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特開2023-40784屋外で使用可能な部品および屋外で使用可能な部品を製造するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040784
(43)【公開日】2023-03-23
(54)【発明の名称】屋外で使用可能な部品および屋外で使用可能な部品を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/18 20060101AFI20230315BHJP
   C25D 11/00 20060101ALI20230315BHJP
   C25D 11/04 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
C25D11/18 305
C25D11/00 302
C25D11/04 302
C25D11/18 301E
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021147941
(22)【出願日】2021-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002439
【氏名又は名称】株式会社シマノ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】山内 弥
(72)【発明者】
【氏名】山中 大輔
(57)【要約】
【課題】アルマイト層の表面の装飾の耐久性を向上することができる屋外で使用可能な部品が、提供される。
【解決手段】クランクアーム21は、母材31と、アルマイト層33と、染料35と、を備える。母材31は、アルミニウムを含む金属材料から作られる。アルマイト層33は、母材31上に配置され、複数の孔34を有する。染料35は、複数の孔34の内部に配置される。アルマイト層33における複数の孔34のそれぞれは、孔開口34aと孔底34bとを有する。孔深さDは、孔開口34aから孔底34bに向けて定義される。染料35は、アルマイト層33における複数の孔34の少なくとも1つにおいて、孔開口34aから孔底34bに向かう孔深さDの2/3より大きい位置Pに、少なくとも到達する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムを含む金属材料から作られる母材と、
前記母材上に配置され、複数の孔を有するアルマイト層と、
前記複数の孔の内部に配置される染料と、
を備え、
前記アルマイト層における前記複数の孔のそれぞれは、孔開口と孔底とを有し、
孔深さが、前記孔開口から前記孔底に向けて定義され、
前記染料は、前記アルマイト層における前記複数の孔の少なくとも1つにおいて、前記孔開口から前記孔底に向かう前記孔深さの2/3より大きい位置に、少なくとも到達する、
屋外で使用可能な部品。
【請求項2】
前記アルマイト層における前記複数の孔を覆う封孔層、
をさらに備える請求項1に記載の屋外で使用可能な部品。
【請求項3】
前記封孔層は、ニッケルを含む、
請求項2に記載の屋外で使用可能な部品。
【請求項4】
前記封孔層は、酢酸ニッケルを含む、
請求項3に記載の屋外で使用可能な部品。
【請求項5】
前記染料は、前記アルマイト層における前記複数の孔において、前記孔開口から前記孔底に向かう前記孔深さの2/3により大きい位置に、少なくとも到達する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の屋外で使用可能な部品。
【請求項6】
前記染料は、単色である
請求項1から5のいずれか1項に記載の屋外で使用可能な部品。
【請求項7】
前記染料は、多色である、
請求項1から5のいずれか1項に記載の屋外で使用可能な部品。
【請求項8】
屋外で使用可能な部品を製造するための方法は、
アルミニウムを含む金属材料から作られる母材を提供するステップと、
前記母材上にアルマイト層を形成するために、前記母材の表面に陽極酸化処理を施すステップと、
前記アルマイト層に印刷エリアを形成するために、染料を含むインクを前記アルマイト層に対してインクジェットプリンタによって塗布するステップと、
水を用いて前記アルマイト層の前記印刷エリアを洗浄するステップと、
を備える方法。
【請求項9】
封孔層を前記アルマイト層の前記印刷エリア上に形成するステップ、
をさらに備える請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記封孔層は、ニッケルを含む、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記封孔層は、酢酸ニッケルを含む、
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記インクは、溶媒と、樹脂と、を含む、
請求項8から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記溶媒は、ジメチルスルホキシド、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、イソプロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、ジアセトンアルコール、アセトニルアセトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、およびジエチレングリコールモノメチルエーテルによって構成されるグループから選択される少なくとも1つを、含む、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記樹脂は、ニトロセルロース、メチルセルロース、デンプン、グリセリン、エチレングリコール、メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニールピロリドン、およびルビスコールによって構成されるグループから選択される少なくとも1つを、含む、
請求項12または13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋外で使用可能な部品および屋外で使用可能な部品を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、従来の屋外で使用可能な部品、例えば自転車用部品、および、釣用リールのような部品では、部品の表面にアルマイト層が形成され、このアルマイト層に装飾が施される。例えば、染料をアルマイト層の微細孔に浸漬着色法によって吸着させることによって、部品の表面にロゴなどの装飾が形成される(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2017-0284528号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されるような従来技術では、染料がアルマイト層の微細孔に浸漬着色法によって電気的に吸着される。特許文献1の図9には、染料42がアルマイト層34の微細孔38に充填される図が示されている。しかし、実際には、浸漬着色法による染料42の微細孔38への電気的な吸着では、染料42が微細孔38の開口部付近に吸着して微細孔38の深部まで到達しなかった。
【0005】
この場合、染料42が主に微細孔38の開口部付近に吸着しているため、アルマイト層の表面が摩擦等によって擦れた場合に、染料42によって着色されたアルマイト層の表面の装飾が剥がれてしまう可能性がある。この問題を解決するために様々な試みがなされてきたが、微細孔の内部に配置される染料の深さとアルマイト層の表面の装飾の耐久性との関係については、未だ好適な技術が確立されていない。
【0006】
本発明の目的は、アルマイト層の表面の装飾の耐久性を向上することができる屋外で使用可能な部品を、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に関して、屋外で使用可能な部品は、母材と、アルマイト層と、染料と、を備える。母材は、アルミニウムを含む金属材料から作られる。アルマイト層は、母材上に配置され、複数の孔を有する。染料は、複数の孔の内部に配置される。
【0008】
アルマイト層における複数の孔のそれぞれは、孔開口と孔底とを有する。孔深さは、孔開口から孔底に向けて定義される。染料は、アルマイト層における複数の孔の少なくとも1つにおいて、孔開口から孔底に向かう孔深さの2/3より大きい位置に、少なくとも到達する。
【0009】
第1の態様に係る屋外で使用可能な部品では、染料が、アルマイト層における複数の孔の少なくとも1つにおいて、孔開口から孔底に向かう孔深さの2/3より大きい位置に、少なくとも到達する。この構成によって、アルマイト層の表面が摩擦等によって擦れたとしても、アルマイト層の表面の装飾を保持することができる。すなわち、アルマイト層の表面の装飾の耐久性を向上することができる。
【0010】
本発明の第2の態様に関して、第1の態様に係る屋外で使用可能な部品は、アルマイト層における複数の孔を覆う封孔層、をさらに備える。
【0011】
第2の態様に係る屋外で使用可能な部品では、封孔層が、アルマイト層における複数の孔を覆うので、アルマイト層の表面の装飾の耐候性および耐食性を向上することができる。
【0012】
本発明の第3の態様に関して、第2の態様に係る屋外で使用可能な部品は、封孔層がニッケルを含むように、構成される。
【0013】
第3の態様に係る屋外で使用可能な部品では、アルマイト層における複数の孔がニッケルによって覆われるので、従来の蒸気法のような封孔処理を行う場合と比較して、アルマイト層に対する封孔層の定着性を向上することができる。
【0014】
本発明の第4の態様に関して、第3の態様に係る屋外で使用可能な部品は、封孔層が酢酸ニッケルを含むように、構成される。
【0015】
第4の態様に係る屋外で使用可能な部品では、アルマイト層における複数の孔が酢酸ニッケルによって覆われるので、アルマイト層における複数の孔の封孔度を向上することができる。また、アルマイト層に対する封孔層の定着性を向上することができる。さらに、アルマイト層の表面の装飾の耐候性を向上することができる。
【0016】
本発明の第5の態様に関して、第1から第4のいずれか1つの態様に係る屋外で使用可能な部品は、染料が、アルマイト層における複数の孔において、孔開口から孔底に向かう孔深さの2/3により大きい位置に、少なくとも到達するように、構成される。
【0017】
第5の態様に係る屋外で使用可能な部品では、アルマイト層の表面が摩擦等によって擦れたとしても、アルマイト層の表面の装飾を保持することができる。すなわち、アルマイト層の表面の装飾の耐久性を向上することができる。
【0018】
本発明の第6の態様に関して、第1から第5のいずれか1つの態様に係る屋外で使用可能な部品は、染料が単色であるように構成される。
【0019】
第6の態様に係る屋外で使用可能な部品では、アルマイト層の表面が摩擦等によって擦れたとしても、アルマイト層の表面の装飾を保持することができる。すなわち、アルマイト層の表面の装飾の耐久性を向上することができる。
【0020】
本発明の第7の態様に関して、第1から第5のいずれか1つの態様に係る屋外で使用可能な部品は、染料が多色であるように構成される。
【0021】
第7の態様に係る屋外で使用可能な部品では、アルマイト層の表面が摩擦等によって擦れたとしても、アルマイト層の表面の装飾を保持することができる。また、アルマイト層の表面の装飾の意匠性を向上することができる。すなわち、アルマイト層の表面の装飾の耐久性および意匠性を向上することができる。
【0022】
本発明の第8の態様に関して、屋外で使用可能な部品を製造するための方法は、アルミニウムを含む金属材料から作られる母材を提供するステップと、母材上にアルマイト層を形成するために、母材の表面に陽極酸化処理を施すステップと、アルマイト層に印刷エリアを形成するために、染料を含むインクをアルマイト層に対してインクジェットプリンタによって塗布するステップと、水を用いてアルマイト層の印刷エリアを洗浄するステップと、を備える。
【0023】
第8の態様に係る屋外で使用可能な部品を製造するための方法は、上記のステップによって実現される。この方法によって屋外で使用可能な部品を製造することによって、アルマイト層の表面が摩擦等によって擦れたとしても、アルマイト層の表面の装飾を保持することができる。すなわち、アルマイト層の表面の装飾の耐久性を向上することができる。
【0024】
また、アルマイト層の表面において設計者が所望する部分に装飾を施すことができる。また、複雑なパターンの装飾をアルマイト層の表面に施すことができる。また、様々な色を用いて装飾をアルマイト層の表面に施すことができる。さらに、装飾のパターンの自由度を向上することができる。
【0025】
本発明の第9の態様に関して、第8の態様に係る屋外で使用可能な部品を製造するための方法は、封孔層をアルマイト層の印刷エリア上に形成するステップ、をさらに備える。
【0026】
第9の態様に係る屋外で使用可能な部品を製造するための方法では、封孔層がアルマイト層の印刷エリア上に形成されるので、印刷エリアの耐候性および耐食性を向上することができる。
【0027】
本発明の第10の態様に関して、第9の態様に係る屋外で使用可能な部品を製造するための方法は、封孔層がニッケルを含むように、実行される。
【0028】
第10の態様に係る屋外で使用可能な部品を製造するための方法では、陽極酸化処理によって形成される複数の孔がニッケルによって覆われるので、従来の蒸気法のような封孔処理を行う場合と比較して、アルマイト層に対する封孔層の定着性を向上することができる。
【0029】
本発明の第11の態様に関して、第10の態様に係る屋外で使用可能な部品を製造するための方法は、封孔層が酢酸ニッケルを含むように、実行される。
【0030】
第11の態様に係る屋外で使用可能な部品を製造するための方法では、陽極酸化処理によって形成される複数の孔が酢酸ニッケルによって覆われるので、アルマイト層における複数の孔の封孔度を向上することができる。また、アルマイト層に対する封孔層の定着性を向上することができる。さらに、アルマイト層の表面の装飾の耐候性を向上することができる。
【0031】
本発明の第12の態様に関して、第8から第11のいずれか1つの態様に係る屋外で使用可能な部品を製造するための方法は、インクが溶媒と樹脂とを含むように、実行される。
【0032】
第12の態様に係る屋外で使用可能な部品を製造するための方法では、溶媒によって樹脂および染料をインク内で効率的に分散させることができる。また、溶媒によってインクをインクジェットに好適な粘度に調節することができる。また、溶媒によって表面張力を調整することによって、インクを印刷エリアに容易に浸透させることができる。
【0033】
さらに、樹脂によって、染料をインク内で分散させ安定的に保持することができる。また樹脂によってインクをインクジェットに好適な粘度に調節することができる。
【0034】
本発明の第13の態様に関して、第12の態様に係る屋外で使用可能な部品を製造するための方法は、溶媒が、ジメチルスルホキシド、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、イソプロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、ジアセトンアルコール、アセトニルアセトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、およびジエチレングリコールモノメチルエーテルによって構成されるグループから選択される少なくとも1つを、含むように、実行される。
【0035】
第13の態様に係る屋外で使用可能な部品を製造するための方法では、溶媒が親水性を有するので、水を用いてアルマイト層の印刷エリアを容易に洗浄することができる。これにより、アルマイト層の表面に付着した余分なインクを除去することができる。また、余分なインクを除去することによって、封孔処理を行う事が可能になる。この封孔処理の実行後には、封孔層が印刷エリアに形成されるので、印刷エリアの耐候性を向上することができる。
【0036】
本発明の第14の態様に関して、第12または13の態様に係る屋外で使用可能な部品を製造するための方法は、樹脂が、ニトロセルロース、メチルセルロース、デンプン、グリセリン、エチレングリコール、メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニールピロリドン、およびルビスコールによって構成されるグループから選択される少なくとも1つを、含むように、実行される。
【0037】
第14の態様に係る屋外で使用可能な部品を製造するための方法では、樹脂が親水性があるので、水を用いてアルマイト層の印刷エリアを容易に洗浄することができる。これにより、アルマイト層の表面に付着した余分なインクを除去することができる。また、余分なインクを除去することによって、封孔処理を行う事が可能になる。この封孔処理の実行後には、封孔層が印刷エリアに形成されるので、印刷エリアの耐候性を向上することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明では、屋外で使用可能な部品において、アルマイト層の表面の装飾の耐久性を向上することができる。また、屋外で使用可能な部品を製造するための方法では、アルマイト層の表面の装飾の耐久性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の実施形態による自転車の側面図。
図2】自転車のクランク組立体の側面図。
図3】クランク組立体のクランクアームを図2の切断線A-A、および、図7の切断線B-Bで切断した断面図。
図4】クランクアームの断面図から封孔層を除いてクランクアームの断面図を部分的に拡大した断面図。
図5】クランクアームの断面図を部分的に拡大した断面図。
図6】クランクアームの製造形態を説明するための模式図。
図7】本発明の第2の実施形態によるスピニングリールの側面図。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の一実施形態が採用される自転車1は、図1に示すように、自転車用フレーム3と、ハンドル5と、前輪7と、後輪9と、クランク組立体11と、自転車用リアスプロケット組立体13と、自転車用チェーン15と、を備える。
【0041】
ハンドル5は、フロントフォーク17を介して、自転車用フレーム3の前部に回転可能に装着される。前輪7は、フロントフォーク17に回転可能に装着される。後輪9は、自転車用フレーム3の後部に回転可能に装着される。
【0042】
クランク組立体11は、自転車用フレーム3の下部に回転可能に支持される。図2に示すように、クランク組立体11は、クランクアーム21と、少なくとも1つの自転車用フロントスプロケット23と、を有する。
【0043】
クランクアーム21は、スプロケット装着部21aと、アーム本体21bと、を有する。スプロケット装着部21aには、少なくとも1つの自転車用フロントスプロケット23が着脱可能に装着される。例えば、アーム本体21bは、スプロケット装着部21aと一体に形成される。アーム本体21bは、スプロケット装着部21aと別体に形成されてもよい。
【0044】
図1に示す少なくとも1つの自転車用フロントスプロケット23は、1枚の自転車用フロントスプロケット23であっても、複数の自転車用フロントスプロケット23であってもよい。図1および図2では、自転車用フロントスプロケット23が2枚である場合の例が、示される。少なくとも1つの自転車用フロントスプロケット23は、自転車用チェーン15に係合する。
【0045】
図1に示すように、自転車用リアスプロケット組立体13は、自転車用フレーム3の後部に回転可能に支持される。自転車用リアスプロケット組立体13は、少なくとも1つの自転車用リアスプロケット13aを有する。
【0046】
少なくとも1つの自転車用リアスプロケット13aは、1枚の自転車用リアスプロケット13aであっても、複数の自転車用リアスプロケット13aであってもよい。少なくとも1つの自転車用リアスプロケット13aは、自転車用チェーン15に係合する。
【0047】
自転車用チェーン15は、クランク組立体11および自転車用リアスプロケット組立体13に架け渡される。例えば、自転車用チェーン15は、少なくとも1つの自転車用フロントスプロケット23および少なくとも1つの自転車用リアスプロケット13aに架け渡される。クランク組立体11に入力された駆動力は、自転車用チェーン15を介して、自転車用リアスプロケット組立体13に伝達される。この駆動力によって、後輪9が回転する。
【0048】
本実施形態では、クランク組立体11、例えばクランクアーム21が屋外で使用可能な部品であるとして、詳細な説明が行われる。図3に示すように、クランクアーム21は、母材31と、アルマイト層33と、図4に示す染料35と、を備える。クランクアーム21は、封孔層37をさらに備える。
【0049】
例えば、上述したようにスプロケット装着部21aおよびアーム本体21bが一体に形成される場合、スプロケット装着部21aおよびアーム本体21bそれぞれが、母材31と、アルマイト層33と、染料35と、封孔層37と、を備える。スプロケット装着部21aおよびアーム本体21bの少なくとも一方が、母材31と、アルマイト層33と、染料35と、封孔層37と、を備えていてもよい。
【0050】
母材31は、アルミニウムを含む金属材料から作られる。アルマイト層33は、母材31の表面に陽極酸化処理を施すことによって、形成される。アルマイト層33は、母材31上に配置される。アルマイト層33は、母材31および封孔層37の間に配置される。アルマイト層33は、母材31の少なくとも一部を覆う。本実施形態では、アルマイト層33は母材31の全体を覆う。アルマイト層33は母材31の一部を覆ってもよい。
【0051】
図4に示すように、アルマイト層33は、複数の孔34を有する。複数の孔34は、母材31に対して陽極酸化処理を施した際にアルマイト層33に形成される複数の微細孔である。
【0052】
アルマイト層33における複数の孔34のそれぞれは、孔開口34aと孔底34bとを有する。孔深さDは、孔開口34aから孔底34bに向けて定義される。図4では、複数の孔34の全てが同じ孔深さDを有するように、模式的に示されているが、複数の孔34それぞれは異なる孔深さDを有していてもよい。
【0053】
染料35は、複数の孔34の内部に配置される。染料35は、アルマイト層33における複数の孔34の少なくとも1つにおいて、孔開口34aから孔底34bに向かう孔深さDの2/3より大きい位置Pに、少なくとも到達する。本実施形態では、染料35は、アルマイト層33における複数の孔34において、孔開口34aから孔底34bに向かう孔深さDの2/3により大きい位置Pに、少なくとも到達する。例えば、インクジェットプリンタを用いてインクIをアルマイト層33に塗布することで、染料35は孔開口34aから孔底34bに向かう孔深さDの2/3より大きい位置Pに少なくとも到達することが可能となる。
【0054】
好ましくは、染料35は、アルマイト層33における複数の孔34において、孔開口34aから孔底34bに向かう孔深さDの50%以上であり、孔深さDの2/3より大きい位置Pに、少なくとも到達する。さらに好ましくは、染料35は、アルマイト層33における複数の孔34において、孔開口34aから孔底34bに向かう孔深さDの80%以上であり、孔深さDの2/3より大きい位置Pに、少なくとも到達する。
【0055】
好ましくは、染料35は、アルマイト層33における複数の孔34において、孔開口34aから孔底34bに向かう孔深さDの7/10以上の位置Pに、少なくとも到達する。さらに好ましくは、染料35は、アルマイト層33における複数の孔34において、孔開口34aから孔底34bに向かう孔深さDの9/10以上の位置Pに、少なくとも到達する。
【0056】
インクIは、染料35を含む。インクIは、溶媒36と、樹脂38と、をさらに含む。すなわち、インクIは、染料35と、溶媒36と、樹脂38と、を含む。インクIは、アルマイト層33に塗布される。インクIがアルマイト層33に塗布された領域が印刷エリアPAと定義される。印刷エリアPAのインクIは、水を用いて洗浄される。これにより、印刷エリアPAにおけるアルマイト層33の表面のインクIは取り除かれ、染料35が複数の孔34の内部に配置される。染料35は単色であっても、多色であってもよい。
【0057】
溶媒36は、染料35および樹脂38をインクI内で分散させる。好ましくは、溶媒36は、親水性を有する。例えば、溶媒36は、ジメチルスルホキシド、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、イソプロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、ジアセトンアルコール、アセトニルアセトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、およびジエチレングリコールモノメチルエーテルによって構成されるグループから選択される少なくとも1つを、含む。
【0058】
樹脂38は、染料35をインクI内で分散させ、染料35をインクI内で安定的に保持する。好ましくは、樹脂38は、親水性を有する。樹脂38は、ニトロセルロース、メチルセルロース、デンプン、グリセリン、エチレングリコール、メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニールピロリドン、およびルビスコールによって構成されるグループから選択される少なくとも1つを、含む。
【0059】
封孔層37は複数の孔34を閉じる。封孔層37によってアルマイト層33の表面が不活性化される。染料35が複数の孔34に配置される場合、封孔層37は染料35の退色を防ぐ。封孔層37は、ニッケルを含む。詳細には、封孔層37は、酢酸ニッケルを含む。
【0060】
図5に示すように、封孔層37は、アルマイト層33における複数の孔34を覆う。例えば、印刷エリアPAでは、封孔層37は、染料35が複数の孔34の内部に配置された状態で、アルマイト層33における複数の孔34を覆う。
【0061】
例えば、封孔層37は、アルマイト層33の印刷エリアPA上に形成される。詳細には、封孔層37は、少なくともアルマイト層33の印刷エリアPA上に、形成される。本実施形態では、封孔層37は、アルマイト層33の全体を覆うように形成される。印刷エリアPAおよび印刷エリアPAを除くエリアの両方において、封孔層37はアルマイト層33における複数の孔34を覆う。
【0062】
・クランクアームの製造形態
クランクアームを製造する方法は、アルミニウムを含む金属材料から作られる母材31を提供するステップと、母材31上にアルマイト層33を形成するために、母材31の表面に陽極酸化処理を施すステップと、アルマイト層33に印刷エリアPAを形成するために、染料35を含むインクIをアルマイト層33に対してインクジェットプリンタによって塗布するステップと、水を用いてアルマイト層33の印刷エリアPAを洗浄するステップと、を備える。クランクアームを製造する方法は、封孔層37をアルマイト層33の印刷エリアPA上に形成するステップ、をさらに備える。
【0063】
詳細には、図6に示すように、クランクアーム21は製造される。図6では、複数の孔34の中の1つの孔34だけが示されている。まず、クランクアーム21の母材31が提供される(S1)。クランクアーム21の母材31は、アルミニウムを含む金属材料から作られる。次に、脱脂処理が母材31に対して実行される(S2)。脱脂処理では、母材31の表面の油脂が、リン酸塩のような脱脂溶液によって、除去される。例えば、母材31は、60度に管理された脱脂溶液に、1分間浸される。
【0064】
続いて、エッチング処理およびスマット除去処理が、母材31に対して実行される(S3)。エッチング処理では、母材31の表面の酸化膜や変質層が、苛性ソーダのようなエッチング剤によって、除去される。スマット除去処理では、母材31の表面に残存するスマットが、バレル研磨および電解洗浄によって、除去される。
【0065】
続いて、陽極酸化処理が母材31に対して施される(S4)。陽極酸化処理では、母材31を電解処理することによって、アルマイト層33が母材31の表面に形成される。例えば、母材31が、20度で管理された15%の硫酸溶液に、浸される。この状態において、電流密度が1.3A/dm2に設定された電流が、硫酸溶液に対して、20分間流される。ここでは、母材31は陽極として用いられる。
【0066】
続いて、染色処理が、アルマイト層33に対して実行される(S5)。染色処理では、アルマイト層33にインクIを塗布することによって、染料35がアルマイト層33の複数の孔34に配置される。これにより、アルマイト層33が着色される。
【0067】
上述した、染料35、溶媒36、および樹脂38を含むインクIが、インクジェットプリンタにセットされる。この状態において、インクIがインクジェットプリンタによってアルマイト層33に塗布される。詳細には、インクIがインクジェットプリンタによってアルマイト層33に吹き付けられる。これにより、印刷エリアPAが形成される。インクIの吹き付けによって、インクIは、従来の浸漬着色法と比較して、印刷エリアPAにおいて複数の孔34の底部側に侵入する。例えば、染料35は、孔深さDの2/3により大きい位置Pに、少なくとも到達する。
【0068】
続いて、印刷エリアPAが水によって洗浄される(S6)。これにより、印刷エリアPAでは、アルマイト層33の表面のインクIが取り除かれる。例えば、印刷エリアPAでは、インクIがアルマイト層33の複数の孔34に配置された状態で、アルマイト層33の表面のインクIが取り除かれる。なお、インクIの溶媒36および樹脂38は親水性を有しているので、水によってアルマイト層33の表面のインクIは容易に取り除かれる。
【0069】
最後に、封孔処理が、アルマイト層33に対して実行される(S7)。封孔処理では、アルマイト層33の複数の孔34に水和酸化物を析出させることによって、アルマイト層33の複数の孔34が閉じられる。例えば、母材31が、90度で管理された酢酸ニッケル溶液に、15分間浸される。これにより、印刷エリアPAを含むアルマイト層33が、封孔層37によって覆われる。
【0070】
上述したように、封孔層37は染料35の退色を防ぐ。ここでは、封孔層37の有無による染料35の退色性を考察する。例えば、まず、2個のA2014のアルミニウム合金が用意される。A2014のアルミニウム合金は、上記の母材31に対応する。2個のA2014のアルミニウム合金は、試料Aおよび試料Bと記される。
【0071】
試料Aおよび試料Bに対して陽極酸化処理が行われる。次に、ステップ4の条件を用いて、陽極酸化処理が試料Aおよび試料Bに対して実行される。これにより、試料Aおよび試料Bには、アルマイト層33が形成される。続いて、ステップ7の条件を用いて、試料Bに対して封孔処理が実行される。これにより、試料Bには封孔層37が形成される。
【0072】
封孔層37を有していない試料Aは試験片Aと記される。封孔層37を有する試料Bは試験片Bと記される。試験片AのL*a*b*色空間および試験片BのL*a*b*色空間を用いて、退色度合いが計算される。退色度合いは、式「△E*={(△L*)^2+(△a*)^2++(△b*)^2}^(1/2)」によって評価される。試験片Aの退色度合いおよび試験片Bの退色度合いを比較すると、試験片Bの退色度合いは試験片Aの退色度合いより小さくなる。すなわち、封孔層37は染料35の退色を防ぐ効果を有する。
【0073】
(変形例)
前記実施形態では、自転車用部品、例えばクランクアーム21が、屋外で使用可能な部品である場合の例が、示された。屋外で使用可能な部品は、その他の自転車用部品、あるいは、釣用部品、例えば、釣用リールの部品であってもよい。
【0074】
図7に示すように、釣用リール、例えばスピニングリール51は、リール本体53と、ハンドル55と、ロータ57と、スプール59と、を備える。ハンドル55は、リール本体53に回転するように構成される。ロータ57は、ハンドル55の回転に連動して回転するようにリール本体53に設けられる。スプール59は、リール本体53に対して前後方向に移動するようにリール本体53に設けられる。
【0075】
本変形例では、リール本体53が屋外で使用可能な部品である。リール本体53の構成は、前記実施形態と同様の構成であるので、図3および図4を用いて説明する。図3に示すように、リール本体53は、母材31と、アルマイト層33と、図4に示す染料35と、封孔層37と、を備える。母材31、アルマイト層33、染料35、および封孔層37の構成は、前記実施形態と同様である。また、リール本体53の製造形態は、図6に示した製造形態と同様である。このため、屋外で使用可能な部品がスピニングリール51のリール本体53である場合の詳細な説明は、省略される。ここで省略された説明は、前記実施形態の説明に準ずる。
【0076】
(他の実施形態)
(A)前記実施形態では、自転車1のクランクアーム21が屋外で使用可能な部品である場合の例が示された。屋外で使用可能な部品は、自転車1を構成する他の部品であってもよい。
【0077】
例えば、屋外で使用可能な部品は、フロントスプロケット、リアスプロケット、フロントハブ組立体、リアハブ組立体、フロントディレーラ、リアディレーラ、変速操作装置、リムブレーキ、ディスクブレーキ、ディスクブレーキロータ、ブレーキ操作装置、フロントサスペンション、リアサスペンション、サスペンション操作装置、シートポスト、シートポスト操作装置、電動アシスト自転車用ドライブユニット、ドライブユニット操作装置、サイクルコンピュータ、自転車用フレーム、フロントフォーク、自転車用ペダル、ホイール、車両用フレーム等であってもよい。
【0078】
(B)前記実施形態の変形例では、スピニングリール51のリール本体53が屋外で使用可能な部品である場合の例が示された。屋外で使用可能な部品は、スピニングリール51を構成する他の部品であってもよい。例えば、屋外で使用可能な部品は、ハンドル55、ロータ57、スプール59等であってもよい。
【0079】
(C)前記実施形態および変形例では、自転車1およびスピニングリール51を用いて、屋外で使用可能な部品の説明が行われた。屋外で使用可能な部品は、自転車1およびスピニングリール51以外の部品であってもよい。例えば、屋外で使用可能な部品は、釣り用ロッド、釣り用ルアー、クーラーボックス、サングラス等のアイウェア、ヘルメット等であってもよい。
【0080】
(D)前記実施形態では、アルマイト層33は母材31の全体を覆う場合の例が示された。アルマイト層33は母材31を部分的に覆うように構成されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、屋外で使用可能な部品に利用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 自転車
11 クランク組立体
21 クランクアーム
21a スプロケット装着部
21b アーム本体
31 母材
33 アルマイト層
34 複数の孔
34a 孔開口
34b 孔底
35 染料
36 溶媒
38 樹脂
51 スピニングリール
53 リール本体
D 孔深さ
P 染料の位置
37 封孔層
I インク
PA 印刷エリア
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7