(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040572
(43)【公開日】2023-03-23
(54)【発明の名称】真空装置
(51)【国際特許分類】
H01J 49/02 20060101AFI20230315BHJP
H01J 49/40 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
H01J49/02
H01J49/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021147648
(22)【出願日】2021-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 拓也
(72)【発明者】
【氏名】奥村 大輔
(72)【発明者】
【氏名】工藤 朋也
(72)【発明者】
【氏名】坂越 祐介
【テーマコード(参考)】
5C038
【Fターム(参考)】
5C038HH18
5C038HH30
(57)【要約】
【課題】真空とされる筐体内でのネジの落下を防止することができる真空装置を提供する。
【解決手段】
筐体内において被固定物がネジ74を介して固定対象物に固定され、筐体内を真空にすることが可能な真空装置10であって、ネジ74は、頭部74aと、雄ネジ部74cと、これらを連結し、雄ネジ部74cの外径よりも小さい外径とされる軸部74bとを備え、被固定物は、固定対象物に当接する当接面66aと、当接面66aに形成され、雄ネジ部74cの長さよりも深さが大きい第1凹部76と、第1凹部76の底面に形成され、軸部74bの外径よりも大きく、かつ、雄ネジ部74cの外径よりも小さい内径を有するとともに、軸部74bが挿通される貫通孔78と、第1凹部76を筐体内における被固定物よりも外側の空間と連通させる連通孔68とを備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体内において被固定物がネジを介して固定対象物に固定され、前記筐体内を真空にすることが可能な真空装置であって、
前記ネジは、頭部と、雄ネジ部と、前記頭部及び前記雄ネジ部を連結し、前記雄ネジ部の外径よりも小さい外径とされる軸部とを備え、
前記被固定物は、前記固定対象物に当接する当接面と、当該当接面に形成され、前記雄ネジ部の長さよりも深さが大きい第1凹部と、当該第1凹部の底面に形成され、前記軸部の外径よりも大きく、かつ、前記雄ネジ部の外径よりも小さい内径を有するとともに、前記軸部が挿通される貫通孔と、前記被固定物が前記固定対象物に固定されている状態で前記第1凹部を前記筐体内における当該被固定物よりも外側の空間と連通させる連通孔とを備え、
前記固定対象物は、前記被固定物の前記第1凹部に対向する位置に形成され、前記雄ネジ部を螺合可能な第1雌ネジ部を備える、真空装置。
【請求項2】
前記貫通孔は、前記雄ネジ部を螺合可能とする第2雌ネジ部として形成される、請求項1に記載の真空装置。
【請求項3】
前記貫通孔の前記第1凹部側とは反対側に設けられ、前記貫通孔に挿通された前記ネジの前記頭部を前記貫通孔から離間する方向に付勢する付勢部材をさらに備える、請求項1又は2に記載の真空装置。
【請求項4】
前記被固定物は、前記付勢部材を収容しつつ前記貫通孔と連通する第2凹部を備える、請求項3に記載の真空装置。
【請求項5】
前記被固定物を介して、前記固定対象物に固定される検出器をさらに備える、請求項1から4のいずれか一項に記載の真空装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、下記特許文献1で開示される飛行時間型質量分析装置では、必要に応じて真空にすることができる分析室に、検出器及びフライトチューブ等が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記飛行時間型質量分析装置のような装置では、メンテナンスの際には、作業者によってコンポーネントを固定するためのネジの取り付け及び取り外しが行われる。また、ネジの取り付けは、たとえば、装置の組み立てに伴って、筐体内のコンポーネントを固定する場合も行われる。
【0005】
作業者がネジの取り付け又は取り外しを行う際には、作業者が筐体内でネジを落としてしまい、そのネジがコンポーネントに衝突する虞がある。また、ネジがコンポーネントと衝突すると、そのコンポーネントに傷が付く虞がある。さらに、ネジの取り付け又は取り外しを行う際に周辺のコンポーネントに手が当たってしまい、これらを変形・故障させてしまう虞もある。
【0006】
特に、上記飛行時間型質量分析装置の分析室のような、適宜に真空とされる空間に配置されるコンポーネントは精密部品及び精密機器等であるため、ネジとの衝突に起因して、これらが変形又は故障した場合に、損害が大きくなる虞がある。また落下したネジを救出するための追加作業が必要となり、作業効率が低下する。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、真空とされる筐体内でのネジの落下を防止することができる真空装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、筐体内において被固定物がネジを介して固定対象物に固定され、前記筐体内を真空にすることが可能な真空装置であって、前記ネジは、頭部と、雄ネジ部と、軸部とを備え、前記被固定物は、当接面と、第1凹部と、貫通孔と、連通孔とを備え、前記固定対象物は、第1雌ネジ部を備える。前記軸部は、前記頭部及び前記雄ネジ部を連結し、前記雄ネジ部の外径よりも小さい外径とされる。前記当接面は、前記固定対象物に当接する。前記第1凹部は、前記当接面に形成され、前記雄ネジ部の長さよりも深さが大きい。前記貫通孔は、前記第1凹部の底面に形成され、前記軸部の外径よりも大きく、かつ、前記雄ネジ部の外径よりも小さい内径を有するとともに、前記軸部が挿通される。前記連通孔は、前記被固定物が前記固定対象物に固定されている状態で前記第1凹部を前記筐体内における当該被固定物よりも外側の空間と連通させる。前記第1雌ネジ部は、前記被固定物の前記第1凹部に対向する位置に形成され、前記雄ネジ部を螺合可能とされる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、真空とされる筐体内でネジが取り付け又は取り外される際に、ネジが落下するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態の真空装置の構成の一例を示す概略図である。
【
図2】本実施形態のマウントの周辺の一例を示す斜視図である。
【
図3】本実施形態のネジの構成の一例を示す概略図である。
【
図4】本実施形態のマウントの構成の一例を示す概略断面図である。
【
図5】本実施形態のマウントの構成の他の例を示す概略断面図である。
【
図6】本実施形態のマウントの構成のさらに他の例を示す概略断面図である。
【
図7】本実施形態のマウントの構成のさらにその他の例を示す概略断面図である。
【
図8】
図7の状態からネジを緩めた状態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.真空装置の構成
図1は、本実施形態の真空装置10の構成の一例を示す概略図である。なお、本実施形態では、真空装置10として、飛行時間型質量分析装置を例に挙げて説明する。
【0012】
真空装置10は、筐体11を備えており、イオン化室12、第1中間室14、第2中間室16、第3中間室18及び分析室20などが筐体11の内部に形成されている。イオン化室12内は、略大気圧となっている。第1中間室14、第2中間室16、第3中間室18及び分析室20は、それぞれ真空ポンプ(図示は省略)の駆動により真空状態(負圧状態)とされる。また、イオン化室12、第1中間室14、第2中間室16、第3中間室18及び分析室20は、互いに連通しており、この順序に従って段階的に真空度が高くなるように構成されている。
【0013】
イオン化室12には、例えばESI(Electro Spray Ionization)スプレーからなるスプレー30が設けられている。液体クロマトグラフ(図示は省略)から供給される試料中の各成分を含む試料液は、スプレー30により、電荷が付与されながらイオン化室12内に噴霧される。これにより、試料中の各成分由来のイオンが生成される。なお、真空装置10で用いるイオン化法は、特に限定されない。
【0014】
第1中間室14は、小径の管からなる加熱キャピラリ32を介して、イオン化室12に連通している。また、第2中間室16は、小孔からなるスキマー36を介して、第1中間室14に連通している。第1中間室14及び第2中間室16には、それぞれイオンを収束させつつ後段へ送るためのイオンガイド34、38が設けられている。
【0015】
第3中間室18には、例えば四重極マスフィルタ40及びコリジョンセル42などが設けられている。コリジョンセル42の内部には、アルゴン又は窒素などのCID(Collision Induced Dissociation)ガスが連続的又は間欠的に供給される。コリジョンセル42内には、多重極イオンガイド44が設けられている。
【0016】
第2中間室16から第3中間室18に流入するイオンは、四重極マスフィルタ40により質量電荷比に応じて分離され、特定の質量電荷比を有するイオンのみが四重極マスフィルタ40を通過する。四重極マスフィルタ40を通過したイオンは、プリカーサイオンとしてコリジョンセル42内に導入され、CIDガスと接触して開裂されることにより、プロダクトイオンが生成される。生成されたプロダクトイオンは、多重極イオンガイド44により一時的に保持され、所定のタイミングでコリジョンセル42から放出される。
【0017】
第3中間室18及び分析室20には、これらの室内を跨るようにトランスファー電極部46が設けられている。トランスファー電極部46は、第3中間室18に設けられた1つ又は複数の第1電極46aと、分析室20に設けられた1つ又は複数の第2電極46bとを含む。第1電極46a及び第2電極46bは、それぞれ環状に形成され、同軸上に並べて配置されている。コリジョンセル42から放出されたイオン(プロダクトイオン)は、トランスファー電極部46において複数の電極46a、46bの内側を通過することにより収束される。
【0018】
分析室20には、第2電極46bの他、直交加速部48、加速電極部50、検出器52、プレート54、フライトチューブ56及びリフレクトロン58等が設けられている。フライトチューブ56は、例えば両端部が開放された中空状の部材であり、その内部にリフレクトロン58が配置されている。
【0019】
また、フライトチューブ56を覆うプレート54には、加速電極部50及び検出器52が固定されている。さらに、プレート54は、加速電極部50から出射するイオンが通過する貫通孔及び検出器52に入射するイオンが通過する貫通孔を有する。
【0020】
直交加速部48には、トランスファー電極部46から出射するイオンが入射する。直交加速部48は、互いに間隔を隔てて対向する1対の電極48a、48bを備えている。1対の電極48a、48bは、トランスファー電極部46からのイオンの入射方向に対して平行に延びており、これらの電極間には直交加速領域60が形成されている。
【0021】
一方の電極48bは、複数の開口を有するグリッド電極により構成されている。直交加速領域60に入射するイオンは、そのイオンの入射方向に対して直交方向に加速され、一方の電極48bの開口を通過して、加速電極部50へと導かれる。
【0022】
本実施形態において、直交加速部48は、分析対象となるイオンを射出するイオン射出部を構成している。直交加速部48から射出されるイオンは、加速電極部50によりさらに加速され、フライトチューブ56内に導入される。
【0023】
フライトチューブ56内に設けられたリフレクトロン58は、1つ又は複数の第1電極58aと、1つ又は複数の第2電極58bとを含む。第1電極58a及び第2電極58bは、それぞれイオンが通過する貫通穴を有し、フライトチューブ56の軸線に沿って同軸上に並べて配置されている。第1電極58a及び第2電極58bには、それぞれ異なる電圧が印加される。
【0024】
フライトチューブ56内に導入されたイオンは、そのフライトチューブ56内に形成された飛行空間内に導かれ、その飛行空間内を飛行した後に検出器52に入射する。具体的には、フライトチューブ56内に導入されたイオンは、第1電極58aの内側に形成された第1領域(第1ステージ)62で減速された後、第2電極58bの内側に形成された第2領域(第2ステージ)64で反射されることにより、U字状に折り返されて検出器52に入射する。検出器52としては、寿命が比較的短く、交換頻度が高いMCP(Micro Channel Plate)検出器が用いられるが、これに限らず、SEM(Secondary Electron Multiplier)検出器などの他の検出器が用いられてもよい。
【0025】
このような真空装置10では、上述したように、図示しない真空ポンプの駆動により第1中間室14、第2中間室16、第3中間室18及び分析室20、すなわち、筐体11内を真空状態(負圧状態)とすることができる。
【0026】
2.マウントの周辺の構成
図2は、本実施形態のマウント66の周辺の一例を示す斜視図である。
図1では、具体的な図示は省略したが、検出器52は、マウント66を介して、プレート54に固定される。すなわち、マウント66は、検出器52の取り付け具としての役割を担う。また、詳細な説明は後述するが、マウント66には連通孔68が設けられる。
【0027】
また、
図2に示す例では、検出器52は、検出器52に電力を供給するための基板(図示は省略)の載置台70及び検出器52に入射されるイオンの量を制限するスリット電極72等の各種部材を介してマウント66に固定され、そのマウント66がプレート54に固定されている。
【0028】
なお、検出器52及びプレート54の間に位置する部材は、検出器52に入射するイオンが通過する貫通孔を有する。また、
図2に示すように、マウント66は、ネジ74を介してプレート54に固定されている。
【0029】
図3は、本実施形態のネジ74の構成の一例を示す概略図である。
図3に示すように、ネジ74は、頭部74a、軸部74b及び雄ネジ部74cを備え、軸部74bは、頭部74a及び雄ネジ部74cを連結する。軸部74bの外径については、雄ネジ部74cの外径よりも小さい。なお、軸部74bの軸線を中心として、雄ネジ部74cにおけるネジ山の頂点を通る仮想円の直径が外径(呼び径)であり、ネジ山の谷底を通る仮想円の直径が谷径である。
【0030】
この
図3に例示されるようなネジ74は、市販されている一般的なネジを加工することにより形成することができる。具体的には、軸部全体にネジ山が形成されているネジを加工することにより、先端部分のネジ山を残して雄ネジ部74cとし、雄ネジ部74cよりも頭部74a側のネジ山を切削して、雄ネジ部74cの外径よりも小さい一定の外径を有する軸部74bとすることができる。
【0031】
ネジ74の軸線に沿った雄ネジ部74cの長さL1は、ネジ74を締め付けて固定するために必要な長さに設定される。ただし、頭部74aと軸部74bとの間に、軸部74bの外径と異なる外径を有する部分があってもよい。
【0032】
3.マウントの構成
以下では、本実施形態のマウント66の構成について、複数の例を挙げて説明する。いずれの例においても、ネジ74の軸部74bがマウント66に挿通されており、ネジ74を軸線方向に沿って単にスライドさせただけでは、ネジ74の頭部74a又は雄ネジ部74cがマウント66に引っ掛かって、マウント66からネジ74が外れないようになっている。
【0033】
図4は、本実施形態のマウント66の構成の一例を示す概略断面図である。
図4に示すように、マウント66は、プレート54と当接しており、マウント66のプレート54と当接する当接面66aには、雄ネジ部74cの長さL1よりも深さD1が大きい第1凹部76が形成される。
【0034】
第1凹部76の底面76aには、貫通孔78が形成されている。貫通孔78の内径は、軸部74bの外径よりも大きく、かつ、雄ネジ部74cの外径よりも小さい。貫通孔78には、軸部74bが挿通される。これにより、ネジ74は、貫通孔78内で軸部74bを軸線方向にスライドさせることができる。ネジ74を軸線方向にスライドさせた場合でも、頭部74a又は雄ネジ部74cが貫通孔78の縁部に引っ掛かることにより、ネジ74が貫通孔78から抜け落ちることはない。
【0035】
第1凹部76は、たとえば断面円形状であり、その内径は雄ネジ部74cの外径よりも大きい。すなわち、第1凹部76は、雄ネジ部74cの長さL1よりも大きい深さD1を有し、雄ネジ部74cの外径よりも大きい内径を有しているため、第1凹部76の容積は、雄ネジ部74cの容積よりも大きい。したがって、ネジ74を貫通孔78内で軸線方向にスライドさせれば、第1凹部76内からはみ出さないように、雄ネジ部74cを第1凹部76内に収容することが可能である。
【0036】
なお、
図3に示したネジ74の軸部74bの長さL2は、貫通孔78の長さよりも長い。
【0037】
ただし、
図4に例示されるような構成では、頭部74aの外径及び雄ネジ部74cの外径が貫通孔78の内径よりも大きいため、貫通孔78内にネジ74を挿通させることが困難である。したがって、頭部74a及び雄ネジ部74cの少なくとも一方を軸部74bに対して着脱可能な構成にしたり、軸部74bを軸線方向に沿って複数の部分に分離可能な構成にしたりすることが好ましい。
【0038】
プレート54の第1凹部76に対向する位置には、雄ネジ部74cを螺合可能な第1雌ネジ部80が設けられる。第1雌ネジ部80は、雄ネジ部74cと螺合する。すなわち、雄ネジ部74cを第1雌ネジ部80に締め付けることにより、ネジ74をプレート54に固定することができる。なお、第1雌ネジ部80におけるネジ溝の谷底を通る仮想円の直径が谷径(呼び径)である。第1雌ネジ部80の谷径は、雄ネジ部74cの外径と同一、又は、雄ネジ部74cの外径よりも若干大きい。
【0039】
また、上述したように、マウント66には、連通孔68が形成される。連通孔68は、マウント66の外側の空間90を第1凹部76と連通させる。具体的には、連通孔68は、真空装置10の筐体11内におけるマウント66の外側の空間90を第1凹部76と連通させる。本実施形態では、真空装置10の使用時に空間90が真空状態となる。
【0040】
連通孔68は、貫通孔78に対して交差する方向に真っ直ぐ延びている。この例では、連通孔68が延びる方向と、貫通孔78が延びる方向とが、直交している。また、連通孔68の延長線上に、ネジ74の一部が位置しており、空間90側から連通孔68を介してネジ74の一部を視認することができる。この例では、連通孔68の内径D2が、第1凹部76の深さD1よりも小さい。ただし、連通孔68については、孔の断面積の大きさ及び形状は特に限定されない。
【0041】
図5は、本実施形態のマウント66の構成の他の例を示す概略断面図である。たとえば、
図5に示すように、連通孔68の断面積は、第1凹部76との境目がなくなるように形成されてもよい。すなわち、連通孔68の内径D2が、第1凹部76の深さD1と同一であってもよい。この場合、連通孔68におけるプレート54側は、第1凹部76と同様に開放されており、マウント66がプレート54に対して固定されることにより、連通孔68におけるプレート54側がプレート54で塞がれる。
【0042】
また、貫通孔78は、
図5に示すように、雄ネジ部74cを螺合可能とする第2雌ネジ部82として形成されてもよい。なお、第2雌ネジ部82におけるネジ溝の谷底を通る仮想円の直径が谷径(呼び径)であり、第2雌ネジ部82の内径は貫通孔78の内径と一致している。また、第2雌ネジ部82の谷径は、第1雌ネジ部80の谷径と一致している。したがって、第2雌ネジ部82の谷径は、雄ネジ部74cの外径と同一、又は、雄ネジ部74cの外径よりも若干大きい。
【0043】
このように、貫通孔78を第2雌ネジ部82で構成すれば、第2雌ネジ部82の一端から他端まで雄ネジ部74cをねじ込んでいくことで、ネジ74の軸部74bを貫通孔78に対して容易に挿通させることができる。ただし、連通孔68又は貫通孔78の一方のみを
図5のような構成としてもよい。
【0044】
図6は、本実施形態のマウント66の構成のさらに他の例を示す概略断面図である。
図6に示す例では、マウント66における当接面66aと反対側の面に、貫通孔78と連通する第2凹部84が設けられる。第2凹部84は、たとえば断面円形状であり、第2凹部84の内径は、頭部74aの外径よりも小さい。したがって、
図6のようにネジ74をプレート54に固定した状態では、頭部74aが第2凹部84の縁部に当接し、第2凹部84を塞いだ状態となる。
【0045】
第2凹部84には、頭部74aを貫通孔78から離間する方向に付勢する付勢部材86が収容される。すなわち、付勢部材86は、貫通孔78の第1凹部76側と反対側に設けられる。付勢部材86としては、圧縮ばねを用いることができるが、これに限らず、ゴム製の部材等の弾性部材が用いられてもよい。
図6に示す例では、付勢部材86として圧縮ばねが用いられており、当該圧縮ばねにネジ74の軸部74bが挿通されている。圧縮ばねにネジ74の軸部74bを挿通させるためには、円筒状の圧縮ばねの内径が雄ネジ部74cの外径よりも大きいことが好ましい。
【0046】
付勢部材86として圧縮ばねを用いる場合、その圧縮ばねのばね定数K(N/mm)は、下記式を満たす値に設定することができる。なお、M(N)はネジ74の自重、X(mm)はネジ74の雄ネジ部74cの底面がマウント66における当接面66aに接している状態での圧縮ばねの圧縮長さである。
K>M/X
【0047】
付勢部材86の外径は、貫通孔78の内径よりも大きく、ネジ74の頭部74aの外径よりも小さい。したがって、
図6のように、第2凹部84内に付勢部材86を収容してネジ74をプレート54に固定した状態では、付勢部材86の一端が貫通孔78の縁部に当接し、他端が頭部74aに当接することにより、付勢部材86が圧縮された状態となる。
【0048】
このように、ネジ74がプレート54に取り付けられている場合、付勢部材86が圧縮されているため、頭部74aには付勢部材86からの付勢力がかかった状態とされる。この状態でネジ74が緩められ、雄ネジ部74cが第1雌ネジ部80から取り外されると、付勢部材86の付勢力によってネジ74の頭部74aがマウント66から離間する。これに伴い、ネジ74の軸部74bが貫通孔78内をスライドし、雄ネジ部74cが貫通孔78の縁部に当接した状態となる。すなわち、付勢部材86の付勢力によって、雄ネジ部74cが第1凹部76内に収容された状態を維持することができる。
【0049】
なお、頭部74aは、付勢部材86とともに第2凹部84に収容されてもよい。また、付勢部材86が、貫通孔78の第1凹部84側と反対側に設けられるのであれば、第2凹部84は形成されていなくてもよい。この場合、付勢部材86は、マウント66における当接面66aと反対側の面と頭部74aとの間に配置される。
図6の例では、連通孔68が
図5と同様の構成となっているが、連通孔68を
図4と同様の構成としてもよい。
【0050】
図7は、本実施形態のマウント66の構成のさらにその他の例を示す概略断面図である。
図7に示す例では、貫通孔78が雄ネジ部74cを螺合可能とする第2雌ネジ部82として形成されている点を除き、
図6の構成と同様である。ただし、連通孔68が、
図4と同様の構成となっていてもよい。
【0051】
図8は、
図7の状態からネジ74を緩めた状態を示す概略断面図である。
図7の状態からネジ74が緩められ、雄ネジ部74cが第1雌ネジ部80から取り外されると、付勢部材86の付勢力によって、
図8のように雄ネジ部74cが第1凹部76内に収容された状態となる。ネジ74の雄ネジ部74cの長さL1は、第1凹部76の深さD1よりも短いため、
図8の状態では、雄ネジ部74cが第1雌ネジ部80から離間し、プレート54に接触しない状態となる。
【0052】
なお、本実施形態では、マウント66は、何かしらの物体に対して固定される被固定物に該当し、プレート54は、被固定物の固定先とされる固定対象物に該当する。本実施形態では、被固定物の一例としてマウント66の構成について説明したが、マウント66の代わりに、そのマウント66と同様の構成を有する別の被固定物を用いてもよい。また、プレート54の代わりに、そのプレート54と同様の構成を有する固定対象物を用いてもよい。例えば、真空装置10の筐体11内における直交加速部48又は加速電極部50などの他の部材を被固定物としてもよい。また、真空装置10としては、飛行時間型質量分析装置に限られるものではなく、真空状態とされる筐体を備えた構成であれば、他の質量分析装置であってもよいし、質量分析装置以外の真空装置であってもよい。
【0053】
4.態様
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0054】
(第1項)一態様に係る真空装置は、
筐体内において被固定物がネジを介して固定対象物に固定され、前記筐体内を真空にすることが可能な真空装置であって、
前記ネジは、頭部と、雄ネジ部と、前記頭部及び前記雄ネジ部を連結し、前記雄ネジ部の外径よりも小さい外径とされる軸部とを備え、
前記被固定物は、前記固定対象物に当接する当接面と、当該当接面に形成され、前記雄ネジ部の長さよりも深さが大きい第1凹部と、当該第1凹部の底面に形成され、前記軸部の外径よりも大きく、かつ、前記雄ネジ部の外径よりも小さい内径を有するとともに、前記軸部が挿通される貫通孔と、前記被固定物が前記固定対象物に固定されている状態で前記第1凹部内を前記筐体内における当該被固定物よりも外側の空間と連通させる連通孔とを備え、
前記固定対象物は、前記被固定物の前記第1凹部に対向する位置に形成され、前記雄ネジ部を螺合可能な第1雌ネジ部を備えてもよい。
【0055】
第1項に記載の真空装置によれば、ネジの雄ネジ部が固定対象物の第1雌ネジ部に螺合されていないとき、雄ネジ部を被固定物の貫通孔の縁部に当接させた状態で、第1凹部内に雄ネジ部を収容することができる。この状態では、雄ネジ部が貫通孔の縁部に引っ掛かることにより、ネジが貫通孔から抜け落ちることはないため、筐体内でネジが落下するのを防止することができる。また、被固定物を取り付け又は取り外す際にネジを手で取り除く必要がないため、ネジ周辺のコンポーネントに手が当たって変形・故障させてしまうのを防止することができる。
【0056】
また、第1項に記載の真空装置によれば、筐体内を真空にするとき、連通孔を介して第1凹部内の空気を抜くことができる。これにより、第1凹部内を、筐体内における被固定物よりも外側の空間と同様に真空状態にすることができるため、目標真空度まで到達するのに要する時間が長くなったり、真空装置の動作中に筐体内の真空度にばらつきが生じたり、第1凹部周辺の局所的真空度悪化により放電が発生したりすることを防止できる。
【0057】
さらに、第1項に記載の真空装置によれば、ネジの雄ネジ部が固定対象物の第1雌ネジ部に螺合されていないとき、連通孔を介して雄ネジ部及び第1雌ネジ部が視認可能とされる。このことから、ネジを固定対象物に対して容易に取り付け又は取り外しすることができる。また、雄ネジ部及び第1雌ネジが螺合しているか否か、つまり、ネジが固定対象物に取り付けられているか否かを容易に確認することができる。
【0058】
(第2項)第1項に記載の真空装置において、
前記貫通孔は、前記雄ネジ部を螺合可能とする第2雌ネジ部として形成されてもよい。
【0059】
第2項に記載の真空装置によれば、第2雌ネジ部の一端から他端まで雄ネジ部をねじ込んでいくことで、ネジの軸部を貫通孔に対して容易に挿通させることができるとともに、挿通後はネジが落下するのを防止することができる。また、必要に応じてネジを被固定物から分離させることができる。
【0060】
(第3項)第1項又は第2項に記載の真空装置において、
前記貫通孔の前記第1凹部側とは反対側に設けられ、前記貫通孔に挿通された前記ネジの前記頭部を前記貫通孔から離間する方向に付勢する付勢部材をさらに備えてもよい。
【0061】
第3項に記載の真空装置によれば、ネジの雄ネジ部が固定対象物の第1雌ネジ部に螺合されていないときは、付勢部材の付勢力によって、雄ネジ部が第1凹部内に収容された状態を維持することができる。この状態では、雄ネジ部が第1雌ネジ部から離間し、固定対象物に接触しない状態となるため、雄ネジ部が第1雌ネジ部に対して不用意に螺合してしまうのを防止することができる。そのため、ネジの取り付けおよび取り外しの作業性が向上する。
【0062】
(第4項)第3項に記載の真空装置において、
前記被固定物は、前記付勢部材を収容しつつ前記貫通孔と連通する第2凹部を備えてもよい。
【0063】
第4項に記載の真空装置によれば、付勢部材の厚み分だけネジが被固定物から突出するのを抑制することができる。
【0064】
(第5項)第1項から第4項のいずれか一項に記載の真空装置において、
前記被固定物を介して、前記固定対象物に固定される検出器をさらに備えてもよい。
【0065】
第5項に記載の真空装置によれば、被固定物の設計を変更するだけで、検出器の位置及び種類等を変更することができる。つまり、被固定物以外の部材の設計を変更することなく、検出器の位置及び種類等を変更することができる。
【符号の説明】
【0066】
10 真空装置
11 筐体
52 検出器
54 プレート
66 マウント
66a 当接面
68 連通孔
74 ネジ
74a 頭部
74b 軸部
74c 雄ねじ部
76 第1凹部
76a 底面
78 貫通孔
80 第1雌ネジ部
82 第2雌ネジ部
84 第2凹部
86 付勢部材