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特開2023-43816音波検査装置、音波検査方法、及び接触部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023043816
(43)【公開日】2023-03-29
(54)【発明の名称】音波検査装置、音波検査方法、及び接触部材
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/24 20060101AFI20230322BHJP
   G01N 29/28 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
G01N29/24
G01N29/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020134
(22)【出願日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2021151511
(32)【優先日】2021-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 紀子
(72)【発明者】
【氏名】平尾 明子
(72)【発明者】
【氏名】小野 富男
(72)【発明者】
【氏名】中井 豊
(72)【発明者】
【氏名】小林 剛史
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047BA03
2G047BC09
2G047CA01
2G047EA04
2G047GE01
(57)【要約】
【課題】検査時に接触媒質を被検査体と密着させることができ、かつ接触媒質を容易に移動させることをできると共に、S/N比の低下を抑制した音波検査装置を提供する。
【解決手段】実施形態の音波検査装置1は、音波の送信及び受信の少なくとも一方を実施するように構成された振動子3を備え、音波の送信面及び受信面の少なくとも一方を構成する音波機能面2aを有する音波探触子2と、音波探触子2の音波機能面2aに直接又は中間部材を介して接する第1の面と、第1の面とは反対側の第2の面とを有し、エラストマーを含む接触媒質11と、第2の面と接するように接触媒質と積層され、ポリマーを含むシート状部材11とを備える接触部材9と、接触部材9に荷重を印加する荷重機構と具備する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音波の送信及び受信の少なくとも一方を実施するように構成された振動子を備え、音波の送信面及び受信面の少なくとも一方を構成する音波機能面を有する音波探触子と、
前記音波探触子の前記音波機能面に直接又は中間部材を介して接する第1の面と、前記第1の面とは反対側の第2の面とを有し、エラストマーを含む接触媒質と、前記第2の面と接するように前記接触媒質と積層され、ポリマーを含むシート状部材とを備える接触部材と、
前記接触部材に荷重を印加する荷重機構と
を具備する音波検査装置。
【請求項2】
前記シート状部材はポリマーシートを含む、請求項1に記載の音波検査装置。
【請求項3】
前記シート状部材は、前記ポリマー中を伝播する音波の波長λの1/250以上1/2以下の厚さを有する、請求項1又は請求項2に記載の音波検査装置。
【請求項4】
前記接触媒質に含まれる前記エラストマーは、0.1MPa以上10MPa以下のヤング率を有し、前記シート状部材に含まれる前記ポリマーは、前記エラストマーのヤング率より高く、かつ2000MPa以下のヤング率を有する、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の音波検査装置。
【請求項5】
前記ポリマーは、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリフェニレンサルファイド、及びポリ塩化ビニリデンからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の音波検査装置。
【請求項6】
前記エラストマーは、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、イソブチレン・イソプレンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、及びエピクロルヒドリンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の音波検査装置。
【請求項7】
前記中間部材は、可逆性を有する第1接着層を含む接合層を備える、請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の音波検査装置。
【請求項8】
前記第1接着層は、感温性粘着剤、光照射硬化剤、加熱発泡剤、熱膨張剤、及び光構造変化剤のいずれか1つを含む、請求項7に記載の音波検査装置。
【請求項9】
前記接合層は、さらに、ポリマー層及び第2接着層から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項7又は請求項8に記載の音波検査装置。
【請求項10】
前記音波探触子は、超音波トランスデューサである、請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の音波検査装置。
【請求項11】
音波の送信及び受信の少なくとも一方を実施するように構成された振動子を備え、音波の送信面及び受信面の少なくとも一方を構成する音波機能面を有する音波探触子を、前記音波探触子の前記音波機能面に直接又は中間部材を介して接する、エラストマーを含む接触媒質と、前記接触媒質と積層され、ポリマーを含むシート状部材とを備える接触部材を介して、前記シート状部材が被検査体と接触するように配置する工程と、
前記接触部材に対して荷重を加え、前記シート状部材を介して前記接触媒質を前記被検査体に押し付けて接触させる工程と、
前記接触部材を前被検査体に押し付けた状態で、前記音波探触子により前記被検査体の音波による非破壊検査を行う工程と、
前記接触部材に対して荷重を加えた状態で、前記シート状部材を前記被検査体に接触させつつ、前記音波探触子を前記被検査体上を移動させる工程と
を具備する音波検査方法。
【請求項12】
前記シート状部材はポリマーシートを含む、請求項11に記載の音波検査方法。
【請求項13】
前記シート状部材は、前記ポリマー中を伝播する音波の波長λの1/250以上1/2以下の厚さを有する、請求項11又は請求項12に記載の音波検査方法。
【請求項14】
前記接触媒質に含まれる前記エラストマーは、0.1MPa以上10MPa以下のヤング率を有し、前記シート状部材に含まれる前記ポリマーは、前記エラストマーのヤング率より高く、かつ2000MPa以下のヤング率を有する、請求項11ないし請求項13のいずれか1項に記載の音波検査方法。
【請求項15】
前記非破壊検査を行う工程は、前記音波として用いた超音波を前記音波探触子から前記接触部材を介して前記被検査体に送信する工程と、前記被検査体からの反射波を前記接触部材を介して前記音波探触子で受信する工程とを具備する、請求項11ないし請求項14のいずれか1項に記載の音波検査方法。
【請求項16】
音波検査装置の音波探触子に用いられる接触部材であって、
エラストマーを含む接触媒質と、前記接触媒質と積層するように設けられ、ポリマーを含むシート状部材とを具備する接触部材。
【請求項17】
前記シート状部材はポリマーシートを含む、請求項16に記載の接触部材。
【請求項18】
前記シート状部材は、前記ポリマーシート中を伝播する音波の波長λの1/250以上1/2以下の厚さを有する、請求項16又は請求項17に記載の接触部材。
【請求項19】
前記接触媒質に含まれる前記エラストマーは、0.1MPa以上10MPa以下のヤング率を有し、前記シート状部材に含まれる前記ポリマーは、前記エラストマーのヤング率より高く、かつ2000MPa以下のヤング率を有する、請求項16又は請求項18のいずれか1項に記載の接触部材。
【請求項20】
前記エラストマーは、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、イソブチレン・イソプレンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、及びエピクロルヒドリンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項16ないし請求項19のいずれか1項に記載の接触部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、音波検査装置、音波検査方法、及び接触部材に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波や弾性波等の音波の伝播を用いた音波検査装置は、様々な部材、装置、インフラ等の点検に用いられている。また、超音波検査装置は医療診断等にも利用されている。そのような検査装置に用いられる超音波探触子やAE(Acoustic Emission)センサ等に代表される音波受信機、音波送信機、音波送受信機等の音波検査用探触子を被検査体に設置する場合、被検査体との間で音波伝播を効率よく行うために、探触子の音波の送信面及び受信面の少なくとも一方を構成する音波機能面と被検査体との間に、グリセリンやワセリン等の液体状又は粘性体状の接触媒質を介在させている。
【0003】
上述した接触媒質は、探触子から被検査体、又は被検査体から探触子に超音波等の音波を効率よく伝達し、試験精度を高める上で重要である。しかし、液体状又は粘性体状の接触媒質を塗布したり、除去したりする工程は煩雑である。このため、検査の時間や工数を増加させる要因となっている。また、検査対象の被検査体によっては、接触媒質で汚染される場合もあり、その場合は検査自体を実施することができない。
【0004】
固体の接触媒質も提案されているが、超音波の伝播は液体状の接触媒質を用いた場合と比較して大きく劣る。これは、探触子の接触媒質と被検査体との間に、音響インピーダンスが大きく異なる空気が介在してしまうためと考えられる。音波検査用接触媒質の設置面と被検査体との間に空気が介在するのを避けるために、粘着性のある固体の接触媒質も提案されている。しかしながら、従来の粘着性のある固体の接触媒質を用いた場合、音波検査用接触媒質の設置面が被検査体に密着し、音波検査用接触媒質を滑らせることができない。そのため、設置位置を微小距離で動かす場合であっても、一度接触媒質と共に探触子を、被検査体から剥がす必要があり、検査工程が煩雑になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-053956号公報
【特許文献2】特開2021-067603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、検査時に接触媒質を被検査体と密着させることができ、かつ接触媒質を容易に移動させることをできると共に、S/N比の低下を抑制することを可能にした音波検査装置、音波検査方法、及び接触部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の音波検査装置は、音波の送信及び受信の少なくとも一方を実施するように構成された振動子を備え、音波の送信面及び受信面の少なくとも一方を構成する音波機能面を有する音波探触子と、前記音波探触子の前記音波機能面に直接又は中間部材を介して接する第1の面と、前記第1の面とは反対側の第2の面とを有し、エラストマーを含む接触媒質と、前記第2の面と接するように前記接触媒質と積層され、ポリマーを含むシート状部材とを備える接触部材と、前記接触部材に荷重を印加する荷重機構と具備する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の音波検査装置の構成を示す図である。
図2図1に示す音波検査装置における音波探触子を示す断面図である。
図3図1に示す音波検査装置における音波探触子と接触部材との組合せの第1の例を拡大して示す断面図である。
図4図1に示す音波検査装置における音波探触子と接触部材との組合せの第2の例を拡大して示す断面図である。
図5】実施形態の音波検査装置の接触部材による反射波振幅幅の測定結果を示す図である。
図6】実施形態の音波検査装置の接触部材による反射信号のシミュレーション結果を示す図である。
図7】実施例1の音波検査装置で得られた信号波形の例を示す図である。
図8】参考例の音波検査装置で得られた信号波形の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態の音波検査装置、音波検査方法、及び音波検査装置用接触部材について、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、各部の厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。説明中の上下方向を示す用語は、被検査体の検査面を上とした場合の相対的な方向を示し、重力加速度方向を基準とした現実の方向とは異なる場合がある。
【0010】
図1は実施形態の音波検査装置を示す図である。図1に示す音波検査装置1は垂直型の音波探触子2を有する。音波検査装置1は、例えばパルス反射式の音波探触子2を有し、被検査体内の傷等の検査対象物から戻ってくる音波(反射波)を計測することで探傷等の非破壊検査を行うものである。あるいは、音波探触子2は検査対象物が発生する音波を計測することで探傷等の非破壊検査を行うものである。音波探触子2は、音波の送信及び受信の少なくとも一方の機能を有するものであり、具体例としては超音波送受信機(超音波トランスデューサ)や音波受信機が挙げられる。超音波送受信機の代表例としては、超音波プローブが挙げられる。音波受信機の代表例としては、AEセンサが挙げられる。音波探触子2は音波送信機であってもよい。
【0011】
ここに記載される音波とは、気体、液体、固体を問わず、弾性体を伝播するあらゆる弾性振動波の総称であり、可聴周波数域の音波に限らず、可聴周波数域より高い周波数を有する超音波、及び可聴周波数域より低い周波数を有する低周波音等も含まれる。音波の周波数は特に限定されるものではなく、高周波から低周波まで含まれるものである。実施形態の音波検査装置1において、音波探触子2は音波の送受信面、受信面、送信面等を有する。ここでは、音波探触子2の音波の送信面及び受信面の少なくとも一方を構成する面を音波機能面と称する。このような音波機能面2aを音波探触子2は備えている。
【0012】
図1に示す音波検査装置1において、音波探触子2は例えば超音波送受信機としての超音波プローブである。超音波プローブ2は、図2に示すように、超音波探傷用の振動子(圧電体)3と、振動子3の上下両面に設けられた電極4とを有する超音波送受信素子5を備えている。超音波送受信素子5は受波板6上に配置されており、この状態でケース7内に収容されている。超音波送受信素子5の電極4は、ケース7に設けられたコネクタ8と電気的に接続されている。振動子3、超音波送受信素子5、受波板6等には、公知の超音波探触子に用いられる構成材料や構造等を適用することができ、特に限定されるものではない。音波探触子2がAEセンサ等の音波受信機である場合、AE受信用の振動子(圧電体)3を有する音波受信素子が用いられる以外は、超音波プローブと同様な構成が適用される。その場合、AE受信用の振動子3、音波受信素子、受波板6等には、公知のAEセンサに用いられる構成材料や構造等を適用することができる。
【0013】
音波探触子2として超音波プローブを適用した場合、振動子3に電極4から電圧を印加することで、受波板6を介して超音波を発信すると共に、受波板6を介して超音波の反射波を受信する。超音波プローブにおいて、受波板6の超音波送受信素子5と接する面6aとは反対側の面6bが超音波の送信面及び受信面(送受信面)となる。音波探触子2としてAEセンサを適用した場合、被検査体内のAEによる音波(弾性波)を振動子3が受波板6を介して受信する。AEセンサにおいて、受波板6の音波受信素子と接する面6aとは反対側の面6bが音波の受信面となる。音波探触子2において、超音波送受信素子又は音波受信素子(以下、総称して音波素子と記す場合がある。)5が配置された受波板6の音波素子5と接する面6aとは反対側の面6bが音波の送信面及び受信面の少なくとも一方を構成する(少なくとも一方として機能する)音波機能面2aとなる。
【0014】
音波探触子2の音波機能面2aには、音波伝播部として機能する接触部材9が設けられている。接触部材9は、図3に拡大して示すように、エラストマーを含む接触媒質10と、ポリマーシートを含むシート状部材11とを備える。ここでは、エラストマーを含む接触媒質10にポリマーシートを含むシート状部材11を積層した構造を示しているが、ポリマーシートを含むシート状部材11はこれに限られるものではなく、シート状の形状を有すればよい。シート状部材11は、ポリマーを含むシート状部材であればよく、例えばポリマー層であってもよい。ポリマーシートの構成材料は、エラストマーと分離しているものの他に、例えば摺動コーティングによる非粘着処理(非粘着コーティング)等によって、エラストマーに表面処理を施して形成したポリマー層等であってもよい。非粘着処理により形成されたポリマー層は、例えば30μm以上の厚みを有する。シート状部材11は、いかなる方法で形成して構成されたものであってもよい。
【0015】
接触媒質10は、音波探触子2の音波機能面2aに直接又は中間部材を介して接する第1の面10aと、第1の面10aとは反対側の第2の面10bとを有する。接触媒質10の第1の面10aは、音波探触子2の音波機能面2aに直接又は中間部材を介して、図示しない接着剤により接着されていてもよい。中間部材としては、高分子材料からなるシューや接合層等が挙げられる。シート状部材11は、第2の面10bと接するように接触媒質10と積層された第3の面11aと、第3の面11aとは反対側の第4の面11bとを有する。シート状部材11の第3の面11aは、接触媒質10の第2の面10bに、図示しない接着剤により接着されていてもよい。シート状部材11の第4の面11bは、被検査体(被処理体)Xとの接触面を構成している。
【0016】
音波探触子2と接触部材9とは、例えば図4に示すように、音波機能面2aと第1の面10aとの間に配置された接合層13により接合されていてもよい。接合層13は、例えば可逆性を有する第1接着層14、ポリマー層15、及び第2接着層16が順に配置された構成を有する。これら各層14、15、16については後に詳述するが、可逆性を有する第1接着層(可逆性接着層)14を用いることによって、音波探触子2に対する接触部材9の脱着を容易に実施することができる。例えば、被検査体Xはバルク状の固体に限らず、粉体の集合体や圧粉体のような場合もある。そのような検査においては、被検査体Xとしての粉体が接触部材9に付着するため、接触部材9を交換する必要が生じる場合がある。音波探触子2に対する接触部材9を容易に脱着することによって、粉体の集合体等の被検査体Xの検査効率を高めることが可能になる。
【0017】
音波検査装置1は、シート状部材11の第4の面11bが被検査体Xと接するように配置される。音波検査装置1は、音波探触子2上に設けられた荷重負荷治具12を有している。音波検査装置1においては、まず荷重負荷治具12を介して音波探触子2に荷重が印加され、さらに音波探触子2を介して接触部材9に荷重が印加される。後述するように、接触媒質10は接触部材9に印加された荷重によって、シート状部材11を介して被検査体Xと接する。従って、接触媒質10と被検査体Xとの間でシート状部材11を介して音波を効率よく伝播させることができる。
【0018】
さらに、接触媒質10の表面10bにドライ接触媒体として設けられた、極薄の非粘着性を有するポリマーシートを含むシート状部材11によって、荷重負荷治具12による荷重を取り除くことなく、後述するように被検査体X上を音波検査装置1を滑らせた状態で移動させることができる。これによって、荷重負荷治具12による荷重を取り除くことなく、音波検査装置1を被検査体Xの次の位置に容易に移動させることができる。接触媒質10への荷重の印加は、接触媒質10に力を加える様々な機構により実施することができる。例えば、ステッピングモータやACサーボモータを用いた電動アクチュエータ、油圧や空圧を利用したアクチュエータ等の機構によって、接触媒質10に荷重を加えることができる。アクチュエータ等と荷重負荷治具12とは、荷重機構を構成している。
【0019】
荷重負荷治具12により接触部材9に荷重が印加された状態においては、少なくともエラストマーを含む接触媒質10の変形特性、すなわち超低弾性率、可逆的大変形、粘弾性等によって、接触媒質10が被検査体Xの表面の凹凸等に追従するように変形する。このような印加荷重による接触媒質10の変形によって、接触媒質10はシート状部材11を介して被検査体Xと密接した状態が得られる。粘着性のあるエラストマーは、液体の接触媒体と同様に超音波等の音波を良好に伝播させることができる。従って、接触媒質10がシート状部材11を介して被検査体Xと密接した状態とすることによって、荷重の印加時に接触媒質10と被検査体Xとの間でシート状部材11を介して音波を効率よく伝播させることができる。極薄の非粘着性を有するポリマーシートを含むシート状部材11は、後述するように、超音波等の音波の伝播性を損なうことなく、被検査体Xとの粘着状態を阻害する。これらによって、音波検査装置1による被検査体Xの非破壊検査精度の向上と音波検査装置1の被検査体X上における移動性とを両立させることが可能となる。
【0020】
エラストマーの摩擦力を測定すると、他の材料と比較して圧倒的に大きく、場合によっては1を超えるような摩擦が観測されることがある。この大きな摩擦力の起源は、エラストマーの被検査体Xへの密着に起因するもので、変形により接触面積が極めて大きくなるために観測される現象である。金属のような硬質材料同士を接触させようとしても、接触面の極一部である粗さ、具体的には微小突起の先端のみが接触するに留まる。しかし、エラストマーのように弾性率が低い場合、同じ荷重でも変形能が大きいために密着力が増すことになる。このように、エラストマーはシート状部材11を介した被検査体Xとの実質的な(微視的な)接触面積が大きいため、超音波をよく通すことができる。ただし、超音波を通しやすいものほど、摩擦力が大きく剥がしづらくなってしまう。そこで、接触部材9においては、図3及び図4に示すように、接触媒質10の表面10bにシート状部材11を設けており、これにより荷重時の移動を容易にしている。
【0021】
接触媒質10として用いるエラストマーには、熱硬化性エラストマーと熱可塑性エラストマーとがあるが、実施形態の音波検査装置1にはどちらも使用することができる。熱可塑性エラストマーとは、弾性率の温度依存性が異なる2種類以上のポリマーの共重合体である。実施形態の音波検査装置1に用いられるエラストマーは、所定の粘弾性を有し、対象物の表面形状に沿って密接することができるため、水や油類等の他の接触媒質と比べて周囲を汚染することがなく、また固体であるために取り除きも容易であり、再利用も可能である。接触媒質10を被検査体Xに押し付けることで、接触部材9と被検査体Xとの間に介在する空気層を排除するためには、エラストマーのヤング率(弾性定数)は0.1MPa以上10MPa以下であることが好ましい。
【0022】
接触媒質10を構成するエラストマーのヤング率が10MPaを超えると、被検査体Xの表面への追従性や空気層の排除性が低下する。エラストマーのヤング率が0.1MPa未満であると、接触媒質10に荷重を加えたときの形状維持能等が低下する。材料の塑性が開始する応力である降伏応力は大きいことが望ましく、2MPa以上がさらに好ましく、20MPa以上であることが望ましい。エラストマーの引張り強度も大きいほうが好ましく、2MPa以上が好ましい。接触媒質10を構成するエラストマーの厚さは10mm以下が好ましい。接触媒質10を構成するエラストマーの音響インピーダンスやヤング率により適した厚さは異なるものの、0.5mm以上2mm以下程度の厚さを有するときに、超音波等の伝搬性能を高くすることができる。
【0023】
接触媒質10を構成する熱可塑性エラストマーとしては、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー(SBC、TPS)、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー(TPVC)、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE、TPC)、ポリアミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。熱硬化性エラストマーとしては、ジエン系ゴムに分類されるスチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、非ジエン系ゴムに分類されるイソブチレン・イソプレンゴム(IIR)のようなブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム(EPM)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、ウレタンゴム(U)、シリコーンゴム、フッ素ゴム(FKM)等が挙げられる。その他のゴムとしては、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、アクリルゴム(ACM)、多硫化ゴム(T)、エピクロルヒドリンゴム(CO、ECO)等が挙げられる。耐熱性、耐摩耗性、耐油性、耐薬品性等、それぞれの材料により特徴を有することから、検査対象によって適宜選択することが好ましい。用途によっては、複数のエラストマーを混合して用いてもよい。音波の透過を妨げない大きさ、すなわち概ね直径200μm以下の添加物が混合されていてもよい。
【0024】
接触媒質10を構成するエラストマーは、耐熱性に優れる、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、イソブチレン・イソプレンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、及びエピクロルヒドリンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことがより好ましい。
【0025】
シート状部材11を構成するポリマーには、接触媒質10を構成するエラストマーよりヤング率が大きい材料が用いられ、例えばポリエステル、ポリエチレンやポリプロピン等のポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル等のフッ素樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリ塩化ビニリデン等からなるシート状部材が使用される。このような非粘着性のポリマーシートをシート状部材11として接触媒質10の表面に積層することによって、接触媒質10への荷重を取り除くことなく、被検査体X上を音波検査装置1を滑らせた状態で移動させることができる。ここで述べる非粘着性とは、媒質を検査対象に接触させた際に、検査対象に対して媒質を垂直に移動させると検査対象から容易に剥がれる状態であることを指す。ポリマーのヤング率は、滑り性を高める上で100MPa以上であることがより好ましい。ポリマーのヤング率は、被検査体Xの表面凹凸等への追従性を高める上で2000MPa以下であることが好ましい。
【0026】
図5に、音波探触子2の音波機能面2aにエラストマーを含む接触媒質10及びポリマーシートを含むシート状部材11を設けた場合と、音波探触子2の音波機能面2aにエラストマーを含む接触媒質10のみを設けた場合とにおいて、音波探触子2から被検査体Xに超音波を照射した際の反射波の振幅を測定した結果を示す。ここで用いたエラストマー部材及びポリマーシートについては、後述の実施例1で詳述する。図5に示すように、エラストマーとポリマーシートとを積層して使用することで、エラストマーのみの場合に比べて、若干反射波振幅が低下するものの、ある程度の荷重を印加した状態において、音波検査装置1として実用的な反射波振幅が得られることが分かる。
【0027】
シート状部材11を構成するポリマーシートは、シート中を伝播する音波の波長λの1/250以上1/2以下の厚さを有することが好ましい。このような厚さを有するポリマーシートを用いることによって、接触媒質10及びシート状部材11を有する接触部材9を介して音波探触子2と被検査体Xとの間で超音波等を良好に伝播することができる。図6に2.25MHzにおけるポリマーシート内の波長λに対するポリマーシートの厚さdの比(d/λ)を0から1まで1/8ずつ変化させた際の反射信号のシミュレーション結果を示す。図6に示すように、ポリマーシートがd/λ比が1/2以下を満足する厚さdを有することによって、超音波等による検知性能を高めることができる。
【0028】
ポリマーシートの構成材料による違いがあるものの、ポリマーシート内の音速はおおむね1800m/sから2500m/s前後である。非破壊検査においては、主に1MHz以上の周波数の音波が使用される。周波数が1MHzの場合、音速が2500m/sではポリマーシート内の波長λは2.5mmであるため、10μmは波長の約1/250である。実用上において、ポリマーシートの厚さが10μm未満であると、被検査体Xの表面状態によっては被検査体Xの微小な凹凸により破損しやすくなるおそれがある。ポリマーシートの具体的な厚さは10μm以上1mm以下であることが好ましい。さらに、このような厚さを有するポリマーシートを使用することによって、検査時に被検査体Xの表面凹凸等に追従させた上で、接触媒質10への荷重を取り除くことなく、被検査体X上を音波検査装置1を滑らせた状態で移動させることができる。
【0029】
上述したように、実施形態の音波検査装置1においては、音波探触子2の音波機能面2aにエラストマーを含む接触媒質10及びポリマーシートを含むシート状部材11を接触部材9として設けている。接触部材9のうち、荷重が印加された際にエラストマーを含む接触媒質10が被検査体Xに対して密接した状態となるため、音波探触子2と被検査体Xとの間で超音波等の音波を良好に伝播することできる。従って、音波検査装置1による非破壊検査の精度を高めることが可能になる。さらに、接触媒質10の表面にシート状部材11として設けられたポリマーシートは、超音波等の伝播性を損ねないため、非破壊検査精度を損ねることがない。その上で、ポリマーシートを被検査体Xへのドライ接触媒体として用いることによって、接触媒質10への荷重を取り除くことなく、被検査体X上を音波検査装置1を滑らせた状態で移動させることができる。これによって、音波検査装置1を移動させる際に、荷重を取り除くために必要な時間や工数を削減することができる。従って、音波検査装置1による検査工程の効率化を図ることが可能になる。
【0030】
図4に示す接合層において、可逆性を有する第1接着層(可逆性接着層)14は、例えば感温性粘着剤、光照射硬化剤、加熱発泡剤、熱膨張剤、及び光構造変化剤のいずれかを含むことによって、刺激・環境の変化による接着力の変化を起こすものである。このような可逆性接着層14を設けることによって、接触部材9は所望のときに、光照射や温度変化等を用いることで、速やかに音波探触子2から取り外すことができる。ポリマー層15及び第2接着層16は、可逆接着層14と接触媒質10との間に設けられ、これら両者を一体化する場合に必要となることがあり、必要に応じて設けられる。
【0031】
可逆性接着層14は、例えば10μm以上100μm以下の厚さを有することが好ましい。可逆性接着層の例として、低温で接着性が低下する感温性粘着層が挙げられる。感温性粘着層は、側鎖結晶性ポリマーを主成分として含有しており、側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度に冷却されると、側鎖結晶性ポリマーが結晶化することにより粘着力が低下する粘着層である。側鎖結晶性ポリマーとしては、例えば側鎖結晶性の各種メタクリル樹脂が用いられる。
【0032】
可逆性接着層14の他の例として、高温で接着性が低下する感温性粘着層が挙げられる。感温性粘着層としては、側鎖結晶性ポリマー及び発泡剤を含有するものが知られている。感温性粘着層は、側鎖結晶性ポリマーを主成分として含有し、発泡剤を側鎖結晶性ポリマー100重量部に対して1~60重量部の割合で含有する。これによって、感温性粘着層を発泡剤の発泡温度以上の温度に加熱すると、側鎖結晶性ポリマーが流動性を示すようになり、粘着層の凝集力が低下すると共に、発泡剤が発泡して膨らむことによって、簡単に接触部材9を音波探触子2から取り外すことができる。
【0033】
側鎖結晶性ポリマーの例としては、メタクリレート系樹脂が挙げられる。発泡剤としては、化学発泡剤や物理発泡剤が使用可能である。化学発泡剤には、熱分解型および反応型の有機系発泡剤ならびに無機系発泡剤が包含される。熱分解型の有機系発泡剤としては、例えば各種のアゾ化合物、ニトロソ化合物、ヒドラジン誘導体等が挙げられる。反応型の有機系発泡剤としては、例えばイソシアネート化合物等が挙げられる。熱分解型の無機系発泡剤としては、例えば重炭酸塩、炭酸塩等が挙げられる。他の発泡剤としては、市販されているマイクロカプセル化された熱膨張性微粒子を用いることができる。発泡剤の平均粒径は、5~50μmであることが好ましい。
【0034】
可逆性接着層14のさらに他の例としては、光硬化剥離層が挙げられる。光硬化剥離層は、例えば側鎖結晶性ブロック共重合体であるメタクリルポリマー100重量部と、光重合開始剤0.1~2重量部とを含有する。さらに、光重合開始剤の1種を単独で用いてもよいし、2種以上の光重合開始剤を併用してもよい。
【0035】
ポリマー層15は、フィルム状であることが好ましい。フィルム状とは、フィルムのみに限定されるものではなく、実施形態の効果を損なわない限りにおいて、フィルムないしシート等を含む概念である。 ポリマー層15の構成材料としては、例えばポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンエチルアクリレート共重合体、エチレンポリプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂が挙げられる。
ポリマー層15は、単層体又は複層体のいずれであってもよく、その厚さは5~250μmであることが好ましい。ポリマー層15には、第2接着層16との密着性を高めるために、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、ブラスト処理、ケミカルエッチング処理、プライマー処理等の表面処理を施してもよい。
【0036】
第2接着層16は、ポリマー層15とエラストマーを含む接触媒質10とを接着するために設けられる。第2接着層16としては、例えばゴム系溶剤形接着剤を用いることができる。ゴム系溶剤形接着剤には、SBS(スチレン-ブタジエン-スチレン)樹脂系接着剤やクロロプレンゴム系接着剤を用いることができる。接着の際に、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、ブラスト処理、ケミカルエッチング処理、プライマー処理等の表面処理を施すことができる。
【実施例0037】
以下、実施例およびその評価結果について述べる。
【0038】
(実施例1、比較例1)
まず、周波数2.25MHzの超音波探触子を用意した。エラストマー部材としては、スチレン・ブタジエンエラストマー(プロセスオイルを含有、硬度 JISタイプEが4、実験条件での音速1350m/s)を用意した。エラストマー部材の厚さは1mmである。ポリマーシートAとしては、ポリ塩化ビニリデンシート(ヤング率:350~560MPa、実験条件での音速:1960m/s)を用意した。ポリマーシートAの厚さはシート内の波長の1/100に相当する10μmである。
【0039】
ポリマーシートAを極薄のSBS接着剤でエラストマー部材に接着した。ポリマーシートAの接着面とは反対側の面に、極薄のSBS接着剤により厚さ20μmのポリマー層(PETシート)を接着した。PETシートを、可逆性接着層を介して、超音波探触子の超音波送受信面に積層した。このようにして、超音波探触子に対して、可逆性接着層、ポリマー層、接着層、エラストマー部材、及びポリマーシートAを順に積層した。この際に用いた可逆性接着層は、高温で接着性が低下する感温性粘着層であり、ポリメタクリレート系樹脂100重量部にマイクロカプセル化された熱膨張性微粒子(日本フィライト会社製、エクスパンセル(登録商標))10重量部を混合した厚さ30μmの層を用いた。
【0040】
最初に、せん断引張試験を実施して、自重のみでそれ以上に荷重をかけない状態で探触子を移動できるかを調べた。上記超音波探触子にロードセルを接続し、表面粗さRzが32μmのステンレス板上に載せ、そのステンレス板を低速移動させて、静摩擦係数を測定した。比較例1として、ポリマーシートを貼り付けていないエラストマー部材のみについても測定を行った。その結果、ポリマーシートを設けていない場合には、静摩擦係数が極めて大きく、超音波探触子を移動させるのが困難であるが、ポリマーシートを設置した場合には静摩擦係数が一様に小さくなり、移動させることが可能であることが分かった。
【0041】
次に、超音波探傷試験を実施した。長さ300mmの炭素鋼ブロックを用意した。超音波を投射する面の表面粗さRzは18μmとし、超音波が跳ね返ってくる面の表面粗さRzは1.6μmとした。2.25MHzの垂直超音波探触子に荷重を印加して、炭素鋼ブロックに押し付けて探傷試験を行った。比較例1としてエラストマー部材のみを設置した超音波探触子について探傷試験を行った。図5に荷重と反射波振幅の関係の一例を示す。この実験条件においては、エラストマーのみの場合、無荷重(0MPa)であっても反射波振幅が得られたが、ポリマーシートAがある場合、荷重を0.015MPa以上とすることで、エラストマー部材のみの信号の約1/10の振幅が得られた。この程度であれば探傷試験装置のゲイン調整により探傷は十分に可能である。
【0042】
図7に実施例1の超音波探触子による信号波形を示す。図7の点線の楕円で囲まれた部分に示すように、信号波形が明瞭に得られており、超音波探触子の性能が発揮されていることが分かる。さらに、アクチュエータにより荷重を印加したまま炭素鋼ブロック上の移動を試行したところ、振幅を保持したまま、容易に移動させることが可能であるが確認された。試験を行った後、接触部材をドライヤーで加熱したところ、温度が120℃に到達した際に、超音波探触子から接触部材が剥離した。容易に接触部材を交換可能であった。
【0043】
(参考例1)
ポリマーシートBとしてポリイミドシート(ヤング率:2100MPa、実験条件での音速:2450m/s)を用意した。ポリマーシートBの厚さは12.5μmであり、これはシート内の波長の1/100に相当する。実施例1と同じ超音波探触子及びエラストマー部材とポリマーシートBを使用し、実施例1と同様に超音波探触子にエラストマー部材及びポリマーシートBを積層した。実施例1と同様のせん断引張試験では、ポリマーシートBでも静摩擦係数は一様に小さく、移動させることが可能であることが分かった。
【0044】
次に、実施例1と同一条件で、超音波探傷試験を実施した。図8にポリマーシートBを用いた場合の探傷結果を示す。図7に示したように、ポリマーシートAでは反射信号が明瞭に観測されていたのに対し、ポリマーシートBではエラストマー部材とポリマーシートBの間で多重反射が発生し、観測結果が十分ではないことが分かった。これはポリマーシートBのヤング率が大きく、炭素鋼ブロックの表面粗さの凹凸に追随できず、それらの間に空気層が生じたためと考えられる。従って、ポリマーシートのヤング率は2000MPa以下であることが好ましい。
【0045】
なお、ポリマーシートの構成材料は、エラストマーと分離しているもののほかに、例えば摺動コーティングによる非粘着処理(非粘着処理は例えば30μm以上の厚みを要する)等によって、エラストマーに表面処理を施して形成したものであってもよく、同様な効果が得られる。ポリマーシートはいかなる方法で形成して構成されるものであってもよい。さらに、超音波探触子とエラストマー部材、エラストマー部材とポリマーシートとの間には接着層が存在されていてもよい
【0046】
(比較例2)
実施例1と同じ超音波探触子に対してポリマーシートAのみを配置した構成で、実施例1と同一条件で超音波探傷試験を実施した。最大0.5MPaまで荷重を印加したが、探傷信号は全く得られなかった。
【0047】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0048】
1…音波検査装置、2…音波探触子、3…振動子、5…音波素子、6…受波板、9…接触部材、10…接触媒質、11…シート状部材、12…荷重負荷治具、13…接合層、14…可逆性の第1接着層、15…ポリマー層、16…第2接着層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8