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特開2023-35678水素補給制御装置、水素補給装置及び水素補給プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035678
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】水素補給制御装置、水素補給装置及び水素補給プログラム
(51)【国際特許分類】
   F17C 5/06 20060101AFI20230306BHJP
   F17C 13/02 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
F17C5/06
F17C13/02 301Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142706
(22)【出願日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】脇屋 健
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB01
3E172BA01
3E172BA04
3E172BD03
3E172DA90
3E172EA02
3E172EA22
3E172EA23
3E172EA24
3E172EA48
3E172KA03
3E172KA22
3E172KA23
(57)【要約】
【課題】 安全に、早く、多量に水素を充填することができる水素補給制御装置、水素ステーション及び水素補給プログラムを提供する。
【解決手段】 水素補給制御装置30は、水素ステーション100から燃料電池車両50の燃料タンク51に補給されようとする流通水素の圧力Pを取得する水素圧力取得部41と、流通水素の温度Tを取得する水素温度取得部42と、燃料タンク51のタンクサイズを推定するタンクサイズ推定部44と、水素ステーション100の外気温Tを取得する外気温取得部43と、流通水素の初期圧P、流通水素温度T及び外気温Tに基づいて質量平均水素温度(MATE)を算出する水素温度算出部45と、算出されたMATE及びタンクサイズに基づいて流通水素の目標昇圧率Ωを決定する決定部47と、を備える。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ステーションから車両の燃料タンクに補給されようとする流通水素の圧力を取得する水素圧力取得部と、
前記流通水素の温度を取得する水素温度取得部と、
前記燃料タンクのタンクサイズを推定するタンクサイズ推定部と、
前記水素ステーションの外気温を取得する外気温取得部と、
前記流通水素の初期圧、前記温度及び前記外気温に基づいて質量平均水素温度を算出する水素温度算出部と、
算出された前記質量平均水素温度及び前記タンクサイズに基づいて前記流通水素の目標昇圧率を決定する決定部と、を備えることを特徴とする水素補給制御装置。
【請求項2】
前記質量平均水素温度は、前記外気温、前記温度及び前記初期圧を変数とした重回帰分析により算出される請求項1に記載の水素補給制御装置。
【請求項3】
前記目標昇圧率は、後続して取得される昇圧率以上である請求項1又は請求項2に記載の水素補給制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の水素補給制御装置と、
充填開始から所定の時間の間前記目標昇圧率を用いて前記流通水素の流量を制御する制御部と、を備える水素補給装置。
【請求項5】
前記目標昇圧率を用いた制御は二輪用の前記燃料タンクに用いられる請求項4に記載の水素補給装置。
【請求項6】
前記タンクサイズの設定を受け付けるサイズ設定部を備え、
前記決定部は、設定された前記タンクサイズに基づいて前記目標昇圧率を決定する請求項4又は請求項5に記載の水素補給装置。
【請求項7】
コンピュータに、
水素ステーションから車両の燃料タンクに補給されようとする流通水素の圧力を取得するステップ、
前記流通水素の温度を取得するステップ、
前記燃料タンクのタンクサイズを推定するステップ、
前記水素ステーションの外気温を検出するステップ、
前記流通水素の初期圧、前記温度及び前記外気温に基づいて質量平均水素温度を算出するステップ、
算出された前記質量平均水素温度及び前記タンクサイズに基づいて前記流通水素の目標昇圧率を決定するステップ、を実行することを特徴とする水素補給プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、燃料電池車両に水素を供給する水素補給技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、燃料電池車両の燃料タンクへ水素を補給する際、安全性の観点から燃料タンクのタンク内温度、充填圧力及び充填率が所定値を超えてはならないことが法定されている。この安全性の条件が満たされる下で、より「多量に」「早く」充填するために定められた補給態様に関する規格に、MC-Formula補給プロトコルがある。MC-Formula補給プロトコルでは、水素補給装置内のデータを毎秒読み取って随時充填水素の目標昇圧率を導出して水素の供給量を逐次制御することが規定されている。
【0003】
燃料電池車両内や水素補給装置内の水素の流路は、外気にさらされているため普段は外気温を示す。MC-Formula補給プロトコルでは、水素流路の温度を十分に冷却するために、水素の充填開始から30秒間は冷却された水素を所定の昇圧率で供給するように定められている。燃料タンク内での充填水素の目標昇圧率は、理論上は燃料タンクに充填された水素の温度及び外気温に基づいて決定可能である。しかし、燃料タンク内の水素の温度は計測できないため、従来では、熱ノイズ等の熱マスが特に大きい充填開始後約30秒間は任意の一定値を推定温度として使用していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-122657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の技術では、充填完了時の燃料タンク内の水素の推定温度を任意の一定値に定め目標昇圧率を決定していたため、安全に、早く、多量に水素を補給することができないという課題があった。この一定値が充填完了時の燃料タンク内の到達温度から大きく乖離した場合に、燃料タンク内のオーバーヒートを回避するため充填が中断されるためである。特に外気温が高い場合、配管等からの熱で水素が昇温して到達温度の予想が不正確になるため、充填の中断が発生しやすい。また、二輪車では、水素流量が少なく充填完了時の到達温度が外気温や配管温度などの周辺環境の影響を大きく受けるため、温度推定の誤差が大きい。
【0006】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、安全に、早く、多量に水素を充填することができる水素補給制御装置、水素補給装置及び水素補給プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態に係る水素補給制御装置は、水素ステーションから車両の燃料タンクに補給されようとする流通水素の圧力を取得する水素圧力取得部と、前記流通水素の温度を取得する水素温度取得部と、前記燃料タンクのタンクサイズを推定するタンクサイズ推定部と、前記水素ステーションの外気温を取得する外気温取得部と、前記流通水素の初期圧、前記温度及び前記外気温に基づいて質量平均水素温度を算出する水素温度算出部と、算出された前記質量平均水素温度及び前記タンクサイズに基づいて前記流通水素の目標昇圧率を決定する決定部と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、最適な目標昇圧率で水素を充填することができる水素補給制御装置、水素補給装置及び水素補給プログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る水素補給装置が設置された水素ステーションの概略図。
図2】第1実施形態に係る水素補給装置及び燃料電池車両の機能ブロック図。
図3】水素の充填時間と流通水素圧力との関係を示すグラフ。
図4】第1実施形態に係る水素補給装置の動作手順を示すフローチャート。
図5】第2実施形態に係る水素補給装置及び燃料電池車両の機能ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る水素補給装置10が設置された水素ステーション100の概略図である。
水素ステーション100で供給される水素は、多数のカードルに貯蔵された水素が圧縮機で高圧にされて、図1に示されるように蓄圧器11に貯蔵されたものである。蓄圧器11は、導管12によって水素補給装置(以下、単に「補給装置」という)10の充填ノズル13のホース24に接続される。
【0012】
補給装置10は、水素ステーション100に停止した燃料電池車両(以下、単に「車両」という)50に気体の水素を補給する、いわゆるディスペンサーである。車両50に内蔵された燃料タンク51の充填口52に充填ノズル13が接続されて、水素が燃料タンク51に充填される。燃料タンク51は、例えば、35MPa(二輪車対応)又は70MPa(四輪車対応)の圧力に対応可能な高圧タンクである。車両50は、燃料タンク51に充填されて一時貯蔵される水素(以下、「流通水素」という)を酸化させることで発電して、その電気エネルギーで駆動する。
補給装置10には、例えばタッチパネル式の入出力画面21が設けられ、所望の充填量など利用者からの各種入力を受け付ける。入出力画面21には、充填中における充填速度及び充填量などの各種情報も表示される。
【0013】
また、図2は、第1実施形態に係る補給装置10及び燃料電池車両50の機能ブロック図である。
以下、図2を用いて、補給装置10、水素補給制御装置30、及び圧力調整部40について、順に説明する。
【0014】
<水素補給装置(補給装置)10>
水素ステーション100の導管12には、補給装置10の内部において、流量調整弁14、事前冷却器15、冷却温度計16、遮断弁17、流量計18、流路圧力計19、流路温度計20、及び緊急離脱カプラ(B/A:Break Away)25がこの順で設けられる。
【0015】
事前冷却器15は、熱交換器部分が補給装置10の内部に設けられ、本体部は補給装置10の外部に設置される。事前冷却器15は、圧縮機で圧縮された室温程度の水素を例えば-40℃~-20℃程度にまで冷却する。水素は十分に冷却された状態で燃料タンク51に充填される必要があるためである。事前冷却器15から導管12に流出する水素は、冷却温度計16においてその温度が冷却水素温度Tpcとして確認されてから補給装置10に供給される。導管12に供給された水素は導管12や車内配管53等の流路上の各構造機器から熱を奪って燃料タンク51に充填されるため、流通水素温度Tは冷却水素温度Tpcよりも高くなる。
【0016】
B/A25は、充填ノズル13が車両50に接続された状態で車両50が動き出してしまった場合に、車両50を補給装置10から切り離すためのカプラである。B/A25により、水素を漏洩させずに安全に車両50を補給装置10から切り離すことができる。このB/A25には、流路圧力計19及び流路温度計20が設けられる。
【0017】
流路圧力計19は、B/A25通過時点の流通水素の圧力(以下、「流通水素圧力P」という)を検出する。
また、流路温度計20は、B/A25通過時点の流通水素の温度(以下、「流通水素温度T」という)を検出する。
【0018】
なお、流路圧力計19及び流路温度計20の配置位置は、充填ノズル13から出射される前の水素の圧力又は温度を測定できれば、必ずしもB/A25の内部又は直近でなくてもよい。例えば、流路圧力計19及び流路温度計20の配置位置は、充填ノズル13のホース24上であってもよい。この他に、水素ステーション100内には、水素ステーション100の設置場所の外気温Tを検出する大気温度計22が設けられる。
【0019】
<水素補給制御装置(制御装置)30>
水素補給制御装置(以下、単に「制御装置」という)30は、補給装置10の内部又は外部近傍に設けられ、水素ステーション100の各所に設けられた各制御機器(14~20)を制御する。
【0020】
制御装置30は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を備えたマイクロコンピュータとして構成される。CPUは、制御プログラムに従って所望の演算を実行して、種々の処理や制御を行う。ROMは、CPUで処理する制御プログラムや制御データを記憶し、RAMは、主として制御処理のための各種作業領域として使用される。
制御装置30は、不図示のネットワークで大気温度計22、流量調整弁14、流路圧力計19、流路温度計20、遮断弁17及び流量計18のほか、蓄圧器11とも電気的に接続される。
【0021】
また、制御装置30は、図2に示されるように、互いに通信ネットワーク31で接続された、記憶部32、入出力インターフェース33、制御部34及び圧力調整部40を備える。
記憶部32は、上述のROMやRAMから構成される。記憶部32は、例えば、質量平均水素温度(MAT:Mass Average Temperature)と充填完了時間tfinとの関係をマッピングした充填時間算出マップを保持する。
MATは、B/A25を流通水素の全質量により流路圧力計19で検出した流通水素温度Tを除算した物理量であり、流通水素の絶対温度に比例する。
また、記憶部32は、水素補給時に計測した流通水素温度T又は流通水素圧力P等の各種データを記憶する。
【0022】
入出力インターフェース33は、入出力画面21と制御装置30内の各構成(32,34,40)との情報の授受を媒介する。
制御部34は、流量計18で計測した水素の充填流量を監視して、流量調整弁14の開度をフィードバック制御する。また、制御部34は、遮断弁17の開閉も制御する。
圧力調整部40は、補給装置10内の各種構成機器(13~22)から得られる圧力に関する情報に基づいて、制御部34を介して流量調整弁14の開度を制御する。
制御部34及び圧力調整部40によって、燃料タンク51への水素の充填流量が所望量に調整される。
【0023】
<圧力調整部40>
以下、圧力調整部40について、より詳細に説明する。
圧力調整部40は、図2に示されるように、水素圧力取得部41、水素温度取得部42、外気温取得部43、タンクサイズ推定部44、MATE算出部45、MAT算出部46、及び決定部(図2,5では「目標昇圧率決定部」と表記)47を備える。
【0024】
水素圧力取得部41は、流路圧力計19で検出した流通水素の圧力Pを取得する。
水素温度取得部42は、流路温度計20で検出した流通水素の温度を取得する。
外気温取得部43は、水素ステーション100の外気温Tを取得する。
【0025】
タンクサイズ推定部44は、燃料タンク51のタンクサイズを推定する。タンクサイズは、充填開始後に、流量計18で計測された流通水素の流動量、流通水素圧力Pの上昇率、及び流通水素温度Tの変化率から状態方程式を用いて推定される。
【0026】
水素温度算出部(MATE算出部)45は、流通水素の初期圧、流通水素温度T及び外気温Tに基づいて次式(1)で表されるMATEを算出する。
MATEは、充填開始後約30秒経過時のMATの予測値である。MATEは、初期圧測定充填の完了から充填開始後約30秒経過までの間の水素充填において用いられる。

MATE=b+b[℃]+b[℃]+b[MPa] (1)

ここで、流通水素の初期圧Pは、MATEを用いた充填開始するときの燃料タンク51内の圧力の推定値である。初期圧Pについては後述する。
また、係数b~bの4つの係数は、外気温T、流通水素温度T、初期圧P及びタンクサイズを変数にして決定される係数であり、事前実験の結果から重回帰分析により算出する。係数b~bは、利用者が水素充填をする度に蓄積されたデータに基づいて再計算される。
【0027】
なお、実際に実験用水素ステーションで二輪車用の10Lタンクの水素を充填する試験を行い、その試験結果に基づいて、MATEについて重回帰解析を行い導出した。この重回帰解析の結果、b=-18.1、b=0.13、b=0.79、b=0.22の結果を、誤差1℃未満で決定係数R=97.9の確度で得られた。1℃の誤差は燃料タンク51内がオーバーヒートするほどの誤差ではなく、安全に充填ができると考えられる。なお、大きい誤差を含むMATEに基づいて水素を充填した場合、安全が確保できないと判断され充填が途中で停止する場合がある。よって、早い充填を確保するためには、この誤差は小さいことが好ましい。
【0028】
式(1)により、外気温T、流通水素温度T及び初期圧Pを代入することで、一般的な重回帰分析で、目標昇圧率Ωの算出に適したMATを推定することができる。
MATEは充填開始から約30秒間の激しい水素温度変化をなます意味を有する。流通水素が流動する流路の冷却が十分にされていない最初の30秒間は、流通水素温度Tが急激に変化する。よって、B/A25の地点で流通水素温度Tが特定できても、この値は逐次変化していくため、昇圧率を適切に特定するのは困難である。そこで、MATEを用いて、最適な一定値である目標昇圧率Ωを算出して、この目標昇圧率Ωで水素を充填する。
【0029】
目標昇圧率決定部(決定部)47は、算出されたMATE及びタンクサイズ推定部44で推定されたタンクサイズに基づいて流通水素の目標昇圧率Ωを決定する。
具体的には、決定部47は、充填時間算出マップを参照して、MATEに基づいて水素の充填完了時間tfinを推定する。そして、決定部47は、推定した燃料タンク51のタンクサイズを充填完了時間tfinで除算し、さらに外気温Tを加味して目標昇圧率Ωを決定する。
このように算出した目標昇圧率Ωを用いて流通水素の流量を制御することで、充填開始後約30秒間について、種々の構成機器(13~22,52,53)の熱マスを測定せずに高精度に水素補給を制御することができる。
【0030】
ここで、図3は、水素の充填時間tと流通水素圧力Pとの関係を示すグラフである。
充填ノズル13は、通常、水素補給の終了時に脱圧される。よって、遮断弁17より充填ノズル13側の流路は、充填ノズル13を充填口52への接続の直前では大気圧にされている。よって、遮断弁17が開放されると、遮断弁17より蓄圧器11側の流路に残された高圧の水素が、燃料タンク51に流入する。水素が瞬間的に流入することで、燃料タンク51内及び流通水素の流路内の圧力が瞬間的に急上昇するコネクションパルスが発生する。よって、遮断弁17の開放直後は、図3に示される圧力グラフにおいても、コネクションパルスが確認される。コネクションパルスにより流通水素の流路及び燃料タンク51が均圧化され、圧力Pが平衡になったときの圧力P0αから水素の質量保存を利用して初期圧Pが算出される。
【0031】
なお、コネクションパルスの発生後も流通水素圧力Pが均一化され圧力が一定となっていることが確認できず初期圧Pを取得できない場合がある。この場合、初期圧Pを算出するために、さらに少量の水素を一定速度で燃料タンク51に充填してもよい。このような初期圧測定充填をし、初期圧測定充填により圧力Pが平衡になったときの圧力P0α2から初期圧Pを算出する。なお、初期圧測定充填時には、タンクサイズなど、後続するMATEを用いた充填に必要な情報が計算される。
【0032】
MAT算出部46(図2)は、MATE充填に後続するMAT30充填及びMAT充填を行うためのMAT30及びMATを算出する。
MAT30は、流路温度計20で検出した流通水素温度Tを流量質量で除算した質量平均温度で、充填開始の約30秒後から起算したものである。充填開始後の約30秒間は熱マスが大きいため、MAT30はこの間の温度変化を算入せずに算出される。MAT30は、流通水素温度Tから毎秒算出される。MATEによる30秒間の充填が終わりMAT30充填に切り替わると、実際の水素温度等から計算した目標昇圧率Ωに基づき水素が充填される。
【0033】
MATは、MAT30による水素充填に後続する充填で用いられる質量平均水素温度である。MATもまた、流路温度計20で検出した流通水素温度Tを流量質量で除算した質量平均温度である。MATは、コネクションパルスの終息直後から起算するため、初期測定充填及びMATEを用いた充填期間の大きな温度変化も算入することになる。
MAT30及びMATの目標昇圧率Ωも、MATEと同様に決定部47で計算される。
【0034】
MAT30充填及びMAT充填においては、決定部47は、毎秒算出されるMAT30及びMATに基づいて、約5秒ごとに目標昇圧率Ωを決定する。この結果、MAT30及びMATによる充填期間では、約5秒ごとに水素の供給量が制御されることになる。計測される流通水素圧力Pが既定の移行圧力Ptransに到達した場合に、目標昇圧率Ωの変数はMAT30からMATに切り替えられる。MAT30では算入から除外していた温度変化も水素充填の後半には計算に含ませることで、後半では燃料タンク51内の圧力の上昇が穏やかになる。流通水素圧力Pが目標圧力である充填終了圧力Pendに到達するまで、MATに基づく目標昇圧率Ωで水素補給制御がなされる。
【0035】
なお、MATEがMAT30以上の大きさに設定されることで、MATEに基づく目標昇圧率ΩがMAT30に基づく目標昇圧率Ω以上になる。MATEに基づく目標昇圧率Ωの大きさをMAT30に基づく目標昇圧率Ω以上に設定することで、MC-Formula補給プロトコルによる安全性確保のための規定の下で、短時間で水素を充填することができる。
【0036】
次に、第1実施形態に係る補給装置10の動作手順を、図4のフローチャートを用いて説明する(適宜図2図3を参照)。なお、充填水素は事前に十分に冷却されているものとする。
【0037】
まず、充填ノズル13が燃料タンク51側の充填口52に接続される(S11)。
充填ノズル13の接続後、入出力画面21に表示される充填開始ボタンを押下すると遮断弁17が開放される。そして、遮断弁17より上流側に溜まっていた水素が一気に燃料タンク51へ流入する。そこで、このコネクションパルスの発生を見込んで数秒間待機して燃料タンク51内及び流通水素の流路内の圧力が均一化してからMATのタイムカウントを開始する。
【0038】
タイムカウントを開始後、水素圧力取得部41が、流路圧力計19が測定した流通水素圧力Pの取得を開始する(S12)。
そして、タンク内水素圧力と流通水素圧力Pとが均圧になっているか否か確認する(S13)。図3に示されるような圧力の一定箇所がある場合には、タンク内水素圧力と流通水素圧力Pとが均圧になっているといえる(S13においてYES)。タンク内水素圧力と流通水素圧力Pとが均圧になると、流通水素圧力Pが流路圧力計19で把握することができる。このときの圧力Pを計測初期圧P0αとして、この計測初期圧P0αから初期圧Pを算出する。
【0039】
タンク内水素圧力と流通水素圧力Pとが均圧化しない場合(S13においてNO)、初期圧測定充填を開始する(S14へ)。初期圧測定充填では、一定速度で最大で200gまで充填がなされる。この初期圧測定充填によって、流通水素の流路の全域が均一化され、タンク内水素圧力と流通水素圧力Pとが均圧化する。初期圧測定充填を実施した場合には、この時の均圧化された圧力P0α2から初期圧Pを算出する。
なお、万一初期圧測定充填の途中で燃料タンク51内の温度が85℃を超えるおそれが発生した場合、水素の充填は停止される。
【0040】
均圧化がなされ流路圧力計19により初期圧Pが取得された後(S13においてYES)、MATE算出部45により、式(1)からMATEが算出される(S15)。まず、MATE算出部45がタンクサイズ、初期圧P、外気温T及び流通水素温度Tを取得してMATEを算出する。
そして、決定部47が、MATEから記憶部32に保持された充填時間算出マップを用いて充填完了時間tfinを算出する(S15)。決定部47は、タンクサイズ推定部44で推定したタンクサイズを用いて、充填完了時間tfinから目標昇圧率Ωを導出する。そして、制御部34が、この目標昇圧率Ωを昇圧率に設定し、流量調整弁14を制御して水素流量を制御しながら水素を燃料タンク51に充填する。
【0041】
充填開始から30秒が経過するまで(S16においてYES)、MATEに基づく目標昇圧率Ωで水素充填の制御が行われる(S15へ)。
そして、充填開始から30秒経過すると(S16においてYES)、MATをMATEからMAT30に切り替えて目標昇圧率Ωが算出される(S17)。そして、MAT30に基づく目標昇圧率Ωで水素充填が制御される。MAT30に基づく水素充填に移行した後は、流通水素圧力Pが毎秒検出され、決定部47により5秒毎に目標昇圧率Ωが更新される。
【0042】
流通水素圧力Pが移行圧力Ptransに到達すると、MATにより目標昇圧率Ωが昇圧率に設定され水素が充填される(S18)。
流通水素圧力Pが、充填終了圧力Pendへの到達した場合、充填終了する(END)。なお、流路圧力計19又は流路温度計20が圧力異常又は温度異常を検出した場合、水素充填は途中で停止する。
【0043】
以上のように、第1実施形態に係る制御装置30によれば、最適な目標昇圧率Ωで水素を充填することができる。目標昇圧率Ωを最適化することで、水素を「安全に」、「早く」、「多量に」補給することができる。また、目標昇圧率Ωは自動で算出されるため、より安全に水素を補充することができる。また、作業者による目標昇圧率Ωの設定が不要になるため工数が削減される。なお、第1実施形態に係る水素補給制御プログラムを制御装置30にインストールするだけで制御装置30が実装できるため、ハード機器の変更が不要である。
【0044】
(第2実施形態)
図5は、第2実施形態に係る補給装置10及び燃料電池車両50の機能ブロック図である。
第2実施形態に係る補給装置10には、図5に示されるように、タンクサイズの設定を受け付けるタンクサイズ設定部49が設けられる。また、タンクサイズ推定部44は、タンクサイズ設定部49から設定されたタンクサイズを加味してタンクサイズを推定する。このようにして推定されたタンクサイズは、決定部47において、目標昇圧率Ωの決定に用いられる。
【0045】
水素ステーション100を利用する車両50の燃料タンク51のタンクサイズは、二輪用サイズと四輪用サイズとに大別される。二輪用タンクの10倍のサイズの四輪用タンクに同じ流量で充填すると、満充填時間は二輪用タンクの10倍かかることになる。また、二輪用タンクは四輪用タンクよりも流量が少ないため外部環境温度に依存しやすく、より高精度にMATの推定をしなければ、タンク内温度の上昇により充填が途中で止まってしまう。そこで、予めタンクサイズを大別させることで、タンクサイズの推定精度を向上させることに加え、推定時間を短くすることができる。
【0046】
例えば、タンクサイズ設定部49が入出力画面21に二輪車及び四輪車を表す選択ボタンを表示して、利用者にいずれかのボタンを選択させる。なお、タンクサイズの選択には、テンキーを利用して、利用者にタンクサイズをテンキー入力させてもよい。
また、タンクサイズを選択させるタイミングは、図4のフローチャートにおいて、ステップS11のノズル接続時の事前又は後段が好ましい。
【0047】
なお、利用者による選択が誤っており、四輪用の流量で二輪車の燃料タンク51に誤充填されてしまうことがある。そこで、利用者によるタンクサイズの選択がなされる場合にも、タンクサイズ推定部44によるタンクサイズの推定は必要である。
【0048】
なお、利用者が選択したタンクサイズを加味してタンクサイズを推定すること以外は、第2実施形態は第1実施形態と同様の構成及び動作になるので、重複する説明を省略する。また、図面においても、同一の構成には同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0049】
以上のように、第2実施形態に係る補給装置10によれば、タンクサイズを利用者に大別させることで、目標昇圧率Ωの算出精度を向上させることができる。特に、タンク容量の少ない二輪用の燃料タンク51を四輪用から区別することで、二輪車における水素補充を安全に、多量に、早くすることができる。
【0050】
本発明の各実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
各実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0051】
例えば、実施形態では、流量計及び導管流量弁を用いて、水素の充填流量を制御したが、この充填流量は他の機器で制御してもよい。
【符号の説明】
【0052】
10…水素補給装置(補給装置)、11…蓄圧器、12…導管、13…充填ノズル、14…流量調整弁、15…事前冷却器、16…冷却温度計、17…遮断弁、18…流量計、19…流路圧力計、20…流路温度計、21…入出力画面、22…大気温度計、24…ホース、25…緊急離脱カプラ(B/A)、30…水素補給制御装置(制御装置)、31…通信ネットワーク、32…記憶部、33…入出力インターフェース、34…制御部、40…圧力調整部、41…水素圧力取得部、42…水素温度取得部、43…外気温取得部、44…タンクサイズ推定部、45…MATE算出部、46…MAT算出部、47…決定部(目標昇圧率決定部)、49…タンクサイズ設定部、50…燃料電池車両(車両)、51…燃料タンク、52…充填口、53…車内配管、100…水素ステーション、P(P0α,P0α2)…初期圧、Pend…充填終了圧力、P…流通水素圧力、R…決定係数、T…外気温、T…流通水素温度、Tpc…冷却水素温度、b~b…重回帰解析の係数、tfin…充填完了時間、Ω…目標昇圧率。
図1
図2
図3
図4
図5