(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023042035
(43)【公開日】2023-03-27
(54)【発明の名称】表面浄化方法および表面浄化システム
(51)【国際特許分類】
F28G 13/00 20060101AFI20230317BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20230317BHJP
B23K 26/402 20140101ALI20230317BHJP
B23K 26/36 20140101ALI20230317BHJP
F23J 3/00 20060101ALI20230317BHJP
F22B 37/48 20060101ALI20230317BHJP
B08B 7/04 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
F28G13/00 Z
B23K26/00 P
B23K26/402
B23K26/00 G
B23K26/36
F23J3/00 Z
F22B37/48 C
B08B7/04 Z
F28G13/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021149099
(22)【出願日】2021-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】染谷 竜太
(72)【発明者】
【氏名】柳生 里紗
(72)【発明者】
【氏名】幡野 浩
(72)【発明者】
【氏名】久保 貴博
(72)【発明者】
【氏名】木村 賢一
(72)【発明者】
【氏名】井山 浩一
(72)【発明者】
【氏名】寺田 慎一
【テーマコード(参考)】
3B116
3K261
4E168
【Fターム(参考)】
3B116AA13
3B116AA47
3B116BC01
3K261GA08
3K261GA17
4E168AD00
4E168AD18
4E168CA13
4E168CA14
4E168CB03
4E168CB04
4E168DA02
4E168DA23
4E168DA24
4E168DA26
4E168DA28
4E168DA29
4E168DA42
4E168DA43
4E168EA03
4E168EA14
4E168EA15
4E168EA17
4E168GA03
4E168JA02
4E168JA21
(57)【要約】
【課題】燃焼ガスに接触する機器の表面に存在する除去対象物を選択的かつ効率的に除去することができる表面浄化技術を提供する。
【解決手段】本発明の実施形態に係る表面浄化方法は、化石燃料を燃焼することで発電を行う発電プラント1における機器6であり、少なくとも鉄を主成分として含む材質で形成された機器6における燃焼ガスGに接触する表面17に存在する除去対象物20を少なくともレーザーLを用いて除去する。
【選択図】
図20
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化石燃料を燃焼することで発電を行う発電プラントにおける機器であり、少なくとも鉄を主成分として含む材質で形成された前記機器における燃焼ガスに接触する表面に存在する除去対象物を少なくともレーザーを用いて除去する、
表面浄化方法。
【請求項2】
前記材質の成分または前記燃焼ガスの成分の少なくとも一方に基づいて、前記除去対象物の成分を特定し、
前記除去対象物の成分に基づいて、前記除去対象物に最も吸収され易い前記レーザーの波長を特定し、
前記特定された波長に基づいて、前記機器における前記燃焼ガスに接触する表面に照射する前記レーザーの波長を設定する、
請求項1に記載の表面浄化方法。
【請求項3】
前記機器における前記燃焼ガスに接触する表面から前記除去対象物のサンプルを採取し、
前記サンプルの成分に基づいて、前記除去対象物の成分を特定し、
前記除去対象物の成分に基づいて、前記除去対象物に最も吸収され易い前記レーザーの波長を特定し、
前記特定された波長に基づいて、前記機器における前記燃焼ガスに接触する表面に照射する前記レーザーの波長を設定する、
請求項1または請求項2に記載の表面浄化方法。
【請求項4】
前記レーザーが照射されて前記除去対象物が除去される部分は、前記機器の狭隘部を含む、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の表面浄化方法。
【請求項5】
前記狭隘部は、前記機器としての熱交換器の伝熱管の間、または、前記伝熱管に設けられた熱交換フィンの間の少なくとも一方を含む、
請求項4に記載の表面浄化方法。
【請求項6】
導波デバイスを用いて前記レーザーを発振器から前記機器における前記燃焼ガスに接触する表面まで導き、前記導波デバイスにおける前記レーザーが出射する出射部が前記機器における前記燃焼ガスに接触する表面に対して移動可能または角度変更可能となっている、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の表面浄化方法。
【請求項7】
前記レーザーを集光するレンズと前記レーザーを反射する反射デバイスと一体的に組み合わせた前記導波デバイスを用いて前記レーザーを照射する、
請求項6に記載の表面浄化方法。
【請求項8】
照射距離を調整するための対物レンズが設けられ、この対物レンズを光軸に沿って移動させる、
請求項6または請求項7に記載の表面浄化方法。
【請求項9】
前記機器における作業者から目視ができない目視不可領域の表面まで前記レーザーを導くために、前記導波デバイスを任意の形状に固定する、
請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の表面浄化方法。
【請求項10】
前記レーザーを反射する反射デバイスの反射角度を周期的に変化させながら前記レーザーを照射する、
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の表面浄化方法。
【請求項11】
前記レーザーを反射する反射デバイスを回転させて前記レーザーの出射軸に対して円周方向に前記レーザーを照射する、
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の表面浄化方法。
【請求項12】
前記機器における作業者から目視ができない目視不可領域の表面まで前記レーザーを導くために、前記機器の内部に前記レーザーを反射する反射デバイスを設置する、
請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の表面浄化方法。
【請求項13】
前記機器の表面に塗装を行う前に、前記機器の表面に前記レーザーを照射して前記除去対象物を除去する、
請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の表面浄化方法。
【請求項14】
化石燃料を燃焼することで発電を行う発電プラントにおける機器であり、少なくとも鉄を主成分として含む材質で形成された前記機器における燃焼ガスに接触する表面に存在する除去対象物を少なくともレーザーを用いて除去する表面浄化方法に用いる表面浄化システムであって、
複数種類の前記除去対象物に含まれる成分とそれぞれの成分に最も吸収され易い前記レーザーの波長との関係を示す情報を蓄積したデータベースを備える、
表面浄化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、表面浄化技術に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の表面は材料と環境の相互作用により、腐食が生じる場合がある。通常、金属表面の水膜、環境に含まれる湿分、空気に含まれる酸素により酸化が生じる。一方、環境または材料に含まれる腐食を誘起する腐食成分が存在し、これが反応に寄与する場合、より顕著な腐食が生じる。腐食成分が関与する腐食は、腐食生成物の生成または材料の減肉を引き起こす場合がある。例えば、構造材料として金属材料が用いられる場合、腐食の進行によって強度低下を引き起こす可能性がある。また、熱交換器の熱交換フィンなどの部品の場合は、減肉による伝熱媒体の流出または腐食生成物の付着による熱伝導性能の低下が生じる。
【0003】
そこで、腐食生成物が発生した部品の機能を改善するために、これら金属の腐食生成物または腐食成分といった付着物の除去を行う必要がある。この付着物の除去は、小型の部品であれば、手研磨またはブラシによる除去が可能であり、比較的簡便に行える。しかし、大型の部品、凹凸が多い複雑な形状の部品、多数の部品が並んでいる物のような場合、手作業で全ての付着物を除去することが困難である。ここで、大型の熱交換器の伝熱管の付着物の除去に関して、除去作業によって熱交換媒体が漏洩する事態、除去した付着物が塵埃として環境に排出され、熱交換器の周辺の環境に影響を与える事態が生じることを避ける必要がある。さらに、一度、付着物を除去したとしても、その後に腐食発生リスクを高める環境が生じることも避ける必要がある。
【0004】
伝熱管は、熱交換を目的としているため、数ミリ程度の肉厚であることが殆どである。そこで、腐食による減肉が大きく生じた伝熱管に対して、ブラスト、薬液による洗浄のような、減肉を伴う除去方法を用いることを避ける必要がある。また、減肉が生じない除去方法であっても、薄肉になっている伝熱管に対し、圧縮空気、ドライアイス、水流を吹き付ける除去方法、衝撃波による除去方法のように、衝撃力と振動が加わる除去方法を用いると、薄肉になっている部分が破損する可能性がある。
【0005】
また、付着物の中でも比較的除去が容易な成分と固着力の高い成分とがある。例えば、錆の固着状態が不安定な場合がある。また、錆除去過程において、ワイヤブラシで比較的容易に叩き落せる成分と固着して容易に除去できない成分とが混在している場合がある。このような場合に、減肉を伴う除去方法であれば、減肉させるとともに、固着が強い成分の除去も可能であるが、その他の除去方法では、除去能力は劣るであろうと考えられる。このような問題に対して、レーザーを照射して付着物を除去する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4012536号公報
【特許文献2】特許第6893983号公報
【特許文献3】特許第5574354号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】“塩水腐食した熱間圧延鋼板の疲労強度低下要因の検討” 小川一義,猿木勝司,浅野高司,鈴木憲一 「材料」1985年34巻385号p.1211-1216
【非特許文献2】“塗装前の炭素鋼基材のさび性状と塗膜耐久性の関係に関する基礎検討” 坂本達朗,貝沼重信,小林淳二 「材料と環境」2015年64巻7号p.307-310
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
化石燃料を燃焼することで発電を行う発電システムにおいて、燃焼ガスに接触する機器の表面には、長年の使用により除去対象物が堆積する。このような除去対象物を、機器の表面に減肉を生じさせずに、選択的かつ効率的に除去することが求められている。
【0009】
本発明の実施形態は、このような事情を考慮してなされたもので、燃焼ガスに接触する機器の表面に存在する除去対象物を選択的かつ効率的に除去することができる表面浄化技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態に係る表面浄化方法は、化石燃料を燃焼することで発電を行う発電プラントにおける機器であり、少なくとも鉄を主成分として含む材質で形成された前記機器における燃焼ガスに接触する表面に存在する除去対象物を少なくともレーザーを用いて除去する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態により、燃焼ガスに接触する機器の表面に存在する除去対象物を選択的かつ効率的に除去することができる表面浄化技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図4】硫酸アンモニウムが共存する金属表面の付着状態を示す断面図。
【
図5】金属表面にレーザーを照射した状態を示す断面図。
【
図6】金属表面にアブレーションが発生した状態を示す断面図。
【
図8】発振器と導波デバイスと出射部を示す構成図。
【
図9】出射部とレンズとの組み合わせを示す概念図。
【
図11】反射デバイスの可動による集光箇所の変更態様を示す概念図。
【
図12】第1例の反射デバイスを用いた伝熱管の裏面への照射態様を示す断面図。
【
図13】第2例の反射デバイスを一体化したフレームを示す断面図。
【
図14】第3例の反射デバイスを一体化したフレームを示す断面図。
【
図15】第4例の導波デバイスを固定する被覆を設けた態様を示す断面図。
【
図16】第5例の反射デバイスを用いた円周方向への照射態様を示す断面図。
【
図17】第5例の反射デバイスを用いた円周方向への照射態様を示す側面図。
【
図18】鉄系腐食生成物と硫酸アンモニウムに吸収され易い波長を示す表。
【
図19】鉄系腐食生成物と硫酸アンモニウムの吸収スペクトルを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、表面浄化方法および表面浄化システムの実施形態について詳細に説明する。
【0014】
図1の符号1は、本実施形態が適用される火力発電プラントである。火力発電プラント1とは、天然ガス、石油、石炭などの化石燃料を燃焼することで発電を行う施設である。本実施形態では、ガスタービン2を用いた内燃力発電が行われるとともに、その排熱で汽力発電が行われるコンバインドサイクル発電方式が適用された火力発電プラント1を例示する。なお、コンバインドサイクル発電方式以外にも、化石燃料を燃焼して発電を行うものであれば、その他の形式の発電プラントに本実施形態を適用しても良い。
【0015】
コンバインドサイクル発電方式の火力発電プラント1には、内燃機関としてのガスタービン2が設けられている。このガスタービン2の回転力が第1発電機3に伝達されて内燃力発電が行われる。ガスタービン2から排出された燃焼ガスGは、排気ダクト4を介して廃熱回収ボイラ5に送られる。この廃熱回収ボイラ5は、熱交換器6を有している。廃熱回収ボイラ5の内部の熱交換器6を流れる水Wが燃焼ガスGと熱交換を行うことにより蒸気が発生する。廃熱回収ボイラ5を通過した燃焼ガスGは、排気ダクト4を介して、必要に応じて設けられる脱硝装置7に送られる。燃焼ガスGは、この脱硝装置7の触媒により脱硝がなされた後に、排気ダクト4を介して煙突8に送られ、この煙突8から大気中に排出される。
【0016】
熱交換器6で蒸発した水W(蒸気)は、水循環ライン9を介して蒸気タービン10に送られる。この蒸気の圧力により蒸気タービン10が回転される。そして、蒸気タービン10の回転力が第2発電機11に伝達されて汽力発電が行われる。蒸気タービン10を通過した蒸気は、復水器12に送られる。この蒸気は、復水器12で凝縮されて水Wに戻される。この戻された水Wは、水循環ライン9を介して再び廃熱回収ボイラ5に戻される。
【0017】
図2から
図3に示すように、本実施形態の機器としての熱交換器6には、多数の伝熱管13が設けられている。水循環ライン9を流れる水Wは、伝熱管13を通過するときに、周囲の燃焼ガスGと熱交換されて蒸気となる。
【0018】
また、伝熱管13の外周面には、熱交換の効率を高めるために、熱交換フィン14が設けられている。この熱交換フィン14は、伝熱管13の外周面に沿って巻き回されて螺旋状に延びる部分となっている。なお、複数枚の熱交換フィン14が、伝熱管13の長手に沿って並べられていても良い。また、伝熱管13の間15および熱交換フィン14の間16が、本実施形態の狭隘部となっている。
【0019】
伝熱管13および熱交換フィン14は、炭素鋼など、少なくとも鉄を主成分として含む材質で形成されている。伝熱管13および熱交換フィン14は、長年の使用と燃焼ガスGにより飛来した各種物質が付着することにより腐食が生じる。
図4に示すように、このような表面17が劣化した伝熱管13および熱交換フィン14を継続して使用するために、伝熱管13および熱交換フィン14の表面17に塗装を施すことがある。しかし、腐食などが存在する金属の表面17に塗装を施しても剥がれ、膨れ、割れが生じ易くなり、腐食成分の状況によっては、表面17と塗装の間で腐食が進行することがある。そのため、本実施形態では、塗装を施す前に金属の表面17を浄化する処理を行う。
【0020】
図4から
図5に示すように、伝熱管13および熱交換フィン14の表面17(金属母材)、つまり、燃焼ガスGに接触する表面17には、炭素鋼の腐食生成物18、この腐食生成物18を含む付着物19、または、燃焼ガスGとともに飛来して付着した付着物19などが存在する。付着物19には、例えば、硫酸アンモニウムなどが含まれる。本実施形態では、これらの物質を、レーザーLを用いて除去する浄化処理を行う。
【0021】
以下の説明では、レーザーLによる除去の対象となる物質を除去対象物20と称する。なお、除去対象物20は、腐食生成物18または飛来して付着(堆積)した付着物19の少なくとも一方を含む。また、腐食生成物18には、機器の表面に付着した腐食生成物18を一部に含む付着物19を含む。
【0022】
本実施形態のレーザーLの照射による除去対象物20の除去は、光と物質の相互作用であるレーザーアブレーション効果(
図6)によって実現する。本実施形態では、熱交換器6の伝熱管13の表面17に生じた除去対象物20に対して、除去対象物20の特徴的な吸収波長に対して、レーザーLの持つ波長を決定し、選択的かつ効率的に除去を行う。
【0023】
図6に示すように、所定の物質で構成される除去対象物20に一定以上のエネルギー密度を持つレーザーLを照射すると、除去対象物20が光エネルギーを吸収し、瞬間的に加熱され、プラズマ化し昇華する。なお、その後の再結合反応によって態様が異なるが、プラズマ化した除去対象物20により、飛散する金属元素またはガス化する成分である再生成物21が生じる。
【0024】
一度プラズマ化しイオン化していることから、これら再生成物21は、単純に剥離された除去対象物20よりも、粒子サイズが、はるかに小さくなり、人間の検知が困難なサイズまで減少すると考えられる。また、再生成物21が気化するようであれば、固体成分の量はアブレーション前よりも減少する。
【0025】
レーザーLを用いて金属の表面17を浄化する方法は、ドライ表面クリーニング法のひとつである。レーザーアブレーション効果は、除去対象物20を構成する化合物(成分)の波長ごとの吸収特性、除去対象物20の密度、除去対象物20の厚み、レーザーLの発振波長、または、レーザーパワーの密度の少なくともいずれかの組み合わせが、化合物の持つアブレーション閾値を超える必要がある。なお、レーザーLがパルス波であろうが連続波であろうが、パラメータ的な差異はあるものの、原理としては同様である。この組み合わせが照射した材料の閾値を超えない限り、材料は加熱されるのみで効果は終了する。
【0026】
この原理から、除去対象物20の除去だけを考えれば、高強度のレーザーLを照射すれば実現が可能となる。しかし、やみくもに強度だけを上げてしまうと、除去対象物20だけではなく、除去対象物20が付着している健全な金属の表面17をもアブレーションさせてしまう。健全な金属の表面17をレーザーLによってアブレーションさせてしまうことは、即ち、減肉を生じる従来技術の除去方法と同様の効果が顕れてしまい、伝熱管13および熱交換フィン14の破損につながる懸念が残る。
【0027】
従来技術では、除去対象物20が有する特徴的な吸収波長に対して適切な波長の制御がなされておらず、照射するレーザーLの強度が除去対象物20のアブレーション閾値より低いと除去できない。さらに、アブレーション閾値より高い強度でレーザーLを照射すると、健全な金属部分が減肉されるおそれがある。また、高い強度のレーザーLから作業者を保護する保護具が複雑かつ重厚にせざるを得ず、コストが増加し、工期が長くなる欠点がある。
【0028】
そこで、本実施形態では、特定の成分を有する除去対象物20が付着している熱交換器6における伝熱管13に対して、除去対象物20の波長ごとの吸収特性を把握する。そして、除去対象物20の吸収係数の強い波長に適したレーザーLの波長と光源を提供することで、除去が容易な除去対象物20だけではなく、固着している除去対象物20を選択的かつ効率よく除去するようにしている。
【0029】
次に、本実施形態の表面浄化システム30のシステム構成を
図7に示すブロック図を参照して説明する。この表面浄化システム30は、レーザー浄化装置31と制御部32と記憶部33とを備える。
【0030】
制御部32は、必要に応じて波長設定部34を備える。これは、メモリまたはHDDに記憶されたプログラムがCPUによって実行されることで実現される。なお、波長設定部34は、熱交換器6の表面17に照射するレーザーLの波長を設定する。このレーザーLの波長の設定は、母材の材料および析出物の材料によって予め定めても良い。
【0031】
さらに、記憶部33は、データベース35と施工記録部36を備える。これらは、メモリ、HDDまたはクラウドに記憶され、検索または蓄積ができるよう整理された情報の集まりである。
【0032】
本実施形態の制御部32は、CPU、ROM、RAM、HDDなどのハードウェア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現されるコンピュータで構成される。さらに、本実施形態の表面浄化方法は、各種プログラムをコンピュータに実行させることで実現される。
【0033】
制御部32は、レーザー浄化装置31の制御を行う。また、制御部32の構成は、必ずしも1つのコンピュータに設ける必要はない。例えば、ネットワークで互いに接続された複数のコンピュータを用いて1つの制御部32を実現しても良い。
【0034】
また、制御部32は、除去対象物20の成分に基づいて、除去対象物20に最も吸収され易いレーザーLの波長を特定する処理を行う。さらに、特定された波長に基づいて、伝熱管13および熱交換フィン14の表面17に照射するレーザーLの波長を設定する処理を行う。
【0035】
記憶部33は、レーザー浄化装置31により浄化処理を行うときに必要な各種情報を記憶する。
【0036】
データベース35は、複数種類の除去対象物20に含まれる成分とそれぞれの成分に最も吸収され易いレーザーLの波長との関係を示す情報を蓄積する。このようにすれば、データベース35に蓄積された情報に基づいて、除去対象物20に吸収され易いレーザーLの波長を設定することができる。なお、データベース35は、ネットワークを介して表面浄化システム30(制御部32)に接続される他のコンピュータに設けられていても良い。
【0037】
図8に示すように、レーザー浄化装置31は、発振器37と導波デバイス38と出射部39とロボットアーム40とを備える。
【0038】
発振器37は、レーザーLの出力源(光源)である。この発振器37から出力されたレーザーLは、導波デバイス38を介して出射部39に導かれる。導波デバイス38は、例えば、光ファイバーなどを例示する。また、複数の反射鏡またはプリズム(図示略)などで導波デバイス38を構成しても良い。
【0039】
導波デバイス38により導かれたレーザーLは、出射部39から出射される。本実施形態では、導波デバイス38を用いてレーザーLを発振器37から熱交換器6(機器)の伝熱管13などの表面17まで導き、導波デバイス38におけるレーザーLが出射する出射部39が表面17に対して移動可能となっている。このようにすれば、導波デバイス38を用いてレーザーLを適切な位置まで導くことができる。
【0040】
出射部39は、ロボットアーム40により施工位置に移動可能となっている。ロボットアーム40の各関節には、ポテンショメーター(図示略)などが設けられている。ロボットアーム40の各関節の可動状況を記録することで、レーザーLを照射した箇所の記録が行える。この施工箇所は、施工記録部36(
図7)に記録される。例えば、伝熱管13および熱交換フィン14において、レーザーLを照射した箇所をマッピングすることで、浄化処理が行われた箇所を後日確認することができる。
【0041】
なお、本実施形態では、ロボットアーム40により出射部39を所定の位置に固定して施工を行うようにしているが、出射部39を作業者が持って所定の位置に固定して施工を行っても良い。この場合には、出射部39に加速度センサーおよび角度センサーを含むモーションセンサー(図示略)などを設けておき、出射部39の移動状況を記録することで、レーザーLを照射した箇所の記録が行える。
【0042】
レーザーLは、そのコヒーレンスの高さから、出射部39から出射されると、非コヒーレンス光に比べ拡散せずに、直線的に伝播する。また、
図9に示すように、出射部39から出射されたレーザーLは、所定の集光レンズ41を用いて集光し、照射対象の表面17に対する単位面積当たりの光強度を増加させることが可能である。
【0043】
図10に示すように、照射中に集光レンズ41を光軸に沿って移動すれば、出射部39を固定していたとしても、集光レンズ41の可動範囲に応じて、任意の位置にレーザーLを集光させることができる。このようにすれば、例えば、出射部39を作業者が手で持っている場合に、照射位置を厳密に狙わなくても、表面17に照射できる効果もある。
【0044】
例えば、
図2から
図3に示すように、伝熱管13の熱交換フィン14の部分、または、熱交換フィン14の端縁と伝熱管13に同時にレーザーLを照射することもできる。このように、伝熱管13の間15、または、熱交換フィン14の間16などの狭隘部であってもレーザーLを照射することができる。つまり、本実施形態では、レーザーLが照射されて除去対象物20が除去される部分は、熱交換器6(機器)の狭隘部を含む。このようにすれば、他の除去方法では除去が行い難い狭隘部であっても、除去対象物20を除去することができる。
【0045】
なお、狭隘部は、伝熱管13の間15、または、熱交換フィン14の間16の少なくとも一方であれば良い。このようにすれば、作業者の手が入り難い部分であっても、除去対象物20を除去することができる。
【0046】
さらに、
図11のようにレーザーLは、反射鏡のような反射デバイス42を用いることによって、容易にその光路を調整することができる。例えば、ガルバノミラーのような周期的に反射角度が変化する反射デバイス42を用いることができる。そして、反射デバイス42の反射角度を周期的に変化させながらレーザーLを照射する。このようにすれば、面的(2次元的)な広い領域にレーザーLを照射することができるため、除去効率を向上させることができる。なお、反射デバイス42は、プリズムまたはハーフミラーなどでも良い。
【0047】
図12に施工態様の第1例を示す。例えば、レーザー浄化装置31のヘッド43には、出射部39と集光レンズ41が一体的に設けられている。このヘッド43から出力されたレーザーLは、複数の反射鏡を組み合わせた反射デバイス42により導かれて、伝熱管13または熱交換フィン14の所定の照射箇所に照射される。このようにすれば、ヘッド43の進入が困難な狭隘部にある部分であっても、レーザーLを照射することができる。例えば、林立する伝熱管13の深部、作業者から視認が困難な位置へのレーザーLを照射することができる。
【0048】
例えば、
図12において紙面下方側に廃熱回収ボイラ5の内部で作業者が行き来できるようなメンテナンス領域(図示略)があるとする。作業者は、
図12の紙面下方側から伝熱管13を視認する(
図12の矢印44参照)。ここで、林立する伝熱管13の一方の面(紙面下方側の面)は、作業者が目視することができるが、伝熱管13の他方の面(紙面上方側の面)は、作業者が目視することができない。これら伝熱管13の作業者から目視できない領域が目視不可領域(不可視領域)となっている。なお、林立する伝熱管13の深部も目視不可領域に含まれる。
【0049】
本実施形態では、目視不可領域の伝熱管13または熱交換フィン14の表面17までレーザーLを導くために、熱交換器6(廃熱回収ボイラ5)の内部にレーザーLを反射する反射デバイス42を設置する。このようにすれば、反射デバイス42を用いて、目視不可領域の表面17にレーザーLを照射することができる。
【0050】
図13に施工態様の第2例を示す。この第2例では、反射デバイス42を、出射部39および集光レンズ41と一体化させるためのフレーム45が設けられている。複数の反射デバイス42は、フレーム45に支持されている。このようにすれば、伝熱管13の間15に容易に反射デバイス42を設けることができる。
【0051】
この第2例では、レーザーLを集光させる集光レンズ41とレーザーLを反射させる反射デバイス42と一体的に組み合わせた導波デバイス38を用いてレーザーLを照射する。このようにすれば、レーザーLのヘッド43または作業者の手の進入が困難な狭隘部である林立する伝熱管13の深部、作業者による視認が困難な部分へのレーザーLの照射が可能となる。
【0052】
図14に施工態様の第3例を示す。この第3例では、反射デバイス42を支持するフレーム45の出射側の端部に、照射距離を調整するための対物レンズ46が設けられている。そして、この対物レンズ46を光軸に沿って周期的に移動させる。このようにすれば、出射部39を固定して設けても、対物レンズ46を任意の位置に移動させることで、レーザーLの焦点を移動させることがきるため、任意の範囲にレーザーLを照射することができる。
【0053】
図15に施工態様の第4例を示す。この第4例では、出射部39(
図8)の出射側から延びる導波デバイス47を備える。この導波デバイス47は、光ファイバーなどで構成される。そして、この導波デバイス47と対物レンズ46を、任意に屈曲かつ支持が可能な屈曲支持管48で一体化させている。屈曲支持管48は、熱交換器6の伝熱管13の配置にあわせて屈曲させることができる。そして、導波デバイス47を任意の形状に固定することができる。このようにすれば、導波デバイス47を用いて、目視不可領域(不可視領域)の表面17にレーザーLを照射することができる。
【0054】
図16および
図17に施工態様の第5例を示す。この第5例は、出射軸39Aを中心として円周方向に向けてレーザーLを照射する機構となっている。例えば、出射部39におけるレーザーLの出射軸39Aと一致する箇所に回転軸49が設けられている。この回転軸49に反射デバイス42が支持されている。そして、反射デバイス42は、出射軸39Aに対して角度をもって、かつ回転軸49を中心として回転される。なお、円筒形状を成す支持管50の内部に、出射部39と反射デバイス42と回転軸49とが収容されている。さらに、支持管50の外周面に沿って、レーザーLが通過可能な窓51が設けられている。
【0055】
出射部39は、出射軸39Aが延びる方向が、伝熱管13が延びる方向と同じに成る向きに配置される。そして、出射部39から出射されたレーザーLは、反射デバイス42によって反射される。回転軸49によって反射デバイス42が回転することで、出射軸39Aを中心として円周方向にレーザーLを照射することができる。このようにすれば、周囲の複数の伝熱管13に対してレーザーLを照射することができるため、除去効率を向上させることができる。
【0056】
支持管50が金属などの光を透過させない素材で形成されている場合には、窓51によりレーザーLを透過させることができる。なお、支持管50は、円筒形以外の形状、例えば、四角形状またはその他の形状でも良い。
【0057】
また、支持管50は、所定のフレームを用いて形成された構造でも良い。ただし、この場合のフレームは、レーザーLの照射に対して障害物となり得るので、作業時にフレームの設置の態様に注意する必要がある。
【0058】
第1例から第5例において、レーザーLの照射範囲は、一般的に数十μm程度であるため、除去対象物20の除去が不要、または、所定の事情によって除去対象物20の除去が望まれない箇所への照射を容易に避けることができる。
【0059】
このように、金属の表面17の除去対象物20を除去することが可能となれば、清浄な金属を表面17に露出させることが可能となる。このようにすれば、熱交換器6のような表面状態が性能に影響を及ぼすような機器に対して、熱交換率を復活させることができる。また、腐食の程度によっては、金属の表面17に凹凸がランダムに生じるため、表面17を清浄にすることによって、塗装の前処理に適した表面状態が得られる。
【0060】
次に、除去対象物20の成分とレーザーLの波長との関係を
図18から
図19を参照して説明する。
【0061】
除去対象物20の成分は、金属材料が置かれている環境(雰囲気成分、飛散成分、湿度、温度)によってさまざま異なり、化合物によってレーザーLの吸収特性が大きく異なる。特に、炭素鋼の場合、化合物として酸化鉄、水酸化鉄、オキシ水酸化鉄が生じる。酸化鉄およびオキシ水酸化鉄の25μm~200μmの吸収特性が確認されている。さらに、吸収測定が困難な紫外線または可視光線の領域、近赤外線の領域である600nm~1100nmの領域では、拡散反射測定が行われている。なお、反射特性と、吸収特性については、反射率の対数をとることで吸収特性が得られる。測定の影響などによって、多少の値の違いは出るものの、特徴的な吸収波長を見出すことが可能である。
【0062】
また、現実の除去対象物20の吸収特性は、これらの生成量または混合状態によって決定される。特に、鉄系腐食生成物については、約7μmから25μmの範囲に吸収領域が存在する。例えば、酸化鉄では11.0μm付近に吸収領域が存在する。水酸化鉄では12.0μm付近に吸収領域が存在する。オキシ水酸化鉄では2.5μm~3.0μm、15.0μmまたは17.0μm付近に吸収領域が存在する。
【0063】
600nmから2.5μmの範囲においては、750nm付近に反射率の高い領域が存在する。ここを頂点に短波長側では反射率は小さく、つまり吸収は強くなる。一方、長波長側では、酸化鉄では、900nm付近、水酸化鉄およびオキシ水酸化鉄、920nm付近に吸収が強くなる領域が存在する。
【0064】
さらに、長波長側に目を向けると酸化鉄、水酸化鉄では吸収のピークは認められない。水酸化鉄では1460nm付近にも吸収領域が存在するが、750nmの吸収領域よりも係数は小さい。
【0065】
紫外線から可視光線の領域では、酸化鉄の場合、580nm付近に吸収領域が存在する。ここで、500nm付近まで反射率が増加し飽和傾向にある。オキシ水酸化鉄では、570nm付近から620nm付近に吸収のピークが存在する。また、それぞれの金属材料は、500nm以下の領域で吸収が最も大きい。
【0066】
これらの波長または、これらに近しい波長のレーザーLを除去対象物20に照射することで効率的に除去することができる。さらに、レーザーLの強度を必要以上に高める必要がないため、除去対象物20が生じていない健全な金属母材にダメージを与えることがない。
【0067】
一方、例えば、ガスタービン2などで燃焼させる燃料には、金属を腐食させる成分が配合されている場合がある。この腐食成分が熱交換器6の内部に流入し、熱交換器6の伝熱管13といった部品を腐食させ、金属腐食生成物以外にも化合物が生成されるようになる。
【0068】
特に、硫酸アンモニウムが存在する熱交換器6が認められており、伝熱管13および熱交換フィン14の表面17の除去対象物20には、鉄系腐食生成物に加えて、硫酸アンモニウムが含まれている。この場合の除去条件を検討すると、鉄系腐食生成物の吸収特性に加えて硫酸アンモニウムの吸収特性を考慮に入れた上で、レーザーLの波長を選択しなければならない。
【0069】
図19に示すように、硫酸アンモニウムの近赤外領域の反射スペクトルに着目する。特に所定の範囲Rに着目する。ここで、硫酸アンモニウムの場合には、850nm、950nm付近に僅かな吸収が認められるが、概して200nmから1000nm程度まで、反射率が高い領域が続いている。そして、1060nm付近、1390nm付近、1590nm付近に吸収領域が認められ、2.0μmから2.1μm付近に吸収のピークが認められる。また、赤外線の領域では、3.3μm付近に広い領域の吸収のピークが確認できる。さらに、6.6μm付近、10.0μm付近に急峻な吸収のピークが確認できる。
【0070】
従って、本実施形態では、有意な量で硫酸アンモニウムと鉄系腐食生成物が混合しているような除去対象物20に対しては、吸収のピークが同一領域に存在することが条件となる。この波長領域は、900nmから1390nmの近赤外線の領域および9.0μmから18.0μmの赤外線の領域である。
【0071】
特に、近赤外線の領域は、赤外線の領域に比べ波長範囲が狭く、一般的に高強度の光源を選択できる可能性があるため好適である。なお、紫外領域では、鉄系腐食生成物の吸収は大きいが、硫酸アンモニウムの反射率が高いため、適しているとは言い難い。
【0072】
例えば、除去対象物20を構成する化合物ごとに、それぞれ異なる吸収波長に合わせた、複数の光源を用意し、除去対象物20へ照射するレーザーLの波長を周期的に変化させることで、より効率的に除去できる。ただし、1台の光源を用いる場合と比べ、光源および波長変換素子を複数台構成することは、装置のコストと光学設計のコストの面では劣ってしまう。
【0073】
本実施形態では、近赤外線の領域において、硫酸アンモニウムの吸収領域と、酸化鉄およびオキシ水酸化鉄の吸収領域が重複しており、この領域が効率的に除去対象物20を除去することが可能である。
【0074】
現在実現されているもので、9.0μm~18.0μmの範囲で発振可能で、一般的なものは、量子カスケードレーザーとCO2レーザーが挙げられる。その他にも、光パラメトリック発振または差周波発生技術を用いれば実現可能である。この中では、加工用レーザーとして用いられるCO2レーザーであれば比較的高い強度を得られる。
【0075】
近赤外線の領域においては、選択肢は多く、前述の波長領域を発振可能なものは、ファイバーレーザー、半導体レーザー、YAGレーザー、ディスクレーザーなどが挙げられる。この波長領域では、導波デバイス38としての光ファイバーによる導波が可能であるため、容易に照射部位を変更できる。
【0076】
次に、本実施形態の表面浄化システム30を用いて実行される表面浄化方法について
図20のフローチャートを用いて説明する。なお、前述の図面を適宜参照する。
【0077】
まず、ステップS1において、表面浄化方法を行う作業者は、成分特定工程を実行する。ここで、作業者は、熱交換器6を構成する材質の成分または燃焼ガスGの成分の少なくとも一方に基づいて、除去対象物20の成分を特定する。なお、取得される情報は、例えば、過去に取得した情報でも良い。また、熱交換器6の設計情報に基づいても良い。
【0078】
追加的または代替的に、作業者は、熱交換器6の表面17から除去対象物20のサンプルを採取する。そして、このサンプルの成分に基づいて、除去対象物20の成分を特定する。
【0079】
次のステップS2において、作業者は、表面浄化システム30を用いて波長特定工程を実行する。ここで、表面浄化システム30の制御部32は、データベース35に蓄積された情報を参照し、除去対象物20の成分に基づいて、除去対象物20に最も吸収され易いレーザーLの波長を特定する。なお、予め母材の材料および析出物の材料が判っている場合には、予め特定された波長のレーザーLを出射するレーザー浄化装置31を使用しても良い。
【0080】
次のステップS3において、作業者は、表面浄化システム30を用いてレーザー設定工程を実行する。ここで、制御部32の波長設定部34は、特定された波長に基づいて、熱交換器6の表面17に照射するレーザーLの波長を設定する。
【0081】
なお、設定される波長は、除去対象物20に最も吸収され易い波長でも良いし、この波長に近似している波長でも良い。また、複数の波長の候補がある場合には、その候補のうちのいずれか1つでも良い。
【0082】
また、レーザー設定工程では、レーザーLの波長の設定のみならず、レーザーLの強度と照射時間と照射範囲などのその他の設定も行われる。さらに、熱交換器6の構造に対応してレーザーLの設定が行われる。例えば、
図1に示すように、熱交換器6には、燃焼ガスGが最初に当たる高温部分6Aと、中程度の温度となる中温部分6Bと、燃焼ガスGが最後に当たる低温部分6Cとが存在する。これらの部分6A~6Cごとに、除去対象物20の成分または堆積の態様が異なる。これら熱交換器6の構造を加味してレーザーLの波長などの各種の設定が行われる。
【0083】
図20に戻り、次のステップS4において、制御部32は、レーザー浄化装置31を制御し、熱交換器6の表面17の除去対象物20を除去するレーザー除去工程を実行する。なお、レーザー除去工程は、制御部32により自動的に行う。なお、レーザー除去が行われた施工箇所は、施工記録部36に記録される。
【0084】
なお、本実施形態では、制御部32が自動的にレーザー浄化装置31を制御する態様を例示するが、その他の態様であっても良い。例えば、制御部32は、作業者(ユーザ)の入力操作を受け付けてレーザー浄化装置31を制御するようにしても良い。つまり、制御部32は、作業者の手動操作によりレーザー浄化装置31を制御するための遠隔操作部でも良い。
【0085】
事前に熱交換器6の材質の成分または燃焼ガスGの成分から除去対象物20の成分を特定し、または、サンプルを採取して除去対象物20の成分を特定することで、この除去対象物20に吸収され易い波長のレーザーLを照射することができ、効率的に除去対象物20を除去することができる。
【0086】
次のステップS5において、作業者は、熱交換器6の表面17に塗装を行う塗装工程を実行する。本実施形態では、熱交換器6の表面17に塗装を行う前に、この表面17にレーザーLを照射して除去対象物20を除去するため、長期間に亘って塗装が剥がれ難くなる。
【0087】
そして、表面浄化方法を終了する。以上のステップは、表面浄化方法に含まれる少なくとも一部の処理であり、他のステップが表面浄化方法に含まれていても良い。
【0088】
なお、本実施形態のフローチャートにおいて、各ステップが直列に実行される形態を例示しているが、必ずしも各ステップの前後関係が固定されるものでなく、一部のステップの前後関係が入れ替わっても良い。また、一部のステップが他のステップと並列に実行されても良い。
【0089】
本実施形態の表面浄化システム30は、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、またはCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)またはRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスまたはキーボードなどの入力装置と、通信インターフェースとを備える。この表面浄化システム30は、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
【0090】
なお、本実施形態の表面浄化システム30で実行されるプログラムは、ROMなどに予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)などのコンピュータで読み取り可能な非一過性の記憶媒体に記憶されて提供するようにしても良い。
【0091】
また、この表面浄化システム30で実行されるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしても良い。また、この表面浄化システム30は、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワークまたは専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【0092】
なお、本実施形態では、レーザーLを用いて除去対象物20を除去しているが、その他の態様であっても良い。例えば、レーザーLの除去とともに、ブラストまたは薬液を用いた浄化方法を併用しても良い。
【0093】
なお、本実施形態では、伝熱管13および熱交換フィン14が炭素鋼で形成されているものを例示しているが、その他の態様であっても良い。例えば、伝熱管13および熱交換フィン14がステンレス鋼などで形成されていても良い。
【0094】
なお、本実施形態では、火力発電プラント1の廃熱回収ボイラ5の内部の熱交換器6の伝熱管13の表面17を浄化しているが、その他の態様であっても良い。例えば、原子力プラントに設けられている復水器が備える水蒸気を凝縮させる冷却水が流れる凝縮管の表面を、本実施形態を用いて浄化しても良い。
【0095】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、少なくとも鉄を主成分として含む材質で形成された機器における燃焼ガスに接触する表面に存在する除去対象物を少なくともレーザーを用いて除去することにより、燃焼ガスに接触する機器の表面に存在する除去対象物を選択的かつ効率的に除去することができる。
【0096】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態またはその変形は、発明の範囲と要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0097】
1…火力発電プラント、2…ガスタービン、3…第1発電機、4…排気ダクト、5…廃熱回収ボイラ、6…熱交換器、6A…高温部分、6B…中温部分、6C…低温部分、7…脱硝装置、8…煙突、9…水循環ライン、10…蒸気タービン、11…第2発電機、12…復水器、13…伝熱管、14…熱交換フィン、15…伝熱管の間、16…熱交換フィンの間、17…表面、18…腐食生成物、19…付着物、20…除去対象物、21…再生成物、30…表面浄化システム、31…レーザー浄化装置、32…制御部、33…記憶部、34…波長設定部、35…データベース、36…施工記録部、37…発振器、38…導波デバイス、39…出射部、39A…出射軸、40…ロボットアーム、41…集光レンズ、42…反射デバイス、43…ヘッド、44…視認方向を示す矢印、45…フレーム、46…対物レンズ、47…導波デバイス、48…屈曲支持管、49…回転軸、50…支持管、51…窓、G…燃焼ガス、L…レーザー、R…所定の範囲、W…水。