(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035363
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】成形用樹脂材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 1/02 20060101AFI20230306BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230306BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20230306BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20230306BHJP
C08L 23/04 20060101ALI20230306BHJP
C08L 23/20 20060101ALI20230306BHJP
C08L 23/16 20060101ALI20230306BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
C08L1/02
C08L101/00
C08L23/00
C08L23/26
C08L23/04
C08L23/20
C08L23/16
C08L53/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142153
(22)【出願日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100164161
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 彩
(72)【発明者】
【氏名】小野 裕司
(72)【発明者】
【氏名】松本 圭
(72)【発明者】
【氏名】石野 陽一
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA01X
4J002AB01W
4J002BB00X
4J002BB02X
4J002BB053
4J002BB153
4J002BB214
4J002BP013
4J002GC00
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】 本発明の課題は、粉末状セルロースと熱可塑性樹脂とが均一に混合され、射出成形時に切断や割れ等が生じない粘りが高く、成形しやすい成形用樹脂材料を提供することである。
【解決手段】 平均粒径が100μm以下である粉末状セルロースを40~90質量%含有し、さらに熱可塑性樹脂、及び熱可塑性エラストマー(好ましくはスチレン・ブタジエン系ブロック共重合体、エチレン・オクテン系共重合体、プロピレン・エチレン系共重合体)を含有する成形用樹脂材料とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が100μm以下である粉末状セルロースを40~90質量%含有し、さらに熱可塑性樹脂、及び熱可塑性エラストマーを含有する成形用樹脂材料。
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマーがスチレン・ブタジエン系ブロック共重合体、エチレン・オクテン系共重合体、プロピレン・エチレン系共重合体のいずれかである、請求項1に記載の成形用樹脂材料。
【請求項3】
前記粉末状セルロース、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーの配合比が40~90:59~10:1~20である、請求項1または2に記載の成形用樹脂材料。
【請求項4】
相溶化剤として、無水マレイン酸変性ポリプロピレンを0.1~15質量%含有する、請求項1~3のいずれかに記載の成型用樹脂材料。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂を含む、請求項1~4のいずれかに記載の成形用樹脂材料。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂がポリエチレン系樹脂を含む、請求項1~5のいずれかに記載の成形用樹脂材料。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂が生分解性樹脂を含む、請求項1~6のいずれかに記載の成形用樹脂材料。
【請求項8】
粉末状セルロースと、熱可塑性樹脂と、熱可塑性エラストマーとを加熱混錬する工程を含む、成型用樹脂材料の製造方法。
【請求項9】
前記加熱混錬工程において、二軸混錬押出機で処理した成型用材料を連続的に製造する、請求項8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末状セルロース、ポリプロピレンやポリエチレン、ポリ乳酸等に代表される熱可塑性樹脂、及び熱可塑性エラストマーとを含有する成形用樹脂材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業資源としてのバイオマス材が注目されている。バイオマス材とは、植物などの生物を由来とした材料を意味する。バイオマス材は有機物であるため、燃焼させると二酸化炭素が排出される。しかしこれに含まれる炭素は、そのバイオマスが成長過程で光合成により大気中から吸収した二酸化炭素に由来するため、バイオマス材を使用しても全体として見れば大気中の二酸化炭素量を増加させていないと考えてよいとされる。この性質をカーボンニュートラルと呼ぶ。
【0003】
地球温暖化問題等の地球環境問題を背景として、省資源化、及び廃棄物の原材料を目指すマテリアルリサイクル、そして、生分解性プラスチックに代表される環境循環サイクルの推進が急務となっており、我が国でも改正リサイクル法やグリーン購入法等が整備され、これに対応した製品のニーズも高まっている。
【0004】
こうした状況において、自動車部品の材料から日用品まで幅広く使用されている樹脂成型品にバイオマス材を配合することは、カーボンニュートラルの理念の実践を促進するところである。例えば、特許文献1にはカルボキシルメチル化セルロースナノファイバー、第1級アミノ基を有する高分子化合物、酸変性されたポリオレフィン、ポリオレフィンを含有する複合材料が記載されている。特許文献2には木材パルプとポリマーマトリックスを含むセルロース複合材料が記載されている。特許文献3には木粉とランダムポリプロピレン樹脂を混合し、射出成形機によって木粉含有樹脂射出成形品を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2014/087767号公報
【特許文献2】特表2019-512591号公報
【特許文献3】特開2010-138337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、単に「木質系バイオマス」と「ポリプロピレン」とを混合して加熱溶融して成形する場合には、木質系バイオマスが親水性であるためにポリプロピレンとが均一に混合できない、木質系バイオマスとポリプロピレンとの混合物を射出する装置出口で樹脂体が細かく切れてしまう、得られる成形物品の表面が滑らかでない、などの問題があった。
【0007】
例えば、特許文献1ではカルボキシルメチル化セルロースナノファイバーを使用すると記載されているが、セルロースをカルボキシメチル化し、さらにポリオレフィン樹脂と均一分散性を高めるために、第1級アミノ基を有する高分子化合物、酸変性されたポリオレフィンを添加する必要があり、コストアップとなる。
【0008】
そこで、本発明の課題は、木質系バイオマスを混合した成形用樹脂材料において、木質系バイオマスと熱可塑性樹脂とが均一に混合されており、射出時などの成形時の切断や割れが少ない成形用樹脂材料を低コストで提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、粉末状セルロース、ポリプロピレンやポリエチレン、ポリ乳酸等の熱可塑性樹脂、さらに熱可塑性エラストマーと混合して加熱混練することで、成形性に優れた成形用樹脂材料が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明としては、以下に限定されないが、次のものが挙げられる。
(1) 平均粒径が100μm以下である粉末状セルロースを40~90質量%含有し、さらに熱可塑性樹脂、及び熱可塑性エラストマーを含有する成形用樹脂材料。
(2) 前記熱可塑性エラストマーがスチレン・ブタジエン系ブロック共重合体、エチレン・オクテン系共重合体、プロピレン・エチレン系共重合体のいずれかである、(1)に記載の成形用樹脂材料。
(3) 前記粉末状セルロース、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーの配合比が40~90:59~10:1~20である、(1)または(2)に記載の成形用樹脂材料。
(4) 相溶化剤として、無水マレイン酸変性ポリプロピレンを0.1~15質量%含有する、(1)~(3)のいずれかに記載の成型用樹脂材料。
(5) 前記熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂を含む、(1)~(4)のいずれかに記載の成形用樹脂材料。
(6) 前記熱可塑性樹脂がポリエチレン系樹脂を含む、(1)~(5)のいずれかに記載の成形用樹脂材料。
(7) 前記熱可塑性樹脂が生分解性樹脂を含む、(1)~(6)のいずれかに記載の成形用樹脂材料。
(8) 粉末状セルロースと、熱可塑性樹脂と、熱可塑性エラストマーとを加熱混錬する工程を含む、成型用樹脂材料の製造方法。
(9) 前記加熱混錬工程において、二軸混錬押出機で処理した成型用材料を連続的に製造する、(8)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、射出成形時に切断や割れ等が生じない粉末状セルロースを含む粘りが高い成形用樹脂材料を安定的に製造することができる。また、粉末状セルロースの配合率を高めることにより、カーボンニュートラルに優れる成形用樹脂材料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に用いられる粉末状セルロースは、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸(すなわち、無機酸)で酸加水分解処理したパルプ等のセルロース原料を粉砕処理、あるいは酸加水分解処理を施さないパルプ等のセルロース原料を機械粉砕して得ることができる。なお、本発明の粉末状セルロースとしては、酸加水分解処理したパルプ等のセルロース原料を粉砕処理した、不純物の少ない粉末状セルロースが好ましい。
【0013】
本発明において、原料として使用するセルロース原料であるパルプは、木材由来のパルプが好ましい。木材由来のパルプとしては、広葉樹由来のパルプ、針葉樹由来のパルプが挙げられるが、特に広葉樹由来の化学パルプが好ましい。これらの木材由来の化学パルプのパルプ化法(蒸解法)は、特に限定されるものではなく、サルファイト蒸解法、クラフト蒸解法、ソーダ・キノン蒸解法、オルガノソルブ蒸解法等を例示することができる。これらの中では、サルファイト蒸解法やクラフト蒸解法が好ましい。化学パルプとしては、クラフトパルプ(KP)、溶解クラフトパルプ(DKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解サルファイトパルプ(DSP)等が挙げられる。化学パルプは未漂白化学パルプ、漂白化学パルプのいずれも使用することができる。また、砕木パルプ(GP)、リファイナーグラウンドウッドパルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等、が挙げられる。機械パルプとしては、砕木パルプ(GP)、リファイナーグラウンドウッドパルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等、の機械パルプを使用することもできる。
【0014】
パルプ化法(蒸解法)によりパルプ中の着色物質であるリグニンが溶解して取り除かれて白色化する。パルプの白色度をさらに高めるために、漂白処理を行なうことができる。漂白処理方法としては、特に限定されるものではなく、一般的に使用される方法を用いることができる。例えば、任意に通常の方法で脱リグニンしたパルプに対し、塩素処理(C)、二酸化塩素漂白(D)、アルカリ抽出(E)、次亜塩素酸塩漂白(H)、過酸化水素漂白(P)、アルカリ性過酸化水素処理段(Ep)、アルカリ性過酸化水素・酸素処理段(Eop)、オゾン処理(Z)、キレート処理(Q)などを組み合わせて、D-E/P-D、C/D-E-H-D、Z-E-D-PZ/D-Ep-D、Z/D-Ep-D-P、D-Ep-D、D-Ep-D-P、D-Ep-P-D、Z-Eop-D-D、Z/D-Eop-D、Z/D-Eop-D-E-D等のシーケンスで行うことができる(シーケンス中の「/」は、「/」の前後の処理を洗浄なしで連続して行なうことを意味する)。セルロース原料としてのパルプの白色度は、ISO 2470に基づいて、80%以上であることが好ましい。
【0015】
以下に、本発明の粉末状セルロースの製造方法を例示する。
【0016】
粉末状セルロースは、原料パルプスラリー調製工程、酸加水分解反応工程、中和・洗浄・脱液工程、乾燥工程、粉砕工程、分級工程を経て製造される。
【0017】
より詳細には、次の通りである。原料パルプスラリー調製工程は、セルロース原料を用いて原料パルプスラリーを調製する工程である。酸加水分解反応工程は、原料パルプスラリーを、酸濃度0.10~1.0Nで加水分解して加水分解物を調製する工程である。中和・洗浄・脱液工程は、加水分解物を中和し、洗浄した後、脱液する工程である。乾燥工程は、脱液した加水分解物を乾燥して乾燥物を得る工程である。分級工程は、乾燥物を粉砕して粉砕物を得る工程である。斯かる工程を経て、本発明のセルロース粉末を製造できる。
【0018】
本発明の粉末状セルロースの製造方法で使用できるパルプは、流動状態でもシート状でも可能である。パルプ漂白工程からの流動パルプを原料とする場合は、加水分解反応槽へ投入する前に、濃度を高める必要があり、スクリュープレスやベルトフィルターなどの脱水機で濃縮した後、反応槽へ所定量を投入する。パルプのドライシートを原料とする場合は、ロールクラッシャー等の解砕機等でパルプをほぐした後、反応槽へ投入する。
【0019】
次に、酸濃度0.1~30重量%に調整したパルプ濃度3~10重量%(固形分換算)の分散液を、反応温度が80~100℃、反応時間が30分間~3時間の条件で酸加水分解処理する。加水分解処理されたパルプはアルカリ剤を添加して中和し、洗浄する。その後、脱液工程で加水分解処理されたパルプと廃酸とに固液分離する。加水分解処理されたパルプを乾燥機で乾燥し、粉砕機で規定の大きさに機械的に粉砕・分級する。なお、中和・洗浄・脱液後、乾燥の前に脱水して固形分濃度を調整してもよい。乾燥前に固形分濃度を調整することで、粉末状セルロースの物性値を制御しやすくなる。
【0020】
本発明の粉末状セルロースの製造方法に用いる粉砕機としては、以下を例示することができる。
【0021】
カッティング式ミル:メッシュミル(株式会社ホーライ製)、アトムズ(株式会社山本百馬製作所製)、ナイフミル(パルマン社製)、カッターミル(東京アトマイザー製造株式会社製)、CSカッタ(三井鉱山株式会社製)、ロータリーカッターミル(株式会社奈良機械製作所製)、ターボカッター(フロイント産業株式会社製)、パルプ粗砕機(株式会社瑞光製)、及びシュレッダー(神鋼パンテック株式会社製)等。
【0022】
ハンマー式ミル:ジョークラッシャー(株式会社マキノ製)、及びハンマークラッシャー(槇野産業株式会社製)。
【0023】
衝撃式ミル:パルベライザ(ホソカワミクロン株式会社製)、ファインインパクトミル(ホソカワミクロン株式会社製)、スーパーミクロンミル(ホソカワミクロン株式会社製)、イノマイザ(ホソカワミクロン株式会社製)、ファインミル(日本ニューマチック工業株式会社製)、CUM型遠心ミル(三井鉱山株式会社製)、イクシードミル(槇野産業株式会社製)、ウルトラプレックス(槇野産業株式会社製)、コントラプレックス(槇野産業株式会社製)、コロプレックス(槇野産業株式会社製)、サンプルミル(株式会社セイシン製)、バンタムミル(株式会社セイシン製)、アトマイザー(株式会社セイシン製)、トルネードミル(日機装株式会社製)、ネアミル(株式会社ダルトン製)、HT形微粉砕機(株式会社ホーライ製)、自由粉砕機(株式会社奈良機械製作所製)、ニューコスモマイザー(株式会社奈良機械製作所製)、ターボミル(フロイント産業株式会社製)、ギャザーミル(株式会社西村機械製作所製)、スパーパウダーミル(株式会社西村機械製作所製)、ブレードミル(日清エンジニアリング株式会社製)、スーパーローター(日清エンジニアリング株式会社製)、Npaクラッシャー(三庄インダストリー株式会社製)、ウイレー粉砕機(株式会社三喜製作所製)、パルプ粉砕機(株式会社瑞光製)、ヤコブソン微粉砕機(神鋼パンテック株式会社製)、及びユニバーサルミル(株式会社徳寿工作所製)。
【0024】
気流式ミル:CGS型ジェットミル(三井鉱山株式会社製)、ミクロンジェット(ホソカワミクロン株式会社製)、カウンタジェットミル(ホソカワミクロン株式会社製)、クロスジェットミル(株式会社栗本鐵工所製)、超音速ジェットミル(日本ニューマチック工業株式会社製)、カレントジェット(日清エンジニアリング株式会社製)、ジェットミル(三庄インダストリー株式会社製)、エバラジェットマイクロナイザ(株式会社荏原製作所製)、エバラトリアードジェット(株式会社荏原製作所製)、セレンミラー(増幸産業株式会社製)、ニューミクロシクトマット(株式会社増野製作所製)、及びクリプトロン(川崎重工業株式会社製)。
【0025】
竪型ローラーミル:竪型ローラーミル(シニオン株式会社製)、縦型ローラーミル(シェフラージャパン株式会社製)、ローラーミル(コトブキ技研工業株式会社製)、VXミル(株式会社栗本鐵工所)、KVM型竪形ミル(株式会社アーステクニカ)、及びISミル(株式会社IHIプラントエンジニアリング)。
【0026】
これらの中では、微粉砕性に優れる、ジョークラッシャー(株式会社マキノ製)、パルベライザ(ホソカワミクロン株式会社製)、スーパーミクロンミル(ホソカワミクロン株式会社製)、トルネードミル(日機装株式会社製)、自由粉砕機(株式会社奈良機械製作所製)、ターボミル(フロイント産業株式会社製)、スパーパウダーミル(株式会社西村機械製作所製)、ブレードミル(日清エンジニアリング株式会社製)、超音速ジェットミル(日本ニューマチック工業株式会社製)、又はカレントジェット(日清エンジニアリング株式会社製)を用いることが好ましい。
【0027】
本発明において、パルプの粉砕を2段階で行ってもよい。例えば、パルプを、平均粒子径が100μm以下である粉砕物を得る第1粉砕工程、続いて前記第1粉砕工程で得た粉砕物をさらに粉砕し、平均粒子が50μm以下である粉砕物を得る第2粉砕工程、を有する方法にて粉末状セルロースを製造することができる。
【0028】
本発明の粉末状セルロースに、機能性付与、若しくは機能性向上を目的として、粉末状セルロースの原料とその他有機成分及び/又は無機成分を、1種単独若しくは2種類以上任意の割合で混合し、粉砕することも可能である。また、原料に使用するセルロース原料の重合度を大幅に損なわない範囲で、化学的処理を施すことが可能である。
【0029】
本発明の粉末状セルロースの平均粒形は、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましい。粉末状セルロースの平均粒径が100μmより大きいと、樹脂との均一な混合が困難になり、粉砕物と樹脂との混合物を射出する装置出口で、樹脂体が細かく切れる、冷却処理装置への搬出が困難となる、などの問題が生じ得る。
【0030】
なお、平均粒径とは、レーザー光散乱法(レーザー回折法)により測定した体積50%平均粒子径(D50)であり、レーザー回折/散乱式粒度分布測定器(マルバーン製、機器名:マスターサイザー2000)等で測定することができる。
【0031】
本発明の粉末状セルロースの見掛け比重は、好ましくは0.30g/ml以上であり、より好ましくは0.33g/ml以上である。上限としては、好ましくは0.60g/ml以下であり、より好ましく0.50g/ml以下であり、さらに好ましくは0.45g/ml以下である。
【0032】
なお、本明細書において、見掛け比重は、100mlメスシリンダーに試料を10g投入し、メスシリンダーの底を試料の高さが低下しなくなるまでたたき続け(手動にて10分間を目安)、平らになった表面の目盛を読み、算出した値である。
【0033】
本発明の成形用樹脂材料は、上記の粉末状セルロースと熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーとを加熱混練することにより、得ることができる。成形用樹脂材料中の焙焼物の配合率は、カーボンニュートラルを高いレベルで実現するためには、高い方が好ましいが、得られる樹脂材料、成形物品の製造や強度を考慮すると、40質量%以上90質量%以下が好ましく、より好ましくは50質量%以上80質量%以下である。
【0034】
本発明に用いる熱可塑性樹脂は、粒状に成形されたものが扱い易さの点で好ましいが、どのような形態でもよい。また、2種類以上の熱可塑性樹脂を同時に利用することもできる。
【0035】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられるが、これらに限定されず、熱により可塑化し成形が可能である樹脂であればいずれも用いることができる。中でも、LDPE(低密度ポリエチレン)などのポリエチレンおよびポリプロピレンは成形性の観点から好ましい。
【0036】
本発明においては、熱可塑性樹脂として生分解性樹脂を用いてもよい。熱可塑性を有する生分解性樹脂としては、これらに限定されないが、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリグリコール、ポリカプロラクトン、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0037】
さらに、粉末状セルロースとの混練時には、均一性及び密着性を高める目的で、熱可塑性樹脂でもある相溶化樹脂(相溶化剤)を添加しても良い。
【0038】
相溶化樹脂としては、公知のものを用いることができ、例えば、これに限定されないが、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(ユーメックス1010、三洋化成製)、モディック(登録商標)P908(三菱化学製)等が挙げられる。相溶化樹脂は、焙焼物と熱可塑性樹脂との均一混合や密着性を高める働きをするものである。相溶化樹脂は用いなくともよいが、用いる場合には、混練により得られる成形用樹脂材料中に、0.1~15質量%用いることが好ましく、0.5~10質量%がより好ましい。
【0039】
本発明においては熱可塑性エラストマーを添加することにより、木質系バイオマス焙焼物の粉砕物を配合しても、射出成形時に切断や割れ等が生じない粘りが高い成形用樹脂材料を安定的に製造することができる。
【0040】
本発明において使用する熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系熱可塑性エラストマーを挙げることができる。より具体的には、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)共重合体、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)共重合体、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン(SEPS)共重合体、スチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレン(SBBS)共重合体等のブロック共重合体を挙げることができる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0041】
また、本発明において使用する熱可塑性エラストマーとしては、ポリオレフィン系エラストマーを挙げることができる。より具体的には、エチレン・ブテン共重合体、EPR(エチレン-プロピレン共重合体)、変性エチレン・ブテン共重合体、EEA(エチレン-エチルアクリレート共重合体)、変性EEA、変性EPR、変性EPDM(エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体)、アイオノマー、α-オレフィン共重合体、変性IR(イソプレンゴム)、変性SEBS(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体)、ハロゲン化イソブチレン-パラメチルスチレン共重合体、エチレン-アクリル酸変性体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、及びその酸変性物、及びそれらを主成分とする混合物等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0042】
本発明において使用する好ましい熱可塑性エラストマーとしては、スチレン・ブタジエン系ブロック共重合体、エチレン・オクテン系共重合体、プロピレン・エチレン系共重合体等が挙げられる。特に、スチレン・ブタジエン系ブロック共重合体が好ましい。また、上記熱可塑性エラストマーは、無水マレイン酸、無水フマル酸等で変性されていてもよい。スチレン・ブタジエン系ブロック共重合体においては、スチレン含有率が15~30質量%であることが好ましい。
【0043】
熱可塑性エラストマーの配合率は1~20質量%であることが好ましく、3~10質量%であることがより好ましい。すなわち、木質系バイオマス焙焼物の粉砕物、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーの配合比が40~90:59~10:1~20であることが好ましい。
【0044】
本発明の前記成形用樹脂材料を加熱処理することによって成形体を得ることができる。本発明の成形用樹脂材料を加熱処理(加熱、溶融、混練等の処理)する際の温度は、通常100~300℃程度、好ましくは110~250℃程度、特に好ましくは120~220℃程度である。加熱処理により得られた成形体は、従来公知の樹脂成形体により目的とする形状に成形することができる。
【0045】
本発明の成形用樹脂材料の製造方法おいては、焙焼物及び熱可塑性樹脂を加熱混練するには、一般的な樹脂成形に用いられる装置を用いることができる。例えば、一般的なエクストルーダー、二軸混錬押出機を用いることが出来る。二軸混錬押出機としては日本製鋼所製のTEXシリーズを使用できる。
【0046】
本発明の成形用樹脂材料を用いて、種々の成形物品を製造することができる。成形には、熱可塑性樹脂の成形に用いられる通常の方法を用いることができ、例えば、これらに限定されないが、射出成形、押出成形、ブロー成型、金型成形、中空成形、発泡成形などを行うことができる。
【0047】
本発明の成形用樹脂材料又はそれを成形することにより得られる成形物品には、熱可塑性樹脂と焙焼物以外の有機物及び/又は無機物を含有させてもよい。他の成分としては、例えば、水酸化ナトリウム、水駿化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ;クレー、タルク、炭酸カルシウム、マイ力、二酸化チタン、酸化亜鉛等の無機填料;カーボンブラック、グラファイト、ガラスフレーク等の有機填料;ベンガラ、アゾ顔料、フタロシアニン等の染料又は顔料;分散剤、滑剤、可塑剤、離型剤、難燃剤、酸化防止剤(フェノール系酸化防止剤、リン酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤)、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、金属不活性剤、結晶化促進剤(造核剤)、発泡剤、架橋剤、抗菌剤等の改質用添加剤等が挙げられる。
【0048】
本発明の成形用樹脂材料は、種々の目的に合わせた成形が可能であり、プラスチック製品の代替品として利用できる。本発明の成形用樹脂材料より得られる成形物品としては、例えば、トレー等、自動車部品、自動車のダッシュボード等の内装、飛行機の荷物入れ、輸送用機器の構造部材、家電製品の筐体(ハウジング)、電化製品部材、カード、トナー容器等の各種容器、建築材、育苗ポット、農業用シート、筆記具、木製品、家庭用器具、ストロー、コップ、玩具、スポーツ用品、港湾用部材、建築部材、発電機用部材、工具、漁具、包装材料、3Dプリンター造形物、パレット、食品容器、食器、カトラリー(スプーン、フォーク等)、箸、各種シート類等に幅広く適用可能である。これらの製品は不要となった場合、廃棄処分されることとなるが、例えば、焼却処理され二酸化炭素を排出することになっても、配合された粉末状セルロースの分は、大気中の二酸化炭素量を増加させていないものとして取り扱うことができる。
【実施例0049】
以下では、本発明の実験例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実験例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、部および%は質量部および質量%を示し、数値範囲はその端点を含むものとして記載する。
【0050】
[実施例1]
セルロースパウダー(W-50GK、平均粒子径47μm、日本製紙株式会社製)、ポリエチレン(製品名:ノバテックHD HJ5800N、日本ポリエチレン株式会社製)、熱可塑性エラストマーとしてスチレン・ブタジエンブロック共重合体(製品名:タフテックH1221、スチレン含有率12%、旭化成株式会社製)、及び相溶化剤として酸変性ポリオレフィン(製品名:ユーメックス1010、酸価52、分子量30000、三洋化成工業株式会社製)を、50:35:10:5の配合比で混合し、DSM Xplore Compounder15(レオ・ラボ社製)にて混錬190℃、6分、加熱筒190℃、成形(9bar 2s-11bar 0.5s-11bar 24s)、金型40℃で、成形用樹脂材料のダンベルを作成した後に物性を測定した。
【0051】
[実施例2]
熱可塑性エラストマーとして無水マレイン酸変性スチレン・ブタジエンブロック共重合体(製品名:M1943、スチレン含有率20%、旭化成株式会社製)を使用した以外は、実施例1と同様にして、成形用樹脂材料を製造した。
【0052】
[実施例3]
粉末状セルロース(製品名:W-50GK,粒子径54μm、日本製紙株式会社製)、熱可塑性樹脂としてLLDPE(製品名:ノバテックLL UJ890、日本ポリエリレン株式会社製)、熱可塑性エラストマーとしてスチレン・ブタジエンブロック共重合体(製品名:タフテックH1221、スチレン含有率12%、旭化成株式会社製)、相溶化剤として酸変性ポリオレフィン(製品名:ユーメックス1010、三洋化成工業株式会社製)を、51:38.5:10:0.5の配合比で混合した以外は、実施例1と同様にして成形用樹脂材料を製造した。
【0053】
[比較例1]
熱可塑性エラストマーを添加せずに、粉末状セルロース(W-50GK、平均粒子径47μm、日本製紙社(株)製)、ポリエチレン(製品名:ノバテックHD HJ5800N、日本ポリエチレン株式会社製)、及び相溶化剤として酸変性ポリオレフィン(製品名:ユーメックス1010、酸価52、分子量30000、三洋化成工業株式会社製)を、50:45:5の配合比で混合した以外は、実施例1と同様にして、成形用樹脂材料を製造した。
【0054】
実施例1~3、及び比較例1で製造した成形用樹脂材料について、引張強度を下記の方法にて測定し、結果を表1に示した。
[引張強度の測定]:
DSM Xplore Compounder15(レオ・ラボ社製)でJIS K 6251のダンベルを作成して、JIS K 7161:プラスチック-引張特性の試験方法に準じて引張速度1mm/minで測定した。
【0055】
【0056】
表1に示されるように、熱可塑性エラストマーを添加した実施例1~3の成形用樹脂材料は、熱可塑性エラストマーを添加していない比較例1の成形用樹脂材料に比較すると、破断歪が高く粘りが高いので、成形性に優れることが示された。