが、これらの容器(2)は、容器(2)の端部における口の形状に適合する蓋と組み合わせて使用することが好ましい。蓋は容器(2)の口を塞ぐことができるため、容器(2)内の白血球含有体液(5)などが容器(2)外に飛散することを防ぐことができる。しかし、容器(2)はこれらに限定されず、容器として使用できるものは全て含む。
【0033】
本実施形態において、被験体は特に限定されないため動物であれば全て含むが、哺乳類と鳥類は白血球を有しているためこれらの動物であることが好ましい。被験体は、例えば、ヒト、ウシ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ、及びニワトリなどを含む。また、被験体は、健康な被験体のみでなく病気を患った被験体を含む。病気は細菌感染症であることが好ましい。細菌感染症を患った被験体から白血球含有体液(5)を本実施形態に係る体液サンプリング容器(1、10)に採取した後に白血球含有体液(5)中の細菌を培養することで感染症の原因となった細菌の種類を同定でき、被験体に適切な治療を施すことができる。感染症の原因となった細菌は1種類に限定されず、2種類以上であってもよい。
【0034】
本明細書において、白血球含有体液(5)とは、被験体から採取できる体液であって、白血球が含まれている体液を指す。白血球含有体液(5)は、例えば、被験体の唾液、乳、髄液、痰、又は尿などを用いることができる。白血球は、被験体に含まれている白血球を通常指すが、外部から混入した白血球(すなわち、被験体に由来しない白血球)であってもよい。すなわち、本実施形態では、被験体に含まれている白血球及び外部から混入した白血球の少なくとも一方を含有する白血球含有体液(5)を使用することができる。
【0035】
本実施形態において、被験体は細菌感染症を患ったウシであり、白血球含有体液(5)は牛乳であることが好ましい。本実施形態に係る体液サンプリング容器(1、10)に牛乳を採取して保存した後に該牛乳中の細菌を培養し、感染症の原因となった細菌の種類を同定することができる。細菌感染症は、例えば、乳房炎、呼吸器病症候群、牛大腸菌症などの細菌感染症を含むが、これらに限定されず、ウシの細菌感染症として知られているものであれば全て含む。
【0036】
本実施形態において、被験体は細菌感染症を患ったヤギであり、白血球含有体液(5)はヤギの乳であることが好ましい。本実施形態に係る体液サンプリング容器(1、10)にヤギの乳を採取して保存した後にヤギの乳中の細菌を培養し、感染症の原因となった細菌の種類を同定することができる。細菌感染症は、例えば、乳房炎などの細菌感染症を含むが、これに限定されず、ヤギの細菌感染症として知られているものであれば全て含む。
【0037】
本明細書において、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)とは、細菌を死滅させることなく白血球の抗菌作用を抑制する薬剤のことを指す。本実施形態において、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)は、例えば、コルヒチン又はEDTA(エチレンジアミン四酢酸)などを用いることができる。コルヒチン及びEDTAは、白血球の抗菌作用を抑制することができ、これらの薬剤自体が細菌を死滅させるおそれもないため、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)として好ましい。しかし、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)はこれらの薬剤に限定されず、細菌を死滅させることなく白血球の抗菌作用を抑制する薬剤として当業者に知られているものであれば全て含む。
【0038】
本実施形態に係る体液サンプリング容器(1、10)において、コルヒチンの含有量は、白血球含有体液(5)の容量を基準として、0.02μg/mL~2.5μg/mLの範囲内で選択することができ、好ましくは0.1μg/mL~2.5μg/mLの範囲内で選択することができる。コルヒチンの含有量が0.02μg/mL未満では白血球の抗菌作用を抑制することができず、白血球含有体液(5)中の細菌が死滅するおそれがある。また、コルヒチンの含有量は0.1μg/mL以上とすることが好ましい。白血球の抗菌作用を十分に抑制できるため好適である。一方、コルヒチン含有量の上限値に特に定めはないが、コルヒチンの含有量が2.5μg/mLを超えた場合であっても白血球の抗菌作用を抑制する能力に大きな変化は生じないため、コルヒチン含有量の上限値を2.5μgmg/mLとして設定している。また、コルヒチンの含有量は、白血球含有体液(5)の容量を基準として、0.1μg/mL~1.0μg/mLであることがより好ましい。この場合、白血球の抗菌作用を十分に抑制できるため、本実施形態に係る体液サンプリング容器(1、10)内において白血球含有体液(5)中の細菌が死滅せず、その種類を同定するのに十分数の細菌を培養することができる。
【0039】
本実施形態に係る体液サンプリング容器(1、10)において、EDTAの含有量は、白血球含有体液(5)の容量を基準として、0.2mg/mL~5mg/mLの範囲内で選択することができる。EDTAの含有量が0.2mg/mL未満では白血球の抗菌作用を抑制することができず、白血球含有体液(5)中の細菌が死滅するおそれがある。一方、EDTA含有量の上限値に特に定めはないが、EDTAの含有量が5mg/mLを超えた場合であっても白血球の抗菌作用を抑制する能力に大きな変化は生じないため、EDTA含有量の上限値を5mg/mLとして設定している。また、EDTAの含有量は、白血球含有体液(5)の容量を基準として、0.2mg/mL~1mg/mLであることがより好ましい。この場合、白血球の抗菌作用を十分に抑制できるため、本実施形態に係る体液サンプリング容器(1、10)内において白血球含有体液(5)中の細菌が死滅せず、その種類を同定するのに十分数の細菌を培養することができる。
【0040】
本実施形態に係る体液サンプリング容器(1、10)は、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)以外の成分として添加剤を任意に含むものであってもよい。
【0041】
図2に示すように、本実施形態に係る体液サンプリング容器(10)は、例えば殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)を添加させた濾紙(4)を備える容器(2)とすることもできる。
【0042】
本実施形態において、容器(2)、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)、及び添加剤などは上述したものと同様のものを用いることができる。また、被験体及び白血球含有体液(5)についても上述したものと同様のものを用いることができる。
【0043】
本実施形態では、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)をあらかじめ濾紙(4)に添加しておき、体液サンプリング容器(10)としている。このような体液サンプリング容器(10)は、被験体から白血球含有体液(5)を当該容器に採取した後において、容器(2)内で濾紙(4)の存在を視認できる場合に殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)が容器(2)外に飛散していないと判断することができる。
【0044】
酪農現場では、ウシなどから乳汁を体液サンプリング容器に直接搾乳することが好ましいとされている。しかし、この搾乳の勢いがかなり強いため、乳汁が体液サンプリング容器(1)に勢いよく入ったときに当該容器内の殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)のコーティングがはがれ、容器(2)外に飛散してしまう問題がある。また、乳汁は白色のものが多いことから、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)が容器(2)外に飛散していたとしても、採取者はそのことに気付けないこともある。一方、上述の通り、本実施形態に係る体液サンプリング容器(10)では、白血球含有体液(5)採取後において容器(2)内に濾紙(4)が存在するかしないかを確認するだけで、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)が容器(2)外に飛散しているか否かを的確に判断することができる。また、本実施形態に係る体液サンプリング容器(10)は、白血球含有体液(5)が色を有する場合においても、上記判断を的確に行うことができるため好適である。このため、本実施形態に係る体液サンプリング容器(10)は、例えばウシの乳頭から牛乳を直接採取して保存する場合にも使用しやすく好適である。
【0045】
本実施形態において、濾紙(4)は、その直径が容器(2)の内径と同一であり、容器の内部形状と同一の形状のものを使用することが好ましい。このような濾紙(4)は容器(2)内の任意の位置で固定することができ、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)を濾紙(4)に添加しやすくなる。濾紙(4)は、市場に流通している濾紙であれば全て使用することができる。
【0046】
本実施形態に係る体液サンプリング容器(1、10)の作製方法について、以下説明する。
【0047】
図1に示すような、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)を容器(2)内にコーティングした体液サンプリング容器(1)は、例えば以下の手順により作製することができる。まず初めに、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)をエタノールに溶解させた溶液を調製する。続いて、調製した溶液を容器(2)内に適量移し、自然乾燥することでコーティングする。さらに、この容器(2)をクリーンベンチの中に入れて紫外線ランプを10分間照射し、滅菌する。図示しないが、最後に滅菌した容器(2)の口を蓋で塞ぎ、体液サンプリング容器(1)を作製することができる。
【0048】
このような体液サンプリング容器(1)では、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)が容器(2)内に張り付いているため、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)が容器(2)内で又は容器(2)外に飛散するのを抑えることができ、持ち運びがしやすい。
【0049】
上記の作製方法では、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)を溶解させる溶媒としてエタノールを用いている。本実施形態においてエタノールは溶媒として好適であり、水を使用する場合と比較して殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)を溶解させやすく、容器(2)内に移した後の乾燥も早いため利便性に優れる。しかし、溶媒はエタノールに限定されず、溶媒として使用できるものであれば全て含む。
【0050】
本実施形態において、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)をコーティングした後の容器(2)を紫外線の照射などによって滅菌することが好ましい。これにより、容器(2)に存在する雑菌を滅菌することができ、使用の際に雑菌が増殖することを防ぐことができる。また、容器(2)を滅菌する方法は紫外線の照射に限定されない。
【0051】
図2に示すような、濾紙(4)を備える体液サンプリング容器(10)は、例えば以下の手順により作製することができる。なお、容器(2)として試験管を使用し、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)としてコルヒチンを使用し、容器(2)中のコルヒチン量を10μgとする場合を説明する。初めに、試験管の中に濾紙(4)を入れる。続いて、コルヒチン1mgを測り取り、試験管とは別の容器に入れ、さらに10mLのエタノールを加えてよく攪拌することで100μg/mLのコルヒチン溶液を調製する。この調製した100μg/mLのコルヒチン溶液から100μLを試験管中の濾紙(4)に移し、自然乾燥させることでコルヒチン10μgを濾紙(4)に添加させたことになる。さらに、この試験管をクリーンベンチの中に入れて紫外線ランプを10分間照射し、滅菌する。図示しないが、最後に滅菌した試験管の口を蓋で塞ぎ、体液サンプリング容器(10)を作製することができる。
【0052】
上記の作製方法は、とりわけ少量の殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)を容器(2)内に添加する場合に好適である。コルヒチンを例として説明すると、例えばコルヒチン10μgを薬匙で正確に測り取って試験管内に移すことは、コルヒチンが少量すぎるために実質的にほぼ不可能である。一方、上述したように、初めにコルヒチンを含む溶液を別途調製しておき、この溶液の適量を濾紙(4)に移し、自然乾燥させることでコルヒチン10μgという少量のコルヒチンであってもほぼ正確に添加することができるため、好適である。
【0053】
上記の作製方法では、コルヒチンを溶解させる溶媒としてエタノールを用いており、上述した理由により好適であるが、コルヒチンを溶解させる溶媒はエタノールに限定されない。
【0054】
本実施形態において、コルヒチンを濾紙(4)に添加した後の試験管内を紫外線の照射などによって滅菌することが好ましい。これにより、試験管内に存在する雑菌を滅菌することができ、使用の際に雑菌が増殖することを防ぐことができる。また、容器(2)を滅菌する方法は紫外線の照射に限定されない。
【0055】
上記の作製方法では、10μgのコルヒチンを濾紙(4)に添加する場合を説明したが、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)の添加量に応じて、溶液濃度などの条件を適宜変更して使用できる。また、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)としてEDTAを使用する場合においても、上記の作製方法を用いることができる。
【0056】
本実施形態に係る体液サンプリング容器(1、10)の使用の一例について、以下説明する。
【0057】
本実施形態に係る体液サンプリング容器(1、10)は、例えば、被験体が細菌感染症を患った場合において、被験体から採取した白血球含有体液(5)中の細菌の種類を同定するために用いることができる。
【0058】
本実施形態において、白血球含有体液(5)中の細菌の種類を同定するために、例えば以下の手順(a)~(c)により行うことができる。(a)被験体の白血球含有体液(5)を本実施形態に係る体液サンプリング容器(1、10)に採取し、保存する。(b)体液サンプリング容器(1、10)中の該体液を適切な条件で培養する。(c)染色試験及び生化学的性状試験を実施し、細菌の形態、染色試験結果、及び生化学的性状試験結果に基づいて細菌の種類を同定する。
【0059】
以下、濾紙(4)を備える体液サンプリング容器(10)を使用する場合を説明する。
図3に示すように、本実施形態において、手順(a)では、被験体から体液サンプリング容器(10)内に白血球含有体液(5)を採取し、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)を含む濾紙(4)を白血球含有体液(5)で浸漬させる。続いて、図示しないが、容器(2)の端部の口を蓋で塞ぎ、体液サンプリング容器(10)を少なくとも10秒間振ることで、濾紙(4)に含まれていた殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)を白血球含有体液(5)に十分に溶解させる。これにより、白血球含有体液(5)中の白血球の抗菌作用を抑制することができる。なお、濾紙(4)は体液サンプリング容器(10)内から取り出す必要はなく、白血球含有体液(5)をそのまま保存することができる。
【0060】
手順(a)では、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)が十分に溶解したことを確認した段階ですぐさま手順(b)に移ってもよいし、又は白血球含有体液(5)を体液サンプリング容器(10)中で数時間又は数日間にわたって保存してから手順(b)に移ってもよい。
【0061】
手順(a)において、白血球含有体液(5)を採取する方法としては、被験体から体液サンプリング容器(10)内に白血球含有体液(5)を直接採取してもよいし、白血球含有体液(5)を一度別の容器に入れてからピペット等を用いて体液サンプリング容器(10)内に移してもよい。
【0062】
手順(a)において、体液サンプリング容器(10)内で白血球含有体液(5)を保存する時間は10秒以上あればよく、特に限定されない。上述したように、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)を白血球含有体液(5)に十分に溶解させるために体液サンプリング容器(10)を少なくとも10秒間振るため、これをもって10秒間の保存時間としてもよい。一方、白血球含有体液(5)に含まれている白血球の抗菌作用を十分に抑制することを目的として、白血球含有体液(5)を体液サンプリング容器(10)に採取してから30分~100時間の範囲内で該体液を保存してもよい。白血球含有体液(5)を体液サンプリング容器(10)に採取した後、該体液を数日以上にわたって保存しても細菌が死滅することはないため、保存時間の上限値は特に制限されない。
【0063】
手順(b)では、例えば体液サンプリング容器(10)中で保存した白血球含有体液(5)を寒天培地上に播種し、該体液中の細菌を培養する。培養条件としては、通常、温度37℃で24時間培養することで、細菌の種類を同定するのに十分数の細菌を培養することができる。しかし、培養条件は適宜変更することができる。
【0064】
手順(c)では、染色試験及び生化学的性状試験を実施し、細菌の形態、染色試験結果、及び生化学的性状試験結果に基づいて細菌の種類を同定する。手順(c)において、染色試験は、例えばグラム染色、莢膜染色、抗酸菌染色、異染小体染色、鍍銀染色、ヒメネス染色、墨汁染色、及びKOH染色などを含む。また、生化学的性状試験は、例えば糖分解試験、呼吸機能に関する試験、アミノ酸分析試験、酵素及び毒素産生確認試験、細胞表層の構造及び機能に関する試験、及び色素産生試験などを含む。これらの染色試験及び生化学的性状試験並びに細菌の形態の分析結果に基づいて、被験体の白血球含有体液(5)に含まれる細菌の種類を同定することができる。しかし、染色試験及び生化学的性状試験はこれらに限定されない。また、細菌の種類を同定する方法として当業者に知られているものであれば全て使用できる。
【0065】
本実施形態において同定できる細菌の種類は、例えばEnterobacter sp、Streptococcus uberis、Corynebacterium epidermidicanis、Mannheimia varigena、Escherichia coli、Enterococcus faecium、Klabsiella pneumoniae、Enterococcus saccharolyticus、Corynebacterium amycolatum、Enterococcus faecalis、Stenotrophomonas maltophilia、Proteus vulgaris/penneri、Staphylococcus simulans、Streptococcus sp.、Staphylococcus haemolyticus、Streptococcus agalactiae ssp dygalactiae、Staphylococcus chromogenes、及びStreptococcus dysgalactiaeなどを含む。しかし、本実施形態において同定できる細菌の種類はこれらの菌に限定されない。
【0066】
本発明の他の一実施形態は、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)を含む体液サンプリング容器(1、10)を含むキットである(図示せず)。
【0067】
本実施形態に係るキットは、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)を含む体液サンプリング容器(1、10)を少なくとも含む。また、キットは、ピペット、培養器具、染色試験器具、生化学的性状試験器具などの器具を任意に含む。しかし、これらの器具に限定されず、細菌を同定するために必要な器具として当業者に知られているものであれば全て含む。
【0068】
本実施形態に係るキットでは、上述したような、体液サンプリング容器(1、10)を用いることができる。したがって、本実施形態では、例えば容器(2)、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)、濾紙(4)、及び添加剤などは上記実施形態に係る体液サンプリング容器(1、10)と同様のものを用いることができる。また、被験体及び白血球含有体液(5)についても上記実施形態に係る体液サンプリング容器(1、10)と同様のものを用いることができる。
【0069】
本実施形態に係るキットによると、細菌に感染した被験体から白血球含有体液(5)を体液サンプリング容器(1、10)に採取し及び保存しても、殺菌性を有さない白血球機能阻害剤(3)を含むため、該容器内において細菌が死滅せず、その種類を同定するのに十分数の細菌を培養することができる。また、キットは、細菌の種類を同定するために必要な道具が揃っているため、酪農家がウシ又はヤギの感染症の原因となった細菌を個人で調査することができ、ウシ又はヤギに対して適切な治療を迅速に施すことができる。
【実施例0070】
以下に、本発明に係る体液サンプリング容器について詳細に説明するための実施例を示す。
【0071】
実施例1(乳房炎を患ったウシから牛乳をコルヒチン含有体液サンプリング容器又はコルヒチン無添加の体液サンプリング容器に採取し、牛乳中の細菌を培養したときの細菌の種類の同定と生菌数調査)
初めに、コルヒチン1μg及び10μgを含有する濾紙を備える試験管を作製した。2本の試験管の中に直径12.7mmの濾紙をそれぞれ入れ、コルヒチン1mgを測り取って試験管とは別の容器に入れ、さらに10mLのエタノールを加えてよく攪拌することで100μg/mLのコルヒチン溶液を調製した。このようにして調製した100μg/mLのコルヒチン溶液から10μL及び100μLをそれぞれの試験管中の濾紙に移し、自然乾燥させることでコルヒチン1μg及び10μgをそれぞれ濾紙に添加させた。続いて、2本の試験管をクリーンベンチの中に入れて紫外線ランプを10分間照射して滅菌し、試験管の口を蓋で塞ぐことで濾紙を備える試験管を作製した。次いで、乳房炎を患った28頭の乳牛の乳房から牛乳をそれぞれ採取した。採取した牛乳10mLを作製したコルヒチン1μg及び10μgを含有する濾紙を備える試験管にそれぞれ移し、牛乳の容量を基準として、コルヒチン0.1μg/mL及びコルヒチン1μg/mLとなるように調製した。これらの牛乳を試験管内で5時間保存した後に寒天培地上に播種し、24時間37℃で牛乳中の細菌を培養した。また、対照として、採取した牛乳をコルヒチン無添加の試験管に移し、作成直後(0時間保存)又は5時間保存したものを寒天培地上に播種し、24時間37℃で牛乳中の細菌を培養した。細菌を培養した後、細菌が形成したコロニー数をカウントして生菌数を算出した。また、培養した細菌に対して染色試験及び生化学的性状試験を実施し、細菌の形態、染色試験結果、及び生化学的性状試験結果に基づいて細菌の種類をそれぞれ同定した。牛乳サンプル1~28について、同定した細菌名と生菌数の結果を表1~3に示す。また、表2の牛乳サンプル23については、2種類の細菌が含まれており、それぞれの細菌の種類を同定した。
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
表1~3の結果から、コルヒチン無添加で5時間保存した後に牛乳中の細菌を培養したときの生菌数は、採取した牛乳をすぐに培養したときの生菌数よりも値が低くなることが分かった。これは、牛乳中に含まれる白血球の抗菌作用により細菌を死滅させているためと考えられる。特に、牛乳サンプル7、8、11~13、22をコルヒチン無添加で5時間保存した後に牛乳中の細菌を培養したものは、細菌が完全に死滅してしまい、細菌の種類を同定することはできなかった。
【0076】
表1~3の結果から、コルヒチン0.1μg/mL又は1.0μg/mLを添加した牛乳を5時間保存した後に牛乳中の細菌を培養したときの生菌数は、コルヒチン無添加で5時間保存した後に牛乳中の細菌を培養したときの生菌数よりも値が大きくなる傾向にあることが分かった。これは、コルヒチンが牛乳中に含まれる細菌を死滅させることなく、白血球の抗菌作用を抑制しているためと考えられる。上記実験にて細菌の種類を同定できなかった牛乳サンプル7、8、11~13、22についても、コルヒチンを添加して5時間保存した後に牛乳中の細菌を培養した条件においては細菌を培養することができ、これらのサンプルについても細菌の種類を同定することができた。
【0077】
表1~3の結果から、本実施例に係る体液サンプリング容器は、コルヒチンが牛乳に含まれている白血球の抗菌作用を抑制し、細菌の種類を同定するのに十分数の細菌を培養することができ、より確実に細菌の種類を同定できることが分かった。
【0078】
実施例2(EDTA添加又はEDTA無添加のヤギの乳中の細菌の生菌数調査)
ヤギの乳房内にリポ多糖(1μg/5mL生理食塩水)を注入した。注入した翌日にヤギから採取したヤギの乳を5,000gで15分間遠心分離した。沈殿した白血球の含有量が約2,000,000~5,000,000cell/mLとなるようにヤギの乳で調整し、続いて細菌(Klebsiella pneumoniae)の含有量が2,000個/mL及びEDTAの含有量が0.2mg/mL又は5mg/mLとなるように細菌及びEDTAをそれぞれ添加し、ヤギの乳を3時間保存した。その後、ヤギの乳を寒天培地上に播種し、24時間37℃でヤギの乳中の細菌をそれぞれ培養した。なお、EDTAは、実施例1のコルヒチンを濾紙に添加する場合と同様に、濾紙に添加したものを使用している。また、対照としてEDTA無添加のヤギの乳を作成し、作成直後(0時間保存)又は3時間保存したものを寒天培地上に播種し、24時間37℃でヤギの乳中の細菌をそれぞれ培養した。細菌を培養した後、細菌が形成したコロニー数をカウントして生菌数を算出した。ヤギの乳サンプル1、2について、生菌数の結果を表4に示す。なお、細菌は事前に種類が特定されているものを添加していることから細菌の種類の同定は行っていない。また、ヤギへのリポ多糖の注入は、ヤギの体内に含まれる白血球の数を多くするために行った操作である。
【0079】
【0080】
表4の結果から、EDTA無添加で3時間保存した後にヤギの乳中の細菌を培養したときの生菌数はともに0となり、採取直後のヤギの乳中の細菌を培養したときの生菌数よりも値が低くなることが分かった。これは、ヤギの乳に含まれる白血球の抗菌作用により細菌(Klebsiella pneumoniae)を死滅させているためと考えられる。
【0081】
一方、EDTA0.2mg/mL又は5.0mg/mLを添加したヤギの乳を3時間保存した後にヤギの乳中の細菌を培養したときの生菌数は、コルヒチン無添加で3時間保存した後にヤギの乳中の細菌を培養したときの生菌数よりも値が大きくなることが分かった。これは、EDTAがヤギの乳中に含まれる細菌を死滅させることなく、白血球の抗菌作用を抑制しているためと考えられる。
【0082】
表4の結果から、EDTAを添加したヤギの乳についても、白血球の抗菌作用を抑制し、ヤギの乳に含まれる細菌(Klebsiella pneumoniae)を十分数培養できることが分かった。
【0083】
実施例3(コルヒチン添加又はコルヒチン無添加のウシの尿中の生菌数調査)
ヤギの乳房内にリポ多糖(1μg/5mL生理食塩水)を注入した。注入した翌日にヤギから採取したヤギの乳を5,000gで15分間遠心分離した。沈殿した白血球の含有量が約2,000,000~5,000,000cell/mLとなるようにウシの尿で調整し、続いて細菌(E. coli)の含有量が2,000個/mL並びにコルヒチンの含有量が0.02μg/mL、0.1μg/mL、0.5μg/mL、及び2.5μg/mLとなるように細菌(E. coli)、コルヒチン、及びウシの尿を添加し、ウシの尿サンプルを作成した。なお、コルヒチンは、実施例1の場合と同様に、濾紙に添加したものを使用している。各ウシの尿サンプルを3時間保存した後、尿サンプルを寒天培地上に播種し、24時間37℃でウシの尿中の細菌をそれぞれ培養した。また、対照としてコルヒチン無添加のウシの尿サンプルを作成し、作成直後(0時間保存)又は3時間保存したものを寒天培地上に播種し、24時間37℃でウシの尿中の細菌をそれぞれ培養した。細菌を培養した後、細菌が形成したコロニー数をカウントして生菌数を算出した。ウシの尿サンプル1~3について、生菌数の結果を表5に示す。なお、細菌は事前に種類が特定されているものを添加していることから細菌の種類の同定は行っていない。また、ヤギへのリポ多糖の注入は、ヤギの体内に含まれる白血球の数を多くするために行った操作である。
【0084】
【0085】
表5の結果から、コルヒチン無添加で3時間保存した後にウシの尿中の細菌を培養したときの生菌数は、採取直後のウシの尿中の細菌を培養したときの生菌数よりも値が低くなる傾向があることが分かった。これは、ウシの尿に含まれる白血球の抗菌作用により細菌(E. coli)を死滅させているためと考えられる。
【0086】
一方、コルヒチン0.02μg/mL、0.1μg/mL、0.5μg/mL、及び2.5μg/mLを添加したウシの尿サンプルを3時間保存した後にウシの尿中の細菌を培養したときの生菌数は、コルヒチン無添加で3時間保存した後にウシの尿中の細菌を培養したときの生菌数よりも値が大きくなる傾向にあることが分かった。これは、コルヒチンがウシの尿中に含まれる細菌(E. coli)を死滅させることなく、白血球の抗菌作用を抑制しているためと考えられる。
【0087】
表5の結果から、コルヒチンを添加したウシの尿についても、白血球の抗菌作用を抑制し、ウシの尿に含まれる細菌(E. coli)を十分数培養できることが分かった。
【0088】
実施例1~3の結果から、本実施例に係る体液サンプリング容器は、ウシから採取した牛乳、ヤギから採取したヤギの乳、及びウシの尿のいずれにおいても、白血球の抗菌作用を抑制することができ、各白血球含有体液に含まれている細菌の種類を同定するのに十分数の細菌を培養できることが分かった。従って、本実施例に係る体液サンプリング容器は、被験体及び白血球含有体液の種類により限定されるものではなく、細菌の種類を同定するために幅広く用いることができることが分かった。