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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038969
(43)【公開日】2023-03-20
(54)【発明の名称】高圧電源装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 9/06 20060101AFI20230313BHJP
【FI】
H02M9/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145858
(22)【出願日】2021-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長 治生
(57)【要約】      (修正有)
【課題】装置のサイズ増加等を抑えながら負荷電流急変時の出力電圧の変動を抑える高圧電源装置を提供する。
【解決手段】正負の両極性の高電圧を切替え可能に出力する高圧電源装置において、正極性の高電圧を出力する第1電圧発生部1Aと、負極性の高電圧を出力する第2電圧発生部1Bと、第1電圧発生部の電圧出力端に接続された第1放電用ダイオード2Aと、第2電圧発生部の電圧出力端に接続された第2放電用ダイオード2Bと、電圧制御型スイッチである第1スイッチ3A1と保護抵抗5Aとが直列に接続された第1出力回路と、電圧制御型スイッチである第2スイッチ3B1と保護抵抗5Bとが直列に接続された第2出力回路と、出力電圧の極性を切り替える際に、両電圧発生部の動作を共に停止させた状態で、第1及び第2スイッチを一旦共にオンさせるように両電圧発生部の動作と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正負の両極性の高電圧を切替え可能に出力する高圧電源装置において、
正極性の高電圧を出力する第1電圧発生部と、
負極性の高電圧を出力する第2電圧発生部と、
前記第1電圧発生部の電圧出力端に高電圧が出力される際に該電圧により逆方向バイアス状態となる向きに、該電圧出力端に接続された第1放電用ダイオードと、
前記第2電圧発生部の電圧出力端に高電圧が出力される際に該電圧により逆方向バイアス状態となる向きに、該電圧出力端に接続された第2放電用ダイオードと、
前記第1電圧発生部の電圧出力端と両方の極性に共通である極性切替電圧出力端との間に接続された、電圧制御型半導体スイッチである第1スイッチと保護抵抗とが直列に接続された第1出力回路と、
前記第2電圧発生部の電圧出力端と前記極性切替電圧出力端との間に接続された、電圧制御型半導体スイッチである第2スイッチと保護抵抗とが直列に接続された第2出力回路と、
前記極性切替電圧出力端に接続される負荷と並列に接続された出力コンデンサと、
前記極性切替電圧出力端から出力される電圧の極性を切り替える際に、前記第1電圧発生部及び前記第2電圧発生部の動作を共に停止させた状態で、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチを一旦共にオンさせるように該第1電圧発生部及び該第2電圧発生部の動作、並びに、該第1スイッチ及び該第2スイッチの開閉動作を制御する制御部と、
前記制御部が前記第1スイッチをターンオンさせる際に該スイッチの両端間の電圧の時間変化率を制限する第1制限部と、
前記制御部が前記第2スイッチをターンオンさせる際に該スイッチの両端間の電圧の時間変化率を制限する第2制限部と、
を備える高圧電源装置。
【請求項2】
前記第1スイッチ及び前記第2スイッチはいずれもMOSFETであり、
前記第1制限部及び前記第2制限部はそれぞれ、前記MOSFETのゲート-ドレイン間に接続された帰還コンデンサと、該MOSFETのゲート-ソース間に接続され、ソース側からゲートの方向へと電流を供給する定電流源と、を含み、該MOSFETのターンオン動作におけるドレイン-ソース間の電圧の時間変化率を制限する、請求項1に記載の高圧電源装置。
【請求項3】
前記第1スイッチ及び前記第2スイッチはいずれも複数個のMOSFETを直列に多段接続したものであり、
前記第1制限部及び前記第2制限部はそれぞれ、各MOSFETのゲート-ドレイン間に接続された帰還コンデンサと、各MOSFETのゲート-ソース間に接続され、ソース側からゲートの方向へと電流を供給する定電流源と、を含み、各MOSFETのターンオン動作におけるドレイン-ソース間の電圧の時間変化率を制限する、請求項1に記載の高圧電源装置。
【請求項4】
前記第1スイッチ及び前記第2スイッチはいずれもIGBTであり、
前記第1制限部及び前記第2制限部はそれぞれ、前記IGBTのベース-コレクタ間に接続された帰還コンデンサと、該IGBTのベース-エミッタ間に接続され、エミッタ側からベースの方向へと電流を供給する定電流源と、を含み、該IGBTのターンオン動作におけるコレクタ-エミッタ間の電圧の時間変化率を制限する、請求項1に記載の高圧電源装置。
【請求項5】
前記第1スイッチ及び前記第2スイッチはいずれも複数個のIGBTを直列に多段接続したものであり、
前記第1制限部及び前記第2制限部はそれぞれ、各IGBTのベース-コレクタ間に接続された帰還コンデンサと、各IGBTのベース-エミッタ間に接続され、エミッタ側からベースの方向へと電流を供給する定電流源と、を含み、各IGBTのターンオン動作におけるコレクタ-エミッタ間の電圧の時間変化率を制限する、請求項1に記載の高圧電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高圧電源装置に関し、さらに詳しくは、出力の正負極性の切替えが可能である高圧電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析装置では、試料中の各種化合物をイオン化し、生成されたイオンを質量電荷比(m/z)に応じて分離して検出し、その検出信号に基づいて化合物を同定したり該化合物を定量したりする。化合物には正イオン化され易いものと負イオン化され易いものとがある。そのため、ガスクロマトグラフ質量分析装置や液体クロマトグラフ質量分析装置は一般に、正イオン測定モードと負イオン測定モードとを交互に切り換えながら繰り返し測定する機能を備えている。
【0003】
正イオン測定モードと負イオン測定モードとでは、質量分析装置のイオン源、質量分離器、イオン検出器などの各構成要素に印加する電圧の極性を切り替える必要がある。正負のイオン測定モードを高速に切り替えるには、各印加電圧の極性の切替えを高速に行う必要があり、出力電圧の極性の切替えが高速に行える高圧電源装置が使用されている。
【0004】
こうした高圧電源装置の一つとして特許文献1に記載の装置が知られている。この高圧電源装置は、正極性の高電圧+HVを発生する正電圧発生部と、負極性の高電圧-HVを発生する負電圧発生部と、正電圧発生部及び負電圧発生部のそれぞれの出力端に電圧が出力されるときに、該電圧により逆方向バイアス状態となるように接続された放電用ダイオードと、正極側の高電圧スイッチと、負極側の高電圧スイッチと、それら高電圧スイッチに流れるサージ電流を制限するべく各高電圧スイッチの出力端と共通電圧出力端との間にそれぞれ挿入された保護抵抗と、共通電圧出力端に接続される負荷の電位を安定化するために負荷に並列に接続された出力コンデンサと、を備える。
【0005】
負荷に正極性の高電圧を出力する際には、正極側の高電圧スイッチをオン、負極側の高電圧スイッチをオフし、正電圧発生部を動作状態、負電圧発生部を停止状態とする。負荷に正極性の高電圧を出力する際には、正極側の高電圧スイッチをオン、負極側の高電圧スイッチをオフし、正電圧発生部を動作状態、負電圧発生部を停止状態とする。いずれの場合にも、正電圧発生部又は負電圧発生部から負荷に供給される電力によって、出力コンデンサ等は充電される。出力電圧の極性の切替え時には、両電圧発生部を停止状態とする一方、両高電圧スイッチを共にオンする。これにより、出力コンデンサに蓄積されていた電荷は一方の放電用ダイオードを通して放出される。また、正電圧発生部及び負電圧発生部に含まれる整流回路、平滑化回路などのコンデンサに蓄積していた電荷も同時に、一方の放電用ダイオードを通して放出される。
【0006】
上記従来の高圧電源装置では、上述したように放電用ダイオードを通して出力コンデンサ等に蓄積されていた電荷を迅速に放出することによって、出力電圧の極性の切替えに要する時間を、それ以前の電源装置に比べて短縮することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6516062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような高圧電源装置から高電圧を負荷に印加しているとき、負荷の状況により負荷電流が急に変化する場合がある。例えば高圧電源装置から直交加速飛行時間型質量分析装置(Orthogonal Acceleration Time-Of-Flight Mass Spectrometer、以下「OA-TOFMS」という)における直交加速部にイオン射出用の高電圧を印加する場合、直交加速部に導入されるイオンの量が急に増加すると、高圧電源装置の負荷電流が急変する。こうした負荷電流の急変に伴って出力電圧が変動してしまうと、直交加速部においてイオンに付与される初期エネルギーが変動し、質量精度等の測定精度の低下をもたらす。そのため、負荷電流が急変した場合であっても出力電圧の変動をできるだけ抑えることが望ましい。上記従来の高圧電源装置において負荷電流急変時の出力電圧変動を抑制するためには、出力コンデンサの静電容量を大きくするか、保護抵抗の抵抗値を小さくして、出力インピーダンスを下げる必要がある。
【0009】
しかしながら、出力コンデンサの容量を大きくすると、該コンデンサの放電時間及び充電時間がそれぞれ長くなり、結果として出力電圧の極性反転時間が長くなる。また、コンデンサが大形化するため、電源装置自体のサイズを大きくせざるを得なくなる可能性もある。一方、保護抵抗の抵抗値を小さくした場合には、高電圧スイッチに流れるスイッチング電流が増大するため、高電圧スイッチが故障し易くなったり寿命が短くなったりする可能性がある。また、電流の最大定格がより大きな高電圧スイッチを選択するために該スイッチが大形化するとともにコストが高くなるといった問題もある。
【0010】
本発明はこうした課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、装置のサイズ増加やコストアップなどをできるだけ抑えながら、負荷電流の急変時における出力電圧の変動を抑えることができる高圧電源装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明に係る高圧電源装置の一態様は、正負の両極性の高電圧を切替え可能に出力する高圧電源装置において、
正極性の高電圧を出力する第1電圧発生部と、
負極性の高電圧を出力する第2電圧発生部と、
前記第1電圧発生部の電圧出力端に高電圧が出力される際に該電圧により逆方向バイアス状態となる向きに、該電圧出力端に接続された第1放電用ダイオードと、
前記第2電圧発生部の電圧出力端に高電圧が出力される際に該電圧により逆方向バイアス状態となる向きに、該電圧出力端に接続された第2放電用ダイオードと、
前記第1電圧発生部の電圧出力端と両方の極性に共通である極性切替電圧出力端との間に接続された、電圧制御型半導体スイッチである第1スイッチと保護抵抗とが直列に接続された第1出力回路と、
前記第2電圧発生部の電圧出力端と前記極性切替電圧出力端との間に接続された、電圧制御型半導体スイッチである第2スイッチと保護抵抗とが直列に接続された第2出力回路と、
前記極性切替電圧出力端に接続される負荷と並列に接続された出力コンデンサと、
前記極性切替電圧出力端から出力される電圧の極性を切り替える際に、前記第1電圧発生部及び前記第2電圧発生部の動作を共に停止させた状態で、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチを一旦共にオンさせるように該第1電圧発生部及び該第2電圧発生部の動作、並びに、該第1スイッチ及び該第2スイッチの開閉動作を制御する制御部と、
前記制御部が前記第1スイッチをターンオンさせる際に該スイッチの両端間の電圧の時間変化率を制限する第1制限部と、
前記制御部が前記第2スイッチをターンオンさせる際に該スイッチの両端間の電圧の時間変化率を制限する第2制限部と、
を備える。
【0012】
本発明に係る上記態様の高圧電源装置において、電圧制御型半導体スイッチである第1スイッチ及び第2スイッチは、1個の若しくは直列に多段接続されたパワーMOSFET、又は、1個の若しくは直列に多段接続されたIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)を用いることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る上記態様の高圧電源装置では、制御部が、第1スイッチ又は第2スイッチをターンオン動作させる際に、第1制限部又は第2制限部は、第1スイッチ又は第2スイッチの両端間の電圧の時間変化率を略一定に維持する。従って、第1スイッチ又は第2スイッチのターンオン動作時にそれらスイッチに流れる電流も略一定になる。これによって、サージ電流を制限することを主目的とする保護抵抗に依存することなく、ターンオン時に出力コンデンサ等から放出された電荷に起因して当該スイッチに流れる電流を制限することができ、該スイッチに許容される最大スイッチング電力の制約を受けることなく、保護抵抗の抵抗値を定めることができる。その結果として、第1、第2スイッチの電流の最大定格を抑えながら、保護抵抗の抵抗値を従来装置よりも低く設定することができ、保護抵抗の抵抗値を小さくして出力インピーダンスを下げることによって、負荷電流急変時における出力電圧の変動を抑制することができる。
【0014】
このようにして、本発明に係る上記態様の高圧電源装置によれば、装置の大形化やコストアップに繋がる、大形で電流の最大定格がより大きな半導体スイッチを第1、第2スイッチとして採用することなく、負荷電流急変時における出力電圧の変動を抑制することができる。それにより、例えば、上記態様の高圧電源装置をOA-TOFMSにおける直交イオン加速部の電源として用いた場合に、直交イオン加速部に導入されるイオンの量が大きく変動しても射出電圧の変化を抑えることができ、質量精度や質量分解能を高い状態に保つことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態である極性切替高圧電源装置の概略回路図。
図2】本実施形態の極性切替高圧電源装置の正負極性切替時における出力電圧の波形図の一例。
図3】本実施形態の極性切替高圧電源装置の動作説明図。
図4】本実施形態の極性切替高圧電源装置におけるPhase[2]の期間中の等価回路。
図5図4に示した等価回路をより簡略化した等価回路。
図6】本実施形態の極性切替高圧電源装置における高電圧スイッチ部の回路の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る高圧電源装置の一実施形態である極性切替高圧電源装置について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本実施形態の極性切替高圧電源装置の概略回路図である。図2は、本実施形態の極性切替高圧電源装置の正負極性切替時における出力電圧の概略波形図の一例である。図3は、本実施形態の極性切替高圧電源装置の動作説明図である。
【0017】
本実施形態の極性切替高圧電源装置は、図1に示すように、正極性の高電圧+HVを発生する正電圧発生部1A、負極性の高電圧-HVを発生する負電圧発生部1B、正極側放電用ダイオード2A、負極側放電用ダイオード2B、正極側高電圧スイッチ部3A、負極側高電圧スイッチ部3B、正極側保護抵抗5A、負極側保護抵抗5B、出力コンデンサ4、を備える。
【0018】
正電圧発生部1Aは、高電圧の高周波交流信号を出力する励振回路1A1と、高周波交流信号を直流高電圧に変換する整流回路1A2と、直流高電圧に含まれるリップル電圧を除去するフィルタ回路1A3と、を含む。負電圧発生部1Bも正電圧発生部1Aと同様に、高電圧の高周波交流信号を出力する励振回路1B1と、高周波交流信号を直流高電圧に変換する整流回路1B2と、直流高電圧に含まれるリップル電圧を除去するフィルタ回路1B3と、を含む。
【0019】
放電用ダイオード2A、2Bはいずれも、正電圧発生部1A及び負電圧発生部1Bの出力端にそれぞれ電圧が出力されるとき、該電圧により逆方向バイアス状態となる向きに接続されている。これら放電用ダイオード2A、2Bは、整流回路1A2、1B2に含まれるコンデンサ21A、21B、フィルタ回路1A3、1B3に含まれるコンデンサ31A、31B、及び出力コンデンサ4にそれぞれ蓄積された電荷を放電する機能を有する。
【0020】
正極側高電圧スイッチ部3Aは、電圧制御型半導体スイッチの一種であるパワーMOSFET3A1と、パワーMOSFET3A1のソース端子(以下、「S端子」という場合がある)とゲート端子(以下、「G端子」という場合がある)の間に接続された定電流源3A2と、パワーMOSFET3A1のドレイン端子(以下、「D端子」という場合がある)とG端子との間に接続された帰還コンデンサ3A3と、を含む。負極側高電圧スイッチ部3Bも正極側高電圧スイッチ部3Aと同様に、電圧制御型半導体スイッチの一種であるパワーMOSFET3B1と、パワーMOSFET3B1のS端子とG端子との間に接続された定電流源3B2と、パワーMOSFET3B1のD端子とG端子との間に接続された帰還コンデンサ3B3と、を含む。
【0021】
正電圧発生部1Aによる正極性の直流高電圧が出力される電圧出力端はパワーMOSFET3A1のD端子に接続され、保護抵抗5Aは、パワーMOSFET3A1のS端子と共通電圧出力端6との間に接続される。負電圧発生部1Bによる負極性の直流高電圧が出力される電圧出力端はパワーMOSFET3B1のS端子に接続され、保護抵抗5Bは、パワーMOSFET3B1のD端子と共通電圧出力端6との間に接続される。保護抵抗5A、5Bは、主として負荷100で意図しない放電等が発生した場合に生じるサージ電流を制限し、パワーMOSFET3A1、3B1の電流定格を超える電流が流れることを防止する機能を有する。出力コンデンサ4は、共通電圧出力端6と接地電位との間に接続され、負荷100の電位を安定化する機能を有する。
【0022】
制御部7は、励振回路1A1、1B1の動作を制御するとともに、駆動部8を介して定電流源3A2、3B2をオン・オフさせることにより、パワーMOSFET3A1、3B1をそれぞれオン・オフ駆動する。制御部7は、例えば、CPU、RAM、ROMなどを含むマイクロコンピュータなどを中心として構成されるものとすることができる。その場合、例えば後述するような電圧波形を出力するための、時間経過に対する一連の制御シーケンスに対応するプログラムがROM等に格納され、このプログラムをCPUで実行することで制御信号を出力することができる。また、マイクロコンピュータを用いる代わりに、デジタルシグナルプロセッサ等のハードウェア回路によって同様の機能を達成することもできる。
【0023】
次に、本実施形態の極性切替高圧電源装置における電圧波形の出力動作を、図2図3を参照して説明する。
【0024】
図3において、Phase[1]は正極性の高電圧+HVを共通電圧出力端6から負荷100に対して定常的に出力する状態、Phase[5]は負極性の高電圧-HVを共通電圧出力端6から負荷100に対して定常的に出力する状態である。出力電圧の極性を正極性から負極性に反転させる場合、Phase[1]の正電圧定常出力状態から、Phase[2]→[3]→[4]を経て、Phase[5]の負電圧定常出力状態まで順に変化する。一方、出力電圧の極性を負極性から正極性に反転させる場合には、Phase[5]の負電圧定常出力状態から、Phase[6]→[7]→[8]を経て、Phase[1]の正電圧定常出力状態まで順に変化する。図2に示した電圧波形中の[1]~[8]の各期間は、図3中のPhase[1]~Phase[8]に対応する。
【0025】
図3(a)に示すように、Phase[1]では、正極側の励振回路1A1はオン(動作)状態、正極側高電圧スイッチ部3Aはオン(導通)状態を維持している。正電圧発生部1Aで生成された直流高電圧+HVが、正極性高電圧スイッチ部3A、正極性の保護抵抗5Aを経て出力コンデンサ4及び負荷100に印加され、図中に示すように負荷100に電流が供給される。
【0026】
図3(b)に示すように、Phase[2]において、制御部7は正極性の励振回路1A1をオフ(停止)状態とし、正極側高電圧スイッチ部3Aをオン(導通)状態に保ったまま、負極側高電圧スイッチ部3Bをオフ(遮断)状態からオン(導通)状態に切り替える、つまりターンオンさせる。負極側高電圧スイッチ部3Bがオンすると、その直前に、正極側の整流回路1A2及びフィルタ回路1A3にそれぞれ含まれるコンデンサ21A、31Aと出力コンデンサ4とに蓄積されていた電荷は、図3(b)中に一点鎖線で示す電流経路に従い、保護抵抗5A、5Bと負極側放電用ダイオード2Bを経由して放出される。
【0027】
上記の負極側高電圧スイッチ部3Bのターンオン動作は、負極側高電圧スイッチ部3Bを構成する帰還コンデンサ3B3と定電流源3B2との働きによって、パワーMOSFET3B1のドレイン・ソース間電圧の時間変化率(スルーレート)を略一定に保った状態で行われる。このため、保護抵抗5A、5Bの抵抗値に依らず、パワーMOSFET3B1に過大な放電電流が流れることは無い。帰還コンデンサ3B3及び定電流源3B2の働きによりパワーMOSFET3B1のドレイン・ソース間電圧の時間変化率が一定となる理由は、後で詳しく説明する。なお、上述した電流経路による放電において、正極側の整流回路1A2及びフィルタ回路1A3にそれぞれ含まれるコンデンサ21A、31Aと出力コンデンサ4とに蓄積されていたエネルギの多くは、パワーMOSFET3B1で消費される(熱に変換される)。
【0028】
図3(c)に示すように、Phase[3]において、制御部7は、定電流源3A2の動作を停止させることにより、正極側高電圧スイッチ部3Aをオン(導通)状態からオフ(遮断)状態へと切り替える(ターンオフする)。なお、詳しくは後述するが、このときパワーMOSFET3A1のゲート・ソース間に蓄積されていた電荷は定電流源3A2と並列に接続されているブリーダ抵抗(図示せず)を通して放出され、ゲート電圧は低下してパワーMOSFET3A1はオフ状態に移行し得る。一方、負極側高電圧スイッチ部3Bはオン(導通)状態を維持する。
【0029】
図3(d)に示すように、Phase[4]において、制御部7は、負極側の励振回路1B1をオン(動作)状態にする。これにより、出力コンデンサ4は負極性に充電され、出力電圧の絶対値は上昇していく。出力電圧が所望の電圧値に到達すると、Phase[5]に遷移する。
【0030】
図3(e)に示すように、Phase[5]では、負極側の励振回路1B1はオン(動作)状態、負極側高電圧スイッチ部3Bはオン(導通)状態を維持する。このとき、負電圧発生部1Bで生成された直流高電圧-HVが、負極側高電圧スイッチ部3B、負極側の保護抵抗5Bを経て出力コンデンサ4及び負荷100に印加される。
【0031】
図3(f)に示すように、Phase[6]では、制御部7は負極側の励振回路1B1をオフ(停止)状態とし、負極側高電圧スイッチ部3Bをオン(導通)状態に保ったまま、正極側高電圧スイッチ部3Aをオフ(遮断)状態からオン(導通)状態に切り替える、つまりターンオンさせる。負極側の整流回路1B2及びフィルタ回路1B3にそれぞれ含まれるコンデンサ21B、31Bと出力コンデンサ4とに蓄積されていた電荷は、図3(f)中に一点鎖線で示す電流経路に従い、保護抵抗5A、5Bと正極側放電用ダイオード2Aとを経由して放出される。
【0032】
正極側高電圧スイッチ部3Aのターンオン動作は、正極側高電圧スイッチ部3Aを構成する帰還コンデンサ3A3と定電流源3A2の働きによって、パワーMOSFET3A1のドレイン・ソース間電圧の時間変化率(スルーレート)を一定に保った状態で行われる。このため、保護抵抗5A、5Bの抵抗値に依らず、パワーMOSFET3A1に過大な放電電流が流れることは無い。なお、上述した電流経路による放電において、負極側の整流回路1B2及びフィルタ回路1B3にそれぞれ含まれるコンデンサ21B、31Bと出力コンデンサ4とに蓄積されていたエネルギの多くは、パワーMOSFET3Aで消費される。
【0033】
図3(g)に示すように、Phase[7]では、制御部7は、負極側高電圧スイッチ部3Bをオン(導通)状態からオフ(遮断)状態へと切り替える、つまりターンオフさせる。一方、正極側高電圧スイッチ部3Aはオン(導通)状態を維持する。
【0034】
図3(h)に示すように、Phase[8]では、制御部7は、正極側の励振回路1A1をオン(動作)状態にする。これにより、出力コンデンサ4は正極性に充電され、出力電圧が上昇していく。出力電圧が所望の電圧値に到達すると、Phase[1]に遷移する。
【0035】
上述したように、図2に示した出力電圧波形において[1]~[8]の各期間は、上述のPhase[1]~Phase[8]に対応している。出力電圧の極性を正から負へと、或いはその逆に、負から正へと反転するのに要する時間、即ち極性反転時間tRは、電圧発生部1A、1Bの整流回路1A2、1B2及びフィルタ回路1A3、1B3にそれぞれ含まれるコンデンサ21A、31A、21B、31Bと出力コンデンサ4とにそれぞれ蓄えられたエネルギをパワーMOSFET3A1、3B1において消費させて出力電圧を低下させる放電時間tdと、高電圧スイッチ部3A、3Bのターンオフ時間tsと、電圧発生部1A、1Bの励振回路1A1、1B1を動作させて出力電圧を所望の電圧値まで上昇させる充電時間tcと、の合計時間となる。放電時間tdは、出力電圧とパワーMOSFET3A1、3B1における電圧の時間変化率(スルーレート)の逆数の積で決まる。
【0036】
図4は、本実施形態の極性切替高圧電源装置における、Phase[2]の期間中の等価回路である。図5は、図4に示した等価回路中の保護抵抗5A、5Bとフィルタ回路1A3の抵抗と負極側放電用ダイオード2Bを無視し、整流回路1A2及びフィルタ回路1A3のそれぞれのコンデンサ21A、31Aと出力コンデンサ4との合成容量をCoと書き換えた、より簡略化した等価回路である。これら等価回路を用いて、パワーMOSFETのターンオン動作においてドレイン-ソース間電圧の時間変化率が略一定になる理由を説明する。
【0037】
いまここでは、帰還コンデンサ3B3の両端間電圧が増加する電流の向きを充電、その両端間電圧が減少する電流の向きを放電と定義する。
図5において、パワーMOSFET3B1の初期状態はオフ状態であるため、帰還コンデンサ3B3には出力コンデンサ4と等しい電圧が印加されている。この状態において定電流源3B2をオフからオンにすると、定電流源3B2から供給される電流によって帰還コンデンサ3B3は放電される。それに伴って、パワーMOSFET3B1のゲート・ドレイン間電圧は減少し、ゲート・ソース間電圧は増加する。そして、このゲート・ソース間電圧がパワーMOSFET3B1のゲート閾値電圧Vthに到達すると、該パワーMOSFET3B1はターンオン動作を開始する。その結果、パワーMOSFET3B1のドレイン・ソース間電圧は低下するが、そうなると、帰還コンデンサ3B3にはその電圧変化率に応じてG端子からD端子へ向かう方向の電流が流れる。それにより、ゲート電圧を低下させる方向に負帰還が掛かる。
【0038】
定電流源3B2による電流値をIg、帰還コンデンサ3B3の静電容量をCrとし、パワーMOSFET3B1の順方向伝達アドミタンスが非常に大きいと仮定すると、
Ig=Cr×(dVo/dt)
が成立する。即ち、
dVo/dt=Ig/Cr …(1)
である。(1)式は、電流値Igと静電容量Crが定数であるとすれば、ドレイン電圧の時間変化率(スルーレート)が一定であることを意味している。
【0039】
一方、パワーMOSFET3B1のドレイン電流Idは、
Id=Co×(dVo/dt)
である。従って、上記(1)式より、
Id=(Co/Cr)×Ig …(2)
と書くことができる。(2)式は、容量Coが既知であれば、静電容量Crと電流値Igによって、パワーMOSFET3B1のドレイン電流Idを、保護抵抗5Bの抵抗値に拘わらず一定に保つことが可能となることを意味している。
【0040】
上記説明は、Phase[2]におけるパワーMOSFET3B1をターンオンさせる動作の例であるが、Phase[6]におけるパワーMOSFET3A1をターンオンさせる動作においても全く同様である。即ち、パワーMOSFET3A1のドレイン電圧の時間変化率を一定にすることができ、それによって、パワーMOSFET3A1のドレイン電流を、保護抵抗5Aの抵抗値に拘わらず一定に保つことが可能である。
【0041】
ここで、特許文献1に記載の従来の電源装置に対する、本実施形態の極性切替高圧電源装置の利点を具体的に説明する。比較項目は、同一条件における保護抵抗の抵抗値及び放電時間である。その条件は次の通りである。
<条件1>正負の電圧発生部1A、1Bの出力電圧±HVは±10kVとする。
<条件2>負荷容量を含む出力コンデンサ4の静電容量は10nFとし、電圧発生部1A、1Bに含まれるコンデンサ21A、31A、21B、31Bの容量はいずれも出力コンデンサ4の容量に比べて十分に小さく無視できるものとする。また、負荷100の抵抗値は電源装置の出力インピーダンスに比べて十分に大きく、負荷100に流れる電流は無視できるものとする。
<条件3>パワーMOSFET3A1、3B1の最大スイッチング電力は100Wであるとする。
<条件4>パワーMOSFET3A1、3B1の最大導通電流は1Aであるとする。
【0042】
従来の電源装置では、パワーMOSFETの最大スイッチング電力が保護抵抗の抵抗値の制約となる。即ち、従来の電源装置において、保護抵抗の抵抗値の下限は、
R<min>=10[kV]2/100[W]=1[MΩ]
である。また、従来の電源装置において、放電時間tdは、
td=3×τ=3×1[MΩ]×10[nF]=30[ms]
である。
【0043】
これに対し、本実施形態の極性切替高圧電源装置では、パワーMOSFET3A1、3B1の最大導通電流1Aが保護抵抗5A、5Bの抵抗値の制約となる。即ち、この電源装置において、保護抵抗の抵抗値の下限は、
R<min>=10[kV]/1[A]=10[kΩ]
である。また、最大スイッチング電力は100Wであるから、
Id=100[W]/10[kV]=10[mA]
である。従って、放電時間tdは、
td=10[nF]×10[kV]/10[mA]=10[ms]
となる。
このように、本実施形態の高圧電源装置では、放電時間を従来の高圧電源装置の1/3に短縮することができ、また、保護抵抗の抵抗値を従来の高圧電源装置の1/100にすることが可能である。
【0044】
本実施形態の極性切替電源装置において、高電圧スイッチ部3A、3Bを構成する定電流源3A2、3B2としては、周知の様々な構成の回路を採用することができる。その回路の一例を図6に示す。
【0045】
この例における定電流源は、PNPトランジスタを利用した一般的なものである。トランジスタQ1のエミッタ端子には抵抗R2が接続され、その抵抗R2の他の端子とトランジスタQ1のベース端子との間にはツェナーダイオードZD3が接続されている。また、トランジスタQ1のベース端子には抵抗R1が接続されている。トランジスタQ1がオン状態になると、トランジスタQ1には概ね、ic=(VZD-Vbe)/R2(但しVZDはツェナーダイオードZD3のツェナー電圧、VbeはトランジスタQ1のベース・エミッタ間電圧)のコレクタ電流が定電流として流れる。なお、パワーMOSFET3A1のドレイン・ソース間に接続されている抵抗R3、R4は、後述するように複数個のパワーMOSFETを直列に多段接続する場合において、パワーMOSFETのドレイン・ソース遮断電流のばらつきのために生じる、オフ時のMOSFET1段当たりの印加電圧のアンバランスの影響を低減するものである。
【0046】
なお、図6に示す回路では、駆動部8から供給される駆動信号はパルストランスTR1を介して伝達され、ショットキーバリアダイオードによるブリッジ回路である整流回路RCにより整流されてトランジスタQ1のベース端子に供給される。それによりトランジスタQ1はオン状態に移行する。逆に、駆動部8からの駆動信号が停止されると、トランジスタQ1のエミッタ端子及びベース端子への電圧印加が停止され、該トランジスタQ1はカットオフする。すると、パワーMOSFET3A1のゲート・ソース間に蓄積されていた電荷は、トランジスタQ1のコレクタ・ベース間及びショットキーバリアダイオードSD2を経由して抵抗R1において消費され、やがてパワーMOSFET3A1はターンオフするに至る。即ち、この回路では、抵抗R1が上記ブリーダ抵抗に相当する。このように、この回路では、パルストランスTR1を介して駆動部8とパワーMOSFETを含むパワー回路とが接続されているため、駆動部8とパワー回路とを電気的に絶縁することができるという利点がある。
【0047】
[変形例]
上記実施形態の極性切替高圧電源装置は本発明の一例にすぎず、例えば以下のような様々な変形が可能である。
【0048】
上記実施形態の極性切替高圧電源装置では、高電圧スイッチ部3A、3Bにおける半導体スイッチとして1個のパワーMOSFETを用いていたが、耐圧の関係で、複数個のパワーMOSFETを直列に多段接続してもよい。その場合には、各パワーMOSFETに対してそれぞれ定電流源及び帰還コンデンサを設け、各パワーMOSFETにおいてターンオン動作時にドレイン-ソース間電圧の時間変化率が一定になるようにするとよい。また、半導体スイッチとして、パワーMOSFET以外の電圧制御型の半導体スイッチを用いることもできる。具体的には、1個の絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)又は複数個直列に多段接続されたIGBTを用いてもよい。半導体スイッチとしてIGBTを用いる場合、上述したパワーMOSFETにおけるドレイン、ソース、及びゲートはそれぞれ、コレクタ、エミッタ、及びベースに対応することは言うまでもない。IGBTを用いた場合でも、動作はパワーMOSFETを用いた場合と同じである。
【0049】
また、上記実施形態の極性切替高圧電源装置では、パワーMOSFET3A1、3B1をターンオン動作させる際のドレイン-ソース間電圧の時間変化率を略一定にするために、定電流源3A2、3B2及び帰還コンデンサ3A3、3B3の組合せを用いているが、同様の機能を他の構成で実現することができる。例えば、パワーMOSFET3A1、3B1のドレイン-ソース間電圧をリアルタイムでモニタし、その電圧の時間変化率が目標値になるように(つまりは一定となるように)ゲート-ソース間電圧を制御するOPアンプ(演算増幅器)等を用いたフィードバック回路、を利用することもできる。
【0050】
また、正負の電圧発生部1A、1Bに含まれる励振回路1A1、1B1は高電圧交流信号を出力可能でありさえすればその構成を問わないが、典型的には、商用交流電力を直流電力に変換するAC-DCコンバータ、該AC-DCコンバータによる直流電流をスイッチングするパワーMOSFET等のスイッチング素子、そのスイッチングされた電流が供給される1次巻線を含むトランスなどを含んで構成されるものとすることができる。
【0051】
また、上記実施形態及び上記の各種の変形例に限らず、本発明の趣旨の範囲で適宜に変形、追加、修正を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【0052】
[種々の態様]
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0053】
(第1項)本発明に係る高圧電源装置の一態様は、正負の両極性の高電圧を切替え可能に出力する高圧電源装置において、
正極性の高電圧を出力する第1電圧発生部と、
負極性の高電圧を出力する第2電圧発生部と、
前記第1電圧発生部の電圧出力端に高電圧が出力される際に該電圧により逆方向バイアス状態となる向きに、該電圧出力端に接続された第1放電用ダイオードと、
前記第2電圧発生部の電圧出力端に高電圧が出力される際に該電圧により逆方向バイアス状態となる向きに、該電圧出力端に接続された第2放電用ダイオードと、
前記第1電圧発生部の電圧出力端と両方の極性に共通である極性切替電圧出力端との間に接続された、電圧制御型半導体スイッチである第1スイッチと保護抵抗とが直列に接続された第1出力回路と、
前記第2電圧発生部の電圧出力端と前記極性切替電圧出力端との間に接続された、電圧制御型半導体スイッチである第2スイッチと保護抵抗とが直列に接続された第2出力回路と、
前記極性切替電圧出力端に接続される負荷と並列に接続された出力コンデンサと、
前記極性切替電圧出力端から出力される電圧の極性を切り替える際に、前記第1電圧発生部及び前記第2電圧発生部の動作を共に停止させた状態で、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチを一旦共にオンさせるように該第1電圧発生部及び該第2電圧発生部の動作、並びに、該第1スイッチ及び該第2スイッチの開閉動作を制御する制御部と、
前記制御部が前記第1スイッチをターンオンさせる際に該スイッチの両端間の電圧の時間変化率を制限する第1制限部と、
前記制御部が前記第2スイッチをターンオンさせる際に該スイッチの両端間の電圧の時間変化率を制限する第2制限部と、
を備える。
【0054】
(第2項)第1項に記載の高圧電源装置において、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチはいずれもMOSFETであり、前記第1制限部及び前記第2制限部はそれぞれ、前記MOSFETのゲート-ドレイン間に接続された帰還コンデンサと、該MOSFETのゲート-ソース間に接続され、ソース側からゲートの方向へと電流を供給する定電流源と、を含み、該MOSFETのターンオン動作におけるドレイン-ソース間の電圧の時間変化率を制限するものとすることができる。
【0055】
(第3項)第1項に記載の高圧電源装置において、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチはいずれも複数個のMOSFETを直列に多段接続したものであり、前記第1制限部及び前記第2制限部はそれぞれ、各MOSFETのゲート-ドレイン間に接続された帰還コンデンサと、各MOSFETのゲート-ソース間に接続され、ソース側からゲートの方向へと電流を供給する定電流源と、を含み、各MOSFETのターンオン動作におけるドレイン-ソース間の電圧の時間変化率を制限するものとすることができる。
【0056】
(第4項)第1項に記載の高圧電源装置において、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチはいずれもIGBTであり、前記第1制限部及び前記第2制限部はそれぞれ、前記IGBTのベース-コレクタ間に接続された帰還コンデンサと、該IGBTのベース-エミッタ間に接続され、エミッタ側からベースの方向へと電流を供給する定電流源と、を含み、該IGBTのターンオン動作におけるコレクタ-エミッタ間の電圧の時間変化率を制限するものとすることができる。
【0057】
(第5項)第1項に記載の高圧電源装置において、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチはいずれも複数個のIGBTを直列に多段接続したものであり、前記第1制限部及び前記第2制限部はそれぞれ、各IGBTのベース-コレクタ間に接続された帰還コンデンサと、各IGBTのベース-エミッタ間に接続され、エミッタ側からベースの方向へと電流を供給する定電流源と、を含み、各IGBTのターンオン動作におけるコレクタ-エミッタ間の電圧の時間変化率を制限するものとすることができる。
【0058】
第1項~第5項に記載の高圧電源装置において、制御部が、例えばパワーMOSFET若しくはIGBTである第1スイッチ又は第2スイッチをターンオン動作させる際に、第1制限部又は第2制限部は、第1スイッチ又は第2スイッチの両端間の電圧の時間変化率を略一定に維持する。従って、第1スイッチ又は第2スイッチのターンオン動作時にそれらスイッチに流れる電流も一定になる。これによって、サージ電流を制限することを主目的とする保護抵抗に依存することなく、ターンオン時に出力コンデンサ等から放出された電荷に起因して当該スイッチに流れる電流を制限することができるため、該スイッチに許容される最大スイッチング電力の制約を受けることなく、保護抵抗の抵抗値を定めることができる。その結果、第1、第2スイッチの電流の最大定格を抑えながら、保護抵抗の抵抗値を従来装置よりも低く設定することができ、保護抵抗の抵抗値を小さくして出力インピーダンスを下げることによって、負荷電流急変時における出力電圧の変動を抑制することができる。
【0059】
このようにして、第1項~第5項のいずれか1項に記載の高圧電源装置によれば、装置の大形化やコストアップに繋がる、大形で電流の最大定格がより大きな高電圧スイッチを採用することなく、負荷電流急変時における出力電圧の変動を抑制することができる。それにより、例えば、第1項~第5項のいずれか1項に記載の高圧電源装置をOA-TOFMSにおける直交イオン加速部の電源として用いた場合に、直交イオン加速部に導入されるイオンの量が大きく変動しても射出電圧の変化を抑えることができ、質量精度や質量分解能を高い状態に保つことが可能である。
【符号の説明】
【0060】
1A…正電圧発生部
1B…負電圧発生部
1A1、1B1…励振回路
1A2、1B2…整流回路
1A3、1B3…フィルタ回路
2A、2B…放電用ダイオード
3A、3B…高電圧スイッチ部
3A1、3B1…パワーMOSFET
3A2、3B2…定電流源
3A3、3B3…帰還コンデンサ
4…出力コンデンサ
5A、5B…保護抵抗
6…共通電圧出力端
7…制御部
8…駆動部
100…負荷
図1
図2
図3
図4
図5
図6