IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スズキ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-燃料電池セル 図1
  • 特開-燃料電池セル 図2
  • 特開-燃料電池セル 図3
  • 特開-燃料電池セル 図4
  • 特開-燃料電池セル 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023035732
(43)【公開日】2023-03-13
(54)【発明の名称】燃料電池セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0247 20160101AFI20230306BHJP
   H01M 8/0276 20160101ALI20230306BHJP
【FI】
H01M8/0247
H01M8/0276
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142802
(22)【出願日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】根岸 史幸
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA12
5H126AA13
5H126DD02
5H126DD05
(57)【要約】
【課題】 発電に寄与しないガスを低減させた燃料電池セルを提供する。
【解決手段】 燃料電池セル10は、電解質膜11aの両面に触媒層11bが形成されてできる膜電極接合体11と、膜電極接合体11の両面に配置されるGDL21と、両面のGDL21を介して膜電極接合体11を挟み込むとともにGDL21との接触面にガス流路18を有する一対のセパレータ17と、セパレータ17上に輪形状に配置されてGDL21の周囲を囲むセルシール19と、GDL21とセルシール19との間においてガス流路18の流路方向αに沿って形成される隙間溝26と、隙間溝26と触媒層11bの端辺との間に流路方向αに沿って設けられてセパレータ17からGDL21に向けて突出してGDL21を押圧する凸条部28と、を備える。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両面に触媒層が形成されてできる膜電極接合体と、
前記膜電極接合体の両面に配置されて前記触媒層を覆うガス拡散層と、
前記両面の前記ガス拡散層を介して前記膜電極接合体を挟み込むとともに前記ガス拡散層との接触面にガス流路を有する一対のセパレータと、
前記セパレータ上に輪形状に配置されて前記ガス拡散層の周囲を囲むセルシールと、
前記ガス拡散層と前記セルシールとの間において前記ガス流路の流路方向に沿って形成される隙間溝と、
前記隙間溝と前記触媒層の端辺との間に前記流路方向に沿って設けられて前記セパレータから前記ガス拡散層に向けて突出して前記ガス拡散層を押圧する凸条部と、を備えることを特徴とする燃料電池セル。
【請求項2】
前記セルシールは前記隙間溝の開口端部を封止する請求項1に記載の燃料電池セル。
【請求項3】
前記凸条部は前記ガス拡散層の前記流路方向の両端部まで延在する請求項1又は請求項2に記載の燃料電池セル。
【請求項4】
前記凸条部の前記流路方向に直行する断面は、三角または半円である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の燃料電池セル。
【請求項5】
アノード側の前記凸条部とカソード側の前記凸条部とは、押圧時の荷重中心が上面視でずれて配置される請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の燃料電池セル。
【請求項6】
前記隙間溝の一壁面を構成している前記ガス拡散層の端辺に不透過層を形成する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の燃料電池セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、燃料ガスを膜電極接合体で電気化学反応させて発電する燃料電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池装置は、単セルと呼ばれる燃料電池セルが多数積層されて構成されている。単セルは、アノード側のセパレータ、アノード側のガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)、膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)、カソード側のGDL、カソード側のセパレータが順に積層されて構成される。アノード側のセパレータに供給される水素ガスは、単セルの外部のポンプで加圧されて燃料電池装置内を循環する。また、カソード側のセパレータに供給される酸素などの酸化剤ガスは、単セルの外部のコンプレッサで流量を上げて供給される。これらのガスの電気化学反応で生成された生成水の一部は、供給されてくる水素ガスに押し出されて単セルの外部へ排出されている。
【0003】
ところで、セパレータには、これらのガスの漏出を防止するため、GDLを囲むように輪形状のセルシールが配置されている。セルシールの材料には、熱可塑性樹脂又はゴム材料等が用いられる。
しかし、熱可塑性樹脂製のセルシールは、組付け時の加熱及び加圧により熱変形を発生させてセパレータに形成されたガス流路を塞ぐことがあった。そこで、燃料電池装置の用途又は種類によっては、セパレータに耐熱性の高いゴム材料が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-225477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ゴム製のセルシールでは、加熱及び加圧をしても極わずかしか熱変形しない。このため、セルシールとGDLそれぞれの公差により生じる僅かな隙間が埋まらずに残るという課題があった。
ガス拡散層からこの隙間に流れ込んだガスは発電に寄与しないまま排出されるため、燃料電池装置の発電性能が低下する。十分な圧力でMEAにガスを供給するため及び生成水を単セルから排出するために、余分なエネルギーが必要になるためである。
【0006】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、発電に寄与しないガスを低減させた燃料電池セルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態に係る燃料電池セルは、電解質膜の両面に触媒層が形成されてできる膜電極接合体と、前記膜電極接合体の両面に配置されて前記触媒層を覆うガス拡散層と、前記両面の前記ガス拡散層を介して前記膜電極接合体を挟み込むとともに前記ガス拡散層との接触面にガス流路を有する一対のセパレータと、前記セパレータ上に輪形状に配置されて前記ガス拡散層の周囲を囲むセルシールと、前記ガス拡散層と前記セルシールとの間において前記ガス流路の流路方向に沿って形成される隙間溝と、前記隙間溝と前記触媒層の端辺との間に前記流路方向に沿って設けられて前記セパレータから前記ガス拡散層に向けて突出して前記ガス拡散層を押圧する凸条部と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、発電に寄与しないガスを低減させた燃料電池セルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る燃料電池装置セルを積層させた燃料電池装置の斜視図。
図2】実施形態に係る燃料電池セルのセパレータの上面図。
図3】実施形態に係る燃料電池セルを図2のII-II線で切断した側面断面図。
図4】実施形態の変形例に係るセパレータ端部の部分上面図。
図5】実施形態の第2の変形例に係るセパレータ端部の部分上面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0011】
まず、図1を用いて、実施形態に係る燃料電池装置50及びこの燃料電池装置50を構成する燃料電池セル10について概説する。

燃料電池装置50は、図1に示されるように、積層された複数の単セル10を有する。
この単セル10の積層体は、積層方向両端部からこの積層体を挟むエンドプレート51が図示しない連結バーで互いにボルト留めされることで、一体的に固定される。
【0012】
また、図2は、実施形態に係る単セル10のセパレータ17の上面図である。
なお、図2において、セパレータ17にはセルシール19が設けられているとともに、GDL21も破線(想像線)で表示している。
各単セル10には、図2に示されるように、その積層体を連通するガス供給口12及びガス排出口13が設けられて燃料電池装置50が構成される。燃料電池自動車等で求められる大容量の燃料電池装置50では、単セル10が数十以上積層される。 なお、実施形態に係る単セル10は、燃料電池装置50が水冷式であっても、空冷式であっても適用可能である。
【0013】
実施形態に係る単セル10は、膜電極接合体(MEA;Membrane Electrode Assembly)11がガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)21を介在させてセパレータ17に挟まれる配置構造を有する。
MEA11は、電極触媒層(以下、単に「触媒層」という)11bが電解質膜11aに片面ずつ配置されて構成される。触媒層11bは、触媒を担持するアノード側及びカソード側それぞれの電極で構成される。
【0014】
なお、実施形態でいう「MEA」にはGDL21は含まれないものとする。
また、GDL21及びセパレータ17は、一般に、それぞれ燃料極触媒層側に配置されるものをアノードGDL及びアノードセパレータ、空気極触媒層側に配置されるものをカソードGDL及びカソードセパレータとよぶが、本実施形態では特には区別しない。つまり、以下で説明するセパレータ17及びセルシール19の構造的特徴は、燃料極側でも空気極側でも適宜備えられる。また、ここでいうセパレータ17には、エンドプレート51も含まれうる。
【0015】
セパレータ17は、鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板、めっき処理鋼板、チタン鋼板等の金属板又はカーボンで構成される。
セパレータ17とGDL21との接触面には、ガス流路18となる多数の条形状の凹凸がプレス加工などによって長手方向に沿って形成される。このガス流路18にはガス供給口12からセパレータ17の面上に供給された酸化剤ガス又は水素ガスに加え、これらのガスの電気化学反応で生成された水蒸気が流れる。
【0016】
GDL21は、カーボンペーパ、カーボンクロス等からなる多孔質な柔軟性のあるシート状部材である。GDL21は各ガス流路18を流れる各種ガスを拡散させてMEA11に均一に供給する。このGDL21は、セパレータ17上に輪形状に配置されたセルシール19によって周囲を囲まれている。ゴム製のセルシール19は、セパレータ17に粘着又は接着するとともにMEA11に密着し、反応空間30(図3)の気密性を確保する。つまり、セルシール19によって、GDL21から単セル10の外部に水素ガスなどのガスが流出することが防止されている。電気化学反応で生成された生成水及び反応しなかったガスは、ガス排出口13から排出される。
なお、図2において、対角線上にある一方の、ガス供給口12及びガス排出口13は、セルシール19で周囲を囲まれて、反応空間30から孤立している。これらのガス供給口12及びガス排出口13は、セパレータ17の裏側においては、反応空間30に接続され、水素ガス又は酸素ガスの供給又は排出をしている。
【0017】
また、図3は、実施形態に係る単セル10を図2のII-II線で切断した側面断面図である。GDL21は、図2及び図3に示されるように、ガス流路18の延在範囲よりも大きくカットされ、この延在範囲全体を完全に覆うように設けられる。
また、触媒層11bは、図3に示されるように、ガス流路18の延在範囲と同程度又は流路方向に直行する方向に僅かに狭く設計される。
【0018】
GDL21の外形サイズは、セルシール19の内周サイズに一致していることが望ましい。しかし、実際には、公差によりGDL21はセルシール19の内周より僅かに小さくなることが多い。よって、GDL21とセルシール19との間には、ガス流路18の流路方向αに沿って隙間溝26が生じる。
【0019】
この隙間溝26は、熱可塑性樹脂製のセルシール19を用いる場合には、製造過程においてセルシール19が熱変形して広がることで喪失する隙間である。しかし、実施形態に係るセルシール19はゴム製なため、この隙間は埋められずに残ってガスの一部が流入する隙間溝26となってしまう。隙間溝26に流入したガスは触媒層11bに接触することがないため、電気化学反応に寄与せずにガス排出口13から排出される。よって、隙間溝26に流入するガスの圧力分だけ、ガスを多く供給させて圧力を規定値に維持する必要があるため、余分なエネルギーが必要になる。
【0020】
そこで、実施形態に係る単セル10では、隙間溝26と触媒層11bの端辺との間にガス流路18の流路方向αに沿って凸条部28が設けられる。凸条部28は、ガス流路18の流入端部及び流出端部を超えてGDL21の両端辺まで延在させることが望ましい。
また、図3に示される断面視では、凸条部28は、セパレータ17からGDL21に向けて突出してGDL21を押圧する。
凸条部28によるGDL21の押圧箇所ではGDL21内を流動するガスの圧力損失が大きくなるため、GDL21から隙間溝26へのガスの流入が抑制される。
【0021】
なお、図3に示されるII-II線(図2)による凸条部28の断面は、三角形又は半円形をしていることが望ましい。
例えば凸条部28が矩形の場合、凸条部28でGDL21を押圧する際、押圧箇所に荷重が集中して、その分だけGDL21のその他の箇所にかかる荷重が低減する。このように荷重が偏在して、触媒層11bとGDL21の設計していた荷重値より下がると単セル10内の接触抵抗が増加し出力が低下する。また、押圧箇所に荷重が集中すると、GDL21からセルシール19にかかる荷重も低減して、セルシール19の気密性が低下する。セルシール19の気密性が低下すると、水素ガスが漏出するおそれがあり安全性が低下する。
【0022】
同様の観点から、荷重の集中を防止するため、アノード側の凸条部28とカソード側の凸条部28とは、押圧時の荷重中心が上面視で重ならないようにずらされて配置される。ただし、凸条部28で押圧することでGDL21の押圧箇所の剛性が高まることを利用するため、アノード側の凸条部28とカソード側の凸条部28とは、離れすぎない位置に配置することが望ましい。アノード側の凸条部28とカソード側の凸条部28との配置位置関係は、押圧箇所及びその周辺の押圧箇所の荷重値に注目して決定される。
【0023】
また、凸条部28の高さは、約200μm~300μm程のGDL21の厚みの1/10~1/20程度の高さで、押圧箇所のGDL21への荷重値に注目して調整される。
また、凸条部28の本数及び横幅についても、押圧箇所のGDL21への荷重値に注目して調整される。凸条部28の形成には、例えば、セパレータ17の厚みに凸条部28の高さを加えた厚さの板から切削して成形させる方法やプレスで成形する方法が用いられる。
【0024】
なお、GDL21の端辺は、隙間溝26の一壁面を構成している。一壁面に樹脂などを塗布することでガスの不透過層29を形成させてもよい。不透過層29を設けることで、凸条部28による効果と同様に、GDL21で拡散したガスの隙間溝26への流入を阻止することができる。
【0025】
また、図4は、実施形態の変形例に係る単セル10a(10)のセパレータ17端部の部分上面図である。なお、図4及び後述する図5においても図2と同様に、セパレータ17上にセルシール19及び破線表示のGDL21も併せて表示している。
隙間溝26へのガスの流入防止効果を高めるために、図4に示されるように、隙間溝26の開口端部31の一方をセルシール19a(19)により封止することが望ましい。セパレータ17にGDL21を敷設する際、GDL21をスライドさせてその一辺をセルシール19aに密着させることで、開口端部31の一方は封止される。
【0026】
なお、封止する開口端部31は、ガスの流入側であることが望ましい。ただし、ガスの流出側の開口端部31を封止しても一定の圧力損失によるガスの隙間溝26への流入の抑制を期待することができる。なお、ガス流路18を形成している凹凸の凸部18aの端部をセルシール19aに密着させることによっても隙間溝26の開口端部31を封止することができる。
【0027】
また、図5は、実施形態の第2の変形例に係る単セル10b(10)のセパレータ17端部の部分上面図である。
ガス供給口12から隙間溝26a(26)へのガスの流入を防止するため、図5に示されるように、隙間溝26aを蛇行させてもよい。具体的は、セルシール19b(19)とGDL21a(21)とのそれぞれの対向面に凹凸を設けることで、隙間溝26aを蛇行形状にする。隙間溝26aを蛇行させることで、ガス供給口12から隙間溝26aに流入しようとするガスには圧力損失が発生するため、ガスの隙間溝26aへの流入が抑制される。
【0028】
以上のように、実施形態に係る単セル10によれば、隙間溝26への水素ガスの流入量を抑制することができるため、生成水を押し出すために昇圧させている水素ガスの流量を削減することができる。また、酸化剤ガスの流量も削減することができるため、コンプレッサの電力消費を抑えることができる。よって、単セル10によれば、発電に寄与しないガスを低減させることができる。
【0029】
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0030】
例えば、実施形態ではセパレータのガス流路がセパレータの長手方向に沿う例で説明したが、ガス流路の向きや形状は特に限定されない。
また、実施形態ではセルシールがゴム製である例で説明したが、本発明はセルシールの材質を問わず隙間溝が発生してしまう多様な単セルに適用可能である。
【符号の説明】
【0031】
10(10a,10b)…燃料電池セル(単セル)、11…膜電極接合体(MEA)、11a(11)…電解質膜、11b(11)…触媒層、12…ガス供給口、13…ガス排出口、14…位置合わせ孔、15…位置決めピン、17…セパレータ、18(18a)
…ガス流路(ガス流路の凸部)、19(19a,19b)…セルシール、21(21a)…ガス拡散層(GDL)、26(26a)…隙間溝、28…凸条部、29…不透過層、30…反応空間、31…開口端部、50…燃料電池装置、51…エンドプレート、α…流路方向、GAS…ガス(酸化剤ガス,水素ガス,水蒸気)。
図1
図2
図3
図4
図5