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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023041317
(43)【公開日】2023-03-24
(54)【発明の名称】熱交換器
(51)【国際特許分類】
   F28F 3/00 20060101AFI20230316BHJP
   F28F 13/18 20060101ALI20230316BHJP
   F28D 9/00 20060101ALI20230316BHJP
   F28F 9/02 20060101ALI20230316BHJP
【FI】
F28F3/00 301Z
F28F13/18 B
F28D9/00
F28F13/18 A
F28F9/02 301J
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021148617
(22)【出願日】2021-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111121
【弁理士】
【氏名又は名称】原 拓実
(74)【代理人】
【識別番号】100118474
【弁理士】
【氏名又は名称】寺脇 秀▲徳▼
(74)【代理人】
【識別番号】100141911
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 譲
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正幸
(72)【発明者】
【氏名】古屋 修
【テーマコード(参考)】
3L103
【Fターム(参考)】
3L103AA17
3L103AA37
3L103DD15
3L103DD55
(57)【要約】
【課題】熱交換器を構成する分配器や伝熱部の壁面性状の制御により、低圧力損失および伝熱部の複数の微細流路への均一な流量分配を実現可能とする分配器を有する熱交換器を提供するものである。
【解決手段】実施形態に係る熱交換器は、分配器と、内部に高温流体または低温流体である作動流体を流通させる複数の流路を有する伝熱部とを有し、前記高温流体と前記低温流体の間で熱の授受を行う熱交換器であって、前記分配器は、前記作動流体が流入するヘッダと、前記ヘッダから前記作動流体が流入する流路拡大部と、を備え、前記伝熱部は、流路隔壁と、前記流路拡大部を通過した前記作動流体が流路入口から流入する前記流路と、を備え、前記高温流体が流入する前記流路拡大部は流体隔壁によって構成されており、少なくとも一つの前記流体隔壁の少なくとも一部には親水性部材を備えることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分配器と、内部に高温流体または低温流体である作動流体を流通させる複数の流路を有する伝熱部とを有し、前記高温流体と前記低温流体の間で熱の授受を行う熱交換器であって、
前記分配器は、
前記作動流体が流入するヘッダと、
前記ヘッダから前記作動流体が流入する流路拡大部と、を備え、
前記伝熱部は、流路隔壁と、
前記流路拡大部を通過した前記作動流体が流路入口から流入する前記流路と、を備え、
前記流路拡大部は流体隔壁によって構成されており、
前記高温流体が流入する少なくとも一つの前記流体隔壁の少なくとも一部には親水性部材を備えることを特徴とする熱交換器。
【請求項2】
前記分配器は、前記流路拡大部の内壁の延長交点から、前記流路隔壁と前記流路入口との境界に向かう複数の直線によって区分けされた区分の中で、前記流路入口に面する区分に前記親水性部材を備えることを特徴とする請求項1記載の熱交換器。
【請求項3】
分配器と、内部に高温流体または低温流体である作動流体を流通させる複数の流路を有する伝熱部とを有し、前記高温流体と前記低温流体の間で熱の授受を行う熱交換器であって、
前記分配器は、前記作動流体が流入するヘッダと、
前記ヘッダから前記作動流体が流入する流路拡大部と、
前記ヘッダと前記流路拡大部とを接続する接続部と、を備え、
前記伝熱部は、流路隔壁と、
前記流路拡大部を通過した前記作動流体が流路入口から流入する前記流路と、を備え、
前記流路拡大部は流体隔壁によって構成されており、
前記高温流体が流入する少なくとも一つの前記流体隔壁の少なくとも一部を、前記接続部と前記流路入口との距離が大きくなるに従って前記流体隔壁の表面粗さを小さくしたことを特徴とする熱交換器。
【請求項4】
分配器と、内部に高温流体または低温流体である作動流体を流通させる複数の流路を有する伝熱部とを有し、前記高温流体と前記低温流体の間で熱の授受を行う熱交換器であって、
前記分配器は、前記作動流体が流入するヘッダと、
前記ヘッダから前記作動流体が流入する流路拡大部と、
前記ヘッダと前記流路拡大部とを接続する接続部と、を備え、
前記伝熱部は、流路隔壁と、
前記流路拡大部を通過した前記作動流体が流路入口から流入する流路と、を備え、
前記流路拡大部は流体隔壁によって構成されており、
前記高温流体が流入する少なくとも一つの前記流体隔壁の少なくとも一部に疎水性部材を備えることを特徴とする熱交換器。
【請求項5】
前記分配器は、前記流路拡大部に面する前記流路隔壁の面に前記疎水性部材を備えることを特徴とする請求項4記載の熱交換器。
【請求項6】
前記分配器は、前記流体隔壁のうち、前記流路隔壁に隣接する隣接壁面に前記疎水性部材を備えることを特徴とする請求項4または請求項5記載の熱交換器。
【請求項7】
前記分配器は、ヘッダ中心線により区分けされる前記流体隔壁のうち、熱交換器中心線から遠い領域に位置する前記流体隔壁の少なくとも一部に前記疎水性部材を備えることを特徴とする請求項4から請求項6のいずれか1項記載の熱交換器。
【請求項8】
前記分配器は、前記接続部の端部を構成する壁面のなす角度を90度以上とすることを特徴とする請求項4から請求項7のいずれか1項記載の熱交換器。
【請求項9】
前記分配器は、前記接続部の端部にR部を形成したことを特徴とする請求項4から請求項7のいずれか1項記載の熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、内部に複数の流路を備える熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
高温流体と低温流体の間で熱の授受を行うために熱交換器が用いられる。熱交換器は、前述の両流体が直接的に接触する直接接触式と、隔壁によって内部に複数の流路を備える間接接触式に大別される。間接接触式は、直接接触式に対して伝熱性能は劣るものの、高温および低温流体の流体種や運転条件に関する制約を受けづらく、比較的柔軟な運用が可能である。
【0003】
一般に、熱交換器には限られた容積において、交換熱量の最大化および圧力損失の最小化が要求される。交換熱量増大を目的として、単位容積当りの伝熱面積が大きなコンパクト熱交換器が用いられる。コンパクト熱交換器にはプレートフィン型、プレート型、ブロック型等があり、これらは内部に複数の流路を備えることを特徴とする。流路の断面積が小さく、かつ隔壁を薄くすることで単位容積あたりの伝熱面積を増大させることが可能なため、コンパクト熱交換器の中には流路当たりの相当直径がミリメートルオーダーとなるものが存在する。
【0004】
熱交換器は高温流体または低温流体である作動流体(以下総称して作動流体と呼ぶ。)の配管経路上に設置される。前述のコンパクト熱交換器では、その内部に設けられる伝熱部の微細流路と同数の配管を予め備えることは一般的でなく、配管との接続部位である入口座と伝熱部とを連結する分配器が内包される。分配器は内部に複数の分岐流路を備え、入口座から流入した作動流体を伝熱部へ分配する役割を担う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5147894号
【特許文献2】特開2002-206890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように、コンパクト熱交換器に備えられる分配器には作動流体を伝熱部の複数の微細流路へ均一に分配する特性が要求される。伝熱部の複数の微細流路に対して作動流体が偏って分布する場合は熱交換器の伝熱性能低下へと繋がる。高温側に水蒸気などの凝縮性高温流体、低温側に低温流体が配置される場合に影響が顕著となる。
【0007】
凝縮性高温流体が伝熱部の微細流路内部を流れる際、熱交換の進展に伴って凝縮性高温流体が凝縮し、気相の体積分率が減少するため、次第に流速が低下する。流動に起因する圧力損失は一般に流速の二乗に比例するため、流速が小さな流路では圧力損失が小さくなり、圧力均衡の関係から相対的に多くの凝縮性高温流体が当該流路に流入する。
【0008】
伝熱部の微細流路上流側に位置する分配器内部においても均一な流量分配が求められる。特に分配器内部に位置し、上記微細流路の入口部に導かれる流路拡大部においては、低温流体との熱交換によって生じた凝縮性高温流体の凝縮液が均一に分布せず、凝縮性高温流体の流速や流動方向によって微細流路の入口部においてその流れが不均一となり、局所的に凝縮液が偏在および滞留することが懸念される。この凝縮液によって圧力損失が不均一となり、複雑な流動様相を呈する可能性がある。
【0009】
分岐流路となる微細流路では流路の圧力損失を意図的に大きくすることで均一な流量分配へ近づけることが可能となるが、熱交換器には低い圧力損失が求められるため、適切な流路形状にする必要がある。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、熱交換器を構成する分配器や伝熱部の壁面性状の制御により、低圧力損失および伝熱部の複数の微細流路への均一な流量分配を実現可能とする分配器を有する熱交換器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記実施形態に係る熱交換器は、分配器と、内部に高温流体または低温流体である作動流体を流通させる複数の流路を有する伝熱部とを有し、前記高温流体と前記低温流体の間で熱の授受を行う熱交換器であって、前記分配器は、前記作動流体が流入するヘッダと、前記ヘッダから前記作動流体が流入する流路拡大部と、を備え、前記伝熱部は、流路隔壁と、前記流路拡大部を通過した前記作動流体が流路入口から流入する前記流路と、を備え、前記高温流体が流入する前記流路拡大部は流体隔壁によって構成されており、少なくとも一つの前記流体隔壁の少なくとも一部には親水性部材を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1の実施形態に係る流体隔壁に親水性部材を備えた熱交換器の概略図。
図2】第1の実施形態に係る分配器の要部拡大斜視図。
図3】第1の実施形態に係る流体隔壁の一部に親水性部材を備えた熱交換器の要部拡大概略図。
図4】第1の実施形態に係る流体隔壁の一部に親水性部材を備えた熱交換器の要部拡大説明図。
図5】第2の実施形態に係る接続部と流路入口との間の距離と、流体隔壁の表面粗さとの関係を示したグラフ。
図6】(A)は第3の実施形態に係る流体隔壁または流路隔壁に疎水性部材を備えた熱交換器の要部拡大概略図、(B)は(A)のB部拡大上面斜視図、(C)は(A)のC部拡大上面斜視図。
図7】第3の実施形態に係る流体隔壁の一部に疎水性部材を備えた熱交換器の要部拡大概略図。
図8】第3の実施形態に係る接続部の端部付近の要部拡大説明図。
図9】第3の実施形態に係る接続部の端部付近の要部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1の実施形態)
第1の実施形態について、図1乃至図4を用いて説明する。なお、同一部分には同一符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0014】
図1は、図中矢印で示す凝縮性高温流体1と低温流体2がその内部で平行または対向するように流動する熱交換器3の概略を示している。図2は、熱交換器3の内部に備えられ、凝縮性高温流体1が流動する流入部4と伝熱部5(図1)とを連結する経路に配置され、かつ当該経路上に複数の分岐を有する分配器7の概略を示している。
【0015】
図2において、凝縮性高温流体1は流入部4から分配器7へ流入し、円形断面を有するヘッダ8へ流入する。その後、凝縮性高温流体1は、図2の幅方向に複数配置される接続部10を介して、接続部10と同数設けられる流路拡大部9へ分配される。流路拡大部9では面積の増加に伴って凝縮性高温流体1の流動範囲も拡大し、流路拡大部9の流路入口13に接続され、流路隔壁18によって区分される流路16を持つ伝熱部5へ流出する。
【0016】
対向流型および並行流型の熱交換器においては、図1に示すように低温流体2が流動する流路の形状も概ね同様の構成となり、流動も概ね同様である。凝縮性高温流体1と低温流体2とは、伝熱部5および流路拡大部9において両流体間で熱交換が行われ、凝縮性高温流体1では温度降下または凝縮が、低温流体2では温度上昇がそれぞれ生じる。
【0017】
凝縮性高温流体1は熱交換器3の内部において流路拡大部9から凝縮が開始すると考えられる。凝縮によって生じた凝縮液は、ガス状の凝縮性高温流体1から受ける流体力および重力を駆動力として流路拡大部9を伝熱部5へ向かって移動する。一方、凝縮性高温流体1は凝縮液の駆動に伴い圧力エネルギーを失うことから、流路拡大部9において圧力損失が生じる。
【0018】
流路拡大部9において凝縮液が均一に存在することは一般的でなく、圧力損失も同様に不均一なものとなる。圧力損失が不均一になると、流路拡大部9における流量分布も不均一となり、流路拡大部9の下流側に設けられる伝熱部5の流路16における流量分布に対しても影響を及ぼす。その結果、伝熱部5における伝熱量が不均一となり、熱交換器3の効率低下や運用不安定化へ至る可能性が憂慮される。
【0019】
本実施形態は、流路拡大部9を構成する少なくとも1つの流体隔壁17の少なくとも一部に親水性部材11を備えることによって、凝縮液の気液界面端部と流体壁面17とが成す角度(以後、接触角)を低下させ、凝縮液の液膜厚さを減少させることを期待するものである。この親水性部材11はシリカ系被膜や親水性樹脂を用いた樹脂系被膜、酸化チタン等の親水性材料を使用してもよく、また接触角を40度以下になるよう表面に微細凹凸面を形成してもよい。
【0020】
そして、親水性部材11によって一様かつ薄い凝縮液膜を形成することで、凝縮性高温流体1が通過するための正味流路断面積が確保される。これにより局所流速を抑制して圧力損失を低減させ、流量分配の均一化を図ることができる。
【0021】
なお、接続部10と流路入口13を結ぶ流体隔壁17上の少なくとも一部に親水性部材11を備えることにより、親水性部材11の材料量および加工領域を抑制した上で流量分配均一化の効果を効率的に実現出来る。流体隔壁17における親水性部材11の加工領域は、熱交換器設計前に予めその内部の流動様相を考慮した上で決定されてもよい。
【0022】
図3は、ヘッダ8と伝熱部5をつなぐ流路拡大部9の内壁の延長交点から、流路隔壁18と流路入口13との境界に向かう複数の直線によって区分けされた区分の中で、流路入口13に面する区分に親水性部材11を備えた熱交換器である。
【0023】
図4は、図3に示す親水性部材11が配置された区分のうち、その一つを抽出しその付近を拡大した図である。
【0024】
なお、親水性部材11を備える区分として、流路入口13の全長に対して、長さの合計の割合が50%~100%となるよう親水性部材11を備えてもよい。
【0025】
一般的に流路入口13から流路16へ流入する凝縮性高温流体1は、上述のように区分けした区分のうち、流路入口13に面する区分に沿って伝熱部5に流入するのが主である。
【0026】
このため上記の区分に親水性部材11を備えれば、凝縮性高温流体1を通過させるために最も適切な区分にのみ親水性部材11を備えることができ、熱交換器3の製造を効率化させることができる。
【0027】
凝縮性高温流体1の一例として水蒸気、冷媒等が挙げられるが、熱交換器3内部において凝縮を伴う流体種であればこの限りでない。また、本実施形態の示す親水性部材11を局所的に備えるための製造手段として、流体隔壁17に対して予め親水性部材11を備えた上で熱交換器3を組み立てる手法、または付加造形技術による一体造形手法が用いられてもよいが、本実施形態の係る構成を実現することができる場合はこの限りでない。
【0028】
なお、親水性部材11を備えた状態とは、例えば流体隔壁17に親水性部材11を配置または付着等させてもよく、流体隔壁17に微細凹凸面を形成してもよいがこの限りでない。また、親水性部材11を備える方法として、例えば流体隔壁17を親水性部材11中に浸漬または含浸等させてもよく、親水性部材11を流体隔壁17に吹き付けて塗布等してもよいがこの限りでない。
【0029】
第1の実施形態によれば、少なくとも一つの流体隔壁17の少なくとも一部に親水性部材11を備えることにより、凝縮性高温流体1が通過するための正味流路断面積が確保される。これにより局所流速を抑制して圧力損失を低減させ、伝熱部5への流量分配の均一化に寄与する。また、流体隔壁17の少なくとも一部に親水性部材11を備えることにより、熱交換器3を効率的に製造できる。
【0030】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について、図1および図5を用いて説明する。なお、第1の実施形態と同一部分には同一符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0031】
図1において熱交換器3は、接続部10と各流路入口13との間の距離は各流路入口13において各々異なる場合がある。接続部10と各流路入口13との間の距離が長い場合、流動距離および熱交換量の増加によって凝縮液が相対的に多く発生するため、流路拡大部9における熱交換量および圧力損失が相対的に大きくなる。これは接続部10と各流路入口13の距離は各々異なる場合は圧力損失も各々異なることを意味する。この不均一性によって流路拡大部9における流量分配も影響を受ける。
【0032】
本実施形態では、図5に示すように接続部10と各流路入口13との間の距離Lが大きくなるに従って流体隔壁17の表面粗さRを小さくすることによって、距離Lが大きな場合は伝熱量および圧力損失を抑制し、伝熱部5への作動流体の流量分配の均一化を実現する。
【0033】
なお、表面粗さRの大きさおよびその分布を決定する際は予め数値解析等を用いて適切な構成が選択されてもよい。また、図5において、接続部10と各流路入口13の距離Lは離散点となるため、各離散点の間を補完関数6で連結することで、流路拡大部9の流体隔壁17上において表面粗さRを連続的に変化させた構成を用いてもよい。
【0034】
第2の実施形態によれば、接続部10と各流路入口13との間の距離Lが大きくなるに従って流体隔壁17の表面粗さRを小さくすることによって、距離Lが大きな場合は伝熱量および圧力損失を抑制し、伝熱部5への作動流体の流量分配の均一化を実現することができる。
【0035】
(第3の実施形態)
第3の実施形態について図6乃至図9を用いて説明する。なお、図1と同一部分には同一符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0036】
図6において、熱交換器3の運転条件によっては流路拡大部9の内部で逆流渦や剥離泡が発生し局所的に凝縮性高温流体1の流速が遅くなる部位が生じる場合がある。凝縮性高温流体1の流速が低下すると、凝縮性高温流体1が凝縮した凝縮液を伝熱部5へ送出する作用が弱まり、流路拡大部9においてこの凝縮液が滞留した凝縮液塊が成長する。成長した凝縮液塊は間欠的に伝熱部5の流路16へ向かって送出されるが、これによって凝縮液塊が流入した流路16では交換熱量および圧力損失が急激に変化するため、結果的に流路16の上流に位置する流路拡大部9の流量分布に影響を及ぼす。
【0037】
本実施形態においては、図6(A)のように、流路拡大部9を構成する少なくとも一つの流体隔壁17に疎水性部材12を備えることによって、凝縮液の接触角を大きくして流体抵抗を増加させ、凝縮液塊の送出を容易とするものである。
【0038】
この疎水性部材12としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等の材料を使用してもよく、接触角が90度以上となるよう表面に微細凹凸面を形成してもよい。
【0039】
なお、流路拡大部9を構成する流体隔壁17において、疎水性部材12を局所的に備えてもよい。図6(B)は、図6(A)のB部拡大上面斜視図であり、熱交換器3のヘッダ8から伝熱部5方向を見た斜視図で、流路拡大部9に面する流路隔壁18の面に疎水性部材12を備えたことを示す。ここで、図6(B)では複数の流体隔壁17で分割される流路拡大部9のうち、仮想的に一つの区分のみを示している。
【0040】
流動方向に直面する流路隔壁18近傍では流速が小さなよどみ部が生じるが、よどみ部では流体力による凝縮液塊の顕著な排除効果を期待することは難しい。そこで、流路拡大部9に面する流路隔壁18の面に疎水性部材12を備えることで、よどみ部からの凝縮液の排除を容易としている。
【0041】
図6(C)は、図6(A)のC部分で、熱交換器3のヘッダ8から伝熱部5方向を見た斜視図である。なお、図6(C)では複数の流体隔壁17で分割される流路拡大部9のうち、仮想的に一つの区分のみを示している。
【0042】
流路隔壁18近傍の流体隔壁17においてもよどみ部の影響が及ぶため、凝縮液排除効果を増大させるために、図6(C)のように流体隔壁17のうち、流路隔壁18に隣接する部分である隣接壁面14に疎水性部材12を備えてもよい。
【0043】
また、対向流型または平行流型の熱交換器3では、凝縮性高温流体1および低温流体2の各々のヘッダ8が図7に示すように熱交換器3の鉛直方向の中心線である熱交換器中心線19からオフセットして設置される場合がある。これは、ヘッダ8の鉛直方向の中心線であるヘッダ中心線15が、熱交換器中心線19上に設けられることは流量均一分配において理想であるが、両流体の出入口部が干渉するために実現困難となるからである。このことが流路拡大部9の流動様相に影響を及ぼす。
【0044】
ここで鉛直方向とは、熱交換器3を、ヘッダ8が上部、伝熱部5が下部へ配置されるように設置したときの鉛直方向のことである。
【0045】
ヘッダ8から流路拡大部9に凝縮性高温流体1が流入すると、各流路入口13に向けた流路幅の拡大に伴い、凝縮性高温流体1の流動範囲が拡大する。伝熱部5への流量均一分配の観点から、ヘッダ8と流路拡大部9とを接続する接続部10はヘッダ中心線15に対して不均一に開口され、熱交換器中心線19側が広く、熱交換器中心線19の逆側は狭くなるような構成となる場合がある。
【0046】
このとき、熱交換器3の運転条件によっては、熱交換器中心線19から遠い側に位置する接続部10の端部20で凝縮性高温流体1が壁面から剥離し、これに伴って流路拡大部9で逆流渦や剥離泡が形成される場合がある。逆流渦や剥離泡の内部では凝縮液を伝熱部5へ効果的に排出することが難しいため、逆流渦や剥離泡の発生頻度が比較的高いと考えられる。
【0047】
したがって、図7に示すように、ヘッダ中心線15により分割される範囲において、熱交換器中心線19から遠い部位に位置する流体隔壁17の領域に疎水性部材12を備えてもよい。なお、当該領域の全体または一部に疎水性部材12を備えてもよい。この領域に疎水性部材12を限定的に備えることで、凝縮液の効果的な排出ならびに作動流体の均一分配の実現が期待される。
【0048】
なお、図8のように接続部10の端部20の壁面形状に関して、端部20を構成する壁面のなす角度θ、φを90度以上とする面取り形状や、図9のように角部解消を目的としたR形状を導入することで、逆流渦および剥離泡の低減または解消が期待される。これにより疎水性部材12の適用領域を小さくすることが可能となり、効率的な製造に寄与する。
【0049】
本実施形態では、逆流渦や剥離泡の発生領域を数値流体解析などにより事前に予測し、当該領域のみに限定的に疎水性部材12を備えてもよい。
【0050】
本実施形態の示す疎水性部材12を局所的に備えるための製造手段として、流体隔壁17に対して予め疎水性部材12を備えた上で熱交換器3を組み立てる手法、または付加造形技術による一体造形手法が用いられてもよいが、本実施形態の係る構成を実現することができる場合はこの限りでない。
【0051】
なお、疎水性部材12を備えた状態とは、例えば流体隔壁17に疎水性部材12を配置または付着等させてもよく、流体隔壁17に微細凹凸面を形成してもよいがこの限りでない。また、疎水性部材12を備える方法として、例えば流体隔壁17を疎水性部材12中に浸漬または含浸等させてもよく、疎水性部材12を流体隔壁17に吹き付けて塗布等してもよいがこの限りでない。
【0052】
なお、数値流体解析などを用いて親水性部材11、疎水性部材12および表面粗さの適用領域を適切に限定することで、親水性部材11、疎水性部材12を備える熱交換器3の製造を高効率化できる。
【0053】
第3の実施形態によれば、少なくとも一つの流体隔壁17に疎水性部材12を備えることによって、凝縮液の接触角を大きくして流体抵抗を増加させ、凝縮液塊の送出が容易となる。
【0054】
また、流路拡大部9に面する流路隔壁18の面に疎水性部材12を備えることで、よどみ部からの凝縮液の排除を容易となる。さらに、流体隔壁17のうち、流路隔壁18に隣接する部分である隣接壁面14に疎水性部材12を備えることによってもよどみ部からの凝縮液の排除を容易となる。そして、流体隔壁17の逆流渦や剥離泡が発生しやすい領域に親水性部材11を備えることにより、効果的に凝縮液を排除できる。凝縮液の排除により圧力損失を低減し、伝熱部5への流量分配均一化に寄与する。
【0055】
なお、接続部10の端部20を構成する壁面がなす角度θ、φを90度以上とすることや、前記壁面をR形状とすることで、疎水性部材12の適用領域が小さくなり、熱交換器3の効率的な製造に寄与する。
【0056】
第1乃至第3の実施形態に係る特徴を同時に兼ね備えることにより、流量均一分配の効果を更に向上させることができる。この場合は親水性部材11、疎水性部材12および表面粗さの異なる壁面が同時に存在する複雑な分配器構成となり、付加造形技術を用いることで実現が比較的容易になると期待されるが、本実施形態の係る構成を実現することができる場合はこの限りでない。
【0057】
以上説明した少なくとも一つの実施形態によると、分配器の流路拡大部を構成する流体隔壁や、伝熱部を構成する流路隔壁の壁面性状を制御することにより、圧力損失を低減し、伝熱部への流量分配の均一化に寄与する。
【0058】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
1…凝縮性高温流体、3…熱交換器、5…伝熱部、7…分配器、8…ヘッダ、9…流路拡大部、10…接続部、11…親水性部材、12…疎水性部材、13…流路入口、14…隣接壁面、15…ヘッダ中心線、16…流路、17…流体隔壁、18…流路隔壁、19…熱交換器中心線、20…端部、21…延長交点。
図1
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図9