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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023043505
(43)【公開日】2023-03-29
(54)【発明の名称】エンジンの冷却装置
(51)【国際特許分類】
   F02F 11/00 20060101AFI20230322BHJP
   F01P 5/12 20060101ALI20230322BHJP
   F02F 7/00 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
F02F11/00 P
F01P5/12 B
F02F7/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021151175
(22)【出願日】2021-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】杉山 智則
(72)【発明者】
【氏名】池田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 直人
【テーマコード(参考)】
3G024
【Fターム(参考)】
3G024AA39
3G024AA49
3G024BA18
3G024EA01
3G024EA14
3G024FA08
3G024HA14
(57)【要約】
【課題】分割構造のクランクケースにウォータポンプを設置する際に、簡易かつ安価な構成でシール性を向上させる。
【解決手段】エンジン(10)の冷却装置は、クランクケース(11)に設置される。エンジンの冷却装置には、クランクケースに向けて冷却水を吐出するウォータポンプ(41)と、ウォータポンプのポンプ本体の設置に用いられるガスケットと、が設けられている。クランクケースが第1のケース(21)及び第2のケース(22)を含む分割構造であり、第1のケースとポンプ本体の間、第2のケースとポンプ本体の間にガスケットが介在している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクケースに設置されるエンジンの冷却装置であって、
前記クランクケースに向けて冷却水を吐出するウォータポンプと、
前記ウォータポンプのポンプ本体の設置に用いられるガスケットと、を備え、
前記クランクケースが第1のケース及び第2のケースを含む分割構造であり、
前記第1のケースと前記ポンプ本体の間、前記第2のケースと前記ポンプ本体の間に前記ガスケットが介在していることを特徴とするエンジンの冷却装置。
【請求項2】
前記ウォータポンプの吐出部の設置に用いられるOリングを備え、
前記第1のケースと前記吐出部の間に前記Oリングが介在しており、
前記ポンプ本体の設置面に前記ガスケットが保持され、当該ポンプ本体の設置面が前記第1のケースに対する前記Oリングの接触面よりも引っ込められていることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの冷却装置。
【請求項3】
前記吐出部の設置面に前記Oリングが保持され、前記ポンプ本体の設置面が当該吐出部の設置面よりも引っ込められていることを特徴とする請求項2に記載のエンジンの冷却装置。
【請求項4】
非圧縮状態の前記ガスケットが前記吐出部の設置面よりも突き出していることを特徴とする請求項3に記載のエンジンの冷却装置。
【請求項5】
前記ポンプ本体及び前記吐出部には締付部が形成されており、
前記ウォータポンプには前記ポンプ本体と前記吐出部の間に凹部が形成されていることを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか1項に記載のエンジンの冷却装置。
【請求項6】
前記吐出部の締付部は、前記Oリングを挟んで前記凹部とは逆側の1箇所に形成されていることを特徴とする請求項5に記載のエンジンの冷却装置。
【請求項7】
前記ポンプ本体にはインペラシャフトが設けられ、
前記ポンプ本体の設置面から前記ガスケットを保持する凸部が突き出し、
前記ガスケットには、前記インペラシャフトを囲むように形成された環状部と、前記環状部の内側で前記凸部に引っ掛かる引掛部と、が形成されていることを特徴とする請求項2から請求項6のいずれか1項に記載のエンジンの冷却装置。
【請求項8】
前記凸部が前記インペラシャフトよりも前記吐出部から離間していることを特徴とする請求項7に記載のエンジンの冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にエンジンには、シリンダ内のウォータジャケットとシリンダ外のラジエータの間で冷却水を循環させる冷却装置が設けられている。エンジンの冷却装置として、クランクケースの側面にウォータポンプを設置したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のウォータポンプはクランクシャフトの前方に位置付けられ、複数のボルトによってクランクケースの側面にシール材を介してネジ止めされている。ラジエータに対してウォータポンプが近づけて設置されることで、冷却装置の冷却部品がクランクシャフトの前側でコンパクトにレイアウトされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-088949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のクランクケースは、アッパケース及びロアケースから成る上下割構造であり、ウォータポンプの上部がアッパケースの側面に設置され、ウォータポンプの下部がロアケースの側面に設置されている。このため、ウォータポンプの設置にシール材としてOリングが使用されると、アッパケース及びロアケースの合わせ面のエッジによってOリングが傷付けられてシール性が低下するおそれがあった。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、分割構造のクランクケースにウォータポンプを設置する際に、簡易かつ安価な構成でシール性を向上させることができるエンジンの冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様のエンジンの冷却装置は、クランクケースに設置されるエンジンの冷却装置であって、前記クランクケースに向けて冷却水を吐出するウォータポンプと、前記ウォータポンプのポンプ本体の設置に用いられるガスケットと、を備え、前記クランクケースが第1のケース及び第2のケースを含む分割構造であり、前記第1のケースと前記ポンプ本体の間、前記第2のケースと前記ポンプ本体の間に前記ガスケットが介在していることで上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様のエンジンの冷却装置によれば、クランクケースが第1、第2のケースを含む分割構造であり、第1、第2のケースにガスケットを介してウォータポンプのポンプ本体が設置される。ポンプ本体の設置にシール材として耐久性が高いガスケットが使用されるため、第1、第2のケースの合わせ面のエッジによってガスケットが破損することがない。よって、第1、第2のケースに亘ってウォータポンプが設置される構造でも、簡易かつ安価な構成でシール性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施例のエンジンの左側面図である。
図2】本実施例のエンジンの正面図である。
図3】本実施例のエンジンの冷却装置の模式図である。
図4】本実施例のウォータポンプの斜視図である。
図5】本実施例のウォータポンプの外側面図である。
図6】本実施例のウォータポンプの内側面図である。
図7】本実施例のクランクケースの前側部分の側面図である。
図8】比較例のシール状態及びガスケット接触面の面圧分布を示す図である。
図9】他の比較例のシール状態及びガスケット接触面の面圧分布を示す図である。
図10】本実施例のシール状態及びガスケット接触面の面圧分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一態様のエンジンの冷却装置はクランクケースに設置される。このエンジンの冷却装置は、ウォータポンプからクランクケースに向けて冷却水が吐出され、ウォータポンプのポンプ本体の設置にガスケットが用いられている。クランクケースが第1のケース及び第2のケースを含む分割構造であり、第1のケースとポンプ本体の間、第2のケースとポンプ本体の間にガスケットが介在している。ポンプ本体の設置にシール材として耐久性が高いガスケットが使用されるため、第1、第2のケースの合わせ面のエッジによってガスケットが破損することがない。よって、第1、第2のケースに亘ってウォータポンプが設置される構造でも、簡易かつ安価な構成でシール性を向上させることができる。
【実施例0010】
以下、添付図面を参照して、本実施例について詳細に説明する。図1は本実施例のエンジンの左側面図である。図2は本実施例のエンジンの正面図である。以下の図では、矢印FRは前方、矢印REは後方、矢印Lは左方、矢印Rは右方をそれぞれ示している。
【0011】
図1及び図2に示すように、エンジン10は、クランクシャフト38を収容したクランクケース11を備えている。クランクケース11の上部には、シリンダ12、シリンダヘッド13、シリンダヘッドカバー14を積層したシリンダアッセンブリが取り付けられている。クランクケース11の下部には、潤滑及び冷却用のオイルが貯留されるオイルパン15が取り付けられている。クランクケース11の前部には、オイルから異物を除去するオイルフィルタ16とオイルを冷却するオイルクーラ17が取り付けられている。シリンダ12の前方には、冷却水の熱を放熱するラジエータ31が設けられている。
【0012】
クランクケース11の左側面にはケース内のマグネト室を覆うマグネトカバー18が取り付けられ、クランクケース11の右側面にはケース内のクラッチ室を覆うクラッチカバー19が取り付けられている。マグネト室にはクランクシャフト38に連結したマグネト装置(不図示)が収容されており、クラッチ室にはクランクシャフト38からの動力を伝達及び遮断するクラッチ装置(不図示)が収容されている。また、クランクケース11の右側面には、クランクケース11に向けて冷却水を吐出するウォータポンプ41が取り付けられている。
【0013】
クランクケース11は、アッパケース(第1のケース)21及びロアケース(第2のケース)22を含む上下割構造(分割構造)になっている。アッパケース21及びロアケース22の合わせ面23には、クランクシャフト38及びバランサシャフト39が軸支されている。クランクシャフト38の前方に設置されたウォータポンプ41の内側にバランサシャフト39が位置している。ウォータポンプ41の内側に収容されたインペラ55にバランサシャフト39が嵌合しており、バランサシャフト39を回転軸としたインペラ55によってウォータポンプ41が駆動されている。
【0014】
ウォータポンプ41の下部はインペラ55が収容されるポンプ本体71になっており、ウォータポンプ41の上部は吐出口57が形成された吐出部76になっている。ポンプ本体71はアッパケース21及びロアケース22に亘って設置されるため、アッパケース21とロアケース22の合わせ面23のエッジによってシール材が損傷しないように、ポンプ本体71の設置にはシール材として耐久性が高いガスケットが用いられることが望ましい。また、吐出部76にはポンプ本体71よりも高いシール性が求められており、吐出部76の設置にはシール材としてOリングが用いられることが望ましい。
【0015】
以下、図3から図7を参照して、エンジンの冷却装置について説明する。図3は本実施例のエンジンの冷却装置の模式図である。図4は本実施例のウォータポンプの斜視図である。図5は本実施例のウォータポンプの外側面図である。図6は本実施例のウォータポンプの内側面図である。図7は本実施例のクランクケースの前側部分の側面図である。なお、図5及び図6ではウォータポンプからサーモスタットカバーを取り外した状態を示している。
【0016】
図3に示すように、エンジン10には、エンジン10とラジエータ31の間で冷却水を循環させる冷却装置30が設けられている。ラジエータ31は、多数の細管又は放熱フィンによって熱交換するラジエータコア32と、ラジエータコア32の一方側から冷却水を流入させる流入タンク33と、ラジエータコア32の他方側から冷却水を流出させる流出タンク34とを有している。流出タンク34の上面には冷却水の注水口が形成されており、注水口にはラジエータキャップ35が装着されている。ラジエータコア32の背面側には、車両の停止時等にラジエータコア32に向けて外気を導くラジエータファン36が設けられている。
【0017】
ウォータポンプ41の吐出口57はクランクケース11内の冷却流路49に連通し、クランクケース11内の冷却流路49はシリンダ12及びシリンダヘッド13のウォータジャケットに連通している。シリンダ12の後部には配管ジョイント用のコネクタ42が突設されており、コネクタ42にはラジエータ31の流入タンク33に冷却水を送るインレット配管43とラジエータ31を迂回してウォータポンプ41に冷却水を戻すバイパス配管44が接続されている。ラジエータ31の流出タンク34には、ラジエータコア32を経由した冷却水をウォータポンプ41に戻すアウトレット配管45が接続されている。
【0018】
ウォータポンプ41には、冷却水温に応じてアウトレット配管45からの冷却水の流れを制御する入口制御型のサーモスタット46が取り付けられている。冷却水温が所定温度未満のときにはサーモスタット46が閉弁し、エンジン10からラジエータ31に向かう冷却水の流れがラジエータ31の下流側のアウトレット配管45の出口で阻止される。バイパス配管44を通じてエンジン10からウォータポンプ41に冷却水が戻される。冷却水温が所定温度以上に上昇するとサーモスタット46が開弁し、エンジン10からラジエータ31にも冷却水が流れて、ラジエータ31で放熱された冷却水によってエンジン10が効果的に冷却される。
【0019】
このように、エンジン10の冷却装置30には、冷却水温に応じてラジエータ31に冷却水を送るサーモスタット46が設けられている。サーモスタット46によってラジエータ31に向かう冷却水の流れとラジエータ31を迂回する冷却水の流れが制御されている。また、ウォータポンプ41にはオイルクーラ17に冷却水を送るインレット配管47が接続されており、オイルクーラ17にはウォータポンプ41に冷却水を戻すアウトレット配管48が接続されている。ウォータポンプ41の駆動によってオイルクーラ17に冷却水が送られて、冷却水によってオイルクーラ17内のオイルが冷却される。
【0020】
図4から図6に示すように、ウォータポンプ41は、一面が開口されたポンプケース51と、ポンプケース51の開口を覆うポンプカバー52とを有している。ポンプケース51及びポンプカバー52の外縁部には締付部53a-53fが形成されている。締付部53a-53eではポンプカバー52及びポンプケース51がクランクケース11(図7参照)にネジ止めされ、締付部53fではポンプカバー52がポンプケース51にネジ止めされている。ポンプケース51及びポンプカバー52によって、インペラ55が収容される円形のポンプ室54とポンプ室54から接線方向に延びる吐出流路56が形成されている。
【0021】
インペラ55は遠心力を利用して冷却水を圧送する遠心式の羽根車であり、インペラ55の回転によって冷却水が吐出流路56に送り出されている。ポンプケース51には、吐出流路56の先端側からクランクケース11内に冷却水を送り込む吐出口57が形成されている。ポンプケース51の下部には配管ジョイント用の一対のニップル58、59が突設されている。一方のニップル58にはウォータポンプ41からオイルクーラ17(図1参照)に向かうインレット配管47が接続され、他方のニップル59にはオイルクーラ17からウォータポンプ41に戻るアウトレット配管48が接続される。
【0022】
ポンプカバー52の一部がポンプケース51よりも上方にはみ出して、吐出口57の前方にサーモスタット収容部61が形成されている。サーモスタット収容部61は有底筒状に形成されており、サーモスタット収容部61の開口縁にサーモスタット46(図3参照)が装着されている。サーモスタット収容部61の側壁には配管ジョイント用のニップル62が突設されている。ニップル62には、ラジエータ31を迂回してウォータポンプ41に戻るバイパス配管44が接続されている。サーモスタット46の収容室が吸込流路63を通じてポンプ室54に連なり、バイパス配管44からの冷却水がポンプ室54に戻される。
【0023】
サーモスタット収容部61には、サーモスタット46の収容室を覆うように、サーモスタットカバー64が取り付けられている。サーモスタットカバー64には、配管ジョイント用のパイプ65が形成されている。パイプ65には、ラジエータ31(図3参照)からウォータポンプ41に戻るアウトレット配管45が接続されている。サーモスタット46は、アウトレット配管45からの冷却水を止める方向に取り付けられている。サーモスタット46の開き具合に応じて、アウトレット配管45からサーモスタット収容部61の収容室を介して吸込流路63に流れ込む冷却水の流量が調整される。
【0024】
サーモスタット46の内部にはワックスが封入されており、冷却水温に応じてワックスが膨張することでサーモスタット46が開弁する。冷却水温が低くワックスが収縮した状態では、サーモスタット46が閉弁することでバイパス配管44からサーモスタット収容部61に冷却水が流れ込む。冷却水温が上昇してワックスが膨張すると、サーモスタット46が開弁してアウトレット配管45からサーモスタット収容部61に冷却水が流れ込む。アウトレット配管45からサーモスタット収容部61への冷却水の流量の増加分だけ、バイパス配管44からサーモスタット収容部61への冷却水の流量が減少する。
【0025】
図4及び図6に示すように、ウォータポンプ41のポンプケース51の底面はクランクケース11(図7参照)に対する設置面になっている。ウォータポンプ41の下部は、インペラ55が収容されたポンプ本体71になっている。側面視にてポンプ本体71は4つの締付部53a-53dを頂点とした略矩形状に形成されている。ポンプ本体71の設置面72からボス73が突き出しており、ボス73の突出端面からインペラシャフト74の先端部が突き出している。また、ポンプ本体71の設置面72からガスケット81を保持する凸部75が突き出しており、凸部75によってポンプ本体71の設置面72にガスケット81が保持されている。
【0026】
ガスケット81は、いわゆるメタルガスケットであり、インペラシャフト74を囲むように形成された環状部82と、環状部82の内側で凸部75に引っ掛かる引掛部83と、を有している。環状部82はポンプ本体71の周縁部に沿って矩形枠状に形成されている。環状部82の四隅の挿通穴に締付部53a-53dから突き出した4本のボルト69が挿し込まれて、ポンプ本体71に対してガスケット81が位置決めされる。4本のボルト69によってガスケット81の四隅を介して締付部53a-53dがクランクケース11に締め付けられる。このように、ポンプ本体71の設置にはガスケット81が用いられている。
【0027】
引掛部83から環状部82に複数の腕部84が延びており、複数の腕部84を介して環状部82の内側に引掛部83が支持されている。引掛部83には凸部75が入り込む開口が形成され、開口縁から凸部75に向けて3つの爪部が突き出している。凸部75に引掛部83の爪部が引っ掛かることでポンプ本体71の設置面72にガスケット81が保持される。環状部82の内側でポンプ本体71にガスケット81が保持されているため、ガスケット81の保持箇所が隠れて外観に影響を与えることがない。引掛け構造によってガスケット81の組付け時の落下が抑えられて、ガスケット81の組付け性を向上させることができる。
【0028】
ウォータポンプ41の上部は、吐出口57が形成された吐出部76になっている。吐出部76の設置面77には吐出口57の周囲に環状溝が形成され、環状溝によって吐出部76の設置面77にOリング87が保持されている。吐出部76の一箇所に締付部53eが形成されており、1本のボルト69によって締付部53eがクランクケース11に締め付けられる。このように、吐出部76の設置にはOリング87が用いられている。比較的低いシール圧が要求されるポンプ本体71の設置にはガスケット81が用いられ、比較的高いシール圧が要求される吐出部76の設置にはOリング87が用いられている。
【0029】
ウォータポンプ41(ポンプケース51)にはポンプ本体71と吐出部76の間に凹部78が形成されている。凹部78によってウォータポンプ41が肉抜きされて軽量化されている。凹部78付近の可撓性が高くなって、締付部53a-53e付近の面圧が高められてシール性が向上されている。吐出部76の締付部53eがOリング87を挟んで凹部78とは逆側に形成されている。ポンプ本体71の締付部53a-53dと吐出部76の締付部53eが凹部78を挟んで離されることで、吐出部76の締付部53eの締付状態がポンプ本体71の締付部53a-53dの締付状態に影響し難くなってガスケット81のシール性が向上される。
【0030】
また、ポンプ本体71の設置面72は吐出部76の設置面77よりも引っ込められており、ポンプ本体71の設置面72と吐出部76の設置面77に段差が形成されている。ポンプ本体71の設置面72上のガスケット81は非圧縮状態で吐出部76の設置面77よりも突き出し、ウォータポンプ41の設置時にOリング87よりも先にガスケット81がクランクケース11に接するように構成されている。詳細は後述するが、吐出部76の設置面77からガスケット81を適度に突き出させることで、Oリング87とクランクケース11の隙間を無くすと共に、ガスケット81の面圧を十分に確保してウォータポンプ41のシール性を向上させている。
【0031】
図6及び図7に示すように、クランクケース11の右側面からはガスケット81に接触する矩形枠状のガスケット接触面24が突き出している。ガスケット接触面24の四隅の締付箇所25a-25dには、ウォータポンプ41の締付部53a-53dに対応してネジ穴が形成されている。ガスケット接触面24の内側には、バランサ室に連なる貫通口26が形成されている。上記したようにクランクケース11は上下割構造になっており、アッパケース21にガスケット接触面24及び貫通口26の上半部が形成され、ロアケース22にガスケット接触面24及び貫通口26の下半部が形成されている。
【0032】
ガスケット接触面24の上方にて、アッパケース21の右側面からはOリング87に接触する円形状のOリング接触面27が突き出している。Oリング接触面27にはクランクケース11内の冷却流路49(図3参照)の流入口28が形成されている。Oリング接触面27がガスケット接触面24の締付箇所25dに近いため、Oリング接触面27の締め付けが締付箇所25dに影響を与え難くなるように、流入口28を挟んで締付箇所25dの反対側にOリング接触面27の締付箇所25eが形成されている。Oリング接触面27の締付箇所25eには、ウォータポンプ41の締付部53eに対応してネジ穴が形成されている。
【0033】
ウォータポンプ41の設置時には、ポンプ本体71のボス73がクランクケース11の貫通口26に挿し込まれる。ポンプ本体71がガスケット81を介してガスケット接触面24に押し当てられ、吐出部76がOリング87を介してOリング接触面27に押し当てられる。ポンプ本体71の締付部53a-53dがガスケット接触面24の締付箇所25a-25dにネジ止めされ、吐出部76の締付部53eがOリング接触面27の締付箇所25eにネジ止めされる。このように、アッパケース21とロアケース22に亘ってポンプ本体71が設置され、アッパケース21に吐出部76が設置されている。
【0034】
アッパケース21とポンプ本体71の間、ロアケース22とポンプ本体71の間にはガスケット81が介在されている。ガスケット81の耐久性が高いため、アッパケース21とロアケース22の合わせ面23のエッジによってガスケット81が傷付けられない。ポンプ本体71の設置面72とアッパケース21及びロアケース22のガスケット接触面24がガスケット81によって適切な圧力でシールされる。アッパケース21と吐出部76の間にはOリング87が介在されている。吐出部76の設置面72とアッパケース21のOリング接触面27がOリング87によって適切な圧力でシールされる。
【0035】
図8から図10を参照して、ウォータポンプのシール状態について説明する。図8は比較例のシール状態及びガスケット接触面の面圧分布を示す図である。図9は他の比較例のシール状態及びガスケット接触面の面圧分布を示す図である。図10は本実施例のシール状態及びガスケット接触面の面圧分布を示す図である。
【0036】
図8(A)に示すように、比較例のウォータポンプ90ではポンプ本体91の設置面92と吐出部93の設置面94が同一面に形成されている。クランクケース11のガスケット接触面24とOリング接触面27が同一面に形成されている。ポンプ本体91の設置面92上にガスケット95が保持され、吐出部93の設置面94の環状溝にOリング96が保持されている。ボルトが締め付けられると、ポンプ本体91の設置面92とガスケット接触面24の間でガスケット95が押し潰される。ガスケット95の潰し代が小さいと、Oリング96とOリング接触面27に隙間が生じてOリング96のシール性が低下する。
【0037】
この場合、潰し代が大きなガスケット95を用いることで、Oリング96をOリング接触面27に接触させることができるが、ガスケット95に対して十分な面圧を作用させることができない。Oリング96とOリング接触面27が強く接触することで、ガスケット95とガスケット接触面24の当たりが悪くなる。特に、図8(B)に示すように、Oリング接触面27に最も近い締付箇所25dの面圧が他の締付箇所25a-25cの面圧よりも低下している。このため、Oリング96のシール性が改善されても、ガスケット95によって十分なシール性が得られない。
【0038】
図9(A)に示すように、他の比較例のウォータポンプ100ではポンプ本体101の設置面102が吐出部103の設置面104よりも引っ込められ、ポンプ本体101の設置面102と吐出部103の設置面104に段差が形成されている。クランクケース11のガスケット接触面24とOリング接触面27が同一面に形成されている。ポンプ本体101の設置面102上にガスケット105が保持され、吐出部103の設置面104の環状溝にOリング106が保持されている。非圧縮状態のガスケット105の厚みは、ポンプ本体101の設置面102と吐出部103の設置面104に段差に略一致するように形成されている。
【0039】
ボルトが締め付けられると、吐出部103の設置面104から僅かに突き出したOリング106がOリング接触面27に接触した後にガスケット105がガスケット接触面24に接触する。Oリング106がOリング接触面27に強く接触するが、ガスケット105の潰し代が小さくなってガスケット105とガスケット接触面24の当たりが悪くなる。特に、図9(B)に示すように、Oリング接触面27に最も近い締付箇所25dの面圧が他の締付箇所25a-25cの面圧よりも大幅に低下している。このため、ガスケット105によって十分なシール性が得られない。
【0040】
図10(A)に示すように、本実施例のウォータポンプ41ではポンプ本体71の設置面72が吐出部76の設置面77よりも引っ込められ、ポンプ本体71の設置面72と吐出部76の設置面77に段差が形成されている。クランクケース11のガスケット接触面24とOリング接触面27が同一面に形成されている。ポンプ本体71の設置面72上にガスケット81が保持され、吐出部76の設置面77の環状溝にOリング87が保持されている。非圧縮状態のガスケット81は吐出部76の設置面77よりも突き出しており、Oリング87とOリング接触面27の間に隙間が空けられている。
【0041】
ポンプ本体71の設置面72上のガスケット81の厚みは、ポンプ本体71の設置面72と吐出部76の設置面77の段差よりも大きく形成されている。例えば、ガスケット81の厚みは0.6[mm]でポンプ本体71の設置面72と吐出部76の設置面77の段差は0.2[mm]に形成されている。また、Oリング87とOリング接触面27の隙間よりも、ガスケット81の潰し代が大きく形成されている。ポンプ本体71の設置面72がOリング接触面27に対するOリング87の接触面よりも引っ込められ、圧縮時にOリング87とOリング接触面27の隙間が無くなるようにガスケット81の潰し代が形成されている。
【0042】
ボルトが締め付けられると、ガスケット81がガスケット接触面24に接触した後に、ガスケット81が押し潰されてOリング87がOリング接触面27に接触する。Oリング87とOリング接触面27の隙間が無くなることでOリング87のシール性を向上させることができる。また、図10(B)に示すように、ボルトの締付力がガスケット81の押し潰しに用いられて、ガスケット接触面24に対して全体的に十分な面圧を作用させることができる。このため、吐出部76の設置にOリング87を用い、ポンプ本体71の設置にガスケット81を用いても、Oリング87及びガスケット81のシール性を十分に得ることができる。
【0043】
上記した比較例及び他の比較例では、締付箇所25dの面圧が他の締付箇所25a-25cの面圧よりも低くなっている。本実施例では、締付箇所25dの面圧が改善されているが、念のためにガスケット81に面圧が作用し難い箇所を避けて、ガスケット81を保持するための凸部75(図6参照)が形成されている。インペラシャフト74(図6参照)よりも吐出部76から離間した位置、本実施例ではインペラシャフト74の前方に凸部75が形成されている。これにより、ポンプ本体71の設置面72に対してガスケット81を安定的に保持することができる。
【0044】
以上、本実施例によれば、クランクケース11がアッパケース21及びロアケース22を含む分割構造であり、アッパケース21及びロアケース22にガスケット81を介してウォータポンプ41のポンプ本体71が設置される。ポンプ本体71の設置にシール材として耐久性が高いガスケット81が使用されるため、アッパケース21とロアケース22の合わせ面23のエッジによってガスケット81が破損することがない。よって、アッパケース21及びロアケース22に亘ってウォータポンプ41が設置される構造でも、簡易かつ安価な構成でシール性を向上させることができる。
【0045】
なお、本実施例では、ポンプ本体の設置にガスケットが用いられ、吐出部の設置にOリングが用いられたが、少なくともポンプ本体の設置にガスケットが用いられていればよい。吐出部の設置にOリング以外のシール材が用いられてもよい。
【0046】
また、本実施例では、ガスケットとしてメタルガスケットが用いられたが、ガスケットとして耐久性が高いものが使用されていればよい。
【0047】
また、本実施例では、ウォータポンプのポンプ本体にガスケットが保持されているが、クランクケースにガスケットが保持されていてもよい。
【0048】
また、本実施例では、ウォータポンプの吐出部にOリングが保持されているが、クランクケースにOリングが保持されていてもよい。
【0049】
また、本実施例では、クランクケースがアッパケース及びロアケースを含む上下割構造であるが、クランクケースが第1のケース及び第2のケースを含む分割構造であればよい。例えば、クランクケースがフロントケース及びリアケースを含む前後割構造でもよいし、クランクケースが一対のサイドケースを含む左右割構造でもよい。
【0050】
また、本実施例では、ガスケットの環状部の内側に引掛部が形成されたが、引掛部の位置は特に限定されない。ガスケットの環状部の外側に引掛部が形成されていてもよい。
【0051】
また、本実施例では、引掛部の爪部が凸部に引っ掛かるが、引掛部の形状は特に限定されない。引掛部の開口に環状のゴムブッシュ等が装着されて、ゴムブッシュ等が凸部に引っ掛かってもよい。
【0052】
また、エンジンの冷却装置は、鞍乗型車両の他にもエンジンが設置される他の乗り物、例えば、自動四輪車、バギータイプの自動三輪車の他に、水上バイク、芝刈り機、船外機等に適宜適用することができる。また、鞍乗型車両とは、ライダーがシートに跨った姿勢で乗車する車両全般に限定されず、ライダーがシートに跨らずに乗車する小型のスクータタイプの車両も含んでいる。
【0053】
以上の通り、本実施例のエンジンの冷却装置(30)は、クランクケース(11)に設置されるエンジンの冷却装置であって、クランクケースに向けて冷却水を吐出するウォータポンプ(41)と、ウォータポンプのポンプ本体(71)の設置に用いられるガスケット(81)と、を備え、クランクケースが第1のケース(アッパケース21)及び第2のケース(ロアケース22)を含む分割構造であり、第1のケースとポンプ本体の間、第2のケースとポンプ本体の間にガスケットが介在している。この構成によれば、クランクケースが第1、第2のケースを含む分割構造であり、第1、第2のケースにガスケットを介してウォータポンプのポンプ本体が設置される。ポンプ本体の設置にシール材として耐久性が高いガスケットが使用されるため、第1、第2のケースの合わせ面のエッジによってガスケットが破損することがない。よって、第1、第2のケースに亘ってウォータポンプが設置される構造でも、簡易かつ安価な構成でシール性を向上させることができる。
【0054】
本実施例のエンジンの冷却装置において、ウォータポンプの吐出部(76)の設置に用いられるOリング(87)を備え、第1のケースと吐出部の間にOリングが介在しており、ポンプ本体の設置面(72)にガスケットが保持され、当該ポンプ本体の設置面が第1のケースに対するOリングの接触面よりも引っ込められている。この構成によれば、比較的高いシール圧が要求される吐出部の設置にOリングが用いられ、比較的低いシール圧が要求されるポンプ本体の設置にはガスケットが用いられる。また、ポンプ本体の設置面がOリングの接触面よりも引っ込められることで、Oリングと第1のケースの隙間を無くしてOリングのシール性を向上させることができる。
【0055】
本実施例のエンジンの冷却装置において、吐出部の設置面(77)にOリングが保持され、ポンプ本体の設置面が当該吐出部の設置面よりも引っ込められている。この構成によれば、第1のケースにOリングを保持させる構成と比較して、低コストで容易に吐出部にOリングを保持させることができる。
【0056】
本実施例のエンジンの冷却装置において、非圧縮状態のガスケットが吐出部の設置面よりも突き出している。この構成によれば、ウォータポンプの設置時にOリングよりも先にガスケットがクランクケースに接するため、圧縮力がガスケットの押し潰しに用いられて、ガスケットに対して全体的に十分な面圧を作用させることができる。
【0057】
本実施例のエンジンの冷却装置において、ポンプ本体及び吐出部には締付部(53a-53e)が形成されており、ウォータポンプにはポンプ本体と吐出部の間に凹部(78)が形成されている。この構成によれば、凹部によってウォータポンプが肉抜きされて軽量化される。また、凹部付近の可撓性が高くなって、締付部付近の面圧が高められてシール性が向上される。
【0058】
本実施例のエンジンの冷却装置において、吐出部の締付部(53e)は、Oリングを挟んで凹部とは逆側の1箇所に形成されている。この構成によれば、ポンプ本体の締付部と吐出部の締付部が凹部を挟んで離されることで、吐出部の締付部の締付状態がポンプ本体の締付部の締付状態に影響し難くなってガスケットのシール性が向上される。
【0059】
本実施例のエンジンの冷却装置において、ポンプ本体にはインペラシャフト(74)が設けられ、ポンプ本体の設置面からガスケットを保持する凸部(75)が突き出し、ガスケットには、インペラシャフトを囲むように形成された環状部(82)と、環状部の内側で凸部に引っ掛かる引掛部(83)と、が形成されている。この構成によれば、環状部の内側にガスケットの保持箇所が隠れて外観に影響を与えることがない。引掛け構造によってガスケットの組付け時の落下が抑えられて、ガスケットの組付け性を向上させることができる。
【0060】
本実施例のエンジンの冷却装置において、凸部がインペラシャフトよりも吐出部から離間している。この構成によれば、ガスケットに面圧が作用し難い箇所を避けて凸部を形成することができる。
【0061】
なお、本実施例を説明したが、他の実施例として、上記実施例及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
【0062】
また、本発明の技術は上記の実施例に限定されるものではなく、技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
【符号の説明】
【0063】
10 :エンジン
11 :クランクケース
21 :アッパケース(第1のケース)
22 :ロアケース(第2のケース)
30 :冷却装置
41 :ウォータポンプ
53a-53e:締付部
71 :ポンプ本体
72 :ポンプ本体の設置面
74 :インペラシャフト
75 :凸部
76 :吐出部
77 :吐出部の設置面
78 :凹部
81 :ガスケット
82 :環状部
83 :引掛部
87 :Oリング
図1
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