(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035659
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】信号生成装置、信号生成方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G10H 1/053 20060101AFI20230306BHJP
G10H 1/32 20060101ALN20230306BHJP
【FI】
G10H1/053 C
G10H1/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142676
(22)【出願日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】山本 信
(72)【発明者】
【氏名】水口 貴弘
【テーマコード(参考)】
5D478
【Fターム(参考)】
5D478CC33
5D478DC04
5D478DC13
(57)【要約】
【課題】ダンパペダルの操作により減衰制御を変更するときの位置を、演奏の状況に応じて変化させること
【解決手段】一実施形態における信号生成装置は、信号生成部と、減衰制御部とを含む。信号生成部は、鍵の操作に関連する鍵操作データに基づいて音信号を生成する。減衰制御部は、ペダルの操作位置に関連するペダル操作データに基づいて前記音信号の減衰速度を制御する。減衰制御部は、操作位置が変化可能な範囲のうち第1範囲に操作位置が存在する場合に減衰速度を第1速度に制御し、第1範囲に隣接する第2範囲に操作位置が存在する場合に減衰速度を第1速度より大きい第2速度に制御する。第1範囲と第2範囲との第1境界位置は、鍵の操作により得られる制御情報に基づいて決められる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵の操作に関連する鍵操作データに基づいて音信号を生成する信号生成部と、
ペダルの操作位置に関連するペダル操作データに基づいて前記音信号の減衰速度を制御する減衰制御部であって、前記操作位置が変化可能な範囲のうち第1範囲に前記操作位置が存在する場合に前記減衰速度を第1速度に制御し、前記第1範囲に隣接する第2範囲に前記操作位置が存在する場合に前記減衰速度を前記第1速度より大きい第2速度に制御する減衰制御部と、
を含み、
前記第1範囲と前記第2範囲との第1境界位置は、前記鍵の操作により得られる制御情報に基づいて決められる、信号生成装置。
【請求項2】
前記減衰制御部は、前記第1範囲および前記第2範囲とは異なる第3範囲に前記操作位置が存在する場合に、前記減衰速度を前記第1速度および前記第2速度とは異なる第3速度に制御する、請求項1に記載の信号生成装置。
【請求項3】
前記第3範囲は、前記第1範囲および前記第2範囲の一方と隣接し、
前記第1範囲および前記第2範囲の一方と前記第3範囲との第2境界位置は、前記鍵の操作に関連する情報に基づいて決められる、請求項2に記載の信号生成装置。
【請求項4】
前記第3範囲は、前記第2範囲と隣接し、
前記第3範囲と前記第2範囲との第2境界位置は、前記制御情報に基づいて決められる、請求項2に記載の信号生成装置。
【請求項5】
前記第1境界位置と前記第2境界位置との差が前記制御情報によって異なるように、前記第1境界位置および前記第2境界位置が決められる、請求項4に記載の信号生成装置。
【請求項6】
前記制御情報は、前記鍵に対応する音高情報を含み、
前記第1境界位置は、前記音高情報が第1音高を示す場合に第1位置を示し、前記第1音高よりも高い第2音高である場合に前記第1位置よりもレスト位置に近い第2位置を示す、請求項1から請求項5のいずれかに記載の信号生成装置。
【請求項7】
前記制御情報は、前記鍵の速度情報を含み、
前記第1境界位置は、前記速度情報が第1速度を示す場合に第3位置を示し、前記第1速度よりも小さい第2速度である場合に前記第3位置よりもレスト位置に近い第4位置を示す、請求項1から請求項6のいずれかに記載の信号生成装置。
【請求項8】
前記制御情報は、前記鍵の操作によって生成された前記音信号の出力レベル情報を含み、
前記第1境界位置は、前記出力レベル情報が第1出力レベルを示す場合に第5位置を示し、前記第1出力レベルよりも小さい第2出力レベルである場合に前記第5位置よりもレスト位置に近い第6位置を示す、請求項1から請求項7のいずれかに記載の信号生成装置。
【請求項9】
前記第1範囲と前記第2範囲との第1境界位置は、前記減衰速度が制御される前記音信号に対応する前記鍵の操作により得られた制御情報に基づいて決められる、請求項1から請求項8のいずれかに記載の信号生成装置。
【請求項10】
鍵の操作に関連する鍵操作データに基づいて音信号を生成することと、
ペダルの操作位置に関連するペダル操作データに基づいて前記音信号の減衰速度を制御することと、
を含み、
前記音信号の減衰速度を制御することは、
前記操作位置が変化可能な範囲のうち第1範囲と前記第1範囲に隣接する第2範囲との第1境界位置を、前記鍵の操作により得られる制御情報に基づいて決めることと、
前記第1範囲に前記操作位置が存在する場合に前記減衰速度を第1速度に制御し、前記第2範囲に前記操作位置が存在する場合に前記減衰速度を前記第1速度より大きい第2速度に制御することと、
を含む、
を信号生成方法。
【請求項11】
鍵の操作に関連する鍵操作データに基づいて音信号を生成することと、
ペダルの操作位置に関連するペダル操作データに基づいて前記音信号の減衰速度を制御することと、
を含み、
前記音信号の減衰速度を制御するときに、
前記操作位置が変化可能な範囲のうち第1範囲と前記第1範囲に隣接する第2範囲との第1境界位置を、前記鍵の操作により得られる制御情報に基づいて決めることと、
前記第1範囲に前記操作位置が存在する場合に前記減衰速度を第1速度に制御し、前記第2範囲に前記操作位置が存在する場合に前記減衰速度を前記第1速度より大きい第2速度に制御することと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音信号を生成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ピアノからの音をアコースティックピアノの音にできるだけ近づけるために、様々な工夫がなされている。例えば、特許文献1には、アコースティックピアノにおけるダンパの影響をより音に反映するために、ダンパペダルが操作されているときに音の減衰速度を制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子楽器において生成される音の減衰は、ダンパペダルの位置に応じて制御される。この減衰は、電子ピアノである場合には、ダンパを弦から離隔した状態(ダンパオン)、またはダンパを弦に接触させた状態(ダンパオフ)を想定して制御される。ダンパが弦に少し接触している状態(ハーフペダル)を想定して減衰が制御される場合もある。各状態に対応する制御は、ダンパペダルの操作可能な範囲を予め区分して決められた複数の設定範囲に対応して実行される。複数の設定範囲は、演奏の状況にかかわらず、予め決められた設定範囲から変化することはない。
【0005】
本発明の目的の一つは、ダンパペダルの操作により減衰制御を変更するときの位置を、演奏の状況に応じて変化させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態によれば、鍵の操作に関連する鍵操作データに基づいて音信号を生成する信号生成部と、ペダルの操作位置に関連するペダル操作データに基づいて前記音信号の減衰速度を制御する減衰制御部であって、前記操作位置が変化可能な範囲のうち第1範囲に前記操作位置が存在する場合に前記減衰速度を第1速度に制御し、前記第1範囲に隣接する第2範囲に前記操作位置が存在する場合に前記減衰速度を前記第1速度より大きい第2速度に制御する減衰制御部と、を含み、前記第1範囲と前記第2範囲との第1境界位置は、前記鍵の操作により得られる制御情報に基づいて決められる、信号生成装置が提供される。
【0007】
前記減衰制御部は、前記第1範囲および前記第2範囲とは異なる第3範囲に前記操作位置が存在する場合に、前記減衰速度を前記第1速度および前記第2速度とは異なる第3速度に制御してもよい。
【0008】
前記第3範囲は、前記第1範囲および前記第2範囲の一方と隣接してもよい。前記第1範囲および前記第2範囲の一方と前記第3範囲との第2境界位置は、前記鍵の操作に関連する情報に基づいて決められてもよい。
【0009】
前記第3範囲は、前記第2範囲と隣接してもよい。前記第3範囲と前記第2範囲との第2境界位置は、前記制御情報に基づいて決められてもよい。
【0010】
前記第1境界位置と前記第2境界位置との差が前記制御情報によって異なるように、前記第1境界位置および前記第2境界位置が決められてもよい。
【0011】
前記制御情報は、前記鍵に対応する音高情報を含んでもよい。前記第1境界位置は、前記音高情報が第1音高を示す場合に第1位置を示してもよい。前記第1音高よりも高い第2音高である場合に前記第1位置よりもレスト位置に近い第2位置を示してもよい。
【0012】
前記制御情報は、前記鍵の速度情報を含んでもよい。前記第1境界位置は、前記速度情報が第1速度を示す場合に第3位置を示してもよい。前記第1速度よりも小さい第2速度である場合に前記第3位置よりもレスト位置に近い第4位置を示してもよい。
【0013】
前記制御情報は、前記鍵の操作によって生成された前記音信号の出力レベル情報を含んでもよい。前記第1境界位置は、前記出力レベル情報が第1出力レベルを示す場合に第5位置を示してもよい。前記第1出力レベルよりも小さい第2出力レベルである場合に前記第5位置よりもレスト位置に近い第6位置を示してもよい。
【0014】
前記第1範囲と前記第2範囲との第1境界位置は、前記減衰速度が制御される前記音信号に対応する前記鍵の操作により得られた制御情報に基づいて決められてもよい。
【0015】
一実施形態によれば、鍵の操作に関連する鍵操作データに基づいて音信号を生成することと、ペダルの操作位置に関連するペダル操作データに基づいて前記音信号の減衰速度を制御することと、を含み、前記音信号の減衰速度を制御することは、前記操作位置が変化可能な範囲のうち第1範囲と前記第1範囲に隣接する第2範囲との第1境界位置を、前記鍵の操作により得られる制御情報に基づいて決めることと、前記第1範囲に前記操作位置が存在する場合に前記減衰速度を第1速度に制御し、前記第2範囲に前記操作位置が存在する場合に前記減衰速度を前記第1速度より大きい第2速度に制御することと、を含む、を信号生成方法が提供される。
【0016】
一実施形態によれば、鍵の操作に関連する鍵操作データに基づいて音信号を生成することと、ペダルの操作位置に関連するペダル操作データに基づいて前記音信号の減衰速度を制御することと、を含み、前記音信号の減衰速度を制御するときに、前記操作位置が変化可能な範囲のうち第1範囲と前記第1範囲に隣接する第2範囲との第1境界位置を、前記鍵の操作により得られる制御情報に基づいて決めることと、前記第1範囲に前記操作位置が存在する場合に前記減衰速度を第1速度に制御し、前記第2範囲に前記操作位置が存在する場合に前記減衰速度を前記第1速度より大きい第2速度に制御することと、をコンピュータに実行させるためのプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ダンパペダルの操作により減衰制御を変更するときの位置を、演奏の状況に応じて変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一実施形態における鍵盤楽器の構成を示す図である。
【
図2】一実施形態における音源部の機能構成を示すブロック図である。
【
図3】一実施形態における信号生成部の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】一般的なエンベロープ波形の定義を説明する図である。
【
図5】ピアノの音のエンベロープ波形の例を説明する図である。
【
図6】一実施形態における減衰制御テーブルに規定されるダンパ設定範囲とノートナンバとの関係を説明する図である。
【
図7】一実施形態における減衰制御処理を示すフローチャートである。
【
図8】変形例における減衰制御テーブルに規定されるダンパ設定範囲とノートナンバとの関係を説明する図である。
【
図9】変形例における減衰制御テーブルに規定されるダンパ設定範囲とノートナンバとの関係を説明する図である。
【
図10】変形例における減衰制御テーブルに規定されるダンパ設定範囲とノートナンバとの関係を説明する図である。
【
図11】変形例における減衰制御テーブルに規定されるダンパ設定範囲とノートナンバとの関係を説明する図である。
【
図12】変形例における減衰制御テーブルに規定されるダンパ設定範囲とノートナンバとの関係を説明する図である。
【
図13】変形例における減衰制御テーブルに規定されるダンパ設定範囲とノートナンバとの関係を説明する図である。
【
図14】変形例における減衰制御テーブルに規定されるダンパ設定範囲とノートナンバとの関係を説明する図である。
【
図15】変形例における減衰制御テーブルに規定されるダンパ設定範囲とベロシティとの関係を説明する図である。
【
図16】変形例における減衰制御テーブルに規定されるダンパ設定範囲と出力レベルとの関係を説明する図である。
【
図17】変形例における減衰制御テーブルに規定されるダンパ設定範囲と加速度との関係を説明する図である。
【
図18】変形例における減衰制御テーブルに規定されるダンパ設定範囲とノートナンバとの関係を説明する図である。
【
図19】変形例における減衰制御テーブルに規定されるダンパ設定範囲と複数の制御情報(ノートナンバおよびベロシティ)との関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態における鍵盤楽器について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下に示す実施形態は本発明の実施形態の一例であって、本発明はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。なお、本実施形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号または類似の符号(数字の後にA、B等を付しただけの符号)を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0020】
<実施形態>
[鍵盤楽器の構成]
図1は、一実施形態における鍵盤楽器の構成を示す図である。鍵盤楽器1は、例えば、電子ピアノ等の電子鍵盤楽器であって、演奏操作子として複数の鍵70を有する電子楽器の一例である。ユーザが鍵70を操作すると、スピーカ60から音が発生する。発生する音の種類(音色)は、操作部21を用いて変更される。この例において、鍵盤楽器1は、ピアノの音色を用いて発音する場合に、アコースティックピアノに近い発音をすることができる。特に、鍵盤楽器1は、ダンパペダルを用いた演奏において、ダンパの影響をより精度よく反映した発音をすることができる。続いて、鍵盤楽器1の各構成について、詳述する。
【0021】
鍵盤楽器1は、複数の鍵70、筐体50およびペダル装置90を備える。複数の鍵70は、筐体50に回動可能に支持されている。筐体50には、操作部21、表示部23、スピーカ60が配置されている。筐体50の内部には、制御部10、記憶部30、鍵挙動測定部75および音源部80が配置されている。ペダル装置90は、ダンパペダル91、シフトペダル93およびペダル挙動測定部95を備える。筐体50の内部に配置された各構成は、バスを介して接続されている。
【0022】
この例では、鍵盤楽器1は、外部装置と信号の入出力をするためのインターフェイスを含んでいる。インターフェイスは、例えば、音信号を出力する端子、MIDIデータの送受信をするためのケーブル接続端子などである。この例では、インターフェイスにペダル装置90が接続されることによって、ペダル挙動測定部95が上述したバスを介して筐体50の内部に配置された各構成に接続される。
【0023】
制御部10は、CPUなどの演算処理回路、RAM、ROMなどの記憶装置を含む。制御部10は、CPUを用いて制御プログラムを実行することによって、各種機能を鍵盤楽器1において実現させる。操作部21は、操作ボタン、タッチセンサおよびスライダなどの装置であり、入力された操作に応じた信号を制御部10に出力する。表示部23は、制御部10による制御に基づいた画面を表示する。
【0024】
記憶部30は、不揮発性メモリ等の記憶装置である。記憶部30は、制御部10によって実行される制御プログラムを記憶する。また、記憶部30は、音源部80において用いられるパラメータ、波形データ等を記憶してもよい。スピーカ60は、制御部10または音源部80から出力される音信号を増幅して出力することによって、音信号に応じた音を発生する。
【0025】
鍵挙動測定部75は、複数の鍵70のそれぞれの挙動を測定し、測定結果を示す測定データを出力する。この測定データは、情報(KC、KS、KV)を含む。すなわち、鍵挙動測定部75は、複数の鍵70のそれぞれに対する押込操作に応じて、情報(KC、KS、KV)を出力する。情報KCは操作された鍵70を識別する情報(例えば鍵番号)である。情報KSは鍵70の押込量を示す情報である。情報KVは鍵70の押込速度を示す情報である。情報KC、KS、KVが関連付けられて出力されることにより、操作された鍵70とその鍵70に対する操作内容とが、鍵挙動測定部75から出力される測定データによって特定される。
【0026】
ペダル挙動測定部95は、ダンパペダル91およびシフトペダル93のそれぞれの挙動を測定し、測定結果を示す測定データを出力する。この測定データは、情報(PC、PS)を含む。情報PCは操作されたペダルがダンパペダル91であるかシフトペダル93であるかを示す情報である。情報PSはペダルの押込量を示す情報である。以下の説明において、ペダルの押込量をペダルの操作位置という場合がある。情報PC、PSが関連付けられて出力されることにより、操作されたペダル(ダンパペダル91またはシフトペダル93)とそのペダルに対する操作内容(押込量)が、ペダル挙動測定部95から出力される測定データによって特定される。なお、ペダル装置90のペダルがダンパペダル91のみである場合には、情報PCはなくてもよい。
【0027】
音源部80は、鍵挙動測定部75およびペダル挙動測定部95から入力された測定データに基づいて音信号を生成してスピーカ60に出力する。音源部80が生成する音信号は、鍵70への操作毎に得られる。そして、複数の押鍵に対応して得られた複数の音信号は合成され、音源部80から出力される。音源部80の構成について詳述する。
【0028】
[音源部の構成]
図2は、一実施形態における音源部の機能構成を示す図である。音源部80は、変換部88、音信号生成部800(信号生成装置)、減衰制御テーブル135、波形データ記憶部151および出力部180を備える。音信号生成部800は、信号生成部111および減衰制御部131を含み、減衰制御処理を含む信号生成方法を実行する。
【0029】
変換部88は、入力される情報(KC、KS、KV、PC、PS)を音信号生成部800において用いられるフォーマットの制御データに変換する。すなわち、それぞれ異なる意味を持つ情報が共通のフォーマットの制御データに変換される。制御データは、発音内容を規定するデータである。この例では、変換部88は、入力される情報をMIDI形式の制御データに変換する。変換部88は、生成した制御データを音信号生成部800(信号生成部111および減衰制御部131)に出力する。
【0030】
変換部88は、鍵挙動測定部75から入力される情報(KC、KS、KV)に基づいて、鍵70への操作に関連した制御データ(以下、鍵操作データという)を生成する。この例では、鍵操作データは、操作された鍵70の位置を示す情報(ノートナンバ)、押鍵したことを示す情報(ノートオン)、離鍵したことを示す情報(ノートオフ)および鍵70への操作速度すなわち押鍵速度(ベロシティ:この例では0~127)等を含む。このように、変換部88は、鍵操作データを生成する鍵操作データ生成部としても機能する。
【0031】
また、変換部88は、ペダル挙動測定部95から入力される情報(PC、PS)に基づいて、ダンパペダル91の操作に関連した制御データ(以下、ペダル操作データという)を生成する。ペダル操作データは、少なくともペダルの操作位置を示す情報を含む。
【0032】
以下の説明において使用されるダンパオン、ダンパオフおよびハーフダンパは、以下のとおり定義される。ダンパオンは、アコースティックピアノにおいてダンパが完全に弦から離れている状態を示す。ダンパオンは、ダンパペダル91の操作位置がエンド位置にある状態(ダンパが完全に上がっている状態)のみに対応するのではなく、ダンパペダル91の操作位置がエンド位置を含む所定の範囲(その状態と同等であるとして予め設定された範囲)に含まれる状態に対応している。以下の説明では、ダンパオンとなるダンパペダル91の操作位置の範囲をダンパオン範囲という場合がある。
【0033】
ダンパオフは、ダンパが完全に下がっている状態を示す。ダンパオフは、ダンパペダル91の操作位置がレスト位置にある状態(ダンパが完全に下がっている状態)のみに対応するのではなく、ダンパペダル91の操作位置がレスト位置を含む所定の範囲(その状態と同等であるとして予め設定された範囲)に含まれる状態に対応している。以下の説明では、ダンパオフとなるダンパペダル91の操作位置の範囲をダンパオフ範囲という場合がある。
【0034】
ハーフダンパは、レスト位置およびエンド位置を除いた中間の位置の状態(ハーフペダル)になっていることを示す情報(ハーフダンパ)等を含む。なお、ペダルはレスト位置からエンド位置の範囲で操作可能である。
【0035】
ハーフダンパは、ダンパペダル91の操作位置がダンパオフ範囲とダンパオン範囲とに挟まれた範囲に含まれる状態(ハーフペダルになっている状態)に対応している。以下の説明では、ハーフダンパとなるダンパペダル91の操作位置の範囲をハーフダンパ範囲という場合がある。ダンパオフ範囲はハーフダンパ範囲と隣接する。ハーフダンパ範囲はダンパオン範囲と隣接する。ダンパオン範囲(第1範囲)、ハーフダンパ範囲(第2範囲)およびダンパオフ範囲(第3範囲)をまとめてダンパ設定範囲という場合がある。
【0036】
このように、変換部88は、ペダル操作データを生成するペダル操作データ生成部としても機能する。なお、シフトペダル93に応じた制御データについても生成されてもよいが、ここでは、その説明を省略する。
【0037】
変換部88は、生成した制御データを音信号生成部800(信号生成部111および減衰制御部131)に出力する。具体的には、変換部88は、鍵操作データを信号生成部111および減衰制御部131に出力し、ペダル操作データを減衰制御部131に出力する。
【0038】
波形データ記憶部151は、少なくとも、ピアノ音波形データを記憶している。ピアノ音波形データは、アコースティックピアノの音(押鍵に伴う打弦によって生じた音)をサンプリングした波形データである。
【0039】
信号生成部111は、変換部88から入力される鍵操作データに基づいて、音信号を生成して出力する。このとき、減衰制御部131によって、音信号のエンベロープが調整される。
【0040】
減衰制御部131は、減衰制御テーブル135を参照し、変換部88から入力される鍵操作データおよびペダル操作データに基づいて、信号生成部111において生成される音信号のエンベロープを制御する。特に、音信号が減衰するときのエンベロープが制御される。この例では、減衰制御部131は、減衰制御テーブル135を参照し、鍵操作データに基づいてダンパ設定範囲を決定する。減衰制御部131は、決定したダンパ設定範囲を用いて、ペダル操作データに基づいて、減衰速度を制御する。減衰制御テーブル135は、ノートナンバとダンパ設定範囲との関係を規定するテーブルである。
【0041】
より具体的には、減衰制御部131は、減衰制御テーブル135を参照して、鍵操作データにおけるノートナンバに対応するダンパ設定範囲を決定する。減衰制御部131は、ダンパ設定範囲にしたがって、ペダル操作データにおけるダンパペダル91の操作位置がダンパオン範囲であればダンパオンに対応するように減衰速度を制御する。同様に、減衰制御部131は、ダンパペダル91の操作位置がダンパオフ範囲であればダンパオフに対応するように減衰速度を制御し、ダンパペダル91の操作位置がハーフダンパ範囲であればハーフダンパに対応するように減衰速度を制御する。減衰制御テーブル135は、ノートナンバとダンパ設定範囲との関係を規定するテーブルである。
【0042】
出力部180は、信号生成部111によって生成された音信号を、音源部80の外部に出力する。この例では、スピーカ60に音信号が出力されて、ユーザに聴取される。続いて、信号生成部111の詳細の構成について説明する。
【0043】
[信号生成部の構成]
図3は、一実施形態における信号生成部の機能構成を示すブロック図である。信号生成部111は、波形読出部113(波形読出部113-1、113-2、・・・113-n)、EV(エンベロープ)波形生成部115(115-1、115-2、・・・、115-n)、乗算器117(117-1、117-2、・・・117-n)および波形合成部119を備える。上記の「n」は、同時に発音できる数(同時に生成できる音信号の数)に対応し、この例では32である。すなわち、この信号生成部111によれば、32回の押鍵まで発音した状態が維持され、33回目の押鍵があった場合には、最初の発音に対応する音信号が強制的に停止される。
【0044】
波形読出部113-1は、変換部88から得られた鍵操作データに基づいて、波形データ記憶部151から読み出すべき波形データを選択して読み出して、ノートナンバに応じた音高の音信号を生成する。この例では、ピアノ音波形データが読み出される。EV波形生成部115-1は、変換部88から得られた鍵操作データおよび予め設定されたパラメータに基づいて、エンベロープ波形を生成する。生成されるエンベロープ波形は、減衰制御部131によって一部が調整される。エンベロープ波形の生成方法およびその調整方法については、後述する。乗算器117-1は、波形読出部113-1において生成された音信号に対して、EV波形生成部115-1において生成されたエンベロープ波形を乗算する。
【0045】
n=1の場合について例示したが、乗算器117-1から音信号が出力されているときに次の押鍵がある度に、n=2、3、4・・・と順に押鍵に応じた鍵操作データが適用されていく。例えば、次の押鍵であれば、n=2の構成に鍵操作データが適用されて、上記と同様に乗算器117-2から音信号が出力される。波形合成部119は、乗算器117-1、117-2、・・・、117-32から出力される音信号を合成して出力部180に出力する。
【0046】
[エンベロープ波形]
EV波形生成部115において生成されるエンベロープ波形について説明する。まず、一般的なエンベロープ波形およびパラメータについて説明する。
【0047】
図4は、一般的なエンベロープ波形の定義を説明する図である。
図4に示すように、エンベロープ波形は、複数のパラメータで規定される。複数のパラメータは、アタックレベルAL、アタックタイムAT、ディケイタイムDT、サスティンレベルSLおよびリリースタイムRTを含む。なお、アタックレベルALは最大値(例えば127)に固定としてもよい。この場合、サスティンレベルSLは、0~127の範囲で設定される。
【0048】
ノートオンが発生すると、アタックタイムATの時間でアタックレベルALまで上昇する。その後、ディケイタイムDTの時間でサスティンレベルSLまで減少し、サスティンレベルSLを維持する。ノートオフが発生すると、サスティンレベルSLから消音状態(レベル「0」)まで、リリースタイムRTの時間で減少する。サスティンレベルSLまで到達する前、すなわち、アタックタイムATの期間およびディケイタイムDTの期間においてノートオフがあると、その時点からリリースタイムRTの時間で消音状態に至る。なお、サスティンレベルSLをリリースタイムRTで除算した減衰率で消音状態に至るようにしてもよい。
【0049】
ディケイレートDRは、上述のパラメータから算出できる値であって、アタックレベルALとサスティンレベルSLとの差をディケイタイムDTで除算することによって得られる。このパラメータ(ディケイレートDR)は、ノートオン後のディケイ期間における音の自然減衰の程度(減衰速度)を示している。なお、ディケイ期間においてディケイレートDRの減衰速度は一定(傾斜が直線)である例を示したが、必ずしも一定でなくてもよい。すなわち、減衰速度が予め決められた変化をすることで、傾斜が直線以外で定義されてもよい。
【0050】
図5は、ピアノの音のエンベロープ波形の例を説明する図である。一般的なピアノの音は、例えば、サスティンレベルSLは「0」に設定され、ディケイタイムDTは比較的長く(ディケイレートDRは小さく)設定される。この状態は、ダンパが弦から離れた状態(ダンパオン)を示している。ディケイタイムDTにおいてノートオフがあると、ダンパが弦に接触した状態(ダンパオフ)となり、リリースタイムRTの設定にしたがって点線に示すように急激に減衰する。この例におけるEV波形生成部115は、
図5に示すエンベロープ波形を生成し、減衰制御部131によってディケイレートDRが調整される。ダンパオンであるときには、減衰制御部131は、ディケイレートDR(減衰速度)を、ダンパオフのときよりも遅くなるように制御する。ハーフダンパであるときには、減衰制御部131は、ディケイレートDR(減衰速度)を、ダンパオンのときよりも速くなるように制御する一方、ダンパオフのときよりも遅くなるように制御する。
【0051】
このように減衰速度を制御するパラメータの1つとして、減衰係数Kが用いられる。この例では、制御されたディケイレートをDRfとすると、DRf=DR×Kとして算出される。すなわち、減衰係数Kが大きくなるほど、減衰速度が速くなる。ダンパオンの状態では、減衰係数Kは「1」であり、減衰速度に対応するDRfは、ディケイレートDRと同じである。ハーフダンパの状態における減衰係数Kは「Kh」であり、る。「Kh」は「1」より大きい値であり、減衰速度に対応するDRfは「DR×Kh」である。ダンパオフの状態における減衰速度は、リリースタイムRTに応じた減衰速度に対応するため、ハーフダンパ状態における減衰速度「DR×Kh」よりも大きい値である。
【0052】
これらのパラメータはエンベロープ波形を規定する設定値としての説明であって、アタックレベルAL等の各レベルは相対的な値である。したがって、EV波形生成部115から出力されるエンベロープ波形、すなわち、乗算器117において音信号に乗算されるエンベロープ波形では、ベロシティに応じて出力レベルの絶対値が調整されている。なお、出力レベルの調整は、増幅回路により実現されてもよい。
【0053】
[減衰制御テーブル]
減衰制御部131は、上述したように減衰制御テーブル135を参照して、ノートナンバに対応するダンパ設定範囲を決定する。すなわち、2つの発音に対応するノートナンバが互いに異なれば、2つの発音に対応するダンパ設定範囲も互いに異なるように決定される。そのため、ダンパペダル91の操作位置によっては、例えば、ダンパオフに制御された発音とハーフダンパに制御された発音とが同時に発生する場合もある。
【0054】
図6は、一実施形態における減衰制御テーブルに規定されるダンパ設定範囲とノートナンバとの関係を説明する図である。横軸にはノートナンバ(NN)が示されている。この例では、ノートナンバ「0」(音高「C-1」に対応)からノートナンバ「127」(音高「G9」に対応)までの範囲で横軸が定義されている。縦軸にはダンパペダル91の操作位置が示されている。この例では、ダンパペダル91の操作位置が変化可能な範囲、すなわちレスト位置RPからエンド位置EPまでの範囲で縦軸が定義されている。
【0055】
境界位置HSは、ダンパオフ範囲Doff(第3範囲)とハーフダンパ範囲Dh(第2範囲)との境界位置(第2境界位置)を示している。境界位置HFは、ハーフダンパ範囲Dh(第2範囲)とダンパオン範囲Don(第1範囲)との境界位置(第1境界位置)を示している。
図6に示す例では、ノートナンバが大きくなるほど、すなわち音高が高くなるほど、境界位置HSおよび境界位置HFのいずれも、徐々にレスト位置RPに近くなるように、ダンパ設定範囲が決定される。言い換えると、第1音高における境界位置HSおよび境界位置HFよりも、第1音高よりも高い第2音高における境界位置HSおよび境界位置HFがレスト位置RPに近い。この例では、境界位置HSと境界位置HFとの差、すなわちハーフダンパ範囲Dhの大きさは、ノートナンバによらず一定である。境界位置HSおよび境界位置HFは、ノートナンバを変数とする所定の演算式で算出されてもよい。
【0056】
[減衰制御処理]
図7は、本発明の一実施形態における減衰制御処理を示すフローチャートである。減衰制御処理は、鍵操作データによりノートオンが検出されて波形データが読み出されると(より詳細にはディケイ期間に到達すると)、それぞれのノートオンに対応して生成される音に対して実行される。減衰制御処理の対象となっている音を処理対象音という場合がある。したがって、
図3に示すように、同時に発音できる数が32であれば、最大で32の減衰制御処理が並列に実行される。
【0057】
まず、減衰制御部131は、前回の判定から今回の判定までの間に、鍵操作データに基づいてノートオフが検出されたかどうか(ステップS101)を判定する。処理対象音に対応するノートオフが検出されていない場合(ステップS101;No)、押鍵されている状態に対応するため、ダンパペダルの状態にかかわらず、減衰制御部131は、減衰係数Kを「1」に設定する(ステップS111)。すなわち、通常のディケイレートDRf(=DR×1)のままの減衰速度に設定される。減衰制御部131は、単位時間の減衰処理を実行して(ステップS121)、ステップS101に戻って処理を続ける。単位時間とは、所定の処理単位に対応する時間であり、例えば、1クロックでの処理時間に対応する。
【0058】
処理対象音に対応するノートオフが検出されている場合(ステップS101;Yes)、減衰制御部131は、処理対象音に対応するノートナンバ(ノートオフに対応するノートナンバ)を取得し、減衰制御テーブル135を参照して、ノートナンバに対応するダンパ設定範囲を取得する(ステップS103)。続いて、減衰制御部131は、ダンパ設定範囲に基づいて、ダンパペダル91の操作位置がダンパオン範囲Don、ハーフダンパ範囲Dhおよびダンパオフ範囲Doffのいずれに含まれるかを判定する。この例では、減衰制御部131は、ダンパペダル91の操作位置がダンパオフ範囲Doffであるかどうか、およびハーフダンパ範囲Dhであるかどうかを判定する(ステップS105、S107)。
【0059】
ダンパペダル91の操作位置がダンパオン範囲Donである場合(ステップS105;No、ステップS107;No)、離鍵された状態におけるダンパオンに対応するため、減衰制御部131は、上述したステップS111およびステップS121の処理を実行して、ステップS101に戻って処理を続ける。
【0060】
ダンパペダル91の操作位置がハーフダンパ範囲Dhである場合(ステップS105;No、ステップS107;Yes)、離鍵された状態におけるハーフダンパに対応するため、減衰制御部131は、減衰係数Kを「Kh」に設定する(ステップS113)。減衰制御部131は、設定した減衰係数Kにより決まるディケイレートDRf(DR×Kh)により単位時間の減衰処理を実行して(ステップS121)、ステップS101に戻って処理を続ける。
【0061】
ダンパペダル91の操作位置がダンパオフ範囲Doffである場合(ステップS105;Yes)、離鍵された状態におけるダンパオフに対応するため、減衰制御部131は、リリースに移行し(ステップS123)、減衰制御処理を終了する。すなわち、減衰制御部131は、ディケイレートDRfでの減衰速度からリリース期間に対応する減衰速度に切り替えるように制御する。
【0062】
アコースティックピアノにおいては、音高が高いほど、弦の振幅が小さくなりやすい。そのため、ダンパペダルをエンド位置からレスト位置に戻していくときに、音高が低く弦の振幅が大きいほどその弦にダンパが接触しやすい。上述した減衰制御処理によれば、ノートナンバが大きい(音高が高い)ほど、ダンパオフからハーフダンパとなる操作位置およびハーフダンパからダンパオンとなる操作位置が、レスト位置RPに近づく。これにより、演奏の状況(操作対象の鍵の音高)に応じて、減衰制御を変更するときのダンパペダル91の操作位置を変化させることができるから、演奏者は、アコースティックピアノの演奏に近い感覚を得ることができる。
【0063】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、上述した実施形態に限定されるものではなく、他の様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施形態は本開示を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。以下、一部の変形例について説明する。以下に説明する変形例は互いに組み合わせて適用することもできる。
【0064】
(1)上述した減衰制御テーブル135は、一実施形態において説明した例(
図6)に限らない。上述した
図6に示す例では、以下の2つの条件を満たすように減衰制御テーブル135においてダンパ設定範囲が定義されている。
(a)ノートナンバが大きくなるほど、境界位置HSおよび境界位置HFのいずれも、徐々にレスト位置RPに近くなる。
(b)境界位置HSと境界位置HFとの差、すなわちハーフダンパ範囲Dhの大きさは、ノートナンバによらず一定である。
【0065】
本変形例では、ダンパ設定範囲とノートナンバとの関係について、複数例を説明する。それぞれの例では、アコースティックピアノに近い演奏感を得ることを目的とする場合に限られない。すなわち、演奏の状況によってダンパ設定範囲が変化するようにできればよいのであり、その目的は様々である。
【0066】
目的とする効果によって使用される音色も様々であるから、波形データについても必ずしもアコースティックピアノの音をサンプリングしたものに限られない。すなわち、波形データは、エレクトリックピアノの音をサンプリングしたものであってもよいし、その他の楽器の音をサンプリングしたものであってもよい。また、所定の波形データを合成したり変調したりして生成したものであってもよい。発音対象として選択された音色に応じて、以下に例示される複数種類の減衰制御テーブル135から特定のテーブルが選択されて、減衰制御部131によって参照されてもよい。
【0067】
図8から
図14は、変形例における減衰制御テーブルに規定されるダンパ設定範囲とノートナンバとの関係を説明する図である。
図8に示す例では、ノートナンバが大きくなるほど境界位置HS(第1境界位置)が徐々にレスト位置RPに近づくが、境界位置HFは、
図6に示す例よりも傾きが小さく、ここではノートナンバによらず一定である。その結果、ノートナンバが大きくなるほど、ハーフダンパ範囲Dhが大きくなる。このように、減衰速度が「DR×Kh」(第1速度)のハーフダンパ範囲Dh(第1範囲)と、減衰速度がリリースタイムRTに応じた速度(第2速度)のダンパオフ範囲Doff(第2範囲)との間のみ、ノートナンバによって境界位置が変化してもよい。一方、一実施形態とは異なり、減衰速度が「DR×Kh」(第1速度)のハーフダンパ範囲Dh(第1範囲)と、減衰速度が「DR×1」(第3速度)のダンパオン範囲Don(第3範囲)との間は、ノートナンバによって境界位置が変化しなくてもよい。
【0068】
図9に示す例では、ノートナンバが大きくなるほど境界位置HF(第1境界位置)が徐々にレスト位置RPに近づくが、境界位置HSは、
図6に示す例よりも傾きが小さく、ノートナンバによらず一定である。その結果、ノートナンバが大きくなるほど、ハーフダンパ範囲Dhが小さくなる。このように、減衰速度が「DR×1」(第1速度)のダンパオン範囲Don(第1範囲)と、減衰速度が「DR×Kh」(第2速度)のハーフダンパ範囲Dh(第2範囲)との間のみ、ノートナンバによって境界位置が変化してもよい。一方、一実施形態とは異なり、減衰速度が「DR×Kh」(第1速度)のハーフダンパ範囲Dh(第1範囲)と、減衰速度がリリースタイムRTに応じた速度(第3速度)のダンパオフ範囲Doff(第3範囲)との間は、ノートナンバによって境界位置が変化しなくてもよい。
【0069】
図10に示す例では、ノートナンバが大きくなるほど境界位置HSが徐々にエンド位置EPに近づくが、ノートナンバが大きくなるほど境界位置HFが徐々にレスト位置RPに近づく。その結果、ノートナンバが大きくなるほど、ハーフダンパ範囲Dhが小さくなる。
【0070】
上述したように、アコースティックピアノにおいては、ダンパペダルをエンド位置からレスト位置に戻していくときに、音高が低い弦(振動が大きくなりやすい弦)ほど弦にダンパが接触しやすい。一方、ハーフダンパになると、いずれの音高の弦についても振動が制限され、概ね同じ振幅を有するようになるとも考えられる。このような場合を想定すると、ハーフダンパからダンパオフにするときは、ダンパペダルを位置は音高に依存しない。したがって、
図9に示すように、ハーフダンパ範囲Dhからダンパオフ範囲Doffに移行する位置、すなわち境界位置HSが音高によらず一定である方が、よりアコースティックピアノに近いと考えることもできる。
【0071】
また、ハーフダンパの状態になって振動が制限された状態でも、低い音高の方が弦の運動エネルギが大きいため、ダンパとは反対側への弦振動が生じやすいとも考えられる。このような場合を想定すると、ダンパオフの状態にするためには、低い音高ほど、ダンパペダルをレスト位置に近づけなければならない。したがって、
図10に示すように、低い音高ほど境界位置HSがレスト位置RPに近づくようにした方が、よりアコースティックピアノに近いと考えることもできる。
【0072】
図11に示す例では、
図6に示す例とは逆であり、ノートナンバが大きくなるほど境界位置HSおよび境界位置HFが徐々にエンド位置EPに近づく。その結果、ハーフダンパ範囲Dhの大きさは、ノートナンバによらず一定である。このように、境界位置HSおよび境界位置HFは、ノートナンバが変化したときに、互いに異なる傾きを有してもよいし、ノートナンバが大きくなるほどエンド位置EPに近づいてもよい。
【0073】
図12に示す例では、特定ノートナンバSNよりも小さいノートナンバに対応する境界位置HS1および境界位置HF1、特定ノートナンバSNよりも大きいノートナンバに対応する境界位置HS2および境界位置HF2が減衰制御テーブル135によって定義されている。この例では、境界位置HS1と境界位置HS2とは上述した境界位置HSと同様である。一方、境界位置HF2は境界位置HF1よりも傾きが小さく、ここでは、ノートナンバによらず一定である。このように、境界位置HSおよび境界位置HFの少なくとも一方は、特定ノートナンバSNより小さい範囲と大きい範囲とで異なる傾きを有してもよい。ノートナンバの範囲は、1つの特定ノートナンバSNにより2つの範囲に区切られているが、3つ以上の範囲に区切られてもよい。区切られる位置が、境界位置HSと境界位置HFとで異なってもよい。
【0074】
図13に示す例では、特定ノートナンバSNよりも小さいノートナンバに対応する境界位置HS1および境界位置HF1、特定ノートナンバSNよりも大きいノートナンバに対応する境界位置HS2および境界位置HF2が減衰制御テーブル135によって定義されている。境界位置HS1、境界位置HS2、境界位置HF1および境界位置HF2は、いずれもノートナンバによらず一定である。一方、境界位置HS1は、境界位置HS2よりもエンド位置EPに近く、境界位置HF1は、境界位置HF2よりもエンド位置EPに近い。すなわち、特定ノートナンバSNにおいて、境界位置HS1と境界位置HS2とは不連続であり、境界位置HF1と境界位置HF2とで不連続である。このように、境界位置HSおよび境界位置HFの少なくとも一方は、特定ノートナンバSNより小さい範囲と大きい範囲とで不連続であってもよい。ノートナンバの範囲は、1つの特定ノートナンバSNにより2つの範囲に区切られているが、3つ以上の範囲に区切られてもよい。区切られる位置が、境界位置HSと境界位置HFとで異なってもよい。
【0075】
図14に示す例では、ハーフダンパ範囲Dhを含まないダンパ設定範囲が減衰制御テーブル135に定義されている。すなわち、ダンパ設定範囲は、ダンパオフ範囲Doffおよびダンパオン範囲Donを含む。境界位置DSは、ダンパオフ範囲Doffとダンパオン範囲Donとの境界位置を示している。ノートナンバが大きくなるほど、境界位置DSが徐々にレスト位置RPに近づく。このように、ダンパ設定範囲は、3つの範囲を含む場合に限らず、ダンパオフ範囲Doffおよびダンパオン範囲Donに例示されるように少なくとも2つの範囲を含めばよい。ダンパ設定範囲は、四つ以上の範囲を含んでもよい。例えば、ハーフダンパ範囲Dhがさらに2つの範囲に分かれていてもよい。この場合には、ダンパオフ範囲Doffに近いハーフダンパ範囲Dh1よりもダンパオン範囲Donに近いハーフダンパ範囲Dh2の方が、減衰係数Kが小さくてもよい。これにより、ハーフペダル操作をしたときのダンパの影響をより精度よく反映することが可能となる。
【0076】
(2)上述した減衰制御テーブル135は、
図6に示した例のように、ダンパ設定範囲がノートナンバ(音高情報)によって決まる場合に限らず、鍵70の操作によって得られる制御情報であればよい。本変形例では、制御情報の一例として、ベロシティ(速度情報)、音の出力レベル(出力レベル情報)および鍵の加速度(加速度情報)について説明する。その他にも、鍵70の挙動を示す情報、鍵70の操作によって生成される音に関する情報であってもよい。また、例えば、鍵盤楽器1が鍵70への操作により回動する錘(アコースティックピアノのハンマを模擬した構成)を有する場合には、この錘の挙動(例えば、速度または加速度)であってもよい。この例においても、変形例(1)で示した
図8から
図14に示す変形と同様に、ダンパ設定範囲を変形することができる。
【0077】
図15は、変形例における減衰制御テーブルに規定されるダンパ設定範囲とベロシティとの関係を説明する図である。
図15に示すように、横軸にはベロシティ(VL)が示されている。この例では、ベロシティ「0」(鍵70の速度が最小(停止)に対応)からベロシティ「127」(鍵70の速度が最大に対応)までの範囲で横軸が定義されている。縦軸にはダンパペダル91の操作位置が示されている。
図15に示す例では、ベロシティが大きくなるほど、境界位置HSおよび境界位置HFのいずれも、徐々にエンド位置EPに近くなるように、ダンパ設定範囲が決定される。言い換えると、ベロシティが第1速度である場合における境界位置HSおよび境界位置HFよりも、第1速度よりも小さい第2速度における境界位置HSおよび境界位置HFがレスト位置RPに近い。境界位置HSと境界位置HFとの差、すなわちハーフダンパ範囲Dhの大きさは、ベロシティによらず一定である。
【0078】
減衰制御部131は、鍵操作データにおけるベロシティを取得して、
図7に示すステップS103の処理において、ベロシティに対応するダンパ設定範囲を取得すればよい。アコースティックピアノに適用される場合、ベロシティが大きいほど、弦の振幅が大きい。そのため、ダンパペダルをエンド位置からレスト位置に戻していくときに、鍵が速く操作されて弦の振幅が大きいほど、その弦にダンパが接触しやすい。ベロシティに基づいてダンパ設定範囲が決まることによって、アコースティックピアノの演奏感に近づけることもできる。
【0079】
図16は、変形例における減衰制御テーブルに規定されるダンパ設定範囲と出力レベルとの関係を説明する図である。
図16に示すように、横軸には出力レベル(EL)が示されている。この例では、出力レベル「0」から出力レベル「127」までの範囲で横軸が定義されている。縦軸にはダンパペダル91の操作位置が示されている。ここで、減衰制御部131は、処理対象音に対応するEV波形生成部115から出力レベルを取得して、
図7に示すステップS103の処理において、出力レベルに対応するダンパ設定範囲を取得すればよい。
【0080】
図16に示す例では、出力レベルが大きくなるほど、境界位置HSおよび境界位置HFのいずれも、徐々にエンド位置EPに近くなるように、ダンパ設定範囲が決定される。言い換えると、第1出力レベルにおける境界位置HSおよび境界位置HFよりも、第1出力レベルよりも小さい第2出力レベルにおける境界位置HSおよび境界位置HFがレスト位置RPに近い。境界位置HSと境界位置HFとの差、すなわちハーフダンパ範囲Dhの大きさは、出力レベルによらず一定である。アコースティックピアノに適用される場合、出力レベルが大きいほど、弦の振幅が大きい。そのため、ダンパペダルをエンド位置からレスト位置に戻していくときに、出力レベルが大きく弦の振幅が大きいほど、その弦にダンパが接触しやすい。出力レベルに基づいてダンパ設定範囲が決まることによって、アコースティックピアノの演奏感に近づけることもできる。
【0081】
図17は、変形例における減衰制御テーブルに規定されるダンパ設定範囲と加速度との関係を説明する図である。
図17に示すように、横軸には加速度(ACC)が示されている。この例では、加速度「0」(鍵70の加速度が最小に対応)から加速度「127」(鍵70の加速度が最大に対応)までの範囲で横軸が定義されている。縦軸にはダンパペダル91の操作位置が示されている。
図17に示す例では、加速度が大きくなるほど、境界位置HSおよび境界位置HFのいずれも、徐々にエンド位置EPに近くなるように、ダンパ設定範囲が決定される。境界位置HSと境界位置HFとの差、すなわちハーフダンパ範囲Dhの大きさは、加速度によらず一定である。
【0082】
減衰制御部131は、処理対象音に対応する加速度を取得して、
図7に示すステップS103の処理において、加速度に対応するダンパ設定範囲を取得すればよい。このとき、変換部88は、鍵挙動測定部75から入力される情報に基づいて鍵の加速度を生成し、鍵操作データとして減衰制御部131に提供してもよい。アコースティックピアノに適用される場合、加速度が大きいほど、弦の振幅が大きい。そのため、ダンパペダルをエンド位置からレスト位置に戻していくときに、鍵が高加速で操作されて弦の振幅が大きいほど、その弦にダンパが接触しやすい。加速度に基づいてダンパ設定範囲が決まることによって、アコースティックピアノの演奏感に近づけることもできる。
【0083】
(3)減衰制御テーブル135においては、所定範囲のノートナンバにおいてダンパ設定範囲が決められていなくてもよい。ダンパ設定範囲が決められていない領域は、減衰速度が制御されず、所定のディケイレートDRが設定される。
【0084】
図18は、変形例における減衰制御テーブルに規定されるダンパ設定範囲とノートナンバとの関係を説明する図である。
図18に示す例では、ノートナンバのうち上限ノートナンバUPより大きい範囲では、境界位置HSおよび境界位置HFが存在せず、ダンパ設定範囲の対象外として非制御範囲NCになっている。減衰制御部131は、非制御範囲NCにおける音高により生成された音を、減衰制御処理の対象としない。このようにすると、アコースティックピアノにおける高音の弦のように、ダンパが配置されていない状況を再現することもできる。
【0085】
(4)ダンパ設定範囲は、1つの制御情報(例えば、ノートナンバ)に対応して決められる場合に限らず、複数の制御情報に対応して決められてもよい。例えば、ノートナンバとベロシティとに対応してダンパ設定範囲が決められてもよい。この場合には、ノートナンバとベロシティとを変数とする所定の演算式により境界位置HSおよび境界位置HFが算出されてもよい。
【0086】
図19は、変形例における減衰制御テーブルに規定されるダンパ設定範囲と複数の制御情報(ノートナンバおよびベロシティ)との関係を説明する図である。
図19に示す例では、わかりやすく示すため、ダンパオン範囲Donおよびダンパオフ範囲Doffを含むダンパ設定範囲とした。ダンパオン範囲Donとダンパオフ範囲Doffとの境界位置DSは、ノートナンバとベロシティとに対応して決められている。
【0087】
図19に示す例では、ノートナンバが大きくなるほど、またベロシティが小さくなるほど境界位置DSはレスト位置RPに近い。すなわち、ノートナンバが最小かつベロシティが最大のときに、境界位置DSは最もエンド位置EPに近くなる。ベロシティに対する境界位置DSの増加量は、ノートナンバが「0」の場合と「127」の場合とで同じであってもよいし異なってもよい。境界位置DSの取り得る範囲(上限および下限)が予め決められていてもよい。
【0088】
(5)ダンパ設定範囲において境界位置HSおよび境界位置HFの少なくとも一方が、ノートナンバなどの制御情報の変化に対して非線形に変化してもよい。例えば、
図6に示す減衰制御テーブル135において、境界位置HSおよび境界位置HFの少なくとも一方が、曲線で描かれるようにダンパ設定範囲が定義されてもよい。
【0089】
(6)鍵70の操作によって得られる制御情報によりダンパ設定範囲を変更するだけでなく、さらに減衰速度を変更してもよい。例えば、ハーフダンパであるときに減衰係数Kは「Kh」に設定されるが、このときに、ノートナンバ等の制御情報によってさらに「Kh」の値が変化するように設定されてもよい。減衰速度の制御は、シフトペダル93への操作によって実現されてもよい。具体的な処理方法は、先行技術文献として開示した国際公開第2019/058457に例示されている。
【0090】
(7)上述した実施形態では、鍵盤楽器1を実施の一例として説明したが、鍵盤楽器1に含まれる音信号生成部800、すなわち信号生成装置としても実施可能であり、また、音信号生成部800を含む音源部80としても実施可能である。この場合には、鍵盤を有する入力デバイスおよびダンパペダルを有する入力デバイスから、鍵操作データおよびペダル操作データを取得してもよいし、鍵操作データおよびペダル操作データを生成するための情報を取得するようにしてもよい。鍵操作データおよびペダル操作データは、所定の規格(例えばMIDI規格)で規定されたデータ等によって外部装置から提供されてもよいし、記録媒体に時系列に記録された状態で提供されてもよい。
【0091】
(8)音源部80の各機能の全部または一部を、制御部10のCPUによる制御プログラムの実行によって実現してもよい。この場合、減衰制御処理を制御部10(コンピュータ)に実行させるためのプログラムが、記録媒体またはネットワークを介したダウンロードによって提供されてもよい。また、パーソナルコンピュータ等にこのプログラムをダウンロードして実行することで、このコンピュータを信号生成装置として用いてもよい。
【0092】
(9)上述した実施形態における鍵盤楽器1では、筐体50とペダル装置90とが互いに着脱可能に構成されていたが、一体の筐体に収められ着脱可能でなくてもよい。
【0093】
(10)シフトペダル93の操作位置に応じて音の減衰速度が補正されてもよい。
【0094】
(11)音の減衰速度は、エンベロープ波形を変化させることによって制御されていたが、残響を付加する程度を制御することによって制御されてもよい。
【符号の説明】
【0095】
1…鍵盤楽器、10…制御部、21…操作部、23…表示部、30…記憶部、50…筐体、60…スピーカ、75…鍵挙動測定部、80…音源部、88…変換部、90…ペダル装置、91…ダンパペダル、93…シフトペダル、95…ペダル挙動測定部、111…信号生成部、113…波形読出部、115…EV波形生成部、117…乗算器、119…波形合成部、131…減衰制御部、135…減衰制御テーブル、151…波形データ記憶部、180…出力部、800…音信号生成部