(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044723
(43)【公開日】2023-03-31
(54)【発明の名称】液体クロマトグラフ、及び液体クロマトグラフにおける流路洗浄方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/26 20060101AFI20230324BHJP
G01N 30/20 20060101ALI20230324BHJP
G01N 30/50 20060101ALI20230324BHJP
G01N 30/32 20060101ALI20230324BHJP
【FI】
G01N30/26 Q
G01N30/20 L
G01N30/50
G01N30/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145829
(22)【出願日】2022-09-14
(31)【優先権主張番号】63/245805
(32)【優先日】2021-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】藤戸 由佳
(72)【発明者】
【氏名】ローガン ミラー
(57)【要約】 (修正有)
【課題】システムの洗浄を行い、迅速にキャリーオーバを低減・解消できる液体クロマトグラフを提供する。
【解決手段】移動相供給流路(6;42)と、移動相供給流路と合流する洗浄液供給流路(8;44)と、分離カラム(14)が設けられている分析流路(4)と、サンプリング用のニードル(12)が先端に設けられているサンプリング流路(2)と、注入ポート(16)を有する高圧バルブ(10)を含む。移動相供給流路と分析流路とをサンプリング流路を介することなく流体接続するローディング状態、及び、注入ポートにニードルの先端が挿入されているときに移動相供給流路と分析流路との間にサンプリング流路を介在させるインジェクティング状態に切り替えるための切替部(10;26)と、分析流路及び/又はサンプリング流路へ移動相及び洗浄液を供給して組成を時間的に変化させる洗浄動作を実行するように構成された制御部(50)と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動相を供給するための少なくとも1つの移動相供給流路であって、分析用移動相を供給するための分析移動相供給流路を含む少なくとも1つの移動相供給流路と、
前記移動相供給流路と合流し、前記移動相とは異なる性質を有する液である洗浄液を供給するための少なくとも1つの洗浄液供給流路と、
試料中の成分を分離するための分離カラムが設けられている分析流路と、
三次元的に移動するとともに先端からの液の吸入を行なうサンプリング用のニードルが先端に設けられているサンプリング流路と、
前記ニードルの前記先端が挿入されることによって前記サンプリング流路と接続される注入ポートを有する高圧バルブを含み、当該液体クロマトグラフの流路構成を、前記分析移動相供給流路と前記分析流路とを前記サンプリング流路を介することなく流体接続するローディング状態、及び前記注入ポートに前記ニードルの先端が挿入されているときに前記分析移動相供給流路と前記分析流路との間に前記サンプリング流路を介在させるインジェクティング状態に切り替えるための切替部と、
前記移動相供給流路を通じた前記移動相の供給動作、前記洗浄液供給流路を通じた前記洗浄液の供給動作、前記ニードルの動作、及び前記切替部の動作を制御し、所定条件が満たされたときに、前記分析流路及び/又は前記サンプリング流路へ前記移動相及び前記洗浄液を供給して前記分析流路及び/又は前記サンプリング流路を流れる液の組成を時間的に変化させる洗浄動作を実行するように構成された制御部と、を備えている、液体クロマトグラフ。
【請求項2】
前記移動相供給流路を通じて複数種類の移動相が供給されるように構成されており、
前記制御部は、前記洗浄動作において、前記複数種類の移動相及び前記洗浄液を用いて前記分析流路及び/又は前記サンプリング流路を流れる液の組成を時間的に変化させるように構成されている、請求項1に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項3】
前記制御部は、前記洗浄動作において、前記分析流路及び/又は前記サンプリング流路に供給する液を前記移動相と前記洗浄液との間で切り替えるように構成されている、請求項1に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項4】
前記移動相供給流路は前記移動相を送液する移動相ポンプを含み、前記洗浄液供給流路は前記洗浄液を送液する洗浄液ポンプを含む、請求項1に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項5】
前記分析移動相供給流路とは別の前記移動相供給流路として、前記分析用移動相と同じ組成をもつ洗浄用移動相を供給するための洗浄移動相供給流路をさらに備え、
前記洗浄液供給流路の1つは前記洗浄移動相供給流路と合流しており、
前記制御部は、第1の条件が満たされたときに、前記洗浄動作として、前記切替部によって前記流路構成を前記ローディング状態にして前記サンプリング流路へ前記洗浄用移動相及び前記洗浄液を供給するニードル洗浄を実行するように構成されている、請求項1に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項6】
前記洗浄液供給流路の1つは前記分析移動相供給流路と合流しており、
前記制御部は、第2の条件が満たされたときに、前記洗浄動作として、前記切替部によって前記流路構成を前記ローディング状態にして前記分析流路へ前記分析用移動相及び前記洗浄液を供給するストリーム洗浄を実行するように構成されている、請求項1に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項7】
前記制御部は、前記ストリーム洗浄を、前記分析用移動相を前記分析流路へ供給して次の分析のための前記分離カラムのコンディショニングの一部として実行するように構成されている、請求項6に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項8】
前記制御部は、第3の条件が満たされたときに、前記洗浄動作として、前記切替部によって前記流路構成を前記インジェクティング状態にして前記分析流路及び前記サンプリング流路へ前記分析用移動相及び前記洗浄液を供給するシステム洗浄を実行するように構成されている、請求項1に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項9】
前記制御部は、前記洗浄動作が終了した後で、試料を含まないブランク液を前記ニードルによって採取し、前記注入ポートを介して前記ブランク液を前記分析流路へ注入するブランク注入を実行するように構成されている、請求項1に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項10】
前記制御部は、前記洗浄動作の実行中、実行前又は実行後において、第4の条件が満たされているときに、前記分析流路への前記分析用移動相及び前記洗浄液の供給を停止して前記分離カラムの上流における圧力を低下させる圧力開放を実行するように構成されている、請求項1に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項11】
移動相を供給するための移動相供給流路と、
試料中の成分を分離するための分離カラムが設けられている分析流路と、
三次元的に移動するとともに先端からの液の吸入を行なうサンプリング用のニードルが先端に設けられているサンプリング流路と、
前記ニードルの前記先端が挿入されることによって前記サンプリング流路と接続される注入ポートを有する高圧バルブを含み、当該液体クロマトグラフの流路構成を、前記移動相供給流路と前記分析流路とを前記サンプリング流路を介することなく流体接続するローディング状態、及び前記注入ポートに前記ニードルの先端が挿入されているときに前記移動相供給流路と前記分析流路との間に前記サンプリング流路を介在させるインジェクティング状態に切り替えるための切替部と、
前記移動相供給流路を通じた前記移動相の供給動作、前記ニードルの動作、及び前記切替部の動作を制御し、試料の分析が終了し次の試料の分析が開始される前であって所定条件が満たされたときに、前記分析流路への前記移動相の供給を停止して前記分析流路内の前記分離カラムよりも上流部分における圧力を低下させる圧力開放を実行するように構成された制御部と、を備えている液体クロマトグラフ。
【請求項12】
前記制御部は、前記圧力開放が終了した後で、試料を含まないブランク液を前記ニードルによって採取し、前記注入ポートを介して前記ブランク液を前記分析流路へ注入するブランク注入を実行するように構成されている、請求項11に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項13】
試料中の成分を分離するための分離カラムが設けられている分析流路、及び前記分析流路に対して試料注入を行なうためのニードルが先端に設けられているサンプリング流路を備える液体クロマトグラフにおける流路洗浄方法であって、
前記分析流路及び/又は前記サンプリング流路へ移動相及び前記移動相とは異なる性質を有する洗浄液を供給して前記分析流路及び/又は前記サンプリング流路を流れる液の組成を時間的に変化させる洗浄ステップを備えている、流路洗浄方法。
【請求項14】
前記洗浄ステップにおいて、複数種類の移動相及び前記洗浄液を用いて前記分析流路及び/又は前記サンプリング流路を流れる液の組成を時間的に変化させる、請求項13に記載の流路洗浄方法。
【請求項15】
前記洗浄ステップにおいて、前記分析流路及び/又は前記サンプリング流路に供給する液を前記移動相と前記洗浄液との間で切り替える、請求項14に記載の流路洗浄方法。
【請求項16】
前記洗浄ステップは、前記分析流路と前記サンプリング流路とを流体連通させない状態で前記サンプリング流路へ前記移動相及び前記洗浄液を供給するニードル洗浄ステップを含んでいる、請求項13に記載の流路洗浄方法。
【請求項17】
前記洗浄ステップは、前記分析流路と前記サンプリング流路とを流体連通させない状態で、前記分析流路へ前記移動相及び前記洗浄液を供給するストリーム洗浄ステップを含んでいる、請求項13に記載の流路洗浄方法。
【請求項18】
前記ストリーム洗浄ステップを、前記移動相を前記分析流路へ供給して次の分析のための前記分離カラムのコンディショニングを行なっている間に実行する、請求項17に記載の流路洗浄方法。
【請求項19】
前記洗浄ステップは、前記分析流路と前記サンプリング流路とを流体連通させた状態で前記分析流路及び前記サンプリング流路へ前記移動相及び前記洗浄液を供給するシステム洗浄ステップを含んでいる、請求項13に記載の流路洗浄方法。
【請求項20】
前記洗浄ステップの後、試料を含まないブランク液を前記分析流路に注入するブランク注入ステップを備えている、請求項13に記載の流路洗浄方法。
【請求項21】
前記洗浄ステップの実行中、実行前又は実行後で、前記分析流路への前記移動相及び前記洗浄液の供給を停止して前記分離カラムの上流における圧力を低下させる圧力開放ステップを含んでいる、請求項13に記載の流路洗浄方法。
【請求項22】
試料中の成分を分離するための分離カラムが設けられている分析流路を備える液体クロマトグラフにおける流路洗浄方法であって、
前記分析流路内の前記分離カラムよりも上流部分の圧力が大気圧より高い状態で前記分析流路への移動相の供給を停止し、前記上流部分における圧力を低下させる圧力開放ステップを備えている、流路洗浄方法。
【請求項23】
前記圧力開放ステップの後、試料を含まないブランク液を前記分析流路に注入するブランク注入ステップを備えている、請求項22に記載の流路洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフ、及び液体クロマトグラフにおける流路洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフでは、試料の分析が終了した後、移動相の組成を前の分析の最終状態から変更して次の試料の分析を行なう場合がある。このような場合、分析が終了した後、試料が流れる全経路内の移動相の組成を次の分析の初期状態へ調整するコンディショニングを実施する必要がある(特許文献1参照)。
【0003】
また、複数の試料について分析を行なう場合、分析結果の信頼性を担保するためには、次の試料の分析開始時に前の試料がシステム内に残存する、所謂、キャリーオーバが発生していないことが重要である。そのため、コンディショニング中又はコンディショニングが終了した後、キャリーオーバに起因するゴーストピークが発生していないか否かの確認と流路の洗浄を兼ねて、サンプルを含まないブランク液を分析流路へ注入するブランク注入を行う、或いは、同時に移動相を始めとする溶液を流路に流すなどして洗浄を行う方法が一般的である。キャリーオーバの発生箇所やキャリーオーバ量は、試料の種類や濃度、或いは分析条件に依存するが、高濃度のサンプルが注入された場合、1度のブランク注入では洗浄しきれず、複数回のブランク注入が必要となる場合がある。このような洗浄によるダウンタイムの発生は、液体クロマトグラフのスループット性能を著しく落とすことから、低キャリーオーバを実現するメソッドの構築とキャリーオーバの発生時に迅速に解消できる対策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、キャリーオーバが発生した時にシステムの洗浄を行い、迅速にキャリーオーバを低減・解消できる液体クロマトグラフ、及び分析液体クロマトグラフの洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、流路内の洗浄効果を高めるための2つのアプローチを見出した。本発明はその2つのアプローチに基づいている。
【0007】
第1のアプローチは、流路内の洗浄に際し、分析に使用される移動相とは異なる液である洗浄液を移動相と組み合わせて使用し、流路を流れる液の組成を時間的に変化させることである。洗浄液は、試料の性質に応じて選ばれるものである。発明者は、このような洗浄液を単独で使用して流路内の洗浄を行なうことも検討したが、洗浄液単独での洗浄を分析後の処理に追加するよりも、洗浄液と移動相とを組み合わせて流路を流れる液の組成を時間的に変化させて洗浄を行なうことで、より高いキャリーオーバ解消効果が得られることがわかった。発明者の実験では、分析の終了後に洗浄液のみで分析流路の洗浄を行なった場合、キャリーオーバが十分に解消されているとの評価(LOQ(%)>10)を達成するのに10回以上のブランク液の注入(ブランク注入)を要していたところ、分析の終了後に洗浄液と移動相を組み合わせて分析流路を流れる液の組成を時間的に変化させる洗浄を行なうと、キャリーオーバの十分な解消(LOQ(%)>10)を4回程度のブランク注入で達成されたことを確認している。
【0008】
第2のアプローチは、流路内の圧力を一時的に低下させることである。液体クロマトグラフでは、一般的に、分析が終了した後も分析流路中を移動相が流れ続けており、それによって流路内が高圧状態になっている。そのため、流路内の残留成分は高い圧力によって強く流路壁面に吸着した状態になっている。その状態で、流路内の圧力を一時的に低下させると、流路壁面に対する残留成分の吸着力が弱まり、その後、移動相や洗浄液などの移動相が流されることによって除去されやすくなると考えられる。発明者が行なった実験でも、分析流路内の洗浄中又は洗浄後に、当該分析流路内の圧力を一時的に低下させてから移動相や洗浄液を流すことで、キャリーオーバの解消効果が向上するとの結果が得られている。
【0009】
本発明の第1のアプローチに係る液体クロマトグラフは、移動相を供給するための少なくとも1つの移動相供給流路であって、分析用移動相を供給するための分析移動相供給流路を含む少なくとも1つの移動相供給流路と、前記移動相供給流路と合流し、前記移動相とは異なる性質を有する液である洗浄液を供給するための少なくとも1つの洗浄液供給流路と、試料中の成分を分離するための分離カラムが設けられている分析流路と、三次元的に移動するとともに先端からの液の吸入を行なうサンプリング用のニードルが先端に設けられているサンプリング流路と、前記ニードルの前記先端が挿入されることによって前記サンプリング流路と接続される注入ポートを有する高圧バルブを含み、当該液体クロマトグラフの流路構成を、前記分析移動相供給流路と前記分析流路とを前記サンプリング流路を介することなく流体接続するローディング状態、及び前記注入ポートに前記ニードルの先端が挿入されているときに前記分析移動相供給流路と前記分析流路との間に前記サンプリング流路を介在させるインジェクティング状態に切り替えるための切替部と、前記移動相供給流路を通じた前記移動相の供給動作、前記洗浄液供給流路を通じた前記洗浄液の供給動作、前記ニードルの動作、及び前記切替部の動作を制御し、所定条件が満たされたときに、前記分析流路及び/又は前記サンプリング流路へ前記移動相及び前記洗浄液を供給して前記分析流路及び/又は前記サンプリング流路を流れる液の組成を時間的に変化させる洗浄動作を実行するように構成された制御部と、を備えている。
【0010】
本発明の第2のアプローチに係る液体クロマトグラフは、移動相を供給するための移動相供給流路と、試料中の成分を分離するための分離カラムが設けられている分析流路と、三次元的に移動するとともに先端からの液の吸入を行なうサンプリング用のニードルが先端に設けられているサンプリング流路と、前記ニードルの前記先端が挿入されることによって前記サンプリング流路と接続される注入ポートを有する高圧バルブを含み、当該液体クロマトグラフの流路構成を、前記分析移動相供給流路と前記分析流路とを前記サンプリング流路を介することなく流体接続するローディング状態、及び前記注入ポートに前記ニードルの先端が挿入されているときに前記分析移動相供給流路と前記分析流路との間に前記サンプリング流路を介在させるインジェクティング状態に切り替えるための切替部と、前記移動相供給流路を通じた前記移動相の供給動作、前記ニードルの動作、及び前記切替部の動作を制御し、試料の分析が終了し次の試料の分析が開始される前であって所定条件が満たされたときに、前記分析流路への前記移動相の供給を停止して前記分析流路内の前記分離カラムよりも上流部分における圧力を低下させる圧力開放を実行するように構成された制御部と、を備えている。
【0011】
本発明の第1のアプローチに係る流路洗浄方法は、試料中の成分を分離するための分離カラムが設けられている分析流路、及び前記分析流路に対して試料注入を行なうためのニードルが先端に設けられているサンプリング流路を備える液体クロマトグラフにおける流路洗浄方法であって、前記分析流路及び/又は前記サンプリング流路へ移動相及び前記移動相とは異なる性質を有する洗浄液を供給して前記分析流路及び/又は前記サンプリング流路を流れる液の組成を時間的に変化させる洗浄ステップを備えている。
【0012】
本発明の第2のアプローチに係る流路洗浄方法は、試料中の成分を分離するための分離カラムが設けられている分析流路を備える液体クロマトグラフにおける流路洗浄方法であって、前記分析流路内の前記分離カラムよりも上流部分の圧力が大気圧より高い状態で前記分析流路への移動相の供給を停止し、前記上流部分における圧力を低下させる圧力開放ステップを備えている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1のアプローチに係る液体クロマトグラフでは、従来の構成と比較して、洗浄液供給流路が追加されているので、分析流路及び/又はサンプリング流路へ移動相及び洗浄液を供給して分析流路及び/又は前記サンプリング流路を流れる液の組成を時間的に変化させる洗浄動作を、高濃度の試料の分析後など、必要に応じて実行することができる。これにより、分析流路及び/又はサンプリング流路の洗浄効率が向上し、キャリーオーバを効率よく低減でき、キャリーオーバを低減させるために要する時間を短縮することができる。
【0014】
本発明の第2のアプローチに係る液体クロマトグラフでは、試料の分析が終了し次の試料の分析が開始される前であって所定条件が満たされたときに、分析流路への移動相の供給を停止して分析流路内の分離カラムよりも上流部分における圧力を低下させる圧力開放を実行するように構成されているので、高濃度の試料の分析後など、必要に応じて、分析流路内の圧力を一時的に低下させてキャリーオーバの解消効果が高められるので、分析流路の洗浄効率が向上する。これにより、キャリーオーバを効率よく低減することができ、キャリーオーバを低減させるために要する時間を短縮することができる。
【0015】
本発明の第1のアプローチに係る流路洗浄方法では、分析流路及び/又はサンプリング流路へ移動相及び洗浄液を供給して分析流路及び/又は前記サンプリング流路を流れる液の組成を時間的に変化させる洗浄ステップを備えているので、分析流路及び/又はサンプリング流路の洗浄効率が向上し、キャリーオーバを効率よく低減でき、キャリーオーバを低減させるために要する時間を短縮することができる。
【0016】
本発明の第2のアプローチに係る流路洗浄方法では、分析流路内の分離カラムよりも上流部分の圧力が大気圧より高い状態で分析流路への移動相の供給を停止し、上流部分における圧力を低下させる圧力開放ステップを備えているので、分析流路の洗浄効率が向上する。これにより、キャリーオーバを効率よく低減することができ、キャリーオーバを低減させるために要する時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】液体クロマトグラフの一実施例を示す構成図である。
【
図2】同実施例の試料注入時の流路構成の一例を示す図である。
【
図3】同実施例のニードル洗浄時の流路構成の一例を示す図である。
【
図4】同実施例のストリーム洗浄時の流路構成の一例を示す図である。
【
図5】同実施例のシステム洗浄時の流路構成の一例を示す図である。
【
図6】同実施例の動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図7】同実施例の洗浄時の各液の送液状態を示すタイムチャートである。
【
図8】ストリーム洗浄及びシステム洗浄によるキャリーオーバ解消効果の検証結果を示すグラフである。
【
図9】ストリーム洗浄及び圧力開放によるキャリーオーバ解消効果の検証結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る液体クロマトグラフ及び流路洗浄方法の実施形態について説明する。
【0019】
まず、液体クロマトグラフの一実施例について、
図1を用いて説明する。なお、ここでは、試料の分離を行なう分離部3を複数備えて、試料の分離分析を同時並行的に実行できるように構成されたMultiplex LCMSを例に挙げて説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、分析部が1つのみ設けられている液体クロマトグラフに対しても同様に適用可能である。
【0020】
この実施例の液体クロマトグラフは、1つのサンプリング流路2、複数の分離部3、選択バルブ26、28、低圧バルブ34、計量ポンプ36及び制御部50を備えている。
【0021】
サンプリング流路2の基端は選択バルブ26の共通ポートに接続されており、先端にサンプリング用のニードル12を備えている。ニードル12は、図示されていない移動機構によって三次元的に動作し、サンプリング流路2の基端が計量ポンプ36と流体接続されることによって、所定位置に配置されたサンプル容器24に収容されている試料を先端から吸入して保持することができる。さらに、ニードル12は、各分離部3に設けられている注入ポート16の位置へ移動することができ、サンプル容器24に収容されている試料をニードル12の所望の分離部3の注入ポート16へ先端を挿入してサンプリング流路2をその分離部3の流路に対して流体接続することができる。
【0022】
図では複数の分離部3のうち1つの分離部3にのみ参照符号を付しているが、各分離部3は互いに同じ構成を有するものである。以下では、1つの分離部3を取り上げて説明する。
【0023】
分離部3は、分析流路4、移動相供給流路6(分析移動相供給流路)、洗浄液供給流路8及び高圧バルブ10を備えている。高圧バルブ10は、6つのポートを同一円周上に備え、互いに隣接するポート間の接続状態を切り替える2ポジションバルブである。高圧バルブ10の1つのポートは注入ポート16へ通じている。注入ポートへ通じるポートに隣接するポートのうちの一方はドレインへ通じており、他方には分析流路4の上流端が接続されている。分析流路4の上流端が接続されているポートのうち注入ポート16に通じるポートと反対側に位置するポートには、移動相供給流路6が接続されている。高圧バルブ10の残りの2つのポートには、それぞれ流路25、30が接続されている。流路25は選択バルブ26の1つの選択ポートに接続されており、流路30は選択バルブ28の1つの選択ポートに接続されている。
【0024】
分析流路4は、試料中の成分を分離するための分離カラム14を備えている。図示は省略されているが、分析流路4は分離カラム14において分離した成分を検出するための検出器である質量分析計(MS)へ通じている。移動相供給流路6は、分析用移動相を供給するための流路である。洗浄液供給流路8は、分析用移動相とは異なる性質を有する液である洗浄液を供給するための流路であり、切替弁22を介して移動相供給流路6と合流している。移動相供給流路6は分析用移動相を送液する移動相ポンプ18を備え、洗浄液供給流路8は洗浄液を送液する洗浄液ポンプ20を備えている。
【0025】
なお、移動相供給流路6及び洗浄液供給流路8はそれぞれ独自にポンプ18、20を備えているが、移動相及び洗浄液のうちのいずれかが切替バルブによって切り替えられて共通のポンプにより供給されるように構成されていてもよい。また、図では、移動相供給流路6によって1種類の移動相のみが供給されるように描かれているが、複数の種類の移動相を同時に又は切り替えて供給できるように構成されていてもよい。同様に、洗浄液供給流路8を通じて複数の種類の洗浄液を同時に又は切り替えて供給できるように構成されていてもよい。また、移動相供給流路6と洗浄液供給流路8の合流部に切替弁22が設けられているが、切替弁22に代えてミキサを使用することもできる。
【0026】
選択バルブ28の共通ポートは、流路32を介して低圧バルブ34の共通ポートと接続されている。低圧バルブ34の選択ポートには、シリンジポンプ36及び送液流路38が接続されている。送液流路38には、切替弁40を介して移動相供給流路42(洗浄移動相供給流路)と洗浄液供給流路44が接続されており、送液流路38を通じて移動相(洗浄用移動相)及び/又は洗浄液が送液されるようになっている。移動相供給流路42を通じて供給される移動相は、移動相供給流路6を通じて供給される移動相と同じであり、洗浄液供給流路44を通じて供給される洗浄液は洗浄液供給流路8を通じて供給される洗浄液と同じである。なお、移動相供給流路42及び洗浄液供給流路44はそれぞれ独自にポンプ46、48を備えているが、移動相及び洗浄液のうちのいずれかが切替バルブによって切り替えられて共通のポンプにより供給されるように構成されていてもよい。
【0027】
高圧バルブ10及び選択バルブ26は、この液体クロマトグラフの流路構成を、移動相送液流路6と分析流路4とがサンプリング流路2を介することなく流体接続されるローディング状態(
図1の状態)、及び、移動相送液流路6と分析流路4との間にサンプリング流路2が介在するインジェクティング状態(
図2の状態)へ切り替えるための切替部を構成するものである。高圧バルブ10において、移動相送液流路6が接続されているポートと分析流路4が接続されているポートとの間が流体接続されるとローディング状態となる。また、ニードル12が注入ポート16に挿入され、注入ポート16にニードル12が挿入されている高圧バルブ10が選択バルブ26によって選択され、さらに、高圧バルブ10において、注入ポート16に通じるポートと分析流路が接続されているポートとが流体接続され、かつ、移動相供給流路6が接続されているポートと流路25が接続されているポートとの間が流体接続されるとインジェクティング状態となる。
【0028】
制御部50は、CPU(中央演算装置)及び情報記憶装置を備えた電子回路においてプログラムが実行されることによって実現される機能である。制御部50は、この液体クロマトグラフにおける電動要素の制御を行ない、試料注入動作、ニードル洗浄、ストリーム洗浄、システム洗浄、及び圧力開放を実行するように構成されている。
【0029】
試料注入動作とは、サンプル容器24に収容された試料をサンプリング流路2内に採取した後、
図2に示されているように、ニードル12を注入ポート16に挿入して流路構成をインジェクティング状態にし、移動相供給流路6を通じて移動相を供給する動作である。移動相供給流路6から供給される移動相がサンプリング流路2内を分析流路4へ向かって流れることにより、サンプリング流路2に保持されていた試料が移動相とともに分析流路4内に注入される。
【0030】
ニードル洗浄とは、
図3に示されているように、ニードル12を注入ポート16に挿入した状態で、流路構成をローディング状態にしてサンプリング流路2を分析流路4から切り離し、サンプリング流路2へ移動相供給流路42からの移動相及び洗浄液供給流路44からの洗浄液を供給することによって行なう。このニードル洗浄では、移動相及び洗浄液を用いてサンプリング流路2内を流れる液の組成を変化させる。例えば、
図7に示されているように、サンプリング流路2へ供給する液を一定時間(例えば、0.1~0.5分)ごとに切り替えるステップワイズ方式を採用してもよいし、各液の濃度比率を時間とともに変化させるグラジエント方式を採用してもよい。移動相として2種類以上の溶媒を供給することができる場合は、2種類以上の移動相と洗浄液を使用してサンプリング流路2内を流れる液の組成を変化させて、サンプリング流路を洗浄してもよい。
【0031】
上記のニードル洗浄は、サンプリング流路2が分析流路4から切り離されている状態であればいつでも実行可能であるが、分析流路4への試料注入が終了した後で、すなわち、分析流路4における試料の分析と並行して実行することにより、他の分離部3へ次の試料を注入するタイミングが早まり、分析のスループットの向上を図ることができる。なお、このニードル洗浄は、分析流路4への試料注入が完了するたびに実行すべきものではなく、一定の条件(第1の条件)が満たされている場合にのみ実行されればよい。ニードル洗浄が実行される条件としては、試料の濃度が所定濃度以上であること、ユーザによって試料注入後にニードル洗浄を実行するように設定されていること、などが挙げられる。このニードル洗浄により、ニードル12を含むサンプリング流路2内のほか、注入ポート16内、及び注入ポート16と高圧バルブ10との間を繋ぐ流路内を洗浄することができる。
【0032】
ストリーム洗浄は、
図4に示されているように、流路構成をローディング状態にしてサンプリング流路2を分析流路4から切り離し、分析流路4へ移動相供給流路6及び洗浄液供給流路8から移動相及び洗浄液を供給することによって行なう。このストリーム洗浄では、ニードル洗浄と同様に、移動相及び洗浄液を用いて分析流路4内を流れる液の組成を変化させる。移動相として2種類以上の溶媒を供給することができる場合は、ストリーム洗浄においても、2種類以上の移動相と洗浄液を使用して分析流路4内を流れる液の組成を変化させて洗浄してもよい。
【0033】
上記のストリーム洗浄は、分析流路4における試料の分析が終了した後(分析対象化合物のすべてが分離カラム14から溶出した後)の任意のタイミング、例えば、次の分析のための分離カラム14のコンディショニング中又はコンディショニングが完了した後に実行することができる。このストリーム洗浄は、分析流路4での試料の分析が終了するたびに実行すべきものではなく、一定の条件(第2の条件)が満たされている場合にのみ実行されればよい。ストリーム洗浄が実行される条件としては、試料の濃度が所定濃度以上である場合のほか、ブランク注入を行いキャリーオーバが発生していることを検出器の信号に基づいて検出した場合、ユーザによって試料の分析後にストリーム洗浄を実行するように設定されている場合、などが挙げられる。
【0034】
システム洗浄は、
図5に示されているように、流路構成をインジェクティング状態にしてサンプリング流路2を分析流路4の上流に流体接続し、サンプリング流路2及び分析流路4へ移動相供給流路6及び洗浄液供給流路8から移動相及び洗浄液を供給することによって行なう。このシステム洗浄では、ニードル洗浄及びストリーム洗浄と同様に、移動相及び洗浄液を用いてサンプリング流路2内及び分析流路4内を流れる液の組成を変化させる。移動相として2種類以上の溶媒を供給することができる場合は、システム洗浄においても、2種類以上の移動相と洗浄液を使用してサンプリング流路2内及び分析流路4内を流れる液の組成を変化させて洗浄してもよい。
【0035】
上記のシステム洗浄は、分析流路4における試料の分析が終了した後の任意のタイミングで、ストリーム洗浄に加えて、又はストリーム洗浄に代えて実行することができる。システム洗浄では、高圧バルブ10の注入ポート16に通じるポートと分析流路4が接続されているポートとの間に移動相及び洗浄液を送り込んで洗浄することができる。このシステム洗浄は、分析流路4での試料の分析が終了するたびに実行すべきものではなく、一定の条件(第3の条件)が満たされている場合にのみ実行されればよい。システム洗浄が実行される条件としては、検出器で検出された試料の濃度が所定濃度以上である場合、或いは、ユーザによって試料の分析後にシステム洗浄を実行するように設定されている場合、などが挙げられる。
【0036】
ここで、試料の濃度が所定濃度以上であるか否かを検出器で検出する際は、一例として、質量分析装置で収集されたマススペクトルデータに基づいて作成されたトータルイオンクロマトグラフ(TIC)の信号強度が所定のしきい値を満たすか否かにもとづき判定することができる。
【0037】
圧力開放は、分析流路4への移動相及び洗浄液の供給を停止させて分析流路4内の圧力を一時的に、例えば大気圧にまで、低下させることによって行なう。この圧力開放は、分析流路4での試料の分析が終了するたびに実行すべきものではなく、一定の条件(第4の条件)が満たされている場合にのみ実行されればよい。圧力開放が実行される条件としては、試料の濃度が所定濃度以上である場合、ユーザによって圧力開放を実行するように設定されている場合、などが挙げられる。圧力開放は、分析流路4における試料の分析が終了した後の任意のタイミングで行なうことができ、上記のストリーム洗浄及び/又はシステム洗浄の実行中、実行前又は実行後に行ってもよい。
【0038】
制御部50による実現される分析に関する一連の動作について、
図1~
図5とともに
図6のフローチャートを用いて説明する。
【0039】
試料の分析を開始する際、制御部50は、サンプル容器24からニードル12によって試料を採取し(ステップ101)、ニードル12を注入ポート16に挿入して
図2のように流路構成をインジェクティング状態に切り替える(ステップ102)。流路構成がインジェクティング状態に切り替えられてから所定時間が経過したときに、制御部50は、サンプリング流路2に保持されていた試料のすべてが分析流路4に注入された(試料注入が完了した)と判断し(ステップ103)、流路構成をローディング状態(
図1の状態)に戻す。
【0040】
試料注入が完了した後(ステップ103)、制御部50は、ニードル洗浄を実行するか否かを判断し(ステップ104)、必要があれば、ニードル洗浄を実行する(ステップ105)。ニードル洗浄を実行する場合とは、試料が所定濃度以上の高濃度である場合等、所定の条件が満たされている場合である。
【0041】
その後、分析流路4における試料の分析が終了した後(ステップ106)、制御部50は、分析で得られた検出器信号、予めユーザによって入力された試料に関する情報などに基づいて、ストリーム洗浄を実行するか否か(ステップ107)、システム洗浄を実行するか否か(ステップ109)、圧力開放を実行するか否か(ステップ111)、ブランク注入を実行するか否か(ステップ113)を判断し、実行すべき処理を実行する(ステップ108、110、112、114)。なお、システム洗浄を実行する場合(ステップ110)、少なくとも分析流路4での分析が終了するまで、ニードル12は他の分離部3への試料注入を実行せずに待機しておく必要がある。一方で、システム洗浄を実行しない場合には、分析流路4への試料注入が完了した後、ニードル洗浄(ステップ105)を行なうなどしてキャリーオーバの解消を図った上で、次の分離部3への試料注入を実行することができるので、分析のスループットの向上が図られる。
【0042】
ブランク注入とは、ニードル12を用いて試料を含まないブランク液(例えば溶媒)を採取し、通常の試料と同様に、注入ポート16を介して分析流路4へ注入する動作である。ブランク注入を実行することによって、試料が通過するサンプリング流路2から分析流路4までの経路内に残存するキャリーオーバ成分をある程度洗い流すことができる。また、ブランク注入を実行することによって、同経路内にどれだけキャリーオーバ成分が残存しているかを検出器信号によって確認することができるので、ブランク注入の結果、キャリーオーバの解消が不十分と判断される場合には、ニードル洗浄、ストリーム洗浄、システム洗浄、圧力開放、及びブランク注入のうち1つ以上の処理をさらに実行するようになっていてもよい。キャリーオーバの解消が十分か否かは、ユーザがブランク注入後の検出器信号に基づいて判断してもよいし、制御部50がブランク注入後の検出器信号を所定のしきい値と比較することによって判断してもよい。
【0043】
なお、
図6に示す各処理の順序、回数はほんの一例であり、必要に応じて自由に組み替えることができる。例えば、分析流路4における試料の分析が終了した直後にブランク注入を1度だけ実行し、そのブランク注入で得られた検出器信号に基づいて、ストリーム洗浄、システム洗浄、圧力開放を実行すべきか否かを判断するようになっていてもよい。また、ストリーム洗浄やシステム洗浄を実行する前に、洗浄液のみを用いた洗浄動作を組み込んでもよい。
【0044】
図8は、ストリーム洗浄及びシステム洗浄によるキャリーオーバ解消効果の検証結果を示すグラフである。この検証では、移動相として2種類の溶媒(移動相A、移動相B)を使用し、キャリーオーバが発生する程度の濃度の高い所定試料について分析を行なった後、ブランク注入時の検出器(質量分析計)信号を用いてLOQを求めた。ニードル洗浄、ストリーム洗浄及びシステム洗浄のそれぞれにおいて、上述の移動相A、Bのほかに、洗浄液を使用し、サンプリング流路2及び/又は分析流路4を流れる液の組成を、
図7のようなステップワイズ方式により、移動相B、移動相A、洗浄液の順に0.5分間隔で切り替えた。移動相A、移動相B、及び洗浄液として使用される溶液の例としては、formic acid, ammonium formate, Methanol, Acetonitrile, Acetone, waterなどが挙げられ、これらの溶液を所定の濃度で混合して使用してもよい。移動相A、移動相B、及び洗浄液として使用する溶液ついては、分析対象となるサンプルの種類、濃度、さらには分析条件(カラム、注入量、流速、配管の種類など)に応じて適宜選択される。また、LOQは標準偏差に基づき算出した。
【0045】
図8の検証において、メソッド1では、分析流路4への試料注入が終了した後のニードル洗浄を行ない、分析が終了した後のストリーム洗浄及びシステム洗浄を行わずにブランク注入を行なっている。メソッド2では、分析流路4への試料注入が終了した後のニードル洗浄を行い、かつシステム洗浄を行ない、その後にブランク注入を行なっている。メソッド3は、分析流路4への試料注入が終了した後のニードル洗浄、分析が終了した後のストリーム洗浄を行なった後、ブランク注入を行なっている。メソッド4では、分析流路4への試料注入が終了した後のニードル洗浄を行い、かつ分析が終了した後のストリーム洗浄及びシステム洗浄を行なった後でブランク注入を行なっている。
【0046】
高濃度の試料を分析した際に生じるキャリーオーバは、試料の種類や濃度によって異なるが、平均すると、サンプリング流路2に由来する割合が20%、分析流路4に由来する割合が80%である。そのため、
図8のメソッド1の結果だけを見れば、キャリーオーバの解消効果が低いように思われるが、これは、ニードル洗浄のみでは分析流路4由来のキャリーオーバが解消していないことに起因する。メソッド1とメソッド2の結果を比較すれば、システム洗浄を行なことによって、サンプリング流路2由来のキャリーオーバと分析流路2由来のキャリーオーバの低減が図られ、全体として高いキャリーオーバ解消効果が得られていることがわかる。また、メソッド3の結果から、ニードル洗浄とストリーム洗浄の組合せによって十分に高いキャリーオーバ解消効果が得られ、ストリーム洗浄とシステム洗浄を組み合わせればさらに高いキャリーオーバ解消効果が得られることがわかる。メソッド3及び4では、4回のブランク注入でLOQが10以下にまで低下し、キャリーオーバの解消が十分に達成できている。
【0047】
図9はストリーム洗浄及び圧力開放によるキャリーオーバ解消効果の検証結果を示すグラフである。この検証においても、移動相として2種類の溶媒(移動相A、移動相B)を使用し、キャリーオーバが発生する程度に濃度の高い試料について分析を行なった後、ブランク注入時の検出器(質量分析計)信号を用いてLOQを求めた。ストリーム洗浄において、上述の移動相A、Bのほかに、洗浄液を使用し、分析流路4を流れる液を移動相B、移動相A、洗浄液の順に0.5分間隔で切り替えた。移動相A、移動相B、及び洗浄液として使用される溶液の例としては、formic acid, ammonium formate, Methanol, Acetonitrile, Acetone, waterなどが挙げられ、これらの溶液を所定の濃度で混合して使用してもよい。移動相A、移動相B、及び洗浄液として使用する溶液ついては、分析対象となるサンプルの種類、濃度、さらには分析条件(カラム、注入量、流速、配管の種類など)に応じて適宜選択される。圧力開放では、移動相ポンプ18及び洗浄液ポンプ20に掛かる圧力を大気圧にまで低下させた。
【0048】
図9の検証において、メソッド5では、分析が終了した直後に3回のブランク注入を行なっている。メソッド6では、分析が終了してから9.4分間のストリーム洗浄を2回行った後で3回のブランク注入を行なっている。メソッド7では、分析が終了してからストリーム洗浄を9.4分間行なった後、2回のブランク注入を行ない、その後、圧力開放を実行してから1回のブランク注入を行なっている。メソッド8では、分析が終了してからストリーム洗浄を9.4分間行なった後、圧力開放を実行してから2回のブランク注入を行なっている。
【0049】
図9のメソッド5、6の結果と、メソッド7、8の結果を比較すれば、圧力開放を実行した後のブランク注入においてLOQが大幅に低下しており、圧力開放を実行することによってキャリーオーバの解消効果が大きく向上することがわかる。また、メソッド6とメソッド8との比較から、ストリーム洗浄と圧力開放を組み合わせることによって洗浄効果が向上することがわかり、メソッド7とメソッド8との比較から、ストリーム洗浄の直後に圧力開放を実行することで、洗浄効果がさらに向上することがわかる。
【0050】
なお、以上において説明した実施例は、本発明に係る液体クロマトグラフ及び流路洗浄方法の実施形態の例示に過ぎない。本発明に係る液体クロマトグラフ及び流路洗浄方法の実施形態は、以下に示すとおりである。
【0051】
本発明に係る液体クロマトグラフの第1実施形態では、移動相を供給するための少なくとも1つの移動相供給流路(6;42)であって、分析用移動相を供給するための分析移動相供給流路(6)を含む少なくとも1つの移動相供給流路(6;42)と、前記移動相供給流路(6;42)と合流し、前記移動相とは異なる性質を有する液である洗浄液を供給するための少なくとも1つの洗浄液供給流路(8;44)と、試料中の成分を分離するための分離カラム(14)が設けられている分析流路(4)と、三次元的に移動するとともに先端からの液の吸入を行なうサンプリング用のニードル(12)が先端に設けられているサンプリング流路(2)と、前記ニードル(12)の前記先端が挿入されることによって前記サンプリング流路(2)と接続される注入ポート(16)を有する高圧バルブ(10)を含み、当該液体クロマトグラフの流路構成を、前記分析移動相供給流路(6)と前記分析流路(4)とを前記サンプリング流路(2)を介することなく流体接続するローディング状態、及び前記注入ポート(16)に前記ニードル(12)の先端が挿入されているときに前記分析移動相供給流路(6)と前記分析流路(4)との間に前記サンプリング流路(2)を介在させるインジェクティング状態に切り替えるための切替部(10;26)と、前記移動相供給流路(6;42)を通じた前記移動相の供給動作、前記洗浄液供給流路(8;44)を通じた前記洗浄液の供給動作、前記ニードル(12)の動作、及び前記切替部(10;26)の動作を制御し、所定条件が満たされたときに、前記分析流路(4)及び/又は前記サンプリング流路(2)へ前記移動相及び前記洗浄液を供給して前記分析流路(4)及び/又は前記サンプリング流路(2)を流れる液の組成を時間的に変化させる洗浄動作を実行するように構成された制御部(50)と、を備えている。
【0052】
液体クロマトグラフの上記第1実施形態の第1態様では、前記移動相供給流路を通じて複数種類の移動相が供給されるように構成されており、前記制御部(50)は、前記洗浄動作において、前記複数種類の移動相及び前記洗浄液を用いて前記分析流路(4)及び/又は前記サンプリング流路(2)を流れる液の組成を時間的に変化させるように構成されている。
【0053】
上記第1態様において、前記制御部(50)は、前記洗浄動作において、前記分析流路(4)及び/又は前記サンプリング流路(2)に供給する液を前記移動相と前記洗浄液との間で切り替えるように構成されていてもよい。
【0054】
液体クロマトグラフの上記第1実施形態の第2態様では、前記移動相供給流路(6;42)は前記移動相を送液する移動相ポンプ(18;46)を含み、前記洗浄液供給流路(8;44)は前記洗浄液を送液する洗浄液ポンプ(20;48)を含む。この第2態様は、上記第1態様と組み合わせることができる。
【0055】
液体クロマトグラフの上記第1実施形態の第3態様では、前記分析移動相供給流路(6)とは別の前記移動相供給流路として、前記分析用移動相と同じ組成をもつ洗浄用移動相を供給するための洗浄移動相供給流路(42)をさらに備え、前記洗浄液供給流路(8;44)の1つ(44)は前記洗浄移動相供給流路(42)と合流しており、前記制御部(50)は、第1の条件が満たされたときに、前記洗浄動作として、前記切替部(10;26)によって前記流路構成を前記ローディング状態にして前記サンプリング流路(2)へ前記洗浄用移動相及び前記洗浄液を供給するニードル洗浄を実行するように構成されている。このような態様により、必要に応じて、ニードルを含むサンプリング流路由来のキャリーオーバを効果的に解消することができる。この第3態様は、上記第1態様及び/又は第2態様と組み合わせることができる。
【0056】
液体クロマトグラフの上記第1実施形態の第4態様では、前記洗浄液供給流路(8;44)の1つ(8)は前記分析移動相供給流路(6)と合流しており、前記制御部(50)は、第2の条件が満たされたときに、前記洗浄動作として、前記切替部(10;26)によって前記流路構成を前記ローディング状態にして前記分析流路(4)へ前記分析用移動相及び前記洗浄液を供給するストリーム洗浄を実行するように構成されている。このような態様により、必要に応じて、分析流路由来のキャリーオーバを効果的に解消することができる。この第4態様は、上記第1態様及び/又は第2態様及び/又は第3態様と組み合わせることができる。
【0057】
上記第4態様において、前記制御部(50)は、前記ストリーム洗浄を、前記分析用移動相を前記分析流路(4)へ供給して次の分析のための前記分離カラム(14)のコンディショニングの一部として実行するように構成されていてもよい。そうすれば、分離カラムのコンディショニング中に分析流路内の洗浄を効果的に行なうことができ、分析のスループットが向上する。
【0058】
液体クロマトグラフの上記第1実施形態の第5態様では、前記制御部(50)は、第3の条件が満たされたときに、前記洗浄動作として、前記切替部(10;26)によって前記流路構成を前記インジェクティング状態にして前記分析流路(4)及び前記サンプリング流路(2)へ前記分析用移動相及び前記洗浄液を供給するシステム洗浄を実行するように構成されている。このような態様により、必要に応じて、流路構成をインジェクティング状態にしたときに試料が通過する高圧バルブ内の経路を、分析用移動相及び洗浄液を使用して洗浄することができ、キャリーオーバの解消効果の向上を図ることができる。この第5態様は、上記第1態様及び/又は第2態様及び/又は第3態様及び/又は第4態様と組み合わせることができる。
【0059】
液体クロマトグラフの上記第1実施形態の第6態様では、前記制御部(50)は、前記洗浄動作が終了した後で、試料を含まないブランク液を前記ニードル(12)によって採取し、前記注入ポート(16)を介して前記ブランク液を前記分析流路(4)へ注入するブランク注入を実行するように構成されている。ブランク注入を実行することにより、分析流路及びサンプリング流路内の洗浄効果が見込めるだけでなく、分析流路内及び/又はサンプリング流路内の洗浄効果の確認を行なうこともできる。この第6態様は、上記第1態様及び/又は第2態様及び/又は第3態様及び/又は第4態様及び/又は第5態様と組み合わせることができる。
【0060】
液体クロマトグラフの上記第1実施形態の第7態様では、前記制御部(50)は、前記洗浄動作の実行中、実行前又は実行後において、第4の条件が満たされているときに、前記分析流路(4)への前記分析用移動相及び前記洗浄液の供給を停止して前記分離カラム(14)の上流における圧力を低下させる圧力開放を実行するように構成されている。このような態様により、必要に応じて圧力開放を実行することで、分析流路内及び/又はサンプリング流路内の洗浄効果をさらに高めることができる。
【0061】
本発明に係る液体クロマトグラフの第2実施形態では、移動相を供給するための移動相供給流路(6)と、試料中の成分を分離するための分離カラム(14)が設けられている分析流路(4)と、三次元的に移動するとともに先端からの液の吸入を行なうサンプリング用のニードル(12)が先端に設けられているサンプリング流路(2)と、前記ニードル(12)の前記先端が挿入されることによって前記サンプリング流路(2)と接続される注入ポート(16)を有する高圧バルブ(10)を含み、当該液体クロマトグラフの流路構成を、前記移動相供給流路(6)と前記分析流路(4)とを前記サンプリング流路(2)を介することなく流体接続するローディング状態、及び前記注入ポート(16)に前記ニードル(12)の先端が挿入されているときに前記移動相供給流路(6)と前記分析流路(4)との間に前記サンプリング流路(2)を介在させるインジェクティング状態に切り替えるための切替部(10;26)と、前記移動相供給流路(6)を通じた前記移動相の供給動作、前記ニードル(12)の動作、及び前記切替部(10;26)の動作を制御し、試料の分析が終了し次の試料の分析が開始される前であって所定条件が満たされたときに、前記分析流路(4)への前記移動相の供給を停止して前記分析流路(4)内の前記分離カラム(14)よりも上流部分における圧力を低下させる圧力開放を実行するように構成された制御部(50)と、を備えている。
【0062】
液体クロマトグラフの上記第2実施形態において、前記制御部(50)は、前記圧力開放が終了した後で、試料を含まないブランク液を前記ニードル(12)によって採取し、前記注入ポート(16)を介して前記ブランク液を前記分析流路(4)へ注入するブランク注入を実行するように構成されていてもよい。ブランク注入を実行することにより、圧力開放で流路内壁から離脱しやすくなったキャリーオーバ成分を除去する効果が見込めるだけでなく、圧力開放によるキャリーオーバ解消効果の確認を行なうことができる。
【0063】
本発明に係る流路洗浄方法の第1実施形態は、試料中の成分を分離するための分離カラム(14)が設けられている分析流路(4)、及び前記分析流路(4)に対して試料注入を行なうためのニードル(12)が先端に設けられているサンプリング流路(2)を備える液体クロマトグラフにおける流路洗浄方法であって、前記分析流路(4)及び/又は前記サンプリング流路(2)へ移動相及び前記移動相とは異なる性質を有する洗浄液を供給して前記分析流路及び/又は前記サンプリング流路を流れる液の組成を時間的に変化させる洗浄ステップを備えている。
【0064】
流路洗浄方法の上記第1実施形態の第1態様では、前記洗浄ステップにおいて、複数種類の移動相及び前記洗浄液を用いて前記分析流路(4)及び/又は前記サンプリング流路(2)を流れる液の組成を時間的に変化させる。
【0065】
上記第1態様において、前記洗浄ステップでは、前記分析流路(4)及び/又は前記サンプリング流路(2)に供給する液を前記移動相と前記洗浄液との間で切り替えるようにしてもよい。
【0066】
流路洗浄方法の上記第1実施形態の第2態様では、前記洗浄ステップは、前記分析流路(4)と前記サンプリング流路(2)とを流体連通させない状態で前記サンプリング流路(2)へ前記移動相及び前記洗浄液を供給するニードル洗浄ステップを含んでいる。このような態様により、必要に応じて、ニードルを含むサンプリング流路由来のキャリーオーバを効果的に解消することができる。この第2態様は、上記第1態様と組み合わせることができる。
【0067】
流路洗浄方法の上記第1実施形態の第3態様では、前記洗浄ステップは、前記分析流路(4)と前記サンプリング流路(2)とを流体連通させない状態で、前記分析流路(4)へ前記移動相及び前記洗浄液を供給するストリーム洗浄ステップを含んでいる。このような態様により、必要に応じて、分析流路由来のキャリーオーバを効果的に解消することができる。この第3態様は、上記第1態様及び/又は第2態様と組み合わせることができる。
【0068】
上記第3態様において、前記ストリーム洗浄ステップは、前記移動相を前記分析流路(4)へ供給して次の分析のための前記分離カラム(14)のコンディショニングを行なっている間に実行することができる。そうすれば、分離カラムのコンディショニング中に分析流路内の洗浄を効果的に行なうことができ、分析のスループットが向上する。
【0069】
流路洗浄方法の上記第1実施形態の第4態様では、前記洗浄ステップは、前記分析流路(4)と前記サンプリング流路(2)とを流体連通させた状態で前記分析流路(4)及び前記サンプリング流路(2)へ前記移動相及び前記洗浄液を供給するシステム洗浄ステップを含んでいる。このような態様により、必要に応じて、分析流路への試料注入時の試料の経路を、分析用移動相及び洗浄液を使用して洗浄することができ、キャリーオーバの解消効果の向上を図ることができる。この第4態様は、上記第1態様及び/又は第2態様及び/又は第3態様と組み合わせることができる。
【0070】
流路洗浄方法の上記第1実施形態の第5態様では、前記洗浄ステップの後、試料を含まないブランク液を前記分析流路(4)に注入するブランク注入ステップを備えている。ブランク注入を実行することにより、分析流路及びサンプリング流路内の洗浄効果が見込めるだけでなく、分析流路内及び/又はサンプリング流路内の洗浄効果の確認を行なうこともできる。この第5態様は、上記第1態様及び/又は第2態様及び/又は第3態様及び/又は第4態様と組み合わせることができる。
【0071】
流路洗浄方法の上記第1実施形態の第6態様では、前記洗浄ステップの実行中、実行前又は実行後で、前記分析流路(4)への前記移動相及び前記洗浄液の供給を停止して前記分離カラム(14)の上流における圧力を低下させる圧力開放ステップを含んでいる。このような態様により、必要に応じて圧力開放を実行することで、分析流路内及び/又はサンプリング流路内の洗浄効果をさらに高めることができる。
【0072】
本発明に係る流路洗浄方法の第2実施形態は、試料中の成分を分離するための分離カラム(14)が設けられている分析流路(4)を備える液体クロマトグラフにおける流路洗浄方法であって、前記分析流路(4)内の前記分離カラム(14)よりも上流部分の圧力が大気圧より高い状態で前記分析流路(4)への移動相の供給を停止し、前記上流部分における圧力を低下させる圧力開放ステップを備えている。
【0073】
流路洗浄方法の上記第2実施形態において、前記圧力開放ステップの後、試料を含まないブランク液を前記分析流路(4)に注入するブランク注入ステップを備えていてもよい。ブランク注入を実行することにより、圧力開放で流路内壁から離脱しやすくなったキャリーオーバ成分を除去する効果が見込めるだけでなく、圧力開放によるキャリーオーバ解消効果の確認を行なうことができる。
【符号の説明】
【0074】
2 サンプリング流路
3 分析部
4 分析流路
6;42 移動相供給流路
8:44 洗浄液供給流路
10 高圧バルブ
12 ニードル
14 分離カラム
16 注入ポート
18;46 移動相ポンプ
20:48 洗浄液ポンプ
22;40 切替弁
24 サンプル容器
26;28 選択バルブ
34 低圧バルブ
36 計量ポンプ
50 制御部