(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023039703
(43)【公開日】2023-03-22
(54)【発明の名称】電着塗料の二次タレ防止装置および二次タレ防止方法
(51)【国際特許分類】
C25D 13/00 20060101AFI20230314BHJP
【FI】
C25D13/00 307E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021146955
(22)【出願日】2021-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】清水 和雄
(72)【発明者】
【氏名】村下 正人
(57)【要約】
【課題】電着塗装後の車体の電着塗料の二次タレを確実に防止することができる電着塗料の二次タレ防止装置を提供する。
【解決手段】アーム12,13を有するロボット10を備え、電着塗装後の車体300の電着塗料の二次タレ防止装置100であって、アーム12,13の先端に取り付けられた振動部30と、電着塗装後の車体300の予め設定された加振箇所に振動部30が接触するようにアーム12,13を移動するとともに、振動部30により加振箇所を振動するように、アーム12,13と振動部30を制御する制御部50とを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アームを有するロボットを備え、電着塗装後の車体の電着塗料の二次タレ防止装置であって、
前記アームの先端に取り付けられた振動部と、
電着塗装後の前記車体の予め設定された加振箇所に前記振動部が接触するように前記アームを移動するとともに、前記振動部により前記加振箇所を振動するように、前記アームと前記振動部を制御する制御部と
を備えることを特徴とする電着塗料の二次タレ防止装置。
【請求項2】
前記振動部は、
弾性材料からなり、前記車体に接触する部分が曲面形状に形成された接触部と、
前記接触部を振動させるバイブレータとを有する
請求項1に記載の電着塗料の二次タレ防止装置。
【請求項3】
前記加振箇所は、前記車体の車体パネルに設定された加振箇所を含む
請求項1または2に記載の電着塗料の二次タレ防止装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記車体パネルの前記加振箇所において前記振動部を前記車体パネルの板厚方向に振動させるように構成されている
請求項3に記載の電着塗料の二次タレ防止装置。
【請求項5】
前記車体パネルは第1の車体パネルと第2の車体パネルを含み、
前記加振箇所は、前記第1の車体パネルと前記第2の車体パネルを重ね合わせた合わせ面部の隙間に対応する領域に設定されている
請求項3または4に記載の電着塗料の二次タレ防止装置。
【請求項6】
前記第1の車体パネルは前記第2の車体パネルに対して車両上下方向の上側であって車室内側に配置され、前記第2の車体パネルは前記第1の車体パネルに対して前記車両上下方向の下側であって車室外側に配置され、
前記加振箇所は、前記第1の車体パネルの前記合わせ面部の隙間に対応する領域に設定されている
請求項5に記載の電着塗料の二次タレ防止装置。
【請求項7】
アームを有するロボットによる電着塗装後の車体の電着塗料の二次タレ防止方法であって、
電着塗装後の車体の予め設定された加振箇所に、前記アームの先端に取り付けられた振動部が接触するように前記アームを移動し、
前記振動部により前記加振箇所を振動する
ことを特徴とする電着塗料の二次タレ防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電着塗料の二次タレ防止装置および二次タレ防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電着塗装工程においては電着塗装された自動車ボディを水洗した後、自動車ボディを乾燥炉へ搬送して乾燥焼き付け処理を行っている。乾燥焼き付け処理では、ボディ温度の上昇により自動車ボディの隙間に残留した電着塗料と水洗水が流出する二次タレ現象が発生することがある。二次タレ現象で流出した電着塗料が自動車ボディの塗膜上に付着すると、塗装の仕上がり品質が低下してしまう。
【0003】
電着塗料の二次タレを防止する装置として、電着塗装を施したワークの塗膜焼き付け前に、電着塗料タレを除去するためにワークにエアーの吹付けを行う二次タレ防止用ロボットが知られている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、ワークの鋼板が袋状になっている内部等に向かってエアー噴射可能な噴射位置に、二次タレ防止用ロボットのエアーノズルを位置するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1のようにエアーの吹付けを行う装置では、ボディを構成するパネル同士の隙間に残留した電着塗料を十分に除去することができなないおそれがある。本発明は、電着塗装後の車体の電着塗料の二次タレを確実に防止することができる電着塗料の二次タレ防止装置および二次タレ防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、アームを有するロボットを備え、電着塗装後の車体の電着塗料の二次タレ防止装置が提供される。この電着塗料の二次タレ防止装置は、前記アームの先端に取り付けられた振動部と、電着塗装後の前記車体の予め設定された加振箇所に前記振動部が接触するように前記アームを移動するとともに、前記振動部により前記加振箇所を振動するように、前記アームと前記振動部を制御する制御部とを備える。
【0007】
本発明の別の態様によれば、アームを有するロボットによる電着塗装後の車体の電着塗料の二次タレ防止方法が提供される。この電着塗料の二次タレ防止方法は、電着塗装後の車体の予め設定された加振箇所に、前記アームの先端に取り付けられた振動部が接触するように前記アームを移動し、前記振動部により前記加振箇所を振動する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電着塗装後の車体の電着塗料の二次タレを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施の形態における塗装工程の流れを説明するフローチャートである。
【
図2】電着塗料の二次タレ防止を説明するための図である。
【
図3】本発明の一実施の形態における二次タレ防止装置の概略構成を示す図である。
【
図5】本発明の一実施の形態における二次タレ防止方法の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施の形態による電着塗料の二次タレ防止装置および二次タレ防止方法について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態における塗装工程の流れを説明するフローチャートである。
【0011】
プレス工程および溶接工程を経て出来上がった車体は、塗装のために塗装工程に搬送される。
図1に示すように、塗装工程では、ステップS1において塗装の前処理として埃や油などを落とす処理が行われ、その後、ステップS2において車体の防錆効果を高めるための電着塗装が行われる。電着塗装された車体に対しては、ステップS3において水切り・乾燥処理が行われ、その後、不図示の中塗り工程や上塗り工程といったさらなる処理が施される。
【0012】
以下、各処理について説明する。まず、ステップS1の前処理は、湯洗処理(S11)、脱脂処理(S12)、水洗処理(S13)、表面処理(S14)、化成処理(S15)、および水洗処理(S16)が順番に行われる。ここで行われる前処理は塗装工程における一般的な処理であるため詳細な説明は省略する。
【0013】
ステップS2の電着塗装では、水性の電着塗料が入った槽の中に車体を浸漬させ、車体表面に電着塗料の塗膜を形成する電着処理を行う(S21)。電着処理では、通常、槽に入った電着塗料をプラス、車体をマイナスにして電流を流し、電着塗料を車体に析出させて塗装する。これにより、細かな場所にも電着塗料を行きわたらせてまんべんなく車体の塗装を行う。その後、塗膜が形成された車体を水洗水により洗浄する水洗処理を行う(S22)。
【0014】
ステップS3の水切りおよび乾燥では、水洗処理(S22)後の車体に残留している電着塗料および水洗水をエアブローにより除去する水切り処理を行う(S31)。ここで、上述したように、電着塗料は車体の細かな場所にも侵入することができるため、上述した水洗処理(S22)および水切り処理(S31)を行っても、車体の隙間に除去しきれない電着塗料が残留する可能性がある。車体の隙間に残留した電着塗料と水洗水(以降、残留塗料と呼ぶこともある)が乾燥炉内で加熱されて隙間から流出する二次タレ現象が発生すると、塗装の仕上がり品質が低下してしまう。
【0015】
そこで、本発明の一実施の形態においては、水切り処理(S31)の後、車体を乾燥炉へ搬送して電着塗料の乾燥焼き付け処理を行う(S33)前に、車体の隙間に残留した残留塗料を局所的かつ直接的な振動により排出させるための水切り加振処理を行う(S32)。水切り加振処理の後、車体を乾燥炉へ搬送し電着塗料の乾燥焼き付け処理を行う(S33)。このように、乾燥焼き付け処理(S33)の前に残留した残留塗料を振動により強制的に排出することにより、二次タレを防止する。
【0016】
図2(a),(b)に、電着塗料の二次タレ防止を説明するための図を示す。車体には複数の車体パネルPを重ね合わせた合わせ面部が様々な場所に存在する。ここで、合わせ面部とは、2枚以上の車体パネルPがパネルの板厚方向にオーバーラップしている部分を指す。
図2(a),(b)では、それぞれが車体パネルPに相当する第1の車体パネル1と第2の車体パネル2が重ね合わされて合わせ面部4を形成している。
図2(a)に示すように、合わせ面部4において第1の車体パネル1と第2の車体パネル2とが完全には密着しておらず、第1の車体パネル1と第2の車体パネル2の間に隙間3が存在する場合、その隙間3に電着塗料と水洗水が残留することがある。第1パネル1と第2パネル2が例えば0.65mmの板厚の自動車用鋼板から形成されている場合、板厚方向の隙間3の長さは例えば1mm程度である。このようなごく小さい隙間に電着塗料が侵入した場合、電着塗料はその粘性と表面張力により隙間にとどまるため、エアブローなどで空気を吹付けても除去することは難しい。
【0017】
そこで、本実施の形態においては、
図2(b)に示すように、第1パネル1と第2パネル2を重ね合わせた合わせ面部4を局所的かつ直接的に振動することにより、合わせ面部4の隙間3に残留した電着塗料と水洗水を強制的に排出する。なお、本実施の形態は、合わせ面部4以外の車体の隙間や凹部に残留している残留塗料を排出するためにも同様に適用できる。
【0018】
以下に、
図3を参照して本実施の形態における電着塗料の二次タレ防止装置100の概略構成を説明する。二次タレ防止装置100は、搬送ハンガ200によって搬送レールに沿って搬送された車体300に対し、上述した水切り加振処理を行うことによって二次タレを防止する。水切り加振処理の際には、車体300が揺動しないように搬送ハンガ200をストッパ、ハンガ振れ止めガイド等で固定する。
【0019】
二次タレ防止装置100は、ロボット10と、ロボット10のアームの先端に取り付けられた振動部30と、ロボット10の動作と振動部30の振動を制御する制御部50とを備える。
【0020】
ロボット10は、固定されたベース11と、ベース11に回動可能に取り付けられた第1アーム12(アーム)と、第1アーム12に回動可能に取り付けられた第2アーム13(アーム)とを有する多関節ロボットである。ロボット10の第2アーム13の先端には、振動部30と、水洗水を噴射するスプレーノズル40とが取り付けられている。
【0021】
図4に、ロボット10に取り付けられる振動部30の構成を示す。振動部30は、車体に接触する接触部31と、接触部31を振動させるバイブレータ32と、接触部31が車体に接触したことを検出する力センサ33とを備える。振動部30は、ロボットアーム取り付けベース34を介してロボット10の第2アーム13の先端に取り付けられる。接触部31は、エラストマーなどの弾性材料からなり、車体300に接触する先端部分が曲面形状に形成されている。接触部31を弾性材料からなる曲面形状とすることにより、接触部31を車体300に接触させて振動させた場合に車体300に形成された電着塗膜を傷つけることを防止している。接触部31は、ボディアタッチメント35を介してバイブレータ32に接続されている。
【0022】
バイブレータ32は、例えば偏心モータを有し、制御部50からの指示に応じて接触部31を振動させる。バイブレータ32による振動の振幅、加速度、周波数等の加振条件は、制御部50からの指示に応じて制御される。バイブレータ32は、振動がロボット10側に伝達することを防止するため、防振ゴム36を介してロボットアーム取り付けベース34に接続されている。
【0023】
力センサ33は、例えば3軸方向の力成分と3軸方向のモーメント成分を検出できるように構成されており、第2アーム13によって車体に接触部31を押し付ける際の押し付け力を検出する。力センサ33の検出結果は、制御部50に送られる。制御部50は、押し付け力を検出することにより、接触部31が車体に接触したことを検出するとともに、接触部31をどの程度の力で車体に押し付けるかを制御することができる。
【0024】
制御部50は、例えばプロセッサを備え、所定の動作プログラムに従って二次タレ防止装置100の全体の動作を制御するように構成されている。制御部50は、ロボット10に内蔵して設けても、ロボット10の外部装置として設置してもよい。
【0025】
次に、
図5のフローチャートを参照して二次タレ防止装置100で実行される二次タレ防止方法の流れを説明する。
【0026】
ステップS102で制御部50は、ロボット10の第1アーム12と第2アーム13を移動して振動部30を車体の所望の加振箇所、例えば上述した合わせ面部4に接近させ、振動部30の接触部31を加振箇所に当接させる。ステップS104で制御部50は、力センサ33の検出結果に基づいて、振動部30の接触部31が所定の押し付け力で車体の加振箇所に当接していることを検出する。ステップS106で制御部50は、振動部30の接触部31が車体に当接した状態で所定の加振条件に従って振動するようにバイブレータ32を制御する。これにより、車体の隙間に残留していた残留塗料は局所的かつ直接的な振動により隙間から排出される。
【0027】
ここで、振動部30によって車体の加振箇所を振動させる際の加振条件としては、振動をかける時間、振動周波数、振動の方向、振幅、強さなどを含む。これらの加振条件は、残留塗料を確実に排出できるように、振動を加える加振箇所ごとに適宜、調整される。なお、振動の方向は、加振箇所における車体パネルの板厚方向に平行な方向であることが望ましい。車体パネルの板厚方向に平行な方向とは、車体パネルの表面に対して略直交する方向である。車体パネルの板厚方向に振動を加えることにより、残留塗料を隙間から効果的に押し出して車両上下方向の下方に流出させることができる。
【0028】
ステップS108で制御部50は、第2アーム13の先端に取り付けられたスプレーノズル40を制御して水洗水を噴射させ、隙間から排出された残留塗料を洗い流す。以上の動作を、各加振箇所に対して実行する。
【0029】
上述した二次タレ防止方法の動作は、不図示の教示装置を用いて予め二次タレ防止装置100の制御部50に教示しておき、教示された動作プログラムに従って二次タレ防止装置100の動作を自動制御するように構成してもよい。
【0030】
図6に、振動部30による車体の加振箇所の例を示す。
図6(a),(b)は、キャブオーバー型車両の電着塗装後の車体を車両後方および車両右側方から見た概略図である。加振箇所は、車体パネルと車体パネルの合わせ面部や、ヒンジの隙間など、電着塗料と水洗水が残留しやすい場所であって、振動部30で加振箇所を振動することによって残留塗料が隙間から排出可能となる場所に設定される。
【0031】
図6(a)、(b)に示すように、キャブオーバー型車両80には例えば4つの加振箇所を設定する。キャブオーバー型車両80は、キャビン部81と,デッキ部82とを備える。デッキ部82は下面部を形成するデッキフロアパネル83,後面部を形成するリアゲートパネル84(車体パネル)などを備えている。リアゲートパネル84の車両上下方向の下端は3つのリアゲートヒンジ85によってデッキフロアパネル83に対して車両後方側に回動可能に取り付けられている。キャビン部81は背面部を形成するキャビンバックアッパパネル86(第1の車体パネル),キャビンバックロアパネル87(第2の車体パネル)などを備えている。キャビンバックアッパパネル86とキャビンバックロアパネル87は例えばスポット溶接により互いに接合されている。
【0032】
リアゲートヒンジ85には隙間が存在し、その隙間に電着塗料と水洗水が残留しやすい。また、リアゲートヒンジ85から二次タレが発生すると、デッキ部82の後面部の塗装仕上がり品質が低下してしまう。そこで、リアゲートヒンジ85からの二次タレを防止するために、リアゲートヒンジ85の車両上下方向の上側に相当するリアゲートパネル84の上方領域に加振箇所61を設定する。ここでは、1つのリアゲートヒンジ85に対して1つ加振箇所61を設定するので、リアゲートパネル84には3つの加振箇所61が設定される。加振箇所61は、振動部30によってリアゲートパネル84の車両後方側から、リアゲートパネル84の板厚方向に加振される。
【0033】
キャビンバックアッパパネル86はキャビンバックロアパネル87に対して車両上下方向の上側であって車室内側に配置され、キャビンバックロアパネル87はキャビンバックアッパパネル86に対して車両上下方向の下側であって車室外側に配置されている。キャビンバックアッパパネル86とキャビンバックロアパネル87の合わせ面部から二次タレが発生すると、キャビン部81の背面部の塗装仕上がり品質が低下してしまう。そこで、キャビンバックアッパパネル86とキャビンバックロアパネル87の合わせ面部からの二次タレを防止するために、キャビンバックアッパパネル86の合わせ面部の隙間に対応する領域に1つの加振箇所62を設定する。加振箇所62は、振動部30によってキャビン部81の車室内側から、キャビンバックアッパパネル86の板厚方向に加振される。
【0034】
なお、キャビンバックアッパパネル86とキャビンバックロアパネル87の合わせ面部は車両幅方向にある程度の長さを有するので、合わせ面部に対応する領域に複数の加振箇所62を設けてもよい。ただし、キャビンバックアッパパネル86とキャビンバックロアパネル87の合わせ面部において電着塗料と水洗水が残留しやすい複数の部分の中間の適切な位置に1つの加振箇所を設定することにより、複数の部分に残留した残留塗料を一回の加振によってまとめて除去することができる。これにより、二次タレ防止にかかる作業時間を短縮することができる。
【0035】
図示は省略するが、ワンボックス型車両の場合、例えば4つの加振箇所を設定する。ワンボックス型車両の左右両側側面には、車両前後方向に摺動するスライドドアが設けられている。スライドドアの車室内側にはドアインナパネルが配置され、ドアインナパネルの車室外側にドアラッチが組付けられている。そこで、ドアラッチをドアインナパネルに組付けた合わせ面部の隙間からの二次タレを防止するため、例えばドアインナパネルにおける、ドアラッチとの合わせ面部の隙間に対応する領域に加振箇所を設定する。この加振箇所は、振動部30によって車室内側からドアインナパネルの板厚方向に加振される。
【0036】
ワンボックス型車両のサイドボディの車両前後方向の後部にはリアクォータパネルが配置されている。リアクォータパネルの車室内側にはリアクォータインナアッパパネル(第1の車体パネル)とリアクォータインナロアパネル(第2の車体パネル)が配置されている。リアクォータインナアッパパネルはリアクォータインナロアパネルに対して車両上下方向の上側であって車室内側に配置され、リアクォータインナロアパネルはリアクォータインナアッパパネルに対して車両上下方向の下側であって車室外側に配置されている。リアクォータインナアッパパネルとリアクォータインナロアパネルは例えばスポット溶接により互いに接合されている。そこで、リアクォータインナアッパパネルとリアクォータインナロアパネルの合わせ面部からの二次タレを防止するため、例えばリアクォータインナアッパパネルの合わせ面部の隙間に対応する領域に加振箇所を設定する。この加振箇所は、振動部30によってリアクォータインナアッパパネルの板厚方向に加振される。
【0037】
上述した本実施の形態による電着塗料の二次タレ防止装置100においては、以下のような作用効果を奏することができる。
【0038】
電着塗料の二次タレ防止装置100は、ロボット10の第2アーム13の先端に取り付けられた振動部30と、電着塗装後の車体300の予め設定された加振箇所に振動部30が接触するように第1アーム12および第2アーム13を移動するとともに、振動部30により加振箇所を振動するように、第1アーム12および第2アーム13と振動部30を制御する制御部50とを備えている。これにより、電着塗装後の車体300において電着塗料が残留しやすい部分にピンポイントで振動を与えることができ、車体300の隙間から残留塗料を効果的に除去し、二次タレを防止することができる。リアゲートパネル84の加振箇所61など、加振箇所の位置によっては車体300の外側から振動部30をアプローチさせることができるので、車体300の開口部を通って車室内側から作業を行う場合に比べて作業時間を短縮することができる。また、振動は車体パネルを通って伝達するので、車体ボディ精度や外気温、湿度等によって振動部30の接触部31が車体に接触する位置が予め設定した加振箇所から若干ずれたとしても、振動による残留塗料の除去効果には大きな影響はない。これは、電着塗料の二次タレ防止装置100の運用性およびメンテナンス性の向上につながる。
【0039】
振動部30は、弾性材料からなり、車体300に接触する部分が曲面形状に形成された接触部31と、接触部31を振動させるバイブレータ32とを有する。これにより、接触部31を車体300に接触させた状態で振動しても、車体300の塗装が欠損するなどの塗装不良を生じることがない。
【0040】
加振箇所は、車体300の車体パネルPに設定された加振箇所を含む。制御部50は、車体300の加振箇所において振動部30を車体パネルPの板厚方向に振動させるように構成されている。これにより、残留塗料を車体300の隙間から確実に排出させることができる。
【0041】
車体300の車体パネルPは第1の車体パネル1と第2の車体パネル2を含み、加振箇所は、第1の車体パネル1と第2の車体パネル2を重ね合わせた合わせ面部4の隙間3に対応する領域に設定されている。複数の車体パネルが板厚方向にオーバーラップした合わせ面部には電着塗料と水洗水が残留しやすいので、合わせ面部に対応する領域に加振箇所を設定することにより、残留塗料を車体の隙間から効果的に排出させることができる。
【0042】
とくに、第1の車体パネル1は第2の車体パネル2に対して車両上下方向の上側であって車室内側に配置され、第2の車体パネル2は第1の車体パネル1に対して車両上下方向の下側であって車室外側に配置されている場合、加振箇所を、第1の車体パネル1の合わせ面部4の隙間に対応する領域に設定することにより、残留塗料を車体の隙間から一層、確実に排出させることができる。
【0043】
変形例
以上、本発明の一実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形および変更が可能である。
【0044】
例えば、振動部30による加振箇所は、
図6に示したものに限定されず、振動部30の振動によって隙間に侵入した残留塗料が排出可能となる場所であれば、
図6に示した場所以外の場所に加振箇所を設定することが可能である。また、加振箇所の数も、上述した実施の形態には限定されない。例えば、上述した実施の形態ではリアゲートパネル84に3つの加振箇所61を設定したが、2つに減少してもよい。具体的には、車両左右方向の左側、中央、および右側に3つの加振箇所61を設定する代わりに、車両左右方向の左側の加振箇所61と中央の加振箇所61の中間の適切な位置に加振箇所を1つ設定し、中央の加振箇所61と右側の加振箇所61の中間の適切な位置に加振箇所を1つ設定することができる。このように、電着塗料と水洗水が残留しやすい複数の部分の中間の適切な位置に1つの加振箇所を設定することにより、複数の部分に残留した残留塗料を一回の加振によってまとめて除去することができる。これにより、二次タレ防止にかかる作業時間を短縮することができる。
【0045】
加振箇所は上述したリアゲートパネル84やキャビンバックアッパパネル86などの車体パネル以外の場所に設定してもよい。例えば、加振箇所をリアゲートヒンジ85に設定し、リアゲートヒンジ85からの二次タレを防止するためにリアゲートヒンジ85を直接、加振してもよい。なお、加振箇所は、スポット溶接の位置を避けて設定することが好ましい。これは、スポット溶接した位置では合わせ面部において2枚のパネルが密着し、隙間が生じていないためである。
【0046】
上述した実施の形態では、ロボット10の第2アーム13の先端に、振動部30と水洗水を噴射するスプレーノズル40とを取り付けたが、本発明はこれには限定されない。スプレーノズル40から水洗水を噴射する代わりに、エアーを吹付けるように構成してもよい。また、スプレーノズル40を振動部30が取り付けられたロボット10とは別のロボットのアームに取り付けるように構成してもよい。振動部30による加振後の水洗処理(S108)を省略することも可能である。
【0047】
上述した実施の形態では、水切り加振処理の際に車体300が揺動しないように搬送ハンガ200をストッパ、ハンガ振れ止めガイド等で固定したが、車体300を搬送ハンガ200で搬送させながら、水切り加振処理を行うように構成してもよい。この場合、搬送ハンガ200の搬送方向に平行な方向に延びるロボット走行レールを設置し、車体300の移動に合わせてロボット10もロボット走行レールに沿って移動させる。
【0048】
図3には1台のロボット10を示したが、複数のロボットを用いて水切り加振処理を行うように構成してもよい。
【0049】
振動部30の構成は
図4に示したものには限定されない。また、振動部30の振動方向は、車体パネルの板厚方向には限定されず、板厚方向とは異なる方向に振動させてもよい。接触部31の材質および形状も、弾性材料と曲面形状には限定されず、車体に形成された電着塗料の塗膜を欠損させないようないかなる材質および形状を採用してもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 第1の車体パネル
2 第2の車体パネル
3 隙間
4 合わせ面部
10 ロボット
12 第1アーム(アーム)
13 第2アーム(アーム)
30 振動部
31 接触部
32 バイブレータ
50 制御部
61,62 加振箇所
86 キャビンバックアッパパネル(第1の車体パネル)
87 キャビンバックロアパネル(第2の車体パネル)
100 二次タレ防止装置
300 車体