(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023043004
(43)【公開日】2023-03-28
(54)【発明の名称】機械構造物の応力推定方法および機械構造物の監視方法
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20230320BHJP
F03B 15/18 20060101ALI20230320BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20230320BHJP
【FI】
G01M99/00 A
F03B15/18 Z
G01H17/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021150458
(22)【出願日】2021-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 和也
(74)【代理人】
【識別番号】100198029
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 力
(72)【発明者】
【氏名】三谷 潤
(72)【発明者】
【氏名】向井 健朗
(72)【発明者】
【氏名】児島 貴信
(72)【発明者】
【氏名】中薗 昌彦
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
3H073
【Fターム(参考)】
2G024AD01
2G024CA13
2G024DA12
2G024FA01
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA11
2G064AA11
2G064AB01
2G064AB02
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC41
2G064CC42
2G064DD02
3H073AA08
3H073BB18
3H073CC01
3H073CC25
3H073CD03
3H073CD15
3H073CE21
(57)【要約】
【課題】機械構造物の運転を停止することなく、機械構造物の運転時の機械構造物の評価対象位置の状態を把握する。
【解決手段】実施の形態による機械構造物の応力推定方法は、機械構造物の加振時に評価対象位置に生じる応力と評価対象位置とは異なる検出位置に生じる音圧または振動を含む物理量との関係を算出する算出工程を備える。また、機械構造物の応力推定方法は、機械構造物の運転時に検出位置に生じる物理量を検出する検出工程を備える。また、機械構造物の応力推定方法は、算出工程において算出された関係と、検出工程において検出された物理量とに基づいて、機械構造物の運転時に評価対象位置に生じる応力を推定する推定工程を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械構造物の運転時に前記機械構造物の評価対象位置に生じる応力を推定する機械構造物の応力推定方法であって、
前記機械構造物の加振時に前記評価対象位置に生じる応力と前記評価対象位置とは異なる検出位置に生じる音圧または振動を含む物理量との関係を算出する算出工程と、
前記機械構造物の運転時に前記検出位置に生じる前記物理量を検出する検出工程と、
前記算出工程において算出された前記関係と、前記検出工程において検出された前記物理量とに基づいて、前記機械構造物の運転時に前記評価対象位置に生じる応力を推定する推定工程と、を備える、機械構造物の応力推定方法。
【請求項2】
前記算出工程における前記関係は、コンピュータシミュレーションにより算出される、請求項1に記載の機械構造物の応力推定方法。
【請求項3】
前記算出工程における前記関係は、加振実験により算出される、請求項1に記載の機械構造物の応力推定方法。
【請求項4】
前記算出工程における前記関係は、コンピュータシミュレーションおよび加振実験の組み合わせにより算出される、請求項1に記載の機械構造物の応力推定方法。
【請求項5】
前記機械構造物は、流体から圧力を受けて回転する回転機器を備え、
前記評価対象位置は、前記回転機器に設けられる、請求項1から4のいずれか一項に記載の機械構造物の応力推定方法。
【請求項6】
前記機械構造物は、水車構造物である、請求項1から5のいずれか一項に記載の機械構造物の応力推定方法。
【請求項7】
機械構造物の運転時に前記機械構造物の評価対象位置の状態を監視する機械構造物の監視方法であって、
前記機械構造物の加振時に前記評価対象位置に生じる応力と前記評価対象位置とは異なる検出位置に生じる音圧または振動を含む物理量との関係を算出する算出工程と、
前記算出工程において算出された前記関係と、設定された前記評価対象位置の許容応力とに基づいて、前記機械構造物の運転時の前記物理量の報知閾値を決定する決定工程と、
前記機械構造物の運転時に前記検出位置に生じる前記物理量を検出する検出工程と、
前記検出工程において検出された前記物理量が前記報知閾値を超えたことを報知する報知工程と、を備える、機械構造物の監視方法。
【請求項8】
前記算出工程における前記関係は、コンピュータシミュレーションにより算出される、請求項7に記載の機械構造物の監視方法。
【請求項9】
前記算出工程における前記関係は、加振実験により算出される、請求項7に記載の機械構造物の監視方法。
【請求項10】
前記算出工程における前記関係は、コンピュータシミュレーションおよび加振実験の組み合わせにより算出される、請求項7に記載の機械構造物の監視方法。
【請求項11】
前記機械構造物は、流体から圧力を受けて回転する回転機器を備え、
前記評価対象位置は、前記回転機器に設けられる、請求項7から10のいずれか一項に記載の機械構造物の監視方法。
【請求項12】
前記機械構造物は、水車構造物である、請求項7から11のいずれか一項に記載の機械構造物の監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、機械構造物の応力推定方法および機械構造物の監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、機械構造物の評価対象位置に生じる応力は、当該評価対象位置に歪みゲージ等の応力センサを貼り付けて測定を行うことにより把握することができる。しかしながら、機械構造物の運転時には、評価対象位置に応力センサを貼り付けることが困難な場合がある。また、機械構造物に応力センサを貼り付けるために、当該機械構造物の運転を停止しなければならない場合もあり、運転停止による機会損失が生じるおそれがある。
【0003】
例えば、機械構造物がフランシス水車等の水車構造物であり、水車構造物の運転時のランナのランナ羽根の状態を把握するために、水車構造物の運転時にランナ羽根に生じる応力を測定する場合を考える。この場合、ランナは、水車構造物の運転時に流水から圧力を受けて高速で回転する部分であるため、ランナ羽根に応力センサを貼り付けることは困難である。また、仮に応力センサを貼り付けるとしても、ランナ羽根に応力センサを貼り付けるためには、水車構造物の運転を停止しなければならない。より具体的には、水車構造物の運転を停止し、水車構造物内から水を抜き出した後、上カバーを取り外して主軸と共にランナを吊り出すか、応力センサの貼り付け作業のために、作業者がケーシングやドラフト管に設けられたメンテナンスホールから水車構造物内に侵入しなければならない。このため、水車構造物の運転停止期間が長期化するとともに、水車構造物の保守点検作業も増大し、水車構造物の運転停止による機会損失が生じ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、機械構造物の運転を停止することなく、機械構造物の運転時の機械構造物の評価対象位置の状態を把握することができる機械構造物の応力推定方法および機械構造物の監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施の形態による機械構造物の応力推定方法は、機械構造物の運転時に機械構造物の評価対象位置に生じる応力を推定する方法である。機械構造物の応力推定方法は、機械構造物の加振時に評価対象位置に生じる応力と評価対象位置とは異なる検出位置に生じる音圧または振動を含む物理量との関係を算出する算出工程を備える。また、機械構造物の応力推定方法は、機械構造物の運転時に検出位置に生じる物理量を検出する検出工程を備える。また、機械構造物の応力推定方法は、算出工程において算出された関係と、検出工程において検出された物理量とに基づいて、機械構造物の運転時に評価対象位置に生じる応力を推定する推定工程を備える。
【0007】
また、実施の形態による機械構造物の監視方法は、機械構造物の運転時に機械構造物の評価対象位置の状態を監視する方法である。機械構造物の監視方法は、機械構造物の加振時に評価対象位置に生じる応力と評価対象位置とは異なる検出位置に生じる音圧または振動を含む物理量との関係を算出する算出工程を備える。また、機械構造物の監視方法は、算出工程において算出された関係と、設定された評価対象位置の許容応力とに基づいて、機械構造物の運転時の物理量の報知閾値を決定する決定工程を備える。また、機械構造物の監視方法は、機械構造物の運転時に検出位置に生じる物理量を検出する検出工程と、検出工程において検出された物理量が報知閾値を超えたことを報知する報知工程と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、機械構造物の運転を停止することなく、機械構造物の運転時の機械構造物の評価対象位置の状態を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施の形態によるフランシス水車の子午面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態による機械構造物の応力推定方法および機械構造物の監視方法について説明する。
【0011】
(第1の実施の形態)
まず、
図1および
図2を用いて、本実施の形態による機械構造物の一例である水車構造物、とりわけフランシス水車について説明する。以下では、水車運転時の水の流れに従って説明する。
【0012】
図1に示すように、フランシス水車1は、ケーシング2と、複数のステーベーン3と、複数のガイドベーン4と、ランナ5と、発電機6と、ドラフト管7と、を備えている。
【0013】
ケーシング2は、渦巻き状に形成されており、水車運転時に上池から水圧鉄管(いずれも図示せず)を通って水が流入し、当該水が内部を流れるように構成されている。
図2に示すように、ケーシング2には、メンテナンスホール10が設けられている。メンテナンスホール10は、メンテナンスホールカバー10aにより覆われている。フランシス水車1のメンテナンス時には、メンテナンスホールカバー10aが取り外され、作業者がメンテナンスホール10からケーシング2の内部に侵入することができるようになっている。
【0014】
ステーベーン3は、ケーシング2の下流側に設けられている。ステーベーン3は、ケーシング2に流入した水をガイドベーン4に導くように構成されている。ステーベーン3は、周方向に所定の間隔をあけて配置されている。ステーベーン3の間には、水が流れる流路が形成されている。
【0015】
ガイドベーン4は、ステーベーン3の下流側に設けられている。ガイドベーン4は、ステーベーン3から流入した水をランナ5に導くように構成されている。ガイドベーン4は、周方向に所定の間隔をあけて配置されている。ガイドベーン4の間には、水が流れる流路が形成されている。各ガイドベーン4は回動可能に構成されており、各ガイドベーン4が回動して開度を変更することにより、ランナ5に導く水の流量が調整可能になっている。このようにして、後述する発電機6の発電量が調整可能になっている。
【0016】
ランナ5は、ガイドベーン4の下流側に設けられている。ランナ5は、ケーシング2に対して回転軸線Xを中心に回転可能に構成され、ガイドベーン4から流入する水によって回転駆動される。ランナ5は、主軸11(回転軸)に連結されたクラウン12と、クラウン12の外周側に設けられたバンド13と、クラウン12とバンド13との間に設けられた複数のランナ羽根14と、を有している。ランナ羽根14は、周方向に所定の間隔をあけて配置されている。各ランナ羽根14は、クラウン12とバンド13とにそれぞれ接合されている。各ランナ羽根14の間には、水が流れる流路が形成されている。各流路をガイドベーン4からの水が流れ、各ランナ羽根14が当該水から圧力を受けてランナ5が回転駆動される。これにより、ランナ5に流入する水の圧力エネルギーが回転エネルギーへと変換される。
【0017】
図2に示すように、ランナ5の上方には、上カバー15が設けられている。すなわち、ランナ5の上部は、上カバー15により覆われている。上カバー15は、ガイドベーン4の上方からクラウン12の上方までに渡って延在している。
【0018】
また、
図2に示すように、ランナ5の下方には、下カバー16が設けられている。すなわち、ランナ5の下部は、下カバー16により覆われている。下カバー16は、ガイドベーン4の下方からバンド13の下方までに渡って延在している。
【0019】
発電機6は、主軸11を介してランナ5に連結されている。発電機6は、水車運転時には、ランナ5の回転エネルギーが伝達されて発電を行うように構成されている。なお、発電機6は、電動機としての機能をも有し、電力が供給されることによりランナ5を回転駆動するように構成されていてもよい。この場合、後述するドラフト管7を介して下池の水を吸い上げて上池に放出させることができ、フランシス水車1を、ポンプ水車としてポンプ運転(揚水運転)することが可能になる。この際、ガイドベーン4の開度は、ポンプ揚程に応じて適切な揚水量になるように変更される。
【0020】
ドラフト管7は、ランナ5の下流側に設けられている。ドラフト管7は、不図示の下池または放水路に連結されており、ランナ5を回転駆動させた水が、圧力を回復して、下池または放水路に放出されるようになっている。
【0021】
図1および
図2に示すように、ドラフト管7の壁面には、メンテナンスホール20が設けられている。
図2に示すように、メンテナンスホール20は、ランナ5のランナ羽根出口端部14aの近傍であって、下カバー16の下方に設けられている。メンテナンスホール20は、ドラフト管7の内部からメンテナンス通路22に繋がっている。メンテナンスホール20は、メンテナンスホールカバー21により覆われている。フランシス水車1のメンテナンス時には、メンテナンスホールカバー21が取り外され、作業者がメンテナンス通路22を通ってドラフト管7の内部に侵入することができるようになっている。
【0022】
このような構成からなるフランシス水車1において水車運転を行う場合、上池から水圧鉄管、ケーシング2およびステーベーン3を通って水がガイドベーン4に流入し、ガイドベーン4からランナ5に水が流入する。このランナ5に流入した水によって、ランナ5が回転駆動される。回転駆動されるランナ5は、連結された主軸11を介して発電機6に回転エネルギーを伝達し、発電機6による発電が行われる。ランナ5に流入した水は、ランナ5を通過した後、ドラフト管7に流出し、ドラフト管7を通って下池に放出される。
【0023】
ここで、水がランナ5から流出する際、ランナ羽根14のランナ羽根出口端部14aの下流側にカルマン渦が発生し得る。このカルマン渦は、ドラフト管7内に圧力脈動を生じさせて、大きな振動および騒音を発生させると共に、ランナ羽根付根部14bに集中した応力を発生させ得る。この応力により、ランナ羽根14がランナ羽根付根部14bで破損するおそれがある。このようなランナ羽根14の破損を回避するためには、フランシス水車1の水車運転時にランナ羽根付根部14bに生じる応力Sbを把握することが重要になる。
【0024】
次に、本発明の第1の実施の形態としての機械構造物の応力推定方法について説明する。本実施の形態による機械構造物の応力推定方法は、機械構造物の運転時に機械構造物の評価対象位置に生じる応力を推定する方法である。以下、本実施の形態による機械構造物の応力推定方法を用いて、フランシス水車1の水車運転時にランナ羽根付根部14bに生じる応力を推定する方法について説明する。
【0025】
本実施の形態による機械構造物の応力推定方法は、評価対象周波数frを特定する特定工程と、加振時の応力Saと音圧Laとの関係を算出する算出工程と、運転時の音圧Lbを検出する検出工程と、運転時の応力Sbを推定する推定工程と、を備えている。以下、各工程について説明する。
【0026】
まず、特定工程が行われる。この特定工程においては、評価対象周波数frが特定される。特定工程は、評価対象とする振動現象を選定する工程と、評価対象周波数frを特定する工程と、を含んでいる。評価対象とする振動現象を選定する工程においては、例えば、上述したランナ羽根出口端部14aの下流側に発生するカルマン渦に起因した振動現象を評価対象として選定することができる。評価対象周波数frを特定する工程においては、当該評価対象として選定した振動現象の主要な周波数振動を評価対象周波数frとして特定する。例えば、評価対象として上述したカルマン渦に起因した振動現象が選定された場合、カルマン渦の主要な周波数振動は、水車の流量等の運転条件から算出することができる。ここで、評価対象周波数frは、特定の一の周波数であってもよいが、一定の範囲幅を有する周波数帯であってもよい。
【0027】
続いて、算出工程が行われる。この算出工程においては、機械構造物の加振位置P1の加振時に評価対象位置P2に生じる応力Saと検出位置P3に生じる音圧Laとの関係が算出される。より具体的には、上述した評価対象周波数frで加振位置P1を加振した際に評価対象位置P2に生じる応力Saに対する検出位置P3に生じる音圧Laの比率が算出される。すなわち、評価対象周波数frにおける評価対象位置P2と検出位置P3との間の応力-音圧の伝達関数Hが算出される。この伝達関数Hは、下記式(1)により表すことができる。
【数1】
【0028】
加振位置P1、評価対象位置P2および検出位置P3は、それぞれ任意の位置に設けることができる。評価対象位置P2は、加振位置P1とは異なる位置に設けられてもよいし、加振位置P1と同じ位置に設けられてもよい。検出位置P3は、加振位置P1および評価対象位置P2とは異なる位置に設けられる。例えば、上述したカルマン渦に起因した振動現象を評価対象とした場合、カルマン渦はランナ羽根出口端部14a付近(ランナ羽根出口端部14aの下流側)に発生するため、
図2に示すように、加振位置P1は、ランナ羽根出口端部14aに設けることができる。
図2に示す例においては、加振位置P1は、ランナ羽根出口端部14aの中央部に設けられている。また、
図2に示すように、評価対象位置P2は、カルマン渦に起因した応力が集中するランナ羽根付根部14bに設けることができる。
図2に示す例においては、評価対象位置P2は、バンド13側のランナ羽根付根部14bに設けられている。また、
図2に示すように、検出位置P3は、カルマン渦に起因してドラフト管7内に発生する圧力脈動による音圧Laを検出することができるよう、メンテナンス通路22内に設けることができる。こうして、カルマン渦に起因した振動現象を模してランナ羽根出口端部14aに設けられた加振位置P1を加振した際にランナ羽根付根部14bに設けられた評価対象位置P2に生じる応力Saとメンテナンス通路22内に設けられた検出位置P3に生じる音圧Laとの関係を算出することができる。
【0029】
応力Saと音圧Laとの関係(伝達関数H)は、コンピュータシミュレーションにより算出されてもよい。すなわち、上述したフランシス水車1と同様の構造を有する計算モデルを用いて周波数応答解析を行うことにより、評価対象周波数frで加振位置P1を加振した際の評価対象位置P2に生じる応力Saを算出してもよく、また、音響解析を組み合わせることで、検出位置P3に生じる音圧Laを算出してもよい。ここで、周波数応答解析においては、フランシス水車1の水車運転時を模して、内部が水で満たされた計算モデルを用いてもよい。そして、このようにして算出した応力Saおよび音圧Laを、上記式(1)に代入することで、応力Saと音圧Laとの関係(伝達関数H)を算出してもよい。
【0030】
次に、検出工程が行われる。この検出工程においては、機械構造物の運転時に検出位置P3に生じる音圧Lbが検出される。音圧Lbは、マイクロフォン等の音圧センサ30により検出されてもよい。すなわち、
図2に示すように、音圧センサ30がメンテナンス通路22内に設けられた検出位置P3に設置されて、音圧センサ30によりフランシス水車1の水車運転時の音圧Lbが検出されてもよい。上述したように、カルマン渦が発生した場合、ドラフト管7内に圧力脈動が生じ、大きな騒音が発生し得る。音圧センサ30は、この騒音の音圧Lbを検出することができる。より具体的には、上述した評価対象周波数frにおける音圧Lbを検出する。例えば、音圧センサ30により広帯域(例えば0~20kHz)で騒音測定を行った後、その測定データにFFT解析を行い、それにより得られた周波数スペクトルから特定周波数frにおける音圧Lbを抽出することで、音圧Lbを得てもよい。音圧センサ30は、評価対象周波数frにおける音圧の検出に適したセンサであってもよい。すなわち、評価対象周波数frにおいて高い感度を有するような音圧センサ30が用いられてもよい。
【0031】
その後、推定工程が行われる。この推定工程においては、算出工程において算出された応力Saと音圧Laとの関係と、検出工程において検出された音圧Lbとに基づいて、機械構造物の運転時に評価対象位置P2に生じる応力Sbが推定される。より具体的には、上述した評価対象周波数frにおける応力Sbが推定される。上述したように、機械構造物の加振位置P1が加振された際に評価対象位置P2に生じる応力Saと検出位置P3に生じる音圧Laとの関係(伝達関数H)は、上記式(1)により表すことができる。一方、機械構造物の加振位置P1で振動が発生した際に評価対象位置P2に生じる応力Sbと検出位置P3に生じる音圧Lbとの間にも同様の関係が成立する。このため、評価対象位置P2に生じる応力Sbは、下記式(2)により表すことができる。
【数2】
【0032】
上記式(2)に、算出工程において上記式(1)により算出された伝達関数Hと、検出工程において検出された音圧Lbとを代入することで、評価対象位置P2に生じる応力Sbを算出することができる。
【0033】
このようにして、本実施の形態による機械構造物の応力推定方法を用いて、カルマン渦に起因した振動現象によりフランシス水車1の水車運転時にランナ羽根付根部14bに生じる応力Sbを推定することができる。
【0034】
このように本実施の形態によれば、機械構造物の加振時に評価対象位置P2に生じる応力Saと検出位置P3に生じる音圧Laとの関係と、機械構造物の運転時に検出位置P3に生じる音圧Lbとに基づいて、機械構造物の運転時に評価対象位置P2に生じる応力Sbを推定することができる。このように、機械構造物の加振時に評価対象位置P2に生じる応力Saと検出位置P3に生じる音圧Laとの関係を予め算出しておくことにより、機械構造物の運転時に検出位置P3に生じる音圧Lbから、機械構造物の運転時に評価対象位置P2に生じる応力Sbを推定することができる。このため、機械構造物の運転を停止することなく、機械構造物の運転時の機械構造物の評価対象位置P2の状態を把握することができる。
【0035】
また、本実施の形態によれば、機械構造物の加振時に評価対象位置P2に生じる応力Saと検出位置P3に生じる音圧Laとの関係は、コンピュータシミュレーションにより算出される。このようにコンピュータシミュレーションを用いることにより、応力Saと音圧Laとの関係を、実験を行うことなく容易に算出することができる。また、コンピュータシミュレーションにおいて、水車構造物のように内部が水で満たされた計算モデルを用いて、応力Saと音圧Laとの関係を算出することができる。このため、応力Saと音圧Laとの関係を運転時の状態に近い状態で算出することができ、応力Sbの推定精度を向上させることができる。
【0036】
また、本実施の形態によれば、機械構造物は、流体から圧力を受けて回転するランナ5を備え、評価対象位置P2は、ランナ5に設けられる。このように評価対象位置P2が、運転時に流体から圧力を受けて回転する回転機器に設けられる場合、この評価対象位置P2に歪みゲージ等の応力センサを貼り付けることは困難である。また、仮に応力センサを貼り付けるとしても、応力センサを貼り付けるために、機械構造物の運転を停止しなければならず、運転停止による機会損失が生じるおそれがある。これに対して本実施の形態によれば、このような回転機器に評価対象位置P2が設けられる場合であっても、機械構造物の運転時に評価対象位置P2に生じる応力Sbを推定することができる。このため、機械構造物の運転を停止することなく、機械構造物の運転時の機械構造物の評価対象位置P2の状態を把握することができる。
【0037】
また、本実施の形態によれば、機械構造物は、水車構造物である。このように機械構造物が水車構造物である場合、水車構造物の運転時に水車構造物の内部に応力センサを貼り付けることは困難である。また、仮に応力センサを貼り付けるとしても、水車構造物の内部に応力センサを貼り付けるために、水車構造物の運転を停止しなければならない。この場合、水車構造物内から水を抜き出してから、応力センサの貼り付け作業を行うこともあり、水車構造物の運転停止期間が長期化するとともに、水車構造物の保守点検作業も増大し、水車構造物の運転停止による機会損失が生じ得る。これに対して本実施の形態によれば、水車構造物の運転時に水車構造物の任意の評価対象位置P2に生じる応力Sbを推定することができる。このため、機械構造物の運転を停止することなく、機械構造物の運転時の機械構造物の評価対象位置P2の状態を把握することができる。
【0038】
(第1の実施の形態の第1変形例)
上述した実施の形態においては、機械構造物の加振時に評価対象位置P2に生じる応力Saと検出位置P3に生じる音圧Laとの関係と、機械構造物の運転時に検出位置P3に生じる音圧Lbとに基づいて、機械構造物の運転時に評価対象位置P2に生じる応力Sbを推定する例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、機械構造物の加振時に評価対象位置P2に生じる応力Saと検出位置P3に生じる振動Vaとの関係と、機械構造物の運転時に検出位置P3に生じる振動Vbとに基づいて、機械構造物の運転時に評価対象位置P2に生じる応力Sbを推定するようにしてもよい。
【0039】
この場合、算出工程において、機械構造物の加振位置P1の加振時に評価対象位置P2に生じる応力Saと検出位置P3に生じる振動Vaとの関係が算出される。より具体的には、上述した評価対象周波数frで加振位置P1を加振した際に評価対象位置P2に生じる応力Saに対する検出位置P3に生じる振動Vaの比率が算出される。すなわち、評価対象周波数frにおける評価対象位置P2と検出位置P3との間の応力-振動の伝達関数Hが算出される。この伝達関数Hは、下記式(3)により表すことができる。
【数3】
【0040】
ここで、検出位置P3は、機械構造物の運転時に生じる振動を検出することができれば、機械構造物の任意の位置に設けることができる。例えば、
図3に示すように、検出位置P3が、メンテナンスホールカバー21に設けられてもよい。
【0041】
応力Saと振動Vaとの関係(伝達関数H)は、コンピュータシミュレーションにより算出されてもよい。すなわち、上述したフランシス水車1と同様の構造を有する計算モデルを用いて周波数応答解析を行うことにより、評価対象周波数frで加振位置P1を加振した際の評価対象位置P2に生じる応力Saおよび検出位置P3に生じる振動Vaを算出してもよい。ここで、周波数応答解析において、フランシス水車1の水車運転時を模して、内部が水で満たされた計算モデルを用いてもよい。そして、このようにして算出した応力Saおよび振動Vaを、上記式(3)に代入することで、応力Saと振動Vaとの関係(伝達関数H)を算出してもよい。
【0042】
また、検出工程において、機械構造物の運転時に検出位置P3に生じる振動Vbが検出される。振動Vbは、加速度センサ等の振動センサ32により検出されてもよい。すなわち、
図3に示すように、振動センサ32がメンテナンスホールカバー21に設けられた検出位置P3に設置されて、振動センサ32によりフランシス水車1の水車運転時の振動Vbが検出されてもよい。上述したように、カルマン渦が発生した場合、ドラフト管7内に圧力脈動が生じ、大きな振動が発生し得る。振動センサ32は、この振動Vbを検出することができる。より具体的には、上述した評価対象周波数frにおける振動Vbを検出する。例えば、振動センサ32により広帯域(例えば0~20kHz)で振動測定を行った後、その測定データにFFT解析を行い、それにより得られた周波数スペクトルから特定周波数frにおける振動Vbを抽出することで、振動Vbを得てもよい。振動センサ32は、評価対象周波数frにおける振動の検出に適したセンサであってもよい。すなわち、評価対象周波数frにおいて高い感度を有するような振動センサ32が用いられてもよい。
【0043】
また、推定工程において、算出工程において算出された応力Saと振動Vaとの関係と、検出工程において検出された振動Vbとに基づいて、機械構造物の運転時に評価対象位置P2に生じる応力Sbが推定される。より具体的には、上述した評価対象周波数frにおける応力Sbが推定される。上述したように、機械構造物の加振位置P1が加振された際に評価対象位置P2に生じる応力Saと検出位置P3に生じる振動Vaとの関係(伝達関数H)は、上記式(3)により表すことができる。一方、機械構造物の加振位置P1で振動が発生した際に評価対象位置P2に生じる応力Sbと検出位置P3に生じる振動Vbとの間にも同様の関係が成立する。このため、評価対象位置P2に生じる応力Sbは、下記式(4)により表すことができる。
【数4】
【0044】
上記式(4)に、算出工程において上記式(3)により算出された伝達関数Hと、検出工程において検出された振動Vbとを代入することで、評価対象位置P2に生じる応力Sbを算出することができる。
【0045】
このようにして、本変形例による機械構造物の応力推定方法を用いて、カルマン渦に起因した振動現象によりフランシス水車1の水車運転時にランナ羽根付根部14bに生じる応力Sbを推定することができる。
【0046】
このように本変形例によれば、機械構造物の加振時に評価対象位置P2に生じる応力Saと検出位置P3に生じる振動Vaとの関係と、機械構造物の運転時に検出位置P3に生じる振動Vbとに基づいて、機械構造物の運転時に評価対象位置P2に生じる応力Sbを推定することができる。このように、機械構造物の加振時に評価対象位置P2に生じる応力Saと検出位置P3に生じる音圧Laまたは振動Vaを含む物理量との関係と、機械構造物の運転時に検出位置P3に生じる当該物理量とに基づいて、機械構造物の運転時に評価対象位置P2に生じる応力Sbを推定することができる。
【0047】
また、本変形例によれば、音圧が空気中を伝播する部分についての音響解析を行うことにより生じる計算誤差を排除することができ、応力Sbの推定精度を向上させることができる。
【0048】
(第1の実施の形態の第2変形例)
上述した実施の形態においては、応力Saと音圧Laとの関係が、コンピュータシミュレーションにより算出される例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、応力Saと音圧Laとの関係は、加振実験により算出されてもよい。
【0049】
この場合、算出工程において、例えば、フランシス水車1の停止時に、作業者が、ケーシング2に設けられたメンテナンスホール10またはドラフト管7に設けられたメンテナンスホール20からフランシス水車1の内部に侵入し、ランナ羽根付根部14bに設けられた評価対象位置P2に歪みゲージ等の応力センサを貼り付けて、ランナ羽根出口端部14aに設けられた加振位置P1をハンマやシェーカーにより加振することで、評価対象位置P2に生じる応力Saおよび検出位置P3に生じる音圧Laを得てもよい。そして、このようにして得られた応力Saおよび音圧Laを、上記式(1)に代入することで、応力Saと音圧Laとの関係(伝達関数H)を算出してもよい。
【0050】
コンピュータシミュレーションに代えて、このような加振実験によっても、応力Saと音圧Laとの関係を算出することができる。
【0051】
本変形例によれば、応力Saと音圧Laとの関係を、コンピュータシミュレーションを行うことなく算出することができる。また、コンピュータシミュレーションにより生じる計算誤差を排除することができ、応力Sbの推定精度を向上させることができる。
【0052】
(第1の実施の形態の第3変形例)
また、上述した実施の形態において、応力Saと音圧Laとの関係は、コンピュータシミュレーションおよび加振実験の組み合わせにより算出されてもよい。
【0053】
この場合、算出工程において、例えば、
図4に示すように、ランナ羽根出口端部14aに設けられた加振位置P1を加振した際にランナ羽根付根部14bに設けられた評価対象位置P2に生じる応力Saとメンテナンスホールカバー21に設けられた中継位置P4に生じる応力Smとをコンピュータシミュレーションにより算出する。これにより、評価対象位置P2と中継位置P4との間の伝達関数H1を得ることができる。また、当該中継位置P4を加振した際にメンテナンス通路22内に設けられた検出位置P3に生じる音圧Lmを加振実験により求める。これにより、中継位置P4と検出位置P3との間の伝達関数H2を得ることができる。これらのコンピュータシミュレーションにより得られた伝達関数H1と、加振実験により得られた伝達関数H2とを掛け合わせることにより、評価対象位置P2と検出位置P3との間の伝達関数Hを得ることができる。
【0054】
このようにコンピュータシミュレーションおよび加振実験の組み合わせによって、応力Saと音圧Laとの関係を算出することができる。
【0055】
本変形例によれば、水車構造物のうち内部が水で満たされている部分については、コンピュータシミュレーションを行うことで計算精度を向上させることができ、音圧が空気中を伝播する部分については、加振実験を行うことで計算誤差を排除することができる。このため、応力Sbの推定精度をより一層向上させることができる。
【0056】
(第1の実施の形態のその他の変形例)
上述した実施の形態においては、評価対象位置P2が、ランナ5に設けられる例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、評価対象位置P2は、任意の位置に設けられてもよい。例えば、評価対象位置P2は、ステーベーン3やガイドベーン4に設けられてもよい。この場合、フランシス水車1の水車運転時にステーベーン3やガイドベーン4に生じる応力を算出することができる。また、加振位置P1も、ランナ5以外の位置に設けられてもよい。この場合、カルマン渦に起因した振動現象以外の振動現象を評価対象にすることができる。また、検出位置P3も、当該振動現象に起因した音圧や振動を検出することができれば、その他の任意の位置に設けられてもよい。
【0057】
また、上述した実施の形態においては、機械構造物が、水車構造物である例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、機械構造物は、蒸気タービンやガスタービンのようなタービン構造物であってもよい。この場合、タービン構造物の回転機器に、加振位置P1や評価対象位置P2が設けられてもよい。更には、機械構造物は、水車構造物やタービン構造物に限られることはなく、その他の任意の機械構造物であってもよい。
【0058】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態としての機械構造物の監視方法について説明する。
【0059】
第2の実施の形態においては、機械構造物の監視方法が、算出工程において算出された関係と、設定された評価対象位置の許容応力とに基づいて、機械構造物の運転時の音圧の報知閾値を決定する決定工程と、検出工程において検出された音圧が報知閾値を超えたことを報知する報知工程と、を備える点が主に異なり、他の構成は、
図1~
図4に示す第1の実施の形態と略同一である。なお、第2の実施の形態において、
図1~
図4に示す第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0060】
本実施の形態による機械構造物の監視方法は、機械構造物の運転時に機械構造物の評価対象位置の状態を監視する方法である。以下、本実施の形態による機械構造物の監視方法を用いて、フランシス水車1の水車運転時にランナ羽根付根部14bの状態を監視する方法について説明する。
【0061】
本実施の形態による機械構造物の監視方法は、評価対象周波数frを特定する特定工程と、加振時の応力Saと音圧Laとの関係を算出する算出工程と、運転時の音圧の報知閾値Ltを決定する決定工程と、運転時の音圧Lbを検出する検出工程と、運転時の音圧Lbが報知閾値Ltを超えたことを報知する報知工程と、を備えている。以下、各工程について説明する。
【0062】
まず、特定工程が行われる。この特定工程においては、評価対象周波数frが特定される。ここでも、上述した第1の実施の形態と同様に、ランナ羽根出口端部14aの下流側に発生するカルマン渦に起因した振動現象の主要な周波数振動を、評価対象周波数frとして特定することができる。
【0063】
続いて、算出工程が行われる。この算出工程においては、機械構造物の加振位置P1の加振時に評価対象位置P2に生じる応力Saと検出位置P3に生じる音圧Laとの関係が算出される。ここでも、上述した第1の実施の形態と同様に、上記式(1)により、評価対象周波数frにおける評価対象位置P2と検出位置P3との間の応力-音圧の伝達関数Hを算出することができる。また、上述した第1の実施の形態と同様に、加振位置P1は、ランナ羽根出口端部14aに設けることができ、評価対象位置P2は、ランナ羽根付根部14bに設けることができ、検出位置P3は、メンテナンス通路22内に設けることができる(
図2参照)。また、上述した第1の実施の形態と同様に、応力Saと音圧Laとの関係(伝達関数H)は、コンピュータシミュレーションにより算出することができる。
【0064】
次に、決定工程が行われる。この決定工程においては、算出工程において算出された関係と、設定された評価対象位置P2の許容応力Scとに基づいて、機械構造物の運転時の音圧の報知閾値Ltが決定される。より具体的には、上述した評価対象周波数frにおける評価対象位置P2の許容応力Scが設定され、評価対象周波数frにおける音圧の報知閾値Ltが決定される。ここで、許容応力Scとは、機械構造物の評価対象位置P2に生じることが許容される最大許容応力を意味する。評価対象位置P2がランナ羽根付根部14bに設けられる場合、許容応力Scは、ランナ羽根付根部14bに生じることが許容される最大許容応力であり、ランナ羽根14の種類や材料により定まる設計値である。フランシス水車1では、ランナ羽根14の破損を回避するため、ランナ羽根付根部14bに生じる応力がこの許容応力Scを超えないように運転することが求められる。音圧の報知閾値Ltは、下記式(5)により表すことができる。
【数5】
【0065】
上記式(5)に、算出工程において上記式(1)により算出された伝達関数Hと、評価対象位置P2の許容応力Scとを代入することで、音圧の報知閾値Ltを算出することができる。この報知閾値Ltは、評価対象位置P2に許容応力Scと等しい応力が生じた場合に検出位置P3に生じる音圧に相当し、検出位置P3においてこの報知閾値Ltを超える音圧が検出された場合、評価対象位置P2に許容応力Scを超える応力が生じていることを意味する。
【0066】
その後、検出工程が行われる。この検出工程においては、機械構造物の運転時に検出位置P3に生じる音圧Lbが検出される。ここでも、上述した第1の実施の形態と同様に、音圧センサ30をメンテナンス通路22内に設けられた検出位置P3に設置して、音圧センサ30によりフランシス水車1の水車運転時の音圧Lbを検出することができる(
図2参照)。より具体的には、上述した評価対象周波数frにおける音圧Lbを検出する。
【0067】
そして、報知工程が行われる。この報知工程においては、検出工程において検出された音圧Lbが報知閾値Ltを超えたことが報知される。報知工程は、検出工程と同時に行われてもよい。より具体的には、検出工程において音圧Lbを検出している間に、その検出した音圧Lbが報知閾値Ltを超えた場合に、報知工程が行われてもよい。ここでは、上述した評価対象周波数frにおいて音圧Lbと報知閾値Ltとが比較され、音圧Lbが報知閾値Ltを超えた場合に、その旨が報知される。報知は、様々な態様により行われ得る。例えば、表示装置に警告を表示する、警報を鳴らす等の方法により報知することができる。この報知により、機械構造物の運転時に、評価対象位置P2に許容応力Scを超える応力Sbが生じていると推定することができる。このため、作業者は、機械構造物の運転を停止する、運転条件を変更する等の対応をとることが可能になる。
【0068】
このように本実施の形態によれば、機械構造物の加振時に評価対象位置P2に生じる応力Saと検出位置P3に生じる音圧Laとの関係と、設定された評価対象位置P2の許容応力Scとに基づいて、機械構造物の運転時の音圧の報知閾値Ltを決定することができる。このことにより、機械構造物の運転時に検出位置P3に生じる音圧Laが報知閾値Ltを超えたことが報知され、機械構造物の運転時に評価対象位置P2に許容応力Scを超える応力が生じていると推定することができる。このため、機械構造物の運転を停止することなく、機械構造物の運転時に機械構造物の評価対象位置P2の状態を把握することができる。この結果、作業者は、機械構造物の運転を停止する、運転条件を変更する等の対応をとることが可能になり、機械構造物の評価対象位置での破損を回避することができる。
【0069】
また、本実施の形態によれば、機械構造物の加振時に評価対象位置P2に生じる応力Saと検出位置P3に生じる音圧Laとの関係は、コンピュータシミュレーションにより算出される。このようにコンピュータシミュレーションを用いることにより、応力Saと音圧Laとの関係を、実験を行うことなく容易に算出することができる。また、コンピュータシミュレーションにおいて、水車構造物のように内部が水で満たされた計算モデルを用いて、応力Saと音圧Laとの関係を算出することができる。このため、応力Saと音圧Laとの関係を運転時の状態に近い状態で算出することができ、応力Sbの推定精度を向上させることができる。
【0070】
また、本実施の形態によれば、機械構造物は、流体から圧力を受けて回転するランナ5を備え、評価対象位置P2は、ランナ5に設けられる。このように評価対象位置P2が、運転時に流体から圧力を受けて回転する回転機器に設けられる場合、この評価対象位置P2に歪みゲージ等の応力センサを貼り付けることは困難である。また、仮に応力センサを貼り付けるとしても、応力センサを貼り付けるために、機械構造物の運転を停止しなければならず、運転停止による機会損失が生じるおそれがある。これに対して本実施の形態によれば、このような回転機器に評価対象位置P2が設けられる場合であっても、機械構造物の運転時に評価対象位置P2に許容応力Scを超える応力が生じていることを把握することができる。このため、機械構造物の運転を停止することなく、機械構造物の運転時の機械構造物の評価対象位置P2の状態を把握することができる。
【0071】
また、本実施の形態によれば、機械構造物は、水車構造物である。このように機械構造物が水車構造物である場合、水車構造物の運転時に水車構造物の内部に応力センサを貼り付けることは困難である。また、仮に応力センサを貼り付けるとしても、水車構造物の内部に応力センサを貼り付けるために、水車構造物の運転を停止しなければならない。この場合、水車構造物内から水を抜き出してから、応力センサの貼り付け作業を行うこともあり、水車構造物の運転停止期間が長期化するとともに、水車構造物の保守点検作業も増大し、水車構造物の運転停止による機会損失が生じ得る。これに対して本実施の形態によれば、水車構造物の運転時に評価対象位置P2に許容応力Scを超える応力が生じていることを把握することができる。このため、機械構造物の運転を停止することなく、機械構造物の運転時の機械構造物の評価対象位置P2の状態を把握することができる。
【0072】
(第2の実施の形態の第1変形例)
上述した実施の形態においては、機械構造物の加振時に評価対象位置P2に生じる応力Saと検出位置P3に生じる音圧Laとの関係と、設定された評価対象位置P2の許容応力Scとに基づいて、機械構造物の運転時の音圧の報知閾値Ltを決定する例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、機械構造物の加振時に評価対象位置P2に生じる応力Saと検出位置P3に生じる振動Vaとの関係と、設定された評価対象位置P2の許容応力Scとに基づいて、機械構造物の運転時の振動の報知閾値Vtを決定するようにしてもよい。
【0073】
この場合、算出工程において、機械構造物の加振位置P1の加振時に評価対象位置P2に生じる応力Saと検出位置P3に生じる振動Vaとの関係が算出される。ここでも、上述した第1の実施の形態の第1変形例と同様に、上記式(3)により、評価対象周波数frにおける評価対象位置P2と検出位置P3との間の応力-振動の伝達関数Hを算出することができる。また、上述した第1の実施の形態の第1変形例と同様に、検出位置P3を、メンテナンスホールカバー21に設けることができる(
図3参照)。また、上述した第1の実施の形態の第1変形例と同様に、応力Saと振動Vaとの関係(伝達関数H)を、コンピュータシミュレーションにより算出することができる。
【0074】
また、決定工程において、算出工程において算出された関係と、設定された評価対象位置P2の許容応力Scとに基づいて、機械構造物の運転時の振動の報知閾値Vtが決定される。より具体的には、上述した評価対象周波数frにおける評価対象位置P2の許容応力Scが設定され、評価対象周波数frにおける振動の報知閾値Vtが決定される。振動の報知閾値Vtは、下記式(6)により表すことができる。
【数6】
【0075】
上記式(6)に、算出工程において上記式(3)により算出された伝達関数Hと、評価対象位置P2の許容応力Scとを代入することで、振動の報知閾値Vtを算出することができる。この報知閾値Vtは、評価対象位置P2に許容応力Scと等しい応力が生じた場合に検出位置P3に生じる振動に相当し、検出位置P3においてこの報知閾値Ltを超える振動が検出された場合、評価対象位置P2に許容応力Scを超える応力が生じていることを意味する。
【0076】
また、検出工程において、機械構造物の運転時に検出位置P3に生じる振動Vbが検出される。ここでも、上述した第1の実施の形態の第1変形例と同様に、振動センサ32をメンテナンスホールカバー21に設けられた検出位置P3に設置して、振動センサ32によりフランシス水車1の水車運転時の振動Vbを検出することができる(
図3参照)。より具体的には、上述した評価対象周波数frにおける振動Vbを検出する。
【0077】
また、報知工程において、検出工程において検出された振動Vbが報知閾値Vtを超えたことが報知される。報知工程は、検出工程と同時に行われてもよい。より具体的には、検出工程において振動Vbを検出している間に、その検出した振動Vbが報知閾値Vtを超えた場合に、報知工程が行われてもよい。ここでは、上述した評価対象周波数frにおいて振動Vbと報知閾値Vtとが比較され、振動Vbが報知閾値Vtを超えた場合に、その旨が報知される。この報知により、機械構造物の運転時に、評価対象位置P2に許容応力Scを超える応力Sbが生じていると推定することができる。
【0078】
このように本変形例によれば、機械構造物の加振時に評価対象位置P2に生じる応力Saと検出位置P3に生じる振動Vaとの関係と、設定された評価対象位置P2の許容応力Scとに基づいて、機械構造物の運転時の振動の報知閾値Vtを決定することができる。このことにより、機械構造物の運転時に検出位置P3に生じる振動Vbが報知閾値Vtを超えたことが報知され、機械構造物の運転時に評価対象位置P2に許容応力Scを超える応力が生じていると推定することができる。このため、機械構造物の運転を停止することなく、機械構造物の運転時に機械構造物の評価対象位置P2の状態を把握することができる。このように、機械構造物の加振時に評価対象位置P2に生じる音圧Laまたは振動Vaを含む物理量との関係と、設定された評価対象位置P2の許容応力Scとに基づいて、機械構造物の運転時の当該物理量の報知閾値Lt、Vtを決定することができる。
【0079】
また、本変形例によれば、音圧が空気中を伝播する部分についての音響解析を行うことにより生じる計算誤差を排除することができ、応力Sbの推定精度を向上させることができる。
【0080】
(第2の実施の形態の第2変形例)
上述した実施の形態においては、応力Saと音圧Laとの関係が、コンピュータシミュレーションにより算出される例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、上述した第1の実施の形態の第2変形例と同様に、応力Saと音圧Laとの関係は、加振実験により算出されてもよい。
【0081】
本変形例によれば、応力Saと音圧Laとの関係を、コンピュータシミュレーションを行うことなく算出することができる。また、コンピュータシミュレーションにより生じる計算誤差を排除することができ、応力Sbの推定精度を向上させることができる。
【0082】
(第2の実施の形態の第3変形例)
また、上述した実施の形態において、上述した第1の実施の形態の第3変形例と同様に、応力Saと音圧Laとの関係は、コンピュータシミュレーションおよび加振実験の組み合わせにより算出されてもよい。
【0083】
本変形例によれば、水車構造物のうち内部が水で満たされている部分については、コンピュータシミュレーションを行うことで計算精度を向上させることができ、音圧が空気中を伝播する部分については、加振実験を行うことで計算誤差を排除することができる。このため、応力Sbの推定精度をより一層向上させることができる。
【0084】
(第2の実施の形態のその他の変形例)
上述した実施の形態においては、評価対象位置P2が、ランナ5に設けられる例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、評価対象位置P2は、任意の位置に設けられてもよい。例えば、評価対象位置P2は、ステーベーン3やガイドベーン4に設けられてもよい。この場合、フランシス水車1の水車運転時にステーベーン3やガイドベーン4の状態を監視することができる。また、加振位置P1も、ランナ5以外の位置に設けられてもよい。この場合、カルマン渦に起因した振動現象以外の振動現象を評価対象にすることができる。また、検出位置P3も、当該振動現象に起因した音圧や振動を検出することができれば、その他の任意の位置に設けられてもよい。
【0085】
また、上述した実施の形態においては、機械構造物が、水車構造物である例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、機械構造物は、蒸気タービンやガスタービンのようなタービン構造物であってもよい。この場合、タービン構造物の回転機器に、加振位置P1や評価対象位置P2を設けられてもよい。更には、機械構造物は、水車構造物やタービン構造物に限られることはなく、その他の任意の機械構造物であってもよい。
【0086】
以上述べた実施の形態によれば、機械構造物の運転を停止することなく、機械構造物の運転時の機械構造物の評価対象位置の状態を把握することができる。
【0087】
以上、本発明のいくつかの実施の形態を説明したが、これらの実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施の形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0088】
1:フランシス水車、5:ランナ、P2:評価対象位置、P3:検出位置