(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044490
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】ハイブリッド船舶推進機
(51)【国際特許分類】
B63H 20/08 20060101AFI20230323BHJP
B63H 5/08 20060101ALI20230323BHJP
B63H 5/125 20060101ALI20230323BHJP
B63H 20/00 20060101ALI20230323BHJP
B63H 21/14 20060101ALI20230323BHJP
B63H 21/17 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
B63H20/08 100
B63H5/08
B63H5/125
B63H20/00 510
B63H20/00 610
B63H21/14
B63H21/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152543
(22)【出願日】2021-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】金原 匡利
(57)【要約】
【課題】ハイブリッド船舶推進機の内部構造の複雑化を防ぎ、かつプレーニング時における船舶の航走性能の低下を抑制する。
【解決手段】ハイブリッド船外機1は、内燃機関により船舶の推進力を生成する内燃駆動推進部11と、内燃駆動推進部11を船舶に固定するクランプブラケット24と、電動モータにより船舶の推進力を生成する電動推進部33と、電動推進部33を昇降させる昇降装置40と、電動推進部33および昇降装置40をクランプブラケット24に取り付ける取付ブラケット55とを備えている。電動推進部33は、電動モータ34、プロペラシャフト35、プロペラ36、インバータ37および収容ケース38を備えている。昇降装置40は、電動推進部33を、プロペラ36が水面下に沈む位置と、プロペラ36が水面から出る位置との間において昇降させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関により船舶の推進力を生成する内燃駆動推進部と、
前記内燃駆動推進部を前記船舶に固定する固定ブラケットと、
電動モータにより前記船舶の推進力を生成する電動推進部と、
前記電動推進部を昇降させる昇降装置と、
前記電動推進部および前記昇降装置を前記固定ブラケットに取り付ける取付ブラケットとを備え、
前記内燃駆動推進部は、
前記内燃機関と、
前記内燃機関から出力された動力により回転する第1のプロペラシャフトと、
前記内燃機関から出力された動力を前記第1のプロペラシャフトに伝達する動力伝達機構と、
前記内燃機関、前記第1のプロペラシャフトおよび前記動力伝達機構を収容する第1の収容部と、
前記第1のプロペラシャフトに取り付けられた第1のプロペラとを備え、
前記電動推進部は、
前記電動モータと、
前記電動モータから出力された動力により回転する第2のプロペラシャフトと、
前記電動モータおよび前記第2のプロペラシャフトを収容する第2の収容部と、
前記第2のプロペラシャフトに取り付けられた第2のプロペラとを備え、
前記昇降装置は、前記電動推進部を、前記第2のプロペラが水面下に沈む位置と、前記第2のプロペラが水面から出る位置との間において昇降させることを特徴とするハイブリッド船舶推進機。
【請求項2】
前記昇降装置は、前記電動推進部を、前記第2のプロペラシャフトが水平に伸長した状態を保持しつつ昇降させることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド船舶推進機。
【請求項3】
前記昇降装置は、
一の方向に伸長し、前記取付ブラケットに固定された第1のリンク部材と、
前記第1のリンク部材と平行に伸長し、前記電動推進部が固定された第2のリンク部材と、
一端側が前記第1のリンク部材の一端側に回転可能に接合され、他端側が前記第2のリンク部材の一端側に回転可能に接合された第3のリンク部材と、
前記第3のリンク部材と平行に伸長し、一端側が前記第1のリンク部材の他端側に回転可能に接合され、他端側が前記第2のリンク部材の他端側に回転可能に接合された第4のリンク部材と、
前記第1のリンク部材に対して前記第3のリンク部材および前記第4のリンク部材を回動させるアクチュエータとを備えていることを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド船舶推進機。
【請求項4】
前記船舶がプレーニング状態に達したときに、前記昇降装置を制御して、前記第2のプロペラが水面から出るように、前記電動推進部を自動的に上昇させる昇降制御部を備えていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のハイブリッド船舶推進機。
【請求項5】
前記第2の収容部内には、前記電動モータの駆動を制御するインバータが設けられていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のハイブリッド船舶推進機。
【請求項6】
前記電動推進部、前記昇降装置および前記取付ブラケットを含む電動推進ユニットを2つ備え、
当該ハイブリッド船舶推進機を上方から見たときに、前記2つの電動推進ユニットは、それぞれの前記第2のプロペラシャフトが互いに平行またはハの字状となるように配置されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のハイブリッド船舶推進機。
【請求項7】
前記取付ブラケットには、前記電動推進部、前記昇降装置および前記取付ブラケットを含む電動推進ユニットを前記固定ブラケットに取り付けるための取付部が設けられ、
前記電動推進ユニットは、前記固定ブラケットに前記取付部を介して着脱可能に取り付けられることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のハイブリッド船舶推進機。
【請求項8】
前記固定ブラケットまたは前記取付部には、前記固定ブラケットに対する前記電動推進ユニットの取付位置を上下方向に変更することができる取付位置変更構造が設けられていることを特徴とする請求項7に記載のハイブリッド船舶推進機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関を動力源とする内燃駆動推進部と、電動モータを動力源とする電動推進部とを備えたハイブリッド船舶推進機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関を動力源とする船舶推進機が一般的であるが、近時、電動モータを動力源とする船舶推進機も普及している。
【0003】
内燃機関と電動モータとを比較すると、船舶を長時間に亘って高速航行させる能力については、内燃機関の方が電動モータよりも優れているといえる。電動モータを長時間に亘って高速回転させるためには大容量のバッテリが必要であることを考えると、現在においては内燃機関の方が実用的である。一方、船舶を極めて低速で移動させる能力については、低回転域から高トルクを発生させることができる電動モータの方が内燃機関よりも優れているといえる。また、低速航行時の静粛性については、電動モータの方が内燃機関よりも優れているといえる。内燃機関においては、低速航行時の大きな駆動音が耳障りになることがある。
【0004】
また、船舶推進機の動力源として、内燃機関と電動モータとの双方を用いる方法がある。この方法によれば、高速域における内燃機関の高い能力を生かしつつ、低速域における内燃機関の能力不足を電動モータにより補うことができる。また、この方法によれば、低速航行時の騒音を抑制することができる。
【0005】
船舶推進機の動力源として内燃機関と電動モータとの双方を用いる方法には、具体的には、次の2通りの方法がある。
【0006】
第1は、内燃機関のみを動力源とする内燃駆動の船舶推進機と、電動モータのみを動力源とする電動の船舶推進機とをそれぞれ別々に用意し、これら2種類の船舶推進機を船舶に設ける方法である。例えば、内燃駆動の船外機と電動の船外機とを1隻の船舶に多機掛けすることが、これに相当する。第2は、内燃機関と電動モータとの双方を動力源として備えたハイブリッド船舶推進機を船舶に設ける方法である。
【0007】
下記の特許文献1には、内燃機関と電動モータとの双方を動力源として備えた船外機が記載されている。この船外機は、内燃機関および電動モータを内蔵しており、内燃機関の動力と電動モータの動力とが、共通のメインドライブシャフトおよび共通のプロペラシャフトを介して共通のプロペラに伝達される構造を有している。特許文献1の
図2には、内燃機関の動力および電動モータの動力をメインドライブシャフトに伝達する機構が示されており、この機構には、自動遠心クラッチや多数のギヤが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
船舶推進機の動力源として内燃機関と電動モータとの双方を用いる方法によれば、上述したように、内燃機関の長所を生かしつつ、内燃機関の短所を電動モータにより補うことができ、広範囲の速度域において船舶の航走性能を高めることができる。
【0010】
しかしながら、内燃機関のみを動力源とする内燃駆動の船舶推進機と、電動モータのみを動力源とする電動の船舶推進機とを船舶に設ける方法については、次のような問題がある。
【0011】
内燃駆動の船舶推進機と電動の船舶推進機とを設けるには、ある程度大きなスペースを要する。それゆえ、船尾部分のスペースが小さい小型の船舶に、内燃駆動の船舶推進機と電動の船舶推進機とを設けることは難しい。また、中型の船舶においても、例えば内燃駆動の複数の船外機が船舶に既に多機掛けされている場合には、その船舶に電動の船外機をさらに取り付けることは困難なことがある。
【0012】
また、ハイブリッド船舶推進機を設ける方法については、上記特許文献1に記載された船外機のように、内燃機関の動力と電動モータの動力とを共通のドライブシャフトに伝達する機構が複雑であり、製造コストが高くなるという問題がある。
【0013】
そこで、本出願の発明者は、電動モータと、この電動モータの出力軸に接続されたプロペラとを備えた電動推進装置を、内燃機関のみを動力源とする内燃駆動の船舶推進機に外付けする方法を考えた。この方法によれば、電動推進装置が外付けされた内燃駆動の船舶推進機を船舶に設けることとなるので、船舶に直接設ける船舶推進機は内燃駆動の船舶推進機のみである。したがって、船尾部分のスペースが小さい小型の船舶においても、内燃駆動の複数の船外機が既に多機掛けされている船舶においても、電動推進装置が外付けされた内燃駆動の船舶推進機を容易に設けることができ、内燃駆動による推進力と電動による推進力とを得ることができる。また、この方法によれば、電動推進装置は内燃駆動の船舶推進機に外付けされているので、内燃機関の動力により回転するプロペラと、電動モータの動力により回転するプロペラとはそれぞれ別々であり、また、内燃機関からプロペラへ動力を伝達する機構と、電動モータからプロペラへ動力を伝達する機構とはそれぞれ別々である。したがって、内燃機関による推進力と電動モータによる推進力とを得るに当たり、内燃機関の動力と電動モータの動力とを共通のドライブシャフトに伝達する複雑な機構を船舶推進機に設ける必要がない。
【0014】
しかしながら、電動推進装置を内燃駆動の船舶推進機に外付けする方法には、次のような問題がある。内燃駆動の船舶推進機に外付けした電動推進装置は水面下に沈んでいる。そのため、船舶の移動時には、電動推進装置に水が当たり、それが船舶の移動に対する抵抗となる。その抵抗が、船舶のプレーニング時に高くなり、プレーニング時における船舶の航走性能を低下させるおそれがある。
【0015】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、内部の構造の複雑化を防ぐことができ、かつプレーニング時における船舶の航走性能の低下を抑制することができるハイブリッド船舶推進機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明のハイブリッド船舶推進機は、内燃機関により船舶の推進力を生成する内燃駆動推進部と、前記内燃駆動推進部を前記船舶に固定する固定ブラケットと、電動モータにより前記船舶の推進力を生成する電動推進部と、前記電動推進部を昇降させる昇降装置と、前記電動推進部および前記昇降装置を前記固定ブラケットに取り付ける取付ブラケットとを備え、前記内燃駆動推進部は、前記内燃機関と、前記内燃機関から出力された動力により回転する第1のプロペラシャフトと、前記内燃機関から出力された動力を前記第1のプロペラシャフトに伝達する動力伝達機構と、前記内燃機関、前記第1のプロペラシャフトおよび前記動力伝達機構を収容する第1の収容部と、前記第1のプロペラシャフトに取り付けられた第1のプロペラとを備え、前記電動推進部は、前記電動モータと、前記電動モータから出力された動力により回転する第2のプロペラシャフトと、前記電動モータおよび前記第2のプロペラシャフトを収容する第2の収容部と、前記第2のプロペラシャフトに取り付けられた第2のプロペラとを備え、前記昇降装置は、前記電動推進部を、前記第2のプロペラが水面下に沈む位置と、前記第2のプロペラが水面から出る位置との間において昇降させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ハイブリッド船舶推進機の内部の構造の複雑化を防ぐことができ、かつプレーニング時における船舶の航走性能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】電動推進部が水面下に沈んだ状態の本発明の実施例のハイブリッド船外機をその左側から見た説明図である。
【
図2】電動推進部が水面から出た状態の本発明の実施例のハイブリッド船外機をその左側から見た説明図である。
【
図3】
図1中のハイブリッド船外機をその後ろ側から見た状態を示す説明図である。
【
図4】
図1中のハイブリッド船外機をその上側から見た状態を示す説明図である。
【
図5】本発明の実施例のハイブリッド船外機の電動推進ユニットを示す説明図である。
【
図6】本発明の実施例のハイブリッド船外機の電動推進ユニットにおける昇降装置を示す説明図である。
【
図7】本発明の実施例のハイブリッド船外機の電動推進ユニットの取付構造を示す説明図である。
【
図8】本発明の実施例のハイブリッド船外機に関する電気的構成を示す説明図である。
【
図9】本発明の実施例のハイブリッド船外機による船舶の移動制御を示す説明図である。
【
図10】本発明の実施例のハイブリッド船外機のいくつかの変形例および応用例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態のハイブリッド船舶推進機は、内燃機関により船舶の推進力を生成する内燃駆動推進部と、内燃駆動推進部を船舶に固定する固定ブラケットと、電動モータにより船舶の推進力を生成する電動推進部と、電動推進部を昇降させる昇降装置と、電動推進部および昇降装置を固定ブラケットに取り付ける取付ブラケットとを備えている。
【0020】
内燃駆動推進部は、内燃機関と、内燃機関から出力された動力により回転する第1のプロペラシャフトと、内燃機関から出力された動力を第1のプロペラシャフトに伝達する動力伝達機構と、内燃機関、第1のプロペラシャフトおよび動力伝達機構を収容する第1の収容部と、第1のプロペラシャフトに取り付けられた第1のプロペラとを備えている。
【0021】
電動推進部は、電動モータと、電動モータから出力された動力により回転する第2のプロペラシャフトと、電動モータおよび第2のプロペラシャフトを収容する第2の収容部と、第2のプロペラシャフトに取り付けられた第2のプロペラとを備えている。
【0022】
昇降装置は、電動推進部を、第2のプロペラが水面下に沈む位置と、第2のプロペラが水面から出る位置との間において昇降させる。
【0023】
本実施形態のハイブリッド船舶推進機によれば、船舶のプレーニング時に、昇降装置により、電動推進部を第2のプロペラが水面から出るように上昇させることによって、船舶のプレーニング時に水が電動推進部に当たることによって生じる抵抗を小さくすることができ、プレーニング時における船舶の航走性能がこの抵抗によって低下することを抑制することができる。
【0024】
また、本実施形態のハイブリッド船舶推進機は、内燃駆動推進部を船舶に固定する固定ブラケットに、取付ブラケットを介して電動推進部および昇降装置を取り付ける構成を有している。この構成から把握されるように、内燃駆動推進部と電動推進部とはそれぞれ互いに別々のものであり、両者は互いに独立している。具体的には、第1のプロペラと第2のプロペラとは互いに別々のものであり、これらは互いに独立している。また、内燃機関の動力を第1のプロペラに伝達する機構と、電動モータの動力を第2のプロペラに伝達する機構とは互いに別々のものであり、これらは互いに独立している。それゆえ、内燃機関の動力と電動モータの動力とを共通のドライブシャフトに伝達する複雑な機構を用いることなく、内燃機関による推進力と電動モータによる推進力とを生成することができる。したがって、ハイブリッド船舶推進機の内部の構造の複雑化を防ぐことができる。
【実施例0025】
以下、本発明のハイブリッド船舶推進機の実施例であるハイブリッド船外機につき、図面を参照しながら説明する。なお、実施例において、前(Fd)、後(Bd)、左(Ld)、右(Rd)、上(Ud)、下(Dd)の方向を述べる際には、
図1~7および
図9中の右下に描いた矢印に従う。
【0026】
(ハイブリッド船外機)
図1および
図2は、本発明の実施例であるハイブリッド船外機1をその左側から見た状態を示しており、
図1は電動推進部33が水面下に沈んだ状態を示し、
図2は電動推進部33が水面から出た状態を示している。
図3は
図1中のハイブリッド船外機1をその後ろ側から見た状態を示している。
図4は
図1中のハイブリッド船外機1をその上側から見た状態を示している。
【0027】
ハイブリッド船外機1は、内燃機関と電動モータとの双方を動力源とする船外機である。ハイブリッド船外機1は、
図3に示すように、内燃駆動推進部11および2つの電動推進ユニット31、32を備えている。内燃駆動推進部11は、内燃機関により船舶の推進力を生成する部分である。一方、各電動推進ユニット31、32は電動推進部33を備え、電動推進部33は、電動モータにより船舶の推進力を生成する部分である。以下、ハイブリッド船外機1を単に「船外機1」という。
【0028】
(内燃駆動推進部)
内燃駆動推進部11は、
図1に示すように、船外機1の上部に設けられた内燃機関12と、船外機1の上下方向中間部を上下方向に伸長するドライブシャフト13と、船外機1の下部に設けられたギヤ機構14と、船外機1の下部に設けられて、前後方向に伸長するプロペラシャフト15と、プロペラシャフト15の後端側部分に取り付けられたプロペラ16とを備えている。
【0029】
内燃機関12は、例えば、ガソリンを燃料とする4ストロークエンジンである。内燃機関12から出力された動力はドライブシャフト13およびギヤ機構14を介してプロペラシャフト15に伝達される。これにより、プロペラシャフト15は内燃機関12の動力に基づいて回転する。プロペラ16はプロペラシャフト15と共に回転し、船舶の推進力を生成する。また、ギヤ機構14にはクラッチ(図示せず)が設けられ、クラッチの動作により、内燃機関12の動力をプロペラシャフト15に伝達するか否かの切替、およびプロペラシャフト15の回転方向の切替を行うことができるようになっている。
【0030】
また、内燃駆動推進部11は、トップカウル18、ボトムカウル19、アッパーケース20、ミドルケース21、およびギヤケース22(ロワーケース)を備えている。なお、理解の便宜のため、
図1および
図2中のミドルケース21において、外部に露出している部分にドット模様を付した。
【0031】
トップカウル18およびボトムカウル19は内燃機関12を覆っている。アッパーケース20内およびミドルケース21内にはドライブシャフト13が収容されている。ギヤケース22内には、ギヤ機構14およびプロペラシャフト15の前端側部分が収容されている。また、ギヤケース22の後部の上側部分であって、プロペラ16の上方には、プロペラ16への空気の吸込みを抑制するアンチキャビテーションプレート23が設けられている。また、アッパーケース20の前方には、船外機1を船舶のトランサムに取り付けて固定するためのクランプブラケット24が設けられている。クランプブラケット24にはスイベルブラケット25が取り付けられ、船外機1は、その左右方向の向きを変えることができるように、スイベルブラケット25にステアリングシャフト26を介して回動可能に支持されている。
【0032】
なお、プロペラシャフト15は「第1のプロペラシャフト」の具体例である。また、ドライブシャフト13およびギヤ機構14は「動力伝達機構」の具体例である。また、プロペラ16は「第1のプロペラ」の具体例である。また、トップカウル18、ボトムカウル19、アッパーケース20、ミドルケース21およびギヤケース22は「第1の収容部」の具体例である。また、クランプブラケット24は「固定ブラケット」の具体例である。
【0033】
(電動推進ユニット)
船外機1は、上述したように、2つの電動推進ユニット31、32を備えている。
図3に示すように、電動推進ユニット31は内燃駆動推進部11の左側に配置され、電動推進ユニット32は内燃駆動推進部11の右側に配置されている。電動推進ユニット31、32は、内燃駆動推進部11を中心に左右対称に配置されている。また、
図4に示すように、船外機1を上方から見たときに、2つの電動推進ユニット31、32は、それぞれのプロペラシャフト35が互いにハの字状となるように配置されている。また、電動推進ユニット31、32は、それぞれの個々の構成要素についても互いに左右対称に構成されており、両者の機能および構造は略同じである。以下、電動推進ユニット31の機能および構造についてのみ詳細に説明する。
【0034】
図5は電動推進ユニット31を示している。
図5に示すように、電動推進ユニット31は、電動推進部33、昇降装置40、および取付ブラケット55を備えている。
【0035】
(電動推進部)
電動推進部33は、電動モータ34、プロペラシャフト35、プロペラ36、インバータ37、および収容ケース38を備えている。
【0036】
電動モータ34は例えばブラシレスモータである。プロペラシャフト35は、
図1に示すように、船外機1を側方から見たときに、その軸線Bが、内燃駆動推進部11のプロペラシャフト15の軸線Aと同様に前後方向に水平に伸長している。また、
図4に示すように、船外機1を上方から見たときに、左側の電動推進ユニット31におけるプロペラシャフト35の軸線Bは、その後端側が前端側よりも左に位置するように、内燃駆動推進部11のプロペラシャフト15の軸線Aに対して例えば約20度傾斜している。また、
図5に示すように、プロペラシャフト35の前端部は電動モータ34の出力軸に接続されている。プロペラシャフト35は、電動モータ34の出力軸と共に回転し、電動モータ34の回転をプロペラ36に伝達する。
【0037】
プロペラ36は、プロペラシャフト35の後端側部分に取り付けられている。プロペラ36は、プロペラシャフト35と共に回転し、船舶の推進力を生成する。
【0038】
インバータ37は、電動モータ34の駆動を制御する回路である。
図5に示すように、電動モータ34、プロペラシャフト35の前端側部分、およびインバータ37は収容ケース38内に収容されている。収容ケース38はその内部に水が浸入することを防止する完全防水構造を有している。
【0039】
また、電動推進部33には、電動モータ34の駆動を制御する制御信号をインバータ37に送るためのケーブル、および電動モータ34およびインバータ37に電力を供給するためのケーブル等を含むハーネス39が接続されている。ハーネス39は、昇降装置40の第1のリンク部材41、第3のリンク部材43、および支持部材52に沿うように配線されている。
【0040】
なお、プロペラシャフト35は「第2のプロペラシャフト」の具体例である。プロペラ36は「第2のプロペラ」の具体例である。収容ケース38は「第2の収容部」の具体例である。
【0041】
(昇降装置)
図6は昇降装置40を示している。昇降装置40は、電動推進部33を、
図1に示すようにプロペラ36が水面下に沈む位置と、
図2に示すようにプロペラ36が水面から出る位置との間において昇降させる装置である。昇降装置40は、電動推進部33を、そのプロペラシャフト35が水平に伸長した状態を保持しつつ昇降させる。
【0042】
昇降装置40は、
図6に示すように、4本のリンク部材、すなわち、第1のリンク部材41、第2のリンク部材42、第3のリンク部材43、および第4のリンク部材44と、アクチュエータ49とを備えている。4本のリンク部材41~44は、リンク機構を構成しており、より具体的には平行クランク機構を構成している。
【0043】
具体的に説明すると、各リンク部材41~44は、例えば金属材料により、横断面コ字状の棒状に形成されている。第1のリンク部材41は上下方向に伸長している。第2のリンク部材42は第1のリンク部材41と平行に上下方向に伸長している。第3のリンク部材43の前端側は第1のリンク部材41の下端側に接合ピン45を介して回転可能に接合され、第3のリンク部材43の後端側は第2のリンク部材42の下端側に接合ピン46を介して回転可能に接合されている。第4のリンク部材44は、第3のリンク部材43と平行に伸長している。また、第4のリンク部材44の前端側は第1のリンク部材41の上端側に接合ピン47を介して回転可能に接合され、第4のリンク部材44の後端側は第2のリンク部材42の上端側に接合ピン48を介して回転可能に接合されている。
【0044】
アクチュエータ49は例えば油圧シリンダである。なお、アクチュエータ49として電動シリンダを用いてもよい。アクチュエータ49のシリンダチューブ50の前端部は第1のリンク部材41の上端側に接合ピン47を介して回転可能に接合されている。また、アクチュエータ49のロッド51の後端部は第3のリンク部材43の後端側に接合ピン46を介して回転可能に接合されている。また、図示を省略しているが、アクチュエータ49には、アクチュエータ制御装置79(
図8参照)とアクチュエータ49との間において作動油を流通させる油圧管路が接続されている。アクチュエータ49は、シリンダチューブ50に対してロッド51を伸縮させることにより、第1のリンク部材41に対して第3のリンク部材43および第4のリンク部材44を回動させ、第2のリンク部材42を上下方向に移動させる。
【0045】
また、
図5に示すように、第2のリンク部材42の下端側部分には、上下方向に伸長する支持部材52の上端側部分が固定されている。また、支持部材52の下端部には電動推進部33の収容ケース38の上部が固定されている。電動推進部33は、アクチュエータ49の駆動により、プロペラシャフト35が水平に伸長した状態を保持しつつ上下方向に移動する。
【0046】
(取付ブラケット)
図7はクランプブラケット24の左側部分、取付ブラケット55、および昇降装置40の前側部分を示している。取付ブラケット55は、電動推進部33が固定された昇降装置40をクランプブラケット24に取り付ける部材である。取付ブラケット55は、例えば金属材料により形成され、
図3および
図4に示すように、概ね左右方向に伸長している。
図7に示すように、取付ブラケット55の左端部(先端部)には、昇降装置40の第1のリンク部材41が例えばボルト等の固定部材56を用いて固定されている。
【0047】
また、取付ブラケット55の右端部(基端部)は、クランプブラケット24の左側部分に取り付けられる。詳細には、取付ブラケット55の右端部には、当該取付ブラケット55、取付ブラケット55に固定された昇降装置40、および昇降装置40に固定された電動推進部33を有する電動推進ユニット31をクランプブラケット24に取り付けるための取付部57が設けられている。一方、クランプブラケット24の左側部分には取付面58が設けられている。電動推進ユニット31は、取付ブラケット55の取付部57を、クランプブラケット24の取付面58に、例えばボルト等の固定部材59を用いて固定することにより取り付けられる。この取付構造によれば、電動推進ユニット31をクランプブラケット24に容易に外付けする(外側から取り付ける)ことができる。また、この取付構造によれば、電動推進ユニット31をクランプブラケット24に対して容易に着脱することができる。
【0048】
また、クランプブラケット24の取付面58には、クランプブラケット24に対する電動推進ユニット31の取付位置を上下方向に変更することができる取付位置変更構造60が設けられている。具体的には、取付面58には、固定部材59を固定する(締着させる)ことができる穴61(例えばねじが切られたボルト穴)が上下方向に複数並んでいる。複数の穴61の中から、固定部材59を固定する穴を選択することにより、電動推進ユニット31の上下方向における取付位置を選択することができる。なお、このような取付位置変更構造を、クランプブラケット24の取付面58ではなく、取付ブラケット55の取付部57に設けてもよい。
【0049】
(電動推進部の昇降)
昇降装置40は、船舶の航走状態に応じて、電動推進部33を上昇させ、または下降させる。本実施例において、2つの電動推進ユニット31、32のそれぞれの昇降装置40は、基本的には互いに連動するように制御される。具体的には、船舶のプレーニング状態ではない低速航行時には、昇降装置40は、
図1に示すように、電動推進部33を下降させてプロペラ36を水面下に沈める。
図1中の二点鎖線S1は、船舶のプレーニング状態ではない低速移動時における水面の位置を示している。船舶のプレーニング状態ではない低速移動時には、ミドルケース21において外側に露出している部分(図においてドット模様を付した部分)の大部分、およびギヤケース22の全体が水面下に沈み、アンチキャビテーションプレート23も水面下に沈む。船舶のプレーニング状態ではない低速移動時には、昇降装置40は、電動推進部33の位置を、例えば、水面下に沈んでいるアンチキャビテーションプレート23と同等かそれよりも下の位置にする。これにより、船舶のプレーニング状態ではない低速移動時において、電動推進部33の位置は水面S1よりも下の位置になり、プロペラ36は水面下に沈む。
【0050】
船舶のプレーニング状態ではない低速移動時には、利用者の船舶の操縦に応じて、電動モータ34を駆動させ、プロペラ36を回転させる。船舶のプレーニング状態ではない低速移動時には、電動推進部33のプロペラ36が水面下に沈んでいるので、プロペラ36を回転させることにより、推進力を船舶に与えることができる。
【0051】
また、船舶の乗員数や荷物の積載量等により喫水が変動するので、船舶のプレーニング状態ではない低速移動時における船外機1に対する水面S1の位置が変化する。船外機1によれば、昇降装置40を作動させて電動推進部33を小さく上昇または下降させることにより、このような水面S1の変化に応じて、電動推進部33の上下方向の位置を調節することができる。
【0052】
一方、船舶のプレーニング時には、昇降装置40は、
図2に示すように、電動推進部33を上昇させてプロペラ36を含む電動推進部33の全部または大部分を水面から出す。
図2中の二点鎖線S2は、船舶のプレーニング時における水面の位置を示している。船舶のプレーニング時には、船舶のプレーニング状態ではない低速移動時と比較して、船舶および船外機1が浮上し、船舶および船外機1の水面に対する位置が高くなる。船舶のプレーニング時には、水面の位置がアンチキャビテーションプレート23の位置と同等になり、ミドルケース21の全体、およびギヤケース22の上部(アンチキャビテーションプレート23よりも上側の部分)が水面から出る。船舶のプレーニング時には、昇降装置40は、電動推進部33の位置を、少なくともアンチキャビテーションプレート23よりも上の位置にする。これにより、船舶のプレーニング時において、プロペラ36を含む電動推進部33の全部または大部分が水面S2よりも上に位置するようになる。なお、本実施例では、船舶のプレーニング時に、昇降装置40は、電動推進部33を、アンチキャビテーションプレート23を越え、ミドルケース21において外側に露出している部分の上部と同等かそれよりも上の位置まで上昇させる。
【0053】
船舶のプレーニング時には、電動モータ34の駆動を停止させ、プロペラ36の回転を停止させる。船舶のプレーニング時には、電動推進部33においてプロペラ36を含む全部または大部分が水面から出るので、船舶の移動に対する抵抗を抑制することができる。すなわち、仮に、船舶のプレーニング時に、電動推進部33においてプロペラ36を含む全部または大部分が水面下に沈んでいる場合には、水が電動推進部33に当たることによって生じる抵抗が船舶の移動の妨げとなる。本実施例においては、船舶のプレーニング時において、電動推進部33の全部または大部分が水面から出るので、このような抵抗の発生を抑制することができる。
【0054】
また、本実施例においては、
図2に示すように、昇降装置40により、電動推進部33を、ミドルケース21において外側に露出している部分の上部と同等かそれよりも上の位置まで上昇させることができる。この位置は、船舶のプレーニング状態ではない低速航行時の水面S1よりも高い位置である。これにより、本実施例における昇降装置40によれば、船舶のプレーニング時だけでなく、船舶のプレーニング状態ではない低速航行時においても、電動推進部33を水面から出すことができる。船舶のプレーニング状態ではない低速航行時には、船外機1は、通常、昇降装置40により電動推進部33を水面下に沈ませ、電動推進部33の電動モータ34の駆動と、内燃駆動推進部11の内燃機関12の駆動とにより船舶の推進力を生成するのであるが、例えば船舶の操縦者の操作に応じて、船外機1は、船舶のプレーニング状態ではない低速航行時において、電動推進部33の電動モータ34の駆動を停止させ、かつ昇降装置40を作動させて電動推進部33を水面から出し、内燃機関12の駆動のみにより船舶の推進力を生成することもできる。
【0055】
また、船外機1を側方から見たときに、
図1に示すように電動推進部33が水面下に沈んだ位置にあるときには、電動推進部33は、ドライブシャフト13よりも後ろ側に位置している。一方、
図2に示すように電動推進部33が水面から出た位置にあるときには、電動推進部33は、ドライブシャフト13よりも前側またはドライブシャフト13と同等の位置に位置している。このように、船外機1によれば、船舶のプレーニング時には、
図2に示すように、昇降装置40を畳み、電動推進部33をクランプブラケット24に接近した位置に配置することができる。これにより、船舶のプレーニング時における船舶と水面との衝突等による衝撃や振動によって、電動推進部33が揺れ動くことを抑制することができ、電動推進部33を安定して支持することができる。
【0056】
(船舶の移動制御)
図8は、船外機1に関する電気的構成を示している。例えば船外機1の上部には制御部71が設けられている。制御部71には、マイクロコンピュータ等が設けられている。
図8に示すように、制御部71の入力側には、リモートコントローラ72、昇降操作装置74、GPS(Global Positioning System)受信機77、および速度検出部78が接続されている。速度検出部78は船舶の速度を検出する装置である。また、制御部71の出力側には、内燃駆動推進部11、左側の電動推進ユニット31の昇降装置40のアクチュエータ49を制御するアクチュエータ制御装置79、左側の電動推進ユニット31の電動推進部33のインバータ37、右側の電動推進ユニット32の昇降装置40のアクチュエータ49を制御するアクチュエータ制御装置80、および右側の電動推進ユニット32の電動推進部33のインバータ37が接続されている。各アクチュエータ制御装置79、80は例えば油圧回路等を有している。なお、リモートコントローラ72、昇降操作装置74、GPS受信機77、速度検出部78およびアクチュエータ制御装置79、80は船舶に設けられている。また、制御部71は「昇降制御部」の具体例である。
【0057】
船舶の操縦者は、リモートコントローラ72のレバー73を
図8中のF方向またはR方向に傾ける操作をして、クラッチを作動させ、内燃機関12の動力をプロペラシャフト15に伝達するか否かの切替、およびプロペラシャフト15の回転方向の切替を行うことができる。また、操縦者は、リモートコントローラ72のレバー73をF方向またはR方向に傾ける操作をして、内燃機関12の回転数を増減させることができる。また、操縦者は、リモートコントローラ72のレバー73をF方向またはR方向に傾ける操作をして、各電動推進ユニット31、32の電動推進部33の電動モータ34の駆動・停止の切替および回転数の増減を行うことができる。
【0058】
また、操縦者は、昇降操作装置74を操作することにより、左側の電動推進ユニット31の昇降装置40のアクチュエータ49および右側の電動推進ユニット32の昇降装置40のアクチュエータ49を操作することができる。これら2つのアクチュエータ49は、昇降操作装置74の操作に応じて連動して動作する。具体的には、操縦者が、昇降操作装置74の上昇ボタン75を押すと、電動推進ユニット31、32のそれぞれにおいて、昇降装置40のアクチュエータ49が同時に収縮し、電動推進部33が同時に上昇する。また、操縦者が、昇降操作装置74の下降ボタン76を押すと、電動推進ユニット31、32のそれぞれにおいて、昇降装置40のアクチュエータ49が同時に伸長し、電動推進部33が同時に下降する。
【0059】
具体的は、操縦者がリモートコントローラ72のレバー73を中立位置(F方向にもR方向にも傾けない状態)にしたとき、制御部71は、内燃機関12を停止させる(または内燃機関12の動力をプロペラシャフト15に伝達させないアイドリング状態にする)。また、操縦者がリモートコントローラ72のレバー73を中立位置にしたときに、各電動推進ユニット31、32の電動推進部33が水面下に沈んでいる状態である場合には、制御部71は、各電動推進ユニット31、32の電動推進部33の電動モータ34を停止させる。なお、各電動推進ユニット31、32の電動推進部33が水面から出ているときには、制御部71は、基本的に、各電動推進部33の電動モータ34を停止させる。
【0060】
また、操縦者が、船舶を極めて低速で前進させるべく、昇降操作装置74を操作して各電動推進ユニット31、32の電動推進部33を下降させて水面下に沈めた後、リモートコントローラ72のレバー73をF方向に小さく傾けたとき、制御部71は、内燃機関12が停止した状態(またはアイドリング状態)を維持しつつ、各電動推進ユニット31、32の電動推進部33の電動モータ34を駆動させてプロペラ36を正転させる。これにより、船舶は、各電動推進ユニット31、32の電動推進部33による推進力によって極めて低速に前進する。
【0061】
また、各電動推進ユニット31、32の電動推進部33が水面下に沈んでいる状態で、操縦者が、極めて低速ではないが、プレーニング状態には至らない程度の低速で船舶を前進させるべく、リモートコントローラ72のレバー73をF方向に中程度傾けたとき、制御部71は、内燃機関12を低回転で作動させ、その回転をプロペラシャフト15に伝達させてプロペラ16を正転させ、かつ、各電動推進ユニット31、32の電動推進部33の電動モータ34を駆動させてプロペラ36を正転させる。これにより、船舶は、内燃駆動推進部11による推進力と各電動推進ユニット31、32の電動推進部33による推進力によって低速前進する。
【0062】
また、各電動推進ユニット31、32の電動推進部33が水面下に沈んでいる状態で、操縦者が、船舶をプレーニング状態で前進させるべく、リモートコントローラ72のレバー73をF方向に大きく傾けたとき、制御部71は、まず、内燃機関12を高回転で作動させてプロペラ16を高速正転させ、かつ、各電動推進ユニット31、32の電動推進部33の電動モータ34を駆動させてプロペラ36を正転させる。これにより、船舶は、内燃駆動推進部11による推進力と各電動推進ユニット31、32の電動推進部33による推進力によって加速する。そして、船舶がプレーニング状態に達したとき、制御部71は、船舶の速度に基づいて船舶がプレーニング状態に達したことを認識し、内燃機関12の作動を維持しつつ、各電動推進ユニット31、32の電動推進部33の電動モータ34を停止させる。続いて、制御部71は、各電動推進ユニット31、32の電動推進部33を上昇させて水面から出す旨の制御信号をアクチュエータ制御装置79および80にそれぞれ送信する。これに応じて、アクチュエータ制御装置79および80は、電動推進ユニット31、32の昇降装置40をそれぞれ制御し、電動推進ユニット31、32の電動推進部33を自動的に上昇させて水面から出す。これにより、船舶は、内燃駆動推進部11による推進力のみによって滑走する。
【0063】
また、制御部71は、船舶がプレーニング状態に達したことを例えば次のように認識する。すなわち、制御部71は、速度検出部78により船舶の速度を検出し、速度検出部78による検出結果に基づき、船舶の速度が、船舶がプレーニング状態に達する所定の基準速度を超えた場合に、船舶がプレーニング状態に達したと認識する。
【0064】
また、制御部71は、GPS受信機77により受信された船舶の位置情報に基づいて、操縦者が設定した位置に船舶を自動的に低速移動させる制御(自動移動制御)、および波や潮流に対抗して船舶を現在位置にとどめる制御(定点保持制御)を行うことができる。
【0065】
具体的に説明すると、自動移動制御または定点保持制御を行う際には、事前に、各電動推進ユニット31、32の電動推進部33を水面下に沈める。各電動推進ユニット31、32の電動推進部33が水面下に沈んだ状態において、制御部71は、各電動推進ユニット31、32の電動モータ34の駆動を制御して、各電動推進ユニット31、32のプロペラ36を同時に正転させ、または同時に逆転させることにより、
図9(A)に示すように、船舶121を低速前進、または低速後進させることができる。また、制御部71は、
図9(B)中の実線の矢印が示すように、左側の電動推進ユニット31の電動モータ34の駆動を制御して、左側の電動推進ユニット31のプロペラ36を逆転させ、かつ右側の電動推進ユニット32の電動モータ34を停止させて、右側の電動推進ユニット32のプロペラ36を停止させることにより、船舶121を左に旋回させることができる。また、制御部71は、
図9(B)中の破線の矢印が示すように、右側の電動推進ユニット32の電動モータ34の駆動を制御して、右側の電動推進ユニット32のプロペラ36を逆転させ、かつ左側の電動推進ユニット31の電動モータ34を停止させて、左側の電動推進ユニット31のプロペラ36を停止させることにより、船舶121を右に旋回させることができる。また、制御部71は、
図9(C)に示すように、左側の電動推進ユニット31の電動モータ34の駆動を制御して、左側の電動推進ユニット31のプロペラ36を逆転させ、かつ右側の電動推進ユニット32の電動モータ34の駆動を制御して、右側の電動推進ユニット32のプロペラ36を正転させることにより、船舶121を左に移動させることができる。また、制御部71は、
図9(D)に示すように、右側の電動推進ユニット32の電動モータ34の駆動を制御して、右側の電動推進ユニット32のプロペラ36を逆転させ、かつ左側の電動推進ユニット31の電動モータ34の駆動を制御して、左側の電動推進ユニット31のプロペラ36を正転させることにより、船舶121を右に移動させることができる。
【0066】
制御部71は、GPS受信機77により受信された船舶の位置情報に基づいて船舶の現在位置を認識し、船舶の現在位置および操縦者が設定した位置に基づいて船舶の移動方向を決定し、各電動推進ユニット31、32の電動モータ34の駆動を制御して、船舶をその方向に自動的に移動させることができる。また、制御部71は、GPS受信機77により受信された船舶の位置情報に基づいて船舶の現在位置を認識し、波や潮流により船舶の現在位置が一定の位置からずれたときには、各電動推進ユニット31、32の電動モータ34の駆動を制御して、船舶が当該一定の位置に戻るように船舶を自動的に移動させ、船舶を当該一定の位置にとどめるようにすることができる。
【0067】
以上説明した通り、本発明の実施例の船外機1は、電動推進部33をプロペラ36が水面下に沈む位置とプロペラ36が水面から出る位置との間において昇降させる昇降装置40を有している。船外機1によれば、船舶のプレーニング時に、昇降装置40により、プロペラ36を含む電動推進部33の全部または大部分が水面から出るように電動推進部33を上昇させることによって、船舶のプレーニング時に水が電動推進部33に当たることによって生じる抵抗を小さくすることができ、プレーニング時における船舶の航走性能がこの抵抗によって低下することを抑制することができる。また、船舶のプレーニング時に水がプロペラ36に当たり難くすることで、抵抗を小さくする効果を高めることができ、プレーニング時における船舶の航走性能の低下を効果的に抑制することができる。
【0068】
また、本実施例の船外機1における昇降装置40は、電動推進部33を、そのプロペラシャフト35が水平に伸長した状態を保持しつつ昇降させる。これにより、昇降装置40を制御することにより、電動推進部33のプロペラシャフト35が水平を保持した状態で、水面下においてプロペラ36と水面との間の距離を変えることができる。これにより、船舶の乗員数または積載荷物の重量等に応じて、水面下におけるプロペラ36と水面との間の距離を容易に調節することができる。
【0069】
また、本実施例の船外機1における昇降装置40は、平行クランク機構を構成する4本のリンク部材41~44と、アクチュエータ49とを備えている。この構成により、電動推進部33をそのプロペラシャフト35が水平に伸長した状態を保持しつつ昇降させる動作を容易に実現することができる。
【0070】
また、本実施例の船外機1において、制御部71は、船舶がプレーニング状態に達したときに、昇降装置40を制御して、電動推進部33のプロペラ36が水面から出るように、電動推進部33を自動的に上昇させる。これにより、操縦者は、船舶を低速航行状態から加速してプレーニング状態に移行させる際に、電動推進部33を上昇させる操作を行う必要がない。したがって、操縦者の操作の負担を軽減することができる。
【0071】
また、本実施例の船外機1において、内燃駆動推進部11のプロペラ16と電動推進部33のプロペラ36とはそれぞれ別々に設けられ、これらは互いに独立している。また、内燃駆動推進部11において内燃機関12の動力をプロペラ16に伝達する機構(ドライブシャフト13、ギヤ機構14およびプロペラシャフト15)と電動推進部33のプロペラシャフト35とはそれぞれ別々に設けられ、これらはそれぞれ互いに独立している。したがって、本実施例の船外機1によれば、内燃機関の動力と電動モータの動力とを共通のドライブシャフトに伝達する複雑な機構(例えば上記特許文献1に記載されているような自動遠心クラッチや多数のギヤを有する機構)を用いることなく、内燃機関による推進力と電動モータによる推進力とを生成することができる。したがって、船外機1の内部の構造が複雑化することを防ぐことができる。
【0072】
また、本実施例の船外機1において、電動推進部33および昇降装置40をクランプブラケット24に取り付ける取付ブラケット55には取付部57が設けられ、クランプブラケット24には取付面58が設けられ、電動推進ユニット31(または32)は、取付部57を取付面58に固定部材59を用いて固定することにより、クランプブラケット24に着脱可能に取り付けられている。したがって、利用者は、船外機1の用途に応じて、各電動推進ユニット31、32をクランプブラケット24に対して容易に付けたり、外したりすることができ、利便性が高い。また、本実施例の船外機1によれば、各電動推進ユニット31、32を既存の内燃駆動の船外機に設けられたクランプブラケットに容易に外付けすることができ、既存の内燃駆動の船外機のハイブリッド化を容易に実施することができる。
【0073】
また、本実施例の船外機1は、クランプブラケット24に対する電動推進ユニット31(または32)の取付位置を上下方向に変更することができる取付位置変更構造を備えている。これにより、船外機のサイズ等に応じて各電動推進ユニット31、32の取付位置を容易に調節することができる。
【0074】
また、本実施例の船外機1においては、各電動推進ユニット31、32における電動推進部33の収容ケース38内に、電動モータ34の駆動を制御するインバータ37が設けられている。このように電動モータとインバータとをユニット化することで、各電動推進ユニット31、32をクランプブラケット24に容易に外付けすることが可能になる。
【0075】
また、本実施例の船外機1において、船外機1を上方から見たときに、2つの電動推進ユニット31、32は、それぞれのプロペラシャフト35が互いにハの字状となるように配置されている。これにより、船舶の前進、後進および旋回に加え、船舶の横移動(船首の向きを変えないで船舶を左または右に移動させること)を容易に行うことができる。したがって、船舶の自動移動、定点保持、または船舶の着岸・離岸を容易に行うことができる。また、本実施例における制御部71により、GPSを利用して、船舶の自動移動または定点保持を容易に実施することができる。
【0076】
また、本実施例の船外機1によれば、動力源およびプロペラ等が内燃駆動推進部11から独立した電動推進部33を有しているので、例えば航行中に内燃駆動推進部11が故障して動作しなくなった場合でも、電動推進部33を利用して、船舶を岸に近づけることができる。
【0077】
また、船外機1においては、各電動推進ユニット31、32が、内燃駆動推進部11を船舶に固定するためのクランプブラケット24に取り付けられている。したがって、クランプブラケット24を船舶に取り付けることで、内燃駆動推進部11と各電動推進ユニット31、32とを同時に船舶に固定することができ、これにより、内燃機関による推進力と電動モータによる推進力との双方を得ることができる。それゆえ、内燃機関による推進力と電動モータによる推進力とを得るに当たり、内燃駆動の船外機と電動の船外機とを船舶にそれぞれ取り付ける必要がない。よって、船舶が小型である場合でも、または内燃駆動の複数の船外機が船舶に既に多機掛けされている場合でも、内燃機関による推進力と電動モータによる推進力とを得ることができる。
【0078】
また、船外機1によれば、プレーニング前の低速トルクを各電動推進部33により容易に補うことができる。これにより、高回転域のトルク性能を高めた内燃機関を採用しても、低速域における船舶の高い航走性能または良好な加速性能を確保することができる。また、船舶の低速移動を各電動推進部33により補うことができるので、内燃駆動推進部11のプロペラ16として高速航走用のプロペラを採用することにより、低速域の航走性能を低下させることなく、高速域の航走性能を高めることができる。また、船舶の低速移動時に、内燃機関12の作動を停止させ、各電動推進部33による推進力のみにより船舶を移動させることで、騒音を発することなく船舶を低速移動させることができる。また、内燃機関と電動モータとの併用により燃費を向上させることができる。
【0079】
なお、上記実施例では、船外機1のクランプブラケット24に2つの電動推進ユニット31、32を取り付ける場合を例にあげたが、船外機1のクランプブラケット24に単一の電動推進ユニット31または32を取り付けてもよい。例えば、
図10(A)に示すように、クランプブラケット24の左側部分に電動推進ユニット31が取り付けられた船外機81を船舶122のトランサムの最も左側に取り付け、クランプブラケット24の右側部分に電動推進ユニット32が取り付けられた船外機82を船舶122のトランサムの最も右側に取り付け、ハイブリッド船外機ではない内燃駆動の船外機を船舶122のトランサムの左右方向中央に取り付けることにより、2つのハイブリッド船外機81、82と、ハイブリッド船外機ではない内燃駆動の船外機83との多機掛けを行うことができる。また、2つのハイブリッド船外機81、82のみを船舶122のトランサムに取り付けてもよい。
【0080】
また、上記実施例において、2つの電動推進ユニット31、32は、船外機1を上方から見たときに、それぞれのプロペラシャフト35が互いにハの字状となるように配置されている。しかしながら、本発明はこれに限らない。
図10(B)に示すハイブリッド船外機85のように、2つの電動推進ユニット86、87を、船外機85を上方から見たときに、それぞれのプロペラシャフト88が互いに平行となるように配置してもよい。
【0081】
また、本発明には、
図10(C)に示す昇降装置90を採用することができる。昇降装置90が有する4本のリンク部材91~94は、上記実施例における昇降装置40のリンク部材41~44と同様に平行クランク機構を構成している。具体的には、第1のリンク部材91は略前後方向に伸長しており、第2のリンク部材92は第1のリンク部材91と平行に伸長している。第3のリンク部材93の上端側は第1のリンク部材91の後端側に回転可能に接合され、第3のリンク部材93の下端側は第2のリンク部材92の後端側に回転可能に接合されている。第4のリンク部材94は、第3のリンク部材93と平行に伸長している。また、第4のリンク部材94の上端側は第1のリンク部材91の前端側に回転可能に接合され、第4のリンク部材94の下端側は第2のリンク部材92の前端側に回転可能に接合されている。また、アクチュエータ95の前端部は第1のリンク部材91の前端側に回転可能に接合され、アクチュエータ95の後端部は第3のリンク部材93の下端側に回転可能に接合されている。また、第1のリンク部材91は支持部材96を介して取付ブラケット55に固定される。また、電動推進部33は支持部材97を介して第2のリンク部材92に固定されている。なお、本発明の昇降装置として、平行クランク機構以外の機構を用いることもできる。
【0082】
また、
図10(D)に示すように、船舶123に推進力を与える手段として、2つの電動推進ユニット31、32のみを固定ブラケット98を介して船舶123のトランサムに取り付けてもよい。この場合、ジョイスティック式のリモートコントローラ99を船舶123に設け、このリモートコントローラ99により、各電動推進ユニット31、32の昇降装置40および電動推進部33の電動モータ34の操作を行うことができるようにしてもよい。
【0083】
また、
図8において、制御部71と各電動推進ユニット31、32の電動推進部33のインバータ37との間の接続は有線でもよいし、無線でもよい。
【0084】
また、本発明は、船外機に限らず、船内外機にも適用することができる。本発明を船内外機に適用する場合には、例えば、船内外機における内燃駆動の推進装置を船舶に固定する固定ブラケットに電動推進ユニット31、32を取り付ける。
【0085】
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うハイブリッド船舶推進機もまた本発明の技術思想に含まれる。